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特開2024-39196ゴム補強用複合繊維コードおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039196
(43)【公開日】2024-03-22
(54)【発明の名称】ゴム補強用複合繊維コードおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D02G 3/04 20060101AFI20240314BHJP
   D02G 3/48 20060101ALI20240314BHJP
   D06M 13/395 20060101ALI20240314BHJP
   D06M 15/55 20060101ALI20240314BHJP
   D06M 13/11 20060101ALI20240314BHJP
   B60C 9/00 20060101ALI20240314BHJP
【FI】
D02G3/04
D02G3/48
D06M13/395
D06M15/55
D06M13/11
B60C9/00 D
B60C9/00 G
B60C9/00 B
B60C9/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022143565
(22)【出願日】2022-09-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 智也
(72)【発明者】
【氏名】岡村 脩平
【テーマコード(参考)】
3D131
4L033
4L036
【Fターム(参考)】
3D131AA32
3D131AA33
3D131AA34
3D131AA35
3D131AA37
3D131AA44
3D131AA48
3D131BA07
3D131BA12
3D131BA18
3D131BA20
3D131BC31
3D131BC36
3D131LA28
4L033AA07
4L033AA08
4L033AB01
4L033AC11
4L033BA08
4L033BA69
4L033CA49
4L036MA06
4L036MA33
4L036MA37
4L036MA39
4L036PA18
4L036PA21
4L036PA26
4L036PA46
4L036UA07
(57)【要約】
【課題】複合繊維コードの引張強力、低負荷時の伸長性、高付加時の高弾性率および接着性を備え、長期間使用時において引張強力を保持する、信頼性の高いゴム補強用複合繊維コードを提供する。
【解決手段】芳香族ポリアミド繊維からなる繊維束Aおよび低弾性率繊維からなる繊維束Bから構成される複合繊維、ならびに該複合繊維に付着した樹脂接着剤を含む複合繊維コードであって、芳香族ポリアミド繊維の単繊維繊度が0.5~1.5dtexであることを特徴とする、ゴム補強用複合繊維コード。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリアミド繊維からなる繊維束Aおよび低弾性率繊維からなる繊維束Bから構成される複合繊維、ならびに該複合繊維に付着した樹脂接着剤を含む複合繊維コードであって、芳香族ポリアミド繊維の単繊維繊度が0.5~1.5dtexであることを特徴とする、ゴム補強用複合繊維コード。
【請求項2】
芳香族ポリアミド繊維からなる繊維束Aの繊度が400~1500dtexであり、低弾性率繊維からなる繊維束Bの繊度が400~2000dtexであり、かつ複合繊維の繊度が3500dtex以下である、請求項1に記載のゴム補強用複合繊維コード。
【請求項3】
複合繊維に付着した樹脂接着剤がエポキシ化合物を含み、エポキシ化合物の含有率が固形分換算で0.1~7重量%である、請求項2に記載のゴム補強用複合繊維コード。
【請求項4】
複合繊維に付着した樹脂接着剤がブロックドイソシアネート化合物を含み、ブロックドイソシアネート化合物の含有率が固形分換算で9~20重量%である、請求項2に記載のゴム補強用複合繊維コード。
【請求項5】
低弾性率繊維が脂肪族ポリアミド繊維またはポリエステル繊維である、請求項1に記載のゴム補強用複合繊維コード。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載のゴム補強用複合繊維コードを含む、ゴムタイヤ。
【請求項7】
前処理工程および接着剤付着工程を含む、ゴム補強用複合繊維コードの製造方法であって、前記の前処理工程は、芳香族ポリアミド繊維からなる繊維束Aおよび低弾性率繊維からなる繊維束Bから構成される複合繊維にエポキシ化合物を含む前処理液を含侵させその後に熱処理することで前処理後複合繊維を得る工程であり、前記の接着剤付着工程は、前処理後複合繊維に接着処理液を含浸させその後に熱処理することでゴム補強用複合繊維コードを得る工程であり、エポキシ化合物を含む前処理液はゴムラテックスおよびブロックドイソシアネート化合物を含み、接着処理液はレゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックスおよびブロックドイソシアネート化合物を含むことを特徴とする、ゴム補強用複合繊維コードの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゴム補強用複合繊維コードおよびその製造方法に関し、詳しくはタイヤ等のゴム製品の補強に用いるゴム補強用複合繊維コードおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴムタイヤ、ゴムベルト等のゴム製品の強度や耐久性を向上させるために、補強用繊維をゴム内に埋め込むことが広く一般に行われている。従来、この補強用繊維として、ガラス繊維、ビニロン繊維に代表されるポリビニルアルコール繊維、ポリエステル繊維、ナイロン、アラミド(芳香族ポリアミド)等のポリアミド繊維、カーボン繊維、ポリパラフェニレンベンゾオキザール繊維等が広く用いられている。これらの中でも、ゴム成形物の使用時の剛性の観点で、芳香族ポリアミド繊維、カーボン繊維、ポリフェニレンベンゾオキザール繊維のような高強度高弾性率繊維が、特に期待されている。そして特に、高強度、高弾性率、寸法安定性、耐熱性および耐薬品性に優れることから、芳香族ポリアミド繊維が、特に期待されている。
【0003】
しかし、高強度高弾性率繊維では、それを埋め込んだゴム組成物を硬化してゴム成形物にするときの成形性や、ゴム成形物の長期間使用時の強力保持を同時に満たすことができない。そして、特に芳香族ポリアミド繊維では、ゴム組成物を硬化してゴム成形物にするときの成形性と、ゴム成形物の使用時の剛性とを同時に満たすことができない他、表面が比較的不活性であるためゴムとの接着性に乏しい。このため、改善策が提案されてきた。
【0004】
例えば特許文献1には、パラ型芳香族ポリアミド繊維と脂肪族ポリアミド(ナイロン)繊維からなる複合コードを用いた低荷重領域で伸度を有するコードに関する技術が開示されている。また、ゴムとの接着性を改良するために、複合コード表面に接着剤を含有させる技術についても開示されている。ただし長時間使用時の更なる耐久性が求められた場合、未だ満足するものが得られていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2020/031408号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、複合繊維コードの引張強力、低負荷時の伸長性、高付加時の高弾性率および接着性を備え、長期間使用時において引張強力を保持する、信頼性の高いゴム補強用複合繊維コードを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明は、芳香族ポリアミド繊維からなる繊維束Aおよび低弾性率繊維からなる繊維束Bから構成される複合繊維、ならびに該複合繊維に付着した樹脂接着剤を含む複合繊維コードであって、芳香族ポリアミド繊維の単繊維繊度が0.5~1.5dtexであることを特徴とする、ゴム補強用複合繊維コードである。
【0008】
本発明はまた、前処理工程および接着剤付着工程を含む、ゴム補強用複合繊維コードの製造方法であって、前記の前処理工程は、芳香族ポリアミド繊維からなる繊維束Aおよび低弾性率繊維からなる繊維束Bから構成される複合繊維にエポキシ樹脂を含む前処理液を含侵させその後に熱処理することで前処理後複合繊維を得る工程であり、前記の接着剤付着工程は、前処理後複合繊維に接着処理液を含浸させその後に熱処理することでゴム補強用複合繊維コードを得る工程であり、エポキシ化合物を含む前処理液はゴムラテックスおよびブロックドイソシアネート化合物を含み、接着処理液はレゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックスおよびブロックドイソシアネート化合物を含むことを特徴とする、ゴム補強用複合繊維コードの製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、複合繊維コードの引張強力、低負荷時の伸長性、高付加時の高弾性率および接着性を備え、長期間使用時において引張強力を保持する、信頼性の高いゴム補強用複合繊維コードを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔芳香族ポリアミド繊維からなる繊維束A〕
本発明において、芳香族ポリアミド繊維は、芳香族ホモポリアミドまたは芳香族コポリアミドからなる。
【0011】
芳香族コポリアミドにおける共重合成分の量は、例えば高々20モル%、好ましくは高々10モル%である。芳香族コポリアミドの芳香族基はすべて同一であってもよく相異なってもよい。芳香族基の水素原子は、ハロゲン原子、低級アルキル基、フェニル基で置換されていてもよい。
【0012】
芳香族ポリアミド繊維自体は、従来から知られているものを用いることができ、知られている方法で製造することができる。例えば、特開昭49-100322号公報、特開昭47-10863号公報、特開昭58-144152号公報および特開平4-65513号公報に記載されている。
【0013】
芳香族ポリアミド繊維として、耐熱性と強度に優れているため、好ましくはパラ型芳香族ポリアミド繊維を用いる。このパラ型芳香族ポリアミド繊維は、芳香族ポリアミドのポリマーの延鎖結合が共軸または平行であり、かつ反対方向に向いていることが好ましい。
【0014】
パラ型芳香族ポリアミド繊維として、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(例えば、テイジンアラミドB.V.製「トワロン(登録商標)」)や、共重合型の芳香族ポリアミド繊維であるコポリパラフェニレン・3,4’-オキシジフェニレン・テレフタルアミド繊維(例えば、帝人(株)製「テクノーラ(登録商標)」)を例示することができる。
【0015】
〔芳香族ポリアミド繊維の単繊維繊度〕
芳香族ポリアミド繊維からなる繊維束Aを構成する単繊維の繊度(単繊維繊度)は0.5~1.5dtexである。ゴム製品使用時に掛かるゴム補強用複合繊維コードへの応力は繊維束内部と表層で異なるため、繊維束Aの内部および表層に存在する単繊維の本数割合が長時間での使用時の耐久性に影響する。単繊維繊度が前記の範囲の繊度であることで、長時間使用時の耐久性およびゴムとの接着力を得ることができる。単繊維繊度が0.5dtex未満であると単繊維の強度が低下し、他方、1.5dtexを超えると表層に存在する単繊維の割合が増加するため、共に疲労性が低下する要因となる。
【0016】
芳香族ポリアミド繊維からなる繊維束Aの繊度は、好ましくは400dtex以上2000dtex以下、さらに好ましくは400dtex以上1500dtex以下である。
【0017】
繊度が400dtex未満であると、ゴム補強用複合コードに必要な強力および剛性が得られず、他方、2000dtexを超えると、結果的にゴム補強用複合コードのコード径全体が太くなるだけでなく、高弾性率繊維を含めたコード全体が太くなるため、同じ曲率半径で屈曲された場合にコードの歪が大きくなり屈曲耐久性が低下し、疲労性が低下する。
【0018】
〔低弾性率繊維からなる繊維束B〕
本発明において低弾性率繊維は、繊維束Aの芳香族ポリアミド繊維より弾性率が低い繊維である。低弾性率繊維は、好ましくは初期引張抵抗度が100cN/dtex以下であり、好ましくは強度が9cN/dtex以下である。強度が9cN/dtexを超えるか、初期引張抵抗度が100cN/dtexを超えると低強度低弾性率繊維の屈曲耐久性およびゴム補強用複合コード全体の屈曲耐久性が低下し、結果として疲労性が低下するため好ましくない。
【0019】
低弾性率繊維からなる繊維束Bの繊度は、好ましくは400dtex以上2000dtex以下である。繊度が400dtex未満であると、ゴム補強用複合コードに必要な強力および剛性が得られず、他方、2000dtexを超えると、結果的にゴム補強用複合コードのコード径全体が太くなるだけでなく、高弾性率繊維を含めたコード全体が太くなるため、同じ曲率半径で屈曲された場合にコードの歪が大きくなり屈曲耐久性が低下し、疲労性が低下する。
【0020】
低弾性率繊維として、ポリウレタン繊維、ナイロン6やナイロン66、ナイロン46等で知られる脂肪族ポリアミド繊維、ポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレート等で知られるポリエステル繊維、ビニロンとして知られるポリビニリアルコール繊維、レーヨン繊維を例示することができ、好ましくは脂肪族ポリアミド繊維またはポリエステル繊維を用いる。
【0021】
〔複合繊維〕
本発明のゴム補強用複合繊維コードにおいて複合繊維は、芳香族ポリアミド繊維からなる繊維束Aと低弾性率繊維からなる繊維束Bとから構成される。それぞれの繊維束の特性を反映させるため、該複合繊維において、繊維束Aと繊維束Bは、好ましくは撚り合わされている。
【0022】
撚りの態様は、好ましくは、繊維束Aと繊維束Bとのそれぞれ1本または複数本を引き揃えて、S方向またはZ方向の片側に撚り(片撚り)を施し、繊維束Aの下撚り糸と繊維束Bの下撚り糸を準備し、その後、それの下撚り糸をさらに複数本引き揃えて、片撚りの方向と同じ方向の上撚り(ラング撚り)、または反対方向の上撚り(諸撚り)を施す態様である。さらに好ましくは、繊維束Aの下撚り糸と繊維束Bの下撚り糸を併せる上撚りの方向が反対方向となるように撚りを施した態様である。
【0023】
繊維束Aの下撚り糸と繊維束Bの下撚り糸とを併せて上撚りして複合繊維とすることで、伸長時にまず低弾性率繊維からなる繊維束Bが優先的に伸長されて低い弾性率を示し、その後、途中から繊維束Aの応力負担が大きくなり芳香族ポリアミド繊維の高弾性率を示す、理想的な機械的物性を有する複合繊維を得ることができる。
【0024】
繊維束Aの下撚り(撚り1)の撚り係数(T1)、繊維束Aの上撚り(撚り2)の撚り係数(T2)と、繊維束Aおよび繊維束Bの上撚り(撚り3)の撚り係数(T3)とは、ゴム製品に要求される引張物性や長時間使用時の耐久性に応じて適宜設定することができきる。
【0025】
撚り係数は、下記の式で算出する。
TM=T×√D/1055
(ただし、TMは撚り係数、Tは撚り数(回/m)、Dは牽切加工糸の総繊度(tex)を表す。)
複合繊維の繊度は、疲労性および補強ゴムの軽量化の観点から、好ましくは3500dtex以下である。
【0026】
〔樹脂接着剤〕
本発明のゴム補強用複合繊維コードは、前記の複合繊維ならびに該複合繊維に付着した樹脂接着剤を含む。すなわち、本発明のゴム補強用複合繊維コードは、樹脂接着剤を含有する。
【0027】
樹脂接着剤として、例えば、レゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックスを用いることができる。
ゴムラテックスとして、例えば、水素添加アクリロニトリルーブタジエンゴムラテックス、アクリロニトリル-ブタジエンラテックス、イソプレンゴムラテックス、ウレタンゴムラテックス、スチレン-ブタジエンゴムラテックス、ビニルピリジン-スチレン-ブタジエンゴムラテックス、クロロプレンゴムラテックス、ブタジエンゴムラテックス、クロロスルホン化ポリエチレンラテックスを例示することができる。これらは、単独で使用しても併用してもよい。
【0028】
樹脂接着剤の層の強度を高めるために、ゴムラテックスとして、好ましくはビニルピリジン-スチレン-ブタジエンゴムラテックス(Vp-SBRラテックス)を用いる。この場合、接着性を向上させるために、複合繊維を構成する単糸の表面には予めエポキシ化合物を付与する処理がされていることが好ましい。
【0029】
〔エポキシ化合物〕
樹脂接着剤は、好ましくは、さらにエポキシ化合物を含み、エポキシ化合物の含有率は、固形分換算で好ましくは0.1~7重量%である。エポキシ化合物を含有しないか含有量が0.1重量%未満であると、複合繊維を構成する芳香族ポリアミド繊維と樹脂接着剤との間の界面強度が十分に発現されず接着力が向上しないため好ましくない。他方、含有量が7重量%を超えると複合繊維を構成する芳香族ポリアミド繊維と樹脂接着剤との界面が硬く脆いものとなり、接着力がゴム補強用複合繊維コードの保管中に低下したり、長時間の使用時にゴム接着力が低下したりして好ましくない。
【0030】
〔ブロックドイソシアネート化合物〕
樹脂接着剤は、レゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックスの他に、好ましくはさらに架橋剤を含有する。架橋剤として、アミン、エチレン尿素、ブロックドイソシアネート化合物を例示することができる。なかでも、処理剤の経時安定性がよく、前処理剤との相互作用が良好なことから、ブロックドイソシアネート化合物が好ましい。
【0031】
ブロックドイソシアネート化合物の具体例として、ジメチルピラゾールブロック、メチルエチルケトンオキシムブロック、カプロラクタムブロックのブロックドイソシアネートを例示することができる。これらは二種類以上を組み合わせてもよい。
【0032】
樹脂接着剤における架橋剤の含有量は、固形分換算で、好ましくは9~20重量%、さらに好ましくは9~15重量%である。含有量が9重量%未満であると樹脂接着剤が複合繊維に適度に浸透することができず、長時間使用時のゴム接着力が低下するほか、最終的にゴム複合体としたときに、マトリックスゴム中への拡散が不十分となりやすく、接着力が向上しにくくなり好ましくない。他方、20重量%を超えると、ゴム中に拡散できない過剰な層となり、この層で凝集破壊が起こりやすく、この場合も接着力が低下する傾向にあり好ましくない。
【0033】
複合繊維に付着した樹脂接着剤がブロックドイソシアネート化合物を含み、樹脂接着剤におけるブロックドイソシアネート化合物の含有率が固形分換算で9~20重量%である態様は、本発明のゴム補強用複合繊維コードの好ましい態様である。
【0034】
〔製造方法〕
本発明のゴム補強用複合繊維コードは、例えば、前処理工程および接着剤付着工程を含む、ゴム補強用複合繊維コードの製造方法であって、前記の前処理工程は、芳香族ポリアミド繊維からなる繊維束Aおよび低弾性率繊維からなる繊維束Bから構成される複合繊維にエポキシ化合物を含む前処理液を含侵させその後に熱処理することで前処理後複合繊維を得る工程であり、前記の接着剤付着工程は、前処理後複合繊維に接着処理液を含浸させその後に熱処理することでゴム補強用複合繊維コードを得る工程であり、エポキシ化合物を含む前処理液はゴムラテックスおよびブロックイソシアネート化合物を含み、接着処理液はレゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックスおよびブロックドイソシアネート化合物を含む、ゴム補強用複合繊維コードの製造方法により製造することができる。
【0035】
以下、上記の製造方法を詳しく説明する。この製造方法は、前処理工程および接着剤付着工程を含む、ゴム補強用複合繊維コードの製造方法である。
【0036】
〔前処理工程〕
前処理工程は、芳香族ポリアミド繊維からなる繊維束Aおよび低弾性率繊維からなる繊維束Bから構成される複合繊維にエポキシ樹脂を含む前処理液を含侵させその後に熱処理することで前処理後複合繊維を得る工程である。
【0037】
このエポキシ化合物を含む前処理液は、ゴムラテックスおよびブロックイソシアネート化合物を含む。これらが前処理液に含まれることにより、複合繊維を構成する芳香族ポリアミド繊維の表面付近にゴムラテックスおよびブロックドイソシアネート化合物が存在することなる。
【0038】
これにより、複合繊維を構成する芳香族ポリアミド繊維と樹脂接着剤との界面強度が高くなり、かつ界面付近の樹脂接着剤が柔軟なものとなり、良好な接着力を発現し、また経時による接着力の低下が抑制される。
含浸後の熱処理は、好ましくは100~250℃の温度で10~120秒間行う。
【0039】
〔接着剤付与工程〕
接着剤付着工程は、前処理後複合繊維に接着処理液を含浸させ、その後に熱処理することでゴム補強用複合繊維コードを得る工程である。
接着処理液は、好ましくはレゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックスおよびブロックドイソシアネート化合物を含む。
【0040】
前処理後複合繊維に接着処理液を含浸させることは、例えば、前処理後複合繊維に接着処理液をローラーで接触させるか接着処理液をノズルから噴霧して塗布すること、または前処理後複合繊維を接着処理液に浸漬することで行うことができる。
【0041】
複合繊維に付着した樹脂接着剤の付着量は、所望の範囲に制御することができる。付着量を増加させるためには、前記の接触や塗布、浸漬を複数回行えばよい。付着量を減少させるためには、圧接ローラーによる絞り、スクレバーによるかき落とし、空気吹きつけによる吹き飛ばし、吸引といった手段を用いることができる。
【0042】
熱処理は、例えば100℃~250℃で60~300秒間の条件で行うことができ、好ましくは100~180℃で60~240秒間の熱処理を先ず行い、次に200~245℃で60~240秒間の熱処理を行うことが好ましい。この熱処理は、乾燥も兼ねる。
【0043】
熱処理の温度が100℃未満であると、得られるゴム補強用複合繊維コードと、ゴムタイヤなどのゴム成形品とするために用いるゴムとの接着が不十分となる傾向にあり好ましくない。熱処理の温度が250℃を超えると、接着処理液のレゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックスが空気酸化されてしまい、複合繊維コードをゴム補強に用いたときにゴムとの接着活性が低下する傾向があり好ましくない。
【0044】
本発明のゴム補強用の複合繊維コードの製造方法では、芳香族ポリアミド繊維からなる繊維束Aと低弾性率繊維からなる繊維束Bに、それぞれ予め撚りを掛けておくことが好ましい。予め撚りを掛けておくことで、表面に樹脂接着剤を偏在化させることができる。
【実施例0045】
以下、実施例をあげて本発明を説明する。評価は以下の方法で行った。
【0046】
(1)繊度
JIS L1017に準じて繊度(重量)を測定した。樹脂接着剤が付着している場合は、樹脂接着剤を含めた繊度(重量)を測定した。
【0047】
(2)樹脂接着剤の付着率
JIS L1017のディップピックアップ(質量法)に準じて測定して算出した。
【0048】
(3)樹脂接着剤中の成分の含有率
配合量から算出した。
【0049】
(4)繊維コード引張強力
ASTM D885に準じて補強糸の引張試験を10回測定し、その荷重―伸長曲線を算出した。引張強度は、破断時の引張強力から樹脂付着量を含めたゴム補強用複合繊維コードの繊度で割って算出し、その平均値を算出した。
【0050】
(5)繊維コードの剥離接着力
剥離接着力は、ゴム補強用複合繊維コードとゴムとの剥離接着力を示す値である。ゴムシート表層近くに7本の繊維コードを埋め、温度150℃で30分間、1MPaのプレス圧力で加硫し、ゴムシートである剥離接着力測定用の試験片を作成した。
この試験片からその両端の2本の複合繊維コードを取り除き、残りの5本の複合繊維コードを試験片のゴムシートから200mm/分の速度で剥離し、そのときに要した力を複合繊維コードの本数で割り、複合繊維コード1本当たりの接着力を算出して、繊維コードの剥離接着力とした。
なお、評価に用いるゴムとして、タイヤ用の天然ゴムおよびスチレン・ブタジエンゴムからなる標準未加硫ゴムを用いた。
【0051】
(6)繊維コードの剥離接着力(1か月後)
上記の方法で、ゴムシートである剥離接着力測定用の試験片を作成した。その後、20℃、湿度60%の環境下で、試験片を1カ月間静置した。その試験片について、上記と同様にして繊維コードの剥離接着力を測定した。
【0052】
(7)繊維コードの剥離接着力保持率
上記の繊維コードの剥離接着力と繊維コードの剥離接着力(1か月後)から、下記式で算出した。
繊維コードの剥離接着力保持率
= 繊維コードの剥離接着力(1か月後)/繊維コードの剥離接着力
【0053】
(8)疲労性
上記の方法で、ゴムシートである剥離接着力測定用の試験片を作成した。その試験片について、JIS L1017に準じてディスク疲労試験機を用いて6時間にわたり2500rpmにてゴム試験片の全長に対して+10%の伸長および-10%の圧縮を前記のゴム試験片にかける疲労試験を行った。
この疲労試験の前後のゴム試験片について、ASTM D885に準じて引張試験を行い引張強力を測定した。疲労性を以下の式により算出した。
疲労性(%)
= 疲労試験後の引張強力/疲労試験前の引張強力×100
【0054】
〔実施例1〕
芳香族ポリアミド繊維としてポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(帝人株式会社製 トワロン T1000 1100dtex/1000フィラメント(単繊維繊度1.1dtex))を用い、リング撚糸処理において、350t/mのZ方向の撚糸を施して、下撚り糸(繊維束A)とした。
【0055】
また、低弾性率繊維としてナイロン66繊維(旭化成株式会社製 レオナT5 940dtex)を用い、リング撚糸処理において450t/mのZ方向の撚糸を施して、下撚り糸(繊維束B)とした。
上記の芳香族ポリアミド繊維の下撚り糸(繊維束A)1本とナイロン66繊維の下撚り糸(繊維束B)1本を用いて、450t/mのS方向の撚糸を施して、上撚り糸(複合繊維)とした。
この上撚り糸(複合繊維)に対して、以下の処理を行った。
【0056】
<前処理工程>
一浴目の処理液として、水738.1gにネオコールSW-30(ジオクチルスルホサクシネートナトリウム塩、第一工業製薬株式会社製)3.3g(固形成分濃度:30重量%)を添加し、次いでポリエポキシド化合物(デナコールEX314、ナガセケムテックス株式会社製)5g、εカプロラクタムブロックドMDI(明成化学工業株式会社製 S3)60g(固形成分濃度:25重量%)、およびビニルピリジン・スチレン・ブタジエンターポリマーラテックス(日本エイアンドエル株式会社製 Pyratex)195.1g(固形成分濃度:40.5重量%)を添加し、総固形分濃度10重量%である、一浴目の処理液を得た。
この一浴目の処理液に、さきに得た上撚り糸(複合繊維)を浸漬させ、その後130℃で90秒間乾燥させ、さらに240℃で60秒間熱処理を行った。
【0057】
<接着剤付着工程>
次いで、二浴目の処理液を調製した。まず、水149.5gにアンモニア水溶液20g(成分濃度:20重量%)、苛性ソーダ水溶液8g(成分濃度:10重量%)、レゾルシン・ホルマリン初期縮合物、スミカノールS700(住友化学株式会社製、65重量%水溶液)20gを添加して十分に攪拌し分散させ、温度25℃で6時間熟成させた。次に、ニッポール2518FS(日本ゼオン株式会社製、ビニルピリジン・スチレン・ブタジエンゴムラテックス)156g(固形成分濃度:40重量%)、ホルマリン水4g(固形成分濃度:37重量%)、メチルエチルブロックジフェニルメタンジイソシアネート(「DM6400」、明成化学工業株式会社製、濃度42%)22.2g、水348.8gを添加し、20℃で48時間熟成して、双固形分濃度20重量%のレゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックスを含む水分散体(レゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス処理剤(RFL処理剤))を調製した。このRFL処理剤のゴムラテックスの含有割合は80重量%であった。
【0058】
この二浴目の処理液に、一浴目の処理液で処理した後の複合繊維を浸漬させて引きあげ、その後130℃で60秒間乾燥させ、さらに235℃で120秒間熱処理を行うことで、ゴム補強用複合繊維コードを得た。
得られたゴム補強用複合繊維コードの評価結果を表1に示す。
【0059】
〔実施例2〕
芳香族ポリアミド繊維としてコポリパラフェニレン・3,4’-オキシジフェニレン・テレフタルアミド繊維(帝人株式会社製 テクノーラ T-240 1334dtex/1000フィラメント(単繊維繊度0.8dtex))を用いた。
それ以外は実施例1と同様にして、ゴム補強用複合繊維コードを得た。得られたゴム補強用複合繊維コードの評価結果を表1に示す。
【0060】
〔実施例3〕
一浴目の処理液として、水737.5gにネオコールSW-30(ジオクチルスルホサクシネートナトリウム塩、第一工業製薬株式会社製)3.3g(固形成分濃度:30重量%)を添加し、次いでポリエポキシド化合物(デナコールEX314、ナガセケムテックス株式会社製)2g、εカプロラクタムブロックドMDI(明成化学工業株式会社製 S3)60g(固形成分濃度:25重量%)、およびビニルピリジン・スチレン・ブタジエンターポリマーラテックス(日本エイアンドエル株式会社製 Pyratex)202.5g(固形成分濃度:40.5重量%)を添加し、総固形分濃度10重量%である一浴目の処理液を得た。
一浴目の処理液としてこの処理液を用いた他は実施例1と同様にして、ゴム補強用複合繊維コードを得た。得られたゴム補強用複合繊維コードの評価結果を表1に示す。
【0061】
〔実施例4〕
一浴目の処理液として、水737.5gにネオコールSW-30(ジオクチルスルホサクシネートナトリウム塩、第一工業製薬株式会社製)3.3g(固形成分濃度:30重量%)を添加し、次いでポリエポキシド化合物(デナコールEX314、ナガセケムテックス株式会社製)15g、εカプロラクタムブロックドMDI(明成化学工業株式会社製 S3)60g(固形成分濃度:25重量%)、およびビニルピリジン・スチレン・ブタジエンターポリマーラテックス(日本エイアンドエル株式会社製 Pyratex)170.4g(固形成分濃度:40.5重量%)を添加し、総固形分濃度10重量%である、一浴目の処理液を得た。
これ以外は実施例1と同様にして、ゴム補強用複合繊維コードを得た。得られたゴム補強用複合繊維コードの評価結果を表2に示す。
【0062】
〔実施例5〕
一浴目の処理液として、水737.5gにネオコールSW-30(ジオクチルスルホサクシネートナトリウム塩、第一工業製薬株式会社製)3.3g(固形成分濃度:30重量%)を添加し、次いでポリエポキシド化合物(デナコールEX314、ナガセケムテックス株式会社製)5g、εカプロラクタムブロックドMDI(明成化学工業株式会社製 S3)20g(固形成分濃度:25重量%)、およびビニルピリジン・スチレン・ブタジエンターポリマーラテックス(日本エイアンドエル株式会社製 Pyratex)219.8g(固形成分濃度:40.5重量%)を添加し、総固形分濃度10重量%である、一浴目の処理液を用意した。
これ以外は実施例1と同様にして、ゴム補強用複合繊維コードを得た。得られたゴム補強用複合繊維コードの評価結果を表2に示す。
【0063】
〔実施例6〕
低弾性率繊維としてポリエチレンテレフタレート繊維(東レ株式会社製 テトロン 1100T-240-704M 1100dtex)を用いた。
それ以外は実施例2と同様にして、ゴム補強用複合繊維コードを得た。得られたゴム補強用複合繊維コードの評価結果を表2に示す。
【0064】
〔比較例1〕
芳香族ポリアミド繊維としてコポリパラフェニレン・3,4’-オキシジフェニレン・テレフタルアミド繊維(帝人株式会社製 テクノーラ T-240 1100dtex/667フィラメント(単繊維繊度1.7dtex))を用いた。
これ以外は実施例1と同様にして、ゴム補強用複合繊維コードを得た。得られたゴム補強用複合繊維コードの評価結果を表3に示す。
【0065】
〔比較例2〕
一浴目の処理液として、水736.6gにネオコールSW-30(ジオクチルスルホサクシネートナトリウム塩、第一工業製薬株式会社製)3.3g(固形成分濃度:30重量%)を添加し、εカプロラクタムブロックドMDI(明成化学工業株式会社製 S3)60g(固形成分濃度:25重量%)、およびビニルピリジン・スチレン・ブタジエンターポリマーラテックス(日本エイアンドエル株式会社製 Pyratex)207.4g(固形成分濃度:40.5重量%)を添加し、総固形分濃度10重量%である、一浴目の処理液を得た。
これ以外は、比較例1と同様にして、ゴム補強用複合繊維コードを得た。得られたゴム補強用複合繊維コードの評価結果を表3に示す。
【0066】
〔比較例3〕
一浴目の処理液として、水737.5gにネオコールSW-30(ジオクチルスルホサクシネートナトリウム塩、第一工業製薬株式会社製)3.3g(固形成分濃度:30重量%)を添加し、次いでポリエポキシド化合物(デナコールEX314、ナガセケムテックス株式会社製)25g、εカプロラクタムブロックドMDI(明成化学工業株式会社製 S3)20g(固形成分濃度:25重量%)、およびビニルピリジン・スチレン・ブタジエンターポリマーラテックス(日本エイアンドエル株式会社製 Pyratex)145.7g(固形成分濃度:40.5重量%)を添加し、総固形分濃度10重量%の配液を得た。
それ以外は比較例1と同様にして、ゴム補強用複合繊維コードを得た。得られたゴム補強用複合繊維コードの評価結果を表3に示す。
【0067】
〔比較例4〕
一浴目の処理液として、水737.5gにネオコールSW-30(ジオクチルスルホサクシネートナトリウム塩、第一工業製薬株式会社製)3.3g(固形成分濃度:30重量%)を添加し、次いでポリエポキシド化合物(デナコールEX314、ナガセケムテックス株式会社製)5g、ビニルピリジン・スチレン・ブタジエンターポリマーラテックス(日本エイアンドエル株式会社製 Pyratex)232.1g(固形成分濃度:40.5重量%)を添加し、総固形分濃度10重量%の配合液を得た。
それ以外は比較例1と同様にして、ゴム補強用複合繊維コードを得た。得られたゴム補強用複合繊維コードの評価結果を表3に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
【表2】
【0070】
【表3】
【0071】
実施例で得られたゴム補強用複合繊維コードは、その強度およびゴム接着性および疲労性において、比較例で得られたゴム補強用複合繊維コードよりも優れる結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明のゴム補強用複合繊維コードは、ゴムの補強に用いることができ、特にゴムタイヤの補強に用いることができる。本発明のゴム補強用複合繊維コードによって、優れたタイヤ特性を有しながら、他のゴム補強用コードよりもそのゴム層の厚みを薄くすることができ、燃費の向上等に貢献することができる。