(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039224
(43)【公開日】2024-03-22
(54)【発明の名称】サージ防護素子
(51)【国際特許分類】
H01T 4/12 20060101AFI20240314BHJP
H01T 2/02 20060101ALI20240314BHJP
【FI】
H01T4/12 F
H01T2/02 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022143616
(22)【出願日】2022-09-09
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120396
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】野本 雅樹
(57)【要約】
【課題】 放電補助部からの電子放出性能をさらに向上させることができるサージ防護素子を提供すること。
【解決手段】 絶縁性管2と、絶縁性管の両端開口部を閉塞して内部に放電制御ガスを封止する一対の封止電極3と、絶縁性管の内周面に電子源材料で形成された放電補助部4と、絶縁性管の外周面の放電補助部と対向した部分に導体で形成され外周面導体部5とを備えている。また、外周面導体部を覆って絶縁性管の外周面に形成された絶縁性被膜を備えていることがより好ましい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性管と、
前記絶縁性管の両端開口部を閉塞して内部に放電制御ガスを封止する一対の封止電極と、
前記絶縁性管の内周面に電子源材料で形成された放電補助部と、
前記絶縁性管の外周面の前記放電補助部と対向した部分に導体で形成され外周面導体部とを備えていることを特徴とするサージ防護素子。
【請求項2】
請求項1に記載のサージ防護素子において、
前記放電補助部が、前記一対の封止電極の一方側に形成された一方側補助部と、
前記一方側補助部から離間して配されていると共に前記一対の封止電極の他方側に形成された他方側補助部とを備え、
前記外周面導体部が、前記一方側補助部に対向した部分と前記他方側補助部に対向した部分とを架け渡して形成されていることを特徴とするサージ防護素子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のサージ防護素子において、
前記外周面導体部を覆って前記絶縁性管の外周面に形成された絶縁性被膜を備えていることを特徴とするサージ防護素子。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のサージ防護素子において、
前記放電補助部が、前記封止電極の外周面に対向した部分に配置されていることを特徴とするサージ防護素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、落雷等で発生するサージから様々な機器を保護し、事故を未然に防ぐのに使用するサージ防護素子に関する。
【背景技術】
【0002】
電話機、ファクシミリ、モデム等の通信機器用の電子機器が通信線との接続する部分、電源線、アンテナ或いはCRT、液晶テレビおよびプラズマテレビ等の画像表示駆動回路等、雷サージや静電気等の異常電圧(サージ電圧)による電撃を受けやすい部分には、異常電圧によって電子機器やこの機器を搭載するプリント基板の熱的損傷又は発火等による破壊を防止するために、サージ防護素子が接続されている。
【0003】
従来、例えば特許文献1に示すように、一対の封止電極から対向状態に突出した一対の突出電極部を備え、絶縁性管の内面に放電補助部が形成されたアレスタ型のサージ防護素子が記載されている。
このようなアレスタ型のサージ防護素子は、碍子である絶縁性管の内壁に放電補助部としてカーボントリガ線を形成し、不活性ガスを満たした状態で対向した一対の封止電極を絶縁性管にロウ付けして作製される。
【0004】
このサージ防護素子は、放電開始電圧を決定する主電極の封止電極の他に、回路の保護性能を向上させるため(電圧上昇速度に対する追随性)に、絶縁性管の内壁に補助的にカーボンの放電補助部を形成している。カーボンの放電補助部は、グラファイトを構成成分として有し、グラファイトのナノ構造が先端の鋭利な電極として機能することで、見かけ上、低仕事関数化して他の導体にはない電子放出性能を実現している電子源である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
すなわち、従来のサージ防護素子では、放電補助部により回路の保護性能を向上させているが、放電補助部からの電子放出性能をさらに向上させて、電圧上昇速度に対する追随性をより高めることが要望されている。
【0007】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、放電補助部からの電子放出性能をさらに向上させることができるサージ防護素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、第1の発明に係るサージ防護素子は、絶縁性管と、前記絶縁性管の両端開口部を閉塞して内部に放電制御ガスを封止する一対の封止電極と、前記絶縁性管の内周面に電子源材料で形成された放電補助部と、前記絶縁性管の外周面の前記放電補助部と対向した部分に導体で形成され外周面導体部とを備えていることを特徴とする。
【0009】
このサージ防護素子では、絶縁性管の外周面の放電補助部と対向した部分に導体で形成され外周面導体部を備えているので、放電補助部と外周面導体部とが絶縁性管を挟んでコンデンサ的に構成されることで互いに静電結合し、放電補助部に電荷が誘起され、電圧が高くなって封止電極との間で電界が強くなり、電子が出易くなって電圧上昇速度に対する追随性が向上する。
【0010】
第2の発明に係るサージ防護素子は、第1の発明において、前記放電補助部が、前記一対の封止電極の一方側に形成された一方側補助部と、記一方側補助部から離間して配されていると共に前記一対の封止電極の他方側に形成された他方側補助部とを備え、前記外周面導体部が、前記一方側補助部に対向した部分と前記他方側補助部に対向した部分とを架け渡して形成されていることを特徴とする。
すなわち、このサージ防護素子では、外周面導体部が、一方側補助部に対向した部分と他方側補助部に対向した部分とを架け渡して形成されているので、一方側補助部と他方側補助部とで互いに逆の電荷が誘起され、どちらかがマイナス側となり、電子が放出される。
【0011】
第3の発明に係るサージ防護素子は、第1又は第2の発明において、前記外周面導体部を覆って前記絶縁性管の外周面に形成された絶縁性被膜を備えていることを特徴とする。
すなわち、このサージ防護素子では、外周面導体部を覆って絶縁性管の外周面に形成された絶縁性被膜を備えているので、実装された際に回路基板等との絶縁を確実に図ることができる。
【0012】
第4の発明に係るサージ防護素子は、第1又は第2の発明において、前記放電補助部が、前記封止電極の外周面に対向した部分に配置されていることを特徴とする。
すなわち、このサージ防護素子では、放電補助部が、封止電極の外周面に対向した部分に配置されているので、一対の封止電極の先端面間で生じた放電の影響を受け難く、放電補助部が放電による熱やスパッタリングで劣化することを抑制可能である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係るサージ防護素子によれば、絶縁性管の外周面の放電補助部と対向した部分に導体で形成され外周面導体部を備えているので、放電補助部と外周導電体とが絶縁性管を挟んでコンデンサ的に構成されることで互いに静電結合し、放電補助部に電荷が誘起され、電子が出易くなって電圧上昇速度に対する追随性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係るサージ防護素子の第1実施形態を示す軸方向の断面図である。
【
図2】本発明に係るサージ防護素子の第2実施形態を示す軸方向の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係るサージ防護素子の第1実施形態を、
図1を参照しながら説明する。なお、以下の説明に用いる図面では、各部材を認識可能又は認識容易な大きさとするために縮尺を適宜変更している。
【0016】
本実施形態のサージ防護素子1は、
図1に示すように、絶縁性管2と、絶縁性管2の両端開口部を閉塞して内部に放電制御ガスを封止する一対の封止電極3と、絶縁性管2の内周面に電子源材料で形成された放電補助部4と、絶縁性管2の外周面の放電補助部4と対向した部分に導体で形成され外周面導体部5とを備えている。
【0017】
上記放電補助部4は、一対の封止電極3の一方側に形成された一方側補助部4aと、一方側補助部4aから離間して配されていると共に一対の封止電極3の他方側に形成された他方側補助部4bとを備えている。
上記外周面導体部5は、一方側補助部4aに対向した部分と他方側補助部4bに対向した部分とを架け渡して形成されている。
【0018】
一方側補助部4aと他方側補助部4bとは、電子を放出可能な電子源、例えば絶縁性管2の軸線を中心とした円環状に炭素材で形成された導電性材料であって、いわゆるカーボントリガ線である。
また、上記放電補助部4(一方側補助部4a及び他方側補助部4b)は、封止電極3の外周面に対向した部分に配置されている。すなわち、放電補助部4は、一対の封止電極3の先端面間に対向した部分には配置されていない。
【0019】
上記外周面導体部5は、例えば炭素材,金属箔(Cu,Ag,Ni等),導電性ペースト(Agペースト等)等で形成されている。
この外周面導体部5は、一方側補助部4aに対向した部分と他方側補助部4bに対向した部分とを繋げるようにして、線状又は帯状に上下に延在している、または絶縁性管2の外周面に沿った円環帯状などに形成されている。
【0020】
上記絶縁性管2は、例えば円筒状のアルミナ(Al2O3)等の絶縁材料で形成されている。
上記一対の封止電極3は、内方に突出し互いに対向した一対の突出電極部3aを有している。
上記封止電極3は、例えば42アロイ(Fe:58wt%、Ni:42wt%)やCu等で構成されている。
【0021】
封止電極3は、絶縁性管2の両端開口部に導電性融着材(図示略)により加熱処理によって密着状態に固定されている円板状のフランジ部3bを有している。このフランジ部3bの内側に、内方に突出していると共に絶縁性管2の内径よりも外径の小さな円柱状の突出電極部3aが一体に設けられている。
【0022】
上記導電性融着材は、例えばAgを含むろう材としてAg-Cuろう材で形成されている。
上記絶縁性管2内に封入される放電制御ガスは、不活性ガス等であって、例えばHe,Ar,Ne,Xe,Kr,SF6,CO2,C3F8,C2F6,CF4,H2,大気等及びこれらの混合ガスが採用される。
【0023】
このように本実施形態のサージ防護素子1では、絶縁性管2の外周面の放電補助部4と対向した部分に導体で形成され外周面導体部5を備えているので、放電補助部4と外周面導体部5とが絶縁性管2を挟んでコンデンサ的に構成されることで互いに静電結合し、放電補助部4に電荷が誘起され、電圧が高くなって封止電極との間で電界が強くなり、電子が出易くなって電圧上昇速度に対する追随性が向上する。
【0024】
また、外周面導体部5が、一方側補助部4aに対向した部分と他方側補助部4bに対向した部分とを架け渡して形成されているので、一方側補助部4aと他方側補助部4bとで互いに逆の電荷が誘起され、どちらかがマイナス側となり、電子が放出される。
例えば、
図1に示すように、上側の放電補助部4を一方側補助部4aとし、下側の放電補助部4を他方補助部4bとすると、他方補助部4bがプラス(+)に誘起されると、外周面導体部5を介して一方側補助部4aがマイナス(-)に誘起され、一方側補助部4aから電子が放出され易くなる。
【0025】
さらに、放電補助部4が、封止電極3の外周面に対向した部分に配置されているので、一対の封止電極3の先端面間で生じた放電の影響を受け難く、放電補助部4が放電による熱やスパッタリングで劣化することを抑制可能である。
すなわち、熱やスパッタリングの影響の著しい一対の突出電極部3a間に対向した領域を回避して放電補助部4を配置することで、保護性能の劣化を抑制することができる。
【0026】
次に、本発明に係るサージ防護素子の第2実施形態について、
図2を参照して以下に説明する。なお、以下の実施形態の説明において、上記実施形態において説明した同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0027】
第2実施形態と第1実施形態との異なる点は、第1実施形態では、絶縁性管2の外周面に形成された外周面導体部5が露出しているのに対し、第2実施形態のサージ防護素子21では、
図2に示すように、外周面導体部5が絶縁性被膜26で覆われている点である。
すなわち、第2実施形態のサージ防護素子21は、外周面導体部5を覆って絶縁性管2の外周面に形成された絶縁性被膜26を備えている。
【0028】
上記絶縁性被膜26は、例えばエポキシ樹脂等の絶縁性材料で形成されている。
このように第2実施形態のサージ防護素子21では、外周面導体部5を覆って絶縁性管2の外周面に形成された絶縁性被膜26を備えているので、実装された際に回路基板等との絶縁を確実に図ることができる。
【0029】
なお、本発明の技術範囲は上記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0030】
1,21…サージ防護素子、2…絶縁性管、3…封止電極、4…放電補助部、4a…一方側補助部、4b…他方側補助部、5…外周面導体部、26…絶縁性被膜