(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039492
(43)【公開日】2024-03-22
(54)【発明の名称】毛乳頭細胞増殖促進剤、育毛剤、及び、毛乳頭細胞増殖促進剤又は育毛剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 8/9789 20170101AFI20240314BHJP
A61K 36/51 20060101ALI20240314BHJP
A61K 36/904 20060101ALI20240314BHJP
A61K 8/9794 20170101ALI20240314BHJP
A61P 17/14 20060101ALI20240314BHJP
A61Q 7/02 20060101ALI20240314BHJP
A61K 36/258 20060101ALI20240314BHJP
A61K 36/65 20060101ALI20240314BHJP
A61K 36/9068 20060101ALI20240314BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240314BHJP
【FI】
A61K8/9789
A61K36/51
A61K36/904
A61K8/9794
A61P17/14
A61Q7/02
A61K36/258
A61K36/65
A61K36/9068
A61P43/00 121
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022144091
(22)【出願日】2022-09-09
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】522360264
【氏名又は名称】BELONG株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174252
【弁理士】
【氏名又は名称】赤津 豪
(74)【代理人】
【識別番号】100158366
【弁理士】
【氏名又は名称】井戸 篤史
(72)【発明者】
【氏名】山口 琢児
(72)【発明者】
【氏名】胡 愛玲
(72)【発明者】
【氏名】李 梓
(72)【発明者】
【氏名】古 源
【テーマコード(参考)】
4C083
4C088
【Fターム(参考)】
4C083AA111
4C083AA112
4C083EE22
4C083FF01
4C088AB18
4C088AB43
4C088AB58
4C088AB67
4C088AB71
4C088AB81
4C088AC01
4C088AC11
4C088BA09
4C088BA10
4C088CA08
4C088MA07
4C088NA14
4C088ZA92
4C088ZC75
(57)【要約】
【課題】 植物を有効成分とする乳頭細胞増殖促進剤又は育毛剤の中でも、千振を含有し、且つ顕著な乳頭細胞増殖促進効果や育毛効果を発揮する乳頭細胞増殖促進剤又は育毛剤を提供することを課題とする。
【解決手段】 本発明は、千振、何首烏、及び、百部を含有する乳頭細胞増殖促進剤及び/又は育毛剤を提供し、牡丹皮、人参、及び、生姜から選ばれる1又は複数をさらに含有する乳頭細胞増殖促進剤及び/又は育毛剤を提供する。さらに、本発明は、千振、何首烏、及び、百部を、水及びエタノールを含む溶媒に浸漬して浸漬物を得る浸漬工程、浸漬物から固形分を分離して液体を得る分離工程、及び、液体から溶媒を除去し、乾固した溶媒可溶性成分を得る、乾固工程を含む、乳頭細胞増殖促進剤及び/又は育毛剤の製造方法である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
千振、何首烏、及び、百部を含有する、毛乳頭細胞増殖促進剤。
【請求項2】
千振、何首烏、及び、百部のうち、水及びエタノールを含む溶媒に対して可溶な成分を有効成分として含有する、請求項1に記載の毛乳頭細胞増殖促進剤。
【請求項3】
牡丹皮、人参、及び、生姜から選ばれる1又は複数をさらに含有する、請求項1に記載の毛乳頭細胞増殖促進剤。
【請求項4】
牡丹皮、人参、及び、生姜をさらに含有する、請求項1に記載の毛乳頭細胞増殖促進剤。
【請求項5】
牡丹皮、人参、及び、生姜のうち、水及びエタノールを含む溶媒に対して可溶な成分を有効成分としてさらに含有する、請求項2に記載の毛乳頭細胞増殖促進剤。
【請求項6】
千振、何首烏、及び、百部を含有する、育毛剤。
【請求項7】
千振、何首烏、及び、百部のうち、水及びエタノールを含む溶媒に対して可溶な成分を有効成分として含有する、請求項6に記載の育毛剤。
【請求項8】
牡丹皮、人参、及び、生姜から選ばれる1又は複数をさらに含有する、請求項6に記載の育毛剤。
【請求項9】
牡丹皮、人参、及び、生姜をさらに含有する、請求項6に記載の育毛剤。
【請求項10】
牡丹皮、人参、及び、生姜のうち、水及びエタノールを含む溶媒に対して可溶な成分を有効成分としてさらに含有する、請求項7に記載の育毛剤。
【請求項11】
少なくとも千振、何首烏、及び、百部を、水及びエタノールを含む溶媒に浸漬して浸漬物を得る浸漬工程、前記浸漬物から固形分を分離して液体を得る分離工程、及び、前記液体から前記溶媒を除去し、乾固した溶媒可溶性成分を得る、乾固工程を含む、
請求項1~5いずれか一項に記載の毛乳頭細胞増殖促進剤又は請求項6~10いずれか一項に記載の育毛剤の製造方法。
【請求項12】
前記浸漬工程が、さらに牡丹皮、人参、及び、生姜を前記溶媒に浸漬する、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記浸漬工程は、千振、何首烏、及び、百部を、それぞれ独立して前記溶媒に浸漬する浸漬工程であり、前記乾固工程で得られた千振、何首烏、及び、百部の溶媒可溶性成分を混合する混合工程をさらに含む、請求項11に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、千振、何首烏、及び百部を含有する毛乳頭細胞増殖促進剤、千振、何首烏、及び百部を含有する育毛剤、並びに、毛乳頭細胞増殖促進剤又は育毛剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リンドウ科の薬用植物である千振は、血流促進効果が知られており、他の薬用植物と併せて育毛剤や養毛剤等に含有される。例えば、千振エキスと、人参エキスとを含有する育毛料や養毛化粧料(特許文献1及び2参照)、千振及び何首烏を混合してなる養毛剤(特許文献3参照)、ピーナッツ種皮に加えて、副材として千振及び何首烏を含有する育毛養毛剤組成物(特許文献4参照)、ウヤク抽出物に加えて、千振及び牡丹皮等から選ばれる1種以上の植物抽出物を含有する養毛・育毛剤(特許文献5参照)、千振又はゲンチアナと牡丹とを配合したことを特徴とする育毛剤(特許文献6参照)、塩化カルプロニウム等に加えて、千振、何首烏、及び乾姜等からなる群より選ばれる1種又は2種以上の生薬類を含有する組成物(特許文献7及び8参照)、当薬(千振)、人参、乾姜等を含有することを特徴とする育毛剤(特許文献9参照)、千振、生姜、及び何首烏等から選ばれる抽出物の一種又は二種以上と、特定の界面活性剤とを含有する養毛料(特許文献10参照)等が挙げられる。また、何首烏及び百部も育毛剤や養毛剤等に含有されており、何首烏及び百部を含有する組成物や育毛剤等は、例えば、特許文献11~16等に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-070064号公報
【特許文献2】特開平07-291838号公報
【特許文献3】特開2008-290966号公報
【特許文献4】特開2005-255611号公報
【特許文献5】特開2000-344632号公報
【特許文献6】特開平11-021213号公報
【特許文献7】特開平09-175950号公報
【特許文献8】特開平08-127518号公報
【特許文献9】特開平03-066606号公報
【特許文献10】特開平02-048514号公報
【特許文献11】中国特許出願公開第111529477明細書
【特許文献12】中国特許出願公開第110368333明細書
【特許文献13】中国特許出願公開第110151658明細書
【特許文献14】中国特許出願公開第109199980明細書
【特許文献15】中国特許出願公開第108998301明細書
【特許文献16】中国特許出願公開第108785168明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
植物を有効成分とする育毛剤の中でも、顕著な効果を発揮する育毛剤が求められていた。千振を含有する育毛剤や養毛剤は知られてはいるものの、千振と共に配合されることで、顕著な育毛効果が発揮される植物の組み合わせは知られていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、千振に加えて、何首烏及び百部を含有する育毛剤が、顕著な毛乳頭細胞増殖促進活性を有することが見出されたことで、完成されたものである。すなわち、本発明は、千振、何首烏、及び、百部を含有する毛乳頭細胞増殖促進剤であり、育毛剤である。
【0006】
別の本発明は、千振、何首烏、及び、百部に加えて、牡丹皮、人参、及び、生姜から選ばれる1又は複数を含有する毛乳頭細胞増殖促進剤であり、育毛剤である。さらに別の本発明は、千振、何首烏、百部、牡丹皮、人参、及び、生姜を含有する毛乳頭細胞増殖促進剤であり、育毛剤である。
【0007】
本発明では、これらの薬用植物に含まれる成分のうち、水及びエタノールを含む溶媒に対して可溶な成分を有効成分とする。したがって、別の本発明は、千振、何首烏、及び、百部のうち、水及びエタノールを含む溶媒に対して可溶な成分を有効成分として含有する毛乳頭細胞増殖促進剤であり、育毛剤である。また、別の本発明は、千振、何首烏、及び、百部のうち、水及びエタノールを含む溶媒に対して可溶な成分に加えて、牡丹皮、人参、及び、生姜から選ばれる1又は複数のうち、水及びエタノールを含む溶媒に対して可溶な成分を有効成分として含有する毛乳頭細胞増殖促進剤であり、育毛剤である。さらに、別の本発明は、千振、何首烏、百部、牡丹皮、人参、及び、生姜のうち、水及びエタノールを含む溶媒に対して可溶な成分を有効成分として含有する毛乳頭細胞増殖促進剤であり、育毛剤である。
【0008】
さらに本発明は、毛乳頭細胞増殖促進剤又は育毛剤の製造方法を提供する。本発明の毛乳頭細胞増殖促進剤又は育毛剤の製造方法は、少なくとも千振、何首烏、及び、百部を、水及びエタノールを含む溶媒に浸漬して浸漬物を得る浸漬工程、前記浸漬物から固形分を分離して液体を得る分離工程、及び、前記液体から前記溶媒を除去し、乾固した溶媒可溶性成分を得る、乾固工程を含む。また、浸漬工程は、さらに牡丹皮、人参、及び、生姜を前記溶媒に浸漬する浸漬工程であってよい。
【0009】
また、別の本発明の製造方法は、少なくとも、千振、何首烏、及び、百部を、それぞれ独立して前記溶媒に浸漬する浸漬工程であり、前記乾固工程で得られた千振、何首烏、及び、百部の溶媒可溶性成分を混合する混合工程をさらに含む製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の毛乳頭細胞増殖促進剤は、千振のみを含有する組成物や、千振と何首烏又は百部のいずれかを含有する組成物と比較して、ヒト毛乳頭細胞に対する顕著な増殖促進活性を有することが明らかとなった。したがって、本発明は、顕著な毛乳頭細胞増殖促進効果を奏するため、千振が有する血流促進効果だけでなく、毛髪の維持や発毛の促進等の効果を奏することが期待される。本発明は、育毛剤だけでなく、養毛剤・発毛剤としても用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施例における毛乳頭細胞増殖促進効果を示す図面である。図中の数字は、Tukey´s multiple comparisons testにより得られたp値である。
【
図2】本発明の実施例における毛乳頭細胞増殖促進効果を示す図面である。図中の数字は、Tukey´s multiple comparisons testにより得られたp値である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、複数の薬用植物(主に漢方薬の原料となる植物を指し、生薬とも呼称される。)を有効成分として含有する毛乳頭細胞増殖促進剤又は育毛剤である。以下、本発明を実施形態に基づき詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0013】
本発明の一実施形態は、千振、何首烏、及び、百部を含有する毛乳頭細胞増殖促進剤である。また、千振、何首烏、及び、百部に加えて、任意選択的に、牡丹皮、人参、及び、生姜から選ばれる1又は複数をさらに含有する毛乳頭細胞増殖促進剤である。別の実施形態では、千振、何首烏、百部、牡丹皮、人参、及び、生姜を含有する毛乳頭細胞増殖促進剤である。
【0014】
千振(センブリ、学名:Swertia japonica)は、リンドウ科(Gentianaceae)、センブリ属(Swertia)に分類される二年草である。開花期の全草を乾燥したものが、生薬として利用される。
【0015】
何首烏(カシュウ)は、タデ科(Polygonaceae)、ツルドクダミ属(Reynoutria)に分類されるツルドクダミ(Reynoutria multiflora)の塊根である。ツルドクダミの塊根を乾燥したものが、生薬として利用される。
【0016】
百部(ビャクブ)は、ビャクブ科(Stemonaceae)、ビャクブ属(Stemona)に分類されるビャクブ(Stemona japonica)の塊根である。ビャクブ(S. japonica)の塊根だけでなく、タチビャクブ(S. sessilifolia)や、タマビャクブ(S. tuberosa)の塊根も、百部(ビャクブ)として用いられる。これらビャクブ等の塊根を乾燥したものが、生薬として利用される。
【0017】
千振、何首烏、及び百部は、それぞれ単独で育毛剤や養毛剤に配合されてきた実績があるものの、これらの生薬を組み合わせた組成が、毛乳頭細胞に対する増殖促進活性を有することは知られていなかった。本発明の毛乳頭細胞増殖促進剤は、少なくとも千振、何首烏、及び百部を有効成分とする。本発明の毛乳頭細胞増殖促進剤の有効成分の組み合わせは、単独の生薬には見られない、顕著な毛乳頭細胞増殖促進効果を奏する。
【0018】
牡丹皮(ボタンピ)は、ボタン科(Paeoniaceae)、ボタン属(Paeonia)に分類されるボタン(Paeonia suffruticosa)の根の樹皮である。ボタンの根の樹皮を乾燥させたものが、生薬として利用される。
【0019】
人参(ニンジン)は、ウコギ科(Araliaceae)、トチバニンジン属(Panax)に分類されるオタネニンジン(Panax ginseng)の根であり、日本国内では高麗人参や朝鮮人参と呼称される場合もある。オタネニンジンの根を乾燥させたもの、又はオタネニンジンの根を熱湯等により加熱してから乾燥させたものが、生薬として利用される。
【0020】
生姜(ショウキョウ)は、ショウガ科(Zingiberaceae)、ショウガ属(Zingiber)に分類されるショウガ(Zingiber officinale)の根茎である。生のまま乾燥したものや、蒸してから乾燥したものが好ましく用いられる。生姜を蒸してから乾燥したものを乾姜(カンキョウ)と呼称する場合もある。生姜又は乾姜としては、生姜又は乾姜をエタノール等の溶媒に浸漬し、溶出された水溶性成分及び/又は脂溶性成分を含有する液体、いわゆるショウキョウチンキを用いてもよい。
【0021】
本発明の毛乳頭細胞増殖促進剤は、上述の薬用植物の水及び/又はエタノールを含む溶媒に対して可溶な成分を有効成分とする。したがって、上述の有効成分の生薬をそのまま、又は生薬から抽出された成分(水溶性及び/又は脂溶性成分)を含有する液体を、水及び/又はエタノールを含む溶媒に浸漬し、浸漬物を撹拌し、撹拌後に分離工程により撹拌物中の固形分を分離除去し、液体を得ることで製造される。溶媒は、好ましくは、水及びエタノールからなる混合溶媒であり、より好ましくは水及びエタノールを水:エタノール=1:99~99:1の容量比で含有する混合溶媒であり得る。ここで、エタノールとして、無水エタノールを用いてもよい。
【0022】
本発明の毛乳頭細胞増殖促進剤に含まれ得る生薬の含有比率は限定されないが、乾燥重量で0.1重量%~5重量%の各生薬の溶媒可溶性成分が、医薬品として及び/又は化粧品として許容される溶媒に含有される。また、各生薬の溶媒可溶性成分は、合計で、乾燥重量で1重量%~10重量%となるように、医薬品として及び/又は化粧品として許容される溶媒に含有される。
【0023】
本発明の毛乳頭細胞増殖促進剤は、毛乳頭細胞に対する顕著な増殖促進活性を有するため、単独で、又は他の成分と混合した状態で、育毛剤として利用することができる。すなわち、本発明の一実施形態では、千振、何首烏、及び、百部を含有する、育毛剤である。また、千振、何首烏、及び、百部に加えて、任意選択的に、牡丹皮、人参、及び、生姜から選ばれる1又は複数をさらに含有する育毛剤であり、別の実施形態では、千振、何首烏、百部、牡丹皮、人参、及び、生姜を含有する育毛剤である。本発明の育毛剤は、毛髪の維持はもちろん、毛乳頭細胞の増殖促進により発毛効果を奏することが期待される。
【0024】
本発明の育毛剤には、上記の生薬に加えて、酸化防止剤、増粘剤、防腐剤、保存料、香料、着色料、pH調整剤等を含有し得る。
【0025】
本発明は、毛乳頭細胞増殖促進剤又は育毛剤の製造方法を提供する。本発明の毛乳頭細胞増殖促進剤又は育毛剤の製造方法は、(i)少なくとも千振、何首烏、及び、百部を、水及び/又はエタノールを含む溶媒に浸漬して浸漬物を得る浸漬工程と、(ii)浸漬物から固形分を分離して液体を得る分離工程と、(iii)液体から溶媒を除去して溶媒可溶性成分を乾固させる、乾固工程からなる。
【0026】
浸漬工程は、少なくとも、千振、何首烏、及び、百部を溶媒に浸漬するが、任意選択的に、牡丹皮、人参、及び、生姜から選ばれる1又は複数をさらに浸漬してもよい。浸漬工程は、千振、何首烏、百部、牡丹皮、人参、及び、生姜を、水及び/又はエタノールを含む溶媒で浸漬する工程であり得る。また、生薬に含まれる有効成分の溶媒中への溶出を促進するため、浸漬物を撹拌してもよい。
【0027】
一実施形態では、浸漬工程は、少なくとも、千振、何首烏、及び、百部を独立して溶媒に浸漬する工程である。浸漬工程、分離工程、及び乾固工程を、生薬ごとに独立して行うことで、本発明の剤に含有される各有効成分の配合比率を容易に調整することができる。浸漬工程は、千振、何首烏、百部、牡丹皮、人参、及び、生姜を、それぞれ独立して溶媒に浸漬する工程であり得る。
【0028】
浸漬工程で浸漬される千振、何首烏、百部、牡丹皮、人参、及び、生姜は、生薬であってもよいが、生薬から溶出又は抽出された成分(水溶性及び/又は脂溶性成分)を含有する液体、すなわち溶出液や抽出液として浸漬してもよい。
【0029】
分離工程は、撹拌工程で得られた撹拌物から固形分を分離除去し、液体を得る工程である。撹拌物は、生薬に由来する固形分と、生薬から溶出された成分が含まれる液体とが含有されるため、撹拌物から固形分を分離除去することで、有効成分を含有する液体を得ることができる。
【0030】
固形分と液体とを分離する方法としては、濾紙、濾布、濾過膜等の濾材を用いた濾過、遠心分離等の固液分離法が採用され得る。
【0031】
乾固工程は、分離工程で得られた液体から、溶媒を除去し、乾固した溶媒可溶性成分を得る。溶媒可溶性成分を乾固させることで長期保管が可能となる。溶媒を除去する方法としては、溶媒を蒸発させればよく、減圧蒸留等の既知の方法が用いられる。
【0032】
乾固工程において得られた乾固した溶媒可溶性成分は、所望の比率で医薬品として及び/又は化粧品として許容される溶媒に溶解して、毛乳頭細胞増殖促進剤又は育毛剤として使用すればよい。本発明の毛乳頭細胞増殖促進剤又は育毛剤には、乾燥重量で0.1重量%~5重量%の各生薬の溶媒可溶性成分が、医薬品として及び/又は化粧品として許容される溶媒に含有され得る。また、本発明の毛乳頭細胞増殖促進剤又は育毛剤には、各生薬の溶媒可溶性成分は、合計で、乾燥重量で1重量%~10重量%となるように、医薬品として及び/又は化粧品として許容される溶媒に含有され得る。
【0033】
本発明の製造方法の一実施形態では、浸漬工程、分離工程、及び乾固工程を、各生薬で独立して行った場合には、各生薬に由来する溶媒可溶性成分を混合する混合工程を含む。混合工程は、乾固した溶媒可溶性成分をそのまま、又は乾固した溶媒可溶性成分を溶媒に溶解した状態で、所望の比率で混合する工程である。
【0034】
また、別の本発明は、毛乳頭細胞増殖促進剤又は育毛剤を収容した容器を提供する。本発明の一実施携帯では、中空状の内部空間を備え、前記内部空間に少なくとも千振、何首烏、及び、百部を含有する毛乳頭細胞増殖促進剤又は育毛剤を収容した容器である。
【実施例0035】
実施例を参照して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されない。
【0036】
以下の通り、実施例及び比較例を製造した。千振に対し、10~20重量倍の70容量%エタノール水溶液を加えて、浸漬物を得た。浸漬物を、密閉した状態で30分静置し、加熱して1時間沸騰させた。濾過ポンプを用いて、浸漬物から固形分を除去し、液体を得た。エバポレータにより液体中の溶媒を除去し、乾固した千振由来の溶媒可溶性成分を得た。また、千振に替えて何首烏を用い、同様方法で、何首烏千振由来の溶媒可溶性成分を得た。さらに、千振に替えて百部を用い、同様の方法で、百部由来の溶媒可溶性成分を得た。
【0037】
0.5~1.5重量部の千振由来溶媒可溶性成分、0.3~1.0重量部の何首烏由来溶媒可溶性成分、及び、0.3~1.0重量部の百部由来溶媒可溶性成分、及び50重量部の無水エタノールに、精製水を加えて100重量部とした組成物を作製した。これを実施例1とした。
【0038】
実施例1のヒト毛乳頭細胞に対する増殖促進活性を確認した。ここでは、細胞増殖活性の確認のため、各生薬由来の溶媒可溶性成分を、細胞培養液に溶解させ、0.5~1.5重量部の千振由来溶媒可溶性成分、0.3~1.0重量部の何首烏由来溶媒可溶性成分、及び0.3~1.0重量部の百部由来溶媒可溶性成分を含有する細胞培養液を作製した。
【0039】
同様に、比較例1として1重量部の千振由来溶媒可溶性成分を含有する細胞培養液を、比較例2として1重量部の千振抽由来溶媒可溶性成分及び0.5重量部の何首烏由来溶媒可溶性成分を含有する細胞培養液を、比較例3として1重量部の千振由来溶媒可溶性成分、及び0.5重量部の百部由来溶媒可溶性成分を含有する細胞培養液を作製した。
【0040】
実施例1及び比較例1乃至3のヒト毛乳頭細胞に対する増殖促進活性を比較した。対数増殖期にあるヒト乳頭細胞を5000 cells/wellとなるように、96穴マイクロプレートの各ウェルに播種し、CO2インキュベーター内で前培養した。実施例1及び比較例1乃至3を培養液中に200倍希釈になるように添加し、CO2インキュベーター内で一定時間培養した。培養液に何も添加しないものをコントロールとした。CCK-8溶液を各ウェルに添加し、CO2インキュベーター内で呈色反応を行った後で、マイクロプレートで450nmの吸光度を測定した。
図1に示すように、千振、何首烏、及び百部を含む実施例1は、比較例1乃至3に比べて、ヒト毛乳頭細胞に対する顕著な増殖促進活性を有することが明らかとなった。
【0041】
次に、実施例2を製造した。牡丹皮、人参、及び生姜を用いて、実施例1と同様の方法で、牡丹皮由来溶媒可溶性成分、人参由来溶媒可溶性成分、及び生姜由来溶媒可溶性成分を作製した。0.5~1.5重量部の千振由来溶媒可溶性成分、0.3~1.0重量部の何首烏由来溶媒可溶性成分、0.3~1.0重量部の百部由来溶媒可溶性成分、1~3重量部の牡丹皮由来溶媒可溶性成分、0.3~1.0重量部の人参由来溶媒可溶性成分、0.5~1.5重量部の生姜由来溶媒可溶性成分、及び50重量部の無水エタノールに、精製水を加えて100重量部とした組成物を作製した。これを実施例2とした。
【0042】
実施例2のヒト毛乳頭細胞に対する増殖促進活性を確認した。ここでは、細胞増殖活性の確認のため、各生薬由来の溶媒可溶性成分を、細胞培養液に溶解させ、0.5~1.5重量部の千振由来溶媒可溶性成分、0.3~1.0重量部の何首烏由来溶媒可溶性成分、0.3~1.0重量部の百部由来溶媒可溶性成分、1~3重量部の牡丹皮由来溶媒可溶性成分、0.3~1.0重量部の人参由来溶媒可溶性成分、0.5~1.5重量部の生姜由来溶媒可溶性成分を含有する細胞培養液を作製した。
【0043】
同様に、比較例4として、1重量部の千振由来溶媒可溶性成分、2重量部の牡丹皮由来溶媒可溶性成分、0.5重量部の人参由来溶媒可溶性成分、及び1重量部の生姜由来溶媒可溶性成分を含有する細胞培養液を作製した。比較例5として、比較例4に0.5重量部の何首烏由来抽溶媒可溶性成分を加えた細胞培養液を作製した。比較例6として、比較例4に0.5重量部の百部由来溶媒可溶性成分を加えた細胞培養液を作製した。
【0044】
上述の方法で、実施例2及び比較例4乃至6のヒト毛乳頭細胞に対する増殖促進活性を比較した。結果を
図2に示すように、実施例2は、比較例4乃至6に比べて、ヒト毛乳頭細胞に対する顕著な増殖促進活性を有することが明らかとなった。
少なくとも千振、何首烏、及び、百部を、水及びエタノールを含む溶媒に浸漬して浸漬物を得る浸漬工程、前記浸漬物から固形分を分離して液体を得る分離工程、及び、前記液体から前記溶媒を除去し、乾固した溶媒可溶性成分を得る、乾固工程を含む、
請求項1~4いずれか一項に記載の毛乳頭細胞増殖促進剤又は請求項5に記載の育毛剤の製造方法。
前記浸漬工程は、千振、何首烏、及び、百部を、それぞれ独立して前記溶媒に浸漬する浸漬工程であり、前記乾固工程で得られた千振、何首烏、及び、百部の溶媒可溶性成分を混合する混合工程をさらに含む、請求項7に記載の製造方法。