(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039445
(43)【公開日】2024-03-22
(54)【発明の名称】スイングアーム構造
(51)【国際特許分類】
B62K 25/20 20060101AFI20240314BHJP
【FI】
B62K25/20
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022144018
(22)【出願日】2022-09-09
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(74)【代理人】
【識別番号】100092772
【弁理士】
【氏名又は名称】阪本 清孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119688
【弁理士】
【氏名又は名称】田邉 壽二
(72)【発明者】
【氏名】廣▲瀬▼ 翔
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 勇太
(72)【発明者】
【氏名】津田 剛
【テーマコード(参考)】
3D014
【Fターム(参考)】
3D014DD08
3D014DF03
(57)【要約】
【課題】車体を直立状態に保ってメンテナンススタンドを立てることができるスイングアーム構造を提供する。
【解決手段】右側アーム(19R)および左側アーム(19L)によって後輪(WR)を左右から支持する鞍乗型車両(1)のスイングアーム(19)に適用されるスイングアーム構造において、右側アーム(19R)および左側アーム(19L)の形状が互いに異なる。右側アーム(19R)または左側アーム(19L)のいずれか一方の下面に下方に突出する突起部(50)が設けられており、突起部(50)の下面の高さと、突起部(50)が設けられていない方のアームの下面の高さが等しい。突起部(50)は、右側アーム(19R)または左側アーム(19L)の車幅方向外側寄りに配設される。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
右側アーム(19R)および左側アーム(19L)によって後輪(WR)を左右から支持する鞍乗型車両(1)のスイングアーム(19)に適用されるスイングアーム構造において、
前記右側アーム(19R)および前記左側アーム(19L)の形状が互いに異なっており、
前記右側アーム(19R)または前記左側アーム(19L)のいずれか一方の下面に下方に突出する突起部(50)が設けられており、
前記突起部(50)の下面の高さと、前記突起部(50)が設けられていない方のアームの下面の高さとが等しいことを特徴とするスイングアーム構造。
【請求項2】
前記突起部(50)は、前記右側アーム(19R)または前記左側アーム(19L)の車幅方向外側寄りに配設されることを特徴とする請求項1に記載のスイングアーム構造。
【請求項3】
前記後輪(WR)の回転状態を検知するためのパルサリング(25)を備え、
車体側面視で、前記突起部(50)が前記パルサリング(25)と重なることを特徴とする請求項1に記載のスイングアーム構造。
【請求項4】
前記スイングアーム(19)の後部にチェーンアジャスタ(30)が設けられ、
前記スイングアーム(19)の側部に、前記チェーンアジャスタ(30)の一部を構成するロックナット(34)が収まる窪み(40)が設けられており、
前記突起部(50)が、前記窪み(40)の下方に配設されていることを特徴とする請求項1に記載のスイングアーム構造。
【請求項5】
前記突起部(50)の前後方向の長さが、前記窪み(40)の前後方向の長さより長いこと特徴とする請求項4に記載のスイングアーム構造。
【請求項6】
車体側面視で、前記突起部(50)の前端縁(50F)が前上がりに傾斜すると共に、前記突起部(50)の後端縁(50R)が後上がりに傾斜していることを特徴とする請求項1に記載のスイングアーム構造。
【請求項7】
前記突起部(50)の高さ寸法は、後方側より前方側の方が大きいことを特徴とする請求項6に記載のスイングアーム構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スイングアーム構造に係り、特に、右側アームおよび左側アームによって後輪を左右から支持する鞍乗型車両のスイングアームに適用されるスイングアーム構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、右側アームおよび左側アームによって後輪を左右から支持するスイングアームを有する鞍乗型車両が知られている。
【0003】
特許文献1には、右側アームの後端部の下面の高さと、左側アームの後端部の下面の高さとが左右で揃っている自動二輪車のスイングアームが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、例えば、自動二輪車の車幅方向左右のいずれかにマフラを配設するために左右のアーム形状を異ならせると、スイングアームの後端部の下面の高さが左右で異なってしまうことが考えられる。そうすると、左右のアームの下面を持ち上げて後輪を浮かせるメンテナンススタンドを立てた際に、車体が左右いずれかに傾いてしまうという課題が生じる。
【0006】
本発明の目的は、上記従来技術の課題を解決し、車体を直立状態に保ってメンテナンススタンドを立てることができるスイングアーム構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明は、右側アーム(19R)および左側アーム(19L)によって後輪(WR)を左右から支持する鞍乗型車両(1)のスイングアーム(19)に適用されるスイングアーム構造において、前記右側アーム(19R)および前記左側アーム(19L)の形状が互いに異なっており、前記右側アーム(19R)または前記左側アーム(19L)のいずれか一方の下面に下方に突出する突起部(50)が設けられており、前記突起部(50)の下面の高さと、前記突起部(50)が設けられていない方のアームの下面の高さとが等しい点に第1の特徴がある。
【0008】
また、前記突起部(50)は、前記右側アーム(19R)または前記左側アーム(19L)の車幅方向外側寄りに配設される点に第2の特徴がある。
【0009】
また、前記後輪(WR)の回転状態を検知するためのパルサリング(25)を備え、車体側面視で、前記突起部(50)が前記パルサリング(25)と重なる点に第3の特徴がある。
【0010】
また、前記スイングアーム(19)の後部にチェーンアジャスタ(30)が設けられ、前記スイングアーム(19)の側部に、前記チェーンアジャスタ(30)の一部を構成するロックナット(34)が収まる窪み(40)が設けられており、前記突起部(50)が、前記窪み(40)の下方に配設されている点に第4の特徴がある。
【0011】
また、前記突起部(50)の前後方向の長さが、前記窪み(40)の前後方向の長さより長い点に第5の特徴がある。
【0012】
また、車体側面視で、前記突起部(50)の前端縁(50F)が前上がりに傾斜すると共に、前記突起部(50)の後端縁(50R)が後上がりに傾斜している点に第6の特徴がある。
【0013】
さらに、前記突起部(50)の高さ寸法は、後方側より前方側の方が大きい点に第7の特徴がある。
【発明の効果】
【0014】
第1の特徴によれば、右側アーム(19R)および左側アーム(19L)によって後輪(WR)を左右から支持する鞍乗型車両(1)のスイングアーム(19)に適用されるスイングアーム構造において、前記右側アーム(19R)および前記左側アーム(19L)の形状が互いに異なっており、前記右側アーム(19R)または前記左側アーム(19L)のいずれか一方の下面に下方に突出する突起部(50)が設けられており、前記突起部(50)の下面の高さと、前記突起部(50)が設けられていない方のアームの下面の高さとが等しいので、右側アームおよび左側アームを理想的な形状としながら、簡易的かつ軽量な突起部を設けることで左右のアームの下面の高さを揃えることができる。これにより、右側アームおよび左側アームの形状が互いに異なる場合でも、左右のアームの下面を持ち上げて後輪を浮かせるメンテナンススタンドを良好に立てることができる。
【0015】
第2の特徴によれば、前記突起部(50)は、前記右側アーム(19R)または前記左側アーム(19L)の車幅方向外側寄りに配設されるので、突起部が他部品と干渉することを避けることができる。
【0016】
第3の特徴によれば、前記後輪(WR)の回転状態を検知するためのパルサリング(25)を備え、車体側面視で、前記突起部(50)が前記パルサリング(25)と重なるので、突起部によって、側方から飛来する飛び石等からパルサリングを保護することができる。
【0017】
第4の特徴によれば、前記スイングアーム(19)の後部にチェーンアジャスタ(30)が設けられ、前記スイングアーム(19)の側部に、前記チェーンアジャスタ(30)の一部を構成するロックナット(34)が収まる窪み(40)が設けられており、前記突起部(50)が、前記窪み(40)の下方に配設されているので、窪みを設けることで低下したスイングアームの剛性を突起部により補うことが可能となる。
【0018】
第5の特徴によれば、前記突起部(50)の前後方向の長さが、前記窪み(40)の前後方向の長さより長いので、窪みを設けることで低下したスイングアームの剛性を突起部により補うことが可能となる。
【0019】
第6の特徴によれば、車体側面視で、前記突起部(50)の前端縁(50F)が前上がりに傾斜すると共に、前記突起部(50)の後端縁(50R)が後上がりに傾斜しているので、突起部に前後から加わる衝撃を傾斜形状によって分散させることで、突起部の耐衝撃性を高めることが可能となる。
【0020】
第7の特徴によれば、前記突起部(50)の高さ寸法は、後方側より前方側の方が大きいので、突起部によって、前方側から飛来する飛び石等から車軸等を保護しやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本実施形態に係るスイングアーム構造を適用した自動二輪車の右側面図である。
【
図3】後輪の車軸まわりの構造を示す斜視図である。
【
図6】右側アームの後端部の構造を示す右側面図である。
【
図7】右側アームの後端部の構造を示す斜視図である。
【
図8】右側アームの後端部の構造を示す底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係るスイングアーム構造を適用した自動二輪車1の右側面図である。自動二輪車1は、パワーユニットPの駆動力をドライブチェーン22を介して後輪WRに伝達して走行する鞍乗型車両である。車体フレームFの前端に設けられるヘッドパイプF1には、ステアリングステム(不図示)が回動自在に軸支されている。ステアリングステムの上端にはトップブリッジ8が固定されており、ステアリングステムの下端にはボトムブリッジ6が固定されている。前輪WFを車軸2によって回転自在に軸支する左右一対のフロントフォーク3は、トップブリッジ8およびボトムブリッジ6によって支持されている。フロントフォーク3には、前輪WFの上方を覆うフロントフェンダ4が取り付けられている。
【0023】
トップブリッジ8の上部には、前輪WFを操舵する操向ハンドル11が固定されている。ヘッドパイプF1の前方には、ヘッドライト5、防風スクリーン10およびバックミラー9を支持するフロントカウル7が配設されている。
【0024】
車体フレームFは、ヘッドパイプF1から後方下方に伸びるメインフレームF2を有する。メインフレームF2の後端下部には、ピボット21を有するピボットフレームF4が連結されている。ピボット21は、後輪WRを車軸18によって回転自在に軸支するスイングアーム19を揺動自在に軸支する。スイングアーム19は、リヤクッション14によってメインフレームF2に吊り下げられている。
【0025】
メインフレームF2の後部には、シート13およびリヤカウル15を支持するリヤフレームF3が連結されている。リヤフレームF3の下部には、タンデムステップ23が左右一対で取り付けられている。
【0026】
メインフレームF2の下方かつピボットフレームF4の前方の位置には、エンジンと変速機とを一体に構成したパワーユニットPが吊り下げられている。パワーユニットPの燃焼ガスは、車幅方向右側に配設されるマフラ20から後方に排出される。メインフレームF2の上部には、燃料タンク12が配設されている。リヤカウル15の後部には、尾灯装置16およびリヤフェンダ17が取り付けられている。
【0027】
スイングアーム19は、左右のアームによって後輪WRを左右から支持する構造とされており、この図では、左右のアームの下面を持ち上げて後輪WRを路面Gから浮かせるメンテナンススタンドSを立てた状態を示している。メンテナンススタンドSを立てた際に車体が左右に傾かず直立状態となるには、スイングアーム19の左右のアームの下面の高さが揃っていることが必要となる。
【0028】
図2は、
図1の一部拡大図である。
図3は、後輪WRの車軸18まわりの構造を示す斜視図である。前記と同一符号は、同一または同等部分を示す。後輪WRに固定されるブレーキディスク26は、スイングアーム19に固定されるブレーキキャリパ24によって制動される。ブレーキディスク26の径方向内側には、車輪速センサの被検知体であるパルサリング25が配設されている。
【0029】
スイングアーム19の後部で車軸18の前方には、ドライブチェーン22の張り具合を調整するチェーンアジャスタ30が配設されている。スイングアーム19の側部には、チェーンアジャスタ30をスイングアーム19に固定するボルト32(
図6参照)が収まると共に、工具によるロックナット34(
図6参照)の操作を可能とするための窪み40が形成されている。本実施形態では、スイングアーム19の車幅方向右側のアームの下面に、突起部50が形成されている点に特徴がある。
【0030】
突起部50は、車体側面視で、パルサリング25と重なるように配設されている。これにより、突起部50によって、側方から飛来する飛び石等からパルサリング25を保護することができる。突起部50の前方には、中空構造のスイングアーム19に侵入した水分を抜くための水抜き穴60が設けられている。
【0031】
図4は、スイングアーム19の右側面図である。また、
図5はスイングアーム19の平面図である。ピボット21によってピボットフレームF4に揺動自在に軸支されるスイングアーム19は、後輪WRを左右から支持する左側アーム19Lおよび右側アーム19Rを有する。スイングアーム19の前後方向略中央の上部には、リヤクッション14の下側支持部14aが設けられている。リヤクッション14の上側支持部14bは、メインフレームF2に揺動自在に軸支される。チェーンアジャスタ30は、車軸18を保持するアクスルプレート31とボルト32とロックナット34とを含んで構成される。
【0032】
本実施形態に係るスイングアーム19は、左側アーム19Lの形状と右側アーム19Rの形状とが異なっている。具体的には、左側アーム19Lの下面がピボット21から車軸18にかけて略直線状とされるのに対し、右側アーム19Rの下面は、マフラ20との干渉を避けるように上方に凸の湾曲形状を有する。このため、スイングアーム19の後端部、特に、窪み40の下方の位置で、右側アーム19Rの下面の高さが左側アーム19Lの下面の高さより高くなっている。
【0033】
そこで、本実施形態では、右側アーム19の下面に下方に突出する突起部50を設けることにより、右側アーム19Rおよび左側アーム19Lの下面の最下位置の高さを揃えている。すなわち、突起部50の下面の高さと、突起部50が設けられていない方のアームの下面の高さとが等しくなっている。これにより、右側アーム19Rおよび左側アーム19Lを理想的な形状としながら、簡易的かつ軽量な突起部50を設けることで左右のアームの下面の高さを揃えて、メンテナンススタンドSを良好に立てることを可能としている。
【0034】
図6は、右側アーム19Rの後端部の構造を示す右側面図である。また、
図7は右側アーム19Rの後端部の構造を示す斜視図であり、
図8は右側アーム19Rの後端部の構造を示す底面図である。アクスルプレート31には、車軸18を通す貫通孔31aが設けられている。ドライブチェーン22の張り具合の調整は、ロックナット34を緩めてボルト32を回転させ、アクスルプレート31の位置を調整することで行う。
【0035】
前記したように、突起部50は、車軸18より前方で、かつロックナット34を回転させる工具との干渉を避けるための窪み40の下方に配設されている。また、突起部50の前後方向の長さは、窪み40の前後方向の長さより長く設定されている。これにより、窪み40を設けることで低下したスイングアーム19の剛性を突起部50によって補うことが可能となる。
【0036】
また、突起部50は、車体側面視で、その前端縁50Fが前上がりに傾斜すると共に、後端縁50Rが後上がりに傾斜した形状とされている。これにより、突起部50に前後から加わる衝撃を傾斜形状によって分散させることで、突起部50の耐衝撃性を高めることを可能としている。また、突起部50の高さ寸法は、後方側より前方側の方が大きくされるので、突起部50によって、前方側から飛来する飛び石等から車軸等を保護しやすくなる。
【0037】
図7,8を参照して、右側アーム19Rの後端部には、車軸18が通る貫通孔19aが形成されており、貫通孔19aの前方の位置の内側面には、ブレーキキャリパ24の位置決め突起19bが設けられている。突起部50は、右側アーム19Rの車幅方向外側寄りの位置に配設されており、これにより、突起部50が他部品と干渉することを防いでいる。また、突起部50は、水抜き穴60より後方に設けられる。なお、
図6に示すように、メンテナンススタンドSをかける際に滑らないように、突起部50の前部にフック部材50a(図示二点鎖線)を設けてもよい。
【0038】
上記したように、本発明に係るスイングアーム構造によれば、スイングアームの右側アームおよび左側アームの形状が互いに異なっており、右側アームまたは左側アームのいずれか一方の下面に下方に突出する突起部が設けられており、突起部の下面の高さと、突起部が設けられていない方のアームの下面の高さが等しくなるように構成されているので、右側アームおよび左側アームを理想的な形状としながら、簡易的かつ軽量な突起部を設けることで左右のアームの下面の高さを揃えることができる。これにより、右側アームおよび左側アームの形状が互いに異なる場合でも、左右のアームの下面を持ち上げて後輪を浮かせるメンテナンススタンドを良好に立てることができる。
【0039】
なお、自動二輪車の形態、スイングアームの形状や構造、チェーンアジャスタの形状や構造、突起部の形状や配置、窪みの形状や配置、フックの形状等は、上記実施形態に限られず、種々の変更が可能である。例えば、スイングアームの左側アームに突起部を設ける構成としてもよい。本発明に係るスイングアーム構造は、自動二輪車に限られず、2つの前輪を有する三輪車等に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0040】
1…自動二輪車(鞍乗型車両)、19…スイングアーム、19R…右側アーム、19L…左側アーム、22…ドライブチェーン、25…パルサリング、30…チェーンアジャスタ、32…ボルト、34…ロックナット、40…窪み、50…突起部、50F…突起部の前端縁、50R…突起部の後端縁、WR…後輪