(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039355
(43)【公開日】2024-03-22
(54)【発明の名称】モールドおよびその製造方法、ならびに樹脂成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 33/38 20060101AFI20240314BHJP
【FI】
B29C33/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022143849
(22)【出願日】2022-09-09
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 佑樹
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 智章
(72)【発明者】
【氏名】竹内 文人
【テーマコード(参考)】
4F202
【Fターム(参考)】
4F202AJ03
4F202AJ11
4F202CA11
4F202CB01
4F202CK32
4F202CM31
4F202CM90
4F202CN01
4F202CN30
(57)【要約】
【課題】モールドの変形によりモールド内部の樹脂成形体を容易に取り出すことができ、一方で成形中のモールドの形状維持性も高めることができるモールドを提供すること。
【解決手段】温度変化により変形可能となる感温部を有し、前記感温部の変形により成形された樹脂成形体を取り出し可能なモールド。前記感温部は、下記要件(A-a)および(A-b)を満たす4-メチルー1-ペンテン共重合体(A)を含む樹脂組成物を含む。
要件(A-a):4-メチルー1-ペンテンから導かれる構成単位の割合が60モル%以上95モル%以下であり、炭素原子数2以上4以下のαーオレフィンから導かれる構成単位の割合が5モル%以上40モル%以下である
要件(A-b):示差走査熱量計(DSC)で融点(Tm)が観測されない
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度変化により変形可能となる感温部を有し、前記感温部の変形により成形された樹脂成形体を取り出し可能なモールドであって、
前記感温部は、下記要件(A-a)および(A-b)を満たす4-メチルー1-ペンテン共重合体(A)を含む樹脂組成物を含む、
モールド。
要件(A-a):4-メチルー1-ペンテンから導かれる構成単位の割合が60モル%以上95モル%以下であり、炭素原子数2以上4以下のαーオレフィンから導かれる構成単位の割合が5モル%以上40モル%以下である(前記4-メチルー1-ペンテンから導かれる構成単位および前記炭素原子数2以上4以下のαーオレフィンから導かれる構成単位の合計を100モル%とする)
要件(A-b):示差走査熱量計(DSC)で融点(Tm)が観測されない
【請求項2】
前記樹脂組成物は、前記4-メチルー1-ペンテン共重合体(A)の含有量が、前記樹脂組成物の全質量に対して、10質量%以上100質量%以下である、
請求項1に記載のモールド。
【請求項3】
前記感温部の、
60℃における貯蔵弾性率(E’@60℃)は80MPa以下であり、
25℃における貯蔵弾性率(E’@25℃)は200MPa以上である、
請求項1に記載のモールド。
【請求項4】
前記樹脂組成物は、前記4-メチルー1-ペンテン共重合体(A)以外の熱可塑性樹脂(B)を含む、
請求項1に記載のモールド。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂(B)は、25℃における貯蔵弾性率(E’@25℃)が300MPa以上の樹脂である、
請求項4に記載のモールド。
【請求項6】
前記樹脂組成物は、
前記4-メチルー1-ペンテン共重合体(A)の含有量が15質量%以上85質量%以下であり、
前記熱可塑性樹脂(B)の含有量が15質量%以上85質量%以下である、
(前記4-メチルー1-ペンテン共重合体(A)および前記熱可塑性樹脂(B)の質量の合計を100質量%とする)
請求項4に記載のモールド。
【請求項7】
前記樹脂組成物は、前記4-メチルー1-ペンテン共重合体(A)および前記熱可塑性樹脂(B)の合計量が、前記樹脂組成物の全質量に対して、30質量%以上100質量%以下である、
請求項4に記載のモールド。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂(B)は、ポリオレフィン(B-1)(4-メチルー1-ペンテン共重合体(A)を除く)である、
請求項4に記載のモールド。
【請求項9】
前記ポリオレフィン(B-1)は、下記要件(B-a)および要件(B-b)を満たす、
請求項8に記載のモールド。
要件(B-a):4-メチルー1-ペンテンから導かれる構成単位の割合が90モル%以上100モル%以下であり、炭素原子数5以上20以下のαーオレフィン(4-メチルー1-ペンテンを除く)から導かれる構成単位の割合が0モル%以上10モル%以下である(前記4-メチルー1-ペンテンから導かれる構成単位および前記炭素原子数5以上20以下のαーオレフィンから導かれる構成単位の合計を100モル%とする)
要件(B-b):示差走査熱量計(DSC)で融点(Tm)が200℃以上250℃以下の範囲に観測される
【請求項10】
樹脂組成物を溶融させる工程と、
前記溶融した樹脂組成物を成形または造形する工程と、
を有し、
前記樹脂組成物は、下記要件(A-a)および(A-b)を満たす4-メチルー1-ペンテン共重合体(A)を含む、
モールドの製造方法。
要件(A-a):4-メチルー1-ペンテンから導かれる構成単位の割合が60モル%以上95モル%以下であり、炭素原子数2以上4以下のαーオレフィンから導かれる構成単位の割合が5モル%以上40モル%以下である(前記4-メチルー1-ペンテンから導かれる構成単位および前記炭素原子数2以上4以下のαーオレフィンから導かれる構成単位の合計を100モル%とする)
要件(A-b):示差走査熱量計(DSC)で融点(Tm)が観測されない
【請求項11】
前記樹脂組成物は、前記4-メチルー1-ペンテン共重合体(A)の含有量が、前記樹脂組成物の全質量に対して、10質量%以上100質量%以下である、
請求項10に記載のモールドの製造方法。
【請求項12】
前記モールドは、
前記樹脂組成物を含む部位の、
60℃における貯蔵弾性率(E’@60℃)が80MPa以下であり、
25℃における貯蔵弾性率(E’@25℃)が200MPa以上である、
請求項10に記載のモールドの製造方法。
【請求項13】
前記樹脂組成物は、前記4-メチルー1-ペンテン共重合体(A)以外の熱可塑性樹脂(B)を含む、
請求項10に記載のモールドの製造方法。
【請求項14】
前記熱可塑性樹脂(B)は、25℃における貯蔵弾性率(E’@25℃)が300MPa以上の樹脂である、
請求項13に記載のモールドの製造方法。
【請求項15】
前記樹脂組成物は、
前記4-メチルー1-ペンテン共重合体(A)の含有量が15質量%以上85質量%以下であり、
前記熱可塑性樹脂(B)の含有量が15質量%以上85質量%以下である、
(前記4-メチルー1-ペンテン共重合体(A)および前記熱可塑性樹脂(B)の質量の合計を100質量%とする)
請求項13に記載のモールドの製造方法。
【請求項16】
前記樹脂組成物は、前記4-メチルー1-ペンテン共重合体(A)および前記熱可塑性樹脂(B)の合計量が、前記樹脂組成物の全質量に対して、30質量%以上100質量%以下である、
請求項13に記載のモールドの製造方法。
【請求項17】
前記熱可塑性樹脂(B)は、ポリオレフィン(B-1)(4-メチルー1-ペンテン共重合体(A)を除く)である、
請求項13に記載のモールドの製造方法。
【請求項18】
前記ポリオレフィン(B-1)は、下記要件(B-a)および要件(B-b)を満たす、
請求項17に記載のモールドの製造方法。
要件(B-a):4-メチルー1-ペンテンから導かれる構成単位の割合が90モル%以上100モル%以下であり、炭素原子数5以上20以下のαーオレフィン(4-メチルー1-ペンテンを除く)から導かれる構成単位の割合が0モル%以上10モル%以下である(前記4-メチルー1-ペンテンから導かれる構成単位および前記炭素原子数5以上20以下のαーオレフィンから導かれる構成単位の合計を100モル%とする)
要件(B-b):示差走査熱量計(DSC)で融点(Tm)が200℃以上250℃以下の範囲に観測される
【請求項19】
請求項1~9のいずれか1項に記載のモールドの内部で、樹脂成形体を成形する工程と、
前記成形された樹脂成形体を収容する前記モールドを加熱する工程と、
前記加熱されたモールドを変形させて、前記モールドから前記樹脂成形体を取り出す工程と、
を有する、樹脂成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モールドおよびその製造方法、ならびに樹脂成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂成形体を成形するための型として、樹脂製の型を使用することがある。
【0003】
たとえば、特許文献1には、口紅やアイシャドーなどのメーキャップ製品の表面に凹凸模様を付すための型として、皿状容器を圧着した弾性型の内部に溶融状態の内容物(メーキャップ製品)を充填して冷却固化させた後に、型を撓ませて皿状容器と固化した内容物とを取り出すことができる、弾性型が記載されている。特許文献1には、この弾性型は、カードメーター(37℃、感圧軸直径3mm、800g荷重)により測定される硬度が10~20であり、その材質としてはシリコーンゴムを使用することが好ましいと記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、注型重合法によりポリ(チオ)ウレタン系レンズを成形するための鋳型であって、成形されるレンズの面を形成させるための面が、ガラス転移温度が15℃以上のポリオレフィンからなる、鋳型が記載されている。特許文献2には、当該鋳型は、ポリ(チオ)ウレタン系レンズの離型性に優れ、かつポリ(チオ)ウレタン系レンズへの白濁も生じにくいと記載されている。特許文献2には、上記ポリオレフィンは融点が220℃~250℃であることが好ましいと記載されており、実際にこの範囲に融点を有するポリオレフィンを用いると、ポリ(チオ)ウレタン系レンズの離型性が良好であり、得られるレンズの全光線透過率も高かったことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-20569号公報
【特許文献2】特開2014-104738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のように、弾性のモールド(型)を使用することで、成形した樹脂成形体をモールドから取り出しやすくすることができると期待される。しかし、弾性のモールドは、一方でモールドの形状も変化しやすい。そして、樹脂成形体の成形中(冷却固化や重合をしている間)にモールドが変形すると、樹脂成形体の形状も変化してしまうため、所望の形状の樹脂成形体が得られないという問題がある。特許文献1では、皿状容器に収容されるメーキャップ製品を成形するため、モールドの中に皿状容器を圧着することでモールドの変形による成形体の変形を抑制できる。しかし、皿状容器に収容されない樹脂成形体の成形には、特許文献1に記載の方法は適用できない。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、モールドの変形によりモールド内部の樹脂成形体を容易に取り出すことができ、一方で成形中のモールドの形状維持性も高めることができるモールド、当該モールドの製造方法、および当該モールドを用いた樹脂成形体の製造方法を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明の一態様は、下記[1]~[9]のモールドに関する。
[1]温度変化により変形可能となる感温部を有し、前記感温部の変形により成形された樹脂成形体を取り出し可能なモールドであって、
前記感温部は、下記要件(A-a)および(A-b)を満たす4-メチルー1-ペンテン共重合体(A)を含む樹脂組成物を含む、
モールド。
要件(A-a):4-メチルー1-ペンテンから導かれる構成単位の割合が60モル%以上95モル%以下であり、炭素原子数2以上4以下のαーオレフィンから導かれる構成単位の割合が5モル%以上40モル%以下である(前記4-メチルー1-ペンテンから導かれる構成単位および前記炭素原子数2以上4以下のαーオレフィンから導かれる構成単位の合計を100モル%とする)
要件(A-b):示差走査熱量計(DSC)で融点(Tm)が観測されない
[2]前記樹脂組成物は、前記4-メチルー1-ペンテン共重合体(A)の含有量が、前記樹脂組成物の全質量に対して、10質量%以上100質量%以下である、
[1]に記載のモールド。
[3]前記感温部の、
60℃における貯蔵弾性率(E’@60℃)は80MPa以下であり、
25℃における貯蔵弾性率(E’@25℃)は200MPa以上である、
[1]または[2]に記載のモールド。
[4]前記樹脂組成物は、前記4-メチルー1-ペンテン共重合体(A)以外の熱可塑性樹脂(B)を含む、
[1]~[3]のいずれかに記載のモールド。
[5]前記熱可塑性樹脂(B)は、25℃における貯蔵弾性率(E’@25℃)が300MPa以上の樹脂である、
[4]に記載のモールド。
[6]前記樹脂組成物は、
前記4-メチルー1-ペンテン共重合体(A)の含有量が15質量%以上85質量%以下であり、
前記熱可塑性樹脂(B)の含有量が15質量%以上85質量%以下である、
(前記4-メチルー1-ペンテン共重合体(A)および前記熱可塑性樹脂(B)の質量の合計を100質量%とする)
[4]または[5]に記載のモールド。
[7]前記樹脂組成物は、前記4-メチルー1-ペンテン共重合体(A)および前記熱可塑性樹脂(B)の合計量が、前記樹脂組成物の全質量に対して、30質量%以上100質量%以下である、
[4]~[6]のいずれかに記載のモールド。
[8]前記熱可塑性樹脂(B)は、ポリオレフィン(B-1)(4-メチルー1-ペンテン共重合体(A)を除く)である、
[4]~[7]のいずれかに記載のモールド。
[9]前記ポリオレフィン(B-1)は、下記要件(B-a)および要件(B-b)を満たす、
[8]に記載のモールド。
要件(B-a):4-メチルー1-ペンテンから導かれる構成単位の割合が90モル%以上100モル%以下であり、炭素原子数5以上20以下のαーオレフィン(4-メチルー1-ペンテンを除く)から導かれる構成単位の割合が0モル%以上10モル%以下である(前記4-メチルー1-ペンテンから導かれる構成単位および前記炭素原子数5以上20以下のαーオレフィンから導かれる構成単位の合計を100モル%とする)
要件(B-b):示差走査熱量計(DSC)で融点(Tm)が200℃以上250℃以下の範囲に観測される
【0009】
上記課題を解決するための本発明の別の態様は、下記[10]~[18]のモールドの製造方法に関する。
[10]樹脂組成物を溶融させる工程と、
前記溶融した樹脂組成物を成形または造形する工程と、
を有し、
前記樹脂組成物は、下記要件(A-a)および(A-b)を満たす4-メチルー1-ペンテン共重合体(A)を含む、
モールドの製造方法。
要件(A-a):4-メチルー1-ペンテンから導かれる構成単位の割合が60モル%以上95モル%以下であり、炭素原子数2以上4以下のαーオレフィンから導かれる構成単位の割合が5モル%以上40モル%以下である(前記4-メチルー1-ペンテンから導かれる構成単位および前記炭素原子数2以上4以下のαーオレフィンから導かれる構成単位の合計を100モル%とする)
要件(A-b):示差走査熱量計(DSC)で融点(Tm)が観測されない
[11]前記樹脂組成物は、前記4-メチルー1-ペンテン共重合体(A)の含有量が、前記樹脂組成物の全質量に対して、10質量%以上100質量%以下である、
[10]に記載のモールドの製造方法。
[12]前記モールドは、
前記樹脂組成物を含む部位の、
60℃における貯蔵弾性率(E’@60℃)が80MPa以下であり、
25℃における貯蔵弾性率(E’@25℃)が200MPa以上である、
[10]または[11]に記載のモールドの製造方法。
[13]前記樹脂組成物は、前記4-メチルー1-ペンテン共重合体(A)以外の熱可塑性樹脂(B)を含む、
[10]~[13]のいずれかに記載のモールドの製造方法。
[14]前記熱可塑性樹脂(B)は、25℃における貯蔵弾性率(E’@25℃)が300MPa以上の樹脂である、
[13]に記載のモールドの製造方法。
[15]前記樹脂組成物は、
前記4-メチルー1-ペンテン共重合体(A)の含有量が15質量%以上85質量%以下であり、
前記熱可塑性樹脂(B)の含有量が15質量%以上85質量%以下である、
(前記4-メチルー1-ペンテン共重合体(A)および前記熱可塑性樹脂(B)の質量の合計を100質量%とする)
[13]または[14]に記載のモールドの製造方法。
[16]前記樹脂組成物は、前記4-メチルー1-ペンテン共重合体(A)および前記熱可塑性樹脂(B)の合計量が、前記樹脂組成物の全質量に対して、30質量%以上100質量%以下である、
[13]~[15]のいずれかに記載のモールドの製造方法。
[17]前記熱可塑性樹脂(B)は、ポリオレフィン(B-1)(4-メチルー1-ペンテン共重合体(A)を除く)である、
[13]~[16]のいずれかに記載のモールドの製造方法。
[18]前記ポリオレフィン(B-1)は、下記要件(B-a)および要件(B-b)を満たす、
[17]に記載のモールドの製造方法。
要件(B-a):4-メチルー1-ペンテンから導かれる構成単位の割合が90モル%以上100モル%以下であり、炭素原子数5以上20以下のαーオレフィン(4-メチルー1-ペンテンを除く)から導かれる構成単位の割合が0モル%以上10モル%以下である(前記4-メチルー1-ペンテンから導かれる構成単位および前記炭素原子数5以上20以下のαーオレフィンから導かれる構成単位の合計を100モル%とする)
要件(B-b):示差走査熱量計(DSC)で融点(Tm)が200℃以上250℃以下の範囲に観測される
【0010】
上記課題を解決するための本発明の一態様は、下記[19]の樹脂成形体の製造方法に関する。
[19][1]~[9]のいずれかに記載のモールドの内部で、樹脂成形体を成形する工程と、
前記成形された樹脂成形体を収容する前記モールドを加熱する工程と、
前記加熱されたモールドを変形させて、前記モールドから前記樹脂成形体を取り出す工程と、
を有する、樹脂成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、モールドの変形によりモールド内部の樹脂成形体を容易に取り出すことができ、一方で成形中のモールドの形状維持性も高めることができるモールド、当該モールドの製造方法、および当該モールドを用いた樹脂成形体の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本実施形態に関するモールドの例示的な形状を示す、模式斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す一点鎖線2-2におけるモールドの断面図である。
【
図3】
図3A~
図3Dは、モールドの断面形状(内部空間の形状)の他の例を示す、
図1に示す一点鎖線2-2における、モールドの断面図である。
【
図4】
図4A~
図4Dは、モールドの断面形状(内部空間の形状)のさらに他の例を示す、
図1に示す一点鎖線2-2における、モールドの断面図である。
【
図6】
図6A~
図6Cは、モールドの断面形状(注入孔および脱気孔の位置)の他の例を示す、
図1に示す二点鎖線5-5における、モールドの断面図である。
【
図7】
図7A~
図7Dは、モールドが感温部を有する様子を示す、
図1に示す一点鎖線2-2における、モールドの断面図である。
【
図8】
図8は、本発明の他の実施形態に関する、モールドの製造方法を示すフローチャートである。
【
図9】
図9は、本発明の他の実施形態に関する、樹脂成形体の製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.モールド
本発明の一実施形態は、その少なくとも一部に、温度変化により弾性率が変化する感温部を含むモールドに関する。上記モールドは、温度変化により、容易に(たとえば人の手の力により)変形可能な状態と、容易には変形しない形状維持性が高い状態と、を状態変化する。そして、形状維持性が高い状態において樹脂成形体の成形をした後、温度変化により変形可能な状態として、モールドを変形させることにより、成形された樹脂成形体を容易に取り出すことができる。
【0014】
本実施形態において、上記感温部は、下記要件(A-a)および(A-b)を満たす4-メチルー1-ペンテン共重合体(A)を含む樹脂組成物を含む。
要件(A-a):4-メチルー1-ペンテンから導かれる構成単位の割合が60モル%以上95モル%以下であり、炭素原子数2以上4以下のαーオレフィンから導かれる構成単位の割合が5モル%以上40モル%以下である(前記4-メチルー1-ペンテンから導かれる構成単位および前記炭素原子数2以上4以下のαーオレフィンから導かれる構成単位の合計を100モル%とする)
前記4-メチルー1-ペンテン共重合体(A)は、下記要件(A-a)を満たす、
要件(A-b):示差走査熱量計(DSC)で融点(Tm)が観測されない
【0015】
4-メチルー1-ペンテン共重合体(A)は、適度に加熱することで柔らかくなるという性質を有する。そのため、4-メチルー1-ペンテン共重合体(A)を含む樹脂組成物を用いることで、モールドを、適度に加熱することで変形可能としてモールド内部の樹脂成形体を取り出しやすくし、一方で非加熱時には所定の形状安定性を有するものとすることができる。
【0016】
1-1.樹脂組成物
除基樹脂組成物は、上記要件(A-a)および(A-b)を満たす4-メチルー1-ペンテン共重合体(A)を含む。上記樹脂組成物は、その他の熱可塑性樹脂(B)、およびその他の添加剤等を含んでいてもよい。
【0017】
1-1-1.4-メチルー1-ペンテン共重合体(A)
4-メチルー1-ペンテン共重合体(A)は、4-メチルー1-ペンテンから導かれる構成単位(以下、単に構成単位(i)ともいう。)と、炭素原子数2以上4以下のαーオレフィンから導かれる構成単位(以下、単に構成単位(ii)ともいう。)とを含む共重合体である。以下、4-メチルー1-ペンテン共重合体(A)の要件について説明する。4-メチルー1-ペンテン共重合体(A)は、下記要件(A-a)および要件(A-b)を満たすが、要件(A-c)~要件(A-f)のうちいずれか1つまたは複数をさらに満たすことが好ましい。
【0018】
要件(A-a):構成単位(i)の割合が60モル%以上95モル%以下であり、構成単位(ii)の割合が5モル%以上40モル%以下である(構成単位(i)および構成単位(ii)の合計を100モル%とする)
構成単位(i)の割合が60モル%以上であると、4-メチルー1-ペンテン共重合体(A)の応力緩和性を高め、樹脂組成物、ひいてはモールドを、加熱されたときに柔軟となり形状追従性が発現するものとすることができる。
構成単位(ii)の割合が5モル%以上であると、4-メチルー1-ペンテン共重合体(A)の弾性率を高め、樹脂組成物、ひいてはモールドを、樹脂が注入されたときや注入された樹脂が重合するときなどに生じる内圧によって変形しにくくすることができる。
【0019】
これらのバランスを取る観点から、構成単位(i)の上記割合は、60モル%以上78モル%以下であることが好ましく、65モル%以上75モル%以下であることがより好ましく、68モル%以上75モル%以下であることがさらに好ましく、70モル%以上75モル%以下であることが特に好ましい。また、構成単位(ii)の上記割合は、22モル%以上40モル%以下であることが好ましく、25モル%以上35モル%以下であることがより好ましく、25モル%以上32モル%以下であることがさらに好ましく、25モル%以上30モル%以下であることが特に好ましい。
【0020】
構成単位(ii)は、エチレン、プロピレン、および1-ブテンなどから導かれる構成単位とすることができる。これらの構成単位は、1種のみが含まれていてもよいし、2種類以上が含まれていてもよい。これらのうち、モールドの弾性率をより高め、かつ熱可塑性樹脂(B)との相溶性をより高める観点からは、プロピレンが好ましい。
【0021】
構成単位(i)および構成単位(ii)を導くモノマーの種類、およびその割合は、13C-NMRにより特定することができる。
【0022】
4-メチルー1-ペンテン共重合体(A)は、4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位(i)、または炭素原子数2以上4以下のαーオレフィンから導かれる構成単位(ii)以外の、その他の構成単位を含んでもよい。その他の構成単位の割合は、0モル%10モル%以下であることが好ましい(構成単位(i)および構成単位(ii)の合計を100モル%とする)。
【0023】
要件(A-b):示差走査熱量計(DSC)で融点(Tm)が観測されない
DSCで融点(Tm)が観測されない4-メチルー1-ペンテン共重合体は、これを含む成形体を、適度に加熱する(たとえば、4-メチルー1-ペンテン共重合体のガラス転位温度を超えた温度に加熱する)ことで変形しやすくするという特性を有する。そのため、DSCで融点(Tm)が観測されない4-メチルー1-ペンテン共重合体は、これを材料として含むモールド内部の樹脂成形体を取り出しやすくなる。なお、4-メチルー1-ペンテン共重合体(A)の立体規則性や、構成単位(ii)を導くモノマーの種類およびその割合を適宜調整することで、4-メチルー1-ペンテン共重合体を、融点(Tm)が観測されないものとすることができる。
【0024】
要件(A-c):デカリン溶媒中、135℃で測定される極限粘度[η]が0.5dl/g以上4.0dl/g以下である
デカリン溶媒中、135℃で測定される極限粘度[η]が0.5dl/g以上4.0dl/g以下であると、4-メチルー1-ペンテン共重合体(A)中の低分子量成分の量を少なくして、樹脂組成物、ひいてはモールドのべたつきを抑制することができる。そのため、モールドからの樹脂成形体の取り出しがより容易になり、またモールドの取り扱い性もより良好となる。
【0025】
上記観点から、4-メチルー1-ペンテン共重合体(A)の上記極限粘度[η]は、0.6dl/g以上3.5dl/g以下であることが好ましく、0.8dl/g以上3.0dl/g以下であることがより好ましい。
【0026】
要件(A-d):ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比である分子量分布(Mw/Mn)が1.0以上3.5以下である
GPCにより測定されるMw/Mnが3.5以下であると、4-メチルー1-ペンテン共重合体(A)中の低分子量成分の量、および低立体規則性成分の量を少なくして、樹脂組成物、ひいてはモールドのべたつきを抑制することができる。そのため、モールドからの樹脂成形体の取り出しがより容易になり、またモールドの取り扱い性もより良好となる。
【0027】
上記観点から、4-メチルー1-ペンテン共重合体(A)のGPCにより測定されるMw/Mnは、1.2以上3.0以下であることが好ましく、1.5以上2.5以下であることがより好ましい。
【0028】
要件(A-e):密度が825kg/m3以上860kg/m3以下である
密度が825kg/m3以上860kg/m3以下であることが好ましく、830kg/m3以上850kg/m3以下であることがより好ましい。
【0029】
4-メチルー1-ペンテン共重合体(A)の密度は、JIS K7112に準拠して、密度勾配管を用いて測定した値とすることができる。
【0030】
要件(A-f):ASTM D1238に準拠して230℃、2.16kg加重で測定されたメルトフローレート(MFR)が4.0g/10分以上30g/10分以下である
上記MFRが4.0g/10分以上30g/10分以下であると、樹脂組成物の流動性を良好にして、モールドを作製するときの樹脂組成物の成形性をより高めることができる。
【0031】
上記観点から、4-メチルー1-ペンテン共重合体(A)の上記MFRは6.0g/10分以上15g/10分以下であることが好ましく、7.0g/10分以上13g/10分以下であることがより好ましい。
【0032】
4-メチルー1-ペンテン共重合体(A)は、公知の方法により製造することができる。たとえば、公知のマグネシウム担持型チタン触媒、国際公開第01/053369号、国際公開第01/027124号、特開平03-193796号公報および特開平02-041303号公報などに記載のメタロセン触媒、ならびに、国際公開第2011/055803号公報に記載のメタロセン化合物を含有するオレフィン重合用触媒などの公知の触媒を使用して、各材料を重合させればよい。
【0033】
寸法安定性と樹脂成形体の取り出しやすさをより良好に両立させる観点から、4-メチルー1-ペンテン共重合体(A)の含有量は、樹脂組成物の全質量に対して、10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることがさらに好ましく、25質量%以上であること特に好ましい。また、100質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましく、80質量%以下であることがさらに好ましく、70質量%以下であることが特に好ましい。すなわち、4-メチルー1-ペンテン共重合体(A)の含有量は、樹脂組成物の全質量に対して、10質量%以上100質量%以下であることが好ましく、15質量%以上90質量%以下であることがより好ましく、20質量%以上80質量%以下であることがさらに好ましく、25質量%以上70質量%以下であることが特に好ましい。
【0034】
1-1-2.熱可塑性樹脂(B)
樹脂組成物は、加熱時の形状追従性および非加熱時の弾性率を調整して、形状安定性および取り出しの容易さのバランスを調整するための、4-メチルー1-ペンテン共重合体(A)以外の熱可塑性樹脂(B)を含んでもよい。熱可塑性樹脂(B)は、樹脂組成物の非加熱時の弾性率を高めることができる。
【0035】
樹脂組成物の弾性率をより高めて、モールドの形状維持性をより高める観点からは、熱可塑性樹脂(B)の25℃における貯蔵弾性率(E’@25℃)は、300MPa以上であることが好ましく、500MPa以上であることがより好ましく、700MPa以上であることがさらに好ましい。熱可塑性樹脂(B)の25℃における貯蔵弾性率(E’@25℃)の上限は特に限定されないが、4500MPa以下とすることができ、4000MPa以下であってもよく、3500MPa以下であってもよい。
【0036】
熱可塑性樹脂(B)の貯蔵弾性率は、-40~150℃の温度範囲で、引張モード、周波数1Hz、歪み量0.05%とした動的粘弾性測定により求めることができる。
【0037】
樹脂組成物が熱可塑性樹脂(B)を含むときの、4-メチルー1-ペンテン共重合体(A)および熱可塑性樹脂(B)のそれぞれの含有量は特に限定されない。4-メチルー1-ペンテン共重合体(A)の含有量をより多くすることで、樹脂組成物の応力緩和性をより高めて、加熱したモールドから樹脂成形体をより取り出しやすくすることができる。熱可塑性樹脂(B)の含有量をより多くすることで、樹脂組成物の弾性率をより高めて、樹脂が注入されたときや注入された樹脂が重合するときなどに生じる内圧によるモールドの変形を抑制することができる。
【0038】
形状安定性および取り出しの容易さをいずれも高める観点から、4-メチルー1-ペンテン共重合体(A)の含有量は、15質量%以上85質量%以下であることが好ましく、25質量%以上85質量%以下であることがより好ましく、25質量%以上75質量%以下であることがさらに好ましい。また、熱可塑性樹脂(B)の含有量は、15質量%以上85質量%以下であることが好ましく、15質量%以上75質量%以下であることがより好ましく、25質量%以上75質量%以下であることがさらに好ましい(4-メチルー1-ペンテン共重合体(A)および熱可塑性樹脂(B)の質量の合計を100質量%とする)。
【0039】
また、同様の観点から、熱可塑性樹脂(B)の含有量は、樹脂組成物の全質量に対して、15質量%以上であることが好ましく、25質量%以上であることがより好ましい。また、85質量%以下であることが好ましく、75質量%以下であることがより好ましい。
すなわち、熱可塑性樹脂(B)の含有量は、樹脂組成物の全質量に対して、15質量%以上85質量%以下であることが好ましく、15質量%以上75質量%以下であることがより好ましく、25質量%以上75質量%以下であることがさらに好ましい。
【0040】
4-メチルー1-ペンテン共重合体(A)および熱可塑性樹脂(B)の合計量は、樹脂組成物の全質量に対して、30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることがさらに好ましい。また、上記合計量は、100質量%以下であることが好ましい。また97質量%以下であってもよく、95質量%以下であってもよい。すなわち、4-メチルー1-ペンテン共重合体(A)および熱可塑性樹脂(B)の合計量は、樹脂組成物の全質量に対して、30質量%以上100質量%以下であることが好ましく、50質量%以上100質量%以下であることがより好ましく、60質量%以上100質量%以下であることがさらに好ましい。また、60質量%以上97質量%以下であってもよく、60質量%以上95質量%以下であってもよい。
【0041】
熱可塑性樹脂(B)の種類は特に限定されない。たとえば、以下に例示する熱可塑性樹脂を使用することができる。これらの熱可塑性樹脂は、1種のみが含まれていてもよいし、2種類以上が含まれていてもよい。
【0042】
(1)ポリオレフィン(B-1)
(2)ポリアミド(B-2)
(3)ポリエステル(B-3)
(4)ポリアセタール(B-4)
(5)スチレン系(共)重合体(B-5)
(6)アクリル系樹脂(B-6)
(7)ポリカーボネート(B-7)
(8)ポリフェニレンオキサイド(B-8)
(9)ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンなどの塩素樹脂(B-9)
(10)酢酸ビニル系樹脂(B-10)
(11)エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体(B-11)
(12)エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体またはこれらのアイオノマー(B-12)
(13)ビニルアルコール系樹脂(B-13)
(14)セルロース樹脂(B-14)
(15)熱可塑性ウレタン系エラストマー(B-15)
(16)ゴム成分(B-16)
(17)ポリ乳酸(B-17)
【0043】
(1)ポリオレフィン(B-1)
ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ-1-ブテン、ポリ4-メチル-1-ペンテン、およびポリメチルブテンなどのオレフィン単独重合体、ならびに、エチレン-α-オレフィンランダム共重合体、プロピレン-エチレンランダム共重合体、エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体、および4-メチル-1-ペンテン系重合体などのオレフィン共重合体などを挙げることができる。なお、各種ポリオレフィンを構成する各構成単位の種類、およびその割合は、13C-NMRにより特定することができる。
【0044】
ポリオレフィンは、たとえばエチレン系重合体とすることができる。エチレン系重合体は、エチレン単独重合体、またはエチレンと炭素原子数3以上12以下のα-オレフィンとの共重合体であることが好ましい。
【0045】
エチレン単独重合体の具体例には、超高分子量ポリエチレン、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン等が含まれる。
【0046】
一方、エチレン系重合体が、エチレンと炭素原子数3以上12以下のα-オレフィンとの共重合体である場合、エチレンから導かれる構成単位の割合は、91.0モル%以上99.9モル%以下であることが好ましく、93.0モル%以上99.9モル%以下であることがより好ましく、95.0モル%以上99.9モル%以下であることがさらに好ましく、95.0モル%以上99.0モル%以下であることが特に好ましい。一方、炭素原子数3以上のα-オレフィンから導かれる構成単位の割合は、0.1モル%以上9.0モル%以下であることが好ましく、0.1モル%以上7.0モル%以下であることがより好ましく、0.1モル%以上5.0モル%以下であることがさらに好ましく、1.0モル%以上5.0モル%以下であることが特に好ましい(エチレンから導かれる構成単位および炭素原子数3以上のα-オレフィンから導かれる構成単位の合計量を100モル%とする)。
【0047】
上記炭素原子数3以上12以下のα-オレフィンの例には、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン、および1-ドデセンなどの直鎖状または分岐状のα-オレフィンが含まれる。これらのうち、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、および1-オクテンが好ましく、炭素原子数が3以上8以下のα-オレフィンがより好ましく、プロピレンおよび1-ブテンがさらに好ましい。エチレンとプロピレンや1-ブテンとを共重合すると、モールドへの加工性、およびモールドの形状安定性が良好となる。なお、これらのα-オレフィンから導かれる構成単位は、1種のみが含まれていてもよいし、2種類以上が含まれていてもよい。
【0048】
また、ポリオレフィンは、プロピレン単独重合体(ポリプロピレン)や、プロピレンと、エチレンもしくは炭素原子数4以上12以下のα-オレフィンとのプロピレン系重合体としてもよい。
【0049】
プロピレン系重合体をプロピレンとエチレンとの共重合体とする場合、プロピレンから導かれる構成単位の割合は、60モル%以上99.5モル%以下とすることができる。この場合のプロピレンから導かれる構成単位の割合は、80モル%以上99モル%以下であることが好ましく、90モル%以上98.5モル%以下であることがさらに好ましく、95モル%以上98モル%以下であることが特に好ましい(プロピレンから導かれる構成単位およびエチレンから導かれる構成単位の合計量を100モル%とする)。プロピレンから導かれる構成単位の割合が多いプロピレン系重合体を用いると、モールドの形状安定性および耐熱性が良好となる。
【0050】
プロピレン系重合体を、プロピレンと炭素原子数4以上12以下のα-オレフィンとの共重合体とする場合の、炭素原子数4以上12以下のα-オレフィンの例には、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン、および1-ドデセンなどの直鎖状または分岐状のα-オレフィンが含まれる。これらのうち、1-ブテンが好ましい。また、このときのプロピレン・α-オレフィン共重合体は、炭素原子数4以上12以外αオレフィン以外のオレフィンを含んでいてもよく、たとえばエチレンなどから導かれる構成単位を少量、たとえば10モル%以下の量で含んでいてもよい。一方で、エチレンから誘導される構成単位が含まれないことも、樹脂組成物の耐熱性と機械強度のバランスを高めるとの観点では好ましい。なお、これらのα-オレフィンから導かれる構成単位は、1種のみが含まれていてもよいし、2種類以上が含まれていてもよい。
【0051】
上記プロピレン系重合体がプロピレンと炭素原子数4以上12以下のα-オレフィンとの共重合体であるとき、プロピレンから導かれる構成単位の割合は、60モル%以上90モル%以下であることが好ましく、65モル%以上88モル%以下であることがより好ましく、70モル%以上85モル%以下であることがさらに好ましく、75モル%以上82モル%以下であることが特に好ましい。一方、炭素原子数4以上12以下のα-オレフィンから導かれる構成単位の割合は、10モル%以上40モル%以下であることが好ましく、12モル%以上35モル%以下であることがより好ましく、15モル%以上30モル%以下であることがさらに好ましく、18モル%以上25モル%以下であることが特に好ましい(プロピレンから導かれる構成単位および炭素原子数4以上12以下のα-オレフィンから導かれる構成単位の合計量を100モル%とする)。
【0052】
上記プロピレン・α-オレフィン共重合体の組成が上記範囲にあると、モールドの形状安定性およびモールドの耐熱性が良好となる。上記プロピレン・α-オレフィン共重合体のDSCにより得られる融点(Tm)は通常60℃以上120℃以下であり、65℃以上100℃以下であることが好ましく、70℃以上90℃以下であることがより好ましい。
【0053】
ポリオレフィンは、エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体であってもよい。上記共重合体は、エチレンと、炭素原子数3以上12以下のα-オレフィンと、非共役ポリエンとの共重合であることが好ましく、これらがランダムに共重合した共重合体であることがより好ましい。上記α-オレフィンの例には、炭素原子数3以上12以下のα-オレフィン、たとえばプロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン、および1-ドデセンなどの炭素原子数3以上12以下の直鎖状または分岐状のα-オレフィンが含まれる。上記非共役ポリエンの例には、環状または鎖状の非共役ポリエンが含まれる。環状の非共役ポリエンの例には、シクロペンテン、シクロヘプテン、ノルボルネン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、5-ビニル-2-ノルボルネン、ノルボルナジエン、メチルテトラヒドロインデン、およびテトラシクロドデセンなどが含まれる。鎖状の非共役ポリエンの例には、1,4-ヘキサジエン、7-メチル-1,6-オクタジエン、4-エチリデン-8-メチル-1,7-ノナジエン、および4-エチリデン-1,7-ウンデカジエンなどが含まれる。これらのうち、5-エチリデン-2-ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、および5-ビニル-2-ノルボルネンが好ましい。なお、これらの非共役ポリエンから導かれる構成単位は、1種のみが含まれていてもよいし、2種類以上が含まれていてもよい。
【0054】
上記エチレン・α-オレフィン・非共役ポリエンランダム共重合体の例には、エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体(EPDM)などが含まれる。
【0055】
また、ポリオレフィンとして、プロピレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体や、1-ブテン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体等を用いてもよい。
【0056】
さらに、ポリオレフィンとして、4-メチル-1-ペンテン系重合体(4-メチルー1-ペンテン共重合体(A)を除く)を用いてもよい。
【0057】
なお、これらのポリオレフィンの立体規則性に関しては、特に制限はないが、ポリオレフィンがプロピレン系重合体であるときには、実質的にシンジオタクティックな構造を有することが好ましい。なお、プロピレン系重合体が、実質的にシンジオタクティック構造を有するとは、13C-NMRスペクトルにおける19.5ppm以上20.3ppm以下に相当するピーク面積が、相対的に0.5以上であることをいう。シンジオタクティシティーが上記範囲にあると、成形できる程度に結晶化速度が遅くなり、加工性が非常に良好になる。また、プロピレンから導かれる構成単位が実質的にシンジオタクティック構造を有するプロピレン系重合体は、汎用ポリオレフィン系樹脂であるポリエチレン、ブロックポリプロピレン、アイソタクティックポリプロピレンよりも形状安定性が良好となる。なお、シンジオタクティック構造を有するプロピレン系重合体は、種々公知の製造方法で製造し得る。
【0058】
(グラフト変性)
上記ポリオレフィンは、未変性であってもよいが、二重結合を含む極性化合物でグラフト変性されていてもよい。
【0059】
ポリオレフィンのグラフト変性は、公知の方法で行うことができる。たとえば、ポリオレフィンを有機溶媒に溶解し、次いで得られた溶液に不飽和カルボン酸などの二重結合を含む極性化合物およびラジカル開始剤などを加え、60℃以上350℃以下、好ましくは80℃以上190℃以下の温度で、0.5時間以上15時間以下、好ましくは1時間以上10時間以下の間、反応させればよい。
【0060】
上記有機溶媒は、ポリオレフィンを溶解することができる有機溶媒であればよい。このような有機溶媒の例には、ベンゼン、トルエンおよびキシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒、ならびにペンタン、ヘキサンおよびヘプタンなどの脂肪族炭化水素系溶媒などが含まれる。
【0061】
あるいは、ポリオレフィンのグラフト変性は、押出機などを使用し、好ましくは溶媒を併用せずに、ポリオレフィンと、不飽和カルボン酸等の二重結合を含む極性化合物とを反応させて行うこともできる。このときの反応温度は、ポリオレフィンの融点以上、具体的には100℃以上350℃以下とすることができる。反応時間は、0.5分以上10分以下とすることができる。
【0062】
二重結合を含む極性化合物を効率よくグラフト共重合させる観点からは、ラジカル開始剤の存在下にグラフト変性を実施することが好ましい。
【0063】
上記ラジカル開始剤の例には、ベンゾイルペルオキシド、ジクロルベンゾイルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、ジ-t-ブチルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ペルオキシドベンゾエート)ヘキシン-3,1,4-ビス(t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、ラウロイルペルオキシド、t-ブチルペルオキシアセテート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3,2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン、t-ブチルペルオキシベンゾエート、t-ブチルペルオキシフェニルアセテート、t-ブチルペルオキシイソブチレート、t-ブチルペルオキシ-sec-オクトエート、t-ブチルペルオキシピバレート、クミルペルオキシピバレート、t-ブチルペルオキシジエチルアセテート、t-ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート及びt-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネートなどの有機ペルオキシドや有機ペルオキシエステル、ならびに、アゾビスイソブチロニトリル、ジメチルアゾイソブチレートなどのアゾ化合物などが含まれる。これらのうち、ジクミルペルオキシド、ジ-t-ブチルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3,2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン、および1,4-ビス(t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼンなどのジアルキルペルオキシドが好ましい。ラジカル開始剤は、変性前のポリオレフィンの全質量に対して、0.001質量%以上1質量%以下の量を用いればよい。
【0064】
なお、グラフト変性ポリオレフィンの形状は特に制限されず、たとえば粒子状であってもよい。粒子状のグラフト変性ポリオレフィンは、炭素数2以上18以下のα-オレフィンからなり、かつ融点が50℃以上250℃未満である粒子と、エチレン性不飽和基および極性官能基を同一分子内に有する単量体とをグラフト反応させる方法が挙げられる。当該グラフト反応は、上述のラジカル開始剤を用い、ポリオレフィン粒子の融点(Tm)以下の温度で行うことができる。グラフト変性ポリオレフィンの粒子の平均粒径は、例えば0.2mm以上2.5mm以下とすることができる。上記グラフト反応は、無溶媒で行うこともできるが、有機溶媒の存在下で行うことが好ましい。
【0065】
(2)ポリアミド(B-2)
ポリアミドの例には、ナイロン-6、ナイロン-66、ナイロン-10、ナイロン-11、ナイロン-12、ナイロン-46、ナイロン66、ナイロン-610、およびナイロン-612等の脂肪族ポリアミド、ならびに芳香族ジカルボン酸および脂肪族ジアミンから合成される半芳香族ポリアミドなどが含まれる。これらのうち、ナイロン-6が好ましい。
【0066】
(3)ポリエステル(B-3)
ポリエステルの例には、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、およびポリブチレンテレフタレートなどの芳香族系ポリエステル、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシブチレート、およびポリエステル系エラストマーなどが含まれる。これらのうち、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0067】
(4)ポリアセタール(B-4)
ポリアセタールの例には、ポリホルムアルデヒド(ポリオキシメチレン)、ポリアセトアルデヒド、ポリプロピオンアルデヒド、およびポリブチルアルデヒドなどが含まれる。これらのうち、ポリホルムアルデヒドが好ましい。
【0068】
(5)スチレン系(共)重合体(B-5)
スチレン系(共)重合体は、スチレンの単独重合体であってもよく、スチレンと、アクリロニトリル、メタクリル酸メチル、α-メチルスチレンなどとの二元共重合体、たとえばアクリロニトリル-スチレン共重合体であってもよい。また、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂、アクリロニトリル-アクリルゴム-スチレン樹脂、アクリロニトリル-エチレンゴム-スチレン樹脂、(メタ)アクリル酸エステル-スチレン樹脂、および各種スチレン系エラストマーであっても良い。アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂は、アクリロニトリルから誘導される構成単位の割合が20モル%以上35モル%以下であり、ブタジエンから誘導される構成単位の割合が20モル%以上30モル%以下であり、スチレンから誘導される構成単位の割合が40モル%以上60モル%以下であるものが好ましい(アクリロニトリルから導かれる構成単位、ブタジエンから導かれる構成単位、およびスチレンから導かれる構成単位の合計量を100モル%とする)。
【0069】
また、スチレン系エラストマーとしては、ポリスチレン相をハードセグメントとして有する公知のスチレン系エラストマーも使用できる。これらの具体例には、スチレン・ブタジエン共重合体(SBR)、スチレン・イソプレン・スチレン共重合体(SIS)、スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体(SBS)、スチレン・エチレン・ブタジエン・スチレン共重合体(SEBS)、及びこれらの水素化物、スチレン・イソブチレン・スチレントリブロック共重合体(SIBS)、およびスチレン・イソブチレンジブロック共重合体(SIB)などが含まれる。これらのうち、スチレン・イソブチレン・スチレントリブロック共重合体(SIBS)、およびスチレン・イソブチレンジブロック共重合体(SIB)が好ましい。
【0070】
(6)アクリル系樹脂(B-6)
アクリル系樹脂の例には、ポリメタクリレートおよびポリエチルメタクリレートが含まれる。これらのうち、ポリメチルメタクリレート(PMMA)が好ましい。
【0071】
(7)ポリカーボネート(B-7)
ポリカーボネートの例には、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、および2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタンなどから得られるポリカーボネートが含まれる。これらのうち、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンから得られるポリカーボネートが好ましい。
【0072】
(8)ポリフェニレンオキサイド(B-8)
ポリフェニレンオキサイドの例には、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンオキサイド)などが含まれる。
【0073】
(9)ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンなどの塩素樹脂(B-9)
ポリ塩化ビニルは、塩化ビニルの単独重合体であってもよく、塩化ビニルと塩化ビニリデン、アクリル酸エステル、アクリロニトリル、およびプロピレンなどとの共重合体であってもよい。ポリ塩化ビニリデンは、塩化ビニリデン単位を85%以上含む共重合体であればよく、塩化ビニリデンと、塩化ビニル、アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸エステル、アリルエステル、不飽和エーテル、スチレンなどとの共重合体とすることができる。ポリ塩化ビニルとして、塩化ビニル系エラストマーを使用してもよい。
【0074】
(10)酢酸ビニル系樹脂(B-10)
ポリ酢酸ビニルは、酢酸ビニルの単独重合体であってもよく、酢酸ビニルと、エチレン、および塩化ビニルなどとの共重合体であってもよい。これらのうち、エチレン-酢酸ビニル共重合体が好ましい。また、ケン化エチレン-酢酸ビニル共重合体、グラフト変性エチレン-酢酸ビニル共重合体等の変性エチレン-酢酸ビニル共重合体であっても良い。
【0075】
(11)エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体(B-11)
エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体の例には、エチレン-メチルアクリレート共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-メチルメタクリレート共重合体、およびエチレン-エチルメタクリレート共重合体などが含まれる。
【0076】
(12)エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体またはこれらのアイオノマー(B-12)
エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタアクリル酸共重合体は、これらをそのまま用いてもよいし、さらに金属塩化させて、金属塩(アイオノマー)としてもよい。金属塩の金属元素の例には、K、Na、CaおよびZnが含まれる。これらの金属元素は、変性が容易であるため好ましい。
【0077】
(13)ビニルアルコール系樹脂(B-13)
ビニルアルコール系樹脂の例には、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール樹脂などが含まれる。これらのうち、エチレン-ビニルアルコール樹脂が好ましい。
【0078】
(14)セルロース樹脂(B-14)
セルロース樹脂の例には、アセチルセルロースなどが含まれる。これらのセルロース樹脂に、フタル酸ジブチル等の可塑剤を併用することにより、熱可塑性樹脂の特徴を付与したものを使用すればよい。
【0079】
(15)熱可塑性ウレタン系エラストマー(B-15)
熱可塑性ウレタン系エラストマーは、高分子ポリオール(ポリメリックグリコール)からなるソフトセグメントと、鎖延長剤およびジイソシアネートからなるハードセグメントとを有するウレタン系エラストマーである。
【0080】
高分子ポリオールは、従来から熱可塑性ポリウレタン材料に関する技術において使用されてきたものであればよい。高分子ポリオールはポリエステル系とポリエーテル系のいずれでもよいが、形状安定性をより高める観点から、ポリエーテル系ポリオールが好ましい。ポリエーテル系ポリオールの例には、ポリテトラメチレングリコール、およびポリプロピレングリコールなどが含まれる。これらのうち、形状安定性をより高める観点から、ポリテトラメチレングリコールが好ましい。高分子ポリオールの平均分子量は、1000以上5000以下であることが好ましく、反発弾性の高い熱可塑性ウレタン系エラストマーとする観点からは2000以上4000以下であることが好ましい。
【0081】
鎖延長剤の例には、1,4-ブチレングリコール、1,2-エチレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、および2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオールなどが含まれる。これらの鎖延長剤の平均分子量は、20以上15000以下であることが好ましい。
【0082】
ジイソシアネートの例には、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4-トルエンジイソシアネート、および2,6-トルエンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネートや、ヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネートなどが含まれる。これらのうち、芳香族ジイソシアネートである4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートが好ましい。
【0083】
(16)ゴム成分(B-16)
これまでに説明したエラストマー以外のゴム成分として、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、ネオプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、ポリイソブチレンゴム、天然ゴム、およびシリコーンゴムなどを使用してもよい。
【0084】
(17)ポリ乳酸(B-17)
ポリ乳酸は、少なくとも乳酸由来の構造を含む重合体であればよく、乳酸の単独重合体、または乳酸と他の単量体との重合体であってもよい。ポリ乳酸は、全構成単位に対して、乳酸由来の構造単位を50質量%以上含めばよい。乳酸には、L-乳酸およびD-乳酸があるが、ポリ乳酸は、L-乳酸およびD-乳酸のうち、いずれか一方のみを含んでいてもよく、両方を含んでいてもよい。
【0085】
ポリ乳酸中のL-乳酸から導かれる構造単位(L体)の割合、およびD-乳酸から導かれる構造単位(D体)の割合の比は特に限定されないが、L体の割合が90モル%以上100モル%以下であり、D体の割合が0モル%以上10モル%以下であってもよいし、L体の割合が0モル%以上10モル%以下であり、D体の割合が90モル%以上100モル%以下であってもよい(L体およびD体の合計量を100モル%とする)。
【0086】
乳酸の単独重合体の例には、L-乳酸由来の構造のみを含むポリ(L-乳酸)、D-乳酸由来の構造単位のみを含む(ポリ(D-乳酸)、およびL-乳酸およびD-乳酸由来の構造を含むポリ(DL-乳酸)が含まれる。乳酸の単独重合体の市販品の例には、株式会社島津製作所社製のラクティシリーズ、カーギル・ダウ社製のNatureWorksシリーズなどが含まれる。
【0087】
乳酸と共重合可能な他の単量体の例には、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン類、ジオール、およびジカルボン酸などが含まれる。ヒドロキシカルボン酸の例には、グリコール酸、3-ヒドロキシ酪酸、4-ヒドロキシ酪酸、2-ヒドロキシn-酪酸、2-ヒドロキシ-3,3-ジメチル酪酸、2-ヒドロキシ-3-メチル酪酸、2-メチル乳酸、および2-ヒドロキシカプロン酸などの2官能脂肪族ヒドロキシカルボン酸が含まれる。ラクトン類の例には、カプロラクトン、ブチロラクトン、およびバレロラクトンなどが含まれる。ジオールの例には、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、および1,4-シクロヘキサンジメタノールなどの脂肪族ジオールが含まれる。ジカルボン酸の例には、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、およびドデカン二酸などが含まれる。
【0088】
ポリ乳酸は、縮重合法、開環重合法等、公知のいずれの方法によって重合した物であってもよい。また、ポリ乳酸は、L-乳酸またはD-乳酸、これらの混合物、あるいはさらに必要に応じて他の単量体を直接、脱水縮重合したものであってもよい。また、乳酸の環状二量体であるラクチド(L-ラクチドおよび/またはD-ラクチド)を、必要に応じて重合調整剤等を用いながら、適切な触媒を使用して開環重合したり、他の単量体と重合させたりしたものであってもよい。
【0089】
なお、テレフタル酸等の非脂肪族ジカルボン酸や、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物等、非脂肪族ジオールを各種乳酸や他の単量体と共重合させてもよい。さらに、分子量調整のために、鎖延長剤として、ジイソシアネート化合物や、エポキシ化合物、酸無水物等を重合に使用してもよい。
【0090】
ポリ乳酸は、共重合体である場合、ランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体であってもよい。ポリ乳酸セグメントをA、ポリ乳酸以外の重合体、例えばジオール/ジカルボン酸セグメントをBとすると、典型的にABAブロック共重合体とすることにより、モールドの形状安定性をより高めることができる。なお、ジオール/ジカルボン酸セグメントのガラス転移温度は、0℃以上であってもよい。
【0091】
ポリ乳酸の重量平均分子量は特に制限されないが、50,000以上400,000以下であってもよく、100,000以上250,000以下であってもよい。
【0092】
熱可塑性樹脂(B)は、これらのうち、ポリオレフィンまたはその酸グラフト変性体(B-1)、スチレン系(共)重合体(B-5)、塩素樹脂(B-9)、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体またはこれらのアイオノマー(B-12)、熱可塑性ウレタン系エラストマー(B-15)、またはゴム成分(B-16)であることが好ましく、ポリオレフィン、ポリスチレン、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)、またはポリ塩化ビニルであることがより好ましく、エチレン系重合体、プロピレン系重合体、ポリ-1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン系重合体(4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)を除く)、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、またはアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体であることがさらに好ましく、下記要件(B-a)および(B-b)を満たす4-メチル-1-ペンテン系重合体(B-1-1)であることが特に好ましい。
要件(B-a):4-メチルー1-ペンテンから導かれる構成単位の割合が90モル%以上100モル%以下であり、炭素原子数5以上20以下のαーオレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く)から導かれる構成単位の割合が0モル%以上10モル%以下である(前記4-メチルー1-ペンテンから導かれる構成単位および前記炭素原子数5以上20以下のαーオレフィンから導かれる構成単位の合計を100モル%とする)
要件(B-b):示差走査熱量計(DSC)で融点(Tm)が200℃以上250℃以下の範囲に観測される
【0093】
1-1-2-1.4-メチル-1-ペンテン系重合体(B-1-1)
4-メチル-1-ペンテン系重合体(B-1-1)は、4-メチルー1-ペンテンから導かれる構成単位(以下、単に構成単位(iii)ともいう。)と、炭素原子数5以上20以下のαーオレフィンから導かれる構成単位(以下、単に構成単位(iv)ともいう。)とを含む共重合体である。以下、4-メチルー1-ペンテン共重合体(B-1-1)の要件について説明する。4-メチルー1-ペンテン共重合体(B-1-1)は、下記要件(B-a)および要件(B-b)を満たすが、要件(B-c)~要件(B-f)のうちいずれか1つまたは複数をさらに満たすことが好ましい。
【0094】
要件(B-a):構成単位(iii)の割合が90モル%以上100モル%以下であり、構成単位(iv)の割合が0モル%以上10モル%以下である(構成単位(iii)および構成単位(iv)の合計を100モル%とする)
構成単位(i)の割合が90モル%以上であると、4-メチルー1-ペンテン共重合体(B-1-1)の耐熱性、弾性率および可撓性を高め、樹脂組成物、ひいてはモールドを、加熱されたときや重合により生じる熱により不可逆的な変形を生じにくくしつつ、加熱したときにより柔軟とし、形状追従性をより高めることができる。
【0095】
上記観点から、構成単位(iii)の割合は92モル%以上99モル%以下であることが好ましい。また、構成単位(Iv)の割合は1モル%以上8モル%以下であることが好ましい。
【0096】
構成単位(iv)は、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-デセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、および1-エイコセンなどから導かれる構成単位とすることができる。これらの構成単位は、1種のみが含まれていてもよいし、2種類以上が含まれていてもよい。これらのうち、モールドの弾性率をより高め、かつ加熱されたときの樹脂成形体の取り出しやすさをより高める観点からは、炭素原子数8以上18以下のα-オレフィンが好ましく、1-オクテン、1-デセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、および1-オクタデセンがより好ましく、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセンおよび1-オクタデセンがさらに好ましい。
【0097】
4-メチルー1-ペンテン共重合体(B-1-1)は、4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位(iii)、または炭素原子数5以上20以下のαーオレフィンから導かれる構成単位(iv)以外の、その他の構成単位を含んでもよい。その他の構成単位の割合は、0モル%10モル%以下であることが好ましい(構成単位(iii)および構成単位(iv)の合計を100モル%とする)。
【0098】
構成単位(iii)および構成単位(iv)、およびその他の構成単位を導くモノマーの種類、およびその割合は、13C-NMRにより特定することができる。
【0099】
要件(B-b):示差走査熱量計(DSC)で融点(Tm)が200℃以上250℃以下の範囲に観測される
DSCで融点(Tm)が200℃以上250℃以下の範囲に観測される4-メチルー1-ペンテン共重合体(B-1-1)は、樹脂組成物の、ひいではモールドの耐熱性を高める。そのため、4-メチルー1-ペンテン共重合体(B-1-1)は、樹脂組成物、ひいてはモールドを、加熱されたときや重合により生じる熱により不可逆的な変形を生じにくくすることができる。上記観点から、4-メチルー1-ペンテン共重合体(B-1-1)は、DSCで融点(Tm)が200℃以上245℃以下の範囲に観測されることが好ましく、200℃以上240℃以下の範囲に観測されることがより好ましい。
【0100】
要件(B-c):ASTM D1238に準拠して230℃、2.16kg加重で測定されたメルトフローレート(MFR)が0.01g/10分以上250g/10分以下である
上記MFRが0.01g/10分以上250g/10分以下であると、4-メチルー1-ペンテン共重合体(B-1-1)が4-メチルー1-ペンテン共重合体(A)と相溶しやすくなり、モールドの成形が容易となる。
【0101】
上記観点から、4-メチルー1-ペンテン共重合体(B-1-1)の上記MFRは5g/10分以上230g/10分以下であることが好ましく、10g/10分以上220g/10分以下であることがより好ましく、15g/10分以上200g/10分以下であることがさらに好ましい。
【0102】
要件(B-d):デカリン溶媒中、135℃で測定される極限粘度[η]が1.0dl/g以上4.0dl/g以下である
デカリン溶媒中、135℃で測定される極限粘度[η]が1.0dl/g以上4.0dl/g以下であると、樹脂組成物の流動性を高め、モールドの成形がより容易となる。
【0103】
上記観点から、4-メチルー1-ペンテン共重合体(B-1-1)の上記極限粘度[η]は、1.0dl/g以上3.5dl/g以下であることが好ましく、1.0dl/g以上3.0dl/g以下であることがより好ましい。
【0104】
要件(B-e):ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比である分子量分布(Mw/Mn)が1.0以上7.0以下である
GPCにより測定されるMw/Mnが7.0以下であると、4-メチルー1-ペンテン共重合体(B-1-1)中の低分子量成分の量を少なくして、樹脂組成物、ひいてはモールドの機械特性、成形性および耐摩耗性を高め、かつ、べたつきを抑制することができる。そのため、モールドの繰り返し使用回数を増やすことができ、モールドからの樹脂成形体の取り出しがより容易になり、またモールドの取り扱い性もより良好となる。
【0105】
上記観点から、4-メチルー1-ペンテン共重合体(B-1-1)のGPCにより測定されるMw/Mnは、2.0以上6.0以下であることが好ましく、2.5以上5.0以下であることがより好ましい。
【0106】
要件(B-f):密度が820kg/m3以上850kg/m3以下である
密度が825kg/m3以上860kg/m3以下であると、樹脂組成物、ひいてはモールドを軽量にしつつ、その強度を高めることができる。
【0107】
上記観点から、4-メチルー1-ペンテン共重合体(B-1-1)の密度は825kg/m3以上845kg/m3以下であることが好ましい。
【0108】
4-メチルー1-ペンテン共重合体(A)の密度は、JIS K7112に準拠して、密度勾配管を用いて測定した値とすることができる。
【0109】
4-メチルー1-ペンテン共重合体(B-1-1)、公知の方法により製造することができる。たとえば、4-メチル-1-ペンテンと、必要に応じて炭素原子数5以上20以下のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く)とを重合して製造してもよいし、高分子量の4-メチル-1-ペンテン系重合体を熱分解して製造してもよい。また、4-メチルー1-ペンテン共重合体(B-1-1)は、溶媒に対する溶解度の差異で分別する溶媒分別、あるいは沸点の差異で分取する分子蒸留などの方法で精製されてもよい。
【0110】
4-メチルー1-ペンテン共重合体(B-1-1)は、従来公知のオレフィン重合用触媒、例えば、バナジウム系触媒、チタン系触媒、マグネシウム担持型チタン触媒、ならびに、国際公開第01/053369号、国際公開第01/027124号、特開平3-193796号公報、および特開平2-41303号公報に記載のメタロセン触媒などを用いて合成することができる。
【0111】
また、4-メチルー1-ペンテン共重合体(B-1-1)は、市販品を使用してもよい。4-メチルー1-ペンテン共重合体(B-1-1)の市販品の例には三井化学株式会社製TPX(「TPX」は同社の登録商標)が含まれる。
【0112】
1-1-3.その他の成分
樹脂組成物は、必要に応じて、従来公知の添加剤、たとえば、酸化防止剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、スリップ防止剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、結晶核剤、滑剤、顔料、染料、老化防止剤、塩酸吸収剤、無機または有機の充填剤、有機系または無機系の発泡剤、架橋剤、架橋助剤、粘着剤、軟化剤、難燃剤などの各種添加剤を含有してもよい。上述の各種添加剤の含有量は、樹脂組成物の全質量に対して、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましい。
【0113】
上記酸化防止剤の例には、ヒンダードフェノール化合物、硫黄系酸化防止剤、ラクトーン系酸化防止剤、有機ホスファイト化合物、有機ホスフォナイト化合物、およびこれらを数種組み合わせたものが含まれる。
【0114】
1-1-4.樹脂組成物の物性
樹脂成形体の成形時等における樹脂組成物の形状維持性を高める観点からは、樹脂組成物は、25℃における貯蔵弾性率(E’@25℃)が、120MPa以上であることが好ましく、200MPa以上であることがより好ましく、250MPa以上であることがさらに好ましい。25℃における貯蔵弾性率(E’@25℃)の上限は特に限定されないが、3000MPa以下とすることができ、2000MPa以下であることが好ましい。
【0115】
加熱したときの可撓性を高め、加熱されたときの樹脂成形体の取り出しやすさをより高める観点からは、樹脂組成物は、60℃における貯蔵弾性率(E’@60℃)が、200MPa未満であることが好ましく、120MPa未満であることがより好ましく、80MPa以下であることがさらに好ましく、75MPa以下であることがより特に好ましい。60℃における貯蔵弾性率(E’@60℃)の下限は特に限定されないが、0.1MPa以上とすることができ、0.5MPa以上であることが好ましく、1.0MPa以上であることがより好ましい。
【0116】
樹脂組成物の貯蔵弾性率は、-40~150℃の温度範囲で、引張モード、周波数1Hz、歪み量0.05%とした動的粘弾性測定により求めることができる。
【0117】
なお、樹脂組成物の貯蔵弾性率は、4-メチルー1-ペンテン共重合体(A)および熱可塑性樹脂(B)の種類(共重合体を構成するモノマーの種類およびそのモル比等)、これらの重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)およびこれらの比(Mw/Mn)、ならびにこれらの配合量等により、調整することができる。
【0118】
1-1-5.樹脂組成物の製造方法
樹脂組成物は、4-メチルー1-ペンテン共重合体(A)と、任意に熱可塑性樹脂(B)とを前記特定の割合で混合することにより得られることが好ましい。混合する方法は特に限定はされず、種々公知の方法、たとえば、ヘンシェルミキサー、タンブラーブレンダー、およびV-ブレンダーなどによりドライブレンドする方法、ドライブレンドした後、単軸押出機、二軸押出機、およびバンバリーミキサーなどにより溶融混練する方法、ならびに溶媒の存在下で、攪拌混合する方法などを使用することができる。
【0119】
1-2.モールドの構成
モールドの形状は特に限定されず、成形しようとする樹脂成形体の形状に応じて任意に定めることができる。
【0120】
1-2-1.モールドの形状
図1は、本実施形態に関するモールドの例示的な形状を示す、模式斜視図である。モールド100は、いずれも略直方体形状である2つの型部材110aおよび型部材110bを有する。それぞれの型部材は、型部材110aおよび型部材110bはいずれも、1つの面に、内部に窪んだ凹部112aおよび凹部112bを有する。そして、これらの凹部112aおよび凹部112bを有する面同士を接触させて型部材110aおよび型部材110bを密着させることにより、凹部112aおよび凹部112bが樹脂成形体に応じた形状の内部空間が形成される。
【0121】
一方の型部材110aが有する凹部112aは、凹部112aの底壁から型部材110aを貫通する2つの貫通孔を有する。これらの貫通孔のうち、1つの貫通孔は、内部空間に樹脂またはその材料を注入するための注入孔114であり、他方の貫通孔は、樹脂の充填時に内部の空気を抜くための脱気孔116である。
【0122】
図2は、
図1に示す一点鎖線2-2におけるモールド100の断面図である。
図2に示すように、本実施形態に関するモールド100は、内部空間210を構成する側壁212(凹部112aおよび凹部112bの深さ方向に延在する壁面)が、2つの型部材110aおよび型部材110bの密着面214に対して垂直な直線であり、これにより内部空間210が長方形の断面形状を有する。
【0123】
なお、モールド100の断面形状(内部空間210の形状)はこれに限定されない。
図3A~
図3D、および
図4A~
図4Dは、モールド100の断面形状(内部空間210の形状)の他の例を示す、
図1に示す一点鎖線2-2における、モールド100の断面図である。
【0124】
図3Aに示すように、モールド100は、側壁212が部分的または全体的に型部材110aの内側に窪んだ(内部空間210が部分的または全体的に外側に膨らんだ)形状を有してもよい。あるいは、モールド100は、側壁212が部分的または全体的に型部材110aの外側に拡張した(内部空間210が部分的または全体的に内側に窪んだ)形状を有してもよい。また、
図3Bに示すように、モールド100は、側壁212が部分的または全体的に曲面により構成される形状を有してもよい。また、
図3Cに示すように、モールド100は、側壁が部分的または全体的に、規則的または不規則的に変化する繰り返し形状を有してもよい。また、
図3Dに示すように、モールド100は、側壁ごとに異なる形状を有してもよい。なお、これらの形状は、
図3A~
図3Dに示したものには限定されず、たとえば他方の型部材110bの側壁がこれら任意の形状を有してもよいし、一方の型部材110aおよび他方の型部材110bの両方がこれら任意の形状を有してもよい。また、一方の型部材110aと他方の型部材110bとで側壁の形状が相違してもよい。
【0125】
また、
図4Aに示すように、モールド100は、側壁212が傾斜して、密着面214に向かって内部空間210の断面積が広がっていく形状(抜き勾配)を有してもよい。あるいは、
図4Bに示すように、モールド100は、側壁212が傾斜して、密着面214に向かって内部空間210の断面積が狭まっていく形状抜き勾配を有してもよい。これらの勾配は、
図4Aおよび
図4Bに示したものには限定されず、たとえば他方の型部材110bの側壁がこれら任意の勾配を有してもよいし、一方の型部材110aおよび他方の型部材110bの両方がこれら任意の勾配を有してもよい。また、一方の型部材110aと他方の型部材110bとで勾配の向きまたは角度が相違してもよい。
【0126】
また、
図4Cに示すように、モールド100は、凹部112aまたは凹部112bの底壁(内部空間210の上面または下面)216が、上述した任意の形状を有してもよい。また、
図4Dに示すように、モールド100は、内部空間210がモールド100に対して傾斜した形状を有してもよい。
【0127】
なお、凹部112aまたは凹部112bの側壁および底壁は、所定の粗さを有する粗面であってもよいし、平滑化されていてもよい。
【0128】
図5Aは、
図1に示す二点鎖線5-5におけるモールド100の断面図である。
図5Aに示すように、本実施形態に関するモールド100は、いずれも凹部112aまたは凹部112bの底壁(内部空間210の上面または下面)216とモールド100の外部とを連通する、内部空間210に樹脂またはその材料を注入するための注入孔114と、樹脂の充填時に内部空間210の内部の空気を抜くための脱気孔116と、を有する。
【0129】
なお、注入孔114および脱気孔116の位置、大きさ、数、形状などは特に限定されない。
図5B~
図5Dおよび
図6A~
図6Cは、モールド100の断面形状(注入孔114および脱気孔116の位置)の他の例を示す、
図1に示す二点鎖線5-5における、モールド100の断面図である。
【0130】
たとえば、
図5Bに示すように、注入孔114および脱気孔116は、互いに別の型部材に形成されていてもよいし、
図5Cに示すように、注入孔114および脱気孔116は、型部材110aおよび他方の型部材110bの密着面214に形成されていてもよい。また、
図5Cおよび
図5Dに示すように、注入孔114または脱気孔116は、型部材110aまたは他方の型部材110bの側壁212とモールド100の外部とを連通してもよい。このとき、
図5Dに示すように、一方は型部材110aまたは他方の型部材110bの側壁212に形成され、他方は型部材110aまたは他方の型部材110bの底壁216に形成されてもよい。
【0131】
また、
図6Aに示すように、注入孔114または脱気孔116は、断面形状が変化してもよいし、
図6Bに示すように、注入孔114または脱気孔116は、折れ曲がり部を有してもよい。さらには、
図6Cに示すように、注入孔114または脱気孔116は、いずれかまたは双方が複数形成されていてもよい。このときの注入孔114または脱気孔116の置、大きさ、形状などが、複数の貫通孔の間で相違してもよいことは言うまでもない。
【0132】
あるいは、
図6Dに示すように、1つの貫通孔614を、注入孔および脱気孔の双方として作用させてもよい。
【0133】
1-2-2.感温部
上述したようにモールド100は、上述した樹脂組成物を成形または造形してなる感温部を有する。
【0134】
図7A~
図7Dは、モールド100が感温部710(図中の網掛け部分)を有する様子を示す、
図1に示す一点鎖線2-2における、モールド100の断面図である。
【0135】
モールド100中における感温部710の位置は特に限定されない。
図7Aに示すように、モールド100の全体が感温部710となっていてもよい。またし、
図7Bに示すように、モールド100を構成する型部材110aおよび他方の型部材110bの側壁部位の全体または一部に感温部710が配置されていてもよい。また、
図7Cに示すように、モールド100を構成する型部材110aおよび他方の型部材110bの底壁部位の全体または一部に感温部710が配置されていてもよい。あるいは、型部材110aおよび他方の型部材110bの側壁部位および底壁部位の両方に感温部710が配置されていてもよい。
【0136】
これらの感温部は、適度に加熱されると柔らかくなって可撓性が発現され、モールド100(内部空間210)からの樹脂成形体の取り出しを容易にする。
【0137】
また、
図7A~
図7Cに示すように、モールド100のうち内部空間210に接する部位に感温部710が配置されていてもよいし、
図7Dに示すように、モールド100のうち内部空間210とは接しない部位に感温部710が配置されていてもよい。
図7Dには、感温部710と内部空間210との間に、可撓性を有する他の部材(
図7Dでは離型フィルム720)が配置された例を示す。
【0138】
このような感温部710を有するモールド100は、たとえば常温における樹脂成形体の成形時には十分な形状維持性を有し、その後の加熱、たとえば55℃以上95℃以下、好ましくは60℃以上90℃以下、より好ましくは60℃以上80℃以下への加熱により、樹脂組成物により感温部710が可撓性を有するようになる。この可撓性を発現した感温部710を変形させる、あるいは感温部710を押し広げること等により、モールド100(内部空間210)から樹脂成形体を容易に取り出すことができる。本実施形態では、この程度の温度への加熱により樹脂成形体を取り出すことができるので、取り出し作業を安全に行うことができる。
【0139】
従来、内部空間210の形状に、樹脂成形体の取り出し方向に断面積が小さくなる部位や、側壁が斜めに傾斜した部位があるとき、これらの部位に樹脂成形体がひっかかってしまい、取り出しが困難になることがあった。本実施形態では、加熱により感温部710に可撓性を付与することで、内部空間210がこれらの形状を有するモールド100からも、樹脂成形体の取り出しを容易に行うことが可能となる。
【0140】
2.モールドの製造方法
図8は、本発明の他の実施形態に関する、モールドの製造方法を示すフローチャートである。
【0141】
モールドは、上述した樹脂組成物を溶融させ(第2-1工程)、溶融した樹脂組成物を成形または造形する(第2-2工程)方法により、製造することができる。
【0142】
2ー1.樹脂組成物の溶融(第2-1工程)
第2-1工程では、樹脂組成物を溶融させる。溶融の温度は特に限定されないが、樹脂組成物に含まれる樹脂のうち、最も融点(Tm)またはガラス転移温度(Tg)が高い樹脂の、当該融点(Tm)またはガラス転移温度(Tg)に対して、10℃以上150℃以下の温度とすることが好ましい。加熱の方法は特に限定されない。
【0143】
溶融した樹脂組成物を、混練してもよい。混練により樹脂組成物のムラを抑制し、ムラに起因する(部位ごとの弾性率が変化することに起因する)感温部710の変形を抑制することができる。特に樹脂組成物が充填剤(ガラス繊維等)を含むとき、混練によりムラを抑制する効果が顕著である。混練は、たとえばスクリューなどによる攪拌によって行うことができる。
【0144】
2ー2.溶融した樹脂組成物の成形または造形(第2-2工程)
第2-2工程では、溶融した樹脂組成物を成形または造形する。モールド100が樹脂組成物のみからなる(感温部710のみからなる)ときは、樹脂組成物をモールド100の形状に成形または造形すればよい。モールド100が樹脂組成物からなる部位(感温部710)と、別の材料からなる部位と、を含むときは、予め作製した、別の材料からなる部位に対して、樹脂組成物を付与して成形または造形して、感温部710を作製してもよい。あるいは、樹脂組成物から感温部710を成形または造形し、予め作製した別の材料からなる部位と組み合わせてもよい。
【0145】
樹脂組成物を成形または造形する方法は特に限定されない。付加造形用の製造装置(3Dプリンター)により樹脂組成物を造形してもよいし、樹脂組成物をフィルム状に成形した後、当該フィルムを成形してもよいし、あるいは、射出成形、押出成形、ブロー成形、押出ブロー成形、射出ブロー成形、プレス成形、および真空成形などの公知の熱成形方法により、樹脂組成物を直接成形してもよい。これらのうち、複雑な形状を容易に造形できることから、付加造形用の製造装置により樹脂組成物を造形することが好ましい。
【0146】
ところで、付加造形用の製造装置では、造形物を層ごとに作製し、積層していくことで、造形物を製造する。そのため、製造された造形物には、積層痕とよばれる、層間の凹凸が形成される。付加造形用の製造装置でモールドを作製すると、この積層痕に樹脂成形体が物理的に引っかかってしまい、樹脂成形体が取り出しにくいという問題があった。たとえば、内部空間の側壁が延在する方向が付加造形の層内方向となるように造形することで、この問題を解消することはできる。しかし、このとき、付加造形によりモールドを製造していく方向(積層していく方向)が限定されてしまい、内部空間の形状が多種多様なモールドを容易に作製できるという付加造形の利点が失われてしまう。
【0147】
これに対し、本実施形態では、付加造形用の製造装置でモールド100(感温部710)を作製しても、加熱により感温部710に可撓性を付与することで樹脂成形体の取り出しを容易に行うことが可能となる。そのため、内部空間の形状が多種多様なモールド100を付加造形により作製することと、樹脂成形体の取り出しを容易にすることと、の両立が可能となる。
【0148】
付加造形の方法は特に限定されず、公知の方法、たとえば電気ヒーターからの加熱により溶融したフィラメント状の樹脂組成物をノズルから吐出して各層の形状に配置し、積層していく方法(材料押出法)を使用することができる。付加造形用の製造装置の構成は特に限定されず、造形台としてのテーブルと、樹脂組成物を貯留するシリンダーと、シリンダー中の樹脂組成物を溶融するための電気ヒーターなどの加熱手段と、溶融した樹脂組成物を吐出するノズルと、これらを制御する制御部(コンピュータ)と、を有する装置とすることができる。そして、スライサーソフトウェアにより、造形する形状を各層の形状を示す複数の2次元データに分割し、ノズルを2次元方向に走査しながら、当該2次元データに応じた位置に溶融した樹脂組成物をノズルから吐出していけばよい。
【0149】
造形された後の感温部710は、さらに所望の形状に加工されてもよい。
【0150】
なお、本工程において成形または造形された感温部710は、その後の冷却時に収縮して、変形してしまうことがある。これに対し、樹脂組成物が熱可塑性樹脂(B)(好ましくは4-メチルー1-ペンテン共重合体(B-1-1))を含むことにより、熱収縮による変形を抑制することもできる。
【0151】
3.樹脂成形体の製造方法
図9は、本発明の他の実施形態に関する、樹脂成形体の製造方法を示すフローチャートである。
図10A~
図10Dは、本実施形態の各工程における、モールド100の様子を示す、
図1に示す一点鎖線2-2におけるモールド100の断面図である。なお、
図10A~
図10Dは、モールド100の全体が感温部710となっている例(
図7A参照)を示す。
【0152】
樹脂成形体は、モールド100の内部に樹脂材料またはその原料を供給し(第3-1工程)と、モールド100の内部で樹脂成形体を成形する(第3-2工程)、樹脂成形体の製造に使用することができる。上記樹脂成形体の製造は、成形された樹脂成形体を収容するモールドを加熱し(第3-3工程)、加熱されたモールドを変形させてモールドから樹脂成形体を取り出してもよい(第3-4工程)。
【0153】
3ー1.樹脂材料またはその原料の供給(第3-1工程)
第3-1工程では、モールド100の内部に、樹脂材料またはその原料1010を供給する(
図10A)。具体的には、2つの型部材110aおよび型部材110bを、凹部112aおよび凹部112bを有する面同士を接触させて密着させ、凹部112aおよび凹部112bにより樹脂成形体に応じた形状の内部空間210を形成する。
【0154】
そして、注入孔114から、樹脂材料またはその原料1010を内部空間210に注入する。このとき、内部空間210の内部の空気は、脱気孔116から排出される。
【0155】
樹脂材料は特に限定されず、一般用ポリスチレン樹脂、耐衝撃用ポリスチレン樹脂、アクリロニトリルスチレン樹脂、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂、変性PPO樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンサルファルド樹脂等の熱可塑性樹脂、ならびにそれらの材料の複合によるアロイ系樹脂などとすることができる。これらのうち、PMMA(ポリメタクリル酸メチル)、PMA(ポリメタクリル酸)、PEMA(ポリエチルメタクリレート)、PMMA-St(非架橋ポリメタクリル酸メチル・スチレン共重合体)、PMA-St(非架橋ポリメタクリル酸・スチレン共重合体)、PEMA-St(非架橋ポリエチルメタクリレート・スチレン共重合体)含有組成物が好ましい。また、これらの樹脂材料には、ガラス繊維や樹脂粒子(PMMAなどのアクリル樹脂の粒子など)等のフィラー、硫酸バリウムや酸化ジルコニウムなどのX線造影剤などを含む、添加剤が配合されていてもよい。
【0156】
本工程では、これらの樹脂材料を、固化剤等とともに注入してもよいし、これらの原料(モノマーおよび開始剤)を注入してもよい。
【0157】
注入の方法は特に限定されず、シリンジや注射器を用いてこれらの樹脂材料またはその原料1010を注入してもよいし、これらの樹脂材料またはその原料1010が入った容器を注入孔114に対して傾けて、注入孔114から(あるいは漏斗を介して注入孔114から)注ぎ込んでもよい。あるいは、ポンプや射出成形機を用いてもよい。
【0158】
また、注入する前には、これらの樹脂材料またはその原料1010をよく攪拌することが好ましい。
【0159】
注入する際、あるいは注入した後には、内部空間210の内部の空気を効率的に脱気するため、モールド100を傾けたり、揺動したり、振動を付与したり、衝撃を付与したりしてもよい。
【0160】
3-2.樹脂成形体の成形(第3-2工程)
第3-2工程では、供給(注入)された樹脂材料を固化させたり、原料を反応(重合)させたりして、内部空間210に応じた形状を有する樹脂成形体1020を成形する(
図10B)。
【0161】
このとき、単にモールド100を静置して固化や反応が終了するのを待ってもよいし、内部空間210を減圧したり、モールド100を外側から加圧したりしてもよい。また、反応時に反応熱が生じるときは、熱によるモールド100(感温部710)の変形を抑制するため、モールド100(感温部710)を冷却してもよい。また、注入した原料が光により硬化(重合)する原料であるときは、光を照射してもよい。この光の照射による硬化を可能とするため、モールド100は光透過性であるか、または少なくとも一部(たとえば感温部710)に、外部からの光を内部空間210まで透過する透過部を有していてもよい。
【0162】
なお、本工程は、常温で行うことが好ましい。
【0163】
その後、2つの型部材110aおよび型部材110bを互いから取り外し、開口している凹部112aまたは凹部112bから、成形された樹脂成形体1020を取り出すことができる。
【0164】
3-3.モールドの加熱(第3-3工程)
樹脂成形体を取り出すとき、モールド100、あるいは少なくとも感温部710を加熱することが好ましい(第3-3工程、
図10C)。
【0165】
このときの加熱温度は、55℃以上95℃以下であること好ましく、60℃以上90℃以下であることがより好ましく、60℃以上80℃以下であることがさらに好ましい。上述したように、この加熱により感温部710に可撓性が発現される。そのため、感温部710の変形または押し広げにより、樹脂成形体1020を容易に取り出すことができる。
【0166】
加熱の方法は特に限定されず、ホットプレート、オーブン、温水への浸漬、温水の付与等の方法で行えばよい。このとき、感温部710のみを加熱してもよいし、モールド100の全体を加熱してもよい。
【0167】
なお、本工程は、前の工程(樹脂成形体の成形)が終了した後に行うことが好ましい。
【0168】
3-4.樹脂成形体の取り出し(第3-4工程)
そして、感温部710を変形させたり押し広げたりして、樹脂成形体1020を取り出す(第3-4工程、
図10D)。
【0169】
変形の方法は特に限定されず、樹脂成形体1020とは反対方向に感温部710を撓ませてもよいし、感温部710を(あるいはモールド100の全体を)絞るように変形させてもよい。
【0170】
4.用途
上述したモールドは、様々な樹脂成形体の成形、特には内部空間に注入したモノマーを重合させる(必要に応じて熱または光を付与して重合させる)ことによる樹脂成形体の成形に、好適に使用することができる。具体的には、上述したモールドは、骨セメント、インプラント 椎体間ケージ、人口骨、髄内釘、軟骨、半月板、人工関節、手術工具、ネジ、ケース、筐体、部品などの製造に使用することができる。
【実施例0171】
本発明を実施例に基づき詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0172】
1.物性の測定方法
各共重合体および熱可塑性樹脂の物性は、下記方法により行った。
【0173】
1-1.構成単位の含有率
13C-NMRで測定した結果を基に、共重合体(A-1)および熱可塑性樹脂(B-1-1)を構成する構成単位の割合を算出した。具体的には、日本電子株式会社製、ECP500型核磁気共鳴装置を用いて、オルトジクロロベンゼン/重水素化ベンゼン(80体積%/20体積%)混合溶媒を用い、試料濃度55mg/0.6ml、測定温度120℃、観測核は13C(125MHz)、シーケンスはシングルパルスプロトンデカップリング、パルス幅は4.7μ秒(45°パルス)、繰り返し時間は5.5秒、積算回数は1万回以上とし、27.50ppmをケミカルシフトの基準値として測定をおこなった。得られた13C-NMRスペクトルから、各構成単位の割合を定量化した。
【0174】
1-2.メルトフローレート(MFR)
ASTM D1238に準拠して、共重合体(A-1)は温度260℃、5kg荷重でMFRを測定し、熱可塑性樹脂(B-1-1)~熱可塑性樹脂(B-1-3)は、温度230℃、2.16kg荷重で、それぞれのMFRを測定した。
【0175】
1-3.融点(Tm)
JIS K7121に準拠して、株式会社日立ハイテクサイエンス製の示差走査熱量計DSC7000Xを用い、昇温速度10℃/分で測定される融解ピークの頂点のうち最も温度が高いピークのピーク温度を、共重合体(A-1)および熱可塑性樹脂(B-1-1)の融点(Tm)とした。
【0176】
1-4.極限粘度
ウベローデ粘度計を用いて、デカリン溶媒中、135℃で、共重合体(A-1)および熱可塑性樹脂(B-1-1)の極限粘度を求めた。まず、共重合体(A-1)および熱可塑性樹脂(B-1-1)の各々について約20mgの試料を採取した。採取した試料を15mlのデカリンに溶解して、135℃に加熱したオイルバス中で比粘度ηspを測定した。このデカリン溶液にデカリン溶媒を5ml追加して希釈した後、同じように比粘度ηspを測定した。この希釈操作および比粘度ηspの測定をさらに2回繰り返し、濃度(C)と比粘度ηspとの関係を示す関係式(ηsp/C)を求めた。この関係式において、濃度(C)をゼロに外挿した時のηsp/Cの値を極限粘度として算出した(下式参照)。
[η]=lim(ηsp/C) (C→0)
【0177】
1-5.重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、分子量分布(Mw/Mn)
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、共重合体(A-1)および熱可塑性樹脂(B-1-1)の分子量を測定した。
【0178】
具体的には、液体クロマトグラフとしてWaters社製ALC/GPC150-Cplus型(示差屈折計検出器一体型)を用い、分離カラムとして東ソー株式会社製GMH6-HTを2本、およびGMH6-HTLを2本、直列接続して用い、移動相媒体としてo-ジクロロベンゼン、酸化防止剤として0.025質量%のジブチルヒドロキシトルエン(武田薬品工業株式会社製)を用い、移動相媒体を1.0ml/分で移動させ、試料濃度は15mg/10mlとし、試料注入量は500μLとして、示差屈折計を検出器として用いてクロマトグラムを得た。1サンプル当たりの測定時間は60分であった。
【0179】
得られたクロマトグラムを、公知の方法によって、標準ポリスチレンサンプルを用いて検量線を作成して解析することで、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)を算出した。標準ポリスチレンとしては、重量平均分子量(Mw)が1,000以上4,000,000以下の範囲に適用可能な、東ソー株式会社製の標準ポリスチレンを用いた。
【0180】
1-6.密度
JIS K7112に準拠して、密度勾配管を用いて共重合体(A-1)および熱可塑性樹脂(B-1-1)を測定した。
【0181】
2.材料の用意
2-1.共重合体(A-1)の合成(合成例1)
充分に窒素置換した容量1.5Lの攪拌翼付SUS製オートクレーブに、300mlのn-ヘキサン(乾燥窒素雰囲気下、活性アルミナ上で乾燥したもの)、および450mlの4-メチル-1-ペンテンを23℃で装入した。このオートクレーブに、トリイソブチルアルミニウム(TIBAL)の1.0mmol/mlトルエン溶液を0.75ml装入して攪拌した。
【0182】
次に、オートクレーブを内温60℃まで加熱し、全圧(ゲージ圧)が0.40MPaとなるようにプロピレンで加圧した。続いて、予め調製しておいたアルミニウム換算で1mmolのメチルアルミノキサン、および0.01mmolのジフェニルメチレン(1-エチル-3-t-ブチル-シクロペンタジエニル)(2,7-ジ-t-ブチル-フルオレニル)ジルコニウムジクロリドを含む0.34mlのトルエン溶液を、オートクレーブに窒素で圧入し、重合反応を開始した。重合反応中は、オートクレーブの内温が60℃になるように温度を調整した。重合開始から60分後、オートクレーブに5mlのメタノールを窒素で圧入し、重合反応を停止させた後、オートクレーブ内を大気圧まで脱圧した。脱圧後、反応溶液にアセトンを添加しながら攪拌した。
【0183】
得られた溶媒を含むパウダー状の共重合体を、100℃、減圧下で12時間乾燥して、4-メチルー1-ペンテン共重合体である共重合体(A-1)を得た。共重合体(A-1)の質量は36.9g、4-メチル-1-ペンテン含有量は72.4モル%、プロピレン含有量は27.6モル%であった。示差走査熱量計(DSC)で測定を行ったところ、融点は観測されなかった。共重合体(A-1)の各物性の測定結果を表1に示す。
【0184】
2-2.熱可塑性樹脂(B-1-1)の合成(合成例2)
国際公開第2006/054613号の比較例9に記載の重合方法に準じて、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、および水素の割合を変更することで、熱可塑性樹脂(B-1-1)を得た。熱可塑性樹脂(B-1-1)の各物性の測定結果を表1に示す。
【0185】
2-3.熱可塑性樹脂(B-2-1)の準備
ホッティポリマー株式会社社製のTPE60A(TPE製フィラメント、MFR(230℃、2.16kg荷重)72.9g/10分)を熱可塑性樹脂(B-2-1)として使用した。
【0186】
2-4.熱可塑性樹脂(B-2-2)の準備
三菱ケミカルメディア株式会社から入手可能であったVerbatim(PLA製フィラメント、MFR(230℃、2.16kg荷重)18.9g/10分)を熱可塑性樹脂(B-2-2)として使用した。
【0187】
【0188】
3.樹脂組成物の作製・用意
表1に示す比率で、共重合体(A-1)と熱可塑性樹脂(B-1-1)とを十分にドライブレンドして、樹脂組成物1~樹脂組成物4とした。
【0189】
熱可塑性樹脂(B-1-1)、熱可塑性樹脂(B-2-1)、および熱可塑性樹脂(B-2-2)をそれぞれ、樹脂組成物5、樹脂組成物6、および樹脂組成物7とした。
【0190】
4.モールドの作製
樹脂組成物1を二軸押出機中で溶融混錬し、吐出して冷却水槽中で冷却し、ストランド状に成形した。その後、得られたストランドを温水槽中で延伸し、直径1.75mmのフィラメントを作製した。
【0191】
得られたフィラメントから、日本3Dプリンター株式会社製の材料押出法による3Dプリンター「Raise3D Pro2」を用いてモールドを作製した。このとき、Autodesk社のソフトウェア「Fusion360」で形状データを作成し、Simplify3D社のソフトウェア「Simplify3D」にて造形条件を決定した。造形テーブルは40℃、ノズル温度は290℃、造形速度は60mm/s、内部充填率100%の造形条件にて、モールド1を作製した。このとき、縦40mm×横40mm×厚み20mmの直方体形状であり、縦40mm×横40mmの面の一方の中央部に、縦10mm×横10mm×深さ10mmの凹部を有する形状を有する型部材を2つ作製した。一方の型部材は、凹部の四隅のうち一隅に、型部材を厚み方向に貫通する、成形樹脂を注入するための注入孔を有する形状とした。また、上記一方の型部材は、中空口とは対角に位置する一隅に、型部材を厚み方向に貫通する、樹脂の充填時に内部の空気を抜くための脱気孔を有する形状とした。
【0192】
付加造形用のフィラメントに成形されている熱可塑性樹脂(B-2-1)(樹脂組成物5)を使用して、同様に、モールド5を作製した。
【0193】
5.シートの作製
樹脂組成物1~樹脂組成物4をそれぞれ、SUS製型枠に所定量充填し、樹脂組成物1~樹脂組成物3については加熱盤を260℃、樹脂組成物4については加熱盤を200℃に設定し、油圧式熱プレス機(株式会社神藤金属工業所製 AYSR-5型)を用いて、予熱4分間、ゲージ圧5MPaで1分間加圧した後、20℃に設定した冷却盤に移し替え、ゲージ圧5MPaで圧縮して2分間冷却し、厚み0.5mmのシートであるシート1~シート4を作製した。
【0194】
樹脂組成物5を用いて、加熱盤を260℃に設定し、同様にシート5を作製した。
【0195】
樹脂組成物6および樹脂組成物7を用いて、加熱盤を200℃に設定し、それぞれ同様にシート6およびシート7を作製した。
【0196】
7.評価
7-1.貯蔵弾性率の測定
シート1~シート7をそれぞれ、レオメーター(ティー・エイ・インスツルメント社製 RSA-G2MCR301)により、引張モード、周波数は1Hz、歪み量は0.05%、昇温速度は3℃/分の条件で、-40~150℃における動的粘弾性の温度分散を観測した。得られた結果から、樹脂組成物1~樹脂組成物7の、各温度における貯蔵弾性率(E’)を得た。
【0197】
7-2.貯蔵弾性率(E’)と、形状維持性および取り外し性との関係の検討
モールド1を構成する2つの型部材を、凹部が開口する面同士が密着するように貼り合わせて凹部を内部空間とし、注入孔から内部空間に再表2019/181477の実施例1dで使用した骨セメントの材料(混合物)を注入し、内部空間を隙間なく充填した。その後、1時間放置して、注入した樹脂を硬化させて樹脂成形体とした。2つの型部材を開放し、樹脂成形体が嵌まっている一方の型部材の温度を変化させて、型部材を変形させて成形品を型部材から取り外せるか否かを確認し、表2に示す基準で各温度における形状維持性および取り外し性を評価した。
【0198】
【0199】
樹脂組成物1についての、温度を変化させたときの当該温度における貯蔵弾性率(E’)(シート1により測定)と、当該温度における形状維持性および取り外し性の評価結果(モールド1により評価)を、表3に示す。
【0200】
【0201】
表3の結果から、樹脂組成物のある温度における貯蔵弾性率(E’)と、当該樹脂組成物から得られたモールドの当該温度における形状維持性および取り外し性との間には、表4に示す関係があることがわかった。
【0202】
【0203】
7-3.形状維持性および取り外し性の評価
「7-1」で得た、樹脂組成物1~樹脂組成物7の25℃における貯蔵弾性率(E’@25℃)および60℃における貯蔵弾性率(E’@60℃)をもとに、表5および表6に示す基準で、各樹脂組成物の形状維持性および取り外し性を評価した。
【0204】
【0205】
【0206】
樹脂組成物1~樹脂組成物7の組成、25℃における貯蔵弾性率(E’@25℃)および60℃における貯蔵弾性率(E’@60℃)、ならびに形状維持性および取り外し性の評価結果を、表7に示す。
【0207】