(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039556
(43)【公開日】2024-03-22
(54)【発明の名称】核融合炉
(51)【国際特許分類】
G21B 1/11 20060101AFI20240314BHJP
G21B 1/05 20060101ALI20240314BHJP
【FI】
G21B1/11 Z
G21B1/05
G21B1/11 D
G21B1/11 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022144201
(22)【出願日】2022-09-09
(71)【出願人】
【識別番号】591214033
【氏名又は名称】李 勤三
(74)【代理人】
【識別番号】100154405
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 大吾
(74)【代理人】
【識別番号】100079005
【弁理士】
【氏名又は名称】宇高 克己
(72)【発明者】
【氏名】李 勤三
(57)【要約】
【課題】従来核融合炉に比べて低温または省エネルギーで核融合反応する核融合炉を提供する。
【解決手段】本願核融合炉は従来核融合炉の変形である。従来核融合炉はドーナツ状の磁場閉じ込め空間と、前記磁場閉じ込め空間を囲う磁場発生手段と、前記磁場閉じ込め空間周りに設けられるブランケットと、燃料供給手段と、ヘリウム排出手段と、を備える。本願核融合炉は従来核融合炉の構成に加えて、前記磁場閉じ込め空間の一部であってドーナツ断面を狭くする狭窄部と、前記狭窄部に対し電子を供給する電子供給部と、をさらに備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドーナツ状の磁場閉じ込め空間と、
前記磁場閉じ込め空間を囲う磁場発生手段と、
前記磁場閉じ込め空間周りに設けられるブランケットと、
燃料供給手段と、
ヘリウム排出手段と、
を備え、
前記磁場閉じ込め空間の一部であってドーナツ断面を狭くする狭窄部と、
前記狭窄部に対し電子を供給する電子供給部と、
をさらに備えることを特徴とする磁場閉じ込め方式の核融合炉。
【請求項2】
ドーナツ状の磁場閉じ込め空間と、
前記磁場閉じ込め空間を囲う磁場発生手段と、
前記磁場閉じ込め空間周りに設けられるブランケットと、
燃料供給手段と、
ヘリウム排出手段と、
を備え、
前記磁場閉じ込め空間の一部の磁場を強化するよう前記磁場発生手段を制御する磁場強化手段と、
前記磁場閉じ込め空間のうち磁場が強化された箇所に対し電子を供給する電子供給部と、
をさらに備えることを特徴とする磁場閉じ込め方式の核融合炉。
【請求項3】
前記電子供給部はレーザー航跡場加速である
ことを特徴とする請求項1または2記載の磁場閉じ込め方式の核融合炉。
【請求項4】
前記電子供給部と対応するように、陽電子供給部
をさらに備えることを特徴とする請求項1または2記載の磁場閉じ込め方式の核融合炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核融合炉に関し、とくに磁場閉じ込め方式核融合炉に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素を排出しないエネルギー源の例として、核分裂と核融合とがある。
【0003】
核融合は、原料(特に重水素)が海中に無尽蔵に存在する、暴走するおそれがない、高レベル放射性廃棄物が発生しない等の点で、核分裂に比べて有利である。
【0004】
核融合の方式として、トカマク型、ヘルカル型、レーザー方式等がある。
【0005】
核融合反応を発生させるためには、人工的に極めて高温か、あるいは極めて高圧の環境を作り出す必要がある。
【0006】
高温のプラズマが飛び散っていかなないで安定的に維持されるためには、何らかの封じ込めが必要である。なお、太陽は重力による封じ込めをおこなっており、1600万℃・2400億気圧という高温高気圧の状態で核融合反応が発生し、ヘリウムと中性子が生成されるともに、エネルギーを放出する。
【0007】
核融合炉の一つとして、磁場による封じ込め(トカマク型・ヘリカル型)により高温高圧を実現している(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、核融合炉において現在の技術で1億℃以上の高温を実現するのは容易ではない。
【0010】
本願は上記課題を解決するものであり、従来に比べ低温で核融合反応を発生させる、または、従来に比べ省エネルギーで従来同様の高温を実現する核融合炉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するための本発明の核融合炉は、従来型核融合炉と同様に、ドーナツ状の磁場閉じ込め空間と、前記磁場閉じ込め空間を囲う磁場発生手段と、前記磁場閉じ込め空間周りに設けられるブランケットと、燃料供給手段と、ヘリウム排出手段と、を備える。本発明の核融合炉は、前記磁場閉じ込め空間の一部であってドーナツ断面を狭くする狭窄部と、前記狭窄部に対し電子を供給する電子供給部と、をさらに備える。
【0012】
プラズマ密度が高い箇所に反応触媒となる電子を供給する。これにより、一般的なD-T反応に加え、副次的な反応が期待できる。
【0013】
上記の目的を達成するための本発明の核融合炉は、従来型核融合炉と同様に、ドーナツ状の磁場閉じ込め空間と、前記磁場閉じ込め空間を囲う磁場発生手段と、前記磁場閉じ込め空間周りに設けられるブランケットと、燃料供給手段と、ヘリウム排出手段と、を備える。本発明の核融合炉は、前記磁場閉じ込め空間の一部の磁場を強化するよう前記磁場発生手段を制御する磁場強化手段と、前記磁場閉じ込め空間のうち磁場が強化された箇所に対し電子を供給する電子供給部と、をさらに備える。
【0014】
プラズマ密度が高い箇所に反応触媒となる電子を供給する。これにより、一般的なD-T反応に加え、副次的な反応が期待できる。
【0015】
上記発明において好ましくは、前記電子供給部はレーザー航跡場加速である。
【0016】
これにより、高速で電子を供給できる。電子の衝突により、触媒として機能する。
【0017】
上記発明において好ましくは、前記電子供給部と対応するように、陽電子供給部をさらに備える。
【0018】
これにより、対消滅が発生し、補助的エネルギーが発生する。その結果、本願効果が向上する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の核融合炉によれば、低温で核融合反応を発生させる、または、従来に比べ簡易に高温を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【発明を実施するための形態】
【0021】
~基本構成~
図1は核融合炉の基本構成のイメージ図である。トカマク型を例に説明する。本願からヘリカル型を除くものではない。
【0022】
トーラス形状のソレノイドコイル(TFコイル)を配置する。TFコイルに電流を流すとトロイダル方向(ドーナッツ大円周方向)に閉じた磁力線ができる。これにより、プラズマをドーナツ状にまとめる。
【0023】
次に、ドーナツ状のトカマクの中心の空芯部分にソレノイドコイル(CSコイル)を配置する。CSコイルに電流を流すとプラズマ中にトロイダル方向のプラズマ電流が誘導される。プラズマ電流によりトカマク磁場が発生する。
【0024】
さらに、トカマクを上下に貫く磁場を発生させるポロイダルフィールドコイル(PFコイル)を配置する。これにより、フープ力によりプラズマが膨らもうとするのを抑制し、プラズマ電流を内周方向へ押し込める。
【0025】
これらの構成により、プラズマ電流はドーナツ状の真空容器内に閉じ込められる。
【0026】
一般的なD-T反応では、重水素(デューテリウム)と三重水素(トリチウム)を主原料とする。ガス状の燃料が燃料供給手段より供給される。
【0027】
ただし、重水素(デューテリウム)は自然界に豊富に存在し入手容易であるのに対し、三重水素(トリチウム)は入手困難である。したがって、重水素を多量に供給し、三重水素を少量供給する。
【0028】
一般的なD-T反応では、ヘリウムが生成される。ヘリウムはヘリウム排出手段により排気される。
【0029】
ドーナツ状の空芯部分の周りにブランケットを配置する。ブランケットはD-T反応で発生したエネルギーを吸収する。またブランケットはD-T反応で発生した中性子を吸収する。
【0030】
ブランケットを介して、熱エネルギーにより水を沸騰させ、蒸気によりタービンを回し、電力に変換する。
【0031】
また、ブランケット内のリチウムを含む微小球に中性子を当て、三重水素を生成する。当該三重水素はD-T反応に用いられる。
【0032】
~特徴的構成~
図2は本願核融合炉の特徴構成のイメージ図である。基本構成に主に2つの特徴的構成を付加する。
【0033】
本願特有の構成として、磁場閉じ込め空間の一部であってドーナツ断面を狭くする狭窄部が形成されている。これにより物理的にプラズマ密度を上げることができる。
【0034】
さらに、電子供給部を備え、狭窄部に対し電子を供給する。これにより、一般的なD-T反応に加え、副次的な反応が期待できる(下記参照)。
【0035】
図3は、電子供給手段の概念図である。一例としてレーザー航跡場加速を用いる。
【0036】
高強度・超短パルスレーザーで気体中にプラズマの疎密波を生成する。レーザーの持つポンデロモーティブ力により、電子は押しのけられる。
【0037】
このときイオンは重くて動けず、電子とイオンの荷電分離が起こり、レーザーのパルス長とプラズマ波長が同程度であればプラズマ波(航跡波)が励起される。プラズマによりレーザーの横波は加速に使える縦波に変換される。
【0038】
航跡波は、薄いプラズマの中をほぼ光速cで進行する。その結果、電子は超高電場において加速される。
【0039】
なお、レーザー航跡場加速は陽電子も加速できる。電子供給に変えて、陽電子供給としてもよい。
【0040】
~推定反応~
図4は、一般的なD-T反応と本願推定反応を比較する概念図である。
【0041】
重水素は陽子1と中性子1とから構成される。質量は2である。三重水素は陽子1と中性子2とから構成される。質量は3である。
【0042】
一般的なD-T反応においては、ヘリウム(陽子2中性子2質量4)が生成されるとともに、中性子1とエネルギーが放出される。
【0043】
一方、本願推定反応は、一般的なD-T反応の変形である。なお、本願においても、一般的なD-T反応が発生する一方で、併存して、本願推定反応も発生する。
【0044】
本願推定反応においては、反応触媒として超高速の電子が供給される。
【0045】
電子は重水素に衝突する。なお、三重水素にも衝突するが、三重水素に比べ重水素が多いため、三重水素への衝突は無視できる。
【0046】
重水素は陽子1と中性子1とから構成される。中性子1においてβ崩壊が発生し、中性子が陽子となる。すなわち、陽子1と中性子1との構成が、陽子2となる。
【0047】
2つの陽子は互いに反発し合い分離する。
【0048】
さらに、レーザー照射や陽子線ビーム照射により、β崩壊により発生した陽子1は三重水素(陽子1中性子2)と反応し、ヘリウム(陽子2中性子2質量4)が生成される。重水素から分離した陽子1は水素となる。
【0049】
一般的なD-T反応と本願推定反応とでは、共にヘリウムが生成され、放出されるエネルギーも同等と推測される。
【0050】
一方で、一般的なD-T反応と異なり、重水素が直接に三重水素と反応するのでなく、一度、重水素を分解することにより、反応率が高い。一般的なD-T反応の反応率は5~7割と推測されるが、本願推定反応の反応率は7~9割と期待できる。
【0051】
その結果、従来に比べ低い温度で核融合反応が起きる可能性がある。または、従来に比べ省エネルギで、従来と同等の高温を実現できる可能性がある。
【0052】
また、一般的なD-T反応では中性子を放出し、その処理をする必要があるが、本願推定反応では中性子を放出しない点でも有利である。
【0053】
なお、本願においては、一般的なD-T反応に加え、上記推定反応が発生する。したがって、中性子放出がないわけではないが、中性子リスクは確実に低減する。
【0054】
また、一部の中性子は反応触媒(電子供給)により陽子となる。これによっても、中性子リスクは確実に低減する。
【0055】
~その他の反応~
重水素は多量に供給され、三重水素は少量供給される。したがって、D-D反応も発生する。D-D反応には二通ある。
【0056】
2D + 2D = 3T + p + エネルギー
2D + 2D = 3He + n + エネルギー
【0057】
生成された三重水素TはD-T反応に用いられる。このとき中性子を放出しない。
【0058】
3He生成時に中性子が放出されるが、一部の中性子は反応触媒(電子供給)により陽子となる。
【0059】
生成された3HeはDと反応し、ヘリウムが生成される。このとき中性子を放出しない。
【0060】
2D + 3He = 4He+ p + エネルギー
【0061】
結果的に、エネルギーを放出しながらヘリウムを排出する。
~変形例1~
【0062】
【0063】
上記実施形態において、ドーナツ断面を狭くする狭窄部を設けたのに対し、変形例においては、一部のコイル出力を調整することにより、磁場閉じ込め空間の一部の磁場を強化する。当該箇所においてプラズマ密度を上げる。
【0064】
さらに、電子供給部を備え、当該箇所に対し電子を供給する。これにより、一般的なD-T反応に加え、副次的な反応が期待できる(上記参照)。
【0065】
期待される効果は上記実施形態と同様である。
~変形例2~
【0066】
図6は別の変形例の特徴構成のイメージ図である。磁場閉じ込め空間の一部においてプラズマ密度を上げる手段は、物理的な狭窄部でもよいし、コイル出力調整でもよい。
【0067】
当該変形例においては、電子供給部に加えて、電子供給部と対応するように、陽電子供給部を備える。
【0068】
具体例として、レーザー航跡場加速を用いてもよい(
図4参照)。
【0069】
電子と陽電子とをプラズマ密度が高い箇所に同時供給することにより、対消滅させる。対消滅により、2本の511keVのガンマ線が、反対方向に放出される。ガンマ線は内壁に衝突し発熱する。このとき補助的なエネルギーが発生する。
【0070】
電子と陽電子との同時供給に変えて、ポジトロニウムを供給させてもよい。ポジトロニウムはポジトロンとエレクトロンが一対になって形成され、条件によって対消滅が発生する。
【0071】
対消滅による補助的エネルギー発生により、本願反応が促進される。
【0072】
~電子生成および陽電子生成~
レーザー照射前は安定同位体であり、レーザー照射後は同種の別の安定同位体であるか、安定同位体である核種変換(別の元素)を用いることが好ましい。これにより容易に電子生成および陽電子生成できる。
【0073】
例えば、Li(リチウム)はLi7とLi6の安定同位体を有する。B(ボロン)はB11とB10の安定同位体を有する。C(炭素)はC13とC12の安定同位体を有する。N(窒素)はN14とN15の安定同位体を有する。O(酸素)はO16とO17とO18の安定同位体を有する。Ne(ネオン)はNe22とNe21とNe20の安定同位体を有する。K(カリウム)はK41とK39の安定同位体を有する。S(硫黄)はS36とS34とS33とS32の安定同位体を有する。W(タングステン)はW186とW184とW183とW182の安定同位体を有する。
【0074】
電子生成および陽電子生成の原料は、元素単体でもよいが、化合物でもよい。例えば、BN(窒化ホウ素)であれば、B(ボロン)もN(窒素)も安定同位体を有する。
【0075】
レーザー照射の際は適宜触媒を用いてもよい。触媒として、たとえば、MgOやCaOを用いる。
【0076】
CaOを触媒して、重水素と陽子数55のCs(セシウム)を反応させることで、陽子数59のPr(プラセオジム)に変換されることが報告されている。同様にCaOを触媒として、重水素と陽子数38のSr(ストロンチウム)を反応させることで陽子数42のMo(モリブデン)に変換されることが報告されている(特許4347262号公報)。
【0077】
一方、発明者はMgOが陽子数を1つづつ下げる触媒として、たとえば、239のプルトニウム(Pu)を陽子数92、質量数238のウラン(U)に変換される可能性について言及している(特開2019-100846)。
【0078】
これらの触媒は、反応時の活性化エネルギーを下げている。これにより、安定同位体(たとえばK41)を別の安定同位体(たとえばK39)とする活性化エネルギーを下げる可能性がある。
【0079】
まず、電子生成例について説明する。原料にC12を用いる。触媒を用い、レーザー照射により、C11となるとともに、中性子nと電子eが放出される。
【0080】
次に、陽電子発生について説明する。原料に上記C11を転用する。レーザー照射により、B11となるとともに、陽子pと陽電子e+が放出される。
【0081】
さらに、レーザー照射によりB10と余剰中性子nを反応せることにより、B11となるとともに、中性子が吸収される。
【0082】
この時、C12、B10、B11はいずれも安定同位体である。したがって、確実な反応が期待できる。なお、C11は安定同位体ではないが、一連の反応における中間生成物であり、放射線に係る問題は生じない。