(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039411
(43)【公開日】2024-03-22
(54)【発明の名称】偏光制御素子及び顕微鏡
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20240314BHJP
G02B 21/00 20060101ALI20240314BHJP
【FI】
G02B5/30
G02B21/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022143943
(22)【出願日】2022-09-09
(71)【出願人】
【識別番号】000133227
【氏名又は名称】株式会社タムロン
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】細谷 成紀
(72)【発明者】
【氏名】李 潔
【テーマコード(参考)】
2H052
2H149
【Fターム(参考)】
2H052AA01
2H149AA22
2H149AB01
2H149BA23
2H149DA02
2H149DA05
2H149DA12
2H149EA02
2H149EA19
2H149FA41Y
2H149FA42Z
(57)【要約】
【課題】波長板を用いることなく、ラジアル偏光又はアジマス偏光の光ビームを出射することができる偏光制御素子を実現すること。
【解決手段】偏光制御素子(10)は、4個の偏光領域(121~124)からなる偏光子(12)と、等方性位相板(13)とを備え、各偏光領域(121~124)は、90°の頂角を有する扇型であり、各偏光領域(121~124)の偏光軸は、前記頂角の二等分線に対して平行であり、等方性位相板(13)は、偏光領域(121~124)のうち周方向において連続する偏光領域(122,123)を覆っている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
4n個(nは、1以上の整数)の偏光領域からなる偏光子と、等方性位相板とを備え、
各偏光領域は、(1)360°/4nの頂角と、当該頂角を挟み込む一対の挟辺とを有し、且つ、(2)前記頂角の頂点同士が一致又は近接するとともに、各挟辺が隣接する偏光領域の一方の挟辺と一致又は近接するように設けられており、
前記偏光子における各偏光領域の偏光軸は、前記頂角の二等分線に対して平行及び直交の何れか一方に統一されており、
前記等方性位相板は、4n個の前記偏光領域のうち周方向において連続する2n個の偏光領域を覆うように設けられている、
ことを特徴とする偏光制御素子。
【請求項2】
前記等方性位相板は、波長が所定の動作波長である光ビームの位相を1/2波長遅らせる、
ことを特徴とする請求項1に記載の偏光制御素子。
【請求項3】
前記等方性位相板は、互いに異なる複数の動作波長の各々にそれぞれが対応している複数の等方性位相板であって、波長が各動作波長である光ビームの位相を1/2波長遅らせる複数の等方性位相板により構成されており、
前記偏光子と、前記複数の等方性位相板の各々とは、別体である、
ことを特徴とする請求項1に記載の偏光制御素子。
【請求項4】
前記偏光子を第1の偏光子として、
前記第1の偏光子の前段に設けられ、且つ、単一方向に沿った偏光軸を有する第2の偏光子を更に備え、
前記第1の偏光子における各偏光領域の偏光軸は、前記頂角の二等分線に対して平行であり、
前記第2の偏光子の前記偏光軸と、4n個の前記偏光領域のうち前記等方性位相板により覆われている領域と覆われていない領域との境界と、は直交している、
ことを特徴とする請求項1に記載の偏光制御素子。
【請求項5】
前記偏光子を第1の偏光子として、
前記第1の偏光子の前段に設けられ、且つ、単一方向に沿った偏光軸を有する第2の偏光子を更に備え、
前記第1の偏光子における各偏光領域の偏光軸は、前記頂角の二等分線に対して直交しており、
前記第2の偏光子の前記偏光軸と、4n個の前記偏光領域のうち前記等方性位相板により覆われている領域と覆われていない領域との境界と、は平行である、
ことを特徴とする請求項1に記載の偏光制御素子。
【請求項6】
前記偏光子と、前記等方性位相板とは、一体化されている、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の偏光制御素子。
【請求項7】
前記偏光子は、ワイヤーグリッド偏光子である、
ことを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の偏光制御素子。
【請求項8】
請求項4に記載の偏光制御素子である第1の偏光制御素子と、
請求項5に記載の偏光制御素子である第2の偏光制御素子と、
観察に用いる光ビームの光路上に偏光制御素子を挿入する場合に、当該偏光制御素子として、前記第1の偏光制御素子又は前記第2の偏光制御素子を選択する選択手段と、を備えている、
ことを特徴とする顕微鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、出射光の偏光状態を制御する偏光制御素子に関する。また、本発明は、そのような偏光制御素子を備えた顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
一方向に向かって伝搬する光の束あるいは光の流れは、光ビームと呼ばれ、様々な分野において広く利用されている。
【0003】
光ビームの偏光状態としては、直線偏光及び円偏光が知られている。直線偏光及び円偏光は、光ビームの伝搬方向に直交する断面(以下においてビーム断面と称する)において、空間的に均一な偏光分布を有する。一方、ビーム断面において、空間的に不均一な偏光分布を有する光ビームも知られている。このように、空間的に不均一な偏光分布を有する光ビームは、ベクトルビームとも呼ばれる。ベクトルビームの例としては、ラジアル偏光及びアジマス偏光が挙げられる。ラジアル偏光を高NA(Numerical Aperture)になるように集光させた場合、光ビームの進行方向と平行な方向に強い電場が形成され、光ビームの進行方向に直交する平面の面内方向に強い磁場が形成される。また、アジマス偏光を高NAになるように集光させた場合、光ビームの進行方向に直交する平面の面内方向に強い電場形成とZ方向に強い磁場形成がされる(逆の性質を持つ)特徴があり、これを利用して光による材料分析や、レーザ加工の分野で応用が進んでいる。
【0004】
特許文献1の
図1には、直線偏光の光ビームを入射した場合に、直線偏光の偏光方向に応じて、ラジアル偏光(特許文献1の
図2参照)又はアジマス偏光(特許文献1の
図3参照)を出射する偏光制御素子が記載されている。より具体的には、(1)特許文献の
図1に図示された座標系のY軸方向と平行な直線偏光を偏光制御素子に入射させた場合、偏光制御素子は、疑似ラジアル偏光を出射し、(2)特許文献の
図1に図示された座標系のX軸方向と平行な直線偏光を偏光制御素子に入射させた場合、偏光制御素子は、疑似アジマス偏光を出射する。疑似ラジアル偏光とは、偏光状態をラジアル偏光に近似することができる偏光を指し、疑似アジマス偏光とは、偏光状態をアジマス偏光に近似することができる偏光を指す。本願においては、ラジアル偏光と疑似ラジアル偏光とを厳密には区別せず、疑似ラジアル偏光も含めて単にラジアル偏光と称する。アジマス偏光についても同様である。
【0005】
この偏光制御素子は、輪郭が正八角形になるように張り合わされた8個の1/2波長板を含む。以下においては、1/2波長板のことを単に波長板とも呼ぶ。各波長板の形状は、互いに合同であり、且つ、頂角が45°である二等辺三角形である。8個の波長板の各々は、それぞれ光学軸の向きが特許文献1の
図1に図示された状態になるように、もととなる波長板から切り出されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、特許文献1に記載の偏光制御素子は、入射する直線偏光の偏光方向が所定の偏光方向と平行である場合には、偏光度が高いラジアル偏光又はアジマス偏光を出射することができる。ここで、偏光度が高いラジアル偏光とは、アジマス偏光の成分を含まないラジアル偏光のことを意味する。同様に、偏光度が高いアジマス偏光とは、ラジアル偏光の成分を含まないアジマス偏光のことを意味する。一方、入射する直線偏光の偏光方向が所定の偏光方向から僅かにでもずれている場合、特許文献1に記載の偏光制御素子が出射するラジアル偏光又はアジマス偏光の偏光度は、低下する。これは、入射する直線偏光の偏光方向が所定の偏光方向からずれることにより、出射されるべき一方の偏光(例えばラジアル偏光)に他方の偏光(例えばアジマス偏光)の成分が混ざるためである。
【0008】
本発明の一態様は、上述した課題に鑑みなされたものであり、その目的は、入射する直線偏光の偏光方向が所定の偏光方向からずれた場合にも、出射するラジアル偏光又はアジマス偏光の偏光度が低下しない偏光制御素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の第1の態様に係る偏光制御素子は、4n個(nは、1以上の整数)の偏光領域からなる偏光子と、等方性位相板とを備え、各偏光領域は、(1)360°/4nの頂角と、当該頂角を挟み込む一対の挟辺とを有し、且つ、(2)前記頂角の頂点同士が一致又は近接するとともに、各挟辺が隣接する偏光領域の一方の挟辺と一致又は近接するように設けられており、前記偏光子における各偏光領域の偏光軸は、前記頂角の二等分線に対して平行及び直交の何れか一方に統一されており、
前記等方性位相板は、4n個の前記偏光領域のうち周方向において連続する2n個の偏光領域を覆うように設けられている、ことを特徴とする。
【0010】
本偏光制御素子においては、コヒーレンスが高い直線偏光の光ビームからラジアル偏光又はアジマス偏光の光ビームを得ることができる。この場合、偏光子を用いて光ビームの偏光方向を限定し、偏光方向を限定された光ビームのうち半分の領域を透過する光ビームの位相を遅らせることによってラジアル偏光又はアジマス偏光の光ビームが得られる。したがって、入射させる光ビームとして直線偏光を用いる場合に、直線偏光の偏光方向が所定の偏光方向からずれている場合であっても、得られるラジアル偏光又はアジマス偏光の光ビームの強度が低下するものの偏光度は低下しない。したがって、本偏光制御素子は、入射する直線偏光の偏光方向が所定の偏光方向からずれた場合にも、出射するラジアル偏光又はアジマス偏光の偏光度に生じ得る低下を抑制することができる。
【0011】
また、本偏光制御素子においては、上述した機能に加えて、コヒーレンスが高いランダム偏光の光ビームからもラジアル偏光又はアジマス偏光の光ビームを得るという機能を有する。したがって、ランダム偏光の光ビームを入射させる場合に、わざわざランダム偏光を直線偏光に変換する必要がないため、偏光制御素子の構成をシンプルにすることができる。
【0012】
また、本発明の第2の態様に係る偏光制御素子においては、上述した第1の態様に係る偏光制御素子の構成に加えて、前記等方性位相板は、波長が所定の動作波長である光ビームの位相を1/2波長遅らせる、構成が採用されている。
【0013】
上記の構成によれば、得られるラジアル偏光又はアジマス偏光における空間的な偏光分布を所望の偏光分布に近づけることができる。
【0014】
また、本発明の第6の態様に係る偏光制御素子においては、上述した第1の態様に係る偏光制御素子の構成に加えて、前記等方性位相板は、互いに異なる複数の動作波長の各々にそれぞれが対応している複数の等方性位相板であって、波長が各動作波長である光ビームの位相を1/2波長遅らせる複数の等方性位相板により構成されており、前記偏光子と、前記複数の等方性位相板の各々とは、別体である、構成が採用されている。
【0015】
等方性位相板は、位相遅延量における波長依存性が大きくなりがちである。上記の構成によれば、異なる複数の動作波長に応じて複数の等方性位相板のなかから適切な等方性位相板を選択することができるので、幅広い動作波長の帯域において所望の偏光を有するラジアル偏光又はアジマス偏光のベクトルビームを得ることができる。
【0016】
また、本発明の第4の態様に係る偏光制御素子においては、上述した第1の態様~第3の態様の何れか一態様に係る偏光制御素子の構成に加えて、前記偏光子を第1の偏光子として、前記第1の偏光子の前段に設けられ、且つ、単一方向に沿った偏光軸を有する第2の偏光子を更に備え、前記第1の偏光子における各偏光領域の偏光軸は、前記頂角の二等分線に対して平行であり、前記第2の偏光子の前記偏光軸と、4n個の前記偏光領域のうち前記等方性位相板により覆われている領域と覆われていない領域との境界と、は直交している、構成が採用されている。
【0017】
このように、本発明の一態様に係る偏光制御偏光制御素子においては、第1の偏光子の前段に第2の偏光子が設けられていてもよい。
【0018】
また、本発明の第5の態様に係る偏光制御素子においては、上述した第1の態様~第3の態様の何れか一態様に係る偏光制御素子の構成に加えて、前記偏光子を第1の偏光子として、前記第1の偏光子の前段に設けられ、且つ、単一方向に沿った偏光軸を有する第2の偏光子を更に備え、前記第1の偏光子における各偏光領域の偏光軸は、前記頂角の二等分線に対して直交しており、前記第2の偏光子の前記偏光軸と、4n個の前記偏光領域のうち前記等方性位相板により覆われている領域と覆われていない領域との境界と、は平行である、構成が採用されている。
【0019】
このように、本発明の一態様に係る偏光制御偏光制御素子においては、第1の偏光子の前段に第2の偏光子が設けられていてもよい。
【0020】
また、本発明の第6の態様に係る偏光制御素子においては、上述した第1の態様又は第2の態様に係る偏光制御素子の構成に加えて、前記偏光子と、前記等方性位相板とは、一体化されている、構成が採用されている。
【0021】
上記の構成によれば、前記偏光子と、前記等方性位相板とが別体である場合と比較して、偏光制御素子を小型化できる。また、上記の構成によれば、前記偏光子と前記等方性位相板とが別体である場合に、前記偏光子と前記等方性位相板との間に介在し得る空気の層をなくすことができるので、界面における反射を低減することができる。また、上記の構成によれば、前記偏光子に対する前記等方性位相板の光軸調整が不要であるため、ユーザが偏光制御素子を使用する際の手間を省くことができる。
【0022】
また、本発明の第7の態様に係る偏光制御素子においては、上述した第1の態様~第6の態様の何れか一態様に係る偏光制御素子の構成に加えて、前記偏光子は、ワイヤーグリッド偏光子である、構成が採用されている。
【0023】
上記の構成によれば、偏光子を製造する工程において、4n個の偏光領域を張り合わせる必要がないため、隣接する偏光領域同士の境界において生じ得る偏光の乱れを抑制することができる。また、4n個の偏光領域を張り合わせるための部材(例えば接着剤)が不要であるため、より高出力な光ビームを偏光制御素子に入力することができる。すなわち、より高出力なラジアル偏光又はアジマス偏光を得ることができる。
【0024】
また、本発明の第8の態様に係る顕微鏡は、本発明の第4の態様に係る偏光制御素子である第1の偏光制御素子と、本発明の第5の態様に係る偏光制御素子である第2の偏光制御素子と、観察に用いる光ビームの光路上に偏光制御素子を挿入する場合に、当該偏光制御素子として、前記第1の偏光制御素子又は前記第2の偏光制御素子を選択する選択手段と、を備えている。
【0025】
上記の構成によれば、観察に用いる光ビームとして、無偏光である光ビーム、ラジアル偏光である光ビーム、及びアジマス偏光である光ビームの何れかを選択することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の一態様によれば、入射する直線偏光の偏光方向が所定の偏光方向からずれた場合にも、出射するラジアル偏光又はアジマス偏光の偏光度に生じ得る低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る偏光制御素子の模式的な斜視図である。
【
図2】
図1に図示した偏光制御素子が備えている偏光子及び等方性位相板の平面図である。
【
図3】
図1に図示した偏光制御素子の一態様の模式的な斜視図である。
【
図4】本発明の第1の変形例であって、
図1に図示した偏光制御素子の変形例が備えている2つの偏光子及び等方性位相板の平面図である。
【
図5】
図4に図示した偏光制御素子が備えうるフィルターの平面図である。
【
図6】本発明の第2の実施形態に係る偏光制御素子が備えている偏光子及び等方性位相板の平面図である。
【
図7】本発明の第2の変形例であって、
図6に図示した偏光制御素子の変形例が備えている偏光子及び等方性位相板の平面図である。
【
図8】本発明の第3の実施形態に係る偏光制御素子が備えている2つの偏光子及び2つの等方性位相板の平面図である。
【
図9】本発明の第4の実施形態に係る顕微鏡の光学系を示す模式図である。
【
図10】(a)及び(b)は、それぞれ、本発明の実施例である偏光制御素子の一部を構成する偏光子を製造するために用いたマスクの第1の主面及び第2の主面の平面図である。(c)は、(a)及び(b)に図示したマスクを第1の主面から見た場合の矢視図である。(d)は、本発明の実施例である偏光制御素子の一部を構成する等方性位相板を製造するために用いたマスクの平面図である。
【
図11】(a)は、本発明の実施例である偏光制御素子の一部を構成する偏光子を製造するために用いた基板の平面図である。(b)は、上記偏光子の偏光領域のうち一部の偏光領域を形成した基板の平面図である。(c)は、上記偏光子の全偏光領域を形成した基板の平面図である。(d)は、(c)に図示した基板の主面であって、偏光領域が形成されていない側の主面に等方性位相板を形成した基板の平面図である。
【
図12】(a)は、本発明の実施例である偏光制御素子の一部を構成する偏光子の偏光領域における消光比の波長依存性を示すグラフである。(b)は、上記偏光領域の透過率の波長依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
〔第1の実施形態〕
<偏光制御素子の構成>
本発明の第1の実施形態に係る偏光制御素子10について、
図1~
図3を参照して説明する。
図1は、偏光制御素子10の模式的な斜視図である。
図2は、偏光制御素子10が備えている偏光子12、及び等方性位相板13の平面図である。
図2においては、
図1においては一体化されている偏光子12及び等方性位相板13を分解したうえで、偏光子12及び等方性位相板13の各々を図示している。なお、
図2には、偏光制御素子10を透過する光ビームL
I、光ビームL
12、及び光ビームL
13のビーム断面における偏光状態を併せて図示している。なお、ビーム断面とは、光ビームの断面のうち、光ビームの伝搬方向に直交する断面を指す。
図3は、偏光制御素子10の一態様の模式的な斜視図である。
【0029】
また、
図1及び
図2に図示する直交座標系においては、各光ビームL
I,L
12,L
13の伝搬方向をz軸正方向と定め、光ビームの伝搬方向に直交する面内において、z軸正方向とともに右手系の直交座標系を構成するようにx軸正方向及びy軸正方向を定めている。
図1及び
図2においては、y軸正方向が上向きとなるように直交座標系を図示している。
【0030】
図1に示すように、偏光制御素子10は、偏光子12と、等方性位相板13とを備えている。偏光子12及び等方性位相板13は、何れも、光ビームが入出射する一対の光学有効面を一対の主面とする板状部材である。
【0031】
偏光子12の輪郭の形状は、適宜定めることができる。ただし、本発明の一態様においては、偏光子12を主面の面内方向において回転させる場合もあり得る。そのため、偏光子12の輪郭は、円形あるいは正多角形のように回転対称性が高い形状であることが好ましい。また、前記輪郭が正多角形である場合、正多角形の角数は、4以上であることが好ましい。本実施形態では、偏光子12の輪郭の形状として円形を採用している。
【0032】
等方性位相板13は、偏光子12の主面のうち所定の領域を覆うことができればよく、その輪郭の形状は、適宜定めることができる。等方性位相板13は、
図1及び
図2から分かるように、偏光子12の4つの偏光領域121~124のうち半分の領域(本実施形態では偏光領域122,123)を覆う。そのため、等方性位相板13の輪郭は、偏光子12を2等分した形状であることが好ましい。本実施形態では、偏光子12の輪郭の形状が円形であるため、等方性位相板13の輪郭の形状として半円形を採用している。
【0033】
また、偏光子12及び等方性位相板13の大きさも適宜定めることができる。本実施形態においては、円形である偏光子12の直径と、半円形である等方性位相板13の直径とが等しい構成を採用している。
【0034】
偏光子12及び等方性位相板13の各々は、
図1に示すように、各々の主面が互いに平行になるように配置されている。また、偏光子12と等方性位相板13とは、各々の近接する側の主面同士が接触した状態で一体化されている。偏光子12及び等方性位相板13を一体化した状態で固定する固定手段は、適宜選択することができる。この固定手段の例としては、接着剤や、光学素子を固定するためのホルダーなどが挙げられる。固定手段として接着剤を用いる場合、硬化した状態における屈折率が、偏光子12及び等方性位相板13の屈折率にできるだけ近い接着剤を用いることが好ましい。この構成によれば、偏光子12と等方性位相板13との界面において生じ得る反射を抑制することができる。
【0035】
また、偏光子12及び等方性位相板13の基材の材質として同じガラスを採用する場合には、偏光子12の一方の主面のうち等方性位相板13により覆われる領域に、上記基材の材質と同じガラスの薄膜を成膜し、偏光子12と等方性位相板13との間にこの薄膜を介在させることにより、偏光子12と等方性位相板13とを一体化することもできる。これは、常温接合として知られている技術である。ここで、上記基材の材質の例としては二酸化シリコン(SiO2)があげられる。また、偏光子12と等方性位相板13との間に介在する薄膜を透過することにより生じる位相差と、薄膜の厚みtとの関係は、以下の通りである。
σ=t(2π/λ)(n2-1)
【0036】
ここで、σは、位相差であり、λは、透過する光ビームの波長であり、n2は、媒質(例えば二酸化シリコン)の屈折率である。ここで、σに所望の位相差代入し、厚みtについて解くことにより厚みtが求められる。例えば、σ=πとなるように偏光制御素子10を設計する場合、t=λ/(2×(n2-1))が得られる。
【0037】
なお、偏光子12と等方性位相板13との間に介在する薄膜は、上述したように、厚みtに異存して光ビームの位相を遅らせる。すなわち、この薄膜は、等方性位相板13と同様の機能を有するため、等方性位相板13の一部と考えることができる。偏光子12と等方性位相板13との間に薄膜を介在させる場合には、薄膜に起因する位相差σと、等方性位相板13に起因する位相差との和が所望の値(例えば1/2波長)になるように、薄膜及び等方性位相板13を設計すればよい。なお、位相差σと、等方性位相板13に起因する位相差との和は、λ/2に限定されず、(2N+1)λ/2であってもよい。ここで、Nは、1以上の整数である。
【0038】
(偏光子)
偏光子12は、4n個(nは、1以上の整数)の偏光領域により構成されている(
図2参照)。本実施形態では、n=1の場合、すなわち、4個の偏光領域121~124により偏光子12が構成されている場合について説明する。ただし、nは、2以上であってもよい。n=2の場合について、
図4を参照して後述する。
【0039】
各偏光領域12i(iは、1以上4以下の整数)は、90°(=360°/4)の頂角と、当該頂角を挟み込む一対の挟辺とを有する。
図2においては、偏光領域12iの代表として偏光領域121を用い、偏光領域121の頂角の部分に直角の記号を付している。また、各偏光領域12iにおいて、一対の挟辺の端部であって、頂角と逆側の端部は、円弧により構成されている。すなわち、各偏光領域12iの形状は、円形を四等分することによって得られる扇形である(
図2参照)。ただし、各偏光領域12iにおいて、一対の挟辺の端部であって、頂角と逆側の端部を接続する部分の形状は、円弧に限定されず、適宜定めることができる。例えば、各偏光領域12iは、正方形であってもよいし、直角二等辺三角形であってもよい。
【0040】
偏光子12において、各偏光領域12iは、頂角の頂点同士が一致又は近接するとともに、各挟辺が隣接する偏光領域の一方の挟辺と一致又は近接するように設けられている(
図2参照)。例えば、本実施形態において、偏光領域121の一方の挟辺は、偏光領域122の一方の挟辺と一致しており、偏光領域121の他方の挟辺は、偏光領域124の一方の挟辺と一致している。偏光領域122~124についても、偏光領域121と同様である。このように構成された偏光子12は、円形の輪郭を有する。
【0041】
本実施形態において、各偏光領域12iの偏光軸は、各偏光領域12iの頂角の二等分線に対して平行である。ただし、本発明の一態様においては、
図6及び
図7に図示するように、各偏光領域12iの偏光軸は、各偏光領域12iの頂角の二等分線に対して直交していてもよい。本願発明の一態様においては、各偏光領域の偏光軸は、各偏光領域の頂角の二等分線に対して平行及び直交の何れか一方に統一されていればよい。
【0042】
なお、偏光子12を構成する各偏光領域12iは、市場に出回っている様々な態様の偏光子の中から適宜選択できる。各偏光領域12iとして、ポリマーからなる偏光子や、金属ナノ粒子からなる偏光子などを採用する場合には、母材となる大きな偏光子から、偏光軸が所定の方向に配向するように各偏光領域12iを切り出し、各偏光領域12iの挟辺同士を張り合わせることによって偏光子12を構成することができる。このとき、各偏光領域12iを固定するために、透明基板を用いることもできる。また、各偏光領域12iとして、ワイヤーグリッド偏光子を用いる場合には、1枚の透明基板上に、フォトリソグラフィ技術を用いて、各偏光領域12iを設けることができる。この場合には、各偏光領域12iにおいて挟辺同士の張り合わせが不要であるため、各偏光領域12iの境界において生じ得る偏光の乱れを抑制することができる。
【0043】
(等方性位相板)
等方性位相板13は、光ビームが空気中を伝搬している場合と比較して、光ビームの位相を所定の位相量だけ遅延するように構成されている。本実施形態では、等方性位相板13が遅延させる位相量は、所定の動作波長の1/2波長である。
【0044】
等方性位相板13としては、屈折率が空気よりも大きく、且つ、波長が所定の動作波長である光ビームに対して透光性を有する材料からなる板状部材を用いることができる。なお、本実施形態において板状部材と表現しているものの、等方性位相板13の厚さは限定されない。例えば、膜厚が数百nmである膜も、等方性位相板13を構成する板状部材の範疇に含まれる。等方性位相板13を構成する材料は、光学異方性のない材質であれば限定されないが、本実施形態では、屈折率が1.453である二酸化シリコン(SiO2)を用いる。なお、動作波長は、可視域に含まれていてもよいし、近赤外域に含まれていてもよい。本実施形態では、動作波長として805nmを用いる。
【0045】
等方性位相板13は、4n個の偏光領域のうち周方向において連続する2n個の偏光領域を覆うように設けられている。本実施形態においては、n=1であるので、等方性位相板13は、4個の偏光領域121~124のうち周方向において連続する2個の偏光領域(本実施形態では、偏光領域122,123)を覆うように設けられている。すなわち、4個の偏光領域121~124のうち、等方性位相板13により覆われている領域(偏光領域122,123)と、等方性位相板13により覆われていない領域(偏光領域121,124)との境界は、x軸方向と平行である。
【0046】
(第2の偏光子)
以上のように、本実施形態の偏光制御素子10は、偏光子12及び等方性位相板13を備えている。ただし、偏光制御素子10の一態様は、偏光子12の前段に設けられた偏光子11を更に備えていてもよい(
図3参照)。このように、偏光制御素子10が2つの偏光子を備えている場合、偏光子12は、第1の偏光子の一例であり、偏光子11は、第2の偏光子の一例である。
【0047】
偏光子11は、単一方向に沿った偏光軸を有する。
図3に図示された偏光子11に付した矢印は、偏光子11の偏光軸の方向を表す。
図3に示すように、偏光子12の前段に偏光子11を設ける場合、偏光子11は、その偏光軸がy軸方向と平行になるように配置されている。偏光子11は、市場に出回っている様々な態様の偏光子の中から適宜選択できる。偏光子11の例としては、ポラロイド(登録商標)などのポリマーからなる偏光子や、電気石及び方解石に代表される鉱物結晶からなる偏光子や、ワイヤーグリッド偏光子などが挙げられる。偏光子12の前段に偏光子11を設けることにより、光ビームL
Iにおける偏光度を高めたり、光ビームL
Iにおける偏光方向をy軸方向により合わせたりすることができる。
【0048】
(偏光制御素子の機能)
図1に示すように、偏光子12の一方の主面に対して直角に、コヒーレンスが高い直線偏光である光ビームL
Iを入射させる。本実施形態において、光ビームL
Iは、コリメートされている。また、光ビームL
Iの偏光方向は、
図1に図示する矢印のようにy軸方向と平行である。このような光ビームL
Iとしては、レーザ光源から出射されるレーザビームを用いることができる。なお、多くの場合、レーザビームは、直線偏光であるため、そのまま偏光子12に対して入射させることができる。
図1においては、光ビームL
Iの伝搬方向を矢印D
Pで表す。
【0049】
偏光子12は、透過する光ビームLIを光ビームL12に変換する。光ビームL12のうち、偏光領域121を透過した光ビーム及び偏光領域123を透過した光ビームは、電場方向が2時半の方向を向いている。また、光ビームL12のうち、偏光領域122を透過した光ビーム及び偏光領域124を透過した光ビームは、電場方向が10時半の方向を向いている。
【0050】
等方性位相板13は、透過する光ビームL12を光ビームL13に変換する。本実施形態において、等方性位相板13は、偏光領域122,123を覆っており、透過する光ビームの位相を1/2波長だけ遅延させる。したがって、(1)光ビームL13のうち、偏光領域121を透過し、且つ、等方性位相板13を透過しなかった光ビームは、電場方向が2時半の方向を向いており、(2)偏光領域122を透過し、且つ、等方性位相板13を透過した光ビームは、電場方向が4時半の方向を向いており、(3)偏光領域123を透過し、且つ、等方性位相板13を透過した光ビームは、電場方向が7時半の方向を向いており、(4)偏光領域124を透過し、且つ、等方性位相板13を透過しなかった光ビームは、電場方向が10時半の方向を向いている。このように、等方性位相板13により光ビームL12から変換された光ビームL13は、ラジアル偏光である。
【0051】
以上のように、偏光制御素子10は、コヒーレンスが高い直線偏光である光ビームLIからラジアル偏光である光ビームL13を生成することができる。
【0052】
なお、本実施形態では、光ビームLIの偏光方向がy軸方向と平行であるものとして偏光制御素子10の機能を説明した。この構成によれば、得られるラジアル偏光の強度を最大化することができる。ただし、偏光制御素子10においては、光ビームLIの偏光方向が所定の方向であるy軸方向からずれている場合であっても、得られるラジアル偏光の光ビームの強度が低下するだけであり、ラジアル偏光の光ビームにおける偏光度は低下しない。したがって、偏光制御素子10は、入射する直線偏光の偏光方向が所定の偏光方向からずれた場合にも、出射するラジアル偏光の偏光度に生じ得る低下を抑制することができる。
【0053】
また、偏光制御素子10においては、偏光子12に入射する光ビームLIとして、コヒーレンスが高い直線偏光の代わりに、コヒーレンスが高いランダム偏光の光ビームを用いることもできる。偏光制御素子10は、偏光子12及び等方性位相板13を用いてラジアル偏光を生成するものであり、特許文献1に記載の発明のように1/2波長板を用いるものではない。コヒーレンスが高いランダム偏光の光ビームから、直線偏光を介さずに、ラジアル偏光の光ビームを得るという機能は、特許文献1に記載の発明では実現できない本願発明の一態様に特有の機能である。したがって、偏光制御素子10は、偏光子12に入射する光ビームLIとしてコヒーレンスが高いランダム偏光の光ビームを用いる場合に、上述した偏光子11を省略することができるので、偏光制御素子の構成をシンプルにすることができる。なお、コヒーレンスが高いランダム偏光により構成される光ビームの一例としては、レーザ光源により生成されるレーザビームであって、光ファイバを透過させた後のレーザビームや、SC(スーパーコンティニウム)光源から生成されたレーザビームが挙げられる。
【0054】
<第1の変形例>
図1及び
図2に図示した偏光制御素子10は、本願発明の一態様に係る偏光制御素子において、n=1を採用した一実施形態である。ここでは、本発明の第1の変形例であり、n=2を採用している偏光制御素子10Aについて、
図4を参照して説明する。偏光制御素子10Aは、偏光制御素子10の一変形例である。
図4は、偏光制御素子10Aが備えている偏光子12A及び等方性位相板13の平面図である。
図4においては、一体化されている偏光子12A及び等方性位相板13を分解したうえで、偏光子12A及び等方性位相板13の各々を図示している。
【0055】
偏光制御素子10Aは、偏光制御素子10をベースにして、偏光制御素子10が備えている偏光子12を偏光子12Aに置換することによって得られる。したがって、本変形例では、等方性位相板13の説明を省略し、偏光子12Aについて説明する。
【0056】
上述したように、偏光子12Aは、n=2を採用している(
図4参照)。すなわち、偏光子12Aは、8個の偏光領域121A~128Aを備えている。各偏光領域12jA(jは、1以上8以下の整数)は、45°(=360°/8)の頂角と、当該頂角を挟み込む一対の挟辺とを有する。本変形例において、各偏光領域12jAは、円形を八等分することによって得られる扇形である(
図4参照)。
【0057】
偏光子12Aにおいて、各偏光領域12jAは、頂角の頂点同士が一致又は近接するとともに、各挟辺が隣接する偏光領域の一方の挟辺と一致又は近接するように設けられている(
図4参照)。このように構成された偏光子12Aは、円形の輪郭を有する。
【0058】
本変形例において、各偏光領域12jの偏光軸は、各偏光領域12jの頂角の二等分線に対して平行である。
偏光子12Aは、偏光子12と同様に、市場に出回っている様々な態様の偏光子の中から適宜選択できる。
【0059】
(偏光制御素子の機能)
偏光制御素子10Aの機能についても、偏光制御素子10の機能と同様である点については説明を省略する。
【0060】
偏光子12Aは、透過する光ビームL
11を光ビームL
12に変換する。光ビームL
12のビーム断面における光ビームL
12の電場方向は、
図4に示す通りである。なお、偏光領域121Aの偏光軸と偏光領域122Aの偏光軸とを比較した場合、偏光領域121Aの偏光軸のほうが偏光子11Aの偏光軸の方向であるy軸方向に沿った成分が大きい。したがって、光ビームL
12のビーム断面における光ビームL
12の電場強度に着目すると、偏光領域121Aを透過した光ビームL
12の電場強度のほうが偏光領域122Aを透過した光ビームL
12の電場強度よりも大きい。同様に、偏光領域124A,125A,128Aを透過した光ビームL
12の電場強度のほうが偏光領域123A,126A,127Aを透過した光ビームL
12の電場強度よりも大きい。
【0061】
等方性位相板13は、透過する光ビームL
12を光ビームL
13に変換する。光ビームL
13のビーム断面における光ビームL
13の電場方向は、
図4に示す通りである。等方性位相板13は、偏光領域123A~126Aを透過した光ビームの位相を、1/2波長遅延させる。したがって、等方性位相板13により光ビームL
12から変換された光ビームL
13は、ラジアル偏光である。
【0062】
なお、n=1である偏光制御素子10が生成する光ビームL13が4つの偏光方向により構成されたラジアル偏光であるのに対して、n=2である偏光制御素子10Aが生成する光ビームL13は、8つの偏光方向により構成されたラジアル偏光である。このように、より大きなnを採用することによって、ラジアル偏光を構成する偏光方向の数を増やすことができる。このように偏光子12Aの分割数を増やすことによって、得られるラジアル偏光の強度を高めることができる。
【0063】
なお、偏光制御素子10Aにおいては、偏光子12Aの前段又は後段に、
図5に図示するようなフィルター14Aを更に設けてもよい。フィルター14Aは、動作波長を含む波長帯域の光を減衰させる機能を有する。フィルター14Aとしては、NDフィルターを好適に用いることができる。本変形例において、フィルター14Aは、波長が動作波長である光の強度を60%に減衰させるように構成されている。この構成によれば、偏光領域121A,124A,125A,128Aを透過した光ビームの電場強度と、偏光領域122A,123A,126A,127Aを透過した光ビームL
12の電場強度と、の間に生じる差を抑制する、又は、なくすことができる。したがって、ラジアル偏光である光ビームL
13における電場分布の回転対称性を高めることができる。
【0064】
〔第2の実施形態〕
本発明の第2の実施形態に係る偏光制御素子20について、
図6を参照して説明する。
図6は、偏光制御素子20が備えている偏光子22及び等方性位相板23の平面図である。
図6においては、一体化されている偏光子22及び等方性位相板23を分解したうえで、偏光子22及び等方性位相板23の各々を図示している。なお、
図6には、偏光制御素子20を透過する光ビームL
I、光ビームL
12、及び光ビームL
13のビーム断面における偏光状態を併せて図示している。なお、本実施形態では、第1の実施形態と同様に、偏光子22に入射させる光ビームL
Iとしてコヒーレンスが高い直線偏光であって、偏光方向がy軸方向と平行である直線偏光を採用している。ただし、偏光制御素子20において偏光子22に入射させる光ビームL
Iは、偏光制御素子10の場合と同様に、コヒーレンスが高いランダム偏光であってもよい。また、偏光制御素子20においても、偏光制御素子10の場合と同様に、偏光子22の前段に更なる偏光子を設けてもよい。偏光子22の前段に設けられた更なる偏光子は、
図3に図示した偏光子11に対応する偏光子である。したがって、ここでは、更なる偏光子の詳しい説明を省略する。
【0065】
第1の実施形態及び第1の変形例では、本発明の一態様に係る偏光制御素子であって、コヒーレンスが高い直線偏光又はランダム偏光をラジアル偏光に変換する偏光制御素子10,10Aについて説明した。本実施形態及び第2の変形例で説明する偏光制御素子20,20Aは、本発明の一態様に係る偏光制御素子であって、コヒーレンスが高い直線偏光又はランダム偏光をアジマス偏光に変換する偏光制御素子である。
【0066】
図6に示すように、偏光制御素子20は、偏光子22及び等方性位相板23を備えている。偏光制御素子20が備えている等方性位相板23は、偏光制御素子10が備えている等方性位相板13と同一に構成されている。なお、等方性位相板23は、偏光子22の各偏光領域22iのうち、偏光領域223,224を覆い、偏光領域221,222を覆わないように配置されている。すなわち、偏光領域221~224のうち、等方性位相板23により覆われている領域と覆われていない領域との境界は、y軸方向と平行である(
図6参照)。
【0067】
以上のように、偏光制御素子20は、偏光制御素子10をベースにして、偏光制御素子10が備えている偏光子12を偏光子22に置換することによって得られる。したがって、本実施形態では、等方性位相板23の説明を省略し、偏光子22について説明する。
【0068】
偏光子12と同様に、偏光子22は、n=1を採用しており、4個の偏光領域221~224を備えている。偏光子22の各偏光領域22iは、偏光子12の各偏光領域12iに対応している。ただし、各偏光領域22iにおける偏光方向は、偏光領域12iにおける偏光方向とは異なっている。具体的には、偏光領域22iの偏光軸は、偏光領域22iの頂角の二等分線に対して直交している。上述したように、偏光領域221~224のうち、等方性位相板23により覆われている領域と覆われていない領域との境界は、y軸方向と平行であるため、偏光制御素子20において、偏光子21の偏光軸と、前記境界とは平行している。
【0069】
(偏光制御素子の機能)
偏光制御素子20の機能についても、偏光制御素子10の機能と同様である点については説明を省略する。なお、
図6に図示した光ビームL
I,L
22,L
23の各々は、それぞれ、
図1に図示した光ビームL
I,L
12,L
13に対応する。
【0070】
偏光子22は、透過する光ビームLIを光ビームL22に変換する。光ビームL22のうち、偏光領域221を透過した光ビーム及び偏光領域223を透過した光ビームは、電場方向が10時半の方向を向いている。また、光ビームL22のうち、偏光領域222を透過した光ビーム及び偏光領域224を透過した光ビームは、電場方向が2時半の方向を向いている。
【0071】
等方性位相板23は、透過する光ビームL
22を光ビームL
23に変換する。光ビームL
23のビーム断面における光ビームL
23の電場方向は、
図6に示す通りである。等方性位相板23は、偏光領域223,224を透過した光ビームの位相を、1/2波長遅延させる。したがって、等方性位相板23により光ビームL
22から変換された光ビームL
23は、アジマス偏光である。
【0072】
<第2の変形例>
図6に図示した偏光制御素子20は、本願発明の一態様に係る偏光制御素子において、n=1を採用した一実施形態である。ここでは、本発明の第2の変形例であり、n=2を採用している偏光制御素子20Aについて、
図7を参照して説明する。偏光制御素子20Aは、偏光制御素子20の一変形例である。
図7は、偏光制御素子20Aが備えている偏光子22A及び等方性位相板23の平面図である。
図7においては、一体化されている偏光子22A及び等方性位相板23を分解したうえで、偏光子22A及び等方性位相板23の各々を図示している。
【0073】
偏光制御素子20Aは、偏光制御素子20をベースにして、偏光制御素子20が備えている偏光子22を偏光子22Aに置換することによって得られる。したがって、本変形例では、偏光子21及び等方性位相板23の説明を省略し、偏光子22Aについて説明する。
【0074】
上述したように、偏光子22Aは、n=2を採用している(
図7参照)。すなわち、偏光子22Aは、8個の偏光領域221A~228Aを備えている。各偏光領域22jA(jは、1以上8以下の整数)は、45°(=360°/8)の頂角と、当該頂角を挟み込む一対の挟辺とを有する。本変形例において、各偏光領域22jAは、円形を八等分することによって得られる扇形である(
図7参照)。
【0075】
偏光子22Aにおいて、各偏光領域22jAは、頂角の頂点同士が一致又は近接するとともに、各挟辺が隣接する偏光領域の一方の挟辺と一致又は近接するように設けられている(
図7参照)。このように構成された偏光子22Aは、円形の輪郭を有する。
【0076】
本変形例において、各偏光領域22jの偏光軸は、各偏光領域22jの頂角の二等分線に対して平行である。
【0077】
偏光子22Aは、偏光子12と同様に、市場に出回っている様々な態様の偏光子の中から適宜選択できる。
【0078】
偏光制御素子20Aは、偏光制御素子20と比較して、アジマス偏光を構成する偏光方向の数を増やすことができる。このように、偏光子22Aの分割数を増やすことによって、得られるアジマス偏光の強度を高めることができる。
【0079】
また、偏光制御素子20Aにおいては、偏光子22Aの前段又は後段に、
図5に図示するようなフィルター14Aを更に設けてもよい。ただし、偏光制御素子20Aにおいてフィルター14Aを採用する場合には、フィルター14Aが偏光領域222A,223A,226A,227Aを覆うように、フィルター14Aを配置する。この構成によれば、アジマス偏光である光ビームL
23における電場分布の回転対称性を高めることができる。
【0080】
〔第3の実施形態〕
本発明の第3の実施形態に係る偏光制御素子30について、
図8を参照して説明する。
図8は、偏光制御素子30が備えている偏光子32a、偏光子32b、等方性位相板33a、及び等方性位相板33bの平面図である。
【0081】
図8に示すように、偏光制御素子30は、偏光子32aと、偏光子32bと、ホルダー32cと、等方性位相板33aと、等方性位相板33bと、ホルダー33cと、を備えている。
【0082】
偏光子32aは、
図2に図示する偏光子12と同一に構成されている。また、偏光子32bは、
図6に図示する偏光子22と同一に構成されている。また、等方性位相板33aは、
図2に図示する等方性位相板13と同一に構成されている。すなわち、本実施形態において、等方性位相板33aの動作波長は、775nmである。一方、等方性位相板33bは、
図2に図示する等方性位相板13と同様に構成されているものの、動作波長が805nmではなく592nmである。したがって、本実施形態では、偏光子32a、偏光子32b、等方性位相板33a、及び等方性位相板33bの説明を省略し、ホルダー32c及びホルダー33cについて説明する。
【0083】
なお、本実施形態では、偏光子32a又は偏光子32bに入射させる光ビームL
Iとして、コヒーレンスが高い直線偏光を用いる。なお、(1)偏光制御素子30を用いてラジアル偏光を生成する場合には、光ビームL
Iの偏光方向と、偏光子32aのうち等方性位相板33aにより覆われている領域と覆われていない領域との境界とが直交するように光学系を構成し、(2)偏光制御素子30を用いてラジアル偏光を生成する場合には、光ビームL
Iの偏光方向と、偏光子32bのうち等方性位相板33bにより覆われている領域と覆われていない領域との境界とが平行になるように光学系を構成する。本実施形態では、等方性位相板33a及び等方性位相板33bの弦の方向をx軸方向と平行な方向に固定したうえで、光ビームL
Iの偏光方向を切り替える構成を採用している。具体的には、偏光制御素子30を用いてラジアル偏光を生成する場合には、光ビームL
Iの偏光方向を
図8に図示した矢印A
1の方向(y軸方向と平行な方向)に設定し、偏光制御素子30を用いてアジマス偏光を生成する場合には、光ビームL
Iの偏光方向を
図8に図示した矢印A
2の方向(x軸方向と平行な方向)に設定する。ただし、偏光制御素子30の一態様においては、光ビームL
Iの偏光方向を固定しておき、等方性位相板33a及び等方性位相板33bの弦の方向を回転することができる構成を採用することもできる。
【0084】
また、偏光子32a又は偏光子32bに入射させる光ビームLIとして、コヒーレンスが高い直線偏光の代わりにコヒーレンスが高いランダム偏光を用いることもできる。
【0085】
また、偏光子32a又は偏光子32bの前段に、更なる偏光子を設けてもよい。偏光子32a又は偏光子32bの前段に設けられた更なる偏光子は、
図3に図示した偏光子11に対応する偏光子であり、第2の実施形態において偏光子22の前段に設けられた更なる偏光子に対応する偏光子でもある。したがって、ここでは、更なる偏光子の詳しい説明を省略する。更なる偏光子を備えている偏光制御素子30にラジアル偏光を生成させる場合、更なる偏光子の偏光軸の方向を、
図8に図示した矢印A1の方向(y軸方向と平行な方向)に設定し、偏光制御素子30にアジマス偏光を生成させる場合、更なる偏光子の偏光軸の方向を、
図8に図示した矢印A2の方向(x軸方向と平行な方向)に設定する。
【0086】
ホルダー32cは、偏光子32a及び偏光子32bを固定する固定手段の一例である。ホルダー32cには、偏光子を収容した状態で固定することができる3つの開口32ap1,32ap2,32ap3が形成されている。これらの開口32ap1,32ap2,32ap3は、円形であり、それぞれの中心が直線上に配列するように形成されている。
図8において、開口32ap1,32ap2,32ap3の各々の中心は、y軸方向と平行な直線上に位置する。また、開口32ap1,32ap2,32ap3の各々は、各中心が等間隔になるように、ホルダー32cに形成されている。
【0087】
本実施形態において、開口32ap1,32ap2,32ap3のうち、開口32ap1には偏光子32aが固定されており、開口32ap2には偏光子32bが固定されている。一方、開口32ap3には偏光子が固定されていない。すなわち、開口32ap3は、貫通した開口のままである。
【0088】
ホルダー32cは、開口32ap1,32ap2,32ap3の並進移動機構を更に備えている。具体的には、ホルダー32cは、開口32ap1,32ap2,32ap3の何れかの中心が、光ビームL
Iの光軸上に位置するように、開口32ap1,32ap2,32ap3をy軸方向に沿って並進移動させることができる。
図8においては、開口32ap1の中心が光ビームL
Iの光軸上に位置する状態を図示している。この状態においては、ホルダー32cは、光ビームL
Iの光軸上に偏光子32aを挿入することができる。また、ホルダー32cは、光ビームL
Iの光軸上に、偏光子32bを挿入したり、貫通している開口32ap3を挿入したりすることができる。
【0089】
ホルダー33cは、等方性位相板33a及び等方性位相板33bを固定する固定手段の一例である。ホルダー33cには、等方性位相板を収容した状態で固定することができる2つの開口33ap1,33ap2が形成されている。開口33ap1,33ap2は、半円形であり、それぞれの中心が直線上に配列するように形成されている。
図8において、開口33ap1,33ap2の各々の中心は、y軸方向と平行な直線上に位置する。
【0090】
本実施形態において、開口33ap1には等方性位相板33aが固定されており、開口33ap2には等方性位相板33bが固定されている。
【0091】
ホルダー33cは、開口33ap1,33ap2の並進移動機構を更に備えている。具体的には、ホルダー33cは、開口33ap1,33ap2の何れかの中心が、光ビームL
Iの光軸上に位置するように、開口33ap1,33ap2をy軸方向に沿って並進移動させることができる。
図8においては、開口33ap1の中心が光ビームL
Iの光軸上に位置する状態を図示している。この状態においては、ホルダー33cは、光ビームL
Iの光軸上に等方性位相板33aを挿入することができる。また、ホルダー33cは、光ビームL
Iの光軸上に、等方性位相板33bを挿入することもできる。
【0092】
このように、偏光制御素子30において、等方性位相板は、互いに異なる2つの動作波長の各々にそれぞれが対応している2つの等方性位相板33a,33bにより構成されている。等方性位相板33a,33bは、何れも、等方性位相板13と同様に、波長が各動作波長である光ビームL
32の位相を1/2波長遅らせるように構成されている。また、
図8に図示するように、等方性位相板33a,33bの各々は、偏光子の一例である偏光子32a,32bとは別体に構成されている。したがって、偏光制御素子30においては、2つの偏光子32a,32bと、2つの等方性位相板33a,33bと、の組み合わせを適宜偏光することができる。
【0093】
〔第4の実施形態〕
本発明の第4の実施形態に係る顕微鏡Mについて、
図9を参照して説明する。
図9は、顕微鏡Mの光学系を示す模式図である。
【0094】
図9に示すように、顕微鏡Mは、レーザ光源1と、偏光制御素子30と、レンズ2と、ビームスプリッター3と、レンズ4と、レンズ5と、ピンホール6と、ピンホール7と、撮像素子8と、を備えている共焦点顕微鏡である。
【0095】
偏光制御素子30は、
図8を参照して説明した通りである。したがって、本実施形態では、その説明を省略する。
【0096】
レーザ光源1は、光ビームの一例であるレーザビームであって、コヒーレンスが高い直線偏光のレーザビームを出射する光源である。顕微鏡Mにおいては、レーザ光源1が出射する相が揃った直線偏光のレーザビームを光ビームL
Iとして用いる。なお、顕微鏡Mにおける光ビームL
Iは、
図8に図示した偏光制御素子30における光ビームL
Iに対応する。レーザ光源1は、複数の波長のなかから何れかの波長を選択し、その波長を有するレーザビームを出射する。すなわち、レーザ光源1は、出射するレーザビームの波長を選択することができる。本実施形態において、レーザ光源1は、波長が775nmであるレーザビームと、波長が592nmであるレーザビームと、を取捨することができる。本実施形態では、半導体レーザを用いてレーザ光源1を構成している。ただし、レーザ光源1を構成するレーザは、半導体レーザに限定されず、市場に出回っている様々な態様のレーザのなかから適宜選択することができる。
【0097】
また、レーザ光源1は、直線偏光である光ビームL
Iにおける偏光方向を、
図8に示す矢印A
1及び矢印A
2のように、回転させることができる。
【0098】
レンズ2は、レーザ光源1から出射されたレーザビームをコリメートする。レンズ2によりコリメートされたレーザビームは、試料の観察に用いる光ビームである。
【0099】
ビームスプリッター3は、レーザ光源1から出射され、且つ、コリメートされたレーザビームのうち半分を反射することによって、観察対象である試料に照射する。
【0100】
レンズ4は、ビームスプリッター3により反射されたレーザビームを試料の表面に集光するとともに、試料の表面から反射された光ビームをコリメートする。
【0101】
ビームスプリッター3は、試料の表面から反射された光ビームの半分を透過する。
【0102】
レンズ5は、ビームスプリッター3を透過した光ビームを集光することによって、撮像素子8の受光面に試料の観察像を結像させる。
【0103】
顕微鏡Mにおいて、レーザ光源1と撮像素子8とは、ピンホール6,7によって共役関係にある。
【0104】
顕微鏡Mは、偏光制御素子30を備えているため、ラジアル偏光のレーザビーム及びアジマス偏光のレーザビームを用いて試料を観察することができる。これは、偏光制御素子30が、偏光子32a、偏光子32b、及びホルダー32cを備えており、ホルダー32cを用いて、観察に用いるレーザビームの光路上に挿入する偏光子を偏光子32a及び偏光子32bから選択することができるためである。なお、顕微鏡Mにおいて、偏光子32aと、等方性位相板33a又は等方性位相板33bとは、第1の偏光制御素子の一例を構成し、偏光子32bと、等方性位相板33a又は等方性位相板33bとは、第2の偏光制御素子の一例を構成する。すなわち、ホルダー32cは、観察に用いるレーザビームの光路上に偏光制御素子を挿入する場合に、当該偏光制御素子として、第1の偏光制御素子又は第2の偏光制御素子を選択する選択手段の一例である。
【0105】
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0106】
本発明の一実施例である偏光制御素子について
図10~
図12を参照して説明する。本実施例の偏光制御素子は、
図1及び
図2に図示した偏光制御素子10の実施例である。
図10の(a)及び(b)は、それぞれ、本実施例の偏光制御素子10の一部を構成する偏光子12を製造するために用いたマスクの第1の主面及び第2の主面の平面図である。
図10の(c)は、
図10の(a)及び(b)に図示したマスクを第1の主面から見た場合の矢視図である。
図10の(d)は、本実施例の偏光制御素子10の一部を構成する等方性位相板13を製造するために用いたマスクの平面図である。
図11の(a)は、本実施例の偏光制御素子10の一部を構成する偏光子12を製造するために用いた基板の平面図である。
図11の(b)は、偏光子12の偏光領域121~124のうち偏光領域122,124を形成した基板の平面図である。
図11の(c)は、偏光子12の全偏光領域121~124を形成した基板の平面図である。
図11の(d)は、
図11の(c)に図示した基板の主面であって、偏光領域121~124が形成されていない側の主面に等方性位相板13を形成した基板の平面図である。
図11の(d)は、基板から切り出す前の偏光子12及び等方性位相板13の矢視図とも言える。
図12の(a)は、本実施例の偏光制御素子10の一部を構成する偏光子12の偏光領域121における消光比の波長依存性を示すグラフである。
図12の(b)は、偏光領域121の透過率の波長依存性を示すグラフである。なお、以下では、本実施例の偏光制御素子10のことを単に偏光制御素子10と記載する。
【0107】
〔偏光子及び等方性位相板の製造〕
まず、偏光制御素子10の一部を構成する偏光子12及び等方性位相板13の製造方法を以下に説明する。本実施例では、偏光制御素子10の動作波長(等方性位相板13の動作波長)として805nmを採用した。また、偏光子12及び等方性位相板13の直径として、φ30mmを採用した。また、偏光子12及び等方性位相板13を形成するための基板として、厚みが1mmであり、1辺の長さが70mmである正方形の石英基板を用いた。なお、この石英基板の透過波面はλ/20だった。面内で正確な位相制御を行うために、基板の面精度は、λ/20以下であることが望ましい。
【0108】
図11の(a)に示すように、石英基板の4つの角にそれぞれ十字のアライメントマークを形成した。4つのアライメントマークは、フォトレジストに4つのアライメントマークをレーザ描画装置で露光及び現像したうえで、クロムを厚さ100nmの膜厚で成膜し、フォトレジストをリフトオフすることによって得た。
【0109】
本実施例では、偏光子12として、ワイヤーグリッド偏光子を採用した。石英基板上にワイヤーグリッド偏光子を形成するために、
図10の(a)~(c)に図示するマスクを用いた。このマスクは、位相シフトマスクと呼ばれるタイプのマスクである。
【0110】
このマスクは、石英基板の両主面に、それぞれ異なるパターンが描画されたクロムマスクである。
【0111】
石英基板の一方の主面には、
図10の(a)に図示するパターンが描画されている。すなわち、一方の主面の多くの領域にはクロム膜が形成されており、中央領域には、半径が15mmであり、頂角が90°である扇形が2つ、クロム膜を白抜きにすることによって形成されている。また、石英基板の4つの角のうち一対の対角部分には、上述したアライメントマークよりも大きな正方形がクロム膜を白抜きにすることによって形成されている。
【0112】
また、石英基板の他方の主面の中央領域には、偏光子12の輪郭に対応する直径φ30mmの領域内にワイヤーグリッドに対応する位相パターンが描画されている。この位相パターンは、250nmピッチの直線状の位相パターンを形成するように設計されている。また、石英基板の4つの角のうち一対の対角部分には、十字のアライメントマークが形成されている。このアライメントマークの幅は、偏光子12及び等方性位相板13を製造するために用いる石英基板に形成したアライメントマークの幅よりも20μm大きい。
【0113】
このマスクを第1の主面から矢視した場合、
図10の(c)に図示するように、おもて面に白抜きの扇形のパターンが形成され、うら面に位相パターンが形成されている。
【0114】
次に、石英基板のアライメントマークが形成された側の主面に、スパッタ装置を用いて、アルミニウムを250nmの膜厚で成膜した。この時、各アライメントマークにはアルミニウムが成膜されないように、成膜領域を狭めた。
【0115】
次に、アルミニウムを成膜した石英基板上にi線フォトリソレジストをスピンコートし、ベークした。
【0116】
次に、
図11の(c)に図示したマスクを、タルボ干渉光を利用した干渉露光装置に設置し、且つ、i線フォトリソレジストをスピンコートした基板を干渉露光装置に設置した。この時、マスクと石英基板との間には、一定の空隙が設けられている。干渉露光装置の顕微鏡を用いて、マスクに設けられている2つのアライメントマークと、アルミニウムを成膜した石英基板に設けられている4つのアライメントマークのうち左上及び右下のアライメントマークとを一致させ、露光した。次に、干渉露光装置の顕微鏡を用いて、マスクに設けられている2つのアライメントマークと、アルミニウムを成膜した石英基板に設けられている4つのアライメントマークのうち右上及び左下のアライメントマークとを一致させ、露光した。
【0117】
次に、反応性イオンエッチング装置を用いて、アルミニウムのドライエッチングを行った。アルミニウムのドライエッチングにおいては、BCl3及びCl2を反応性ガスとして用いた。そのうえで、反応性イオンエッチング装置のチャンバーを大気開放しないまま、続けて、レジスト除去のためにアッシングを行った。アッシングにおいては、O2とArを反応性ガスとして用いた。以上の工程により、石英基板の一方の主面に、ワイヤーグリッド偏光子である偏光子12が形成された。
【0118】
次に、石英基板の他方の主面(偏光子12が形成されていない主面)に、
図10の(d)に図示するマスクを用いて、等方性位相板13として機能するSiO
2膜を成膜した。ここで成膜したSiO
2膜の屈折率は、1.453であり、膜厚を889nmとした。
【0119】
なお、
図10の(d)に図示するマスクは、一方の主面の多くの領域にはクロム膜が形成されており、中央領域には、直径が30mmである半円がクロム膜を白抜きにすることによって形成されている。また、石英基板の4つの角には、それぞれ、十字のアライメントマークがクロム膜を白抜きにすることによって形成されている。
【0120】
最後にレーザ切断装置を用いて、偏光子12及び等方性位相板13が形成された直径φ30mmの領域を切り出すことにより偏光制御素子10を得た。
【0121】
〔偏光子及び等方性位相板の消光比及び透過率〕
レーザ光源、計測用偏光子、回転ステージに配置された1/2波長板、基板ホルダー、光ディテクタからなる評価装置を用いて、このようにして製造した偏光制御素子10の消光比及び透過率を評価した。なお、計測用偏光子は、
図3に図示した偏光制御素子10の一態様が備えている偏光子11に対応する。
【0122】
評価装置は、レーザ光源、計測用偏光子、回転ステージに配置された1/2波長板、基板ホルダー、光ディテクタの順に配置される。基板ホルダーに偏光制御素子10を設置し、1/2波長板を0°から45°まで回転させたときの、強度比から消光比(デシベル表記)を求めた。なお、強度比は、最大値に対する最小値の比である。
【0123】
このように構成された評価装置を用いて偏光子12の偏光領域121を透過する光ビームを用いて測定した消光比及び透過率を
図12の(a)及び(b)に示す。
【0124】
なお、偏光子12の各偏光領域12iを構成するワイヤーグリッドは、膜厚が250nmであるアルミニウム製であり、そのパターンは、250nmL/Sであった。偏光領域121における消光比は、波長805nmにおいて43dB±1%であった(
図12の(a)参照)。また、偏光領域121における透過率は、波長805nmにおいて76%であった。また、700nm以上1.5μm以下という広い帯域において40dB以上という高い消光比が確保できていることが分かった。
【0125】
次に、等方性位相板13の評価として、マイケルソン干渉計で805nmの平面参照波を確認した。その結果、等方性位相板13のある部分とない部分とで明暗反転がみられた。したがって、等方性位相板13は、波長が805nmである光ビームに対して、設計時に意図したとおり位相を1/2波長遅延させることが分かった。
【0126】
次に、偏光制御素子10を透過した光ビームL13の強度分布を以下のように確認した。波長が805nmであるレーザビームをコリメートレンズにて光束の径φ20mmのコリメート光とした。これを、2対のアキシコンレンズに入射させることで、リング状のコリメート光に変換した。このリング状のコリメート光を光ビームLIとして用いた。
【0127】
この光ビームLIを偏光制御素子10に入射させたのち、偏光制御素子10から出射された光ビームL13を、対物レンズを用いて集光させた。集光点に撮像素子であるCCD素子を置き、光ビームL13の強度分布を測定した。その結果、ラジアル偏光の特徴であるドーナツ型の強度分布が得られた。また、アキシコンレンズと対物レンズの間に直線偏光子を差し込み、その直線偏光子を0°以上90°以下の範囲内で回転させた。その結果、直線偏光子の角度を0°にした場合、偏光領域121,123に対応する領域の強度が消失し、直線偏光子の角度を90°にした場合、偏光領域122,124に対応する領域の強度が消失した。このことから、偏光制御素子10により生成された光ビームL13は、ラジアル偏光になっていることが分かった。