(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024003954
(43)【公開日】2024-01-16
(54)【発明の名称】複合フィルタ及び通信装置
(51)【国際特許分類】
H03H 7/46 20060101AFI20240109BHJP
H03H 9/72 20060101ALI20240109BHJP
H04B 1/18 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
H03H7/46 A
H03H9/72
H04B1/18 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022103334
(22)【出願日】2022-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135828
【弁理士】
【氏名又は名称】飯島 康弘
(72)【発明者】
【氏名】奥道 武宏
【テーマコード(参考)】
5J097
5K062
【Fターム(参考)】
5J097AA16
5J097AA18
5J097BB15
5J097CC05
5J097DD10
5J097JJ03
5J097KK03
5J097KK04
5J097KK09
5J097KK10
5J097LL06
5K062AA01
5K062AB02
5K062BC03
(57)【要約】
【課題】阻止帯域のうち通過帯域に相対的に近い周波数帯における減衰特性を向上させることができる複合フィルタを提供する。
【解決手段】複合フィルタ1において、第1フィルタ5は、入力端子3Iと第1出力端子3Aとの間に位置している。第2フィルタ5は、入力端子3Iと第2出力端子3Bとの間に位置している。調整回路9は、入力端子3Iから第1フィルタ5の側を見た第1アドミタンスY1、及び入力端子3Iから第2フィルタ7の側を見た第2アドミタンスY2の少なくとも一方を調整している。第1フィルタ5が有する第3フィルタ11の減衰極のうち第1フィルタ5の通過帯域に最も近い周波数を有する第1減衰極P1と上記通過帯域との間のいずれかの周波数において、第1アドミタンスY1の虚部と第2アドミタンスY2の虚部とが互いに反数であることによって、第2減衰極P2が構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
共通端子に接続されている第1フィルタと、
前記共通端子に接続されており、前記共通端子から見て前記第1フィルタと互いに分岐している1以上の第2フィルタと、
前記共通端子から前記第1フィルタの側を見た第1アドミタンス、及び前記共通端子から前記1以上の第2フィルタの側を見た第2アドミタンスの少なくとも一方を調整している調整回路と、
を有しており、
前記第1フィルタは、該第1フィルタの通過帯域に対して低周波数側又は高周波数側に位置する少なくとも1つの減衰極を有する第3フィルタを有しており、
前記少なくとも1つの減衰極のうち前記通過帯域に最も近い周波数を有する第1減衰極と前記通過帯域との間のいずれかの周波数において、前記第1アドミタンスの虚部と前記第2アドミタンスの虚部とが互いに反数であることによって、第2減衰極が構成されている
複合フィルタ。
【請求項2】
前記第2減衰極の周波数において前記第1アドミタンスと前記第2アドミタンスとが互いに複素共役である
請求項1に記載の複合フィルタ。
【請求項3】
前記第3フィルタは、LCフィルタであり、
前記第1フィルタは、前記LCフィルタに対して前記共通端子の側又は前記共通端子とは反対側に位置している弾性波フィルタを有しており、
前記弾性波フィルタは、前記第1減衰極の周波数と前記通過帯域との間に位置している第3減衰極を有している
請求項1に記載の複合フィルタ。
【請求項4】
前記第3減衰極は、前記第2減衰極の周波数と前記通過帯域との間に位置している
請求項3に記載の複合フィルタ。
【請求項5】
請求項1に記載の複合フィルタと、
前記共通端子に接続されているアンテナと、
前記第1フィルタに対して前記共通端子とは反対側に接続されている集積回路素子と、
を有している通信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、2以上のフィルタを有している複合フィルタ、及び該複合フィルタを有している通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複合フィルタとして、共通端子と第1端子との間に位置している第1フィルタと、共通端子と第2端子との間に位置している第2フィルタとを有しているものが知られている(例えば特許文献1)。第1フィルタ及び第2フィルタは、例えば、互いに異なる通過帯域の信号を通過させる。このような複合フィルタとしては、例えば、ダイプレクサ又はデュプレクサが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
阻止帯域のうち通過帯域に相対的に近い周波数帯における減衰特性を向上させることができる複合フィルタ及び通信装置が待たれる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様に係る複合フィルタは、共通端子に接続されている第1フィルタと、前記共通端子に接続されており、前記共通端子から見て前記第1フィルタと互いに分岐している1以上の第2フィルタと、前記共通端子から前記第1フィルタの側を見た第1アドミタンス、及び前記共通端子から前記1以上の第2フィルタの側を見た第2アドミタンスの少なくとも一方を調整している調整回路と、を有しており、前記第1フィルタは、該第1フィルタの通過帯域に対して低周波数側又は高周波数側に位置する少なくとも1つの減衰極を有する第3フィルタを有しており、前記少なくとも1つの減衰極のうち前記通過帯域に最も近い周波数を有する第1減衰極と前記通過帯域との間のいずれかの周波数において、前記第1アドミタンスの虚部と前記第2アドミタンスの虚部とが互いに反数であることによって、第2減衰極が構成されている。
【0006】
本開示の一態様に係る通信装置は、上記複合フィルタと、前記共通端子に接続されているアンテナと、前記第1フィルタに対して前記共通端子とは反対側に接続されている集積回路素子と、を有している。
【発明の効果】
【0007】
上記の構成によれば、阻止帯域のうち通過帯域に相対的に近い周波数帯における減衰特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態に係る複合フィルタの構成を示す回路図。
【
図3】
図3(a)及び
図3(b)は
図1の複合フィルタが有する第1フィルタの特性及び第2フィルタの特性を示す図。
【
図4】
図2(b)に示す特性を実現する原理を説明する図。
【
図5】
図2(b)に示す特性を実現する原理を説明する他の図。
【
図6】
図2(b)に示す特性を実現する原理を説明する更に他の図。
【
図7】
図1の複合フィルタの構造の一例を示す模式的な断面図。
【
図8】複合フィルタが含む弾性波共振子の構成例を模式的に示す平面図。
【
図9】実施形態に係る通信装置の要部を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(複合フィルタの概要)
図1は、実施形態に係る複合フィルタ1の構成を模式的に示すブロック図である。
【0010】
複合フィルタ1は、ダイプレクサとして構成されている。より詳細には、例えば、複合フィルタ1は、入力端子3Iから入力された信号のうち第1通過帯域内の信号を第1出力端子3Aへ出力する第1フィルタ5と、入力端子3Iから入力された信号のうち第2通過帯域内の信号を第2出力端子3Bへ出力する第2フィルタ7と、を有している。第1通過帯域及び第2通過帯域は互いに異なっている(互いに重複していない。)。別の観点では、第1フィルタ5及び第2フィルタ7は、共に入力端子3Iに接続されており、入力端子3Iから見て互いに分岐している。第1フィルタ5は、第1通過帯域外の信号を減衰させる。第2フィルタ7は、第2通過帯域外の信号を減衰させる。このような構成によって、互いに周波数が異なる信号によって入力端子3Iが共用される。
【0011】
なお、入力端子3I等の各種の端子は、複合フィルタ1の一部として捉えられてよい。ただし、便宜上、「入力端子3Iから複合フィルタ1の側を見たアドミタンス」のような、入力端子3Iが複合フィルタ1の外部の要素であるかのような表現を用いることがある。
【0012】
複合フィルタ1は、第1フィルタ5及び第2フィルタ7に加えて、調整回路9を有している。調整回路9は、入力端子3Iから第1フィルタ5の側を見た第1アドミタンス(別の観点ではインピーダンス)、及び入力端子3Iから第2フィルタ7の側を見た第2アドミタンスの少なくとも一方(図示の例では後者)を調整している。また、第1フィルタ5は、第3フィルタ11(例えばLCフィルタ)を有している。さらに、図示の例では、第1フィルタ5は、第3フィルタ11に加えて、弾性波フィルタ13を有している。
【0013】
図2(b)は、複合フィルタ1における入力端子3Iから第1出力端子3Aへの透過係数を示す図である。また、
図3(a)は、第2フィルタ7及び調整回路9が設けられていない場合の入力端子3Iから第1出力端子3Aへの反射係数及び透過係数を示す図である。換言すれば、
図2(b)は、第2フィルタ7及び調整回路9の影響が加味された第1フィルタ5の透過係数を示しているのに対して、
図3(a)は、第1フィルタ5単独での反射係数及び透過係数を示している。
【0014】
これらの図において、横軸は周波数f(MHz)を示している。縦軸は反射係数及び/又は透過係数(dB)を示しており、また、反射係数及び/又は透過係数はSと表記されている。これらの図の上段における凡例において「S21」と対応付けられている線は、横軸及び縦軸で規定されている範囲内において、周波数と、入力端子3Iから第1出力端子3Aへの透過係数との関係を示している。
【0015】
これらの図に示されているように、第1フィルタ5においては、概ね5000MHzを境にして、高周波数側において透過係数が高くなっており、低周波数側において透過係数が低くなっている。換言すれば、低周波数側は阻止帯域となっており、高周波数側は通過帯域となっている。
【0016】
図2(b)及び
図3(a)においてS21の線によって示されているように、第1フィルタ5は、阻止帯域に複数の減衰極を有している。減衰極は、例えば、透過係数が極小値となる点である。
【0017】
上記の複数の減衰極のうち、少なくとも1つ(図示の例では複数)は、第3フィルタ11によって形成されている。第3フィルタ11が有している少なくとも1つの減衰極のうち、周波数が最も通過帯域に近い(別の観点では図示の例では最も高周波数側に位置する)ものを「第1減衰極P1」というものとする。図示の例では、第1減衰極P1は、4000MHz~4500MHzの間に位置している。
【0018】
図示の例では、第1減衰極P1の周波数よりも更に通過帯域に近い少なくとも1つ(図示の例では複数)の減衰極が弾性波フィルタ13によって構成されている。この減衰極の任意の1つ、又はそれぞれを「第3減衰極P3」というものとする。なお、図示の例では、複数の第3減衰極P3は、概ね5000MHz付近に位置し、縦軸の下限(-60dB)よりも低い値に到達しているものを含んでいる。便宜上、これらに纏めてP3の符号が付されている。
【0019】
図2(b)と
図3(a)との比較から理解されるように、第2フィルタ7及び調整回路9が設けられている場合においては、第1フィルタ5単独では現れなかった少なくとも1つの第2減衰極P2(図示の例では2つの第2減衰極P2a及びP2b)が形成されている。ただし、第2減衰極P2bについては、第1フィルタ5単独で形成される減衰極と周波数が近いため、明瞭に特定することが困難になっている。第2減衰極P2の周波数は、第1減衰極P1の周波数よりも通過帯域に近い。これにより、阻止帯域のうち通過帯域に相対的に近い周波数帯における減衰特性を向上させることができる。
【0020】
第2減衰極P2の周波数は、第3減衰極P3の周波数に比較して、通過帯域に近くてもよいし(高周波数側に位置してもよいし)、同等でもよいし、離れていてもよい(低周波数側に位置していてもよい)。図示の例では、第2減衰極P2の周波数は、第3減衰極P3の周波数に比較して、通過帯域から離れている。
【0021】
後に
図4~
図6を参照して詳述するように、第2減衰極P2の周波数において、入力端子3Iから第1フィルタ5の側を見た第1アドミタンスの虚部と、入力端子3Iから第2フィルタ7の側を見た第2アドミタンスの虚部とは、互いに反数(足し合わされると0になる値)とされている。これにより、信号強度の振動が大きくなる、いわゆる共振現象により、
図2(b)に示す第2減衰極P2が形成されている。第1アドミタンス及び第2アドミタンスは、互いに共役な複素数であってもよいし、なくてもよい。
【0022】
より詳細には、第2減衰極P2aの周波数においては、第1アドミタンスの虚部と第2アドミタンスの虚部とが互いに反数であることによって、入力端子3Iから複合フィルタ1の側を見た合成アドミタンス(より詳細には入力端子3Iから基準電位部への合成アドミタンス)が高くされている。これにより、第2減衰極P2aが構成されている。
【0023】
また、第2減衰極P2bの周波数においては、第1アドミタンスの虚部と第2アドミタンスの虚部とが互いに反数であることによって、入力端子3Iから複合フィルタ1の側を見たインピーダンスが高くされている。これにより、第2減衰極P2bが構成されている。
【0024】
以上が実施形態に係る複合フィルタ1の概要である。以下では、概略、下記の順に説明を行う。なお、第7節の共振子23は、弾性波フィルタ13の構成要素である。
1.複合フィルタ1全般(
図1及び
図2(a)~
図3(b))
2.第1フィルタ5
2.1.第3フィルタ11
2.2.弾性波フィルタ13
3.第2フィルタ7
4.調整回路9
5.第2減衰極P2(
図2(a)~
図6)
6.複合フィルタ1の構造の例(
図7)
7.共振子23の構成の具体例(
図8)
8.複合フィルタ1の利用例(
図9)
9.実施形態のまとめ
【0025】
(1.複合フィルタ全般)
本実施形態では、既述のように、第2フィルタ7及び調整回路9は、入力端子3Iから第1出力端子3Aへ流れる信号の減衰に影響を及ぼす。従って、例えば、入力端子3Iから第1出力端子3Aへ流れる信号に係る通過帯域及び/又は阻止帯域等について、第1フィルタ5の通過帯域及び/又は阻止帯域等と表現することは正確ではない。ただし、便宜上、そのように表現することがある。
【0026】
同様に、第1フィルタ5は、入力端子3Iから第2出力端子3Bへ流れる信号の減衰に影響を及ぼす。さらに、調整回路9も入力端子3Iから第2出力端子3Bへ流れる信号の減衰に影響を及ぼす。従って、例えば、入力端子3Iから第2出力端子3Bへ流れる信号に係る通過帯域及び/又は阻止帯域等について、第2フィルタ7の通過帯域及び/又は阻止帯域等と表現することは正確ではない。ただし、便宜上、そのように表現することがある。
【0027】
第1フィルタ5に係る第1通過帯域と、第2フィルタ7に係る第2通過帯域とは、既述のとおり、互いに重複していない。換言すれば、第1通過帯域は、第2フィルタ7の第2阻止帯域に含まれており、第2通過帯域は、第1フィルタ5の第1阻止帯域に含まれている。第1阻止帯域と第2阻止帯域とは少なくとも一部が重複していてよい。なお、本開示の説明において、矛盾等が生じない限り、また、特に断りが無い限り、阻止帯域は、阻止帯域と通過帯域との間の遷移帯域を含まない意味で捉えられてもよいし、遷移帯域を含む意味で捉えられてもよい。
【0028】
第1通過帯域及び第2通過帯域は、互いに重複していない限り、任意に設定されてよい。例えば、第1通過帯域及び第2通過帯域は、いずれが他方に対して高周波数側であってもよい。第1通過帯域と第2通過帯域との間の周波数帯の幅も任意である。各通過帯域及び各阻止帯域の帯域幅及び中心周波数等の具体的な値も任意である。なお、中心周波数は、帯域の下限の周波数と帯域の上限の周波数との中央の周波数(別の観点では両者の平均値)である。第1又は第2通過帯域が下限の周波数及び上限の周波数を有する場合の中心周波数の範囲の例を挙げると、500MHz以上30GHz以下である。また、各通過帯域は、適宜な通信規格に従って設定されてよい。この場合において、各通過帯域は、規格で定められた1つの帯域にのみ対応していてもよいし、規格で定められた2以上の帯域を含んでいてもよい。
【0029】
第1フィルタ5及び第2フィルタ7(さらには第3フィルタ11及び弾性波フィルタ13)は、通過帯域及び阻止帯域のいずれに着目して構成されたものであってもよい。各フィルタ(5、7、11又は13)において、通過帯域又は阻止帯域は、下限(低周波数側の端部)の周波数及び上限の周波数の双方が規定されてもよいし、一方のみが規定されてもよい。別の観点では、各フィルタ(5、7、11又は13)は、例えば、バンドパスフィルタ、ハイパスフィルタ、ローパスフィルタ及びバンドエリミネーションフィルタのいずれと捉えられるものであってもよい。
【0030】
図2(a)は、複合フィルタ1における反射係数及び透過係数を示す図である。
図2(b)及び
図3(a)については既に述べた。
図3(b)は、第1フィルタ5が設けられていない場合の入力端子3Iから第2出力端子3Bへの反射係数及び透過係数を示す図である。
図2(a)及び
図3(b)の横軸及び縦軸は、既述の
図2(b)及び
図3(a)の横軸及び縦軸と同様である。これらの図の上段に示されている凡例において、「S21」は、既述のとおり、入力端子3Iから第1出力端子3Aへの透過係数を示している。「S11」は、外部から見た入力端子3Iにおける反射係数を示している。「S31」は、入力端子3Iから第2出力端子3Bへの透過係数を示している。なお、既述の
図2(b)は、
図2(a)の一部(「S21」の線)を抽出したものとなっている。
【0031】
図示の例では、第1フィルタ5の第1通過帯域は、第2フィルタ7の第2通過帯域に対して高周波数側に位置している。また、図示されている範囲においては、第1フィルタ5は、ハイパスフィルタとして機能しており、第2フィルタ7は、ローパスフィルタとして機能している。なお、第1フィルタ5は、図示されている範囲よりも高周波数側において透過係数が低下しており、バンドパスフィルタとしても機能する。既述の第1減衰極P1~第3減衰極P3は、第1通過帯域と第2通過帯域との間に位置している。なお、図示の例とは異なり、第1減衰極P1~第3減衰極P3は、第1通過帯域及び第2通過帯域の双方に対して高周波数側又は低周波数側に位置するものであってもよい。
【0032】
流通されている製品等において、通過帯域及び阻止帯域は、適宜に特定されてよい。例えば、仕様書によって特定されてもよいし、製品のフィルタ特性を計測することによって特定されてもよい。通過帯域及び阻止帯域に要求される減衰量は、各フィルタ(1、5、7、11又は13)が適用される機器等によって異なる。一例として、減衰量の絶対値が5dB以下又は3dB以下の周波数帯が通過帯域として特定されてよい。また、一例として、減衰量の絶対値が20dB以上又は30dB以上の周波数帯が阻止帯域として特定されてよい。
【0033】
図1に戻って、第1フィルタ5の通過帯域内の周波数を有する信号、及び第2フィルタ7の通過帯域内の周波数を有する信号が第1出力端子3A又は第2出力端子3Bから複合フィルタ1の外部へ出力されることについては既に述べた。通過帯域外の周波数を有する信号は、例えば、第1フィルタ5又は第2フィルタ7によってGND端子3Gへ逃がされる。
【0034】
GND端子3Gは、基準電位が付与される端子であり、別の観点では、基準電位部である。基準電位としては、代表的には0Vを例示できるが、これに限られない。GND端子3Gの数は任意である。複合フィルタ1内における複数のGND端子3Gの電気的な接続の有無も任意である。例えば、図示の例では、第2フィルタ7、第3フィルタ11及び弾性波フィルタ13のそれぞれに対応して3つのGND端子3Gが設けられている。図示の例とは異なり、2以上のフィルタが互いに同一のGND端子3Gに接続されたり、各フィルタ内における複数の素子が互いに異なるGND端子3Gに接続されていたりしても構わない。
【0035】
以後の説明の便宜上、入力端子3Iの側から第1フィルタ5及び第2フィルタ7へ向かって分岐する点をノード15というものとする。ノード15は、図示の例とは異なり、入力端子3Iに位置していてもよい。
【0036】
(2.第1フィルタ5)
第1フィルタ5は、既述のように、入力端子3I(より詳細にはノード15)から第1出力端子3Aへの信号経路に沿って第3フィルタ11及び弾性波フィルタ13を有している。第3フィルタ11及び弾性波フィルタ13の数及び順番は任意である。
図1では、入力側から出力側へ順に、1つの第3フィルタ11と、1つの弾性波フィルタ13とが設けられている。図示の例以外の態様としては、例えば、第3フィルタ11と弾性波フィルタ13との順番が図示の例とは逆のもの、並びに弾性波フィルタ13の入力側及び出力側のそれぞれに第3フィルタ11(合計で2つの第3フィルタ11)が設けられるものが挙げられる。
【0037】
第1フィルタ5は、図示されていない構成要素を備えていてもよい。例えば、第1フィルタ5は、第3フィルタ11及び弾性波フィルタ13とは別個にフィルタを含んでいてもよいし、フィルタとは別に、抵抗体、インダクタ及び/又はキャパシタ等の素子を含んでいてもよい。その位置も任意であり、第3フィルタ11と弾性波フィルタ13との間であってもよいし、両フィルタの外側であってもよい。第1フィルタ5は、フィルタリングを目的とした構成だけでなく、インピーダンス整合等の他の目的を有する構成を含んでいてもよい。上記のように図示されていない構成要素が設けられていてもよいことは、特に断りがない限り、第3フィルタ11内及び弾性波フィルタ13内(並びに第2フィルタ7内)においても同様である。
【0038】
(2.1.第3フィルタ)
第3フィルタ11の具体的な構成(構造)は、種々の構成とされてよく、例えば、公知の構成とされて構わない。より詳細には、例えば、第3フィルタ11は、圧電体を含む圧電フィルタであってもよいし、誘電体内の電磁波を利用する誘電体フィルタであってもよいし、インダクタ及びキャパシタの少なくとも一方を含むLCフィルタであってもよいし、これらのうちの2以上を組み合わせたものであってもよい。圧電フィルタは、例えば、弾性波を利用する弾性波フィルタであってもよいし、弾性波を利用しないもの(例えば圧電振動子を利用するもの)であってもよい。
【0039】
本実施形態では、第3フィルタ11は、弾性波フィルタ以外のものとされており、より詳細には、LCフィルタとされている。LCフィルタは、上記のとおり、インダクタ及びキャパシタの少なくとも一方を含み、例えば、1以上のインダクタ及び1以上のキャパシタを含んでいてよい。LCフィルタの典型例としては、例えば、入力端子3Iと第1出力端子3Aとを接続するLC直列共振回路若しくはLC並列共振回路、入力端子3Iから第1出力端子3Aへの信号経路と基準電位部(GND端子3G)とを接続するLC直列共振回路若しくはLC並列共振回路、又はこれらのうちの2以上の組み合わせが挙げられる。第3フィルタ11も、このようなLCフィルタの典型例を有してよい。
【0040】
図1の例では、第3フィルタ11は、入力端子3Iから第1出力端子3Aへの信号経路とGND端子3Gとを接続する1以上(図示の例では複数。より詳細には2つ)の直列共振回路17を有している。また、第3フィルタ11は、入力端子3Iと第1出力端子3Aとを接続している1以上(図示の例では複数。より詳細には3つ)のキャパシタ21Aを有している。複数のキャパシタ21Aは直列接続されている。各直列共振回路17は、電気的に隣り合うキャパシタ21A同士の間に接続されている。また、各直列共振回路17は、直列接続されているインダクタ19B及びキャパシタ21Bを有している。種々のインダクタ又はキャパシタのインダクタンス又はキャパシタンスは、第3フィルタ11に要求される仕様に応じて適宜に設定されてよい。
【0041】
第3フィルタ11は、既述のように、第1減衰極P1を含む少なくとも1つの減衰極を形成する。減衰極の数及び周波数等は任意である。
図3(a)の例では、第1減衰極P1だけでなく、3500MHz付近の減衰極も第3フィルタ11によるものである。第3フィルタ11単体の透過特性(別の観点では減衰特性)は、特に図示しないが、概略、上記のような減衰極を有するハイパスフィルタとなっている。減衰極は、第3フィルタ11の種々の構成によって実現されてよい。例えば、入力端子3Iから第1出力端子3Aへの信号経路とGND端子3Gの間のLC直列共振回路によって実現されてもよいし(図示の例)、入力端子3Iと第1出力端子3Aとの間のLC並列共振回路によって実現されてもよい。
【0042】
第3フィルタ11の各減衰極は、第1フィルタ5の透過特性に明瞭に現れてもよいし、明瞭に現れなくてもよい。後者の態様としては、他のフィルタ(例えば弾性波フィルタ13)の減衰極を中心とする透過特性の谷と、第3フィルタ11の減衰極を中心とする透過特性の谷とが重なって、減衰極が不明瞭になる態様が挙げられる。また、例えば、第3フィルタ11内で、周波数が互いに異なる減衰極を中心とする透過特性の谷同士が重なって、減衰極が不明瞭になる態様が挙げられる。このような態様においては、第3フィルタ11の構成(例えばLC共振回路のインダクタンス及びキャパシタンス)から減衰極が特定されてよい。
【0043】
なお、第3フィルタ11が、入力端子3Iから第1出力端子3Aへの信号経路とGND端子3Gとを接続する直列共振回路によって構成されてよいことから理解されるように、フィルタ(5、11又は13)が、入力端子3Iと第1出力端子3Aとの間に位置している等という場合において、フィルタのより詳細な構成は、そのような文章表現に合致していなくてもよい。すなわち、入力端子3Iと第1出力端子3Aとの間に位置しているフィルタは、入力端子3I及び第1出力端子3Aに対して直列接続されている部分を有していなくてもよく、例えば、入力端子3Iから第1出力端子3Aへの信号経路と基準電位部とを接続する部分のみを有していてもよい。フィルタは、入力端子3Iから第1出力端子3Aへ流れる信号をフィルタリングできればよい。入力端子3Iと第1出力端子3Aとの間のフィルタを例に取ったが、他の端子間についても同様である。
【0044】
(2.2.弾性波フィルタ)
弾性波フィルタ13が利用する弾性波は、種々のものとされてよく、例えば、SAW(Surface Acoustic Wave)、BAW(Bulk Acoustic Wave)、弾性境界波又は板波である。ただし、これらの弾性波は必ずしも明確に区別できるわけではない。
【0045】
弾性波フィルタ13は、弾性波を利用する限り、種々の構成とされてよく、また、種々の特性を有していてよい。本実施形態では、既述のとおり、弾性波フィルタ13は、少なくとも第3減衰極P3を有している。一般に、弾性波フィルタの減衰極付近の透過係数は、他のフィルタ(例えばLCフィルタ)における減衰極付近の透過係数に比較して急激に変化する。従って、第3フィルタ11の第1減衰極P1よりも第1フィルタ5の通過帯域に近い周波数に第3減衰極P3を位置させることによって、第1フィルタ5の通過帯域と阻止帯域との間における透過特性の傾き(周波数に対する透過係数の変化率)を急峻にすることができる。一方で、第3フィルタ11によって、例えば、阻止帯域の帯域幅の確保が容易化される。
【0046】
弾性波フィルタの構成の典型例としては、例えば、複数の弾性波共振子(後述)をラダー型に接続したラダー型フィルタ、及び複数の弾性波共振子を弾性波の伝搬方向に配列した多重モード側フィルタ(2重モード型フィルタを含むものとする。)が挙げられる。これらのフィルタは、バンドパスフィルタである。弾性波フィルタ13も、そのような典型例と同じとされて構わない。
【0047】
図1の例では、弾性波フィルタ13は、バンドエリミネーションフィルタとして構成されている。例えば、弾性波フィルタ13は、入力端子3Iと第1出力端子3Aとを接続している少なくとも1つ(図示の例では複数。より詳細には4つ)の共振子23を有している。共振子23は、弾性波共振子(後述)である。複数の共振子23は、互いに直列接続されている。また、弾性波フィルタ13は、隣り合う共振子23の間と、基準電位部(GND端子3G)とを接続する適宜な数(図示の例では3つ)の並列腕25を有している。並列腕25の数は共振子23の数に応じて設定されている。なお、ここでの説明とは異なり、1以上の共振子23を含む部分(並列腕25を除いた部分)を弾性波フィルタとして捉えてもよい。
【0048】
特に図示しないが、共振子23のインピーダンスの絶対値は、共振周波数において極小値となり、反共振周波数において極大値となる。従って、例えば、入力端子3I及び第1出力端子3Aを接続する共振子23が設けられていると、共振子23の反共振周波数において減衰極を形成することができる。この減衰極の一部又は全部(
図3(a)の例では全部)は、1以上の第3減衰極P3を構成している。
【0049】
複数の共振子23の反共振周波数(及び/又は共振周波数)は、互いに同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。第3減衰極P3(又は他の減衰極)を有する共振子23の共振周波数(一般に反共振周波数よりも低い)の値は任意である。例えば、共振周波数は、第1減衰極P1(又は第2減衰極P2)に対して、低くてもよいし、同じでもよいし、高くてもよい。反共振周波数が互いに異なる(又は同じ)共振子23の共振周波数は、互いに同じであってもよいし、互いに異なっていてもよい。
【0050】
1以上の並列腕25は、種々の構成とされてよく、その作用も種々のものとされてよい。例えば、並列腕25は、インダクタ及び/又はキャパシタを有する構成であってもよいし、共振子23を有する構成であってもよい。図示の例では、全ての並列腕25は、インダクタ19Cのみを有している。インダクタ19Cは、例えば、複数の共振子23の全体が、容量が大きいキャパシタとして機能する蓋然性を低減し、ひいては、阻止帯域内の周波数を有する信号が第1出力端子3Aから出力される蓋然性を低減することに寄与する。インダクタ19Cは、共振子23と協働して、ハイパスフィルタを構成しても構わない。
【0051】
(3.第2フィルタ)
第2フィルタ7の具体的な構成(構造)は、種々の構成とされてよく、例えば、公知の構成とされて構わない。例えば、第2フィルタ7は、圧電フィルタ(弾性波フィルタを含む。)、誘電体フィルタ若しくはLCフィルタ、又はこれらのうちの2以上を組み合わせたものであってよい。これらのフィルタについては、第3フィルタ11の説明で述べたとおりである。
【0052】
図1の例では、第2フィルタ7は、LCフィルタとされている。LCフィルタとしての第2フィルタ7は、第3フィルタ11と同様に、インダクタ及びキャパシタの少なくとも一方を含み、例えば、1以上のインダクタ及び1以上のキャパシタを含んでいてよい。また、第2フィルタ7は、第3フィルタ11の説明で述べたLCフィルタの典型例を有していてもよい。
【0053】
より詳細には、
図1の例では、第2フィルタ7は、入力端子3Iと第2出力端子3Bとを接続している1以上(図示の例では複数。より詳細には2つ)の並列共振回路27を有している。また、第2フィルタ7は、入力端子3Iから第2出力端子3Bへの信号経路と基準電位部(GND端子3G)とを接続している適宜な数(図示の例では3つ)のキャパシタ21Eを有している。各並列共振回路27は、互いに並列接続されたインダクタ19D及びキャパシタ21Dを有している。複数の並列共振回路27は、直列接続されている。各キャパシタ21Eは、複数の並列共振回路27に対して、入力側、回路間又は出力側に接続されている。種々のインダクタ又はキャパシタのインダクタンス又はキャパシタンスは、第2フィルタ7に要求される仕様に応じて適宜に設定されてよい。
【0054】
図3(b)に示されているように、並列共振回路27によって、例えば、減衰極が構成される。また、キャパシタ21Eが設けられていることによって、第2フィルタ7はローパスフィルタとして機能する。
【0055】
(4.調整回路)
調整回路9は、入力端子3Iから第1フィルタ5の側を見た第1アドミタンスの虚部、及び入力端子3Iから第2フィルタ7の側を見た第2アドミタンスの虚部を互いに反数にすることに寄与可能である限り、種々の構成とされてよい。また、調整回路9は、整合回路の一部又は全部として機能してよい。整合回路は、例えば、入力端子3Iから複合フィルタ1全体を見たときのインピーダンス、入力端子3Iから第1フィルタ5の側を見たときのインピーダンス、及び入力端子3Iから第2フィルタ7の側を見たときのインピーダンスの少なくとも1つを基準のインピーダンス(例えば50Ω)に一致させる(現実的には近づける。)。
【0056】
調整回路9は、例えば、以下のいずれの位置に位置していてもよい。ノード15と第2フィルタ7との間(
図1の例)。ノード15と第1フィルタ5との間。第2フィルタ7と第2出力端子3Bとの間。第1フィルタ5と第1出力端子3Aとの間。調整回路9は、これらの位置の2つ以上に分散されていてもよい。この場合も、1つの調整回路9が設けられていると捉えられてよい。調整回路9を含む整合回路は、入力端子3Iとノード15との間に位置する部分を有していてもよい。当該部分は、調整回路9の一部ではないものとして捉えられてもよいし、調整回路9の一部として捉えられてもよい。
【0057】
調整回路9は、アドミタンスの虚部を調整可能な種々の構成とされてよく、例えば、公知の構成と同じとされて構わない。そのような調整回路9の典型例としては、入力端子3I(ノード15)と出力端子(3A又は3B)とを接続しているインダクタ若しくはキャパシタ、入力端子3I(ノード15)から出力端子(3A又は3B)への信号経路と基準電位部(GND端子3G)とを接続しているインダクタ若しくはキャパシタ、又はこれらの2以上の組み合わせが挙げられる。また、調整回路9は、アドミタンスの実部の調整に寄与する抵抗体を含んでいてもよい。
【0058】
図1の例では、調整回路9は、ノード15と第2フィルタ7とを接続しているインダクタ19Fを有している。これにより、入力端子3Iから第2フィルタ7の側を見たアドミタンスの虚部は負側(誘導性側)へ向かってシフトするように調整されている。
【0059】
(5.第2減衰極)
図4、
図5及び
図6は、第2減衰極P2が形成される原理を説明するための図である。なお、
図5の上段のグラフと
図6の上段のグラフとは同じであり、後者の説明を適宜に省略することがある。
【0060】
これらの図において、横軸は周波数f(MHz)を示している。
図4内の各グラフの縦軸、及び
図6の下段のグラフの左側の縦軸は、アドミタンスY(1/Ω)を示している。なお、便宜上、アドミタンスYは、各グラフにおいて、「Y3」、「Y1」又は「Y2」と表記されている。
図5内の各グラフの縦軸、及び
図6の下段のグラフの右側の縦軸は、インピーダンスZ(Ω)を示している。なお、便宜上、各グラフにおいて、インピーダンスZは、「Z3」、「Z1」又は「Z2」と表記されている。
【0061】
図4の最上部に示された凡例において、「G」は、アドミタンスYの実部(換言すればコンダクタンス)を意味し、「B」は、アドミタンスYの虚部(換言すればサセプタンス)を意味する。
図5の最上部に示された凡例において、「R」は、インピーダンスZの実部(換言すればレジスタンス)を意味し、「X」は、インピーダンスZの虚部(換言すればリアクタンス)を意味する。
図6の下段のグラフの上部に示された凡例において「|Y3|」は、アドミタンスYの絶対値を意味し、「|Z3|」は、インピーダンスZの絶対値を意味する。
【0062】
図4及び
図5のそれぞれにおいて、中段のグラフは、入力端子3Iから第1フィルタ5の側を見た第1アドミタンスY1(
図4)又は第1インピーダンスZ1(
図5)を示している。下段のグラフは、入力端子3Iから第2フィルタ7の側を見た第2アドミタンスY2(
図4)又は第2インピーダンスZ2(
図5)を示している。最上段のグラフは、Y1及びY2の合成アドミタンスY3(
図4)又はZ1及びZ2の合成インピーダンスZ3(
図5)を示している。Y3及びZ3は、換言すれば、入力端子3Iから複合フィルタ1全体を見たアドミタンス及びインピーダンスである。
図6の下段のグラフは、合成アドミタンスY3及び合成インピーダンスZ3それぞれの絶対値を示している。
【0063】
図4~
図6において、線Ln1は、第2減衰極P2a(
図2(b))の周波数を示している。線Ln2は、第2減衰極P2b(
図2(b))の周波数を示している。
【0064】
図4において、第2減衰極P2a及びP2bの周波数(線Ln1及びLn2)それぞれにおいて、第1フィルタ5の第1アドミタンスY1(中段のグラフ)の虚部と、第2フィルタ7の第2アドミタンスY2(下段のグラフ)の虚部とは互いに反数になっている。これにより、合成アドミタンスY3(上段のグラフ)の虚部は0になっている。
【0065】
第2減衰極P2aの周波数(線Ln1)において、合成アドミタンスY3の虚部が0になることによって、
図6の下段のグラフに示されているように|Y3|は極大値となっている。これにより、入力端子3Iからの信号が基準電位部(GND端子3G)に流れやすくなり、第2減衰極P2aが形成される。なお、
図6の下段のグラフに示されているように、第2減衰極P2aの周波数においては、|Z3|は極小値となる。
【0066】
第2減衰極P2bの周波数(線Ln2)において、合成アドミタンスY3の虚部が0になることによって、
図6の下段のグラフに示されているように|Z3|は極大値となっている。これにより、入力端子3Iからの信号が第1出力端子3Aへ流れにくくなり、第2減衰極P2bが形成される。なお、
図6の下段のグラフに示されているように、第2減衰極P2bの周波数においては、|Y3|は極小値となる。
【0067】
第1アドミタンスY1の虚部と第2アドミタンスY2の虚部とが互いに反数であるというとき、両者の絶対値は厳密に等しくなくてよい。Y1及びY2の虚部が互いに反数といえるか否かは、合理的に判断されてよい。例えば、逆説的であるが、第2減衰極P2が形成されたことに基づいて、Y1及びY2の虚部が互いに反数であることが特定されてよい。また、次段落に例示するように、Y1及びY2の虚部の和の絶対値(別の観点ではY1及びY2の虚部の絶対値の差)が所定の範囲内であるときにY1及びY2の虚部が互いに反数であると判断されてよい。
【0068】
インピーダンス整合は、|Y1|及び|Y2|を基準アドミタンスY0の絶対値|Y0|にすることに相当する。|Y0|は、例えば、0.02(1/Ω)である。Y1の虚部及びY2の虚部が互いに反数であるというとき、両者の絶対値の差は、例えば、|Y0|/2未満、|Y0|/5未満若しくは|Y0|/10とされてよく、及び/又は、0.01(1/Ω)未満、0.004(1/Ω)未満若しくは0.002(1/Ω)未満とされてよい。
【0069】
図4に示す例では、以下のとおり、Y1及びY2の虚部の絶対値は互いに等しくなっている。なお、下記説明では、Y1及びY2の虚部の正負が互いに異なることは当然の前提としている。
【0070】
線Ln1で示す周波数付近においては、Y1の虚部の絶対値が周波数fの増加に対して相対的に緩やかに増加しているのに対して、Y2の虚部の絶対値が周波数fの増加に対して相対的に急激に増加している。その結果、Y2の虚部の絶対値は、Y1の虚部の絶対値よりも小さい値から大きい値へ変化している。これにより、Y1の虚部の絶対値及びY2の虚部の絶対値が同じになる周波数が存在している。そして、この周波数が第2減衰極P2aの周波数になっている。
【0071】
また、線Ln2で示す周波数付近においては、Y1の虚部の絶対値が周波数fの増加に対して増加しているのに対して、Y2の虚部の絶対値が周波数fの増加に対して減少している。その結果、Y2の虚部の絶対値は、Y1の虚部の絶対値よりも大きい値から小さい値へ変化している。これにより、Y1の虚部の絶対値及びY2の虚部の絶対値が同じになる周波数が存在している。そして、この周波数が第2減衰極P2bの周波数になっている。
【0072】
上記の説明におけるY1の語とY2の語とを置換した態様が実現されてもよい。また、説明において、虚部の絶対値に関して、増加の語と減少の語とを置換した態様が実現されてもよい。Y1及びY2の正負は、図示の例とは逆であってもよい。いずれにせよ、Y1及びY2の虚部は、絶対値が厳密に等しい反数となる。Y1及びY2の虚部の絶対値が厳密に等しくならない例としては、例えば、周波数fの増加に伴って、Y1及びY2の虚部の絶対値の一方が他方に近づき、その差が微小になった後、同じにならずに、前記他方から離れる態様が挙げられる。
【0073】
虚部と同様に、Y1及びY2が互いに複素共役であるというとき、Y1の実部及びY2の実部は厳密に等しくなくてよい。Y1の虚部及びY2の虚部が互いに反数であるというときの両者の絶対値の差の上限値の例(既述)は、Y1及びY2が互いに複素共役であるというときのY1の実部とY2の実部との差の上限値に援用されてよい。
【0074】
図4の例では、第2減衰極P2aの周波数(線Ln1)においては、Y1及びY2は複素共役でなく、第2減衰極P2bの周波数(線Ln2)においては、Y1及びY2は複素共役となっている。より詳細には、線Ln2付近の周波数において、周波数fの増加に対して、Y1の実部は増加し、Y2の実部は減少している。その結果、両者は互いに同じになる周波数が存在し、かつこの周波数は、Y1及びY2の虚部が互いに反数になる周波数と概ね一致している。
【0075】
(6.複合フィルタの構造の例)
以上に説明した複合フィルタ1の回路構成は、種々の構造によって実現されてよい。以下に一例を示す。
【0076】
図7は、複合フィルタ1の構造の一例を示す模式的な断面図である。複合フィルタ1は、いずれの方向が上方とされてもよいが、便宜上、
図7の説明においては、図の上方(紙面に沿う上方)を上方とし、上面及び下面等の語を用いることがある。
【0077】
複合フィルタ1は、例えば、表面実装型のチップ部品として構成されている。その全体形状は、例えば、概略、上下方向を厚さ方向とする薄型の直方体状(厚みが平面視の短辺の長さよりも短い形状)である。複合フィルタ1の下面には、複合フィルタ1を実装するために複数の外部端子3が設けられている。複数の外部端子3は、例えば、既述の入力端子3I、第1出力端子3A、第2出力端子3B及びGND端子3Gを含む。特に図示しないが、複合フィルタ1は、複数の外部端子3が回路基板の複数のパッドに対して複数の導電性のバンプ(例えばはんだ)によって接合されることによって上記回路基板に実装される。
【0078】
複合フィルタ1は、例えば、回路基板31と、回路基板31に実装されている弾性波チップ33と、弾性波チップ33を封止している封止部35とを有している。
図1では、
図7に例示する構造を想定して、回路基板31及び弾性波チップ33の符号も付されている。
図1に示されているように、第2フィルタ7、調整回路9及び第3フィルタ11は、例えば、回路基板31に設けられていてよい。弾性波フィルタ13が有している複数の共振子23は、弾性波チップ33に設けられていてよい。弾性波フィルタ13が有している他の構成要素(
図1の例ではインダクタ19C)の一部又は全部は、回路基板31に設けられていてよい。なお、回路基板31に設けられていてよいとした構成要素の一部又は全部は、弾性波チップ33に設けることも可能である。
【0079】
図7に戻って、回路基板31は、例えば、概略、上下方向を厚さ方向とする薄型の直方体状に形成されている。回路基板31の基本的な構造及び材料(複合フィルタ1を構成するための具体的な導体のパターン及び寸法等を除いた構成)は、公知の種々のプリント基板の構造及び材料と同様とされてよい。例えば、回路基板31は、LTCC(Low Temperature Co-fired Ceramics)基板、HTCC(High Temperature Co-Fired Ceramic)基板、IPD(Integrated Passive Device)基板又は有機多層基板とされてよい。
【0080】
LTCC基板としては、例えば、アルミナにガラス系材料を加えて低温(例えば900℃前後)での焼成を可能としたものが挙げられる。LTCC基板において、導電材料としては、例えば、Cu又はAgが用いられてよい。HTCC基板としては、アルミナ又は窒化アルミニウムを主成分としたセラミックスを用いたものが挙げられる。HTCC基板において、導電材料としては、例えば、タングステン又はモリブデンが用いられてよい。IPD基板としては、例えば、Si基板に受動素子を形成したものが挙げられる。有機多層基板としては、ガラス等からなる基材に樹脂を含侵させたプリプレグを積層したものが挙げられる。
【0081】
回路基板31は、例えば、実質的に絶縁性の板状の基体37と、基体37の内部及び/又は表面に位置している導体39を有している。基体37は、例えば、互いに積層された複数の絶縁層37aを有してよい。導体39は、例えば、絶縁層37aの主面に位置している導体層39aと、絶縁層37aを貫通するビア導体39bとを有してよい。
【0082】
弾性波チップ33は、例えば、表面実装型のチップ部品として構成されている。その全体形状は、例えば、概略、上下方向を厚さ方向とする薄型の直方体状である。弾性波チップ33の基本的な構造及び材料(複合フィルタ1を構成するための具体的な導体のパターン及び寸法等を除いた構成)は、公知の種々の弾性波チップの構造及び材料と同様とされてよい。例えば、弾性波チップ33は、ベアチップであってもよいし、ベアチップの回路基板31側の面を覆うカバーを有するWLP(Wafer level Package)型のものであってもよいし、ベアチップの側面を覆うモールド部を有するFO(Fan Out)-WLP型のものであってもよい。ここでは、弾性波チップ33がベアチップである態様を例に取る。弾性波チップ33は、例えば、チップ基板41と、チップ基板41の回路基板31側の面(一方の主面)に位置している導体層43とを有している。
【0083】
チップ基板41は、例えば、少なくとも、回路基板31側の面のうちの所定領域が圧電体によって構成されている。圧電体は、例えば、圧電性を有する単結晶からなる。単結晶は、例えば、水晶(SiO2)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)単結晶またはタンタル酸リチウム(LiTaO3)単結晶である。カット角は、利用する弾性波の種類等に応じて適宜に設定されてよい。チップ基板41は、例えば、その全体が圧電体によって構成されていてもよいし(圧電基板であってもよいし)、圧電基板と支持基板とが貼り合わされたものであってもよいし、支持基板上に複数の膜を積層してその上に圧電体層を重ねたものであってもよいし、圧電体層と支持基板との間に空洞を有するものであってもよい。導体層43の材料は、Al等の適宜な金属とされてよい。
【0084】
特に図示しないが、弾性波チップ33は、上記の他、弾性波チップ33の端子を露出させつつ、導体層43及びチップ基板41の回路基板31側の面を覆う絶縁層を有していてもよい。このような絶縁層は、単に導体層43の腐食を低減するためのものであってもよいし、音響的に有利な作用を奏するものであってもよい。このような絶縁層の材料は、適宜なものとされてよく、例えば、SiO2である。また、チップ基板41の側面及び下面は、チップ基板41の厚さに比較して薄い絶縁層等によって被覆されていてもよい。
【0085】
弾性波チップ33の導体層43は、例えば、弾性波チップ33の端子43aを有している。また、回路基板31の上面に位置する導体層39aは、端子43aに対向するパッド39cを有している。端子43aとパッド39cとが導電性のバンプ45によって接合されることによって、弾性波チップ33は、回路基板31に実装される。すなわち、弾性波チップ33は、バンプ45によって、回路基板31に固定されるとともに、電気的に接続される。バンプ45の材料は、例えば、はんだである。はんだは、鉛フリーはんだを含む。
【0086】
封止部35は、例えば、弾性波チップ33の上から回路基板31の上面を覆っている。弾性波チップ33と回路基板31との間には、端子43a、バンプ45及びパッド39cの厚みで隙間が構成されている。封止部35は、この隙間には充填されておらず、当該隙間は、封止部35によって封止された密閉空間とされている。密閉空間は、真空状態とされていてもよいし、適宜な不活性ガス(例えば窒素)が充填されていてもよい。封止部35の材料は、有機材料であってもよいし、無機材料であってもよいし、両者の組み合わせであってもよい。より詳細には、例えば、封止部35は、樹脂とされたり、無機材料からなる粒子(フィラー)を含んでいる樹脂とされたりしてよい。
【0087】
回路基板31の導体39は、例えば、1以上のインダクタ19及び1以上のキャパシタ21を構成している。1以上のインダクタ19は、例えば、
図1に示したインダクタ19B、19C、19D及び/又は19Fを含む。1以上のキャパシタ21は、例えば、
図1に示したキャパシタ21A、21B、21D及び/又は21Eを含む。基体37は、キャパシタ21の電極間の誘電体として機能してよい。既述のように、上記のインダクタ19及びキャパシタ21の少なくとも一部は、弾性波チップ33の導体層43によって構成されてもよい。共振子23は、弾性波チップ33のチップ基板41及び導体層43によって構成されている。
【0088】
回路基板31の導体39(又は弾性波チップ33の導体層43)によって構成されるインダクタ19は、適宜な構成とされてよい。例えば、インダクタ19は、導体層39aが含むミアンダ状又は渦巻き状の導体パターンによって構成されていてもよいし、導体層39a及びビア導体39bを適宜に組み合わせて構成された螺旋状の導体によって構成されていてもよい。
【0089】
回路基板31の導体39(又は弾性波チップ33の導体層43)によって構成されるキャパシタ21は、適宜な構成とされてよい。例えば、キャパシタ21の1対の電極は、同一の導体層39aによって構成されていてもよいし、互いに異なる導体層39aによって構成されていてもよい。前者としては、平面視において互いに対向する1対のストリップ状の電極、及び平面視において互いに噛み合う1対の櫛歯電極(共振子23の後述する櫛歯電極を参照)を挙げることができる。後者としては、絶縁層37aの厚さ方向において絶縁層37aを挟んで互いに対向する平板電極を挙げることができる。
【0090】
特に図示しないが、回路基板31には、弾性波チップ33以外の他のチップが実装されていてもよい。他のチップは、例えば、チップインダクタ(既述の種々のインダクタ19のいずれかであってよい。)、チップキャパシタ(既述の種々のキャパシタ21のいずれかであってよい。)、又はチップ型のフィルタ(第2フィルタ7又は第3フィルタ11であってよい。)であってよい。あるいは、他のチップは、インダクタ19及びキャパシタ21のような構成要素を2つ以上含む特注品として構成されていてもよい。
【0091】
複合フィルタ1は、図示の例のようなチップ部品ではなく、モジュールの一部であってもよい。より詳細には、例えば、回路基板31は、図示の例よりも広い面積を有していたり、複合フィルタ1を構成しない素子(電子部品)が実装及び/又は内蔵されていたりしてよい。このような場合において、複合フィルタ1は、回路基板31の導体39によって構成された配線によって他の素子と接続されていてよい。別の観点では、複合フィルタ1の端子(3I、3A、3B及び3G)の概念に明瞭に合致する部位が存在しなくてもよい。回路基板31に実装又は内蔵される素子としては、例えば、IC(Integrated Circuit)及びアンテナを挙げることができる。
【0092】
弾性波チップ33は、複合フィルタ1に加えて、他のフィルタを構成していてもよい。例えば、複合フィルタ1(弾性波フィルタ13)とは別の弾性波フィルタのための共振子23が弾性波チップ33に設けられていてもよい。より詳細には、例えば、図示されたチップ部品は、送信フィルタ及び受信フィルタを有する分波器(例えばデュプレクサ)を構成してよい。この場合において、第1フィルタ5(弾性波フィルタ13)が送信フィルタ及び受信フィルタの一方を構成し、弾性波チップ33に設けられた他のフィルタが送信フィルタ及び受信フィルタの他方を構成してよい。
【0093】
弾性波チップ33以外の他の弾性波チップが回路基板31に実装されていてもよい。より詳細には、例えば、弾性波チップ33及び他の弾性波チップを含むチップ部品は、分波器(例えばデュプレクサ)を構成してよい。そして、第1フィルタ5は、送信フィルタ及び受信フィルタの一方を構成し、他の弾性波チップによって構成されるフィルタは、送信フィルタ及び受信フィルタの他方を構成してよい。
【0094】
弾性波チップ33等の電子部品の回路基板31に対する実装は、バンプ45によるものに限定されない。例えば、電子部品は、回路基板31に絶縁性の接着剤によって固定されるとともに、ボンディングワイヤによって回路基板31に電気的に接続されてもよい。
【0095】
(7.弾性波共振子の構成の具体例)
弾性波フィルタ13が有する共振子23の構成は種々のものとされてよい。例えば、共振子23は、SAW共振子とされてもよいし、SAW共振子と同様の電極を有しつつ、BAWを利用するBAW共振子とされてもよいし、キャビティ上で圧電薄膜を振動させる圧電薄膜共振器(FBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)と呼称されることもある。)とされてもよい。以下、共振子23の一例として、SAW共振子について説明する。
【0096】
図8は、共振子23としてのSAW共振子の構成を模式的に示す平面図である。この図は、弾性波チップ33のうち、回路基板31側の面の一部領域を示している。
【0097】
図8には、便宜的に、D1軸、D2軸及びD3軸からなる直交座標系を付す。共振子23は、いずれの方向が上方又は下方とされてもよい。ただし、以下の説明では、便宜上、D3軸の正側を上方として、上面又は下面等の用語を用いることがある。なお、D1軸は、チップ基板41の回路基板31側の面(上面41a)に沿って伝搬する弾性波の伝搬方向に平行になるように定義されている。D2軸は、上面41aに平行かつD1軸に直交するように定義されている。D3軸は、上面41aに直交するように定義されている。
【0098】
共振子23は、いわゆる1ポート弾性波共振子によって構成されている。共振子23は、例えば、図の両側に示された2つの配線55の一方から入力された信号を2つの配線55の他方から出力する。この際、共振子23は、電気信号から弾性波への変換及び弾性波から電気信号への変換を行う。
【0099】
共振子23は、例えば、チップ基板41(その少なくとも上面41a側の一部)と、上面41a上に位置する励振電極57と、励振電極57の両側に位置する1対の反射器59とを含んでいる。1つのチップ基板41上には、複数の共振子23が構成されてよい。すなわち、チップ基板41は、複数の共振子23に共用されてよい。
【0100】
チップ基板41は、既述のように、少なくとも、上面41aのうち所定の領域に圧電性を有している。励振電極57及び反射器59は、当該領域に設けられた層状導体によって構成されている。励振電極57および反射器59は、例えば、互いに同一の材料および厚さで構成されている。これらを構成する層状導体は、例えば、金属である。金属は、例えば、AlまたはAlを主成分とする合金(Al合金)である。Al合金は、例えば、Al-Cu合金である。層状導体は、複数の金属層から構成されていてもよい。層状導体の厚さは、共振子23に要求される電気特性等に応じて適宜に設定される。一例として、層状導体の厚さは50nm以上600nm以下である。
【0101】
励振電極57は、いわゆるIDT(Interdigital Transducer)電極によって構成されており、1対の櫛歯電極61(一方には視認性をよくする便宜上ハッチングを付す)を有している。各櫛歯電極61は、例えば、バスバー63と、バスバー63から互いに並列に延びる複数の電極指65と、複数の電極指65の間においてバスバー63から突出する複数のダミー電極67とを有している。そして、1対の櫛歯電極61は、複数の電極指65が互いに噛み合うように(交差するように)配置されている。
【0102】
バスバー63は、例えば、概略、一定の幅で弾性波の伝搬方向(D1方向)に直線状に延びる長尺状に形成されている。そして、一対のバスバー63は、弾性波の伝搬方向に直交する方向(D2方向)において互いに対向している。なお、バスバー63は、幅が変化したり、弾性波の伝搬方向に対して傾斜したりしていてもよい。
【0103】
各電極指65は、例えば、概略、一定の幅で弾性波の伝搬方向に直交する方向(D2方向)に直線状に延びる長尺状に形成されている。なお、電極指65は、幅が変化していたり、曲がっていたりしてもよい。各櫛歯電極61において、複数の電極指65は、弾性波の伝搬方向に配列されている。また、一方の櫛歯電極61の複数の電極指65と他方の櫛歯電極61の複数の電極指65とは、基本的には交互に配列されている。
【0104】
複数の電極指65のピッチp(例えば互いに隣り合う2本の電極指65の中心間距離)は、励振電極57内において基本的に一定である。なお、励振電極57は、一部にピッチpに関して特異な部分を有していてもよい。特異な部分としては、例えば、大部分(例えば8割以上)よりもピッチpが狭くなる狭ピッチ部、大部分よりもピッチpが広くなる広ピッチ部、少数の電極指65が実質的に間引かれた間引き部が挙げられる。
【0105】
実施形態の説明において、ピッチpという場合、特に断りがない限りは、上記のような狭ピッチ部、広ピッチ部、又は間引き部のような特異な部分を除いた部分(複数の電極指65の大部分)のピッチをいうものとする。また、特異な部分を除いた大部分の電極指65においてもピッチが変化しているような場合においては、大部分(例えば分散が最小になるように選択された全体の8割の本数)の電極指65のピッチの平均値をピッチpの値として用いてよい。
【0106】
電極指65の本数は、共振子23に要求される電気特性等に応じて適宜に設定されてよい。
図8は模式図であることから、電極指65の本数は少なく示されている。実際には、図示よりも多くの電極指65が配列されてよい。後述する反射器59のストリップ電極71についても同様である。
【0107】
複数の電極指65の長さは、例えば、互いに同等である。なお、励振電極57は、複数の電極指65の長さ(別の観点では後述する交差幅W)が伝搬方向の位置に応じて変化する、いわゆるアポダイズが施されていてもよい。電極指65の長さ及び幅は、要求される電気特性等に応じて適宜に設定されてよい。
【0108】
ダミー電極67は、例えば、概ね一定の幅で弾性波の伝搬方向に直交する方向に突出している。その幅は、例えば電極指65の幅と同等である。また、複数のダミー電極67は、複数の電極指65と同等のピッチで配列されており、一方の櫛歯電極61のダミー電極67の先端は、他方の櫛歯電極61の電極指65の先端とギャップを介して対向している。なお、励振電極57は、ダミー電極67を含まないものであってもよい。
【0109】
1対の反射器59は、弾性波の伝搬方向において複数の励振電極57の両側に位置している。各反射器59は、例えば、電気的に浮遊状態とされてもよいし、基準電位が付与されてもよい。各反射器59は、例えば、格子状に形成されている。すなわち、反射器59は、互いに対向する1対のバスバー69と、1対のバスバー69間において延びる複数のストリップ電極71とを含んでいる。複数のストリップ電極71のピッチ、及び互いに隣接する電極指65とストリップ電極71とのピッチは、基本的には複数の電極指65のピッチと同等である。
【0110】
1対の櫛歯電極61に電圧が印加されると、複数の電極指65によって上面41a(圧電体)に電圧が印加され、圧電体が振動する。すなわち、弾性波が励振される。種々の方向に伝搬する種々の波長の弾性波のうち、複数の電極指65のピッチpを概ね半波長(λ/2)として複数の電極指65の配列方向に伝搬する弾性波は、複数の電極指65によって励振された複数の波が同相で重なり合うことから振幅が大きくなりやすい。
【0111】
また、圧電体を伝搬する弾性波は、複数の電極指65によって電気信号に変換される。このとき、弾性波が励振されるときと同様に、複数の電極指65のピッチpを概ね半波長(λ/2)として複数の電極指65の配列方向に伝搬する弾性波が変換された電気信号の強度が強くなりやすい。
【0112】
上記のような作用(及びここでは説明を省略する他の作用)により、共振子23は、ピッチpを概ね半波長(λ/2)とする弾性波の周波数を共振周波数とする共振子として機能する。反共振周波数は、共振周波数及び励振電極57の容量等によって規定される。1対の反射器59は、弾性波を閉じ込めることに寄与する。
【0113】
特に図示しないが、共振子23は、複数の分割共振子が直列接続及び/又は並列接続されて構成されていても構わない。各分割共振子は、例えば、
図8に示した共振子23と同様の構成を有している。ただし、電極の具体的な寸法等は、分割されていない共振子23のものとは異なる。
【0114】
(8.複合フィルタの利用例)
図9は、複合フィルタ1の利用例としての通信装置151の要部を示すブロック図である。通信装置151は、モジュール171と、モジュール171を収容する筐体173とを有している。モジュール171は、電波を利用した無線通信を行うものであり、複合フィルタ1(ダイプレクサ)を含んでいる。
【0115】
モジュール171において、アンテナ159によって受信された無線信号(電波)は、アンテナ159によって電気信号に変換されて複合フィルタ1(より詳細には
図1の入力端子3I)に入力される。入力された受信信号のうち、第1フィルタ5の通過帯域の周波数を有する受信信号RS1は、第1フィルタ5(より詳細には
図1の第1出力端子3A)から出力される。また、入力された受信信号のうち、第2フィルタ7の通過帯域の周波数を有する受信信号RS2は、第2フィルタ7(より詳細には
図1の第2出力端子3B)から出力される。
【0116】
第1フィルタ5から出力された受信信号RS1は、増幅器155Aによって増幅され、バンドパスフィルタ157Aによって所定の通過帯域以外の不要成分が除去される。そして、受信信号RS1は、RF-IC153によって周波数の引き下げおよび復調がなされて受信情報信号RIS1とされる。
【0117】
同様に、第2フィルタ7から出力された受信信号RS2は、増幅器155Bによって増幅され、バンドパスフィルタ157Bによって所定の通過帯域以外の不要成分が除去される。そして、受信信号RS2は、RF-IC153によって周波数の引き下げおよび復調がなされて受信情報信号RIS2とされる。
【0118】
受信情報信号RIS1及びRIS2は、適宜な情報を含む低周波信号(ベースバンド信号)であってよい。例えば、これらの信号は、アナログの音声信号、デジタル化された音声信号、又は衛星測位システムを利用する信号であってよい。変調方式は、例えば、位相変調、振幅変調若しくは周波数変調又はこれらの2つ以上の組み合わせであってよい。回路方式は、ダイレクトコンバージョン方式を図示したが、それ以外の適宜なものとされてよく、例えば、ダブルスーパーヘテロダイン方式であってもよい。また、
図9は、要部のみを模式的に示すものであり、適宜な位置にフィルタやアイソレータ等が追加されてもよいし、また、増幅器等の位置が変更されてもよい。
【0119】
モジュール171は、例えば、RF-IC153からアンテナ159までの構成要素を同一の回路基板上に有している。すなわち、複合フィルタ1は、他の構成要素と組み合わされてモジュール化されている。この回路基板は、回路基板31であってもよいし、回路基板31が実装されるものであってもよい。なお、複合フィルタ1は、モジュール化されずに、通信装置151に含まれていても構わない。また、モジュール171の構成要素として例示した構成要素は、モジュールの外部に位置していたり、筐体173に収容されていなかったりしてもよい。例えば、アンテナ159は、筐体173の外部に露出するものであってもよい。
【0120】
(9.実施形態のまとめ)
以上のとおり、複合フィルタ1は、第1フィルタ5と、第2フィルタ7と、調整回路9とを有している。第1フィルタ5は、共通端子(入力端子3I)に接続されている。第2フィルタ7は、入力端子3Iに接続されており、入力端子3Iから見て第1フィルタ5と互いに分岐している。調整回路9は、入力端子3Iから第1フィルタ5の側を見た第1アドミタンスY1、及び入力端子3Iから第2フィルタ7の側を見た第2アドミタンスY2の少なくとも一方(
図1の例では後者)を調整している。第1フィルタ5は、該第1フィルタ5の通過帯域に対して低周波数側又は高周波数側(
図3(a)の例では低周波数側)に位置する少なくとも1つの減衰極を有する第3フィルタ11を有している。第3フィルタ11の上記少なくとも1つの減衰極のうち第1フィルタ5の通過帯域に最も近い周波数を有する第1減衰極P1と上記通過帯域との間のいずれかの周波数において、第1アドミタンスY1の虚部と第2アドミタンスY2の虚部とが互いに反数であることによって、第2減衰極P2(具体的にはP2a及び/又はP2b)が構成されている。
【0121】
また、実施形態に係る通信装置151は、複合フィルタ1と、共通端子(入力端子3I)に接続されているアンテナ153と、複合フィルタ1に対して入力端子3Iとは反対側に接続されている集積回路素子(RF-IC159)と、を有している。
【0122】
従って、阻止帯域のうち通過帯域に相対的に近い周波数帯における減衰特性を向上させることができる。周波数に対する透過特性の変化を移動平均線のように均した曲線で捉えた場合においては、通過帯域と阻止帯域との間の透過特性の傾きを急峻化できるといえる。第1フィルタ5単体で透過特性の傾きを急峻化しようとすると、挿入損失が大きくなる蓋然性が高い。しかし、第1フィルタ5及び第2フィルタ7の合成アドミタンス及び/又は合成インピーダンスを大きくして1つ以上の第2減衰極P2を形成することから、挿入損失が大きくなる蓋然性を低減できる。
【0123】
第2減衰極P2の周波数において第1アドミタンスY1と第2アドミタンスY2とは互いに複素共役であってよい。
【0124】
この場合、例えば、第1フィルタ5及び第2フィルタ7への信号の流れやすさが同等になる。その結果、例えば、第2減衰極P2及びその付近の周波数を有する信号が一方のフィルタのみに偏って流れる蓋然性が低減される。
【0125】
第3フィルタ11は、LCフィルタであってよい。第1フィルタ5は、第3フィルタ11に対して入力端子3Iの側又は入力端子3Iとは反対側(図示の例では後者)に位置している弾性波フィルタ13を有していてよい。弾性波フィルタ13は、第1減衰極P1の周波数と第1フィルタ5の通過帯域との間に位置している第3減衰極P3を有していてよい。
【0126】
この場合、例えば、既述のように、弾性波フィルタ13の急峻な減衰特性を利用しつつ、第3フィルタ11(LCフィルタ)によって阻止帯域(又は通過帯域)の帯域を確保することができる。
【0127】
第3減衰極P3は、第2減衰極P2の周波数と第1フィルタ5の通過帯域との間に位置していてよい。
【0128】
この場合、例えば、第3減衰極P3によって減衰特性の急峻化を図りつつ、周波数に対する減衰特性の変化を移動平均線のように均した曲線で捉えた場合における減衰特性の急峻化を図ることができる。すなわち、ミクロ的な観点の急峻性と、マクロ的な観点の急峻性とを実現できる。
【0129】
以上の実施形態において、入力端子3Iは共通端子の一例である。RF-IC159は集積回路素子の一例である。
【0130】
本開示に係る技術は、以上の実施形態に限定されず、種々の態様で実施されてよい。
【0131】
例えば、複合フィルタは、共通端子に接続されており、共通端子から見て互いに分岐している3以上のフィルタを有していてよい。この場合、1つの第1フィルタと、2以上の第2フィルタとが設けられていると捉えられてよい。念のために記載すると、2以上の第2フィルタの通過帯域は、互いに異なっていてよい。実施形態のように、第2フィルタの数が1つである態様も含めて上位概念化して言えば、複合フィルタは、第1フィルタと、1以上の第2フィルタとを有していてよい。
【0132】
共通端子から1以上の第2フィルタの側を見た第2アドミタンスは、第2フィルタの数が2以上である態様においては、2以上の第2フィルタそれぞれのアドミタンスを互いに足し合わせた合成アドミタンスであってよい。この合成後の第2アドミタンスの虚部が、実施形態の第2アドミタンスの虚部と同様に、共通端子から第1フィルタの側を見た第1アドミタンスの虚部と互いに反数であってよい。さらには、合成後の第2アドミタンスは、第1アドミタンスと共役な複素数であってよい。調整回路が合成後の第2アドミタンスを調整する場合において、調整回路の構成要素は、少なくとも1つの第2フィルタのアドミタンスを調整すればよい。
【0133】
共通端子は、入力端子に限定されず、出力端子であってもよい。別の観点では、実施形態の第1出力端子(3A)及び第2出力端子(3B)は、第1端子及び第2端子と上位概念化されてよい。また、共通端子は、入力端子及び出力端子に兼用されてもよい。別の観点では、複合フィルタは、第1フィルタ及び第2フィルタの一方が送信フィルタとされ、第1フィルタ及び第2フィルタの他方が受信フィルタとされたデュプレクサであってもよい。
【0134】
これまでの説明からも理解されるように、複合フィルタは、ダイプレクサに限定されない。例えば、複合フィルタは、デュプレクサ、トリプレクサ又はクアッドプレクサであってもよい。
【0135】
第1端子及び第2端子(実施形態では第1出力端子3A及び第2出力端子3B)は、不平衡信号の入力又は出力に供されるものに限定されず、平衡信号に供されるものであってもよい。すなわち、実施形態とは異なり、1対の第1端子及び/又は1対の第2端子が設けられていてもよい。
【0136】
実施形態では、第1フィルタ5のLC回路部分(第3フィルタ11及び弾性波フィルタ13のインダクタ19C)と、第2フィルタ7とは、同一の回路基板31に造り込まれた。ただし、これらは、互いに別個の回路基板に造り込まれても構わない。また、実施形態では、調整回路9は、第1フィルタ5のLC回路部分及び第2フィルタ7が造り込まれている回路基板31に造り込まれた。ただし、調整回路9は、第1フィルタ5のLC回路部分及び第2フィルタ7の少なくとも一方が造り込まれた回路基板とは別の回路基板に造り込まれても構わない。
【0137】
本開示からは以下の概念を抽出できる。
【0138】
(概念1)
共通端子に接続されている第1フィルタと、
前記共通端子に接続されており、前記共通端子から見て前記第1フィルタと互いに分岐している1以上の第2フィルタと、
前記共通端子から前記第1フィルタの側を見た第1アドミタンス、及び前記共通端子から前記1以上の第2フィルタの側を見た第2アドミタンスの少なくとも一方を調整している調整回路と、
を有しており、
前記第1フィルタは、該第1フィルタの通過帯域に対して低周波数側又は高周波数側に位置する少なくとも1つの減衰極を有する第3フィルタを有しており、
前記少なくとも1つの減衰極のうち前記通過帯域に最も近い周波数を有する第1減衰極と前記通過帯域との間のいずれかの周波数において、前記第1アドミタンスの虚部と前記第2アドミタンスの虚部とが互いに反数であることによって、第2減衰極が構成されている
複合フィルタ。
【0139】
(概念2)
前記第2減衰極の周波数において前記第1アドミタンスと前記第2アドミタンスとが互いに複素共役である
概念1に記載の複合フィルタ。
【0140】
(概念3)
前記第3フィルタは、LCフィルタであり、
前記第1フィルタは、前記LCフィルタに対して前記共通端子の側又は前記共通端子とは反対側に位置している弾性波フィルタを有しており、
前記弾性波フィルタは、前記第1減衰極の周波数と前記通過帯域との間に位置している第3減衰極を有している
概念1又は2に記載の複合フィルタ。
【0141】
(概念4)
前記第3減衰極は、前記第2減衰極の周波数と前記通過帯域との間に位置している
概念3に記載の複合フィルタ。
【0142】
(概念5)
概念1~4のいずれか1つに記載の複合フィルタと、
前記共通端子に接続されているアンテナと、
前記第1フィルタに対して前記共通端子とは反対側に接続されている集積回路素子と、
を有している通信装置。
【符号の説明】
【0143】
1…複合フィルタ、3I…入力端子(共通端子)、3A…第1出力端子(第1端子)、3B…第2出力端子(第2端子)、5…第1フィルタ、7…第2フィルタ、9…調整回路、11…第3フィルタ、P1…第1減衰極、P2(P2a,P2b)…第2減衰極。