(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039227
(43)【公開日】2024-03-22
(54)【発明の名称】プレス成形品の製造方法及び製造設備
(51)【国際特許分類】
B21D 22/26 20060101AFI20240314BHJP
B21D 24/00 20060101ALI20240314BHJP
【FI】
B21D22/26 C
B21D24/00 H
B21D24/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022143620
(22)【出願日】2022-09-09
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104444
【弁理士】
【氏名又は名称】上羽 秀敏
(74)【代理人】
【識別番号】100132506
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 哲文
(72)【発明者】
【氏名】米林 亮
(72)【発明者】
【氏名】▲浜▼田 幸一
(72)【発明者】
【氏名】西村 隆一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 利哉
(72)【発明者】
【氏名】金山 沙彩
【テーマコード(参考)】
4E137
【Fターム(参考)】
4E137AA05
4E137AA10
4E137BA01
4E137BB01
4E137BC01
4E137CA09
4E137CA24
4E137CB01
4E137EA03
4E137GA03
4E137GA15
4E137GB03
4E137HA06
4E137HA08
(57)【要約】
【課題】プレス成形品の寸法精度を向上させる。
【解決手段】プレス成形品K3の製造方法は、中間成形品K2を配置する配置工程(e)と、中間成形品K2をプレス成形するプレス工程(f)~(h)をと、を有する。中間成形品K2は、中央部CHと、一対の大R部LRと、小R部SRと、延在部ENとを含む。大R部LRは、第1の方向へ向かって凸に湾曲し、小R部SRは、反対方向へ向かって凸に湾曲する。小R部SRの曲率半径は、大R部LRの曲率半径より小さい。配置工程(e)では、大R部LRの少なくとも一部が、プレス方向から見て第1金型5の肩部5bと重なる位置に配置される。プレス工程では、大R部LRが、肩部5bに沿って曲げられ、小R部SRが曲げ戻されながら側面5cに沿った形状にプレス成形される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレス成形品の製造方法であって、
中間成形品を、プレス方向に凸の凸部を有する第1金型と、前記凸部に対応する凹部を有する第2金型の間に配置する配置工程と、
前記第1金型と前記第2金型を相対的に近づけ、前記第1金型の前記凸部と前記第2金型の凹部に応じた形状に、前記中間成形品をプレス成形するプレス工程と、を有し、
前記第1金型の凸部は、頂面と、前記頂面の両端の一対の肩部と、前記一対の肩部からそれぞれ延びる側面とを有し、
前記中間成形品は、中央部と、前記中央部の両側における一対の大R部と、前記一対の大R部のそれぞれの外側の小R部と、前記小R部の外側の延在部とを含み、
前記大R部は、第1の方向へ向かって凸に湾曲し、前記小R部は、前記第1の方向と反対方向の第2の方向へ向かって凸に湾曲し、
前記小R部の曲率半径は、前記大R部の曲率半径より小さく、
前記配置工程では、前記第1の方向がプレス方向の前記第1金型へ向かう方向であり、前記第2の方向がプレス方向の前記第2金型へ向かう方向となるよう、前記中間成形品が配置され、且つ、前記一対の大R部の各々の少なくとも一部が、プレス方向から見て前記第1金型の前記凸部の一対の肩部のそれぞれと重なる位置に配置され、
前記プレス工程では、前記中間成形品の前記一対の大R部が、前記第1金型の前記凸部の一対の肩部に沿って曲げられ、前記小R部が曲げ戻されながら前記凸部の前記側面に沿った形状にプレス成形される、プレス成形品の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のプレス成形品の製造方法であって、
前記配置工程では、前記凸部の長手方向に垂直な断面において、
配置される前記中間成形品の中央部における基準点から前記大R部の内側のR止まりまでの前記中間成形品に沿った線の長さである線長1A、
前記基準点から前記大R部の外側のR止まりまでの線長1C、
前記基準点から前記小R部の外側のR止まりまでの線長1F、
前記基準点をプレス方向に前記第1金型の前記頂面に対して投影した金型基準点から前記肩部の内側のR止まりまでの線長2A、及び、
前記金型基準点から前記肩部の外側のR止まりまでの線長2Cが、
2C<1F、1A<2C、2A<1Cの関係を有するように、前記中間成形品が配置される、プレス成形品の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載のプレス成形品の製造方法であって、
前記配置工程では、前記凸部の長手方向に垂直な断面において、
前記基準点から、前記大R部の内側R止まりと外側R止まりの間の前記中間成形品に沿った線における中点までの線長1B、及び、
前記基準点から、前記小R部の内側R止まりと外側R止まりの間の前記中間成形品に沿った線における中点までの線長1Eが、
2C<1E、2A<1B<2Cの関係を有するように、前記中間成形品が配置される、プレス成形品の製造方法。
【請求項4】
請求項2又は3に記載のプレス成形品の製造方法であって、
前記配置工程では、前記凸部の長手方向に垂直な断面において、
前記基準点から、前記小R部の内側R止まりまでの線長1Dが、
2C<1Dの関係を有するように、前記中間成形品が配置される、プレス成形品の製造方法。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載のプレス成形品の製造方法であって、
前記配置工程において、前記中間成形品の前記延在部は、前記小R部から外側へ向かってプレス方向に垂直な方向又は前記第1金型側に斜めに伸びるように、前記中間成形品が配置される、プレス成形品の製造方法。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項に記載のプレス成形品の製造方法であって、
前記中間成形品は、前記延在部の外側において前記第1の方向に凸に湾曲するフランジR部と、前記フランジR部から外側へ延びるフランジとを有する、プレス成形品の製造方法。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか1項に記載のプレス成形品の製造方法であって、
前記プレス工程において、少なくとも、プレス開始から前記小R部が曲げ戻されるまで、前記中間成形品の先端部が、前記第1金型及び前記第2金型のいずれにも接触しないように、前記第1金型及び前記第2金型が形成される、プレス成形品の製造方法。
【請求項8】
請求項1~3のいずれか1項に記載のプレス成形品の製造方法であって、
中間成形用金型を用いて板材をプレス成形することで前記中間成形品を生成する、中間成形品プレス工程をさらに有する、プレス成形品の製造方法。
【請求項9】
請求項1~3のいずれか1項に記載のプレス成形品の製造方法であって、
前記第2金型は、前記第1金型の前記凸部にプレス方向において対向するように配置されるパッドと、前記パッドの側方両側に配置される第2金型本体部とを含み、
前記プレス工程において、前記パッドと前記凸部で前記中間成形品の前記中央部の少なくとも一部を挟持した状態で、前記第1金型と前記第2金型本体部を相対的に近づけて、前記中間成形品をプレス成形する、プレス成形品の製造方法。
【請求項10】
板材をプレス成形して中間成形品を生成するための中間成形用第1金型及び中間成形用第2金型を含む第1プレス装置と、
前記中間成形品をプレス成形してプレス成形品を生成するための第1金型及び第2金型を含む第2プレス装置と、を備え、
前記第1金型は、プレス方向に凸の凸部を有し、前記第2金型は、前記凸部に対応する凹部を有し、
前記中間成形用第1金型及び前記中間成形用第2金型は、前記板材を、中央部と、前記中央部の両側における一対の大R部と、前記一対の大R部のそれぞれの外側の小R部と、前記小R部の外側の延在部とを含む形状に形成するように構成され、
前記大R部は、第1の方向へ向かって凸に湾曲し、前記小R部は、前記第1の方向と反対方向の第2の方向へ向かって凸に湾曲し、且つ、前記小R部の曲率半径は、前記大R部の曲率半径より小さく、
前記第2プレス装置において、前記第1金型の凸部は、頂面と、前記頂面の両端の一対の肩部と、前記一対の肩部からそれぞれ延びる側面とを有し、
前記第1金型は、前記中間成形品の前記一対の大R部が、前記第1金型の前記凸部の一対の肩部に沿って曲げられ、前記小R部が曲げ戻されながら前記凸部の前記側面に沿った形状にプレス成形されるように構成される、製造設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型を用いたプレス成形の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、プレス装置は、一対以上の金型の間にプレス対象材を配置して、一対以上の金型を下死点に至るまで互いに近づけることで、プレス対象材を金型の成形面の形に応じた形状にプレス成形する。プレス成形品は、金型から取り出された後、下死点における残留応力に起因して形状が変化することがある。この現象は、スプリングバック(SB)や弾性回復等と呼ばれ、形状精度の低下の要因となる。
【0003】
スプリングバック対策として、特開2006-015404号公報(特許文献1)には、フランジ部を有するZ形部材やハットチャンネル形部材の成形方法が記載されている。この方法は、金属板を曲げ成形して仮成形部材を成形する第1成形工程と、仮成形部材を曲げ成形して目標形状の成形部材を得る第2成形工程とを有する。第1成形工程で成形される仮成形部材は、仮横平坦部の一端から仮曲げ部を介して仮縦平坦部が連成され、仮縦平坦部の他端から第2曲げ部を介してフランジ部が連成された形状である。第1成形工程では、仮縦平坦部を成形する一対の成形型部の間で、凸部が反対向きの二つのアーチ部が形成されるように金属板を変形させて成形する。第2成形工程は、仮成形部材の仮横平坦部を曲げ成形すると共に仮曲げ部を曲げ戻し成形する。
【0004】
また、特開2017-196646号公報(特許文献2)では、天板部と縦壁部とフランジ部を有する断面ハット形状のプレス成形部品をプレス成形するにあたり、スプリングバックによるプレス成形部品の壁開きを抑制するプレス成形方法が記載されている。この成形方法は、第1の金型を用いて金属素板を仮成形部品に成形する第1成形工程と、第2の金型を用いて、仮成形部品を目標形状に成形する第2成形工程とを有する。第1成形工程では、目標形状と比較して成形方向における断面が外側に凸の山形状の縦壁部を含む仮成形部品が成形される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-015404号公報
【特許文献2】特開2017-196646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来技術では、第1成形工程で仮成形された中間成形品が、第2成形工程で目標形状に成形される。第2成形工程では、第1金型の凸部に中間成形品が載置された状態で、第2金型が下降する。中間成形品は、下死点で、第1金型と第2金型の間に挟まれ、目標形状に成形される。しかしながら、上記従来技術では、成形品は、スプリングバックしようとして寸法精度が低下する場合があることが、発明者らによって見出されている。
【0007】
本開示は、プレス成形品の寸法精度を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の実施形態におけるプレス成形品の製造方法は、
中間成形品を、プレス方向に凸の凸部を有する第1金型と、前記凸部に対応する凹部を有する第2金型の間に配置する配置工程と、
前記第1金型と前記第2金型を相対的に近づけ、前記第1金型の前記凸部と前記第2金型の凹部に応じた形状に、前記中間成形品をプレス成形するプレス工程と、を有する。
前記第1金型の凸部は、頂面と、前記頂面の両端の一対の肩部と、前記一対の肩部からそれぞれ延びる側面とを有する。
前記中間成形品は、中央部と、前記中央部の両側における一対の大R部と、前記一対の大R部のそれぞれの外側の小R部と、前記小R部の外側の延在部とを含み、
前記大R部は、第1の方向へ向かって凸に湾曲し、前記小R部は、前記第1の方向と反対方向の第2の方向へ向かって凸に湾曲し、
前記小R部の曲率半径は、前記大R部の曲率半径より小さく、
前記配置工程では、前記第1の方向がプレス方向の前記第1金型へ向かう方向であり、前記第2の方向がプレス方向の前記第2金型へ向かう方向となるよう、前記中間成形品が配置され、且つ、前記一対の大R部の各々の少なくとも一部が、プレス方向から見て第1金型の前記凸部の一対の肩部のそれぞれと重なる位置に配置され、
前記プレス工程では、前記中間成形品の前記一対の大R部が、前記第1金型の前記凸部の一対の肩部に沿って曲げられ、前記小R部が曲げ戻されながら前記凸部の前記側面に沿った形状にプレス成形される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本実施形態におけるプレス成形品の製造方法における工程を示す図である。
【
図2】
図2は、第2プレス装置のプレス工程の例をより詳細に示す図である。
【
図3】
図3は、大R部LRの働きを説明するための図である。
【
図4】
図4は、第1金型5と中間成形品K2の位置関係を説明するための図である。
【
図5】
図5は、第1プレス装置10の構成例を示す断面図である。
【
図6】
図6は、第2プレス装置20の構成例を示す断面図である。
【
図7】
図7は、
図5に示す第1金型3と、
図6に示す第1金型5を、幅方向(y方向)から見た側面図である。
【
図8】
図8は、第1プレス装置の金型と第2プレス装置の金型の構成の関係性を説明するための図である。
【
図9】
図9は、中間成形品K2の構成例を示す図である。
【
図12】
図12は、中間成形品の他の変形例を説明するための図である。
【
図13】
図13は、中間成形品の他の変形例を説明するための図である。
【
図14】
図14は、第1プレス装置10の変形例を示す図である。
【
図16】
図16は、第2プレス装置20の変形例を示す図である。
【
図17】
図17は、第2プレス装置20の他の変形例を示す図である。
【
図18】
図18は、第2プレス装置20の他の変形例を示す図である。
【
図19】
図19は、実施例の解析対象のプレス成形品形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(製造方法1)
本開示の実施形態におけるプレス成形品の製造方法は、
中間成形品を、プレス方向に凸の凸部を有する第1金型と、前記凸部に対応する凹部を有する第2金型の間に配置する配置工程と、
前記第1金型と前記第2金型を相対的に近づけ、前記第1金型の前記凸部と前記第2金型の凹部に応じた形状に、前記中間成形品をプレス成形するプレス工程と、を有する。
前記第1金型の凸部は、頂面と、前記頂面の両端の一対の肩部と、前記一対の肩部からそれぞれ延びる側面とを有する。
前記中間成形品は、中央部と、前記中央部の両側における一対の大R部と、前記一対の大R部のそれぞれの外側の小R部と、前記小R部の外側の延在部とを含み、
前記大R部は、第1の方向へ向かって凸に湾曲し、前記小R部は、前記第1の方向と反対方向の第2の方向へ向かって凸に湾曲し、
前記小R部の曲率半径は、前記大R部の曲率半径より小さく、
前記配置工程では、前記第1の方向がプレス方向の前記第1金型へ向かう方向であり、前記第2の方向がプレス方向の前記第2金型へ向かう方向となるよう、前記中間成形品が配置され、且つ、前記一対の大R部の各々の少なくとも一部が、プレス方向から見て第1金型の前記凸部の一対の肩部のそれぞれと重なる位置に配置され、
前記プレス工程では、前記中間成形品の前記一対の大R部が、前記第1金型の前記凸部の一対の肩部に沿って曲げられ、前記小R部が曲げ戻されながら前記凸部の前記側面に沿った形状にプレス成形される。
【0011】
上記製造方法1によれば、プレス工程の初期において、第1金型の頂面が中間成形品の中央部に接し、且つ、第2金型が、中間成形品を第1金型の方へ押す。この時、大R部は、小R部の内側において肩部に対して凸に湾曲した状態である。そのため、プレス工程の初期から大R部の少なくとも一部は、肩部に接し、肩部に押されながら元の湾曲とは逆方向に曲げられる。すなわち、プレス工程の初期から、中間成形品は、第1金型の肩部に巻き付きながら逆方向に曲げられる。このように、大R部が肩部に対して、しっかりとなつきながら成形が進むと、肩部回りの素材が張られて肩部による曲げ内側の圧縮応力が低下し、曲げ内側と曲げ外側の表裏の応力差が低下する。これにより、残留応力によって肩部による曲げを戻そうとする壁開きのモーメントが小さくなる。さらに、小R部の少なくとも一部が曲げ戻されることで、成形中に、成形品内側に引張応力、外側に圧縮応力が働く。そのため、スプリングバックすると、成形品の内側に圧縮応力、外側に引張応力が生じる。すなわち、スプリングバックの壁開きモーメントと逆の壁閉じのモーメントを生じさせる。これらの大R部と小R部の成形挙動の組み合わせにより、スプリングバックが低減され、プレス成形品の寸法精度が向上する。
【0012】
前記大R部及び前記小R部は、湾曲部である。湾曲部は、中間成形品の板材において、平坦ではなく曲がっている部分である。前記大R部及び前記小R部は、それぞれ、大湾曲部及び小湾曲部と称することもできる。大R部の湾曲の凸方向と、小R部の湾曲の凸方向は互いに反対方向である。小R部の曲率半径が、大R部の曲率半径より小さい形態は、例えば、目視で認識できる程度に、小R部の曲率が大R部の曲率より大きい、すなわち、曲がり具合がきつい形態であってもよい。なお、大R部及び小R部の湾曲は、中間成形品の中央部の長手方向に垂直な断面における湾曲である。
【0013】
(製造方法2)
上記製造方法1において、前記配置工程では、前記凸部の長手方向に垂直な断面において、下記の線長1A、1C、1F、2A及び2Cが、
2C<1F、1A<2C、2A<1C
の関係を有するように、前記中間成形品が配置されることが好ましい。これにより、成形における大R部の肩部へのなつきをよくし、且つ、小R部を曲げ戻すことによるスプリングバックの低減の効果がより高くなる。
線長1Aは、配置される前記中間成形品の中央部における基準点から前記大R部の内側のR止まりまでの前記中間成形品に沿った線の長さ(線長)である。
線長1Cは、前記基準点から前記大R部の外側のR止まりまでの線長である。
1Fは、前記基準点から前記小R部の外側のR止まりまでの線長である。
2Aは、前記基準点をプレス方向に前記金型の前記頂面に対して投影した金型基準点から前記肩部の内側のR止まりまでの前記第1金型に沿った線の長さ(線長)である。
2Cは、前記金型基準点から前記肩部の外側のR止まりまでの線長である。
【0014】
上記製造方法2のように中間成形品を第1金型に対して配置することで、プレス工程の下死点において、第1金型の凸部の肩部の少なくとも内側R止まりを含む部分に大R部であった部分が接し、前記凸部の側面に小R部であった部分の少なくとも一部が接する。
なお、前記断面における中間成形品の線長は、配置された中間成形品の第1金型側の表面に沿った線の長さとする。また、前記断面における第1金型の線長は、第1金型の表面に沿った線の長さとする。
【0015】
第1金型の凸部の長手方向は、プレス方向に垂直であり、且つ、プレス方向から見て凸部の一対の肩部の稜線の間の中間線が延びる方向である。凸部の長手方向は、プレス方向に垂直な方向となる。凸部の長手方向は、プレス方向から見て直線であってもよいし、湾曲していてもよい。
中間成形品の中央部の形状は、第1金型の凸部の頂面の形状に対応する。中央部の長手方向が、凸部の長手方向と略同じになるように、中間成形品が、第1金型に対して配置される。中間成形品の中央部の長手方向は、プレス方向から見て一対の大R部の間の中間線の延びる方向である。
配置工程では、プレス方向から見て、第1金型の凸部の長手方向の全体にわたって、中間成形品の一対の大R部の各々の少なくとも一部が、第1金型の凸部の一対の肩部のそれぞれと重なる位置に配置されることが好ましい。
【0016】
(製造方法3)
上記製造方法2において、前記配置工程では、前記凸部の長手方向に垂直な断面において、下記線長1B、2Eが、
2C<1E、2A<1B<2C
の関係を有するように、前記中間成形品が配置されることが好ましい。これにより、成形における大R部の肩部へのなつきをよくし、且つ、小R部を曲げ戻すことによるスプリングバックの低減の効果がより高くなる。
線長1Bは、前記基準点から、前記大R部の内側R止まりと外側R止まりの間の前記中間成形品に沿った線における中点までの線長である。
前記線長1Eは、前記基準点から、前記小R部の内側R止まりと外側R止まりの間の前記中間成形品に沿った線における中点までの線長である。
【0017】
上記製造方法3では、プレス工程において、第1金型の凸部の肩部に、大R部の中点が接し、且つ、前記凸部の側面に小R部の半分以上が接するように、中間成形品が第1金型に対して配置される。
【0018】
(製造方法4)
前記製造方法2又は3において、前記配置工程では、前記凸部の長手方向に垂直な断面において、前記基準点から、前記小R部の内側R止まりまでの線長1Dが、
2C<1D
の関係を有するように、前記中間成形品が配置されることが好ましい。これにより、成形における大R部の肩部へのなつきをよくし、且つ、小R部を曲げ戻すことによるスプリングバックの低減の効果がより高くなる。
【0019】
上記製造方法4では、プレス工程において、前記凸部の側面に小R部の全体
が接するように、中間成形品が第1金型に対して配置される。
【0020】
前記製造方法2~4及び下記製造方法5~9のいずれかにおいて、前記配置工程では、前記凸部の長手方向に垂直な断面において、前記基準点から、前記小R部の内側R止まりまでの線長1Dが、
1D<2C+(2C-2A)
の関係を有するように、前記中間成形品が配置されることが好ましい。これにより、成形における大R部の肩部へのなつきをよくし、且つ、小R部を曲げ戻すことによるスプリングバックの低減の効果がより高くなる。この場合、プレス工程において、前記凸部の側面において、肩部から肩部の線長分だけ離れた位置よりも内側(すなわち、天板側)に前記小R部が接するように、中間成形品が第1金型に対して配置される。この位置関係とすることで、成形品の離型時に、成形品において、肩部で壁が開く方向にスプリングバックしても、肩部に近接する壁が閉じる方向にスプリングバックするので、結果として目標の寸法に近づく。
【0021】
前記製造方法2~4及び下記製造方法5~9のいずれかにおいて、前記配置工程では、前記凸部の長手方向に垂直な断面において、前記基準点から、前記小R部の内側R止まりまでの線長1Dが、前記金型基準点から前記凸部の側面の中点までの線長2Eよりも小さい(1D<2E)ことが好ましい。これにより、成形における大R部の肩部へのなつきをよくし、且つ、小R部を曲げ戻すことによるスプリングバックの低減の効果がより高くなる。この場合、プレス工程において、前記凸部の側面の中間より内側(すなわち、天板側)に前記小R部が接するように、中間成形品が第1金型に対して配置される。
また、前記線長1Dは、2C+(2C-2A)、および、2Eのうち小さいほうの値よりも、小さいことがより望ましい。すなわち、2C+(2C-2A)<2Eの場合、1D<2Eが望ましく、1D<2C+(2C-2A)がより望ましい。2E<2C+(2C-2A)の場合、例えば、側面の線長が短い場合、1D<2C+(2C-2A)が望ましく、1D<2Eがより望ましい。
【0022】
(製造方法5)
上記製造方法1~4のいずれかにおいて、前記配置工程において、前記中間成形品の前記延在部は、前記小R部から外側へ向かってプレス方向に垂直な方向又は前記第1金型側に斜めに伸びるように、前記中間成形品が配置されてもよい。これにより、中間成形品の小R部の湾曲の断面における円弧長が長くなり、プレス成形において、小R部を曲げ戻すことによる、スプリングバックのモーメントと逆のモーメントを大きくすることができる。また、中間成形品は、延在部がプレス方向において、小R部よりも第2金型側へ突出しない形状となる。そのため、中間成形品全体のプレス方向における寸法の増加を抑えることができる。これにより、中間成形品を作成するための金型の厚みの増加を抑えることができる。
【0023】
(製造方法6)
上記製造方法1~5のいずれかにおいて、前記中間成形品は、前記延在部の外側端から前記第1の方向に凸に湾曲するフランジR部と、前記フランジR部から延びるフランジとを有してもよい。この構成により、延在部の外側にフランジを設けず、フランジ相当部分を延在部の延在方向にそのまま延ばした構成に比べて、中間成形品の小R部の外側の延在方向の寸法が小さくなる。プレス工程では、小R部又は延在部が第2金型に押されて大R部が曲げられ、延在部の延在方向が、第1金型側へ傾く。フランジがある構成では、フランジがない構成に比べて、プレス工程において、延在部の外側端が第1金型へ接触しにくくなる。プレス工程における延在部の第1金型への接触を避けることで、接触による応力により寸法精度が低下することが避けられる。
【0024】
(製造方法7)
前記プレス工程において、少なくとも、プレス開始から前記小R部が曲げ戻されるまで、前記中間成形品の先端部が、前記第1金型及び前記第2金型のいずれにも接触しないように、前記第1金型及び前記第2金型が形成されてもよい。プレス工程において、大R部の曲げ及び小R部の曲げ戻し中に、中間成形品の先端が第1金型又は第2金型に接すると余計な応力が発生し、プレス成形品の寸法精度が低下する場合がある。そのため、この接触を避けるように、前記第1金型及び前記第2金型を形成することで、接触による寸法精度の低下を避けることができる。
【0025】
例えば、第1金型又は第2金型の表面のうち下死点で中間成形品と接触する領域以外の部分に掘り込み又は後退部を設けることで、プレス工程における中間成形品の先端との接触を避けることができる。この場合、プレス工程において、掘り込み又は後退部の空間を、成形中の中間成形品の端部が通る。
【0026】
(製造方法8)
上記製造方法1~7のいずれかは、中間成形用金型を用いて板材をプレス成形することで前記中間成形品を生成する、中間成形品プレス工程をさらに有してもよい。
【0027】
中間成形用金型は、中間成形用第1金型と中間成形用第2金型を含んでもよい。前記中間成形用第1金型は、前記中間成形品の中央部、大R部、小R部、及び延在部に対応する第1中間成形面を有してもよい。前記中間成形用第2金型も、前記中間成形品の中央部、大R部、小R部、及び延在部に対応する第2中間成形面を有してもよい。前記第1中間成形面は、連続した面により一体的に形成されてもよい。前記第2中間成形面も、連続した面により一体的に形成されてもよい。すなわち、中間成形品プレス工程は、パッドを用いない中間成形用金型により板材をプレス成形する工程であってもよい。パッドを用いないプレス成形では、第1中間成形面が一体となり、且つ、第2中間成形面が一体となった状態で、互いに近づく。下死点において、一体となった第1中間成形面と一体となった第2中間成形面の間に板材が挟まれ、且つ、第1中間成形面と第2中間成形面の双方に板材が接する。パッドを用いた成形では、成形中にパッドが浮く場合がある。パッドを用いないプレス成形(スタンピング成形を称されることもある)で中間成形品を成形することで、成形中にパッドと中間成形用第1金型で素材をしっかりと挟持できない事態が発生しない。これにより、中間成形品の寸法精度がより向上する。その結果、プレス成形品の形状精度がより向上する。また、中間成形用のための機構の複雑化を回避でき、中間成形用金型のプレス方向の寸法を小さくできる。そのため、中間成形品の製造コストを低減できる。
【0028】
中間成形用第1金型の中央面の長手方向は、プレス方向に垂直であり、且つ、プレス方向から見て、一対の大R面の間の中間線の延びる方向である。中央面の長手方向は、プレス方向から見て、直線であってもよいし、湾曲していてもよい。プレス方向から見た中間成形用第1金型の中央面の形状は、プレス方向から見た第1金型の凸部の頂面に対応する。中央面の長手方向は、凸部の長手方向に対応する。
【0029】
(製造方法9)
上記製造方法1~8のいずれかにおいて、前記第2金型は、前記第1金型の前記凸部にプレス方向において対向するように配置されるパッドと、前記パッドの側方両側に配置される第2金型本体部を含んでもよい。前記プレス工程において、前記パッドと前記凸部で前記中間成形品の前記中央部の少なくとも一部を挟持した状態で、前記第1金型と前記第2金型本体部を相対的に近づけて、前記中間成形品をプレス成形してもよい。これにより、前記パッドで前記中央部を挟持することにより成形中の素材のずれを抑制することができる。そのため、より深い成形高さのプレス成形が可能になる。すなわち、下死点におけるプレス成形品のプレス方向の寸法を大きくすることができる。また、前記中間成形品に前記中央部の形状が作られているので、前記パッドで安定して挟持することができる。
【0030】
上記製造方法8及び9を組み合わせる場合、例えば、中間成形品のプレス工程で、中間成形品の中央部を、次の前記プレス成形工程におけるパッドの成形面に合う形状に成形してもよい。これにより、前記プレス成形工程におけるパッドの浮きが発生しにくくなる。その結果、プレス成形品の寸法精度が向上する。
【0031】
(構成1)
本開示の実施形態における製造設備は、板材をプレス成形して中間成形品を生成するための中間成形用第1金型及び中間成形用第2金型を含む第1プレス装置と、
前記中間成形品をプレス成形してプレス成形品を生成するための第1金型及び第2金型を含む第2プレス装置と、を備える。
前記第1金型は、プレス方向に凸の凸部を有し、前記第2金型は、前記凸部に対応する凹部を有する。
前記中間成形用第1金型及び前記中間成形用第2金型は、前記板材を、中央部と、前記中央部の両側における一対の大R部と、前記一対の大R部のそれぞれの外側の小R部と、前記小R部の外側の延在部とを含む形状に形成するように構成される。
前記大R部は、第1の方向へ向かって凸に湾曲し、前記小R部は、前記第1の方向と反対方向の第2の方向へ向かって凸に湾曲し、且つ、前記小R部の曲率半径は、前記大R部の曲率半径より小さい。
前記第2プレス装置において、前記第1金型の凸部は、頂面と、前記頂面の両端の一対の肩部と、前記一対の肩部からそれぞれ延びる側面とを有する。
前記第1金型は、前記中間成形品の前記一対の大R部が、前記第1金型の前記凸部の一対の肩部に沿って曲げられ、前記小R部が曲げ戻されながら前記凸部の前記側面に沿った形状にプレス成形されるように構成される。
【0032】
上記構成1の製造設備によれば、第1プレス装置により、中央部、一対の大R部、一対の小R部、及び一対の延在部を有する中間成形品が生成される。第2プレス装置によるプレス成形において、中間成形品の大R部が、第1金型の肩部に対してなつきがよくなり、且つ、小R部を曲げ戻すことができる。これにより、プレス成形品のスプリングバックが低減され、プレス成形品の寸法精度が向上する。
【0033】
(構成2)
上記構成1において、前記中間成形用第1金型及び前記中間成形用第2金型は、それぞれ、前記中間成形品の前記中央部を形成する中央面と、前記大R部を形成する一対の大R面、前記小R部を形成する一対の小R面、及び前記延在部を形成する一対の延在面を有してもよい。
前記中間成形用第1金型の前記中央部の長手方向に垂直な中間成形用金型断面における、前記中央面における第1基準点と前記一対の小R面のうち一方の小R面の外側のR止まり間の前記中間成形用第1金型に沿った線の長さである線長10F、前記第1基準点と前記一対の大R面のうち一方の大R部の内側のR止まり間の線長10A、及び、前記第1基準点と前記大R面の外側のR止まり間の線長10Cと、
前記第1金型の前記中間成形用金型断面に対応する位置の断面における、前記第1基準点に対応する第2基準点から、前記一対の肩部のうち一方の肩部の内側のR止まりまでの前記第1金型に沿った線長20A、及び、前記第2基準点と前記肩部の外側のR止まり間の線長20Cとは、
20C<10F、10A<20C、20A<10C
の関係を有することが好ましい。これにより、プレス成形における大R部の肩部へのなつきをよくし、且つ、小R部を曲げ戻すことによるスプリングバックの低減の効果がより高くなる。
なお、前記中間成形用金型断面における中間成形用第1金型の線長は、中間成形用第1金型の表面に沿った線の長さとする。前記中間成形用金型断面における下死点の中間成形品の断面と同じ断面が、前記中間成成形品が配置された第1金型の対応する断面において現れる。すなわち、前記中間成形用金型断面に対応する第1金型の断面は、中間成形品を基準に決められる。第1基準点に対応する第2基準点も、中間成形品を基準に決められる。
【0034】
(構成3)
上記構成2において、前記中間成形用第1金型の前記中央部の長手方向に垂直な中間成形用金型断面における、第1基準点と一対の前記大R面のうち一方の前記大R面の中間成形用第1金型に沿った線における中点との間の線長10B、及び、第1基準点と、一対の前記小R面のうち一方の前記小R面の中間成形用第1金型に沿った線における中点との間の線長10Eが、
20C<10E、20A<10B<20C
の関係を有することが好ましい。これにより、プレス成形における大R部の肩部へのなつきをよくし、且つ、小R部を曲げ戻すことによるスプリングバックの低減の効果がより高くなる。
【0035】
(構成4)
上記構成2又は3において、前記中間成形用第1金型の前記中央部の長手方向に垂直な中間成形用金型断面における、前記第1基準点と、前記一対の小R面のうち一方の小R面の内側R止まりとの間の線長10Dが、
20C<10D
の関係を有することが好ましい。これにより、プレス成形における大R部の肩部へのなつきをよくし、且つ、小R部を曲げ戻すことによるスプリングバックの低減の効果がより高くなる。
【0036】
上記構成2~4及び下記構成5~8のいずれかにおいて、前記中間成形用第1金型の前記中央部の長手方向に垂直な中間成形用金型断面における、前記第1基準点と、前記一対の小R面のうち一方の小R面の内側R止まりとの間の線長10Dが、
10D<20C+(20C-20A)
の関係を有することが好ましい。これにより、プレス成形における大R部の肩部へのなつきをよくし、且つ、小R部を曲げ戻すことによるスプリングバックの低減の効果がより高くなる。
【0037】
前記構成2~4及び下記構成5~8のいずれかにおいて、前記中間成形用第1金型の前記中央部の長手方向に垂直な中間成形用金型断面における、前記第1基準点と、前記一対の小R面のうち一方の小R面の内側R止まりとの間の線長10Dが、前記中間成形用金型断面に対応する前記第1金型の断面における、前記第2基準点と、前記一対の側面のうち一方の側面の中点との間の金型表面に沿った線の線長20Eよりも小さいこと(10D<20E)が好ましい。これにより、成形における大R部の肩部へのなつきをよくし、且つ、小R部を曲げ戻すことによるスプリングバックの低減の効果がより高くなる。
【0038】
(構成5)
上記構成1~4のいずれかにおいて、前記中間成形用第1金型及び前記中間成形用第2金型は、それぞれ、前記中間成形品の前記中央部を形成する中央面と、前記大R部を形成する一対の大R面、前記小R部を形成する一対の小R面、及び前記延在部を形成する一対の延在面を有してもよい。前記中間成形用第1金型及び前記中間成形用第2金型のそれぞれにおいて、前記延在面は、前記小R面から外側へ向かってプレス方向に垂直な方向又は前記中間成形用第1金型側に斜めに伸びるように形成されてもよい。これにより、中間成形用金型の厚みの増大を抑えることができる。
【0039】
(構成6)
上記構成1~5のいずれかにおいて、前記中間成形用第1金型及び前記中間成形用第2金型は、前記板材を、前記中央部と、前記大R部、前記小R部、及び、前記延在部に加えて、前記延在部の外側において前記第1の方向に凸に湾曲するフランジR部と、前記フランジR部から外側へ延びるフランジとを有する形状に形成するように構成されてもよい。例えば、前記中間成形用第1金型及び前記中間成形用第2金型は、それぞれ、前記中央面と、前記一対の大R面、前記一対の小R面、及び前記一対の延在面に加えて、前記フランジR部を形成するフランジR面、及び、前記フランジを形成するフランジ面とを有してもよい。
【0040】
(構成7)
上記構成1~6のいずれかにおいて、前記第1金型は、前記凸部の両側の側面の頂部と反対側の端から外側に延びる基部面を有し、前記基部面には、掘り込みが設けられてもよい。この掘り込みにより、第2プレス装置を用いたプレス成形において、中間成形品の先端端が基部面と接触するのを避けることができる。
【0041】
(構成8)
上記構成1~7のいずれかにおいて、前記第2金型は、前記凸部の側面とプレス方向において対向する第2側面と、前記基部面に対向する第2基部面とを有してもよい。第2基部面には、掘り込みが設けられてもよい。又は、前記第2基部面は、下死点において前記プレス成形品に接触しないよう前記第1金型基部面からプレス方向に離間した離間部を有してもよい。
【0042】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳しく説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。各図に示された構成部材間の寸法比は、必ずしも実際の寸法比を示すものではない。
【0043】
(製造工程の例)
図1は、本実施形態におけるプレス成形品K3の製造方法における工程を示す図である。本実施形態の製造方法は、第1プレス装置10を用いて中間成形品K2を生成する工程(
図1の(a)~(c))と、第2プレス装置20を用いてプレス成形品K3を生成する工程((e)~(g))とを含む。
【0044】
図1(a)に示すように、第1プレス装置10の中間成形用第1金型3(以下、単に第1金型3と称する)と、中間成形用第2金型4(以下、単に第2金型4と称する)の間に、板材K1が配置される。
図1(b)に示すように、第1金型3と第2金型4が近づき、板材K1がプレス成形される。
図1(c)に示すように、下死点において、板材K1は、第1金型3及び第2金型4の間に、中間成形品K2の形状を保って保持される。
【0045】
図1(d)に示す中間成形品K2は、中央部CHと、中央部CHの両側における一対の大R部LR、一対の小R部SR、及び、一対の延在部ENとを有する。中央部CHは湾曲していない部分すなわち平坦部を含む。一対の大R部LRのそれぞれの外側に小R部SRがあり、小R部SRの外側に延在部ENがある。延在部ENは、湾曲していない部分すなわち平坦部を含む。大R部LR及び小R部SRはいずれも湾曲部である。大R部LRの湾曲の凸方向は、小R部SRの湾曲の凸方向と反対方向である。小R部の曲率半径より大R部LRの曲率半径の方が大きい。
【0046】
図1(e)に示すように、第2プレス装置20の第1金型5と、第2金型6の間に、中間成形品K2が配置される。第1金型5は、プレス方向に凸の凸部を有し、第2金型6は、凸部に対応する凹部を有する。第1金型5の凸部は、頂面5aと、頂面5aの両端の一対の肩部5bと、一対の肩部5bからそれぞれ延びる側面5cとを有する。なお、
図1に示す例では、紙面に垂直な方向が、第1金型5の凸部の長手方向となる。中間成形品K2の中央部CHの長手方向も紙面に垂直な方向である。
【0047】
図1(e)において、大R部LRが第1金型5へ向かって凸となり、小R部SRが第2金型6へ向かって凸となるように、中間成形品K2が配置される。また、一対の大R部の各々の少なくとも一部が、プレス方向から見て第1金型5の凸部の一対の肩部5bのそれぞれと重なる位置に配置される。
【0048】
また、
図1の例では、第2プレス装置20の第2金型6は、第1金型5の凸部の頂面5aにプレス方向において対向する位置に設けられたパッド6Bを有する。第2金型6は、パッド6Bの側方両側に設けられる一対の第2金型本体部6Aを含む。一対の第2金型本体部6Aは、第1金型5の一対の肩部5bにそれぞれ、プレス方向に対向する位置に設けられる。なお、一対の第2金型本体部6Aは、一体的に形成されてもよい。例えば、第2金型本体部6Aは、プレス方向から見てパッド6Bの全周を取り囲むように形成されてもよい。
図1(f)に示すように、第2プレス装置20は、パッド6Bと第1金型5で中間成形品K2を挟持する。
【0049】
図1(g)に示すように、第2プレス装置20は、プレス工程では、パッド6Bと第1金型5の頂面5aで中間成形品K2の中央部CHの少なくとも一部を挟持した状態で、第1金型5と第2金型本体部6Aを相対的に近づけて、中間成形品K2をプレス成形する。プレス工程では、中間成形品K2の一対の大R部LRが、第1金型5の一対の肩部5bに沿って曲げられ、小R部SRの少なくとも一部が曲げ戻されながら第1金型5の側面5cに沿った形状にプレス成形される。
【0050】
図1(h)に示すように、下死点では、大R部LRに相当する部分が元の湾曲とは反対の凸となるように曲げられて肩部5bに巻き付き、小R部SRは、曲げ戻され、少なくとも一部が側面5cに接する。これにより、第1金型5及び第2金型6の成形面に応じた形状のプレス成形品K3が得られる。プレス成形品K3は、天板と、天板の両端の肩部と、肩部から延びる一対の縦壁とを少なくとも有する。
【0051】
このように、大R部LRを肩部5bによくなつかせて巻き付けながら曲げ、さらに、小R部SRを曲げ戻すことで、プレス成形品K3において、スプリングバックが低減され、寸法精度が向上する。すなわち、プレス工程では、中間成形品K2の一対の大R部LRのそれぞれの少なくとも一部が、第1金型5の凸部の一対の肩部5cのそれぞれに沿って曲げられ、一対の小R部SRのそれぞれの少なくとも一部が曲げ戻されながら凸部の側面5cに沿った形状にプレス成形される。これにより、寸法精度が向上する。
【0052】
なお、
図1に示す例では、プレス成形品K3は、一対の縦壁のそれぞれの天板と反対側の端から延びるフランジを有する。この場合、縦壁とフランジの間は、湾曲したフランジR部となる。プレス成形品K3は、フランジやフランジR部がない形状(例えば、U字断面)であってもよい。プレス成形品K3が、フランジやフランジR部がない形状の場合は、下死点において、フランジやフランジR部が金型で挟持されることはない。
【0053】
図2は、第2プレス装置20のプレス工程の例をより詳細に示す図である。
図2(a)のように、大R部LRが、第1金型5の肩部5bにプレス方向で対向するように、中間成形品K2が配置される。
図2(b)、(c)に示すように、プレス工程では、大R部LRと小R部SRが、曲げ戻され、すなわち元の湾曲とは反対方向に曲げられる。下死点において、小R部SRの少なくとも一部は、曲げ戻されてプレス成形品K3の縦壁の一部になる。大R部LRの少なくとも一部は、曲げられてプレス成形品K3の肩部になる。
図2(b)に示すように、成形中において、小R部SRは、曲げ戻される時に、部材内側に引張応力、部材外側に圧縮応力が働く。大R部LRは、肩部5bに沿って曲げられる時に、部材内側に圧縮応力、部材外側に引張応力が働く。大R部LRは、成形の早い段階から第1金型5の肩部5bに巻き付きながら元の湾曲とは逆の方向に曲げられる。すなわち、大R部LRの部分は、肩部5bによくなつきながら成形される。これにより、肩部5bに接する部分では、肩部5bに接する部材が頂面5aから外側(紙面右側)に向かって張られて曲げ内側の圧縮応力が低下する。
図2(c)に示す下死点では、プレス成形品K3の肩部では、壁開きのモーメントが発生し、縦壁では、これとは逆の壁閉じモーメントが発生する。大R部LRによる肩部5bへのなつきにより曲げ内側の圧縮応力が低下したことによる壁開きのモーメントの低減と、小R部SRの曲げ戻しによる壁閉じモーメントの発生との組み合わせによって、スプリングバックが大幅に低減される。その結果、プレス成形品K3の寸法精度が高くなる。すなわち、プレス成形品の形状を目標形状に近づけることができる。
【0054】
図3は、大R部LRの働きを説明するための図である。
図3(a)は、大R部LR、小R部SR、及び、延在部ENを含む中間成形品K2の成形中の例を示す。
図3(b)は、大R部がない中間成形品の成形中の例を示す。
図3(a)に示すように、成形の初期では、第2金型6(第2金型本体部6A)によって、小R部SR又は延在部ENが、第1金型5の方へ押される。大R部LRは第1金型5へ向かって凸に湾曲する。そのため、大R部LRが、成形初期から、第1金型5の肩部5bに押し付けられ、肩部5bに巻き付きながら逆方向に曲げられる。すなわち、大R部LRの部分は、肩部5bになつきながら曲げられる。これに対して、
図3(b)では、部材が、肩部5bから離れた状態で曲げられる。すなわち、部材が肩部5bになつかずに成形が進み、下死点で、部材が肩部5bに接する。この場合、プレス成形品では、成形中のなついていない状態に戻ろうとする残留応力が大きくなる。そのため、スプリングバックが大きくなり、寸法精度が低下する可能性がある。
【0055】
図3(b)の大R部がない中間成形品に比べて、
図3(a)の大R部LRがある中間成形品K2のプレス方向の高さを小さくできる。これにより、第1プレス装置10において、中間成形品K2のプレス成形用の金型のコストを低減できる。すなわち、大R部LRによって、肩部5bへのなつきをよくして寸法精度を良くしつつ、製造コストも低減することが出来る。
【0056】
上記のように、小R部SRは、成形で曲げ戻されて平坦になり、壁閉じのモーメントを発生させる。小R部SRの曲率半径(R_S)は、曲げ戻したときに小R部の痕が残らない程度に小さいことが好ましい。また、壁閉じのモーメントを確保する観点から、例えば上記例のように、小R部の全体がプレス成形工程で曲げ戻されることが好ましい。大R部LRは、曲率半径が小さいと、なじみを良化させる効果に対して、元の湾曲形状に戻ろうとする効果が大きくなるため、ある程度、曲率半径が大きいことが望ましい。これらの観点からも、大R部LRの曲率半径>小R部SRの曲率半径とすることが好ましい。
【0057】
小R部SRの曲げ戻しによる壁閉じモーメントは、モーメントの値(大きさ)とモーメントが生じる領域の積に比例する。小R部SRの曲げ戻しによるモーメントは、ある程度の大きさがある事が望ましい。小R部SRの曲率半径R_Sが大きすぎると、モーメントが生じる領域は大きくなるがモーメントの値が小さくなる。一方、小R部SRの曲率半径R_Sが小さすぎると、モーメントの値は大きくなるがモーメントが生じる領域が小さくなる。例えば、R_S≦20mmが好ましい。これにより、プレス成形による壁開きのモーメントに対して、これを相殺するのにより適した小R部SRの曲げ戻しによる逆方向のモーメントを発生させやすくなる。同様の観点から、R_S≦18mmがより好ましく、R_S≦15mmがさらに好ましい。また、例えば、5mm≦R_Sであってもよい。これにより、モーメントの生じる領域を確保しつつ、成形後に小R部SRの痕が残りにくくなる。同様の観点から、10mm≦R_Sがより好ましい。
【0058】
第1金型の凸部の肩部の曲率半径をRpとすると、Rpに対する大R部LRの曲率半径R_Lは、これに限られないが、例えば、1.5Rp≦R_Lとしてもよい。これにより、肩部に対する大R部のなじみをより良くできる。この観点から、1.75Rp≦R_Lとすることがより好ましい。R_Lの上限は、特に限定されないが、例えば、R_L≦3.0Rpとしてもよい。
【0059】
小R部SRの曲率半径R_Sと、大R部LRの曲率半径R_Lの関係は、これらに限られないが、例えば、R_SとR_Lの差を中間成形品の板厚tより大きく(R_S+t<R_L)してもよい。また、1.5R_S≦R_Lとしてもよい。さらに、2.0R_S≦R_Lであることがより好ましい。これにより、大R部と小R部の成形挙動の組み合わせによるスプリングバックの低減効果をより高めることができる。また、R_L≦6.0R_Sとすることができる。これにより、大R部LRと小R部SRの成形挙動の組み合わせによるスプリングバックの低減効果をより高めることができる。
【0060】
小R部SR及び大R部LRのそれぞれの曲率半径は、それぞれの稜線に垂直な断面における曲げ内側の部材表面の内側R止まりと外側R止まりの間の曲線の曲率半径とする。曲率半径は、両端のR止まりとその間の中点の3点を通る円の半径とする。金型の肩部の曲率半径は、金型の凸部の長手方向に垂直な断面における金型表面の内側R止まり、外側R止まり、及び、内側R止まりと外側R止まりの中点の3点から算出した円の半径を曲率半径とする。なお、小R部及び大R部の曲率半径は、断面において、中間成形品の曲げ内側(曲率半径の径方向内側)の表面の線上の3点(両端のR止まり及びそれらの間の中点)を通る円の半径とする。
【0061】
図1に示す例では、第1プレス装置10は、パッドを用いないで第1金型3と第2金型4で、板材K1の全体を挟んで成形する。これは、スタンピング成形、クラッシュフォーム成形、又は、馬鹿押し等と呼ばれる。中間成形品K2は、プレス成形品K3と比べて、プレス方向の寸法が小さい。そのため、中間成形品K2のプレス成形においては、成形深さを小さくできる。この場合、パッドを使用しないスタンピング成形により、精度よく中間成形品を成形できる。
【0062】
一般的に、高強度材(ハイテン材)をU字形状やハット形状の部材にプレス成形する場合、絞り成形では割れやすいため、パッドで天板を押さえてパンチ肩を曲げるパッド曲げ成形(フォーム成形)が採用される。パッドで天板を押さえながら成形することでプレス成形中に素材がずれることを防ぐ。しかし、例えば、天板に段差や溝などの形状がある場合等は、パッドの支持部材である弾性部材の荷重(ばね定数)が小さいと、プレス成形初期に天板の形状をしっかりと挟持出来ず、成形中にパッドが浮くことがある。これにより、寸法精度の低下を招く可能性がある。そこで、
図1に示すように、プレス成形品の天板に段差や溝などの形状がある場合は、第2プレス装置20でのパッド6Bの浮きを抑制するため、第1プレス装置10で、天板の形状を形成しておくことができる。第1プレス装置10では、パッドを用いない金型でプレス成形することが望ましい。第1プレス装置10では、成形深さが小さいため、パッドを用いないプレス成形で寸法精度を確保することが容易になる。
【0063】
(中間成形品の配置例)
図4は、第1金型5と中間成形品K2の位置関係を説明するための図である。
図4は、第1金型5に対して中間成形品K2が配置された状態を示す。
図4は、第1金型の凸部の長手方向に垂直な断面における第1金型5と中間成形品K2を示している。この断面において、中間成形品K2の中央部CHにおける任意の点を基準点O1とする。基準点O1を、プレス方向に、第1金型5の頂面5aに対して投影した点を、金型基準点O2とする。
【0064】
基準点O1から、大R部LRの内側のR止まりまでの中間成形品K2に沿った線L_1Aの長さが線長1Aである。以下、中間成形品K2に沿った線は、中間成形品K2の第1金型5側の表面に沿った線とする。同様に、基準点O1から大R部LRの外側のR止まりまでの中間成形品K2上の線の長さが線長1C、基準点O1から、大R部LRの内側R止まりと外側R止まりの間の中間成形品に沿った線上の中点までの線の長さが線長1Bとなる。大R部の内側R止まりと大R部の中点との距離と、大R部の外側R止まりと大R部の中点との距離は等しい。線長1Dは、基準点O1から小R部SRの内側R止まりまでの線長であり、線長1Fは、基準点O1から小R部SRの外側のR止まりまでの線長である。線長1Eは、基準点O1から小R部SRの外側R止まりと内側R止まりの中点までの線長である。小R部の内側R止まりと小R部の中点との距離と、小R部の外側R止まりと小R部の中点との距離は等しい。
【0065】
金型基準点O2から、第1金型5の肩部5bの外側R止まりまでの金型表面に沿った線L_2Aの長さが、線長2Aである。同様に、金型基準点O2から肩部5bの外側のR止まりまでの金型表面上の線の長さが線長2Cとなる。金型基準点O2から肩部5bの内側R止まりと外側R止まりの間の金型表面に沿った線の中点までの線の長さが線長2Bとなる。また、肩部5bの外側R止まりから肩部5bの金型表面の線長の分だけ外側に離れた点と金型基準点O2との間の金型表面に沿った線の線長は、2C+(2C―2A)となる。
【0066】
なお、金型又は中間成形品におけるR止まりは、断面で見て、湾曲部と平坦部(直線部)との境界、又は、湾曲部と、湾曲の凸方向が反対の隣の湾曲部との境界である。言い換えると、凸方向の湾曲部の曲率を正、湾曲していない平坦部(直線部)の曲率を0、凹方向の湾曲部の曲率を負とすると、曲率の正負が反転する境界、又は、曲率が正又は負の値から0になる境界をR止まりと呼ぶ。第1金型5において、肩部5bの内側R止まりは、肩部5bと頂面5aとの境界であり、肩部5bの外側R止まりは、肩部bと側面5cとの境界である。
【0067】
プレス工程では、大R部LRの少なくとも一部が、下死点で第1金型5の肩部5bに接し、小R部SRの少なくとも一部が、肩部5b近傍の側面5cに接することが好ましい。この場合に、成形中に大R部LRの肩部5bへのなつきをよくし、小R部の曲げ戻しと組み合わせてスプリングバックを低減させる効果が高くなる。
【0068】
この観点から、小R部SRは、下死点で肩部5bと側面5cに接する位置に来ることが好ましい。さらに、小R部SRは、下死点で肩部5bに接する部分より側面5cに接する部分の方が多くなることが好ましい。小R部SRの全てが下死点で肩部5b又は側面5cのいずれかに接する場合も、ある程度効果が得られる。小R部SRは下死点で肩部5bから離れすぎない方が好ましい。
【0069】
大R部LRは、下死点で、肩部5bに加えて、頂面5a又は側面5cの少なくとも一方に接してもよい。大R部LRは、下死点で肩部5bに接する部分が多いことが好ましい。大R部LRの半分以上が、下死点で肩部5bに接することが好ましい。さらに、大R部LRの全て又は大部分が、下死点で肩部5bに接することが好ましい。大R部LRの全てが下死点において頂面5aに接する場合も、ある程度効果が得られる。
【0070】
上記を踏まえると、配置工程における第1金型5と中間成形品K2の位置関係は、例えば、線長1A、1C、1F、2A及び2Cが、
2C<1F、1A<2C、2A<1C
の条件を満たすことが好ましい。これにより、大R部LRが、下死点では、肩部5bに接し、小R部SRは、その外側の肩部5b又は側面5cに接するようになる。
【0071】
さらに、線長1B、2Eが、
2C<1E、2A<1B<2C
の関係を有するように、中間成形品K2が第1金型5に対して配置されてもよい。これにより、大R部LRのより多くの部分が、下死点で肩部5bに接するようになる。
【0072】
また、線長1Dが、2C<1Dとなるように、中間成形品K2が第1金型5に対して配置されてもよい。これにより、小R部SRの全てが、下死点で側面5cに接するようになる。
【0073】
線長1Dが、例えば、1D<2C+(2C-2A)となるように、中間成形品K2が第1金型5に対して配置されてもよい。この場合、小R部SRが、下死点で、肩部5b又は肩部5bの近傍の側面5cに接するようになる。また、線長1Dは、金型基準点O2から側面5cの中間までの線長2Eより小さく(1D<2E)なるよう、中間成形品K2が配置されてもよい。これにより、小R部SRが、下死点で肩部5bから離れすぎないようにできる。
図1に示す例では、2C+(2C-2A)<2Eである。線長1Dは、2C+(2C-2A)及び2Eのうち小さい値(
図1の例では2E)よりも小さいことがより望ましい。
【0074】
(金型の構成例)
図5は、第1プレス装置10の構成例を示す断面図である。
図5に示す例では、第1プレス装置10は、第1金型3、第2金型4、ベッド12、スライド13、及び、金型ホルダ(金型ベース)14、15を備える。第1金型3は、一例としてパンチである。第2金型4は、一例としてダイである。第1金型3及び第2金型4は、
図5の紙面と交差する方向(y方向)に延びている。以下、説明の便宜上、第1プレス装置10及びその構成部品に関しては、第1金型3の中央面3CHが延びる方向を長手方向とする。本例では、プレス方向、すなわち、第1金型3及び第2金型4が互いに接近及び離間する方向は、上下方向(鉛直方向)(図のz方向)である。長手方向及び上下方向からなる平面に対して垂直な方向(図のx方向)、すなわち、第1金型3及び第2金型4を横切る方向を左右方向又は幅方向という。また、第1プレス装置10及びその構成部品に関し、長手方向に垂直な平面で切断した断面を横断面という。
【0075】
第1金型3は、金型ホルダ14を介して、第1プレス装置10の本体の一部であるベッド12に支持されている。すなわち、ベッド12に金型ホルダ14が固定され、この金型ホルダ14に第1金型3が配置されている。
【0076】
第2金型4は、第1金型3とプレス方向に対向する位置に配置されている。第2金型4は、金型ホルダ15を介し、スライド13に取り付けられている。すなわち、スライド13に金型ホルダ15が固定され、金型ホルダ15に第2金型4が固定されている。スライド13は、例えば、第1プレス装置10に設けられた機械式又は油圧式機構等(図示略)により、第1金型3に対して昇降可能に構成されている。スライド13の昇降に伴い、第2金型4も第1金型3に対して昇降する。
【0077】
第1金型3及び第2金型4は、下死点で被成形品に接する成形面を有する。成形面は、中間成形品K2に対応する形状を有する。第1金型3の成形面は、中央面3CH、一対の大R面3LR、一対の小R面3SR、及び、一対の延在面3ENを含む。これらは、中間成形品K2の中央部CH、大R部LR、小R部SR、及び延在部ENを、それぞれ形成するための面である。第2金型4の成形面は、中央面4CH、一対の大R面4LR、一対の小R面4SR、及び、一対の延在面4ENを含む。中央面3CH、4CHの幅方向の両側に大R面3LR、4LRが設けられる。大R面3LR、4LRの外側に小R面3SR、4SRが設けられる。小R面3SR、4SRの外側に、延在面3EN、4ENが設けられる。大R面3LR、4LRと小R面3SR、4SRは、互いに反対向きに凸となるよう湾曲している。小R面3SR、4SRの曲率半径は、大R面3LR、4LRより小さい。また、一例として、第1プレス装置10において、第1金型3及び第2金型4のうち大R部の曲げ内側に接する金型(
図5の例では、第2金型4)の大R面(4LR)の曲率半径を、小R部の曲げ内側に接する他方の金型(
図5の例では、第1金型3)の小R面(3SR)の曲率半径より大きくすることができる。
【0078】
図6は、第2プレス装置20の構成例を示す断面図である。
図6に示す例では、第2プレス装置20は、第1金型5、第2金型6、パッド6B、ベッド22、スライド23、及び、金型ホルダ(金型ベース)24、25を備える。第1金型3は、一例としてパンチである。第2金型6は、一例としてダイである。第1金型5及び第2金型6は、
図6の紙面と交差する方向(y方向)に延びている。第2プレス装置20及びその構成部品に関しては、第1金型5の凸部が延びる方向を長手方向とする。本例では、プレス方向、すなわち、第1金型5及び第2金型6が互いに接近及び離間する方向は、上下方向(鉛直方向)(図のz方向)である。長手方向及び上下方向からなる平面に対して垂直な方向(図のx方向)、すなわち、第1金型5及び第2金型6を横切る方向を左右方向又は幅方向という。また、第2プレス装置20及びその構成部品に関し、長手方向に垂直な平面で切断した断面を横断面という。本実施形態においては、
【0079】
第1金型5は、金型ホルダ24を介して、第2プレス装置20の本体の一部であるベッド22に支持されている。すなわち、ベッド22に金型ホルダ24が固定され、この金型ホルダ24に第1金型5が配置されている。
【0080】
第2金型6は、第1金型5とプレス方向に対向する位置に配置されている。第2金型6は、パッド6Bと、パッド6Bの両側に配置された第2金型本体部6Aを含む。第2金型6は、金型ホルダ25を介し、スライド23に取り付けられている。
図6の例では、スライド23に金型ホルダ25が固定され、金型ホルダ25に第2金型本体部6Aが固定されている。パッド6Bは、支持部材6Bcを介して金型ホルダ25に取り付けられる。スライド23は、例えば、第2プレス装置20に設けられた機械式又は油圧式機構等(図示略)により、第1金型5に対して昇降可能に構成されている。スライド23の昇降に伴い、第2金型6も第1金型5に対して昇降する。
【0081】
第1金型5は、プレス方向に凸の凸部を有する。凸部は、長手方向(y方向)に延びる。この例では、凸部の長手方向は直線状に延び、第1金型5の長手方向と同じである。なお、凸部の長手方向は、プレス方向から見て湾曲していてもよい。また、凸部の長手方向は、第1金型5の長手方向と同じでなくてもよい。第2金型6は、凸部に対応する凹部を有する。第1金型5の凸部は、頂面5aと、頂面5aの両端の一対の肩部5bと、一対の肩部5bからそれぞれ延びる側面5cとを有する。
【0082】
パッド6Bは、第1金型5の凸部の頂面5aにプレス方向において対向する位置に設けられる。第1金型5とプレス方向において対向する位置であって、且、パッド6Bの側方に、第2金型6が配置される。ここで、側方とは、凸部の長手方向及びプレス方向の両方に垂直な方向である。パッド6Bは、第2金型6に対して可動に構成される。すなわち、パッド6Bは、第2金型6とは独立してプレス方向に動くことができる。パッド6Bは、金型ホルダ25を介してスライド23に取り付けられる。パッド6Bは、第1金型5に対して昇降可能となっている。
【0083】
パッド6Bは、支持部材6Bcによって支持される。パッド6Bは、第1金型5の頂面5aに対向する押さえ面6Baを有する。押さえ面6Baは、第1金型5の頂面5aに対応する形状に形成されている。本例では、押さえ面6Ba及び頂面5aは、プレス成形品の天板の形状に対応した形状を有する。支持部材6Bcは、パッド6Bを金型ホルダ25に対して弾性的に支持する。支持部材6Bcは、例えば、ガススプリング又はコイルスプリングなどのばねや流体シリンダ等で構成される伸縮可能な弾性部材である。
【0084】
第2金型本体部6Aにおいて、第2金型6は、第1金型5の頂面5aとプレス方向に対向する頂面6a(第2頂面)、第1金型5の肩部5bとプレス方向に対向する角部6ac、第1金型5の側面5cとプレス方向に対向する側面6c(第2側面)を有する。また、第2金型6は、側面6cの両端のうち第1金型5に近い端における肩部6b(第2肩部)と、肩部6bから外側に延びる基部面6d(第2基部面)とを有する。肩部6bは、例えば、ダイ肩である。
【0085】
図6の例では、第1金型5の一対の肩部5bは、パッド6Bと第2金型本体部6Aとの境界であるパッドプロファイルPより外側に形成される。すなわち、第1金型5の頂面5aの一部とプレス方向に対向する位置にパッド6Bが設けられ、頂面5aの他の部分、肩部5b、及び側面5cに対向する位置に第2金型本体部6Aが設けられる。
【0086】
(中間成形品用の金型と、プレス成形品用の金型の対応関係)
次に、第1プレス装置10の金型と、第2プレス装置20の金型の構成の関係性の例を説明する。第1プレス装置10の第1金型3の中央面3CHの長手方向に垂直な断面の形状と、第2プレス装置20の金型の対応する断面の形状は、一定の関係を有する。
【0087】
ここで、第1プレス装置10の金型の断面と対応する第2プレス装置の金型の断面について、
図7を用いて説明する。
図7は、
図5に示す第1金型3と、
図6に示す第1金型5を、プレス方向(z方向)から見た平面図及び長手方向(y方向)から見た側面図である。
図7では、第1金型3において、下死点で中間成形品K2が配置される領域3Sが破線で示されている。第1金型5において、成形前に中間成形品K2が配置される領域5Sが破線で示されている。領域5Sは、第1金型5に配置される中間成形品K2を、第1金型5に対してプレス方向に投影した領域である。第1金型3において、領域3Sにおける中央面3CHの長手方向の一方端からの長手方向の距離y1の位置における、長手方向に垂直な断面D1について考える。この断面D1に対応する第1金型5の断面は、領域5Sにおける凸部の長手方向の対応する一方端から、長手方向に同じ距離y1だけ離れた位置の、長手方向に垂直な断面D2となる。断面D1において、中央面3CHの線上の任意の点を第1基準点O3とする。断面D2において、第1基準点O3に対応する頂面5aの線状の点が第2基準点O4となる。領域3Sの幅方向の一方端から第1基準点O3までの距離x1は、領域5Sの幅方向の一方端から第2基準点O4までの距離x1と等しい。
なお、第1プレス装置10における第1金型3に対する中間成形品K2の位置、及び、第2プレス装置20における第1金型5に対する中間成形品K2の位置は、例えば、第1金型3、第1金型5に設けられたパイロットピンPP1、PP2のような位置決め手段によって決定することができる。パイロットピンは、金型から突出し、中間成形品K2の穴を貫通する。中間成形品K2の位置決め手段は、パイロットピンに限られず、例えば、中間成形品K2の外周に接するように配置されたガイドを、位置決め手段としてもよい。
【0088】
図8は、第1プレス装置の金型と第2プレス装置の金型の構成の関係性を説明するための図である。
図8は、一例として、第1プレス装置10の第1金型3の1つの断面D1における形状と、第2プレス装置20の第1金型5の対応する断面D2における形状を示す。
【0089】
図8(a)に示すように、中間成形品を生成するための第1金型3において、第1基準点O3から大R面3LRの内側R止まり3Aまでの金型表面に沿った線L_A10の長さが線長10Aとなる。線長10Cは、第1基準点O3と大R面3LRの外側R止まり3Cの間の金型表面に沿った線の長さである。線長10Bは、第1基準点O3と大R面3LRの中点3B間の金型表面に沿った線の長さである。大R面3LRの中点3Bは、大R面3LRの内側R止まり3Aと外側R止まり3Cの間の金型表面に沿った線上の中点である。金型表面に沿った線上において、中点3Bから大R面3LRの内側R止まり3Aまでの距離と、中点3Bから大R面3LRの外側R止まり3Cまでの距離は等しい。線長10Dは、第1基準点O3と小R面3SRの内側R止まり3Dの間の金型表面に沿った線の長さである。
【0090】
図8(b)に示すように、プレス成形品を生成するための第1金型5において、第2基準点O4から肩部5bの内側R止まり2aまでの金型表面に沿った線L_20Aの長さが線長20Aとなる。線長20Cは、第2基準点O4から肩部5bの外側R止まり2cまでの金型表面に沿った線の長さである。線長20Bは、第2基準点O4と肩部5bの中点2b間の金型表面に沿った線の長さである。肩部5bの中点2bは、肩部5bの内側R止まり2aと外側R止まり2cの間の金型表面に沿った線上の中点である。金型表面に沿った線上において、中点2bと肩部5bの内側R止まり2aとの距離と、中点2bと肩部5bの外側R止まり2cとの距離は等しい。線長20Dは、第2基準点O4と側面5cの点2dとの間の線長である。点2dは、側面5cにおける肩部5bから金型表面の線に沿って距離(20C-20A)だけ離れた点である。距離(20C-20A)は、肩部5bの線長と同じである。線長20Eは、第2基準点O4と側面5cの中点2e間の金型表面に沿った線の長さである。
【0091】
図4を参照して示した上記の中間成形品K2とプレス成形品用の第1金型5との位置関係は、第1金型3と第1金型5との構成の関係に対応する。そのため、上記の成形中に大R部LRの肩部5bへのなつきをよくし、小R部の曲げ戻しと組み合わせてスプリングバックを低減させる効果を高める観点から、中間成形品K2と第1金型5との好ましい位置関係を基に、第1金型3と第1金型5との構成を設計することができる。
【0092】
中間成形品用の第1金型3の断面D1における線長10F、10A、10Cと、プレス成形品用の第1金型5の対応する断面D2における線長20C、20Aは、
20C<10F、10A<20C、20A<10C
の関係を有することが好ましい。この関係は、上記の配置工程における中間成形品K2と第1金型5との位置関係の条件、2C<1F、1A<2C、2A<1Cに対応する。
【0093】
中間成形品用の第1金型3の断面D1における線長10E、10Bと、第1金型5の対応する断面D2における線長20C、20Aは、
20C<10E、20A<10B<20C
の関係を有することが好ましい。この関係は、上記の配置工程における中間成形品Kと第1金型5との位置関係の条件、2C<1E、2A<1B<2Cに対応する。
【0094】
中間成形品用の第1金型3の断面D1における線長10Dと、第1金型5の対応する断面D2における線長20Cは、
20C<10D
の関係を有することが好ましい。この関係は、上記の配置工程における中間成形品Kと第1金型5との位置関係の条件、2C<1Dに対応する。
【0095】
中間成形品用の第1金型3の断面D1における線長10Dと、第1金型5の対応する断面D2における線長20Dは、
10D<20D(=20C+(20C-20A))
の関係を有することが好ましい。この関係は、上記の配置工程における中間成形品Kと第1金型5との位置関係の条件、1D<2C+(2C-2A)に対応する。
【0096】
中間成形品用の第1金型3の断面D1における線長10Dと、第1金型5の対応する断面D2における線長20Eは、
10D<20E
の関係を有することが好ましい。この関係は、上記の配置工程における中間成形品Kと第1金型5との位置関係の条件、1D<(金型基準点O2から側面5cの中点までの金型表面に沿った線の線長)に対応する。
【0097】
(延在部の構成例)
図1(e)に示す第2プレス装置20における配置工程では、中間成形品K2の延在部ENが、小R部SRから外側へ向かってプレス方向に垂直な方向又は第1金型5側に斜めに伸びるように、中間成形品K2が配置される。この場合、第1プレス装置10により、中間成形品K2は、延在部ENがプレス方向において、小R部SRよりも第2金型4側へ突出しない形状に成形される。これにより、第1プレス装置10の成形深さの増加を抑えることができる。また、小R部SRの断面における円弧長を長くすることができる。小R部SRの円弧長を長くすることで、曲げ戻しによる壁閉じモーメントが増加し、寸法精度がさらに良くなる。
【0098】
図9(a)は、第1金型3を用いて形成される中間成形品K2の構成例を示す図である。
図9(a)に示す例では、延在部ENは、小R部SRより、プレス方向(上下方向)において突出しないように形成される。すなわち、中間成形品K2の小R部SRより外側におけるプレス方向の最深点ENaの、大R部LRの内側R止まりを基準としたプレス方向の深さF1は、小R部SRの大R部LRの内側R止まりを基準としたプレス方向の高さHの関係は、-F1≦Hとなる。ここで、F1の値は、プレス方向において、大R部の凸の方向を正(+)、小R部の凸の方向を負(-)とする。延在部ENの傾斜は、特に限定されないが、成形深さを抑える観点から、大きすぎないことが好ましい。すなわち、第1金型3の延在面3ENの傾斜は、成形深さを抑える観点から、大きすぎないことが好ましい。例えば、中間成形品K2の小R部SRより外側におけるプレス方向最深点ENaの深さF1は、小R部SRの高さHの2倍以下(F1≦2×H)であることが好ましい。また、同様の観点から、例えば、中間成形品K2の小R部SRの外側の最深点ENaは、プレス方向において中央部CHより深くならないことが好ましい。
図9(a)の例では、延在部ENの外側端が、小R部SRの外側のプレス方向の最深点となっている。
【0099】
図9(b)は、第1金型3を用いて形成される中間成形品K2の変形例を示す図である。
図9(b)の中間成形品K2は、延在部ENの外側端から湾曲するフランジR部FRRと、フランジR部FRRから延びるフランジFRとを有する。このために、第1金型3は、延在面3ENの外側に、フランジ面3FRを有する。フランジ面3FRは、延在面3ENの外側端から第2金型4側へ延びる。
図9(b)の例では、フランジR部FRRが中間成形品K2のプレス方向における最深点となっている。この場合も、-F1≦Hとなることが好ましく、さらにF1≦2×Hとなることがより好ましい。
【0100】
(小R面の高さ)
図9(a)及び(b)に示すように、中間成形品の小R部SRの高さは、中央部CHの深さF2の深さ以上(H≧F2)であることが好ましい。中央部CHの深さF2は、大R部の内側R止まりを基準とした中央部Cの最深点の深さである。F2の値は、プレス方向において、大R部の凸の方向を正(+)、小R部の凸の方向を負(-)とする。高さHを大きくし、延在部ENを傾斜させることで、小R部SRの円弧長が長くできる。小R部SRの円弧長を長くすることで、壁開き抑制効果を強くできる。H≧F2とすることで、小R部SRの円弧長を長くでき、より適切な壁開きモーメントを発生させることができる。なお、高さH及び深さF2は、大R面3LRの内側R止まりを基準とするプレス方向の距離である。
【0101】
また、H≧F2に加えて、中間成形品の小R部SRの高さHは、下記の式も満たすことが好ましい。
H≧0.13×R_L+0.13×R_S
Hを大きくして、小R部SRの円弧長をある程度長くでき、より適切な壁開きモーメントを発生させることができる。
【0102】
寸法精度の観点からは、延在部ENを第1金型5側に斜めに伸ばしたり、延在部ENのプレス方向の高さHを大きくしたりして、小R部SRの円弧長を長くすることが望ましい。一方、製造コスト(中間成形品の金型コスト)を抑制する観点からは、成形深さを抑えることが望ましい。本実施形態のように、両者が成立しうるのは、大R部LRがあるためである。大R部LRがあることで、小R部SRが第2金型4側に突出するために、小R部SRの円弧長を長くしつつ成形深さを押さえることができる。なお、中間成形品におけるH、F1、F2の寸法は、中間成形品の板の両面のうち、大R部の曲げ外側(曲率半径の径方向外側)の面を基準とする。
【0103】
(中間成形品の変形例)
図10は、中間成形品K2を生成するための第1金型3の変形例を示す図である。
図10に示す例では、第1金型3において、大R面3LRと小R面3SRの間に、平坦面3FLが設けられる。これにより、中間成形品K2において、大R部LRと小R部SRの間に、湾曲していない平坦部が形成される。このように、大R部LRと小R部SRは連続的につながっていてもよいし、大R部LRと小R部SRの間に平坦部が設けられてもよい。平坦部を設けることにより、例えば、大R部LR及び小R部SRの位置を調整することができる。
【0104】
図11は、第1金型3の他の変形例を示す図である。
図11に示す例では、大R面3LRの外側に、複数の小R面3SRが形成される。複数の小R面3SRの間には平坦面3FLが設けられる。この場合、中間成形品K2は、大R部LRの外側に、複数の小R部SRを有する形状となる。このように、中間成形品K2の中央部CHの両側のうち少なくとも一方において、小R部SRを複数設けることで、壁閉じモーメントの効果を増すことができる。但し、小R部SRが、大R部LRから離れると、プレス成形による第1金型5の肩部5bによる曲げ部から小R部SRの曲げ戻し部分が離れる。そのため、小R部SRが大R部LRから離れるに従って、小R部SRが壁閉じモーメントの効果が小さくなる。壁閉じモーメント効果を効率よく得るためには、大R部LRの外側の小R部SRの数をある程度の数に制限することが好ましい。これに限られないが、例えば、大R部LRの外側の小R部SRの数を4個以下とすることが好ましい。
【0105】
なお、大R部LRの数も、中央部CHの両側に1つずつの2つである場合に限られない。なお、大R部によるなじみをよく効果と元の形状に戻ろうとする効果のバランスを考慮すると、大R部LRは、中央部CHの両側に1つずつ、計2箇所に設けられることが好ましい。
【0106】
大R部の外側に小R部が複数設けられた場合、上記の小R部の高さHは、最も高い位置にある小R部の高さとする。大R部の外側の複数の小R部のうち最も内側にある少なくとも1つの小R部の少なくとも一部がプレス工程で曲げ戻される。上記の小R部の線長1D~1F、10D~10Fに関する条件及びその他の上記の小R部がプレス成形で曲げ戻されるための条件は、複数の小R部(又は小R面)のうち最も内側にある小R部(又は小R面)について適用する。また、中央部の外側に大R部が複数設けられた場合、上記の大R部の線長1A~1C、10A~10Cに関する条件及びその他の上記の大R部がプレス成形で第1金型の肩部に沿って曲げられるための条件は、中央部CH(又は中央面)の両側のそれぞれにおいて、最も外側にある大R部(又は大R面)について適用する。中央部の外側の複数の大R部のうち少なくとも最も外側にある大R部の少なくとも一部が、プレス工程で、第1金型の肩部に沿って曲げられる。
【0107】
図12は、中間成形品K2の他の変形例を説明するための図である。
図12(a)は、第1プレス装置10に板材を配置する工程を示す。
図12(b)は、第1プレス装置10によるプレス成形の下死点を示す。
図12(c)は、中間成形品K2を第2プレス装置20に配置し、パッド6Bと第1金型5で挟持した状態を示す。
図12(b)に示すように、第1プレス装置10で生成される中間成形品K2は、延在部ENの外側端から湾曲するフランジR部と、フランジR部から延びるフランジとを有する。フランジR部は、大R部LRと同じ方向に凸に湾曲する。
【0108】
そのため、
図12(a)に示すように、第1プレス装置10の第1金型3は、中央面3CH、大R面3LR、小R面3SR、延在面3ENに加えて、フランジ面3FRを有する。フランジ面3FRは、延在面3ENの外側端からフランジ角部を介して第2金型4側へ延びる。
【0109】
図12(c)に示すように第2プレス装置20では、中間成形品K2のフランジが延在部ENの外側端から第2金型6へ向かう方向へ延びる状態で、中間成形品K2が配置される。
【0110】
図12に示すように、中間成形品K2にフランジFRを形成することで、例えば、第2プレス装置20によるプレス成形の途中で中間成形品の端部が第1金型5への接触することを避けることができる。これにより、接触による応力が生じて寸法精度が低下することが避けられる。なお、
図12に示す例では、延在面3ENが水平面に対して傾斜している。そのため、延在部ENが水平面に対して傾斜するように形成される。このように、延在部ENを傾斜させることで、プレス方向においてフランジFRを小R部SRより第2金型4側へ突出しないようにできる。これにより、フランジFRによる成形深さの増加を防ぐことができる。
図12(a)では、ブランクを第1金型3のフランジ面3FRの外側で支持している。この変形例として、第1金型3において、小R面3SRのプレス方向の最高点のプレス方向の高さLv1と、フランジ面3FRの外側のプレス方向の最高点の高さLv2を同じにしてもよい。この場合、第1金型3は、成形前のブランクを、一対の小R面3SR及びフランジ面3FRの外側で支持できる。そのため、ブランクが安定して支えられる。
【0111】
図13は、中間成形品K2の他の変形例を説明するための図である。
図13(a)は、中間成形品K2にフランジを形成しない場合のプレス成形の途中を示す。
図13(b)は、中間成形品K2にフランジを形成した場合のプレス成形の途中を示す。
図13(a)に示すように、中間成形品K2にフランジを形成しない場合は、その分、延在部ENの延在方向の寸法が長くなる。そのため、例えば、
図13(a)に示すように、成形中に延在部ENが第2金型6に押されると、延在部ENの先端部が第1金型5に接触する場合がある(破線部A1参照)。このように、先端部が第1金型5に接した状態で、さらに中間成形品K2が第2金型6に押されると、延在部ENに相当する部分がたわむ(破線部A2参照)。これにより、余計な応力が生じて、寸法精度が低下する場合がある。
【0112】
図13(b)に示すように、中間成形品K2に、延在部ENの外側端から第2金型6の方へ延びるフランジを形成することで、下死点直前まで、中間成形品K2の先端部を第1金型5に接触させないようにすることができる(破線部A3参照)。これにより、中間成形品K2の先端部の接触による寸法精度の低下が避けられる。
【0113】
なお、第1プレス装置10のプレス成形で、中間成形品K2のフランジFR及びフランジR部FRRを、プレス成形品K3のフランジ及びフランジ湾曲部の目標形状に形成することができる。すなわち、中間成形品K2のフランジR部とフランジは、中間成形品K2をプレス成形品K3にプレス成形した際に、下死点でプレス成形品K3のフランジR部とフランジに位置するようにしておくことが望ましい。これにより、第2プレス装置20のプレス成形中に、中間成形品K2で形成したフランジR部とフランジに余計な変形や応力を生じて、寸法精度が低下することを防ぐことができる。
【0114】
(プレス装置、プレス工程の変形例)
図14は、第1プレス装置10の変形例を示す図である。
図14(a)に示す例では、第1プレス装置10の第1金型3が、ホルダ部3aと本体部3bに分割されている。ホルダ部3aのプレス方向に垂直な方向(側方)の両側に一対の本体部3bが配置される。ホルダ部3aと本体部3bは、互いに独立してプレス方向に可動に構成される。ホルダ部3aと第2金型4で板材K1を挟持した状態で、第2金型4と本体部3bを相対的に近づけることで、板材K1がプレス成形される。このように、ホルダ部3aで保持しながら成形することで、成形中に板材K1がずれにくくなる。
【0115】
例えば、中間成形品K2にフランジFRを形成する場合、フランジを形成しない場合に比べて第1プレス装置10の成形深さが深くなる場合がある。成形深さが深い場合に、一体的に成形面が形成された第1金型及び第2金型を用いてプレス成形(スタンピング成形)をすると、成形中に板材がずれる可能性が高くなる。そのため、フランジを形成する場合等、成形深さが深くなる場合に、ホルダ部を用いたプレス成形の効果がより発揮される。
【0116】
図14(a)に示す例では、本体部3bは、ベッド13に固定される。ホルダ部3aは、動力機構16によりプレス方向に可動に支持される。動力機構16は、例えば、クッション等のプレス装置10が備える動力機構であってもよい。動力機構16は、例えば、油圧式又は機械式機構であってもよい。或いは、ホルダ部3aは、第1金型3を保持する金型ホルダ(図示略)に設けられる支持部材により、金型ホルダ(図示略)又は本体部3bに対して可動に支持されてもよい。支持部材は、例えば、ガススプリング又はコイルスプリングなどのばねや流体シリンダ等で構成される伸縮可能な弾性部材であってもよい。金型ホルダは、ベッド13に固定される。なお、動力機構16として、プレス装置10が備える動力機構を用いることで、金型ホルダに支持部材を配置する場合に比べて金型コストが低減できる。
【0117】
図14(a)に示す例では、第1プレス装置10の第1金型3をホルダ部3aと本体部3bに分割する構成であるが、第2金型4がホルダ部と本体部に分割されてもよい。このように、第1プレス装置10は、第1金型3又は第2金型4の少なくとも一方にホルダ部を含む構成としてもよい。
【0118】
図14(b)は、
図14(a)に示すプレス装置10の下死点の状態を示す。
図14(b)に示すように、第1金型3は、下死点で、中間成形品K2の中央部、一対の大R部、一対の小R部、一対の延在部、及びフランジにそれぞれ接する中央面3CH、一対の大R面3LR、一対の小R面3SR、一対の延在面3EN、及び、一対のフランジ面3FRを有する。この例では、本体部3bにフランジ面3FRが設けられ、ホルダ部3aに、中央面3CH、大R面3LR、小R面3SR、及び、延在面3ENの一部が設けられる。フランジ面3FRをホルダ部3a又は本体部3bのいずれか一方に設け、中央面3CHを、他方に設けることで、成形中のずれを効率よく抑制できる。
【0119】
図15は、
図14に示す第1プレス装置10のさらなる変形例を示す図である。
図15に示す例では、ホルダ部3aと本体部3bの境界の位置が
図14とは異なる。
図14の例では、フランジ面3FRと延在面3ENとの間が、ホルダ部3aと本体部3bの境界である。これに対して、
図15の例では、中央面3CHと大R面3LRの間が、ホルダ部3aと本体部3bの境界となっている。この場合、第1金型3のホルダ部3aの中央面3CHと第2金型4で板材K1を挟持した状態で、本体部3bと第2金型4を相対的に近づけて、プレス成形することができる。
【0120】
図16は、第2プレス装置20の変形例を示す図である。
図16の例では、第1金型5は、凸部の両側の側面5cの外側端からプレス方向に垂直な方向に延びる基部面5dを有する。基部面5dには、掘り込み5eが設けられる。この掘り込み5eにより、第2プレス装置20のプレス成形において、中間成形品K2の端が基部面5dと接触するのを避けることができる。
【0121】
図17は、第2プレス装置20の他の変形例を示す図である。
図17の例では、第2金型6は、第1金型5の基部面5dに対向する基部面6d(第2基部面)を有する。基部面6dには、掘り込み6eが設けられる。この掘り込み6eにより、第2プレス装置20のプレス成形において、中間成形品K2の端(例えば、フランジFR)が基部面6dと接触するのを避けることができる。また、この例では、フランジFRの高さ分、パッド6Bの初期位置における押さえ面6Baと第2金型6の基部面6dとのプレス方向の距離を小さくすることができる。これにより、支持部材6Bcである弾性部材や第2金型6のサイズを小さくすることができる。
【0122】
図18は、第2プレス装置20の他の変形例を示す図である。
図18は、第2プレス装置20の下死点の状態を示す。
図18の例では、第2金型6は、第1金型5の側面5cとプレス方向において対向する側面6cと、基部面5dに対向する基部面6dとを有する。基部面6dと側面6cの間に肩部6bが形成される。基部面6dは、下死点においてプレス成形品K3に接触しないよう基部面5dからプレス方向の第2金型側に離れた位置に形成される。第2金型6の肩部6b及び基部面5dが、下死点において、基部面5dに対して離間する離間部となる。これにより、下死点で、第2金型6の肩部6b及び基部面6dと、プレス成形品K3の間に空間B1が生じる。すなわち、第2金型6の肩部6b及び基部面5dは、成形過程で、中間成形品K2を押さない。
【0123】
例えば、第1プレス装置10のプレス成形で、中間成形品K2のフランジFR及びフランジR部FRRを、プレス成形品K3のフランジ及びフランジ湾曲部の目標形状に形成することができる。この場合、第2プレス装置20では、フランジ及びフランジ湾曲部を成形する必要がない。この場合、下死点における第2金型6の肩部6b及び基部面6dを、第1金型に対してプレス方向に離間させてもよい。もし、第2プレス装置20で、肩部6b及び基部面6dを離間させず、下死点で、第2金型6と第1金型で、フランジを挟持すると、2度押しとなり、余計な変形が生じて寸法精度が低下する可能性がある。そこで、第2金型6の肩部6b及び基部面6dを離間部とすることで、フランジR部FRR及びフランジFRは、第2プレス装置20のプレス工程で挟持しないようにすることができる。これにより、第2プレス装置20における成形荷重が低減する。さらに、第2金型6のサイズが小さくなるので、金型コストを低減できる。
【0124】
本実施形態におけるプレス成形品の製造方法、及び、製造設備は、例えば、自動車部品の製造に用いることができる。自動車部品は、これらに限られないが、例えば、サイドシル、バンパー、フロアサイドメンバー、ピラー、フロアトンネル、リアサイドメンバーなどである。これらの部品は、一例として、引張強さが590MPa以上1900MPa以下である。板厚は0.8mm以上2.3mm以下である。ここでの引張強さは、部材の天板の平坦な面から引張試験片を切り出して引っ張った時の値である。サイズの制約などで引張試験片を切り出せない場合は、硬度でも代用できる。一例として、荷重1kgのビッカース硬度は200Hv以上600Hv以下である。自動車部品では、衝突特性や剛性の向上のため、天板上に溝や段差が設けられることが多い。
本実施形態におけるプレス成形品は、
図1~
図18のようにフランジやフランジRのある成形品だが、フランジやフランジRのない成形品でもよい。例えば、自動車部品では、(サイドシル、バンパー、フロアサイドメンバー、ピラー、フロアトンネル、又はリアサイドメンバー)の補強部品、ロアアームやアッパーアームなどのアーム部品、サスペンションメンバー、若しくは、ラダーフレームのフレーム部品などが挙げられる。補強部品は、一例として、引張強さが590MPa以上1900MPa以下である。補強部品の板厚は、例えば、0.8mm以上2.3mm以下である。アーム部品、サスペンションメンバー、及び、フレーム部品は、一例として、引張強さが590MPa以上1400MPa以下であり、板厚は、例えば、1.8mm以上4.0mm以下である。
【0125】
なお、
図1~
図18では、中間成形品K2及びプレス成形品K3の断面形状が、左右対称である場合を例示しているが、左右非対称のプレス成形品の製造にも本発明を適用することが出来る。
【0126】
中間成形品K2の中央部CH及びプレス成形品K3の天板は、平坦でもいいし、形状がついていてもよい。例えば、形状がある場合は、中央部又は天板の面は、平坦な面と、凸面又は凹面の少なくとも一方とを含んでもよい。
図1~
図18では凹面を含む中央部又は天板が図示されている。なお、中央部又は天板の長手方向に沿って、中央部又は天板の形状が凸部から凹部に変わっていてもよい。また、凹面又は凸面の例として、段差が設けられてもよい。
【0127】
以上、本実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限られない。例えば、上記実施形態では、第2プレス装置20は、パッド6Bと、その両側の一対の第2金型本体部6Aを有する。これに対して、第2プレス装置20は、パッド6Bを備えない構成であってもよい。例えば、第2プレス装置20の第2金型6は、成形面が一体的に形成された一体型の金型で構成されてもよい。
【0128】
第2プレス装置20で生成されるプレス成形品K3は、上記の例に限られない。プレス成形品K3は、断面がハット型、又は、U字型を有する部材とすることができる。なお、プレス成形品K3の天板は、溝や段差形状などの形状を有してもよいし、平らであってもよい。プレス成形品K3は、断面が形状を保ったまま、長手方向に直線的に伸びた形状でもいいし、湾曲した形状でもよい。また、プレス成形品K3は、長手方向の位置によって断面が異なる部材でもよい。上記例では、プレス成形品K3の縦壁の断面形状は直線であるが、縦壁の断面形状は、湾曲部を含んでもよい。すなわち、第2プレス装置20の第1金型5の凸部の側面5cの断面形状は、湾曲部を含んでもよい。この場合、縦壁及び側面5cの湾曲部の曲率半径R_Cは、小R部SRの曲率半径R_Sよりも十分に大きく、例えば、曲率半径の差が中間成形品の板厚tより大きい(R_S+t<R_C)、又は、倍率が50倍以上(50×R_S≦R_C)とすることができる。この場合、側面5cの湾曲部が小R部の曲げ戻しの妨げになりにくい。
【0129】
上記例では、第2プレス装置20において、第1金型5が固定され、第2金型6がプレス方向に可動である。これに対して、第1金型5が可動で、第2金型6が固定されてもよい。又は、第1金型5及び第2金型6の両方が可動であってもよい。いずれの場合も、プレス工程において、第1金型5と第2金型6を相対的に近づけることができる。なお、第1プレス装置10においても、第1金型3及び第2金型4のいずれか一方を固定、他方を可動としてもよいし、両方を可動にしてもよい。
【0130】
第1プレス装置10による中間成形品のプレス工程、及び、第2プレス装置20による成形品のプレス工程それぞれの前後に、他のプレス工程又は他の加工工程があってもよい。例えば、第2プレス装置20のプレス工程の後に、成形品に穴を空けたり、成形品の不要な部分をトリムしたり、成形品の一部(例えば、フランジ)を曲げたりしてもよい。
【0131】
第1金型の凸部の肩部のR止まりは、上記の通り、凸部の長手方向に垂直な断面における肩部の湾曲部と、その外側の平坦部(直線部)又は逆方向への湾曲部との境界である。また、例えば、断面において、肩部に隣接する頂面又は側面が肩部と同じ方向にわずかに湾曲している場合もあり得る。この場合、肩部の湾曲度合いに比べて、隣接する頂面又は側面の湾曲度合いが十分小さい。この場合、断面において、湾曲の度合いが変化する点を、肩部と隣接する頂面又は側面との境界すなわち肩部のR止まりとする。この場合、肩部と隣接する側面又は頂面の曲率半径は、肩部の曲率半径より大きく、例えば、50倍以上となる。なお、頂面又は側面の湾曲部の曲率半径は、肩部と同様に、凸部の長手方向に垂直な断面において、湾曲部の両端のR止まりとその間の中点の3点を通る円の半径とする。側面の湾曲部の肩部と反対側のR止まりは、上記肩部のR止まりと同様に、側面の湾曲部と、その外側の平坦部(直線部)又は逆方向への湾曲部との境界とする。肩部に隣接する基部面が、側面の湾曲部と同じ方向に湾曲している場合も、上記と同様に、湾曲の度合いが変化する点をR止まりとする。
【0132】
(実施例)
図19に示す断面を有するプレス成形品K3を成形するCAE解析を行った。CAE解析には、汎用の有限要素法解析ソフトのLS-DYNA ver971 rev9.31を用いた。CAE解析として、成形解析及びスプリングバック解析を行った。解析に用いた素材の条件として、引張強さが1280MPa、0.2%耐力が850MPa、板厚が1.6mmの鋼板を用いた。解析にはSwiftの式:σ=K(ε+ε0)^n(σ:相当応力、ε:相当塑性ひずみ、K=1607MPa、ε0=0.0002、n=0.078)として取り込んだ。
【0133】
また、解析条件として、素材のメッシュサイズは1.6mm角、要素にはシェル低減積分要素、積分点数は9点とした。素材と金型の摩擦係数は0.15mmとした。
【0134】
比較例工法と、実施例工法の2つの工法で
図19に示すフランジ部を有するプレス成形品の解析を行った。比較例工法は、平板を、パッドで押さえた状態でプレスすることで
図19に示す形状に成形するパッド曲げ工法とした。
図20は、比較例工法のパッド曲げを示す。実施例工法は、鋼板をプレスして中間成形品K2を成形する第1プレス工程と、中間成形品K2をプレスして
図19に示す形状に成形する第2プレス工程とを含む。第1プレス工程はパッドやホルダを用いないスタンピング成形とした。第2プレス工程には、パッド曲げ成形を用いた。パッドの条件はパッド圧を150kN、パッドストロークを40mmとした。
図21は、実施例工法の第2プレス工程における、中間成形品モデルKM2と、第1金型モデル5Mの一例を示す。中間成形品は、
図9(a)に示したフランジがない形状、及び
図9(b)に示したフランジがある形状の両方のモデルを用いた。中間成形品のHは7.5mmとし、F2=2mmとした。第1金型モデル5Mは、上記の第1金型5に対応する構成である。
【0135】
実施例及び比較例として、中間成形品K2の形状及び第1金型との位置関係が異なる条件で、複数通りの解析を行った。下記表1は、第1金型に対する中間成形品の位置関係の条件を示す。表1において、線長1A~1D及び線長2A~2Eは、上記の
図4に示す線長と同様である。実施例として、P1のみ満たす場合、P1及びP2のみを満たす場合、P1~P3のみを満たす場合、及び、P1~P5の全てを満たす場合について、解析を行った。
【0136】
【0137】
1つ目の評価項目を、
図22に示すスプリングバック解析後の形状における壁開き角θとした。壁開き角θは、解析結果の縦壁と目標形状の縦壁との間の角度とした。角度の値として、プラスの値は、壁開きの角度を示し、マイナス値は、壁閉じの角度を示す。壁開き角θは下記表2に記載示すグレードA~Gで判定した。Gは比較例と同じ、Fは効果がほとんどなく、A~Eは効果があるとした。
【0138】
【0139】
2つ目の評価項目を、
図23に示すパッド浮き量d(mm)とした。パッド浮き量は、成形中のパッドの浮き量である。また、パッド浮き量dは下記表3に示すグレードX~Zで判定した。Zは比較例と同じ、Yは効果がほとんどなく、Xは効果があるとした。
【0140】
【0141】
【0142】
上記表4において、比較例1は、比較例工法の解析結果である。実施例1、及び比較例2、3は、実施例工法の解析結果である。比較例2では、中間成形品において、大R部の曲率半径を小R部の曲率半径より小さい(R_S>R_L)条件とした。比較例3では、第2プレス工程において、大R部の全体が第1金型の凸部の肩部の外側の側面に接する条件(2C<1A)とした。
比較例1における壁開き角θは13.4°となり、評価はGであった。
実施例1では比較例1よりθが小さく、評価はBとなり、改善効果があった。
比較例2ではθの評価はFとなり、改善効果がほとんどなかった。
比較例3ではθの評価はFなり、改善効果がほとんどなかった。
比較例1の成形中のパッド浮き量dは、2.6mmとなり、評価はZであった。これに対して、実施例1は、0.1mm未満(評価:X)となり、大きな改善効果がみられた。
【0143】
【0144】
表5の実施例1は表4の実施例1と同じ条件である。実施例201は実施例1とは中間成形品の天板の形状のみ異なる。実施例201では、中間成形品の天板の形状を平坦とした。実施例1の中間成形品の天板の形状はプレス成形品と同じ形状とした。実施例1は、実施例201に比べて、壁開き角θ及びパッドの浮き量の双方で評価は高くなった。
【0145】
【0146】
比較例と実施例1は表4の実施例1と同じ条件である。実施例301~309は比較例1よりθの評価が良好であった。
【0147】
実施例301は、F1=-7.5mmとして延在部を水平にした条件の解析である。F1=4mmとして延在部を傾斜させた条件の実施例301に比べて、F1=4mmとして延在部を傾斜させた実施例1の方が、θの評価が良かった。
【0148】
実施例302は実施例1から、5≦R_S≦18の範囲で、中間成形品のR_SおよびR_Lをそれぞれ大きくした条件である。実施例302では、θの評価はBとなり、実施例1と同様の改善効果が得られた。
【0149】
実施例303は、実施例1から、5≦R_S≦18の範囲外で、中間成形品のR_SおよびR_Lをそれぞれ大きくした条件である。実施例303では、θの評価Eであり、5≦R_S≦18の範囲内である実施例1の方が、実施例303よりθの評価が高かった。
【0150】
実施例304は実施例1から中間成形品の大R部の外側の小R部の個数を1個から2個に増やした条件である。実施例304のθの評価はAであり、実施例1より良好であった。表6に示す小R部の条件は、大R部の外側の2つの小R部のうち内側の小R部の条件である。
【0151】
実施例305は実施例1から中間成形品にフランジを設けた条件である。実施例305の、θの評価はAであり、実施例1より良好であった。
【0152】
実施例306~308は実施例1から中間成形品の大R部と小R部の位置関係を変化させた条件である。位置関係の条件を、P1からP1~P5へと条件を増やすほど、θの評価は良化した。
【0153】
R_Sが4mmとなる実施例309ではθの評価はBであり、実施例1と同様の改善効果はあった。実施例309では、小Rが小さかったため小Rの痕が残った。
【0154】
実施例301~309の成形中のパッド浮き量dはいずれも0.1mm未満(評価:X)となり、大きな改善効果がみられた。
【0155】
以上、本発明の一実施形態を説明したが、上述した実施形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施形態を適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0156】
3 中間成形用第1金型
4 中間成形用第2金型
5 第1金型
6 第2金型
10 第1プレス装置
20 第2プレス装置
K1 板材
K2 中間成形品
K3 プレス成形品
CH 中央部
LR 大R部
SR 小R部
EN 延在部