(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039533
(43)【公開日】2024-03-22
(54)【発明の名称】耐候性試験装置及び耐候性試験方法
(51)【国際特許分類】
G01N 17/00 20060101AFI20240314BHJP
【FI】
G01N17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022144152
(22)【出願日】2022-09-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】栃木 華恵
(72)【発明者】
【氏名】宮本 慎一
(72)【発明者】
【氏名】柏女 恵
【テーマコード(参考)】
2G050
【Fターム(参考)】
2G050BA05
2G050BA09
2G050CA01
2G050CA03
2G050EC10
(57)【要約】
【課題】実曝に即した劣化状態と、耐候性試験時間の短縮とを両立することの可能な耐候性試験装置を提供する。
【解決手段】光を透過可能な石英ガラス板16を有する加圧容器2と、加圧容器2内に配置され、試料Sを保持する試料保持部3と、加圧容器2内に酸素ガスを含む気体を導入するガス導入管5と、加圧容器2内の気圧を調整する圧力調整器8と、を有し、加圧容器2内の試料Sに対して、石英ガラス板16を介して太陽光を照射する。このとき、圧力調整器8により、加圧容器2の内圧を調整し、酸素分圧を増加させることにより、劣化を促進させ、太陽光を用いることで、実曝に応じた劣化状態を実現すると共に、劣化するまでの所要時間を短縮させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加圧容器と、
前記加圧容器内に配置され、試料を保持する試料保持部と、
前記加圧容器内に酸素ガスを含む気体を導入するガス導入部と、
前記加圧容器の内圧を所定圧に調整する圧力調整部と、を備え、
前記加圧容器は、太陽光を透過可能な光透過部を有することを特徴とする耐候性試験装置。
【請求項2】
太陽光を集光し、集光した光を、前記光透過部を介して前記試料に照射する集光機構を備えることを特徴とする請求項1に記載の耐候性試験装置。
【請求項3】
前記加圧容器に導入される前に前記気体を加湿する加湿部と、
前記加圧容器内において前記試料に液体を噴霧する噴霧部と、
前記試料の温度を調整する温度調整部と、
前記気体の導入量、前記加圧容器の内圧、前記気体の湿度、及び前記試料の温度の少なくとも1つを検出する検出部と、
前記検出部による検出値に基づいて、前記ガス導入部、前記圧力調整部、前記加湿部、前記噴霧部、及び、前記温度調整部の少なくとも1つを制御する制御部と、
を備えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の耐候性試験装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記ガス導入部から導入される前記酸素ガスの前記気体全体に対する濃度が20%以上となるように、前記ガス導入部を制御することを特徴とする請求項3に記載の耐候性試験装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記加圧容器内の前記酸素ガスの酸素分圧が0.2MPa以上0.9MPa以下となるように、前記ガス導入部及び前記圧力調整部の少なくとも一方を制御することを特徴とする請求項3に記載の耐候性試験装置。
【請求項6】
請求項1又は請求項2に記載の耐候性試験装置を用いて前記試料の耐候性を評価する試験方法であって、
前記試料保持部に前記試料を保持させて前記加圧容器内に前記酸素ガスを導入し、
前記加圧容器の内圧を加圧して前記酸素ガスの酸素分圧を所定圧に調整し、
当該所定圧を保った状態で前記太陽光を前記試料に照射することを特徴とする耐候性試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐候性試験装置及び耐候性試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機材料や無機材料が、太陽などの光や熱、雨などの水分、大気中の酸素等によってどのくらいで劣化するかという耐候性試験を行う場合、実環境下で試験を行うことが最良である。しかし、実環境下での試験では、試験結果を得るまでに長期間を要してしまうことがある。そこで、太陽光よりも高光量の光源を有する耐候促進試験装置を用いて耐候性試験を行い、各種材料の耐候性の試験結果を早期に取得することが行われている。このような耐候性試験装置として、サンシャインウェザオメーター(SWOM)、メタルウェザーメーター(MW)、スーパーUV(SUV)、キセノンウェザーメーター(例えば特許文献1,2を参照)などが知られている。
【0003】
サンシャインウェザオメーターは、カーボンアークからなる光源を備え、紫外部から可視光部の波長を含む光をこの光源から試料に照射すると共に、水噴霧装置により一定時間試料に水を噴霧することにより、短期間で耐候性試験を実現する装置である。この装置では、ある程度の試験期間の短縮を行うことができる。また、メタルウェザーメーター及びスーパーUVは、サンシャインウェザオメーターよりも強力な光源であるメタルハライドランプを備え、紫外部から可視光部までの高光量の光をこの光源から試料に照射すると共に、水噴霧装置により一定時間試料に水を噴霧する装置である。これらの装置では、高光量の光源を用いているため、サンシャインウェザオメーターよりも短期間で耐候性試験を行うことができる。
【0004】
また、耐候性試験装置として、密閉チャンバ内に試料を配置し、密閉チャンバ内に酸素ガスを導入すると共に、密閉チャンバ内の試料に太陽光を集中させて劣化させるようにした促進耐候試験装置(例えば、特許文献3参照。)等も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平1-21891号公報
【特許文献2】特公平1-28897号公報
【特許文献3】特開2004-170407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び特許文献2に記載の耐候性試験装置では、耐候性試験を促進させて試験時間の短縮を図るため、太陽光ではなく、高光量な光源を用いている。そのため、光源を用いて劣化させた試料と、太陽光を用いて実曝により劣化させた試料とでは、劣化状態が異なるという問題がある。
また、特許文献3に記載の促進耐候試験装置は、太陽光を用いた耐候試験方法であるため、実曝に近い劣化状態を得ることのできる耐候試験である。この耐候試験方法においては、酸素ガスを導入し促進性を高めているが、導入する酸素量は100%が上限であるため、試験時間の短縮には限界がある。
【0007】
本発明は、上述した課題を解決するためのものであり、実曝に即した劣化状態と、耐候試験時間の短縮とを両立することの可能な耐候性試験装置及び耐候性試験方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の一態様によれば、加圧容器と、加圧容器内に配置され、試料を保持する試料保持部と、加圧容器内に酸素ガスを含む気体を導入するガス導入部と、加圧容器の内圧を所定圧に調整する圧力調整部と、を備え、加圧容器は、太陽光を透過可能な光透過部を有する耐候性試験装置が提供される。
また、本発明の他の態様によれば、上記態様の耐候性試験装置を用いて試料の耐候性を評価する試験方法であって、試料保持部に試料を保持させて加圧容器内に酸素ガスを導入し、加圧容器の内圧を加圧して酸素ガスの酸素分圧を所定圧に調整し、所定圧を保った状態で太陽光を試料に照射する耐候性試験方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、実曝に即した劣化状態の試料を得ることができると共に、耐候性試験の試験時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係る耐候性試験装置の構成を模式的に示す断面図である。
【
図2】耐候性試験装置の変形例の構成を模式的に示す断面図である。
【
図3】耐候性試験装置の変形例の構成を模式的に示す断面図である。
【
図4】試料の一例としての化粧シートを示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ、本発明の一実施形態に係る耐候性試験装置及び耐候性試験方法について詳細に説明する。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いる場合があり、重複する説明は省略する。
図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
【0012】
また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質や、それらの形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることが可能である。
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態に係る耐候性試験装置の構成を模式的に示す断面図である。
図1に示すように、耐候性試験装置1は、加圧容器2、試料保持部(保持部)3、ガス導入管(ガス導入部)5、加湿器(加湿部)6、ガス排気管7、圧力調整器(圧力調整部)8、水噴霧管(噴霧部)9、水流量調整器10、排水管11、排水弁12、温度調整器(温度調整部)13、検出部14、及び制御部15を備えている。
【0014】
耐候性試験装置1では、加圧容器2内の試料保持部3上に試料Sを保持させ、ガス導入管5から酸素や窒素等のガスを導入しつつ、加圧容器2の内圧が所定圧となるように圧力調整器8で調整する。そして、加圧容器2の内圧を所定圧に維持したまま、太陽光を試料Sに照射する。このとき、耐候性試験装置1の試料保持部3に保持された試料Sに、最も太陽光が照射されるように、耐候性試験装置1の位置、向き、角度等を調整する。例えば、試料保持部3に保持された試料Sが真南を向くように配置し、且つ、試料Sの保持角度が30°となるように配置する。なお、保持角度は、太陽光が一番当たる角度として、例えば「耐候性試験機の設置場所の緯度-5°」に基づき設定する。
【0015】
このように試料Sを加圧容器2内に配置し、加圧容器2を所定の内圧となるように調整した状態で、試料Sに太陽光を照射すると共に、水噴霧管9の先端から水を試料Sに噴霧し、更に、温度調整器13により試料Sを加熱する。温度調整器13は、必要に応じて試料Sを冷却してもよい。ガス導入管5から導入される酸素等のガスは加湿器6により加湿されていてもよい。
このような環境に試料Sを所定時間置いておき、試料Sが太陽などの光や熱、雨などの水分、大気中の酸素等によってどのくらいで劣化するかという耐候性試験を行う。
【0016】
加圧容器2は、加圧可能な密閉容器であり、試料保持部3等を収納する収納部2aと、収納部2aの開口を塞ぐ蓋2bとを有している。加圧容器2は、例えば上部の蓋2bが取外し可能となっており、試料Sを加圧容器2内に設置する際に蓋2bを収納部2aから取り外して使用する。蓋2bは、内部が気密状態となるように収納部2aに取り付けられ、例えば収納部2a及び蓋2bそれぞれをその縁近傍でボルト等によって締めて固定される。加圧容器2の材料は、加圧容器2内の圧力に対する耐圧性を有するものであれば、各種の材料を用いることができるが、例えば、SUS、アルミニウム合金、鉄、チタン合金、タングステン合金などから構成することができる。
【0017】
収納部2aには、ガス導入管5、ガス排気管7、水噴霧管9、排水管11が接続されており、各管の先端が収納部2aの内部に連通するように構成されている。これにより、ガス導入管5から加圧容器2内に所定の試験ガス(酸素等)を導入できると共に、ガス排気管7からガスを排出可能となる。また、水噴霧管9から試料Sに水を噴霧することができると共に、排水管11から水を排出することができる。
図1に示す耐候性試験装置1の例では、蓋2bを取り外す構成であるため、各種の管を収納部2aにまとめて接続しているが、これらの管の一部を蓋2bに接続してもよい。
【0018】
蓋2bの中央の試料保持部3(試料S)に対向する領域には、開口2cが設けられている。この開口2cには、石英ガラス板(光透過部)16が気密に嵌め込まれている。石英ガラス板16は、試料保持部3に対向するように位置し、太陽光を減衰させることなく透過させて試料Sに太陽光がそのまま照射されるように構成されている。光透過部としての石英ガラス板16は、太陽光(特に紫外線)を透過可能であれば他の材料からなる光透過部材であってもよい。なお、石英ガラス板16は、加圧容器2の一部を構成することから、加圧容器2内の雰囲気や圧力を保つ構造となっている。
【0019】
試料保持部3は、耐候性試験に用いられる試料Sを保持する部材である。試料保持部3は、例えば板状部材3aとそれを支持する支持部材3bとから構成され、試料Sは板状部材3aの上に配置されて、アルミテープなどで貼り付けられることにより保持される。試料保持部3の板状部材3aは、水平となるように支持部材3bに取り付けられてもよいが、水噴霧管9から噴霧される水が試料S上に滞留しないように、水平よりも多少傾斜していてもよい。また、試料保持部3には、温度調整器13が内蔵されていてもよい。温度調整器13は、ヒータ及び冷却用流路を内蔵して構成することができ、熱電対の値をフィードバックすることにより、試料Sを加熱したり又は冷却したりして、試料Sの温度を調整する。温度調整器13により、試料保持部3に保持される試料Sを所定の温度に加熱したり冷却したりして耐候性試験を行うことが可能となる。温度調整器13による試料Sの加熱において、加熱温度は室温以上で且つ試料Sの分解温度以下であることが好ましい。分解温度以下の加熱であることにより、熱による劣化だけを先に促進させずに、光や酸素、湿度等による劣化とのバランスを調整できる。なお、温度調整器13の代わりに又は併用して、ガス導入管5から導入されるガスを加熱したり冷却したりするガス温度調整機構を設けてもよいし、加圧容器2に温度調整器を設けて容器自体を温度調整してもよいし、これらを組み合わせて使用してもよい。
【0020】
ガス導入管5は、加圧容器2の外からのガスを加圧容器2内に導入するための管であり、加圧容器2内の雰囲気を変えたり、圧力を高めたりするための部材である。ガス導入管5から加圧容器2内に導入されるガスは、少なくとも圧力調整器8で設定された圧力以上の圧力で加圧容器2内に導入される。ガス導入管5から導入されるガスは、例えば、酸素ガス又は窒素ガス若しくは酸素ガスと窒素ガスとが混合したガスであってもよい。ガス導入管5には、マスフローコントローラ5aを設けて、導入するガスの流量を調整するようにしてもよいし、二種以上のガスを導入する場合には、ガス混合器(不図示)を設けて、導入するガスの切替えや混合等を行ってもよい。
【0021】
加湿器6は、例えばガス導入管5に接続されており、加湿器6内の水をバブリングし、ガス導入管5により導入されるガスを加湿する装置である。加湿器6により、加圧容器2内の湿度が所定の範囲に設定される。なお、加湿器6と加圧容器2との間又は加圧容器2内に湿度計(不図示)を設けて、湿度計からの湿度情報に基づいて加湿器6による加湿を制御部15等により制御してもよい。
ガス排気管7は、加圧容器2内のガスを排出するための管である。ガス排気管7には、圧力調整器8が取り付けられており、圧力調整器8により加圧容器2内の圧力が設定した圧力に保持される。圧力調整器8は、加圧容器2内の圧力が設定した圧力以上になったことが後述の検出部14等により検出されると、制御部15の制御により、圧力調整器8内のバルブを開き、加圧容器2内の圧力が設定した圧力になるように圧力を調整する。
【0022】
水噴霧管9は、加圧容器2内に設置された試料Sに水を噴霧するための部材である。水噴霧管9は、加圧容器2の外から供給された水を水流量調整器10により流量を調整した後、加圧容器2内において試料Sに噴霧する。水流量調整器10は、水噴霧管9から試料Sに噴霧される水の量を調整する装置であり、必要な量に応じて水量を設定する。加圧容器2内の水噴霧管9の先端には、スプレーノズル(図示せず)が取り付けられており、このスプレーノズルにより水を試料Sの全体に噴霧(スプレー状、ミスト状、シャワー状)できるようになっている。水流量調整器10による調整で、このスプレーノズルから噴霧する水の勢いを調整することも可能である。水噴霧管9及び水流量調整器10による噴霧装置は、実環境下での雨を模した装置であり、噴霧する水は、純水、水道水、酸性雨を模したペーハー(pH)を調整した水、金属イオンを含んだ水、またはこれらを混合した水、または過酸化水素水等であってもよい。
【0023】
排水管11は、加圧容器2内において水噴霧管9から噴霧された水を加圧容器2の外に排出するための部材である。排水管11には、排水弁12が取り付けられており、排水弁を動作させることにより、加圧容器2内の水を排出する。排水弁12は、耐候性試験中は通常閉じた状態であり、加圧容器2内の圧力や雰囲気(酸素ガス濃度等)を保つように制御されている。排水弁12は、水位センサ(不図示)による検出情報や時間等によって所定の条件が満たされた場合、制御部15の制御により開かれて、これにより、加圧容器2内の水等が加圧容器2の外に排出される。排水弁12は、水位センサによる検出情報に基づき排水弁12を開状態とする条件が解消したり、所定の時間が経過したりすると、制御部15による制御で再び閉じられる。
【0024】
検出部14は、加圧容器2内の各種の状態を検出するセンサであり、例えば、湿度、温度(内部温度または試料温度)、圧力、ガス濃度、ガス流量、上述した水位等の何れか1つを検出する。検出部14は、検出した情報(検出値)を制御部15に出力する。
制御部15は、耐候性試験装置1の動作全体を制御する装置であり、例えば、CPU等を備えたコンピュータから構成される。制御部15は、ガス導入管5のマスフローコントローラ5a、加湿器6、圧力調整器8、水流量調整器10、排水弁12、温度調整器13、及び、検出部14に配線等を介して電気的に接続されている。制御部15は、検出部14等から検出されるガスの導入流量、加圧容器2内の気圧や温度、湿度、水位等に基づいて、ガス導入管5のマスフローコントローラ5a、加湿器6、圧力調整器8、水流量調整器10、排水弁12及び温度調整器13の動作を制御する。制御部15による制御により、耐候性試験装置1内に配置される試料Sが所定の環境下に配置された状態となる。
【0025】
制御部15による制御では、具体的には、ガス導入管5のマスフローコントローラ5aや圧力調整器8等を制御して、ガス導入管5から導入するガスの濃度や加圧容器2内の圧力を調整する。例えば、ガス導入管5から導入するガスを加圧して、当該ガスに含まれる酸素分圧を大気中の酸素分圧よりも大きくなるようにしてもよい。また、制御部15は、ガス導入管5によって導入される酸素ガスと窒素ガス(不活性ガス)を任意の濃度となるようにマスフローコントローラ5aを制御してガスを混合してもよい。更に、制御部15は、ガス導入管5によって導入される酸素ガスと窒素ガス(不活性ガス)を任意の濃度に混合した後、圧縮ポンプなどで加圧容器2内に導入された混合ガスを加圧してもよい。なお、耐候性試験装置1による耐候性試験においては、導入される酸素ガスの濃度は大気中の酸素濃度よりも高濃度であることが好ましく、例えば、加圧容器2内の気体全体に対して、体積比で20%以上100%以下であってもよい。
【0026】
また、制御部15による制御において、圧力調整器8による加圧容器2内の気圧はゲージ圧で1MPa以下となるように調整されることが好ましい。この時に加圧下に導入するガスの酸素濃度は、加圧前の酸素濃度として1%~100%のガスが好ましい。さらに好ましくはゲージ圧で0.2MPa以上0.9MPa以下が好ましい。この加圧下に導入するガスの酸素濃度は、加圧前の酸素濃度として4%~100%のガスが好ましい。このように気圧を抑えることにより、加圧容器2の容器厚さを低減することができ、その結果、加圧容器2や耐候性試験装置1の小型化や軽量化を図ることができる。
【0027】
また、制御部15は、加湿器6を制御して、実環境下における湿度による耐候性を再現するようにしてもよい。制御部15による湿度の調整は、検出部14によって検出される湿度の情報に基づいて加湿器6による導入ガスへの加湿を行うことにより行われる。耐候性試験装置1での加湿は、ある程度の加湿が行われればよいが、加圧容器2内の湿度が40%~100%であることが好ましく、湿度が50%~100%であることがより好ましい。制御部15は、このような湿度範囲となるように加湿器6を制御する。なお、耐候性試験を行う場合には、試料S内部への酸素の拡散を促進するために、加圧容器2内の圧力を高めることが好ましく、圧力を高めることにより、試料Sの劣化を促進することが可能となる。
【0028】
ここで、上述した構成の耐候性試験装置1を用いた耐候性試験方法について説明する。
この耐候性試験方法では、まず耐候性試験に用いる試料Sを準備する。試料Sは1つでもよいし、複数であってもよい。また、試料Sは、後述する化粧シートに限らず、各種の無機材料や有機材料からなる部材であってもよく、特に限定されない。このような試料Sが準備されると、加圧容器2の蓋2bを取り外して、試料保持部3に試料Sを貼り付けること等により、試料保持部3により試料Sを保持させる。その後、蓋2bを収納部2aに気密に取り付けてボルト等により固定する。これにより試料Sが収納された加圧容器2が密閉状態となる。
【0029】
続いて、制御部15の制御により、圧力調整器8による圧力を設定すると共に、ガス導入管5から所定流量のガス(酸素ガスや窒素ガス)を加圧容器2内に導入する。導入するガスの濃度や圧力(分圧)が所定の値となるように制御される。また、制御部15による水流量調整器10の制御により水量が調整された水が水噴霧管9のノズルから試料Sに連続的に又は所定の周期で供給される。更に、制御部15の制御により、温度調整器13が温度調整を行い、試料Sを所定の温度(例えば80℃)に保温する。この状態で、耐候性試験装置1では、太陽光が石英ガラス板16を介して加圧容器2内に照射され、試料Sが照射される。
【0030】
続いて、このような太陽光の照射、加圧、温度調整、及び水の供給を続けた状態を継続的に行って試料Sの劣化状態を試験する。このような試験は、例えば、3ヶ月~6ヶ月間連続して行ってもよいし、6ヶ月以上又は1年以上継続してもよい。また、加圧容器2の内圧が所定圧となるように調整し、さらに温度調整を行い、試料Sに太陽光が照射されるように配置した状態で、温度調整、水の噴霧等を所定の周期で繰り返してもよい。このような試験状態は、実環境下での試験と同様となるように適宜、選択され得る。なお、耐候性試験装置1は、太陽光が試料Sに最も照射されるように位置決めした後、この状態を維持する。つまり、実環境と同一のタイミングで同一量の太陽光が試料Sに照射されるようにする。
【0031】
なお、実環境下での試料の劣化は太陽光が要因となる劣化だけでなく、雨や大気中に含まれる水分(湿度)による試料の劣化もある。試料表面に雨や湿度等により付着した水は、試料表面から試料内部へと拡散していき加水分解等により試料が劣化する。そこで、耐候性試験装置1では、太陽光の光量と酸素の関係と同様に、水による劣化を促進させるために、水噴霧の量、加圧容器2内の湿度も選択することができるようになっている。さらに加圧容器2内を加圧することにより、試料内部への水の拡散を促進させている。また、太陽光の照射により劣化した試料と酸素との反応、水による加水分解反応をさらに促進させるために試料Sの温度を変更できるようにもなっている。この試料の温度は、試料Sに照射される太陽光の光量に基づいて調整されるようになっていてよい。耐候性試験装置1では、これら光量、酸素濃度、圧力、水、湿度、温度を適切に選択することにより、太陽光による劣化と水による劣化とがバランスよく進行し、例えば太陽光による影響のみを強く受けるといったような弊害を受けることなく、実環境下で長期間かけて行ったものと同様な耐候性試験結果を短期間で得ることが可能となる。
【0032】
以上、本発明の一実施形態に係る耐候性試験装置1では、太陽光の代わりに光源を用いるのではなく、太陽光を試料Sに照射している。そのため、より実曝に近い劣化状態とすることができる。つまり、太陽光を用いることにより、天候や日の出日の入り等による光量の変化も反映した光であり、また、光の波長も反映した、光を試料Sに照射することができる。そのため、実際の光量や波長に即した光を照射することができる。
また、酸素ガスを含む加圧容器2内を加圧しているため、酸素分圧が増加し、促進性を向上させることができ、結果的に、耐候性試験の所要時間を短縮することができる。
【0033】
また、加圧容器2を用いることで耐候性試験を容易に促進すると共に安全性を向上させることができる。
また、太陽光を用いているため、光量や試料Sへの照射時間等を調整する必要はなく、その分、制御部15の処理負荷を低減することができる。
また、光源を用いていないため、加圧容器2内に設けた光源が、高圧雰囲気等により破損することはなく、安全性を向上させることができる。
【0034】
また、本実施形態に係る耐候性試験装置1は、加圧容器2内に酸素ガスを含む気体を導入するガス導入管5と、加圧容器2内の気圧を調整する圧力調整器8と、気体を加湿する加湿器6と、加圧容器2内において試料Sに液体を噴霧する水噴霧管9と、試料Sの温度を調整する温度調整器13と、気体の導入量、気圧、気体の湿度、及び試料の温度の少なくとも1つを検出する検出部14と、検出部14による検出値に基づいて、ガス導入管5、圧力調整器8、加湿器6、水噴霧管9、及び、温度調整器13を制御する制御部15と、を備えている。この場合、熱、水(雨)、酸素による試料Sの劣化を評価する耐候性試験をより具体的に行うことができ、また加圧することによりその耐候性試験を促進することが可能となる。即ち、上記の構成によれば、酸素による試料Sの劣化が促進され、太陽光による劣化と、酸素、水(雨)、温度等による劣化とをバランスよく進行させることができ、実環境下で長時間かけて行った耐候性試験と同様の試験結果をより短時間で再現することが可能となる。
【0035】
また、本実施形態に係る耐候性試験装置1では、制御部15は、ガス導入管5から導入される酸素ガスの気体全体に対する濃度が20%以上となるように、ガス導入管5のマスフローコントローラ5aを制御してもよい。この場合、より実環境下に近い耐候性試験の結果を得ることができる。
また、本実施形態に係る耐候性試験装置1では、制御部15は、ガス導入管5から導入される酸素ガスの酸素分圧が0.2MPa以上0.9MPa以下となるように、ガス導入管5のマスフローコントローラ5a及び圧力調整器8を制御してもよい。この場合、酸素による劣化を更に促進させて、実環境下に近い耐候性試験を更に促進することが可能となる。酸素分圧が0.2MPaよりも低いと促進効果が小さいため、酸素分圧は0.2MPa以上であることが好ましい。なお、ここで用いる「酸素分圧」は、酸素濃度×圧力(絶対圧)と規定する。
【0036】
また、試料Sと太陽光との光学経路の途中にフィルタを設け、赤外光を除去し、熱による試料Sの劣化を抑制するようにしてもよく、また、特定波長だけを透過させ、特定波長のみを試料Sに照射するように構成してもよい。例えば、450nm以上の波長の光は、試料Sを劣化させる直接の光とはならないため、特定波長として290nm以上450nm未満の光のみを透過させるように構成してもよい。
以上、本実施形態に係る耐候性試験装置について説明してきたが、本発明に係る耐候性試験装置は、上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形を適用することができる。
【0037】
例えば、
図2に示す耐候性試験装置1Aのように、耐候性試験装置1において、太陽光を集光する集光機構20を設け、集光した後の光を試料Sに照射するように構成してもよい。
すなわち、加圧容器2の外に集光機構20を設ける。この集光機構20は、大フレネルレンズ21と、小フレネルレンズ22とを有する。大フレネルレンズ21及び小フレネルレンズ22は、一方の面は平面であり他方の面には階段状かつ同心円状に鋸波型の溝が比較的密となるように設けられたフレネル面である。これらフレネルレンズ21及び22は同一の集光角度を有する。大フレネルレンズ21と小フレネルレンズ22とはこれらフレネルレンズ21及び22のフレネル面どうしが向かい合うように配置され、小フレネルレンズ22の平面と石英ガラス板16とが向かい合うように配置される。このとき、小フレネルレンズ22は、大フレネルレンズ21の焦点よりも大フレネルレンズ21寄りの位置に配置される。
【0038】
つまり、太陽光を大フレネルレンズ21の平面に入射することによって、略平行光である太陽光が大フレネルレンズ21で集光されて、大フレネルレンズ21の焦点以前の部位に配置された小フレネルレンズ22のフレネル面に入射され、小フレネルレンズ22で平行光に戻されて、この平行光が石英ガラス板16に入射されるようになっている。
このように、太陽光を集光した後、平行光に戻して試料Sに照射するようになっている。そのため、集光することによってエネルギ密度が高まり、エネルギ密度が高まった光を試料Sに照射するため、促進性を向上させることができる。また、太陽光を集光した後、再度平行光に戻して試料Sに照射するようにしているため、試料Sに照射される光の照射ムラ等を低減することができる。
【0039】
また、集光機構20は、加圧容器2の外に設けられているため、例えば、照射する光の波長を選別したり、また、試料に照射する光の照度ムラを低減したり等といった光学設計を行いやすくなる。そのため、実環境下(特に光学的な面)での試験に近付けたり、又は実環境下に近い状態を促進したりすることができ、実環境下での試験結果を再現しつつ耐候性試験を促進することができる。また、照度ムラ等を低減することができるため、耐候性試験の最中に照度ムラをならすための試料の配置替え等の作業を行う必要がない。
なお、ここでは、集光機構20として、二つのフレネルレンズ21、22を用いて光学系を形成した場合について説明したが、これに限るものではない。例えば、上面視における加圧容器2の面積よりも広い面積を有する反射鏡を設け、この反射鏡によって太陽を追跡しながら、太陽光の反射光を集めて試料Sに照射する構成であってもよい。要は、太陽光を集光することでエネルギ密度を高めた太陽光を試料Sに照射する光学系を適用してもよい。
【0040】
また、上記実施形態においては、太陽光を光源で模擬せずに、太陽光そのものを用いている。ここで、太陽光は、季節や、地域等によって光量や、日照時間も異なる。同様に、雨量も太陽光や季節、地域等によって異なる。そのため、耐候性試験装置1の設置場所の天候の特性に合わせて、水噴霧量等も変更してもよい。
また、
図1に示す耐候性試験装置1において、排水弁12に替えて、
図3に示す排水機構12Aを設け、排水時の加圧容器2内の気圧変動を抑制するようにしてもよい。
排水機構9Aは、
図2に示すように、排水管50に接続された排水タンク51と、排水管50の、排水タンク51の流入側に設けられた開閉可能な流入バルブ52と、排水管50の、排水タンク51の排出側に設けられた開閉可能な排出バルブ53と、を備える。流入バルブ52及び排出バルブ53は、耐候性試験中は通常閉じた状態であり、加圧容器2内の圧力や雰囲気(酸素ガス濃度等)を保つように制御されている。
【0041】
排水タンク51の容積は、加圧容器2の容積以下に設定される。具体的には排水タンク51の容積は、加圧容器2の容積に対して、1/6以下に設定することが好ましい。さらに好ましくは1/6以下であり且つ1/60以上である。
また、流入バルブ52及び排出バルブ53は、制御部15により制御され、流入バルブ52は、水噴霧管9による水の噴霧が終了したとき、開状態に制御され、加圧容器2内の水が全て排水タンク51に移動した後、閉状態に制御される。一方、排出バルブ53は、加圧容器2内の水が排水タンク51に移動し流入バルブ52が閉状態に制御された後に、開状態に制御され、排水タンク51に貯液された水を排出する。
【0042】
制御部15は、水噴霧管9により試料Sに対して水の噴霧を行ったときには、水流量調整器10の作動を停止したとき、流入バルブ52を開状態に制御し、加圧容器2内の水が全て排水タンク51に移動した後、閉状態に制御する。続いて制御部15は、排出バルブ53を開状態に制御し、排水タンク51に貯液された水が全て排出された後、排出バルブ53を閉状態に制御する。制御部15では、例えば加圧容器2内に設けた液面計54の検出値に基づき、加圧容器2内の水が全て排水タンク51に移動したことを検出する。また、制御部15では、例えば排水タンク51内に設けた液面計55の検出値に基づき、排水タンク51内の水が全て排出されたことを検出する。また、制御部15は、液面計54、55の検出値に基づき、加圧容器2内の水位や排水タンク51内の水位が規定値を超えるとき、異常と判定し、流入バルブ52や排出バルブ53を制御し、加圧容器2内、或いは排水タンク51内の水を排出させると共に、水噴霧管9による水の供給を停止させる等といった、異常発生時の処理を行う。
【0043】
ここで、
図1に示すように、排水弁12の開閉操作のみにより、加圧容器2内の液体を排出する構成の場合、排水弁12を開状態に切り替えると、加圧容器2内の液体と共に加圧のためのガスも排水管11を通して排出されてしまい、加圧容器2内の圧力が著しく低下し、大気圧付近まで低下してしまう可能性がある。また、排水弁12を開状態としている時間が長いほど、圧力低下がより激しくなり、圧力の低下分が大きいときほど、加圧容器2内が所定の圧力まで回復するのに時間がかかる。
【0044】
しかしながら、
図3に示す排水機構12Aを設けた場合、試料Sへの水の噴霧が行われた後、加圧容器2内の水を排出する際には、まず、排出バルブ53を閉状態に維持したまま流入バルブ52のみを開状態にして加圧容器2内の水を排水タンク51に移動し、加圧容器2内の水を排水タンク51に移動し終えた後に、流入バルブ52を閉状態に切り替え、その後、排出バルブ53を開状態に切り替えて、排水タンク51内の水を排出している。また、排水タンク51の容積を、加圧容器2の容積以下としている。そのため、加圧容器2内から水を排出する際、すなわち、加圧容器2内から排水タンク51に水を移動する際に、加圧容器2内の気圧が大幅に低下することを抑制することができる。つまり、加圧容器2内の気圧変動を抑制しつつ加圧容器2内の水を排出することができる。その結果、耐候性試験中に、加圧容器2内の気圧が低下することによって、実環境の再現性が大きく低下することを防止することができ、耐候性試験の信頼性が低下することを抑制することができる。
【0045】
つまり、排水タンク51が設けられているため、流入バルブ52が開状態に切り替わった場合、加圧容器2内の圧力は低下するものの、大気圧まで低下することはなく、排水タンク51の容積に応じた圧力まで低下すると、以後はそのままの圧力を維持する。そのため、加圧容器2内の圧力が大気圧まで低下することを抑制することができると共に、容器内圧力が所定の圧力まで復帰するのに要する所要時間を短縮することができる。そのため加圧容器2内の圧力変動を抑制し速やかに所定の圧力に復帰させることができる。
【実施例0046】
以下、実施例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
(耐候性の試験)
図1及び
図2に示す耐候性試験装置1、1Aを用いて、化粧シートの実際の耐候性試験を行った。すなわち、化粧シートを試料Sとし、加圧容器2内の試料保持部3で化粧シート(試料S)を保持させた状態で、加圧容器2内に酸素ガスを含む気体を導入して酸素分圧を調整し、太陽光を光透過部16を介して加圧容器2内の試料Sに照射した。
この耐候性試験に用いた化粧シートの作製方法は下記の通りである。
図4は、化粧シート30の構成を示す図である。比較例として、耐候性試験装置1(ただし加圧容器2内の気圧調整は行わない。)、代表的な耐候性試験機(MW及びS-Xe装置)、及び実環境下での耐候性試験を行った。
【0047】
<透明樹脂シートの作製>
高結晶化ホモポリプロピレン樹脂に、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(イルガノックス1010:チバスペシャリティケミカルズ社製)を500PPMと、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(チヌビン328:チバスペシャリティケミカルズ社製)を2000PPMと、ヒンダードアミン系光安定剤(キマソーブ944:チバスペシャリティケミカルズ社製)を2000PPMと、リン酸エステル金属塩系造核剤(アデカスタブNA-21:ADEKA社製)を1000PPMとを添加した樹脂を溶融押出機を用いて押し出し、透明樹脂シート31(樹脂層)として使用する厚さ100μmの高結晶性ポリプロピレン製の透明樹脂シートを製膜した。続いて、製膜された透明樹脂シート31の両面にコロナ処理を施して表面の濡れを40dyn/cm以上とした。なお、押し出し製膜時の押出温度やロールなどの冷却条件を変えることにより、種々の透明樹脂シートを作製した。
【0048】
<化粧シートの作製>
得られた透明樹脂シートからなる透明樹脂シート31の片面に、2液硬化型ウレタンインキ(V180:東洋インキ製造株式会社製)にて絵柄印刷を行い、絵柄層32を施した後、絵柄層32に重ねて隠蔽性のある2液硬化型ウレタンインキ(V180:東洋インキ製造株式会社製)を塗布量6g/m2にて塗布して隠蔽層33を施した。また、隠蔽層33に重ねて、プライマーコートとして2液硬化型ウレタンインキ(PET-E、レジウサー:大日精化株式会社製)を塗布量1g/m2にて塗布してプライマー層35を形成した。
【0049】
次に、このシートの透明樹脂シートからなる透明樹脂シート31の面に、エンボス用の金型ロールを用いてプレスしてエンボス模様31aを施した後、エンボス模様31a面上に2液硬化型ウレタントップコート(W184:大日本インキ株式会社製)を塗布量3g/m2にて塗布して、コート層34を含み総厚110μmの化粧シート30を得た。この化粧シート30を、ウレタン系の接着剤を用いて金属基材に貼り合わせた後、前述した各種耐候性試験機にて耐候性を評価した。
【0050】
<実施例>
耐候性試験装置1及び1Aでは、表1及び表2に示す条件で耐候性試験を行った。試験結果は表1に示す通りであった。表1中の「劣化までの時間」とは、試料に対して水噴霧や光照射等の負荷を与える試験時間であり、試料の外観が変化した(劣化したと判断した)時間のことをいう。劣化したと判断されるまで継続して耐候性試験を行い、化粧シートの外観が変化していることを確認した時間を「劣化までの時間」として耐候性試験を終了した。
なお、耐候性試験は、夏に試験を開始した。
また、耐候性試験装置1及び1Aでは、太陽光照射→水噴霧→結露→水噴霧を一パターンとする試験サイクルでこのパターンを繰り返し行って、槽内環境を変化させた。
【0051】
【0052】
【0053】
(実施例1)
実施例1では、集光機構20を持たない耐候性試験装置1を用いて耐候性試験を行った。実施例1では、以下の条件で耐候性試験を行った。
導入ガス:酸素と窒素との比が100:0である混合ガス
加圧容器2内の圧力(ゲージ圧:大気圧を0MPaとする):0.5MPa
加圧容器2内の酸素分圧(ゲージ圧:大気圧を0MPaとする):60MPa
太陽光照射時の試料の温度:80℃
水噴霧:有り
太陽光照射時の加圧容器2内の湿度:50%
結露時の試料の温度:30℃
結露時の加圧容器2内の湿度:98%
試験サイクルの各工程の実行時間:
太陽光照射:水噴霧:結露:水噴霧=20時間:30秒:4時間:30秒
なお、水噴霧時には、試料の温度及び加圧容器2内の湿度の調整は行わなかった。
【0054】
(実施例2)
実施例2では、集光機構20を備える耐候性試験装置1Aを用いて耐候性試験を行った。それ以外は、実施例1と同様の方法で、耐候性試験を行った。
(実施例3)
実施例3では、導入ガスとして酸素と窒素との比が50:50である混合ガスを用い、加圧容器2内の酸素分圧を30MPaとした。それ以外は、実施例1と同様の方法で、耐候性試験を行った。
【0055】
(実施例4)
実施例4では、集光機構20を備える耐候性試験装置1Aを用いて耐候性試験を行った。それ以外は、実施例3と同様の方法で、耐候性試験を行った。
(実施例5)
実施例5では、加圧容器2内の圧力を0.3MPaとし、酸素分圧を40MPaとした。それ以外は、実施例1と同様の方法で、耐候性試験を行った。
【0056】
<比較例>
比較例として、表1~表4に示す条件で耐候性試験を行った。
(比較例1)
比較例1では、集光機構20を備えていない耐候性試験装置1を用いて耐候性試験を行った。ただし、比較例1では、加圧容器2内の圧力をコントロールしなかった。比較例1では、以下の条件で耐候性試験を行った。
導入ガス:酸素と窒素との比が100:0である混合ガス
加圧容器2内の圧力(ゲージ圧:大気圧を0MPaとする):0MPa
加圧容器2内の酸素分圧(ゲージ圧:大気圧を0MPaとする):10MPa
太陽光照射時の試料の温度:80℃
水噴霧:有り
太陽光照射時の加圧容器2内の湿度:50%
結露時の試料の温度:30℃
結露時の加圧容器2内の湿度:98%
試験サイクルの各工程の実行時間:
太陽光照射:水噴霧:結露:水噴霧=20時間:30秒:4時間:30秒
なお、水噴霧時には、試料の温度及び加圧容器2内の湿度の調整は行わなかった。
【0057】
(比較例2)
比較例2では、メタルウェザオメータ(MW、ダイプラ・ウィンテス社製、装置名:ダイプラ・メタルウェザー)を用いて、耐候性試験を行った。光源はメタルハライドランプであり、表1及び表3に示す条件で、照射→水噴霧→結露→水噴霧を一パターンとする試験サイクルでこのパターンを繰り返し行って、槽内環境を変化させた。また、以下の条件で耐候性試験を行った。
フィルタ:波長が295nm以上780nm以下の範囲の光を透過
光量(照度):感度波長域330nm以上390nm以下の幅の光量を、60mW/cm2とした。光量設定は、中心波長360nmの照度計を用いて光量を設定した。照度計としてウシオ電機株式会社製のUIT-250 受光器UVD-S365を用いた。
導入ガス:大気
光照射時のブラックパネル温度:63℃
水噴霧:有り
光照射時の槽内湿度:50%
結露時のブラックパネル温度:30℃
結露時の槽内湿度:98%
試験サイクルの各工程の実行時間:
照射:水噴霧:結露:水噴霧=20時間:30秒:4時間:30秒
なお、水噴霧時には、ブラックパネル温度及び湿度の調整は行わなかった。
【0058】
(比較例3)
比較例3では、スーパーキセノン(S-Xe)装置(株式会社東洋精機製作所製、装置名:ATLAS Ci4000)を用いて耐候性試験を行った。光源はキセノンランプであり、表1及び表4に示す条件で、照射→水噴霧→結露→水噴霧を一パターンとしてこのパターンを繰り返し行って、槽内環境を変化させた。また、以下の条件で耐候性試験を行った。
フィルタ:波長が295nm以上780nm以下の範囲の光を透過
光量(照度):感度波長域300nm以上400nm以下の幅の光量を、18mW/cm2とした。光量設定は、中心波長360nmの照度計を用いて光量を設定した。照度計としてウシオ電機株式会社製のUIT-250 受光器UVD-S365を用いた。
導入ガス:大気
光照射時のブラックパネル温度:63℃
水噴霧:有り
光照射時の槽内湿度:50%
結露時のブラックパネル温度:30℃
結露時の槽内湿度:98%
試験サイクルの各工程の実行時間:
照射:水噴霧:結露:水噴霧=20時間:30秒:4時間:30秒
なお、水噴霧時には、ブラックパネル温度及び湿度の調整は行わなかった。
【0059】
(比較例4)
比較例4では、自然環境下で屋外曝露を行った。すなわち、以下の条件で耐候性試験を行った。
光源:太陽光
フィルタ:無し
光量(照度):成り行き
温度、湿度、水:成り行き
耐候性試験機の向き:真南
耐候性試験機の取り付け角度:30℃
なお、取り付け角度は、太陽光が一番当たる角度として「耐候性試験機の設置場所の緯度-5°」に基づき設定した。
【0060】
【0061】
【0062】
<評価>
実施例1~5及び比較例1~4に係る耐候性試験後の試料を、試料表面の外観観察及び各層の硬度変化の評価により比較した。外観の観察はマイクロスコープやレーザー顕微鏡を用い、試料表面のひび割れの有無、表面のひび割れのサイズの大小を判定した。また、試料内部の剥離の有無を、手で調べた。試料内部の剥離とは、例えば化粧シートを構成する各層間における剥離等である。
劣化までの時間及び劣化形態として表面のひびの有無、表面のひびのサイズ、及び化粧シート内部の剥離の有無を評価した。
【0063】
(評価基準)
○:表面にひびが有るがサイズは小さく、且つ試料内部に剥離が生じ、劣化までの時間が2000時間以下である。
×:上記○の条件を満足しない。
表1に示すように、比較例4の屋外曝露(8年)での耐候性試験では、試料表面に小さなひびが生じ、また、試料内部に剥離が生じていた。
【0064】
一方、実施例1~5では、集光機構20を備えない耐候性試験装置1及び集光機構20を備える耐候性試験装置1Aを用いて耐候性試験を行った。この場合、試料の表面に小さなひびが生じ、且つ試料内部に剥離が生じていた。このときの、劣化までの時間は、最長でも2000時間であった。また、同一条件であっても、集光機構20を備えた耐候性試験装置1A(実施例2、4)の方が、集光機構20を持たない耐候性試験装置1(実施例1、3、5)よりも劣化までの時間を大幅に短縮することができた。また、実施例1及び実施例5のように、同一の耐候性試験装置1を用い、加圧容器2内のゲージ圧及び酸素分圧が以外は同一条件である場合、酸素分圧が高い方が、劣化までの時間を短縮することができた。また、耐候性試験装置1において、太陽光を試料Sに照射するが加圧容器2内の圧力を調整しない比較例1の場合には、劣化までの時間が7000時間となり、劣化までの時間を十分に短縮することができなかった。
【0065】
また、大気ガスの環境下で耐候性試験を行うメタルウェザオメータ(比較例2)及びスーパーキセノン装置(比較例3)では、試料Sの内部の剥離が生じず、光量を大きくすることで劣化までの時間を短縮することができるものの、表面のひびサイズが大きく(比較例2)、光量が小さい場合には表面のひびサイズが小さいものの、劣化までの時間を十分に短縮することができなかった。
以上から、実施例1~5では、酸素分圧を高めることによって、実曝と同等の劣化度合をより短時間で実現できることが確認された。さらに、集光機構20を設け、太陽光を集光しエネルギ密度を高めることによって、劣化までの時間をさらに短縮できることが確認できた。
【0066】
なお、本発明は、例えば、以下のような構成をとることができる。
(1)
加圧容器と、
前記加圧容器内に配置され、試料を保持する試料保持部と、
前記加圧容器内に酸素ガスを含む気体を導入するガス導入部と、
前記加圧容器の内圧を所定圧に調整する圧力調整部と、を備え、
前記加圧容器は、太陽光を透過可能な光透過部を有することを特徴とする耐候性試験装置。
(2)
太陽光を集光し、集光した光を、前記光透過部を介して前記試料に照射する集光機構を備えることを特徴とする上記(1)に記載の耐候性試験装置。
(3)
前記加圧容器に導入される前に前記気体を加湿する加湿部と、
前記加圧容器内において前記試料に液体を噴霧する噴霧部と、
前記試料の温度を調整する温度調整部と、
前記気体の導入量、前記加圧容器の内圧、前記気体の湿度、及び前記試料の温度の少なくとも1つを検出する検出部と、
前記検出部による検出値に基づいて、前記ガス導入部、前記圧力調整部、前記加湿部、前記噴霧部、及び、前記温度調整部の少なくとも1つを制御する制御部と、
を備えることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の耐候性試験装置。
(4)
前記制御部は、前記ガス導入部から導入される前記酸素ガスの前記気体全体に対する濃度が20%以上となるように、前記ガス導入部を制御することを特徴とする上記(3)に記載の耐候性試験装置。
(5)
前記制御部は、前記加圧容器内の前記酸素ガスの酸素分圧が0.2MPa以上0.9MPa以下となるように、前記ガス導入部及び前記圧力調整部の少なくとも一方を制御することを特徴とする上記(3)又は(4)に記載の耐候性試験装置。
(6)
上記(1)から(5)のいずれか一項に記載の耐候性試験装置を用いて前記試料の耐候性を評価する試験方法であって、
前記試料保持部に前記試料を保持させて前記加圧容器内に前記酸素ガスを導入し、
前記加圧容器の内圧を加圧して前記酸素ガスの酸素分圧を所定圧に調整し、
当該所定圧を保った状態で前記太陽光を前記試料に照射することを特徴とする耐候性試験方法。