(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039322
(43)【公開日】2024-03-22
(54)【発明の名称】昇圧ポンプおよび水素供給システム
(51)【国際特許分類】
F04B 39/00 20060101AFI20240314BHJP
F04B 15/08 20060101ALI20240314BHJP
【FI】
F04B39/00 107J
F04B15/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022143781
(22)【出願日】2022-09-09
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原田 基至
(72)【発明者】
【氏名】中道 憲治
(72)【発明者】
【氏名】木原 勇一
(72)【発明者】
【氏名】浅井 英明
(72)【発明者】
【氏名】光田 公彦
【テーマコード(参考)】
3H003
3H075
【Fターム(参考)】
3H003AA02
3H003AC04
3H003AD01
3H003AD03
3H003BC03
3H003CB00
3H003CD03
3H075AA15
3H075BB03
3H075CC16
3H075DA03
3H075DA04
(57)【要約】
【課題】昇圧ポンプおよび水素供給システムにおいて、シール性能の向上を図る。
【解決手段】圧縮室を有するシリンダと、低温流体を圧縮室に吸入する吸入弁と、シリンダに移動自在に支持されて圧縮室の低温流体を圧縮するピストンと、圧縮室の低温流体を吐出する吐出弁と、ピストンの外周部に設けられるピストンリングと、を備え、ピストンリングは、シリンダの内周面側に位置するピストンリング本体と、ピストンリング本体よりピストンの中心側に位置するインナーリングと、を有し、インナーリングの硬度がピストンリング本体の硬度より低い。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮室を有するシリンダと、
低温流体を前記圧縮室に吸入する吸入弁と、
前記シリンダに移動自在に支持されて前記圧縮室の低温流体を圧縮するピストンと、
前記圧縮室の低温流体を吐出する吐出弁と、
前記ピストンの外周部に設けられるピストンリングと、
を備え、
前記ピストンリングは、
前記シリンダの内周面側に位置するピストンリング本体と、
前記ピストンリング本体より前記ピストンの中心側に位置するインナーリングと、
を有し、
前記インナーリングの硬度が前記ピストンリング本体の硬度より低い、
昇圧ポンプ。
【請求項2】
前記ピストンリング本体は、ポリエーテルエーテルケトンを主成分とするPEEK系材料により形成され、前記インナーリングは、ポリテトラフルオロエチレンを主成分とするPTFE材料により形成される、
請求項1に記載の昇圧ポンプ。
【請求項3】
前記ピストンリング本体は、前記圧縮室側に位置する高圧ピストンリング本体と、前記高圧ピストンリング本体より前記圧縮室とは反対側に位置する低圧ピストンリング本体とを有し、前記低圧ピストンリング本体の硬度が前記高圧ピストンリング本体の硬度より低い、
請求項1または請求項2に記載の昇圧ポンプ。
【請求項4】
前記インナーリングの硬度が前記低圧ピストンリング本体の硬度以下である、
請求項3に記載の昇圧ポンプ。
【請求項5】
前記高圧ピストンリング本体は、ポリエーテルエーテルケトンを主成分とするPEEK系材料により形成され、前記低圧ピストンリング本体は、ポリテトラフルオロエチレンを主成分とするPTFE材料により形成される、
請求項3に記載の昇圧ポンプ。
【請求項6】
前記ピストンは、外周部に環状溝が形成され、前記環状溝の最も径方向の外側に前記ピストンリング本体が配置され、前記環状溝の前記ピストンリング本体より径方向に内側に前記インナーリングが配置され、前記環状溝の前記インナーリングより径方向に内側にバックアップリングが配置され、前記バックアップリングは、ステンレス鋼により形成される、
請求項1に記載の昇圧ポンプ。
【請求項7】
前記ピストンリングは、前記ピストンの移動方向に間隔を空けて複数設けられ、前記ピストンは、複数の前記ピストンリングの軸方向一方側と他方側にそれぞれウェアリングが設けられ、前記ウェアリングは、ポリテトラフルオロエチレンを主成分とするPTFE材料により形成される、
請求項1に記載の昇圧ポンプ。
【請求項8】
請求項1に記載の昇圧ポンプを有して低温流体としての液体水素を圧縮する圧縮装置と、
前記圧縮装置により圧縮された液体水素を気化する蒸発装置と、
前記蒸発装置により気化された水素ガスを供給するディスペンサと、
を備える水素供給システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、液体水素などの低温流体を昇圧する昇圧ポンプ、昇圧ポンプを有する水素供給システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の昇圧ポンプとしては、例えば、下記特許文献1に記載されたものがある。特許文献1に記載された昇圧ポンプは、圧縮室を有するシリンダブロックと、低温流体を圧縮室に吸入する吸入弁と、圧縮室の低温流体を圧縮するピストンと、圧縮された低温流体を吐出する吐出弁とを備える。また、昇圧ポンプは、ピストンがシリンダブロックに移動自在支持される。そして、ピストンは、外周部にピストンリングが装着され、圧縮室からの高圧の低温流体の漏えいを阻止している。このようなピストンリングとしては、例えば、下記特許文献2に記載されたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4031807号公報
【特許文献2】特許第6193291号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のピストンリングは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やポリエーテル・エーテル・ケトン(PEEK)のなど樹脂材料が使用される。ピストンリングは、低摩擦、低摩耗、高強度を有する高いシール性能が求められる。しかし、昇圧ポンプで適用する低温流体の圧力が超高圧(例えば、100MPa)になると、十分な性能を確保することが困難になるという課題がある。
【0005】
本開示は、上述した課題を解決するものであり、シール性能の向上を図る昇圧ポンプおよび水素供給システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するための本開示の昇圧ポンプは、圧縮室を有するシリンダと、低温流体を前記圧縮室に吸入する吸入弁と、前記シリンダに移動自在に支持されて前記圧縮室の低温流体を圧縮するピストンと、前記圧縮室の低温流体を吐出する吐出弁と、前記ピストンの外周部に設けられるピストンリングと、を備え、前記ピストンリングは、前記シリンダの内周面側に位置するピストンリング本体と、前記ピストンリング本体より前記ピストンの中心側に位置するインナーリングと、を有し、前記インナーリングの硬度が前記ピストンリング本体の硬度より低い。
【0007】
また、本開示の水素供給システムは、前記昇圧ポンプを有して低温流体としての液体水素を圧縮する圧縮装置と、前記圧縮装置により圧縮された液体水素を気化する蒸発装置と、前記蒸発装置により気化された水素ガスを供給するディスペンサと、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示の昇圧ポンプおよび水素供給システムよれば、シール性能の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、第1実施形態の水素供給システムの全体構成を表す模式図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態の昇圧ポンプの要部を表す縦断面図である。
【
図4】
図4は、ピストンリングの装着部を表す断面図である。
【
図5】
図5は、ピストンリングに作用する圧力分布を説明する概略図である。
【
図6】
図6は、ピストンリングの動作を説明する概略図である。
【
図7】
図7は、第2実施形態の昇圧ポンプに適用されるピストンリングの装着部を表す断面図である。
【
図8】
図8は、ピストンリングに作用する圧力分布を説明する概略図である。
【
図9】
図9は、ピストンリングの動作を説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に図面を参照して、本開示の好適な実施形態を詳細に説明する。なお、この実施形態により本開示が限定されるものではなく、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせて構成するものも含むものである。また、実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。
【0011】
[第1実施形態]
<水素供給システム>
図1は、第1実施形態の水素供給システムの全体構成を表す模式図である。
【0012】
図1に示すように、水素供給システム10は、コンテナ11に貯留される液体水素を所定圧力の水素ガスとして車両12の動力源に供給(補給)する。ここで、動力源は、例えば、燃料電池またはや水素エンジンなどであり、車両12に搭載される。水素供給システム10は、例えば、燃料である水素ガスを車両12の動力源に供給(補給)する、いわゆる、水素スタンド施設である。但し、水素供給システム10は、水素ガスを車両12の動力源に供給するものに限らず、低温流体(例えば、液体水素、液体窒素、液体酸素、液化炭酸ガス、液化天然ガス、液化プロパンガス等)を圧縮して供給するものである。
【0013】
水素供給システム10は、圧縮装置21と、蒸発装置22と、ディスペンサ23とを有する。圧縮装置21は、コンテナ11から供給される液体水素(低温流体)を予め設定された所定の高圧(高圧状態)まで圧縮する。蒸発装置22は、圧縮装置21により圧縮された高圧の液体水素を気化することで水素ガスを発生させる。ディスペンサ23は、蒸発装置22により発生した水素ガスを車両12の動力源に充填する。
【0014】
なお、圧縮装置21は、コンテナ11に貯留された液体水素を所定の高圧まで圧縮したが、この構成に限定されない。例えば、コンテナ11が水素ガスを貯留していた場合、圧縮装置21は、コンテナ11に貯留された水素ガスを所定の高圧まで圧縮してもよい。
【0015】
圧縮装置21は、駆動モータ31と、昇圧ポンプ32とを有する。駆動モータ31は、外部から供給される電力によって駆動可能な電動機である。駆動モータ31は、回転数がインバータ(図示略)により制御される。駆動モータ31は、回転力を昇圧ポンプ32に伝達する。昇圧ポンプ32は、駆動モータ31の回転力により作動する。
【0016】
<圧縮装置>
図2は、圧縮装置を表す概略構成図である。
【0017】
図2に示すように、駆動モータ31は、減速機33を介して昇圧ポンプ32が連結される。減速機33は、駆動モータ31の回転力を減速して昇圧ポンプ32に伝達する。昇圧ポンプ32は、往復動式のポンプである。昇圧ポンプ32は、減速機33により減速された駆動モータ31の回転力を往復動力に変換して作動する。昇圧ポンプ32は、往復動力により液体水素の吸入と圧縮(昇圧)とを交互に行うことで、吸入した液体水素を所定の高圧状態に圧縮して外部に吐出する。
【0018】
昇圧ポンプ32は、クランク機構34と、クロスヘッド35と、ピストンロッド36と、ピストン37と、シリンダブロック38とを有する。
【0019】
クランク機構34は、減速機33から伝達された回転力を直線の往復動力に変換し、クロスヘッド35に伝達する。クロスヘッド35は、クランク機構34から伝達された鉛直方向VDの往復動力により鉛直方向VDに往復動する。ピストンロッド36は、上端部がクロスヘッド35に連結され、他端部にピストン37が連結される。シリンダブロック38は、中空形状をなし、内部にピストン37が鉛直方向VDに沿って移動自在に支持される。
【0020】
昇圧ポンプ32は、下部、つまり、シリンダブロック38が容器39の内部に配置される。容器39は、断熱真空容器であり、昇圧ポンプ32と共に内部が真空状態に維持される。容器39は、内部に液体水素が供給され、大気圧状態に満たされる。
【0021】
昇圧ポンプ32が作動すると、まず、ピストン37が上昇する吸入工程にて、容器39の液体水素がシリンダブロック38の内部に吸入される。次に、ピストン37が下降する圧縮工程にて、シリンダブロック38の内部の液体水素が圧縮され、高圧の液体水素が容器39の外部に吐出される。
【0022】
<昇圧ポンプ>
図3は、第1実施形態の昇圧ポンプの要部を表す縦断面図である。
【0023】
図3に示すように、昇圧ポンプ32は、ピストン37と、シリンダブロック(シリンダ)38と、吸入弁41と、吐出弁42とを備える。
【0024】
シリンダブロック38は、シリンダとして機能し、内部に嵌合孔51が形成される。ピストン37は、シリンダブロック38の嵌合孔51に軸方向に移動自在に支持される。ピストン37と嵌合孔51は、軸心Oを中心とした円形断面をなす。シリンダブロック38は、嵌合孔51にピストン37が配置されることで、圧縮室52が区画される。ピストン37が下降すると、圧縮室52の容積が減少し、圧縮室52の液体水素が圧縮される。
【0025】
吸入弁41と吐出弁42は、シリンダブロック38に設けられ、圧縮室52に連通する。吸入弁41は、ピストン37が上昇する吸入工程で開放され、液体水素をシリンダブロック38の圧縮室52に吸入する。吐出弁42は、ピストン37が下降する圧縮工程で開放され、圧縮室52で圧縮された高圧の液体水素を外部に吐出する。
【0026】
また、昇圧ポンプ32は、ピストンリング61と、ウェアリング62とを備える。すなわち、ピストン37は、外周部にピストンリング61とウェアリング62が設けられる。ピストンリング61とウェアリング62は、ピストン37の外周部にピストン37の移動方向である軸心Oの方向に間隔を空けて配置される。ピストンリング61は、軸心Oの方向に間隔を空けて複数(本実施形態では、3個)配置される。但し、ピストンリング61の数は、3個に限定されるものではない。ウェアリング62は、複数のピストンリング61の軸心Oの方向の一方側に間隔を空けて配置される。但し、ウェアリング62の数は、1個に限定されるものではない。
【0027】
<ピストンリング>
図4は、ピストンリングの装着部を表す断面図である。
【0028】
図4に示すように、ピストンリング61は、ピストンリング本体71と、インナーリング72と、バックアップリング73とを有する。ピストンリング本体71とインナーリング72とバックアップリング73は、リング形状をなすが、外径および内径の寸法がそれぞれ相違する。
【0029】
ピストン37は、外周面に周方向に沿って環状溝74が形成される。環状溝74は、天井面74aと、側面74bと、底面74cとから構成される矩形断面形状をなし、嵌合孔51の内周面側に開口する。環状溝74は、天井面74aと側面74bと底面74cがそれぞれ平面である。環状溝74は、天井面74aと底面74cが平行をなして対向し、天井面74aと底面74cが側面74bと略直角をなす。また、環状溝74は、側面74bがシリンダブロック38の嵌合孔51の内面と平行をなして対向する。
【0030】
ピストンリング61は、環状溝74に配置される。すなわち、ピストンリング本体71は、環状溝74にて、径方向の外方、つまり、嵌合孔51の内周面側に配置される。インナーリング72は、ピストンリング本体71より径方向の内方、つまり、ピストン37の中心(軸心O)側に配置される。バックアップリング73は、インナーリング72より径方向の内方、つまり、ピストン37の中心(軸心O)側に配置される。ピストンリング61は、環状溝74にて、径方向の外方から内方に向けて、ピストンリング本体71、インナーリング72、バックアップリング73の順に配置されて構成される。
【0031】
ピストンリング本体71は、外周面71aと、上面71bと、内周面71cと、下面71dとを有する。ピストンリング本体71は、外周面71aが嵌合孔51の内周面に対向し、上面71bが環状溝74の天井面74aに対向し、内周面71cが環状溝74の側面74b側に位置し、下面71dが環状溝74の底面74cに対向する。インナーリング72は、外周面72aと、上面72bと、内周面72cと、下面72dとを有する。インナーリング72は、外周面72aがピストンリング本体71の内周面71cに対向し、上面72bが環状溝74の天井面74aに対向し、内周面72cが環状溝74の側面74b側に位置し、下面72dが環状溝74の底面74cに対向する。バックアップリング73は、外周面73aと、上面73bと、内周面73cと、下面73dとを有する。バックアップリング73は、外周面73aがインナーリング72の内周面72cに対向し、上面73bが環状溝74の天井面74aに対向し、内周面73cが環状溝74の側面74b側に対向し、下面73dが環状溝74の底面74cに対向する。
【0032】
ピストンリング本体71は、環状溝74に配置され、ピストンリング本体71とインナーリング72とバックアップリング73は、環状溝74に作用する圧縮室52(
図3参照)からの液体水素の圧力に応じて移動可能である。
【0033】
ピストンリング本体71とインナーリング72とバックアップリング73とは、異なる材料で形成されることで、硬度が相違する。すなわち、インナーリング72の硬度がピストンリング本体71の硬度より低い。つまり、インナーリング72は、ピストンリング本体71より軟質である。ピストンリング本体71は、ポリエーテルエーテルケトンを主成分とするPEEK系材料により形成される。インナーリング72は、ポリテトラフルオロエチレンを主成分とするPTFE材料により形成される。
【0034】
ここで、硬度とは、デュロメータ硬さであり、デュロメータは、ゴム硬度計である。デュロメータは、決められた形の押針をスプリングの力で試料の表面に押しつけて変形を与え、試料の抵抗力とスプリングの力がバランスした状態での押針の試料への押込み深さに基づいて硬度を測定する。デュロメータは、押針を押し戻す力が大きいほど数値が大きくなり、硬いということである。なお、デュロメータは、米国Shore(ショア)社の商品名である。本実施形態にて、ピストンリング本体71のデュロメータ硬さは、インナーリング72のデュロメータ硬さの1.1倍から1.6倍となることが好ましい。
【0035】
<ピストンリング本体>
ピストンリング本体71は、主成分とされるPEEKと、5重量%以上25重量%以下のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)と、5重量%以上25重量%以下の炭素繊維と、5重量%以上20重量%以下の酸化亜鉛ウィスカとを含む。これらが基本的な組成とされ、それ以外は不可避的に混入する材料である。
【0036】
ピストンリング本体71は、PTFEよりも大きな強度を有するPEEKを主成分として用いた母材となる。PEEKは、固体潤滑機能を有しないため、固体潤滑機能を有するPTFEを添加することとした。PTFEは、5重量%を下回ると固体潤滑効果が発現しないので5重量%以上が好ましい。一方、PTFEは、25重量%を超えると、大幅な固体潤滑効果の向上が期待できないので、25重量%以下が好ましい。なお、PTFEは、20重量%程度が最も好ましい。
【0037】
炭素繊維は、5重量%を下回ると強度の向上が得られないので5重量%以上が好ましい。一方、炭素繊維は、25重量%を超えると脱落が多くなり、脱落した炭素繊維が極低温用耐摩耗性材料を摩耗させることになるので、25重量%以下が好ましい。なお、炭素繊維は、20重量%程度が最も好ましい。炭素繊維としては、PAN系またはピッチ系が好適に用いられ、繊維長が10~1000μm、好ましくは50~200μm、繊維径が1~50μm、好ましくは7~15μmである。
【0038】
酸化亜鉛ウィスカは、5重量%を下回ると炭素繊維の脱落防止機能が得られないので、5重量%以上が好ましい。一方、酸化亜鉛ウィスカは、20重量%を超えても強度および移着効果について大幅な向上が期待できないので、20重量%以下が好ましい。なお、酸化亜鉛ウィスカは、10重量%程度が最も好ましい。酸化亜鉛ウィスカは、核部と核部から4軸方向に延びた針状結晶部からなるテトラポット形状とされることが好ましい。酸化亜鉛ウィスカは、パナテトラという商品名の製品として入手することができる。針状結晶部の長さは3~200μm、好ましくは5~50μmとされ、核部の径は0.1~10μm、好ましくは0.3~3μmである。
【0039】
さらに、略10重量%のブロンズ粉を含むこととしてもよい。PTFEの移着効果の促進が期待できるブロンズ粉を添加することにより、耐摩耗性が向上する。また、ブロンズ粉を10重量%程度に抑えることにより、母材であるPEEKに対する混合が適正化される。ブロンズ粉の組成は、Snが2~15重量%、好ましくは3~12重量%、Cuが85~98重量%、好ましくは88~92重量%である。
【0040】
<インナーリング>
インナーリング72は、主成分とされる35重量%以上のPTFEと、5重量%以上30重量%以下のブロンズ粉と、5重量%以上15重量%以下の炭素繊維と、5重量%以上20重量%以下の酸化亜鉛ウィスカとを含む。これらが基本的な組成とされ、それ以外は不可避的に混入する材料である。
【0041】
インナーリング72は、固体潤滑剤としての機能を有するPTFEを主成分として用いた母材となる。PTFEにブロンズ粉を添加することによって必要強度を確保する。また、ブロンズ粉は、摺動摩擦する相手となる金属材料に対してPTFEの移着を促進させる。PTFEが金属材料に移着されることによって、摩耗が低減される。さらに大きな強度を実現するため、炭素繊維を添加することとした。また、炭素繊維の脱落を防止するために、酸化亜鉛ウィスカを添加する。この酸化亜鉛ウィスカは、さらに、液体水素温度(20K)といった極低温環境下であっても、ブロンズ粉よりもPTFEの金属材料に対する移着効果を促進させる機能を備えている。
【0042】
ブロンズ粉は、5重量%を下回ると所望の強度が得られないので5重量%以上添加することが好ましい。一方、ブロンズ粉は、30重量%を超えても強度および移着効果について大幅な向上が期待できないので、30重量%以下が好ましい。なお、ブロンズ粉は、20重量%程度が最も好ましい。ブロンズ粉の組成は、Snが2~15重量%、好ましくは3~12重量%、Cuが85~98重量%、好ましくは88~92重量%である。
【0043】
炭素繊維は、5重量%を下回ると強度の向上が得られないので5重量%以上が好ましい。一方、炭素繊維は、15重量%を超えると脱落が多くなり、脱落した炭素繊維が極低温用耐摩耗性材料を摩耗させることになるので、15重量%以下が好ましい。なお、炭素繊維は、10重量%程度が最も好ましい。炭素繊維としては、ピッチ系が好適に用いられ、繊維長が10~1000μm、好ましくは50~200μm、繊維径が1~50μm、好ましくは7~15μmとされている。
【0044】
酸化亜鉛ウィスカは、5重量%を下回ると炭素繊維の脱落防止機能が得られないので、5重量%以上が好ましい。一方、酸化亜鉛ウィスカは、20重量%を超えても強度および移着効果について大幅な向上が期待できないので、20重量%以下が好ましい。なお、酸化亜鉛ウィスカは、10重量%程度が最も好ましい。酸化亜鉛ウィスカは、核部とこの核部から4軸方向に延びた針状結晶部からなるテトラポット形状とされことが好ましい。酸化亜鉛ウィスカは、パナテトラという商品名の製品として入手することができる。針状結晶部の長さは3~200μm、好ましくは5~50μmとされ、核部の径は0.1~10μm、好ましくは0.3~3μmとされている。
【0045】
酸化亜鉛ウィスカに対する炭素繊維の重量比は、1.0以上1.5以下とされている。酸化亜鉛ウィスカは炭素繊維の脱落防止機能を有するので、酸化亜鉛ウィスカに対する炭素繊維の重量比が1.5を超えると炭素繊維の脱落が多くなり摩耗を増加させてしまうことから、酸化亜鉛ウィスカに対する炭素繊維の重量比は1.5以下が好ましい。一方、炭素繊維による強度向上を考慮すると、少なくとも酸化亜鉛ウィスカと同等量の炭素繊維が添加されていることが好ましいので、酸化亜鉛ウィスカに対する炭素繊維の重量比は1.0以上が好ましい。
【0046】
<バックアップリング>
バックアップリング73は、ステンレス鋼により形成される。バックアップリング73は、例えば、SUS304、SUS304L、SUS316、SUS316Lのいずれかを使用することが好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0047】
<ウェアリング>
ウェアリング62は、シリンダブロック38の嵌合孔51に支持されるピストン37などの軸受として機能し、焼付きや偏心を防止する。ウェアリング62は、ポリテトラフルオロエチレンを主成分とするPITE材料により形成される。ウェアリング62に使用するPTFE材料は、インナーリング72と同様である。
【0048】
<ピストンリングの応力分布>
図5は、ピストンリングに作用する圧力分布を説明する概略図である。
【0049】
図4に示すように、ピストン37の環状溝74に配置されるピストンリング61は、下方の圧縮室52(
図3参照)の高圧の液体水素から圧力Pを受ける。圧力Pは、ピストン37の外周面と嵌合孔51の内周面との隙間を通ってピストンリング61の下部に作用する。そして、圧力Pは、ピストンリング61と環状溝74との隙間を通ってピストンリング61の内周面(バックアップリング73の内周面73c)側に作用し、ピストンリング61の外周面(ピストンリング本体71の外周面71a)を嵌合孔51の内周面に押圧してシールする。
【0050】
このとき、
図5に示すように、ピストンリング61は、外周面と内周面に圧力分布が発生する。すなわち、ピストンリング61は、圧縮室52である下方側が高圧となり、上方側が低圧となる。そのため、ピストンリング61の外周面は、上方側の圧力に対して下方側の圧力が高くなるような圧力分布となる。また、ピストンリング61の内周面は、上方側の圧力と下方側の圧力が同等になるような圧力分布となる。具体的に、ピストンリング本体71の外周面71aは、上方側の圧力に対して下方側の圧力が高くなるような圧力分布となる。また、バックアップリング73の内周面は、上方側の圧力と下方側の圧力が同等になるような圧力分布となる。
【0051】
<ピストンリングの動作>
図6は、ピストンリングの動作を説明する概略図である。
【0052】
図5および
図6に示すように、ピストンリング61は、ピストンリング本体71の外周面71aが、上方側の圧力に対して下方側の圧力が高くなるような圧力分布となると、ピストンリング本体71に
図6にて反時計回り方向の回転モーメントMが働く。すると、ピストンリング本体71は、回転モーメントMにより
図6にて反時計回り方向に回動する。ピストンリング本体71が回動すると、外周面71aの上面71b側だけが嵌合孔51の内周面に接触し、内周面71cの下面71d側だけがインナーリング72の外周面72aに接触した状態となる。ピストンリング本体71は、嵌合孔51の内周面およびインナーリング72の外周面72aに対して片当たり状態になると、シール性能が低下する。また、ピストンリング本体71は、片当たり状態が継続すると、ピストン37の移動により局所的な摩耗が進行し、長期的なシール性能を維持することが困難となる。
【0053】
ところが、第1実施形態にて、ピストンリング61は、インナーリング72の硬度がピストンリング本体71の硬度より低い。そのため、ピストンリング本体71が回転モーメントMにより
図6にて反時計回り方向に回動すると、インナーリング72は、ピストンリング本体71における内周面71cの下面71d側から応力を受けて変形する。すなわち、インナーリング72は、上下方向の中間部がバックアップリング73側に反るように変形する。バックアップリングは、内周面73c側に圧力Pが作用しており、インナーリング72は、バックアップリング73からの圧力Pをピストンリング本体71に伝える。すなわち、インナーリング72は、外周面72aの上部(上面72b側)がピストンリング本体71における内周面71cの上部(上面71b側)に接触して押圧し、外周面72aの下部(下面72d側)がピストンリング本体71における内周面71cの下部(下面71d側)に接触して押圧する。
【0054】
その結果、ピストンリング本体71は、変形したインナーリング72の押圧力により回転モーメントMが打ち消され、
図4に示すように、外周面71aにおける軸心Oに沿った全域が嵌合孔51の内周面に接触可能となる。そのため、ピストンリング61は、ピストンリング本体71の外周面71aの全面が嵌合孔51の内周面を押圧することができ、片当たりが抑制され、シール性能が確保される。
【0055】
[第2実施形態]
<ピストンリング>
図7は、第2実施形態の昇圧ポンプに適用されるピストンリングの装着部を表す断面図である。なお、上述した第1実施形態と同様の機能を有する部材には、同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0056】
図7に示すように、ピストンリング61Aは、ピストンリング本体71Aと、インナーリング72と、バックアップリング73とを有する。ピストンリング本体71Aは、高圧ピストンリング本体81と、低圧ピストンリング本体82とを有する。高圧ピストンリング本体81は、圧縮室52(
図3参照)側(
図7の下方側)に位置する。低圧ピストンリング本体82は、高圧ピストンリング本体81より圧縮室52とは反対側(
図7の上方側)に位置する。
【0057】
高圧ピストンリング本体81と低圧ピストンリング本体82は、リング形状をなし、外径および内径の寸法が同じである。ピストンリング61Aは、環状溝74に配置される。ピストンリング61Aは、環状溝74にて、径方向の外方から内方に向けて、ピストンリング本体71A、インナーリング72、バックアップリング73の順に配置されて構成される。そして、ピストンリング本体71Aは、圧縮室52側に高圧ピストンリング本体81が位置し、圧縮室52とは反対側に低圧ピストンリング本体82が位置する。
【0058】
高圧ピストンリング本体81は、外周面81aと、上面81bと、内周面81cと、下面81dとを有する。低圧ピストンリング本体82は、外周面82aと、上面82bと、内周面82cと、下面82dとを有する。高圧ピストンリング本体81および低圧ピストンリング本体82は、外周面81a,82aが嵌合孔51の内周面に対向し、内周面81c,82cがインナーリング72の外周面72aに対向する。また、高圧ピストンリング本体81は、上面81bが環状溝74の天井面74aに対向し、低圧ピストンリング本体82は、下面82dが環状溝74の底面74cに対向する。そして、高圧ピストンリング本体81の下面81dと低圧ピストンリング本体82の上面82bが対向する。
【0059】
高圧ピストンリング本体81と低圧ピストンリング本体82とは、異なる材料で形成されることで、硬度が相違する。すなわち、低圧ピストンリング本体82の硬度が高圧ピストンリング本体81の硬度より低い。つまり、低圧ピストンリング本体82は、高圧ピストンリング本体81より軟質である。高圧ピストンリング本体81は、ポリエーテルエーテルケトンを主成分とするPEEK系材料により形成され、低圧ピストンリング本体82は、ポリテトラフルオロエチレンを主成分とするPTFE材料により形成される。本実施形態にて、高圧ピストンリング本体81のデュロメータ硬さは、低圧ピストンリング本体82のデュロメータ硬さの1.0倍から1.5倍とすることが好ましい。
【0060】
また、インナーリング72の硬度が低圧ピストンリング本体82の硬度以下である。つまり、インナーリング72は、低圧ピストンリング本体82と硬度が同じか、または、低圧ピストンリング本体82より軟質である。本実施形態にて、低圧ピストンリング本体82のデュロメータ硬さは、インナーリング72のデュロメータ硬さの1.0倍から1.6倍とすることが好ましい。
【0061】
<ピストンリングの応力分布>
図8は、ピストンリングに作用する圧力分布を説明する概略図である。
【0062】
図7に示すように、ピストン37の環状溝74に配置されるピストンリング61Aは、下方の圧縮室52(
図7参照)の高圧の液体水素から圧力Pを受ける。圧力Pは、ピストン37の外周面と嵌合孔51の内周面との隙間を通ってピストンリング61Aの下部に作用する。そして、圧力Pは、ピストンリング61Aと環状溝74との隙間を通ってピストンリング61Aの内周面(バックアップリング73の内周面73c)側に作用し、ピストンリング61Aの外周面(ピストンリング本体81,82の外周面81a,82a)を嵌合孔51の内周面に押圧してシールする。
【0063】
このとき、
図8に示すように、ピストンリング61Aは、外周面と内周面に圧力分布が発生する。すなわち、ピストンリング61Aは、圧縮室52である下方側が高圧となり、上方側が低圧となる。そのため、ピストンリング61Aの外周面は、上方側の圧力に対して下方側の圧力が高くなるような圧力分布となる。また、ピストンリング61Aの内周面は、上方側の圧力と下方側の圧力が同等になるような圧力分布となる。具体的に、高圧ピストンリング本体81および低圧ピストンリング本体82の各外周面81a,82aは、上方側の圧力に対して下方側の圧力が高くなるような圧力分布となる。また、バックアップリング73の内周面は、上方側の圧力と下方側の圧力が同等になるような圧力分布となる。
【0064】
<ピストンリングの動作>
図9は、ピストンリングの動作を説明する概略図である。
【0065】
図8および
図9に示すように、ピストンリング61Aは、高圧ピストンリング本体81および低圧ピストンリング本体82の各外周面81a,82aが、上方側の圧力に対して下方側の圧力が高くなるような圧力分布となると、高圧ピストンリング本体81および低圧ピストンリング本体82に
図9にて反時計回り方向の回転モーメントM1,M2が働く。すると、高圧ピストンリング本体81は、回転モーメントM1により
図9にて反時計回り方向に回動する。高圧ピストンリング本体81が回動すると、外周面81aの上面81b側だけが嵌合孔51の内周面に接触し、内周面81cの下面81d側だけがインナーリング72の外周面72aに接触した状態となる。同様に、低圧ピストンリング本体82は、回転モーメントM2により
図9にて反時計回り方向に回動する。低圧ピストンリング本体82が回動すると、外周面82aの上面82b側だけが嵌合孔51の内周面に接触し、内周面82cの下面82d側だけがインナーリング72の外周面72aに接触した状態となる。
【0066】
高圧ピストンリング本体81および低圧ピストンリング本体82は、嵌合孔51の内周面およびインナーリング72の外周面72aに対して片当たり状態になると、シール性能が低下する。また、高圧ピストンリング本体81および低圧ピストンリング本体82は、片当たり状態が継続すると、ピストン37の移動により局所的な摩耗が進行し、長期的なシール性能を維持することが困難となる。
【0067】
ところが、第2実施形態にて、ピストンリング61Aは、高圧ピストンリング本体81と低圧ピストンリング本体82により構成され、インナーリング72の硬度が高圧ピストンリング本体81の硬度より低い。そのため、高圧ピストンリング本体81および低圧ピストンリング本体82が回転モーメントM,M2により
図9にて反時計回り方向に回動すると、インナーリング72は、高圧ピストンリング本体81における内周面81cの下面81d側から応力を受けて変形する。すなわち、インナーリング72は、上下方向の中間部がバックアップリング73側に反るように変形する。バックアップリング73は、内周面73c側に圧力Pが作用しており、インナーリング72は、バックアップリングからの圧力Pを高圧ピストンリング本体81および低圧ピストンリング本体82に伝える。すなわち、インナーリング72は、外周面72aの上部(上面72b側)が低圧ピストンリング本体82に接触して押圧し、外周面72aの下部(下面72d側)が高圧ピストンリング本体81における内周面81cの下部(下面81d側)に接触して押圧する。
【0068】
その結果、高圧ピストンリング本体81および低圧ピストンリング本体82は、変形したインナーリング72の押圧力により回転モーメントM1,M2が打ち消され、
図7に示すように、各外周面81a,82aにおける軸心Oに沿った全域が嵌合孔51の内周面に接触可能となる。そのため、ピストンリング61Aは、高圧ピストンリング本体81および低圧ピストンリング本体82の各外周面81a,82aの全面が嵌合孔51の内周面を押圧することができ、片当たりが抑制され、シール性能が確保される。
【0069】
[本実施形態の作用効果]
第1の態様に係る昇圧ポンプは、圧縮室52を有するシリンダブロック(シリンダ)38と、液体水素(低温流体)を圧縮室52に吸入する吸入弁41と、シリンダブロック38に移動自在に支持されて圧縮室52の液体水素を圧縮するピストン37と、圧縮室52の液体水素を吐出する吐出弁42と、ピストン37の外周部に設けられるピストンリング61,61Aとを備え、ピストンリング61,61Aは、嵌合孔51の内周面側に位置するピストンリング本体71,71Aと、ピストンリング本体71,71Aよりピストン37の中心側に位置するインナーリング72とを有し、インナーリング72の硬度がピストンリング本体71,71Aの硬度より低い。
【0070】
第1の態様に係る昇圧ポンプによれば、インナーリング72の硬度がピストンリング本体71,71Aの硬度より低いことから、ピストンリング本体71,71Aに作用する圧力により回転モーメントM,M2が作用すると、インナーリング72が変形することで、ピストンリング本体71,71Aを押し返す圧力が作用する。すると、ピストンリング本体71,71Aは、回転モーメントM1,M2が打ち消され、外周面71a,81a,82aが嵌合孔51の内周面に適切に接触可能となる。その結果、ピストンリング61,61Aによるシール性能の向上を図ることができ、適用する低温流体の圧力が超高圧であっても、十分なシール性能を確保することができる。
【0071】
第2の態様に係る昇圧ポンプは、第1の態様に係る昇圧ポンプであって、さらに、ピストンリング本体71,71Aは、ポリエーテルエーテルケトンを主成分とするPEEK系材料により形成され、インナーリング72は、ポリテトラフルオロエチレンを主成分とするPTFE材料により形成される。これにより、低摩擦、低摩耗、高強度を有する高いシール性能を維持することができる。
【0072】
第3の態様に係る昇圧ポンプは、第1の態様または第2の態様に係る昇圧ポンプであって、さらに、ピストンリング本体71Aは、圧縮室2側に位置する高圧ピストンリング本体81と、高圧ピストンリング本体81より圧縮室52とは反対側に位置する低圧ピストンリング本体82とを有し、低圧ピストンリング本体82の硬度が高圧ピストンリング本体81の硬度より低い。これにより、インナーリング72や低圧ピストンリング本体82が変形することで、高圧ピストンリング本体81は、外周面81aが嵌合孔51の内周面に適切に接触可能となり、ピストンリング61Aによるシール性能の向上を図ることができる。
【0073】
第4の態様に係る昇圧ポンプは、第3の態様に係る昇圧ポンプであって、さらに、インナーリング72の硬度が低圧ピストンリング本体82の硬度以下である。これにより、インナーリング72が変形することで、低圧ピストンリング本体82は、外周面82aが嵌合孔51の内周面に適切に接触可能となり、ピストンリング61Aによるシール性能の向上を図ることができる。
【0074】
第5の態様に係る昇圧ポンプは、第3の態様または第4の態様に係る昇圧ポンプであって、さらに、高圧ピストンリング本体81は、ポリエーテルエーテルケトンを主成分とするPEEK系材料により形成され、低圧ピストンリング本体82は、ポリエーテルエーテルケトンを主成分とするPTFE材料により形成される。これにより、低摩擦、低摩耗、高強度を有する高いシール性能を維持することができる。
【0075】
第6の態様に係る昇圧ポンプは、第1の態様から第5の態様のいずれか一つに係る昇圧ポンプであって、さらに、ピストン37は、外周部に環状溝74が形成され、環状溝74の最も径方向の外側にピストンリング本体71,71Aが配置され、環状溝74のピストンリング本体71,71Aより径方向に内側にインナーリング72が配置され、環状溝74のインナーリング72より径方向に内側にバックアップリング73が配置され、バックアップリング73は、ステンレス鋼により形成される。これにより、バックアップリング73に作用した圧力Pを適切にインナーリング72に伝達することができる。
【0076】
第7の態様に係る昇圧ポンプは、第1の態様から第6の態様のいずれか一つに係る昇圧ポンプであって、さらに、ピストンリング本体71,71Aは、ピストン37の移動方向に間隔を空けて複数設けられ、ピストン37は、複数のピストンリング本体71,71Aの軸方向一方側と他方側にそれぞれウェアリング62が設けられ、ウェアリング62は、ポリテトラフルオロエチレンを主成分とするPTFE材料により形成される。これにより、低摩擦、低摩耗、高強度を有する高いシール性能を維持することができる。
【0077】
第8の態様に係る水素供給システムは、第1の態様から第7の態様のいずれか一つに係る昇圧ポンプ32を有して低温流体としての液体水素を圧縮する圧縮装置21と、圧縮装置21により圧縮された液体水素を気化する蒸発装置22と、蒸発装置22により気化された水素ガスを供給するディスペンサ23とを備える。これにより、昇圧ポンプ32は、ピストンリング61,61Aによるシール性能の向上を図ることができ、適用する低温流体の圧力が超高圧であっても、十分なシール性能を確保することができる。
【0078】
なお、上述した実施形態では、ピストンリング本体71,71Aを1個または2個としたが、3個以上としてもよい。
【0079】
また、上述した実施形態では、昇圧ポンプ32を水素供給システム10の圧縮装置21に適用して説明したが、この分野に限定されるものではなく、低温流体を適用する装置であれば適用することができる。
【符号の説明】
【0080】
10 水素供給システム
11 コンテナ
12 車両
21 圧縮装置
22 蒸発装置
23 ディスペンサ
31 駆動モータ
32 昇圧ポンプ
34 クランク機構
35 クロスヘッド
36 ピストンロッド
37 ピストン
38 シリンダブロック(シリンダ)
39 容器
41 吸入弁
42 吐出弁
51 嵌合孔
52 圧縮室
61,61A ピストンリング
62 ウェアリング
71,71A ピストンリング本体
72 インナーリング
73 バックアップリング
74 環状溝
81 高圧ピストンリング本体
82 低圧ピストンリング本体