(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039558
(43)【公開日】2024-03-22
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20240314BHJP
H02M 7/12 20060101ALI20240314BHJP
【FI】
H02M7/48 M
H02M7/48 F
H02M7/12 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022144204
(22)【出願日】2022-09-09
(71)【出願人】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】松元 大輔
(72)【発明者】
【氏名】田邉 啓輔
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 史宏
(72)【発明者】
【氏名】松永 俊祐
【テーマコード(参考)】
5H006
5H770
【Fターム(参考)】
5H006AA05
5H006BB05
5H006CA01
5H006CB01
5H006CB08
5H006DA04
5H006DC05
5H770AA17
5H770BA01
5H770CA02
5H770DA03
5H770DA41
5H770EA01
5H770EA25
5H770GA19
5H770HA02Y
5H770HA03W
5H770QA05
5H770QA06
5H770QA08
5H770QA27
(57)【要約】
【課題】
インバータ回路を構成するスイッチング素子とダイオードの損傷を平準化でき、装置全体の寿命を向上できる電力変換装置を提供する。
【解決手段】
直流の一次側電圧を出力するコンバータ回路と、コンバータ回路を制御するコンバータ制御器と、パワースイッチングデバイスとダイオードを有し一次側電圧を所定の交流電圧に変換するインバータ回路と、インバータ回路を制御するインバータ制御部を有する電力変換装置であって、インバータ制御部は、パワースイッチングデバイスとダイオードの損傷を算出し、パワースイッチングデバイスとダイオードの損傷が平準化するように直流電圧指令を演算し、コンバータ制御部は、直流電圧指令と一次側電圧との差が小さくなるようにコンバータ回路に駆動信号を送信する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流の一次側電圧を出力するコンバータ回路と、前記コンバータ回路を制御するコンバータ制御器と、パワースイッチングデバイスとダイオードを有し前記一次側電圧を所定の交流電圧に変換するインバータ回路と、前記インバータ回路を制御するインバータ制御部を有する電力変換装置であって、
前記インバータ制御部は、前記パワースイッチングデバイスと前記ダイオードの損傷を算出し、前記パワースイッチングデバイスと前記ダイオードの損傷が平準化するように直流電圧指令を演算し、
前記コンバータ制御器は、前記直流電圧指令と前記一次側電圧との差が小さくなるように前記コンバータ回路に駆動信号を送信することを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記インバータ制御部は、前記ダイオードの損傷が前記パワースイッチングデバイスの損傷より小さい場合、基準値よりも前記直流電圧指令を上げることで前記一次側電圧を大きくすることを特徴とする電力変換装置。
【請求項3】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記インバータ制御部は、前記パワースイッチングデバイスの損傷がダイオードの損傷より小さい場合、基準値よりも前記直流電圧指令を減少させることで前記一次側電圧を小さくすることを特徴とする電力変換装置。
【請求項4】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記インバータ制御部は、ゲート信号を算出し前記インバータ回路を制御するインバータ制御器と、前記パワースイッチングデバイスと前記ダイオードの損傷を算出する損傷演算器と、前記コンバータ制御器に前記直流電圧指令を与える直流電圧指令演算器を備え、 前記損傷演算器は、電流センサで検出した前記インバータ回路の出力電流値と前記ゲート信号のオンデューティから算出される前記パワースイッチングデバイスと前記ダイオードの損失をもとに、前記パワースイッチングデバイスと前記ダイオードの損傷を算出することを特徴とする電力変換装置。
【請求項5】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記インバータ制御部は、所定の運転周期で動作するテストパターン運転において、前記パワースイッチングデバイスおよび前記ダイオードの経時的な損傷量を推定し、前記損傷量から前記パワースイッチングデバイスと前記ダイオードの余寿命が平準化される前記直流電圧指令を算出することを特徴とする電力変換装置。
【請求項6】
請求項4に記載の電力変換装置において、
前記損傷演算器は、温度履歴演算部と損傷演算部を有し、
前記温度履歴演算部は、上記損失を算出し、前記パワースイッチングデバイスと前記ダイオードの前記損失と熱特性から、それぞれの温度差を演算し、
前記損傷演算部は、前記温度差を温度変化として一定期間保存し、温度履歴全体の損傷を演算し、前記パワースイッチングデバイスと前記ダイオードの損傷を算出することを特徴とする電力変換装置。
【請求項7】
請求項1に記載の電力変換装置において、
損傷が平準化される前記パワースイッチングデバイスと前記ダイオードとは逆並列に接続されていることを特徴とする電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はパワー半導体デバイスを備える電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電力変換装置のひとつであるインバータ装置は、産業界において、製造装置、昇降装置、搬送装置等におけるモータ駆動装置として幅広く用いられている。そうした様々な用途において、インバータ装置は安定稼働が求められる。万一、インバータ装置が故障した場合は、工場の生産停止や設備の稼働停止が起こり、甚大な影響を及ぼす。
【0003】
インバータ装置は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やダイオードなどのパワー半導体デバイスで電流の通流、遮断を制御し、所望の電力変換を行う。パワー半導体デバイスは、絶縁基板上に形成された銅箔パターンなどとワイヤーボンディングやはんだで接合されており、これによってパワー半導体デバイス外部の回路と電気的に接続される。絶縁基板は金属ベース上に実装され、パワー半導体デバイスは金属ベースを介して冷却される。このように外部回路との電気的接続構造や冷却構造を備えたハウジングにパワー半導体デバイスを内蔵した部品はパワーモジュールと呼ばれる。
【0004】
パワー半導体デバイスに電流が通流または遮断する際、パワー半導体デバイスは発熱し、パワー半導体デバイスの接合部(デバイスとワイヤーボンディングとの接合部、デバイスと銅箔パターンとの接合部)とフィン(冷却構造を備えた金属ベース)間に温度差(以下、△Tと呼ぶ)が発生する。インバータ装置の停止時には発熱がなくなり、△Tは小さくなる。上記のパワー半導体デバイスの接合部は、異なる熱膨張率の材料が用いられるため、△Tの変動により、接合部に熱応力が加わる。一般的に、△Tが大きいほど、接合部は損傷が大きく故障しやすく、装置全体の故障は△Tの変動が最も大きいパワー半導体素子の故障で決まる。このような損傷の偏りを緩和し、装置全体の寿命を延伸したい要望がある。
【0005】
本技術分野における従来技術として特許文献1がある。特許文献1では、コンバータの駆動回路を構成するスイッチング素子およびダイオードの温度が高くなっても、素子の性能の低下、および寿命の短縮を抑制するようにした電力変換装置の制御装置を提供することを目的に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、入力端子と出力端子とを直結状態にする直結制御を行うと判定した場合であっても、正極側の素子温度が、判定温度を上回っている場合は、正極側のスイッチング素子及び負極側のスイッチング素子をオンオフ周期でオンオフ制御する昇圧制御を実行し、正極側の素子温度が判定温度以下の場合は、正極側のスイッチング素子をオフにする電力変換装置であるが、ダイオードの温度が考慮されていない。そのため、ダイオードが原因で、装置が破壊する恐れがある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、その一例を挙げるならば、直流の一次側電圧を出力するコンバータ回路と、コンバータ回路を制御するコンバータ制御器と、パワースイッチングデバイスとダイオードを有し一次側電圧を所定の交流電圧に変換するインバータ回路と、インバータ回路を制御するインバータ制御部を有する電力変換装置であって、インバータ制御部は、パワースイッチングデバイスとダイオードの損傷を算出し、パワースイッチングデバイスとダイオードの損傷が平準化するように直流電圧指令を演算し、コンバータ制御部は、直流電圧指令と一次側電圧との差が小さくなるようにコンバータ回路に駆動信号を送信する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、インバータ回路を構成するスイッチング素子とダイオードの損傷を平準化でき、装置全体の寿命を向上できる電力変換装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1における電力変換装置の構成図である。
【
図2】実施例1における電力変換装置のパワーモジュールの斜視図である。
【
図3】実施例1における電力変換装置のパワーモジュールの断面図である。
【
図4】実施例1における損傷演算器の構成図である。
【
図5】実施例1における電力変換装置のIGBTのコレクタエミッタ間電圧-コレクタ電流特性を示す図である。
【
図6】実施例1における電力変換装置のIGBTの単パルススイッチング損失-コレクタ電流特性を示す図である。
【
図7】実施例1における電力変換装置のダイオードの順方向電圧-順方向電流特性を示す図である。
【
図8】実施例1における電力変換装置のダイオードの単パルスリカバリ損失-順方向電流特性を示す図である。
【
図9】実施例1における電力変換装置のIGBTの熱インピーダンス-時間特性を示す図である。
【
図10】実施例1における電力変換装置のダイオードの熱インピーダンス-時間特性を示す図である。
【
図11】実施例1における電力変換装置のパワー半導体素子のライフサイクル-温度振幅特性を示す図である。
【
図12】実施例1における半導体素子の損傷、寿命、直流電圧、オンデューティの関係を示す図である。
【
図13】実施例1における半導体素子の温度、直流電圧の基準値、指令値、取得値の関係を示す図である。
【
図14】実施例2におけるIGBTとダイオードの損傷を平準化する処理フローチャートである。
【
図15】実施例2におけるテストパターン運転と半導体素子の損傷、直流電圧の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施例について、図面を用いて説明する。
【実施例0012】
図1は、本実施例における電力変換装置の構成図である。
図1において、電力変換装置100は、コンバータ回路101と、インバータ回路102と、コンデンサ103と、直流電圧センサ104と、電流センサ105と、コンバータ制御器106と、直流電圧指令演算器107と、インバータ制御器108と、損傷演算器109とを備える。なお、コンバータ制御器106、直流電圧指令演算器107、インバータ制御器108、損傷演算器109は、ハードウェアイメージとしては、一般的なCPUとメモリとドライバ等の一部の電子部品で構成され、CPUがそれぞれの機能を実現する動作プログラムを解釈して実行するソフトウェア処理により、以下に説明する各種機能を実現する。また、インバータ制御器108と損傷演算器109と直流電圧指令演算器107を、まとめてインバータ制御部と称する場合もある。
【0013】
コンバータ回路101は、パワースイッチングデバイスであるIGBT110と、IGBT110に逆並列に接続するダイオード111とが正負両端子間に2個直列に接続され、それが相数分だけ接続されている。IGBT110のオンオフを制御することで、交流電源112から受電した電力を、直流電圧である一次側電圧に変換する。コンバータ制御器106は、直流電圧センサ104で直流電圧を監視しながら、コンバータ回路101にスイッチング指令であるPWM信号を送出し、一次側電圧が設定する任意の電圧となるように制御する。
【0014】
インバータ回路102は、パワー半導体スイッチング素子であるIGBT110と、IGBT110に逆並列に接続するダイオード111とが正負両端子間に2個直列に接続され、それが相数分だけ接続されている。そして、一定周期で、2個直列のスイッチング素子における一方のゲート端子にオン信号が与えられ、他方のゲート端子にはオフ信号が与えられる。インバータ回路102はインバータ制御器108 によって制御される。具体的には、インバータ制御器108は、電流センサ105で検出したインバータ回路102の出力電流値と速度指令をもとに、設定されたキャリア周波数fcでゲート信号を算出する。算出したゲート信号を、増幅回路などを経てゲート電圧としてPWM信号をIGBT110に入力する。ここで、ゲート信号のオン期間に対するキャリア周期の比をオンデューティと呼ぶ。これにより、インバータ回路102は、モータ120が指令の速度となるように、直流電圧である一次側電圧を交流電圧である2次側電圧に変換し出力する。ここで、IGBT110、ダイオード111ともに、オン時のジュール損失や通流遮断切り替え時のスイッチング損失、リカバリ損失によって、ジャンクション温度が上昇し、オフ時にジャンクション温度が低下する。
【0015】
図2は、IGBT110やダイオード111を内蔵するパワーモジュール220の斜視図である。また、
図3は、
図2内のA-A’断面図である。
図2において、ハウジング221の内部にIGBT110、ダイオード111等の複数のパワー半導体素子222(図では1個の半導体素子のみを明示)と温度センサ223を、面上に配置する。
図3において、パワー半導体素子222、チップ下はんだ224、銅箔225、絶縁基板226、基板下はんだ227、金属ベース228の順に積層され、チップ下はんだ224と基板下はんだ227によって隣接する層が接合される。半導体素子面のもう一方は金属ワイヤ229で銅箔225と接合されている。ここで、パワー半導体素子222が異なる熱膨張係数を持つ物質で銅箔225に接合されているため、パワー半導体素子の温度が上下降する際、接合部に応力がかかる。この応力に対する耐量はパワーサイクル耐量と呼ばれており、ライフサイクルと呼ばれる所定の温度振幅に対する使用可能な繰り返し数で示される。したがって、半導体素子の温度履歴がわかれば、寿命を推定することが可能である。
【0016】
上記したオンデューティDは、任意の変調方式によるが、例えば、下記式(1)のように、
【0017】
【数1】
直流電圧vdとモータ電圧vоの比(vо/vd)で決まる。
【0018】
損傷演算器109は、上記インバータ回路102におけるIGBT110とダイオード111の損傷を、オンデューティDと電流からそれぞれ評価する。以下にその手順を説明する。
【0019】
図4は、本実施例における損傷演算器の構成図である。
図4において、損傷演算器109は、温度履歴演算部301、損傷演算部305を有し、さらに、IGBTとダイオードの電気特性、熱特性、耐量特性をそれぞれ保有する、電気特性テーブル302、熱特性テーブル303、耐量特性テーブル306を有する。
【0020】
図4において、温度履歴演算部301は、直流電圧センサ104による取得値である直流電圧vdと、電流センサ105による取得値である電流Iと、インバータ制御器で演算されるオンデューティDと、キャリア周波数fcを入力とし、電気特性テーブル302からのIGBTとダイオードの電気特性から、IGBTの損失Pqとダイオードの損失Pdを、それぞれ下記式(2)、(3)で演算する。
【0021】
【0022】
【0023】
ここで、rq、vqは、
図5に示すようなIGBTのコレクタエミッタ間電圧-コレクタ電流特性331の線形近似直線332における傾きと切片である。また、aq、bqは、
図6に示すように直流電圧がvdbの時の、IGBTの単パルス当たりのスイッチング損失-コレクタ電流特性336の線形近似直線337の傾きと切片である。また、rd、vdは、
図7に示すダイオードの順方向電圧-順方向電流特性341の線形近似直線342の傾きと切片である。さらに、ad、bdは、
図8に示す、直流電圧がvdb時の、ダイオードの単パルス当たりのリカバリ損失-順方向電流特性346の線形近似直線347の傾きと切片である。式(2)、(3)に示すように、IGBTの損失Pqは、オンデューティDの増加に伴い増加し、ダイオードの損失Pdは、オンデューティDの増加に伴い減少する。なお、
図5から
図8に示す電気特性は電気特性テーブル302に保有されている。
【0024】
次に、温度履歴演算部301は、上記で得た損失と、熱特性テーブル303からのIGBTとダイオードの熱特性とから、IGBTとダイオードの温度差を、それぞれ△Tq、△Tdとすると、下記式(4)、(5)で演算する。
【0025】
【0026】
【0027】
ここで、τthq、rthqは、
図9で示すような、それぞれIGBTの熱インピーダンス-時間特性351を指数近似した式352の変数である。また、τthd、rthdは、
図10で示すような、それぞれダイオードの熱インピーダンス-時間特性356を指数近似した式357の変数である。なお、
図9、
図10に示す熱特性は熱特性テーブル303に保有されている。
【0028】
損傷演算部305は、このような温度変化を一定期間保存し、レインフロー法等のカウント方法で、温度振幅の発生頻度を数える。また、損傷演算部305は、この結果から、温度履歴全体の損傷d[1]を、例えば式(6)より演算する。
【0029】
【0030】
ここで、R[j]はj番目の温度振幅で、n[j]はR[j]の発生回数を表す。また、alx、blxは、耐量特性テーブル306に保有する、
図11に示すような、温度振幅と寿命の関係を表すライフサイクル特性カーブ361の式362で示す係数である。なお、alx、blxにおけるxは、qまたはdを示す一般式を意味し、IGBTの係数であるalq、blq、または、ダイオードの係数であるald、bldの両方に対応する。
【0031】
以上の手続きで、損傷演算器109は、IGBTとダイオードの損傷をそれぞれ評価し、その結果を、直流電圧指令演算器107に送出する。
【0032】
ここで、例えば、オンデューティが小さくなるような運転が繰り返される場合、ダイオードの電流が大きくなり、ダイオードの疲労すなわち損傷が促進されることになる。一方、この場合は、IGBTの電流は小さくなるため、IGBTの疲労すなわち損傷は軽くなる。このような状況では、ダイオードがIGBTよりも先に寿命に達し、装置全体の破損に至る問題がある。
【0033】
そこで、
図1における直流電圧指令演算器107では、損傷演算器109によるIGBTとダイオードの損傷評価結果を基に、IGBTとダイオードの損傷すなわち寿命が平準化するように直流電圧指令を調整する。具体的には、
図12のように、ダイオードの損傷がIGBTより小さい場合、基準値よりも直流電圧指令を上げることで直流電圧を大きくし、オンデューティを下げるようにする。また、IGBTの損傷がダイオードより小さい場合、オンデューティを上げるように、基準値よりも直流電圧指令を減少させる。また、言い換えれば、IGBTの寿命がダイオードより短くなる場合、基準値よりも直流電圧指令を上げることで直流電圧を大きくし、オンデューティを下げるようにする。また、ダイオードの寿命がIGBTより短くなる場合、オンデューティを上げるように、基準値よりも直流電圧指令を減少させる。直流電圧指令演算器107は、このようにして決定した直流電圧指令を、コンバータ制御器106に送出する。
【0034】
コンバータ制御器106は、直流電圧センサ104による取得値である直流電圧と、上記で演算された直流電圧指令とを比較する。
図13の上段に示すように、コンバータ制御器106は、直流電圧の取得値と直流電圧指令値との差が少なくなるように、PWM信号をコンバータ回路101に送出する。これにより、コンバータ回路101の出力である直流電圧が変更され、インバータ回路102におけるIGBTとダイオードのオンデューティが変化する。このような操作を繰り返すと、
図13の下段に示すように、次第にIGBTとダイオードの温度が均等化されるため、損傷の偏りが平準化される。これにより、このような操作を行わなかった場合に比べて装置全体の寿命を延ばすことができる。
【0035】
以上のように、本実施例によれば、インバータ回路を構成するIGBTとダイオードの損傷評価結果を基に、IGBTとダイオードの損傷、言い換えれば寿命、が平準化するように直流電圧指令を調整する。これにより、インバータ回路を構成するスイッチング素子とダイオードの損傷を平準化でき、装置全体の寿命を向上できる電力変換装置を提供できる。
そしてステップS505において、IGBTの累積損傷とダイオードの累積損傷が一定程度平準化されたかを判断し、平準化されるまで、ステップS501に戻り、直流電圧を調整した状態で再度テストパターン運転を実行し、損傷履歴の推定と直流電圧指令調整を繰り返す。テストパターン運転終了後はステップS506で通常運転に移行する。
なお、テストパターンは、例えば、昇降機などで、典型的に繰り返す操作や、最も損傷が激しいと想定される操作を、所定の運転周期で動作するテストパターンとして設定する。これにより、より高精度な寿命の平準化を実現できる。また、上記テストパターン運転は、製品出荷時や、通常運転を行う時の常時、または所定期間おきに定期的に動作させてもよい。
以上、本発明による実施例を示したが、本発明は、寿命を向上できる電力変換装置を提供でき、必要な資源の削減をはかることができる。そのため、炭素排出量を減らし、地球温暖化を防止することができ、SDGs(Sustainable Development Goals)を実現するための特に項目7のエネルギーに貢献する。
また、本発明は、上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。