(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039452
(43)【公開日】2024-03-22
(54)【発明の名称】圧粉磁心、インダクタ、及び圧粉磁心の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 27/255 20060101AFI20240314BHJP
H01F 1/153 20060101ALI20240314BHJP
H01F 17/04 20060101ALI20240314BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20240314BHJP
H01F 1/24 20060101ALI20240314BHJP
H01F 1/26 20060101ALI20240314BHJP
【FI】
H01F27/255 ZNM
H01F1/153 166
H01F1/153 108
H01F1/153 133
H01F1/153 175
H01F17/04 F
H01F41/02 D
H01F1/24
H01F1/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022144030
(22)【出願日】2022-09-09
(71)【出願人】
【識別番号】000134257
【氏名又は名称】株式会社トーキン
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】八巻 真
(72)【発明者】
【氏名】大西 直人
(72)【発明者】
【氏名】浦田 顕理
(72)【発明者】
【氏名】小林 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】金森 悠
(72)【発明者】
【氏名】嶋 博司
(72)【発明者】
【氏名】御子柴 駿
【テーマコード(参考)】
5E041
5E070
【Fターム(参考)】
5E041AA11
5E041BB01
5E041BB05
5E041BD03
5E041NN06
5E041NN14
5E041NN15
5E070AA01
5E070BB02
(57)【要約】
【課題】高周波領域において低損失を実現可能な圧粉磁心を提供することである。
【解決手段】本開示の一態様にかかる圧粉磁心は、磁性粉末がバインダ層を介して結着された圧粉磁心であって、圧粉磁心に含まれる磁性粉末の体積充填率が85体積%以上であり、圧粉磁心のBET比表面積(m
2/g)を、圧粉磁心の外寸を用いて算出された比表面積(m
2/g)で除算した値が5000以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性粉末がバインダ層を介して結着された圧粉磁心であって、
前記圧粉磁心に含まれる前記磁性粉末の体積充填率が85体積%以上であり、
前記圧粉磁心のBET比表面積(m2/g)を、前記圧粉磁心の外寸を用いて算出された比表面積(m2/g)で除算した値が5000以下である、
圧粉磁心。
【請求項2】
前記圧粉磁心の1MHz、50mTにおける鉄損が2500kW/m3以下である、請求項1に記載の圧粉磁心。
【請求項3】
前記圧粉磁心の1MHzにおける透磁率が50以上である、請求項1に記載の圧粉磁心。
【請求項4】
前記圧粉磁心の表面における酸化層の厚みが3mm以下である、請求項1に記載の圧粉磁心。
【請求項5】
前記磁性粉末は鉄元素を含有する軟磁性粉末であり、
前記磁性粉末の粒径が2μm以上100μm以下である、
請求項1に記載の圧粉磁心。
【請求項6】
前記磁性粉末は金属ガラス合金粉末、または、ナノ結晶相がアモルファス相中に析出したナノ結晶化用粉末である、請求項5に記載の圧粉磁心。
【請求項7】
前記バインダ層は低融点ガラスと樹脂材料とを含む、請求項1に記載の圧粉磁心。
【請求項8】
前記磁性粉末に対する前記低融点ガラスおよび前記樹脂材料の総量が12体積%以下である、請求項7に記載の圧粉磁心。
【請求項9】
前記低融点ガラスはリン酸塩系またはスズリン酸塩系ガラスである、請求項7に記載の圧粉磁心。
【請求項10】
前記樹脂材料は、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、及びアクリル樹脂からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項7に記載の圧粉磁心。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の圧粉磁心とコイルとを備えるインダクタ。
【請求項12】
磁性粉末に低融点ガラスをコーティングする工程と、
前記低融点ガラスがコーティングされた磁性粉末に樹脂材料をコーティングして造粒する工程と、
前記造粒後の磁性粉末を熱間成形する工程と、を備え、
前記熱間成形後の圧粉磁心に含まれる前記磁性粉末の体積充填率が85体積%以上であり、
前記熱間成形後の前記圧粉磁心のBET比表面積(m2/g)を、前記圧粉磁心の外寸を用いて算出された比表面積(m2/g)で除算した値が5000以下である、
圧粉磁心の製造方法。
【請求項13】
前記熱間成形する工程が酸化雰囲気中で実施される、請求項12に記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項14】
前記熱間成形する際の昇温速度を133℃/分以上とする、請求項12に記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項15】
前記磁性粉末は金属ガラス合金粉末であり、
前記熱間成形する際の温度は、前記低融点ガラスの軟化温度および前記磁性粉末のガラス転移温度のうち高い方の温度以上、前記磁性粉末の結晶化温度以下である、
請求項12に記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項16】
前記磁性粉末はナノ結晶化用のアモルファス合金粉末であり、
前記熱間成形する際の温度は、前記低融点ガラスの軟化温度および前記磁性粉末の第1結晶化温度のうち高い方の温度以上、前記磁性粉末の第2結晶化温度以下である、
請求項12に記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項17】
前記磁性粉末に対する前記低融点ガラスおよび前記樹脂材料の総量が12体積%以下である、請求項12に記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項18】
前記低融点ガラスはリン酸塩系またはスズリン酸塩系ガラスである、請求項12に記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項19】
前記樹脂材料は、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、及びアクリル樹脂からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項12に記載の圧粉磁心の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、圧粉磁心、インダクタ、及び圧粉磁心の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インダクタは様々な電子機器に用いられている。特にパソコン等の電子機器に用いられるインダクタは小型化が求められると共に、大電流を流した場合でも高いインダクタンス特性を示すことが求められる。特許文献1には、高周波領域における透磁率の低下が少ない非晶質軟磁性合金の圧粉成形体の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のように、インダクタは小型化が求められると共に、大電流を流した場合でも高いインダクタンス特性を示すことが求められる。特にパソコン等の電子機器で用いられるインダクタは高周波領域(例えば、750kHz~2MHz)で用いられるため、高周波領域において低損失なインダクタが求められている。
【0005】
上記課題に鑑み本開示の目的は、高周波領域において低損失を実現可能な圧粉磁心、インダクタ、及び圧粉磁心の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様にかかる圧粉磁心は、磁性粉末がバインダ層を介して結着された圧粉磁心であって、前記圧粉磁心に含まれる前記磁性粉末の体積充填率が85体積%以上であり、前記圧粉磁心のBET比表面積(m2/g)を、前記圧粉磁心の外寸を用いて算出された比表面積(m2/g)で除算した値が5000以下である。
【0007】
本開示の一態様にかかるインダクタは、上述の圧粉磁心とコイルとを備えるインダクタである。
【0008】
本開示の一態様にかかる圧粉磁心の製造方法は、磁性粉末に低融点ガラスをコーティングする工程と、前記低融点ガラスがコーティングされた磁性粉末に樹脂材料をコーティングして造粒する工程と、前記造粒後の磁性粉末を熱間成形する工程と、を備え、前記熱間成形後の圧粉磁心に含まれる前記磁性粉末の体積充填率が85体積%以上であり、前記熱間成形後の前記圧粉磁心のBET比表面積(m2/g)を、前記圧粉磁心の外寸を用いて算出された比表面積(m2/g)で除算した値が5000以下である。
【発明の効果】
【0009】
本開示により、高周波領域において低損失を実現可能な圧粉磁心、インダクタ、及び圧粉磁心の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態にかかるインダクタの一例を示す斜視図である。
【
図2】実施の形態にかかる圧粉磁心の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【
図3】実施の形態にかかる圧粉磁心の製造方法を説明するための模式図である。
【
図4】圧粉磁心の比表面積の比と体積充填率と鉄損との関係を示すグラフである(実験1)。
【
図5】圧粉磁心の比表面積の比と体積充填率と鉄損との関係を示すグラフである(実験2)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<インダクタ>
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。
図1は、本実施の形態にかかるインダクタの一例を示す斜視図である。
図1に示すように、本実施の形態にかかるインダクタ1は、圧粉磁心10_1、10_2およびコイル13を備える。圧粉磁心10_1は、中央部を垂直方向に貫通している空洞を有し、コイル13の外側を囲むように配置される。圧粉磁心10_2は、コイル13の内側に設けられており、断面コ字状のコイル13の凹部に配置される。
【0012】
例えば、
図1に示すインダクタ1は、コイル13の凹部に圧粉磁心10_2を配置した後、上部から圧粉磁心10_1を圧入することで形成できる。これにより、コイル13が圧粉磁心10_1、10_2に囲まれたインダクタ1を形成できる。なお、本明細書では圧粉磁心10_1、10_2を総称して圧粉磁心10とも記載する。また、
図1に示したインダクタ1の構成は一例であり、本実施の形態にかかる圧粉磁心10は、
図1以外の構成を備えるインダクタに用いてもよい。本実施の形態にかかる圧粉磁心は、高周波領域において低損失を実現していることを特徴としている。以下、本実施の形態にかかる圧粉磁心について詳細に説明する。
【0013】
<圧粉磁心>
本実施の形態にかかる圧粉磁心は、磁性粉末がバインダ層を介して結着された圧粉磁心である。また、本実施の形態にかかる圧粉磁心は、圧粉磁心に含まれる磁性粉末の体積充填率が85体積%以上であり、圧粉磁心のBET比表面積(m2/g)を、圧粉磁心の外寸を用いて算出された比表面積(m2/g)で除算した値が5000以下である。本実施の形態にかかる圧粉磁心は、このような構成を備えることで、高周波領域において低損失な圧粉磁心を実現できる。
【0014】
本実施の形態にかかる圧粉磁心に用いられる磁性粉末は鉄元素を含有する軟磁性粉末である。例えば、磁性粉末の粒径は2μm以上100μm以下、好ましくは5μm以上50μm以下である。なお、本実施の形態において粒径はメジアン径D50であり、レーザー回折・散乱法を用いて測定した値である。
【0015】
本実施の形態では、磁性粉末としてアモルファス合金粉末を用いることができる。例えば、Fe-P-B合金、Fe-B-P-Nb-Cr合金、Fe-Si-B合金、Fe-Si-B-P合金、Fe-Si-B-P-Cr合金、Fe-Si-B-P-C合金を用いることができ、アトマイズ法により溶湯を急冷凝固させて粉末化することで、アモルファス合金粉末を得ることができる。また、溶湯の急冷でアモルファス化する合金組成のうち、アモルファス相の結晶化温度よりも低温にガラス転移点を有する金属ガラス合金粉末を用いることもできる。特に本実施の形態では、Fe-B-P-Nb-Cr合金系の材料を用いることが好ましい。アモルファス合金粉末の製造方法はアトマイズ法に限定されず、例えば急冷薄帯を粉砕した粉末を用いても良い。
【0016】
また、本実施の形態では、磁性粉末として、アモルファス合金粉末のうち、適切な熱処理によってナノメートルオーダーのナノ結晶相がアモルファス相中に析出する合金組成のナノ結晶化用粉末を用いても良い。例えば、ナノ結晶化用粉末として、アトマイズ法で作製したアモルファス合金粉末を用いてもよい。例えば、Fe-Si-B-P-C-Cu系、Fe-Si-B-Cu-Cr系、Fe-Si-B-P-Cu-Cr系、Fe-B-P-C-Cu系、Fe-Si-B-P-Cu系、Fe-B-P-Cu系、Fe-Si-B-Nb-Cu系の材料をアトマイズ法により溶湯を急冷凝固させて粉末化する。これにより、磁性粉末の昇温過程において結晶化を示す発熱ピークを少なくとも2つ有するナノ結晶化用のアモルファス合金粉末を形成できる。使用するナノ結晶化用のアモルファス合金粉末は特に限定されることはないが、例えばFe-Si-B-P-Cu-Cr系の材料を用いることが好ましい。また、ナノ結晶化用のアモルファス合金粉末の製造方法は、アトマイズ法に限定されず、例えば急冷薄帯を粉砕した粉末を用いても良い。
【0017】
本実施の形態において磁性粉末の粒子形状は球状に近いほど好ましい。粒子の球状度が低いと、粒子表面に突起が生じ、成形圧力を印加した際に該突起に周囲の粒子からの応力が集中して被覆が破壊され、絶縁性が十分に保たれず、その結果、得られる圧粉磁心の磁気特性(特に損失)が悪化する場合がある。なお、粒子の球状度は、磁性粉末の製造条件、例えば水アトマイズ法であればアトマイズに用いる高圧水ジェットの水量や水圧、溶融原料の温度及び供給速度などの調整によって、好適な範囲に制御可能である。具体的な製造条件は、製造する磁性粉末の組成や、所望の生産性によって変化する。
【0018】
本実施の形態にかかる圧粉磁心においてバインダ層は、磁性粉末同士を結着する機能および磁性粉末間の絶縁機能を備える。バインダ層には樹脂材料を用いてもよく、また、低融点ガラスと樹脂材料とを用いてもよい。本実施の形態において、低融点ガラスおよび樹脂材料の総量は圧粉磁心の磁性粉末に対して12体積%以下である。バインダ層が12体積%よりも多い場合、圧粉磁心における磁性粉末の割合が減少し、良好な磁気特性を得ることができない。低融点ガラスには、リン酸塩系、スズリン酸塩系、ホウ酸塩系、ケイ酸塩系、ホウケイ酸塩系、バリウムケイ酸塩系、酸化ビスマス系、ゲルマネート系、バナデート系、アルミノリン酸塩系、砒酸塩系及びテルライド系等を用いることができる。特に本実施の形態では、リン酸塩系またはスズリン酸塩系の低融点ガラスを用いることが好ましい。また、磁性粉末に対する低融点ガラスの体積割合は6体積%以下、好ましくは1体積%以上5体積%以下である。低融点ガラスの体積割合が0体積%でも十分な磁気特性を得られるが、1体積%以上含有すると高周波領域での良好な磁気特性と圧粉磁心の圧環強度をさらに高めることができる。また、6体積%よりも多く含有すると成形時における低融点ガラスの染み出しにより金型と圧粉磁心の離型性が悪化し、圧粉磁心表面に剥がれが生じてしまう。
【0019】
また、バインダ層に含まれる樹脂材料として、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、及びアクリル樹脂からなる群から選択される少なくとも一種を用いることができる。また、磁性粉末に対する樹脂材料の体積割合は0.5体積%以上11体積%以下、好ましくは1体積%以上5体積%以下である。樹脂材料の体積割合が0.5体積%よりも少ない場合、磁性粉末同士の結着性と絶縁性が低下する。また、11体積%よりも多い場合、樹脂硬化時の脱ガス量が多くなり、圧粉磁心の割れを生じてしまう。
【0020】
本実施の形態にかかる圧粉磁心は、圧粉磁心に含まれる磁性粉末の体積充填率が85体積%以上、好ましくは88体積%以上である。
【0021】
体積充填率は、以下の式を用いて求めることができる。
体積充填率(%)=(圧粉磁心の外寸と重量から算出した圧粉磁心の密度/磁性粉末の真密度)×100
【0022】
また、本実施の形態にかかる圧粉磁心は、圧粉磁心のBET比表面積(m2/g)を、圧粉磁心の外寸を用いて算出された比表面積(m2/g)で除算した値が5000以下、好ましくは2000以下、より好ましくは1500以下、更により好ましくは500以下である。なお、本明細書において「熱間成形後の圧粉磁心のBET比表面積(m2/g)を、圧粉磁心の外寸を用いて算出された比表面積(m2/g)で除算した値」は「比表面積の比」とも記載する。この値が大きい程、圧粉磁心の表面が荒くなり、この値が小さい程、圧粉磁心の表面が平滑となる。
【0023】
本実施の形態において圧粉磁心の1MHz、50mTにおける鉄損は2500kW/m3以下、好ましくは1500kW/m3以下、より好ましくは1000kW/m3以下である。例えば、鉄損は、トロイダル形状の圧粉磁心を用いて、B-Hアナライザで測定できる。測定条件は、周波数1MHz、最大磁束密度50mT、正弦波励磁とする。
【0024】
また、本実施の形態において圧粉磁心の1MHzにおける透磁率は50以上、好ましくは60以上、より好ましくは80以上である。例えば、透磁率は、トロイダル形状の圧粉磁心を用いて、インピーダンスアナライザで測定できる。測定周波数は1MHzとする。
【0025】
また、本実施の形態において圧粉磁心の圧環強度は、30MPa以上、好ましくは32MPa以上、より好ましくは33MPa以上、更により好ましくは37MPa以上である。例えば、圧環強度は、トロイダル形状の圧粉磁心を強度試験機を用いて圧縮破壊して算出する。
【0026】
また、本実施の形態では、圧粉磁心の表面における酸化層の厚みは3mm以下、好ましくは2mm以下、より好ましくは1mm以下である。酸化層の厚みが3mmを超えると、圧粉磁心における酸化層の割合が多くなり、磁気特性が低下する。また、圧粉磁心の表面が脆くなり、圧粉磁心が外部衝撃によって欠けやすくなる。酸化層の厚みが3mm以下であれば、圧粉磁心における酸化層の割合を少なくでき、磁気特性の低下と圧粉磁心表面の脆化を抑制できる。酸化層の厚みが2mm以下、さらには1mm以下であれば、圧粉磁心における酸化層の割合をより少なくでき、磁気特性の低下と圧粉磁心表面の脆化を抑制することができる。なお、酸化層の厚みは、圧粉磁心を切断して圧粉磁心の断面を観察し、圧粉磁心の表面から深さ方向に変色している箇所の厚み(変色層の厚み)を測定することで求めることができる。
【0027】
<圧粉磁心の製造方法>
次に、本実施の形態にかかる圧粉磁心の製造方法について説明する。
図2は、本実施の形態にかかる圧粉磁心の製造方法を説明するためのフローチャートである。
図3は、本実施の形態にかかる圧粉磁心の製造方法を説明するための模式図である。
【0028】
図2に示すように、圧粉磁心を製造する際は、まず、磁性粉末を準備する(ステップS1)。磁性粉末には上述した磁性粉末を用いることができる。磁性粉末には、熱間成形時に軟化する磁性材料(熱間成形時に容易に変形する材料)を用いることが好ましい。例えば、磁性粉末の原料を真空溶解した後、水アトマイズ法を用いて粉末化と急冷とを同時に行うことで、非晶質の磁性粉末を得ることができる。このようにして得られた磁性粉末は、必要に応じて分級を行い、異常に粗大化した粉末を除去してもよい。
【0029】
次に、磁性粉末に低融点ガラスをコーティングする(ステップS2)。低融点ガラスには、高温で軟化する材料、つまり、熱間成形時に軟化するとともに、熱間成形後に絶縁材、結着材として働く材料を用いることが好ましい。例えば、低融点ガラスとしてリン酸塩系ガラスを用いることができる。磁性粉末に低融点ガラスをコーティングする際は、メカノフュージョン法、ゾル-ゲル法等の湿式薄膜作製法、またはスパッタリング等の乾式薄膜作製法等を用いることができる。例えば、メカノフュージョン法は、強い機械的エネルギーを加えながら磁性粉末と低融点ガラス粉末とを混合することで、磁性粉末の表面に低融点ガラスの層を形成することができる。
【0030】
一例を挙げると、磁性粉末1000gと低融点ガラス粉末10gを混合し、メカノフュージョン法を用いて磁性粉末に低融点ガラスをコーティングする。これにより、コーティングされた低融点ガラスの磁性粉末に対する体積割合を6体積%以下とすることができる。なお、磁性粉末に低融点ガラスをコーティングする工程(ステップS2)は、省略してもよい。
【0031】
次に、低融点ガラスがコーティングされた磁性粉末に樹脂材料をコーティングして造粒する(ステップS3)。樹脂材料には上述した樹脂材料を用いることができる。樹脂材料には、100℃程度で軟化するとともに、熱間成形後に絶縁材、結着材として働く材料を用いることが好ましい。また、樹脂材料として、熱間成形時(高温時)に分解しにくい材料を用いることが好ましい。樹脂材料をコーティング(造粒)する際は、転動造粒法やスプレードライ法などを用いることができる。具体的には、有機溶剤で溶解した樹脂材料と、低融点ガラスがコーティングされた磁性粉末とを混合して乾燥させることで、磁性粉末の低融点ガラス上に樹脂層を形成できる。
【0032】
図3の左図に造粒後の磁性粉末20を示す。
図3に示すように、造粒後の磁性粉末20は、磁性粉末21の上に低融点ガラス31がコーティングされており、更に低融点ガラス31の上に樹脂材料32がコーティングされている。一例を挙げると、磁性粉末21の直径は9μm、低融点ガラス31の厚さは20nm、樹脂材料の厚さは20nmである。
【0033】
なお、本実施の形態では、バインダ被覆されていない磁性粉末が混在していてもよい。また、本実施の形態では、バインダとして熱硬化性樹脂を用いることが好ましい。
【0034】
次に、造粒後の磁性粉末を予備成形する(ステップS4)。例えば予備成形は、造粒後の磁性粉末を金型に投入して加圧し(例えば、室温で500kgf/cm2)、その後、加圧なしで圧粉体を所定の温度(例えば、100℃~150℃)で加熱し硬化することで実施できる。使用する樹脂材料が熱硬化性樹脂の場合は、加熱時の樹脂の硬化を用いて、中間成形体を成形する。使用する樹脂材料が熱可塑性樹脂の場合は、加熱時の樹脂の軟化と冷却時の固化により中間成形体を成形する。
【0035】
つまり、
図3の中央図に示すように、予備成形した場合は、最表面の樹脂材料32を介して、磁性粉末21(低融点ガラス31がコーティングされている)が結着して中間成形体25が形成される。なお、低融点ガラスは予備成形の温度(例えば150℃)では軟化しないので、結着性、流動性は示さない。なお、予備成形工程(ステップS4)は、省略してもよい。
【0036】
次に、予備成形後の中間成形体(ステップS4を省略する場合は、造粒後の磁性粉末)を熱間成形する(ステップS5)。熱間成形は、金型に予備成形後の中間成形体(または、造粒後の磁性粉末)を入れた状態で加圧しながら加熱することで実施する。このときの加熱温度は例えば以下のように設定する。
【0037】
使用した磁性粉末が金属ガラス合金粉末の場合、熱間成形する際の温度は、低融点ガラスの軟化温度および磁性粉末のガラス転移温度のうち高い方の温度以上、磁性粉末の結晶化温度以下に設定する。熱間成形温度を磁性粉末のガラス転移温度以上とすることにより、磁性粉末の塑性変形がより生じやすくなるため、磁性粉末の高い充填率が得られる。一例を挙げると、450℃以上500℃以下である。
【0038】
使用した磁性粉末がナノ結晶化用のアモルファス合金粉末の場合、熱間成形する際の温度は、低融点ガラスの軟化温度および磁性粉末の第1結晶化温度のうち高い方の温度以上、磁性粉末の第2結晶化温度以下に設定する。熱間成形温度を第1結晶化温度前後とすることにより、結晶相であるα-Fe相が析出すると同時に、磁性粉末の塑性変形がより生じやすくなるため、磁性粉末の高い充填率が得られる。一例を挙げると、400℃以上500℃以下である。また、本実施の形態においては、低融点ガラスの軟化温度および磁性粉末の第1結晶化温度+40℃のうち高い方の温度以上であることが好ましい。ここで、第1結晶化温度および第2結晶化温度とは以下の通りである。すなわち、アモルファス構造の磁性材料を熱処理すると昇温過程において結晶化が2回以上起こる。低温側で結晶化を開始する温度が第1結晶化温度であり、その後、高温側で結晶化を開始する温度が第2結晶化温度である。より詳しくは、磁性粉末は、示差走査熱量測定(DSC)により得られるDSC曲線の加熱過程に、結晶化を示す発熱ピークを少なくとも2つ有している。前記発熱ピークのうち、最も低温側の発熱ピークがα-Fe相が析出する第1結晶化温度であり、その次の発熱ピークがホウ化物などが析出する第2結晶化温度である。
【0039】
本実施の形態では、加熱温度を上述の温度範囲に設定するとともに、圧粉磁心の鉄損の値が低くなる温度条件とすることが好ましい。
【0040】
また、本実施の形態では、熱間成形する工程が酸化雰囲気中で実施される。ここで酸化雰囲気とは酸素が存在する雰囲気であり、典型的には大気中である。
【0041】
また、本実施の形態では、熱間成形する際の昇温速度を133℃/分以上、好ましくは200℃/分以上、より好ましくは500℃/分以上、更に好ましくは1000℃/分以上としてもよい。熱間成形する際の昇温速度をこのような条件とすることで、圧粉磁心の圧環強度を高めることができる。また、昇温速度を上述の速度以上に設定することで、成型体の内部まで迅速に熱が伝達するため、バインダ層に用いた樹脂材料の熱分解を抑えることができ、比表面積を小さくできる。さらに、樹脂材料として熱硬化性樹脂を用いた場合、昇温速度を上述の速度以上に設定することで、圧粉磁心の表面において磁性粉末の塑性変形前の樹脂硬化を抑制できるため、比表面積を小さくできる。
【0042】
熱間成形する際の圧力は、例えば5~10ton・f/cm2とする。圧力が低すぎると成形体(圧粉磁心)の充填率が低くなり、圧粉磁心の鉄損が大きくなる。逆に圧力が高すぎると、金型の摩耗が激しくなり、コスト的に好ましくない。したがって、上述の範囲に圧力を設定することが好ましい。
【0043】
熱間成形における到達温度(熱間成形温度)での加圧保持時間は、5~300秒の範囲で行うことが好ましく、120秒以下で行うことがより好ましい。加圧保持時間が短すぎると、成形体の内部まで十分に熱が伝わらず、磁性粉末の軟化による変形が十分に得られないため、成形体の充填率が低くなり、圧粉磁心の鉄損が大きくなる。逆に加圧保持時間が長すぎると、バインダ層に用いた樹脂材料の熱分解が進むため、低融点ガラスの流動性を抑制する効果が低くなり、圧粉磁心の鉄損が大きくなる。したがって、熱間成形の時間は、成形体の内部まで十分に熱が伝わり、磁性粉体の軟化による変形が完了し、かつバインダ層に用いた樹脂材料の熱分解を抑えてコスト的に好ましい範囲で設定すればよく、上述の範囲に成形時間を設定することが好ましい。
【0044】
また、熱間成形の時間を上述の範囲とした場合は、大気中で熱間成形した際に、圧粉磁心内の磁性粉末全体が酸化する前に磁性粉末を高充填化でき、圧粉磁心内部の酸化を抑制できる。
【0045】
本実施の形態では、大気中で予め加熱された金型内で磁性粉末を加熱成形してもよい。この場合は、高充填化される前に金型に接した磁性粉末、つまり圧粉磁心の表面のみが酸化されるので、磁気特性の低下と強度の低下を最小限にとどめることができる。さらに圧粉磁心表面の粉末が酸化されることにより、圧粉磁心表面の電気抵抗値が増加するため、周波数特性が向上し、高周波領域(例えば1MHz)の鉄損が低くなる。
【0046】
図3の右図に示すように、熱間成形後の成形体(圧粉磁心)10は、磁性粉末21同士が、低融点ガラスと樹脂材料とを含むバインダ層22を介して結着している。本実施の形態では、圧粉磁心10が含有する磁性粉末の体積割合を85体積%以上とする。また、熱間成形後の圧粉磁心のBET比表面積(m
2/g)を、圧粉磁心の外寸を用いて算出された比表面積(m
2/g)で除算した値が5000以下とする。これにより、高周波領域において低損失な圧粉磁心を実現できる。
【0047】
すなわち、本実施の形態では、磁性粉末21同士がバインダ層22を介して結着しているので、圧粉磁心10の外部から圧粉磁心の内部に大気が侵入することを抑制でき、圧粉磁心の内部が酸化することを抑制できる。また、本実施の形態では、熱間成形後の圧粉磁心のBET比表面積(m2/g)を、圧粉磁心の外寸を用いて算出された比表面積(m2/g)で除算した値(比表面積の比)が5000以下となるようにしている。比表面積の比をこのような範囲とした場合は、熱間成形後の圧粉磁心の表面積を小さく(つまり、表面を平滑に)することができる。このように表面積が小さいと外気に接する面積を小さくできるので、圧粉磁心の酸化を抑制できる。また、圧粉磁心の気孔も少なくできるので、圧粉磁心の内部の酸化も抑制できる。したがって、高周波領域において低損失な圧粉磁心を実現できる。また、熱間成形の温度範囲を上記温度範囲とした場合は、バインダの熱分解を抑制できるので、圧粉磁心の強度の低下を抑制できる。また、本実施の形態では、大気中で熱間成形しているので、製造コストを低減できる。
【実施例0048】
次に、本発明の実施例について説明する。
【0049】
<実験1>
上述の圧粉磁心の製造方法(
図2参照)を用いて、実験1にかかるサンプルを作製した。実験1にかかる圧粉磁心の形状は、外径13mm、内径8mm、高さ5mmのトロイダル形状とした。まず、磁性粉末を準備した。磁性粉末には、粒径が10μm(メジアン径D50)のナノ結晶化用のアモルファス合金粉末であるFe-Si-B-P-Cu-Cr系の粉末を用いた。次に、磁性粉末と低融点ガラス粉末とを混合し、メカノフュージョン法を用いて磁性粉末に低融点ガラスをコーティングした。低融点ガラスにはリン酸塩系ガラスを用いた。
【0050】
その後、低融点ガラスがコーティングされた磁性粉末に樹脂材料をコーティングして造粒した。樹脂材料には、フェノール樹脂を用いた。各々のサンプルのバインダ量、つまり、低融点ガラスと樹脂材料の合計量は、表1に示すバインダ量とした。低融点ガラスと樹脂材料のバインダ量の比は1:1とした。例えば、バインダ量が5vol%の場合は、低融点ガラスの量が2.5vol%となり、樹脂材料の量が2.5vol%となる。
【0051】
次に、造粒後の磁性粉末を金型に投入して500kgf/cm2の条件で加圧したあと、加圧なしで圧粉体を温度150℃で加熱し硬化することで予備成形した。その後、予備成形後の中間成形体を金型に入れた状態で熱間成形した。熱間成形の条件は、成形温度480℃、加圧圧力は5~10tonf/cm2、成形温度での加圧保持時間は15秒とした。また、昇温速度は、表1に示す昇温速度とした。
【0052】
なお、実験1で用いた低融点ガラスの軟化温度は400℃、磁性粉末の第1結晶化温度は440℃、第2結晶化温度は525℃であった。このため、実験1では第1結晶化温度と第2結晶化温度の間の温度である480℃で成形し、成形中にナノ結晶化させた。つまり、実験1において成形前の磁性粉末の組織はアモルファス相であり、成形後の磁性粉末の組織はナノ結晶相である。
【0053】
また、実験1では大気中および不活性雰囲気中の両方で熱間成形したサンプルを作成した。
【0054】
上述のようにして作製した各々のサンプルに対して、圧粉磁心の体積充填率、比表面積の比、1MHzの透磁率、1MHz、50mTの鉄損を測定した。
【0055】
圧粉磁心の体積充填率は、以下の式を用いて求めた。
体積充填率(%)=(圧粉磁心の外寸と重量から算出した圧粉磁心の密度/磁性粉末の真密度)×100
【0056】
比表面積の比は、以下のようにして求めた。
まず、圧粉磁心のBET比表面積A(m2/g)を求めた。また、圧粉磁心の外寸を用いて、圧粉磁心の比表面積B(m2/g)を算出した。そして、比表面積A(m2/g)を比表面積B(m2/g)で除算することで、比表面積の比(A/B)の値を求めた。
【0057】
透磁率は、インピーダンスアナライザを用いて求めた。測定条件は、周波数1MHzとした。鉄損は、トロイダル形状の圧粉磁心を作製し、この作製した圧粉磁心をB-Hアナライザ(岩崎通信機株式会社製)を用いて2コイル法で測定することで求めた。測定条件としては、1MHz、50mTの正弦波励磁条件とした。
【0058】
表1に、各々のサンプルの作製条件と測定結果を示す。また、
図4のグラフに圧粉磁心の比表面積の比と体積充填率と鉄損との関係を示す。表1に示すように、体積充填率が85%以上のサンプルでは透磁率が50以上となり、良好な磁気特性を示した(実施例1-1~実施例1-13参照)。体積充填率が高いと単位体積当たりに占める磁性体の体積が多くなるため、透磁率が高くなったと考えられる。
【0059】
また、
図4に示すように、体積充填率が85%以上かつ比表面積の比の値が5000以下のサンプルでは、1MHz、50mTの鉄損が2500kW/m
3以下となり、良好な磁気特性を示した(
図4の破線で示す枠内を参照)。また、実施例1-1~実施例1-13では、不活性雰囲気中で成形した場合よりも、大気中で成形した場合の方が鉄損の値が低くなった。体積充填率が85%以上かつ比表面積の比が5000以下の場合は、圧粉磁心の表面が適度に酸化され、これにより圧粉磁心の表面の電気抵抗値が増加し、圧粉磁心の渦電流損失が低減したことで、不活性雰囲気中で成形した場合よりも低鉄損となったと考えられる。なお、体積充填率が85%未満、比表面積の比が5000以上の場合は、圧粉磁心の内部の空隙が多くなり、圧粉磁心が過度に酸化されたため、鉄損が増加したと考えられる。
【0060】
大気中で成形した実施例にかかるサンプルでは表面の酸化層の厚さは0.5mm以下であった。また、大気中で成形した比較例にかかるサンプルでは表面の酸化層の厚さは3.5mm以下であった。不活性雰囲気中で成形したサンプルでは表面の酸化層の厚さは0.01mm以下であった。このような結果から、サンプル表面の酸化層の厚さは0.01mmよりも厚いことが好ましい。なお、バインダとして樹脂材料のみを用いて作製した中間成型体を大気中にて熱間成形したサンプルでは、表面の酸化層の厚さは2mm以下であった。
【0061】
【0062】
<実験2>
上述の圧粉磁心の製造方法(
図2参照)を用いて、実験2にかかるサンプルを作製した。実験2にかかる圧粉磁心の形状は、外径13mm、内径8mm、高さ5mmのトロイダル形状とした。まず、磁性粉末を準備した。磁性粉末には、粒径が9μm(メジアン径D50)の金属ガラス合金粉末(アモルファス合金粉末)であるFe-B-P-Nb-Cr系の粉末を用いた。次に、磁性粉末と低融点ガラス粉末とを混合し、メカノフュージョン法を用いて磁性粉末に低融点ガラスをコーティングした。低融点ガラスにはリン酸塩系ガラスを用いた。
【0063】
その後、低融点ガラスがコーティングされた磁性粉末に樹脂材料をコーティングして造粒した。樹脂材料には、フェノール樹脂を用いた。各々のサンプルのバインダ量、つまり、低融点ガラスと樹脂材料の合計量は、表2に示すバインダ量とした。低融点ガラスと樹脂材料のバインダ量の比は1:1とした。例えば、バインダ量が5vol%の場合は、低融点ガラスの量が2.5vol%、樹脂材料の量が2.5vol%となる。
【0064】
次に、造粒後の磁性粉末を金型に投入して500kgf/cm2の条件で加圧したあと、加圧なしで圧粉体を温度150℃で加熱し硬化することで予備成形した。その後、予備成形後の中間成形体を金型に入れた状態で熱間成形した。熱間成形の条件は、成形温度490℃、加圧圧力は5~10tonf/cm2、成型温度での加圧保持時間は15秒とした。また、昇温速度は、表2に示す昇温速度とした。
【0065】
なお、実験2で用いた低融点ガラスの軟化温度は400℃、磁性粉末のガラス転移温度は480℃、結晶化温度は510℃であった。実験2ではガラス転移温度と結晶化温度の間の温度である490℃で成形した。このため、実験2では成形後の磁性粉末の組織もアモルファス相であった(つまり、結晶化させなかった)。
【0066】
また、実験2では大気中および不活性雰囲気中の両方で熱間成形したサンプルを作成した。
【0067】
上述のようにして作製した各々のサンプルに対して、圧粉磁心の体積充填率、比表面積の比、1MHzの透磁率、1MHz、50mTの鉄損を測定した。これらの測定方法については、実験1と同様である。
【0068】
表2に、各々のサンプルの作製条件と測定結果を示す。また、
図5のグラフに圧粉磁心の比表面積の比と体積充填率と鉄損との関係を示す。表2に示すように、体積充填率が85%以上のサンプルでは透磁率が50以上となり、良好な磁気特性を示した(実施例2-1~実施例2-13参照)。体積充填率が高いと単位体積当たりに占める磁性体の体積が多くなるため、透磁率が高くなったと考えられる。
【0069】
また、
図5に示すように、体積充填率が85%以上かつ比表面積の比の値が5000以下のサンプルでは、1MHz、50mTの鉄損が2500kW/m
3以下となり、良好な磁気特性を示した(
図5の破線で示す枠内を参照)。また、実施例2-1~実施例2-13では、不活性雰囲気中で成形した場合よりも、大気中で成形した場合の方が鉄損の値が低くなった。体積充填率が85%以上かつ比表面積の比が5000以下の場合は、圧粉磁心の表面が適度に酸化され、これにより圧粉磁心の表面の電気抵抗値が増加し、圧粉磁心の渦電流損失が低減したことで、不活性雰囲気中で成形した場合よりも低鉄損となったと考えられる。なお、体積充填率が85%未満、比表面積の比が5000以上の場合は、圧粉磁心の内部の空隙が多くなり、圧粉磁心が過度に酸化されたため、鉄損が増加したと考えられる。
【0070】
【0071】
<実験3>
上述の圧粉磁心の製造方法(
図2参照)を用いて、実験3にかかるサンプルを作製した。実験3にかかる圧粉磁心の形状は、外径13mm、内径8mm、高さ5mmのトロイダル形状とした。まず、磁性粉末を準備した。磁性粉末には、粒径が10μm(メジアン径D50)のナノ結晶化用のアモルファス合金粉末であるFe-Si-B-P-Cu-Cr系の粉末を用いた。次に、磁性粉末と低融点ガラス粉末とを混合し、メカノフュージョン法を用いて磁性粉末に低融点ガラスをコーティングした。低融点ガラスにはリン酸塩系ガラスを用いた。
【0072】
その後、低融点ガラスがコーティングされた磁性粉末に樹脂材料をコーティングして造粒した。樹脂材料には、フェノール樹脂を用いた。各々のサンプルのバインダ量、つまり、低融点ガラスと樹脂材料の合計量は8vol%とした。低融点ガラスと樹脂材料のバインダ量の比は1:1とした。よって、低融点ガラスの量は4vol%、樹脂材料の量は4vol%であった。
【0073】
次に、造粒後の磁性粉末を金型に投入して500kgf/cm2の条件で加圧したあと、加圧なしで圧粉体を温度150℃で加熱し硬化することで予備成形した。その後、予備成形後の中間成形体を金型に入れた状態で大気中で熱間成形した。熱間成形の条件は、成形温度480℃、加圧圧力は10tonf/cm2、成形温度での加圧保持時間は15秒とした。また、昇温速度は、表3に示す昇温速度とした。
【0074】
なお、実験3で用いた低融点ガラスの軟化温度は400℃、磁性粉末の第1結晶化温度は440℃、第2結晶化温度は525℃であった。このため、実験3では第1結晶化温度と第2結晶化温度の間の温度で成形し、成形中にナノ結晶化させた。つまり、実験3において成形前の磁性粉末の組織はアモルファス相であり、成形後の磁性粉末の組織はナノ結晶相である。
【0075】
上述のようにして作製した各々のサンプルに対して、圧粉磁心の体積充填率、及び圧環強度を測定した。体積充填率は、実験1と同様の方法を用いて測定した。圧環強度は、トロイダル形状の圧粉磁心を強度試験機にて圧縮破壊して算出した。
【0076】
表3に、各々のサンプルの昇温速度、体積充填率、及び圧環強度を示す。表3に示すように、昇温速度が133℃/分以上の条件で成形したサンプルでは、体積充填率が85%以上となった。また、昇温速度が133℃/分以上の条件で成形したサンプルでは、圧環強度が30MPa以上となった。圧環強度は30MPa以上が強度的に好ましい範囲である。したがって、昇温速度を133℃/分以上とすることで、サンプルの強度および磁気特性が良好な圧粉磁心を作製できた。
【0077】
【0078】
以上、本発明を上記実施の形態に即して説明したが、本発明は上記実施の形態の構成にのみ限定されるものではなく、本願特許請求の範囲の請求項の発明の範囲内で当業者であればなし得る各種変形、修正、組み合わせを含むことは勿論である。