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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039352
(43)【公開日】2024-03-22
(54)【発明の名称】板紙
(51)【国際特許分類】
   D21H 21/36 20060101AFI20240314BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20240314BHJP
【FI】
D21H21/36
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022143843
(22)【出願日】2022-09-09
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130812
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100164161
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 彩
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 賢太郎
(72)【発明者】
【氏名】松野 祐也
(72)【発明者】
【氏名】橋本 慎吾
【テーマコード(参考)】
3E086
4L055
【Fターム(参考)】
3E086AB01
3E086AD02
3E086BA04
3E086BA13
3E086BA14
3E086BB13
3E086BB90
3E086CA01
3E086CA27
3E086CA31
3E086CA33
3E086CA35
4L055AA02
4L055AA11
4L055AC06
4L055AC09
4L055AF09
4L055AF10
4L055AG03
4L055AG07
4L055AG08
4L055AG50
4L055AG72
4L055AG99
4L055AH09
4L055AH11
4L055AH16
4L055AH50
4L055EA04
4L055EA05
4L055EA08
4L055FA30
4L055GA05
4L055GA06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】機能性を有する板紙を提供する。
【解決手段】本発明によって、セルロース繊維を含有する抗ウイルス性板紙が提供される。本発明に用いられる板紙はより好ましくは多層板紙である。本発明の板紙は包装紙、ライナ、紙箱等に利用できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の紙層を有する板紙であって、板紙の表層の少なくとも1つが金属イオンおよび/または金属粒子を含有するセルロース繊維を含む板紙。
【請求項2】
前記多層板紙の少なくとも1層が、セルロース繊維と金属イオンまたは金属粒子との金属含有セルロース繊維を含まない、請求項1に記載の板紙。
【請求項3】
請求項1又は2のいずれかに記載の板紙を使用した包装紙。
【請求項4】
請求項1又は2のいずれかに記載の板紙を使用したライナ。
【請求項5】
請求項1又は2のいずれかに記載の板紙を使用した紙箱。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抗ウイルス性等の機能性を有する板紙に関する。
【背景技術】
【0002】
生鮮品や材料、部品、各種商品等の輸送梱包の一態様として段ボール箱や板紙製箱をはじめとする紙製包装体が既に多く利用されているが、近年の脱プラスチック化の流れにおいて、紙製包装体のニーズがますます高まっている。
【0003】
これらの紙製包装体においては、輸送時の耐衝撃性や耐候性等、内容物を保護するための包装体としての機能だけでなく、例えば保温性や保湿性、ガス吸着性等といった内容物に応じた特有の機能についても要求されている。例として生鮮品の鮮度保持方法について挙げると、植物のエチレン反応の結合部位を阻害する薬剤を含む高分子重合体を紙表面に塗布することにより、植物のエチレン反応を阻害し鮮度を保持するといった、紙、特に板紙に鮮度保持の機能を有する機能性塗工液を紙の表面に塗工する鮮度保持の方法が特許文献1に開示されている。また特許文献2には、商品収容状態で積み重ねた際に荷崩れの心配をせずに運搬でき、かつ、積み重ねられた包装箱間に通気性の隙間を形成することで、収容状態で通気性を維持する輸送用包装箱を用いた鮮度保持の方法が開示されている。さらに特許文献3には、材料として竹をパルプ化して抄紙するとともに、竹繊維を粉末化したものを塗工する紙を用いて箱を製造するといった、使用する材料に特徴を持たせた鮮度保持の手法について開示されている。
【0004】
一方、紙の材料として用いられるセルロースをはじめとする繊維は、その表面に金属イオンまたは金属粒子を付着させることによって、様々な特性を発揮させることができる。これについて、繊維の存在下で無機物を合成することにより、金属イオンまたは金属粒子と繊維との金属含有セルロース繊維を製造する方法が開発されてきている。例えば、特許文献4には、炭酸カルシウムと、リヨセル繊維又はポリオレフィン繊維との金属イオンまたは金属粒子金属含有セルロース繊維が記載されている。また、従来の機能性シートは、高湿度環境下に置かれたり、湿潤したりした場合に、抗ウイルス機能などが低下する問題がある。
このような状況に鑑み、本発明は、優れた抗ウイルス活性を備えた抗ウイルス性の板紙を提供することである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2017-532367号公報
【特許文献2】特開2012-245989号公報
【特許文献3】特開2014-169520号公報
【特許文献4】特開2015-199655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は抗ウイルス性等の機能性を有する板紙を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、鮮度保持等の用途に応じた機能を持つ金属イオンまたは金属粒子を繊維材料の表面に強く被覆した金属含有セルロース繊維を板紙の原料として配合することにより、抗ウイルスの機能性を有する板紙を得られることを見出し、本発明の完成に至った。
【0008】
これらに限定されるものではないが、本発明は以下の発明を包含する。
(1)複数の紙層を有する板紙であって、板紙の表層の少なくとも1つが金属イオンおよび/または金属粒子を含有するセルロース繊維を含む板紙。
(2)(1)に記載の板紙を使用した包装紙。
(3)(1)に記載の板紙を使用したライナ。
(4)(1)に記載の板紙を使用した紙箱。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、抗ウイルス性等の機能性を有する板紙を得られる。
本発明の板紙は、セルロース繊維の表面が抗ウイルス性等の用途に応じた機能を持つ金属粒子で強く被覆された金属含有セルロース繊維を板紙の原料として使用している。この金属含有セルロース繊維はセルロース繊維と金属粒子とが強く結着しているため、本発明の板紙は製造時の脱水、シート化などの工程において金属粒子が脱落しにくく、歩留まりに優れる。そのため、本発明の板紙は抗ウイルス性等の用途に応じた機能性に優れると共に、本発明の板紙を使用した包装紙、ライナ、紙箱等においても、抗ウイルス性等の用途に応じた機能性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は下記の態様に限定されるものではない。
【0011】
<板紙>
本発明の板紙は、紙層に繊維と金属イオンおよび/または金属粒子との金属含有セルロース繊維を含んでいる。好ましくは2層以上の紙層を積層した多層構造であり、その少なくとも1層の紙層に繊維と金属イオンまたは金属粒子との金属含有セルロース繊維を含んでいる。各層の組成は同じであっても異なっていてもよく、例えば、少なくとも1層の紙層は繊維と金属イオンおよび/または金属粒子との金属含有セルロース繊維を含み、別の紙層は繊維と金属イオンまたは金属粒子との金属含有セルロース繊維を含まないこと、または、繊維と金属イオンまたは金属粒子との金属含有セルロース繊維を含む紙層を2層以上含み、1層の含有する金属イオンまたは金属粒子の種類と、少なくとも他の1層の含有する金属イオンまたは金属粒子の種類とが異なっていてもよい。この構成により、或る紙層は、板紙を構成する紙層の一つとして予め決定されていても、他の紙層に当該決定されている紙層とは異なる性質を持たせることで、当該或る紙層の性質に、異なる性質も併せ持つ板紙を製造することができる。また、最外層である表層および/または裏層に設けるとより効果が発揮される性質を持つ紙層を最外層に配することでより機能を発揮することができる。さらに、後述の通り連続抄紙で好適に製造できるため容易に製造できる。
【0012】
本発明の板紙の性質は、少なくとも1層の紙層の性質が金属含有セルロース繊維を構成する金属イオンまたは金属粒子に由来する機能に基づく性質であればよい。例えば、抗ウィルス性の他にも難燃性、防カビ性、抗菌性、消臭性、抗アレルゲン性、放射線遮蔽性、吸着性、吸収性、吸湿性、補強性、隠蔽性、光触媒等の性質が挙げられ、防カビ性、抗菌性、消臭性、ガス吸着性、吸湿性等といった生鮮品の鮮度保持に要求される性質を有していることがより好ましい。また、多層紙の場合はその他の紙層には金属イオンまたは金属粒子を含んでもよく、含まなくてもよい。例えば、当該別の紙層の性質は、紙厚、坪量等の構造等に基づくものでもよい。また、前記少なくとも1層の紙層と、前記別の紙層とは、含有する金属イオンまたは金属粒子の種類及び含有量のうち少なくとも一方が異なることで性質が異なっていてもよい。紙層に所望の機能を発揮させる金属イオンまたは金属粒子の種類、含有量を調整することで、より容易に所望の機能を有する紙を製造できる。
本発明の板紙を構成する紙層の数は特に限定されないが、板紙が多層板紙である場合、例えば、2~5層としてもよい。
【0013】
<金属含有セルロース繊維>
金属含有セルロース繊維は、金属含有セルロース繊維としては金属含有アニオン変性セルロース繊維であることが好ましい。金属含有セルロース繊維は、板紙を構成するすべての紙層に含まれている必要はなく、いずれか1つ以上の紙層に含まれていればよい。好ましい態様において、金属含有セルロース繊維は、板紙の表層のいずれかあるいは両方に含まれていることが好ましい。金属含有セルロース繊維の含有量は、金属含有セルロース繊維を含む紙層において1重量%以上であることが好ましく、2重量%以上がより好ましい。上記含有量が少なすぎると、十分な抗ウイルス効果を付与することができない場合がある。上記含有量の上限値は特に限定されず、求める抗ウイルス効果の程度に応じて適宜調整できるが、100重量%であってもよく、50重量%以下や30重量%以下であってよい。
金属含有セルロース繊維の含有量は、板紙に対し0.01質量%以上であることが好ましい。上記含有量が少なすぎると、十分な抗ウイルス効果を付与することができない場合がある。上記含有量の上限値は特に限定されず、求める消臭・抗菌・抗ウイルス効果の程度に応じて適宜調整できるが、100質量%であってもよい。好ましい態様において、金属含有セルロース繊維の含有量は、板紙の0.01~30重量%であり、0.1~10重量%がより好ましく、0.2~5.0重量%や0.3~2.0重量%がより好ましい。
【0014】
金属含有セルロース繊維としては、アニオン基を有するセルロース繊維に金属イオンがイオン結合している金属含有アニオン変性セルロース繊維が好ましい。アニオン変性セルロース繊維としては、例えば、酸化セルロース、エーテル化セルロース(カルボキシメチル化セルロース等)、エステル化セルロース(リン酸エステル化セルロース等)が挙げられる。
アニオン基を有するセルロース繊維中のアニオン基量は、カルボキシル基、カルボキシレート基、リン酸基またはスルホン酸基を有する酸化セルロース繊維においては、以下の方法で測定することができる。なお、上記官能基を合わせて「酸基」ともいう。
(アニオン基量) 酸基を有する酸化セルロース繊維試料の0.5質量%スラリー(水分散液)60mlを調製し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5とした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHが11になるまで電気伝導度を測定し、電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下式を用いて算出する。
酸基を有する酸化セルロース繊維のアニオン性基量〔mmol/g〕=a〔ml〕×0.05/酸基を有する酸化セルロース繊維質量〔g〕/x。
x:酸基の価数に相当する値(カルボキシル基、カルボキシレート基、スルホン酸基:1、リン酸基:2)
【0015】
カルボキシアルキル化処理によるアニオン性基の量を定量する場合、以下の手法を用いる。カルボキシアルキル化セルロース繊維(絶乾)約2.0gを精秤して、300mL容共栓付き三角フラスコに入れた。硝酸メタノール1000mLに特級濃硝酸100mLを加えた液100mLを加え、3時間振とうして、カルボキシアルキルセルロース塩(CM化セルロース)を水素型CM化セルロースにした。水素型CM化セルロース(絶乾)を1.5~2.0g精秤し、300mL容共栓付き三角フラスコに入れた。80%メタノール15mLで水素型CM化セルロースを湿潤し、0.1NのNaOHを100mL加え、室温で3時間振とうした。指示薬として、フェノールフタレインを用いて、0.1NのH2SO4で過剰のNaOHを逆滴定した。カルボキシアルキル置換度(DS)を、次式によって算出した:
A=[(100×F’-(0.1NのH2SO4)(mL)×F)×0.1]/(水素型アルボキシアルキル化セルロースの絶乾質量(g))
DS=0.162×A/(1-0.058×A)
A:水素型カルボキシアルキル化セルロースの1gの中和に要する1NのNaOH量(mL)
F’:0.1NのH2SO4のファクター
F:0.1NのNaOHのファクター。
【0016】
上記セルロース繊維のアニオン性基の量は、0.01~3.0mmol/gが好ましい。酸基の量が0.01mmol/g未満であると、後述する金属イオンを担持する工程において、セルロース繊維表面に存在する金属イオンの量が十分でなく、消臭、抗菌、抗ウイルス機能が劣ることがある。一方、酸基の量が3.0mmol/gを超えると、酸化反応時に副反応としてセルロースの切断が起こりやすくなり、収率が低下する。
上記金属含有アニオン変性セルロース繊維は、一般セルロース繊維を、以下のように化学変性処理して表面のグルコース単位中にアニオン変性基を導入し、その後にさらに金属イオン及び/または金属粒子を担持させることにより製造することができる。
以下、セルロース繊維の表面におけるグルコース単位中にアニオン変性基を導入する方法、及び、その後に金属イオン及び/または金属粒子を担持する方法について、それぞれ説明する。
【0017】
(1)セルロース繊維の変性
セルロースは、グルコース単位あたり3つのヒドロキシル基を有しており、各種の化学変性処理を行うことが可能である。酸化セルロースとは、後述する工程においてセルロース繊維の少なくとも一部に対してカルボキシル基又はカルボキシレート基を導入する変性を行う。
ここで、カルボキシル基とは-COOHで表される基をいい、カルボキシレート基とは-COO-で表される基をいう。カルボキシレート基のカウンターイオンは特に限定されない。なお、カルボキシル基またはカルボキシレート基を合わせて「酸基」ともいう。
カルボキシル基又はカルボキシレート基を導入する変性の方法としては、変性後のセルロース繊維がカルボキシル基又はカルボキシレート基を含有していれば特に限定されない。
【0018】
(1-1)酸化
本発明において、セルロース繊維を酸化する方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。一例としては、N-オキシル化合物、臭化物、ヨウ化物、及びこれらの混合物からなる群より選択される物質の存在下で、酸化剤を用いて水中でセルロース原料を酸化する方法が挙げられる。この方法によれば、セルロース表面のグルコピラノース環のC6位の一級水酸基が選択的に酸化され、アルデヒド基、カルボキシル基、及びカルボキシレート基からなる群より選ばれる基が生じる。反応時のセルロース原料の濃度は特に限定されないが、5質量%以下が好ましい。
N-オキシル化合物とは、ニトロキシラジカルを発生しうる化合物をいう。ニトロキシルラジカルとしては例えば、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル(TEMPO)が挙げられる。N-オキシル化合物としては、目的の酸化反応を促進する化合物であれば、いずれの化合物も使用できる。
【0019】
N-オキシル化合物の使用量は、セルロース繊維を酸化できる触媒量であれば特に制限されない。例えば、絶乾1gのセルロースに対して、0.01mmol以上が好ましく、0.02mmol以上がより好ましい。上限は、10mmol以下が好ましく、1mmol以下がより好ましく、0.5mmol以下が更に好ましい。従って、N-オキシル化合物の使用量は絶乾1gのセルロースに対して、0.01~10mmolが好ましく、0.01~1mmolがより好ましく、0.02~0.5mmolがさらに好ましい。
【0020】
臭化物とは臭素を含む化合物であり、例えば、水中で解離してイオン化可能な臭化アルカリ金属、例えば臭化ナトリウム等が挙げられる。また、ヨウ化物とはヨウ素を含む化合物であり、例えば、ヨウ化アルカリ金属が挙げられる。臭化物又はヨウ化物の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択すればよい。臭化物及びヨウ化物の合計量は絶乾1gのセルロースに対して、0.1mmol以上が好ましく、0.5mmol以上がより好ましい。上限は、100mmol以下が好ましく、10mmol以下がより好ましく、5mmol以下が更に好ましい。従って、臭化物及びヨウ化物の合計量は絶乾1gのセルロースに対して、0.1~100mmolが好ましく、0.1~10mmolがより好ましく、0.5~5mmolがさらに好ましい。
【0021】
酸化剤は、特に限定されないが例えば、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸、それらの塩、ハロゲン酸化物、過酸化物などが挙げられる。特に、安価で環境負荷が少ないことから、次亜ハロゲン酸又はその塩が好ましく、次亜塩素酸又はその塩がより好ましく、次亜塩素酸ナトリウムが更に好ましい。
酸化剤の使用量は、絶乾1gのセルロースに対して、0.1mmol以上が好ましく、1mmol以上がより好ましく、3mmol以上が更に好ましい。上限は、500mmol以下が好ましく、50mmol以下がより好ましく、25mmol以下が更に好ましい。
【0022】
N-オキシル化合物を用いる場合、酸化剤の使用量はN-オキシル化合物1molに対して1mol以上が好ましく、上限は、40molが好ましい。従って、酸化剤の使用量はN-オキシル化合物1molに対して1~40molが好ましい。
酸化反応時のpH、温度等の条件は特に限定されず、一般に、比較的温和な条件であっても酸化反応は効率よく進行する。反応温度は4℃以上が好ましく、15℃以上がより好ましい。上限は40℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましい。従って、温度は4~40℃が好ましく、15~30℃程度、すなわち室温であってもよい。
反応液のpHは、8以上が好ましく、10以上がより好ましい。上限は、12以下が好ましく、11以下がより好ましい。従って、反応液のpHは、好ましくは8~12、より好ましくは10~11程度である。
【0023】
通常、酸化反応の進行に伴ってセルロース中にカルボキシル基が生成するため、反応液のpHは低下する傾向にある。そのため、酸化反応を効率よく進行させるためには、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性溶液を添加して、反応液のpHを上記の範囲に維持することが好ましい。酸化の際の反応媒体は、取扱い性の容易さや、副反応が生じにくいこと等の理由から、水が好ましい。
【0024】
酸化における反応時間は、酸化の進行の程度に従って適宜設定することができ、通常は0.5時間以上である。上限は通常は6時間以下、好ましくは4時間以下である。従って、酸化における反応時間は通常0.5~6時間、例えば0.5~4時間程度である。
酸化は、2段階以上の反応に分けて実施してもよい。例えば、1段目の反応終了後に濾別して得られた酸化セルロースを、再度、同一又は異なる反応条件で酸化させることにより、1段目の反応で副生する食塩による反応阻害を受けることなく、効率よく酸化させることができる。
【0025】
酸化方法の別の例として、オゾン処理により酸化する方法が挙げられる。この酸化反応により、セルロースを構成するグルコピラノース環の少なくとも2位及び6位の水酸基が酸化されると共に、セルロース鎖の分解が起こる。
オゾン処理は通常、オゾンを含む気体とセルロース原料とを接触させることにより行われる。気体中のオゾン濃度は、50g/m3以上であることが好ましい。上限は、250g/m3以下であることが好ましく、220g/m3以下であることがより好ましい。従って、気体中のオゾン濃度は、50~250g/m3であることが好ましく、50~220g/m3であることがより好ましい。
【0026】
オゾン添加量は、セルロース原料の固形分100質量%に対し、0.1量部以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましい。上限は、通常30質量%以下である。従って、オゾン添加量は、セルロース原料の固形分100質量%に対し、0.1~30質量%であることが好ましく、5~30質量%であることがより好ましい。
オゾン処理温度は、通常0℃以上であり、好ましくは20℃以上である。上限は通常50℃以下である。従って、オゾン処理温度は、0~50℃であることが好ましく、20~50℃であることがより好ましい。
オゾン処理時間は、通常は1分以上であり、好ましくは30分以上である。上限は通常360分以下である。従って、オゾン処理時間は、通常は1~360分程度であり、30~360分程度が好ましい。
オゾン処理の条件が上述の範囲内であると、セルロースが過度に酸化及び分解されることを防ぐことができ、酸化セルロースの収率が良好となる。
【0027】
オゾン処理後に得られる結果物に対しさらに、酸化剤を用いて追酸化処理を行ってもよい。追酸化処理に用いる酸化剤は、特に限定されないが例えば、二酸化塩素、亜塩素酸ナトリウム等の塩素系化合物;酸素、過酸化水素、過硫酸、過酢酸などが挙げられる。対酸化処理の方法としては例えば、これらの酸化剤を水又はアルコール等の極性有機溶媒中に溶解して酸化剤溶液を作成し、酸化剤溶液中にセルロース原料を浸漬させる方法が挙げられる。
【0028】
酸化セルロース繊維中に含まれるカルボキシル基、カルボキシレート基、アルデヒド基の量は、酸化剤の添加量、反応時間等の酸化条件をコントロールすることで調整することができる。
【0029】
(1-2)エーテル化
エーテル化としては、後工程においてセルロース繊維に金属イオンを導入する都合上、反応後の官能基にカルボキシル基又はカルボキシレート基を含有する方法であればいずれの方法でもよく、公知の方法を用いることができる。例としては、カルボキシメチル(エーテル)化、カルボキシエチル(エーテル)化、カルボキシプロピル(エーテル)化、カルボキシブチル(エーテル)化等のカルボキシアルキルエーテル化や、カルボキシフェニル(エーテル)化を挙げることができる。この中から一例としてカルボキシメチル化の方法を以下に説明する。
【0030】
カルボキシメチル化の方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、発底原料としてのセルロース原料をマーセル化し、その後エーテル化する方法が挙げられる。カルボキシメチル化反応の際は通用溶媒を用いる。溶媒としては例えば、水、アルコール(例えば低級アルコール)及びこれらの混合溶媒が挙げられる。低級アルコールとしては例えば、メタノール、エタノール、N-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、N-ブタノール、イソブタノール、第3級ブタノールが挙げられる。
【0031】
混合溶媒における低級アルコールの混合割合は、通常は60質量%以上又は95質量%以下であり、60~95質量%であることが好ましい。溶媒の量は、セルロース原料に対し通常は3質量倍である。上限は特に限定されないが20質量倍である。従って、溶媒の量は3~20質量倍であることが好ましい。
【0032】
マーセル化は通常、セルロース原料とマーセル化剤を混合して行う。マーセル化剤としては例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化アルカリ金属が挙げられる。マーセル化剤の使用量は、発底原料の無水グルコース残基当たり0.5倍モル以上が好ましく、1.0モル以上がより好ましく、1.5倍モル以上であることがさらに好ましい。上限は、通常20倍モル以下であり、10倍モル以下が好ましく、5倍モル以下がより好ましい、従って、0.5~20倍モルが好ましく、1.0~10倍モルがより好ましく、1.5~5倍モルがさらに好ましい。
【0033】
マーセル化の反応温度は、通常0℃以上であり、好ましくは10℃以上である。上限は通常70℃以下、好ましくは60℃以下である。従って、反応温度は、通常0~70℃、好ましくは10~60℃である。反応時間は、通常15分以上、好ましくは30分以上である。上限は、通常8時間以下、好ましくは7時間以下である。従って、通常は15分~8時間、好ましくは30分~7時間である。
【0034】
エーテル化反応は通常、カルボキシメチル化剤をマーセル化後に反応系に追加して行う。カルボキシメチル化剤としては例えば、モノクロロ酢酸ナトリウムが挙げられる。カルボキシメチル化剤の添加量は、セルロース原料のグルコース残基当たり通常は0.05倍モル以上が好ましく、0.5倍モル以上がより好ましく、0.8倍モル以上であることがさらに好ましい。上限は、通常10.0倍モル以下であり、5モル以下が好ましく、3倍モル以下がより好ましい、従って、好ましくは0.05~10.0倍モルであり、より好ましくは0.5~5であり、更に好ましくは0.8~3倍モルである。
反応温度は通常30℃以上、好ましくは40℃以上であり、上限は通常90℃以下、好ましくは80℃以下である。従って反応温度は通常30~90℃、好ましくは40~80℃である。反応時間は、通常30分以上であり、好ましくは1時間以上である。上限は、通常は10時間以下、好ましくは4時間以下である。従って反応時間は、通常は30分~10時間であり、好ましくは1時間~4時間である。
カルボキシメチル化反応の間は必要に応じて、反応液を撹拌してもよい。
【0035】
カルボキシメチル化によりセルロース原料を変性する場合、得られるカルボキシメチル化セルロース繊維中の無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度は、0.01以上が好ましく、0.05以上がより好ましく、0.10以上であることがさらに好ましい。上限は、0.50以下が好ましく、0.40以下がより好ましく、0.35以下が更に好ましい。従って、カルボキシメチル基置換度は、0.01~0.50が好ましく、0.05~0.40がより好ましく、0.10~0.30が更に好ましい。
【0036】
カルボキシメチル化セルロース繊維のグルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度の測定は例えば、次の方法によって行うことができる。すなわち、1)カルボキシメチル化セルロース(絶乾)約2.0gを精秤して、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。2)メタノール1000mLに特級濃硝酸100mLを加えて得られた硝酸メタノール溶液100mLを加え、3時間振とうして、カルボキシメチルセルロース塩(カルボキシメチル化セルロース)を水素型カルボキシメチル化セルロースにする。3)水素型カルボキシメチル化セルロース(絶乾)を1.5~2.0g精秤し、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。4)80%メタノール15mLで水素型カルボキシメチル化セルロースを湿潤し、0.1NのNaOHを100mL加え、室温で3時間振とうする。5)指示薬として、フェノールフタレインを用いて、0.1NのH2SO4で過剰のNaOHを逆滴定する。6)カルボキシメチル置換度(DS)を、次式によって算出する:
A=[(100×F'-(0.1NのH2SO4)(mL)×F)×0.1]/(水素型カルボキシメチル化セルロースの絶乾質量(g))
DS=0.162×A/(1-0.058×A)
A:水素型カルボキシメチル化セルロースの1gの中和に要する
1NのNaOH量(mL)
F':0.1NのNaOHのファクター
F:0.1NのH2SO4のファクター
【0037】
(1-3)エステル化
エステル化としては、アニオン性を有する官能基を導入する方法であればいずれの方法でもよく、公知の方法を用いることができる。例としては、リン酸エステル化、硫酸エステル化を挙げることができる。この中から一例としてリン酸エステル化、硫酸エステル化の方法を以下に説明する。
【0038】
リン酸エステル化セルロースは、リン酸基あるいは亜リン酸基を有する化合物でリン酸エステル化されたセルロースである。リン酸基あるいは亜リン酸基を有する化合物としては、例えば、リン酸、ポリリン酸、亜リン酸、ホスホン酸、ポリホスホン酸、これらのエステルや塩が挙げられる。これらの化合物は、低コストであり、扱い易い。
【0039】
リン酸基あるいは亜リン酸基を有する化合物としては、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、メタリン酸カリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、メタリン酸アンモニウム、亜リン酸、亜リン酸水素ナトリウム、亜リン酸水素アンモニウム、亜リン酸水素カリウム、亜リン酸二水素ナトリウム、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸リチウム、亜リン酸カリウム、亜リン酸マグネシウム、亜リン酸カルシウム、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリフェニル、ピロ亜リン酸等が挙げられる。中でも、リン酸エステル化または亜リン酸エステル化の効率が高く、かつ工業的に適用し易いという理由で、リン酸、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩、亜リン酸、亜リン酸のナトリウム塩、亜リン酸のカリウム塩、亜リン酸のアンモニウム塩が好ましく、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、亜リン酸水素ナトリウム、亜リン酸二水素ナトリウムがより好ましい。リン酸基あるいは亜リン酸基を有する化合物は1種単独で用いてもよく、2種以上の組み合わせて用いてもよい。
【0040】
リン酸エステル化セルロース、亜リン酸エステル化セルロースにおいて、リン酸エステル化セルロース、あるいは亜リン酸エステル化セルロース1g(重量)あたりのリン酸基あるいは亜リン酸基の導入量の下限は、0.1mmоl/g以上が好ましい。3.5mmоl/g超であると、所望の物性が得られない可能性がある。リン酸エステル化セルロース、あるいは亜リン酸エステル化セルロース1g(重量)あたりのリン酸基あるいは亜リン酸基の導入量は、0.1~3.5mmolが好ましい。
【0041】
リン酸エステル化反応、あるいは亜リン酸エステル化反応は、例えば、セルロース原料に対し、リン酸基あるいは亜リン酸基を有する化合物を反応させて行う。セルロース原料とリン酸基あるいは亜リン酸基を有する化合物を反応させる方法としては、例えば、セルロース原料にリン酸基あるいは亜リン酸基を有する化合物の粉末又は水溶液を混合する方法、セルロース原料のスラリーにリン酸基あるいは亜リン酸基を有する化合物の水溶液を添加する方法が挙げられる。これらの中でも、反応の均一性が高まり、かつリン酸エステル化効率、亜リン酸エステル化効率が高くなるという理由で、セルロース原料又はそのスラリーにリン酸基あるいは亜リン酸基を有する化合物の水溶液を混合する方法が好ましい。リン酸基あるいは亜リン酸基を有する化合物の水溶液のpHは、リン酸基あるいは亜リン酸基の導入の効率を高める観点から、7以下が好ましく、加水分解を抑える観点から、3~7がより好ましい。
【0042】
リン酸基あるいは亜リン酸基を有する化合物の添加量の下限は、セルロース原料100質量部に対して、リン原子換算で、0.2質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。斯かる範囲であることにより、リン酸エステル化セルロース、亜リン酸エステル化セルロースの収率を向上し得る。一方、その上限は、500質量部以下が好ましく、400質量部以下がより好ましい。斯かる範囲であることにより、リン酸基あるいは亜リン酸基を有する化合物の添加量に見合った収率を効率よく得ることができる。
リン酸基あるいは亜リン酸基を有する化合物の添加量は、0.2~500質量部が好ましく、1~400質量部がより好ましい。
【0043】
セルロース原料と、リン酸基あるいは亜リン酸基を有する化合物を反応させる際、さらに塩基性化合物を反応系に加えてもよい。塩基性化合物を反応系に加える方法としては、例えば、セルロース原料のスラリー、リン酸基あるいは亜リン酸基を有する化合物の水溶液、又はセルロース原料とリン酸基あるいは亜リン酸基を有する化合物のスラリーに、添加する方法が挙げられる。塩基性化合物は特に限定されないが、塩基性を示す窒素含有化合物が好ましい。「塩基性を示す」とは、通常、フェノールフタレイン指示薬の存在下で塩基性化合物の水溶液が桃~赤色を呈すること、または塩基性化合物の水溶液のpHが7より大きいことを意味する。
【0044】
塩基性を示す窒素含有化合物は、本発明の効果を奏する限り特に限定されない。中でも、アミノ基を有する化合物が好ましい。例えば、尿素、メチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンが挙げられる。これらの中でも、低コストで扱いやすいという理由で、尿素が好ましい。
【0045】
塩基性化合物の添加量は、2~1000質量部が好ましく、100~700質量部がより好ましい。反応温度は、0~95℃が好ましく、30~90℃がより好ましい。反応時間は特に限定されないが、通常、1~600分程度であり、30~480分が好ましい。反応条件がこれらのいずれかの範囲内であると、セルロースに過度にリン酸基あるいは亜リン酸基が導入されて溶解し易くなることを防ぐことができ、リン酸エステル化セルロース、亜リン酸エステル化セルロースの収率を向上し得る。
【0046】
セルロース原料にリン酸基あるいは亜リン酸基を有する化合物を反応させた後、通常、懸濁液が得られる。懸濁液を必要に応じて脱水する。脱水後には加熱処理を行うことが好ましい。これにより、セルロース原料の加水分解を抑えることができる。加熱温度は、100~170℃が好ましく、加熱処理の際に水が含まれている間は130℃以下(更に好ましくは110℃以下)で加熱し、水を除いた後、100~170℃で加熱することがより好ましい。
リン酸エステル化セルロース、亜リン酸エステル化セルロースは、煮沸後、冷水で洗浄する等の洗浄処理を施すことが好ましい。
【0047】
(1-4)スルホン化
スルホン化セルロースは、硫酸基を有する化合物でスルホン化されたセルロースである。硫酸酸基を有する化合物としては、例えば、硫酸、スルファミン酸、クロロスルホン酸、三酸化硫黄、これらのエステルや塩が挙げられる。これらの化合物は、低コストであり、扱い易い。
【0048】
スルホン化試薬としては、スルファミン酸が好ましく用いられる。スルファミン酸は、無水硫酸や硫酸水溶液等に比べてセルロース溶解性が小さいだけでなく、酸性度が低いために重合度の保持が可能である。また、強酸性かつ高腐食性のある無水硫酸や硫酸水溶液に対して、取り扱いに制限がなく、大気汚染防止法の特定物質にも指定されていないため、環境に対する負荷が小さい。
【0049】
スルファミン酸の使用量は、セルロース繊維への置換基の導入量を考慮して適宜調整することができる。スルファミン酸は、例えば、セルロース分子中のグルコース単位1モル当たり、好ましくは0.01~50モル、より好ましは0.1~30モルで使用することができる。
【0050】
(2)金属イオン及び/または金属粒子の担持
セルロース繊維に対し、更にAg、Au、Pt、Pd、Ni、Mn、Fe、Ti、Al、Zn及びCuの群から選ばれる1種以上の金属元素のイオン又は粒子を担持させることにより、高い抗ウイルス効果が発現する。特にAg、Cuを用いることにより、抗ウイルス機能がさらに向上する。
特にアニオン変性セルロース繊維は、この金属とセルロース繊維が化学的に結合しているため、シート状に抄紙した際に、シートから金属成分が脱離しにくく、また引張強さ等の力学特性も良好である。
【0051】
上記セルロース繊維に対し上記金属イオンを担持する方法としては、特に限定されず、例えば、予め調製した上記セルロース繊維の分散液と金属化合物水溶液を混合してもよく、また上記セルロース繊維を含む分散液を基材の上に塗布して膜とし、当該膜に金属化合物水溶液を滴下して含浸させてもよい。このとき、膜は基板上に固定されたままであってもよいし、基板から剥離された状態であってもよい。
【0052】
これらの方法により、金属化合物に由来する金属イオンが、カルボキシレート基のようなアニオン変性基と既にイオン結合していたナトリウムイオンと対イオン交換することで、セルロース繊維に対して金属イオンが付加される。この対イオン交換は、金属イオン同士のイオン化傾向の差によって起こると考えられる。
ここで金属化合物水溶液とは、金属塩の水溶液である。金属塩の例には、錯体(錯イオン)、ハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩、及び酢酸塩が挙げられる。金属化合物水溶液の濃度は特に限定されないが、セルロース繊維1gに対して0.2~2.2mmolが好ましく、0.4~1.8mmolがより好ましい。金属化合物を接触させる時間は適宜調整してよい。
【0053】
接触させる際の温度は特に限定されないが、2~50℃の範囲であることが好ましい。また、接触させる際の液のpHは特に限定されないが、pHが低いと、アニオン変性基に金属イオンが結合しにくくなるため、7~13の範囲であることが好ましく、pH8~12の範囲であることが特に好ましい。
【0054】
本発明では、上記のようにセルロース繊維に金属イオンを導入することが可能であるが、金属イオンの一部が還元され金属粒子になっている場合がある。また、必要に応じ、金属イオン担持セルロース繊維に結合した金属イオンの一部を還元剤などの添加により、還元することによって、セルロース繊維の表面上に金属粒子を部分的に形成させることも可能である。
ただし、特別な還元処理を行わず、金属化合物の全量を金属のイオンのまま用いることが、抗ウイルス効果の点から好ましい。
【0055】
上記で得られた金属含有セルロース繊維中の金属化合物を還元することによって金属粒子をセルロース繊維中に生成させる機構は明らかでないが、以下のように推察される。還元反応により金属化合物含有セルロース繊維中の金属化合物または金属化合物由来のイオンは還元されて金属となる。このとき、生成した金属は、セルロース繊維の表面に担持される。同様に生成した近隣の金属同士は一体化するので、粒子が成長してナノ粒子が形成される。一方、セルロース繊維の近傍に存在するもののセルロース繊維と結合せずに存在していた金属化合物等も還元されて金属を生成する。この金属は、速やかにセルロース繊維表面の金属と一体化して金属粒子を形成する。
【0056】
還元反応は、公知の方法で行ってよいが、金属化合物を還元しつつ、金属化合物と酸基との結合を開裂しないように行うことが好ましい。このような還元方法の例には、水素による気相還元法、および水素化ホウ素ナトリウム水溶液などの還元剤を用いた液相還元法が含まれる。気相還元における時間、温度等の条件は適宜調整されるが、例えば50~60℃で1~3時間程度反応すればよい。気相還元反応は、金属含有セルロース繊維が水や溶媒を含んでいない状態で行うことが好ましい。還元反応においては、膜は基板上に固定されたままであってもよいし、基板から剥離された状態であってもよい。液相還元の場合は、上記分散液から膜を得て、これを乾燥してあるいは乾燥しないまま還元反応に供することができる。また、分散液を乾燥することなく液相還元反応に供することもできる。液相還元における反応温度は4~40℃が好ましく、室温がより好ましい。
【0057】
セルロース繊維が金属イオンか金属粒子を含有していることは、走査型電子顕微鏡像、及び強酸による抽出液のICP発光分析で確認できる。つまり、金属イオンは走査型電子顕微鏡像では存在を確認できず、一方でICP発光分析では金属を含有していることを確認できる。これに対し、例えば上記金属がイオンから還元されて金属粒子として存在している場合は、走査型電子顕微鏡像で金属粒子を確認することができるので、金属イオンの有無を判定できる。また、走査型電子顕微鏡像とエネルギー分散型X線分析(EDS)による元素マッピングによっても金属イオンの有無を判定できる。つまり、走査型電子顕微鏡像では金属イオンを確認できないが、元素マッピングをすることで金属イオンが存在することを確認できる。
【0058】
前記金属イオン又は金属粒子を担持する工程において、セルロース繊維に対する金属の含有量は、セルロース繊維に対し10~100mg/gの範囲であることが好ましく、15~80mg/gの範囲であることがさらに好ましく、20~60mg/gの範囲であることが特に好ましい。10mg/gより少ないと、抗ウイルス、消臭、抗菌機能が劣る場合がある。一方、100mg/gを超えると、製造時に金属イオンが溶出し易くなり、排水処理の負荷が大きくなる。
【0059】
本発明における金属含有セルロース繊維は、前記変性処理を行う前から、前記金属担持処理を行った後の間に少なくとも1回以上叩解処理を行ってもよい。ここで叩解処理とは、繊維に機械的剪断力を与える処理のことである。叩解処理により、セルロース繊維の一部がフィブリル化し、表面積が増大することにより、一般的には乾燥時における繊維間結合を強くすることができるほか、比表面積を大きくすることができ、金属イオンを表面に露出させることができるので、本発明においてはさらに抗ウイルス効果、消臭効果や抗菌効果を高めることができる。一方、叩解処理を過剰に行い、セルロース繊維を過度に微細化しすぎると、パルプと配合して製造する際に歩留りが低下したり、紙中に留まらず(残らず)、金属含有セルロース繊維が有する抗ウイルス効果が低下したりするため好ましくない。叩解度合いの指標としては、ろ水度(CSF)を用いることができる。具体的には、ろ水度が低すぎると歩留りが低くなって板紙の抗ウイルス効果が低下する一方、ろ水度が高すぎるとフィブリル化が不十分で金属含有セルロース繊維の抗ウイルス効果が低下することがある。
【0060】
叩解に用いる装置は特に限定されず、公知の装置を任意に用いることができる。叩解装置の例としては、リファイナーやビーター、PFIミル、ニーダー、ディスパーザーなど回転軸を中心として金属または刃物とパルプ繊維を作用させるもの、パルプ繊維同士の摩擦によるもの、並びに高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、ナノマイザー、各種ミル、石臼型磨砕機等の装置を挙げることができる。
【0061】
また、叩解、または必要に応じて叩解前に行う分散処理に先立って、必要に応じて予備処理を行ってもよい。予備処理としては、例えば、混合、撹拌、乳化、分散が挙げられ、公知の装置(例、高速せん断ミキサー)を用いて行えばよい。
金属イオン含有セルロース繊維をナノファイバー化してもよい。ナノファイバー化した部位では表面積が増大し、抗ウイルス効果、消臭効果、抗菌効果を高めることができる。一方、繊維を完全にナノファイバー化し過ぎると、繊維が完全離解し、パルプと配合して製造する際に歩留りが低下したり、紙中に留まらず(残らず)、金属イオン含有セルロース繊維が有する効果が低下したりする。ここで、ナノファイバー化とは、金属イオン含有セルロース繊維を繊維径100nm以下まで解繊した繊維にすることをいう。ナノファイバー化するためには、叩解に用いると同様の公知の装置を任意に用いることができる。
【0062】
〔金属イオンまたは金属粒子〕
金属含有セルロース繊維を構成する金属イオンまたは金属粒子は、多層シートの用途に応じて適宜選択すればよく、水に不溶性又は難溶性の金属イオンまたは金属粒子であることが好ましい。金属イオンまたは金属粒子の合成を水系で行う場合があり、また、金属含有セルロース繊維を水系で使用することもあるため、金属イオンまたは金属粒子が水に不溶性又は難溶性であると好ましい。
【0063】
金属イオンまたは金属粒子とは無機化合物の粒子をいい、例えば金属化合物が挙げられる。金属化合物とは、金属の陽イオン(例えば、Na、Ca2+、Mg2+、Al3+、Ba2+等)と陰イオン(例えば、O2-、OH、CO 2-、PO 3-、SO 2-、NO 、Si 2-、SiO 2-、Cl、F、S2-等)がイオン結合によって結合してできた、一般に無機塩と呼ばれるものをいう。金属イオンまたは金属粒子の具体例としては、例えば、金、銀、チタン、銅、白金、鉄、亜鉛、及び、アルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1つの金属を含む化合物が挙げられる。また、炭酸カルシウム(軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム)、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、硫酸バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、リン酸カルシウム、酸化亜鉛、ステアリン酸亜鉛、二酸化チタン、ケイ酸ナトリウムと鉱酸から製造されるシリカ(ホワイトカーボン、シリカ/炭酸カルシウム複合物、シリカ/二酸化チタン複合物)、硫酸カルシウム、ゼオライト、ハイドロタルサイトが挙げられる。炭酸カルシウム-シリカ複合物としては、炭酸カルシウム及び/又は軽質炭酸カルシウム-シリカ複合物以外に、ホワイトカーボンのような非晶質シリカを併用してもよい。以上に例示した金属イオンまたは金属粒子については、繊維を含む溶液中で、互いに合成する反応を阻害しない限り、単独でも2種類以上の組み合わせで用いてもよい。
【0064】
また、金属含有セルロース繊維中の金属イオンまたは金属粒子がハイドロタルサイトである場合、ハイドロタルサイトとセルロース繊維との金属含有セルロース繊維の灰分中、銅または亜鉛のうち少なくとも一つを10重量%以上含むことがより好ましい。
【0065】
本発明の一実施形態において、目的とする機能性に応じて金属イオン又は金属粒子を選択することができる。例えば、抗ウイルス性の他に鮮度保持を目的とする場合、ガス吸着、防カビ、もしくは抗菌機能の高い板紙を得るのに必要な金属イオンまたは金属粒子として、銅または亜鉛を含むハイドロタルサイトを用いることがより好ましい。
【0066】
〔繊維〕
金属含有繊維の原料となる繊維は、セルロース繊維であれば特に制限されないが、例えば、天然のセルロース繊維、レーヨンやリヨセルなどの再生繊維(半合成繊維)や合成繊維などを制限なく使用することができる。その中でも、木材パルプを含むか、若しくは、木材パルプと非木材パルプ及び/又は合成繊維との組み合わせを含むことが好ましく、木材パルプのみであることがより好ましい。好ましい態様において、金属含有セルロース繊維を構成する繊維はパルプ繊維である。天然のセルロース繊維の原料としては、パルプ繊維(木材パルプ、非木材パルプ)、バクテリアセルロース、ホヤ等の動物由来セルロース、藻類が例示され、木材パルプは、木材原料をパルプ化して製造すればよい。木材原料としては、アカマツ、クロマツ、トドマツ、エゾマツ、ベニマツ、カラマツ、モミ、ツガ、スギ、ヒノキ、カラマツ、シラベ、トウヒ、ヒバ、ダグラスファー、ヘムロック、ホワイトファー、スプルース、バルサムファー、シーダ、パイン、メルクシマツ、ラジアータパイン等の針葉樹、及びこれらの混合材、ブナ、カバ、ハンノキ、ナラ、タブ、シイ、シラカバ、ハコヤナギ、ポプラ、タモ、ドロヤナギ、ユーカリ、マングローブ、ラワン、アカシア等の広葉樹及びこれらの混合材が例示される。
【0067】
木材原料(木質原料)等の天然材料をパルプ化する方法は、特に限定されず、製紙業界で一般に用いられるパルプ化法が例示される。木材パルプはパルプ化法により分類でき、例えば、クラフト法、サルファイト法、ソーダ法、ポリサルファイド法等の方法により蒸解した化学パルプ;リファイナー、グラインダー等の機械力によってパルプ化して得られる機械パルプ;薬品による前処理の後、機械力によるパルプ化を行って得られるセミケミカルパルプ;古紙パルプ;脱墨パルプ等が挙げられる。木材パルプは、未晒(漂白前)の状態であってもよいし、晒(漂白後)の状態であってもよい。
【0068】
非木材由来のパルプとしては、綿、ヘンプ、サイザル麻、マニラ麻、亜麻、藁、竹、バガス、ケナフ、サトウキビ、トウモロコシ、稲わら、楮(こうぞ)、みつまた等が例示される。
【0069】
パルプ繊維は、未叩解及び叩解のいずれでもよく、金属含有セルロース繊維の物性に応じて選択すればよいが、叩解を行う方が好ましい。これにより、パルプ繊維の強度の向上及び金属イオンまたは金属粒子の定着促進が期待できる。また、パルプ繊維を叩解することにより、シート状の金属含有セルロース繊維とする態様において、金属含有セルロース繊維シートのBET比表面積の向上効果が期待できる。尚、パルプ繊維の叩解の程度はJIS P 8121-2:2012に規定されるカナダ標準濾水度(Canadian Standard freeness:CSF)によって表わすことができる。叩解が進むにつれてパルプ繊維の水切れ状態が低下し、濾水度は低くなる。
【0070】
また、セルロース原料はさらに処理を施すことで、微粉砕セルロース、酸化セルロース等の化学変性セルロースとして使用することもできる。
【0071】
また、セルロース繊維の他にも様々な、天然繊維、合成繊維、半合繊維、無機繊維が挙げられる。天然繊維としては、例えば、ウール、絹糸、コラーゲン繊維等の蛋白系繊維、キチン・キトサン繊維、アルギン酸繊維等の複合糖鎖系繊維等が挙げられる。合成繊維としては、例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、アクリル繊維、半合繊維としてはレーヨン、リヨセル、アセテート等が挙げられる。無機繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、各種金属繊維等が挙げられる。さらには、製紙工場の排水から回収された繊維状物質を原料として用いてもよい。このような物質を用いることにより、種々の複合粒子を合成することができ、また、形状的にも繊維状粒子などを合成することができる。
【0072】
また、合成繊維とセルロース繊維との金属含有セルロース繊維も本発明の一態様において使用することができ、例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、アクリル繊維、ガラス繊維、炭素繊維、各種金属繊維等とセルロース繊維との金属含有セルロース繊維も使用することができる。
【0073】
また、繊維の他にも、金属イオンまたは金属粒子の合成反応には直接的に関与しないが、生成物である金属イオンまたは金属粒子に取り込まれて複合粒子を生成するような物質を用いることができる。例えば、パルプ繊維等の繊維を使用する態様において、それ以外にも金属イオンまたは金属粒子、有機粒子、ポリマー等を含む溶液中で金属イオンまたは金属粒子を合成することによって、さらにこれらの物質が取り込まれた複合粒子を製造することが可能である。
以上に例示した繊維については単独でも2種類以上の組み合わせで用いてもよい。
【0074】
〔板紙の原料〕
本発明の板紙は、金属含有繊維を含むほかは公知の原料および製造方法を用いて製造される。板紙に用いる原料パルプは特に限定されず、例えば、グランドパルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)等の機械パルプ、脱墨古紙パルプ(DIP)、未脱墨古紙パルプ等の古紙パルプ、針葉樹クラフトパルプ(NKP)、針葉樹クラフトパルプ(LKP)等の化学パルプ等を使用でき、その中でも古紙パルプを50重量%以上含まれることが好ましい。古紙パルプとしては、上質紙、中質紙、下級紙、新聞紙、チラシ、雑誌、段ボール、印刷古紙などの選別古紙やこれらが混合している無選別古紙由来のものを使用できる。また、板紙が多層板紙である場合、前述したとおり、紙層ごとにパルプの種類や配合を変えてもよいし、すべての紙層を同じ種類のパルプを用いてもよい。
【0075】
板紙には前述した金属含有繊維の他、その用途に応じて公知の填料を添加できる。填料としては、重質炭酸カルシム、軽質炭酸カルシウム、クレー、シリカ、軽質炭酸カルシウム-シリカ複合物、カオリン、焼成カオリン、デラミカオリン、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、酸化亜鉛、酸化チタン、ケイ酸ナトリウムの鉱酸による中和で製造される非晶質シリカ等の無機填料や、尿素-ホルマリン樹脂、メラミン系樹脂、ポリスチレン樹脂、フェノール樹脂などの有機填料が挙げられる。これらは、単独で使用してもよいし併用してもよい。また、添加を行う場合の紙中の填料の含有率は、紙の重量に対して0~20質量%が好ましい。さらに、板紙が多層板紙である場合、紙層ごとに紙中の填料の種類や含有率を変更してもよいし、すべて同じとしてもよい。
【0076】
内添薬品として、歩留剤、嵩高剤、乾燥紙力向上剤、湿潤紙力向上剤、濾水性向上剤、保水剤、染料、サイズ剤、各種塩等を必要に応じて使用してもよく、板紙が多層板紙である場合、その種類や含有率は紙層ごとに変更してもよいし、すべて同じ種類や同じ含有率としてもよい。
【0077】
<板紙の製造方法>
本発明の板紙の製造方法は、繊維と金属イオンまたは金属粒子との金属含有セルロース繊維を含む板紙の製造方法であって、繊維を含むスラリー中で金属イオンまたは金属粒子を合成して、前記金属含有セルロース繊維を生成する金属含有セルロース繊維生成工程と、前記金属含有セルロース繊維およびパルプを含む金属含有セルロース繊維含有パルプスラリーを連続抄紙機に供して連続的に抄紙して板紙を生成する板紙製造工程とを含む。好ましくは、繊維を含む紙層が2層以上積層しており、少なくとも1つの紙層は、繊維と金属イオンまたは金属粒子との金属含有セルロース繊維を含み、別の紙層とは異なる性質を有する、板紙の製造方法であって、繊維を含むスラリー中で金属イオンまたは金属粒子を合成して、前記金属含有セルロース繊維を生成する金属含有セルロース繊維生成工程と、前記金属含有セルロース繊維およびパルプを含む金属含有セルロース繊維含有パルプスラリーと、当該別の紙層とを形成するためのパルプスラリーとを連続抄紙機に供して連続的に抄紙して板紙を生成する板紙製造工程とを含む。
【0078】
〔金属含有セルロース繊維生成工程〕
金属含有セルロース繊維生成工程は、繊維と金属イオンまたは金属粒子との金属含有セルロース繊維を生成する工程である。金属含有セルロース繊維生成工程では、繊維を含むスラリー中で金属イオンまたは金属粒子を合成することによって、金属含有セルロース繊維を生成する。
【0079】
〔金属含有セルロース繊維の生成方法〕
セルロース繊維に対し、更にAg、Au、Pt、Pd、Ni、Mn、Fe、Ti、Al、Zn及びCuの群から選ばれる1種以上の金属元素のイオン又は粒子を担持させることにより、高い抗ウイルス効果が発現する。特にAg、Cuを用いることにより、抗ウイルス機能がさらに向上する。
特にアニオン変性セルロース繊維は、この金属とセルロース繊維が化学的に結合しているため、シート状に抄紙した際に、シートから金属成分が脱離しにくく、また引張強さ等の力学特性も良好である。
【0080】
上記セルロース繊維に対し上記金属イオンを担持する方法としては、特に限定されず、例えば、予め調製した上記セルロース繊維の分散液と金属化合物水溶液を混合してもよく、また上記セルロース繊維を含む分散液を基材の上に塗布して膜とし、当該膜に金属化合物水溶液を滴下して含浸させてもよい。このとき、膜は基板上に固定されたままであってもよいし、基板から剥離された状態であってもよい。
これらの方法により、金属化合物に由来する金属イオンが、カルボキシレート基のようなアニオン変性基と既にイオン結合していたナトリウムイオンと対イオン交換することで、セルロース繊維に対して金属イオンが付加される。この対イオン交換は、金属イオン同士のイオン化傾向の差によって起こると考えられる。
ここで金属化合物水溶液とは、金属塩の水溶液である。金属塩の例には、錯体(錯イオン)、ハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩、及び酢酸塩が挙げられる。金属化合物水溶液の濃度は特に限定されないが、セルロース繊維1gに対して0.2~2.2mmolが好ましく、0.4~1.8mmolがより好ましい。金属化合物を接触させる時間は適宜調整してよい。
【0081】
接触させる際の温度は特に限定されないが、2~50℃の範囲であることが好ましい。また、接触させる際の液のpHは特に限定されないが、pHが低いと、アニオン変性基に金属イオンが結合しにくくなるため、7~13の範囲であることが好ましく、pH8~12の範囲であることが特に好ましい。
【0082】
本発明では、上記のようにセルロース繊維に金属イオンを導入することが可能であるが、金属イオンの一部が還元され金属粒子になっている場合がある。また、必要に応じ、金属イオン担持セルロース繊維に結合した金属イオンの一部を還元剤などの添加により、還元することによって、セルロース繊維の表面上に金属粒子を部分的に形成させることも可能である。
ただし、特別な還元処理を行わず、金属化合物の全量を金属のイオンのまま用いることが、抗ウイルス効果の点から好ましい。
【0083】
上記で得られた金属含有セルロース繊維中の金属化合物を還元することによって金属粒子をセルロース繊維中に生成させる機構は明らかでないが、以下のように推察される。還元反応により金属化合物含有セルロース繊維中の金属化合物または金属化合物由来のイオンは還元されて金属となる。このとき、生成した金属は、セルロース繊維の表面に担持される。同様に生成した近隣の金属同士は一体化するので、粒子が成長してナノ粒子が形成される。一方、セルロース繊維の近傍に存在するもののセルロース繊維と結合せずに存在していた金属化合物等も還元されて金属を生成する。この金属は、速やかにセルロース繊維表面の金属と一体化して金属粒子を形成する。
【0084】
還元反応は、公知の方法で行ってよいが、金属化合物を還元しつつ、金属化合物と酸基との結合を開裂しないように行うことが好ましい。このような還元方法の例には、水素による気相還元法、および水素化ホウ素ナトリウム水溶液などの還元剤を用いた液相還元法が含まれる。気相還元における時間、温度等の条件は適宜調整されるが、例えば50~60℃で1~3時間程度反応すればよい。気相還元反応は、金属含有セルロース繊維が水や溶媒を含んでいない状態で行うことが好ましい。還元反応においては、膜は基板上に固定されたままであってもよいし、基板から剥離された状態であってもよい。液相還元の場合は、上記分散液から膜を得て、これを乾燥してあるいは乾燥しないまま還元反応に供することができる。また、分散液を乾燥することなく液相還元反応に供することもできる。液相還元における反応温度は4~40℃が好ましく、室温がより好ましい。
【0085】
セルロース繊維が金属イオンか金属粒子を含有していることは、走査型電子顕微鏡像、及び強酸による抽出液のICP発光分析で確認できる。つまり、金属イオンは走査型電子顕微鏡像では存在を確認できず、一方でICP発光分析では金属を含有していることを確認できる。これに対し、例えば上記金属がイオンから還元されて金属粒子として存在している場合は、走査型電子顕微鏡像で金属粒子を確認することができるので、金属イオンの有無を判定できる。また、走査型電子顕微鏡像とエネルギー分散型X線分析(EDS)による元素マッピングによっても金属イオンの有無を判定できる。つまり、走査型電子顕微鏡像では金属イオンを確認できないが、元素マッピングをすることで金属イオンが存在することを確認できる。
【0086】
前記金属イオン又は金属粒子を担持する工程において、セルロース繊維に対する金属の含有量は、セルロース繊維に対し10~100mg/gの範囲であることが好ましく、15~80mg/gの範囲であることがさらに好ましく、20~60mg/gの範囲であることが特に好ましい。10mg/gより少ないと、抗ウイルス、消臭、抗菌機能が劣る場合がある。一方、100mg/gを超えると、製造時に金属イオンが溶出し易くなり、排水処理の負荷が大きくなる。
【0087】
本発明における金属含有セルロース繊維は、前記変性処理を行う前から、前記金属担持処理を行った後の間に少なくとも1回以上叩解処理を行ってもよい。ここで叩解処理とは、繊維に機械的剪断力を与える処理のことである。叩解処理により、セルロース繊維の一部がフィブリル化し、表面積が増大することにより、一般的には乾燥時における繊維間結合を強くすることができるほか、比表面積を大きくすることができ、金属イオンを表面に露出させることができるので、本発明においてはさらに抗ウイルス効果、消臭効果や抗菌効果を高めることができる。一方、叩解処理を過剰に行い、セルロース繊維を過度に微細化しすぎると、パルプと配合して製造する際に歩留りが低下したり、紙中に留まらず(残らず)、金属含有セルロース繊維が有する抗ウイルス効果が低下したりするため好ましくない。叩解度合いの指標としては、ろ水度(CSF)を用いることができる。具体的には、ろ水度が低すぎると歩留りが低くなって板紙の抗ウイルス効果が低下する一方、ろ水度が高すぎるとフィブリル化が不十分で金属含有セルロース繊維の抗ウイルス効果が低下することがある。
【0088】
叩解に用いる装置は特に限定されず、公知の装置を任意に用いることができる。叩解装置の例としては、リファイナーやビーター、PFIミル、ニーダー、ディスパーザーなど回転軸を中心として金属または刃物とパルプ繊維を作用させるもの、パルプ繊維同士の摩擦によるもの、並びに高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、ナノマイザー、各種ミル、石臼型磨砕機等の装置を挙げることができる。
また、叩解、または必要に応じて叩解前に行う分散処理に先立って、必要に応じて予備処理を行ってもよい。予備処理としては、例えば、混合、撹拌、乳化、分散が挙げられ、公知の装置(例、高速せん断ミキサー)を用いて行えばよい。
【0089】
金属イオン含有セルロース繊維をナノファイバー化してもよい。ナノファイバー化した部位では表面積が増大し、抗ウイルス効果、消臭効果、抗菌効果を高めることができる。一方、繊維を完全にナノファイバー化し過ぎると、繊維が完全離解し、パルプと配合して製造する際に歩留りが低下したり、紙中に留まらず(残らず)、金属イオン含有セルロース繊維が有する効果が低下したりする。ここで、ナノファイバー化とは、金属イオン含有セルロース繊維を繊維径100nm以下まで解繊した繊維にすることをいう。ナノファイバー化するためには、叩解に用いると同様の公知の装置を任意に用いることができる。
【0090】
2種類以上の金属イオンまたは金属粒子を繊維に複合化させる場合には、繊維の存在下で1種類の金属イオンまたは金属粒子の合成反応を行なった後、当該合成反応を止めて別の種類の金属イオンまたは金属粒子の合成反応を行なってもよく、互いに反応を邪魔しなかったり、一つの反応で目的の金属イオンまたは金属粒子が複数種類合成されたりする場合には2種類以上の金属イオンまたは金属粒子を同時に合成してもよい。
【0091】
金属イオンまたは金属粒子を合成する際の条件を調整することによって、種々の大きさや形状を有する金属イオンまたは金属粒子を繊維と複合化することができる。例えば、鱗片状の金属イオンまたは金属粒子が繊維に複合化している金属含有セルロース繊維とすることもできる。金属含有セルロース繊維を構成する金属イオンまたは金属粒子の形状は、電子顕微鏡による観察により確認することができる。
【0092】
また、本発明の一態様において、金属含有セルロース繊維の合成に使用する繊維は、どのような濾水度のものでも使用できるが、600ml以下ものでも好適に使用できる。また、繊維の濾水度の下限値は、より好ましくは、50ml以上であり、さらに好ましくは100ml以上である。
【0093】
〔抄紙工程〕
抄紙工程は、前記金属含有セルロース繊維を含む金属含有セルロース繊維含有スラリーを抄紙し板紙を製造する工程である。好ましくは、前記金属含有セルロース繊維を含む金属含有セルロース繊維含有スラリーと、当該別の紙層とを形成するためのスラリーとを抄紙し多層板紙を製造する工程である。
【0094】
抄紙工程において生成する板紙の坪量は、目的に応じて適宜調整できる。板紙が単層の板紙である場合、坪量の下限は10g/m以上、上限は300g/m以下の範囲で適宜設定することができる。また多層板紙の場合、一つの紙層あたりの坪量として、下限は10g/m以上、上限は250g/m以下の範囲で適宜設定することができ、多層の板紙全体の坪量として、下限は70g/m以上、上限は900g/m以下の範囲で適宜設定することができ、例えば、段ボールのライナの場合、坪量の下限は70g/m以上、上限は700g/m以下の範囲で適宜設定することができる。
【0095】
抄紙工程では、金属含有セルロース繊維含有スラリーを抄紙する。好ましくは金属含有セルロース繊維含有スラリーをそのまま、もしくは金属含有セルロース繊維含有スラリーと別の紙層とを形成するためのスラリーとを連続抄紙機に供して、各スラリー由来の紙層が積層するように連続的に抄紙する。多層板紙の場合は得られる板紙の用途に応じて、最外層である表層および/または裏層に金属含有セルロース繊維含有スラリーを有する層を設けるよう抄紙することが好ましい。連続抄紙機によって板紙を製造するため、従来のように、機能を有する材料又はシートを、ベースとなるシートに塗布したり貼り合わせ加工したりする必要がなく、より容易に機能性を有する紙を製造できる。
【0096】
連続抄紙機は特に限定されず、公知の抄紙機(抄造機)を選択することができる。例えば、長網抄紙機、円網抄紙機、長網・傾斜コンビネーション抄紙機、ギャップフォーマ、ハイブリッドフォーマ、多層抄紙機、これらの機器の抄紙方式を組合せた公知の抄造機等が挙げられる。本発明の一実施形態において、長網抄紙機を好適に採用することができる。また、本発明の他の実施形態において、円網抄紙機を好適に採用することができる。円網抄紙機は、坪量が多い多層紙の製造に適している。また、円網抄紙機は、長網抄紙機と比較して設備がコンパクトであるという利点を有する。これに対して、長網抄紙機は、円網抄紙機と比較して高速抄紙が可能であるという利点を有している。抄紙機におけるプレス線圧、後述するカレンダー処理を行う場合のカレンダー線圧は、いずれも操業性や金属含有セルロース繊維を含む紙の性能に支障を来さない範囲内で定めることができる。また、形成された紙に対して含浸や塗布により澱粉や各種ポリマー、顔料及びそれらの混合物を付与してもよい。
【0097】
抄紙工程における抄紙速度は特に限定されない。抄紙速度は、使用する抄紙機の特性、抄紙するシートの坪量等に応じて適宜設定することができる。例えば、長網抄紙機を使用する場合は、抄紙速度を、1m/min以上、1500m/min以下とすることができる。また、例えば、円網抄紙機を使用する場合は、抄紙速度を、10m/min以上、300m/min以下とすることができる。
【0098】
〔金属含有セルロース繊維含有スラリー〕
抄紙工程において使用する金属含有セルロース繊維含有スラリー中に含まれている金属含有セルロース繊維としては、1種類のみであってもよく、2種類以上を混合したものであってもよい。
金属含有セルロース繊維含有スラリーには、原料パルプが含まれ、金属含有セルロース繊維以外の物質を更に添加してもよい。金属含有セルロース繊維以外の物質について、以下に具体的に説明する。
【0099】
(i)原料パルプ
金属含有セルロース繊維含有スラリー中には、複合化されていない繊維として原料パルプが含まれる。原料パルプの種類は特に限定されず、例えば、グランドパルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)等の機械パルプ、脱墨古紙パルプ(DIP)、未脱墨古紙パルプ等の古紙パルプ、針葉樹クラフトパルプ(NKP)、針葉樹クラフトパルプ(LKP)等の化学パルプ等を使用できる。古紙パルプとしては、上質紙、中質紙、下級紙、新聞紙、チラシ、雑誌、段ボール、印刷古紙などの選別古紙やこれらが混合している無選別古紙由来のものを使用できる。また古紙中には所望の機能を妨げない限りにおいて、前述の金属含有セルロース繊維が含有していてもよい。
【0100】
(ii)歩留剤
金属含有セルロース繊維含有スラリーには、填料の繊維への定着を促したり、填料及び繊維の歩留を向上させたりするために、歩留剤を添加することもできる。例えば、歩留剤として、カチオン性又はアニオン性、両性ポリアクリルアミド系物質を用いることができる。また、これらに加えて少なくとも一種以上のカチオンやアニオン性のポリマーを併用する、いわゆるデュアルポリマーと呼ばれる歩留りシステムを適用することもでき、少なくとも一種類以上のアニオン性のベントナイトやコロイダルシリカ、ポリ珪酸、ポリ珪酸もしくはポリ珪酸塩ミクロゲル及びこれらのアルミニウム改質物等の無機微粒子や、アクリルアミドが架橋重合したいわゆるマイクロポリマーといわれる粒径100μm以下の有機系の微粒子を一種以上併用する多成分歩留りシステムであってもよい。特に単独又は組合せで使用するポリアクリルアミド系物質が、極限粘度法による重量平均分子量が200万ダルトン以上である場合、良好な歩留りを得ることができ、好ましくは、500万ダルトン以上であり、更に好ましくは1000万ダルトン以上、3000万ダルトン未満の前記アクリルアミド系物質である場合に非常に高い歩留りを得ることが出来る。このポリアクリルアミド系物質の形態はエマルジョン型でも溶液型であっても構わない。この具体的な組成としては、該物質中にアクリルアミドモノマーユニットを構造単位として含むものであれば特に限定はないが、例えば、アクリル酸エステルの4級アンモニウム塩とアクリルアミドとの共重合物、あるいはアクリルアミドとアクリル酸エステルを共重合させた後、4級化したアンモニウム塩が挙げられる。該カチオン性ポリアクリルアミド系物質のカチオン電荷密度は特には限定されない。
【0101】
歩留剤は、金属含有セルロース繊維含有スラリー中の繊維の全重量に対して、好ましくは0.001重量%~0.1重量%、より好ましくは0.005重量%~0.05重量%の量で添加することができる。
【0102】
(iii)繊維と複合化していない金属イオンまたは金属粒子
金属含有セルロース繊維含有スラリーには、繊維と複合化していない金属イオンまたは金属粒子を更に添加することができる。このような金属イオンまたは金属粒子は、金属含有セルロース繊維を構成している金属イオンまたは金属粒子のように水素結合等によってセルロース繊維と結着せず、繊維と混在している点で区別される。繊維と複合化していない金属イオンまたは金属粒子(以下、「非複合化金属イオンまたは金属粒子」という。)の種類は、金属含有セルロース繊維を構成する金属イオンまたは金属粒子と異なっていても同一であってもよい。また、金属含有セルロース繊維を構成する金属イオンまたは金属粒子と種類が異なる場合は、非複合化金属イオンまたは金属粒子は、金属含有セルロース繊維を構成する金属イオンまたは金属粒子と機能が同一又は類似していてもよく、機能が異なっていてもよい。金属含有セルロース繊維を構成する金属イオンまたは金属粒子とは異なる種類であり且つ異なる機能を有する非複合化金属イオンまたは金属粒子を添加することによって、双方の機能を併せ持つ板紙を製造することができる。また、金属含有セルロース繊維を構成する金属イオンまたは金属粒子と同一の種類の外添金属イオンまたは金属粒子又は種類は異なるが機能が同一若しくは類似している非複合化金属イオンまたは金属粒子を添加することによって、当該機能をより向上させることができる。
【0103】
非複合化金属イオンまたは金属粒子の種類は、目的に応じて適宜選択すればよい。外添金属イオンまたは金属粒子は、上述した金属含有セルロース繊維を構成する金属イオンまたは金属粒子についての説明を準用できる。また、一般に無機填料と呼ばれる粒子を選択することも可能である。無機填料としては上述した金属イオンまたは金属粒子の他に、金属単体、白土、ベントナイト、珪藻土、クレー(カオリン、焼成カオリン、デラミカオリン)、タルク、脱墨工程から得られる灰分を再生して利用する無機填料及び再生する過程でシリカ又は炭酸カルシウムと複合物を形成した無機填料等が挙げられる。これらは単独でも2種類以上の組み合わせで用いてもよい。
【0104】
非複合化金属イオンまたは金属粒子を添加する場合、金属含有セルロース繊維含有スラリー中の繊維と非複合化金属イオンまたは金属粒子との重量比は、適宜設定すればよく、例えば、99/1~70/30が好ましい。少量の添加で効果が得られるものもあれば、用途によっては多量に添加が必要なものがある。また、添加量を30%以下とすることで良好に歩留りする。
【0105】
(iv)有機粒子
抄紙の際には、有機粒子を添加してもよい。有機粒子とは有機化合物を粒子状にしたものである。有機粒子としては、例えば、難燃性を高めるための有機系の難燃材料(リン酸系、ホウ素系等)、尿素-ホルマリン樹脂、ポリスチレン樹脂、フェノール樹脂、微小中空粒子、アクリルアミド金属含有セルロース繊維、木材由来の物質(微細繊維、ミクロフィブリル繊維、粉体ケナフ)、印刷適性を向上させるための変性不溶化デンプン、未糊化デンプン、ラテックス等が挙げられる。これらは単独でも2種類以上の組み合わせで用いてもよい。
【0106】
有機粒子を添加する場合、金属含有セルロース繊維含有スラリー中の繊維と有機粒子との重量比は、適宜設定すればよく、例えば、99/1~70/30が好ましい。また、有機粒子の添加量を30%以下とすることで良好に歩留りする。
【0107】
(v)その他の添加剤
金属含有セルロース繊維含有スラリーには、湿潤及び/又は乾燥紙力剤(紙力増強剤)を添加することができる。これにより、金属含有セルロース繊維シートの強度を向上させることができる。紙力剤としては例えば、尿素ホルムアルデヒド樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、ポリアミド、ポリアミン、エピクロロヒドリン樹脂、植物性ガム、ラテックス、ポリエチレンイミン、グリオキサール、ガム、マンノガラクタンポリエチレンイミン、ポリアクリルアミド樹脂、ポリビニルアミン、ポリビニルアルコール等の樹脂;前記樹脂から選ばれる2種以上からなる複合ポリマー又は共重合ポリマー;澱粉及び加工澱粉;カルボキシメチルセルロース、グアーガム、尿素樹脂等が挙げられる。紙力剤の添加量は特に限定されない。
【0108】
また、填料の繊維への定着を促したり、填料及び繊維の歩留を向上させたりするために、高分子ポリマーや無機物を添加することもできる。例えば凝結剤として、ポリエチレンイミン及び第三級及び/又は四級アンモニウム基を含む改質ポリエチレンイミン、ポリアルキレンイミン、ジシアンジアミドポリマー、ポリアミン、ポリアミン/エピクロヒドリン重合体、並びにジアルキルジアリル第四級アンモニウムモノマー、ジアルキルアミノアルキルアクリレート、ジアルキルアミノアルキルメタクリレート、ジアルキルアミノアルキルアクリルアミド及びジアルキルアミノアルキルメタクリルアミドとアクリルアミドの重合体、モノアミン類とエピハロヒドリンからなる重合体、ポリビニルアミン及びビニルアミン部を持つ重合体やこれらの混合物等のカチオン性のポリマーに加え、前記ポリマーの分子内にカルボキシル基やスルホン基等のアニオン基を共重合したカチオンリッチな両イオン性ポリマー、カチオン性ポリマーとアニオン性又は両イオン性ポリマーとの混合物等を用いることができる。
【0109】
その他、目的に応じて、濾水性向上剤、内添サイズ剤、pH調整剤、消泡剤、ピッチコントロール剤、スライムコントロール剤、嵩高剤、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、シリカ等の金属イオンまたは金属粒子(いわゆる填料)等が挙げられる。各添加剤の使用量は特に限定されない。
【0110】
〔別の紙層を形成するためのスラリー〕
多層板紙を製造する場合、別の紙層を形成するためのスラリーは、多層板紙の用途等に応じて適宜準備すればよい。例えば、別の紙層を形成するためのスラリーは、或る紙層とは異なる性質となるように金属イオンまたは金属粒子の種類及び/又は含有量を調整した上で、上述の金属含有セルロース繊維生成工程を行なって得た金属含有セルロース繊維含有スラリーを用いてもよい。また、別の紙層を形成するためのスラリーは、繊維を含むスラリーに予め合成された金属イオンまたは金属粒子等の従来公知の填料を添加したものであってもよい。
【0111】
〔板紙の形成方法〕
抄造工程では、金属含有セルロース繊維が含有されている板紙を製造する。好ましくは紙層が2層以上積層し、その少なくとも1層には金属含有セルロース繊維が含有されている板紙を製造する。板紙の製造方法は特に限定されず、公知の長網・傾斜コンビネーション抄紙機を用いて、金属含有セルロース繊維が入った紙層に、金属含有セルロース繊維を含まない紙層を抄き合わせて板紙を製造することができる。
【0112】
〔板紙の用途〕
本発明で得られた板紙は、各種用途に使用することができる。用途はこれらに限定されないが、例えば、包装紙、紙器用紙、段ボール用ライナ、段ボール用中しん等があげられる。また、本発明で得られた板紙を加工することにより、例えば紙箱、段ボールシート、段ボール箱、壁紙、紙製家具、紙製パーティション、紙製ボード等の各種紙加工品の用途にも使用することができる。
【0113】
また本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0114】
実験1.金属含有セルロース繊維の製造
針葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプ(白色度85%)5.00g(絶乾)をTEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル;Sigma Aldrich社)39mg(絶乾1gのセルロースに対し0.05mmol)と臭化ナトリウム514mg(絶乾1gのセルロースに対し1.0mmol)を溶解した水溶液500mlに加え、パルプが均一に分散するまで撹拌した。
次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、次亜塩素酸ナトリウムが5.5mmol/gになるように反応系へ添加し、室温にて酸化反応を開始した。反応中は系内のpHが低下するが、3M水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。次亜塩素酸ナトリウムを消費し、系内のpHが変化しなくなった時点で反応を終了した。
反応後の混合物をガラスフィルターで濾過した後、十分な水の量による水洗、ろ過を2回繰り返すことにより、酸化セルロース繊維を得た。この時のパルプ収率は90%であり、酸化反応に要した時間は90分、カルボキシル基量は1.68mmol/gであった。
上記酸化セルロース繊維に水を加えて固形分濃度2%の分散液とし、pHを9.0に調整した後、CuCl2(富士フイルム和光純薬)を、酸化セルロース繊維1gに対する濃度が1.0mmol/gになるよう撹拌しながら加え、さらに30分間撹拌することにより、酸化セルロース繊維にCuイオンを含有させた。
これに対し、十分な水の量による水洗、ろ過を2回繰り返すことにより、未反応の金属塩を除去し、Cuイオン担持酸化セルロース繊維(金属含有セルロース繊維)を得た。酸化セルロース繊維に対する金属イオンの含有量は40mg/gであり、金属イオン含有セルロース繊維のろ水度(CSF)は500mlであった。
【0115】
実験2.抗ウイルス性板紙の製造
2-1.サンプル1~7(4層構造の板紙)
(1)サンプル1~4
針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP、CSF:400ml)と金属含有セルロース繊維の重量比を変えて混合したパルプスラリーに、パルプスラリー固形分に対して硫酸バンド2重量%、ポリアクリルアミド系紙力剤0.2重量%、ロジン系サイズ剤0.2重量%を順に混合して、表層を抄紙するための紙料スラリーを調製した。NUKPと金属含有セルロース繊維の重量比は、100:0~95:5の範囲で変化させ、混合したパルプスラリーのカナダ標準濾水度(CSF)は390mlであった。
得られた紙料スラリーを固形分濃度1重量%に希釈後、JIS P 8222:2015に基づいて、角型手すき機を用いて表層用湿紙シートを製造した(シート寸法:250×250mm、絶乾坪量:約30g/m2)。なお、絶乾坪量は、0.05m2以上の面積のサンプルを105℃で一定質量になるまで乾燥させてから、1m2当たりの質量(g)を測定すればよい。
また、古紙パルプのパルプスラリーに、パルプスラリー固形分に対して硫酸バンド2重量%、ポリアクリルアミド系紙力剤0.2重量%、ロジン系サイズ剤0.2重量%を順に混合して、表層以外を抄紙するための紙料スラリーを調製した。この紙料スラリーを固形分濃度1重量%に希釈後、JIS P 8222:2015に基づいて、角型手すき機を用いて表層以外の湿紙シートを製造した(シート寸法:250×250mm、絶乾坪量:約45g/m2)。
次いで、表層以外の湿紙シート3枚の上に、表層用湿紙シートを重ねて4層のシートとした後、プレス、乾燥して、4つの紙層を有する板紙を得た(サンプル1~2:比較例、サンプル3~4:実施例)。
【0116】
(2)サンプル5~7(比較例)
針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP、CSF:400ml)と金属含有セルロース繊維の重量比を変えて混合したパルプスラリーに、パルプスラリー固形分に対して硫酸バンド2重量%、ポリアクリルアミド系紙力剤0.2重量%、ロジン系サイズ剤0.2重量%を順に混合して、表層を抄紙するための紙料スラリーを調製した。NUKPと金属含有セルロース繊維の重量比は、99.5:0.5~98.5:1.5の範囲で変化させ、混合したパルプスラリーのカナダ標準濾水度(CSF)は390mlであった。
得られた紙料スラリーを固形分濃度1重量%に希釈後、JIS P 8222:2015に基づいて、角型手すき機を用いて表層用湿紙シートを製造した(シート寸法:250×250mm、絶乾坪量:約30g/m2)。
また、古紙パルプと金属含有セルロース繊維を99.5:0.5~98.5:1.5の重量比で混合したパルプスラリーに、パルプスラリー固形分に対して硫酸バンド2重量%、ポリアクリルアミド系紙力剤0.2重量%、ロジン系サイズ剤0.2重量%を順に混合して、表層以外を抄紙するための紙料スラリーを調製した。この紙料スラリーを固形分濃度1重量%に希釈後、JIS P 8222:2015に基づいて、角型手すき機を用いて表層以外の湿紙シートを製造した(シート寸法:250×250mm、絶乾坪量:約45g/m2)。
次いで、表層以外の湿紙シート3枚の上に、表層用湿紙シートを重ねて4層のシートとした後、プレス、乾燥して、4つの紙層を有する板紙を得た。サンプル5~8は、すべての紙層に金属含有セルロースを配合したが、各層における金属含有セルロースの配合率は、サンプル5が0.5%、サンプル6が1.0%、サンプル7が1.5%とした。
【0117】
実験3.抗ウイルス性板紙の評価
以下に示す方法により、抗ウイルス機能などを評価した。
3-1.銅の含有量
サンプル1gあたりの金属イオンおよび金属粒子の含有量(mg/g)を、ICP発光分光分析(ICP-OES)により、下記の手順によって測定した。
(1) 測定の前に測定用サンプルを乾燥(50℃、1日)させておく
(2) 乾燥させた測定用サンプル0.1gを秤量し、50ml容のビーカーに入れる
(3) 濃硝酸をホールピペットで10ml取り、測定用サンプルの入ったビーカーに加えて測定サンプル液を作成する(10倍希釈)
(4) 30分間静置してから、シリンジフィルターに通して測定サンプル液から繊維分を除去(ろ過)する
(5) ろ過した測定サンプル液をマイクロピペットで1ml取り、蒸留水を49ml入れた試験管に加える(50倍希釈)
(6) 試験管の蓋をしっかり閉め、振って攪拌する
(7) ICP-OES(Agilent Technology社製、ICP-OES 5110)を使用して、金属イオンおよび金属粒子の含有量を測定(定量)する
(8) ICP-OESによる定量結果(ppb)から、サンプル1gあたりの金属イオンおよび金属粒子の含有量(mg/g)を下式に基づいて算出する。
(ICP-OESによる定量結果(ppb)×10×50)/(測定用試料の重量(g))×1000/1000000000
【0118】
3-2.抗ウイルス活性
抗ウイルス機能試験は、JIS L 1922:2016にて実施し、抗ウイルス活性値(Mv)を算出した。試験に供したサンプルの重量は0.4g(約4cm×5cm)であり、試験ウイルスとして、下記の2種を使用した。
・インフルエンザウイルス(H3N2、ATCC VR―1679)
・ネコカリシウイルス(Strain:F-9 ATCC VR-782)
【0119】
実験4 箱圧縮強度の評価
表ライナーをサンプル1~7、中芯を一般中芯120g/m、裏ライナーを一般Kライナー170g/mを用いて貼合した。それぞれの段シートを用いて、外寸 長さ38.8cm、幅 27.8cm、高さ32.8cmのA式段ボール箱を作成して、箱圧縮強度を、JIS Z 0212に準拠し測定した。
【0120】
【表1】
【0121】
表1から明らかなように、金属含有セルロース繊維を配合した紙層を表層に有する板紙は、高い抗ウイルス性を発現した。また、板紙の表層に配合する金属含有セルロース繊維を多くすると抗ウイルス性が高くなった。
一方、板紙に配合する金属含有セルロース繊維の量が同程度であっても、表層でない紙層に配合する金属含有セルロース繊維の割合が多いと、抗ウイルス性が低くなった。
また、金属含有セルロース板紙を、包装紙や段ボール箱、紙箱として用いることにより、優れた抗ウイルス性を有しながら、金属含有セルロース配合していない場合と同程度の強度を持つ箱を得ることが出来る。