(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039495
(43)【公開日】2024-03-22
(54)【発明の名称】電波暗箱、及び該電波暗箱を用いた試験装置
(51)【国際特許分類】
G01R 29/10 20060101AFI20240314BHJP
【FI】
G01R29/10 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022144094
(22)【出願日】2022-09-09
(71)【出願人】
【識別番号】000000572
【氏名又は名称】アンリツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003694
【氏名又は名称】弁理士法人有我国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丸尾 友彦
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 博
(72)【発明者】
【氏名】長山 龍也
(57)【要約】
【課題】周壁部の歪みに起因する扉と開口部との間の隙間の発生を抑制し、シールド効果を向上させることが可能な電波暗箱、及び該電波暗箱を用いた試験装置を提供する。
【解決手段】電波暗箱50は、開口部475の矩形シール領域476と扉470の対向矩形シール領域477との間を密封するガスケット機構部480を備える。ガスケット機構部480は、矩形シール領域476に扉470側へ突出して設けられるガスケット部材480aと、対向矩形シール領域477に開口部475側に突出して設けられるガスケット部材480bと、一端がガスケット部材480aの先端部に貼り付けられ、他端が、扉470を閉めたときにガスケット部材480aに対して開口部475側に平行移動した位置で上記貼り付けた側の反対側からガスケット部材480bの先端部の当接を受け得るように矩形シール領域476に取り付けられるガスケットシール481と、を有している。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線端末の送信又は受信特性の測定に用いられる電波暗箱(50)であって、
内部に電磁的に遮蔽された状態の内部空間(51)が形成される筐体本体部(52)と、前記筐体本体部の周壁部に設けられる開口部(475)と、前記開口部を開け閉め可能な扉(470)と、前記開口部の外周領域(476)と前記扉の前記外周領域に対向する対向領域(477)との間を前記内部空間が電磁的に遮蔽された状態を維持可能に密封するガスケット機構部(480)と、を備え、
前記ガスケット機構部は、
押圧によって圧縮され、前記押圧の解除により元に戻る特性を有する横長形状の導電性部品からなり、前記外周領域に前記開口部の辺に沿って前記扉側へ突出して設けられる開口部側ガスケット部材(480a)と、
前記開口部側ガスケット部材と同等の特性及び形状を有する前記導電性部品からなり、前記対向領域の前記開口部側ガスケット部材に対向する位置から前記開口部側に平行移動した位置に前記外周領域側へ突出して設けられる扉側ガスケット部材(480b)と、
前記開口部側ガスケット部材と同等の長さを有する矩形形状の導電性布状部材からなり、幅方向の一端が前記開口部側ガスケット部材の先端部に貼り付けられ、他端が、前記扉を閉めたときに前記貼り付けた側の反対側から前記扉側ガスケット部材の先端部の当接を受け得るように前記外周領域に貼り付けられるガスケットシール部材(481)と、
を有することを特徴とする電波暗箱。
【請求項2】
前記開口部、及び前記扉は矩形形状を有し、
前記ガスケット機構部は、前記矩形形状の4つの辺のうちの少なくとも対向する二つの辺に対応して設けられることを特徴とする請求項1に記載の電波暗箱。
【請求項3】
前記開口部側ガスケット部材、及び前記扉側ガスケット部材は、前記導電性布状部材が巻かれたスポンジ部材で構成されることを特徴とする請求項1または2に記載の電波暗箱。
【請求項4】
前記開口部側ガスケット部材、及び前記扉側ガスケット部材は、所定の幅及び高さを有する角柱形状部材からなり、
前記外周領域と前記対向領域から、それぞれ、同等の前記高さで突設されており、
前記扉側ガスケット部材は、前記扉を閉めた状態で、前記開口部側ガスケット部材に対して、前記幅に予め設定した倍数を乗じた距離を平行移動した位置に設けられていることを特徴とする請求項3に記載の電波暗箱。
【請求項5】
前記高さをhとするとき、前記開口部側ガスケット部材の先端部と、前記扉側ガスケット部材の先端部との間の距離が2×h以下となる状態まで前記扉が閉められた状態で、前記扉側ガスケット部材の先端部が前記ガスケットシール部材の表面に接触するように設けられていることを特徴とする請求項4に記載の電波暗箱。
【請求項6】
前記筐体本体部は、板金加工された壁部(302a、302b、302c、402a、402b、502a、502b、502c)を有する複数の分割チャンバー(300、400、500)を着脱可能に連結して構成され、
前記開口部は、前記複数の分割チャンバーのうちの2つの分割チャンバーを連結する連結部分(601)を跨ぐ位置に設けられ、
前記ガスケット機構部は、前記開口部の前記連結部分を跨ぐ辺に対応して設けられることを特徴とする請求項2に記載の電波暗箱。
【請求項7】
前記周壁部における前記開口部の外側に、前記2つの分割チャンバーに跨り、かつ、前記ガスケット機構部に沿って設けられ、前記2つの分割チャンバー間の剛性を高めるための補強棒(490)をさらに有することを特徴とする請求項6に記載の電波暗箱。
【請求項8】
被試験アンテナ(110)を有する被試験対象(100)の送信特性又は受信特性を測定する試験装置(1)であって、
周囲の電波環境に影響されない内部空間(51)を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の電波暗箱(50)と、
前記被試験アンテナとの間で無線信号を送信又は受信する1又は複数の試験用アンテナ(6)と、
前記内部空間におけるクワイエットゾーン(QZ)内に配置された前記被試験対象の姿勢を順次変化させる姿勢可変機構(56)と、
前記内部空間における前記クワイエットゾーン内に配置された前記被試験対象に対して前記1又は複数の試験用アンテナを使用して前記被試験対象の送信特性又は受信特性の測定を行う測定装置(2)と、
を備えた試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波暗箱、及び該電波暗箱を用いた試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マルチメディアの進展に伴い、セルラ、無線LAN等の無線通信用のアンテナが実装された無線端末(スマートフォン等)が盛んに生産されるようになっている。今後は、特に、ミリ波帯の広帯域な信号を使用するIEEE802.11adや5Gセルラ等に対応した無線信号を送受信する無線端末が求められる。
【0003】
無線端末の設計開発会社又はその製造工場においては、無線端末が備えている無線通信アンテナに対して、通信規格ごとに定められた送信電波の出力レベルや受信感度を測定し、これらのRF(Radio Frequency)特性が所定の基準を満たすか否かを判定する性能試験が行われる。また、性能試験では、RRM(Radio Resource Management)特性の測定も行われる。RRM特性の測定は、基地局と無線端末間の無線リソース制御、例えば隣接基地局間のハンドオーバ等が正しく動作するか否かを確認するために行われる。
【0004】
4G、あるいは4Gアドバンスから5Gへの世代移行に伴い、上述した性能試験の試験方法も変わりつつある。例えば、5G NR(New Radio)システム用の無線端末を被試験対象(Device Under Test:DUT)とする性能試験においては、4Gや4Gアドバンス等の試験で主流であったDUTのアンテナ端子と試験装置とを有線接続する方法は、高周波回路にアンテナ端子を付けることによる特性劣化、又は、アレーアンテナの素子数が多くアンテナ端子を全素子に付けることがスペース面・コスト面を考慮して現実的でないことなどの理由で使用できない。このため、DUTを試験用アンテナとともに周囲の電波環境に影響されない電波暗箱の中に収容し、試験用アンテナからDUTに対する試験信号の送信と、試験信号を受信したDUTからの被測定信号の試験用アンテナでの受信とを無線通信により行う、いわゆるOTA(Over The Air)試験が行われるようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
OTA試験では、電波暗箱内に配置された試験用アンテナにより、例えば球形のクワイエットゾーン(quiet zone)が形成され、DUTはクワイエットゾーン内に配置される。ここで、クワイエットゾーンとは、OTA試験環境を構成する電波暗箱において、DUTが試験用アンテナからほぼ均一な振幅と位相の電波で照射される空間領域の範囲を表す概念である(例えば、非特許文献1参照)。このようなクワイエットゾーンにDUTを配置することにより、周りからの散乱波の影響を抑えた状態でOTA試験を行うことが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-085784号公報
【特許文献2】特願2021-111025号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】3GPP(登録商標) TR 38.810
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の試験装置では、電波暗箱内にDUTの被試験アンテナと送受信可能な試験用アンテナが設けられ、DUTのRF特性を測定するようになっている。RRM特性の測定を行うためには、電波暗箱内においてDUTの周囲の外壁の内面に複数の試験用アンテナ等を設置する必要があり、内部空間のスペースをできるだけ拡張することが望まれる。従来の電波暗箱は、剛性重視の観点から、アルミフレームを使用し、内壁と外壁を設けて壁面を構成する構造が一般的であり、内部空間のスペースを拡張するのは困難であった。
【0009】
一方で近年、複数の分割チャンバーを組み合わせて電波暗箱を構成する手法も提案されている。この種の従来の電波暗箱では、分割チャンバーの壁面の一部がアルミフレーム等の補強材を用いず、板金加工によって作られた(板金構造を有する)1枚の壁面で構成され、しかも該壁面が着脱可能な構成を有するものもあった(例えば、特許文献2参照)。かかる従来の電波暗箱では、壁面が薄くなることにより内部空間を広くとることができ、複数のアンテナを配置するには好都合であった。
【0010】
しかしながら、上記従来の電波暗箱では、板金加工により作られた壁面の剛性が低く、筐体本体部全体の周壁部の剛性も低下せざるを得なかった。特に、その周壁部に、開口部、及びその開閉を行う扉が設けられた構造の場合、周壁部に歪みが発生し易く、周壁部の歪みの影響で開口部との間に空間が生じ、剛性の低い開口部と剛性の高い扉との間に隙間が生じる可能性が高まって内部空間を電磁波遮蔽状態に維持できなくなり、シールド効果が低下するという問題があった。
【0011】
本発明は、このような従来の課題を解決するためになされたものであって、周壁部の歪みに起因する扉と開口部との間の隙間の発生を抑制し、シールド効果を向上させることが可能な電波暗箱、及び該電波暗箱を用いた試験装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明に係る電波暗箱は、無線端末の送信又は受信特性の測定に用いられる電波暗箱(50)であって、内部に電磁的に遮蔽された状態の内部空間(51)が形成される筐体本体部(52)と、前記筐体本体部の周壁部に設けられる開口部(475)と、前記開口部を開け閉め可能な扉(470)と、前記開口部の外周領域(476)と前記扉の前記外周領域に対向する対向領域(477)との間を前記遮蔽された状態を維持可能に密封するガスケット機構部(480)と、を備え、前記ガスケット機構部は、押圧によって圧縮され、前記押圧の解除により元に戻る特性を有する横長形状の導電性部品からなり、前記外周領域に前記開口部の辺に沿って前記扉側へ突出して設けられる開口部側ガスケット部材(480a)と、前記開口部側ガスケット部材と同等の特性及び形状を有する前記導電性部品からなり、前記対向領域の前記開口部側ガスケット部材に対向する位置から前記開口部側に平行移動した位置に前記外周領域側へ突出して設けられる扉側ガスケット部材(480b)と、前記開口部側ガスケット部材と同等の長さを有する矩形形状の導電性布状部材からなり、幅方向の一端が前記開口部側ガスケット部材の先端部に貼り付けられ、他端が、前記扉を閉めたときに前記貼り付けた側の反対側から前記扉側ガスケット部材の先端部の当接を受け得るように前記外周領域に貼り付けられるガスケットシール部材(481)と、を有することを特徴とする。
【0013】
この構成により、本発明に係る電波暗箱は、開口部側ガスケット部材及び開口部側ガスケット部材の両者が、互いに平行移動した位置で対向し、かつ、両者の各先端部間に斜めに掛け渡されたガスケットシール部材を相互に反対の面側から相手領域(対向領域、または外周領域)に圧縮状態で押し付けることにより、内部空間を電磁的遮蔽が維持されたシールド状態に保つことが可能となっている。シールド状態を維持する機能について、本発明に係る電波暗箱のガスケット機構部は、一方の側に設けたガスケット部材を反対側に設けたガスケットシールに押し付ける従来の構造(
図12(c)参照)に比べて、外周領域と対向領域の密着が解除されることに影響を及ぼす周壁部の歪みの許容量が増すことになる。よって、周壁部の歪みに起因する扉と開口部との間の隙間の発生を抑制し、従来装置に比べてシールド効果を向上させることができる。
【0014】
また、本発明に係る電波暗箱において、前記開口部、及び前記扉は矩形形状を有し、前記ガスケット機構部は、前記矩形形状の4つの辺のうちの少なくとも対向する二つの辺に対応して設けられる構成であってもよい。
【0015】
この構成により、本発明に係る電波暗箱は、矩形形状の開口部の上下、左右、あるいは四方のいずれの個所にもガスケット機構部を配置することができ、所望の形態でのガスケット機構を実現できる。
【0016】
また、本発明に係る電波暗箱において、前記開口部側ガスケット部材、及び前記扉側ガスケット部材は、前記導電性布状部材が巻かれたスポンジ部材で構成されるものであってもよい。
【0017】
この構成により、本発明に係る電波暗箱は、導電性布状部材(導電布)とスポンジ部材を用いて開口部側ガスケット部材、及び扉側ガスケット部材を容易に作成(あるいは調達)することができ、安価なガスケット機構部を実現できる。
【0018】
また、本発明に係る電波暗箱において、前記開口部側ガスケット部材、及び前記扉側ガスケット部材は、所定の幅及び高さを有する角柱形状部材からなり、前記外周領域と前記対向領域から、それぞれ、同等の前記高さで突設されており、前記扉側ガスケット部材は、前記扉を閉めた状態で、前記開口部側ガスケット部材に対して、前記幅に予め設定した倍数を乗じた距離を平行移動した位置に設けられている構成であってもよい。
【0019】
この構成により、本発明に係る電波暗箱は、開口部側ガスケット部材と扉側ガスケット部材の両者の離間距離を適宜設定することで、両者とガスケットシール部材とによって網羅するシールド対象エリアの大きさを選択することができる。
【0020】
また、本発明に係る電波暗箱は、前記高さをhとするとき、前記開口部側ガスケット部材の先端部と、前記扉側ガスケット部材の先端部との間の距離が2×h以下となる状態まで前記扉が閉められた状態で、前記扉側ガスケット部材の先端部が前記ガスケットシール部材の表面に接触するように設けられている構成であってもよい。
【0021】
この構成により、本発明に係る電波暗箱は、扉を閉める動作に合わせて、扉側ガスケット部材の先端部がガスケットシール部材の表面を摺動しながら当該ガスケットシール部材を押しつぶしていく動作が進行するため、扉を閉める動作に合わせてガスケットシール部材の表面の酸化被膜のクリーニングが可能になる。
【0022】
また、本発明に係る電波暗箱において、前記筐体本体部は、板金加工された壁部(302a、302b、302c、402a、402b、502a、502b、502c)を有する複数の分割チャンバー(300、400、500)を着脱可能に連結して構成され、前記開口部は、前記複数の分割チャンバーのうちの2つの分割チャンバーを連結する連結部分(601)を跨ぐ位置に設けられ、前記ガスケット機構部は、前記開口部の前記連結部分を跨ぐ辺に対応して設けられる構成であってもよい。
【0023】
この構成により、本発明に係る電波暗箱は、2つの分割チャンバーを連結する連結部分を跨ぐ位置に開口部が設けられ、開口部近傍の周壁部の剛性が低く、歪みが生じ易い状況下にあっても、その歪みを吸収して外周領域と対向領域の間の密封状態を維持することができる。
【0024】
また、本発明に係る電波暗箱は、前記周壁部における前記開口部の外側に、前記2つの分割チャンバーに跨り、かつ、前記ガスケット機構部に沿って設けられ、前記2つの分割チャンバー間の剛性を高めるための補強棒(490)をさらに有する構成であってもよい。
【0025】
この構成により、本発明に係る電波暗箱は、補強棒によって、連結部分を跨ぐ2つの分割チャンバー間の剛性を高めることができ、開口部近傍の剛性が低い周壁部での歪みの発生自体をなくすことができ、シールド効果を向上させることができる。
【0026】
また、上記課題を解決するために、本発明に係る試験装置は、被試験アンテナ(110)を有する被試験対象(100)の送信特性又は受信特性を測定する試験装置(1)であって、周囲の電波環境に影響されない内部空間(51)を有する、上述したいずれかの構成を有する電波暗箱(50)と、前記被試験アンテナとの間で無線信号を送信又は受信する1又は複数の試験用アンテナ(6)と、前記内部空間におけるクワイエットゾーン(QZ)内に配置された前記被試験対象の姿勢を順次変化させる姿勢可変機構(56)と、前記内部空間における前記クワイエットゾーン内に配置された前記被試験対象に対して前記1又は複数の試験用アンテナを使用して前記被試験対象の送信特性又は受信特性の測定を行う測定装置(2)と、を備えたことを特徴とする。
【0027】
この構成により、本発明に係る試験装置は、電波暗箱において、開口部側ガスケット部材及び開口部側ガスケット部材の両者が、互いに平行移動した位置で対向し、かつ、両者の各先端部間に斜めに掛け渡されたガスケットシール部材を相互に反対の面側から相手領域(外周領域、または対向領域)に圧縮状態で押し付けることにより、内部空間を電磁的遮蔽が維持されたシールド状態に保つことが可能となっている。シールド状態を維持する機能について、本発明に係る試験装置における電波暗箱のガスケット機構部は、一方の側に設けたガスケット部材を反対側に設けたガスケットシールに押し付ける従来の構造(
図12(c)参照)に比べて、外周領域と対向領域の密着が解除されることに影響を及ぼす周壁部の歪みの許容量が増すことになる。よって、本発明に係る試験装置は、電子暗箱における周壁部の歪みに起因する扉と開口部との間の隙間の発生を抑制し、従来装置に比べてシールド効果を向上させることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、周壁部の歪みに起因する扉と開口部との間の隙間の発生を抑制し、シールド効果を向上させることが可能な電波暗箱、及び該電波暗箱を用いた試験装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の一実施形態に係る試験装置全体の概略構成を示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る試験装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る試験装置の統合制御装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る試験装置のNRシステムシミュレータの機能構成を示すブロック図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る電波暗箱の斜視図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係る電波暗箱の扉を開けた状態での開口部近傍の構成を示す概念斜視図である。
【
図8】(a)は
図7の領域Cで囲まれた部分の拡大図であり、(b)は
図7の領域Dで囲まれた部分の拡大図である。
【
図9】
図5のA-A面による断面の構成を示す斜視図である。
【
図10】
図9の領域Bで囲まれた部分の断面構造を拡大して示す斜視図である。
【
図11】
図10に示される断面構造を扉の側面から見た正面図である。
【
図12】(a)は本発明の一実施形態に係る電波暗箱の扉を閉め切る前のガスケット機構部の状態を示す概念断面図であり、(b)は同じく扉を閉め切ったときのガスケット機構部の状態を示す概念断面図であり、(c)は周囲の壁部を板金構造としたときの電子暗箱の扉を閉め切る前のガスケット部材の配置状態を示す概念断面図である。
【
図13】本発明の一実施形態に係る試験装置の変形例に係る電波暗箱の斜視図である。
【
図14】
図13のB-B面による断面の要部構成を拡大して示す斜視図である。
【
図15】周囲の壁部を板金構造としたときの電波暗箱での周壁部の歪みとその影響を検証するための模式図である。
【
図16】変形例に係る電波暗箱に備わる補強棒の補強機能を検証するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態に係る電波暗箱を用いた試験装置について、図面を参照して説明する。なお、各図面上の各構成要素の寸法比は、実際の寸法比と必ずしも一致していない。
【0031】
本実施形態に係る試験装置1は、アンテナ110を有するDUT100の送信特性又は受信特性を測定するものであり、例えば、DUT100のRF特性やRRM特性を測定するようになっている。このために、試験装置1は、電波暗箱(OTAチャンバーともいう)50と、複数の試験用アンテナ6a、6b、6c、6d、6e、6f(以下、試験用アンテナ6と総称することもある)と、姿勢可変機構56と、統合制御装置10と、NRシステムシミュレータ20と、信号処理部40と、信号切替部41とを備えている。なお、本実施形態の統合制御装置10とNRシステムシミュレータ20と信号処理部40と信号切替部41は、本発明の測定装置2に対応する。
【0032】
図1は、試験装置1の外観構造を示し、
図2は、試験装置1の機能ブロックを示す。ただし、
図1においては、電波暗箱50について正面から透視した状態における各構成要素の配置態様を示している。
【0033】
図1及び
図2に示すように、電波暗箱50は、周囲の電波環境に影響されない内部空間51を有している。試験用アンテナ6及びリフレクタ7は、電波暗箱50の内部空間51に設置され、DUT100の送信特性又は受信特性を測定するための無線信号をアンテナ110との間で送信又は受信するようになっている。姿勢可変機構56は、電波暗箱50の内部空間51におけるクワイエットゾーンQZ内に配置されたDUT100の姿勢を変化させるようになっている。統合制御装置10、NRシステムシミュレータ20、信号処理部40、及び信号切替部41は、姿勢可変機構56により姿勢を変化させたDUT100に対して1又は2の試験用アンテナ6を用いて、DUT100の送信特性又は受信特性の測定を行うようになっている。以下、各構成要素について説明する。
【0034】
(電波暗箱)
電波暗箱50は、無線端末の送信又は受信特性の測定に用いられ、例えば5G用の無線端末の性能試験に際してのOTA試験環境を実現するものであって、
図1、
図2に示すように、電波暗箱50は、例えば、直方体形状の内部空間51を有する金属製の筐体本体部52により構成されている。電波暗箱50は、内部空間51に、DUT100と、DUT100のアンテナ110と対向するリフレクタ7及び試験用アンテナ6を、外部からの電波の侵入及び外部への電波の放射を防ぐ状態に収容するようになっている。
【0035】
また、電波暗箱50の内面全域、つまり、筐体本体部52の底面52a、側面52b及び上面52cの全面には、電波吸収体55が貼り付けられ、内部空間51の無響特性を確保すると共に、外部への電波の放射規制機能が強化されている。このように、電波暗箱50は、周囲の電波環境に影響されない内部空間51を形成している。本実施形態で用いる電波暗箱50は、例えば、CATR(Compact Antenna Test Range)方式の無響チャンバー(Anechoic Chamber)である。
【0036】
図5は、本発明の実施形態に係る電波暗箱50の斜視図である。
図5に示すように、本実施形態に係る電波暗箱50は、
図5の左から順に第1のチャンバー部300と、中央の第2のチャンバー部400と、右側の第3のチャンバー部500とを備えており、これら3つのチャンバー部(分割チャンバーともいう)が着脱可能に互いに連結されて、
図5に示すような金属板等の面状部67で囲まれた箱状の電波暗箱50を構成している。具体的には、連結された状態の電波暗箱50は、周囲を囲う金属の周壁部60と、周壁部60の上下で対向する金属の天面部61及び金属の底面部62とを有している(
図1参照)。なお、電波暗箱50の一対のヒンジ471で開閉可能な扉470が付いている側を正面、その左側を左側面、右側を右側面、正面に対向した側を背面と称する。
【0037】
また、本実施形態では、
図5に示すように、電波暗箱50は架台53の上に載置されるようになっており、架台53の内部には、
図1に示すように測定装置2が収納できるようになっている。
図5に示すように、架台53も、各チャンバー部に対応して第1の架台350と、第2の架台450と、第3の架台550とを有している。各架台は、対応するチャンバー部をそれぞれ高さ位置調整可能に載置し、移動し、設置フロア上に固定することができるようになっている。
【0038】
第1のチャンバー部300、第2のチャンバー部400、第3のチャンバー部500の連結構造について
図6を参照してさらに詳しく説明する。
【0039】
図6は、
図1の電波暗箱50のIX-IX断面図である。
図6に示すように、電波暗箱50において、第1のチャンバー部300は3つの壁部302a、302b、302cが
図6の紙面に向かってみたときにコの字型になるように板金加工され、壁部302a、302cの一端が共に内側に向けて折返し加工されている。また、第2のチャンバー部400は壁部402a、402bを有し、これら壁部402a、402bが互いに対向するように配置される。壁部402aの両端、壁部402bの両端は、それぞれ、内側に向けて折返し加工されている。さらに、第3のチャンバー部500は壁部502aと、L型に板金加工された壁部502b、502cを有している。壁部502aの一端は内側に向けて折返し加工されるとともに、壁部502b、502cの両端も共に内側に向けて折返し加工されている。
図6に示す電波暗箱50では、第1のチャンバー部300、第2のチャンバー部400、第3のチャンバー部500が、それぞれの壁部302a、302c、402a、402b、502a、502b、502cの端部の折返し加工された部分を例えばねじ550を用いて固定することにより1つの空間を形成するように連結されている。
【0040】
このように、本実施形態に係る電波暗箱50は、第1のチャンバー部300、第2のチャンバー部400、第3のチャンバー部500が、例えば、ねじ550により着脱可能に連結されて筐体本体部52を構成している。ここで、筐体本体部52の周壁部60、すなわち、第1のチャンバー部300の壁部302a、302b、302c、第2のチャンバー部400の壁部402a、402b、第3のチャンバー部500の壁部502a、502b、502cは、何れも、板金構造を有する薄い金属板が使われており、かつ、着脱自在となっている。このため、第3のチャンバー部500の背面側と右側面の側のスペースが広くすることができ、従来装置でのクワイエットゾーンに比べてクワイエットゾーンQZが広くなっている。
【0041】
かかる構成によれば、ノートパソコンやタブレット端末などのより大きなDUT100を測定することが可能となる。RRM特性の測定では、所定の到来角を形成する2つの試験用アンテナを用いて試験が行われる。RF特性の測定からRRMの測定に切り替える場合、第3のチャンバー部500の全体を取り外すことなく、その一部、例えば、壁部502a、又は502b、502cを、それぞれ、RF特性測定用、RRM特性測定用のものにそれぞれ取り換えることにより、容易に試験のセットアップができるようになっている。
【0042】
一方で、本実施形態に係る電波暗箱50は、筐体本体部52の周壁部60の全部が上述した板金構造で構成されているため、アルミフレームに内装板と外装板の一方又は両方が取り付けられる周壁部構造を有していた従来の電波暗箱に比べて周壁部60の剛性が低く、歪みが発生する可能性がある。
【0043】
特に、本実施形態に係る電波暗箱50は、
図6に示すように、筐体本体部52の周壁部60を構成する第2のチャンバー部400の壁部402bと第3のチャンバー部500の壁部502cを跨ぐ位置に設けられている。このため、筐体本体部52における扉470(
図5参照)が設けられた位置の近傍で周壁部60の歪みが発生すると、その影響で開口部475も歪み、扉470と開口部475(
図7参照)または周壁部60との間に隙間または空間が生じ、内部空間51を外部から電磁的に遮蔽された状態(シールド状態)に保てなくなる可能性がある、そこで本実施形態に係る電波暗箱50においては、扉470と開口部475との間を内部空間51がシールド状態を維持可能に密封するガスケット機構の構造を改良したものである。
【0044】
(扉、開口部及びガスケット機構部の構造)
次に、本実施形態に係る電波暗箱50における扉470、開口部475及びガスケット機構部480の構造について説明する。
【0045】
上述したように、電波暗箱50は、第1のチャンバー部300、第2のチャンバー部400、及び第3のチャンバー部500が互いに連結されて内部に電磁的に遮蔽された閉鎖空間である内部空間51を形成している。連結された状態の電波暗箱50は、周囲を囲う周壁部60と、周壁部60の上下で対向する天面部61及び底面部62とを有している(
図1、
図5参照)。
【0046】
電波暗箱50は、その正面の周壁部60に、例えば、矩形形状を有する開口部475(
図7参照)と、開口部475に対して開閉可能な扉470(
図5、
図7参照)が設けられている。
【0047】
扉470は、開口部475より大きなサイズの矩形の金属板材で構成され、
図5に示すように、片側(例えば、左端)の端部が一対のヒンジ471を介して筐体本体部52(第2のチャンバー部400の所要位置)に取り付けられ、反対側(例えば、右端)の端部には例えば一対のロックバー472が設けられている。かかる構成を有する扉470は、ヒンジ471を介して開口部475が開いた状態と開口部475が閉まった状態とに開け閉め可能であり、かつ、閉めた状態では、一対のロックバー472によって、開くことができないロック状態に固定できるようになっている。扉470は、ヒンジ471に連結される箇所、ロックバー472が設けられている個所、扉中央部のいずれの個所も、開口部475が設けられる筐体本体部52の周壁部60に対して高い剛性を有している。
【0048】
これに対し、扉470によって開閉される開口部475は、例えば、
図7に示すように、第2のチャンバー部400に設けられる矩形形状の開口部406と、第3のチャンバー部500に設けられる矩形形状の開口部506とが、第2のチャンバー部400と第3のチャンバー部500の結合に合わせて一つの矩形形状の開口として形成されている。このように、開口部475は、筐体本体部52の正面の周壁部60における第2のチャンバー部400と第3のチャンバー部500の連結部分601を跨ぐ位置に設けられている。
【0049】
筐体本体部52は、上述したように、第2のチャンバー部400と第3のチャンバー部500の両者を連結部分601で連結して構成されており、しかも、連結部分601の一部にはそれぞれ開口部406、506が設けられている構造であるため、当該開口部406、506を合わせた開口部475が形成された正面の周壁部60の剛性は他の部分と比べて低いものとなっている。
【0050】
ここで、開口部406が形成される第2のチャンバー部400、開口部506が形成される第3のチャンバー部500が、それぞれ、上述した板金加工で作られた金属板(板金構造)で構成されているため、開口部406、506を合わせた開口部475が形成された筐体本体部52の正面の周壁部60(開口部475近傍)の剛性はさらに低いものとなる。この場合、筐体本体部52の開口部475近傍の周壁部60に歪みを生じ易く、その歪みが開口部475まで波及することで扉470と開口部475、あるいは周壁部60との間に、内部空間51を電磁波のシールド状態とするための支障となる隙間や空間が生じることも起こり得る(
図15参照)。
【0051】
この点に鑑み、本実施形態に係る電波暗箱50では、開口部475の外周領域(後述する矩形シール領域476)と、扉470の上記外周領域に対向する対向領域(後述する対向矩形シール領域477)との間を、上述した開口部475近傍の周壁部60の歪みに起因する隙間や空間の発生を抑制し、内部空間51がシール状態を維持可能に密封するガスケット機構部480を備えている。
【0052】
ガスケット機構部480の構成について、
図7、
図8を参照して詳しく説明する。
図7は、本実施形態に係る電波暗箱50の扉470を開けた状態での開口部475近傍の構成を概念的に示している。
図8において、(a)は
図7の領域Cで囲まれた部分の構成を拡大して示し、(b)は
図7の領域Dで囲まれた部分の構成を拡大して示している。
【0053】
図7、
図8(a)に示すように、第2のチャンバー部400と第3のチャンバー部500の境界(連結部分601)を跨ぐように設けられる開口部475は矩形形状を有し、開口部475の周囲(第2のチャンバー部400の開口部406を取り囲む周壁部60の一部、及び第3のチャンバー部500の開口部506を取り囲む周壁部60の一部)には、矩形形状のシール領域(以下、矩形シール領域)476が形成されている。矩形シール領域476は、本発明の外周領域に相当する。
【0054】
矩形シール領域476の一部には、
図7、
図8(a)に示すように、第1のガスケット部材であるガスケット部材480aが設けられている。具体的に、ガスケット部材480aは、矩形シール領域476のうち、矩形形状の開口部475の特定の辺、例えば、上の辺と下の辺にそれぞれ対応する個所(2か所)に、対向する扉470側に突出して設けられている。ガスケット部材480aは、横長形状のもの、例えば、上述した互いに対向する上下の各辺よりも長い所定の幅及び高さを有する角柱形状部材で構成され、長手方向が上記各辺に沿うように所定の高さで扉470側に突出して設けられている。ガスケット部材480aは、押圧力を加えることで元の形状から圧縮され(縮み)、押圧力を解除することで元の形状に戻る特性を有する導電性の機能部品で構成され、本実施形態では、糸状の導電体を編み込んだ導電性布状部材(導電布:例えば、高周波電磁波シールド生地等)が巻かれたスポンジ状の部材(以下、スポンジ部材)で構成されている。
【0055】
図8(a)に示すように、ガスケット部材480aの先端部483a(扉470に面する辺の上面)には、第2のガスケット部材であるガスケットシール481が取り付けられている。ガスケットシール481としては、ガスケット部材480aに用いられる例えば高周波電磁波シールド生地(導電布)が用いられる。ガスケットシール481は、矩形の形状を有し、例えば、横がガスケット部材480aと同等の長さで縦(幅方向)が所定の長さ(例えば、ガスケット部材480aの上下方向の幅の3~4倍程度の長さ)を有する長方形の導電布で構成されている。
【0056】
取り付け態様として、ガスケットシール481は、幅方向の一端が開口部475側のガスケット部材480aの先端部483aに貼り付けられ(
図8(a)参照)、他端が、扉470を閉めたときに、貼り付けた側の反対側から扉470側のガスケット部材480bの先端部483b(
図8(b)参照)の当接を受け付けることが可能となるように矩形シール領域476の上面に貼り付けられ、固定されている。
【0057】
また、開口部475の周囲の矩形シール領域476のうち、上述した上下の辺に直交する左右の各辺に対応する領域には、平面形状が例えば矩形の金属製のガスケットシール486が取り付けられている(
図8(a)参照)。
【0058】
一方、扉470側には、扉470を閉めたときに、上述したガスケット部材480a、ガスケットシール481、ガスケットシール486が設けられた矩形シール領域476に対向する位置に対向矩形シール領域477が設けられている。対向矩形シール領域477は、本発明の対向領域に相当する。
【0059】
対向矩形シール領域477の一部には、
図7、
図8(b)に示すように、上述した矩形シール領域476に設けられたガスケット部材480aに対応する第1のガスケットに相当する2つのガスケット部材480bが設けられている。具体的に、2つのガスケット部材480bは、対向矩形シール領域477のうち、矩形形状の開口部475の特定の辺、例えば、上の辺と下の辺に対応する位置(2か所)に、それぞれ、対向する開口部475側(矩形シール領域476側)に突出して設けられている。ガスケット部材480bもガスケット部材480aと同等の機能部品からなり、導電布(例えば、高周波電磁波シールド生地)が巻かれたスポンジ部材で構成され、ガスケット部材480aと同形状を有しており、2つのガスケット部材480bは、それぞれ、長手方向が上記各辺に沿うように所定の高さで開口部475側に突出して設けられている。
【0060】
扉470において、ガスケット部材480bが設けられる位置は、対向する矩形シール領域476に設けられるガスケット部材480aの位置に対して所定距離、例えば、ガスケット部材480aの幅を超える距離だけ下方(開口部475側)に平行移動した位置となっている(
図10、
図11、
図12(a)、(b)参照)。すなわち、ガスケット部材480bは、扉470を閉めたときに、一端がガスケット部材480aの先端部483aに貼り付けられているガスケットシール481を、他端側の直前で、ガスケット部材480aに貼り付けられている面の反対側の面から押し付け可能な位置に配置されている。
【0061】
また、扉470には、対向矩形シール領域477のうち、開口部475の上下の各辺に直交する左右の辺における、扉470を閉めたときに左右一対のガスケットシール486にそれぞれ対向する位置には、一対のガスケットシール486と同等の一対のガスケットシール486が設けられている。
【0062】
上記構成により、扉470を閉めたとき、ガスケット部材480aとガスケット部材480bは、ガスケットシール481を介して扉470と矩形シール領域476との間に押圧力によって縮んだ(圧縮された)状態に保たれる(
図12(b)参照)。合わせて、矩形シール領域476の左右の辺に対応して設けられるガスケットシール486と、扉470の対向矩形シール領域477の左右の辺に対応して設けられるガスケットシール487とは密着する状態となる。これにより、扉470を閉め切ったときには、筐体本体部52の内部空間51をシールド状態に維持することが可能となる。
【0063】
上述したように、第1のガスケット部材であるガスケット部材480a、480b、及び第2のガスケット部材であるガスケットシール481は、ガスケットシール486、487とともに、扉470を閉め切ったときに筐体本体部52の内部空間51をシールド状態に維持するためのガスケット機構部480を構成している。ガスケット部材480a、ガスケット部材480b、及びガスケットシール481は、それぞれ、本発明の開口部側ガスケット部材、扉側ガスケット部材、及びガスケットシール部材に相当する。
【0064】
ガスケット機構部480の構成について、
図9~
図11を参照してさらに詳しく説明する。
図9は、
図5のA-A面による断面の構成を示す斜視図である。
図10は、
図9の領域Bで囲まれた部分の構成を拡大して示す斜視図であり、
図11は、
図10の斜視図に示される断面構造を扉470の側面から見た正面図である。
【0065】
図9~
図11に示されるように、筐体本体部52において、開口部475の周囲を取り囲む矩形シール領域476のうち、開口部475の上側の辺に沿った矩形シール領域476には、当該上側の辺に沿って、扉470側に突出するガスケット部材480aが上述した態様で取り付けられている。また、開口部475の左右の辺に沿った矩形シール領域476には、それぞれ、ガスケットシール481が上述した態様で取り付けられている(
図7、
図8(a)参照)。
【0066】
一方、扉470は、
図9~
図11に示すように、正面から見た形状が全体として矩形であり、内部に空洞を有するように加工されたパネル構造を有している。扉470の開口部475側を囲む対向矩形シール領域477のうち、開口部475の上側の辺に沿った対向矩形シール領域477には、当該上側の辺に沿って(但し、ガスケット部材480aの下方)、開口部475側に突出するガスケット部材480bが上述した態様で取り付けられている。また、開口部475の左右の辺に沿った対向矩形シール領域477には、それぞれ、ガスケットシール481が上述した態様で取り付けられている(
図7、
図8(a)参照)。
【0067】
図9~
図11においては、扉470が閉め切られた状態を開示している。この状態において、例えば、
図11に特に理解し易い開示があるように、上側のガスケット機構部480(
図7参照)においては、扉470を閉める際に扉470側から開口部475側にむけてかかる押圧力によって、ガスケット部材480a、480bが予め確保された扉470と開口部475間の離間距離の範囲内に収まる形となるまで圧縮される。これに合わせて、ガスケットシール481は、ガスケット部材480aとガスケット部材480bの両者間に亘り、かつ、両者により互いの逆の方向から密着状態に押し付けられ、扉470の閉塞状態が確立される。
【0068】
下側のガスケット機構部480(
図7参照)も上側のガスケット機構部480と同様、ガスケット部材480a、480b、ガスケットシール481の各部を備えて構成され、扉470を閉める際、当該各部は、上側のガスケット機構部480の各部と同様に作動する。このように、ガスケット部材480a、480b、及びガスケットシール481は、電波暗箱50の内部空間51をシールド状態に保つガスケット機構部480として機能する。
【0069】
図5~
図11においては、開口部475の上側の辺と下側の辺に沿ってそれぞれ一つのガスケット機構部480を設ける構成について開示したが、本発明はこの構成に限らず、開口部475の右辺の側、または左辺の側にもさらにガスケット機構部480を設ける構成としてもよい。要するに、本発明においては、開口部475が矩形形状を有する場合に、ガスケット機構部480は、矩形形状の4つの辺のうちの少なくとも対向する二つの辺に対応して設けられる構成であればよい。
【0070】
次に、ガスケット機構部480におけるシールド機能に関する作用について説明する。ここでは、開口部475の上側の辺に沿って設けられたガスケット部材480a、480b、ガスケットシール481を例に挙げて説明する。
【0071】
図12は、本実施形態に係る電波暗箱50と周囲の壁部を板金構造としたときの電波暗箱のガスケット構造を比較するための模式図であり、(a)は本実施形態に係る電波暗箱50の扉470を閉め切る前のガスケット機構部480の状態を示し、(b)は同じく扉470を閉め切ったときのガスケット機構部480の状態を示し、(c)は周囲の壁部を板金構造とした(本実施形態に係るガスケット機構部480を有しない)ときの電子暗箱の扉を閉め切る前のガスケット機構の状態を示している。
【0072】
図12(a)に示すように、本実施形態に係る電波暗箱50のガスケット機構部480では、扉470を閉め切る前、扉470は筐体本体部52の周壁部60に対して押し付けられておらず、ガスケット部材480a、480bは押圧力を受けていない状態、すなわち、圧縮されていない状態(以下では「元の状態」という。)にある。
図12(a)は、特に、ガスケット部材480aの矩形シール領域476からの突出した高さ、及びガスケット部材480bの対向矩形シール領域477からの突出した高さをそれぞれ高さhとするとき、ガスケット部材480aの先端部483aとガスケット部材480bの先端部483bとの間の距離が「2×h」以下の距離となったことによりガスケット部材480bがガスケットシール481の表面に接触している状態を開示している。
図12(a)においては、ガスケット部材480aの先端部483aとガスケット部材480bの先端部483bとの間の距離が「2×h」以下の距離となる位置を線Xで表している。
【0073】
このとき、導電性布から成るガスケットシール481は、その一端がガスケット部材480aの先端部483aに貼り付けられている一方で、他端が、ガスケット部材480aの先端部483aとガスケット部材480bの先端部483bとの間の距離が「2×h」以下の距離となる位置を規定する線Xを交差(クロス)して矩形シール領域476の所要位置(ガスケット部材480bの先端部483bに対向する位置)に固定されている。要するに、ガスケット機構部480は、扉470を閉め切る前、ガスケット部材480aとガスケット部材480bは、ガスケットシール481を挟み、互いにガスケットシール481の反対側の面に位置している。
【0074】
図12(a)の状態から、扉470を、線Xを超えて矢印E方向に押し付けていきつつ扉470を閉める動作を続けるうちに、
図12(b)に示すように、扉470が完全に閉め切られ、扉470をロックすることができる状態となる。このとき、ガスケット部材480a、480bは、ガスケット部材480aが扉470の対向矩形シール領域477との間にガスケットシール481の一端を挟み、かつ、ガスケット部材480bが筐体本体部52側の矩形シール領域476との間にガスケットシール481の他端を挟むように、それぞれ、
図12(b)に示す圧縮状態となる。
【0075】
これにより、電波暗箱50では、ガスケットシール481のサイズ範囲を外れないように所定の距離を離間して互いに上下かつ平行に配置されたガスケット部材480aとガスケット部材480bとの間に、相互に反対の側からガスケットシール481を密着状態に挟み込んだ状態となり、ガスケット機構部480によって、電波暗箱50の内部空間51をシールド状態に維持できるようになる。
図12(b)の状態から、ロックを解除し、扉470を矢印E方向に開いていくことにより
図12(a)に示す状態まで開いた状態とすることができ、あるいはさらに開いた状態とすることができる。この状態において、ガスケット部材480a、480bは、
図12(b)に示すように圧縮されていた状態から元の状態(
図12(a)参照)へと戻ることになる。
【0076】
内部空間51のシールド機能について、本実施形態に係るガスケット機構部480の構成によれば、ガスケット部材480aとガスケット部材480bとの間に、ガスケットシール481を斜め(「Z(ゼット)」型)に配置する構成が機能向上に貢献している。この点について、
図12(c)に示す筐体本体部800の周囲の壁部(周壁部810)を板金構造としたときの電波暗箱のガスケット部材850a、850b(扉820に上下2段で設けられる)、及びガスケット部材850c(筐体本体部800側に設けられるシール状の部材)の配置構造(一方の側に設けたガスケット部材を反対側に設けたガスケットシールに押し付ける従来の構造)と比較する。
【0077】
ここで筐体本体部800の周壁部810としては、例えば、
図6に示したような板金構造のみによるものが採用されているものが存在し得る。このような構成の場合、アルミフレームに内装板と外装板の一方又は両方が取り付けられている構造に比べて筐体本体部800の周壁部810の剛性が低くなり、扉820の開け閉めに際して開口部815付近で筐体本体部800に歪みが生じことが想定される。
【0078】
特に、開口部815が二つの分割チャンバー(
図6の第2のチャンバー部400、第3のチャンバー部500を参照)に跨って設けられ、かつ、これら二つの分割チャンバーが板金構造の周壁部810で構成されている場合には、筐体本体部800に歪みが生じ、その影響で、例えば、
図12(c)に示すように(あるいは、
図15参照)、開口部815の近傍にて点線で示した状態の変形が発生する可能性もある。
【0079】
一方で、この種の電波暗箱の扉(一例として、本実施形態に係る電波暗箱50の扉470)は、ヒンジ471とロックバー472の個所は相互に固い金属結合を採用しており、剛性が高く、さらには扉中央部についても剛性が確保されている。
【0080】
図12(c)に示す周囲の壁部を板金構造としたときの電波暗箱80の構成では、上述の如く剛性が確保された扉820に対して、筐体本体部800の周壁部810が板金構造で構成されており、かつ、開口部815が板金構造で構成された隣接する2つの周壁部810に跨って形成されたものであった場合、筐体本体部800側に点線で示すような歪みが発生し易くなる。このような歪みが発生すると、その歪みの影響で変形する開口部側と剛性の高い扉820との間にガスケット1個分の厚さh以上の隙間が生じると、ガスケット部材850a、850bのガスケット部材850cに対する密着が保てず、内部空間51をシールド状態に保てないことも起こり得る。
【0081】
これに対し、本実施形態に係る電波暗箱50のガスケット機構部480によれば、
図12(a)及び(b)に示すように、2つのガスケット部材480a、480bが互いに対向する扉470側と筐体本体部52側に、上下に位置をずらし、かつ、互いに相手側に向けて突出して設けられ、その2つのガスケット部材480a、480bに対して斜めにガスケットシール481が掛け渡された構成を有している。かかる構成によれば、剛性の低い筐体本体部52側に上述した歪み(
図12(c)参照)が発生し、その影響を受けた開口部475と剛性の高い扉470との間に隙間が生じるような場合でも、その隙間がガスケット2個分の厚さ(2×h)を超えない限りは、斜めに掛け渡されたガスケットシール481とそれを圧縮された状態で両側から挟むガスケット部材480a、480bが、筐体本体部52側の歪みに追従して変形し、内部空間51を確実にシールド状態に保つことが可能となる。
【0082】
また、本実施形態に係るガスケット機構部480の構成によれば、
図12(a)の状態から
図12(b)の状態まで扉470を閉めていく動作の過程で、扉470に設けたガスケット部材480bが、
図12(b)の状態に向けて縮みながら、かつ、ガスケットシール481の当接している部分(表面)を擦りながら扉470を閉める動作が続けられる。
【0083】
ここで、ガスケット部材480a、480bの高さをhとするとき(
図12(a)参照)、ガスケット部材480aの先端部483aと、ガスケット部材480bの先端部483bとの間の距離が2×h以下となる状態まで扉470が閉められた状態で、ガスケット部材480bの先端部483bがガスケット部材480aの表面に接触するような構造となっている。これにより、ガスケット機構部480は、導電布から成るガスケットシール481の表面の酸化被膜を擦り取るクリーニング機能も実現可能となる。
【0084】
この他、本実施形態に係るガスケット機構部480では、各部の構成について、上述した構成に限らず、種々の変形、及び応用が可能なものである。例えば、ガスケット部材480aとガスケット部材480bの位置関係については、ガスケット部材480a、ガスケット部材480bが、共に、高さh、幅Wとするとき(
図12(a)参照)、ガスケット部材480bを、扉470を閉めた状態で、ガスケット部材480aに対して、上記幅Wに予め設定した倍数(例えば、2倍から4倍)を乗じた距離を平行移動した位置に設けられるように規定してもよい。
【0085】
この構成により、本発明に係る電波暗箱50は、ガスケット機構部480のガスケット部材480aとガスケット部材480bの両者の離間距離を上記規定にしたがって設定することで、両者とガスケットシール481とによって網羅するシールド対象エリアの大きさを適宜に選択することができる。
【0086】
(DUT)
被試験対象とされるDUT100は、例えばスマートフォンなどの無線端末である。DUT100の通信規格としては、セルラ(LTE、LTE-A、W-CDMA(登録商標)、GSM(登録商標)、CDMA2000、1xEV-DO、TD-SCDMA等)、無線LAN(IEEE802.11b/g/a/n/ac/ad等)、Bluetooth(登録商標)、GNSS(GPS、Galileo、GLONASS、BeiDou等)、FM、及びデジタル放送(DVB-H、ISDB-T等)が挙げられる。また、DUT100は、5Gセルラ等に対応したミリ波帯の無線信号を送受信する無線端末であってもよい。
【0087】
本実施形態において、DUT100は例えば5G NRの無線端末である。5G NRの無線端末については、ミリ波帯の他、LTE等で使用する他の周波数帯も含む既定の周波数帯を通信可能周波数範囲とすることが5G NR規格によって規定されている。よって、DUT100のアンテナ110は、DUT100の送信特性又は受信特性の被測定対象である既定の周波数帯(5G NRバンド)の無線信号を送信又は受信するものである。アンテナ110は、例えばMassive-MIMOアンテナ等のアレーアンテナであり、本発明における被試験アンテナに相当する。
【0088】
本実施形態において、DUT100は、電波暗箱50内での送受信に関する測定中、試験用アンテナ6及び必要に応じてリフレクタ7又はミラー9を介して試験信号及び被測定信号を送受信できるようになっている。
【0089】
(姿勢可変機構)
次に、電波暗箱50の内部空間51に設けられた姿勢可変機構56について説明する。
図1に示すように、電波暗箱50の筐体本体部52の内部空間51側の底面52aには、クワイエットゾーンQZ内に配置されたDUT100の姿勢を変化させる姿勢可変機構56が設けられている。姿勢可変機構56は、例えば、2軸の各軸周りに回転する回転機構を備える2軸ポジショナである。姿勢可変機構56は、試験用アンテナ6を固定した状態で、DUT100を2軸周りの回転自由度をもって回転させるようなOTA試験系(Combined-axes system)を構成する。具体的には、姿勢可変機構56は、駆動部56aと、ターンテーブル56bと、支柱56cと、被試験対象載置部としてのDUT載置部56dとを有する。
【0090】
駆動部56aは、回転駆動力を発生させるステッピングモータなどの駆動用モータからなり、例えば、底面52aに設置される。ターンテーブル56bは、駆動部56aの回転駆動力により、互いに直交する2軸のうちの一方の軸の周りに所定角度回転するようになっている。支柱56cは、ターンテーブル56bに連結され、ターンテーブル56bから一方の軸の方向に延びて、駆動部56aの回転駆動力によりターンテーブル56bと共に回転するようになっている。DUT載置部56dは、支柱56cの側面から2軸のうちの他方の軸の方向に延びて、駆動部56aの回転駆動力により他方の軸の周りに所定角度回転するようになっている。DUT100は、DUT載置部56dに載置される。
【0091】
なお、上記の一方の軸は、例えば、底面52aに対して鉛直方向に延びる軸(図中のY軸)である。また、上記の他方の軸は、例えば、支柱56cの側面から水平方向に延びる軸である。このように構成された姿勢可変機構56は、DUT載置部56dに保持されているDUT100を、例えば、DUT100の中心を回転中心として、試験用アンテナ6及びリフレクタ7に対して3次元のあらゆる方向にアンテナ110が向く状態に順次姿勢を変化させ得るように回転させることができる。
【0092】
(リンクアンテナ)
電波暗箱50において、筐体本体部52の所要位置には、DUT100との間でリンク(呼)を確立又は維持するための2種類のリンクアンテナ5、8がそれぞれ保持具57、59を用いて取り付けられている。リンクアンテナ5は、LTE用のリンクアンテナであり、ノンスタンドアローンモード(Non-Standalone mode)で使用される。一方、リンクアンテナ8は、5G用のリンクアンテナであり、5Gの呼を維持するために使用される。リンクアンテナ5、8は、姿勢可変機構56に保持されるDUT100に対して指向性を有するようにそれぞれ保持具57、59によって保持されている。なお、上記のリンクアンテナ5、8を使用する代わりに、試験用アンテナ6をリンクアンテナとして兼用することも可能であるため、以下においては、試験用アンテナ6がリンクアンテナの機能を兼ねるものとして説明する。
【0093】
(近傍界と遠方界)
次に、近傍界と遠方界について説明する。電波がアンテナからDUT100へ直接伝わる場合をDFF(Direct Far Field)方式といい、電波がアンテナから回転放物面を有するリフレクタ7を反射してDUT100へ伝わる場合をIFF(Indirect Far Field)方式という。
【0094】
アンテナを放射源とする電波は、同位相の点を結んだ面(波面)が放射源を中心にして球状に拡がりながら伝搬する性質がある。放射源から近い距離では、波面は湾曲した球面(球面波)であるが、放射源から遠くなると波面は平面(平面波)に近くなる。一般に、波面を球面と考える必要のある領域が近傍界(NEAR FIELD)と呼ばれ、波面を平面とみなしてよい領域が遠方界(FAR FIELD)と呼ばれている。DUT100は、正確な測定を行ううえで、球面波を受信するよりも、平面波を受信する方が好ましい。
【0095】
平面波を受信するためには、DUT100が遠方界に設置される必要がある。DUT100内でのアンテナ110の位置及びアンテナサイズが分かっていないとき、遠方界は、アンテナから2D2/λ以遠の領域となる。ここで、Dは、DUT100の最大直線サイズ、λは電波の波長である。
【0096】
本実施形態では、試験用アンテナ6aの電波をリフレクタ7の回転放物面で反射させ、DUT100の位置にその反射波を到達させる方式であるCATR方式を利用している。この方式によれば、試験用アンテナ6aとDUT100間の距離を短縮でき、リフレクタ7の反射鏡面での反射後直ぐの距離から平面波の領域が拡がるため、伝搬ロスを低減することもできる。平面波の度合は、同位相の波の位相差で表すことができる。平面波の度合として許容し得る位相差は、例えば、λ/16である。位相差は、例えば、ベクトル・ネットワーク・アナライザ(VNA)で評価することができる。
【0097】
(試験用アンテナ)
次に、試験用アンテナ6及びリフレクタ7について説明する。
【0098】
試験用アンテナ6及びリフレクタ7は、電波暗箱50内に配置されて、DUT100のアンテナ110との間で無線信号を送信又は受信するようになっている。本実施形態の試験用アンテナ6は、リフレクタ反射型の試験用アンテナ6aと、直接型の試験用アンテナ6bと、ミラー反射型の試験用アンテナ6c、6d、6e、6fとを含んでいる。試験用アンテナ6は、各々、水平偏波アンテナ(6aH、6bH、6cH、6dH、6eH、6fH)と垂直偏波アンテナ(6aV、6bV、6cV、6dV、6eV、6fV)を備えている(
図2参照)。
【0099】
リフレクタ反射型の試験用アンテナ6aは、リフレクタ7と共に用いられ、一次放射器として機能する。試験用アンテナ6aとしては、例えば、ホーンアンテナ等の指向性を持ったミリ波用のアンテナを用いることができる。リフレクタ7は、曲面状に湾曲した例えばアルミニウム製の反射面を有し、測定用の無線信号の電波を反射するものであり、真円型のパラボラの回転放物面の一部を切り出したオフセットパラボラ型の構造を有するものである。リフレクタ7は、
図1に示すように、電波暗箱50の側面52bの所要位置にリフレクタ保持具58を用いて取り付けられている。
【0100】
リフレクタ7は、その回転放物面から定まる焦点位置に配置されている一次放射器としての試験用アンテナ6aから放射された試験信号の電波を回転放物面で受け、姿勢可変機構56に保持されているDUT100に向けて反射させる(送信時)。また、リフレクタ7は、上記試験信号を受信したDUT100がアンテナ110から放射する被測定信号の電波を回転放物面で受け、試験用アンテナ6に向けて反射させる(受信時)。リフレクタ7は、これら送信と受信が同時に可能な位置及び姿勢で配設されている。すなわち、リフレクタ7は、試験用アンテナ6とDUT100のアンテナ110との間で送受信される無線信号の電波を、回転放物面で反射するようになっている。
【0101】
この構成により、試験用アンテナ6aから放射された電波(例えば、DUT100に対する試験信号)を回転放物面で該回転放物面の軸方向と平行な方向に反射させるとともに、回転放物面の軸方向と平行な方向に回転放物面に対して入射する電波(例えば、DUT100から送信された被測定信号)を該回転放物面で反射させ、試験用アンテナ6aへと導くことができる。別言すれば、リフレクタ7は、試験用アンテナ6aから放射された球面波の電波を平面波の電波に変換してDUT100に送ると共に、DUT100から放射されリフレクタ7に入射する平面波の電波を試験用アンテナ6aに集束させるものである。オフセットパラボラは、パラボラ型に比べて、リフレクタ7自体が小さくて済むうえに、鏡面が垂直に近づくような配置が可能であるので、電波暗箱50の構造を小型化し得る。
【0102】
図1に示すように、リフレクタ反射型の試験用アンテナ6aは、DUT100の配置位置を通る水平面より下方に配置されている。試験用アンテナ6から放射されリフレクタ7で反射した電波ビームはZ軸負方向に伝搬され、所要半径のクワイエットゾーンQZを形成するようになっている。
【0103】
リフレクタ反射型の試験用アンテナ6aは、いわゆる間接遠方界(IFF)を形成するようになっている。間接遠方界とは、球面波を平面波に変換するようなリフレクタを用いる反射型のアンテナにより形成される遠方界をいう。
【0104】
直接型の試験用アンテナ6bは、DUT100が備えるアンテナ110との間で、リフレクタ7やミラーを介さず、DUT100の送信特性又は受信特性を測定するための無線信号の電波を直接、送信又は受信するようになっている。
【0105】
ミラー反射型の試験用アンテナ6c、6d、6e、6fは、それぞれミラー9c、9d、9e、9fを介して、DUT100が備えるアンテナ110との間で、DUT100の送信特性又は受信特性を測定するための無線信号を送信又は受信するようになっている。以下、ミラー9c、9d、9e、9fを単にミラー9と総称することもある。各ミラー9は、例えばアルミニウム製であり、平坦な鏡面を有している。ミラー反射型の試験用アンテナ6から放射された電波ビームは、対応するミラー9において鏡面反射するようになっている。
【0106】
本実施形態では、試験用アンテナ6及びミラー9は、DUT100の配置位置において、例えばリフレクタ反射型の試験用アンテナ6a及びリフレクタ7からの電波到来方向を基準に互いに異なる到来角度(例えば30°、60°、90°、120°、150°)を形成するよう配置されている。この構成により、特定の試験用アンテナ(例えば試験用アンテナ6a)と共に使用する試験用アンテナ6b、6c、6d、6e、6fを切り替えて使用することにより到来角度を変えてDUT100のRRM特性等の送受信特性の遠方界測定を効率的に行うことができる。
【0107】
次に、本実施形態に係る試験装置1の統合制御装置10及びNRシステムシミュレータ20について、
図2~
図4を参照して説明する。
【0108】
(統合制御装置)
統合制御装置10は、以下に説明するように、NRシステムシミュレータ20や姿勢可変機構56を統括的に制御するものである。このために、統合制御装置10は、例えばイーサネット(登録商標)等のネットワーク19を介して、NRシステムシミュレータ20や姿勢可変機構56と相互に通信可能に接続されている。
【0109】
図3は、統合制御装置10の機能構成を示すブロック図である。
図3に示すように、統合制御装置10は、制御部11、操作部12、及び表示部13を有している。制御部11は、例えば、コンピュータ装置によって構成される。このコンピュータ装置は、例えば、
図3に示すように、CPU(Central Processing Unit)11aと、ROM(Read Only Memory)11bと、RAM(Random Access Memory)11cと、外部インタフェース(I/F)部11dと、図示しないSSD(Solid State Drive)やハードディスク装置等の不揮発性の記憶媒体と、各種入出力ポートとを有する。
【0110】
CPU11aは、NRシステムシミュレータ20を対象とする統括的な制御を行うようになっている。ROM11bは、CPU11aを立ち上げるためのOS(Operating System)やその他のプログラム及び制御用のパラメータ等を記憶するようになっている。RAM11cは、CPU11aが動作に用いるOSやアプリケーションの実行コードやデータ等を記憶するようになっている。外部インタフェース(I/F)部11dは、所定の信号が入力される入力インタフェース機能と所定の信号を出力する出力インタフェース機能を有している。
【0111】
外部I/F部11dは、ネットワーク19を介して、NRシステムシミュレータ20に対して通信可能に接続されている。また、外部I/F部11dは、電波暗箱50における姿勢可変機構56ともネットワーク19を介して接続されている。入出力ポートには、操作部12及び表示部13が接続されている。操作部12は、コマンドなど各種情報を入力するための機能部であり、表示部13は、上記各種情報の入力画面や測定結果等、各種情報を表示する機能部である。
【0112】
上述したコンピュータ装置は、CPU11aがRAM11cを作業領域としてROM11bに格納されたプログラムを実行することにより制御部11として機能する。制御部11は、
図3に示すように、呼接続制御部14、信号送受信制御部15、及びDUT姿勢制御部17を有している。呼接続制御部14、信号送受信制御部15、及びDUT姿勢制御部17も、CPU11aがRAM11cの作業領域でROM11bに格納された所定のプログラムを実行することにより実現されるものである。
【0113】
呼接続制御部14は、試験用アンテナ6を駆動してDUT100との間で制御信号(無線信号)を送受信させることにより、NRシステムシミュレータ20とDUT100との間に呼(無線信号を送受信可能な状態)を確立する制御を行う。
【0114】
信号送受信制御部15は、操作部12におけるユーザ操作を監視し、ユーザによりDUT100の送信特性及び受信特性の測定に係る所定の測定開始操作が行われたことを契機に、呼接続制御部14での呼接続制御を経て、NRシステムシミュレータ20に対して信号送信指令を送信する。更に、信号送受信制御部15は、NRシステムシミュレータ20に対して、試験用アンテナ6を介して試験信号を送信させる制御を行うとともに、NRシステムシミュレータ20に信号受信指令を送信し、試験用アンテナ6を介して被測定信号を受信させる制御を行う。
【0115】
また、信号送受信制御部15は、2つの試験用アンテナを用いて行うRRM特性等の送受信特性の試験では、到来角度の設定、使用する試験用アンテナの選択を行うようになっている。具体的には、所定の複数の到来角度(例えば、30°、60°、90°、120°、150°)のうち1つの到来角度を選択して測定条件として設定(RAM11c等に記憶)する。到来角度はユーザが選択してもよいし、制御部11等が自動で選択するようにしてもよい。信号送受信制御部15は、設定された到来角度に基づいて、複数の試験用アンテナ6から使用する試験用アンテナを選択する。このため、例えば、RAM11c又はROM11bには、あらかじめ、到来角度と試験用アンテナとの対応関係を示す到来角度-試験用アンテナ対応テーブル17bが記憶されている。なお、到来角度の設定や、使用する試験用アンテナの選択は、制御部11又はNRシステムシミュレータ20の制御部22が行うようにしてもよい。
【0116】
DUT姿勢制御部17は、姿勢可変機構56に保持されているDUT100の測定時の姿勢を制御するものである。この制御を実現するために、例えば、RAM11c又はROM11bには、あらかじめ、DUT姿勢制御テーブル17aが記憶されている。DUT姿勢制御テーブル17aは、例えば、駆動部56aとしてステッピングモータを採用している場合には、該ステッピングモータの回転駆動を決定する駆動パルス数(運転パルス数)を制御データとして格納している。
【0117】
DUT姿勢制御部17は、DUT姿勢制御テーブル17aをRAM11cの作業領域に展開し、該DUT姿勢制御テーブル17aに基づき、上述したように、アンテナ110が3次元のあらゆる方向に順次向くようにDUT100が姿勢変化するよう姿勢可変機構56を駆動制御する。
【0118】
(NRシステムシミュレータ)
図4に示すように、本実施形態に係る試験装置1のNRシステムシミュレータ20は、信号測定部21、制御部22、操作部23、及び表示部24を有している。信号測定部21は、信号発生部21a、デジタル/アナログ変換器(DAC)21b、変調部21c、RF部21dの送信部21eにより構成される信号発生機能部と、RF部21dの受信部21f、アナログ/デジタル変換器(ADC)21g、解析処理部21hにより構成される信号解析機能部とを有している。なお、信号測定部21は、使用する2つの試験用アンテナに対応できるように、2セット設けるようにしてもよい。
【0119】
信号測定部21の信号発生機能部において、信号発生部21aは、基準波形を有する波形データ、具体的には、例えば、I成分ベースバンド信号と、その直交成分信号であるQ成分ベースバンド信号を生成する。DAC21bは、信号発生部21aから出力された基準波形を有する波形データ(I成分ベースバンド信号及びQ成分ベースバンド信号)をデジタル信号からアナログ信号に変換して変調部21cに出力する。変調部21cは、I成分ベースバンド信号と、Q成分ベースバンド信号とのそれぞれに対してローカル信号をミキシングし、更に両者を合成してデジタル変調信号を出力する変調処理を行う。RF部21dは、変調部21cから出力されたデジタル変調信号から各通信規格の周波数に対応した試験信号を生成し、生成した試験信号を送信部21eにより信号処理部40に出力する。
【0120】
信号処理部40は、試験用アンテナとの間で送受信する信号の周波数変換等の信号処理を行う。信号処理部40から出力される試験信号は、信号切替部41を介して試験用アンテナに送られ、該試験用アンテナからDUT100に向けて出力される。
【0121】
また、信号測定部21の信号解析機能部において、RF部21dは、上記試験信号をアンテナ110により受信したDUT100から送信された被測定信号を、信号切替部41及び信号処理部40を経由して受信部21fで受信したうえで、該被測定信号をローカル信号とミキシングすることで中間周波数帯の信号(IF信号)に変換する。ADC21gは、RF部21dの受信部21fでIF信号に変換された被測定信号を、アナログ信号からデジタル信号に変換して解析処理部21hに出力する。
【0122】
解析処理部21hは、ADC21gが出力するデジタル信号である被測定信号を、デジタル処理によって、I成分ベースバンド信号とQ成分ベースバンド信号とにそれぞれ対応する波形データを生成したうえで、該波形データに基づいてI成分ベースバンド信号及びQ成分ベースバンド信号を解析する処理を行う。解析処理部21hは、DUT100に対する送信特性(RF特性)の測定において、例えば、等価等方放射電力(Equivalent Isotropically Radiated Power:EIRP)、全放射電力(Total Radiated Power:TRP)、スプリアス放射、変調精度(EVM)、送信パワー、コンスタレーション、スペクトラムなどを測定可能である。また、解析処理部21hは、DUT100に対する受信特性(RF特性)の測定において、例えば、受信感度、ビット誤り率(BER)、パケット誤り率(PER)などを測定可能である。ここで、EIRPは、DUT100のアンテナ110の主ビーム方向の無線信号強度である。また、TRPは、DUT100のアンテナ110から空間に放射される電力の合計値である。
【0123】
解析処理部21hは、DUT100のRRM特性について、例えば、選択された一の試験用アンテナから選択された他の試験用アンテナへのハンドオーバ動作が正常に行われるか否か等を解析することもできるようになっている。
【0124】
制御部22は、上述した統合制御装置10の制御部11と同様、例えば、CPU、RAM、ROM、各種入出力インタフェースを含むコンピュータ装置によって構成される。CPUは、信号発生機能部、信号解析機能部、操作部23及び表示部24の各機能を実現するための所定の情報処理や制御を行う。
【0125】
操作部23、表示部24は、上記コンピュータ装置の入出力インタフェースに接続されている。操作部23は、コマンドなど各種情報を入力するための機能部であり、表示部24は、上記各種情報の入力画面や測定結果など、各種情報を表示する機能部である。
【0126】
本実施形態では、統合制御装置10とNRシステムシミュレータ20とを別装置としているが、1つの装置として構成してもよい。この場合には、統合制御装置10の制御部11とNRシステムシミュレータ20の制御部22とを統合して1つのコンピュータ装置により実現してもよい。
【0127】
(信号処理部)
次に、信号処理部40について説明する。
【0128】
信号処理部40は、NRシステムシミュレータ20と信号切替部41の間に設けられ、使用する一の試験用アンテナとの間で送受信する信号の周波数変換等の信号処理を行う第1信号処理部40aと、使用する他の試験用アンテナとの間で送受信する信号の周波数変換等の信号処理を行う第2信号処理部40bと、を備えている。
【0129】
第1信号処理部40a及び第2信号処理部40bは、各々、アップコンバータ、ダウンコンバータ、増幅器、周波数フィルタ等を備え、使用する試験用アンテナに送信する試験信号に対して、周波数変換(アップコンバート)、増幅、周波数選択等の信号処理を施して信号切替部41に出力する。また、第1及び第2信号処理部40a、40bは、各々、使用する試験用アンテナから信号切替部41を介して入力される被測定信号に対して、周波数変換(ダウンコンバート)、増幅、周波数選択等の信号処理を施して信号測定部21に出力するようになっている。
【0130】
信号切替部41は、信号処理部40と試験用アンテナの間に設けられ、制御部22の制御下で第1信号処理部40aと、使用する試験用アンテナとが接続され、且つ/又は、第2信号処理部40bと、使用する試験用アンテナとが接続されるように、信号経路を切り替えるようになっている。信号切替部41は、信号処理部40に含まれるようにしてもよい。
【0131】
以上、
図5~
図11を参照して説明したように、本実施形態に係る電波暗箱50は、内部にシールド状態の内部空間51が形成される筐体本体部52と、筐体本体部52の周壁部60に設けられる開口部475と、開口部475を開け閉め可能な扉470と、開口部475の矩形シール領域476と扉470の矩形シール領域476に対向する対向矩形シール領域477との間を内部空間51がシールド状態を維持可能に密封するガスケット機構部480と、を備えている。
【0132】
ガスケット機構部480は、押圧によって圧縮され、押圧の解除により元に戻る特性を有する横長形状の導電性部品からなり、矩形シール領域476に開口部475の辺に沿って扉470側へ突出して設けられるガスケット部材480aと、ガスケット部材480aと同等の特性及び形状を有する導電性部品からなり、対向矩形シール領域477のガスケット部材480aに対向する位置から開口部475側に平行移動した位置に矩形シール領域476側へ突出して設けられるガスケット部材480bと、ガスケット部材480aと同等の長さを有する矩形形状の導電性布状部材からなり、幅方向の一端がガスケット部材480aの先端部483aに貼り付けられ、他端が、扉470を閉めたときに貼り付けた側の反対側からガスケット部材480bの先端部483bの当接を受け得るように矩形シール領域476に貼り付けられるガスケットシール481と、を有する構成である。
【0133】
この構成により、本実施形態に係る電波暗箱50は、ガスケット部材480a及びガスケット部材480bの両者が、互いに平行移動した位置で対向し、かつ、両者の各先端部483a、483b間に斜めに掛け渡されたガスケットシール481を相互に反対の面側から相手領域(対向矩形シール領域477、または矩形シール領域476)に圧縮状態で押し付けることにより、内部空間51をシールド状態に保つことが可能となっている。シールド状態を維持する機能について、本実施形態に係る電波暗箱50のガスケット機構部480は、一方の側に設けたガスケット部材を反対側に設けたガスケットシールに押し付ける従来の構造(
図12(c)参照)に比べて、矩形シール領域476と対向矩形シール領域477の密着が解除されることに影響を及ぼす周壁部60の歪みの許容量が増すことになる。これにより、本実施形態に係る電波暗箱50は、周壁部の歪みに起因する扉470と開口部475との間の隙間の発生を抑制し、従来装置に比べてシールド効果を向上させることができる。
【0134】
また、本実施形態に係る電波暗箱50において、開口部475、及び扉470は矩形形状を有し、ガスケット機構部480は、矩形形状の4つの辺のうちの少なくとも対向する二つの辺に対応して設けられる構成である。
【0135】
この構成により、本実施形態に係る電波暗箱50は、矩形形状の開口部475の上下、左右、あるいは四方のいずれの個所にもガスケット機構部480を配置することができ、所望の形態でのガスケット機構を実現できる。
【0136】
また、本実施形態に係る電波暗箱50において、ガスケット部材480a、及びガスケット部材480bは、導電性布状部材が巻かれたスポンジ部材で構成されている。
【0137】
この構成により、本実施形態に係る電波暗箱50は、導電性布状部材(導電布)とスポンジ部材を用いてガスケット部材480a、480bを容易に作成(あるいは調達)することができ、安価なガスケット機構部480を実現できる。
【0138】
また、本実施形態に係る電波暗箱50において、ガスケット部材480a、及びガスケット部材480bは、所定の幅及び高さを有する角柱形状部材からなり、矩形シール領域476と対向矩形シール領域477から、それぞれ、同等の高さで突設されており、ガスケット部材480aは、扉470を閉めた状態で、ガスケット部材480aに対して、該ガスケット部材480aの幅に予め設定した倍数を乗じた距離を平行移動した位置に設けられている。
【0139】
この構成により、本実施形態に係る電波暗箱50は、ガスケット部材580aとガスケット部材580bの両者の離間距離を適宜設定することで、両者とガスケットシール部材とによって網羅するシールド対象エリアの大きさを選択することができる。
【0140】
また、本実施形態に係る電波暗箱50は、ガスケット部材480a、480bの高さをhとするとき、ガスケット部材480aの先端部483aと、ガスケット部材480bの先端部483bとの間の距離が2×h以下となる状態まで扉470が閉められた状態で、ガスケット部材480aの先端部483aがガスケットシール481の表面に接触するように設けられている。
【0141】
この構成により、本実施形態に係る電波暗箱50は、扉470を閉める動作に合わせて、ガスケット部材480aの先端部483aがガスケットシール481の表面を摺動しながら当該ガスケットシール481を押しつぶしていく動作が進行するため、扉470を閉める動作に合わせてガスケットシール481の表面の酸化被膜のクリーニングが可能になる。
【0142】
また、本実施形態に係る電波暗箱50において、筐体本体部52は、板金加工された壁部(302a、302b、302c、402a、402b、502a、502b、502c)を有する複数のチャンバー部300、400、500を着脱可能に連結して構成され、開口部475は、複数のチャンバー部300、400、500のうちの2つのチャンバー部400、500を連結する連結部分601を跨ぐ位置に設けられ、ガスケット機構部480は開口部475の上記連結部分601を跨ぐ辺に対応して設けられる。
【0143】
この構成により、本実施形態に係る電波暗箱50は、2つのチャンバー部400、500を連結する連結部分601を跨ぐ位置に開口部475が設けられ、開口部475近傍の周壁部60の剛性が低く、歪みが生じ易い状況下にあっても、その歪みを吸収して矩形シール領域476と対向矩形シール領域477の間の密封状態を維持することができる。
【0144】
また、本実施形態に係る試験装置1は、アンテナ110を有するDUT100の送信特性又は受信特性を測定するものであって、周囲の電波環境に影響されない内部空間51を有する、上述したいずれかの構成を有する電波暗箱50と、アンテナ110との間で無線信号を送信又は受信する1又は複数の試験用アンテナ6(6a、6b、6c、6d、6e、6f)と、内部空間51におけるクワイエットゾーン(QZ)内に配置されたDUT100の姿勢を順次変化させる姿勢可変機構56と、内部空間51におけるクワイエットゾーン内に配置されたDUT100に対して1又は複数の試験用アンテナ6を使用してDUT100の送信特性又は受信特性の測定を行う測定装置2と、を備えて構成される。
【0145】
この構成により、本実施形態に係る試験装置1は、電波暗箱50において、ガスケット部材480a及びガスケット部材480bの両者が、互いに平行移動した位置で対向し、かつ、両者の各先端部483a、483b間に斜めに掛け渡されたガスケットシール481を相互に反対の面側から相手領域(対向矩形シール領域477、または矩形シール領域476)に圧縮状態で押し付けることにより、内部空間51をシールド状態に保つことが可能となっている。
【0146】
シールド状態を維持する機能について、本実施形態に係る試験装置1における電波暗箱50のガスケット機構部480は、一方の側に設けたガスケット部材を反対側に設けたガスケットシールに押し付ける従来の構造(
図12(c)参照)に比べて、矩形シール領域476と対向矩形シール領域477の密着が解除されることに影響を及ぼす周壁部の歪みの許容量が増すことになる。これにより、本実施形態に係る試験装置1は、電子暗箱50における周壁部60の歪みに起因する扉470と開口部475との間の隙間の発生を抑制し、従来装置に比べてシールド効果を向上させることができる。
【0147】
(変形例)
次に、上記実施形態に係る試験装置1の変形例に係る電波暗箱50Aの構成について説明する。変形例に係る電波暗箱50Aは、
図13に示す外観構造を有している。
図13において、上記実施形態に係る試験装置1の電波暗箱50(
図5参照)と同様の部分には同一の符号を付している。
【0148】
図13に示すように、変形例に係る電波暗箱50Aは、正面に設けられている扉470の上方及び下方にあたる筐体本体部52の2か所に、それぞれ、補強棒490が設けられている。具体的に、補強棒490は、例えば、扉470の横幅(
図13のX方向の幅)に相当する長さを有し、筐体本体部52における、扉470の上の辺及び下の辺に近接した位置に、該扉470の上記各辺に沿って筐体本体部52に取り付けられている。扉470の筐体本体部52に対する取り付けは、例えば、接着、溶接用により行う。
【0149】
補強棒490は、例えば、
図14に示すように、金属製の内部が空洞で長尺の角パイプ材により構成されている。この例の補強棒490は、特に、四角形の角パイプの1つ角に相当する部分が当該角パイプの長手方向に開口491を形成するように切欠きが形成された構造を有している。補強棒490は、
図13、
図14に挙げた例に限らず、例えば、四角形以外の形状の角パイプ、上記開口がないもの、空洞がない角材等、様々な材質、形状のものを適用可能である。また、補強棒490の配設位置も、
図13、
図14に示す扉470の上下に限らず、上下いずれかの辺に近接した位置であってもよい。
【0150】
上述したように、扉470は、筐体本体部52を構成する第2のチャンバー部400と第3のチャンバー部500との連結部分601を挟んで設けられるところ、上記態様で設けられる補強棒490も上記連結部分601を挟んで設けられることとなる。より具体的には、補強棒490は、筐体本体部52の周壁部60における開口部475の外側に、2つのチャンバー部400、500の連結部分601に跨り、かつ、前述したガスケット機構部480に沿って設けられている。
【0151】
上記取り付け位置、及び取り付け形態によって、補強棒490は、筐体本体部52の第2のチャンバー部400と第3のチャンバー部500との連結部分601を挟んでその左右両側の第2のチャンバー部400と第3のチャンバー部500に長さ方向の全域で密着する。これにより、補強棒490は、板金構造で構成された壁部(
図6における壁部402b、502c)を有する第2のチャンバー部400と第3のチャンバー部500の連結部分601近傍の剛性が低い周壁部領域を当該補強棒490によって常に平坦な状態に保つ、所謂、周壁部60の補強材としての機能を果たすことが可能となる。
【0152】
ここで、開口部475近傍での周壁部60の歪みとその影響、並びに補強棒490による補強機能について
図15、
図16を参照して検証する。
図15は、周囲の壁部を板金構造としたときの電波暗箱での周壁部の歪みとその影響を検証するための模式図であり、
図16は、変形例に係る電波暗箱50Aに備わる補強棒490の補強機能を検証するための模式図である。
【0153】
まず、周囲の壁部を板金構造としたときの電子暗箱での周壁部600の歪みとその影響を検証する。
図15に示す当該電子暗箱では、第2のチャンバー部400と第3のチャンバー部500とが板金構造で構成され、かつ、両者が連結部分601で連結されて周壁部600を構成しているとき、第2のチャンバー部400及び第3のチャンバー部500に跨って形成される開口部(図示せず)を開閉する扉820と上記周壁部600との間にガスケット部材850a、850b(扉820に上下2段で設けられる)、及びガスケット部材850c(筐体本体部800側に設けられるシール状の部材)が配置されている。
【0154】
また、
図15において、太線(図形)の矢印は、矢印が付された部位にかかる力の強さを図形の大きさ(サイズ)で表している。同図から分かるように、扉820のヒンジ部とその対向部位、ロック部とその対向部位、中間部はいずれも高い剛性を有している。これに対し、ガスケット部材850cが設けられる周壁部600側は、板金構造のため、特に、開口部近傍において扉820側に比べて剛性が低くなっている。このような構造では、剛性の高い扉820が剛性のより低い周壁部600側と対面することになるため、扉820の開け閉めに際して周壁部600側が歪み、周壁部600と扉820との間に空間602が発生することもある。この場合、周囲の壁部を板金構造としたときの電波暗箱のガスケット部材850a、850b、及びガスケット部材850cの配置構造によれば、同じ側にあるガスケット部材850a、850bと、その反対側にあるガスケット部材850cとの密着が解かれ易く、シールド機能を維持できなくなる。
【0155】
これに対し、変形例に係る電波暗箱50Aでは、
図16に示すように、連結部分601によって連結される第2のチャンバー部400と第3のチャンバー部500には、連結部分601を跨ぎ両チャンバー部400、500に亘って補強棒490が取り付けられている。ここで、補強棒490は、上述したように、板金構造で構成された第2のチャンバー部400と第3のチャンバー部500の連結部分601近傍の剛性が低い周壁部領域を当該補強棒490に引き付けて常に周壁部60を常に平坦面に保つ補強材として機能する。この機能により、変形例に係る電波暗箱50Aでは、板金構造による周壁部60を使用していたとしても、周囲の壁部を板金構造としたときの電波暗箱のような空間602が発生することがなく、常に、電波暗箱50Aの内部空間51内をシールド状態に維持することができる。
【0156】
加えて、変形例に係る電波暗箱50Aは、上記実施形態に係る電波暗箱50と同様、ガスケット部材480a、480b、ガスケットシール481により構成されるガスケット機構部480を有し、上述した補強棒490は、ガスケット機構部480に沿って設けられている。変形例に係る電波暗箱50Aでは、補強棒490により第2のチャンバー部400と第3のチャンバー部500の連結部分601近傍における剛性の補強が図られた状態(
図16参照)で、ガスケット機構部480が
図12(a)及び(b)で説明したように作動するため、ガスケット機構部480による内部空間51のシールド機能をより確実なものとすることができる。
【0157】
このように、本発明の変形例に係る電波暗箱50Aは、周壁部60における開口部475の外側に、2つのチャンバー部400、500に跨り、かつ、ガスケット機構部480に沿って設けられ、2つのチャンバー部400、500間の剛性を高めるための補強棒490をさらに有する構成である。
【0158】
この構成により、本発明の変形例に係る電波暗箱50Aは、補強棒490によって、連結部分601を跨ぐ2つのチャンバー部400、500間の剛性を高めることができ、開口部475近傍の剛性が低い周壁部60での歪みの発生自体をなくすことができ、シールド効果を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0159】
以上のように、本発明は、周壁部の歪みに起因する扉と開口部との間の隙間の発生を抑制し、シールド効果を向上させることが可能であるという効果を有し、電波暗箱、及び該電波暗箱を用いた試験装置の全般に有用である。
【符号の説明】
【0160】
1 試験装置
2 測定装置
6、6a、6b、6c、6d、6e、6f 試験用アンテナ
50、50A 電波暗箱
51 内部空間
52 筐体本体部
56 姿勢可変機構
60 周壁部
61 天面部
62 底面部
100 DUT(被試験対象)
110 DUTのアンテナ(被試験アンテナ)
300 第1のチャンバー部(分割チャンバー)
302a、302b、302c 壁部
400 第2のチャンバー部(分割チャンバー)
402a、402b 壁部
475 開口部
476 矩形シール領域(外周領域)
477 対向シール領域(対向領域)
480 ガスケット機構部
480a ガスケット部材(開口部側ガスケット部材)
480b ガスケット部材(扉側ガスケット部材)
481 ガスケットシール(ガスケットシール部材)
483a ガスケット部材480aの先端部
483b ガスケット部材480bの先端部
490 補強棒
500 第3のチャンバー部(分割チャンバー)
502a、502b、502c 壁部
601 連結部分