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特開2024-39592有機EL素子、表示装置および有機EL素子の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039592
(43)【公開日】2024-03-22
(54)【発明の名称】有機EL素子、表示装置および有機EL素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H10K 50/813 20230101AFI20240314BHJP
   H10K 50/10 20230101ALI20240314BHJP
   H10K 59/121 20230101ALI20240314BHJP
   H10K 50/816 20230101ALI20240314BHJP
   H10K 50/818 20230101ALI20240314BHJP
   H10K 59/173 20230101ALI20240314BHJP
   H10K 59/122 20230101ALI20240314BHJP
   H10K 71/00 20230101ALI20240314BHJP
   H10K 71/60 20230101ALI20240314BHJP
   G09F 9/30 20060101ALI20240314BHJP
   G09F 9/00 20060101ALI20240314BHJP
   H10K 102/10 20230101ALN20240314BHJP
   H10K 102/20 20230101ALN20240314BHJP
【FI】
H10K50/813
H10K50/10
H10K59/121
H10K50/816
H10K50/818
H10K59/173
H10K59/122
H10K71/00
H10K71/60
G09F9/30 339Z
G09F9/30 365
G09F9/00 338
G09F9/30 348A
H10K102:10
H10K102:20
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084657
(22)【出願日】2023-05-23
(31)【優先権主張番号】P 2022143645
(32)【優先日】2022-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】521515757
【氏名又は名称】厦門天馬顕示科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001678
【氏名又は名称】藤央弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】進藤 知英
(72)【発明者】
【氏名】森 茂
【テーマコード(参考)】
3K107
5C094
5G435
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107BB01
3K107CC05
3K107CC29
3K107DD22
3K107DD23
3K107DD24
3K107DD25
3K107DD46X
3K107DD89
3K107FF04
3K107FF14
3K107GG28
5C094AA10
5C094AA25
5C094BA27
5C094DA13
5C094DA15
5C094EA04
5C094EA05
5C094EA06
5C094EC04
5G435AA03
5G435AA16
5G435BB05
5G435HH12
5G435HH14
5G435KK05
(57)【要約】
【課題】光取り出し効率を向上させつつ、絶縁層中のリーク電流を抑制すること。
【解決手段】アノード電極ANは、バンク層BNK上およびバンク層BNKの開口部に形成され、有機層OELは、アノード電極ANおよび一部の絶縁層ILを覆うように形成され、アノード電極ANは、カソード電極CAに向かって、下層導電層LCL、有機層OELから入射する光を反射する反射金属層RML、透光性を備えた上層導電層UCLが積層されている。上層導電層UCLは、有機層OELと接続される第1上層導電層UCL_1と、絶縁層ILに覆われた第2上層導電層UCL_2と、を備えている。第2上層導電層UCL_2の酸素含有量は、第1上層導電層UCL_1の酸素含有量より少なく、第2上層導電層UCL_2の比抵抗は、第1上層導電層UCL_1の比抵抗より高い。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機層と、
前記有機層に正孔を注入するアノード電極と、
前記有機層に電子を注入するカソード電極と、
前記アノード電極の一部を覆う絶縁層と、
を備え、
前記アノード電極は、バンク層上および前記バンク層の開口部に形成され、
前記有機層は、前記アノード電極および一部の前記絶縁層を覆うように形成され、
前記アノード電極は、前記カソード電極に向かって、下層導電層、前記有機層から入射する光を反射する反射金属層、透光性を備えた上層導電層、が積層されており、
前記上層導電層は、前記有機層と接続される第1上層導電層と、前記絶縁層に覆われた第2上層導電層と、を備え、
前記第2上層導電層の酸素含有量は、前記第1上層導電層の酸素含有量より少なく、
前記第2上層導電層の比抵抗は、前記第1上層導電層の比抵抗より高い、
有機EL素子。
【請求項2】
請求項1に記載の有機EL素子において、
前記上層導電層は、透明導電膜で構成される、
有機EL素子。
【請求項3】
請求項2に記載の有機EL素子において、
前記透明導電膜は、ITOまたはIZOを含む、
有機EL素子。
【請求項4】
請求項1に記載の有機EL素子において、
前記絶縁層は、前記バンク層上で前記アノード電極の一部を覆っている、
有機EL素子。
【請求項5】
請求項1に記載の有機EL素子において、
前記絶縁層は、前記バンク層の上面から前記開口部の底部にわたって形成されている、
有機EL素子。
【請求項6】
請求項1に記載の有機EL素子において、
前記絶縁層は、複数の孔を有する、
有機EL素子。
【請求項7】
請求項1に記載の有機EL素子を画素に備えた、
表示装置。
【請求項8】
バンク層上および前記バンク層の開口部に、カソード電極に向かって、下層導電層、反射金属層、透光性を備えた上層導電層、が積層されたアノード電極を形成する工程と、
前記アノード電極の一部を覆う絶縁層を形成する工程と、
前記絶縁層から露出した前記アノード電極の前記上層導電層に対し酸素プラズマ処理を行う工程と、
を備えた、
有機EL素子の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の有機EL素子の製造方法において、
前記絶縁層を形成する工程では、水素を含む前記絶縁層が形成される、
有機EL素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、有機EL素子、表示装置および有機EL素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トップエミッション構造の有機EL(Electro Luminescence)素子では、開口部を有するバンク層がアノード電極上に形成され、開口部から露出するアノード電極上およびバンク層上に有機層およびカソード電極が順次形成される。アノード電極は反射電極であり、アノード電極側に放射された光が反射するようになっている。開口部の周囲では、絶縁層により、アノード電極と有機層とが互いに絶縁される。
【0003】
一方、発光層で放射された光は、バンク層内にも入射する。バンク層に入射した光は、バンク層内で反射しながら基板水平方向に伝搬し、最終的には熱となって消失する。このように、バンク層に入射した光は、外部に取り出すことができない無駄な光となってしまうため、一般的にトップエミッション構造の有機EL素子では、光取り出し効率が低くなってしまう。
【0004】
例えば特許文献1には、バンク層の開口部に対応する絶縁層の段差部の傾斜面に光を反射する電極が形成された構成が開示されている。このように、傾斜面に反射電極を設けることで、絶縁層内への光の入射が抑えられるので、光取り出し効率が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-050011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
また、絶縁層を薄くすることで絶縁層内を伝搬する光を抑え、光取り出し効率をさらに向上させることも期待できる。しかしながら、絶縁層を薄くすると、絶縁層の膜厚方向に流れるリーク電流が顕著になるという問題がある。
【0007】
そこで、本開示は、光取り出し効率を向上させつつ、絶縁層中のリーク電流を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の代表的な実施の形態による有機EL素子は、有機層と、有機層に正孔を注入するアノード電極と、有機層に電子を注入するカソード電極と、アノード電極の一部を覆う絶縁層と、を備えている。アノード電極は、バンク層上およびバンク層の開口部に形成され、有機層は、アノード電極および一部の絶縁層を覆うように形成され、アノード電極は、カソード電極に向かって、下層導電層、有機層から入射する光を反射する反射金属層、透光性を備えた上層導電層、が積層されている。上層導電層は、有機層と接続される第1上層導電層と、絶縁層に覆われた第2上層導電層と、を備えている。第2上層導電層の酸素含有量は、第1上層導電層の酸素含有量より少なく、第2上層導電層の比抵抗(体積抵抗率)は、第1上層導電層の比抵抗より高い。
【0009】
本開示の他の代表的な実施の形態による有機EL素子の製造方法は、バンク層上および前記バンク層の開口部に、カソード電極に向かって、下層導電層、反射金属層、透光性を備えた上層導電層、が積層されたアノード電極を形成する工程と、前記アノード電極の一部を覆う絶縁層を形成する工程と、前記絶縁層から露出した前記アノード電極の前記上層導電層に対し酸素プラズマ処理を行う工程と、を備える。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、光取り出し効率を向上させつつ、絶縁層中のリーク電流を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本開示の有機EL表示装置の構成の一例を模式的に示す図である。
図2】TFT基板の構成の一例を模式的に示す断面図である。
図3】平面視におけるアノード電極の形状を模式的に示す図である。
図4】本開示の有機EL素子を含むTFT基板の構成の他の例を模式的に示す断面図である。
図5】本開示の有機EL素子を含む画素付近の構成の一例を模式的に示す断面図である。
図6】本開示の有機EL素子を含む画素付近の構成の他の例を模式的に示す断面図である。
図7】本開示の有機EL素子を含む画素付近の構成の他の例を模式的に示す断面図である。
図8】有機EL素子の断面構成の一例を示す図である。
図9】上層導電層の構成を詳細に示す断面図である。
図10】従来技術における絶縁層を介したリーク経路と、本開示における絶縁層を介したリーク経路とを比較して示す図である。
図11】アノード電極の上層導電層の物性を説明する図である。
図12】上層導電膜の特性をまとめて示す図である。
図13】実施の形態1に係る有機EL素子の製造方法を例示するフロー図である。
図14図13に対応する有機EL素子の製造工程を説明する図である。
図15】O流量とITOのシート抵抗とを対応させて示す図である。
図16】絶縁層による第2上層導電層に対する作用を説明する図である。
図17】Oプラズマ処理による第1上層導電層UCL_1に対する作用を説明する図である。
図18】Oプラズマ処理による第2上層導電層UCL_2に対する作用を説明する図である。
図19】第1上層導電層および第2上層導電層のシート抵抗の測定値を比較して示す図である。
図20】実施の形態1の効果を説明する図である。
図21】有機EL素子のその他の形態を例示する断面図である。
図22】有機EL素子のその他の形態を例示する断面図である。
図23図22の構成による更なる効果を説明する図である。
図24】実施の形態3に係る有機EL素子の製造方法を例示するフロー図である。
図25図23に対応する有機EL素子の製造工程を説明する図である。
図26】有機EL素子の近傍に形成された剥離部及びその拡大図を示す。
図27A】絶縁層ILに形成された複数の孔のパターンを示す上面図である。
図27B図27AにおけるB-B切断線での断面構造を示す断面図である。
図28】従来の有機EL素子を含む画素付近の構成の一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(実施の形態1)
以下、図面を参照しながら本開示の実施の形態について説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は適宜省略する。
【0013】
<有機EL表示装置の構成>
以下では、表示装置の一例として、本開示の有機EL素子を用いた有機EL表示装置の構成について説明する。
【0014】
図1は、本開示の有機EL表示装置の構成の一例を模式的に示す図である。図1に示すように、有機EL表示装置10は、有機EL素子が形成されるTFT(Thin Film Transistor)基板100と、有機EL素子を封止する封止基板200と、TFT基板100と封止基板200とを接合する接合部(ガラスフリットシール部)300とを備えている。TFT基板100と封止基板200との間には、例えば乾燥空気が封入されており、乾燥空気は接合部300により封止されている。乾燥空気としては、例えば窒素が用いられてもよい。
【0015】
なお、有機EL表示装置は、このような構成に限定されない。有機EL表示装置は、封止基板200を用いず、例えば、シリコン窒化膜などの無機膜とポリマーなどの有機膜とを積層して有機EL素子が封止された構成であってもよい。
【0016】
TFT基板100の表示領域125の外側において、カソード電極形成領域114の周囲には、走査ドライバ131、制御ドライバ132、保護回路133、ドライバIC134(ドライバ回路)が配置されている。ドライバIC134は、FPC(Flexible Printed Circuit)135を介して外部の機器と接続される。
【0017】
TFT基板100の表示領域125には、複数の画素がマトリクス状に配列されている。各画素は、複数の副画素を備えている。各副画素は、有機EL素子を備えている。各副画素の有機EL素子は、走査ドライバ131及び制御ドライバ132による制御に基づき点灯又は消灯する。
【0018】
走査ドライバ131は、TFT基板100の走査線を駆動する。制御ドライバ132は、例えば、エミッション制御線を駆動し、各副画素の発光期間を制御する。また、制御ドライバ132は、リセット制御線を駆動し、各副画素の発光期間をリセットする。
【0019】
ドライバIC134は、走査ドライバ131及び制御ドライバ132に電源及びタイミング信号(制御信号)を供給する。さらに、ドライバIC134は、データ線にデータ信号を供給する。ドライバIC134は、例えば、異方性導電フィルム(ACF:Anisotropic Conductive Film)を用いて実装される。
【0020】
図1において、左から右に延在する軸をX軸、上から下に延在する軸をY軸と呼ぶ。走査線はX軸に沿って延在している。表示領域125において、X軸に沿って配列された画素又は副画素を画素又は副画素の行と呼ぶ。表示領域125において、Y軸に沿って配列された画素又は副画素を画素列又は副画素の列と呼ぶ。
【0021】
図2は、TFT基板の構成の一例を模式的に示す断面図である。図3は、平面視におけるアノード電極の形状を模式的に示す図である。TFT基板100は、支持基板SUB側の下層にTFTで構成される画素回路を備え、画素回路上に有機EL素子を備えている。
【0022】
図2に示すように、TFT基板100は、ガラスやポリイミド等で構成される支持基板SUB、支持基板SUB上に形成された画素回路500、画素回路500上に形成された平坦化層PLN、平坦化層PLN上に形成された有機EL素子DEVを備えている。
【0023】
バンク層BNKには、傾斜部712に取り囲まれた領域からなる開口部710が形成されている。言い換えると、開口部710は、傾斜部712が形成された領域と、平坦化層PNL(後述の図4では接続電極CON)が露出する底部714が形成された領域とで構成される。有機EL素子DEVの有機層OELは、図2に示すように、開口部710、および開口部710を取り囲む領域に形成される。このように、有機EL素子DEVの各画素は、主に開口部710が形成された領域で発光する。
【0024】
図2図3に示すように、有機EL素子DEVのアノード電極ANは、バンク層BNK、平坦化層PLN、およびパッシベーション膜PVを貫通するコンタクトホールHOLから露出した画素回路500のドレイン電極DRAと直接接続される。この場合、ドレイン電極DRAからアノード電極ANを流れるキャリアは、膜厚が厚く、抵抗の低い反射金属層RMLを主に流れ、上層導電層UCLや下層導電層LCL(図8を参照)の影響を受けない。
【0025】
図3に示すように、平面視において、コンタクトホールHOLの大きさは、バンク層BNKの開口部710に比べて十分小さく、コンタクトホールHOLを介してアノード電極ANとドレイン電極DRAとを直接接続した場合でも、バンク層BNKの開口部710の面積に与える影響はほとんどない。
【0026】
図4は、本開示の有機EL素子を含むTFT基板の構成の他の例を模式的に示す断面図である。図4に示すように、有機EL素子DEVのアノード電極ANは、平坦化層PLN上に形成された接続電極CONを介してドレイン電極DRAと接続されてもよい。この場合、図4に示すように、バンク層BNKの開口部710とは別途でコンタクトホールHOLを設ける必要がないので、バンク層BNKの開口部710の面積に影響を与えることはない。
【0027】
<有機EL素子の構成>
図5は、本開示の有機EL素子を含む画素付近の構成の一例を模式的に示す断面図である。なお、図5では、平坦化層PLN、平坦化層PLNより上層のバンク層および有機EL素子DEVのみが示されており、支持基板SUBや画素回路500等のアノード電極ANに電流を供給するための構成は省略されている。
【0028】
図5に示すように、平坦化層PLN上には、バンク層BNKが形成されている。バンク層BNKは、例えばポリイミドやアクリル樹脂等を材料とする有機膜である。バンク層BNKには、平坦化層PLN側から有機EL素子DEV側へ向かって広がる開口部710が形成されている。図5において、開口部710はバンク層BNKを貫通し、開口部710から平坦化層PLNが露出している。バンク層BNKの上面は平坦である。
【0029】
図5に示すように、開口部710の周囲のバンク層BNK上および開口部710には、アノード電極ANが形成されている。バンク層BNK上には、絶縁層ILが形成されている。絶縁層ILは、バンク層BNK上でアノード電極ANの一部を覆っている。絶縁層ILは、例えば水素(H)を含むSiN膜(無機絶縁膜)で構成されるが、これに限定されない。絶縁層ILとして、例えば、SiN以外の水素を含む無機絶縁膜、還元性成分を含む無機絶縁膜、酸化されにくい有機絶縁膜等が用いられてもよい。
【0030】
アノード電極ANおよび一部の絶縁層ILを覆うように、有機層OELが形成されている。有機層OELおよび絶縁層ILを覆うようにカソード電極CAが形成されている。カソード電極CAは、例えば表示領域125の全面を覆うように形成される。カソード電極CAについては、後で詳しく説明する。
【0031】
図6は、本開示の有機EL素子を含む画素付近の構成の他の例を模式的に示す断面図である。なお、図6では、図5と同様に、アノード電極ANに電流を供給するための構成は省略されている。図6に示すように、バンク層BNKの開口部710では、傾斜部712の傾斜が図5の例より緩やかであってもよい。また、図6に示すように、バンク層BNKの上端と傾斜部712とが滑らかに接続されてもよい。これは、バンク層BNKが前述の有機膜で形成され、バンク層形成時のベークの条件によっては、傾斜部712が緩やかな傾斜をもった形状となることがあるためである。例えば150℃以上の温度でバンク層BNKをベークした時に、傾斜部712がこのような形状となる場合がある。本開示には、これらの構成も含まれる。
【0032】
図7は、本開示の有機EL素子を含む画素付近の構成の他の例を模式的に示す断面図である。なお、図7では、図6と同様に、アノード電極ANに電流を供給するための構成は省略されている。図7に示すように、バンク層BNKの開口部では傾斜部の傾斜が図6と反対にくぼんだ形になっていても良い。バンク層BNKを形成した後に、バンク層BNKの上部に無機膜をパターニングし、バンク層BNKを等方的にエッチングした後にバンク層BNLの上部のパターニングされた無機膜を選択的に除去することでこのような形状をもったバンク層BNKが形成される。本開示には、これらの構成も含まれる。
【0033】
図8は、有機EL素子の断面構成の一例を示す図である。図8に示すように、有機EL素子DEVは、アノード電極AN側から、アノード電極ANと接する正孔注入層HIL、正孔輸送層HTL、発光層EML、電子輸送層ETL、およびカソード電極CAと接する電子注入層EILが順次積層されている。
【0034】
トップエミッション構造では、カソード電極に半透過反射金属薄膜が用いられ、発光層から発せられた光をアノード電極とカソード電極との間で往復するように反射させることによって、その光学的距離に対応した共振波長の光のみを増幅させて外部に取り出すようにした共振器(マイクロキャビティー)構造が採用される。
【0035】
図8に示すように、アノード電極ANは、カソード電極CAに向かって、下層導電層LCL、反射金属層RML、上層導電層UCLを備え、これらの層が順次積層された構成となっている。下層導電層LCLは、前述したドレイン電極DRAと接続される電極である。下層導電層LCLは、例えばITO(Indium Tin Oxide)やIZO(Indium Zinc Oxide)、ZnO(酸化亜鉛)、In23(酸化インジウム)等の透明導電膜で構成されてもよいし、チタン(Ti)、クロム(Cr)、アルミニウム(Al)等の非透明な導電膜で構成されてもよい。反射金属層RMLは、有機層OELから入射する光を反射する層である。反射金属層RMLは、光を反射するものであれば特に限定されない。反射金属層RMLとして、例えば、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、金(Au)、ニッケル(Ni)、ネオジム(Nd)、イリジウム(Ir)、クロム(Cr)等の金属又はこれらの金属を含む合金が用いられてもよい。
【0036】
上層導電層UCLは、透光性を備え、有機層OELの正孔注入層HILおよび絶縁層ILと接続される電極である。上層導電層UCLは、反射金属層RMLで光を反射させるため、例えばITO、IZO、ZnO、In23等の透明導電膜で構成される。
【0037】
図9は、上層導電層の構成を詳細に示す断面図である。図9には、アノード電極ANが絶縁層ILで覆われた領域が拡大して示されている。図9に示すように、上層導電層UCLは、絶縁層ILに覆われず、有機層OELと接続される領域の第1上層導電層UCL_1、絶縁層ILに覆われた第2上層導電層UCL_2を備えている。第2上層導電層UCL_2の酸素含有量は、第1上層導電層UCL_1の酸素含有量よりも少ない。また、第2上層導電層UCL_2の比抵抗は、第1上層導電層UCL_1の比抵抗よりも高い。これにより、第1上層導電層UCL_1と接する有機層OELへの正孔注入を促進しつつ、第2上層導電層UCL_2と接する絶縁層ILを介したリーク電流の発生が抑制される。これにより、有機層OELの発光領域は、絶縁層ILの開口部分、すなわち第1上層導電層UCL_1と接する領域内に制御される。
【0038】
ここで、絶縁層を介したリーク経路について、従来技術と本開示とを比較しながら説明する。図10は、従来技術における絶縁層を介したリーク経路と、本開示における絶縁層を介したリーク経路とを比較して示す図である。図10の上側の図は、従来技術における絶縁層を介したリーク経路を示している。図10の下側の図は、本開示における絶縁層を介したリーク経路を示している。
【0039】
従来技術では、上層導電層UCLの酸素含有量は全域に渡ってほぼ一定であり、本開示の第1上層導電層UCL_1に対応する部分と第2上層導電層UCL_2に対応する部分との間で、酸素含有量にほとんど差がない。このため、第1上層導電層UCL_1に対応する部分と同様に、第2上層導電層UCL_2に対応する部分からも、絶縁層ILを介して有機層OELへ正孔が注入されてしまう。このように、従来技術では、第2上層導電層UCL_2に対応する部分から絶縁層を介して有機層OELへ正孔が流れるリーク経路が形成される。したがって、従来技術では、有機層OELは、第1上層導電層UCL_1と接する領域内だけでなく、平面視で第2上層導電層UCL_2に対応する部分と重畳する領域も発光するため、有機層OELの発光領域を所定の範囲内に制御することができない。
【0040】
これに対し、本開示では、前述の通り、第2上層導電層UCL_2は、第1上層導電層UCL_1よりも酸素含有量が少ない。また、第2上層導電層UCL_2は、第1上層導電層UCL_1よりもの比抵抗が高い。このため、本開示では、第2上層導電層UCL_2から絶縁層ILを介して有機層OELへ正孔が流れるリーク経路は存在するものの、リーク電流の電流値は従来技術よりも非常に小さい。したがって、本開示では、平面視で第2上層導電層UCL_2と重畳する領域はほとんど発光しないため、有機層OELの発光領域を所定の範囲内に制御することができる。
【0041】
また、アノード電極ANが反射金属層RMLを備えることで、有機層OELからアノード電極ANへ入射した光を封止基板200側へ反射させることができるので、光の取り出し効率を向上させることができる。
【0042】
<上層導電層の物性>
図11は、アノード電極の上層導電層の物性を説明する図である。図11には、上層導電層UCLとしてITOが用いられた場合において、ITO中の酸素含有量に対する、電子移動度μ、電子密度n、比抵抗ρの特性がそれぞれ示されている。
【0043】
図11に示すように、電子移動度μは、ITO中の酸素含有量が増加すれば増加し、ITO中の酸素含有量が減少すれば電子移動度μは減少する。次に、電子密度nはITO中の酸素含有量が増加すれば減少し、ITO中の酸素含有量が減少すれば電子密度nは増加する。次に、電子移動度μと電子密度nの兼ね合いで決まる比抵抗ρは、ITO中の酸素含有量が所定の値となった場合に最も小さくなる。そして、ITO中の酸素含有量が所定の値から離れるにつれて、比抵抗ρは高くなる。
【0044】
図12は、上層導電膜の特性をまとめて示す図である。図12には、これらの特性を考慮して規定される第1上層導電層UCL_1および第2上層導電層UCL_2の特性が比較して示されている。図12に示すように、第2上層導電層UCL_2は、第1上層導電層UCL_1よりも、比抵抗ρが高くなるように酸素含有量が少なく設定される。これにより、絶縁層ILを介した有機層OELへのホール注入が抑制される。これに対し、第1上層導電層UCL_1は、第2上層導電層UCL_2よりも、比抵抗ρが低くなるように酸素含有量が多く設定される。これにより、有機層OELへのホール注入が促進される。
【0045】
<有機EL素子の製造方法>
図13は、実施の形態1に係る有機EL素子の製造方法を例示するフロー図である。図14は、図13に対応する有機EL素子の製造工程を説明する図である。なお、図14では、図5と同様に、平坦化層PLN、および平坦化層PLNより上層の構成のみが示されており、アノード電極ANに電流を供給するための構成は省略されている。
【0046】
ステップS10では、平坦化層PLNおよびバンク層BNKの上にアノード電極ANが形成される。アノード電極ANは、最初に下層導電層LCLが形成される。そして、下層導電層LCL上に、反射金属層RMLおよび上層導電層UCLが順次形成される。下層導電層LCL、反射金属層RML、および上層導電層UCLは、大気暴露されることなく連続して形成されてもよい。下層導電層LCL、反射金属層RMLおよび上層導電層UCLは、例えば、スパッタリング、イオンプレーティング、真空蒸着等の物理的気相法(PVD:Physical Vapor Deposition)、化学的気相法(CVD:Chemical Vapor Deposition)等により形成される。
【0047】
ここでは、スパッタリングによりITOの下層導電層LCLおよび上層導電層UCLを形成する場合について説明する。スパッタリングでは、成膜時の基板温度および酸素流量(以下では「O流量」とも呼ぶ)により結晶性と比抵抗が異なるITOが形成される。図15は、O流量とITOのシート抵抗とを対応させて示す図である。図15には、成膜時の基板温度が100℃、120℃の場合におけるO流量と、ITOの膜厚が40nmである場合のシート抵抗との対応がそれぞれ示されている。
【0048】
成膜時のO流量が多いほどITOに含まれる酸素濃度が増えることは知られている。したがって、図15の横軸は、ITOに含まれる酸素濃度を示しているとも言える。また、図15ではシート抵抗が示されているが、シート抵抗と比抵抗(抵抗率)との間には、以下の関係がある。
ρ=R□×d (式1)
ρ :比抵抗(抵抗率)
R□:シート抵抗
d :膜厚
式1は、膜厚が同じであれば、シート抵抗の関係が比抵抗の関係と同様であることを示している。
【0049】
図15に示すように、成膜時の基板温度によらず、所定のO流量で成膜するとシート抵抗が最小になり、O流量が所定の流量から離れるにつれてITOのシート抵抗が高くなる。特に、O流量が所定の流量より少なくなるにつれてシート抵抗が高くなる傾向が強い。
【0050】
このような特性を考慮して、例えば、後述するステップS60における酸素プラズマ処理後の上層導電層UCLの比抵抗が最小値となることを目標として、スパッタリングの各条件が設定される。例えば、ITOの成膜条件(例えば、成膜時における基板温度、O流量、放電パワー、ITOターゲット組成等)や、プラズマ処理条件(例えば、プラズマ放電パワー、処理時間、O流量等)を変えて事前に実験し、この実験で得られた結果を勘案して、スパッタリングの各条件が決定される。以下では、「酸素プラズマ」を「Oプラズマ」とも呼ぶ。なお、スパッタリング以外の方法でITOを成膜する場合や、ITO以外の上層導電層UCLを形成する場合には、成膜に係る条件がそれぞれ設定される。
【0051】
ステップS20では、アノード電極ANおよびバンク層BNK上にH(水素)を含む絶縁層IL(例えばSiN)が形成される。絶縁層ILは、例えば塗布、化学的気相法等により形成される。絶縁層ILの成膜温度は、バンクを形成する開口部710の傾斜部712や平坦化層PLNが変質しないよう、バンク層BNKや平坦化層PLNの焼成温度以下(例えば200℃程度)である。また、この絶縁層ILが極端に薄い場合、アノード電極、カソード電極間の電圧で絶縁破壊を起こし、場合によっては上方に形成される有機層OELに電流が流れず、発光できなくなるおそれがある。このため、絶縁層ILの膜厚は10nm以上であることが好ましい。
【0052】
ステップS20の絶縁層ILを形成する前にベーク処理を追加しても良い。ポリイミドやアクリル樹脂等を材料とする有機膜からなるバンク層BNKは長時間放置された場合に水分などを吸着してしまう。この水分が多く存在すると絶縁層ILとの密着性を阻害してしまう。また、バンク層BNKのベーク条件が不適切な場合、これより後の熱処理工程でバンク層BNK内から有機材料で構成されるガスが発生する。
【0053】
絶縁層ILの形成前にこれらの水分、ガスの除去が不十分な場合、図26のように絶縁層ILが剥離してしまう課題がある。図26は、有機EL素子の近傍に形成された剥離部850及びその拡大図を示す。剥離が発生する理由は、絶縁層ILが、例えばSiNのように緻密な膜である場合、水分やガスが絶縁層ILを透過できずに絶縁層ILとバンク層BNKの間に溜まってしまうからである。
【0054】
そのため、絶縁層ILの形成前にベーク処理を追加することで水分の除去、およびにガスの除去が促進され、密着性が阻害されることを防ぐことができる。例えば、ベーク処理は窒素中、200℃程度で1時間ほど行うと良い。
【0055】
ステップS30では、絶縁層上へのレジストRESの形成、およびレジストRESのパターニングが行われる。パターニングにより、絶縁層ILを形成する領域のみにレジストRESが残存する。
【0056】
ステップS40では、絶縁層上にレジストRESが残存した状態でドライエッチングが行われ、レジストRESから露出した絶縁層が除去される。そして、ステップS50において、レジストRESが除去される。これにより、所定の形状の絶縁層ILが形成される。このように、ステップS20-S50までの一連の工程により、絶縁層ILが形成される。
【0057】
ステップS60では、絶縁層ILから露出したアノード電極ANの上層導電層UCL(図9参照)に対しOプラズマ処理が行われる。Oプラズマ処理の条件は、例えば、O流量が500[sccm]、圧力が50[Pa]、プラズマ放電パワーが1.0[W/cm2]、処理時間が120[sec]である。
【0058】
ステップS70では、アノード電極AN上および一部の絶縁層IL上に有機層OELが形成される。そして、ステップS80では、有機層OEL上および絶縁層IL上に、例えば半透過反射金属薄膜のカソード電極CAが形成される。
【0059】
<絶縁層による第2上層導電層に対する作用>
図16は、絶縁層による第2上層導電層に対する作用を説明する図である。図16の上側に示すように、Hを含む絶縁層ILの成膜時(図13のステップS20)に、絶縁層IL中に水素ラジカル(ここではHと記載)が発生する。水素ラジカルは、絶縁層ILから第2上層導電層UCL_2へ進入する。第2上層導電層UCL_2へ進入した水素ラジカルは、第2上層導電層UCL_2内の酸素(O)と反応する。そして、第2上層導電層UCL_2内の酸素は、図16の下側に示すように、OH-やH2O等となって第2上層導電層UCL_2から離脱する。これにより、絶縁層ILと接する第2上層導電層UCL_2の酸素含有量が少なくなる。
【0060】
<Oプラズマ処理による上層導電層に対する作用>
図17は、Oプラズマ処理による第1上層導電層UCL_1に対する作用を説明する図である。図18は、Oプラズマ処理による第2上層導電層UCL_2に対する作用を説明する図である。Oプラズマ処理時(図13のステップS60)には、酸素ラジカル(ここではOと記載)が発生する。そして、図17に示すように、絶縁層ILで覆われていない(絶縁層ILと接していない)第1上層導電層UCL_1には、酸素ラジカルが第1上層導電層UCL_1へ進入する。これにより、絶縁層ILに覆われていない領域の第1上層導電層UCL_1の酸素含有量が多くなる。
【0061】
一方、図18に示すように、酸素ラジカルは絶縁層ILを通過しにくいため、絶縁層ILで覆われた(絶縁層ILと接する)第2上層導電層UCL_2は、酸素ラジカルによる影響をほとんど受けない。したがって、Oプラズマ処理において、第2上層導電層UCL_2の酸素含有量は変動しない。これらの作用により、第2上層導電層UCL_2の酸素含有量は、第1上層導電層UCL_1の酸素含有量より少なくなる。
【0062】
<本実施の形態による主な効果>
本実施の形態によれば、バンクを形成するバンク層BNKの開口部710の傾斜部712に反射金属層RMLを備えたアノード電極ANが形成されている。この構成によれば、有機層OELから入射する光が、反射金属層RMLでカソード電極CA側へ反射し、基板水平方向に伝搬する光が正面側へ取り出されるので、光取り出し効率を向上させることができる。これにより、正面輝度を向上させることができる。
【0063】
また、本実施の形態によれば、図9の第2上層導電層UCL_2の酸素含有量は、第1上層導電層UCL_1の酸素含有量より少ないので、第2上層導電層UCL_2における電子移動度が、第1上層導電層UCL_1より抑えられる。また、第2上層導電層UCL_2の比抵抗は、第1上層導電層UCL_1の比抵抗より高い。
【0064】
この構成によれば、第2上層導電層UCL_2から絶縁層ILを介して絶縁層IL上の有機層OELへ注入される正孔の量が抑えられるので、絶縁層IL中のリーク電流を抑制することができる。これにより、絶縁層IL上に形成された有機層OELの発光が抑えられ、発光面積を想定通りに設定することができる。また、絶縁層ILを薄くすることで、絶縁層ILの横方向に伝搬する光を低減させることができるので、光取り出し効率をより向上させることができる。
【0065】
また、この構成によれば、第1上層導電層UCL_1から有機層OELの正孔注入層HILへ正孔の移動を妨げることなく、効率よく注入することができる。これにより、有機EL素子DEVの駆動電圧を上げることなく、光取り出し効率を向上させることができる。
【0066】
また、有機EL表示装置10が本実施の形態に係る有機EL素子DEVを各画素に備えることで、消費電力を抑制しつつ、高品質の映像を表示することができる。
【0067】
[実施例]
次に、実施の形態1の実施例について説明する。図19は、第1上層導電層および第2上層導電層のシート抵抗の測定値を比較して示す図である。なお、上層導電層UCL(UCL_1、UCL_2)の膜厚は10[nm]、第1上層導電層UCL_1の酸素濃度は60.2[%]、第2上層導電層UCL_2の酸素濃度は58.3[%]である。図19に示すように、第1上層導電層UCL_1のシート抵抗は500-600[Ω/□]、第2上層導電層UCL_2のシート抵抗は800-900[Ω/□]である。このように、第1上層導電層UCL_1の酸素濃度(すなわち酸素含有量)は、第2上層導電層UCL_2の酸素濃度より高くなっている。また、第2上層導電層UCL_2の比抵抗は、第1上層導電層UCL_1の比抵抗より高くなっている。
【0068】
図20は、実施の形態1の効果を説明する図である。図20には、SiN(絶縁層IL)の膜厚に応じて、所望の効果が得られたかどうかが一覧として示されている。なお、図20では、第2上層導電層UCL_2の酸素含有量が第1上層導電層UCL_1の酸素含有量と同じ場合の結果についても比較対象として示されている。
【0069】
図20に示すように、SiNの膜厚が200[nm]の場合、第2上層導電層UCL_2の酸素含有量が第1上層導電層UCL_1の酸素含有量より少ない場合、および第2上層導電層UCL_2の酸素含有量が第1上層導電層UCL_1の酸素含有量と同じ場合の双方において、発光面積は想定した通りであり、従来の構成の正面輝度に対して本開示の構成の正面輝度は1.15倍となる。このように正面輝度が増加している理由は、絶縁層ILの膜厚を薄くし、絶縁層ILに入射する光を抑えることで、光取出し効率が向上しているからである。
【0070】
図28は、従来の有機EL素子を含む画素付近の構成の一例を模式的に示す断面図である。なお、図28では、図5等と同様に、アノード電極ANに電流を供給するための構成は省略されている。図28に示すように、従来の構成では、アノード電極ANは、バンク層BNKの下層に形成され、開口部710の開口部710の底部714から露出している。すなわち、アノード電極ANは、バンク層BNK上および開口部710の傾斜部712には形成されていない。有機層OELは、バンク層BNK上および開口部710に形成されている。有機層OELで放射された光の一部は、バンク層BNK内に入射する。このため、従来の構成は、本開示の構成より光取出し効率が低く、正面輝度が低い。
【0071】
SiNの膜厚が100[nm]の場合、第2上層導電層UCL_2の酸素含有量が第1上層導電層UCL_1の酸素含有量より少ない場合、および第2上層導電層UCL_2の酸素含有量が第1上層導電層UCL_1の酸素含有量と同じ場合の双方において、発光面積は想定した通りであり、従来の構成の正面輝度に対して本開示の構成の正面輝度は1.17倍となる。
【0072】
SiNの膜厚が50[nm]の場合、第2上層導電層UCL_2の酸素含有量が第1上層導電層UCL_1の酸素含有量より少ない場合には、発光面積は想定した通りであった。また、従来の構成の正面輝度に対して本開示の構成の正面輝度は1.19倍となる。このように、第2上層導電層UCL_2の酸素含有量が第1上層導電層UCL_1の酸素含有量より少ない場合、発光面積は想定した通りであったことが確認された。また、SiNの膜厚が薄くなるにつれて、正面輝度が増加し、光取り出し効率が向上することが確認された。
【0073】
これに対し、SiNの膜厚が50[nm]であり、第2上層導電層UCL_2の酸素含有量が第1上層導電層UCL_1の酸素含有量と同じ場合には、発光面積は想定したより広くなっていた。これは、SiN内にリーク電流が発生し、SiN上の有機層OELが発光したためにこのような状況が発生したものである。なお、この場合、他の構造と発光領域の面積が異なるため正面輝度の比較を行っていない。
【0074】
(実施の形態2)
次に、実施の形態2について説明する。本実施の形態では、有機EL素子のその他の形態について説明する。図21図22は、有機EL素子のその他の形態を例示する断面図である。なお、図21図22では、図5等と同様に、平坦化層PLN、および平坦化層PLNより上層の構成のみが示されており、アノード電極ANに電流を供給するための構成は省略されている。
【0075】
図21では、絶縁層ILがバンク層BNKの上面から開口部710の傾斜部712まで形成された例が示されている。図22では、絶縁層ILがバンク層BNKの上面から開口部710の底部714にわたって、すなわち平坦化層PLN上のアノード電極ANを覆う領域まで形成された例が示されている。図21および図22の構成においても、実施の形態1における各種効果が得られる。
【0076】
図23は、図22の構成による更なる効果を説明する図である。アノード電極ANの上層導電層UCLの膜厚は非常に薄い(例えば5nm-30nm)。このため、成膜後の熱処理により上層導電層UCLが伸縮することで、傾斜部712と底部714との境界付近の屈曲部で上層導電層UCLに亀裂が生じやすい(図23の上側の図面を参照)。そうすると、この亀裂を介して、外気中の塩素(Cl)や硫黄(S)等の物質と、反射金属層RMLの金属(例えばAg)とが反応し、Agの析出物が生成されてしまう。このような析出物により、アノード電極ANとカソード電極CAとの間でのショート、アノード電極ANやカソード電極CAの断線が発生するおそれがある。
【0077】
そこで、図22のように、絶縁層ILがバンク層BNKの上面から開口部710の底部714にわたって形成された構成とすることで、傾斜部712と底部714との境界付近の屈曲部の上層導電層UCLを絶縁層ILで保護することができる(図23の下側の図面を参照)。これにより、反射金属層RMLにおいて析出物が生成されることが抑制されるので、アノード電極ANとカソード電極CAとの間でのショート、アノード電極ANやカソード電極CAの断線の発生を防ぐことができる。
【0078】
(実施の形態3)
次に、実施の形態3について説明する。本実施の形態では絶縁層ILとして、例えば、フッ素を含むポリマーなどの酸化されにくい有機膜が用いられた場合の製造工程について説明する。図24は、実施の形態3に係る有機EL素子の製造方法を例示するフロー図である。図25は、図24に対応する有機EL素子の製造工程を説明する図である。図25では、図14等と同様に、平坦化層PLN、および平坦化層PLNより上層の構成のみが示されており、アノード電極ANに電流を供給するための構成は省略されている。
【0079】
図24に示すように、本実施の形態における有機EL素子の製造工程にはステップS310-S360が含まれる。ステップS310では、図13のステップS10と同様に、アノード電極ANが形成される。
【0080】
ステップS320では、バンク層BNKおよび開口部710を覆うように酸化されにくい有機膜が塗布される。なお、塗布以外の方法で有機膜が形成されてもよい。ステップS330では、酸化されにくい有機膜のパターニングが行われる。このパターニングは、露光および現像によって行われてもよいし、もしくは他の方法を用いて行われても良い。これにより、酸化されにくい有機膜で構成された絶縁層ILが形成される。
【0081】
ステップS340では、図13のステップ60と同様に、Oプラズマ処理が行われる。Oプラズマ処理の条件は、例えば、O流量が300[sccm]、圧力が30[Pa]、プラズマ放電パワーが0.4[W/cm2]、処理時間が150[sec]である。
【0082】
ステップS350では、図13のステップ70と同様に、有機層OELが形成される。そして、ステップS360では、図13のステップ80と同様に、カソード電極CAが形成される。
【0083】
このように、絶縁層ILとして酸化されにくい有機膜が用いられた場合でも、ステップS340のOプラズマ処理において、絶縁層ILと接する第2上層導電層UCL_2の酸素含有量は増加しない。その結果、第2上層導電層UCL_2の酸素含有量は、第1上層導電層UCL_1の酸素含有量より少なくなる。また、これにより、第2上層導電層UCL_2の比抵抗は、第1上層導電層UCL_1の比抵抗より高くなる。
【0084】
したがって、絶縁層ILとして酸化されにくい有機膜が用いられた場合でも、実施の形態1における各種効果が得られる。また、絶縁層ILが実施の形態2と同様の構成を備えてもよい。これにより、絶縁層ILとして酸化されにくい有機膜が用いられた場合でも、実施の形態2と同様の効果が得られる。
【0085】
(実施の形態4)
次に実施例をもとに実施の形態4について説明をする。図27Aは、絶縁層ILに形成された複数の孔860のパターンを示す上面図である。図27Bは、図27AにおけるB-B切断線での断面構造を示す断面図である。図27において、複数の孔のうち一つ孔が符号860で指示され、また、一つの孔860から露出したバンク層の部分が、例として、符号BNKで指示されている。
【0086】
図27A及び図27Bに示すように、絶縁層ILにバンク層BNKに吸着した水分やバンク層BNKから発生するガスが透過できるようにエッチングにより適度な孔860を形成しても良い。この孔860として、例えば複数の20μm角程度のパターンが選択される。孔860の形状は矩形に限定されず任意である。
【0087】
この絶縁層ILに孔860を形成する場合は、絶縁層ILの成膜直後に、レジストの形成、レジストのパターニング、ドライエッチング、レジストの剥離をそれぞれ行う。これにより、前述のように絶縁層ILとバンク層BNKの間に水分やガスが溜まることを防ぎ、絶縁層ILがバンク層BNKから剥離することを抑制することができる。なお、絶縁層ILの孔の形成は、ステップ20のベーク処理と組み合わせて実行してもよい。
【0088】
以上、本開示の実施形態を説明したが、本開示が上記の実施形態に限定されるものではない。当業者であれば、上記の実施形態の各要素を、本開示の範囲において容易に変更、追加、変換することが可能である。ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。
【符号の説明】
【0089】
10…有機EL表示装置、100…TFT基板、114…カソード電極形成領域、125…表示領域、131…走査回路、134…ドライバIC、200…封止基板、500…画素回路、710…開口部、712…傾斜部、714…底部、DEV…有機EL素子、AN…アノード、UCL…上層導電層、UCL_1…第1上層導電層、UCL_2…第2上層導電層、RML…反射金属層、LCL…下層導電層、OEL…有機層、CA…カソード、IL…絶縁層、BNK…バンク層、PNL…平坦化層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27A
図27B
図28