(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024003947
(43)【公開日】2024-01-16
(54)【発明の名称】Ce-Mo系複合酸化物セラミックス、圧粉体、焼結体、及び物品
(51)【国際特許分類】
C04B 35/495 20060101AFI20240109BHJP
C04B 35/50 20060101ALI20240109BHJP
C01G 39/00 20060101ALI20240109BHJP
A61L 2/23 20060101ALI20240109BHJP
A01P 1/00 20060101ALN20240109BHJP
A01P 3/00 20060101ALN20240109BHJP
A01N 59/16 20060101ALN20240109BHJP
A01N 59/06 20060101ALN20240109BHJP
【FI】
C04B35/495
C04B35/50
C01G39/00 Z
A61L2/23
A01P1/00
A01P3/00
A01N59/16 Z
A01N59/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022103322
(22)【出願日】2022-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩田 昌也
(72)【発明者】
【氏名】岡山 太樹
(72)【発明者】
【氏名】中島 章
【テーマコード(参考)】
4C058
4G048
4H011
【Fターム(参考)】
4C058AA01
4C058BB07
4G048AA03
4G048AB02
4G048AC08
4G048AE05
4H011AA02
4H011AA04
4H011BB18
4H011DA02
(57)【要約】
【課題】抗菌性及び抗ウイルス性に優れたCe-Mo系複合酸化物セラミックス等の提供。
【解決手段】Ce-Mo系複合酸化物セラミックスは、セリウムと、モリブデンと、Al、Zr及びSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の微量元素とを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セリウムと、モリブデンと、Al、Zr及びSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の微量元素とを含むCe-Mo系複合酸化物セラミックス。
【請求項2】
前記微量元素の含有量が、270ppm以上である請求項1に記載のCe-Mo系複合酸化物セラミックス。
【請求項3】
前記微量元素が、結晶相中に存在する請求項1又は請求項2に記載のCe-Mo系複合酸化物セラミックス。
【請求項4】
Ce2Mo3O13を含む請求項1又は請求項2に記載のCe-Mo系複合酸化物セラミックス。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載のCe-Mo系複合酸化物セラミックスが、粉末状であり、前記粉末状の前記Ce-Mo系複合酸化物セラミックスを圧縮成形してなる圧粉体。
【請求項6】
請求項1又は請求項2に記載のCe-Mo系複合酸化物セラミックスが焼結されてなる焼結体。
【請求項7】
表面の少なくとも一部に、請求項1又は請求項2に記載のCe-Mo系複合酸化物セラミックスを有する物品。
【請求項8】
請求項1又は請求項2に記載のCe-Mo系複合酸化物セラミックスが、基材中に分散されてなる物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Ce-Mo系複合酸化物セラミックス、圧粉体、焼結体、及び物品に関する。
【背景技術】
【0002】
無機系の抗菌・抗ウイルス剤は、使用可能な温度範囲が広いことや、ウイルス等が耐性を獲得し難い等の利点を有しており、近年、活発に研究が行われている。この種の抗菌・抗ウイルス剤としては、Ag、Cu等の金属系、TiO2等の光触媒系、ZnO、CaO等の金属酸化物系等がこれまでに報告され、それらは実際に使用されている。
【0003】
特許文献1に示されるように、無機系の抗菌・抗ウイルス剤の中でも、セリウム(Ce)及びモリブデン(Mo)を含む、抗菌・抗ウイルス活性の高い複合酸化物セラミックスが、特に注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、セリウム及びモリブデンを含む複合酸化物セラミックスに対して、セリウム、モリブデン、酸素以外の他の元素が混入した場合、その元素が前記複合酸化物セラミックスの抗菌性及び抗ウイルス性にどのような影響を及ぼすか等について、全く検討されていなかった。
【0006】
本発明の目的は、抗菌性及び抗ウイルス性に優れたCe-Mo系複合酸化物セラミックス等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、セリウム(Ce)及びモリブデン(Mo)の複合酸化物を含むCe-Mo系複合酸化物セラミックスが、Al、Zr及びSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の微量元素を含むと、金属イオンが溶け出し易くなり、優れた抗菌性及び抗ウイルス性を発揮できることを見出し、本発明の完成に至った。
【0008】
前記課題を解決するための手段は、以下の通りである。即ち、
<1> セリウムと、モリブデンと、Al、Zr及びSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の微量元素とを含むCe-Mo系複合酸化物セラミックス。
【0009】
<2> 前記微量元素の含有量が、270ppm以上である前記<1>に記載のCe-Mo系複合酸化物セラミックス。
【0010】
<3> 前記微量元素が、結晶相中に存在する前記<1>又は<2>に記載のCe-Mo系複合酸化物セラミックス。
【0011】
<4> Ce2Mo3O13を含む前記<1>又は<2>に記載のCe-Mo系複合酸化物セラミックス。
【0012】
<5> 前記<1>又は<2>に記載のCe-Mo系複合酸化物セラミックスが、粉末状であり、前記粉末状の前記Ce-Mo系複合酸化物セラミックスを圧縮成形してなる圧粉体。
【0013】
<6> 前記<1>又は<2>に記載のCe-Mo系複合酸化物セラミックスが焼結されてなる焼結体。
【0014】
<7> 表面の少なくとも一部に、前記<1>又は<2>に記載のCe-Mo系複合酸化物セラミックスを有する物品。
【0015】
<8> 前記<1>又は<2>に記載のCe-Mo系複合酸化物セラミックスが、基材中に分散されてなる物品。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、抗菌性及び抗ウイルス性に優れたCe-Mo系複合酸化物セラミックス等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】固相合成法による実施例1のCe-Mo系複合酸化物セラミックスの製造方法(スキーム)を示す図
【
図2】実施例1及び比較例1の各仮焼成粉末におけるX線回折スペクトルを示す図
【
図3】実施例1及び比較例1の各仮焼成粉末が浸漬された純水の経時的なpH挙動を示す図
【発明を実施するための形態】
【0018】
本実施形態のCe-Mo系複合酸化物セラミックスは、セリウム(Ce)と、モリブデン(Mo)と、Al、Zr及びSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の微量元素とを含む。
【0019】
Ce-Mo系複合酸化物セラミックスは、セリウム(Ce)とモリブデン(Mo)とを含む複合酸化物セラミックスであって、必須成分として、前記微量元素を含むものである。Ce-Mo系複合酸化物セラミックスに含まれるセリウム(Ce)とモリブデン(Mo)の組成比(モル比)としては、本発明の目的を損なわない限り特に制限はなく、例えば、Ce:Mo=2:3であってもよいし、Ce:Mo=1:2であってもよい。
【0020】
なお、Ce-Mo系複合酸化物セラミックスに含まれる酸素原子(O)の量は、化学量論組成であってもよいし、化学量論組成からずれていてもよい。つまり、Ce-Mo系複合酸化物セラミックスは、不定比化合物であってもよい。
【0021】
Ce-Mo系複合酸化物セラミックスとしては、例えば、Ce(MoO4)2、Ce2MoO6、Ce2(MoO4)3、Ce2Mo3O13、Ce2Mo4O15、Ce6(MoO4)8(Mo2O7)、Ce8Mo12O49等が挙げられる。これらのCe-Mo系複合酸化物セラミックスは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。Ce-Mo系複合酸化物セラミックスとしては、Ce2Mo3O13が好ましい。
【0022】
Ce-Mo系複合酸化物セラミックスに含まれる前記微量元素は、本発明の目的を損なわない限り、Ce-Mo系複合酸化物セラミックスの何れの箇所に存在してもよいが、Ce-Mo系複合酸化物セラミックスを好ましい結晶構造(例えば、γ型結晶構造)で維持し易い等の観点より、Ce-Mo系複合酸化物セラミックスの結晶相中に存在することが好ましい。
【0023】
前記微量元素は、上述したように、Al、Zr及びSiからなる群より選ばれる少なくとも1種からなる。微量元素としては、例えば、アルミニウムが好ましい。
【0024】
Ce-Mo系複合酸化物セラミックス中における微量元素の含有量(含有率)は、例えば、270ppm以上が好ましく、500ppm以上がより好ましく、700ppm以上が更に好ましい。なお、Ce-Mo系複合酸化物セラミックス中における微量元素の含有量(含有率)の上限は、本発明の目的を損なわない限り特に制限はないが、例えば、100000ppm以下が好ましく、75000ppm以下がより好ましく、50000ppm以下が更に好ましい。
【0025】
Ce-Mo系複合酸化物セラミックス中における前記微量元素の含有量(含有率)が、このような範囲であると、前記微量元素が、Ce-Mo系複合酸化物の結晶構造に侵入して、Ce-Mo系複合酸化物の結晶構造を変化させることにより、その結晶構造を構成している金属イオンが溶出し易くなることで、Ce-Mo系複合酸化物セラミックスを水中に添加した際にpHが低下するものと推測される。その結果、Ce-Mo系複合酸化物セラミックスの抗菌性及び抗ウイルス性が、微量元素を含まないCe-Mo系複合酸化物セラミックスと比べて、高まると推測される。
【0026】
Ce-Mo系複合酸化物セラミックス中の微量元素の検出は、例えば、蛍光X線分光装置(XRF)を使用して行われる。その検出結果に基づいて、Ce-Mo系複合酸化物セラミックス中における微量元素の含有量(含有率)が求められる。
【0027】
Ce-Mo系複合酸化物セラミックスは、本発明の目的を損なわない限り、前記微量元素以外の他の元素(例えば、H、F、Ba、Zn、Mg、Fe、Y等)を含んでもよい。他の元素は、例えば、Ce-Mo系複合酸化物セラミックス中に、0.01質量%以下(100ppm以下)で含まれてもよいし、0.008質量%以下(80ppm以下)で含まれてもよい。Ce-Mo系複合酸化物セラミックス中の前記他の元素は、蛍光X線分光装置(XRF)又はICP発光分光分析装置(ICP)を用いて検出することができる。
【0028】
Ce-Mo系複合酸化物セラミックスは、単結晶体又は多結晶体の結晶質であってもよいし、ガラス状等の非晶質(アモルファス)であってもよいし、結晶質部と非晶質部の組合せであってもよい。また、結晶の晶相は、単相であってもよいし、2以上の異なる相の組合せであってもよい。
【0029】
Ce-Mo系複合酸化物セラミックスの製造方法は、本発明の目的を損なわない限り特に制限はないが、例えば、固相反応法が挙げられる。Ce-Mo系複合酸化物セラミックスの製造方法としては、含有させる微量元素を所定量に調整し易い等の観点より、固相反応法が好ましい。
【0030】
ここで、固相反応法によるCe-Mo系複合酸化物セラミックスの製造方法を例示する。固相反応法によるCe-Mo系複合酸化物セラミックスの製造方法は、例えば、調合工程、乾燥工程、仮焼成工程を有する。
【0031】
調合工程は、所定量のセリウム化合物と、所定量のモリブデン化合物と、所定量の微量元素又は微量元素化合物とを混合して、それらの混合物を得る工程である。
【0032】
セリウム化合物は、Ce-Mo系複合酸化物セラミックスを製造するために必要なセリウム(Ce)を含む化合物であり、例えば、CeO2、セリウム硝酸塩、塩化セリウム、硫酸セリウム、水酸化セリウム、炭酸セリウム、酢酸セリウム等が挙げられる。セリウム化合物としては、CeO2、セリウム硝酸塩、塩化セリウム、硫酸セリウム、水酸化セリウム、炭酸セリウム、酢酸セリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種が使用されてもよい。なお、セリウム化合物としては、CeO2が好ましい。
【0033】
モリブデン化合物は、Ce-Mo系複合酸化物セラミックスを製造するために必要なモリブデン(Mo)を含む化合物であり、例えば、MoO3、MoO2、MoO、Mo(OH)3、Mo(OH)5等が挙げられる。モリブデン化合物としては、MoO3、MoO2、MoO、Mo(OH)3、Mo(OH)5からなる群より選ばれる少なくとも1種が使用されてもよい。なお、モリブデン化合物としては、MoO3が好ましい。
【0034】
セリウム化合物及びモリブデン化合物の混合比は、モル比でCe:Mo=2:3となるように調整してもよいし、モル比でCe:Mo=1:2となるように調整してもよいし、モル比でCe:Mo=1:1となるように調整してもよいし、モル比でCe:Mo=2:1となるように調整してもよいし、モル比でCe:Mo=3:4となるように調整してもよいし、モル比でCe:Mo=3:5となるように調整してもよい。なお、セリウム化合物及びモリブデン化合物の混合比は、モル比でCe:Mo=2:3が好ましい。
【0035】
調合工程では、微量元素単体が使用されても良いし、微量元素を含む微量元素化合物が使用されてもよい。
【0036】
微量元素がアルミニウム(Al)の場合、微量元素化合物(アルミニウム化合物)としては、例えば、Al(NO3)3、Al2O3、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム等が挙げられる。アルミニウム化合物としては、Al(NO3)3が好ましい。
【0037】
微量元素がジルコニウム(Zr)の場合、微量元素化合物(ジルコニウム化合物)としては、例えば、塩化ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、炭酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム等が挙げられる。ジルコニウム化合物としては、塩化ジルコニウムが好ましい。
【0038】
微量元素がケイ素(Si)の場合、微量元素化合物(ケイ素化合物)としては、例えば、二酸化ケイ素、一酸化ケイ素、炭化ケイ素、窒化ケイ素等が挙げられる。ケイ素化合物としては、二酸化ケイ素が好ましい。
【0039】
セリウム化合物及びモリブデン化合物に対する、微量元素化合物の混合割合は、Ce-Mo系複合酸化物セラミックス中における微量元素の含有量(含有率)が上述した数値範囲となるように、適宜、設定される。
【0040】
調合工程は、例えば、所定量のセリウム化合物と、所定量のモリブデン化合物とを樹脂製の容器(樹脂ポット)内に入れ、そして更に、その容器内に、所定量の低級アルコール(エタノール)等の溶媒と、所定量の微量元素化合物とを入れて、それらを、玉石(ジルコニア玉石、アルミナ玉石等)を利用して、所定時間(例えば、5時間~30時間)混合することにより行われる。このような調合工程により、スラリー状の湿式混合物が得られる。
【0041】
乾燥工程は、調合工程後に得られたスラリー状の湿式混合物を乾燥させる工程である。湿式混合物の乾燥方法としては、本発明の目的を損なわない限り特に制限はなく、例えば、湯煎乾燥、振動乾燥機を用いた乾燥方法、スプレードライヤーを用いた乾燥方法等が挙げられる。
【0042】
乾燥工程の後、湿式混合物は乾燥して粉末状となる。得られた粉末状の混合物(混合粉末)は、固相状態のセリウム化合物と、固相状態のモリブデン化合物と、微量元素化合物(又は微量元素)とが、互いに混ざり合った状態となっている。
【0043】
仮焼成工程は、乾燥工程後に得られた混合粉末を、固相状態で焼成する工程である。例えば、仮焼成工程は、前記混合粉末を、400℃以上650℃以下の温度条件で、1時間~24時間焼成する。仮焼成工程は、特別な合成空気の雰囲気下で行う必要がなく、通常の大気雰囲気下で行われる。なお、仮焼成工程は、混合粉末中のセリウム化合物やモリブデン化合物等の焼結を目的としたものではない。
【0044】
仮焼成工程により、セリウム化合物と、モリブデン化合物と、微量元素化合物(又は微量元素)との反応物からなる仮焼成粉末(Ce-Mo系複合酸化物セラミックスの一例)が得られる。
【0045】
仮焼成粉末は、必要に応じて、スプレードライ等により、造粒して顆粒状に調製されてもよい。このような顆粒状のものを、Ce-Mo系複合酸化物セラミックスとして使用してもよい。
【0046】
また、仮焼成粉末を本焼成して、焼結させた焼結体を、Ce-Mo系複合酸化物セラミックスとして使用してもよい。例えば、所定のプレス機を使用して、仮焼成粉末を、所定形状(例えば、円柱状、円板状等)に圧縮成形し、得られた成形体(圧粉体)を所定の温度条件(例えば、400℃以上650℃以下)で、1時間~24時間焼成して、焼結させることで、Ce-Mo系複合酸化物セラミックスとして使用可能な焼結体が得られる。
【0047】
本焼成工程は、仮焼成粉末中のCe-Mo系複合酸化物セラミックスを焼結させるための焼成工程であり、大気雰囲気下で行うことができる。
【0048】
また、本実施形態のCe-Mo系複合酸化物セラミックスは、例えば、国際公開第2022/014631号に記載のクエン酸重合法や水熱合成法を応用して、適宜、製造されてもよい。
【0049】
本実施形態のCe-Mo系複合酸化物セラミックスは、焼結前の状態で、抗菌性(抗菌活性)及び抗ウイルス性(抗ウイルス活性)を示す。また、本実施形態のCe-Mo系複合酸化物セラミックスは、焼結後も、焼結前と同様に、抗菌性及び抗ウイルス性を示す。このようなCe-Mo系複合酸化物セラミックスは、抗菌性を有する抗菌剤、抗ウイルス性を有する抗ウイルス剤、抗菌性及び抗ウイルス性を併せ持った抗菌・抗ウイルス剤として使用できる。
【0050】
Ce-Mo系複合酸化物セラミックスの抗菌性及び抗ウイルス性は、例えば、JIS R 1756に準拠したフィルム密着法により、評価できる。例えば、Ce-Mo系複合酸化物セラミックスについて、前記フィルム密着法による24時間経過後のウイルスの減少率は、99%以上である。
【0051】
本実施形態のCe-Mo系複合酸化物セラミックスの形状は、本発明の目的を損なわない限り、特に制限はなく、用途に応じて所望の形状とすることができる。例えば、Ce-Mo系複合酸化物セラミックスの形態は、粉末であってもよいし、前記粉末をスプレードライ等により造粒して得られる顆粒状であってもよい。また、Ce-Mo系複合酸化物セラミックスは、粉末状のセラミックス材料を圧縮成形してなる圧粉体の状態で使用されてもよい。また、Ce-Mo系複合酸化物セラミックスは、焼結体の状態で使用されてもよい。
【0052】
また、Ce-Mo系複合酸化物セラミックスは、物品の表面の少なくとも一部に付与される形で、使用されてもよい。Ce-Mo系複合酸化物セラミックスが付与される物品を構成する素材は、本発明の目的を損なわない限り、特に制限はなく、例えば、ガラス、セラミックス、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等の合成樹脂、ゴム(天然ゴム、合成ゴム)、本革(天然皮革)、合成皮革、金属又は合金からなる金属系材料、木材、紙、繊維、不織布、シリコン(シリコンウェハ等)、カーボン素材、鉱物、石膏等が挙げられる。
【0053】
また、Ce-Mo系複合酸化物セラミックスは、所定の基材中に分散される形で、使用されてもよい。Ce-Mo系複合酸化物セラミックスが分散される基材としては、本発明の目的を損なわない限り、特に制限はなく、例えば、ガラス、セラミックス、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等の合成樹脂、ゴム(天然ゴム、合成ゴム)、合成皮革、金属又は合金からなる金属系材料、紙、繊維、不織布、カーボン素材、鉱物、石膏等が挙げられる。
【0054】
以下、実施例に基づいて本発明を更に説明する。なお、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0055】
〔実施例1〕
セリウム化合物として、CeO2を用意し、モリブデン化合物として、MoO3を用意し、微量元素化合物(アルミニウム化合物)として、Al(NO3)3を用意した。そして、セリウム化合物の原料粉末と、モリブデン化合物の原料粉末とを、モル比で2:3(Ce:Mo=2:3)となるようにそれぞれ秤量した。秤量後の各原料粉末を、樹脂製の容器(樹脂ポット)内に入れ、そして更に、その容器内に、所定量のエタノールと所定量の微量元素化合物(Al(NO3)3)とを入れて、それらを、ジルコニア玉石を利用して24時間混合した(調合工程)。得られたスラリー状の湿式混合物を、湯煎乾燥することで、混合粉末を得た(乾燥工程)。なお、混合粉末では、固相状態のセリウム化合物と、固相状態のモリブデン化合物と、微量元素化合物とが、互いに混ざり合った状態となっている。
【0056】
次いで、前記混合粉末を、大気雰囲気下で、475℃の温度条件で1時間仮焼成することにより、セリウム化合物と、モリブデン化合物と、微量元素化合物との反応物からなる仮焼成粉末(Ce-Mo系複合酸化物セラミックス)を得た。なお、
図1に、固相合成法による実施例1のCe-Mo系複合酸化物セラミックスの製造方法(スキーム)を示した。
【0057】
〔比較例1〕
セリウム化合物の原料粉末及びモリブデン化合物の原料粉末に対して、微量元素化合物(アルミニウム化合物)を混合しないこと以外は、実施例1と同様にして、セリウム化合物と、モリブデン化合物との反応物からなる仮焼成粉末を得た。
【0058】
〔XRDを用いた結晶相の特定〕
実施例1及び比較例1の各仮焼成粉末について、粉末X線回折法(XRD:X‐ray diffraction)を利用して、結晶相の特定を行った。測定条件は、以下の通りである。
【0059】
<測定条件>
測定装置:粉末X線回折装置(装置名「Smart lab」、株式会社リガク製)
検出器:D/teX Ultra250.
光学系:集中型光学系ブラッグ-ブレンターノ型
X線出力:40kV-30mA
ステップ幅:0.0100°
走査軸:2θ/θ
走査範囲:10.00°~80.00°
【0060】
<測定結果>
XRDの測定結果(X線回折スペクトル)は、
図2に示した。
図2は、実施例1及び比較例1の各仮焼成粉末におけるX線回折スペクトルを示す図である。なお、
図2の上側に、実施例1の測定結果が示され、
図2の下側に、比較例1の測定結果が示される。
図2の下側に示される測定結果のX線回折ピークより、比較例1の仮焼成粉末は、Ce
2Mo
3O
13の結晶構造を備えることが確かめられた。
【0061】
また、実施例1の仮焼成粉末は、
図2の上側に示される測定結果のX線回折ピークより、比較例1と同様、Ce
2Mo
3O
13の結晶構造を備えることが確かめられた。なお、実施例1の仮焼成粉末の結晶相中には、Ce
2Mo
3O
13のみならず、微量元素であるアルミニウム(Al)が含まれていると推測される。つまり、実施例1の結晶相を構成するCe
2Mo
3O
13(Ce-Mo系複合酸化物セラミックス)は、その元素の一部がアルミニウム(微量元素)で置換されていると推測される。
【0062】
〔純水浸漬時のpH挙動〕
実施例1の仮焼成粉末(100mg)を、ガラス製の容器内の純水(100ml)に浸漬させ、その仮焼成粉末入りの純水を攪拌・混合した。そして、仮焼成粉末が浸漬された時を0時間としつつ、その仮焼成粉末入りの純水の経時的なpHの挙動を、pH測定器を使用して測定した。また、比較例1の仮焼成粉末についても、同様にして、その仮焼成粉末入りの純水の経時的なpHの挙動を測定した。結果は、
図3に示した。
【0063】
図3は、実施例1及び比較例1の各仮焼成粉末が浸漬された純水の経時的なpH挙動を示す図(グラフ)である。
図3において、実線で示されるグラフは、実施例1に対応し、破線で示されるグラフは、比較例1に対応する。
図3に示されるように、何れの時間においても、実施例1は、比較例1よりもpHの値が小さく、酸性度が高いことが確かめられた。これは、実施例1の仮焼成粉末に含まれるアルミニウム(微量元素)の影響により、Ce-Mo系複合酸化物セラミックス(Ce
2Mo
3O
13)の結晶構造に変化が起こることで、仮焼成粉末から金属イオンが溶出し易くなるため、仮焼成粉末が浸漬された純水のpHが低下したものと推測される。