(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039313
(43)【公開日】2024-03-22
(54)【発明の名称】電磁式燃料噴射弁
(51)【国際特許分類】
F02M 51/06 20060101AFI20240314BHJP
【FI】
F02M51/06 A
F02M51/06 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022143769
(22)【出願日】2022-09-09
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】福田 純一
【テーマコード(参考)】
3G066
【Fターム(参考)】
3G066BA19
3G066BA47
3G066CC06U
3G066CE22
(57)【要約】
【課題】電磁式燃料噴射弁において,可動コアが浮遊状態にあるとき,補助ばねの可動コアに対する押圧力が各部で変動しても,可動コアに生じるモーメントを抑制して可動コアの傾きを防ぐようにする。
【解決手段】可動コア41には,その後端面に開口すると共に,底面51aが可動コア41の重心Gよりも可動コア41の前端面側に位置する環状凹部51を設け,この環状凹部51に補助ばね55を収容して,その補助ばね55の前端部を前記底面51aに支承させる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前端部に弁座(27)を有する弁ハウジング(9)と,該弁ハウジング(9)の後端に連設される中空の固定コア(14)と,該固定コア(14)の外周に配設されるコイル(32)と,前記弁座(27)と協働する弁部(42)にロッド(43)が連設されてなる弁体(40)と,前記固定コア(14)の前端面に対向しながら前記弁ハウジング(9)内に摺動可能に配設され,中心部には前記ロッド(43)に貫通される通孔(41b)を有する可動コア(41)と,前記ロッド(43)に固定されると共に前記固定コア(14)の中空部(15)に摺動可能に配設され,前記コイル(32)の通電時,前記固定コア(14)に吸引される前記可動コア(41)により押動されて前記弁体(40)を開弁作動させる開弁側ストッパ(48)と,前記可動コア(41)の前端面に対向しながら前記弁ハウジング(9)の内周面に突設される環状の閉弁側ストッパ(49)と,前記弁体(40)を閉弁方向に付勢する弁ばね(54)と,前記コイル(32)の非通電時,前記弁体(40)の閉弁を許容すべく,前記可動コア(41)を前記開弁側ストッパ(48)から離反させて前記閉弁側ストッパ(49)に当接させるように付勢する補助ばね(55)とを備える電磁式燃料噴射弁であって,
前記可動コア(41)には,その後端面に開口すると共に,底面(51a)が該可動コア(41)の重心(G)よりも該可動コア(41)の前端面側に位置する環状凹部(51)を設け,該環状凹部(51)に前記補助ばね(55)を収容して,その補助ばね(55)の前端部を前記底面(51a)に支承させることを特徴とする,電磁式燃料噴射弁。
【請求項2】
前記開弁側ストッパ(48)を円筒体で構成し,該円筒体の前端面を,前記補助ばね(55)の後端部を支承するばね座面,並びに前記コイル(32)の通電時,前記可動コア(41)に押動される当接面とし,該円筒体の外周に,前記固定コア(14)の内周との間に燃料通路(52)を画成する切欠き(48b)を設けることを特徴とする,請求項1に記載の電磁式燃料噴射弁。
【請求項3】
前記可動コア(41)には,その前後両端面間を連通し,且つ前記環状凹部(51)の一部と重なる燃料通孔(58)を設けることを特徴とする,請求項1又は2に記載の電磁式燃料噴射弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,主として内燃機関の燃料供給系に使用される電磁式燃料噴射弁に関し,特に,前端部に弁座を有する弁ハウジングと,該弁ハウジングの後端に連設される中空の固定コアと,該固定コアの外周に配設されるコイルと,前記弁座と協働する弁部にロッドが連設されてなる弁体と,前記固定コアの前端面に対向しながら前記弁ハウジング内に摺動可能に配設され,中心部には前記ロッドに貫通される通孔を有する可動コアと,前記ロッドに固定されると共に前記固定コアの中空部に摺動可能に配設され,前記コイルの通電時,前記固定コアに吸引される前記可動コアにより押動されて前記弁体を開弁作動させる開弁側ストッパと,前記可動コアの前端面に対向して配設される閉弁側ストッパと,前記弁体を閉弁方向に付勢する弁ばねと,前記コイルの非通電時,前記弁体の閉弁を許容すべく,前記可動コアを前記開弁側ストッパから離反させて前記閉弁側ストッパに当接させるように付勢する補助ばねとを備える電磁式燃料噴射弁の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
かかる電磁式燃料噴射弁は,下記特許文献1に開示されるように既に知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1記載の電磁式燃料噴射弁では,可動コアを閉弁側ストッパとの当接方向へ付勢する補助ばねを可動コア及び開弁側ストッパ間に縮設するにあたり,補助ばねの主要部を開弁側ストッパの軸部外周に嵌装すると共に,補助ばねの前端部を可動コア後端面の浅い座ぐり部に支承させて,補助ばねの位置決めをしながら,その座屈を防ぐようにしている。
【0005】
しかしながら,補助ばねと開弁側ストッパの軸部,補助ばねと座ぐり部の各間には半径方向の遊びが多少とも存在し,これら遊びが可動コアの作動時,補助ばねに横振れを生じさせる。補助ばねが横振れを起こすと,可動コア後端部に対する補助ばねの押圧力が各部で変動し,これが可動コアにモーメントを生じさせる。
【0006】
ところで,特許文献1記載のものでは,
図7に示すように,可動コア41の後端面の座ぐり部60は,可動コア41の重心Gから上方へ大きく離れているため,可動コア41が,開弁側ストッパ48及び閉弁側ストッパ49のいずれとも接触しない浮遊状態にあるとき,補助ばね55の横振れにより,例えば,補助ばね55の可動コア41に対する押圧力が左右でF1>F2と差が生じると,可動コア41に重心G周りのモーメントMが発生し,可動コア41を傾ける。しかも,そのモーメントMは,可動コア41の傾きにつれて増加するので,可動コア41の傾きを助長することになる。
【0007】
而して,可動コアが傾いた状態で固定コアに吸着される場合には,固定コアへの適正な吸着状態に遅れが生じて弁体の開弁を遅らせる。また,可動コアが傾いた状態で閉弁側ストッパに当接する場合には,可動コアが閉弁側ストッパに偏当たりしてバウンシングを生じる等の不都合を招く。
【0008】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので,可動コアが開弁側ストッパ及び閉弁側ストッパのいずれとも接触しない浮遊状態にあるとき,補助ばねの可動コアに対する押圧力が各部で変動しても,可動コアに生じるモーメントを抑制して可動コアの傾きを防ぐようにして,コイル通電時には可動コアの応答性向上を図り,またコイル通電遮断時には,可動コアのバウンシング抑制を可能にする前記電磁式燃料噴射弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために,本発明は,前端部に弁座を有する弁ハウジングと,該弁ハウジングの後端に連設される中空の固定コアと,該固定コアの外周に配設されるコイルと,前記弁座と協働する弁部にロッドが連設されてなる弁体と,前記固定コアの前端面に対向しながら前記弁ハウジング内に摺動可能に配設され,中心部には前記ロッドに貫通される通孔を有する可動コアと,前記ロッドに固定されると共に前記固定コアの中空部に摺動可能に配設され,前記コイルの通電時,前記固定コアに吸引される前記可動コアにより押動されて前記弁体を開弁作動させる開弁側ストッパと,前記可動コアの前端面に対向しながら前記弁ハウジングの内周面に突設される環状の閉弁側ストッパと,前記弁体を閉弁方向に付勢する弁ばねと,前記コイルの非通電時,前記弁体の閉弁を許容すべく,前記可動コアを前記開弁側ストッパから離反させて前記閉弁側ストッパに当接させるように付勢する補助ばねとを備える電磁式燃料噴射弁であって,前記可動コアには,その後端面に開口すると共に,底面が該可動コアの重心よりも該可動コアの前端面側に位置する環状凹部を設け,該環状凹部に前記補助ばねを収容して,その補助ばねの前端部を前記底面に支承させることを第1の特徴とする。
【0010】
また,本発明は,第1の特徴に加えて,前記開弁側ストッパを円筒体で構成し,該円筒体の前端面を,前記補助ばねの後端部を支承するばね座面,並びに前記コイルの通電時,前記可動コアに押動される当接面とし,該円筒体の外周に,前記固定コアの内周との間に燃料通路を画成する切欠きを設けることを第2の特徴とする。
【0011】
さらに,本発明は,第1又は第2の特徴に加えて,前記可動コアには,その前後両端面間を連通し,且つ前記環状凹部の一部と重なる燃料通孔を設けることを第3の特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の第1の特徴によれば,補助ばねの可動コアに対する押圧力が,可動コアの重心よりも,可動コアの前端部側に作用することになる。したがって可動コアが開弁側ストッパ及び閉弁側ストッパのいずれとも接触しない浮遊状態にあるとき,補助ばねの可動コアに対する押圧力が各部で変動しても,可動コアに生じるモーメントを抑制して,可動コアの傾きを防ぐことができ,これによりコイル通電時には可動コアの応答性向上に,またコイル通電遮断時には,可動コアのバウンシング抑制に寄与し得る。また,コイル通電遮断時には,可動コアの,環状で広面積の外周側前端面が,弁ハウジングに固設される閉弁側ストッパに当接することで,可動コアのバウンシング抑制に効果的に寄与し得る。
【0013】
本発明の第2の特徴によれば,開弁側ストッパを円筒体で構成し,この円筒体の前端面を,補助ばねの後端部を支承する支承面,並びに前記コイルの通電時,可動コアに押動される当接面となし,またこの円筒体の外周に,固定コアの内周面との間に燃料通路を画成する切欠きを設けるので,開弁側ストッパの形状を単純化して,電磁式燃料噴射弁のコスト低減に寄与し得る。
【0014】
本発明の第3の特徴によれば,可動コアの燃料通孔及び環状凹部が一部で重なることで,環状凹部に燃料が滞留することを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る内燃機関用電磁式燃料噴射弁の実施形態を示す縦断面図。
【
図2】上記燃料噴射弁の可動コア周辺部を閉弁状態で示す拡大図。
【
図3】上記燃料噴射弁の開弁状態を示す,
図2との対応図。
【0016】
本発明の実施形態について添付の
図1~
図3を参照しながら説明する。
【0017】
先ず
図1において,内燃機関Eのシリンダヘッド5には,燃焼室6に開口する装着孔7が設けられており,燃焼室6に向かって燃料を噴射し得る本発明の電磁式燃料噴射弁Iが前記装着孔7に装着される。本発明の電磁式燃料噴射弁Iでは,燃料噴射側を前方,その反対側を後方とする。
【0018】
この電磁式燃料噴射弁Iの弁ハウジング9は,中空円筒状のハウジングボディ10と,このハウジングボディ10の前端部内周に嵌合して溶接される弁座部材11と,ハウジングボディ10の後端部外周に前端部を嵌合させてハウジングボディ10に溶接される磁性円筒体12と,この磁性円筒体12の後端部に前端部が同軸に結合される非磁性円筒体13とで構成される。非磁性円筒体13の後端部には,中空部15を有する円筒状の固定コア14の前端部が同軸に結合され,この固定コア14の後端部に,前記中空部15に通じる燃料供給筒16が一体に且つ同軸に連設される。
【0019】
磁性円筒体12は,その軸方向中間部にフランジ状のヨーク部12aを一体に有しており,装着孔7の外端を囲繞するようにしてシリンダヘッド5に設けられる環状凹部17に収容されるクッション材18が,シリンダヘッド5及びヨーク部12a間に介装される。
【0020】
燃料供給筒16の入口には,オリフィス部材24と,その下流側に隣接する燃料フィルタ19とが装着される。この燃料供給筒16には,図示しない燃料ポンプの吐出口に連なる燃料分配管20から分岐した燃料供給キャップ21が環状のシール部材22を介して嵌合される。燃料供給キャップ21の頂部にはブラケット23が係止され,このブラケット23は,シリンダヘッド5に立設される不図示の支柱にボルト等によりシリンダヘッド5に着脱可能に締結される。
【0021】
燃料供給キャップ21と,燃料供給筒16の中間部に設けられて燃料供給キャップ21側に臨む環状段部25との間には,板ばねからなる弾性部材26が介装される。この弾性部材26が発揮する弾発力で電磁式燃料噴射弁Iがシリンダヘッド5に保持される。
【0022】
弁座部材11は,端壁部11aを前端部に有して有底円筒状に形成されており,前記端壁部11aには,円錐状の弁座27が形成されると共に,その弁座27の中心近傍に開口する複数の燃料噴孔28が設けられる。この弁座部材11は,燃料噴孔28を燃焼室6に向けて開口するようにしてハウジングボディ10の前端部に嵌合,溶接される。即ち弁ハウジング9が,その前端部に弁座27を有するように構成される。
【0023】
磁性円筒体12の後端部から固定コア14に至る外周面にはコイル組立体30が嵌装される。このコイル組立体30は,上記外周面に嵌合するボビン31と,このボビン31に巻装されるコイル32とからなり,このコイル組立体30を囲繞する磁性体のコイルハウジング33の前端部が磁性円筒体12と結合される。
【0024】
固定コア14の後端部外周は,コイルハウジング33の後端部に連なってモールド成形される合成樹脂製の被覆層34で被覆されており,この被覆層34には,コイル32に連なる端子35を保持するカプラ34aが電磁式燃料噴射弁Iの一側方に突出するように一体に形成される。
【0025】
固定コア14の前端部に,固定コア14に外周面を連ねるようにして非磁性円筒体13の後端部が嵌合され,液密に溶接される。
【0026】
弁座部材11から非磁性円筒体13に至る弁ハウジング9内には,弁体40と可動コア41とが収容される。弁体40は,弁座27と協働して燃料噴孔28を開閉する弁部42に,固定コア14内まで延びるロッド43が連設されてなる。
【0027】
弁部42は,弁座部材11内で摺動するよう球状に形成され,ロッド43は弁部42よりも小径に形成される。弁座部材11及びロッド43間には環状の燃料通路44が画成され,弁部42の外周面には,弁座部材11との間に燃料通路を画成する複数の平面部45が形成される。
【0028】
図2及び
図3に示すように,前記ロッド43の上端部には,固定コア14の中空部15に摺動可能に配設される開弁側ストッパ48が固着される。その際,ロッド43は,開弁側ストッパ48が有する中心孔48aに挿通され,その挿通部で開弁側ストッパ48はロッド43に溶接により固着される。
【0029】
図2,
図3及び
図5に示すように,前記開弁側ストッパ48は円筒体で構成され,その外周には,その周方向に沿って等間隔に並ぶ複数の平面状の切欠き48bが設けられ,これら切欠き48bは,固定コア14の内周面との間に,開弁側ストッパ48の前後両端面間を連通する燃料通路52を画成する。
【0030】
再び
図1及び
図2において,固定コア14の中空部15にはパイプ状のリテーナ53が嵌挿されてかしめ固定される。このリテーナ53と前記開弁側ストッパ48の後端面との間には弁体40を弁座27への着座方向,即ち閉弁方向へ付勢する,コイルばねよりなる弁ばね54が縮設される。その際,前記ロッド43の後端部は,開弁側ストッパ48の後端面より突出して弁ばね54の前端部内周に嵌合し,弁ばね54の位置決めの役目を果たす。
【0031】
前記可動コア41は,その後端面(被吸引面41a)を固定コア14の前端面(吸引面14a)に対向させながら,弁ハウジング9の内周面に摺動自在に嵌合される。この可動コア41は,その中心部に前記ロッド43に摺動可能に挿通される通孔41bが設けられている。
【0032】
磁性円筒体12の内周面には,可動コア41の外周側の前端面に対向する環状の閉弁側ストッパ49が圧入して固定される。この閉弁側ストッパ49の位置決めのため,閉弁側ストッパ49の外周部前端面を支承する環状の位置決め段部47が磁性円筒体12の内周に形成される。
【0033】
可動コア41と前記開弁側ストッパ48との間には,可動コア41を閉弁側ストッパ49に向かって付勢する,コイルばねよりなる補助ばね55が縮設される。この補助ばね55のセット荷重は,前記弁ばね54のそれより小さく設定される。
【0034】
再び
図2~
図4において,前記可動コア41には,可動コア41と同心の環状凹部51が設けられる。この環状凹部51は,可動コア41の後端面に開口すると共に,その底面51aが可動コア41の重心Gよりも可動コアの前端面側に位置するように形成される。この環状凹部51に前記補助ばね55が収容され,この補助ばね55の前端部が環状凹部51の底面51aに支承される。したがって,環状凹部51の底面51aは,可動コア41の重心Gから可動コアの前端面側に離れて補助ばね55の前端部を支承するばね座面になっている。
【0035】
一方,前記開弁側ストッパ48の平坦な前端面は,前記補助ばね55の後端部を支承するばね座面と,コイルの通電時,可動コア41に押圧される当接面になっている。
【0036】
また可動コア41には,その前後両端面間を連通する環状配列の複数の燃料通孔58が,前記環状凹部51の一部と重なるように設けられる。
【0037】
而して,弁体40が閉弁位置あり,且つ可動コア41が閉弁側ストッパ49との当接位置にあるとき,固定コア14の前端面(吸引面14a)と可動コア41の後端面(被吸引面41a)との間には,弁体40の開閉ストロークに対応する間隔が確保され,そして開弁側ストッパ48の前端面は,前記間隔の中間位置を占めるようになっている。したがって,コイル32の通電に伴い固定コア14が可動コア41を吸引したときは,可動コア41は,先ず開弁側ストッパ48に当接し,押動しながら固定コア14に吸着されるタイミングとなる。
【0038】
尚,
図2~
図4中,符号36は,弁ハウジング9及び可動コア41間の摺動間隙,符号37は可動コア41及びロッド43間の摺動間隙,符号38は固定コア14及び開弁側ストッパ48間の摺動間隙を示す。
【0039】
次に,この実施形態の作用について説明する。
【0040】
電磁式燃料噴射弁Iにおいて,コイル32の非通電状態では,弁体40は,弁ばね54のセット荷重によって押圧されることで,弁座27に着座して燃料噴孔28を閉鎖する閉弁状態となる。この閉弁状態では,図示しない燃料ポンプから燃料分配管20に吐出される高圧燃料が燃料供給キャップ21を通して燃料供給筒16に供給され,燃料噴射弁Iの内部,即ち燃料供給筒16,パイプ状のリテーナ53,固定コア14内の燃料通路52,可動コア41の燃料通孔58及び環状凹部51,弁ハウジング9内を満たして待機する。
【0041】
その際,燃料ポンプの吐出圧変動等に起因して燃料分配管20内に発生する燃料圧力の脈動は,燃料供給筒16の入口のオリフィス部材24のオリフィスにより減衰され,燃料噴射弁I内部への影響を解消,もしくは軽減する。
【0042】
一方,
図2に示すように,可動コア41は,このような閉弁状態では,補助ばね55のセット荷重によって閉弁側ストッパ49との当接状態に保持され,固定コア14との間に所定の前記間隔を保っている。
【0043】
このような閉弁状態でコイル32に通電すると,固定コア14及び可動コア41間に生じる磁力により,可動コア41は,固定コア14に吸引されるので,先ず,補助ばね55を圧縮しながら,ロッド43上を後方へ摺動して開弁側ストッパ48に当接する。即ち可動コア41は,その初動時,弁ばね54よりセット荷重が小さい補助ばね55を素早く圧縮しながら固定コア14に近接して,固定コア14からの吸引力を急増させるので,加速的に移動して,
図3に示すように,開弁側ストッパ48を押圧する。
【0044】
したがって,可動コア41は,開弁側ストッパ48を伴いながら,弁ばね54の大なるセット荷重に抗して速やかに更に後方へ移動して可動コア41の吸引面14aに吸着される。
【0045】
こうして可動コア41により後方へ押動される開弁側ストッパ48は,弁体40のロッド43に固定されているので,弁部42を弁座27から離座させ,開弁状態とすることになる。
【0046】
弁体40が開弁すると,弁ハウジング9等の内部で待機する高圧燃料が燃料噴孔28から内燃機関Eの燃焼室6に直接噴射される。このようにして,弁体40の開弁応答性が高められると共に,コイル32の消費電力の軽減を図ることができる。
【0047】
次に,コイル32への通電を遮断すると,弁ばね54の付勢力により開弁側ストッパ48が押動されるので,開弁側ストッパ48は弁体40を伴なって弁座27側に即座に移動し,弁部42を弁座27に着座させ,閉弁状態となって燃料噴孔28からの燃料噴射を停止する。この弁体40の閉弁状態は,弁ばね54の大なるセット荷重により確実に保持される。
【0048】
一方,可動コア41は,補助ばね55の付勢力により前方へ押動されて閉弁側ストッパ49に受け止められる。
【0049】
ところで,補助ばね55は,その略全体が,可動コア41の環状凹部51に収容されるので,その伸縮動作が環状凹部51の内外周面により案内され,補助ばね55の座屈を防ぐことができる。
【0050】
しかしながら,補助ばね55と,環状凹部51の内外周面との間には,補助ばね55の伸縮動作を許容する微小間隙が存在する。このため,エンジンの振動等により補助ばね55に横振れが生じたときと,可動コア41の後方又は前方への移動過程で,可動コア41が開弁側ストッパ48及び閉弁側ストッパ49の何れとも接触しない浮遊状態のときとが重なると,
図6に示すように,例えば,補助ばね55の,可動コア41における環状凹部51の底面51aに対する押圧力が,その底面51aの直径方向両端位置でF1>F2のように差が生じることがある。このような押圧力の差によれば,可動コア41に,その重心G周りの傾きモーメントMが作用するが,F1,F2の作用点は重心Gの下方にあるため,上記モーメントMにより可動コア41が傾くと,ヤジロベー効果により復元モーメントM′が直ぐに発生する。
【0051】
その結果,可動コア41は,傾きのない,もしくは少ない適正姿勢をもって閉弁側ストッパ49や固定コア14に接触することができる。これにより,上記接触部の摩耗を防止できるのみならず,コイル32の通電時には,可動コア41の応答性が向上して弁体40の開弁特性の安定化を図り,またコイル32の通電遮断時には,可動コア41の閉弁側ストッパ49への偏当たりを防いで,バウンシングの抑制を図ることができる。
【0052】
しかも,コイル32の通電遮断時には,可動コア41の,環状で広面積の外周側前端面が,弁ハウジング9に固設される閉弁側ストッパ49に当接することで,可動コア41のバウンシングの抑制をより効果的に図ることができる。
【0053】
また,開弁側ストッパ48は円筒体で構成され,この円筒体の前端面は,補助ばねの後端部を支承するばね座面と,コイル32の通電時,可動コア41に押動される当接面とに利用され,またこの円筒体の外周面には,固定コア14の内周との間に燃料通路52を画成する切欠き48bが設けられるので,開弁側ストッパ48の形状を単純化して,電磁式燃料噴射弁Iのコスト低減を図ることができる。
【0054】
さらに,可動コア41には,その前後両端面間を連通し,且つ前記環状凹部51の一部と重なる複数の燃料通孔58が設けられるので,燃料が可動コア41の燃料通孔58を通過する際,環状凹部51内でも燃料の流れが生じることになり,環状凹部51に燃料が滞留することを防ぐことができる。
【0055】
以上,本発明の実施の形態について説明したが,本発明は上記実施形態に限定されるものではなく,特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行うことが可能である。例えば,開弁側ストッパ48の外周面の切欠き48bは,溝状に形成することもできる。また,前記閉弁側ストッパ49は,弁ハウジング9の内周に一体に形成することもできる。
【符号の説明】
【0056】
I・・・・電磁式燃料噴射弁
G・・・・可動コアの重心
9・・・・弁ハウジング
12・・・磁性円筒体
13・・・非磁性円筒体
14・・・固定コア
14a・・吸引面
15・・・中空部
27・・・弁座
32・・・コイル
40・・・弁体
41・・・可動コア
41a・・被吸引面
41b・・可動コアの通孔
42・・・弁部
43・・・ロッド
48・・・開弁側ストッパ
48a・・中心孔
48b・・切欠き
49・・・閉弁側ストッパ
51・・・環状凹部
51a・・環状凹部の底面
52・・・燃料通路
54・・・弁ばね
55・・・補助ばね
58・・・燃料通孔