(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039385
(43)【公開日】2024-03-22
(54)【発明の名称】過電流検出方法及び過電流検出装置
(51)【国際特許分類】
H02H 3/08 20060101AFI20240314BHJP
【FI】
H02H3/08 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022143901
(22)【出願日】2022-09-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】堀川 敦
【テーマコード(参考)】
5G004
【Fターム(参考)】
5G004AA04
5G004BA04
5G004DC14
(57)【要約】
【課題】電流値が小さく且つ加熱される体積が小さい場合であっても過電流を検出する。
【解決手段】電子回路を収める筐体100の内部に設置した内部ガスセンサ10を用いて、電子回路に発生した過電流を検出する過電流検出方法であって、内部ガスセンサ10が検出した内部のガス濃度Gを取得し、内部のガス濃度Gの変化率に基づいて、電子回路に過電流が発生したか否かを判断する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子回路を収める筐体の内部に設置した内部ガスセンサを用いて、前記電子回路に発生した過電流を検出する過電流検出方法であって、
前記内部ガスセンサが検出した前記内部のガス濃度を取得し、
前記内部のガス濃度の変化率に基づいて、前記電子回路に過電流が発生したか否かを判断する
過電流検出方法。
【請求項2】
第1のガス濃度閾値と、前記第1のガス濃度閾値よりも濃度が高い第2のガス濃度閾値とを設定し、
前記内部のガス濃度が第1のガス濃度閾値を超えたか否かを判断し、
前記内部のガス濃度が第1のガス濃度閾値を超えたと判断したとき、前記第2のガス濃度閾値を高い濃度へ経時的に変化させ、
前記内部のガス濃度が前記第2のガス濃度閾値を超えたとき、前記電子回路に過電流が発生したと判断する
請求項1に記載の過電流検出方法。
【請求項3】
前記第2のガス濃度閾値の変化率は、前記筐体の外部から前記内部にガスが侵入した場合に想定される前記内部のガス濃度の増加率よりも高い値である
請求項2に記載の過電流検出方法。
【請求項4】
前記内部のガス濃度が、前記第1のガス濃度閾値を超えた後、前記第1のガス濃度閾値未満となった場合、前記過電流が発生したか否かの判断を中止する
請求項2に記載の過電流検出方法。
【請求項5】
前記筐体の外部に設置した外部ガスセンサから前記筐体の外部のガス濃度を取得し、
前記内部のガス濃度が前記第1のガス濃度閾値を超えたとき、前記内部のガス濃度と前記外部のガス濃度とを比較し、
前記内部のガス濃度が前記外部のガス濃度よりも高い場合、前記内部のガス濃度が前記第2のガス濃度閾値を超えたか否かを判断する
請求項2に記載の過電流検出方法。
【請求項6】
電子回路を収める筐体の内部に設置した内部ガスセンサと、
前記内部ガスセンサから取得した情報に基づいて、前記電子回路に発生した過電流を検出するコントローラと、
を備える過電流検出装置であって、
前記コントローラは、
前記内部ガスセンサが検出した前記筐体の内部のガス濃度を取得し、
前記内部のガス濃度が第1のガス濃度閾値を超えたか否かを判断し、
前記内部のガス濃度が第1のガス濃度閾値を超えたと判断したとき、前記第1のガス濃度閾値よりも濃度が高い第2のガス濃度閾値を高い濃度へ経時的に変化させ、
前記内部のガス濃度が前記第2のガス濃度閾値を超えたとき、前記電子回路に過電流が発生したと判断する
過電流検出装置。
【請求項7】
前記筐体の外部に設置した外部ガスセンサを更に備え、
前記コントローラは、
前記外部ガスセンサが検出した前記筐体の外部のガス濃度を取得し、
前記内部のガス濃度が前記第1のガス濃度閾値を超えたとき、前記内部のガス濃度と前記外部のガス濃度とを比較し、
前記内部のガス濃度が前記外部のガス濃度よりも高い場合、前記内部のガス濃度が前記第2のガス濃度閾値を超えたか否かを判断する
請求項6に記載の過電流検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過電流検出方法及び過電流検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子回路において、過電流による異常加熱が発生する事がある。電子回路を過電流から保護する一般的な過電流検知方法として、電流検知方式(特許文献1)及び熱検知方式がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電流値が大きい、又は過熱される体積が大きい過電流は、単位時間あたりに発生するエネルギーが大きいため、これらの異常検知方法によって容易に検出できる。一方、電流値が小さく、且つ過熱される体積が小さい過電流は、S/N比が小さいため、検出することが難しい。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、電流値が小さく、且つ加熱される体積が小さい過電流であっても検出できる過電流検出方法及び過電流検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
電子回路を収める筐体の内部に設置した内部ガスセンサを用いて、電子回路に発生した過電流を検出する過電流検出方法であって、内部ガスセンサが検出した筐体の内部のガス濃度を取得し、内部のガス濃度の変化率に基づいて、電子回路に過電流が発生したか否かを判断する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、電流値が小さく、且つ加熱される体積が小さい過電流であっても検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る過電流検出装置の構成例を示す模式図である。
【
図2】
図2は、過電流の状態毎の分類を示す図である。
【
図3】
図3は、筐体の内部のガス濃度Gと、内部ガスセンサ10の出力電圧との関係の一例を示す図である。
【
図4A】
図4Aは、第1実施形態に係る過電流検出装置が過電流を検出する際のセンサ出力値と各ガス濃度閾値との関係を示す模式図である。
【
図4B】
図4Bは、第1実施形態に係る過電流検出装置が過電流を検出する際の故障の進行速度毎のセンサ出力値と第2のガス濃度閾値との関係を示す模式図である。
【
図5】
図5は、筐体の外部から内部にガスが侵入した際のガスセンサの出力値変化を示す図である。
【
図6】
図6は、第1実施形態に係る過電流検出装置の処理の一例を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、第2実施形態に係る過電流検出装置の構成例を示す模式図である。
【
図8】
図8は、第2実施形態に係る過電流検出装置の処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図面を参照して、実施形態を説明する。図面の記載において同一部分には同一符号を付して説明を省略する。
【0010】
電子回路には、電子素子の故障又は配線のショートなどにより過電流が発生する場合がある。過電流とは、電子回路に許容される電流よりも大きな電流が流れることである。過電流の発生により、電子回路が加熱されることで回路基板Bが熱分解又は炭化する。これにより、過電流が発生した回路は、所定の電流値を流すことができなくなり、機能不全に陥る。さらに、電子回路の異常加熱により発煙、発火事故に至る可能性がある。本発明に係る過電流検出装置は、基板が加熱された際に生じるガスを検知することで過電流を検出し、電子回路を保護する。
【0011】
[過電流検出装置の構成]
図1を参照して、第1実施形態に係る過電流検出装置の構成例について説明する。過電流検出装置は、内部ガスセンサ10、及びコントローラ20を備えている。
【0012】
内部ガスセンサ10は、電子回路を収める筐体100の内部に設置され、筐体100の内部のガス濃度を検出する。具体的には、内部ガスセンサ10は、空気以外のガスのガス濃度を検出する。内部ガスセンサ10は、例えば半導体式ガスセンサである。なお、内部ガスセンサ10の筐体内における設置位置は特に限定されない。また、本実施形態で示す電子回路は、電子素子とともに回路基板Bに実装されている。回路基板Bは、例えばプリント基版(PCB:printed wiring board)である。筐体100は、例えば、車両を制御する電子制御装置1の構成要素である。
【0013】
半導体式ガスセンサは、抵抗素子として酸化スズがセンサ回路に組み込まれており、センサ回路の抵抗値に基づいて、還元性ガスのガス濃度を検出する。半導体式ガスセンサは、抵抗素子である酸化スズを熱した状態としている。これにより、空気中では、酸化スズの表面に酸素が吸着してセンサ回路の抵抗値は高い状態となっている。これに対して、還元性ガスが発生した場合、酸化スズの表面に吸着した酸素が還元性ガスと反応することで除去され、センサ回路の抵抗値が低下する。すなわち、半導体式ガスセンサの出力電圧が低下する。なお、本実施形態では、最も一般的な金属酸化物である酸化スズをセンサの抵抗素子に用いているが、抵抗素子の材質はこれに限定されない。抵抗素子には金属酸化物が用いられていればよい。また、内部ガスセンサ10のガス濃度の検知方法はこれに限定されない。内部ガスセンサ10は、例えば、接触燃焼式、電気化学式、NDIR(Non-Dispersive Infrared)式を用いることができる。
【0014】
コントローラ20は、内部ガスセンサ10が検出した筐体100の内部のガス濃度を取得し、内部のガス濃度の変化率に基づいて、電子回路に過電流が発生したか否かを判断する。コントローラ20は、電子回路に過電流が発生したと判断した場合、当該電子回路に電力が供給されないよう、リレーなどのスイッチSを開放して電力を遮断する。コントローラ20は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)及びROM(Random Access Memory)などのメモリ(記憶部)及び入出力部を備える汎用のマイクロコンピュータである。マイクロコンピュータには、過電流検出装置として機能させるためのコンピュータプログラムがインストールされている。コンピュータプログラムを実行することにより、マイクロコンピュータは、過電流検出装置が備える複数の情報処理回路として機能する。なお、本実施形態では、ソフトウェアによって過電流検出装置が備える複数の情報処理回路(21、22)を実現する例を示すが、各情報処理を実行するための専用のハードウェアを用意して、情報処理回路(21、22)を構成することも可能である。また、複数の情報処理回路を個別のハードウェアにより構成してもよい。コントローラ20は、複数の情報処理回路として、ガス濃度判定部21及びバックアップ制御部22を備えている。
【0015】
なお、コントローラ20は、電子制御装置1(ECU:Electronic Control Unit)のコントローラに組み込まれていてもよく、コントローラ20が備える機能は、電子制御装置1の診断バックアップ機能の一部として組み込まれていてもよい。
【0016】
次に、
図2を参照して、過電流の発生状態毎の分類について説明する。過電流は、電流値と加熱される体積との関係から以下の4種類に分類される。
【0017】
第1の過電流F1は、電流値が大きく、且つ加熱される電子回路及び回路基板Bの体積(加熱体積)が大きい過電流である。第1の過電流F1は、電流値が小さい過電流(F3、F4)、及び加熱体積が小さい過電流(F2)と比べて、故障の進行及びガス濃度の上昇が早い。なお、本実施形態において、故障は、過電流による回路基板Bの熱分解又は炭化を含む。
【0018】
第2の過電流F2は、電流値が大きく、且つ加熱体積が小さい過電流である。第2の過電流F2は、電流値が小さい過電流(F3、F4)と比べて故障の進行は早いが、加熱体積が大きい過電流(F1、F3)と比べてガス濃度の上昇は遅い。
【0019】
第3の過電流F3は、電流値が小さく、且つ加熱体積が大きい過電流である。第3の過電流F3は、電流値が大きい過電流(F1、F2)と比べて故障の進行は遅いが、加熱体積が小さい過電流(F2、F4)と比べてガス濃度の上昇が早い。
【0020】
第4の過電流F4は、電流値が小さく、且つ加熱体積が小さい過電流である。第4の過電流F4は、電流値が大きい過電流(F1、F2)又は加熱体積が大きい過電流(F1、F3)と比べて、故障の進行及びガス濃度の上昇が遅い。
【0021】
電流値が大きい、又は過熱される体積が大きい過電流(F1~F3)は、単位時間あたりに投入されるエネルギーが大きく、従来の電流検知方式又は熱検知方式により検出できる。これに対して、電流値が小さく、且つ加熱体積が小さい第4の過電流F4は、S/N比が小さいことから従来の検出方式では検出が難しい。第4の過電流F4が長時間通電された場合、投入されるエネルギー総量が大きくなり、発煙、発火事故に至る可能性がある。第1施形態に係る過電流検出装置は、電流値が小さく、且つ加熱される体積が小さい第4の過電流F4を精度良く検出する。
【0022】
次に、ガス濃度判定部21及びバックアップ制御部22について具体的に説明する。
【0023】
ガス濃度判定部21は、内部ガスセンサ10が検出した筐体100の内部のガス濃度を取得し、取得した内部のガス濃度の変化率に基づいて、電子回路に過電流が発生したか否かを判断する。具体的には、ガス濃度判定部21には、第1のガス濃度閾値と、第1のガス濃度閾値よりも濃度が高い第2のガス濃度閾値とが設定されている。ガス濃度判定部21は、内部のガス濃度が第1のガス濃度閾値を超えたか否かを判断する。そして、ガス濃度判定部21は、内部のガス濃度が第1のガス濃度閾値を超えたと判断したとき、第2のガス濃度閾値を高い濃度へ経時的に変化させ、内部のガス濃度が第2のガス濃度閾値を超えたとき、電子回路に過電流が発生したと判断する。なお、第2のガス濃度閾値を経時的に変化させる際の変化率は、筐体100の外部から内部にガスが侵入した場合に想定される内部のガス濃度の増加率よりも高い値である。ガス濃度判定部21は、内部のガス濃度が、第1のガス濃度閾値を超えた後、第1のガス濃度閾値未満となった場合、過電流が発生したか否かの判断を中止する。
【0024】
バックアップ制御部22は、電子回路に過電流が発生したと判断された場合、過電流が発生している電子回路を電源回路から遮断する。具体的には、電源回路と当該電子回路とを接続しているリレーなどのスイッチ、又はFET(Field Effect Transistor)を開放状態することで電子回路に供給される電力を遮断する。
【0025】
次に、
図3及び
図4Aを参照して、第1のガス濃度閾値T1、及び第2のガス濃度閾値T2の決定方法について説明する。
図3には、筐体100の内部でガスが発生した際のガス濃度Gと、内部ガスセンサ10のセンサ出力値OP1(電圧)との関係の一例が示される。
図4Aは、過電流検出装置が過電流を検出する際のセンサ出力値OP1と各ガス濃度閾値との関係を示している。
【0026】
第1のガス濃度閾値T1、及び第2のガス濃度閾値T2を決定するにあたり、ガス濃度Gを適切に測定できる内部ガスセンサ10が選定されていることが望ましい。前記した通り、過電流の状態によりガス濃度Gの変化率は異なる。また、過電流によりエポキシ樹脂を含むPCB基板が熱分解する際に発生するガスの種類は無作為である。さらに、半導体式ガスセンサのゲインは、反応するガス種によって大きく異なる。したがって、局所的な加熱で発生する低濃度のガスを検出可能とし、幅広いガス種に反応スペクトルを持つ感度の高い半導体式ガスセンサが選定されていることが望ましい。
【0027】
内部ガスセンサ10のセンサ出力値OP1は、回路基板Bの熱分解により内部のガス濃度Gが上昇するとともに低下し、ガス濃度Gがある一定の濃度以上となったところで飽和する。より詳細には、過電流の発生から回路基板Bの熱分解が始まるまで(領域R1)は、ガス濃度Gは上昇せず、センサ出力値OP1は初期値のままである。熱分解が始まるとセンサ出力値OP1に変動が現れる。ただし、この状態はガス濃度Gが低すぎてセンサのS/N比が悪く、実用性がない領域R2である。次に、内部ガスセンサ10がガス濃度Gの上昇と相関関係を持って反応する領域R3に移行する。最後に、センサ出力値OP1は飽和する領域R4に移行し、故障の進行をこれ以上許容できない許容限界に到達する。
【0028】
したがって、センサ出力値OP1に変動が現れるが、ガス濃度Gが低すぎてセンサのS/N比が悪く、実用性がない領域R2を外乱マージン領域とし、センサ出力値OP1が領域R2からガス濃度Gの上昇と相関関係を持って反応する領域R3に移行する点を第1のガス濃度閾値T1(電圧値)として設定する。したがって、第1のガス濃度閾値T1は、筐体100の内部にガスが発生していると判断可能な閾値である。しかしながら、筐体100の外部から内部にガスが侵入した場合、内部のガス濃度Gが第1のガス濃度閾値T1よりも高くなる場合があり、第1のガス濃度閾値T1のみでは過電流の発生を誤検知する可能性がある。ガス濃度限界閾値TLは、過電流による故障の進行をこれ以上許容できない許容限界に対して、内部ガスセンサ10の飽和出力の製造バラつき、温湿度ドリフト、ノイズに対する安全マージンを加味したガス濃度閾値(電圧値)である。そのため、
図4Aに示すように、第1のガス濃度閾値T1よりも濃度が高い第2のガス濃度閾値T2(電圧値)を設定し、内部のガス濃度Gが第1のガス濃度閾値T1を超えたとき、第2のガス濃度閾値T2をガス濃度限界閾値TLへ経時的に変化させる。この時の第2のガス濃度閾値T2の変化率は、筐体100の外部から内部にガスが侵入した場合に想定される内部のガス濃度Gの増加率よりも高い値とする。これにより、筐体100の外部から内部に進入するガスによる過電流の誤検知を抑制することができる。
【0029】
次に、
図4Bを参照して、故障の進行が早い場合及び故障の進行が遅い場合における、過電流を検出する処理について説明する。
【0030】
センサ出力値OP2は、故障の進行が早い場合のセンサ電圧を示す。センサ出力値OP2は、故障発生後に急峻に電圧が低下する。第2のガス濃度閾値T2は、センサ出力値OP2が第1のガス濃度閾値T1を超えたとき、ガス濃度限界閾値TLに向けて経時的に変化するが、センサ出力値OP2は、第2のガス濃度閾値T2の変化量が少ないうちに第2のガス濃度閾値T2を超える。したがって、ガス濃度判定部21は、ガス濃度Gの急峻な変化を早期に検出することができるので、故障の進行が早い場合、すなわち、電流値が大きい又は加熱される体積が大きい過電流に対して早期に対応でき、安全マージンを確保することができる。
【0031】
センサ出力値OP3は、故障の進行が遅い場合のセンサ電圧を示す。センサ出力値OP3は、故障発生後に穏やかに電圧が低下し、第1のガス濃度閾値T1を超えた後、第2のガス濃度閾値T2を超える。したがって、ガス濃度判定部21は、ガス濃度Gの穏やかな変化を精度良く検出することができるので、故障の進行が遅い場合、すなわち、電流値が小さく、且つ過熱される体積が小さい過電流に対しても対応することができる。
【0032】
次に、
図5を参照して、筐体100の外部から内部にガスが侵入した場合のセンサ出力値OP4と第2のガス濃度閾値T2との関係について説明する。第2のガス濃度閾値T2の変化率は、筐体100の外部から内部にガスが侵入した場合に想定される内部のガス濃度Gの増加率よりも高い値となっている。したがって、センサ出力値OP4は、第1のガス濃度閾値T1を超えた場合であっても、第2のガス濃度閾値T2を超えることがないよう経時的に変化する。これにより、ガス濃度判定部21は、筐体100の外部から内部に進入したガスによる過電流の誤検知を防止することができる。
【0033】
[過電流検出方法]
図6を参照して、
図1に示す過電流検出装置が電子制御装置1内における電子回路の過電流を検出し、電子回路を保護するまでの処理の一例を説明する。
【0034】
ステップS10において、内部ガスセンサ10は、筐体100の内部のガス濃度Gを測定する。ステップS10において、ガス濃度判定部21は、内部ガスセンサ10が測定したガス濃度Gを示す情報(電圧値)を取得する。
【0035】
処理はステップS20に進み、ガス濃度判定部21は、内部のガス濃度Gが第1のガス濃度閾値T1を超えたか否かを判断する。内部のガス濃度Gが第1のガス濃度閾値T1を超えている場合(ステップS20でYES)、処理はステップS30に進む。内部のガス濃度Gが第1のガス濃度閾値を超えていない場合(ステップS20でNO)、処理は終了する。
【0036】
ステップS30において、ガス濃度判定部21は、第1のガス濃度閾値T1よりも濃度が高い第2のガス濃度閾値T2を、高い濃度へ経時的に変化させる。なお、この時の第2のガス濃度閾値T2の変化率は、筐体100の外部から内部にガスが侵入した場合に想定される内部のガス濃度の増加率よりも高い値である。
【0037】
処理はステップS40に進み、ガス濃度判定部21は、内部のガス濃度Gが第2のガス濃度閾値T2を超えたか否かを判断する。内部のガス濃度Gが第2のガス濃度閾値T2を超えている場合(ステップS40でYES)、処理はステップS70に進む。内部のガス濃度Gが第2のガス濃度閾値T2を超えていない場合(ステップS40でNO)、処理はステップS50に進む。
【0038】
ステップS50において、ガス濃度判定部21は、内部ガスセンサ10が測定したガス濃度Gを示す情報(電圧値)を再度取得する。処理はステップS60に進み、ガス濃度判定部21は、内部のガス濃度Gが第1のガス濃度閾値T1以下となっているか否かを判断する。内部のガス濃度Gが第1のガス濃度閾値T1以下となっている場合(ステップS60でYES)、処理は終了する。内部のガス濃度Gが第1のガス濃度閾値T1以上である場合(ステップS60でNO)、処理はステップS40に戻る。
【0039】
ステップS70において、バックアップ制御部22は、電子回路に過電流が発生したと判断された場合、過電流が発生している電子回路を電源回路から遮断する。具体的には、電源回路と当該電子回路とを接続しているリレーなどのスイッチ、又はFET(Field Effect Transistor)を開放状態することで電子回路に供給される電力を遮断する。
【0040】
[作用効果]
以上説明したように、第1実施形態によれば以下作用効果が得られる。
【0041】
過電流が発生した場合、通電経路上の銅箔(回路)が加熱されることで回路基板Bが熱分解又は炭化する。したがって、過電流検出装置は、回路基板Bが熱分解又は炭化する際に発生するガスのガス濃度Gを取得し、ガス濃度Gの変化率に基づいて、過電流が発生しているか否かを判断する。これにより、過電流検出装置は、電流値が小さく、且つ過熱される体積が小さい過電流が発生した場合であっても、ガス濃度の変化率に基づいて過電流を検出することができる。また、過電流検出装置は、回路の電流を検出するモニタ回路を設置することなく、電子回路に生じた過電流を検出することができる。
【0042】
過電流検出装置は、筐体100の内部のガス濃度Gが第1のガス濃度閾値T1を超えたか否かを判断することで、内部にガスが発生したか否かを判断することができる。そして、内部のガス濃度Gが第1のガス濃度閾値T1を超えたとき、第1のガス濃度閾値T1よりも濃度が高い第2のガス濃度閾値T2を高い濃度へ経時的に変化させる。これにより、過電流検出装置は、筐体100の外部から内部に侵入するガスによる過電流の誤検知を抑制しつつ、ガス濃度Gの急激な変化を早期に検出できるので、電流値が大きい、又は加熱される体積が大きい過電流に対して早期に対応することができる。また、電流値が小さく、且つ過熱される体積が小さい過電流が発生した場合であっても、内部のガス濃度Gは、徐々に高くなり第2のガス濃度閾値T2を超える。したがって、過電流検出装置は、ガス濃度の穏やかな変化であっても検出できるので、電流値が小さく、且つ過熱される体積が小さい過電流に対しても対応することができる。
【0043】
第2のガス濃度閾値T2の変化率は、筐体100の外部から内部にガスが侵入した場合に想定される内部のガス濃度Gの増加率よりも高い値とする。これにより、筐体100の外部から侵入したガスによる過電流の誤検知を防止することができる。
【0044】
過電流検出装置は、筐体100の内部のガス濃度Gが、第1のガス濃度閾値T1を超えた後、第1のガス濃度閾値T1未満となった場合、過電流が発生したか否かの判断を中止する。これにより、筐体の外部から侵入したガスによる一時的なガス濃度の上昇、又は過電流との判断までには至らなかった際に、過電流が発生したか否かの判断を一度キャンセルして、再度過電流の発生有無を判断することができる。
【0045】
[過電流検出装置の構成]
図7を参照して、第2実施形態に係る過電流検出装置の構成例を説明する。第2実施形態は、第1実施形態に対して外部ガスセンサ30を更に備える点、及びガス濃度判定部21の処理の一部が相違する。したがって、相違点についてのみ説明する。
【0046】
外部ガスセンサ30は、電子回路を収める筐体100の外部に設置され、筐体100の外部のガス濃度を検出する。なお、外部ガスセンサ30は、内部ガスセンサ10と同じセンサである。
【0047】
ガス濃度判定部21は、外部ガスセンサ30から筐体100の外部のガス濃度Gを取得する。ガス濃度判定部21は、内部のガス濃度Gが第1のガス濃度閾値T1を超えたとき、内部のガス濃度Gと外部のガス濃度とを比較し、内部のガス濃度Gが外部のガス濃度よりも高い場合、内部のガス濃度Gが第2のガス濃度閾値T2を超えたか否かを判断する。
【0048】
[過電流検出方法]
図8を参照して、
図7に示す過電流検出装置が電子制御装置1内における電子回路の過電流を検出し、電子回路を保護するまでの処理の一例を説明する。第2実施形態は、第1実施形態に対して、ステップS11及びステップS21の処理を更に備える点で相違する。したがって、相違点についてのみ説明する。
【0049】
ステップS11において、外部ガスセンサ30は、筐体100の外部のガス濃度Gを測定する。ステップS11において、ガス濃度判定部21は、外部ガスセンサ30が測定した外部のガス濃度を示す情報(電圧値)を取得する。
【0050】
ステップS21において、ガス濃度判定部21は、内部のガス濃度Gと外部のガス濃度とを比較し、内部のガス濃度Gが外部のガス濃度よりも高い場合(ステップS21でYES)、処理はステップS30に進む。内部のガス濃度Gが外部のガス濃度以下である場合(ステップS21でNO)、処理は終了する。
【0051】
[作用効果]
以上説明したように、第2実施形態によれば第1実施形態の作用効果に加え、以下作用効果が得られる。
【0052】
過電流検出装置は、筐体100の外部に設置した外部ガスセンサ30から筐体100の外部のガス濃度を取得し、筐体100の内部のガス濃度Gが第1のガス濃度閾値T1を超えたとき、内部のガス濃度Gと外部のガス濃度とを比較する。過電流検出装置は、内部のガス濃度Gが外部のガス濃度よりも高い場合、内部のガス濃度Gが第2のガス濃度閾値T2を超えたか否かを判断する。これにより、筐体100の外部から侵入したガスによる過電流の誤検知を早い段階で排除することができる。
【符号の説明】
【0053】
1 電子制御装置
10 内部ガスセンサ
20 コントローラ
30 外部ガスセンサ
G 内部のガス濃度
S スイッチ
T1 第1のガス濃度閾値
T2 第2のガス濃度閾値