(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039499
(43)【公開日】2024-03-22
(54)【発明の名称】塩素バイパスダストの水洗処理方法、及びセメント資源化方法
(51)【国際特許分類】
C04B 7/60 20060101AFI20240314BHJP
C04B 7/38 20060101ALI20240314BHJP
B09B 3/80 20220101ALI20240314BHJP
【FI】
C04B7/60 ZAB
C04B7/38
B09B3/80
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022144098
(22)【出願日】2022-09-09
(71)【出願人】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】辰巳 慶展
(72)【発明者】
【氏名】比留間 友亮
【テーマコード(参考)】
4D004
【Fターム(参考)】
4D004AA37
4D004AB03
4D004AB06
4D004BA02
4D004CA13
4D004CA40
4D004CC03
4D004CC20
4D004DA03
4D004DA10
4D004DA20
(57)【要約】
【課題】塩素バイパスダストの水洗処理の際、塩素の除去とともにアルカリ分であるカリウムを効率的に除去することができる処理方法を提供する。
【解決手段】
塩素バイパスダストに、バイオマス灰及び水を加えてスラリーにするスラリー化工程と、前記スラリー中で前記塩素バイパスダストに含まれるカリウムを溶出するカリウム溶出工程と、前記カリウムを溶出させた該スラリーから液相を分離する固液分離工程と、を備える、塩素バイパスダストの水洗処理方法である。バイオマス灰として、該バイオマス灰を分級した後の細粉分を用いることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素バイパスダストに、バイオマス灰及び水を加えてスラリーにするスラリー化工程と、
前記スラリー中で前記塩素バイパスダストに含まれるカリウムを溶出するカリウム溶出工程と、
前記カリウムを溶出させた該スラリーから液相を分離する固液分離工程と、を備える、塩素バイパスダストの水洗処理方法。
【請求項2】
前記塩素バイパスダストに、前記バイオマス灰を質量比1:4~4:1の割合となるよう加えて前記スラリーにする、請求項1記載の水洗処理方法。
【請求項3】
前記バイオマス灰として、該バイオマス灰を分級した後の細粉分を用いる、請求項1記載の水洗処理方法。
【請求項4】
前記バイオマス灰として、最大粒子径60μm以下の該バイオマス灰を用いる、請求項1記載の水洗処理方法。
【請求項5】
塩素バイパスダストとバイオマス灰とを合わせて水洗して水洗物を得、前記水洗物をセメント資源となす、塩素バイパスダスト及びバイオマス灰のセメント資源化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント製造設備における塩素バイパスシステムから回収される塩素バイパスダストの処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セメント製造設備においては、セメントキルンの窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路から燃焼ガスの一部を抽気して、冷却後の固形分中に塩素等を回収する塩素バイパスシステムが採用されている。セメント原料をセメントキルンで焼成すると、塩素、アルカリ、硫黄等の揮発性成分が生じて系内に蓄積し、特に塩素がプレヒータの閉塞等の問題を引き起こす原因となるので、これを系内から排出するためのシステムである。回収された塩素バイパスダストについては、水洗設備で処理され、水洗後の残渣についてはセメント原料として資源化することが可能である(特許文献1参照)。
【0003】
近年、資源循環型社会への貢献等の観点から、セメントキルンに持ち込まれる塩素含有廃棄物の使用量は年々増加しており、それにともなって塩素バイパスダストの発生量も増加傾向にある。
【0004】
一方、再生可能エネルギーの普及に向けた諸般の取り組みにより、バイオマス発電設備の建設・運開が盛んとなっている。バイオマス発電で発生する燃焼灰(バイオマス灰)の発生量も増大しており、これらは、都市ゴミで発生する焼却灰などと同様にセメント原料などとして資源化することが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、塩素バイパスダストの水洗設備においては、設備規模(水洗処理、排水処理設備)ができるだけコンパクトになるように水洗水率(塩素バイパスダストに対する使用水量比)が定められている。しかしながら、本発明者らの検討によると、塩素については高い除去(溶出)効率が得られるものの、同じくセメント原料の忌避成分であるアルカリ分については、例えばカリウムでは塩素に比べて除去(溶出)効率が低い傾向にあった。
【0007】
したがって、本発明の目的は、塩素バイパスダストの水洗処理の際、塩素の除去とともにアルカリ分であるカリウムを効率的に除去することができる処理方法を提供することにある。また、塩素バイパスダストを活用したセメント資源化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題に鑑み、本発明者らが鋭意検討したところ、意外にも、塩素バイパスダストの水洗の際にバイオマス灰をその水洗処理の補助材として用いると、それぞれを単体で水洗処理するよりもカリウムの除去効率が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下のとおり構成を備えたものである。
[1]塩素バイパスダストに、バイオマス灰及び水を加えてスラリーにするスラリー化工程と、
前記スラリー中で前記塩素バイパスダストに含まれるカリウムを溶出するカリウム溶出工程と、
前記カリウムを溶出させた該スラリーから液相を分離する固液分離工程と、を備える、塩素バイパスダストの水洗処理方法。
[2]前記塩素バイパスダストに、前記バイオマス灰を質量比1:4~4:1の割合となるよう加えて前記スラリーにする、請求項1記載の水洗処理方法。
[3]前記バイオマス灰として、該バイオマス灰を分級した後の細粉分を用いる、請求項1記載の水洗処理方法。
[4]前記バイオマス灰として、最大粒子径60μm以下の該バイオマス灰を用いる、請求項1記載の水洗処理方法。
[5]塩素バイパスダストとバイオマス灰とを合わせて水洗して水洗物を得、前記水洗物をセメント資源となす、塩素バイパスダスト及びバイオマス灰のセメント資源化方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、塩素バイパスダストの水洗の際に、バイオマス灰をその水洗処理の補助材として用いるので、これにより、塩素の除去とともにアルカリ分であるカリウムを効率的に除去することができる。また、塩素バイパスダストとともにバイオマス灰を活用したセメント資源化方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態を説明するフロー図である。
【
図2】本発明の他の実施形態を説明するフロー図である。
【
図3】試験例において、水洗処理の際に塩素バイパスダストに加えた粉体補助材の種類及び混合比率によってろ過速度を比較した結果を示す図表である。
【
図4】試験例において、水洗処理の際に塩素バイパスダストに加えた粉体補助材の種類と混合比率によってカリウム(K)溶出量の促進効果を比較した結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について更に詳細に説明する。なお、本明細書において「%」の記述は、特にことわりがない場合には、全体質量中に存在する質量換算での内割り百分率であるものとする。また、数値範囲の「~」の記述は、特にことわりがない場合には、以上から以下を表し、両端の数値を含むものとする。
【0013】
図1には、本発明の一実施形態を説明するフロー図が示される。この実施形態に示されるように、本発明は、塩素バイパスダストに、バイオマス灰及び水を加えてスラリーにするスラリー化工程と、そのスラリー中で塩素バイパスダストに含まれるカリウムを溶出するカリウム溶出工程と、カリウムを溶出させた該スラリーから液相を分離する固液分離工程と、を備えるものである。
【0014】
本明細書において「塩素バイパスダスト」とは、通常、当業者に理解される意義と同義である。すなわち、一般に、セメント製造設備においてプレヒータの閉塞等の問題を引き起こす塩素の処理について、塩素バイパスシステムが採用されている。塩素バイパスシステムは、セメントキルン設備におけるセメントキルンの窯尻からプレヒータの最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路から燃焼ガスの一部を抽気したうえ、その抽気ガスから塩素を除去して、セメントキルン系内に存在する塩素を系外除去するものである。抽気ガスに含まれる塩素は、冷却による凝縮等によって、抽気ガスに含まれるダスト(塩素バイパスダスト)と一緒になって固相に移行するので、相対的に塩素含有量が低く、セメントキルン系に戻すことが可能なダストの粗粉をサイクロン等の分級機により分離したうえで、塩素含有量が高められた微粉を含むダストをバグフィルタ等の固気分離装置により分離して回収している。塩素バイパスダストは、その一部がセメント製造の仕上げ工程などでセメント原料としての資源化が実現されているものの、処理量に対し発生量が勝っており、コスト増加の一因となっている。
【0015】
一方、本明細書において「バイオマス灰」とは、通常、当業者に理解される意義と同義である。すなわち、動植物に由来する有機物である資源(ただし、化石資源を除く)からなるバイオマスを、焼却又は燃焼させたあとに残る灰のことである。典型的に、例えば、草木竹の焼却灰、食品残渣の焼却灰などが挙げられる。また、バイオマスを石炭と混合して燃焼して得られる燃焼灰であってもよい。バイオマスの有効活用を促進する観点からは、バイオマス灰中に含まれるバイオマスに由来する灰の割合は、好ましくは50質量%~100質量%であり、より好ましくは60質量%~95質量%であり、特に好ましくは70質量%~90質量%である。
【0016】
バイオマス灰としては、草木竹の燃焼灰のなかでも、パーム椰子殻を燃料として得られたパーム椰子殻灰(PKS灰)が好適に例示される。パーム椰子殻はパーム油生産の副産物であり、天然バイオマス・エネルギー産業で主に使用されている。パーム椰子殻は、灰分の少ない黄褐色の繊維状物質で、その粒径は5mm~40mm程度であり、発熱量は4,000kcal/kg程度であるため、近年では、再生可能資源を用いたエネルギー生産において、バイオマス発電の燃料としての利用が増えている。
【0017】
バイオマスを焼却又は燃焼する態様としては、特に限定されるものではなく、例えば、ストーカ式の燃焼炉を用いた方法、流動床式の燃焼炉を用いた方法などであってよい。なかでも、流動床式の燃焼炉では、燃焼炉内で脱硫を行う目的で石灰石が投入されるため、カルシウム分や硫黄分が含まれており、バイオマス灰中では主に石膏(CaSO4・2H2O)の形態として含まれている。また、流動床式の燃焼炉の飛灰であれば、粒度が細かく粉砕や混合が容易であり、易焼成性が高い。よって、バイオマス灰として、流動床式の燃焼炉の飛灰を用いることが好ましい。流動床式の燃焼炉の例としては、循環流動床式の燃焼炉、加圧式流動床式の燃焼炉などが挙げられる。
【0018】
本発明により提供される方法によれば、塩素バイパスダストにバイオマス灰及び水を加えてスラリー化することにより、効率的に水洗処理を行うことができる。すなわち、塩素バイパスダストやバイオマス灰からセメント原料として忌避成分である塩素分やアルカリ分であるカリウムを効率的に除去することができる。得られる水洗物は、水洗された塩素バイパスダストと水洗されたバイオマス灰との混合物となっており、また、セメントの主要成分であるCaOやSiO2をバランスよく含んでいるのでセメント原料として好適に資源化することができる。
【0019】
塩素バイパスダストに加えるバイオマス灰の量比としては、特に制限はなく、例えば、質量比1:4~4:1の割合としてよく、質量比1:3~3:1の割合としてよく、質量比1:2~2:1の割合としてよい。一方、バイオマス灰の量が多すぎると、使用水量あたりの塩素バイパスダストの処理量が低下するので、好ましくない。
【0020】
スラリー化のために加える水の量としては、粉体原料に加えることで塩素分やアルカリ分であるカリウムが溶出可能になる程度の水量であればよい。例えば、塩素バイパスダストとバイオマス灰との合計1質量部に対して、1質量部~8質量部であってよく、1質量部~4質量部であってよく、1質量部~3質量部であってよい。一方、水量が多すぎると、水洗後の排水処理のコスト増加につながるので、好ましくない。
【0021】
塩素バイパスダストにバイオマス灰を加えるタイミングについては、特に制限はなく、所定量の粉体原料を予め混合機で混合するような乾式混合の方式でもよく、あるいは、所定量の粉体原料を水に投入、攪拌して混合するような湿式混合の方式でもよい。
【0022】
カリウム溶出は、スラリーを所定時間静置又は攪拌することによりなされる。所要時間は、粉体原料を水で十分に処理するため、30分間以上であることが好ましく、45分間以上がより好ましい。また、温度条件は、高い程、粉体原料からのカリウムの溶出効率が良好となる傾向があるが、処理に係るコストの観点からは、10℃~60℃とすることができ、20℃~50℃とすることができる。常温でもよい。このカリウム溶出工程を経ることにより、粉体原料の成分がスラリーの液相に溶出した状態のスラリーとなるので、固液分離して液相を除き、塩素バイパスダストやバイオマス灰から塩素分やアルカリ分であるカリウムが除かれた水洗物が得られる。
【0023】
本発明の限定されない任意の態様においては、上記したスラリー化やカリウム溶出の工程において、そのスラリーのpHを調整するようにしてもよい。すなわち、pHを弱アルカリ性~酸性側に調整することで、pH調整しない場合に比べて、カルシウムスケーリングに伴う工程トラブルを抑制することができる。塩素分やアルカリ分であるカリウムをより効率よく除くことができる。pH調整剤としては、スラリーのpHを低減することができるものであれば特に制限はない。例えば、酸溶液、CО2含有ガス等が挙げられる。例えば、セメント製造設備のロータリーキルンの燃焼排ガスやバイオマスの焼却設備やバイオマス発電所の燃焼排ガスには二酸化炭素(CO2)が含まれているので、その燃焼排ガスをスラリーに吹込むことにより、pHを弱アルカリ性~酸性側に調整することができる。CО2含有ガスは二酸化炭素が含まれていればよいが、効率的な炭酸化を促すためには、二酸化炭素濃度は10体積%以上が好ましく、20体積%以上がより好ましい。また、燃焼排ガスのなかでも、特にセメント製造設備の塩素バイパスダストを捕集後のガスには硫黄酸化物(SOx)などの有害ガスが含まれるので、これを固定化する効果も期待できる。
【0024】
スラリーのpH条件としては、pH5~11であることが好ましく、pH6~10であることがより好ましい。
【0025】
上記したスラリー化やカリウム溶出の手段としては、限定されないが、塩素バイパスダストとバイオマス灰と水とを収容するための容器と、それらを混合してスラリーとなすための攪拌手段を少なくとも備えた粉体溶解槽を使用して行い得る。
【0026】
上記した固液分離の手段としては、塩素分やアルカリ分であるカリウムが溶存した液相を分離して、それらが除かれた水洗物が得られる手段であればよく、特に制限はないが、例えばベルトフィルター、フィルタープレス、遠心分離等の固液分離装置を使用して行い得る。
【0027】
なお、上記したような固液分離装置では、通常、得られる水洗物には水分が含まれており、スラリーの液相に溶出した塩素分やアルカリ分であるカリウムが液相と共に残留する場合がある。よって、固液分離後の水洗物の水分含量としては、20質量%~90質量%とすることが好ましく、30質量%~70質量%とすることがより好ましい。これによれば、液相と共に残留する塩素分やアルカリ分であるカリウムの量を低く抑えることができる。また、必要に応じて、固液分離後のケーキ状の水洗物に新たに水を加えてケーキ洗浄を施してもよい。これによれば、スラリーの液相がほとんど水に置き換わるので、より好ましい。そのケーキ洗浄のための水量としては、一度固液分離して液相を除いたケーキ状の水洗物1質量部に対して、1質量部~8質量部であってよく、1質量部~4質量部であってよく、1質量部~3質量部であってよい。一方、ケーキ洗浄のための水量が多すぎると、水洗後の排水処理のコスト増加につながるので、好ましくない。なお、ケーキ洗浄に用いた後の洗浄排水については、液中に含まれる塩素分やアルカリ分であるカリウムの量が少ないので、排水量を削減するためにスラリー化の際の水として再利用しても良い。
【0028】
図2には、本発明の他の実施形態を説明するフロー図が示される。この実施形態では、バイオマス灰として、該バイオマス灰を分級した後の細粉分を用いている。後述する実施例によれば、細粉分を用いることにより、カリウム溶出量の促進効果がより高められる。
【0029】
バイオマス灰として所定粒径のものを用いる場合、塩素バイパスダストに加えるバイオマス灰の粒径としては、最大粒子径60μm以下のものを用いることが好ましく、場合によってその最大粒子径は10μm~53μmの範囲内となってもよい。
【0030】
バイオマス灰を分級する手段としては、限定されないが、例えば、ふるい、重力沈降、慣性分級装置、遠心分級装置、重力式分級装置などが挙げられる。なかでも、分級精度の観点から、サイクロン型エアセパレータ、渦流型遠心分級装置、ふるい分け装置などが好ましい。
【0031】
・原料バイオマス灰の分級
なお、以下に示すような理由からも、原料バイオマス灰を分級してその細粉分を用いることが好ましい。
【0032】
流動床式の燃焼炉の設備では、流動媒体として、石英を主成分とした砂が投入される。このため、バイオマス灰には、溶融固化又は凝集したガラス、砂由来の粒子(比較的粗い粒子)、及び、前述の石灰石由来又はバイオマス由来であってアルカリ金属及び塩素が含まれる粒子(比較的細かい粒子)が含まれている。よって、流動床式の燃焼炉等の設備が備わるバイオマス発電施設などから入手したバイオマス灰には、その粒度分布において、粒径が小さい側のピークと、粒径が大きい側のピークとが存在し、その間で任意に選択した粒径を分級点として、バイオマス灰を粗粒分と細粒分とに分別し、採取することができる。
【0033】
一般に、流動床式の燃焼炉等の設備から回収されるバイオマス灰のブレーン比表面積は典型的に、例えば、1,000cm2/g~4,000cm2/gであり、より典型的には1,500cm2/g~3,500cm2/gであり、更により典型的には2,000cm2/g~3,000cm2/gである。この原料バイオマス灰を分級して細粉分を採取すると、そのブレーン比表面積は、典型的に、例えば、2,500cm2/g~7,000cm2/gであり、より典型的には3,000cm2/g~6,000cm2/gであり、更により典型的には4,000cm2/g~5,000cm2/gである。一方、細粉分を採取したあとに残る粗粉分のブレーン比表面積は、典型的に、例えば、250cm2/g~2,000cm2/gであり、より典型的には500cm2/g~1,500cm2/gであり、更により典型的には750cm2/g~1,250cm2/gである。
【0034】
原料バイオマス灰を分級して得られる細粉分にはCaOが比較的多く含まれており、セメント原料として必要なCa源とSiO2源とのバランスがよい。また、粉末度が高く、粉砕しなくても易焼成性が高い。
【0035】
一方、原料バイオマス灰を分級して得られる粗粉分は、ケイ素分が多く、塩素分や硫黄分が比較的少ないため、一般的なセメントクリンカ原料、特に粘土や石炭灰の代替原料として好適に使用され得る。セメント混合材やコンクリート混和材、ALC・ケイ酸カルシウム板のケイ酸質材料として用いる場合は、粉砕して、反応性を高めるとよい。また、粗粉を粉砕せずにコンクリートやモルタル、炭酸化硬化体の細骨材(砂)として用いることもできる。なお、特開2021―146335号公報や特開2021-146236号公報にみられるように、原料バイオマス灰を分級して得られる粗粉分は、塩化焙焼の処理を施したうえで水洗することにより、その難水溶性のアルカリ分を除去することもできる。
【0036】
原料バイオマス灰を分級して細粉と粗粉に分別する場合、その分級点としては、上記したような成分の分離の観点から、好ましくは10μm~100μm、より好ましくは30μm~90μm、特に好ましくは38μm~75μmの範囲内において任意に選択することができる。
【0037】
分級手段としては、バイオマス灰を上述したようなμmオーダの分級点で分級できる手段であればよく、特に限定されないが、例えば、ふるい、重力沈降、慣性分級装置、遠心分級装置、重力式分級装置などが挙げられる。なかでも、分級精度の観点から、サイクロン型エアセパレータ、渦流型遠心分級装置、ふるい分け装置などが好ましい。
【0038】
また、流動床式である焼却炉には、ボイラ、空気予熱器、高温ガス流路などに沈降した焼却灰を回収するための設備、サイクロンによる焼却灰回収設備、バグフィルタによる焼却灰回収設備などが備えられている場合がある。これら回収設備で回収された焼却灰の粒度は、回収設備毎に異なり、特定の回収設備からは特定の粒度のバイオマス灰を回収することができる。このため、原料バイオマス灰を分級する代わりに、上記設備を適宜選択してバイオマス灰を回収することにより、所望する粒度を有するバイオマス灰を準備するようにしてもよい。
【0039】
以上のように、バイオマス灰は、分級により分別される成分の特徴を生かして、より合理的に資源化することができる。すなわち、原料バイオマス灰を分級して得られた細粉分については、本発明により提供される水洗処理に供するとよく、一方、その分級により得られた粗粉分については、コンクリート用骨材、コンクリート混和材、セメント混合材、セメントクリンカ原料等、水硬性組成物による硬化体の材料として使用するとよい。
【実施例0040】
以下、試験例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。ただし、本発明の範囲はこれらの試験例によって限定されるものではない。
【0041】
〔1.試験材料〕
・塩素バイパスダスト:セメント製造工場発生品
・バイオマス灰A:バイオマス発電所(炉形式:循環流動層ボイラ、燃料:パーム椰子殻100%)発生FA採取品。
・バイオマス灰B:バイオマス灰Aの53μm篩通過品。
・石炭灰:火力発電所発生品
【0042】
〔2.分析方法〕
・蛍光X線分析装置(XRF):リガク/ZSX Primus II(ファンダメンタルパラメータ法(FP法)で分析)
・レーザ回折式粒度分布測定装置:マイクロトラック・ベル/MT3300EXII(レーザ回折・散乱法で分析)
・ろ液のカリウム(K)濃度分析:アジレント・テクノロジー/Aglent 240FS (JIS K 0102:2019 49.2 フレーム原子吸光法で分析)
・粉体のカリウム(K)濃度分析:SIIナノテクノロジー/SPECTRO BLUE EOP(湿式分析:酸分解-ICP発光分光分析)
【0043】
〔3.試料の特性〕
表1には、試験に使用した粉体試料の化学組成についてXRF(FP法)分析により得られた結果を示す。
【0044】
【0045】
表2には、試験に使用した粉体試料のカリウム(K)濃度について湿式分析により得られた結果を示す。
【0046】
【0047】
表3には、試験に使用した粉体試料の粒度についてレーザ回折・散乱法を用いた分析により得られた結果を示す。
【0048】
【0049】
[試験例1]
本試験例では、塩素バイパスダスト(以下、「KP」という場合がある。)を水洗処理する際、これに加える粉体補助材の種類及び混合比率によって、ろ過速度やカリウム(K)溶出量(除去量)がどのように影響を受けるかについて調べた。具体的には、表4に示す試験水準を設け、下記試験方法により水洗試験を行った。
【0050】
【0051】
(試験方法)
(I)所定量の粉体試料と水道水400gとをビーカーに投入後、攪拌機にて(回転数400rpm)、30分間常温で攪拌し、得られたスラリーを回収した。
(II)ろ過瓶にブフナーロートを取り付け、これに定量濾紙No.5Cをセットした。そのブフナーロート上に上記スラリーを投入後、ろ過瓶側から吸引ポンプにより吸引してろ過を開始した。
(III)スラリーから水が抜けてケーキ状となったその表面から水がなくなり次第(ケーキにひびが入らない程度)、吸引ポンプのホースを外してろ過を終了し、水洗ろ液を回収して重量を測定した。
(IV)水道水400gをケーキ洗浄水としてブフナーロートに投入し、吸引ポンプのスイッチを入れてろ過瓶側から吸引してケーキ洗浄を開始した。
(V)ケーキ洗浄水が抜け切るのを確認した後、吸引ポンプのホースを外してケーキ洗浄を終了し、ケーキを回収して、その固形分の乾燥重量を測定した。
(VI)初回ろ過で回収した水洗ろ液のカリウム(K)濃度をフレーム原子吸光法により測定し、そのろ液量(g)からカリウム(K)溶出量(g)を算出した。また、ケーキ洗浄して得られたケーキの乾燥重量(g-dry)を初回ろ過にかかった時間(sec)で除してろ過速度(g-dry/sec)を算出した。
【0052】
表5には、水洗ろ液及びケーキ分の回収量とろ過速度の結果を、粉体試料の配合とともに示す。
【0053】
【0054】
表6には、水洗ろ液のカリウム(K)濃度とカリウム(K)溶出量の結果を示す。
【0055】
【0056】
[試験例2]
本試験例では、塩素バイパスダスト(KP)、バイオマス灰A、B、石炭灰のそれぞれについて、単体で水洗試験を行って、後述の試験例3においてカリウム(K)溶出促進効果を評価するための対照データとした。具体的には、表7に示す試験水準を設け、試験例1と同様の試験方法により水洗試験を行った。
【0057】
【0058】
表8には、水洗ろ液及びケーキ分の回収量とろ過速度の結果を示す。
【0059】
【0060】
表9には、水洗ろ液のカリウム(K)濃度とカリウム(K)溶出量の結果を示す。
【0061】
【0062】
[試験例3]
試験例1及び試験例2で得られた結果に基づいて、塩素バイパスダストに加えたバイオマス灰や石炭灰がろ過速度やカリウム(K)溶出量(除去量)にどのように影響を与えたか評価した。
【0063】
図3には、塩素バイパスダストに加えた粉体補助材の種類と比率によるろ過速度の比較図を示す。
【0064】
図3に示されるように、塩素バイパスダストを単体で水洗処理するのに比べて、所定割合でバイオマス灰や石炭灰を加えて水洗処理すると、ろ過速度が向上することが明らかとなった。
【0065】
また、下記式により、カリウム(K)溶出量の促進効果を算出した。
・カリウム溶出量の促進効果(%)={K溶出量(実測値)(g)÷K溶出量(理論値)(g)}×100
(式中、実測値は試験例1のデータより、理論値は試験例2のデータより)
【0066】
表10には、カリウム(K)溶出量の促進効果の結果を、粉体試料の配合ならびに粉体試料中のカリウム(K)量とともに示す。
【0067】
また、
図4には、塩素バイパスダストに加えた粉体補助材の種類と混合比率によるカリウム(K)溶出促進効果の比較図を示す。
【0068】
【0069】
その結果、表10、
図4に示されるように、塩素バイパスダストを単体で水洗処理するのに比べて、所定割合でバイオマス灰を加えて水洗処理すると、カリウム(K)溶出量の促進効果が得られることが明らかとなった。その促進効果は、所定孔径(53μm)の篩通過品であるバイオマス灰Bにおいてより顕著であり、一方、石炭灰ではみられなかった。