(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039506
(43)【公開日】2024-03-22
(54)【発明の名称】カップリング剤含有洗浄剤
(51)【国際特許分類】
C23C 26/00 20060101AFI20240314BHJP
C23G 1/19 20060101ALI20240314BHJP
C23G 1/22 20060101ALI20240314BHJP
C23G 1/20 20060101ALI20240314BHJP
C11D 3/06 20060101ALI20240314BHJP
C11D 3/04 20060101ALI20240314BHJP
C11D 3/08 20060101ALI20240314BHJP
H05K 3/26 20060101ALI20240314BHJP
【FI】
C23C26/00 A
C23G1/19
C23G1/22
C23G1/20
C11D3/06
C11D3/04
C11D3/08
H05K3/26 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022144111
(22)【出願日】2022-09-09
(71)【出願人】
【識別番号】592007612
【氏名又は名称】横浜油脂工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】猪股 洋一
(72)【発明者】
【氏名】本多 秀夫
【テーマコード(参考)】
4H003
4K044
4K053
5E343
【Fターム(参考)】
4H003AA03
4H003DA05
4H003DA09
4H003DA15
4H003DB01
4H003EA08
4H003EA15
4H003EA21
4H003EB13
4H003EB24
4H003EB37
4H003ED02
4H003FA04
4H003FA07
4H003FA21
4K044AA03
4K044AA06
4K044BA21
4K044BB01
4K044BB03
4K044BC04
4K044CA27
4K044CA53
4K053PA03
4K053PA06
4K053PA10
4K053RA21
4K053RA51
4K053RA62
4K053RA66
4K053SA06
4K053TA17
4K053TA19
4K053ZA10
5E343AA02
5E343AA16
5E343AA18
5E343BB24
5E343BB28
5E343BB43
5E343BB67
5E343EE02
5E343EE13
5E343FF23
5E343GG02
5E343GG11
5E343GG20
(57)【要約】
【課題】脱脂洗浄と同時に表面処理ができ、環境にも優しい、平坦な金属にも有機材料を接合できる洗浄剤を提供する。
【解決手段】無機アルカリ、キレート剤、界面活性剤を含む洗浄剤と;カップリング剤と;を含む、カップリング剤含有洗浄剤
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機アルカリ、キレート剤、界面活性剤を含む洗浄剤と、
カップリング剤と、を含む、カップリング剤含有洗浄剤。
【請求項2】
前記カップリング剤が、シランカップリング剤である、請求項1に記載のカップリング剤含有洗浄剤。
【請求項3】
前記カップリング剤が、官能基としてアミノ基を有するシランカップリング剤である、請求項2に記載のカップリング剤含有洗浄剤。
【請求項4】
前記カップリング剤が、カップリング剤含有洗浄剤の全重量基準で、0.5~4重量%含まれる、請求項2又は3に記載のカップリング剤含有洗浄剤。
【請求項5】
前記カップリング剤が、カップリング剤含有洗浄剤の全重量基準で、0.8~2重量%含まれる、請求項2又は3に記載のカップリング剤含有洗浄剤。
【請求項6】
前記アルカリが、NaOHもしくはKOH又は珪酸塩である、請求項2又は3に記載のカップリング剤含有洗浄剤。
【請求項7】
キレート剤が、リン酸又はホスホン酸のアルカリ塩である、請求項2又は3に記載のカップリング剤含有洗浄剤。
【請求項8】
前記界面活性剤が、表面張力が30mN/m以下の界面活性剤である、請求項2又は3に記載のカップリング剤含有洗浄剤。
【請求項9】
前記カップリング剤含有洗浄剤が、珪酸カリウム水溶液又は珪酸ナトリウム水溶液及び無機アルカリからのメタ珪酸イオン(SiO3
2-)と、水酸化イオン(OH-)及びカリウムイオン(K+)又はナトリウムイオン(Na+)を含む、請求項2又は3に記載のカップリング剤含有洗浄剤。
【請求項10】
平坦な金属と有機材料の接合において、金属の表面洗浄および表面処理に用いられるものである、請求項2又は3に記載のカップリング剤含有洗浄剤。
【請求項11】
高周波電気回路基板の製造における金属と有機材料の接合において、金属の表面洗浄および表面処理に用いられるものである、請求項2又は3に記載のカップリング剤含有洗浄剤。
【請求項12】
金属と有機材料との結合方法であって、
請求項1記載のカップリング剤含有洗浄剤を用いて、金属表面の洗浄と、金属表面と有機材料との結合を促す表面処理と、を同時に行う、金属と有機材料との結合方法。
【請求項13】
前記金属が、銅、ステンレス、アルミニウムからなる群から選択されるものである、請求項12に記載の金属と有機材料との結合方法。
【請求項14】
前記有機材料が、ゴム、スチレンブタジエン共重合体(SBR)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリイミドフィルム(PI)からなる群から選択されるものである、請求項12に記載の金属と有機材料との結合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カップリング剤含有洗浄剤に関する。より詳しくは高周波電気回路基板用途等の平坦な金属と樹脂の接合製造に最適なカップリング剤含有洗浄剤に関する。
【背景技術】
【0002】
金属表面に有機材料を接合する場合、例えば、金属表面を洗浄して金属表面の濡れ性を良くし、次に金属の表面処理を行った後に金属表面に有機材料を塗布する工程を含む方法により行われている。金属の表面処理の手法としては、様々なものがあるが、接合強度が向上することから、例えば強酸を用いて金属表面を粗くするアンカー効果を用いたものが主流である(例えば、特許文献1参照。)。
しかしながら、環境問題への対応等の要望より、強酸のような有機溶剤を用いないことが求められている。また一部の技術分野においては、金属表面を粗くすることは望まれていなかった。例えば、高速通信(高周波)に対応する回路基板の技術分野では、金属基板の凹凸が表皮伝送損失となることから、平坦な金属と、有機材料との接合が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、平坦な金属に有機材料を接合することは困難であることから、金属基板に強酸で脱脂洗浄と同時に表面を粗くするアンカー効果による接合が主に行われていた。
そのため、脱脂洗浄と同時に表面処理ができ、環境にも優しい、平坦な金属にも有機材料を接合できる洗浄剤が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
〈1〉
無機アルカリ、キレート剤、界面活性剤を含む洗浄剤と;カップリング剤と;を含む、カップリング剤含有洗浄剤。
〈2〉
カップリング剤が、シランカップリング剤である、〈1〉に記載のカップリング剤含有洗浄剤。
〈3〉
カップリング剤が、官能基としてアミノ基を有するシランカップリング剤である、〈2〉に記載のカップリング剤含有洗浄剤。
〈4〉
カップリング剤が、カップリング剤含有洗浄剤の全重量基準で、0.5~4重量%含まれる、〈2〉又は〈3〉に記載のカップリング剤含有洗浄剤。
〈5〉
カップリング剤が、カップリング剤含有洗浄剤の全重量基準で、0.8~2重量%含まれる、〈2〉又は〈3〉に記載のカップリング剤含有洗浄剤。
〈6〉
アルカリが、NaOHもしくはKOH又は珪酸塩である、〈2〉又は〈3〉に記載のカップリング剤含有洗浄剤。
〈7〉
キレート剤が、リン酸又はホスホン酸のアルカリ塩である、〈2〉又は〈3〉に記載のカップリング剤含有洗浄剤。
〈8〉
界面活性剤が、表面張力が30mN/m以下の界面活性剤である、〈2〉又は〈3〉に記載のカップリング剤含有洗浄剤。
〈9〉
カップリング剤含有洗浄剤が、珪酸カリウム水溶液又は珪酸ナトリウム水溶液及び無機アルカリからのメタ珪酸イオン(SiO3
2-)と水酸化イオン(OH-)及びカリウムイオン(K+)又はナトリウムイオン(Na+)を含む、〈2〉又は〈3〉に記載のカップリング剤含有洗浄剤。
〈10〉
平坦な金属と有機材料の接合において、金属の表面洗浄および表面処理に用いられるものである、〈2〉又は〈3〉に記載のカップリング剤含有洗浄剤。
〈11〉
高周波電気回路基板の製造における金属と有機材料の接合において、金属の表面洗浄および表面処理に用いられるものである、〈2〉又は〈3〉に記載のカップリング剤含有洗浄剤。
〈12〉
金属と有機材料との結合方法であって、
〈1〉記載のカップリング剤含有洗浄剤を用いて、金属表面の洗浄と、金属表面と有機材料との結合を促す表面処理と、を同時に行う、金属と有機材料との結合方法。
〈13〉
金属が、銅、ステンレス、アルミニウムからなる群から選択されるものである、〈12〉に記載の金属と有機材料との結合方法。
〈14〉
前記有機材料が、ゴム、スチレンブタジエン共重合体(SBR)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリイミドフィルム(PI)からなる群から選択されるものである、〈12〉に記載の金属と有機材料との結合方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、脱脂洗浄と同時に表面処理ができ、環境にも優しく、平坦な金属にも有機材料を接合できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、シランカップリング剤の反応メカニズムを示す図である。
【
図2】
図2は、接合力評価サンプルの作製方法(液処理と簡易プレス)のフロー図である。
【
図3】
図3は、簡易剪断力測定の概要を示す図である。
【
図4】
図4は、処理した金属表面の水の接触角と、走査電子顕微鏡(SEM)・エネルギー分散型X線分光法(EDS)にて表面観察・分析の結果を示す図である。
【
図5】
図5は、カップリング剤含有洗浄剤の金属洗浄能力(水濡れ性)を示す図である。
【
図6】
図6はベースとなる洗浄剤へのカップリング剤添加濃度と接合力の関係を示す図である。
【
図7】
図7は、ベース洗浄剤に1%のカップリング剤を含有させた処理液について、液作製後の経時時間における接合力の変化を示す図である。
【
図8】
図8は、1段階プロセスと、洗浄と表面処理を分割した2段階プロセスとの比較を示す図である。
【
図9】
図9は、接合面の金属側を観察した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、実施形態を挙げて本発明の説明を行うが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0009】
〔反応メカニズムからの課題と対応策〕
カップリング剤は、性質の異なる材料、主には無機材料と有機材料を結合させる化合物である。金属用カップリング剤は、強い共有結合またはイオン結合が金属表面に形成され、またポリマー側にも結合部位を有する。特にシランカップリング剤とポリマーカップリング剤は金属接着用カップリング剤として造膜性には問題があるもののカップリング効果を示すことが知られている。また、ポリカルボン酸系カップリング剤は、そのカルボキシル基と金属表面酸化物層との間にイオン結合を形成かつその高分子吸着安定化によりカップリング効果を示すことが知られている。
【0010】
図1A、
図1Bは、シランカップリング剤の反応メカニズムを示す図である。
図1A、
図1Bのシランカップリング剤の例を参照しながら、より詳しくカップリング効果について説明する。
図1Aに示すように、反応メカニズムにおいて、加水分解反応で生成したシラノール基が、無機物(金属表面)に吸着し、水素結合により配向する。その後脱水反応で縮合反応がおこり、無機物と強い共有結合が形成される。(目的反応)
しかしながら、
図1Bに示すように、一度加水分解で生成したシラノール基は、液内で自己縮合反応がおこり、有効なカップリング剤同士の結合が進む副作用反応により、液寿命が短くなることが懸念された。
本発明者等は、副反応である自己縮合反応を抑える対応策として、塩基性条件下でシラノール基がシラノラートイオンとなり共鳴安定化して自己縮合が起こりにくくなること、加えて洗浄剤に予め干渉イオンを存在させることで、自己縮合反応を抑制することで更に安定化が図られることを知見した。
【0011】
〔カップリング剤含有洗浄剤〕
本発明者等は、研究の結果、洗浄剤で金属表面を活性化すると同時に、カップリング剤を単一層として配向吸着させることにより、金属の表面粗さとは無関係に、金属と有機材料の接合力を向上させることを見出した。
即ち、本発明は、無機アルカリ、キレート剤、界面活性剤、水を含む洗浄剤と;カップリング剤と;を含む、カップリング剤含有洗浄剤に関する。
【0012】
また本発明者等は、カップリング剤含有洗浄剤の液寿命について検討したところ、所定のイオンを存在させることで、長寿命化が図れることも見出した。
即ち、本発明は、無機アルカリ、キレート剤、界面活性剤を含む洗浄剤と;カップリング剤と;を含むカップリング剤含有洗浄剤であって、メタ珪酸イオン(SiO3
2-)と、水酸化イオン(OH-)及びカリウムイオン(K+)又はナトリウムイオン(Na+)を含む、カップリング剤含有洗浄剤にも関する。
【0013】
以下、金属の清浄度を上げる洗浄剤と、金属表面と共有結合を形成するシランカップリング剤との1段階プロセスによる、金属洗浄と金属表面へのカップリング剤のプライマー用法について説明する。
【0014】
アルカリ剤としては、特に制限されることなく種々のものを用いることができるが、NaOH又はKOHを用いることが好ましい。
【0015】
キレート剤としては、特に制限されることなく種々のものを用いることができるが、リン酸又はホスホン酸のアルカリ塩を用いることが好ましい。リン酸又はホスホン酸のアルカリ塩としては、エチドロン酸のアルカリ塩が好ましい。具体的には、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、トリポリリン酸ナトリウム、テトラリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、及びエチドロン酸カリウムを用いることができる。これらの中から一種を単独で用いても、または二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
界面活性剤としては、特に制限されることなく種々のものを用いることができるが、表面張力が30mN/m以下の界面活性剤を用いることが好ましい。例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルを用いることが好ましい。具体的には、エマレックスEMALEX640(日本エマルジョン(株))、エマレックスEMALEX130(日本エマルジョン(株))、エマレックスEMALEX120(日本エマルジョン(株))、エマレックスEMALEX115(日本エマルジョン(株))、アデカトールSO-145((株)ADEKA)、ノイゲンTDS-80(第一工業製薬(株))、ノイゲンXL-80(第一工業製薬(株))、ノイゲンXL-60(第一工業製薬(株)、ノイゲンSD-70 (第一工業製薬(株))、ノイゲンSD-60(第一工業製薬(株))、ノイゲンEA-137 (第一工業製薬(株))、アデカノールB-4009((株)ADEKA)、ファインサーフ9161(青木油脂工業(株))、アデカノールAS-054C(第一工業製薬(株))、ファインサーフD-1305(青木油脂工業(株))が挙げられる。これらの中から一種を単独で用いても、または二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
カップリング剤としては、特に制限されることなく種々のものを用いることができるが、シランカップリング剤を用いることが好ましい。官能基としてアミノ基を有するシランカップリング剤(信越化学工業社製、商品名「KBE-903」あるいは「X-12-972F」)を用いることがより好ましい。
【0018】
カップリング剤の含有用は、カップリング剤含有洗浄剤の全重量基準で、0.5~4重量%が好ましく、0.8~2重量%がより好ましい。
【0019】
カップリング剤含有洗浄剤が、珪酸カリウム水溶液又は珪酸ナトリウム水溶液及び無機アルカリからのメタ珪酸イオン(SiO3
2-)と水酸化イオン(OH-)及びカリウムイオン(K+)又はナトリウムイオン(Na+)との少なくとも何れかを含むことが好ましい。干渉イオンの存在が、シラノール基の自己縮合を抑止し、カップリング剤含有洗浄剤の安定性が向上して、寿命が長くなるからである。
【0020】
〔金属と有機材料との結合方法〕
カップリング剤含有洗浄剤の作用効果の説明も兼ねて、金属と有機材料との結合方法を説明する。金属として銅基板、有機材料として天然ゴムを例に挙げて説明する。
(イ)上述のカップリング剤含有洗浄剤を用意する。
(ロ)用意したカップリング剤含有洗浄剤に銅基板を浸漬させる。この浸漬工程により、銅基板の表面の洗浄と、銅基板表面と天然ゴムとの結合を促す表面処理と、が同時に行われる。
(ハ)銅基板の表面をイオン交換水でリンスする。リンスにより、余分なカップリング剤が除去され、表面に水素結合で配向吸着したカップリング剤の分子層(プライマー層)が残ることで、銅基板と天然ゴムとの結合が容易に進むからである。
(ニ)銅基板を乾燥させる。乾燥により、カップリング剤の縮合反応による金属との共有結合の生成が促され、金属基板表面にカップリング剤のプライマー層が形成され易くなるからである。乾燥方法は限定されないが、例えば、自然乾燥や加熱乾燥が挙げられる。乾燥が十分でないと、共有結合の生成が上手くいかずに、金属と有機材料の結合強度が低下する。乾燥は1時間程度行うことが好ましい。
(ホ)天然ゴムの表面にアセトンを塗布することにより、天然ゴムの表面処理を行う。アセトン処理により、天然ゴムの表面が清浄されると同時に、天然ゴムの表面層と反応させ、銅基板表面のプライマー層中のアミノ基とのアジド結合と、加硫接合が相互的に進み易くなるからである。なお、アセトン処理を行わない場合、接合強度が2割程度低下することになる点に留意すべきである。
(ヘ)銅基板と天然ゴムを加熱されたホットプレート上に配置する。その後、サンプルに均一に荷重がかかるように加圧する。加熱温度は天然ゴムの融点より少し低い設定とし、具体的には150℃程度に設定する。加圧条件は10Kg/cm2で4時間程度である。
以上により、銅基板上に天然ゴムが結合されることになる。
【0021】
金属として、銅を例に挙げて説明したが、金属は銅に限定されることなく、ステンレス、アルミニウム等を用いることができる。また有機材料として、天然ゴムを例に挙げて説明したが、天然ゴムに限定されることなく、スチレンブタジエン共重合体(SBR)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリイミド(PI)フィルム等を用いることができる。
【0022】
(その他の実施形態)
上記のように、本発明は実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
カップリング剤含有洗浄剤とそれを用いた金属と有機材料との結合方法について中心に説明してきたが、本発明は、例えば、金属基板の洗浄方法(親水化処理方法)にも関する。なお、上述の金属と有機材料との結合方法の工程のうち、(イ)、(ロ)工程が、金属基板の洗浄方法に該当する。
また本発明は親水化処理方法により親水化処理した金属基板に塗料を塗布する塗装処理方法や、親水化処理した金属板にめっきを施すめっき方法にも関する。
本発明は親水化処理方法によりリードフレームを親水化処理し、その後に塗装又はめっき処理を施すリードフレームの表面処理方法にも関する。
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【実施例0023】
[カップリング剤含有洗浄剤の調製]
洗浄剤として、無機アルカリ、キレート剤、界面活性剤(複数のノニオン活性剤)を含む洗浄剤(横浜油脂工業社製、商品名「HDM-1」)の10%水溶液を用意した。カップリング剤として官能基としてアミノ基を有するシランカップリング剤(信越化学工業社製、商品名「KBE-903」)を用意した。
洗浄剤に、全重量基準で1重量%となるようにシランカップリング剤を添加することにより、カップリング剤含有洗浄剤を調製した。その際、加水分解物の自己縮合を抑制する目的で、珪酸カリウム水溶液及び無機アルカリからのメタ珪酸イオン(SiO
3
2-)と水酸化イオン(OH
-)及びカリウムイオン(K
+)を含むことを確認した。
[評価手法と結果]
[液処理及び簡易プレス方法と簡易剪断力測定方法〕
図2は、接合力評価サンプルの作製方法(液処理と簡易プレス)のフロー図である。
処理液として上述のシランカップリング剤、金属サンプルとして銅板(C1100P)のテストピース(寸法1.0×25×50)、有機材料サンプルとして天然ゴム(NR)のテストピース(寸法2.0×25×50)を用意した。
【0024】
用意した処理液に金属サンプルを15分浸漬した後、イオン交換水で十分にリンスを行った後、自然乾燥で1時間放置した。リンスは、余分なカップリング剤を除去し、表面に水素結合で配向吸着した分子層のみとした。
一方、天然ゴム側は、アセトンで表面の清浄度確保と同時に、表面層と反応させ、アミノ基とのアジド結合と加硫接合が相互的に進む状態とした。
処理した金属(銅)とゴム(天然ゴム)を150℃のホットプレート上に、
図2に示すようにセットし、均一に荷重がかかるように4サンプルを配置した。荷重は10Kgとし、4時間処理することを簡易プレス条件とした。
【0025】
図3は、簡易剪断力測定の概要を示す図である。剪断力測定は、天秤を用いて、サンプル破断時の数値をビデオ撮影した。簡易な測定方法ではあるが、目的の結果及び傾向の把握は可能であった。ばらつきが多い測定である為、測定数を増やすことで、真値を把握することで対応した。
【0026】
[金属表面処理後の表面分析]
図4は、処理した金属表面の水の接触角と、SEM・EDSにて表面観察・分析を行った結果を示す図である。
図4Aに示すサンプルとした銅板(C1100P)のオリジナル(表面保護シートを剥がした直後)は、水の接触角が約97度であり、炭素量(C)は3.0at%であった。
図4Bに示すように、銅板をベースとした洗浄剤に15分浸漬し、純水リンス後の自然乾燥面は、接触角が約66度、C量は0.9at%であった。十分な清浄度が確認できた。
一方、
図4Cに示すように、本ベースとなる洗浄剤に1%のカップリング剤を添加したもので、同じく15分浸漬し、純水リンス後の自然乾燥面は、接触角が78度、C量は4.2at%と最も多かった。これはカップリング剤の吸着と考えられた。
C量の元素マップ表示により均一に付着していることを確認した。純水リンス後のいずれの表面も良好な水濡れ性を示していたが、自然乾燥放置での有機成分などの表面吸着で、やや高めの接触角を示したと結果となった。
本結果より銅板に対しベースとなる洗浄剤の洗浄力とカップリング剤含有洗浄剤による、新たに均一な有機膜が形成されているとがわかった。
【0027】
[金属表面の洗浄性]
図5A、
図5Bは、カップリング剤含有洗浄剤の金属洗浄能力(水濡れ性)を示す図である。
図5Aに示すように、保護シール剥離後の銅板表面は、純水リンス時の観察で全面ハジキであるが、本処理液で15分浸漬した場合、写真の様に全面濡れが確認された。
また、
図5Bに示すように、銅板に指紋汚染したものを、本処理液で超音波洗浄することで、指紋除去が確認でき洗浄性確保が確認された。カップリング剤含有洗浄剤の金属面に対する洗浄力を示す結果である。
【0028】
[カップリング剤含有濃度依存]
図6はベースとなる洗浄剤へのカップリング剤添加濃度と接合力の関係を示す図である。簡易プレス・簡易測定でのバラツキを考慮し、測定数を増やしその傾向を把握した。
【0029】
図6に示すように、カップリング剤濃度に接合力は依存することが分かった。また、濃度に関し接合力は収束することが分かった。本結果より、処理後純水リンスで余剰分を除去することから、表面に残る配向吸着層に依存することが反映されていると考えられた。
天然ゴムは厚さ2mmであるが、検討中にゴム自身の破断が確認できた。
本結果より、カップリング剤含有による、金属表面のカップリング剤プライマー処理が可能となり、接合強度の向上が確認された。
【0030】
[経時安定性(液寿命)]
カップリング反応機構上、液寿命が懸念される。そのため、加水分解されたカップリング剤の自己縮合反応を抑制するために、干渉イオンをベースとなる洗浄剤に存在させることで、長寿命化を図った。
図7は、上述の処理液の液作製後の経時時間における接合力の変化を示す図である。
【0031】
[洗浄と表面処理の1段階プロセス]
カップリング剤含有洗浄剤の特徴の1つは、洗浄と表面処理を統合し、1段階プロセスで洗浄と表面処理を実施できることにある。
図8は、1段階プロセスと、洗浄と表面処理を分割した2段階プロセスとの比較を示す図である。
1段階プロセスは、2段階プロセスより同等以上の接合強度が得られた。2段階プロセスにおいて、カップリング剤を含まないベースとした洗浄液による洗浄後リンスを行った後、一度乾燥させてから、改めてカップリング剤のみで処理、リンスおよび乾燥処理を実施した。また2段階プロセスの途中乾燥を行わない工程も実施した。途中乾燥を実施したものが、途中乾燥なしと比較し1割程度、接合強度が低い結果となった。このことは、途中の乾燥により、金属表面の微量酸化や吸着化学物質の影響による活性部の消滅を示唆し、カップリング剤の配向吸着に影響した結果と推定する。途中乾燥を伴わない2段階プロセスにおいても、途中乾燥時ほどの影響は少ないものの、その傾向は否定できない。
洗浄剤で表面エネルギーを高めた活性部に直接、カップリング剤が作用する統合プロセスの優位性を示す結果と考えている。本結果より、カップリング剤含有洗浄剤による、洗浄と表面処理の1段階プロセスの特徴が確認された。
洗浄には、洗浄作用(物理的・化学的)とその洗浄剤の除去としてのすすぎ(リンス)及び乾燥は欠かせない。本検討での金属表面に目的のカップリング剤を配向吸着させるは、余剰分の吸着カップリング剤は除去されなくてはならない。よって洗浄には欠かせないリンス工程の必要性が指摘される。銅板と天然ゴムの接合検討において、
(1)ベース洗浄剤処理、
(2)ベース洗浄剤処理の後カップリング剤単独で処理し、リンスなしでそのまま乾燥、
(3)カップリング剤含有洗浄剤処理、の3条件で銅板を処理し、天然ゴムとの接合を実施した。
(2)に関しては接合には至らなかった。
【0032】
図9は、接合面の金属側を観察した結果を示す図である。カップリング剤含有の通常処理は、接合力が高くカーボン量が最も多いことが分かった。また、加硫接合と関係する硫黄(S)も最も多い結果となっている。また、アイランド状にゴム材からの付着が確認できた。一方、カップリング剤処理後リンスをしなかった(2)は、ゴム材からの付着量が少なく、接合力が得られなかったことを裏付けしている。以上のことからも、カップリング剤の余剰付着分を除去するリンス工程は、必要不可欠なプロセスである。
また、金属面への配向吸着層は、ほぼ均一に付着しているとみられる。
【0033】
図10は簡易プレス後の観察写真を示す。カップリング剤を含まないベース洗浄剤でのサンプルのみ、処理液浸漬部の色が異なる。この色の差は、銅板の熱酸化による色変化が影響しており(配島雄樹 松村綾香 他:表面処理 Vol.59, No12, 2008)、カップリング剤が吸着しているものは、均一に酸化を保護していることが確認できた。このことから、カップリング剤の配向吸着は均一に付着していると考えられた。