(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039356
(43)【公開日】2024-03-22
(54)【発明の名称】洗浄剤組成物及び成形原料
(51)【国際特許分類】
B29C 33/72 20060101AFI20240314BHJP
【FI】
B29C33/72
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022143850
(22)【出願日】2022-09-09
(71)【出願人】
【識別番号】390029218
【氏名又は名称】世紀株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123559
【弁理士】
【氏名又は名称】梶 俊和
(74)【代理人】
【識別番号】100177437
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 英子
(72)【発明者】
【氏名】加藤 朗
(72)【発明者】
【氏名】阪野 元
【テーマコード(参考)】
4F202
【Fターム(参考)】
4F202AA03
4F202AA13
4F202AA21
4F202AA24
4F202AA28
4F202AA29
4F202AM10
4F202AM13
4F202CA11
4F202CB01
4F202CK03
4F202CS02
(57)【要約】
【課題】ホットランナー方式の金型の内部の成形原料の置換を効率的に行うことができる洗浄剤組成物及び成形原料を提供すること。
【解決手段】熱可塑性樹脂100重量部と、フェニル基を有するポリシラン、フェニル基を有するシリコーン及びリン系の酸化防止剤から選択される少なくとも1種を含む安定剤0.2~10重量部と、脂肪酸エステル、又は、脂肪酸エステル及び脂肪族アルコールを含む添加剤0.5~20重量部と、を含有する、洗浄剤組成物。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂100重量部と、
フェニル基を有するポリシラン、フェニル基を有するシリコーン及びリン系の酸化防止剤から選択される少なくとも1種を含む安定剤0.2~10重量部と、
脂肪酸エステル、又は、脂肪酸エステル及び脂肪族アルコールを含む添加剤0.5~20重量部と、
を含有する、洗浄剤組成物。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂は、ポリオレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド系樹脂、及び、これらの樹脂の混合物から選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の洗浄剤組成物。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂は、ポリスチレン樹脂、AS樹脂を含むスチレン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、PMMAを含むアクリル樹脂、PETを含むポリエステル樹脂、環状ポリオレフィン樹脂及びポリスルフォン系樹脂、並びに、これらの樹脂の混合物から選択される少なくとも1種を含み、光透過率が30%以上の透明性又は半透明性を有する、請求項1に記載の洗浄剤組成物。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂が前記ポリカーボネート樹脂であるとき、金属塩を含む、請求項3に記載の洗浄剤組成物。
【請求項5】
前記フェニル基を有する前記ポリシラン又は前記フェニル基を有する前記シリコーンは、環状に結合したケイ素に前記フェニル基が結合している、請求項1に記載の洗浄剤組成物。
【請求項6】
前記リン系の前記酸化防止剤は、分子中にリン原子が2個存在するスピロ構造を有する、請求項1に記載の洗浄剤組成物。
【請求項7】
前記脂肪酸エステルは、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル及びプロピレングリコール脂肪酸エステルから選択される少なくとも1種を含み、
前記脂肪族アルコールは、炭素数が10以上である脂肪族アルコールを少なくとも1種含む、請求項1に記載の洗浄剤組成物。
【請求項8】
前記洗浄剤組成物は、ホットランナー方式の金型の内部の流路を洗浄するために用いられ、
前記流路に充填された第1の成形原料を、第2の成形原料で置換する場合に、
前記第1の成形原料、前記第2の成形原料、又は、前記第1の成形原料及び前記第2の成形原料の両方に添加して用いられる、請求項1に記載の洗浄剤組成物。
【請求項9】
請求項1から請求項8のうちのいずれか1項に記載の洗浄剤組成物と、
熱可塑性樹脂と、
を含有し、
ホットランナー方式の射出成形において原料として用いられる、成形原料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗浄剤組成物及び成形原料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プラスチックの射出成形の分野において、省資源、原価低減、環境設計上等の観点から、ホットランナー方式の成形(以下、ホットランナー成形ともいう。)を行う射出成形システムが用いられている。ホットランナー成形を行う射出成形システムでは、溶融された樹脂(以下、溶融樹脂という。)を金型の内部へ注入するための流路であるスプルーやランナー(以下、ホットランナー流路ともいう。)が固定金型の内部に位置している。ホットランナー流路は、樹脂が溶融された状態が維持されるように加熱されている。ホットランナー成形では、加熱された溶融樹脂が固定金型の射出口(以下、ゲートともいう。)から固定金型と可動金型との間に形成されるキャビティーへ直接注入される。可動金型には溶融樹脂のホットランナー流路となる空間は設けられておらず、コールドランナー方式では副次的に設けられていたような不要なスプルーやランナーは設けられない(例えば、特許文献1参照)。ホットランナー成形において成形原料を置換する際には、例えばパージ剤等が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ホットランナー流路にはスクリューが設けられておらず、高い剪断力を前提としたパージ剤による洗浄では、ホットランナー流路に残留した成形原料を効果的に排出することが難しい。また、ホットランナー流路の方向が変わる屈曲部や不均一な表面部では、成形原料の長時間滞留や表面付着が多く、焼けや黒点が成形品の表面に表出する場合が多い。ホットランナー流路は、成形終了後でも冷却が進まず、成形原料やパージ剤を含む樹脂が長時間高温に曝され滞留する。このため、次の成形開始時に、焼け、炭化による変色や黒点が発生し、質の良い成形品を得るまでに、多くのショットを要している。特に、透明、半透明の成形原料では、熱劣化による変色、黒点がわずかでも目立つことから、これらが目立たなくまるまでに更に多くの成形原料を必要とする。
【0005】
また、一般的に、パージ剤は洗浄する対象となる成形原料の種類に応じて使い分けられており、残留した成形原料をパージ剤で置換した後、パージ剤を次の成形原料で置換する工程が必要となり、少なくとも2回の置換工程が必要である。このようなことから、ホットランナー方式の金型の内部の成形原料の置換を効率的に行うことができる洗浄剤組成物及び成形原料を提供することが求められている。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、ホットランナー方式の金型の内部の成形原料の置換を効率的に行うことができる洗浄剤組成物及び成形原料を提供することを例示的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の例示的側面としての洗浄剤組成物は、以下の構成を有する。
【0008】
熱可塑性樹脂100重量部と、
フェニル基を有するポリシラン、フェニル基を有するシリコーン及びリン系の酸化防止剤から選択される少なくとも1種を含む安定剤0.2~10重量部と、
脂肪酸エステル、又は、脂肪酸エステル及び脂肪族アルコールを含む添加剤0.5~20重量部と、
を含有する、洗浄剤組成物。
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の例示的側面としての成形原料は、以下の構成を有する。
【0010】
上記の洗浄剤組成物と、
熱可塑性樹脂と、
を含有し、
ホットランナー方式の射出成形において原料として用いられる、成形原料。
【0011】
本発明の更なる目的又はその他の特徴は、以下添付図面を参照して説明される好ましい実施の形態によって明らかにされるであろう。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ホットランナー方式の金型の内部の成形原料の置換を効率的に行うことができる洗浄剤組成物及び成形原料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施形態1、2の射出成形システムの要部を示す概略断面図
【
図2】(a)~(g)実施形態2の射出成形試験を説明するための射出成形システムの要部を示す模式図
【
図3】実施形態2の射出成形試験の実施例1~8及び比較例9~15を示す表
【
図4】実施形態2の射出成形試験の実施例16~23及び比較例24~30を示す表
【
図5】(a-1)(a-2)実施形態1、2の洗浄剤組成物を用いた場合の試験片を示す図及び説明のための模式図、(b-1)~(c-2)実施形態1、2の洗浄剤組成物を用いなかった場合の試験片を示す図及び説明のための模式図
【発明を実施するための形態】
【0014】
<一般的な置換について>
ホットランナー成形において、成形原料の種類や色等を変更する場合、ホットランナー流路の内部に残留した成形原料を、別の成形原料に入れ換える(以下、置換するという。)必要がある。ここで、ホットランナー流路の内部に残留した成形原料とは、色を変更する前又は成形原料を置換する前の成形原料であり、別の成形原料とは、色を変更した後又は成形原料を置換した後の成形原料である。一般的に、内部に残留した成形原料を排出させるために、ホットランナー流路に投入する洗浄剤組成物として、パージ剤が用いられる。パージ剤は、スクリューを備えたシリンダーを有する成形機においてシリンダーの内部に残留した成形原料を排出させることを目的として設計されており、スクリューの回転による高い剪断力を用いて残留した成形原料を排出させるものが多い。このため、一般的なパージ剤では、スクリューを有さない空間であるホットランナー流路に残留した成形原料を効果的に排出することが難しい。
【0015】
また、一般的に、パージ剤は洗浄する対象の成形原料の種類に応じて使い分けられている。パージ剤を使用してホットランナー流路の内部の成形原料を排出させた後、ホットランナー流路の内部を次の成形原料で充填させる場合、更に別のパージ剤が必要になる場合がある。すなわち、従来のパージ剤を使用して洗浄する場合、残留した成形原料をパージ剤で置換した後、さらにパージ剤を次の成形原料で置換することになり、少なくとも2回の置換操作が必要である。
【0016】
また、ホットランナー式の金型はスクリューを有しておらず、ホットランナー流路内ではスクリューの回転による高い剪断力が働かない。このため、ホットランナー流路の方向が変わる屈曲部や、ホットランナー流路の表面粗さ(面粗度)の不均一等によって樹脂の長時間の滞留やホットランナー流路の表面への付着が多く、成形中に焼けや黒点が成形品の表面に表出する場合が多い。ここで、成形品とは、射出成形によって作製される製品のことをいう。特に成形終了後、ホットランナー流路に滞留している樹脂やパージ剤を使って成形原料を置換した後でも、冷却が進まないホットランナー流路内では、長時間、成形原料やパージ剤を含む樹脂が高温に曝され滞留する。そして、次の成形を開始するときに、焼け、炭化による変色や黒点が発生し、質の良い成形品を得るまでに、多くのショットを要している。特に、透明、半透明の成形原料では、熱劣化による変色、黒点がわずかでも目立つことから、これらが目立たなくなるまでに、更に多くのショットを必要とする。
【0017】
[実施形態1]
以下、本発明の実施形態1の洗浄剤組成物について説明する。実施形態1の洗浄剤組成物は、熱可塑性樹脂、安定剤、添加剤を含有する。詳細には、熱可塑性樹脂100重量部と、フェニル基を有するポリシラン、フェニル基を有するシリコーン及びリン系の酸化防止剤から選択される1種以上の安定剤0.2~10重量部と、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、及びプロピレングリコール脂肪酸エステルから選択される1種以上の脂肪酸エステル及び/又は炭素数が10以上の脂肪族アルコール1種以上の添加剤を0.5~20重量部と、を含有する洗浄剤組成物である。
【0018】
実施形態1の洗浄剤組成物は、使用に際して、射出成形によって作製される製品の成形原料に含有させることができる。洗浄剤組成物は、成形原料中に混合、分散させることで、成形原料の排出を容易にすることができる。すなわち、実施形態1の洗浄剤組成物は、成形原料の置換性能を向上させるためのマスターバッチとして、成形原料に添加することができる。
【0019】
このように洗浄剤組成物をマスターバッチとして成形原料へ添加することにより、成形原料の置換のために別途パージ剤を使用しなくても置換が可能となる。そのため、置換前の成形原料をパージ剤で置換する工程、及び、パージ剤を置換後の成形原料で置換する工程が不要となり、置換のための工程数を減らすことができる。さらに、成形原料の種類等の条件によっては、成形原料の置換を短時間で行うことができる。なお、実施形態1の洗浄剤組成物は、置換前の成形原料に添加してもよいし、置換後の成形原料に添加してもよいし、置換前及び置換後の両方の成形原料に添加してもよい。
【0020】
さらに、実施形態1の洗浄剤組成物をマスターバッチとして成形原料に添加して成形原料の置換を進めることにより、置換終了から次の成形原料の工程までに長時間を要し、洗浄剤組成物を含有する成形原料が長時間滞留した場合でも、次のような効果がある。すなわち、熱安定性に優れる洗浄剤組成物では、劣化による変質が抑えられ、長時間が経過した後に成形が再開される場合においても、炭化などによる黒点、変色の発生がほとんどなく、効率よく成形を続けることができる。
【0021】
<安定剤>
実施形態1の洗浄剤組成物は、後述する熱可塑性樹脂100重量部に対して、0.2~10重量部の安定剤を含有する。安定剤は、例えば、フェニル基を有する原料、例えばフェニル基を有するポリシラン、フェニル基を有するシリコーン、及び、リン系の酸化防止剤から、1種以上選択されてよい。なお、フェニル基を有するポリシラン、フェニル基を有するシリコーン等については後述する。
【0022】
ここで、ホットランナー成形時における熱安定性を考慮した酸化防止剤等は、一般的な成形原料に予め添加されている。しかし、熱安定性を考慮した酸化防止剤等を成形原料に添加することによって、成形品の熱的性能、機械的性能が低下してしまう。このため、成形原料に含まれる安定剤の添加量は低くすることが好ましい。例えば、一般的な成形原料に含まれる安定剤の量は、成形原料の熱可塑性樹脂を100重量部とすると0.05~0.1重量部が一般的である。また、成形原料には、他の安定剤、例えば、紫外線吸収剤等の耐候性改良剤も同時に添加されている場合も多い。この場合、成形原料の最終性能に影響を与えないようにするために、酸化防止剤等は添加されていないか、又は、添加量は更に低いレベルになっている。ここで、熱的性能とは、例えば、成形品が熱により変形(以下、熱変形という。)する温度等で表される性能をいい、機械的性能とは、例えば、剛性等で表される性能をいう。耐候性とは、太陽光や雨等の天候がもたらす要因に対する耐久性をいう。
【0023】
耐候性改良剤の添加量が低レベルである場合、厳しい条件下での成形や、長時間にわたる成形原料の滞留後の成形、成形終了後例えば翌日又は更に数日後の成形開始まで等、通常の成形現場で発生する状況への対応ができない場合がある。この場合、変色や炭化による黒点の発生などが抑えられない。しかし、実施形態1の洗浄剤組成物は、洗浄による置換と、洗浄剤組成物への安定剤の適量な投入によって、成形原料を速やかに置換し、置換後の放置や滞留に対しても成形原料の劣化を抑制できる。
【0024】
<熱可塑性樹脂>
洗浄剤組成物に含有される熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリスルフォン樹脂、及び、これらの樹脂の混合物から選択される少なくとも1種の熱可塑性樹脂を用いることができる。なお、実施形態1では、熱可塑性樹脂100重量部として、他の原料の配合量を規定する。
【0025】
ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、及び、これらの混合物を挙げることができる。ポリエチレンは、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン等であってもよい。ポリプロピレンは、ホモ重合、ブロック共重合、ランダム共重合であってもよい。また、ポリオレフィン系樹脂は、エチレン・プロピレンゴム(EPM)、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)等のゴムが混合されたエラストマーであってもよい。更には、ポリオレフィン系樹脂は、分岐が長い、ポリメチルペンテン-1のようなポリオレフィンも剥離性が良好、かつ、透明であるため、透明性を有する樹脂の置換には有効である。
【0026】
スチレン系樹脂としては、ポリスチレン、ゴムを含有するポリスチレン、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS)、スチレン系エラストマー等を挙げることができる。ゴムを含有するポリスチレンとしては、例えば、ハイインパクトポリスチレン、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体(SBS)やスチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体(SIS)等のエラストマーを含有するポリスチレンを挙げることができる。
【0027】
ポリカーボネート樹脂としては、ポリカーボネート(PC)や、ポリカーボネートとABS、ポリエステル樹脂等とを含有するポリマーアロイ等をあげることができる。
【0028】
ポリエステル樹脂としては、PMMA(Poly methyl methacrylate:ポリメチルメタクリレート樹脂)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、エラストマーを含有する強化ポリエステル樹脂液晶ポリマー、ポリエステルエラストマー等を挙げることができる。
【0029】
ポリアミド系樹脂としては、ポリアミド6(PA6)、ポリアミド66(PA66)、ポリアミド12(PA12)等を挙げることができる。ポリアミド系樹脂としては、ポリアミドとABS等とのポリマーアロイであってもよい。
【0030】
ポリスルフォン樹脂としては、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリフェニルスルフォン等の分子中にスルフォニル基を含む、ポリマーを挙げることができる。
【0031】
<透明、半透明の熱可塑性樹脂>
特に、実施形態1においては、ポリスチレン樹脂、AS樹脂、MS(メタアクリル-スチレン)樹脂等のスチレン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、PMMA、PET等のポリエステル樹脂、環状ポリオレフィン樹脂、4-メチルペンテン-1をベースとしたオレフィン共重合体及びポリスルフォン系樹脂、並びに、これらの樹脂の混合物から選択される少なくとも1種の透明性又は半透明性を有する熱可塑性樹脂を用いることができる。透明性又は半透明性を有する熱可塑性樹脂は、例えば、光透過率が30%以上の樹脂である。
【0032】
ポリスチレン樹脂としては、いわゆるGPPSと称されるポリオスチレンホモポリマー、MMA(Methyl methacrylate:メチルメタクリレートモノマー)とスチレンとの共重合体である、MS樹脂、アクリロニトリルとスチレンとの共重合体であるAS樹脂などが挙げられる。
【0033】
ポリエステル樹脂としては、ポリカーボネート樹脂、及び、PET、PMMA及びポリカーボネートとPET、PBT等のポリエステル樹脂同士の混合物を挙げることができる。
【0034】
環状オレフィン樹脂としては、シクロペンタジエン、シクロヘキサジエン等の環状オレフィンを含む透明樹脂が挙げられる。更に、4-メチルペンテン-1を主成分とするオレフィン共重合体を挙げることができる。
【0035】
ポリスルフォン樹脂としては、スルフォニル基を有する、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォンが挙げられる。
【0036】
これらの熱可塑性樹脂としては、成形原料の主材としての熱可塑性樹脂(以下、成形原料熱可塑性樹脂という。)との間で相溶性を有し、かつ、屈折率が近い熱可塑性樹脂であることが好ましい。ここで、「相溶性を有する」とは、洗浄剤組成物を含有する第1の成形原料と第2の成形原料とが、後述する流路F内で合わさった場合に、第1の成形原料に含有された洗浄剤組成物が第2の成形原料と効率よく混合し、第2の成形原料が充填されていた領域へ洗浄剤組成物又は第1の成形原料が侵入し易いことを意味する。すなわち、置換前の成形原料に含有される洗浄剤組成物が、置換後の成形原料(又はその主材である成形原料熱可塑性樹脂)との間で相溶性を有するということは、置換前の成形原料による置換後の成形原料の置換が効率よく進行することを意味する。
【0037】
また、屈折率に関しては、特に透明性の高い(すなわち透明な)成形原料を置換する場合に重要であり、成形原料と同一、又は、近しい屈折率を有する熱可塑性樹脂が好ましい。
【0038】
具体的に、相溶性を有する樹脂同士としては、化学的・物理的に類似した特性を有する樹脂同士を挙げることができる。例えば、同様の化学構造を有する樹脂同士である場合、その化学的特性・物理的特性が類似していることが多く、一般的に相溶性を有する樹脂同士であるといえる。化学的特性・物理的特性としては、例えば、熱可塑性、親水性・疎水性、静電的特性、誘電性、凝集力に基づく溶解パラメータ(SP)値、流動性等を挙げることができる。
【0039】
洗浄剤組成物は、置換前の成形原料、置換後の成形原料、又は、置換前及び置換後の成形原料の両方に含有されていてもよい。そのため、置換前の成形原料に含有される洗浄剤組成物の熱可塑性樹脂は置換後の成形原料の成形原料熱可塑性樹脂と、置換後の成形原料に含有される洗浄剤組成物の熱可塑性樹脂は置換前の成形原料の成形原料熱可塑性樹脂と、それぞれ相溶性を有していることが好ましい。また、置換前又は置換後の成形原料の一方にのみ洗浄剤組成物が含有されている場合には、熱可塑性樹脂は、置換前又は置換後の成形原料の他方の成形原料熱可塑性樹脂と相溶性を有していることが好ましい。
【0040】
<熱可塑性樹脂の形状>
熱可塑性樹脂の形状は、いわゆるペレット状、ビーズ状、又はパウダー状、いずれでもよい。特に、パウダー状の場合は、実施形態1の添加剤がほとんどパウダー状又はビーズ状であることから、ペレット状の形状に比べ、混合時の偏在や分散不良が少なく、またペレット状の原料と均一に混合するためのコンパウンド工程も必要としないので、有利である。
【0041】
また、ほとんどのパウダー状又はビーズ状の熱可塑性樹脂は、重合反応後に取り出された製品であり、一般には、このパウダー状又はビーズ状の製品を押し出し機などでペレット化して成形原料として用いる。したがって、押し出し機による熱履歴がない分、熱安定性に関しても優れている。
【0042】
<フェニル基を含有するポリシラン(安定剤)>
ポリシランはSi-Si結合を有する直鎖状、環状、分岐状の化合物であるが、以下のように分子中にフェニル基を有するフェニル基含有ポリシランである。フェニル基の結合量は特に限定しない。例えば、フェニル基が10個結合した環状ポリシラン(大阪ガスケミカル社製 SI-30-10)等を挙げることができる。以下、フェニルシリコーンとデカフェニルシランを示す。
【0043】
【0044】
<フェニル基を含有するシリコーン(安定剤)>
シリコーンは、以下の構造を有するシロキサン結合を有する高分子の総称であるが、側鎖にフェニル基がある化合物が好ましく、シロキサン結合が3000以上で固体状のものが好ましい。
【0045】
【0046】
リン系の酸化防止剤(安定剤)としては、トリスノニルフェニルフォスファイト(TNP)やジステアリルペンタエリスリトールジフォスファイト、テトラキス(2,4-ジブチルフェニル)-4.4-ビスフェニレンージ-フォスファイトなどが挙げられる。中でもテトラビス(2,4-ジブチルフェニル)-4,4-ビスフェニレンージ-フォスファイトのように、分子中にリン原子が2個存在するスピロ構造を有する化合物が好ましい。
【0047】
以下にスピロ構造を有するリン系の酸化防止剤の構造を示す。
【化3】
【0048】
<グリセリン脂肪酸エステル(添加剤)>
グリセリン脂肪酸エステルは、3価のアルコールであるグリセリンと、脂肪酸と、がエステル結合により結合した化合物である。下記式(I)~(III)に示すように、グリセリンとエステル結合を形成する脂肪酸の数により、グリセリン脂肪酸エステルは、モノグリセリド(式(I):モノエステル)、ジグリセリド(式(II):ジエステル)、又はトリグリセリド(式(III):トリエステル)となり得る。
【0049】
CH2OCOR1
|
CHOH 式(I)
|
CH2OH
式(I)中、R1は、炭化水素基である。
【0050】
CH2OCOR2
|
CHOH 式(II)
|
CH2OCOR3
式(II)中、R2及びR3は、それぞれ独立の炭化水素基である。
【0051】
CH2OCOR4
|
CHOCOR5 式(III)
|
CH2OCOR6
式(III)中、R4~R6は、それぞれ独立の炭化水素基である。
【0052】
脂肪酸について、R1~R6で表される炭化水素基の炭素数は、特に制限されないが、それぞれ独立に、16以上であることが好ましい。脂肪酸は、二重結合を有さない飽和型の脂肪酸であることが好ましく、また、分岐鎖を有さない直鎖型の脂肪酸であることが好ましい。このような脂肪酸としては、例えば、ステアリン酸(炭素数18)、ベヘン酸(炭素数22)、モンタン酸(炭素数32)等を挙げることができる。このような脂肪酸は、熱安定性や滑性が良好である。
【0053】
グリセリン脂肪酸エステルの溶融温度は、60℃以上であることが好ましい。実施形態1におけるグリセリン脂肪酸エステルとして、常温で液体、又は、60℃未満の低温で溶融するようなものは好ましくない。
【0054】
<ポリグリセリン脂肪酸エステル(添加剤)>
ポリグリセリン脂肪酸エステルは、ポリグリセリンと脂肪酸のエステル化生成物である。ポリグリセリンの重合度やエステル化率を変化させることによって、ポリグリセリン脂肪酸エステルの性質を親水性から疎水性まで適宜変化させることができる。ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、例えば、重合度2のジグリセリン脂肪酸エステルから、重合度10のデカグリセリン脂肪酸エステルを挙げることができる。
【0055】
<ソルビタン脂肪酸エステル(添加剤)>
ソルビタン脂肪酸エステルは、4個の水酸基を有するソルビタンと、脂肪酸と、がエステル結合により結合した化合物である。脂肪酸としては、上述のグリセリン脂肪酸エステルの脂肪酸として挙げたものと同様の脂肪酸を用いることができる。ソルビタン脂肪酸エステルとしては、具体的には、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリステアレート等を用いることができる。
【0056】
ソルビタン脂肪酸エステルの溶融温度は、60℃以上であることが好ましい。実施形態1におけるソルビタン脂肪酸エステルとして、常温で液体、又は、60℃未満の低温で溶融するようなものは好ましくない。
【0057】
<ペンタエリスリトール脂肪酸エステル(添加剤)>
ペンタエリスリトール脂肪酸エステルは4価のアルコールペンタエリスリトールと脂肪酸のエステルで、ステアリン酸とのエステルであるペンタエリスリトールモノステアリン酸エステル、ペンタエリスリトールジステアリン酸エステル等を上げることができる。
【0058】
<プロピレングリコール脂肪酸エステル(添加剤)>
プロピレングリコール脂肪酸エステルは水酸基を2個有しており、モノエステルとジエステルが存在するが、下記式(IV)のモノエステルが好ましい。特に脂肪酸の炭素数が多い、ベヘン酸とのエステルが好ましい。
【0059】
CH3
|
CHOH 式(IV)
|
CH2OCR
【0060】
<高級アルコール脂肪酸エステル(添加剤)>
高級アルコール脂肪酸エステルは、炭素数が通常8以上の脂肪族アルコールと脂肪酸のエステルであり、炭素数が18のステアリルステアレート、炭素数が22のステアリルベヘネートが、融点、熱分解性の観点から好ましい。
【0061】
洗浄剤組成物中、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、及び、高級アルコール脂肪酸エステルは、それぞれ単独で用いることができるし、併用することもできる。また、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、及び、高級アルコール脂肪酸エステルは、それぞれ複数種、併用されていてもよい。グリセリン脂肪酸エステルとポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールエステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、及び、高級アルコール脂肪酸エステルとの比は、特に制限されない。
【0062】
上述した、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル及び、高級アルコール脂肪酸エステルの脂肪酸はグリセリン脂肪酸エステルの場合と同じく炭素数16以上が好ましく、特に炭素数18のステアリン酸、炭素数22のベヘン酸が熱安定性上好ましい。
【0063】
<脂肪族アルコール(添加剤)>
脂肪族アルコールは高級アルコールとも呼ばれ、一般には炭素数8(エチルヘキサノール)~34で、脂肪酸エステルの水素化で通常製造される実施形態1における脂肪族アルコールとしては、炭素数が10以上のものが好ましい。特に炭素数が12以上のデシルアルコール、炭素数が14のミリスチールアルコール、18のステアリルアルコールが特に好ましい。
【0064】
<その他の添加剤>
洗浄剤組成物には、上述した各構成成分以外に、添加剤が含有されていてもよい。例えば、可塑剤、分散剤、着色剤、充填剤、強化繊維、造核剤等の各種成分が洗浄剤組成物に含有されていてもよい。特に、可塑剤は、ベース樹脂の粘度の調整も可能にし、良好な結果を示す場合が多い。可塑剤としては、熱安定性に優れる、トリメリット酸エステルやポリカーボネートとの屈折率近い、アセチルクエン酸トリブチル等が好ましい例として挙げられる。
【0065】
<配合割合>
洗浄剤組成物中、フェニル基を有するポリシラン、フェニル基を有するシリコーン、及び、リン系の酸化防止剤から選択される1種以上の安定剤の配合割合は、熱可塑性樹脂100重量部に対して0.2~10重量部である。安定剤の配合割合は、熱可塑性樹脂100重量部に対して、0.2~8重量部がより好ましく、0.3~5重量部が更に好ましい。このように、配合割合を0.2~10重量部とすることにより、滞留時の分解などによる樹脂の変色、炭化を防止することができる。安定剤の配合割合を10重量部以下とすることにより、後述する固定金型1へと成形原料を供給する射出成形機200のシリンダー3内で、成形原料の滑りが発生し、計量が難しくなることを抑制することができる。また、安定剤の配合割合を10重量部以下とすることにより、ホットランナー流路内へ成形原料を一定に供給することが困難になることを抑制することができる。これによりホットランナー流路内で樹脂が滞留しても、変色や焼け、炭化といった現象を低減することができ、成形原料が長時間滞留した後、次の成形原料へ置換する際にも円滑に置換を実施することができる。
【0066】
洗浄剤組成物中、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、及び、高級アルコール脂肪酸エステルから選択される1種以上の脂肪酸エステルの配合割合は、次のようになる。すなわち、脂肪酸エステルの配合割合は、熱可塑性樹脂100重量部に対して0.5~20重量部であり、1~15重量部であることがより好ましく、1.5~12重量部であることが更に好ましい。脂肪酸エステルの配合割合を1重量部以上とすることにより、良好な置換効果を維持することができる。脂肪酸エステルの配合割合を20重量部以下とすることにより、後述する固定金型1へと成形原料を供給する射出成形機200のシリンダー3内で、成形原料の滑りが発生し、計量が難しくなることを抑制することができる。また、脂肪酸エステルの配合割合を20重量部以下とすることにより、ホットランナー流路内へ成形原料を一定に供給することが困難になることを抑制することができる。これにより、ホットランナー流路内の成形原料の置換を効率よく行うとともに、安定剤による変色、炭化等、高温における酸化劣化を防ぐことができる。
【0067】
以上、実施形態1によれば、ホットランナー方式の金型の内部の成形原料の置換を効率的に行うことができる洗浄剤組成物及び成形原料を提供することができる。
【0068】
[実施形態2]
以下、実施形態2の成形原料について説明する。実施形態2の成形原料は、成形原料の主材としての成形原料熱可塑性樹脂と、上述の実施形態1の洗浄剤組成物と、を含有する。すなわち、実施形態2の成形原料は、成形原料の主材としての成形原料熱可塑性樹脂に、実施形態1の洗浄剤組成物が添加されたものである。
【0069】
成形原料熱可塑性樹脂としては、特に制限されないが、例えば、ポリプロピレン樹脂(PP樹脂)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合合成樹脂(ABS樹脂)、ポリカーボネート樹脂(PC樹脂)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等の飽和ポリエステル樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のアクリル樹脂、ポリアミド6(PA6)、ポリアミド12(PA12)等のポリアミド樹脂、スチレン・エチレン・ブチレン・スチレン(SEBS)樹脂、スチレン・ブチレン・スチレン(SBS)樹脂、オレフィン系樹脂等の熱可塑性エラストマー等を挙げることができる。
【0070】
成形原料中、洗浄剤組成物の添加割合は、後述する射出成形機200が備えるホッパー5の下部において成形原料の滑りが発生しないような添加割合であることが好ましい。洗浄剤組成物の添加割合としては、具体的には、成形原料熱可塑性樹脂100重量部に対して、10~60重量部であることが好ましく、10~50重量部であることが更に好ましく、15~40重量部であることが特に好ましい。なお、洗浄剤組成物の添加割合は、金型の形状や、後述する射出成形機200、固定金型1の流路Fの構造に応じて適宜変更することができる。
【0071】
成形原料には、成形原料熱可塑性樹脂及び実施形態1の洗浄剤組成物以外に、添加剤が含有されていてもよい。例えば、酸化防止剤、可塑剤、分散剤、着色剤、充填剤、強化繊維、造核剤等の各種成分が成形原料に含有されていてもよい。
【0072】
通常の成形原料熱可塑性樹脂には、酸化防止剤、分散剤等が添加されているが、これらは、長時間の滞留による炭化や黒点を配慮しているものではない。通常の成形原料熱可塑性樹脂は、むしろ紫外線防止剤等と併用して、樹脂製品の耐候性の向上を目的として、微量(例えば0.05~0.2%)添加されている。ここで、0.05~0.2%は、成形原料を100%としたときの割合である。このような添加量では、長時間の滞留による劣化に対して効果を発揮しない。また、このような酸化防止剤を成形原料に多く添加すると、樹脂製品の耐熱性や剛性が低下し、目的とする性能を有する樹脂製品を得ることができない。
【0073】
<射出成形システムの構成>
図1は、ホットランナー方式の射出成形システム100の一例を示す要部断面図であり、上下方向も示す。射出成形システム100は、射出成形機200、金型300を備えている。金型300は、固定金型1、可動金型2を有している。
【0074】
固定金型1は、スプルーブッシュ11、マニホールド12、プローブボディ13、ゲート14、バルブピン15、取付け板21、スペーサブロック22、バックプレート23、キャビティプレート24、を有している。スプルーブッシュ11、マニホールド12、プローブボディ13には、ホットランナー流路F(以下、流路Fとする。)が設けられている。可動金型2には、キャビティー25が設けられている。
【0075】
射出成形機200は、シリンダー3、スクリュー4、ホッパー5、ヒーター6を有しており、シリンダー3の先端にはノズル部31を有している。ホッパー5から投入された例えばペレット状の成形原料は、シリンダー3内のスクリュー4の回転によってノズル部31へと移動する際に、ヒーター6の熱によって徐々に溶融する。なお、
図1に示した射出成形システム100の構成は一例であり、各部材の位置、個数、形状等はこれらに限定されない。
【0076】
実施形態2の成形原料は、
図1に示すようなホットランナー方式の固定金型1を用いた射出成形に用いることができる。固定金型1は、射出成形機200から供給された成形原料を取り込み、成形原料を加温された流路F内に流通させ、ゲート14から可動金型2のキャビティー25内へ射出することにより、成形体(成形品)を作製する。
【0077】
固定金型1の内部に形成された流路Fは、その内部の成形原料が良好に流通できるよう加温されている。ホットランナー方式の固定金型1は、ホットハーフとも呼ばれる。射出成形機200においては、成形原料の主材としての成形原料熱可塑性樹脂と、洗浄剤組成物と、必要であればその他の添加剤と、が混合・混練され、成形原料が調製される。射出成形機200から供給される成形原料を変更することで、射出成形品の材料、すなわち、射出成形品の特性や色等を変更することができる。
【0078】
固定金型1の流路Fは、スプルーブッシュ11と、マニホールド12と、プローブボディ13と、の各中空部材の中空部分によって形成されている。すなわち、射出成形機200から射出された成形原料は、スプルーブッシュ11の流路F(中空部分)へ供給される。次いで、成形原料は、スプルーブッシュ11内の流路Fを流通し、スプルーブッシュ11の中空部分と連通されたマニホールド12の中空部分である流路Fへと流入する。次いで、成形原料は、マニホールド12内の流路Fを流通し、マニホールド12の中空部分と連通されたプローブボディ13の中空部分である流路Fへと流入する。次いで、成形原料は、プローブボディ13内の流路Fを流通し、ゲート14から射出される。スプルーブッシュ11、マニホールド12及びプローブボディ13は加温されているため、成形原料は、所定の溶融状態を維持したまま、流路F内を流通することができる。
【0079】
スプルーブッシュ11、マニホールド12及びプローブボディ13は、取付け板21、スペーサブロック22、バックプレート23、キャビティプレート24によって固定されている。
【0080】
ゲート14は、バルブピン15によって封止することができる。バルブピン15は、
図1中、上下方向に可動であり、最下部に位置している場合に、ゲート14を封止する構成となっている。バルブピン15が、
図1中の上方へ移動すると、ゲート14が開き、成形原料を射出することができる。
【0081】
可動金型2は、位置が固定された固定金型1に対して、少なくとも、固定金型1と当接した状態と、固定金型1から離間した状態との間で、その位置を変更することができる。可動金型2は、固定金型1から成形原料が射出されるゲート14側に、可動に配置されている。可動金型2にはキャビティー25が形成されている。可動金型2は、当接状態において、キャビティー25が、固定金型1のゲート14部に配置されるよう構成されている。すなわち、固定金型1と可動金型2とが当接した状態において、固定金型1から射出された成形原料は、可動金型2に形成されたキャビティー25内へ侵入するよう構成されている。ホットランナー方式において、可動金型2はコールドハーフとも呼ばれる。
【0082】
以上のような構成により、固定金型1は、目的とする成形品の形状に対応した可動金型2のキャビティー25内に直接成形原料を射出することができる。そのため、固定金型1を用いることによって、ホットランナー方式ではない従来の成形方式(コールドランナー方式)において必要であったスプルーやランナーが必要ない。そのため、固定金型1を用いることによって、スプルーやランナーを有さない成形品を射出成形することができる。
【0083】
<射出成形試験について>
射出成形システム100を用いて、後述する実施例等で射出成形試験を行う場合の工程について説明する。
図2は、射出成形試験を説明するための射出成形システム100の要部を示す模式図であり、射出成形システム100は
図1を右に90度回転した状態で説明する。すなわち、
図1の上下方向は
図2の左右方向となる。
【0084】
図2(a)は、第1の成形原料を用いて射出成形システム100により通常の成形を行っている様子を示す図である。ここで、「●」は第1の成形原料を示す。ここで、第1の成形原料は着色された原料であり、例えばブルー色のポリカーボネート(以下、PCとする。)等である。
【0085】
図2(b)は、洗浄剤組成物により射出成形機200の内部が洗浄される様子を示す図である。
図2(b)では、第1の成形原料を用いた成形が終了した後、第1の成形原料とは色が異なる第2の成形原料に切り替えるため(置換するため)、射出成形機200を固定金型1から離間させて(右側に後退させて)、射出成形機200に第2の成形原料及び洗浄剤組成物を投入している。ここで、「○」は第2の成形原料を示し、「▲」は洗浄剤組成物を示す。なお、置換が完了したか否かは例えば目視により判断される。
【0086】
なお、第2の成形原料は、例えば、透明色のPC等である。また、洗浄剤組成物は、第2の成形原料及び洗浄剤組成物を100%としたとき、所定の割合X%、例えば40%の割合になるように添加される。これにより、射出成形機200内部が洗浄される。なお、固定金型1の流路Fには、第1の成形原料が残留した状態である。
【0087】
図2(c)は、洗浄剤組成物及び第2の成形材料により固定金型1内の流路Fが洗浄(置換)される様子を示す図である。
図2(c)では、固定金型1の流路Fを洗浄するために、射出成形機200を固定金型1に当接させて(左側に前進させて)、固定金型1の流路Fに射出成形機200のノズル部31を接触させて、第2の成形原料及び洗浄剤組成物により流路Fを洗浄する。
図2(c)で図示を省略した左側では、成形品が成形されており、固定金型1の流路F中に残留していた第1の成形原料は消費され、流路Fには第2の成形原料及び洗浄剤組成物が供給されていく。すなわち、第1の成形原料から第2の成形原料及び洗浄剤組成物に置換されていく。なお、置換が完了したか否かは例えば目視により判断される。
【0088】
図2(d)は、実際の工場等で所定日の最後に流路Fの洗浄が行われ、翌日に成形が行われるようなケースを想定し、所定時間放置する様子を示す図である。射出成形機200を固定金型1から離間させて(右側に後退させて)、射出成形機200及び固定金型1を加熱していたヒーター(不図示)用の電源(不図示)を「オフ」にし、この状態で所定時間、例えば、16時間放置する。
図2(d)では、射出成形機200、及び、固定金型1の流路F内に、第2の成形原料及び洗浄剤組成物が滞留した状態である。
【0089】
図2(e)は、射出成形機200内に滞留した(16時間放置された)第2の成形原料及び洗浄剤組成物を、新たな第2の成形原料及び洗浄剤組成物を用いて洗浄(置換)する様子を示す図である。射出成形機200内に滞留していた、16時間放置された第2の成形原料及び洗浄剤組成物が、新たな第2の成形原料及び洗浄剤組成物で置換される。なお、置換が完了したか否かは例えば目視により判断される。固定金型1の流路F内には、16時間放置された第2の成形原料及び洗浄剤組成物が滞留した状態である。
【0090】
図2(f)は、固定金型1の流路F内が洗浄される様子を示す図である。
図2(f)では、新たな第2の成形原料及び洗浄剤組成物が充填された射出成形機200を固定金型1に当接させて(左側に前進させて)、固定金型1の流路Fに射出成形機200のノズル部31を接触させて、新たな第2の成形原料及び洗浄剤組成物により流路Fを洗浄する。このとき、
図2(f)で図示を省略した左側では、成形品が成形されるが、
図2(d)の状態で所定時間(例えば、16時間)放置されているため、例えば劣化により炭化することで、本来透明色であるべき成形品の中に、黒点が現れることがあり、黒点が視認できなくなる(消滅する)までに成形された成形品は製品にはならない。射出成形機200から新たな第2の成形原料及び洗浄剤組成物が固定金型1の流路Fに供給されると、流路F内に滞留していた16時間放置された第2の成形原料及び洗浄剤組成物は置換されていく。成形品に黒点等が見られなくなったら、射出成形機200に第2の成形原料のみが供給される。なお、置換が完了したか否かは例えば目視により判断される。
【0091】
図2(g)は、射出成形機200及び流路Fともに、第2の成形原料に置換された状態を示す。この後、黒点等がない成形品が作製される。
【0092】
以下の実施例等では、上述した射出成形試験を行い、流路F内を洗浄して
図2(c)や
図2(f)の状態となり成形を開始して、成形品に黒点がなくなるまでにカウントされたショット数(以下、成形ショット数ともいう。)を記録する。なお、射出成形試験により成形された成形品を、以下、試験片という。試験片は、例えば、横238mm×縦100mm×厚み2mmである。
【0093】
<実施例及び比較例>
以下、実施例を用いて、更に具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
図3は、実施例1~8及び比較例9~15の射出成形試験の配合割合及び結果を示す表である。
図3の表には、実施例1~8及び比較例9~15に用いた洗浄剤組成物と従来の洗浄剤に用いた具体的な原料名とそれぞれの配合割合を示している。さらに、
図3の表には、射出成形試験の結果も示している。
【0094】
図3に示す配合組成の洗浄剤組成物を用いて調製された成形原料について、
図1に示す射出成形システム100を使用して
図2で説明した射出成形試験を行った。具体的には、実施例1~8では、本発明の洗浄剤組成物を含有しない、着色された成形原料(置換前の成形原料(第1の成形原料))で充填された流路Fが、本発明の洗浄剤組成物を含有する透明性の別成形原料(置換後の成形原料(第2の成形原料))で置換されるまでの射出量(ショット数)を調べた。
【0095】
更に、滞留による黒点の発生を確認するために、置換後、洗浄剤組成物を含有する透明性の成形原料(第2の成形原料)で充填された状態になっている固定金型1の流路Fと射出成形機200のヒーターをオフにし、16時間放置した。その後、射出成形機200及び固定金型1のヒーターをオンにして、射出成形機200のスクリュー4を回転させて一般の洗浄剤を添加し、スクリュー4の剪断力で射出成形機200内を洗浄した後に、再度、
図3に示す配合割合の洗浄剤組成物と透明性の成形原料(第2の成形原料)で、固定金型1内の流路Fに滞留している洗浄剤組成物の置換を実施した。そして、試験片における黒点の状態(数)と黒点、変色がなくなるまでの射出量(ショット数)を調べた。
【0096】
(実施例1)
実施例1の洗浄剤組成物は、熱可塑性樹脂、安定剤、添加剤を含有している。具体的には、
図3に示すように、熱可塑性樹脂にはポリカーボネート(PC)樹脂を用いた。安定剤には、リン系酸化防止剤とシラン系安定剤を用いた。ポリカーボネート(PC)100重量部に対し、リン系酸化防止剤(ADEKA社製 PEP-36)2重量部とシラン系安定剤(大阪ガスケミカル社製SI-30-10)0.3重量部、合計2.3重量部を用いた。添加剤には、脂肪酸エステルを用いた。脂肪酸エステルとして、グリセリン脂肪酸エステル1重量部とソルビタン脂肪酸エステル0.5重量部、合計1.5重量部を用いた。実施例1では、上述したように、熱可塑性樹脂100重量部、安定剤2.3重量部、添加剤1.5重量部を含有する洗浄剤組成物を用いた。成形条件、金型、材料等の諸条件は、以下に示すとおりである。
【0097】
[成形原料]:
置換前の成形原料熱可塑性樹脂(第1の成形原料):
ポリカーボネート樹脂(PC)(帝人社製の「パンライトL-1225L」)
メルトボリュームフローレート(MVR):18cm3/10min.
メルトフロー試験機にて測定、以下同様、
カラー ブルー
置換後の成形原料熱可塑性樹脂(第2の成形原料):
ポリカーボネート樹脂(PC)(帝人社製の「パンライトL-1225L」)
メルトボリュームフローレート(MVR):18cm3/10min. 、
カラー クリヤー(透明)
[洗浄剤組成物]:
熱可塑性樹脂:ポリカーボネート樹脂(PC)(帝人社製「パンライトL-
1250Y」)
メルトボリュームフローレート(MVR):8cm3/10min.
安定剤:リン系酸化防止剤:ADEKA社製「アデカスタブPEP-36」
シラン系安定剤:大阪ガスケミカル社製「OGSOL SI-30-10」
添加剤:グリセリン脂肪酸エステル:グリセリンモノベヘネート
(理研ビタミン社製の「リケマールB-100」)
ソルビタン脂肪酸エステル:ソルビタンモノステアレート
(花王社製の「レオドールSP-S10V」)
[洗浄剤組成物の添加量]:成形原料熱可塑性樹脂100重量部に対して40重量部
[洗浄剤組成物の製造方法]:ドライブレンドにより混合し、東芝社製の2軸混練機(TEM48)を使用して製造した。
[成形条件]:
射出成形機:住友SE130EV(型締め130t)
金型:幅90mm、長さ190mm、厚さ2.5mmの直方体形状の成形品(試験片)を成形可能な金型
成形温度:シリンダー・・・290℃
流路F ・・・290℃
【0098】
<試験方法:樹脂置換>
次に示す方法により試験を行った。ブルー色に着色された、洗浄剤組成物を含有しない置換前の成形原料(第1の成形原料)で、固定金型1から射出される成形品の射出成形を連続して行った。このとき、射出成形機200から置換前のブルー色に着色された成形原料がスプルーブッシュ11を介して固定金型1内の流路Fへ流入し、流路Fに充填された状態になっている(
図2(a))。
【0099】
次に、射出成形機200を後退させて、固定金型1と射出成形機200のノズル部31とを切り離す。置換後の透明の成形原料(第2の成形原料)と洗浄剤組成物とを射出成形機200の内部に投入し、射出成形機200を作動させて射出成形機200のシリンダー3内部を洗浄する(
図2(b))。次いで、射出成形機200を前進させて、ノズル部31と固定金型1のスプルーブッシュ11部分とを接触させ、流路F内へ成形原料(洗浄材組成物を含有する置換後の透明の成形原料)が流通可能な状態とする(
図2(c))。これにより、置換前の成形原料に続けて、置換後の成形原料を固定金型1内の流路F内へ供給することができる。
【0100】
洗浄材組成物を含有する置換後の成形原料が供給されることによって、最初は置換前のブルー色の成形原料のみで成形された成形品がゲート14から射出されるが、次第に置換前の成形原料と置換後の成形原料との両方が混合した成形品が得られるようになる。そして、洗浄材組成物を含有する置換後の成形原料のみで成形された成形品が得られるようになる。置換後の成形原料が置換前の成形原料に混入し始めた状態の成形品が得られてから、洗浄剤組成物を含む置換後の成形原料のみで成形された成形品が得られるまでに要した成形品の数(ショット数)について評価した。評価結果は、
図3の「置換ショット数」及び「置換性評価」として示した。ここで、ブルー色の樹脂が混入していない成形品が得られた場合に、流路Fにおいて置換前の成形原料が置換後の成形原料によって置き換えられたと判断することができる。
【0101】
<試験方法:長時間滞留後の熱変色と黒点確認>
長時間滞留後の試験について、以下に示す方法で実施した。置換前の成形原料が洗浄剤組成物を含む置換後の成形原料に置き換えられた状態で、射出成形機200と固定金型1のヒーターをオフにし、16時間放置した(
図2(d))。その後、射出成形機200と固定金型1のヒーターをオンにして、シリンダー3内をスクリュー4の剪断力を利用し、洗浄剤組成物を含有する置換後の成形原料(第2の成形原料)で射出成形機200内を洗浄、置換した(
図2(e))。次いで、射出成形機200を前進させて、ノズル部31と固定金型1のスプルーブッシュ11部分とを接触させ、流路F内へ成形原料(次に成形する成形原料)が流通可能な状態とする。次に洗浄剤組成物を含む第2の成形原料を固定金型1内の流路F内へ供給し(
図2(f))、再び成形を開始して、固定金型1内に16時間放置された洗浄剤組成物を含む第2の成形原料を、新たな洗浄剤組成物を含む第2の成形原料で置換する。これにより、長時間(16時間)滞留による、黒点、変色の発生状態を確認することで新たな洗浄剤組成物を含有する成形原料の効果を確認できる。なお、実際の射出成形においては、黒点や変色等がなくなると、第2の成形原料への洗浄剤組成物の混合は停止され、第2の成形原料のみが供給されることとなる(
図2(g))。
【0102】
<評価方法:樹脂置換>
流路F内において置換前の成形原料が置換後の成形原料によって置換されるまでのショット数(置換ショット数)について、以下の基準に基づいて評価した。
置換ショット数が40未満:良好(
図3中「○」で示す。)
置換ショット数が40以上:不良(
図3中「×」で示す。)
【0103】
なお、成形原料が調製不可(調整不良)であった場合、評価は「不良(×)」とした。成形原料が調製不可とは、例えば、成形原料熱可塑性樹脂と洗浄剤組成物とが均一に分散した成形原料を得ることができなかった場合や、洗浄剤組成物自体として均一に分散した組成物を得ることができなかった場合等である。
【0104】
また、射出成形機200の内部の洗浄(
図2(b))に要した成形原料の量(g)及び洗浄剤組成物の量(g)を測定した。射出成形機200の内部の洗浄に要した成形原料(置換後の成形原料)の量(g)、及び、洗浄剤組成物の量(g)を、
図3に示す。
【0105】
<評価方法:長時間滞留後の熱変色と黒点確認>
16時間放置後、次に成形する成形原料を投入し、滞留によって発生した黒点、著しい変色がなくなり、次の成形原料に置換されるまでのショット数(滞留後の黒点解消までのショット数)について、以下の基準に基づいて評価した。
黒点解消のためのショット数:20ショット未満:良好(
図3中「○」で示す。)
黒点解消のためのショット数:20ショット以上:不良(
図3中「×」で示す。)
【0106】
また、ヒーターをオフしてから16時間後の射出成形機200の内部の洗浄に要した成形原料の量(g)及び洗浄剤組成物の量(g)を測定した。射出成形機200の内部の洗浄に要した成形原料(置換後の成形原料)の量(g)、及び、洗浄剤組成物の量(g)を、
図3に示す。
【0107】
(実施例1)
洗浄剤組成物については上述したため説明を省略する。
【0108】
[樹脂置換]
実施例1の場合、置換前の成形原料が置換後の成形原料によって置換されるまでの置換ショット数は、32回であった。評価は「良好(○)」であった。また、射出成形機200内において、置換前の成形原料が置換後の成形原料によって置換されるまでに投入された置換後の成形原料の量は「510g」であり、この置換後の成形原料中に含有されていた洗浄剤組成物の量は「116g」であった。これらの結果を
図3に示す。
【0109】
[長時間滞留後の熱変色と黒点確認]
実施例1において、流路F内において置換前の成形原料が置換後の成形原料によって置換された後、射出成形機200と固定金型1のヒーターをオフにし、16時間後に流路F内に発生した熱酸化劣化による黒点が無くなるまでのショット数は12ショットであった。評価は「良好〇」であった。また、射出成形機200の内部での滞留熱劣化の黒点が無くなるまで投入された洗浄剤組成物を含む成形原料の量は「210g」であり、洗浄剤組成物の量は「48g」であった。これらの結果を
図3に示す。
【0110】
(実施例2~8、比較例9~15)
図3に示す配合組成の洗浄剤組成物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、射出成形試験を行った。ここで、洗浄剤組成物の配合割合等は次のとおりである。実施例2~8、比較例9~14は、いずれも実施例1と同様に100重量部の熱可塑性樹脂として、ポリカーボネート樹脂を用いた。
【0111】
表1に示す材料は、次のとおりである。なお、実施例1で説明した材料は省略する。
添加剤:高級アルコール脂肪酸エステル
(理研ビタミン社製リケマールSL-900)
ペンタエリスリトール脂肪酸エステル
(花王社製エキセパールPE-MS)
プロピレングリコール脂肪酸エステル
(理研ビタミン社製リケマールPB-100)
金属石鹸:ヒドロキシステアリン酸ナトリウム
(日東化成工業社製NS-6)
【0112】
実施例2では、洗浄剤組成物の安定剤として、リン系酸化防止剤2.1重量部を用い、洗浄剤組成物の添加物として、ソルビタン脂肪酸エステル1.5重量部とペンタエリスリトール脂肪酸エステル0.3重量部、合計1.8重量部を用いた。
【0113】
実施例3では、洗浄剤組成物の安定剤として、リン系酸化防止剤1.5重量部とシラン系安定剤0.5重量部の合計2.0重量部を用いた。洗浄剤組成物の添加物として、グリセリン脂肪酸エステル2重量部とプロピレングリコール脂肪酸エステル0.5重量部の合計2.5重量部を用いた。なお、実施例3では、滞留後に洗浄剤組成物を含まない第2の成形原料のみで置換を行った。
図3においては、これを「-*」として示しており、他の実施例等でも同様とする。
【0114】
実施例4では、洗浄剤組成物の安定剤として、リン系酸化防止剤2.5重量部とシラン系安定剤0.3重量部の合計2.8重量部を用いた。洗浄剤組成物の添加物として、ソルビタン脂肪酸エステル1重量部と高級アルコール0.8重量部の合計1.8重量部を用いた。なお、実施例4でも、滞留後に洗浄剤組成物を含まない第2の成形原料のみで置換を行った。
【0115】
実施例5では、洗浄剤組成物の安定剤として、リン系酸化防止剤3重量部を用い、洗浄剤組成物の添加物として、グリセリン脂肪酸エステル0.5重量部とプロピレングリコール脂肪酸エステル0.5重量部の合計1重量部を用いた。
【0116】
実施例6では、洗浄剤組成物の安定剤として、リン系酸化防止剤1.5重量部とシラン系安定剤0.5重量部の合計2.0重量部を用いた。洗浄剤組成物の添加物として、高級アルコール2重量部とペンタエリスリトール脂肪酸エステル0.3重量部の合計2.3重量部を用いた。
【0117】
実施例7では、洗浄剤組成物の安定剤として、リン系酸化防止剤3重量部を用い、洗浄剤組成物の添加物として、グリセリン脂肪酸エステル0.5重量部と高級アルコール1重量部の合計1.5重量部を用いた。
【0118】
実施例8では、洗浄剤組成物の安定剤として、リン系酸化防止剤5重量部を用い、洗浄剤組成物の添加物として、ソルビタン脂肪酸エステル1重量部とペンタエリスリトール脂肪酸エステル0.5重量部の合計1.5重量部を用いた。
【0119】
比較例9では、洗浄剤組成物の安定剤として、リン系酸化防止剤2重量部を用い、洗浄剤組成物の添加物として、グリセリン脂肪酸エステル1重量部を用いた。比較例9では、金属石鹸を用いた。金属石鹸としてヒドロキシステアリン酸ナトリウム0.5重量部を用いた。
【0120】
比較例10では、洗浄剤組成物の安定剤として、リン系酸化防止剤0.1重量部を用い、洗浄剤組成物の添加物として、グリセリン脂肪酸エステル1重量部とソルビタン脂肪酸エステル0.5重量部の合計1.5重量部を用いた。すなわち、比較例10は、安定剤が0.2重量部よりも少ない。
【0121】
比較例11では、洗浄剤組成物の安定剤として、リン系酸化防止剤15重量部を用い、洗浄剤組成物の添加物として、グリセリン脂肪酸エステル2重量部とペンタエリスリトール脂肪酸エステル5重量部の合計7重量部を用いた。すなわち、比較例11は、安定剤が10重量部よりも多い。
【0122】
比較例12では、洗浄剤組成物の安定剤として、シラン系安定剤0.05重量部を用い、洗浄剤組成物の添加物として、グリセリン脂肪酸エステル1重量部とソルビタン脂肪酸エステル0.5重量部の合計1.5重量部を用いた。すなわち、比較例12は、安定剤が0.2重量部よりも少ない。
【0123】
比較例13では、洗浄剤組成物の安定剤として、リン系酸化防止剤2重量部を用い、洗浄剤組成物の添加物として、グリセリン脂肪酸エステル0.2重量部と高級アルコール0.1重量部の合計0.3重量部を用いた。すなわち、比較例13は、添加剤が0.5重量部よりも少ない。
【0124】
比較例14では、洗浄剤組成物の安定剤として、リン系酸化防止剤2重量部とシラン系安定剤0.5重量部の合計2.5重量部を用い、洗浄剤組成物の添加物として、ソルビタン脂肪酸エステル15重量部とペンタエリスリトール脂肪酸エステル7重量部の合計22重量部を用いた。すなわち、比較例14は、添加剤が20重量部よりも多い。
【0125】
比較例15は、従来型のパージ剤を用いた。
置換ショット数と評価結果を
図3に示す。
【0126】
[樹脂置換]
実施例2~8について、置換ショット数は、いずれも32以下であり、評価は「良好(○)」であった。比較例9ではヒドロキシステアリン酸ナトリウムの添加によって分解が発生し調整できなかった。ここで、比較例9の「分解発泡」とは、分解により発生したガスにより試験片の表面に泡状やストリーク状の構造が現れる現象をいう。
【0127】
比較例10、12では、初期の置換は32、33ショットと良好(〇)であるが、滞留後(16時間放置後)の黒点は、多く発生し、黒点が無くなるまで実施例2~8の2倍以上の30、35ショットを要し、評価は「不良(×)」であった。比較例11、14では洗浄剤組成物自体を均一に分散した組成物として得ることができなかったため「調製不可」と表示している。なお、洗浄剤組成物として調製できなかった原料をそのまま成形原料熱可塑性樹脂へ添加し、成形しても、成形体(試験片)は得られなかった。比較例11、14では、成形体が得られなかったため「調整不可」と表示している。また、
図3の比較例11、14に示す「計量不可」とは、スクリュー4が空回りし、成形原料を計測することができなかったことを示す。比較例13は、初期の置換が60以上(
図3中、「>60」と示す。)で評価は「不良(×)」であった。また、滞留後も40ショットで「不良(×)」であった。
【0128】
(比較例15)
比較例15では、洗浄剤組成物の代わりに従来型パージ剤を、100重量%で用いたこと以外は、実施例1と同様にして、射出成形試験を行った。置換ショット数と評価結果を
図3に示す。
【0129】
[樹脂置換]
従来型パージ剤としては、AS樹脂約90%、その他添加剤(メーカー非表示)約10%の組成を有するパージ剤を用いた。従来型パージ剤の添加量は、成形原料熱可塑性樹脂100重量部に対して45重量部とした。比較例15では、置換ショット数が60以上であり、評価は「不良(×)」であった。
【0130】
[長時間滞留後の熱変色と黒点確認]
比較例15においても、置換後、実施例1と同じく、流路F内において置換前の成形原料が置換後の成形原料によって置換された後、射出成形機200と固定金型1のヒーターをオフにし、16時間放置した。
【0131】
流路F内発生した熱酸化劣化による黒点が無くなるまでのショット数は、洗浄剤組成物を含む実施例2、5、6、7、8と洗浄剤組成物を含まない実施例3、4でもすべて12ショット以下であった。評価は「良(〇)」であった。また、実施例2~8においても、射出成形機200の内部での滞留熱劣化の黒点が無くなるまでに投入された成形原料の量は「190g~230g」の範囲であり、洗浄剤組成物の量は「48~52g」であった。実施例3、4は、上述したとおり、洗浄剤組成物を含まない成形原料(第2の成形原料)を投入した(
図3中「-*」)。この場合も射出成形機200の内部での滞留による熱劣化の黒点が無くなるまで投入された、洗浄剤組成物を含まない成形原料の量は「190g~210g」の範囲であった。なお、実施例3、4は洗浄剤組成物を含んでいないため、洗浄剤組成物の量は「0g」であった。実施例3、4の評価結果から、滞留前に洗浄剤組成物を含む成形原料で置換しておくと、滞留後に黒点や変色が発生しても、洗浄剤組成物を含まない成形原料で良好に置換されることがわかった。
【0132】
(比較例9~14)
比較例9、11、14は、初期の置換の段階(
図2(b)の洗浄の段階)で、分解発泡や、均一の分散した組成物が得られず、評価できず(評価不可)、「不良(×)」であった。
【0133】
比較例10、12は、初期の置換は置換ショット数が40以下であり良好で「良(〇)」である。しかし、滞留後は、いずれも黒点が多く発生し、黒点が無くなるまでに、それぞれ30ショット、35ショットを要し、「不可(×)」であった。また、射出成形機200の内部での滞留による熱劣化の黒点が無くなるまでに投入された成形原料の量は、それぞれ「450g、460g」であり、洗浄剤組成物の量は「102g、105g」であった。
【0134】
比較例13は、滞留後の黒点が無くなるまでのショット数は40ショットで評価は「不可(×)」であった。射出成形機200の内部での滞留による熱劣化の黒点が無くなるまでに投入された成形原料の量は「450g」、洗浄剤組成物の量は「102g」であった。これらの結果を
図3に示す。
【0135】
(比較例15)
置換前の成形原料として、成形原料熱可塑性樹脂のみを含有する成形原料を用い、成形原料熱可塑性樹脂に洗浄剤組成物又は従来型パージ剤を添加しなかった。成形原料熱可塑性樹脂のみを含有する成形原料に続けて、従来型のパージ剤を射出成形機200に投入し、パージ剤を用いる従来の洗浄方法に則った洗浄方法によって射出成形試験を行った。すなわち、比較例15においては、置換前の成形原料が成形原料熱可塑性樹脂であり、置換後の成形原料が従来型パージ剤である。置換ショット数と評価結果を
図3に示す。
【0136】
比較例15では、置換ショット数が60以上であり、評価は「不良(×)」であった。なお、置換後、従来型パージ剤に続いて、成形原料熱可塑性樹脂のみを含有する別の成形原料を射出成形機200に投入し、従来型パージ剤が当該別の成形原料で置換されるまでの置換ショット数をカウントしたところ、20ショットであった。
【0137】
比較例15においても、16時間放置する滞留試験を実施した。その後、次に成形する成形原料を射出成形機200に投入して黒点が無くなるまで置換を続けたが、50ショットを過ぎても黒点が残り(
図3中「>50」と示す。)、評価は「不良(×)」であった。
【0138】
(実施例16)
後述する成形原料を用い、後述する成形条件としたこと以外は、実施例1と同様にして、射出成形試験を行った。
図4は、実施例16~23、比較例24~30の洗浄剤組成物、置換ショット数と評価結果、及び、実施例1と同様の長時間滞留試験後の黒点がなくなるまでのショット数等を示す表である。
【0139】
実施例16の洗浄剤組成物は、熱可塑性樹脂、安定剤、添加剤を含有している。具体的には、
図4に示すように、熱可塑性樹脂にはメタクリル樹脂を用いた。安定剤には、リン系酸化防止剤とシラン系安定剤を用いた。メタクリル樹脂100重量部に対し、リン系酸化防止剤2重量部とシラン系安定剤0.3重量部の合計2.3重量部を用いた。添加剤には、ソルビタン脂肪酸エステル1重量部と高級アルコール0.5重量部の合計1.5重量部を用いた。実施例1では、上述したように、熱可塑性樹脂100重量部、安定剤2.5重量部、添加剤1.5重量部を含有する洗浄剤組成物を用いた。成形条件、金型、材料等の諸条件は、以下に示すとおりである。
【0140】
実施例16は、置換ショット数が28であり、評価は「良好(○)」であった。また、滞留後の黒点が無くなるまでのショット数は9で、評価は「良好(〇)」であった。
【0141】
[成形原料]:
置換前の成形原料熱可塑性樹脂:
メタクリル樹脂(PMMA)(三菱ケミカル社製の「アクリペットMD」
メルトフローレート(MFR):6.0g/10min.)、
カラー ブルー
置換後の成形原料熱可塑性樹脂:
メタクリル樹脂(PMMA)(三菱ケミカル社製の「アクリペットMF」
メルトフローレート(MFR):14.0g/10min.)、
カラー クリヤー(透明)
[洗浄剤組成物]:
熱可塑性樹脂:メタクリル樹脂(PMMA)(三菱ケミカル社製の
「アクリペットVH」メルトフローレート(MFR)
:2.0g/10min.)、クリヤー(透明)
安定剤:リン系酸化防止剤:ADEKA社製「アデカスタブPEP-8」
シラン系安定剤:大阪ガスケミカル社製「OGSOL SI-30-10」
添加物:ソルビタン脂肪酸エステル:ソルビタンモノステアレート
(花王社製の「レオドールSP-S10V」)
高級アルコール:ステアリルアルコール
(花王社製の「カルコール8098」)
[洗浄剤組成物の添加量]:成形原料熱可塑性樹脂100重量に対して30重量部
[洗浄剤組成物の製造方法]:ドライブレンドにより混合し、東芝社製の2軸混練機(TEM48)を使用して製造した。
[成形条件]:
射出成形機:住友SE130EV(型締め130t)
金型:幅90mm、長さ190mm、厚さ2.5mmの直方体形状の成形品を成形可能な金型
成形温度:シリンダー・・・250℃
流路F ・・・250℃
【0142】
(実施例17~23、比較例24~28)
図4に示す配合組成の洗浄剤組成物を用いたこと以外は、実施例16と同様にして、射出成形試験を行った。
【0143】
表2に示す材料は、次のとおりである。なお、実施例16で説明した材料は省略する。
添加剤:グリセリン脂肪酸エステル
(理研ビタミン社製S-100)
ペンタエリスリトール脂肪酸エステル
(花王社製エキセパールPE-MS)
プロピレングリコール脂肪酸エステル
(理研ビタミン社製リケマールPB-100)
金属石鹸:ステアリン酸マグネシウム
(日東化成工業社製Mg-St)
【0144】
実施例17では、洗浄剤組成物の安定剤として、リン系酸化防止剤1.5重量部、シラン系安定剤1重量部の合計2.5重量部を用いた。洗浄剤組成物の添加物として、グリセリン脂肪酸エステル1.5重量部とペンタエリスリトール脂肪酸エステル0.5重量部の合計2重量部を用いた。実施例17の洗浄剤組成物には、金属石鹸を用いた。金属石鹸としてステアリン酸マグネシウム0.5重量部を用いた。
【0145】
実施例18では、洗浄剤組成物の安定剤として、リン系酸化防止剤3.5重量部を用い、洗浄剤組成物の添加物として、ソルビタン脂肪酸エステル1.5重量部とプロピレングリコール脂肪酸エステル1重量部の合計2.5重量部を用いた。
【0146】
実施例19では、洗浄剤組成物の安定剤として、シラン系安定剤1.5重量部を用い、洗浄剤組成物の添加物として、高級アルコール0.5重量部とプロピレングリコール脂肪酸エステル0.5重量部の合計1重量部を用いた。実施例19の洗浄剤組成物には、金属石鹸を用いた。金属石鹸としてステアリン酸マグネシウム0.5重量部を用いた。
【0147】
実施例20では、洗浄剤組成物の安定剤として、リン系酸化防止剤5重量部を用い、洗浄剤組成物の添加物として、グリセリン脂肪酸エステル2重量部とペンタエリスリトール脂肪酸エステル0.5重量部の合計2.5重量部を用いた。なお、実施例20では、滞留後に洗浄剤組成物を含まない第2の成形原料のみで置換を行った(
図4中「-*」)。
【0148】
実施例21では、洗浄剤組成物の安定剤として、リン系酸化防止剤6重量部を用い、洗浄剤組成物の添加物として、グリセリン脂肪酸エステル1.5重量部とペンタエリスリトール脂肪酸エステル0.5重量部の合計2重量部を用いた。実施例21の洗浄剤組成物には、金属石鹸を用いた。金属石鹸としてステアリン酸マグネシウム0.5重量部を用いた。なお、実施例21では、滞留後に洗浄剤組成物を含まない第2の成形原料のみで置換を行った(
図4中「-*」)。
【0149】
実施例22では、洗浄剤組成物の安定剤として、リン系酸化防止剤2.8重量部を用い、洗浄剤組成物の添加物として、ソルビタン脂肪酸エステル1.5重量部とプロピレングリコール脂肪酸エステル1.5重量部の合計3重量部を用いた。実施例22の洗浄剤組成物には、金属石鹸を用いた。金属石鹸としてステアリン酸マグネシウム0.5重量部を用いた。
【0150】
実施例23では、洗浄剤組成物の安定剤として、リン系酸化防止剤7重量部を用い、洗浄剤組成物の添加物として、グリセリン脂肪酸エステル2重量部と高級アルコール1.5重量部の合計3.5重量部を用いた。実施例23の洗浄剤組成物には、金属石鹸を用いた。金属石鹸としてステアリン酸マグネシウム0.5重量部を用いた。
【0151】
比較例24では、洗浄剤組成物の安定剤として、リン系酸化防止剤2重量部を用い、洗浄剤組成物の添加物として、ソルビタン脂肪酸エステル0.2重量部を用いた。すなわち、比較例24は、添加剤が0.5重量部よりも少ない。比較例24の洗浄剤組成物には、金属石鹸を用いた。金属石鹸としてステアリン酸マグネシウム0.5重量部を用いた。
【0152】
比較例25では、洗浄剤組成物の安定剤として、リン系酸化防止剤0.1重量部を用い、洗浄剤組成物の添加物として、グリセリン脂肪酸エステル1.5重量部とペンタエリスリトール脂肪酸エステル0.5重量部の合計2重量部を用いた。すなわち、比較例25は、安定剤が0.2重量部よりも少ない。比較例25の洗浄剤組成物には、金属石鹸を用いた。金属石鹸としてステアリン酸マグネシウム0.5重量部を用いた。
【0153】
比較例26では、洗浄剤組成物の安定剤として、リン系酸化防止剤13重量部とシラン系安定剤4重量部の合計17重量部を用い、洗浄剤組成物の添加物として、ソルビタン脂肪酸エステル1.5重量部と高級アルコール0.5重量部の合計2重量部を用いた。すなわち、比較例26は、安定剤が10重量部よりも多い。
【0154】
比較例27では、洗浄剤組成物の安定剤として、シラン系安定剤0.05重量部を用い、洗浄剤組成物の添加物として、ソルビタン脂肪酸エステル1.5重量部とペンタエリスリトール脂肪酸エステル0.5重量部の合計2重量部を用いた。すなわち、比較例27は、安定剤が0.2重量部よりも少ない。比較例27の洗浄剤組成物には、金属石鹸を用いた。金属石鹸としてステアリン酸マグネシウム0.5重量部を用いた。
【0155】
比較例28では、洗浄剤組成物の安定剤として、リン系酸化防止剤3重量部とシラン系安定剤0.2重量部の合計3.2重量部を用いた。洗浄剤組成物の添加物として、高級アルコール0.1重量部とプロピレングリコール脂肪酸エステル0.2重量部の合計0.3重量部を用いた。すなわち、比較例28は、添加剤が0.5重量部よりも少ない。
【0156】
比較例29では、洗浄剤組成物の安定剤として、リン系酸化防止剤2重量部とシラン系安定剤0.3重量部の合計2.3重量部を用いた。洗浄剤組成物の添加物として、グリセリン脂肪酸エステル16重量部とペンタエリスリトール脂肪酸エステル7重量部の合計23重量部を用いた。すなわち、比較例29は、添加剤が20重量部よりも多い。
【0157】
比較例30は、従来型のパージ剤を用いた。
置換ショット数と評価結果を
図4に示す。
【0158】
実施例17~23について、置換ショット数は、いずれも30以下であり、評価は「良好(○)」であった。また、実施例1と同様に、滞留後の試験でも、いずれも10ショット以下で黒点がなくなっている。
【0159】
比較例24、28、及び比較例30の従来型のパージ剤では置換ショット数はいずれも60以上であり、評価は「不良(×)」であった。比較例25、27では、置換ショット数はそれぞれ32、30と評価は「良好(〇)」であった。しかし、16時間放置した滞留後の試験では、黒点が無くなるまでのショット数がともに35ショットで、評価は「不良(×)」であった。
【0160】
更に、比較例26、29では、滑りが発生し、洗浄剤組成物自体を均一に分散した組成物として得ることができなかったため「計量不可」、「調製不可」と表示している。
【0161】
なお、
図3及び
図4の結果から、洗浄剤組成物の熱可塑性樹脂として選択する原料によっては、金属石鹸を添加しても良好な結果が得られる場合があることがわかる。例えば、
図4に示すように、洗浄剤組成物の熱可塑性樹脂としてメタクリル樹脂を用いた場合、洗浄剤組成物に金属石鹸を添加しても良好な結果が得られた(実施例17、19、21、22、22、23)。ここで、
図4では、洗浄剤組成物の熱可塑性樹脂としてメタクリル樹脂を用いた場合に、金属石鹸としてステアリン酸マグネシウムを用いたがこれに限定されない。金属石鹸は、脂肪酸、ヒドロキシ脂肪酸、すなわち、
図3に記載したヒドロキシステアリン酸ナトリウムや、酸化チタン、亜鉛等の金属塩、金属化合物であってもよい。
【0162】
[試験片の変色、黒点等]
図5は、射出成形試験の結果を示す図である。
図5(a-1)は、実施例1において16時間放置した後、1ショット目の試験片を示す画像であり、
図5(a-2)は(a-1)を説明するための画像に対応した模式図である。なお、円形状に視認できる構造はゲート痕Gである。実施例1で得られた試験片では、滞留後1ショット目から黒点がなく良好な結果であった。
【0163】
図5(b-1)は、比較例15において16時間放置した後、1ショット目の試験片を示す画像であり、
図5(b-2)は(b-1)を説明するための画像に対応した模式図である。
図5(b-1)では多くの黒点や変色が見られた。
図5(b-2)に、黒点や変色が見られた領域Ra、Rb、Rc、Rdを示す。領域Ra、領域Rbは、黒点が非常に密集し変色も見られた領域であり、領域Rc、領域Rdの順に変色や黒点の密集の度合いは小さくなるものの、全体として多くの黒点や変色が見られた。
図5(c-1)は、比較例15において16時間放置した後、50ショット目の試験片を示す画像であり、
図5(c-2)は(c-1)を説明するための画像に対応した模式図であり、領域Re、Rf、Rgを示す。領域Re、領域Rf、領域Rgの順に、変色や黒点の密集の度合いは小さくなるものの、16時間放置後であっても無視できない数の黒点が見られた。このように、比較例15では、50ショット目においても、多くの黒点や変色が見られた。
【0164】
以上、実施形態2によれば、ホットランナー方式の金型の内部の成形原料の置換を効率的に行うことができる洗浄剤組成物及び成形原料を提供することができる。
【0165】
以上、本発明の好ましい実施の形態を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、その要旨の範囲内で様々な変形や変更が可能である。例えば、本発明は以下の趣旨を含むものとする。
【0166】
[趣旨1]
本発明の洗浄剤組成物は、
熱可塑性樹脂100重量部と、
フェニル基を有するポリシラン、フェニル基を有するシリコーン及びリン系の酸化防止剤から選択される少なくとも1種を含む安定剤0.2~10重量部と、
脂肪酸エステル、又は、脂肪酸エステル及び脂肪族アルコールを含む添加剤0.5~20重量部と、
を含有する。
【0167】
[趣旨2]
前記熱可塑性樹脂は、ポリオレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド系樹脂、及び、これらの樹脂の混合物から選択される少なくとも1種を含んでもよい。
【0168】
[趣旨3]
前記熱可塑性樹脂は、ポリスチレン樹脂、AS樹脂を含むスチレン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、PMMAを含むアクリル樹脂、PETを含むポリエステル樹脂、環状ポリオレフィン樹脂及びポリスルフォン系樹脂、並びに、これらの樹脂の混合物から選択される少なくとも1種を含み、光透過率が30%以上の透明性又は半透明性を有してもよい。
【0169】
[趣旨4]
前記熱可塑性樹脂が前記ポリカーボネート樹脂であるとき、金属塩を含んでもよい。
【0170】
[趣旨5]
前記フェニル基を有する前記ポリシラン又は前記フェニル基を有する前記シリコーンは、環状に結合したケイ素に前記フェニル基が結合していてもよい。
【0171】
[趣旨6]
前記リン系の前記酸化防止剤は、分子中にリン原子が2個存在するスピロ構造を有してもよい。
【0172】
[趣旨7]
前記脂肪酸エステルは、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル及びプロピレングリコール脂肪酸エステルから選択され少なくとも1種を含み、
前記脂肪族アルコールは、炭素数が10以上である脂肪族アルコールを少なくとも1種含んでもよい。
【0173】
[趣旨8]
前記洗浄剤組成物は、ホットランナー方式の金型の内部の流路を洗浄するために用いられ、
前記流路に充填された第1の成形原料を、第2の成形原料で置換する場合に、
前記第1の成形原料、前記第2の成形原料、又は、前記第1の成形原料及び前記第2の成形原料の両方に添加して用いられてもよい。
【0174】
[趣旨9]
本発明の成形原料は、
上記の洗浄剤組成物と、
熱可塑性樹脂と、
を含有し、
ホットランナー方式の射出成形において原料として用いられる。
【符号の説明】
【0175】
1 固定金型
2 可動金型
3 シリンダー
4 スクリュー
5 ホッパー
6 ヒーター
11 スプルーブッシュ
12 マニホールド
13 プローブボディ
14 ゲート
15 バルブピン
21 取付け板
22 スペーサブロック
23 バックプレート
24 キャビティプレート
25 キャビティー
31 ノズル部
100 射出成形システム
200 射出成形機
300 金型
F 流路
G ゲート痕
Ra~Rg 領域