(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039296
(43)【公開日】2024-03-22
(54)【発明の名称】静電気除去装置
(51)【国際特許分類】
H05F 3/04 20060101AFI20240314BHJP
H01T 23/00 20060101ALI20240314BHJP
B08B 5/00 20060101ALI20240314BHJP
【FI】
H05F3/04 E
H01T23/00
B08B5/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022143744
(22)【出願日】2022-09-09
(71)【出願人】
【識別番号】000232597
【氏名又は名称】株式会社ベッセル工業
(74)【代理人】
【識別番号】110003041
【氏名又は名称】安田岡本弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】田口 二郎
(72)【発明者】
【氏名】井野場 亨
【テーマコード(参考)】
3B116
5G067
【Fターム(参考)】
3B116AA46
3B116AB52
3B116BB21
3B116BB88
3B116BB89
5G067AA70
5G067DA21
5G067DA22
(57)【要約】
【課題】ブロワー型の静電気除去装置と同等の広範囲な静電気除去可能エリアを有しながら、回転体を持つファンを使用せず高度なクリーンルーム内でも使用可能な静電気除去装置を提供する。
【解決手段】本発明の静電気除去装置100は、ケーシング1の前面に平面状に配備された複数のイオン吹き出し口5を有し、イオン吹き出し口5から、イオンを含むクリーンドライエアーを吹き出し可能に構成され、イオン吹き出し口5の内部には、イオン発生のための高電圧が印加されるとともに、先端から前記クリーンドライエアーを吹き出し可能とされた放電電極10が配備されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングの前面に平面状に配備された複数のイオン吹き出し口を有し、前記イオン吹き出し口から、イオンを含むクリーンドライエアーを吹き出し可能に構成された
ことを特徴とする静電気除去装置。
【請求項2】
前記イオン吹き出し口の内部には、放電電極が配備され、
前記放電電極は、イオン発生のための高電圧が印加されるとともに、先端から前記クリーンドライエアーを吹き出し可能に構成され、前記放電電極の電界強度が高い部位に塵埃が堆積するのを防ぐべく、当該部位に前記クリーンドライエアーが吹き付けられる構成とされている
ことを特徴とする請求項1に記載の静電気除去装置。
【請求項3】
前記ケーシング内に、イオンを生成するための高電圧電源を搭載するとともに、エアーを吹き出すための回転体を不搭載としていることを特徴とする請求項1又は2に記載の静電気除去装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電気帯電の影響による生産障害などを解決するために用いる静電気除去装置に関し、特に、広領域にイオンを含むエアーを吹き付けることで広範囲に存在する静電気を除去することができる広域ノズル型の静電気除去装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、半導体、プラスチック、ゴム、紙製品、繊維製品など多くの生産現場では静電気帯電の影響によって生産障害が発生しており、その対策として静電気除去装置が数多く利用されている。広範囲に静電気を除去するためには、回転ファンを内蔵したブロワー型の静電気除去装置が用いられている。また、静電気によって付着した塵埃を除去するためには、ノズル型静電気除去装置が用いられている。
【0003】
ブロワー型の静電気除去装置には、軸流ファン、クロスフローファンおよびシロッコファン等が利用され、内部に設置された放電電極に高電圧を印加して除電に必要なイオンを生成し、ファンの風を利用して広範囲にイオンを送出することによって、立体的な対象物の静電気を中和する方法がとられている。一方で、ノズル型の静電気除去装置は、内部に高電圧が印加される放電電極が内蔵され、放電電極により発生したイオンを圧搾エアーによって送出し、除電を行うとともに付着塵埃を吹き飛ばすものとなっている。ノズル型の静電気除去装置に近い形の静電気除去装置としては、特許文献1に開示されたものがある。
【0004】
特許文献1は、放電電極、接地電極および気体噴出機構を備え、放電電極と接地電極との間のコロナ放電により発生したイオンを気体噴出機構から噴出される気体により除電対象物に吹き付けて、除電対象物の除電を行うようになされたイオン化除電装置において、放電電極が電気良導体で中空状に形成され、放電電極の内部に、先端部に気体噴出口を有する気体噴出機構の気体通路が形成されており、放電電極の先端部に鋭利な部分が形成されていることを特徴とする気体噴出機構を備えたイオン化除電装置(静電気除去装置)を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述したブロワー型の静電気除去装置にはファン等の回転体が内蔵されているため、その回転体から発生する塵埃のために、高度なクリーンルーム内では使用できないなどの問題があった。特許文献1に開示されたようなノズル型の静電気除去装置は、単体でイオン吹き出し口が小さくポイント的な使用に限定され、対象物の除電・除塵の際には、ワーク自体または静電気除去装置のイオン吹き出し口を動かして、対象物全体にイオンを含む圧搾エアーを吹き付ける必要があった。
【0007】
また、イオンを発生するための放電電極には、クリーンルーム内であっても塵埃が堆積する。放電電極に塵埃が堆積すると除電性能に悪影響を与えるだけでなく、電源あるいは、供給エアーのON/OFFの際に堆積した塵埃がまとまって飛散し、クリーン環境の汚染の原因となっていた。
【0008】
特許文献1の技術では、放電電極の外部に絶縁チューブ等の絶縁層を設けることで塵埃の堆積を防ぐものとなっているが、放電電極の先端を露出すると更にイオンを生成する効率がよいと思われる。とはいえ、放電電極の先端を露出させると、放電電極の外周部の鋭利に尖らせた電界強度が高い部分には、若干ではあるものの塵埃が堆積する虞が否めない。
【0009】
そこで、本発明は、上記問題点に鑑み、圧搾されたCDA(クリーンドライエアー)のみを使用して複数本の放電電極からイオンを含むCDAを吹き出し、広範囲をカバーできる静電気除去装置を提供することを目的とする。この静電気除去装置は、ファンを使用し
ないものであるため、塵埃発生の問題がなくクリーンルームなどでも使用可能であり、複数のエアー吹き出し口を持つことで強いエアーを広範囲に同時に吹き出すことを可能にし、且つ放電電極への塵埃堆積を防止する構造を持ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
【0011】
本発明にかかる静電気除去装置は、ケーシングの前面に平面状に配備された複数のイオン吹き出し口を有し、前記イオン吹き出し口から、イオンを含むクリーンドライエアーを吹き出し可能に構成されたことを特徴とする。
【0012】
好ましくは、前記イオン吹き出し口の内部には、放電電極が配備され、前記放電電極は、イオン発生のための高電圧が印加されるとともに、先端から前記クリーンドライエアーを吹き出し可能に構成され、前記放電電極の電界強度が高い部位に塵埃が堆積するのを防ぐべく、当該部位に前記クリーンドライエアーが吹き付けられる構成とされているとよい。
【0013】
好ましくは、前記ケーシング内に、イオンを生成するための高電圧電源を搭載するとともに、エアーを吹き出すための回転体を不搭載としているとよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明にかかる静電気除去装置によれば、ブロワー型の静電気除去装置と同等の広範囲な静電気除去可能エリアを有しながら、回転体を持つファンを必要としていないため、塵埃発生の問題がなく高度なクリーンルーム内でも使用可能となる。また、複数のイオン吹き出し口からイオンを含むエアーを吹き出すため、一度に広範囲且つ立体的な物体の静電気除去が可能である。加えて、全体の構造を軽量で薄型の構造にでき、当該静電気除去装置を設置する際に、設置スペースなどの制限を受けにくいという優位性がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1A】本実施形態にかかる静電気除去装置の正面外観図である。
【
図1B】本実施形態にかかる静電気除去装置の右側面外観図である。
【
図2】本実施形態にかかる静電気除去装置におけるイオン吹き出し口の拡大断面図である。
【
図3】本実施形態における静電気除去装置の斜視図を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明にかかる静電気除去装置100の実施形態を、図を参照して説明する。
【0017】
なお、以下に説明する実施形態は、本発明を具体化した一例であって、その具体例をもって本発明の構成を限定するものではない。
【0018】
図1A、
図1B、
図3に示す如く、本発明にかかる静電気除去装置100は縦15cm程度×横30cm程度×奥行き15cm程度の大きさを有する箱状の外装ケーシング1を備えている。この外装ケーシング1(以降、単にケーシング1という)は、ステンレスなどの金属またはプラスチック製であり、前面に複数のイオン吹き出し口5を備えている。
【0019】
図1Aに示す如く、本実施形態の場合、静電気除去装置100の前面には横3列、縦3列に等間隔をもって9個のイオン吹き出し口5が配設されている。一つ一つのイオン吹き出し口5の構造の詳細については後述するが、9個のイオン吹き出し口5からは、イオンを伴った圧搾エアーが、
図3に示すように面状に広範囲に広がり、対象物の除電および除塵を行うことができる。吹き出される圧搾エアーは、クリーンドライエアー(CDA)をコンプレッサーなどで圧搾し高圧にしたものであり、以降、単にCDA乃至は圧搾CDAと表記することもある。
【0020】
静電気除去装置100の前面の左側には、電源スイッチ4がON状態の際に点灯する電源ランプ6が設置されており、この電源ランプ6の下には、ケーシング1内に内蔵された高電圧電源の故障などを外部に知らせる警告ランプ7が設けられている。
また、静電気除去装置100の前面の中央には大きな開口が形成されており、この開口を介して、ケーシング1内部と外部とが連通するようになっている。この開口の内側であって、ケーシング1の内部に、9個のイオン吹き出し口5が互いに等間隔をもって配設されている。その上で、この開口を塞ぐように針金やプラスチック糸を格子状に組み合わせて
なる網部21が取り付けられている。
【0021】
図1Bに示すように、静電気除去装置100の右側面には、電源スイッチ4が設けられており、この電源スイッチ4をONにすることで、ケーシング1に内蔵された高電圧電源がイオン生成に必要な高電圧を発生し、イオン吹き出し口5の内部にある放電電極10に印加され、イオン吹き出し口5からイオン化されたCDAが吹き出すようになる。なお、静電気除去装置100の左側面には、電源入力部2が設けられており、この電源入力部2にDC24Vを接続するものとなっている。
【0022】
具体的には、ケーシング1内部に高電圧電源が内蔵されており、この高電圧電源からの配線は可能な限り短くされ、高電圧からの漏れ電流を極力減らす構造になっている。そのため、使用者はAC/DCアダプタ等を用いて、DC24V等の低圧配線とCDAの供給配管のみを行うことで本装置を使用することが可能である。なお、この高電圧電源に、出力電圧調整部およびイオンバランス調整部を有する電源回路を採用することが好ましい。
【0023】
一方、ケーシング1の底面には、CDAの供給配管を接続するエアー入力部3が設けられるとともに、ケーシング1を支えるスタンド8が取り付けられている。このスタンド8を介してケーシング1が設置面に対して設置されるようになる。
スタンド8は、正面から見て上方が開口状とされたコ字形状であり、設置面に接する矩形状の底板13と、この底板13の両端部から立ち上がるように設けられた左右一対の立設板14を有している。立設板14は側面視で三角形状を呈している。一方、ケーシング1の底面の左右両端側には、垂下状に設けられた逆三角形形状の垂下板15が配備され、この垂下板15の下端と立設板14の上端とが重なり合うようになっており、この重合部分は左右方向を向く軸心を有するボルト16で締結されるものとなっている。このボルト16の軸心周りにケーシング1を回動させて前後方向に傾けることで、エアーの吹き出し方向を簡単に変更することができる。なお、静電気除去装置100を別の機械装置等に固定して使用する場合には、スタンド8を取り外しケーシング1のみとし、よりコンパクトな形態で使用することが可能である。
【0024】
図2には、イオン吹き出し口5の詳細構造を示す断面図が示されている。
【0025】
図2に示す如く、イオン吹き出し口5は、ケーシング1に内蔵されたノズル部9とこのノズル部9の基端部が取り付けられるCDA導管11を有している。このノズル部9は先端部が針状の放電電極10と、基端部に形成された鍔部18とを有している。この鍔部18により所定以上にノズル部9の基端がCDA導管11の内部に挿入されることを防ぐようになっている。放電電極10の基端側には、放電電極11より径大な張り出し部19が形成されている。さらにこの張り出し部19には、CDA導管11から供給されるCDAを放電電極10の外周に沿って当該放電電極10の先端に向け放出するための放出孔20が形成されている。
【0026】
一方、放電電極10の中心部には長手方向を向く長孔17が形成されており、長孔17の基端はCDA導管11の内部(CDA通路12)に連通するものとなっている。CDA導管11内には、静電気除去装置100の外部に設置されたエアー供給装置から圧搾されたクリーンドライエアー(CDA)が供給されている。具体的には、コンプレッサーから供給されエアーフィルター等を通過した圧搾されたCDAは、ケーシング1の底面に形成されたエアー入力部3からエアーチューブを介して、装置100内に供給される。このCDAは、外部のソレノイドバルブ等によってONおよびOFFが制御される。供給されたCDAは放電電極10内の長孔17を通って電極の先端から吐出し、イオン吹き出し口5の開口を通って外部に吹き出すようになっている。
【0027】
CDA導管11を通ってきたCDAが放電電極10の先端から吹き出す際に、電源スイッチ4をONにすると、ケーシング1に内蔵された高電圧電源がイオン生成に必要な高電圧を発生し、9本の放電電極10に同時に高電圧が印加される。高電圧が印加された放電電極10ではコロナ放電が起き、CDAが放電電極10の先端部で生成されたイオンを伴いイオン吹き出し口5から吹き出すようになる。このイオンを含むCDAを帯電した除電対象物に吹き付けることで、電気的な中和が起こり対象物から静電気が除去されることになる。
【0028】
言い換えるならば、放電電極10の先端部で発生しているコロナ放電のために、CDAが電気的に励起されてイオン化し、プラスとマイナスのイオンに変換される。そして、これらのイオンが放電電極10の先端から吹き出されるCDAによって除電対象物に吹き付けられ、対象物の除電が行われる。
【0029】
その際、
図2の右上の図に示す如く、放出孔20から吹き出されるCDAは、放電電極10の先端部、すなわち電界強度が高い部位に吹き付けられるようになり、この電界強度が高い部位に塵埃が堆積することを確実に防止することができる。
【0030】
なお、ケーシング1の前面に貼り付けられた網部21によって、高電圧が印加された放電電極10に、作業者の指が接触または近接しないようになっており、本発明の静電気除去装置100は、使用者に対する安全を考慮した構成となっている。さらに、網部21によりエアー吹き出しに伴う騒音を大幅に軽減することができる。
【0031】
本実施形態の装置100においては、放電電極10は9本、平面的に配備されているため、イオンを伴ったCDAが、
図3のように面状に広範囲に広がり、対象物の除電および除塵を広範囲に一度で行うことができるようになる。
【0032】
なお、エアー供給装置において、供給するCDAの圧力を、レギュレーター等を用いて制御することにより、イオンを含むCDAの届く範囲、距離、強さ、除電性能、吹き出す際の騒音等をコントロールし、様々な使用用途に対応することが可能となる。また、放電電極10と高電圧電源との間に、高電圧用コンデンサまたは高電圧用抵抗器を接続していてもよく、これにより、放電電極10への電流を制限し安全性を上げることができる。さらに、静電気除去装置100の性能に対する必須条件になっている正負のイオンの出力バランスの向上にも寄与することができる。
【0033】
以上、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。
【0034】
特に、今回開示された実施形態において、明示されていない事項、例えば、作動条件や操作条件、構成物の寸法、重量などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な事項を採用している。
【0035】
例えば、より大きな対象物の除電除塵を一括で行うために数多く(9本より多い数)のイオン吹き出し口5を設けてもよい。逆に、より小さな対象物のためにイオン吹き出し口5の数を減らしてもよい。
【0036】
また、前述の説明では、エアー供給装置を静電気除去装置100とは別に用意し、当該静電気除去装置100の外側に配備していたが、エアー供給装置、すなわち、エアー制御のためのレギュレーター、ソレノイドバルブ等を静電気除去装置100内に組み込むようにしてもよい。
【0037】
また、本発明のノズル部9のエアー供給側に高度なエアーフィルターを付加したり、圧力調整のためのレギュレーターおよび圧力計を付属させてもよい。
【符号の説明】
【0038】
1 ケーシング(外装ケーシング)
2 電源入力部
3 エアー入力部
4 電源スイッチ
5 イオン吹き出し口
6 電源ランプ
7 警告ランプ
8 スタンド
9 ノズル部
10 放電電極
11 CDA導管
12 CDA通路
13 底板
14 立設板
15 垂下板
16 ボルト
17 長孔
18 鍔部
19 張り出し部
20 放出孔
21 網部
100 静電気除去装置