(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039303
(43)【公開日】2024-03-22
(54)【発明の名称】操舵制御装置及び操舵制御方法
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20240314BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20240314BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D101:00
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022143755
(22)【出願日】2022-09-09
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-07-26
(71)【出願人】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【弁理士】
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100154070
【弁理士】
【氏名又は名称】久恒 京範
(74)【代理人】
【識別番号】100153280
【弁理士】
【氏名又は名称】寺川 賢祐
(74)【代理人】
【識別番号】100167793
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 学
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 元哉
【テーマコード(参考)】
3D232
【Fターム(参考)】
3D232CC20
3D232CC22
3D232DA03
3D232DA22
3D232DA23
3D232DA27
3D232DA32
3D232DA88
3D232DA90
3D232DA92
3D232DA93
3D232DC01
3D232DC08
3D232DD01
3D232DD02
3D232DD06
3D232DD08
3D232DD13
3D232DE02
3D232EA01
3D232EB04
3D232EC23
3D232GG01
(57)【要約】
【課題】車両が加減速する際の追従精度の劣化を抑制する。
【解決手段】操舵制御装置は、前記車両の速度と操舵角と横偏差と方位角偏差と路面の曲率とを所定間隔で取得する第1取得部32と、速度、操舵角、横偏差、方位角偏差及び曲率の関係を示す車両モデルを生成する生成部33と、車両モデルに基づいて算出される推定横偏差及び推定方位角偏差と操舵角と操舵角の変化量と第1重み係数と第2重み係数と第3重み係数と第4重み係数とを含む評価関数の出力値を最小化する操舵角を最適操舵角として算出する算出部34と、車両を加減速させる際の要求加速度を取得する第2取得部36と、要求加速度に応じて、第1重み係数、第2重み係数、第3重み係数、第4重み係数のうちの少なくとも一つの重み係数を更新する更新部37を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両を目標軌道へ追従させるための操舵制御装置であって、
前記車両の速度と、前記車両の操舵角と、前記車両の前記目標軌道に対する横偏差と、前記車両の向きと前記車両が目標とする向きとの差である方位角偏差と、前記車両が走行する路面の曲率とを、所定間隔で取得する第1取得部と、
前記速度、前記操舵角、前記横偏差、前記方位角偏差及び前記曲率の関係を示す車両モデルを生成する生成部と、
前記車両モデルに基づいて算出される推定横偏差と、推定方位角偏差と、前記操舵角と、前記操舵角の変化量と、前記推定横偏差に対応する項の第1重み係数と、前記推定方位角偏差に対応する項の第2重み係数と、前記操舵角に対応する項の第3重み係数と、前記変化量に対応する項の第4重み係数と、を含む評価関数の出力値を最小化する前記操舵角を最適操舵角として算出する算出部と、
前記車両を加減速させる際の要求加速度を取得する第2取得部と、
前記要求加速度に応じて、前記第1重み係数、前記第2重み係数、前記第3重み係数、前記第4重み係数のうちの少なくとも一つの重み係数を更新する更新部と、
を備える、操舵制御装置。
【請求項2】
前記更新部は、前記要求加速度に応じて、前記第2重み係数と前記第4重み係数を更新する、
請求項1に記載の操舵制御装置。
【請求項3】
前記更新部は、前記要求加速度に応じて、前記第1重み係数、前記第2重み係数、前記第3重み係数及び前記第4重み係数の全てを更新する、
請求項1に記載の操舵制御装置。
【請求項4】
前記要求加速度の大きさと、前記第1重み係数、前記第2重み係数、前記第3重み係数及び前記第4重み係数の更新範囲とを対応づけた対応情報を記憶する記憶部を更に備え、
前記更新部は、前記対応情報に含まれる前記更新範囲を参照して、前記第2取得部が取得した前記要求加速度に対応する重み係数の大きさに更新する、
請求項1から3のいずれか1項に記載の操舵制御装置。
【請求項5】
コンピュータが実行する、車両を目標軌道へ追従させるための操舵制御方法であって、
前記車両の速度と、前記車両の操舵角と、前記車両の前記目標軌道に対する横偏差と、前記車両の向きと前記車両が目標とする向きとの差である方位角偏差と、前記車両が走行する路面の曲率とを、所定間隔で取得するステップと、
前記速度、前記操舵角、前記横偏差、前記方位角偏差及び前記曲率の関係を示す車両モデルを生成するステップと、
前記車両モデルに基づいて算出される推定横偏差と、推定方位角偏差と、前記操舵角と、前記操舵角の変化量と、前記推定横偏差に対応する項の第1重み係数と、前記推定方位角偏差に対応する項の第2重み係数と、前記操舵角に対応する項の第3重み係数と、前記変化量に対応する項の第4重み係数と、を含む評価関数の出力値を最小化する前記操舵角を最適操舵角として算出するステップと、
前記車両を加減速させる際の要求加速度を取得するステップと、
前記要求加速度に応じて、前記第1重み係数、前記第2重み係数、前記第3重み係数、前記第4重み係数のうちの少なくとも一つの重み係数を更新するステップと、
を有する、操舵制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵制御装置及び操舵制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両を目標軌道に追従させるための目標操舵角を求め、求めた目標操舵角に応じて車両を走行させる自動操舵システムが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の自動操舵システムにおいては、線形車両予測モデルを用いて、目標軌道へ追従させる操舵角を求めていた。しかし、車両が加減速して車速が変動する場合には、車両が非線形なふるまいをするため、実際の車両の挙動と車両モデルの間にモデル誤差が生じてしまい、制御精度の劣化が生じてしまう。
【0005】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、車両が加減速する際の追従精度の劣化を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様においては、車両を目標軌道へ追従させるための操舵制御装置であって、前記車両の速度と、前記車両の操舵角と、前記車両の前記目標軌道に対する横偏差と、前記車両の向きと前記車両が目標とする向きとの差である方位角偏差と、前記車両が走行する路面の曲率とを、所定間隔で取得する第1取得部と、前記速度、前記操舵角、前記横偏差、前記方位角偏差及び前記曲率の関係を示す車両モデルを生成する生成部と、前記車両モデルに基づいて算出される推定横偏差と、推定方位角偏差と、前記操舵角と、前記操舵角の変化量と、前記推定横偏差に対応する項の第1重み係数と、前記推定方位角偏差に対応する項の第2重み係数と、前記操舵角に対応する項の第3重み係数と、前記変化量に対応する項の第4重み係数と、を含む評価関数の出力値を最小化する前記操舵角を最適操舵角として算出する算出部と、前記車両を加減速させる際の要求加速度を取得する第2取得部と、前記要求加速度に応じて、前記第1重み係数、前記第2重み係数、前記第3重み係数、前記第4重み係数のうちの少なくとも一つの重み係数を更新する更新部と、を備える、操舵制御装置を提供する。
【0007】
また、前記更新部は、前記要求加速度に応じて、前記第2重み係数と前記第4重み係数を更新することとしてもよい。
【0008】
また、前記更新部は、前記要求加速度に応じて、前記第1重み係数、前記第2重み係数、前記第3重み係数及び前記第4重み係数の全てを更新することとしてもよい。
【0009】
また、前記要求加速度の大きさと、前記第1重み係数、前記第2重み係数、前記第3重み係数及び前記第4重み係数の更新範囲とを対応づけた対応情報を記憶する記憶部を更に備え、前記更新部は、前記対応情報に含まれる前記更新範囲を参照して、前記第2取得部が取得した前記要求加速度に対応する重み係数の大きさに更新することとしてもよい。
【0010】
本発明の第2の態様においては、コンピュータが実行する、車両を目標軌道へ追従させるための操舵制御方法であって、前記車両の速度と、前記車両の操舵角と、前記車両の前記目標軌道に対する横偏差と、前記車両の向きと前記車両が目標とする向きとの差である方位角偏差と、前記車両が走行する路面の曲率とを、所定間隔で取得するステップと、前記速度、前記操舵角、前記横偏差、前記方位角偏差及び前記曲率の関係を示す車両モデルを生成するステップと、前記車両モデルに基づいて算出される推定横偏差と、推定方位角偏差と、前記操舵角と、前記操舵角の変化量と、前記推定横偏差に対応する項の第1重み係数と、前記推定方位角偏差に対応する項の第2重み係数と、前記操舵角に対応する項の第3重み係数と、前記変化量に対応する項の第4重み係数と、を含む評価関数の出力値を最小化する前記操舵角を最適操舵角として算出するステップと、前記車両を加減速させる際の要求加速度を取得するステップと、前記要求加速度に応じて、前記第1重み係数、前記第2重み係数、前記第3重み係数、前記第4重み係数のうちの少なくとも一つの重み係数を更新するステップと、を有する、操舵制御方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、車両が加減速する際の経路追従精度の劣化を抑制できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図4】操舵角の算出処理の一例を示すフローチャートである。
【
図5】重み係数の更新処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<運転制御システムの概要>
図1は、運転制御システムSの構成を示す図である。運転制御システムSは、車両の操舵角を制御することにより、車両を目標軌道に沿って走行させるためのシステムである。運転制御システムSは、車両に搭載されている。目標軌道は、予め定められた軌道であり、車両が目標とする複数の走行位置と複数の走行位置それぞれに対応する車両が目標とする向きとを含む。運転制御システムSは、状態特定装置1と、走行制御装置2と、操舵制御装置10を有する。
【0014】
状態特定装置1は、車両の状態を示すパラメータを一定の制御周期で特定する。車両の状態を示すパラメータは、例えば速度、操舵角、横偏差、方位角偏差、及び路面の曲率である。横偏差は、車両の進行方向と直交する方向における当該車両が走行する位置と当該車両が目標とする走行位置との差である。方位角偏差は、車両が走行する位置における車両の向きと当該位置に対応する車両が目標とする向きとの差である。
【0015】
状態特定装置1は、例えば速度センサが測定した車両の速度を取得する。また、状態特定装置1は、例えば操舵角センサが測定した車両の操舵角を取得する。状態特定装置1が取得する操舵角は、ハンドルシャフトの回転角度又は車両の向きと、車両のタイヤの向きとの差である。
【0016】
状態特定装置1は、例えばGPS(Global Positioning System)信号を取得することにより、車両の位置及び向きを取得する。状態特定装置1は、取得した車両の位置と当該車両の位置に対応する車両が目標とする走行位置とに基づいて、車両の横偏差を特定する。状態特定装置1は、取得した車両の向きと当該車両の位置に対応する車両が目標とする向きとに基づいて、車両の方位角偏差を特定する。
【0017】
状態特定装置1は、例えば状態特定装置1が有する記憶部に記憶されている地図情報に基づいて、取得した車両の位置に対応する路面の曲率を特定する。状態特定装置1は、速度、操舵角、横偏差、方位角偏差及び路面の曲率を一定の制御周期で操舵制御装置10に出力する。
【0018】
走行制御装置2は、車両の速度及び向きを制御する。走行制御装置2は、操舵制御装置10が一定の制御周期で出力した、次の制御周期の時刻における操舵角に応じて車両の向きを制御する。
【0019】
操舵制御装置10は、車両を目標軌道へ追従させるべく、操舵角を制御する。操舵制御装置10は、状態特定装置1から入力された車両の状態に対応する車両モデルを生成する。操舵制御装置10は、生成した車両モデルを用いて、車両を目標となる方向に走行させるべく、一定の制御周期で操舵角を算出する。一定の制御周期は、モデル予測制御におけるサンプリング周期である。操舵制御装置10は、算出した操舵角を走行制御装置2に入力することにより、車両を目標方向に走行させる。以下、操舵制御装置10の構成及び動作を詳細に説明する。
【0020】
<操舵制御装置の構成>
操舵制御装置10は、
図1に示すように、記憶部20と制御部30を有する。
【0021】
記憶部20は、コンピュータのBIOS(Basic Input Output System)等を格納するROM(Read Only Memory)、作業領域となるRAM(Random Access Memory)を含む。また、記憶部20は、OS(Operating System)やアプリケーションプログラム、当該アプリケーションプログラムの実行時に参照される種々の情報を格納するHDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)等の大容量記憶装置である。
【0022】
制御部30は、CPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)等のプロセッサである。制御部30は、記憶部20に記憶されたプログラムを実行することによって、第1取得部32、生成部33、算出部34、走行制御部35、第2取得部36及び更新部37として機能する。
【0023】
第1取得部32は、状態特定装置1が出力した車両の状態量を所定間隔(制御周期)で取得する。具体的には、第1取得部32は、車両の速度と、車両の操舵角と、車両の目標軌道に対する横偏差と、車両の向きと車両が目標とする向きとの差である方位角偏差と、車両が走行する路面の曲率とを、所定間隔で取得する。第1取得部32は、取得した車両の状態量を記憶部20に記憶させる。
【0024】
生成部33は、速度、操舵角、横偏差、方位角偏差及び曲率の関係を示す車両モデルを生成する。例えば、生成部33は、
図2に示す参照点に対応する車両モデルを生成する。生成部33は、生成した車両モデルを記憶部20に記憶させる。
【0025】
図2は、車両モデルを示す模式図である。
図2に示す参照点に対応する車両運動は、車速v、横偏差e
z、方位角偏差e
θ、曲率k
rを用いて、下記の式(1)のように表現できる。
【0026】
目標軌道追従中の方位角偏差が極めて小さいと仮定すると、車両の運動方程式を式(2)のように線形化できる。
【0027】
ここで、車両の機構学的関係から任意の曲率軌道を走行中の車両の操舵角は、式(3)のように導出できる。ただし、Lは車両のホイルベースを意味する。
【0028】
式(3)の操舵角を車両へ入力すると、車両が目標軌道に沿って走行した際には、式(4)の仮定が成り立つ。
【0029】
そして、tanδをδ
r近傍でテイラー展開することにより、式(5)を導出できる。
【0030】
式(5)を式(2)に代入することにより、車両の運動方程式を式(6)のように線形化できる。
【0031】
サンプル時間が十分小さいと仮定し、式(6)を前進オイラー法にて離散化すると、式(7)を導出できる。式(7)に基づいてモデル予測制御を設計することにより、発進から停止までの動作を取り扱い可能な操舵制御系を実現できる。
【0032】
算出部34は、生成部33が生成した車両モデルに対応する評価関数の出力値を最小化する操舵角を最適操舵角として算出する。ここで、評価関数は、車両モデルに基づいて算出される推定横偏差と、推定方位角偏差と、操舵角と、操舵角の変化量と、推定横偏差に対応する項の第1重み係数と、推定方位角偏差に対応する項の第2重み係数と、操舵角に対応する項の第3重み係数と、変化量に対応する項の第4重み係数と、を含む。
【0033】
具体的には、まず、算出部34は、第1取得部32が取得した車速に基づく車両モデルに対応する評価関数に、算出した推定横偏差及び推定方位角偏差と、操舵角と、操舵角の変化量とを入力する。そして、算出部34は、評価関数の出力値を最小にする操舵角を最適操舵角として算出する。
【0034】
ここで、状態空間方程式の状態変数xを以下の式(8)で表す場合、観測出力yは式(9)となる。ただし、e
zは推定横偏差であり、e
θは推定方位角偏差である。
【0035】
算出部34は、定常カルマンフィルタで状態変数xを推定し、以下の式(10)に示す評価関数を用いて、モデル予測制御の最適化問題を計算する。式(10)において、pは予測ホライズン、δは操舵角入力、Δδは操舵角入力と直前の制御周期の操舵角入力との差分、各入出力変数の添え字であるmaxとminはそれぞれ信号の上下限値である。Q
1は第1重み係数であり、Q
2は第2重み係数であり、R
1は第3重み係数であり、R
2は第4重み係数である。
【0036】
算出部34は、式(10)に示す評価関数の出力値Jを最小化する最適化計算をすることにより、操舵角を実時間で計算して、車両の目標軌道への追従を実現する。算出部34がこのような操舵角を算出することで、操舵制御装置10は、複数の制御周期それぞれの時刻において、目標軌道との誤差が少ない位置を車両に走行させることができる。
【0037】
なお、算出部34は、例えば、横偏差と方位角偏差を0に収束させることを優先する場合、重み係数Q1とQ2を大きく設定したり、重み係数R1とR2を小さく設定したりする。算出部34は、操舵角の変化量を小さくすることを優先する場合、R2を小さく設定する。
【0038】
走行制御部35は、算出部34が算出した操舵角に基づいて、車両を走行させる。例えば、走行制御部35は、算出部34が算出した操舵角を一定の制御周期で走行制御装置2に出力することにより、算出された操舵角で車両を走行させる。
【0039】
ところで、上述した式(7)の状態方程式は、係数行列内に車速vが含まれているため、車速依存の線形パラメータである。車速が一定である条件下であれば、線形時不変システムと等価となる。一方で、自動運転のように車速が急激に変化する走行を想定した場合には、式(7)に基づくモデル予測制御だと制御精度の劣化や安定性の劣化が懸念される。
これに対して、本実施形態の操舵制御装置10は、車両が加減速する際の経路追従制御の劣化を抑制すべく、後述するように、車両が加減速する際の要求加速度に応じて評価関数の重み係数をリアルタイムに更新する。操舵制御装置10は、重み係数の更新を実行すべく、第2取得部36及び更新部37を有する。
【0040】
第2取得部36は、車両を加減速させる際の要求加速度を取得する。要求加速度は、例えば、ドライバが車両を加減速させるためのアクセル操作やブレーキ操作に応じた加速度である。第2取得部36は、状態特定装置1が検出したドライバのアクセル操作やブレーキ操作から、要求加速度を特定しうる。
【0041】
更新部37は、第2取得部36が取得した要求加速度に応じて、算出部34が最適操舵角として算出する評価関数の重み係数を更新する。本実施形態では、更新部37は、要求加速度に応じて、第1重み係数Q1、第2重み係数Q2、第3重み係数R1、第4重み係数R2のうちの少なくとも一つの重み係数を更新する。
【0042】
更新部37は、車両の走行中(具体的には、自動操舵中)に、要求加速度に応じて重み係数をリアルタイムに更新する。算出部34は、更新部37が更新した重み係数を評価関数に適用して、重み係数の更新が反映された最適操舵角を算出する。そして、走行制御部35は、重み係数の更新が反映された最適操舵角に基づいて、車両を走行させる。このため、車両が加減速する際に、重み係数が直ぐに更新され、更新した重み係数が反映された最適操舵角に基づいて車両を操舵させることになる。この結果、車両が加減速する際の経路追従制御の劣化を抑制できる。
【0043】
更新部37は、要求加速度に応じて、第2重み係数Q2と第4重み係数R2を更新しうる。具体的には、更新部37は、第1重み係数Q1及び第3重み係数R1の値を固定した状態で、第2重み係数Q2及び第4重み係数R2を更新する。第2重み係数Q2及び第4重み係数R2のみを更新する場合のメリットは、下記の通りである。
軌道追従誤差の形態としては、車両と目標軌道の進行方向のずれ(方位角偏差)が生じ、進行方向のずれが修正されていない状態で車両が走行することで目標軌道との横ずれ(横偏差)が生じる。このため、方位角偏差を低減できれば、横偏差も低減できるといえる。そこで、更新部37は、第1重み係数Q1と第2重み係数Q2の中で、第2重み係数Q2を優先して更新する。一方で、第2重み係数Q2を更新すると操舵角が急激に変動するおそれがある。そこで、更新部37は、第4重み係数R2を更新することで、操舵角の急激な変動を抑制する。
【0044】
更新部37は、第1重み係数Q1、第2重み係数Q2、第3重み係数R1及び第4重み係数R2を更新する際に、記憶部20に記憶されたルックアップテーブルを参照してもよい。記憶部20は、要求加速度の大きさと、第1重み係数Q1、第2重み係数Q2、第3重み係数R1及び第4重み係数R2の更新範囲とを対応づけた対応情報を示すルックアップテーブルを記憶している。更新部37は、対応情報に含まれる更新範囲を参照して、第2取得部36が取得した要求加速度に対応する重み係数の大きさに更新する。このようにルックアップテーブルを参照することで、第1重み係数Q1、第2重み係数Q2、第3重み係数R1及び第4重み係数R2をリアルタイムに更新しやすくなる。
【0045】
更新部37は、要求加速度に応じて、第1重み係数Q1、第2重み係数Q2、第3重み係数R1及び第4重み係数R2の全てを更新してもよい。すなわち、更新部37は、車両の速度の変化に応じて、4つの重み係数の全てを更新する。このように全ての重み係数を更新することで、車両が加減速する際の経路追従制御の劣化を効果的に抑制できる。
【0046】
なお、上記では、更新部37は、2つの重み係数又は4つの重み係数を更新することとしたが、これに限定されない。例えば、更新部37は、4つの重み係数のうちの一つの重み係数又は3つの重み係数を更新してもよい。
【0047】
図3は、シミュレーション結果を示す図である。
図3(a)の横軸が時間であり、縦軸が横偏差である。
図3(b)の横軸が時間であり、縦軸が方位角偏差である。また、
図3(a)及び
図3(b)の破線が、重み係数を更新しない比較例の場合の制御応答を示し、
図3(a)及び
図3(b)の実線が、本実施形態のように重み係数を更新した場合の制御応答を示す。比較例の場合には、車両が発進した際(時間が0の際)や、車両が急に加減速した際(時間が約70(s)の際)に、制御精度が劣化している。これに対して、本実施形態のように重み係数を更新した場合には、車両が発進した際や急に加減速した際でも、横偏差及び方位角偏差の精度が改善されている。すなわち、車両の加減速に合わせて重み係数を更新することで、良好な制御応答を実現できる。
【0048】
<操舵制御装置の動作例>
図4は、操舵制御装置10による操舵角の算出処理の一例を示すフローチャートである。
図4の処理は、車両が走行中に行われる。
【0049】
まず、第1取得部32は、状態特定装置1から、車両の速度、車両の操舵角、車両の横偏差、車両の方位角偏差、路面の曲率等の車両の状態量を取得する(ステップS102)。次に、生成部33は、第1取得部32が取得した車両の状態量に対応する車両モデルを生成する(ステップS104)。
【0050】
次に、算出部34は、生成部33が生成した車両モデルに対応する状態空間モデルに、速度、操舵角、横偏差、方位角偏差及び曲率を入力することにより、推定横偏差及び推定方位角偏差を算出する(ステップS106)。
【0051】
次に、算出部34は、生成部33が生成した車両モデルに対応する評価関数に、算出部34が算出した推定横偏差及び推定方位角偏差を入力し、評価関数の出力値を最小にする操舵角を算出する(ステップS108)。
操舵制御装置10は、車両が停止するまで、上述したステップS102~S108の処理を繰り返す。これにより、車両の走行中に、操舵角が最適化される。
【0052】
図5は、操舵制御装置10による重み係数の更新処理の一例を示すフローチャートである。
図5の処理も、車両が走行中に行われる。
まず、第2取得部36は、走行中の車両の要求加速度を取得する(ステップS122)。例えば、第2取得部36は、車両を加減速する際の要求加速度を状態特定装置1から取得する。
【0053】
次に、更新部37は、第2取得部36が取得した要求加速度が変化したか否かを判定する(ステップS124)。そして、ステップS124で要求加速度が変化した場合には(Yes)、更新部37は、要求加速度に応じて、生成部33が生成した車両モデルに対応する評価関数の第1重み係数Q1、第2重み係数Q2、第3重み係数R1及び第4重み係数R2の少なくとも一つの重み係数を更新する(ステップS126)。
【0054】
次に、算出部34は、更新した重み係数を、評価関数に適用する(ステップS128)。そして、算出部34は、前述したステップS108において、更新した重み係数が反映された評価関数を用いて操舵角を算出する。これにより、算出部34は、重み係数が更新された状態で最適な操舵角を算出することになる。
操舵制御装置10は、車両が停止するまで、上述したステップS122~S128の処理を繰り返す。
【0055】
<本実施形態における効果>
上述した本実施形態の操舵制御装置10は、車両モデルに対応する評価関数を最小化する操舵角を最適操舵角として算出する。また、操舵制御装置10は、車両を加減速させる際の要求加速度を取得し、取得した要求加速度に応じて、評価関数の第1重み係数Q1、第2重み係数Q2、第3重み係数R1及び第4重み係数R2の少なくとも一つの重み係数を更新する。
これにより、操舵制御装置10は、車両が加減速する際には、要求加速度に応じて更新した重み係数を評価関数に適用して、最適操舵角を算出することになる。この結果、重み係数を更新しない場合に比べて、車両が加減速する際の経路追従精度の劣化を抑制できる。
【0056】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。
【符号の説明】
【0057】
10 操舵制御装置
20 記憶部
32 第1取得部
33 生成部
34 算出部
35 走行制御部
36 第2取得部
37 更新部