(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039379
(43)【公開日】2024-03-22
(54)【発明の名称】吸水拡散性生地およびその製造方法並びに衣類
(51)【国際特許分類】
D04B 1/14 20060101AFI20240314BHJP
D02G 3/36 20060101ALI20240314BHJP
D03D 15/292 20210101ALI20240314BHJP
D03D 15/283 20210101ALI20240314BHJP
D03D 15/47 20210101ALI20240314BHJP
D03D 15/44 20210101ALI20240314BHJP
D03D 15/233 20210101ALI20240314BHJP
D06M 15/507 20060101ALI20240314BHJP
A41D 31/00 20190101ALI20240314BHJP
【FI】
D04B1/14
D02G3/36
D03D15/292
D03D15/283
D03D15/47
D03D15/44
D03D15/233
D06M15/507
A41D31/00 503G
A41D31/00 503B
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022143892
(22)【出願日】2022-09-09
(71)【出願人】
【識別番号】390018153
【氏名又は名称】日本毛織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】馬場 武一郎
(72)【発明者】
【氏名】光田 義雄
(72)【発明者】
【氏名】山下 尚史
(72)【発明者】
【氏名】松山 奈美紀
【テーマコード(参考)】
4L002
4L033
4L036
4L048
【Fターム(参考)】
4L002AA03
4L002AA05
4L002AA06
4L002AA07
4L002AB01
4L002AB02
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4L002AC07
4L002BA01
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4L002EA03
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4L033AA03
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4L033AC07
4L033CA45
4L036MA05
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4L036MA39
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4L048AA10
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4L048AB01
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4L048AB04
4L048AB05
4L048AB07
4L048AB11
4L048AB21
4L048AC15
4L048BA01
4L048CA00
4L048CA07
4L048DA01
4L048EB00
(57)【要約】
【課題】 吸水拡散性に優れ、且つ、肌離れ性及び風合いに優れた吸水拡散性生地、およびその製造方法、並びに前記吸水拡散性生地を含む衣類を提供する。
【解決手段】 芯成分が合成繊維マルチフィラメント糸、鞘成分が獣毛繊維、又は獣毛繊維と獣毛繊維以外の短繊維を含む混紡繊維で構成される長短複合紡績糸を含む生地を含んだ吸水拡散性生地であって、前記生地は編物又は織物であり、前記生地に、吸水拡散剤が吸着されている。例えば、吸水拡散性生地51に水54(一例として汗の成分)が付着すると、水54は、生地51表面に位置する鞘成分の繊維から生地51内の芯成分52である合成繊維マルチフィラメント糸に向かって入り、矢印56a,56bに沿って吸水拡散する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯成分が合成繊維マルチフィラメント糸、鞘成分が獣毛繊維、又は獣毛繊維と獣毛繊維以外の短繊維を含む混紡繊維で構成される長短複合紡績糸を含む生地と、前記生地に、吸着された吸水拡散剤と、を含み、前記生地は編物又は織物である、吸水拡散性生地。
【請求項2】
前記吸水拡散剤は、吸水性ポリエステル系樹脂である請求項1に記載の吸水拡散性生地。
【請求項3】
前記長短複合紡績糸は、リング紡績糸又は結束紡績糸である、請求項1に記載の吸水拡散性生地。
【請求項4】
前記合成繊維マルチフィラメント糸は、ポリエステルマルチフィラメント糸又はナイロンマルチフィラメント糸である、請求項1に記載の吸水拡散性生地。
【請求項5】
前記合成繊維マルチフィラメント糸は、生糸(なま糸)、コンジュゲートマルチフィラメント糸及び仮撚マルチフィラメント糸なる群から選ばれる少なくとも一つである、請求項1に記載の吸水拡散性生地。
【請求項6】
前記長短複合紡績糸を100質量%としたとき、前記獣毛繊維の混率は5~90質量%である、請求項1に記載の吸水拡散性生地。
【請求項7】
前記鞘成分として含まれる前記獣毛繊維以外の短繊維は、ポリエステル短繊維である、請求項1に記載の吸水拡散性生地。
【請求項8】
前記長短複合紡績糸を100質量%としたとき、前記芯成分は10~40質量%であり、前記鞘成分は60~90質量%である、請求項1に記載の吸水拡散性生地。
【請求項9】
前記長短複合紡績糸を構成する芯フィラメントの吸水長さは、前記長短複合紡績糸の吸水長さの1.2倍以上である、請求項1に記載の吸水拡散性生地。
【請求項10】
前記吸水拡散性生地の単位面積当たりの質量は200g/m2以下である、請求項1に記載の吸水拡散性生地。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の吸水拡散性生地の製造方法であって、
芯成分が合成繊維マルチフィラメント糸、鞘成分が獣毛繊維又は獣毛繊維と獣毛繊維以外の短繊維とを含む混紡繊維で構成される長短複合紡績糸を含む生地を染色した後、染色温度より低い温度の吸水拡散剤と接触させることで、染色された前記生地に前記吸収分散剤を吸着させることを含む、吸水拡散性生地の製造方法。
【請求項12】
請求項1~10のいずれか1項に記載の吸水拡散性生地を含む衣類。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸水拡散性生地およびその製造方法並びに衣類に関する。
【背景技術】
【0002】
スポーツ用、肌着用、シャツ用などの肌に接する用途に使用される織物又は編物は、発汗時の汗を素早く吸収することに加えて、濡れたときの不快感やべたつきを抑制することが求められている。従来技術として、本発明者らは、吸水性とべたつき抑制を同時に達成する技術として、肌側となる内層と、外気側となる外層と、前記内層と外層を繋ぐ接結糸を含む両面編地であり、前記内層を疎水性とし、外層を親水性とした多層構造編地を提案した(特許文献1)。また、吸水性を有する編物の片面から撥水性を有する樹脂を部分的に固着させた部分吸水編物も提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-155374号公報
【特許文献2】特開2013-133572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記特許文献1の編地は、多層構造となるため薄く軽い編地ができないという問題があった。また前記特許文献2の編地は、部分的に撥水加工がなされているため風合いに難があるという問題があった。
【0005】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、吸水拡散性に優れ、且つ、肌離れ性及び風合いに優れ、全体として軽く薄い吸水拡散性生地およびその製造方法並びに衣類を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、一態様において、芯成分が合成繊維マルチフィラメント糸、鞘成分が獣毛繊維、又は獣毛繊維と獣毛繊維以外の短繊維を含む混紡繊維で構成される長短複合紡績糸を含む生地を含んだ吸水拡散性生地であって、前記生地は編物又は織物であり、前記生地に、吸水拡散剤が吸着されている、吸水拡散性生地に関する。
【0007】
本発明は、一態様において、本発明の吸水拡散性生地の製造方法であり、
芯成分が合成繊維マルチフィラメント糸、鞘成分が獣毛繊維又は獣毛繊維と獣毛繊維以外の短繊維とを含む混紡繊維で構成される長短複合紡績糸を含む生地を染色した後、染色温度より低い温度の吸水拡散剤と接触させることで、染色された前記生地に前記吸収分散剤を吸着させることを含む、吸水拡散性生地の製造方法に関する。
【0008】
本発明は、一態様において、本発明の吸水拡散性生地を含む衣類に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の吸水拡散性生地は、芯成分が合成繊維マルチフィラメント糸、鞘成分が獣毛繊維、又は獣毛繊維と獣毛繊維以外の短繊維を含む混紡繊維で構成される長短複合紡績糸を含む生地を含んだ吸水拡散性生地であり、当該生地は編物又は織物であり、当該生地には吸水拡散剤が吸着されている。本発明の吸水拡散性生地は、吸水拡散性に優れており、鞘成分に獣毛繊維が含まれているので、肌離れ性及び風合いが優れ、全体として軽く薄い。
本発明の吸水拡散性生地の製造方法は、染色温度より低い温度の吸水拡散剤と染色された生地とを接触させることで、前記染色された生地に前記吸収分散剤を吸着させることを含み、染色物の汚染、染料の脱落などの問題がなく、確実に吸水拡散剤を生地に吸着させることができる。
本発明の衣類は、本発明の吸水拡散性生地を含むので、吸水拡散性に優れ、肌離れ性及び風合いに優れ、軽く薄い。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は本発明の一実施形態の吸水拡散性生地に液体である水が付着したときの水の吸収および拡散状態を示す模式的断面図である。
【
図2】
図2は本発明の一実施形態の吸水拡散性生地を構成する長短複合紡績糸を製造するための結束紡績装置の要部を示す模式的斜視図である。
【
図3】
図3は本発明の一実施形態の吸水拡散性生地を構成する長短複合紡績糸の模式的斜視図である。
【
図4】
図4は本発明の別の実施形態の吸水拡散性生地を構成する長短複合紡績糸の模式的斜視図である。
【
図5】
図5は本発明の一実施形態の吸水拡散性生地を構成する長短複合紡績糸を製造するためのリング紡績装置の要部を示す模式的斜視図である。
【
図6】
図6は、本発明の別の実施形態の吸水拡散性生地を構成する長短複合紡績糸の模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の吸水拡散性生地を構成する生地は、芯成分が合成繊維マルチフィラメント糸、鞘成分が獣毛繊維、又は獣毛繊維と獣毛繊維以外の短繊維とを含む混紡繊維で構成される長短複合紡績糸を含む編物又は織物である。この生地には、吸水拡散剤が吸着されているという吸水拡散処理がなされているので、当該生地に液体である水(一例として汗の主成分)が付着すると、水は生地表面の鞘成分の繊維から生地内の芯成分の合成繊維マルチフィラメント糸内に速やかに入り、生地の平面方向に吸水および拡散する。当該吸水拡散処理により、芯成分の合成繊維マルチフィラメント糸には、吸水性および拡散性が付与されている。液体である水は、1箇所に集まっていると乾きにくく、じめじめとして生地が肌に貼り付き、肌離れ性が悪く、着用感は悪化する。しかし、本発明の吸水拡散性生地では、生地に液体である水が付着すると、水が糸内に速やかに入るので生地表面のべとつきが抑制され、生地の平面方向に速やかに拡散するので生地は乾燥しやすく、生地の肌離れ性及び風合いが良好である。また、鞘成分に獣毛繊維を含むことにより、肌に接触する部分は、風合いが良好となる。
【0012】
前記生地の吸水拡散剤としては、繊維に付着して水分に対する親和性を付与できる親水性物質であればよく、繊維分野において通常使用されているものを用いることができる。吸水拡散剤としては、例えば、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ナイロン樹脂に、各々、親水性成分がブロック共重合された、吸水性ポリエステル系樹脂、吸水性シリコーン系樹脂、吸水性アクリル系樹脂、吸水性ナイロン系樹脂や、非イオン高分子活性剤などが挙げられる。芯成分である合成繊維マルチフィラメント糸に吸水拡散剤が吸着されると、水分は、合成繊維マルチフィラメント糸の内部へ入り易くなり、生地の平面方向に拡散し易くなる。より具体的には、水分は、合成繊維マルチフィラメント糸を構成するフィラメント間に入り易くなり、フィラメント間に入った水は、生地の平面方向に拡散し易くなる。故に、べとつき感の抑制効果が高くなる。
【0013】
これらの吸水拡散剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。より具体的には、ポリエチレンオキサイド付加ポリエステル系化合物(ポリエチレングリコールとポリエチレンテレフタレートのブロック共重合体等)、ポリエチレンオキサイド付加シリコーン系化合物等のポリエチレンオキサイド系化合物等が挙げられる。このような吸水拡散剤の市販品としては、例えば、大原パラヂウム化学社製、商品名"パラソルブPET"、高松油脂社製、商品名"SR1801"などがある。芯成分がポリエステルマルチフィラメント糸である場合、吸水拡散剤は、好ましくは、吸水性ポリエステル系樹脂である。吸水性ポリエステル系樹脂は、芯成分のポリエステルマルチフィラメントと親和性が高いため、ポリエステルマルチフィラメント糸の吸水拡散性がより顕著に向上する。
【0014】
前記長短複合紡績糸は、リング紡績糸又は結束紡績糸であることが好ましい。リング紡績糸はリング紡績機によって製造でき、結束紡績糸は結束紡績機によって製造できる。前記結束紡績機で製造される長短複合紡績糸は、芯成分と鞘成分で構成され、前記鞘成分は、芯成分の外側に配置された内層繊維と表層繊維とを芯成分側からこの順で含む。故に、長短複合紡績糸は、3層構造になっている。この糸構造は強固であるので、前記長短複合紡績糸として結束紡績糸を用いれば、生地の摩擦強力及び抗ピリング性を向上できる。
【0015】
前記合成繊維マルチフィラメント糸は、ポリエステルマルチフィラメント糸又はナイロンマルチフィラメント糸が好ましい。なかでも、前記合成繊維マルチフィラメント糸は、ポリエステルマルチフィラメント糸であると好ましい。ポリエステルマルチフィラメント糸は、公定水分率が約0.4%程度と低い疎水性繊維で構成されており、水分は、糸を構成するポリエステルフィラメント間に入り易くなるものの、フィラメント(繊維)の内部にはほとんど吸収されない。そのため、上記吸水拡散処理により吸水拡散性が付与されると、より親水性の高いフィラメントで構成された合成繊維マルチフィラメント糸よりも、糸への水分の吸水および拡散速度が速く、乾燥も速いことから好ましい。
【0016】
前記合成繊維マルチフィラメント糸は、生糸(なま糸)、コンジュゲートマルチフィラメント糸及び仮撚マルチフィラメント糸なる群から選ばれる少なくとも一つであるのが好ましい。この中でも仮撚マルチフィラメント糸は伸縮性があり、鞘成分の外側に飛び出しにくく、スナールが発生しにくいことから好ましい。
【0017】
前記長短複合紡績糸を100質量%としたとき、獣毛繊維の混率は5~90質量%が好ましく、より好ましくは7~85質量%であり、さらに好ましくは10~80質量%である。これにより、獣毛繊維の風合いの良さを発揮できる。獣毛繊維としては、羊の毛であるウール(メリノ・ウールの場合、繊維長30~150mm)、山羊の毛であるモヘヤ(繊維長100~300mm)、カシミヤ(繊維長40~90mm)、ラクダの毛であるキャメル(繊維長50~70mm)、アルパカ(繊維長100~200mm)、ビキューナ(繊維長20~70mm)、ウサギの毛であるアンゴララビット(繊維長100~130mm)等を使用できる。このうち好ましいのは最も汎用性があるウールである。ウールと他の獣毛繊維とを混紡してもよい。リング紡績糸の場合は、獣毛繊維はそのままの長さで紡績糸とし(長紡)、結束紡績糸の場合は、獣毛繊維は平均繊維長20~35mmとなるようにカットして紡績糸とする(短紡)のが好ましい。
【0018】
鞘成分は、獣毛繊維と獣毛繊維以外の短繊維との混紡であってもよい。獣毛繊維以外の短繊維としては、合成繊維、再生繊維、天然繊維のいずれかでもよい。獣毛繊維以外の短繊維としては、好ましくはポリエステル短繊維、ナイロン短繊維、セルロースアセテート短繊維、キュプラ短繊維、シルク短繊維、コットン繊維、麻繊維、レーヨン繊維などである。獣毛繊維以外の短繊維としては、前記長短複合紡績糸における吸水拡散性の向上の観点から、獣毛繊維よりも、より疎水的な繊維であると好ましい。獣毛繊維以外の短繊維が、ポリエステル短繊維等のように疎水性繊維であると、上記吸水拡散処理により吸水拡散性が付与されると、ポリエステル短繊維の表面から芯成分方向への水分の吸水拡散性が向上するが、水分はポリエステル短繊維内部にはほとんど吸収されないので、乾燥も速く好ましい。また、ポリエステル短繊維は、強度が高く腰もある点からも、好ましい。結束紡績の場合は、獣毛繊維以外の短繊維は、その平均繊維長が20~51mmとなるようにカットされていると好ましい。リング紡績糸の場合は、獣毛繊維以外の短繊維は、その平均繊維長が70~90mmとなるようにカットされていると好ましい。
【0019】
長短複合紡績糸を100質量%としたとき、好ましくは、芯成分である合成繊維マルチフィラメント糸は10~40質量%、鞘成分は60~90質量%、より好ましくは、芯成分である合成繊維マルチフィラメント糸は15~35質量%、鞘成分は65~85質量%であり、さらに好ましくは、芯成分である合成繊維マルチフィラメント糸は20~30質量%、鞘成分は70~80質量%である。
【0020】
本発明における長短複合紡績糸は、生産性に優れることから結束紡績糸であると好ましい。リング紡績糸に比べて結束紡績糸は、生産性が約10~20倍も優れる。とくに旋回流ノズルが1個の結束紡績装置により得られた結束紡績糸は毛羽も少なく、糸構造は強固となり、生地の摩擦強力及び抗ピリング性を向上できる。なお、結束紡績は、ボルテックス(VORTEX)紡績ともいう。
【0021】
長短複合紡績糸の太さは、メートル番手(単糸)で、20~80番(繊度:500~125decitex)の範囲が好ましい。この範囲であれば、吸水拡散性生地は、Tシャツ、スポーツ用シャツ、肌着、インナーパンツ、タイツ、靴下、ビジネス用スーツ、ビジネス用ユニホーム、学生服などに好適である。吸水拡散性生地が編物である場合、長短複合紡績糸は単糸使いが好ましい。吸水拡散性生地が織物である場合、長短複合紡績糸は、単糸を2本撚り合わされた双糸であると好ましい。双糸のメートル番手は10~40番(繊度:1000~250decitex)が好ましい。長短複合紡績糸が双糸であると、生地の表面がきれいになるうえ、織物の強度も高くなる。
【0022】
本発明の吸水拡散性生地の単位面積あたりの質量は、200g/m2以下が好ましく、より好ましくは50~200g/m2であり、さらに好ましくは50~180g/m2である。前記範囲であれば、さらに軽くて着心地の良い衣類とすることができる。織物組織は、平織り、綾織り、朱子織、その他の変化織など、どのような組織であってもよい。編物組織は、横編み、丸編み、経編など、どのような組織であってもよい。
【0023】
前記長短複合紡績糸を構成する芯フィラメントの吸水長さは、前記長短複合紡績糸の吸水長さの1.2倍以上3倍以下が好ましく、より好ましくは1.2倍以上2.5倍以下である。これにより、芯フィラメントで水の拡散性が高く、生地表面のべとつきが抑制され、生地は乾燥しやすくなる。尚、芯フィラメントの吸水長さ及び長短複合紡績糸の吸水長さは、実施例に記載の方法により測定できる。
【0024】
本発明の吸水拡散性生地の製造方法は、前記長短複合紡績糸を含む生地を染色した後、染色温度より低い温度の吸水拡散剤と接触させることで、染色された前記生地に前記吸収分散剤を吸着させることを含む。
例えば、本発明の吸水拡散性生地の製造方法は、一態様において、生地を加熱染液で染色した後、吸水拡散剤の分散水溶液で生地に吸水拡散剤を吸着させる吸着処理することを含む。吸水拡散剤の分散水溶液は、例えば、染液を排出させた染色槽内に入れられ、染色された生地は、加熱された吸水拡散剤の分散水溶液に浸漬される。他の方法として、本発明の吸水拡散性生地の製造方法は、パディング法も採用できる。具体的には、例えば、常温の吸水拡散剤の分散水溶液に染色された生地を浸漬して、生地に前記水溶液を吸収させた後、マングルで絞って生地に吸水拡散剤を均一に浸透させ、次いで、乾燥(加熱処理)させる。また、樹脂の種類によっては乾燥後にさらに高い温度のヒートセット工程を通して固着させることもある。
【0025】
本発明の吸水拡散性生地を含む衣類は、好適には、Tシャツ、スポーツ用シャツ、肌着、インナーパンツ、タイツ、靴下、ビジネス用スーツ、ビジネス用ユニホーム、学生服などである。
【0026】
次に、本発明の吸水拡散性生地の製造に使用する芯鞘構造糸を製造するための装置と方法について図面を用いて説明する。以下の図面において、同一符号は同一物を示す。
【0027】
図1は本発明の一実施形態の織物又は編物生地に、液体である水が付着したときの水の拡散状態を示す模式的断面図である。生地51に液体である水54(一例として汗に含まれる水分)が付着すると、水54は生地51表面の鞘成分の繊維から生地51内の芯成分52の合成繊維マルチフィラメント糸に入り、矢印56a,56bに沿って吸水拡散する。上述の吸水拡散処理により、芯成分52の合成繊維マルチフィラメント糸は吸水拡散性が付与されるからである。液体の水54は、1箇所に集まっていると乾きにくく、じめじめとして貼り付き、肌離れ性が悪く、着用感は悪化する。しかし、液体である水54が速やかに拡散すると、乾燥しやすく、肌離れ性及び風合いが良好となる。また、鞘成分53a,53bは獣毛繊維を含むため、風合いは良好である。
【0028】
図2は本発明の一実施例における結束紡績装置1の要部を示す斜視図である。
(1)ドラフト工程
結束紡績装置1のドラフトゾーン6は、一対のフロントローラ2,2’と、エプロンを有する一対のセカンドローラ3と、一対のサードローラ4と、一対のバックローラ5で構成されている。鞘成分となる例えば獣毛繊維と獣毛繊維以外の短繊維とを混紡したスライバー7は、スライバーガイド8を通過し、バックローラ5から供給され、ドラフトゾーン6でドラフトされる。
(2)芯成分と鞘成分との合体工程
ドラフトゾーン6のフロントローラ2,2’手前(上流側)に、芯成分となる合成繊維マルチフィラメント糸9を供給し、スライバー7がドラフトされた繊維束と合体させる。
(3)紡績糸形成工程
フロントローラ2,2’の排出部から離れて配置されているスピンドル10に、合体させた芯成分と鞘成分となる繊維束を供給し、旋回流によって仮撚りを掛けて長短複合紡績糸11とする。
(4)巻き取り工程
得られた長短複合紡績糸11は、スラブキャッチャー12を通過し、フリクションローラ13で引き取られ、巻取り部17の巻き取りドラム14により駆動されクレードルアーム15に支持されたパッケージ16に巻き取られる。
本発明の製造方法に使用する紡績機は、例えば村田機械社製、商品名"MURATA VORTEX SPINNER"として販売されている。特徴的なことは、糸速度が300~450m/分であり、リング紡績機の約10~20倍生産速度が速いことである。
【0029】
本発明の一例の長短複合紡績糸(結束紡績糸)20を
図3に示す。この例は、長短複合紡績糸を100質量%としたとき、ウール等の獣毛繊維の混率を15質量%とした例である。芯成分21が合成繊維マルチフィラメント糸であり、鞘成分24はウール等の獣毛繊維とポリエステル(PET)短繊維等の獣毛繊維以外の短繊維の混紡繊維である。ウール等の獣毛繊維は内層に多く存在し、無撚り状態である。PET短繊維等の獣毛繊維以外の短繊維は表層に多く存在し、内層繊維22に巻き付いて表層を構成している。表層の巻き付き繊維(表層繊維23)は撚りが掛けられた実撚り状であり、全体を束ねている。これにより、長短複合紡績糸は、毛羽やたるみは少なく、摩耗を受けても繊維が脱落せず、強固な糸状態を保つ。前記において一方向とは、S撚りの巻き付け方向又はZ撚りの巻き付け方向のことをいい、撚り角が同一ということではない。S撚りの巻き付け方向又はZ撚りの巻き付け方向は、結束紡績機のスピナーの圧空旋回流の方向によって決まる。この長短複合紡績糸(結束紡績糸)20は、芯成分21と、鞘成分24の内層繊維22および表層繊維23の3層構造になっている。この糸構造により、糸強度は高いものとなる。また、内層繊維22であるウール等の獣毛繊維は、表層繊維23であるPET短繊維等の獣毛繊維以外の短繊維に被覆され保護されることにより、ウールの傷みが防止される。
【0030】
本発明において、別の例の長短複合紡績糸(結束紡績糸)25を
図4に示す。この例は、長短複合紡績糸25を100質量%としたとき、ウール等の獣毛繊維の混率を35質量%とした例である。
図3と異なるのは、鞘成分28の内層繊維26も内層繊維26に巻き付いた表層繊維27も、ともに、ウール等の獣毛繊維とPET短繊維等の獣毛繊維以外の短繊維の混紡繊維の状態であることである。26bは内層を構成するウール等の獣毛繊維,26aは内層を構成するPET短繊維等の獣毛繊維以外の短繊維である。27bは表層を構成するウール等の獣毛繊維、27aは表層を構成するPET短繊維等の獣毛繊維以外の短繊維である。この長短複合紡績糸も3層構造になっていることから、糸強度は高いものとなる。また、表層では、ウール等の獣毛繊維とPET短繊維等の獣毛繊維以外の短繊維とがしっかりと絡みあっているので、ウール等の獣毛繊維の傷みは防止される。
【0031】
図5は、長短複合紡績糸を製造するためのリング精紡機30の要部を示す斜視図である。積極回転駆動するフロントボトムメインシャフト33にはフロントボトムローラ34を錘ごとに設ける。フロントボトムローラ34の上にはフロントトップローラ35をのせる。フロントトップローラ35はゴムコットで被覆され、荷重を掛けた共通のアーバー36にそれぞれ独立に転動可能に外嵌する。粗糸ボビン31から引き出した短繊維束(粗糸)45は、ガイドバーからトランペットフィーダー37を介してバックローラ38に供給する。バックローラ38から送出されてドラフトエプロン39でドラフトされた短繊維束は、フロントボトムローラ34とフロントトップローラ35にニップされて紡出される。
【0032】
一方、矢印48方向に回転させながら糸巻き体(パーン)32から引き出されたマルチフィラメント糸46は、ニップローラ(供給ローラ)49を通過し、0.5~5%オーバーフィードの状態でヤーンガイド44を通し、フロントトップローラ35の上流側に供給し、フロントボトムローラ34とフロントトップローラ35のニップ線上で短繊維束と重ね合わせ、次いで実撚りが加えられる。実撚りは、糸をスネルワイヤ40とアンチノードリング41を通過させ、トラベラ42を介して錘上の糸管43に巻き取ることにより加えられる。得られた長短複合紡績糸50は糸管43に巻き取られる。
【0033】
図6は、本発明の一例の長短複合紡績糸(リング紡績糸)50を
図6に示す。長短複合紡績糸50は、芯成分57であるマルチフィラメント糸と鞘成分58である短繊維束とが一体的に撚られ、断面から見たとき、マルチフィラメント糸を構成する合成繊維はまとまって存在し、一部露出しているが大部分は鞘成分58の内部に包含され、かつ周辺部にまとまって偏在している。すなわち、芯成分57であるマルチフィラメント糸は、長短複合紡績糸50において偏心している。また、長短複合紡績糸50を側面から見たとき、芯成分57のマルチフィラメント糸は長短複合紡績糸の撚り方向に沿って螺旋状に撚回されている。芯成分57であるマルチフィラメント糸は、そのほとんどが鞘成分58に包囲された構造によって、マルチフィラメント糸は埋め込まれて露出度が低くなり、鞘成分58の特性をより多く引き出せることから、長短複合紡績糸50は、シャリ感を抑え、ふっくらとした柔らかい風合いのものとなる。
【実施例0034】
以下、実施例を用いてさらに具体的に説明する。本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
下記以外の測定方法はJIS又は業界規格にしたがって測定した。
【0035】
<紡績糸の吸水性(吸水長さ)>
編地から糸を取り出し、JIS L 1907:2010に規定されているバイレック法に準拠して、長短複合紡績糸の吸水性を測定した。具体的には、編地から取り出した糸20cmに荷重10gをかけ、水槽の中に20mm浸漬し、浸漬してから10分後に毛細管現象で水面から上昇した水の高さ(mm)を測定した。
【0036】
<芯部分の吸水性(吸水長さ)>
編地から取り出した糸をしごいて鞘部分を取り除き、芯部分(合成繊維マルチフィラメント糸)のみを取り出した。取り出した合成繊維マルチフィラメント糸を10本束ねて、芯部分の吸水性を測定した。具体的には、合成繊維マルチフィラメント糸20cmを10本束ねたものに荷重10gをかけ、水槽の中に20mm浸漬し、浸漬してから10分後に毛細管現象で水面から上昇した水の高さ(mm)を測定した。
【0037】
<編地の吸水性>
JIS L 1907:2010に規定されている滴下法により、吸水性を測定した。
<編地の吸水拡散性>
JIS L 1907:2010に規定されている滴下法を実施し、滴下後5分後の拡散面積を測定した。
【0038】
<編地の速乾性>
ISO 17617:2014 A1法に規定された方法に従いdrying time(100%)で評価した。
【0039】
<編地のべたつき感>
20cm×20cmの編地に編地重量の50%の蒸留水を霧吹きにより噴霧し、5分後に腕の内側に乗せたときの触感を判定した。被実者は10人とした。判定基準は次のとおりとし、平均を評点とした。
4:さらさらとした感じでべたつき感はなく、肌離れ性及び風合いに優れる。
3:べたつき感は少しあるが肌離れ性及び風合いは良好である。
2:べたつき感があり、肌離れ性及び風合いはやや悪い。
1:べたつき感が目立ち、肌離れ性及び風合い非常に悪い。
【0040】
(実施例1)
1.使用繊維
(1)芯成分
芯成分として、ナイロンマルチフィラメント糸(総繊度33decitex,フィラメント本数12本)を使用した。
(2)鞘成分
鞘成分として、平均直径19.5μm、平均繊維長80mmのクロイハーコセット防縮ウールを使用した。
【0041】
2.長短複合紡績糸の作製
図5に示すリング紡績機によりナイロンマルチフィラメント糸(Ny)を芯成分とし、ウール(W)を鞘成分とし、多層構造結束紡績糸を製造した。ナイロンマルチフィラメント糸(Ny)とウール(W)の割合はナイロンマルチフィラメント糸(Ny)21質量%(表1において「Ny21」と表示。)、ウール(W)79質量%(表1において「W79」と表示。)とした。得られた長短複合紡績糸のメートル番手は60番(167decitex)であった。この糸は単糸使いとし、1/60と表示する。
3.編物の編成
前記で得られた長短複合紡績糸を、28ゲージの丸編み機に供給して天竺組織の編物を編成した。得られた編物の単位面積当たりの質量(目付)は150g/m
2であった。
4.編物生地の後加工
編物生地を、酸性染料の染液(水分散液)に浸漬し、常温25℃から98℃まで加熱昇温し、98℃(染色温度)を50分間維持して染色処理した。次に液温を下げ、廃液し、染色された編物生地を10分間水洗した。その後、吸水拡散剤としてポリエステル樹脂系吸水拡散剤(大原パラヂウム化学社製、商品名"パラソルブPET")を2%owf(on the weight of fiber)含む吸水拡散剤の分散水溶液に浸漬し、常温25℃から80℃まで加熱昇温し、80℃を30分間維持して、吸水拡散剤を生地に吸着させる吸着処理をした。次に液温を下げ、廃液し、吸着処理後の生地を10分間水洗し、乾燥した。
【0042】
(実施例2)
芯成分として、ナイロンマルチフィラメント糸(Ny)に換えてポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント糸(PET)(総繊度33decitex,フィラメント本数12本)を使用した以外は実施例1と同様に実施した。
【0043】
(実施例3)
鞘成分をポリエチレンテレフタレート(PET)短繊維(単繊維繊度3.3decitex,バイアスカット品、平均繊維長78mm)33質量%とウール(W)67質量%とし、全体の割合を表1に示した値としたこと以外は、実施例2と同様に実施した。ウール(W)は、実施例1と同じものを用いた。
【0044】
(実施例4)
図2に示す結束紡績機(村田機械社製、商品名”No.870,MURATA VORTEX SPINNER”、紡糸速度300m/分)を使用し、芯成分として、ポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント仮撚り加工糸(PET)(総繊度33decitex,フィラメント本数12本)、鞘成分として、ポリエチレンテレフタレート(PET)短繊維(単繊維繊度1.43decitex, スクエアカット品、平均繊維長38mm)87質量%と、平均直径19.5μm、平均繊維長80mmのクロイハーコ防縮ウールの繊維束(20g/m)を平均繊維長28mmとなるようにスクウエアカットしたウール(W)繊維13質量%とし、全体の割合を表1に示した値としたこと以外は、実施例1と同様に実施した。糸の構造は、
図4に示すとおりであった。
【0045】
(比較例1~4)
染色された編物生地に対して吸水拡散剤の吸着処理を行わないこと以外は実施例1~4と同様にして、比較例1~4の編物生地を得た。
以上の結果を表1~2にまとめて示す。
【0046】
【0047】
【0048】
表1~2から明らかなとおり、実施例1~4では、生地に吸水拡散処理がなされることにより、糸の芯成分である合成繊維マルチフィラメント糸の吸水性が顕著に向上している。また、鞘成分が獣毛繊維を含むことにより、肌離れ性及び風合いに優れている。実施例1~4では、例えば、特許文献1の編地のような多層構造ではないので、軽く薄い、吸水拡散性生地とすることができた。
また、実施例1~4では、染色物の汚染、染料の脱落などの問題がなく、吸水拡散剤の分散水溶液により、吸水拡散剤を生地に対して確実に吸着させることができた。
本発明の吸水拡散性生地は、Tシャツ、スポーツ用シャツ、肌着、インナーパンツ、タイツ、靴下、ビジネス用スーツ、ビジネス用ユニホーム、学生服などに使用される生地として好適である。