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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039532
(43)【公開日】2024-03-22
(54)【発明の名称】酸素還元触媒およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 31/06 20060101AFI20240314BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20240314BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20240314BHJP
   B01J 27/24 20060101ALI20240314BHJP
   B01J 35/60 20240101ALI20240314BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20240314BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20240314BHJP
   B01J 35/50 20240101ALI20240314BHJP
【FI】
B01J31/06 M
B01J37/04 102
B01J37/02 101A
B01J27/24 M
B01J35/10 301G
H01M4/86 M
H01M4/90 X
H01M4/86 B
B01J35/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022144151
(22)【出願日】2022-09-09
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(71)【出願人】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】中村 潤児
(72)【発明者】
【氏名】サント-シュ クマル シン
(72)【発明者】
【氏名】武安 光太郎
(72)【発明者】
【氏名】本間 海斗
(72)【発明者】
【氏名】森永 隆志
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 滋啓
(72)【発明者】
【氏名】森 利之
【テーマコード(参考)】
4G169
5H018
【Fターム(参考)】
4G169AA02
4G169AA08
4G169AA09
4G169BA01A
4G169BA02A
4G169BA02B
4G169BA04A
4G169BA08A
4G169BA08B
4G169BA08C
4G169BA22A
4G169BA22B
4G169BB04A
4G169BB08C
4G169BB20C
4G169BC01C
4G169BC02C
4G169BC35A
4G169BD01A
4G169BD02A
4G169BD02B
4G169BD02C
4G169BD04A
4G169BD06A
4G169BD06B
4G169BD12C
4G169BE17A
4G169BE32A
4G169CB81
4G169CC32
4G169DA06
4G169EA02X
4G169EA30
4G169EB17X
4G169EB17Y
4G169EC17X
4G169EC17Y
4G169FA01
4G169FB03
4G169FB06
4G169FB15
4G169FB17
4G169FB57
4G169FC02
4G169FC03
4G169FC10
5H018AA01
5H018BB01
5H018BB05
5H018BB06
5H018BB12
5H018EE05
5H018EE12
5H018EE17
5H018HH04
(57)【要約】
【課題】酸性電解質中で、優れた触媒活性を示す酸素還元触媒材料及びその製造方法を提供する。
【解決手段】エッジ部にピリジン型窒素がドーピングされた窒素ドープグラフェンと、窒素ドープグラフェンに付着されたプロトン伝導体と、を有し、前記窒素ドープグラフェンは、籠状グラフェンを構成している、酸素還元触媒。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エッジ部にピリジン型窒素がドーピングされた窒素ドープグラフェンと、前記窒素ドープグラフェンに付着されたプロトン伝導体と、を有し、
前記窒素ドープグラフェンは、籠状グラフェンを構成している、酸素還元触媒。
【請求項2】
前記プロトン伝導体は、SiO粒子、ZnO粒子、Al粒子、及び、TiO粒子からなる群から選択されるいずれかの粒子と、前記粒子にシランカップリングにより付着した直鎖状の高分子化合物と、前記高分子化合物に結合したプロトン伝導アイオノマーと、を含む、請求項1に記載の酸素還元触媒。
【請求項3】
前記プロトン伝導体は、SiO粒子と、前記SiO粒子に付着したポリマーブラシと、前記ポリマーブラシに結合したプロトン伝導アイオノマーと、を含む、請求項1に記載の酸素還元触媒。
【請求項4】
前記プロトン伝導体は、ポリ(N,N-ジエチル-N-(2-メタクリロイルエチル)-N-メチルアンモニウム・ビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミド)(PDEMM-TFSI)、ポリ(N,N-ジエチル-N-(2-メタクリロイルエチル)アンモニウム・ビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミド)(PDEMH-TFSI)、及びポリ(N,N-ジエチル-N-(2-メタクリロイルエチル)-N-メチルアンモニウム・テトラフルオロボラート)(PDEMM- BF4)からなる群から選択されるいずれかのポリマーブラシと、SiO粒子、ZnO粒子、Al粒子、TiO粒子からなる群から選択されるいずれかのコア粒子と、を有するポリマーブラシ付与微粒子である、請求項1に記載の酸素還元触媒。
【請求項5】
前記籠状グラフェンに形成された細孔の大きさが、5~50μmである、請求項1に記載の酸素還元触媒。
【請求項6】
グラフェンと、テンプレートと、を溶液中で混合して混合物を形成する、混合工程と、
前記混合工程よりも後に、前記グラフェンにピリジン型窒素をドーピングする、ドーピング工程と、
前記ドーピング工程よりも後に、前記混合物中の前記テンプレートを液体に溶解することで除去する、除去工程と、
前記グラフェンにプロトン伝導体を付着させる、付着工程と、を有する、酸素還元触媒の製造方法。
【請求項7】
前記付着工程を含浸法により行う、請求項6に記載の酸素還元触媒の製造方法。
【請求項8】
前記混合工程において、前記テンプレートとしてアルカリ金属塩を用い、
前記除去工程において、前記液体として水を用いる、請求項6に記載の酸素還元触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素還元触媒およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、水素と酸素から水の電気分解の逆反応を利用して電気を生み出す発電装置である。燃料電池は、発電時に温室効果ガスの二酸化炭素や有毒ガスを排出せず、化石燃料を燃焼させる従来の発電システムに比べて、発電効率が高いなどの優れた特徴を有している。燃料電池としては、白金系触媒が使用されるものが主流である。白金は、高い活性を示す一方、高価で希少なレアメタルであるため、白金系触媒に代わる触媒が求められている。
【0003】
燃料電池における白金系触媒に代わる触媒として、窒素ドープグラフェンの研究が進められている(例えば、非特許文献1,2)。グラフェンは、ナノシート構造を有し、通常、複数のグラフェンのナノシートが重なる(スタッキングとも呼ばれる)ように微細組織が形成される。白金系触媒に替わる触媒としての窒素ドープグラフェンの研究の具体的な例としては、非特許文献1には、電解質として水酸化カリウム水溶液が用いられる塩基性環境下で、ピリジン型窒素を含むジシアンジミド(DCDA)を酸化グラフェンにドーピングし、電極触媒として用いることが開示されている。
【0004】
また非特許文献2には、金属元素及びピリジン型窒素元素が炭素材料にドーピングされた、金属-窒素-炭素触媒(N-M-C)が、電解質として水酸化カリウム水溶液を用いる塩基性環境下において、低い過電圧で優れた酸素還元活性を示すと開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Yuanjian Z. et al. J. Mater. Chem., 2012, 22, 6575
【非特許文献2】Fei He et al. Appl. Mater. Interfaces 2018, 10, 35327-35333
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ピリジン型窒素がドーピングされたグラフェンを用いた燃料電池は、酸性電解質環境下において、ピリジンが塩基性であることに起因して、熱的なO吸着反応及び電気化学的なpyri-NH+の還元反応が連動して起こり、水和により安定化し、電極表面における電気化学的酸素還元反応の過電圧が著しく増加し、酸化還元電位が低下してしまう。そのため、非特許文献1及び2に開示されたピリジン型窒素がドーピングされたグラフェンを用いた燃料電池では、酸性電解質中での触媒活性が低かった。また籠状グラフェンを用いた燃料電池では、プロトン供給が不十分で低電位において十分な電流値を得ることができず、優れた触媒活性を示す酸素還元触媒材料にならなかった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、酸性電解質中で、優れた触媒活性を示す非白金系酸素還元触媒材料及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、エッジ部にピリジン型窒素がドーピングされた窒素ドープグラフェンで構成された籠状グラフェンでは、疎水性が過剰であり、燃料電池の正極活物質として用いた場合にプロトン供給が不十分となり、低電位において十分な電流密度値を得られない(このことは、ファラデーの法則から、電極表面の酸素還元反応速度の著しい低下と同じ意味をもつ)こと、及び、当該籠状グラフェンを構成する窒素ドーピングにプロトン伝導体を付着させることで、ミクロな親水性を高め、燃料電池の正極活物質として用いた場合に、低電位において電流密度値が向上することを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の構成を提供する。
(1)エッジ部にピリジン型窒素がドーピングされた窒素ドープグラフェンと、窒素ドープグラフェンに付着されたプロトン伝導体と、を有し、前記窒素ドープグラフェンは、籠状グラフェンを構成している、酸素還元触媒。
【0010】
(2)前記プロトン伝導体は、SiO粒子、ZnO粒子、Al粒子、及び、TiO粒子からなる群から選択されるいずれかの粒子と、前記粒子にシランカップリングにより付着した直鎖状の高分子化合物と、前記高分子化合物に結合したプロトン伝導アイオノマーと、を含む、(1)の酸素還元触媒。
【0011】
(3) 前記プロトン伝導体は、SiO粒子と、前記SiO粒子に付着したポリマーブラシと、前記ポリマーブラシに結合したプロトン伝導アイオノマーと、を含む、(1)の酸素還元触媒。
【0012】
(4)前記プロトン伝導体は、ポリ(N,N-ジエチル-N-(2-メタクリロイルエチル)-N-メチルアンモニウム・ビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミド)(PDEMM-TFSI)、ポリ(N,N-ジエチル-N-(2-メタクリロイルエチル)アンモニウム・ビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミド)(PDEMH-TFSI)、及びポリ(N,N-ジエチル-N-(2-メタクリロイルエチル)-N-メチルアンモニウム・テトラフルオロボラート)(PDEMM- BF4)からなる群から選択されるいずれかのポリマーブラシと、SiO粒子、ZnO粒子、Al粒子、TiO粒子からなる群から選択されるいずれかのコア粒子と、を有するポリマーブラシ付与微粒子である、(1)~(3)のいずれかの酸素還元触媒。
【0013】
(5)前記籠状グラフェンに形成された細孔の大きさが、5~50μmである、(1)~(4)のいずれかの酸素還元触媒。
【0014】
(6)グラフェンと、テンプレートと、を溶液中で混合して混合物を形成する、混合工程と、混合工程よりも後に、グラフェンにピリジン型窒素をドーピングする、ドーピング工程と、ドーピング工程よりも後に、混合物中の前記テンプレートを液体に溶解することで除去する、除去工程と、グラフェンにプロトン伝導体を付着させる、付着工程と、を有する、酸素還元触媒の製造方法。
【0015】
(7)前記付着工程において、含浸法により行う、(6)の酸素還元触媒の製造方法。
【0016】
(8)前記混合工程において、前記テンプレートとしてアルカリ金属塩を用い、
前記除去工程において、前記液体として水を用いる、(6)又は(7)の酸素還元触媒の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、酸性電解質中で、優れた触媒活性を示す酸素還元触媒材料及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態に係る酸素還元触媒の斜視図及び酸素還元触媒に含まれる窒素ドープグラフェンの分子的な構造を示す拡大図である。
図2】本発明の実施形態に係るプロトン伝導体の構造を説明するための模式図である。
図3】本発明の実施形態に係る酸素還元触媒を製造する方法を説明するためのフローチャートである。
図4図3のフローチャートに示される各工程の前後で生成される途中生成物及び最終生成物の模式図である。
図5図3の変形例に係る酸素還元触媒の製造方法のフローチャートである。
図6図3の変形例に係る酸素還元触媒の製造方法のフローチャートである。
図7】実施例1の酸素還元触媒のSEM像である。
図8】実施例1、比較例1~3及び参考例1,2の酸素還元反応試験の結果を示すグラフである。
図9図9(a)は、籠状窒素ドープグラフェンのSEM像を示し、図9(b)は、窒素ドープグラフェンのSEM像である。
図10図10(a)は、籠状窒素ドープグラフェンに滴下された水滴の接触角を示し、図10(b)は、窒素ドープグラフェンに滴下された水滴の接触角を示す。
図11図11(a)は、硫酸に浸漬及び乾燥された籠状窒素ドープグラフェンのSEM像及びSEM-EPMAによるS/C比を示す像であり、図11(b)は、硫酸に浸漬及び乾燥された窒素ドープグラフェンのSEM像及びSEM-EPMAによるS/C比を示す像である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態の一例について説明する。本発明は、以下の例に限定されない。なお、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合がある。このため、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっている場合がある。
【0020】
[酸素還元触媒]
図1は、本発明の実施形態に係る酸素還元触媒の斜視図及び酸素還元触媒に含まれる窒素ドープグラフェンの分子的な構造を示す拡大図である。図1に示される酸素還元触媒100は、エッジ部にピリジン型窒素12がドーピングされた窒素ドープグラフェン11と、窒素ドープグラフェン11に付着されたプロトン伝導体20Aと、を有し、窒素ドープグラフェン11は、籠状グラフェン10を構成している。
【0021】
籠状グラフェン10は、細孔が形成されている。籠状グラフェンにおける細孔は、所定の方向に貫通している。籠状グラフェン10に形成された細孔の大きさDは、例えば、5~20μmであり、5~50μmであってもよく、50~100μmであってもよい。籠状グラフェンに形成された細孔の大きさが十分大きいことで、疎水性が失われ、上記の範囲に収まっていることで、籠状グラフェン10の疎水性を担保できる。
【0022】
籠状グラフェン10に形成された細孔の大きさDは、走査型電子顕微鏡により確認できる。籠状グラフェン10に形成された細孔の大きさDは、走査型電子顕微鏡像において10個以上の細孔のそれぞれの最大長さの平均値をとることで算出される。
【0023】
籠状グラフェン10は、例えば、グラフェン骨格を有する複数のシートで構成されており、内部に複数のシートで囲まれた細孔を有する。一つの籠状グラフェンに着目したとき、細孔は、例えば、所定の方向に貫通している。籠状グラフェン10に形成された細孔の平面視形状は、特に限定されず、例えば、略長方形、略円形、略楕円形である。
【0024】
籠状グラフェン10で構成された酸素還元触媒100において、全体に占めるピリジン型窒素12の含有率は、0.04at%以上15.00at%以下であればよく、2.0at%以上10.0at%以下であればより好ましい。
【0025】
酸素還元触媒100において、全体に占めるピリジン型窒素12の含有率は、X線光電子分光測定により炭素原子に対する窒素原子の原子数密度を算出することで決定される。
【0026】
ピリジン型窒素(ピリジニック窒素)12は、図1に示すように、窒素ドープグラフェン11のエッジ部にドープされた窒素原子のうち、配位数が2つの窒素原子を意味している。なお、配位数が3つの窒素原子はグラフェン型窒素である。
【0027】
籠状グラフェン10で構成された酸素還元触媒100において、全体に占めるプロトン伝導体20Aの含有率は、例えば、0.01質量%以上0.10質量%以下であり、0.02質量%以上0.05質量%以下であることが好ましい。
【0028】
プロトン伝導体20Aは、例えば、籠状グラフェン10の表面に付着している。酸素還元触媒100において、全体に占めるプロトン伝導体20Aの含有率は、X線光電子分光測定によりフッ素の含有率を測定することで算出される。
【0029】
プロトン伝導体20Aは、例えば、SiO粒子、ZnO粒子、Al粒子、TiO粒子である。
固体表面が塩基にプロトンを与える能力,または塩基から電子対を受け取る能力である表面をもつ酸化物を固体酸と呼び、シリカ粒子表面も固体酸強度は低いながら、この固体酸に分類ができ、上記のようにプロトン伝導体20Aとして使用可能である。シリカ粒子など、プロトン伝導体20Aとして使用可能と示した上記粒子以外で、固体酸性表面をもつ酸化物としては、シリカ・アルミナ(SiO2・Al2O3)、TiO2,などである。
その他、プロトン伝導体20Aに替えて、或いは、プロトン伝導体20Aとともに他のプロトン伝導体が窒素ドープグラフェン11に付着されていてもよい。
【0030】
図2は、本発明の実施形態に係るプロトン伝導体の構造を説明するための模式図である。図2に示されるプロトン伝導体20Bは、コア粒子21、コア粒子21に付着したイオン液体22a及びイオン液体22aに結合したプロトン伝導アイオノマー22bを含む。本実施形態において、イオン液体22a及びプロトン伝導アイオノマー22bは、総称して、結合部22と呼称される場合がある。
【0031】
コア粒子21は、例えば、SiO粒子、ZnO粒子、Al粒子、(SiO・Al)粒子、及びTiO粒子からなる群から選択されるいずれかの粒子である。表面に水酸基が出ている無機微粒子であれば、原理的にはPSiPと同じ方法でポリマーブラシをグラフトすることが可能である。実際に行ったことのある無機微粒子は、ZnO、Al2O3、TiO2が挙げられ、MOFの一つであるUiO-66にもポリマーブラシをグラフトすることも可能である。
上述の通り、固体表面が塩基にプロトンを与える能力,または塩基から電子対を受け取る能力である表面をもつ酸化物を固体酸と呼び、シリカ粒子表面も固体酸強度は低いながら、この固体酸に分類ができる。よって、PSiPのSi部に相当するSiO2粒子は、こうした、上記列挙したような固体酸表面機能を有する粒子に置き換えた場合であっても、窒素ドープグラフェン表面の活性サイトである塩基性をもつピリジニック窒素サイトの間に、酸・塩基界面を形成すると考えられる。
高速プロトン拡散現象を生じる界面では、プロトンが酸性基をもつ界面を利用して拡散を起こすため、塩基性活性サイトをもつグラフェンとの間には、固体酸・塩基界面を用意し、プロトンが容易に拡散する経路をつくることが、酸素還元反応後の水系分子(H3O)の拡散を介した、電極表面の過剰な過電圧低下には必要不可決である考えられる。
【0032】
イオン液体22aは、コア粒子21と共有結合している。イオン液体22aは、例えば、ポリマーブラシを有するものであり、直鎖状の高分子であってもよい。すなわち、図2の拡大図には、ポリマーブラシを有するイオン液体を備えるものの例が示されているが、この例に限定されない。例えば、コア粒子21にシランカップリングにより付着した直鎖状の高分子化合物と、高分子化合物に結合したプロトン伝導アイオノマーと、を含むプロトン伝導体であってもよい。
【0033】
また、イオン液体22aは、固体酸・塩基界面を有し、且つプロトン伝導を速くできる特性を有するイオン液体である。イオン液体22aが、このようなイオン液体であるか否かは、イオン液体の融点が室温以下であること、および導電率が1 mS/cm以上であることをいずれも満たすか否かにより識別できる。もし上記の両方を満たす場合、固体酸・塩基界面を有し、且つプロトン伝導を速くできる特性を有するイオン液体に該当すると識別し、いずれか一方を満たさない場合、上記イオン液体に該当しないと識別する。
【0034】
ポリマーブラシを有するイオン液体のうち、イオン液体22aとして使用可能なものは、例えば、ポリ(N,N-ジエチル-N-(2-メタクリロイルエチル)-N-メチルアンモニウム・ビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミド)(PDEMM-TFSI (PSiPとも称される))、ポリ(N,N-ジエチル-N-(2-メタクリロイルエチル)アンモニウム・ビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミド)(PDEMH-TFSI)、ポリ(N,N-ジエチル-N-(2-メタクリロイルエチル)-N-メチルアンモニウム・テトラフルオロボラート)(PDEMM- BF4)である。
【0035】
直鎖状の高分子であるイオン液体のうち、イオン液体22aとして使用可能なものは、例えば、ポリ(N,N-ジエチル-N-(2-メタクリロイルエチル)-N-メチルアンモニウム・ビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミド)(PDEMM-TFSI)、ポリ(N,N-ジエチル-N-(2-メタクリロイルエチル)アンモニウム・ビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミド)(PDEMH-TFSI)、ポリ(N,N-ジエチル-N-(2-メタクリロイルエチル)-N-メチルアンモニウム・テトラフルオロボラート)(PDEMM- BF4)である。
【0036】
プロトン伝導アイオノマー22bは、イオン液体22aとイオン結合している。プロトン伝導アイオノマー22bは、例えば、ナフィオンである。
【0037】
上記のようなプロトン伝導体20Bは、例えば、ポリ(N,N-ジエチル-N-(2-メタクリロイルエチル)-N-メチルアンモニウム・ビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミド)(PDEMM-TFSI)、ポリ(N,N-ジエチル-N-(2-メタクリロイルエチル)アンモニウム・ビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミド)(PDEMH-TFSI)、ポリ(N,N-ジエチル-N-(2-メタクリロイルエチル)-N-メチルアンモニウム・テトラフルオロボラート)(PDEMM- BF4)をポリマーブラシ、SiO粒子、ZnO粒子、Al粒子、及びTiO粒子からなる群から選択されるいずれかの粒子をコア粒子21として用いたポリマーブラシ付与微粒子である。プロトン伝導体20Bは、ポリ(N,N-ジエチル-N-(2-メタクリロイルエチル)-N-メチルアンモニウム・ビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミド)(PDEMM-TFSI)、ポリ(N,N-ジエチル-N-(2-メタクリロイルエチル)アンモニウム・ビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミド)(PDEMH-TFSI)、ポリ(N,N-ジエチル-N-(2-メタクリロイルエチル)-N-メチルアンモニウム・テトラフルオロボラート)(PDEMM- BF4)をポリマーブラシ、SiO粒子、ZnO粒子、Al粒子、TiO粒子をのいずれかをコア粒子として用いたポリマーブラシ付与微粒子と、ナフィオンからなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。上記群に含まれるプロトン伝導体は、特に優れた触媒活性を示す。
酸素還元触媒100は、単一種のプロトン伝導体20Bが付着されていてもよく、複数種のプロトン伝導体20Bが付着されていてもよい。
【0038】
図2に示されるような、プロトン伝導アイオノマー22bとしてナフィオンを有するプロトン伝導体20Bは、SO3-基でプロトン伝導を示す。
【0039】
また、プロトン伝導体20A、20Bは、Fe粒子及びCo粒子の少なくとも一方をさらに含んでいてもよい。Fe粒子及びCo粒子の少なくとも一方は、例えば、窒素ドープグラフェン11のエッジ部にドーピングされる。また、Fe粒子及びCo粒子は、ピリジン型窒素12と結合していてもよい。
【0040】
[酸素還元触媒の製造方法]
図3は、本発明の実施形態に係る酸素還元触媒を製造する方法を説明するためのフローチャートである。図4は、図3のフローチャートに示される各工程の前後で生成される途中生成物及び最終生成物の模式図である。具体的には、図4(a)は、酸素還元触媒の製造方法に用いる材料、図4(b)~図4(d)は、酸素還元触媒の製造方法で生成される途中生成物、図4(e)は、酸素還元触媒の製造方法で生成される最終生成物の模式図である。
【0041】
本発明の実施形態に係る酸素還元触媒の製造方法は、グラフェンおよびテンプレートを溶液中で混合して混合物を形成する混合工程、混合工程よりも後に、グラフェンにピリジン型窒素12をドーピングし、窒素ドープグラフェンを形成するドーピング工程、ドーピング工程よりも後に、混合物中のテンプレートを液体に溶解することで除去して籠状グラフェンを形成する除去工程、並びに、グラフェン又は窒素ドープグラフェンにプロトン伝導体を付着させる付着工程、を有する。
【0042】
<混合工程>
まず、図4(a)に示されるグラフェン11Aおよびテンプレート30を溶液中で混合する。グラフェン源としては、例えば、酸化グラフェンを含有する蒸留水、イソプロピルアルコール水溶液、メチルアルコール水溶液等を用いる。テンプレート30としては、アルカリ金属塩などの水溶性のものを用いる。アルカリ金属塩としては、例えば、NaCl、KCl、NaNOを用いる。すなわち、テンプレートを含む溶液としては食塩水、塩化カリウム水溶液、硝酸ナトリウム水溶液等を用いる。混合は、例えば、超音波分散装置および回転子を用いてグラフェン源の溶液を拡散してグラフェンを分散し、次いで、テンプレート30を含む溶液をグラフェン源の溶液に混合し、回転子を用いて行う。
【0043】
混合工程において、溶液中でグラフェン11A及びテンプレート30を混合後、混合溶液を乾燥する。乾燥後、グラフェン11A及びテンプレート30の混合物40を得る(図4(b))。混合物40において、テンプレート30は、複数のグラフェンシートの間に入り込んでいる。
【0044】
<ドーピング工程>
次いで、混合物40中のグラフェン11Aにピリジン型窒素12をドーピングし、窒素ドープグラフェン11を形成する(図4(c))。窒素ドープグラフェン11の形成は、気相法により行う。気相法で行う場合、例えば、混合物40を窒素含有ガス雰囲気下で加熱することにより行うことができる。窒素含有ガスとしては、例えば、窒素及びアンモニアの混合ガスを用いる。ドーピング工程は、例えば、窒素含有ガスを流通可能な装置を用い、窒素含有ガスの分量は最終生成物におけるピリジン型窒素の含有率を考慮して流通する。ドーピング工程により、混合物40は、グラフェン11Aが窒素ドープグラフェン11となった混合物50になる。
【0045】
<除去工程>
次いで、混合物50中のテンプレート30を液体に溶解することで除去し、窒素ドープグラフェンで構成された籠状グラフェン60を形成する(図4(d))。テンプレート30の除去は、例えば、混合物50を水に浸漬し、撹拌することで行う。除去工程により、混合物50中のテンプレート30が位置していた領域は、除去工程後、空隙となる。
【0046】
<付着工程>
次いで、窒素ドープグラフェン11にプロトン伝導体20Aを付着させる(図4(e))。窒素ドープグラフェンへのプロトン伝導体20Aの付着は、例えば、含浸法により行う。含浸法により行う場合、例えば、イソプロピルアルコールと水の混合溶液に窒素ドープグラフェンとプロトン伝導体20Aを分散させ、室温あるいは摂氏60度で乾燥させる。上記手段により、図1に示されるような酸素還元触媒100を製造できる。
【0047】
付着工程において、窒素ドープグラフェン11にプロトン伝導体20Bを付着させる場合、例えば、ポリマー重合によりプロトン伝導体20Bを形成し、含浸法によりプロトン伝導体20Bも窒素ドープグラフェン11を付着させることができる。含浸法により行う場合、例えば、イソプロピルアルコールと水の混合溶液に窒素ドープグラフェン11とプロトン伝導体20Bを分散させ、室温あるいは摂氏60度で乾燥させる。上記手段により、図2に示されるようなプロトン伝導体20Bが窒素ドープグラフェンに付着した酸素還元触媒を製造できる。
【0048】
<添加工程>
Fe粒子及びCo粒子の少なくとも一方をさらに含む酸素還元触媒を製造する場合、酸素還元触媒の製造方法は、さらに添加工程を有する。添加工程では、Fe含有溶液及びCo含有溶液のいずれか一方を付着工程で得られた酸素還元触媒に添加する。Fe含有溶液及びCo含有溶液のいずれか一方の添加は、例えば、滴下、塗布及び浸漬等の手段により行うことができる。Fe含有溶液としては、例えば、塩化鉄6水和物、硝酸鉄、鉄系錯体として三水和物六シアノ鉄カリウム(K4Fe(CN)6・3H2O)、他Fe含有錯体およびFe含有塩を用いることができる。Co含有溶液としては、例えば、塩化コバルト6水和物、硝酸コバルトなど、Co含有錯体およびCo含有塩を用いることができる。
【0049】
本発明の酸素還元触媒によれば、エッジ部にピリジン型窒素がドーピングされた窒素ドープグラフェンで構成された籠状グラフェンにおいて、プロトン伝導体が窒素ドープグラフェンに付着されていることで、ミクロな親水性を高め、燃料電池の正極活物質に用いた際に、低電位における電流値を向上でき、優れた触媒活性を示すことができる。具体的には、図1に示される、プロトン伝導体20Aが付着された酸素還元触媒100によれば、籠状グラフェン10の籠状構造エッジ近傍にプロトン伝導体20Aが留まり、プロトン伝達経路として機能するため、エッジ近傍の活性点へのプロトン供給が十分になる。従って、正極活物質として優れた触媒活性を示すことができる。
【0050】
また、図2に示されるような、コア粒子21、イオン液体22a及びプロトン伝導アイオノマー22bを含むプロトン伝導体が窒素ドープグラフェンに付着された酸素還元触媒によれば、さらに、籠状グラフェン10の籠状構造内にプロトン伝導体20Aが留まり、籠状構造内の活性点に対するプロトン伝達経路として機能するため、より優れた触媒活性を得る効果を奏する。
【0051】
金属系正極表面上で起こる電気化学的酸素還元反応は、以下のような5つの素反応をへると考えられる。このすべての正極上での素反応経路をへることで、4電子酸素還元反応が完結し、発電が可能となる。
O2 + * → O2*・・・・・(1)
O2*+ (H+ + e- ) → HO2*・・・・(2)
HO2* + (H+ + e-)→ H2O + O*・・(3)
O*+ (H+ + e- ) → HO* ・・・(4)
HO*+ (H+ + e- ) → H2O + * ・・(5)
(ここで上記式(1)~(5)中、*印は、金属電極表面の活性サイトを表す。例えば、O2*は活性化したO2を表す。)
(1)から(5)のうち、特に、(1)と(2)でとまってしまう(2電子酸素還元反応)と、発電性能につながらない。(1)から(5)までの素反応を完結させるためには、十分なH+(プロトン)が、活性サイト上の活性種と遭遇させる機会をつくる必要がある。従来の研究では、ともすれば活性サイト近傍の化学種の吸着状態のみに注目するあまり、電気化学的酸素還元反応を円滑にすすめ、完結させるうえで必要不可欠なプロトンが活性サイトに十分に供給される経路を、固体触媒の界面に設計することを怠っていたと考えられる。
本実施形態では、図2に例示されるようなコア粒子21にイオン液体22a及びプロトン伝導アイオノマー22bが結合されているプロトン伝導体を窒素ドープグラフェン界面に配置することに注目し、上記従来研究の問題点を根本的に解決することも可能な手段を見出した。
【0052】
本発明は、上記の構成に限らず、特許請求の範囲に記載の要旨の範囲内で適宜変更を加えてもよい。例えば、図6にフローチャートを示すような酸素還元触媒の製造方法により、酸素還元触媒を製造してもよい。図6は、図3の変形例に係る酸素還元触媒の製造方法のフローチャートである。本実施形態に係る酸素還元触媒の製造方法において、グラフェンにプロトン伝導体を付着させる付着工程は、グラフェンに窒素をドーピングするドーピング工程及び混合物中のテンプレートを液体に溶解して除去する除去工程の少なくとも一方よりも先に行ってもよい。図6に示す例では、付着工程をドーピング工程及び除去工程よりも先に行う場合の例を示したが、付着工程は、ドーピング工程よりも後除去工程よりも先に行ってもよい。
【実施例0053】
以下、本発明の実施例を説明する。本発明は、以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0054】
[実施例1]
先ず、準備工程として、酸化グラフェン及び蒸留水を0.1(mL/mg)となるようにビーカー内に混合し、混合した酸化グラフェン含有蒸留水を20分間超音波分散した。
【0055】
次いで、回転子を用いて、酸化グラフェン含有蒸留水を回転速度400rpm、24時間撹拌した。
【0056】
次いで、混合工程として、上記撹拌された酸化グラフェン含有蒸留水に、テンプレートとして塩化ナトリウムを濃度0.33g/mLで含む塩化ナトリウム水溶液mLを混合した。次いで、回転子を用いて、混合溶液を回転速度600rpm、24時間撹拌して混合溶液を得た。
【0057】
次いで、混合溶液を80~100℃の温度環境下で、撹拌子を用いて撹拌しながら24時間かけて乾燥した。次いで、混合溶液をDrying Oven(Fine製、型番:F0-60P)を用いて乾燥することで、テンプレート及びグラフェンの混合物を得た。
【0058】
次いで、ドーピング工程として、テンプレート及びグラフェンの混合物を化学気相成長装置内に載置し、窒素ガスを流量25ml/min、アンモニアガスを流量25ml/minで流すとともに750℃で3時間加熱して混合物中のグラフェンにピリジン型窒素をドーピングした。
【0059】
次いで、先ず、ドーピング工程後の混合物を蒸留水(溶媒)200 mL(体積)と混合し、回転子を用いて回転速度600rpmで1時間混合して溶液を得た。次いで、除去工程として、該溶液を蒸留水及びアセトンを用いて、吸引濾過し、固体残渣を得た。次いで、固体残渣を70℃の温度環境下で24時間乾燥し、窒素ドープグラフェンで構成された籠状グラフェンを得た。
【0060】
次いで、付着工程として、含浸法を用いて籠状構造内にPSiPを導入した。このようにして、実施例1の酸素還元触媒を用意した。
【0061】
<SEM像観察>
実施例1の酸素還元触媒を走査電子顕微鏡で観察した。図7は、実施例1の酸素還元触媒のSEM像である。図7には、説明の便宜上、上記実施形態で使用した参照符号を各構成に対応するように示している。図7は、籠状グラフェンの開口部を正面から観察したSEM像である。図7より、籠状グラフェン内にプロトン伝導体であるPSiPが複数付着されていることが確認された。
【0062】
<細孔の大きさの測定>
実施例1で作製した酸素還元触媒に対して、走査型電子顕微鏡により細孔の大きさを測定した。具体的には、走査型電子顕微鏡像において10個以上の細孔のそれぞれの最大長さの平均値をとったところ、38μmであった。尚、細孔のそれぞれの最大長さは、10~40μmの範囲にあった。
【0063】
[比較例1]
比較例1として、混合工程、除去工程及び付着工程を行わなかったことを除き、実施例1と同様の方法でピリジン型窒素がドープされた窒素ドープグラフェンで構成された酸素還元触媒を作製した。
【0064】
[比較例2]
比較例2として、混合工程及び除去工程を行わなかったことを除き、実施例1と同様の方法で、ピリジン型窒素がドープされた窒素ドープグラフェンにPSiPが付着された酸素還元触媒を作製した。
【0065】
[比較例3]
比較例3として、付着工程を行わなかったことを除き、実施例1と同様の方法でピリジン型窒素がドープされた窒素ドープグラフェンで構成された籠状グラフェンで構成された酸素還元触媒を作製した。
【0066】
[参考例1]
参考例1として、白金/炭素触媒(Alfa Aesar社製、品番:HiSPEC3000)を用意した。
【0067】
[参考例2]
参考例2として、参考例1の白金/炭素触媒に対して実施例1の付着工程と同様の手順でPSiPを付着させた酸素還元触媒を用意した。
【0068】
<酸素還元反応試験>
実施例1、比較例1~3及び参考例1,2の酸素還元触媒に対して、ポテンショスタット装置(Metrohm社製、型番:(PGSTAT302N)を用いて酸素還元反応試験を行った。
図8は、実施例1、比較例1~3及び参考例1,2の酸素還元反応試験の結果を示すグラフである。図8において、グラフの横軸は、可逆水素電極を基準にして測定された電圧(ポテンシャル)を示している。グラフの縦軸は、電流密度を示している。バブリングによる酸素飽和条件において1.0Vから10mV毎秒で電位を低下させ、取得した電流密度値から、窒素飽和条件において1.0Vから10mV毎秒で電位を低下させ、取得した電流密度値を差し引くことで図8を得た。
【0069】
図8より、実施例1の酸素還元触媒は、窒素ドープグラフェンで構成された酸素還元触媒(比較例1)と比べ、オンセットポテンシャルが正方向にシフトするとともに、大きな電流値をとり、白金/炭素触媒と同等な極めて優れた触媒活性を示すことが確認された。
一方、窒素ドープグラフェンで構成された籠状グラフェンで構成された酸素還元触媒(比較例3)は、比較例1と比べ、オンセットポテンシャルが正方向にシフトする一方、低電位側の電流値が上がりきらないことが確認された。
【0070】
これは、窒素ドープグラフェンで構成された酸素還元触媒が籠状構造を有することで、疎水性が向上する一方、疎水性の向上により活性点へのプロトン供給が不十分であった比較例3に対し、実施例1であさらにプロトン伝導体としてPSiPが窒素ドーピングに付着されたことにより、ナフィオンの親水性の部位がプロトンを運ぶ親水性の部位がとして生じ、マクロな疎水性を維持するともにミクロな親水性を高め、プロトンの補給が向上されていることが原因であると考えられる。
【0071】
[製造例1]
付着工程を行わなかったことを除き、実施例1と同様の方法で、籠状窒素ドープグラフェンで構成された酸素還元触媒を作製した。
【0072】
図9(a)は、籠状窒素ドープグラフェン(製造例1)のSEM像を示し、図9(b)は、窒素ドープグラフェン(比較例1)のSEM像である。図9(a)及び(b)に示されるSEM像より、比較例1の窒素ドープグラフェンに籠状構造が確認されないのに対し、製造例1の籠状窒素ドープグラフェンは、複数の籠状構造を有することが確認された。
【0073】
図10(a)は、籠状窒素ドープグラフェン(製造例1)に滴下された水滴の接触角を示し、図10(b)は、窒素ドープグラフェン(比較例1)に滴下された水滴の接触角を示す。図10(a)及び(b)より、比較例1における接触角は約92°であるのに対し、製造例1における接触角は約127°であり、製造例1では、籠状構造を有することにより巨視的な疎水性が向上していることが確認された。
【0074】
さらに以下の手段により、製造例1及び比較例1の酸素還元触媒に対して疎水性の評価を行った。先ず、酸素還元触媒0.5mgを600μLのIPA及び400μLのHOと混合し、触媒インクをそれぞれ作製した。この触媒インクをカーボンテープにμピペットを用いて10μL塗布した。次いで、カーボンテープを0.1mol/LのHSOに1時間浸漬した。次いで、カーボンテープを取り出し、60℃で15分間乾燥することで、製造例1及び比較例1に係るSEM-EPMA用試料を作製した。製造例1のSEM-EPMA用試料及び比較例1のSEM-EPMA用試料に対し、SEM-EPMAによる分析を行った。
【0075】
図11(a)は、製造例1のSEM-EPMA用試料のSEM像及びSEM-EPMAによるS/C比を示す像であり、図11(b)は、比較例1のSEM-EPMA用試料のSEM像及びSEM-EPMAによるS/C比を示す像である。図11(a)より、製造例1では、窒素ドープグラフェンが籠状構造を有することで、全体的にS/C比が低く、硫酸水溶液への浸漬によるHSO の籠状構造内への付着が抑制されていることが確認された。一方、図11(b)では、粒子全体でS/C比が高く、硫酸水溶液の浸漬によりHSO が粒子全体に付着していることが確認された。すなわち、製造例1では、巨視的な構造による疎水性を示すことが確認された。ドーピング工程により、籠状グラフェンの巨視的な構造は、崩れないと考えられ、その籠状グラフェンによる特性は引き継がれると推定される。
【符号の説明】
【0076】
10:籠状グラフェン
11:窒素ドープグラフェン
11A:グラフェン
12:ピリジン型窒素
20A、20B:プロトン伝導体
21:コア粒子
22:結合部
22a:イオン液体
22b:プロトン伝導アイオノマー
100:酸素還元触媒
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11