(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039250
(43)【公開日】2024-03-22
(54)【発明の名称】平衡訓練支援装置、平衡訓練支援プログラム、及び平衡訓練支援システム
(51)【国際特許分類】
A61H 99/00 20060101AFI20240314BHJP
G06T 19/00 20110101ALI20240314BHJP
A63G 31/16 20060101ALN20240314BHJP
A63B 69/00 20060101ALN20240314BHJP
【FI】
A61H99/00
G06T19/00 300B
A63G31/16
A63B69/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022143659
(22)【出願日】2022-09-09
(71)【出願人】
【識別番号】508048850
【氏名又は名称】坂田 英明
(74)【代理人】
【識別番号】100180275
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 倫太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100161861
【弁理士】
【氏名又は名称】若林 裕介
(74)【代理人】
【識別番号】100194836
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 優一
(72)【発明者】
【氏名】坂田 英明
【テーマコード(参考)】
4C046
5B050
【Fターム(参考)】
4C046AA29
4C046AA33
4C046AA45
4C046AA50
4C046BB10
4C046BB19
4C046DD36
4C046DD41
4C046EE02
4C046EE04
4C046EE23
4C046EE24
4C046EE25
4C046EE32
4C046EE33
4C046EE37
4C046FF23
5B050BA09
5B050BA11
5B050CA07
5B050EA07
5B050EA12
5B050EA27
5B050FA06
(57)【要約】
【課題】 仮想現実の技術を用いた平衡訓練を効果的に行うことができる平衡訓練支援装置を提供する。
【解決手段】 本発明は、仮想現実の映像を表示可能なヘッドマウントディスプレイを介してユーザに仮想現実を利用した平衡訓練を提供する平衡訓練支援装置であって、ユーザに提供する仮想現実を決定する仮想現実決定手段と、視覚起因性のめまいを誘発させる仮想現実の映像を保持する仮想現実映像保持手段と、前記仮想現実決定手段で決定された仮想現実の映像を前記仮想現実映像保持手段から取得して、ユーザが装着する前記ヘッドマウントディスプレイに提供する仮想現実映像提供手段と、前記仮想現実映像提供手段で提供する仮想現実の映像の再生速度を制御する再生速度制御手段とを有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
仮想現実の映像を表示可能なヘッドマウントディスプレイを介してユーザに仮想現実を利用した平衡訓練を提供する平衡訓練支援装置であって、
ユーザに提供する仮想現実を決定する仮想現実決定手段と、
視覚起因性のめまいを誘発させる仮想現実の映像を保持する仮想現実映像保持手段と、
前記仮想現実決定手段で決定された仮想現実の映像を前記仮想現実映像保持手段から取得して、ユーザが装着する前記ヘッドマウントディスプレイに提供する仮想現実映像提供手段と、
前記仮想現実映像提供手段で提供する仮想現実の映像の再生速度を制御する再生速度制御手段と
を有することを特徴とする平衡訓練支援装置。
【請求項2】
前記仮想現実映像保持手段が保持する仮想現実の映像は、レール上をユーザが搭乗した乗物が走行するジェットコースターの映像であることを特徴とする請求項1に記載の平衡訓練支援装置。
【請求項3】
前記ジェットコースターの映像のコースレイアウトには、上下左右にカーブする区間、及びスクリュー状に回転する区間を含むことを特徴とする請求項2に記載の平衡訓練支援装置。
【請求項4】
仮想現実の映像を表示可能なヘッドマウントディスプレイを介してユーザに仮想現実を利用した平衡訓練を提供する平衡訓練支援装置に搭載されるコンピュータを、
ユーザに提供する仮想現実を決定する仮想現実決定手段と、
視覚起因性のめまいを誘発させる仮想現実の映像を保持する仮想現実映像保持手段と、
前記仮想現実決定手段で決定された仮想現実の映像を前記仮想現実映像保持手段から取得して、ユーザが装着する前記ヘッドマウントディスプレイに提供する仮想現実映像提供手段と、
前記仮想現実映像提供手段で提供する仮想現実の映像の再生速度を制御する再生速度制御手段と
して機能させることを特徴とする平衡訓練支援プログラム。
【請求項5】
仮想現実の映像を表示可能なヘッドマウントディスプレイと、前記ヘッドマウントディスプレイを介してユーザに仮想現実を利用した平衡訓練を提供する平衡訓練支援装置を有する平衡訓練支援システムであって、
前記平衡訓練支援装置は、請求項1~3のいずれかに記載の平衡訓練支援装置であることを特徴とする平衡訓練支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平衡訓練支援装置、平衡訓練支援プログラム、及び平衡訓練支援システムに関し、例えば、めまい症患者の平衡感覚を訓練するシステムに適用し得る。
【背景技術】
【0002】
近年、めまいに悩む人が増加している。めまいとは、例えば、非特許文献1によれば、「自分ないしは周囲のものが運動していないのに、運動しているように感ずる錯覚、ないしは異常感覚」であり、「空間(見当)識の破綻した状態」と定義されている。
【0003】
めまいは、社会や時代を背景として現代病の側面が色濃く、体質的な要因のほか、ストレスや加齢、生活習慣、騒音、薬物等のいずれも引き金と成り得るものである。めまいの原因としては、大別すると、脳由来のものと、内耳由来のものがある。例えば、脳の血管が一時的に詰まる一過性脳虚血発作では、意識消失を伴うめまいが生じる。小脳や脳幹を支配する椎骨脳底動脈に発症しているならば、回転性のめまいを繰り返す。この発作は注意が必要であり、めまいを繰り返す内、脳梗塞へと発展する。また、高度の難聴や耳鳴りの前段階として、めまいを発症することも少なくない。
【0004】
いずれにしても、めまいは生命維持への危機を知らせるシグナルと云え、めまいが頻発するときには、適切な処置をとり、その後来るかもしれない重大な問題を未然に防ぐことが必要となる。
【0005】
めまいは、原因が特定し難いものであるが、問診、眼振による検査、聴力検査、重心動揺検査などを行った上で診断される。診断後、手術(外科治療)や薬物治療、リハビリテーションなどを組み合わせて治療を行う。
【0006】
めまいのリハビリテーション(以下、「めまいリハビリ」と呼ぶ)は、平衡機能機能回復を目的として訓練で、目(視覚による刺激)、耳(頭部運動による前庭刺激)、首(頸部の運動)、足の裏(歩行など深部感覚刺激)の反復刺激で構成される。
【0007】
近年、リハビリテーションとして、VR(Virtual Reality)を活用したものが増えてきている。例えば、特許文献1では、運動障害を有する患者に対して、VRヘッドマウントディスプレイ等の装置を用いて人間の五感(視覚、触覚、聴覚)のうち2以上の感覚を同時刺激するフィードバックを行うことで、リハビリを行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】坂田英治著、「めまいは恐い」講談社、1997年3月20日発行、p.26
【非特許文献2】Brain100 studioプログラム[2022年4月26日検索],[Online]、INTERNET、<URL:https://brain100studio.com/program/>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上述の特許文献1に記載の技術は、めまいリハビリを主目的としたものではないため、めまいリハビリを効果的に行うことができるものではなかった。
【0011】
例えば、前庭機能障害の回復には小脳の中枢代償が重要な役割を果たしているが、小脳(前庭小脳路)に対して、VR技術を用いてピンポイントにいかなる刺激を与えるかが重要となる。即ち、単純にVR技術を含む五感を刺激するだけの何となくのリハビリでは、目的が不明確であることも相まって効果も散漫となる。
【0012】
また、上述のようにめまいは、原因の特定が困難なものであり、複数のめまいリハビリを行いながら、同時にめまいの原因を探ることもあるが、目的が不明確のまま単にVR技術を用いただけでは、原因の切り分けも行うこともできない。
【0013】
そのため、仮想現実の技術を用いた平衡訓練を効果的に行うことができる平衡訓練支援装置、平衡訓練支援プログラム、及び平衡訓練支援システムが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
第1の本発明は、仮想現実の映像を表示可能なヘッドマウントディスプレイを介してユーザに仮想現実を利用した平衡訓練を提供する平衡訓練支援装置であって、(1)ユーザに提供する仮想現実を決定する仮想現実決定手段と、(2)視覚起因性のめまいを誘発させる仮想現実の映像を保持する仮想現実映像保持手段と、(3)前記仮想現実決定手段で決定された仮想現実の映像を前記仮想現実映像保持手段から取得して、ユーザが装着する前記ヘッドマウントディスプレイに提供する仮想現実映像提供手段と、(4)前記仮想現実映像提供手段で提供する仮想現実の映像の再生速度を制御する再生速度制御手段とを有することを特徴とする。
【0015】
第2の本発明の平衡訓練支援プログラムは、仮想現実の映像を表示可能なヘッドマウントディスプレイを介してユーザに仮想現実を利用した平衡訓練を提供する平衡訓練支援装置に搭載されるコンピュータを、(1)ユーザに提供する仮想現実を決定する仮想現実決定手段と、(2)視覚起因性のめまいを誘発させる仮想現実の映像を保持する仮想現実映像保持手段と、(3)前記仮想現実決定手段で決定された仮想現実の映像を前記仮想現実映像保持手段から取得して、ユーザが装着する前記ヘッドマウントディスプレイに提供する仮想現実映像提供手段と、(4)前記仮想現実映像提供手段で提供する仮想現実の映像の再生速度を制御する再生速度制御手段として機能させることを特徴とする。
【0016】
第3の本発明の平衡訓練支援システムは、仮想現実の映像を表示可能なヘッドマウントディスプレイと、前記ヘッドマウントディスプレイを介してユーザに仮想現実を利用した平衡訓練を提供する平衡訓練支援装置を有する平衡訓練支援システムであって、前記平衡訓練支援装置は、第1の本発明の平衡訓練支援装置であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、仮想現実の技術を用いた平衡訓練を効果的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】第1の実施形態に係るリハビリ支援装置の機能的構成について示すブロック図である。
【
図2】第1の実施形態に係るリハビリシステムの全体的な構成を示す全体構成図である。
【
図3】第1の実施形態に係るめまいリハビリ履歴データの一例を示す説明図である。
【
図4】第1の実施形態に係るリハビリテーションシステムの特徴動作を示すフローチャートである。
【
図5】第1の実施形態に係るVRリハビリで使用するジェットコースター映像(VR映像)の一場面を示す説明図である。
【0019】
【
図6】第1の実施形態に係るVRリハビリ後の重心動揺試験の評価結果を示す説明図である。
【
図7】第1の実施形態に係るVRリハビリ前後の所定期間内のvHITを実施した結果(VORゲインの推移)を示す説明図である。
【
図8】第1の実施形態に係るVRリハビリ前にvHITを実施した結果を示す説明図である。
【
図9】第1の実施形態に係るVRリハビリ後にvHITを実施した結果を示す説明図(
図8のLL(左外側半規管)を拡大した図)である。
【
図10】第1の実施形態に係るVRリハビリ後にvHITを実施した結果を示す説明図である。
【
図11】第1の実施形態に係るVRリハビリ後にvHITを実施した結果を示す説明図(
図10のLL(左外側半規管)を拡大した図)である。
【
図12】第1の実施形態に係るVRリハビリ前後のめまい症患者のDHIの変化を示す説明図である。
【
図13】第1の実施形態に係るVRリハビリの評価で使用するDHIの一例を示す説明図である。
【
図14】第1の実施形態に係るVRリハビリ前後にBrain100を実施した結果を示す説明図である。
【
図15】Brain100で使用される仮想空間のステージの概略マップを示している。
【
図16】第2の実施形態に係るリハビリシステムの全体構成を示す全体構成図である。
【
図17】第2の実施形態に係るリハビリ支援装置の構成を示すブロック図である。
【
図18】第2の実施形態に係るVRリハビリで使用するジェットコースター映像の概略マップを示す説明図である。
【
図19】第2の実施形態に係るリハビリテーションシステムの特徴動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(A)第1の実施形態
以下、本発明による平衡訓練支援装置、平衡訓練支援プログラム、及び平衡訓練支援システムの第1の実施形態を、図面を参照しながら詳述する。
【0021】
(A-1)本発明(VRリハビリ)の概要
まず、一般的なVR技術を活用しためまい症患者向けのリハビリテーション(以下、「VRリハビリ」と呼ぶ)の説明を行う。
【0022】
従来のVRリハビリでは、現実の実際の動作と仮想空間内の動作に敢えて時間差を作り、脳内での感覚再重み付け(Sensory reweighting)を誘導することを目的とする平衡訓練が存在する。
【0023】
ここで、人の姿勢制御に関与する主な感覚情報は、(1)視覚情報、(2)前庭情報、(3)体性感覚情報の3つである。これらの感覚情報が中枢神経系(小脳)で統合され、人は姿勢を制御できる。これらの感覚情報は、中枢神経系での感覚統合において均等ではなく、それぞれの感覚情報に対する重み付けによって異なる。姿勢制御に関わる感覚情報の重み付けは、個人差だけでなく、環境、身体活動、疾患などにより変化する。姿勢制御に関わる感覚情報の重み付けを変化させると、姿勢や歩行を安定させることができる。
【0024】
上述の仮想現実(VR:Virtual Reality)とは、コンピュータ上に作り出された仮想的な世界(仮想空間)を現実のように体験(知覚)させる技術である。仮想現実は、360度の3次元画像やCG(コンピューターグラフィックス)を使って作り出された空間の中に自分が存在していると錯覚させることができる。
【0025】
従来のVRリハビリでは、仮想現実の技術を用いて感覚混乱の一種である視覚情報と前庭情報とが一致しない空間を作成していた(例えば、頭部の動きに対する空間内の動きに遅延を生じさせて作成する)。そして、ユーザが仮想現空間内の混乱に適応すると、脳内での感覚再重み付けが誘導され、姿勢制御が変化して姿勢が安定する。従来のVRリハビリは、この前提に基づく平衡訓練である。
【0026】
一方、第1の実施形態のVRリハビリは、感覚再重み付けの誘導に加えて、ズレの映像(Retinal slip)を利用した前庭機能の適応化(adaptation)を促進することを目的としている。
【0027】
第1の実施形態のVRリハビリの特徴は、上述の目的を達成するために、ユーザ(患者)の頭部に装着したヘッドマウントディスプレイ(HMD:Head Mounted Display)に対してジェットコースターのVR映像を用いる。また、VR映像を視聴する際に椅子に座ったままとして、視覚以外の強い刺激を与えないものとする。
【0028】
ここでのジェットコースターの映像は、情報処理装置(リハビリ支援装置)を用いて、再生速度の調整が可能である。例えば、現在の再生速度に慣れたら次のステップとして速度を速めて視聴させても良い。さらに、患者にとって苦手な映像の連続再生を行っても良い。特にカーブやスクリューの映像はめまい発作時の模倣となり、その映像を繰り返し視聴させ脳を訓練させる。以下では、第1の実施形態のVRリハビリを行うための構成を述べる。
【0029】
(A-2)第1の実施形態の構成
(A-2-1)全体的な構成
図2は、第1の実施形態に係るリハビリシステムの全体的な構成を示す全体構成図である。
【0030】
図2に示すリハビリシステム1は、リハビリ支援装置10を用いて、HMD30を頭部に装着するユーザ20に対して行われるVRリハビリを支援するシステムである。なお、リハビリ支援装置10とHMD30は、有線又は無線によって、通信可能に接続されている。また、リハビリ支援装置10とHMD30は、病院等のリハビリ施設内で接続されているような場合(院内でのリハビリ)だけを想定しているのではなく、他にもリハビリ支援装置10とHMD30が、インターネット等を介して接続されているような場合(在宅リハビリや遠隔地でのリハビリ)も想定している。
【0031】
リハビリ支援装置10は、めまい症等のユーザ20に対して、めまいのリハビリテーションを支援する装置である。リハビリ支援装置10は、平衡訓練用の映像を管理するとともにHMD30に対する映像の再生処理を行うための手段を備える。
【0032】
HMD30は、人間の頭部に眼部を覆うように装着するゴーグルタイプの投写装置である。HMD30には、角度センサ、加速度センサが搭載され、取得したゴーグルの角度から全天球映像(VR映像)中の表示する方向(部分)について計算処理を行い表示画面に全天球映像を表示する。これにより、顔を向けた方向の映像を見るかのような臨場感のある映像を見ることが可能となる。
【0033】
本実施形態では、リハビリ支援装置10に備わる記憶手段に記憶されたVR映像のデータをHMD30に送信し、HMD30は当該映像を表示画面に投写する構成である。
【0034】
(A-2-2)リハビリ支援装置10の詳細な構成
図1は、第1の実施形態に係るリハビリ支援装置の機能的構成について示すブロック図である。
【0035】
図1に示すように、リハビリ支援装置10は、主制御部11、記憶部12、及び映像制御部13を有する。
【0036】
リハビリ支援装置は、
図1に例示する構成要素を搭載した専用のICチップ等をハードウェアとして適用しても良いし、又は、CPUと、CPUが実行するプログラムを中心としてソフトウェア的に構成しても良いが、機能的には、
図1で表すことができる。
【0037】
主制御部11は、リハビリ支援装置10の各構成部を統括的に制御する機能部であり、映像決定部110及びデータ更新部111を有する。
【0038】
映像決定部110は、映像データ121からVRリハビリに使用するVR映像(コース)を決定する。第1の実施形態では、1種類のジェットコースター映像のみを使用(決定)するものとするので、映像決定部110は、各ユーザ20に対して同一の映像を決定する。複数の映像から各ユーザ20に最適な映像を決定する例は、後述する第2の実施形態で示すものとする。
【0039】
データ更新部111は、HMD30を介してVR映像の視聴を行うVRリハビリが終了するたびに、ユーザ20が行ったVRリハビリに関する情報を履歴情報として記憶部12のめまいリハビリ履歴データ120に格納する。
【0040】
記憶部12は、各種データ(めまいリハビリ履歴データ120、映像データ121)を記憶するものであり、例えば、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid StrageDrive)、又は同等の機能を有するメモリ等で構成される。
【0041】
めまいリハビリ履歴データ120は、所定期間内のユーザ毎のめまいリハビリの履歴が記憶されたデータである。
【0042】
図3は、第1の実施形態に係るめまいリハビリ履歴データの一例を示す説明図である。
図3において、めまいリハビリ履歴データ120は、個々のめまいリハビリ履歴データを一意に識別する「履歴番号」と、VRリハビリ(めまいリハビリ)を実施したユーザ20(患者)を示す「患者」と、VRリハビリを実施した日付を示す「年月日」と、VRリハビリで使用した映像(映像データ121)を特定する情報(ファイル名等)を示す「映像」の項目を有する。なお、
図3は、一例であって、めまいリハビリ履歴データ120の各項目は特に限定されるものではない。
【0043】
映像データ121は、360°全天球映像からなる仮想空間を表現した映像(VR映像)である。第1の実施形態では、映像データ121は、ユーザ20がジェットコースター(ローラーコースター)に搭乗した際に見ることが出来る視点の映像であり、傾斜をつけたレール上の車両が左右に曲がったり、急速度で下降したり、スクリュー状に回転したりする映像、およびそれに対応した音声からなるものである。また、これらの映像には、水しぶきや火炎噴射の演出、トンネル内を走行する等のアクセントを加えても良い。
【0044】
さらに、ジェットコースター以外のその他の乗り物に搭乗する際の視点から見た映像を適宜選択することが可能である。例えば、ユーザが馬等の動物に騎乗した際の視点から見た映像でも良い。何れにしてVRリハビリに使用する映像は、めまい発作時の模倣を行うことができれば、種々様々な映像を適用することができる。
【0045】
映像制御部13は、外部からの操作情報等に基づいて、リハビリ支援装置10から出力される映像を制御する機能部であり、映像再生部130及び速度制御部131を有する。
【0046】
映像再生部130は、映像決定部110で決定された映像データ121を記憶部12から取得して、HMD30に送信する。これにより、HMD30を装着したユーザ20がVR映像を視聴することが可能となる。
【0047】
速度制御部131は、外部からの速度変更指示に基づいて映像データ121の再生速度を制御する手段である。速度変更については、例えば、既存の映像再生ソフトウエアの機能を適用できる。
【0048】
(A-3)第1の実施形態の動作
次に、以上のような構成を有するこの実施形態のリハビリシステム1の動作を説明する。
【0049】
(A-3-1)全体的な動作
図4は、第1の実施形態に係るリハビリテーションシステムの特徴動作を示すフローチャートである。以下では、HMD30を装着したユーザ20は、椅子に座ったままの状態でVR映像を視聴することを前提とする。
【0050】
リハビリ支援装置10は、医師等からの映像の再生指示を受けてると、HMD30にVR映像を出力する処理を開始する(S101)。リハビリ支援装置10への再生指示は、例えば、専用の画面を介して、マウス、キーワードなどの入力手段を用いて行う。その他、スケジュール管理に基づき自動的にプログラムを実行するようにしても良い。
【0051】
映像決定部110は、VRリハビリに使用する映像を決定する(S102)。映像決定部110は、決定した映像を特定する情報(映像のID等)を映像制御部13に与える。
【0052】
映像再生部130は、映像決定部110から取得した特定情報に基づき、記憶部12の映像データ121を取得し、取得した映像データ121をHMD30へ配信する処理を行う(S103)。HMD30では、表示部に映像が表示されることになる。
【0053】
速度制御部131は、上述のステップS103によりVR映像を再生中、再生速度の変更指示があるか否かを判定する(S104)。再生速度の変更指示は、例えば、専用の画面を介して、医師等がマウス、キーワードなどの入力手段を介して行われる。速度制御部131は、再生速度の変更指示が存在する場合、次のステップS105に移行し、一方、再生速度の変更指示が存在しない場合、後述するステップS106に移行する。
【0054】
速度制御部131は、再生速度の変更指示に従い、再生映像の再生速度の変更を行う(S105)。例えば、速度制御部131は、2.0倍速の指示があれば、2.0倍速で映像を再生する。また、現在再生中のVR映像の速度を0.5倍速等のスローモーション(スロー)で再生しても良い。その他、特定のシーンのみを繰り返して再生しても良い。
【0055】
映像再生部130は、映像再生が終了したか否か判定する(S106)。映像再生部130は、映像再生が終了した場合、次のステップS107に移行し、一方、映像再生が終了していない場合、上述のステップS104に戻る。
【0056】
データ更新部111は、VR映像の視聴が終了すると、VR映像視聴に関する情報をめまいリハビリ履歴データ120に格納する(S107)。
【0057】
(A-3-2)VR映像の補足説明
次に、VRリハビリで使用する映像について説明を行う。
【0058】
図5は、第1の実施形態に係るVRリハビリで使用するジェットコースター映像(VR映像)の一場面を示す説明図である。
【0059】
図5では、ジェットコースター搭乗時の乗客視点の映像を示している。
図5(A)は、例えば、周回コースの最高地点から急降下する場面で使用される映像であある。また、
図5(B)は、例えば、カーブする場面で使用される映像である。
【0060】
上記のような場合、仮想現実内のジェットコースターの移動方向が上下左右に変化(回転)すると、ユーザ20の頭部(内耳)が動いていないにもかかわらず、視界が変化することになる。このような視覚情報と内耳情報の乖離は、めまい(めまいに近い状態)を引き起こすことが知られている。つまり、ユーザの視界としてVR映像のみが提供される仮想現実においては、ユーザは自身が存在する空間を適切に把握することができなくなり(空間識が破綻して)、めまいを引き起こす。
【0061】
第1の実施形態において、VR映像として、ジェットコースター映像を使用するのは、めまいを疑似体験できる場面(急停止、急加速、回転、左右のカーブ等)が多く含まれているためである。個々のユーザ(患者)に対して、どのような場面が有効(言い換えれば、めまいを引き超すことができるか)であるかは、個人差があるため、バリエーションは多い方が良い。例えば、カーブの場面では、右回りでカーブだけでなく、左回りのカーブも含む方が良い。また、ジェットコースター映像の視聴を重ねると、ユーザに飽きが生じて、悪い意味で、訓練に慣れてしまうので、同じコースでもスローや早送り再生で映像を視聴させるようにする。
【0062】
(A-4)第1の実施形態の効果
第1の実施形態によれば、以下の効果を奏する。
【0063】
まず、重心動揺試験によって、VRリハビリ前後でユーザの静的バランスがどのように変化したかを説明する。重心動揺試験は、直立姿勢に現れる身体の揺れを検査して、体の平衡機能を検査するものである。
【0064】
図6は、第1の実施形態に係るVRリハビリ後の重心動揺試験の評価結果を示す説明図である。
図6の重心動揺試験(ロンベルク試験)の結果は、両足をそろえて直立し、開眼時所定時間の重心軌跡と、閉眼時所定時間の重心軌跡を測定した結果を示したものである。
図6(A)は、開眼時の軌跡長を示し、
図6(B)は、閉眼時の軌跡長を示している。また、
図6(C)は、開眼時の外周面積を示し、
図6(D)は、閉眼時の外周面積を示している。各結果は、異なる日時にVRリハビリの前後で重心動揺試験を行った結果(計10回)をグラフで示している。
【0065】
開眼時の
図6(A)、及び
図6(C)の結果からは、特段指摘するように傾向は見られない。一方、閉眼起立時の
図6(B)、及び
図6(D)の結果からは、VRリハビリ実施後に改善傾向が見られる(範囲210では軌跡長の減少、範囲220では外周面積の減少が見られる)。
【0066】
この結果は、感覚再重み付け(Sensory reweighting)により視覚依存が減少したことを示している。つまり、中枢神経系で視覚情報の代わりに前庭情報報や体性情報を重視することにより、姿勢が安定したと解することができる(めまいの改善が見込まれる)。
【0067】
次に、ビデオヘッドインパルス検査(vHIT:Video Head Impulse Test)によって、VRリハビリ前後で左右各三半規管の機能不全の有無がどのように変化したかを説明する。なお、以下の
図7の結果は、上述の
図6とは異なるユーザの検査結果である。
【0068】
図7は、第1の実施形態に係るVRリハビリ前後の所定期間内のvHITを実施した結果(VORゲインの推移)を示す説明図である。vHITでは、頭部の急速な動きに伴い発生する前庭動眼反射(VOR)を測定する。
図7では、2019年4月25日から2020年9月1日まで全10回、vHITを行った結果(VORゲイン)を示している。なお、
図7(A)では、右の各半規管のデータを示し、
図7(B)は、左の各半規管のデータを示している。
【0069】
また、vHITを行ったユーザには、2019年5月28日から前庭リハビリを開始し、2019年10月26日からVRリハビリを開始し、2020年9月1日から電気刺激(耳の後ろに貼った電極から、微弱な電流を流すことで、めまい症患者のバランス機能の改善を図るリハビリ)を行っている。
【0070】
上記の各リハビリ等を行った後の傾向として、特段の傾向が見られるのは、VRリハビリ直後のLL(左-外側半規管)の結果(
図7(B)のグラフ304)である。範囲307に示されるように、VRリハビリ後にVORゲインは、「0.35」から「0.78」に改善されている。即ち、前庭機能の促進により、めまいの改善が見込まれる。
【0071】
次に、
図7とは、異なる患者のVRリハビリ前後のvHITを行った例を説明する。
【0072】
図8は、第1の実施形態に係るVRリハビリ前にvHITを実施した結果を示す説明図である。また、
図9は、
図8のLL(左外側半規管)の測定結果を拡大した図である。一方、
図10は、第1の実施形態に係るVRリハビリ後にvHITを実施した結果を示す説明図である。また、
図11は、
図10のLL(左外側半規管)の測定結果を拡大した図である。
【0073】
図8(
図9)では、LL(左外側半規管)の範囲R1において、Catch up saccadeが見られている。半規管機能が正常であれば、前庭眼反射(VOR)が働き、視標を注視できる。一方、この機能が低下すると、十分なVORが働かず、眼位と視標にズレが生じる。Catch up saccadeは、このズレを補正して視標を捉えるために発生する急速眼球運動である。
図8(
図9)で示された患者は、Catch up saccadeが見られることにより、VRリハビリ前は、左外側半規管機能が低下している状態と判断される。
【0074】
一方、VRリハビリを行った後の
図10(
図11)の結果では、Catch up saccadeが見られなくなる(範囲R2)。即ち、VRリハビリにより左外側半規管機能の回復したと解することができる。また、同VORゲインもVRリハビリ前後で「0.06」から「0.54」への上昇が見られる。
【0075】
次に、VRリハビリ前後でめまい症患者の問診結果がどのように変化したかを説明する。
【0076】
DHI(Dizziness Handicap Inventory)とは、めまいによる日常生活の障害度を評価するための問診票(例えば、
図12)である。DHIは、身体面(Physical)7項目、感情面(Emotional)9項目、機能面(Functional)9項目の3つのカテゴリーからなり、全25項目の質問がランダムに配置されている(
図12では、一部のみ表記している)。DHIでは、25の質問に対する合計点数を算出する(各質問の回答で「はい」が4点、「時々」が2点、「いいえ」が0点)。合計点が46点以上が重症という目安である。
【0077】
図13は、第1の実施形態に係るVRリハビリ前後のめまい症患者のDHIの変化を示す説明図である。
【0078】
図13において、2021年6月7日のDHIの結果は、VRリハビリを行う直前の結果(VRリハビリを行っていない状態の結果)を示している。また、2021年7月5日の結果は、VRリハビリを行った後の結果を示している。そして、2021年8月2日の結果は、2021年7月5日にVRリハビリを中止した後の結果を示している。また、
図13では、DHIについて、身体面の点数変化はグラフ401で、感情面の点数変化はグラフ402で、機能面の点数変化は403でそれぞれ示している。
図13で示すように、2021年6月7日の時点(リハビリ開始直前)では、DHIの合計点数は、62点(P:24、E:0、F:18)であった(46点以上のため重症であった)。2021年7月5日の時点(約1月のリハビリ後)では、DHIの合計点数は、20点(P:8、E:6、F:6)であった。そして、2021年7月5日の時点(終了から約1月後)では、DHIの合計点数は、4点(P:2、E:0、F:0)であった。
図13で示される結果は、VRリハビリによって、身体面、感情面、機能面の全において、めまいによる日常生活の障害の改善があったことを示している。また、VRリハビリを終了した後も、DHIの改善が見られることから、VRリハビリによるめまい改善の効果は、一時的なものでは無いことが分かる。
【0079】
次に、脳(大脳の嗅内野)の空間認知機能の面から、VRリハビリ前後でどのような変化があったかを説明する。
【0080】
図14は、第1の実施形態に係るVRリハビリ前後にBrain100を実施した結果を示す説明図である。
図14では、脳(大脳の嗅内野)が担っている機能(空間ナビゲーション)を測定するプログラムであるBrain100 studioプログラム(Brain100)の測定結果を示している。Brain100は、非特許文献2でも示されているように、患者にHMDを被せて、回転椅子に座ったままの状態で、音声ガイダンスに従ってコントローラを操作して仮想空間内のステージを移動させる試験である。
【0081】
図15は、Brain100で使用される仮想空間のステージの概略マップを示している。
図15では、スタート地点(S)から操作を開始し、まず、フラッグF1の地点に行き、その次にフラッグF2の地点に行く。そして、最初のスタート地点(S)に正確に戻るように移動する。この際、スタート地点と考えて、ゴールした地点(G)が最初のスタート地点(S)とズレていると、エラー距離とされる。
図15(A)は、エラー距離が小さい場合を示し、
図14(B)は、エラー距離が大きい場合を示してる。
【0082】
図14では、上述のエラー距離等を基に嗅内野の機能をスコア化したものを示してる(スコアは低い程、嗅内野の機能は良いことを示している)。
図14に示す測定結果300は、72歳男性(慢性期のめまい症患者)の試験結果を示している。
図14では、VRリハビリを行う前、VRリハビリを行った後、VRリハビリの訓練を行った後、3回連続してBrain100を行った各結果が示されている。
図14から明らかなように、3回の平均値で見ると、VRリハビリを行う度に、スコアが改善していることが分かる(「13.615」→「9.331」→「8.336」)。最終的にVRリハビリを10回行うと、患者は同世代と同等の空間認知機能を有したことが分かる。上述のように空間認知機能はめまいにも関係するため、VRリハビリは、めまい症の改善に寄与したことが分かる。
【0083】
まとめると、VRリハビリは、重心動揺試験の結果から中枢神経系での感覚情報の再重み付けを引き起こし、視覚依存から他の感覚依存に変化させることで、姿勢等を安定させることができる。また、vHITの結果から半規管の機能の回復も見られる。さらに、Brain100の結果から脳(大脳の嗅内野)の空間認知機能の回復も見られる。そして、DHIによってもスコアの改善が見られる。
【0084】
以上のように、めまい症を評価するための各指標のスコアが改善していることから、第1の実施形態のリハビリシステム1は、従来のめまいリハビリを支援するシステムに比べて有利な効果を奏する。
【0085】
(B)第2の実施形態
以下、本発明による平衡訓練支援装置、平衡訓練支援プログラム、及び平衡訓練支援システムの第2の実施形態を、図面を参照しながら詳述する。第1の実施形態では、全てのユーザは同一のVR映像(1種類のジェットコースター映像)をリハビリに使用したが、第2の実施形態では、複数の映像(コース)から各ユーザにとってリハビリに最適なコースを選択してリハビリを行う例を示す。
【0086】
(B-1)第2の実施形態の構成
図16は、第2の実施形態に係るリハビリシステムの全体構成を示す全体構成図である。
図16に示すリハビリシステム1Aは、第1の実施形態のリハビリシステム1と同様に、HMD30を頭部に装着するユーザ20に対して行われるVRリハビリを支援するシステムである。
図16のリハビリシステム1Aでは、リハビリ支援装置10の代わりにリハビリ支援装置10Aを用いる点が第1の実施形態と異なる。
【0087】
図17は、第2の実施形態に係るリハビリ支援装置の構成を示すブロック図である。第2の実施形態のリハビリ支援装置10Aでは、センシングデータ取得部123が追加され、映像決定部110が映像決定部110Aに置き換わっている点が、第1の実施形態と異なる。以下では、異なる点を中心に説明を行う。
【0088】
第1の実施形態では、映像データ121は、1種類のVR映像(1種類のジェットコースター映像)のみであることを前提とした。即ち、第1の実施形態の映像決定部110は、VRリハビリにおいて、同一のジェットコースター映像を全てのユーザ20に視聴させていた。しかしながら、本来、めまい症のユーザ20にとって、VRリハビリに用いる最適な映像(ジェットコースターコース)は、各々異なるはずである。
【0089】
例えば、右回りカーブの映像が苦手なユーザ20にとっては、右回りカーブが多い映像でリハビリした方が良い。ここでの苦手とは、言い換えれば、ユーザ20にとってめまいを意識する映像(リハビリに最適なコース)となる。苦手なコースをリハビリ用のコースとして決定して、集中的に訓練を行えば、より効率的なリハビリを行えることになる。
【0090】
第2の実施形態の映像決定部110Aは、まず、VR映像の視聴後にリハビリに最適なコースか否か(苦手なコースか否か)の判定を行う。最適か否かの判定手法は特に限定されないが、例えば、ジェットコースター映像視聴中のユーザ20のセンシングデータと、正解データとのマッチング率を算出し、マッチング率が所定閾値(例えば、60%)未満の場合に、所定条件を満足する(リハビリに最適なコース)と判定して良い。
【0091】
センシングデータは、例えば、VR映像視聴中のHMD30内のユーザ20の視線データや、VR映像視聴中のユーザ20の体の動きを示すデータ(例えば、モーションキャプチャで取得したデータ等)である。正解データは、例えば、VR映像を視聴した際の健常者(めまい症から回復した元患者等でも良い)の各種センシングデータである。なお、1つのVR映像に対して正解データは複数用意しても良く、例えば、年齢、性別、体格等を加味して複数のバリエーションを用意しても良い。
【0092】
また、映像決定部110Aが判定で使用するセンシングデータは1種類のみでも良いし、複数のセンシングデータを使用しても良い。複数のセンシングデータを使用して判定する場合、例えば、映像決定部110Aは、各センシングと正解データを比較した結果をスコア化し(段階評価でも点数評価でも良い)し、各スコアの合計を所定の閾値と比較するようにしても良い。
【0093】
映像決定部110Aは、現在使用しているVR映像がユーザに適していないと判定した場合、映像データ121から現在とは異なるVR映像(コースが違うVR映像)を次回の映像視聴データとして決定する。この際の選び方は、ランダムでも良いし、予め定まった順番にVR映像を選択するようにしても良い。
【0094】
第2の実施形態の映像データ121は、複数種のVR映像データ(異なるコースのジェットコースター映像)を有する。
図18は、第2の実施形態に係るVRリハビリで使用するジェットコースター映像の概略マップを示す説明図である。例えば、右回り(時計回り)、左回り(反時計回り)、八の字の3種類のコースを使用する。経験上、めまいは、左右のカーブのいずれかの映像に現れることが多いために、第2の実施形態では、右回りと左回りに特化したコースを用意した。さらに、右回りと左回りの特性を半分ずつ備えた八の字コースを加えて、ユーザにとってめまいを誘発する可能性が高い3種類のコースを用意した。第2の実施形態では、3種類の映像のみを用いるが、これとは別に、各3種類の映像と同一のコースで、急停止、急発進の場面を含む映像を3種類加えても良い。何れにしても使用する映像(コース)の数は特に限定されるものでは無い。
【0095】
センシングデータ取得部123は、HMD30、外部カメラ(図示せず)、ユーザが装着しているウェアラブル端末(図示せず)等からVR映像中のセンシングデータを取得するものである。センシングデータ取得部123は、VR映像後に各センシングデータを映像決定部110に与える。
【0096】
(B-2)第2の実施形態の動作
図19は、第2の実施形態に係るリハビリテーションシステムの特徴動作を示すフローチャートである。以下では、HMD30を装着したユーザ20は、椅子に座ったままの状態でVR映像を初めて視聴することを前提とする。リハビリ支援装置10Aは、医師等からの映像の再生指示を受けると、以下の処理を開始する。
【0097】
映像決定部110は、ユーザ20が初めてVRリハビリを開始する場合(めまいリハビリ履歴データ120にデータが存在しない場合)、ジェットコースター映像として、初期設定のコース(例えば、
図18(A)の右回りコース)をVR映像として決定する(S201)。
【0098】
映像再生部130は、上述のステップS201で決定したVR映像について、上述のステップS103~S106の処理(VR映像の視聴処理)を行う(S202)。
【0099】
センシングデータ取得部123は、HMD30や外部カメラ、ユーザが装着しているウェアラブル端末等からVR映像中のセンシングデータを取得する(S203)。
【0100】
映像決定部110Aは、上述のステップS203で取得したセンシングデータと、正解データとの比較を行う(S204)。映像決定部110Aは、センシングデータと、正解データとのマッチング率が閾値未満の場合には、後述するステップS205に移行する。
【0101】
一方、映像決定部110Aは、センシングデータと、正解データとのマッチング率が閾値以上の場合には、上述のステップS201に戻る。この場合、最初に試したコースとは別のコースを視聴コースとして決定して、ステップS201以降の処理を実行することになる。最終的に、映像決定部110Aは、全てのコースを試してもマッチング率が閾値未満のコースが発見できない場合には、マッチング率が一番低いコースをリハビリで使用する正式なコースとして決定する。
【0102】
映像決定部110Aは、上述のステップS104で、センシングデータと、正解データとのマッチング率が閾値未満の場合には、視聴したコースのVR映像をリハビリに使用するコースとして決定する(S205)。これ以降、ユーザ20は、医師等の指導の下、決定したコース(VR映像)を異なる日に視聴する(VRリハビリを行う)ことになる。
【0103】
(B-3)第2の実施形態の効果
第1の実施形態によれば、第1の実施形態の効果に加えて、以下の効果を奏する。
【0104】
リハビリ支援装置10Aは、各ユーザ20に複数のVR映像を視聴させ、その際のセンシングデータによって、各々に最適なコースを決定することとした。そして、各ユーザ20は、決定された最適な(苦手な)コースで訓練することができるため、より効率的にめまいを改善することができる。
【0105】
(C)他の実施形態
本発明は、上記第1、第2の実施形態に限定されるものではなく、以下に例示するような変形実施形態も挙げることができる。
【0106】
(C-1)第2の実施形態では、センシングデータとして、VR映像を視聴中のユーザ20の視線や体の動きを使用する例を示した、変形例として、HMD30と脳の血流量を計測する機器を一体化させ、如何なる映像が脳に刺激を与えているかを、脳血流量を計測して判定しても良い。患者に適さないコースレイアウトだと、脳を使っていない状態になりVRリハビリの効果が薄いため、脳血流量によって、リハビリに使用する効果的なコースを決定する。
【0107】
(C-2)第1の実施形態では、VR映像視聴中の速度は、主に外部からの指示に基づき、変更する例を示したが、VR映像再生中に自動的(ランダムでも、一定の規則性等でもタイミングは限定されない)に変更するようにしても良い。
【0108】
(C-3)上記第1、第2の実施形態では、平衡障害の患者として、めまい症患者を対象に行った例を示したが、これに限らず立ちくらみなどの感覚を含む平衡障害を訴える全てのユーザに本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0109】
1、1A…リハビリシステム、10、10A…リハビリ支援装置、11…主制御部、12…記憶部、13…映像制御部、20…ユーザ、30…HMD、110…映像決定部、110A…映像決定部、111…データ更新部、120…リハビリ履歴データ、121…映像データ、123…センシングデータ取得部、130…映像再生部、131…速度制御部。