(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039523
(43)【公開日】2024-03-22
(54)【発明の名称】ナノ粒子検出方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/04 20060101AFI20240314BHJP
B01J 19/00 20060101ALI20240314BHJP
G01N 15/01 20240101ALI20240314BHJP
G01N 15/00 20240101ALI20240314BHJP
C12M 1/34 20060101ALN20240314BHJP
【FI】
C12Q1/04
B01J19/00 321
B01J19/00 N
G01N15/00 B
G01N15/00 C
C12M1/34 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022144134
(22)【出願日】2022-09-09
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.金子 完治,津金 麻実子,長谷川 洋介,早川 健,鈴木 宏明らが、2022年5月22日付で、化学とマイクロ・ナノシステム学会第45回研究会において公開。 2.金子 完治,津金 麻実子,長谷川 洋介,早川 健,鈴木 宏明らが、2022年5月21日付で、化学とマイクロ・ナノシステム学会第45回研究会要旨集において公開。 3.金子 完治,津金 麻実子,佐藤 拓,早川 健,長谷川 洋介,鈴木 宏明らが、2022年4月14日付で、2022 IEEE 17th International Conference on Nano/Micro Engineered and Molecular Systems(NEMS)において公開。 4.金子 完治,津金 麻実子,佐藤 拓,早川 健,長谷川 洋介,鈴木 宏明らが、2022年4月14日付で、Proceedings of the 17th IEEE International Conference on Nano/Micro Engineered and Molecular Systemsにおい公開。 5.金子 完治が、2022年7月4日付で、人工細胞モデル&分子ロボティクス第3回研究会において公開。
(71)【出願人】
【識別番号】599011687
【氏名又は名称】学校法人 中央大学
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100097238
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 治
(74)【代理人】
【識別番号】100179947
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 晃太郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 宏明
(72)【発明者】
【氏名】金子 完治
(72)【発明者】
【氏名】早川 健
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
4G075
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029BB01
4B029BB15
4B029BB20
4B029CC13
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4G075AA27
4G075AA39
4G075AA65
4G075BB08
4G075BD09
4G075CA23
4G075CA57
4G075DA02
4G075EA02
4G075EB50
4G075EC09
4G075ED01
4G075FA05
4G075FA12
(57)【要約】
【課題】少量のサンプル液から、短い時間でシンプルにかつ高価な蛍光検出機器を用いることなく、目的とするナノ粒子を検出することが可能な、ナノ粒子検出方法を提供する。
【解決手段】ナノ粒子検出方法は、目的とするナノ粒子をサンプル液から検出するための方法である。サンプル液に、ナノ粒子21を捕捉可能な捕捉粒子22を含ませることによって、捕捉粒子22を含んだサンプル試液L1を作成する。マイクロピラー3が配置された基板2上にサンプル試液L1を配置する。基板2上のサンプル試液L1に振動誘起流れFを発生させる。サンプル試液L1の振動誘起流れFによって捕捉粒子22同士が凝集することによって形成される、捕捉粒子凝集体23の発生状態に基いて、ナノ粒子21の有無及び濃度のうちの少なくともいずれか一方を検出する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的とするナノ粒子をサンプル液から検出するための、ナノ粒子検出方法であって、
前記サンプル液に、前記ナノ粒子を捕捉可能な捕捉粒子を含ませることによって、捕捉粒子を含んだサンプル試液を作成し、
マイクロピラーが配置された基板上に前記サンプル試液を配置し、
前記基板上の前記サンプル試液に振動誘起流れを発生させ、
前記サンプル試液の振動誘起流れによって前記捕捉粒子同士が凝集することによって形成される、捕捉粒子凝集体の発生状態に基いて、前記ナノ粒子の有無及び濃度のうちの少なくともいずれか一方を検出する、ナノ粒子検出方法。
【請求項2】
所定濃度の前記ナノ粒子と前記捕捉粒子とを含んだ試液を用いることによって予め、前記試液に所定周波数の振動誘起流れを生じさせることによって得られる、前記捕捉粒子凝集体の凝集度の経時的変化を、ナノ粒子濃度特性として求めておき、
前記サンプル試液に前記所定周波数の振動誘起流れを生じさせることによって得られる、前記捕捉粒子凝集体の凝集度の経時的変化と、前記ナノ粒子濃度特性から得られる、捕捉粒子凝集体の凝集度の経時的変化とを比較することにより、前記サンプル試液に含まれるナノ粒子の濃度を同定する、請求項1に記載されたナノ粒子検出方法。
【請求項3】
前記ナノ粒子と前記捕捉粒子とを含んだ試液を用いることによって予め、前記試液に振動誘起流れを生じさせることによって得られる、当該振動誘起流れの速度を、凝集発生速度として求めておき、
前記サンプル試液に振動誘起流れを発生させるとき、当該サンプル試液の振動誘起流れの適切な速度が前記凝集発生速度となるような振動誘起流れを前記サンプル試液に生じさせる、請求項1に記載されたナノ粒子検出方法。
【請求項4】
前記捕捉粒子凝集体を含む画像に画像演算処理を行うことによって当該捕捉粒子凝集体の凝集度を算出する、請求項2又は3に記載された、ナノ粒子検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ粒子検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
目的とするナノ粒子(タンパク質、核酸、ウィルス、バクテリア、細胞外小胞などのサイズがnm(ナノメートルオーダー)~数μm(数マイクロメートルオーダー)の物質)をサンプル液から検出する方法としては、例えば、目的粒子に特異的に吸着する捕捉ビーズを用いて目的粒子をアフィニティ精製し、精製した粒子に対して蛍光測定・タンパク質量測定することで検出する方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、こうした従来の方法は、目的粒子を含んだサンプル液に捕捉ビーズを入れて攪拌した後吸着させるため、混合効率が悪く、数時間以上の攪拌時間が必要となることが多い。また、捕捉ビーズに吸着したナノ粒子の検出には、蛍光プレートリーダーやフローサイトメータなどの高価な光学システムや、標的分子への蛍光タグ付加などサンプルへの事前処理が必要となる。
【0005】
さらに、アフィニティ精製は、試験管内のサンプル液を、ボルテックスミキサーを用いて攪拌した後、その攪拌液から、目的とするナノ粒子を分離させる必要がある。このため、システム(作業工程及び装置の両方を含む。)のシンプル化に改善の余地がある。
【0006】
また、基礎研究においては、ナノ粒子検出の迅速化や省サンプル化の目的で、マイクロ流体システムを用いた系も多く開発されている。しかしながら、多くの場合、試験部への送液を外部ポンプにより行っている。そのため、大量のサンプルを流して処理することには向いているが、数百μL以下の微量サンプルの処理には向いていない。加えて、バルクの方法と同様に、ナノ粒子の検出には蛍光などの高価な光学システムが必要となる。
【0007】
本発明の目的は、少量のサンプル液から、短い時間でシンプルにかつ高価な蛍光検出機器を用いることなく、目的とするナノ粒子を検出することが可能な、ナノ粒子検出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明に係るナノ粒子検出方法は、目的とするナノ粒子をサンプル液から検出するための、ナノ粒子検出方法であって、前記サンプル液に、前記ナノ粒子を捕捉可能な捕捉粒子を含ませることによって、捕捉粒子を含んだサンプル試液を作成し、マイクロピラーが配置された基板上に前記サンプル試液を配置し、前記基板上の前記サンプル試液に振動誘起流れを発生させ、前記サンプル試液の振動誘起流れによって前記捕捉粒子同士が凝集することによって形成される、捕捉粒子凝集体の発生状態に基いて、前記ナノ粒子の有無及び濃度のうちの少なくともいずれか一方を検出する。
【0009】
(2)上記(1)に記載されたナノ粒子検出方法は、所定濃度の前記ナノ粒子と前記捕捉粒子とを含んだ試液を用いることによって予め、前記試液に所定周波数の振動誘起流れを生じさせることによって得られる、前記捕捉粒子凝集体の凝集度の経時的変化をナノ粒子濃度特性として求めておき、前記サンプル試液に前記所定周波数の振動誘起流れを生じさせることによって得られる、前記捕捉粒子凝集体の凝集度の経時的変化と、前記ナノ粒子濃度特性から得られる、捕捉粒子凝集体の凝集度の経時的変化とを比較することにより、前記サンプル試液に含まれるナノ粒子の濃度を同定することができる。
【0010】
(3)上記(1)又は(2)に記載されたナノ粒子検出方法は、前記ナノ粒子と前記捕捉粒子とを含んだ試液を用いることによって予め、前記試液に振動誘起流れを生じさせることによって得られる、当該振動誘起流れの速度を、凝集発生速度として求めておき、前記サンプル試液に振動誘起流れを発生させるとき、当該サンプル試液の振動誘起流れの適切な速度が前記凝集発生速度となるような振動誘起流れを前記サンプル試液に生じさせることができる。
【0011】
(5)上記(2)~(3)のいずれかに記載されたナノ粒子検出方法は、前記捕捉粒子凝集体を含む画像に画像演算処理を行うことによって当該捕捉粒子凝集体の凝集度を算出することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、少量のサンプル液から、短い時間でシンプルにかつ高価な蛍光検出機器を用いることなく、目的とするナノ粒子を検出することが可能な、ナノ粒子検出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係るナノ粒子検出方法に使用可能な、マイクロピラープレートを概略的に示す斜視図であり、当該マイクロピラープレート上には、サンプル液に捕捉粒子を含ませた捕捉粒子含有サンプル液が配置されている。
【
図2】
図1のマイクロピラープレートにカバープレートが取り付けられたマイクロピラーアセンブリを捕捉粒子含有サンプル液とともに概略的に示す断面図である。
【
図3】
図2のマイクロピラーアセンブリ内に振動誘起流れを発生させるために、マイクロピラーに付与される運動を前記マイクロピラーアセンブリの運動とともに概略的に示す図である。
【
図4】
図2のマイクロピラーアセンブリ内に振動誘起流れを発生させる前の状態を概略的に示す斜視図であり、当該斜視図とともに、その状態の一部が拡大された拡大図が示されている。
【
図5】
図2のマイクロピラーアセンブリ内に振動誘起流れを発生させた後の状態を概略的に示す斜視図であり、当該斜視図とともに、その状態の一部が拡大された拡大図が示されている。
【
図6】
図2のマイクロピラーアセンブリを用いることによって、ナノ粒子と捕捉ビーズとを含んだ試液に振動誘起流れを発生させる前後の状態を明視野撮影した画像と、
図2のマイクロピラーアセンブリを用いることによって、上記試液に振動誘起流れを発生させないまま放置した状態を明視野撮影した画像と、
図2のマイクロピラーアセンブリを用いることによって、上記試液に振動誘起流れを発生させる前後の状態を明視野撮影した画像と、が示されている。
【
図7】目的とするナノ粒子が含まれるサンプル液に捕捉粒子を含ませた状態と、当該捕捉粒子が前記ナノ粒子とともに凝集した状態とを、概略的に示す図である。
【
図8】前記捕捉粒子凝集体を含む画像に画像演算処理を行うことによって当該凝集体を検出するとともに当該凝集体の平均面積を算出するまでの、プロセスの一例を概略的に示す画像である。
【
図9】所定濃度のナノ粒子ビーズと捕捉ビーズとを含んだ試液に、所定周波数の振動誘起流れを生じさせることによって得られる、捕捉粒子凝集体の凝集度の経時的変化を示すグラフである。
【
図10】粒子画像流速測定法を用いることによって、マイクロピラーの周りに生じた振動誘起流れの速さを解析した画像である。
【
図11】振動誘起流れのピーク速度と、振動誘起流れの、周波数又は振幅との関係を示すグラフである。
【
図12】振動誘起流れのピーク速度と、捕捉粒子凝集体の凝集度との依存性を示すグラフである。
【
図13A】目的とするナノ粒子の一例である、細胞外小胞を概略的に示す図である。
【
図13B】捕捉粒子の一例である、Tim4を結合させた磁気ビーズを概略的に示す図である。
【
図14】本発明の実施例1としての実験1、その他比較例としての対照実験1~3において得られた、捕捉粒子凝集体の凝集度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態に係る、ナノ粒子検出方法について、説明をする。
【0015】
本実施形態に係る、ナノ粒子検出方法は、目的とするナノ粒子21をサンプル液L0(図示省略。)から検出するための、方法である。
【0016】
ここで、ナノ粒子とは、nm(ナノメートル)のオーダーの粒子をいう。例えば、ナノ粒子として細胞外小胞を挙げられる。目的とするナノ粒子を細胞外小胞とした場合、ナノ粒子の具体例には、40~120nmのオーダーの粒子(エクソソーム)、又は、40~1000nmのオーダーの粒子(MV:微小小胞体)、又は、500~2000nmのオーダーの粒子(アポトーシス小体)が挙げられる。また、ナノ粒子には、タンパク質、DNA(核酸)、または、いわゆる、PM2.5と呼ばれるカテゴリーの粒子も、含まれる。
【0017】
前記ナノ粒子検出方法では、その第1の工程として、サンプル液L0に、ナノ粒子21を捕捉可能な捕捉粒子22を含ませることによって、捕捉粒子22を含んだ捕捉粒子含有サンプル液L1を作成する。
【0018】
ここで、捕捉粒子とは、前記ナノ粒子に対して親和性を有する粒子、つまり、ナノ粒子21と容易に結合する性質又は傾向を有する粒子である。ナノ粒子21が細胞外小胞である場合、捕捉粒子22としては、例えば、Tim4を結合させた磁気ビーズ(以下、「Tim4磁気ビーズ」ともいう。)が挙げられる。
【0019】
サンプル液L0の具体例としては、血液、リンパ液、髄液等の体液が挙げられる。ただし、サンプル液L0は、目的とするナノ粒子が含まれていると考えられる液体であればよい。
【0020】
次いで、前記ナノ粒子検出方法では、その第2の工程として、マイクロピラー3が配置された基板2上にサンプル試液L1を配置する。
【0021】
図1には、前記ナノ粒子検出方法に使用可能な、マイクロピラープレート1が概略的に示されている。
【0022】
図1に示すように、マイクロピラープレート1は、基板2上に複数のマイクロピラー3が設けられている。本実施形態では、基板2は、平らな平面を有するプレートである。マイクロピラー3は、真円の円柱形状を有している。マイクロピラー3の直径は、例えば、10~200μm(マイクロメートル)、又は、50~200μm、又は、100μ~200μmとすることができる。また、マイクロピラー3の高さは、捕捉粒子含有サンプル液L1に対して後述の振動誘起流れFを生じさせることが可能な高さであればよい。なお、マイクロピラー3の高さの具体例としては、50~70μmが挙げられる。本開示において、マイクロピラープレート1は、基板2及びマイクロピラー3がPDMS(ポリジメチルシロキサン)を用いて一体に形成されている。ただし、マイクロピラープレート1は、の製造方法については、特に限定されることはない。
【0023】
基板2上でのマイクロピラー3の配列は、互いに任意の間隔を置いて配置することにより設定することができる。
図1を参照すれば、本実施形態において、マイクロピラー3は、互いに直交する、X方向及びY方向の2つの方向に沿って配列されている。X方向のマイクロピラー3は、互いに等しい間隔Wxで配置されている。ここで、間隔Wxは、2つのマイクロピラー3の中心軸線間の間隔(距離)である。同様に、Y方向のマイクロピラー3は、互いに等しい間隔Wyで配置されている。ここで、間隔Wyもまた、2つのマイクロピラー3の中心軸線間の間隔(距離)である。具体例としては、マイクロピラー3の直径が100μmである場合、間隔Wx及び間隔Wyはそれぞれ、200μmとすることができる。
【0024】
サンプル試液L1は、例えば、ピペット又は分注装置を用いることによって、液滴として、マイクロピラープレート1上に滴下させる。これによって、マイクロピラープレート1の基板2上には、サンプル試液L1が配置される。
【0025】
次いで、前記ナノ粒子検出方法では、その第3の工程として、基板2上の捕捉粒子含有サンプル液L1に振動誘起流れFを発生させる。
【0026】
図2には、マイクロピラープレート1にカバープレート4が取り付けられたマイクロピラーアセンブリ10が概略的に示されている。
【0027】
本実施形態において、サンプル試液L1がマイクロピラープレート1上に配置された後、マイクロピラープレート1には、
図2に示すように、カバープレート4が被せられる。これによって、サンプル試液L1を含んだマイクロピラーアセンブリ10が形成される。カバープレート4は、例えば、透明なガラス又は樹脂によって形成されている。
【0028】
なお、本実施形態において、マイクロピラープレート1には、スペーサ5が設けられている。カバープレート4は、スペーサ5上に被せられることによって、
図2に示すように、基板2との間に隙間を形成する。これによって、サンプル試液L1は、基板2とカバープレート4との間に収容される。なお、スペーサ5は、基板2上のマイクロピラー3を取り囲むように断続的に形成してもよい。
【0029】
振動誘起流れFは、マイクロピラー3の周りに生じるサンプル試液L1の旋回流れである。マイクロピラーアセンブリ10を、Z方向軸線の周りに円運動(旋回運動)させることによって発生させることができる。ここで、Z方向軸線は、X‐Y方向に対して直交する軸線である。
【0030】
マイクロピラーアセンブリ10の円運動は、例えば、駆動装置を用いることによって、生じさせることができる。こうした駆動装置としては、例えば、マイクロピラーアセンブリ10を配置可能なステージを備え、当該ステージをZ方向軸線の周りに円運動させることができるものが挙げられる。具体例としては、x方向及びy方向の2軸方向に対して制御可能な2軸ピエゾステージ(2軸ピエゾアクチュエータ)が挙げられる。2軸ピエゾステージを用いれば、x方向に配置されたピエゾ素子と、y方向に配置されたピエゾ素子とを、振動制御することにより、マイクロピラーアセンブリ10をZ方向軸線の周りに円運動させることができる。
【0031】
図3には、マイクロピラーアセンブリ10の円運動の軌跡と、マイクロピラーアセンブリ10の円運動に伴うマイクロピラー3の円運動の軌跡とを示す。ここでは、x=Acos(2πft)、y=Asin(2πft)、z=0である。また、Aは振幅、fは周波数、tは時間である。
図3に示すように、マイクロピラー3は、マイクロピラーアセンブリ10をZ方向軸線の周りに円運動させることによって、マイクロピラーアセンブリ10の円運動に合わせてZ方向軸線の周りに円運動する。これによって、マイクロピラー3の周りには、捕捉粒子含有サンプル液L1の振動誘起流れFを発生させることができる。
【0032】
図4には、マイクロピラー3の周りに振動誘起流れFを発生させる前の状態が概略的に示されている。また、
図4には、その一部の領域Rが拡大された状態で示されている。
【0033】
図4に示すように、振動誘起流れFが発生する前の、捕捉粒子含有サンプル液L1中において、ナノ粒子21と捕捉粒子22とは、互いに分散した状態で存在している。
【0034】
その後、マイクロピラーアセンブリ10をZ方向軸線周りに円運動させた場合、
図4の矢印で示すように、マイクロピラー3の周りには、マイクロピラーアセンブリ10の円運動と同じ向きに捕捉粒子含有サンプル液L1の振動誘起流れFが生じる。この振動誘起流れFによって、マイクロピラー3の周りのサンプル試液L1は攪拌される。
【0035】
次いで、前記ナノ粒子検出方法では、その第4の工程として、サンプル試液L1の振動誘起流れFによって捕捉粒子22同士が凝集することによって形成される、当該捕捉粒子凝集体23の発生状態に基いて、ナノ粒子21の有無及び当該ナノ粒子21の濃度のうちの少なくともいずれか一方を検出する。
【0036】
図5には、マイクロピラーアセンブリ10におけるマイクロピラー3の周りに振動誘起流れFを発生させた後の状態が概略的に示されている。また、
図5には、その一部の領域Aが拡大された状態で示されている。
【0037】
捕捉粒子含有サンプル液L1に、目的とするナノ粒子21が含まれている場合、振動誘起流れFによる攪拌によって、
図5に示すように、捕捉粒子含有サンプル液L1中には、捕捉粒子凝集体23が形成される。その理由は、振動誘起流れFによる攪拌によって、捕捉粒子凝集体23が形成される場合、当該捕捉粒子凝集体23は、ナノ粒子21を捕捉した捕捉粒子22同士がナノ粒子21を介して互いに凝集したことによって形成されたもの(以下、「ナノ粒子・捕捉粒子凝集体」ともいう。)であると考えられるためである。つまり、振動誘起流れFによって発生した捕捉粒子凝集体23は、ナノ粒子21を捕捉した捕捉粒子22同士が、その捕捉したナノ粒子21を介して互いに凝集することによって形成されたものと考えられる。
【0038】
ここで、
図6の左側、中央及び右側には、それぞれ、ビーズを試験片に用いて当該ビーズの凝集の有無を試験した凝集発生試験の結果を、明視野撮影した画像が示されている。この凝集発生試験では、ナノ粒子としてナノ粒子を使用し、捕捉粒子として捕捉ビーズを使用した。
【0039】
ここで、ナノ粒子には、ビオチン(biotin)をコーティングした直径0.15μmサイズのビーズ(以下、「目的ビーズ」ともいう。)と、ビオチン(biotin)をコーティングしない直径0.15μmサイズのビーズ(以下、「基材ビーズ」ともいう。)との、2種類のビーズを使用した。また、捕捉ビーズには、アビジン(avidin)をコーティングした直径3μmサイズのビーズ(以下、単に「捕捉ビーズ」ともいう。)を使用した。なお、ビーズには、ポリスチレンによって形成されたものを使用した。
【0040】
ナノ粒子と捕捉ビーズとを含んだ液体には、各凝集発生試験で同一のものを使用した。この試験では、生化学実験で一般的に用いられている緩衝液(PBS(リン酸緩衝生理食塩水))を使用した。各試験に使用した、ナノ粒子と捕捉ビーズとを含んだ試液の量は、それぞれ、5μL(マイクロリットル)とした。
【0041】
マイクロピラーアセンブリ10には、マイクロピラー3が設けられたPDMS(ポリジメチルシロキサン)製の基板2と、ガラス製のカバープレート4とを備える、マイクロピラーアセンブリを使用した。マイクロピラー3は、直径100μm、高さ50μmの円柱形状のものとした。マイクロピラー3のアレイ(配列)は、10×10マトリックス(行列)とした。行(列)で互いに隣り合うマイクロピラー3同士の中心軸線間の間隔は200μmとした。
【0042】
マイクロピラーアセンブリ10内での振動誘起流れFは、2軸ピエゾステージ(x-yピエゾステージ)を用いて発生させた。振動誘起流れF(マイクロピラーアセンブリ10)の周波数fは、500Hz、振幅Aは、3.3μmとした。
【0043】
試験時間は15分とした。試験前後の結果は、光学顕微鏡画像を明視野撮影することにより画像化した。
【0044】
試験1では、ナノ粒子として目的ビーズを使用し、当該目的ビーズと捕捉ビーズとを含んだ試液(ナノ粒子・捕捉粒子含有液)に振動誘起流れを発生させた。
図6中、試験1には、試験開始直後の状態(0min:0分)と、試験開始(0min:0分)から15分後の状態(15min:15分)とが示されている。この試験結果からは、ナノ粒子・捕捉粒子含有液に振動誘起流れを生じさせて当該試液を攪拌すると、捕捉ビーズ同士が凝集していることがわかる。
【0045】
次いで、試験2では、試験1と同様の試液をマイクロピラーアセンブリ10内で放置した。
図6中、試験2にもまた、試験開始直後の状態(0min:0分)と、試験開始(0min:0分)から15分後の状態(15min:15分)とが示されている。この試験結果からは、ナノ粒子が、捕捉ビーズと親和性がある場合であっても、ナノ粒子・捕捉粒子含有液を放置しただけでは、捕捉ビーズ同士が凝集していないことがわかる。
【0046】
さらに、試験3には、ナノ粒子として基材ビーズを使用し、当該目的ビーズと捕捉ビーズとを含んだ試液(捕捉粒子含有液)に振動誘起流れを発生させた。
図6中、試験3にもまた、試験開始直後の状態(0min:0分)と、試験開始(0min:0分)から15分後の状態(15min:15分)とが示されている。この試験結果からは、ナノ粒子が、捕捉ビーズと親和性のない基材ビーズである場合、捕捉ビーズ同士だけでは凝集していないことがわかる。
【0047】
以上、3つの試験結果から、捕捉ビーズ同士の凝集は、捕捉ビーズ同士の結合力(親和性)によるものではなく、目的ビーズと捕捉ビーズとの親和性(結合しやすさ)に起因するものと考えられる。なお、
図7には、目的とするナノ粒子21が含まれるサンプル液L0に捕捉粒子22を含ませた状態と、当該捕捉粒子22が前記ナノ粒子21とともに凝集した状態とが、概略的に示されている。
【0048】
前記ナノ粒子検出方法のように、サンプル試液L1中に振動誘起流れFを発生させて当該サンプル試液L1を攪拌することによって、サンプル試液L1中に捕捉粒子凝集体23が発生すれば、サンプル試液L1(サンプル液L0)中に、目的とするナノ粒子21が存在していることを検出することができる。
【0049】
なお、上述のとおり、捕捉粒子22の凝集は、捕捉したナノ粒子21を介した凝集と考えられることから、捕捉粒子22は、互いに捕捉しあわない粒子、例えば、捕捉粒子22同士が互いに親和性を低い粒子であることが好ましいと考えられる。
【0050】
また、前記ナノ粒子検出手段によれば、捕捉粒子凝集体23の発生状態に基いて、ナノ粒子21の濃度を検出することができる。
【0051】
前記ナノ粒子検出手段では、所定濃度のナノ粒子21と捕捉粒子22とを含んだ試液L2を用いることによって予め、試液L2に所定周波数fоの振動誘起流れFを生じさせることによって得られる、捕捉粒子凝集体23の凝集度の経時的変化をナノ粒子濃度特性として求めておき、サンプル試液L1に所定周波数fоの振動誘起流れFを生じさせることによって得られる、捕捉粒子凝集体23の凝集度の経時的変化と、前記ナノ粒子濃度特性から得られる、捕捉粒子凝集体23の凝集度の経時的変化とを比較することにより、サンプル液L0に含まれるナノ粒子21の濃度を同定する。この場合、サンプル液L0に含まれるナノ粒子21の濃度を容易に同定することができる。
【0052】
ここで、凝集体の凝集度とは、凝集体の平均面積(μm2)をいう。凝集体の平均面積は、各凝集体の面積を平均化した平均面積をいう。また、凝集体の面積とは、1つの凝集体の面積(μm2)をいう。ここで、凝集体の面積は、凝集体の投影輪郭形状で区画される面積、より具体的には、凝集体の最外投影輪郭形状で区画される面積である。
【0053】
前記ナノ粒子検出方法によれば、捕捉粒子凝集体23の凝集度は、例えば、当該捕捉粒子凝集体23を含む画像に画像演算処理を行うことによって算出することができる。この場合、マイクロピラープレート1からサンプル試液L1(サンプル液L0)を取り出すことなく、捕捉粒子凝集体23の凝集度を算出することができる。
【0054】
図8は、サンプル試液L1の画像に画像演算処理を行うことによって当該捕捉粒子凝集体23を検出するとともに当該捕捉粒子凝集体23の平均面積(凝集体23の凝集度)を算出するまでの、プロセスの一例を示す画像である。
【0055】
図8に示すように、捕捉粒子凝集体23の凝集度の算出にはまず、振動誘起流れFによる攪拌が終了したサンプル試液L1の光学顕微鏡画像を明視野撮影する。明視野撮影は、例えば、明視野顕微鏡を使用することによって行うことができる。
【0056】
次に、明視野撮影した画像に二値化処理を行う。これによって、分析対象となる画像(ここでは、明視野撮影した画像)を白色と黒色の2色のみの画像に変換することができる。この場合、背景画像とそれ以外の対象物(捕捉粒子22、捕捉粒子凝集体23)との境界を明確にさせることができる。また、この場合、この二値化処理された画像を用いた画像演算処理の速度を向上させることができる。
【0057】
最後に、二値化処理された画像から、捕捉粒子凝集体23の平均面積(μm2)を算出する。この例ではまず、単体の、ナノ粒子21及び捕捉粒子22と、マイクロピラー3との画像を消去し、捕捉粒子凝集体23のみを残すように、画像処理を行う。これによって、背景画像全体に含まれる捕捉粒子凝集体23の総数を算出することができる。また、捕捉粒子凝集体23のみを残すことによって、捕捉粒子凝集体23の総数算出と同時に又はその算出の前後において、捕捉粒子凝集体23の総面積を算出することができる。ここで、捕捉粒子凝集体23の総面積とは、背景画像中に含まれる、各捕捉粒子凝集体23の面積の総面積という。また、1つの捕捉粒子凝集体23の面積(μm2)は、上述のとおり、捕捉粒子凝集体23の投影輪郭形状で区画される面積から算出することができる。捕捉粒子凝集体23の平均面積は、捕捉粒子凝集体23の総面積を捕捉粒子凝集体23の総数で割った値(捕捉粒子凝集体23の総面積/捕捉粒子凝集体23の総数)である。これによって、捕捉粒子凝集体23の凝集度(μm2)は、捕捉粒子凝集体23の平均面積として算出される。
【0058】
このように、前記ナノ粒子検出方法によれば、捕捉粒子凝集体23を含む画像に画像演算処理を行うことによって、マイクロピラープレート1からサンプル試液L1(サンプル液L0)を取り出すことなく、捕捉粒子凝集体23の凝集度を算出することができる。
【0059】
次いで、
図9には、所定濃度のナノ粒子と捕捉ビーズとを含んだ試液L2に、所定周波数fоの振動誘起流れFを生じさせることによって得られる、捕捉粒子凝集体の凝集度の経時的変化を示すグラフが示されている。
【0060】
△プロットで示されるグラフ(以下、「グラフ1」ともいう。)は、試液L2として、ナノ粒子の濃度が5.7×109/mLのサンプル液L0に捕捉ビーズを含ませたものを用いたときのナノ粒子濃度特性を示す。
【0061】
□プロットで示されるグラフ(以下、「グラフ2」ともいう。)は、試液L2として、ナノ粒子の濃度が1.1×109/mLのサンプル液L0に捕捉ビーズを含ませたものを用いたときのナノ粒子濃度特性を示す。
【0062】
〇プロットで示されるグラフ(以下、「グラフ3」ともいう。)は、試液L2として、ナノ粒子の濃度が5.7×108/mLのサンプル液L0に捕捉ビーズを含ませたものを用いたときのナノ粒子濃度特性を示す。
【0063】
◇プロットで示されるグラフ(以下、「グラフ4」ともいう。)は、試液L2として、ナノ粒子の濃度が5.7×107/mLのサンプル液L0に捕捉ビーズを含ませたものを用いたときのナノ粒子濃度特性を示す。
【0064】
グラフ1~4はいずれも、ナノ粒子として目的ビーズを使用した。また、グラフ1~4はいずれも、所定周波数fо=500Hz、振幅A=3.3μmの振動誘起流れFによって発生した捕捉粒子凝集体の凝集度の変化を、振動誘起流れFの発生からの経過時間t(秒)で示したものである。
【0065】
グラフ1~4に示すように、捕捉粒子凝集体の凝集度は、振動誘起流れFが発生してからの経過時間(試験時間)tが長くなるにしたがって大きくなっている。また、捕捉粒子凝集体の凝集度は、サンプル液L0に含まれるナノ粒子の濃度が高くなるにしたがって大きくなっている。
【0066】
その一方で、▲プロットで示されるグラフ(以下、「グラフ5」ともいう。)は、試液L2として、基材ビーズが1.8×1010/mLの濃度で含まれるサンプル液L0に捕捉ビーズを含ませたものを用いたときのナノ粒子濃度特性を示す。
【0067】
グラフ5は、グラフ1~4と同様に、所定周波数fо=500Hz、振幅A=3.3μmの振動誘起流れFによって発生した捕捉粒子凝集体の凝集度の変化を、振動誘起流れFの発生からの経過時間t(秒)で示したものである。グラフ5に示すように、サンプル液L0に含まれるナノ粒子が捕捉ビーズとの親和性が低い基材ビーズである場合、捕捉粒子凝集体23の凝集度は、ほとんど変化していない。
【0068】
■プロットで示されるグラフ(以下、「グラフ6」ともいう。)は、グラフ1と同様、試液L2として、目的ビーズの濃度が5.7×109/mLのサンプル液L0に捕捉ビーズを含ませたものを用いたときのナノ粒子濃度特性を示す。
【0069】
グラフ6は、振動誘起流れFを発生させることなく、そのまま放置したときの、捕捉粒子凝集体の凝集度の変化を経過時間t(秒)で示したものである。グラフ6に示すように、サンプル液L0に含まれるナノ粒子が捕捉ビーズとの親和性が高い目的ビーズであっても、そのまま放置した場合、捕捉粒子凝集体の凝集度は、ほとんど変化していない。
【0070】
上記グラフ1~6の結果から、目的とするナノ粒子21が含まれているだろうと思われるサンプル液L0に捕捉粒子22を含ませた後、上記試験と同じ所定周波数fоの振動誘起流れFを発生させることによって、捕捉粒子凝集体23の凝集度が発生する場合には、当該捕捉粒子凝集体23の凝集度の経時的変化が、上記グラフ1~4のいずれかの、凝集度の経時的変化とほぼ一致するかどうかを確認し、捕捉粒子凝集体23の凝集度の経時的変化が、上記グラフ1~4のいずれかの、凝集度の経時的変化とほぼ一致するときには、そのグラフの、ナノ粒子の濃度に相当するナノ粒子21が含まれていると同定することができる。
【0071】
具体例としては、検査対象となるサンプル液L0に上記試験と同量の捕捉粒子22を含ませ、所定周波数fо=500Hz、振幅A=3.3μmの振動誘起流れFによって捕捉粒子凝集体23が発生した場合、当該捕捉粒子凝集体23の凝集度の経時的変化が、グラフ1の経時的変化とほぼ一致するときには、サンプル液L0には、5.7×109/mL相当の濃度のナノ粒子が含まれていると同定することができる。このように、目的とするナノ粒子21が分かっている、捕捉粒子22を含む試液L2を用いることによって予め、当該試液L2に所定周波数f0の振動誘起流れFを生じさせることによって得られる、捕捉粒子凝集体23の凝集度の経時的変化をナノ粒子濃度特性(検量線)として求めておけば、サンプル液L0に含まれるナノ粒子21の濃度を容易に同定することができる。
【0072】
前記ナノ粒子検出手段では、ナノ粒子21と捕捉粒子22とを含んだ試液L2を用いることによって予め、当該試液L2に振動誘起流れFを生じさせることによって得られる、当該振動誘起流れFの速度Vを、凝集発生速度として求めておき、サンプル試液L1に振動誘起流れFを発生させるとき、当該サンプル試液L1の振動誘起流れFの適切な速度が前記凝集発生速度(V)となるような振動誘起流れFをサンプル試液L1に生じさせる。この場合、サンプル試液L1中にナノ粒子21が含まれているかどうかを、容易に判断することができる。
【0073】
図10には、粒子画像流速測定法(Particle Image Velocimetry:以下、「PIV」ともいう。)を用いることによって、マイクロピラー3の周りに生じた振動誘起流れFの速さ(μm/s)が画像解析された結果が示されている。
【0074】
図10に示すように、マイクロピラー3の周りに生じた振動誘起流れFの速度(速さ)は、マイクロピラー3の周りで異なっている。その異なる振動誘起流れFの速度のうちで、最も大きな速度は、マイクロピラー3の中心軸線のまわりの、各45度の方向の4つの位置(振動誘起流れFの最大速度位置)に生じている。
【0075】
その一方で、振動誘起流れFのピーク速度Vpは、振動誘起流れFの、周波数f(Hz)又は振幅A(μm)に依存している。ここで、振動誘起流れFのピーク速度Vpは、マイクロピラー3の周りの、当該マイクロピラー3の半径方向に分布する、振動誘起流れFの速度をそれぞれ、当該マイクロピラー3の周りの周方向で平均した平均速度のうちの、最も大きい(高い)平均速度である。ただし、本開示において、振動誘起流れFのピーク速度Vpは、複数の解析結果(3回の解析結果)から求められたピーク速度Vpの平均値としている。
【0076】
図11には、振動誘起流れFのピーク速度Vpと、振動誘起流れFの、周波数f又は振幅Aとの関係が示されている。ただし、
図11に示す振動誘起流れの試験結果は、直径1.0μmのポリスチレン製のビーズを、ビーズ濃度が9.1×10
8個/mLとなるように水上に浮かべた条件で得られている。
【0077】
図11中、■プロットで示されるグラフ(以下、「グラフ7」ともいう。)は、周波数fに対するピーク速度Vpの変化を示す。
【0078】
図11に示すように、ピーク速度Vpは、振動誘起流れFの周波数fが大きくなるにしたがって大きくなる。
図11の場合、ピーク速度Vpは、周波数fに比例して増加している。特に、周波数fが500Hz以上となると、その増加量はより大きくなる。
【0079】
これに対し、
図11中、●プロットで示されるグラフ(以下、「グラフ8」ともいう。)は、振幅Aに対するピーク速度Vpの変化を示す。
【0080】
図11に示すように、ピーク速度Vpは、振動誘起流れFの振幅Aが大きくなるにしたがって大きくなる。
図11の場合、ピーク速度Vpもまた、振幅Aに比例して増加している。ただし、
図11の場合、ピーク速度Vpは、周波数fのように、急激に増加することなく、振幅Aに対してほぼ一定の割合で増加している。
【0081】
図11の結果を考慮すれば、振動誘起流れFのピーク速度Vpは、振幅Aによりも、周波数fにより依存していると考えられる。
【0082】
前記ナノ粒子検出手段では、上述のとおり、ナノ粒子21と捕捉粒子22とを含んだ試液L2を用いることによって予め、当該試液L2に振動誘起流れFを生じさせることによって得られる、当該振動誘起流れFの速度Vを、凝集発生速度として求めておき、サンプル試液L1に振動誘起流れFを発生させるとき、当該サンプル試液F1の振動誘起流れFの適切な速度が前記凝集発生速度(V)となるような振動誘起流れFをサンプル試液L1に生じさせる。ここで、「適切な速度」としては、例えば、後述の
図12を参照すれば、100~300μm/sの範囲が挙げられる。この領域では、凝集度が大きく成長し、かつ、当該凝集度の測定における当該測定値のバラツキが小さく済む。
【0083】
図12には、振動誘起流れFのピーク速度Vpと、捕捉粒子凝集体23の凝集度との依存性を示すグラフが示されている。このグラフは、ビオチン(biotin)をコーティングした前記目的ビーズと、アビジン(avidin)をコーティングした前記捕捉ビーズとを含んだ試液に、振動誘起流れFを生じさせることによって、捕捉粒子凝集体23の凝集の発生の有無を試験した凝集試験の結果である。ただし、このグラフは、同じピーク速度Vpの振動誘起流れFで、同一の凝集試験を複数回(本実施形態では、1つのピーク速度Vpの振動誘起流れFにつき、同一の凝集試験を3回行った。)行うことによって得られた、捕捉粒子凝集体23の凝集度の平均値を、異なる振動誘起流れFのピーク速度Vpごとにプロットして得られたものである。
【0084】
図12に示すように、捕捉粒子凝集体23の凝集度は、初め、ピーク速度Vpの増加に応じて増加する傾向にあるが、所定のピーク速度Vp1(この例では、Vp1=300μm
2/s)に達すると、その後、減少傾向となる。この原因は、振動誘起流れFの速さが一定の速さを越えたときに、振動誘起流れFに起因するせん断力によって捕捉粒子凝集体23が分離するためと考えられる。つまり、
図12のグラフの傾向、すなわち、最大凝集度が得られる最適な誘起速度があることは、ナノ粒子21および捕捉粒子22がこの例とは異なるものであっても、同様であると考えられる。つまり、この検出原理は、ナノ粒子21や捕捉粒子22の種類を変えても、それらの特異的アフィニティがあれば、利用することができる。
【0085】
そこで、前記ナノ粒子検出手段では、
図12に示すように、目的とするナノ粒子21と捕捉粒子22とを含んだ試液L2を用いることによって予め、当該試液L2に振動誘起流れFを生じさせることによって得られる、捕捉粒子凝集体23の凝集度が最も大きくなる、当該振動誘起流れFのピーク速度Vpを、最大凝集速度Vpmとして求めておく。
【0086】
図12を参照すれば、本実施形態において、最大凝集速度Vpmは、Vpm=300(μm/s)である。このため、前記ナノ粒子検出手段では、捕捉粒子含有サンプル液L1に振動誘起流れFを発生させるとき、当該捕捉粒子含有サンプル液L1の振動誘起流れFのピーク速度Vpが最大凝集速度Vpm=300(μm/s)となるような振動誘起流れFを捕捉粒子含有サンプル液F1に生じさせる。この場合、振動誘起流れFのピーク速度Vpの制御は、前記駆動装置の制御によって行う。より具体的には、前記2軸ピエゾステージにおける、x方向及びy方向のそれぞれに配置された各ピエゾ素子の振動制御を行う。
【0087】
捕捉粒子含有サンプル液L1の振動誘起流れFのピーク速度Vpが最大凝集速度Vpmとなるように、当該振動誘起流れFを制御すれば、捕捉粒子含有サンプル液L1に振動誘起流れFを発生させることによって得られる捕捉粒子凝集体23として、最も凝集度の大きな捕捉粒子凝集体23を得ることができる。この場合、捕捉粒子凝集体23としてより大きな捕捉粒子凝集体を得ることができるため、ナノ粒子21の有無の判断が容易になる。
【0088】
上述のとおり、前記ナノ粒子検出方法によれば、サンプル液L0を流しながら1つの1つのナノ粒子21をサンプリングする必要がない。このため、前記ナノ粒子検出方法は、少量のサンプル液L0からのナノ粒子21の検出には有効である。
【0089】
また、前記ナノ粒子検出方法によれば、例えば、試験前に、サンプル液L0に対して予め指標処理を行う等の、事前処理が必要ない。このため、前記ナノ粒子検出方法は、ナノ粒子21の検出までに要する時間が短く済む。
【0090】
さらに、前記ナノ粒子検出方法によれば、従来のように、例えば、試験管内のサンプル液L0を、ボルテックスミキサーを用いて攪拌した後、その攪拌液から、目的とするナノ粒子21を分離させる必要がない。このため、前記ナノ粒子検出方法によれば、システム(作業工程及び装置の両方を含む。)のシンプル化を図ることができる。
【0091】
したがって、本発明に係るナノ粒子検出方法によれば、少量のサンプル液から、短い時間でシンプルに、目的とするナノ粒子を検出することが可能な、ナノ粒子検出方法を提供することができる。
【実施例0092】
図14には、本発明の実施例1としての実験1、その他比較例としての対照実験1~3において得られた、捕捉粒子凝集体の凝集度(μm
2)が示されている。ナノ粒子21として、細胞外小胞を用いた実験を行った。この実験で用いた細胞外小胞は、牛の乳に由来する細胞外小胞である。
図13Aには、前記細胞外小胞の概略図が例示的に示されている。捕捉粒子22は、Tim4を結合させた磁気ビーズ(以下、「Tim4磁気ビーズ」ともいう。)とした。
図13Bには、Tim4磁気ビーズの概略図が例示的に示されている。なお、
図13Aの細胞外小胞のサイズは、
図13BのTim4磁気ビーズのサイズより格段に小さいことは明らかである。
【0093】
この実験において、マイクロピラーアセンブリ10には、マイクロピラー3が設けられたPDMS(ポリジメチルシロキサン)製の基板2と、ガラス製のカバープレート4とを備える、マイクロピラーアセンブリを使用した。マイクロピラー3は、直径100μm、高さ50μmの円柱形状のものとした。マイクロピラー3のアレイ(配列)は、10×10マトリックス(行列)とした。行(列)で互いに隣り合うマイクロピラー3同士の中心軸線間の間隔は200μmとした。
【0094】
マイクロピラーアセンブリ10内での振動誘起流れFは、2軸ピエゾステージ(x-yピエゾステージ)を用いて発生させた。振動誘起流れF(マイクロピラーアセンブリ10)の周波数fは、500Hz、振幅は、5.2μmとした。
【0095】
試験時間は15分とした。捕捉粒子凝集体の凝集度は、光学顕微鏡画像を明視野撮影した画像によって算出した。
【0096】
実験1(実施例1)では、細胞外小胞とTim4磁気ビーズとを含んだ液体に振動誘起流れを生じさせたときに得られる、捕捉粒子凝集体の凝集度を測定した。上述のとおり、前記細胞外小胞には、牛の乳に由来する細胞外小胞を用いた。細胞外小胞の濃度は、6.4×10
9/mLであった。Tim4磁気ビーズの濃度は、上述のとおり、2.5×10
6/mLであった。この場合、
図14の実験1に示すように、捕捉粒子凝集体の凝集度は、約200μm
2であった。
【0097】
対照実験1(比較例1)では、Tim4磁気ビーズのみの液体に振動誘起流れを生じさせたときの、捕捉粒子凝集体の凝集度を測定した。Tim4磁気ビーズの濃度もまた、2.5×106/mLとした。この場合、捕捉粒子凝集体の凝集度は、約25μm2を下回った。
【0098】
対照実験2(比較例2)では、細胞外小胞とTim4磁気ビーズとを含んだ液体を放置したときの、捕捉粒子凝集体の凝集度を測定した。この対照実験2では、実験1と同様の条件で、振動誘起流れを発生させることなく、放置した。この場合、捕捉粒子凝集体の凝集度は、約25μm2であった。
【0099】
対照実験3(比較例3)では、細胞外小胞とTim4を結合させた磁気ビーズとを含んだ液体を、ボルテックスミキサーを用いて攪拌させたときの、捕捉粒子凝集体の凝集度を測定した。この対照実験3では、実験1と同様の条件で、振動誘起流れを用いることなく、ボルテックスミキサーを用いて攪拌した。この場合、捕捉粒子凝集体の凝集度は、約25μm2を下回った。
【0100】
上記の各実験結果から、目的とするナノ粒子21を細胞外小胞した場合においても、振動誘起流れによって攪拌させたとき(実施例1)には、捕捉粒子22のみのサンプル液を振動誘起流れによって攪拌させたとき(比較例1)は勿論、ナノ粒子21を含んだままで放置したとき(比較例2)、又は、従来と同様にボルテックスミキサーを用いた攪拌したとき(比較例3)よりも、より大きな捕捉粒子22の凝集が発生していることがわかる。これによって、実際の生体ナノ粒子の検出でも、振動誘起流れを用いた攪拌の有効性が検証された。本発明によれば、ナノ粒子21を含んだサンプル液に振動を与えた場合に発生する凝集度が、ナノ粒子21を含まないサンプル液に振動を与えた場合に発生する凝集度よりも高くなる条件で、ナノ粒子有無を判断することができる。
【0101】
上述したところは、本発明の一実施形態及び一実施例である。本発明に係るナノ粒子検出方法において、この明細書に記載された事項は、特許請求の範囲に記載された事項の範囲内において、種々の追加・削除・変更等を行うことができる。
1:マイクロピラープレート, 2:基板, 3:マイクロピラー, 4:カバープレート, 5:スペーサ, 10:マイクロピラーアセンブリ, 21:ナノ粒子, 22:捕捉粒子, 23:捕捉粒子凝集体, A:振幅, f:周波数, fо:所定周波数, L0:サンプル液, L1:捕捉粒子含有サンプル液, L2:試薬