(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039540
(43)【公開日】2024-03-22
(54)【発明の名称】印刷用塗工紙
(51)【国際特許分類】
D21H 19/38 20060101AFI20240314BHJP
【FI】
D21H19/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022144162
(22)【出願日】2022-09-09
(71)【出願人】
【識別番号】000005980
【氏名又は名称】三菱製紙株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中村 淳
(72)【発明者】
【氏名】浦崎 淳
【テーマコード(参考)】
4L055
【Fターム(参考)】
4L055AA02
4L055AA03
4L055AC06
4L055AG08
4L055AG11
4L055AG12
4L055AG27
4L055AG48
4L055AG63
4L055AG64
4L055AG76
4L055AG84
4L055AG94
4L055AH01
4L055AH02
4L055AH07
4L055AH09
4L055AH33
4L055AH37
4L055AH50
4L055AJ04
4L055BE08
4L055BE09
4L055EA16
4L055EA17
4L055FA12
4L055GA19
(57)【要約】
【課題】ダル調であって、白紙部分の文字の可読性を有し及び印刷部分が白紙部分よりも光沢を有し、並びにひじわの発生を抑えた印刷用塗工紙を提供することである。
【解決手段】課題は、パルプ及び填料を含有する基紙と、前記基紙の少なくとも片面に対して1層又は2層以上の塗工層とを有し、前記塗工層において前記基紙を基準にして最外に位置する最外塗工層が重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、カオリン及び有機顔料、並びにバインダーを少なくとも含有し、前記カオリンが体積基準で求められる粒度分布において粒子径2μm以下である粒子の累積頻度が84体積%以上であり、前記軽質炭酸カルシウムの比表面積が12m2/g以上25m2/g以下である印刷用塗工紙によって解決できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルプ及び填料を含有する基紙と、前記基紙の少なくとも片面に対して1層又は2層以上の塗工層とを有し、前記塗工層において前記基紙を基準にして最外に位置する最外塗工層が重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、カオリン及び有機顔料、並びにバインダーを少なくとも含有し、前記カオリンが体積基準で求められる粒度分布において粒子径2μm以下である粒子の累積頻度が84体積%以上であり、前記軽質炭酸カルシウムの比表面積が12m2/g以上25m2/g以下である印刷用塗工紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダル調の印刷用塗工紙に関する。ダル調の印刷用塗工紙とは、白紙部分の光沢がマット調とグロス調との間で、印刷部分が白紙部分よりも高い光沢を有する印刷用塗工紙である。
【背景技術】
【0002】
印刷機メーカー各社がデジタル印刷機を発表する中、印刷業においては、依然としてオフセット印刷機を、雑誌、書籍、画集、写真集、アート集、美術書、MOOK本、冊子、カタログ、カレンダー、チラシ及びパンフレットなどの商業印刷物の生産に活用する。さらに、商業印刷物を多数部生産する場合はオフセット輪転印刷機を活用する。
印刷に使用する用紙は、光沢紙及びマット紙だけに限らない。近年の用紙は、光沢感及び艶消し感、平滑の程度、色合い、手触り感及び嵩高さなど様々な品質が存在する。雑誌、美術書、MOOK本、カタログ及びパンフレットのような文字と写真とが混在する商業印刷物では、商業印刷物の利用者が納得する写真印刷品質及び文字の可読性が必要になる。従来では、写真印刷品質を満たす観点から、比較的高い光沢を有する印刷用塗工紙を使用する。しかしながら、高い光沢を有する印刷用塗工紙は光反射によって文字の可読性に劣る。近時の傾向は、白紙部分の光沢を抑えかつ印刷部分が白紙部分に比べて比較的高い光沢を有するダル調の印刷用塗工紙を使用する。ダル調の印刷用塗工紙を使用した商業印刷物は、印刷された文字の可読性を有しかつ写真などの印刷部分に光沢を有することができる。
【0003】
例えば、原紙上に顔料及び接着剤を含有する下塗り層と上塗り層との塗工層を設けた塗工紙において、原紙がパルプの繊維間結合を阻害する作用を持つ有機化合物を含有し、下塗り層が顔料として体積分布平均粒子径3.5~20μmであるデラミネーテッドクレーを顔料100重量部当たり50重量部以上含有し、上塗り層が体積分布平均粒子径0.80μm以下であるカオリンを顔料100重量部あたり70重量部以上含有し、塗工紙の密度が1.00g/cm3以下であることを特徴とするダル調塗工紙が公知である(例えば、特許文献1参照)。前記ダル調塗工紙は、嵩高でラフな手触り及び高い印刷光沢度を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ダル調の印刷用塗工紙では、ISO8254-1:2009「Paper and boad-Measurement of specular gloss-Part 1:75 degree gloss with a converging beam, TAPPI method」に準拠して求められる光沢度が35%以上65%以下である。ダル調の印刷用塗工紙は、マット調よりも光沢を有しかつグロス調よりも光沢を有しない。ダル調の印刷用塗工紙は、白紙部分の光沢を抑えるために、基紙の製造における抄紙工程のプレスパート及びドライヤーパート並びに基紙乃至塗工紙の製造におけるカレンダー処理などにおいて、白紙光沢を増す製造条件を採用し難い。よって、ダル調の印刷用塗工紙は、基紙乃至塗工紙において緻密化及び均一化に欠く傾向を有する。例えば、ダル調は、カレンダー処理に依存するのではなく、基紙及び最外塗工層の材料及びその組み合わせなどによって平滑性、有孔性及び寸法安定性のバランスによって得ることができる。
【0006】
一方で、オフセット輪転印刷機及び高速のオフセット枚葉印刷機はインキを素早く乾燥するために乾燥装置を備える。ダル調の印刷用塗工紙は、基紙乃至印刷用塗工紙において緻密化及び均一化に欠く傾向に起因して、印刷機の乾燥装置において紙の表面にちりめん状の用紙の皺、すなわち「ひじわ」を発生し易い。
【0007】
本発明の目的は、ダル調であって、文字の可読性を有し及び印刷部分が白紙部分よりも高い光沢を有し、並びにひじわの発生を抑えた印刷用塗工紙を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、本発明の目的は、以下によって達成される。
【0009】
パルプ及び填料を含有する基紙と、前記基紙の少なくとも片面に対して1層又は2層以上の塗工層とを有し、前記塗工層において前記基紙を基準にして最外に位置する最外塗工層が重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、カオリン及び有機顔料、並びにバインダーを少なくとも含有し、前記カオリンが体積基準で求められる粒度分布において粒子径2μm以下である粒子の累積頻度が84体積%以上であり、前記軽質炭酸カルシウムの比表面積が12m2/g以上25m2/g以下である印刷用塗工紙。
【発明の効果】
【0010】
本発明によって、ダル調であって、文字の可読性を有し及び印刷部分が白紙部分よりも高い光沢を有し、並びにひじわの発生を抑えた印刷用塗工紙を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明を詳細に説明する。
印刷用塗工紙は、パルプ及び填料を含有する基紙と、前記基紙の少なくとも片面に対して1層又は2層以上の塗工層とを有する。前記基紙を基準として最外に位置する塗工層を最外塗工層という。塗工層が1層の場合、当該塗工層が最外塗工層になる。
【0012】
上記パルプは、製紙分野で従来公知のものである。上記パルプは、例えば、LBKP(Leaf Bleached Kraft Pulp)及びNBKP(Needle Bleached Kraft Pulp)から成る群から選ばれる一種又は二種以上の化学パルプ(Chemical pulp)である。上記パルプには、例えば、機械パルプ(Mechanical pulp)、DIP(DeInked Pulp)などの古紙パルプ(Waste Paper Pulp)及び製紙工場で発生する損紙(Spoilage)から離解して成るパルプを含むことができる。いくつかの実施態様において、基紙のパルプ中、LBKPが基紙中のパルプ100質量部に対して50質量部以上である。この理由は、紙の白さが良化する及び紙の地合が目立ち難くなるからである。
【0013】
LBKPを含めて化学パルプの濾水度は特に限定しない。濾水度は、ISO5627-2:2001「Pulps-Determination of drainability-Part 2 Canadian Standard freeness method」に準じて求められるCSF濾水度である。いくつかの実施態様において、化学パルプの濾水度は350ml以上510ml以下である。化学パルプの濾水度の数値が小さいと、基紙は、平滑性が向上する及び紙の地合が目立ち難くなる。化学パルプの濾水度の数値が大きいと、基紙は、有孔性及び寸法安定性が向上する。化学パルプの濾水度の数値が350ml以上510ml以下が平滑性と有孔性及び寸法安定性とのバランスに良く、結果として印刷用塗工紙は、基紙に対して下記する最外塗工層を含む塗工層を設ける際の平滑性とレベリングとに作用してダル調を得易く、なおかつひじわの発生を抑えることができる。少なくとも一つの実施態様において、化学パルプであるLBKPの濾水度は370ml以上480ml以下である。この理由は、ひじわの発生をより抑えることができるからである。
【0014】
いくつかの実施態様において、上記パルプは、製紙分野で従来公知の機械パルプを実質的に含まない。この理由は、機械パルプが、不純物を多く含むために基紙の変色及び強度の低下の原因になるからである。「実質的に含まない」とは、基紙の変色及び強度の低下が認められる程度以上の含有量で機械パルプを含まない意味である。すなわち、基紙の変色及び強度の低下が認められない程度以下の含有量であれば機械パルプを含むことを除外しない。例えば、「基紙の変色及び強度の低下が認められない程度」とは、機械パルプの含有量が基紙のパルプ100質量部に対して4質量部以下である。機械パルプ(Mechanical pulp)の例としては、GP(Groundwood Pulp)、PGW(Pressure GroundWood pulp)、RMP(Refiner Mechanical Pulp)、TMP(ThermoMechanical Pulp)、CTMP(ChemiThermoMechanical Pulp)などを挙げることができる。
【0015】
上記填料は、製紙分野で従来公知の顔料である。填料の例としては、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、カオリン、クレー、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、サチンホワイト、珪酸アルミニウム、活性白土、珪藻土、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、リトポン、ゼオライト、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウムなどの無機顔料を、スチレン系プラスチックピグメント、アクリル系プラスチックピグメント、ポリエチレン、マイクロカプセル、尿素樹脂、メラミン樹脂などの有機顔料を挙げることができる。填料は、これらから成る群から選ばれる一種又は二種以上である。基紙は、填料を含有することによって平滑度、有孔性及び寸法安定性を増すことができる。結果、印刷用塗工紙は、ダル調を得易く、なおかつひじわの発生を抑えることができる。
【0016】
基紙は、パルプ及び填料以外に更に必要に応じて、サイズ剤、定着剤、歩留まり剤、カチオン化剤、紙力剤、顔料分散剤、増粘剤、流動性改良剤、消泡剤、抑泡剤、離型剤、発泡剤、浸透剤、着色剤、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防バイ剤、耐水化剤、湿潤紙力増強剤、並びに乾燥紙力増強剤など製紙分野で従来公知の各種添加剤を含有することができる。
【0017】
いくつかの実施態様において、基紙は、表面サイズ剤を含むサイズプレス液によりサイズプレス処理を施すことができる。表面サイズ剤は、製紙分野で従来公知のものである。表面サイズ剤の例としては、各種澱粉、アクリル酸エステル系樹脂及びポリビニルアルコールなどを挙げることができる。
サイズプレス処理は製紙分野で従来公知のサイズプレス装置を用いて達成できる。サイズプレス処理装置は、例えば、インクラインドサイズプレス、ホリゾンタルサイズプレス、フィルムトランスファー方式としてロッドメタリングサイズプレス、ロールメタリングサイズプレス、ブレードメタリングサイズプレスを、ロッドメタリングサイズプレスではシムサイザー、オプティサイザー、スピードサイザー、フィルムプレスを、ロールメタリングサイズプレスではゲートロールコーターを挙げることができる。さらにビルブレードコーター、ツインブレードコーター、ベルバパコーター、タブサイズプレス、カレンダーサイズプレスなどを挙げることができる。
【0018】
基紙は、パルプ、填料及び必要に応じて各種添加剤を配合した紙料を、従来公知の抄紙機を用いて抄造して得ることができる。抄紙機の例としては、長網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機、コンビネーション抄紙機、円網抄紙機及びヤンキー抄紙機などを挙げることができる。
【0019】
いくつかの実施態様において、基紙の灰分は、8質量%以上15質量%以下である。この理由は、基紙の白色度及び柔軟性が良化するからである。灰分は、ISO1762:2001「Paper, board and pulps-Determination of residue(ash) on ignition at 525 degree C」に準じて求められる値である。灰分は、基紙中の填料の含有量で調整することができる。
【0020】
いくつかの実施態様において、基紙は、線圧の高いカレンダー処理を施さない。この理由は、印刷用塗工紙の白紙部分の光沢を過剰に上げないためである。カレンダー処理を施すための装置としては、例えば、マシンカレンダー、ソフトニップカレンダー、スーパーカレンダー、多段カレンダー、マルチニップカレンダーなどを挙げることができる。
【0021】
印刷用塗工紙の塗工層は、基紙の少なくとも片面に対して有する。いくつかの実施態様において、塗工層は、基紙の両面に対して有する。この理由は、両面印刷に使用できるからである。塗工層が基紙の片面に対して有する場合は、基紙の前記塗工層を有しない面に従来公知のバックコート層を設けることができる。バックコート層は、例えば、印刷用塗工紙のカール防止のために設ける。
【0022】
基紙に対して最外塗工層を含む塗工層を設ける方法は、特に限定されない。方法は、例えば、塗工紙分野で従来公知の塗工装置及び乾燥装置を用いて、塗工層塗工液を塗工及び乾燥する方法を挙げることができる。塗工装置の例としては、コンマコーター(登録商標)、フィルムプレスコーター、ロッドコーター、エアナイフコーター、ロッドブレードコーター、バーコーター、ブレードコーター、グラビアコーター、カーテンコーター、Eバーコーター、サイズプレスなどを挙げることができる。乾燥装置の例としては、直線トンネル乾燥機、アーチドライヤー、エアループドライヤー、サインカーブエアフロートドライヤーなどの熱風乾燥機、赤外線加熱ドライヤー、マイクロ波などを利用した乾燥機などの各種乾燥装置を挙げることができる。
【0023】
いくつかの実施態様において、基紙に対して塗工層を設ける塗工装置は、ブレードコーターなどの接触型である。この理由は、エアナイフコーターなどの非接触型に比べて接触型が塗工層の平滑性を得易いからである。
【0024】
いくつかの実施態様において、最外塗工層を含めて塗工層の塗工量は、乾燥固形分量で片面あたり12g/m2以上26g/m2以下である。この理由は、文字の可読性が良化し、及びひじわの発生をより抑えることができるからである。最外塗工層を含めて塗工層が2層以上の場合、前記塗工量は、最外塗工層を含めて塗工層の塗工量を合計した範囲を示す。
【0025】
最外塗工層は、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、カオリン及び有機顔料、並びにバインダーを少なくとも含有する。最外塗工層がこれら成分を含有することによって上記基紙と相まって、印刷用塗工紙は、文字の可読性を有し、印刷部分が白紙部分よりも高い光沢を有し、及びひじわの発生を抑えることができる。
【0026】
重質炭酸カルシウムは、塗工紙分野で従来公知の無機顔料である。一般に、重質炭酸カルシウムは石灰石を粉砕したものである。軽質炭酸カルシウムは、塗工紙分野で従来公知の無機顔料である。一般に、軽質炭酸カルシウムは石灰石を原料に化学的に製造されたものである。重質炭酸カルシウム及び軽質炭酸カルシウムは、兵庫クレー社、白石工業社、奥多摩工業社、カルファイン社、林化成社などから市販される。
【0027】
最外塗工層が含有する軽質炭酸カルシウムは、比表面積が12m2/g以上25m2/g以下である。軽質炭酸カルシウムの比表面積が12m2/g未満又は25m2/g超であると、印刷用塗工紙は、ダル調であって、文字の可読性、印刷部分が白紙部分よりも高い光沢、及び/又はひじわの発生を抑制を得ることができない。ここで比表面積は、BET法により測定される値である。BET法とは、多分子吸着の等温線を表すBrunauer、Emmett、Tellerの式に基づいて求められる吸着の等温線から1gの試料の持つ総表面積すなわち比表面積を求める方法である。通常、吸着気体には窒素ガスを用いる。
【0028】
いくつかの実施態様において、最外塗工層の重質炭酸カルシウム及び軽質炭酸カルシウムは、合計の含有量が最外塗工層の顔料100質量部に対して49質量部73質量部以下である。この理由は、ダル調であって、文字の可読性及び印刷部分の光沢が良化、並びにひじわの発生をより抑制するからである。なお、「顔料」とは無機顔料及び有機顔料を含めた概念を指す。
少なくとも一つの実施態様において、最外塗工層中、重質炭酸カルシウムと軽質炭酸カルシウムとの含有質量比は、重質炭酸カルシウム:軽質炭酸カルシウム=88:12~68:32である。この理由は、ダル調であって、文字の可読性及び印刷部分の光沢が良化するからである。印刷用塗工紙は、最外塗工層が無定形の重質炭酸カルシウムと形状の整った軽質炭酸カルシウムと、さらに下記するカオリン及び有機顔料とを含有することによってダル調を発現することができる。
【0029】
カオリンは、塗工紙分野で従来公知の無機顔料である。一般に、カオリンはカオリナイト、ナクライト、ディッカイト、ハロイサイト、加水ハロイサイト等の天然に産出されたカオリン原鉱を、工業的に精製及び加工したものであって、粉砕、洗浄、除鉄、及び分級等の工程を経て製造されるものである。また、カオリンには、アスペクト比を向上させるためにせん断力をかけて薄板状としたデラミネーティッドカオリン、粒度分布がシャープになるよう調整したエンジニアードカオリン、凝集性を高めた焼成カオリンといった加工性の高いものも含まれる。カオリンは、J.M.Huber社、Imerys社、BASF社、巴工業社、兵庫クレー社、竹原化学工業社、林化成社及び白石工業社などから市販される。
【0030】
最外塗工層が含有するカオリンは、体積基準で求められる粒度分布において粒子径2μm以下である粒子の累積頻度が84体積%以上である。カオリンの粒度分布において粒子径2μm以下である粒子の累積頻度が84体積%未満であると、印刷用塗工紙は、ダル調であって、文字の可読性、印刷部分が白紙部分よりも高い光沢、及び/又はひじわの発生を抑制を得ることができない。カオリンは形状が板状であために、最外塗工層は、粒子径2μm以下である粒子の累積頻度が84体積%以上であるカオリンを含有すると平滑性及び光沢を発現し易い。ここで粒度分布とは、レーザー回折・散乱式粒度分析計で測定した体積を基準とした粒度分布である。累積頻度は、得られた粒度分布から算出することができる。累積頻度は、例えば、日機装社製レーザー回折・散乱式粒度分布測定器Microtrac MT3300EXIIを用いて粒度分布を測定し、算出することができる。
【0031】
いくつかの実施態様において、最外塗工層のカオリンは、含有量が最外塗工層の顔料100質量部に対して25質量部46質量部以下である。この理由は、ダル調であって、文字の可読性及び印刷部分の光沢が良化、並びにひじわの発生をより抑制するからである。
【0032】
有機顔料は、塗工紙分野で従来公知のものである。有機顔料には、中密型、中空型、お椀型、金平糖型などの各種形状が存在する。有機顔料は、例えば、旭化成社、松本油脂製薬社、JSR社及びダウ・ケミカル社などから市販される。いくつかの実施態様において、有機顔料は、中空有機顔料である。この理由は、ダル調であって、文字の可読性及び印刷部分の光沢が良化するからである。中空有機顔料は、例えば、乳化重合中の粒子モルフォロジーを制御する方法やアルカリ/酸二段処理法などによって製造される。
【0033】
いくつかの実施態様において、最外塗工層の有機顔料は、含有量が最外塗工層の顔料100質量部に対して2質量部5質量部以下である。この理由は、ダル調であって、文字の可読性及び印刷部分の光沢が良化するからである。
【0034】
最外塗工層は、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、カオリン及び有機顔料以外に塗工紙分野で従来公知の顔料を含有することができる。いくつかの実施態様において、最外塗工層は、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、カオリン及び有機顔料以外の顔料を含有しない。この理由は、ダル調であって、文字の可読性及び印刷部分の光沢を得易い、並びに製造コストの点で有利になるからである。重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、カオリン及び有機顔料以外の顔料の例としては、クレー、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、サチンホワイト、珪酸アルミニウム、活性白土、珪藻土、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、リトポン、ゼオライト、炭酸マグネシウム及び水酸化マグネシウムなどを挙げることができる。
【0035】
バインダーは、塗工紙分野で従来公知の水分散性バインダー及び水溶性バインダーである。水分散性バインダーの例としては、スチレンブタジエン共重合体、(メタ)アクリロニトリルブタジエン共重合体などの共役ジエン系共重合体、(メタ)アクリル酸エステルの重合体及び(メタ)アクリル酸エステルブタジエン共重合体などの(メタ)アクリル系共重合体、エチレン酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体などのビニル系共重合体、ポリウレタン樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、並びにこれらの各種共重合体のカルボキシル基などの官能基含有単量体による官能基変性共重合体、並びにメラミン樹脂、尿素樹脂などの熱硬化合成樹脂などを挙げることができる。水溶性バインダーの例としては、各種澱粉、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース及びヒドロキシエチルセルロースなどのセルロース誘導体、ポリビニルアルコール及びシラノール変性ポリビニルアルコールなどのポリビニルアルコール誘導体、カゼイン、ゼラチン及びそれらの変性物、大豆蛋白、プルラン、アラビアゴム、カラヤゴム、アルブミンなどの天然高分子樹脂及びこれらの誘導体、アルギン酸ソーダ、並びに無水マレイン酸及びその共重合体などを挙げることができる。
バインダーは、これら水分散性バインダー及び水溶性バインダーから成る群から選ばれる一種又は二種以上である。
【0036】
いくつかの実施態様において、最外塗工層のバインダーの含有量は、最外塗工層中の顔料100質量部に対して4質量部以上14質量部以下である。この理由は、ひじわの発生をより抑えることができるからである。
【0037】
いくつかの実施態様において、バインダーは、バインダーに対して70質量%以上がスチレンブタジエン共重合体である。この理由は、スチレンブタジエン共重合体が顔料に対する吸着性に優れるために、結果として印刷用塗工紙がひじわの発生を抑えることができるからである。
【0038】
最外塗工層は、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、カオリン及び有機顔料、並びにバインダー以外に必要に応じて各種添加剤を含有することができる。添加剤の例としては、分散剤、増粘剤、流動性改良剤、消泡剤、発泡剤、滑剤、保水剤、浸透剤、着色剤、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防バイ剤、耐水化剤、及び印刷適性向上剤などを挙げることができる。
【0039】
印刷用塗工紙は、塗工層が2層以上の場合、基紙と最外塗工層との間に位置する塗工層を形成する材料を特に限定しない。いくつかの実施態様において、前記塗工層は、最外塗工層と共通する材料から成る。この理由は、本発明の効果に悪影響しないからである。いくつかの実施態様において、最外塗工層及び基紙と最外塗工層との間に位置する塗工層が1層である。少なくとも一つの実施態様において、最外塗工層の1層である。これらの理由は、製造コストの点で有利になるからである。
【0040】
いくつかの実施態様において、最外塗工層を含む塗工層は、線圧の高いカレンダー処理を施さない。この理由は、印刷用塗工紙の白紙部分の光沢を過剰に上げないためである。カレンダー処理を施すための装置の例としては、基紙のカレンダー処理を施すための装置と同じであって、ここでは記載を割愛する。
【実施例0041】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されない。ここで「質量部」及び「質量%」は、乾燥固形分量あるいは実質成分量の各々「質量部」及び「質量%」を表す。塗工量は乾燥固形分量を示す。
【0042】
実施例及び比較例の印刷用塗工紙を、以下の手順によって作製した。
【0043】
<基紙>
紙料は下記の内容により調成した。
パルプ 種類及び配合量は表1~3に記載
軽質炭酸カルシウム 種類及び配合量は表1~3に記載
硫酸アルミニウム 10質量部
カチオン化澱粉 10質量部
上記の内容で配合して水に混合分散した。
【0044】
<最外塗工層の塗工層塗工液>
塗工層塗工液は下記の内容により調製した。
重質炭酸カルシウム 部数は表1~3に記載
軽質炭酸カルシウム 種類及び部数は表1~3に記載
カオリン 種類及び部数は表1~3に記載
有機顔料(中空型) 部数は表1~3に記載
分散剤(アクリル系樹脂) 10質量部
バインダー(スチレンブタジエン共重合体) 8質量部
バインダー(完全ケン化、平均重合度500ポリビニルアルコール)
2質量部
スチルベントリアジン系蛍光増白剤 0.7質量部
ポリアミド系印刷適性向上剤 0.7質量部
上記の内容で配合して水に混合分散した。
【0045】
表1~3に記載の材料は下記である。
重カル : 重質炭酸カルシウム
(兵庫クレー社、WH-90)
軽カル1 : 比表面積5m2/gの軽質炭酸カルシウム
(奥多摩工業社、タマパール(登録商標)TP-121)
軽カル2 : 比表面積12m2/gの軽質炭酸カルシウム
(白石工業社、Brilliant(登録商標)-15)
軽カル3 : 比表面積15m2/gの軽質炭酸カルシウム
(白石工業社、白艶華(登録商標)PZ)
軽カル4 : 比表面積25m2/gの軽質炭酸カルシウム
(白石カルシウム社、白艶華CC)
軽カル5 : 比表面積50m2/gの軽質炭酸カルシウム
(白石カルシウム社、白艶華O)
カオリン1 : 粒度分布において2μm以下の粒子の累積頻度が64体積%
(Imerys社、バリサーフ(登録商標)HX)
カオリン2 : 粒度分布において2μm以下の粒子の累積頻度が84体積%
(J.M.Huber社、ハイドラファイン90)
カオリン3 : 粒度分布において2μm以下の粒子の累積頻度が95体積%
(Imerys社、ハイドラグロス90)
有機顔料 : アクリル樹脂系の中空型の有機顔料
(JSR社、AE850)
【0046】
<印刷用塗工紙>
上記紙料を長網抄紙機で抄造し、得られた抄造紙に対して表面サイズ剤として澱粉を含有するサイズプレス液を用いてサイズプレス処理を行い、続いて弱い線圧(0.2kN/m)でカレンダー処理を行い、最終的に坪量83g/m2の基紙を得た。
得た前記基紙に対して、塗工装置としてブレードコーターを使用して最外塗工層の塗工層塗工液を両面に塗工し、熱風乾燥機を使用して乾燥した。塗工量は、片面あたり17g/m2となるように塗工条件を調整した。
【0047】
<ダル調>
ダル調の評価は、ISO8254-1:2009に準じた方法によって印刷用塗工紙の白紙部分について光沢度を測定し、光沢度の値から下記の基準で行った。測定には、デジタル光沢計(村上色彩技術研究所社、GM-26D型[75度-75度])を使用した。本発明において、印刷用塗工紙は、Aの評価であればダル調とする。
A:白紙部分の光沢度が、35%以上65%以下。
B:白紙部分の光沢度が、35%未満又は65%超。
【0048】
<可読性>
印刷用塗工紙に対して乾燥装置を備えるオフセット輪転印刷機(三菱重工社、リソピアBT-2-600型)及びオフセット輪転用印刷インキ(DIC社、ウェブワールドテラスNのブラック、シアン、マゼンタ及びイエローの各色)を用いて評価用画像(写真画像及び白紙部分に文字画像を含む)を印刷した。印刷速度は120m/分とした。乾燥装置は熱風温度を105℃とした。文字画像は、6~10ポイントの明朝体文字を種々含む画像とした。文字の可読性の評価は、印刷用塗工紙の白紙部分に印刷された文字画像を観察し、下記の基準で行った。本発明において、印刷用塗工紙は、A、B又はCの評価であれば文字の可読性を有するとする。
A:文字がはっきり見え、読み易い。
B:文字が概ねはっきり見え、難なく読める。
C:文字がはっきりではないものの、実用上問題無く読める。
D:上記Cより劣り文字がはっきりせず、読み難い又は読めない。
【0049】
<光沢>
印刷用塗工紙に対して乾燥装置を備えるオフセット輪転印刷機(三菱重工社、リソピアBT-2-600型)及びオフセット輪転用印刷インキ(DIC社、ウェブワールドテラスNのブラック、シアン、マゼンタ及びイエローの各色)を用いて評価用画像(各色を含む写真画像及び白紙部分に文字画像を含む)を印刷した。印刷速度は120m/分とした。乾燥装置は熱風温度を105℃とした。光沢の評価は、ISO8254-1:2009に準じた方法によって写真画像の各色ベタ印刷部分及び白紙部分の光沢度を測定し、各色ベタ画像印刷部分の光沢度から白紙部分の光沢度を引いた光沢度差の平均値=([ブラックの光沢度差]+[シアンの光沢度差]+[マゼンタの光沢度差]+[イエローの光沢度差])/4を求め、算出した値から下記の基準で行った。測定には、デジタル光沢計(村上色彩技術研究所社、GM-26D型[75度-75度])を使用した。本発明において、印刷用塗工紙は、A又はBの評価であれば印刷部分が白紙部分よりも高い光沢を有するとする。
A:光沢度差の平均値が10以上。
B:光沢度差の平均値が0以上10未満。
C:光沢度差の平均値が0未満。
【0050】
<ひじわ>
印刷用塗工紙に対して乾燥装置を備えるオフセット輪転印刷機(三菱重工社、リソピアBT-2-600型)及びオフセット輪転用印刷インキ(DIC社、ウェブワールドテラスNのブラック、シアン、マゼンタ及びイエローの各色)を用いて評価用画像(写真画像及び白紙部分に文字画像を含む)を印刷した。印刷速度は120m/分とした。乾燥装置は熱風温度を105℃とした。ひじわの評価は、各色のベタ印刷部分の流れ方向に発生するひじわの状態を目視で観察し、下記の基準で行った。本発明において、印刷用塗工紙は、A又はBの評価であればひじわの発生を抑えたものとする。
A:ひじわが無く、極めて良好。
B:ひじわが極僅かに観察される。しかしながら、程度が極めて軽度で良好。
C:ひじわが僅かに観察される。しかしながら、程度が軽度で概ね良好。
D:ひじわが観察される。しかしながら、商業印刷物として実用可能。
E:ひじわが観察される。なおかつ商業印刷物として実用不可。
【0051】
評価結果を表1~3に示す。
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
表1~3から、本発明に該当する実施例1~19は、ダル調であって、白紙部分の文字の可読性を有し及び印刷部分が白紙部分よりも高い光沢を有し、並びにひじわの発生を抑えた印刷用塗工紙であると分かる。一方、本発明の構成を満足しない比較例1~8は、これらの効果の少なくとも一つを満足することができないと分かる。