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特開2024-39332超電導回転電機の回転子および超電導回転電機
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039332
(43)【公開日】2024-03-22
(54)【発明の名称】超電導回転電機の回転子および超電導回転電機
(51)【国際特許分類】
   H02K 55/04 20060101AFI20240314BHJP
【FI】
H02K55/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022143806
(22)【出願日】2022-09-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿部 格
(72)【発明者】
【氏名】戸坂 泰造
(72)【発明者】
【氏名】岩井 貞憲
(57)【要約】
【課題】 超電導コイルに作用する応力による超電導線材の特性劣化を抑制できるようにすること。
【解決手段】 実施形態による超電導回転電機の回転子は、ロータコアの周囲に配された巻線取付軸の各部に設けられる超電導コイルと、少なくとも前記超電導コイルを含む各種の部材を機械的に固定する樹脂層と、前記樹脂層と前記超電導コイルとの界面の少なくとも一部に設けられる離型剤層と、を具備する。
【選択図】 図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータコアの周囲に配された巻線取付軸の各部に設けられる超電導コイルと、
少なくとも前記超電導コイルを含む各種の部材を機械的に固定する樹脂層と、
前記樹脂層と前記超電導コイルとの界面の少なくとも一部に設けられる離型剤層と、
を具備する、超電導回転電機の回転子。
【請求項2】
前記離型剤層は、
前記超電導コイルの表面の少なくとも一部に対し、前記樹脂層との接着力を弱める又は前記樹脂層と接着しないようにする処理を施した層である、
請求項1に記載の超電導回転電機の回転子。
【請求項3】
前記離型剤層は、
前記超電導コイルの表面の少なくとも一部に離型剤を接着又は塗布することで形成された層である、
請求項1に記載の超電導回転電機の回転子。
【請求項4】
前記各種の部材は、
各超電導コイルを電気的に直列接続するコイル間接続導体を含み、
前記離型剤層は、
前記樹脂層と前記コイル間接続導体との界面の少なくとも一部にも設けられる、
請求項1に記載の超電導回転電機の回転子。
【請求項5】
前記各種の部材は、
前記超電導コイルと機外とを電気的に接続するフィーダを含み、
前記離型剤層は、
前記樹脂層と前記フィーダとの界面の少なくとも一部にも設けられる、
請求項1に記載の超電導回転電機の回転子。
【請求項6】
前記各種の部材は、
一端が前記超電導コイルに熱的に接続されるとともに、他端が前記巻線取付軸に熱的に接続される伝熱部材を含み、
前記離型剤層は、
前記樹脂層と前記伝熱部材との界面の少なくとも一部にも設けられる、
請求項1に記載の超電導回転電機の回転子。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の超電導回転電機の回転子を用いて構成される、超電導回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、超電導回転電機の回転子および超電導回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
超電導回転電機の回転子においては、ロータコアの周囲に配された巻線取付軸の各部に超電導コイルが設けられる。超電導コイルは、コイル間接続導体により超電導コイル間が電気的に直列接続され、超電導状態となる運転温度に冷却されることで、界磁コイルとして機能する。この超電導コイルは、例えば各巻線取付軸に設けられたスロットに収めた上で、当該スロットと超電導コイルとの間隙に熱硬化性樹脂を充填して含浸処理を行うことにより、機械的に固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-12199号公報
【特許文献2】特開昭59-041171号公報
【特許文献3】特開昭53-140510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
超電導回転電機の回転子は、回転時に回転中心軸に対して周方向にトルクを受け、回転中心軸に対して外径方向に遠心力を受ける。そのとき、超電導コイルには、回転体特有の非常に大きくかつ時間的に変動する力が働く。したがって、回転時に働く力により超電導コイルが振動を受けたり相対的変位が加わったりすることの無いようにするためには、上述した樹脂の含浸処理により超電導コイルを強固に固定することが望まれている。
【0005】
しかしながら、樹脂と超電導コイルとを構造物として一体化させてしまうと、冷却時に部材間の熱収縮率の差に起因する熱応力が超電導コイルの全周囲において作用する。また、超電導コイルにはトルクと遠心力とが働く。そのため、トルクにより、回転子の周方向では回転方向に圧縮応力、反転方向に引張応力がそれぞれ作用し、遠心力により、回転軸の径方向では内径方向に引張応力、外径方向に圧縮応力がそれぞれ作用し、これらの力が複合的に超電導コイルに作用して応力集中部が発生する可能性がある。特に超電導コイル内の超電導線材に対し、線材厚さ方向(面直方向)に引張応力が作用する場合には、超電導線材に剥離応力として作用するため、超電導線材の特性劣化が発生し、回転子の健全性が損なわれてしまう可能性がある。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、超電導コイルに作用する応力による超電導線材の特性劣化を抑制することができる、超電導回転電機の回転子および超電導回転電機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態による超電導回転電機の回転子は、ロータコアの周囲に配された巻線取付軸の各部に設けられる超電導コイルと、少なくとも前記超電導コイルを含む各種の部材を機械的に固定する樹脂層と、前記樹脂層と前記超電導コイルとの界面の少なくとも一部に設けられる離型剤層と、を具備する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、超電導コイルに作用する応力による超電導線材の特性劣化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、第1の実施形態に係る超電導回転電機の回転子の全体構成の例を示す断面図である。
図2図2は、図1に示される構造のA-A断面における断面形状の例を示す断面図である。
図3図3は、図1に示される構造のB-B断面における断面形状の例を示す断面図である。
図4図4は、図3に示される構造をU方向から見たときの形状の例を示す矢視図である。
図5図5は、図4に示される構造のV-V断面における断面形状の例を示す断面図である。
図6図6は、図5中に示される超電導線材30の構成の例を示す断面図である。
図7図7は、図3に示される構造において回転子1の運転時に回転により超電導コイル20に働くトルクおよび遠心力とそれらの向きを示す概念図である。
図8図8は、図4に示される構造において回転子1の運転時に回転により超電導コイル20に働くトルクおよび遠心力とそれらの向きを示す概念図である。
図9図9は、図5に示される構造において回転子1の運転時に回転により超電導コイル20に働くトルクおよび遠心力とそれらの向きを示す概念図である。
図10図10は、図6に示される構造において回転子1の運転時に回転により超電導コイル20内の超電導線材30に働くトルクおよび遠心力とそれらの向きを示す概念図である。
図11A図11Aは、図3に示される構造をU方向から見たときの形状の第1の変形例(すなわち、図4に示される構造の第1の変形例)を示す矢視図である。
図11B図11Bは、回転子1の周方向に配置される個々の第1の変形例の超電導コイル20を展開して示す展開図である。
図12図12は、図11に示される構造のW-W断面における断面形状の第1の変形例(すなわち、図5に示される構造の第1の変形例)を示す断面図である。
図13図13は、図3に示される構造をU方向から見たときの形状の第2の変形例(すなわち、図4に示される構造の第2の変形例)を示す矢視図である。
図14図14は、図13に示される構造のX-X断面における断面形状の第2の変形例(すなわち、図5に示される構造の第2の変形例)を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0011】
<第1の実施形態>
最初に、第1の実施形態について説明する。
【0012】
(超電導回転電機の回転子の構成)
まず、図1図3を参照して、第1の実施形態に係る超電導回転電機の回転子の基本的な構造について説明する。その後に、図4及び図5を参照して、第1の実施形態の特徴的な部分を含む構造について説明する。
【0013】
図1は、第1の実施形態に係る超電導回転電機の回転子の全体構成の例を示す断面図である。図2は、図1に示される構造のA-A断面における断面形状の例を示す断面図である。図3は、図1に示される構造のB-B断面における断面形状の例を示す断面図である。
【0014】
図1図3に示される超電導回転電機の回転子1は、ロータコア11、冷媒流路12、巻線取付軸13、サポートリング14、トルクチューブ15、真空容器16、回転軸17、軸受18、超電導コイル20、フィーダ25、伝熱部材26、樹脂層40Aなどを有する。
【0015】
なお、図1図3では図示を省略しているが、樹脂層40Aと超電導コイル20との界面の少なくとも一部に、後述する離型剤層50が設けられている。
【0016】
ロータコア11には、機外から導入される冷媒が流れる冷媒流路12が設けられている。冷媒は冷媒流路12を通ってロータコア11を流れながら機内を冷却する。ロータコア11の周囲には、超電導コイル20を周方向に一定の間隔で取り付けるための巻線取付軸13が配され、超電導コイル20が巻線取付軸13の各部に配置されている。超電導コイル20間には、コイル間接続導体23が取り付けられており、各コイル間接続導体23は、個々の超電導コイル20を電気的に直列接続する。さらに巻線取付軸13の周囲には、サポートリング14が設けられ、その軸方向両端にはトルクチューブ15が設けられている。
【0017】
個々の超電導コイル20は、回転子の軸中心に対して点対象となるように配置される。なお、図1図3には、超電導コイル20が4個配置された例が示されているが、超電導コイルの個数はこの例に限定されるものではない。2個以上の超電導コイルが点対称となるように配置されるのであれば、個数に制限はない。
【0018】
真空容器16内には、上で述べたロータコア11、巻線取付軸13、サポートリング14、トルクチューブ15が収められている。真空容器16の軸方向両端には、回転軸17が接続され、回転軸17は、軸受18に取り付けられている。
【0019】
超電導コイル20の一部には、フィーダ25が接続されている。また、個々の超電導コイル20には、伝熱部材26が取り付けられている。それらの周囲には、樹脂層40Aが設けられている。
【0020】
なお、図3の例では、各超電導コイル20にそれぞれ一つの伝熱部材26が熱的に接続されているが、この例に限らず、一つの伝熱部材26が複数の超電導コイル20に熱的に接続されてもよいし、逆に複数の伝熱部材26が一つの超電導コイル20に熱的に接続されてもよい。また、超電導コイル20上の全表面のうち、伝熱部材26が接続される表面部分の場所や面積は、適宜変えてもよい。
【0021】
トルクチューブ15は、ロータコア11、巻線取付軸13、サポートリング14を一体として真空容器16に機械的に接続し、これらをそれぞれ支持する。真空容器16は、回転軸17に機械的に接続されており、回転軸17は、軸受18により支持される。
【0022】
フィーダ25は、導電性材料にて構成され、両末端の超電導コイル20と機外とを電気的に接続し、機外から超電導コイル20に通電する際の電気的経路となる。
【0023】
なお、図1の例では、フィーダ25が超電導コイル20の外周側もしくは裏面側から機外に接続されているが、この例に限らず、フィーダ25は超電導コイル20の内周側から機外に接続してもよいし、超電導コイル20の表面側から機外に接続してもよい。
【0024】
樹脂層40Aは、メラミン樹脂、ユリア樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、もしくはフェノール樹脂などの熱硬化性樹脂からなる層である。この樹脂層40Aは、巻線取付軸13の周囲に配されている各種の部材、すなわち、超電導コイル20、コイル間接続導体23、フィーダ25、伝熱部材26などの部材を、それぞれ固着して機械的に固定する。また、樹脂層40Aは、巻線取付軸13とこれらの部材との間の伝熱経路としても機能し、超電導コイル20内やコイル間接続導体23、フィーダ25等で通電時に発生する熱を巻線取付軸13に導く。
【0025】
(超電導コイル20およびその周辺の構成)
図4は、図3に示される構造をU方向から見たときの形状の例を示す矢視図である。図5は、図4に示される構造のV-V断面における断面形状の例を示す断面図である。
【0026】
図4及び図5に示されるように、超電導コイル20は、例えば高温超電導線材30(以降「超電導線材30」と称す。)および絶縁テープ27が、巻き枠21(コイル口出し電極24を含む)の周りに渦巻状に巻き回され、これにより形成された巻き線部の上下面に絶縁板22が配され、これら上下面にある絶縁板22と巻き線部(超電導線材30および絶縁テープ27)との間に樹脂層40Bが充填・含浸されて形成される。
【0027】
絶縁板22は、例えばポリイミド、ポリエステルポリウレタン、ポリアミド、ポリアミドイミドおよびポリビニルホルマールなどの絶縁フィルム、フェノール樹脂、尿素樹脂およびメラミン樹脂といった熱硬化性樹脂、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)および炭素繊維強化プラスチック(CFRP)などにより形成され、コイル巻き線部の絶縁保護と機械的強度を向上させる。
【0028】
伝熱部材26は、良熱伝導性の材料にて構成され、一端が超電導コイル20に熱的に接続されるとともに、他端が巻線取付軸13に熱的に接続される。ロータコア11が冷媒流路12の冷媒を介して冷却されると、巻線取付軸13が、この冷却されたロータコア11を介して冷却され、さらに超電導コイル20が、巻線取付軸13から伝熱部材26を介して伝導冷却されるようになっている。
【0029】
コイル間接続導体23は、導電性材料にて構成され、全ての超電導コイル20のうち近隣の2個どうしを電気的に接続する。コイル間接続導体23の端部は、例えば超電導コイル20のコイル口出し電極24に接続される。個々のコイル間接続導体23が同様の接続を行うことにより、全ての超電導コイル20が電気的に直列接続されるようになっている。
【0030】
なお、図5の例では、コイル間接続導体23が2個の超電導コイル20を内周側(超電導コイル20の下面)で接続する例が示されているが、この例に限らず、例えば外周側(超電導コイル20の上面)で接続するようにしてもよい。
【0031】
本実施形態では、さらに、樹脂層40Aと超電導コイル20との界面の少なくとも一部に、離型剤層50が設けられる。例えば、図4及び図5に示されるように、離型剤層50は、樹脂層40Aと超電導コイル20との界面において当該超電導コイル20の表面の少なくとも一部を覆うように形成される。この離型剤層50は、超電導コイル20の表面の少なくとも一部に対し、樹脂層40Aとの接着力を弱める又は樹脂層40Aと接着しないようにする処理を施した層である。これにより、超電導コイル20の表面は、樹脂層40Aとの接着力が弱く、樹脂層40Aとの間に隙間を生じうる。
【0032】
離型剤層50は、超電導コイル20の表面に離型剤を接着又は塗布することで形成してもよい。例えば、超電導コイル20の表面にフッ素樹脂テープ等を接着することで形成してもよいし、パラフィン、グリース、シリコーンオイル、もしくはフッ素化合物等を塗布することで形成してもよい。また、これらの例に限らず、樹脂層40Aとの接着力を弱める又は樹脂層40Aと接着しないようにする層が形成されるのであれば、別の方法で形成してもよい。
【0033】
樹脂層40Aは、巻線取付軸13と、この巻線取付軸13の周囲に配されている各種の部材、すなわち、超電導コイル20の表面を覆っている離型剤層50、コイル間接続導体23、伝熱部材26、およびフィーダ25(図5では図示せず)との間に隙間が生じないように熱硬化性樹脂が充填・含浸されることで形成され、これにより超電導コイル20を機械的に固定する。
【0034】
このような構成により、樹脂層40Aが、巻線取付軸13の周囲に配されている各種の部材の回転時の相対的変位を抑制する一方で、離型剤層50が、樹脂層40Bと超電導線材30との間に作用する引張応力を抑制し、超電導線材30に働く剥離応力を抑制し、超電導線材30の特性劣化を防ぐことができる。
【0035】
(超電導線材30の構成)
図6に、図5中に示される超電導線材30の構成の例を示す。
【0036】
超電導線材30は、テープ状の金属基板31に中間層32、RE(希土類元素)系の酸化物超電導層33および保護層34を積層した多層膜構造に対し、安定化層35を被覆した薄膜多層線材で構成される。
【0037】
テープ状の金属基板31は、例えばステンレス鋼やハステロイ(登録商標)などのニッケル系合金などにより形成される。
【0038】
中間層32は、酸化物超電導層33の配向性の向上や拡散防止の役割を担う層であり、例えば酸化マグネシウムなどから形成される。
【0039】
酸化物超電導層33は、超電導を発現する層(以降、「超電導層」)であり、例えばRE123系(REBaCu)を有する超電導体薄膜である。なお、REは希土類元素であり、Nd,Gd,Ho,Sm,Yなどを示す。
【0040】
保護層34は、超電導層の酸化等を防止する保護の目的で設けられる層であり、Agなどから形成される。
【0041】
安定化層35は、超電導層に過剰に電流が流れた際に分流を担い、超電導層が燃焼することを防止する目的で設けられ、例えばCuからなる。
【0042】
なお、超電導線材30は、線材幅方向や長手方向(面内方向)の強度に対し、線材厚さ方向(面直方向、薄膜の積層方向)の強度が一桁オーダー以上小さく、超電導層内で亀裂が発生したり、層間剥離が発生したりすると、超電導特性の劣化が起こる。
【0043】
(回転子1に働く力)
次に、図7図10を参照して、回転子1の運転時に超電導コイル20に働くトルクおよび遠心力ならびに各種の応力について説明する。
【0044】
図7は、図3に示される構造において回転子1の運転時に回転により超電導コイル20に働くトルクおよび遠心力とそれらの向きを示す概念図である。図8は、図4に示される構造において回転子1の運転時に回転により超電導コイル20に働くトルクおよび遠心力とそれらの向きを示す概念図である。図9は、図5に示される構造において回転子1の運転時に回転により超電導コイル20に働くトルクおよび遠心力とそれらの向きを示す概念図である。図10は、図6に示される構造において回転子1の運転時に回転により超電導コイル20内の超電導線材30に働くトルクおよび遠心力とそれらの向きを示す概念図である。
【0045】
図7図10に示されるように、超電導コイル20や超電導線材30には、回転子1の運転時に、回転Rにより遠心力F及びトルクTが働く。
【0046】
一方で、回転子1の運転時には冷却による熱応力が超電導コイル20の全周囲に作用する(具体的には、超電導コイル20内の超電導線材30には面内方向、面直方向ともに応力が作用、周囲の樹脂及び構造物の熱収縮率差により方位ごとに引張応力または圧縮応力が作用する)。
【0047】
これに加え、回転子1の運転時にはトルクTにより、回転子1の周方向では回転方向に圧縮応力、反転方向に引張応力(具体的には、超電導コイル20表面の最外周面と最内周面に回転方向に圧縮応力、反転方向に引張応力、超電導コイル20内の超電導線材30には面直方向に引張応力と圧縮応力)がそれぞれ作用し、遠心力Fにより、回転軸の径方向では内径方向に引張応力、外径方向に圧縮応力(具体的には、超電導コイル20表面の上面に圧縮応力、下面に引張応力、超電導コイル20内の超電導線材30には面内方向に引張応力と圧縮応力)が作用する。
【0048】
ここで、もし何らかの対策を講じていないと、樹脂層40Aにより表面拘束されている超電導コイル20にこれらの力が複合的に作用し、超電導コイル20に局所的に応力集中部が発生する可能性がある。応力集中部が発生すると、その応力集中部にてコイルが局所的に変形してしまうことがある。コイルが局所的に変形した場合、超電導線材30に対しても応力集中部が発生することとなり、様々な方向成分を持つ力が働くこととなる。特に、樹脂層40Bと超電導線材30の表面との間に引張応力が作用し、超電導線材30に面直方向に引張応力となる方向成分を持つ力が作用する場合には、超電導線材30に剥離応力として作用し、超電導線材30の特性劣化が発生してしまう可能性がある。超電導線材30が局所的にでも特性劣化してしまうと、超電導線材30が巻き回されて構成される超電導コイル20は正常に機能できなくなり、結果的に回転子1が機能しないため超電導回転電機として成立しなくなる。
【0049】
これに対し、本実施形態では、前述したように超電導コイル20の表面の少なくとも一部に対し、樹脂層40Aとの接着力を弱める又は樹脂層40Aと接着しないようにする離型剤層50を設けており、例えば、図8及び図9に示されるように、樹脂層40Aと超電導コイル20との界面において当該超電導コイル20の表面の少なくとも一部を覆うように離型剤層50が形成されているため、上述の問題を解決するものとなっている。
【0050】
すなわち、離型剤層50は、超電導コイル20の表面と樹脂層40Aとの接着力を弱めるように又は超電導コイル20の表面が樹脂層40Aと接着しないように作用する。つまり、超電導コイル20の表面は、樹脂層40Aとの接着力が弱く、樹脂層40Aとの間に隙間を生じうる。よって、回転子1の運転時に樹脂層40Bと超電導線材30との間に作用する引張応力は抑制され、超電導コイル20での局所的な応力集中部の発生が抑えられ、コイルの局所的な変形が起こりにくくなる。また、コイルの局所的な変形が起こりにくくなるため、超電導線材30での応力集中部の発生も抑制され、超電導線材30に面直方向に作用する引張応力が抑制され、超電導線材30に働く剥離応力が抑制され、剥離応力による超電導線材30の特性劣化が抑えられる。
【0051】
第1の実施形態によれば、樹脂層40Aと超電導コイル20との界面に離型剤層50が形成されていることから、超電導コイル20の回転時の相対的変位を抑制しつつ、樹脂層40Bと超電導線材30との間に作用する引張応力を抑制し、超電導線材30に働く剥離応力を抑制することができ、剥離応力による超電導線材30の特性劣化を防ぎ、健全性の保たれた超電導回転電機の回転子を提供することができる。
【0052】
<第2の実施形態>
次に、第2の実施形態について説明する。以下では、第1の実施形態と共通する部分の説明を省略し、第1の実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0053】
なお、第2の実施形態に係る超電導回転電機の回転子の基本的な構造については、図1図3に示したものと同様となるため、その説明を省略する。
【0054】
以下、図11A図11B、及び図12を参照して、第2の実施形態の特徴的な部分を含む構造について説明する。
【0055】
図11Aは、図3に示される構造をU方向から見たときの形状の第1の変形例(すなわち、図4に示される構造の第1の変形例)を示す矢視図である。図11Bは、回転子1の周方向に配置される個々の第1の変形例の超電導コイル20を展開して示す展開図である。図12は、図11Aに示される構造のW-W断面における断面形状の第1の変形例(すなわち、図5に示される構造の第1の変形例)を示す断面図である。
【0056】
この第2の実施形態に係る回転子1が前述した第1の実施形態に係る回転子1と異なる点は、離型剤層50が、さらに、樹脂層40Aとコイル間接続導体23との界面の少なくとも一部にも設けられ、また、樹脂層40Aとフィーダ25との界面の少なくとも一部にも設けられる点である。
【0057】
例えば、図11A及び図12に示されるように、離型剤層50は、樹脂層40Aとコイル間接続導体23との界面において当該コイル間接続導体23の表面を覆うように形成されている。また、離型剤層50は、樹脂層40Aとフィーダ25との界面において当該フィーダ25の表面を覆うように形成されている。例えば、図11Bに示されるように、離型剤層50は、フィーダ25の表面を覆うように形成されている。
【0058】
これにより、離型剤層50は、コイル間接続導体23の表面と樹脂層40Aとの接着力を弱めるように又はコイル間接続導体23の表面が樹脂層40Aと接着しないように作用し、また、フィーダ25の表面と樹脂層40Aとの接着力を弱めるように又はフィーダ25の表面が樹脂層40Aと接着しないように作用する。つまり、コイル間接続導体23の表面およびフィーダ25の表面は、樹脂層40Aとの接着力が弱く、樹脂層40Aとの間に隙間を生じうる。
【0059】
前述した第1実施形態の構成では、コイル間接続導体23およびフィーダ25と樹脂層40Aとがそれぞれ強固に固着されている一方で、超電導コイル20の表面は、樹脂層40Aとの接着力が弱く、樹脂層40Aとの間にわずかな隙間を生じる。このとき回転子1の回転によるトルクおよび遠心力が複合的に作用した場合に、超電導コイル20のみがこのわずかな隙間分だけ相対的に変位する可能性があるが、コイル間接続導体23およびフィーダ25は樹脂層40Aと強固に接着されているため、相対的変位がほぼゼロである。そのため、超電導コイル20とコイル間接続導体23との接続部およびフィーダ25との接続部に応力集中部が発生する可能性がある。
【0060】
これに対して第2の実施形態では、回転子1の回転によるトルクおよび遠心力が複合的に作用した場合に、超電導コイル20が樹脂層40Aとのわずかな隙間分だけ相対的に変位しても、コイル間接続導体23およびフィーダ25も追随して相対的に変位することが許されるため、超電導コイル20とコイル間接続導体23との接続部やフィーダ25との接続部における応力集中部の発生が抑制される。
【0061】
第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果が得られるほか、離型剤層50が樹脂層40Aと超電導コイル20との界面のみならず、樹脂層40Aとコイル間接続導体23との界面、および樹脂層40Aとフィーダ25との界面にも形成されていることから、超電導コイル20とコイル間接続導体23との接続部やフィーダ25との接続部における応力集中部の発生が抑制されるため、当該応力集中部に起因する超電導コイル20での応力集中部の発生を抑制することができ、超電導線材30に働く剥離応力による特性劣化をより抑制し、より健全性の保たれた超電導回転電機の回転子を提供することができる。
【0062】
<第3の実施形態>
次に、第3の実施形態について説明する。以下では、第1及び第2の実施形態と共通する部分の説明を省略し、第1及び第2の実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0063】
なお、第3の実施形態に係る超電導回転電機の回転子の基本的な構造については、図1図3に示したものと同様となるため、その説明を省略する。
【0064】
以下、図13及び図14を参照して、第3の実施形態の特徴的な部分を含む構造について説明する。
【0065】
図13は、図3に示される構造をU方向から見たときの形状の第2の変形例(すなわち、図4に示される構造の第2の変形例)を示す矢視図である。図14は、図13に示される構造のX-X断面における断面形状の第2の変形例(すなわち、図5に示される構造の第2の変形例)を示す断面図である。
【0066】
この第3の実施形態に係る回転子1が前述した第2の実施形態に係る回転子1と異なる点は、離型剤層50が、さらに、樹脂層40Aと伝熱部材26との界面の少なくとも一部にも設けられる点である。
【0067】
例えば、図13及び図14に示されるように、離型剤層50は、樹脂層40Aと伝熱部材26との界面において当該伝熱部材26の表面を覆うように形成されている。
【0068】
これにより、離型剤層50は、伝熱部材26の表面と樹脂層40Aとの接着力を弱めるように又はコイル間接続導体23の表面が樹脂層40Aと接着しないように作用する。つまり、伝熱部材26の表面は、樹脂層40Aとの接着力が弱く、樹脂層40Aとの間に隙間を生じうる。
【0069】
前述した第2の実施形態の構成では、伝熱部材26と樹脂層40Aとがそれぞれ強固に固着されている一方で、超電導コイル20、コイル間接続導体23およびフィーダ25の各表面は、樹脂層40Aとの接着力が弱く、樹脂層40Aとの間にわずかな隙間を生じる。このとき回転子1の回転によるトルクおよび遠心力が複合的に作用した場合に、超電導コイル20、コイル間接続導体23およびフィーダ25はこのわずかな隙間分だけ相対的に変位する可能性があるが、伝熱部材26は樹脂層40Aと強固に接着されているため、相対的変位がほぼゼロである。そのため、超電導コイル20と伝熱部材26との接続部に応力集中部が発生する可能性がある。
【0070】
これに対して第3の実施形態では、回転子1の回転によるトルクおよび遠心力が複合的に作用した場合に、超電導コイル20、コイル間接続導体23およびフィーダ25が樹脂層40Aのわずかな隙間分だけ相対的に変位しても、伝熱部材26も追随して相対的に変位することが許されるため、超電導コイル20と伝熱部材26との接続部における応力集中部の発生が抑制される。
【0071】
第3の実施形態によれば、第2の実施形態と同様の効果が得られるほか、離型剤層50が樹脂層40Aと伝熱部材26との界面にも形成されていることから、超電導コイル20と伝熱部材26との接続部における応力集中部の発生が抑制されるため、当該応力集中部に起因する超電導コイル20での応力集中部の発生を抑制することができ、超電導線材30に働く剥離応力による特性劣化をより抑制し、より健全性の保たれた超電導回転電機の回転子を提供することができる。
【0072】
以上詳述したように、各実施形態によれば、超電導コイルに作用する応力による超電導線材の特性劣化を抑制することができる。
【0073】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0074】
1…回転子、11…ロータコア、12…冷媒流路、13…巻線取付軸、14…サポートリング、15…トルクチューブ、16…真空容器、17…回転軸、18…軸受、20…超電導コイル、21…巻き枠、22…絶縁板、23…コイル間接続導体、24…コイル口出し電極、25…フィーダ、26…伝熱部材、27…絶縁テープ、30…高温超電導線材(超電導線材)、31…金属基板、32…中間層、33…酸化物超電導層、34…保護層、35…安定化層、40A,40B…樹脂層、50…離型剤層。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図12
図13
図14