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特開2024-39593銅/セラミックス接合体、および、絶縁回路基板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039593
(43)【公開日】2024-03-22
(54)【発明の名称】銅/セラミックス接合体、および、絶縁回路基板
(51)【国際特許分類】
   H05K 3/38 20060101AFI20240314BHJP
   C04B 37/02 20060101ALI20240314BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20240314BHJP
   H01L 23/13 20060101ALI20240314BHJP
【FI】
H05K3/38 D
C04B37/02 B
H05K1/03 630J
H01L23/12 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089701
(22)【出願日】2023-05-31
(31)【優先権主張番号】P 2022143902
(32)【優先日】2022-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】寺▲崎▼ 伸幸
【テーマコード(参考)】
4G026
5E343
【Fターム(参考)】
4G026BA03
4G026BA16
4G026BA17
4G026BB22
4G026BE01
4G026BF16
4G026BF17
4G026BF24
4G026BF52
4G026BG02
4G026BH07
5E343AA02
5E343AA22
5E343BB24
5E343BB25
5E343BB33
5E343BB35
5E343BB38
5E343BB39
5E343BB44
(57)【要約】
【課題】厳しい冷熱サイクルを負荷した場合であっても、セラミックス部材と銅部材との接合性に優れ、冷熱サイクル信頼性に優れた銅/セラミックス接合体を提供する。
【解決手段】銅又は銅合金からなる銅部材12と、セラミックス部材11とが接合されてなる銅/セラミックス接合体であって、セラミックス部材11のうち銅部材12側の領域には、Ti,Zr,Nb,Hfから選択される一種又は二種以上の活性金属の化合物を含む活性金属化合物層31が形成されており、活性金属化合物層31のうち銅部材12側の界面には、V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Mo,Ta,Wから選択される一種又は二種以上の遷移金属を含む遷移金属層34が形成されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅又は銅合金からなる銅部材と、セラミックス部材とが接合されてなる銅/セラミックス接合体であって、
前記セラミックス部材のうち前記銅部材側の領域には、Ti,Zr,Nb,Hfから選択される一種又は二種以上の活性金属の化合物を含む活性金属化合物層が形成されており、
前記活性金属化合物層のうち前記銅部材側の界面には、V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Mo,Ta,Wから選択される一種又は二種以上の遷移金属を含む遷移金属層が形成されていることを特徴とする銅/セラミックス接合体。
【請求項2】
前記遷移金属層は、V,Cr,Mn,Fe,Co,Niから選択される一種又は二種以上の遷移金属を含むことを特徴とする請求項1に記載の銅/セラミックス接合体。
【請求項3】
前記銅部材のうち前記セラミックス部材側の領域には、Cu相とAg相とを含むCu-Ag層が形成されており、
前記Cu相およびAg相と前記活性金属化合物層との間に、前記遷移金属層が形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の銅/セラミックス接合体。
【請求項4】
セラミックス基板の表面に、銅又は銅合金からなる銅板が接合されてなる絶縁回路基板であって、
前記セラミックス基板のうち前記銅板側の領域には、Ti,Zr,Nb,Hfから選択される一種又は二種以上の活性金属の化合物を含む活性金属化合物層が形成されており、
前記活性金属化合物層のうち前記銅板側の界面には、V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Mo,Ta,Wから選択される一種又は二種以上の遷移金属を含む遷移金属層が形成されていることを特徴とする絶縁回路基板。
【請求項5】
前記遷移金属層は、V,Cr,Mn,Fe,Co,Niから選択される一種又は二種以上の遷移金属を含むことを特徴とする請求項4に記載の絶縁回路基板。
【請求項6】
前記銅板のうち前記セラミックス基板側の領域には、Cu相とAg相とを含むCu-Ag層が形成されており、
前記Cu相およびAg相と前記活性金属化合物層との間に、前記遷移金属層が形成されていることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の絶縁回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、銅又は銅合金からなる銅部材と、セラミックス部材とが接合されてなる銅/セラミックス接合体、および、セラミックス基板の表面に、銅又は銅合金からなる銅板が接合されてなる絶縁回路基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パワーモジュール、LEDモジュールおよび熱電モジュールにおいては、絶縁層の一方の面に導電材料からなる回路層を形成した絶縁回路基板に、パワー半導体素子、LED素子および熱電素子が接合された構造とされている。
例えば、風力発電、電気自動車、ハイブリッド自動車等を制御するために用いられる大電力制御用のパワー半導体素子は、動作時の発熱量が多いことから、これを搭載する基板としては、セラミックス基板と、このセラミックス基板の一方の面に導電性の優れた金属板を接合して形成した回路層と、セラミックス基板の他方の面に金属板を接合して形成した放熱用の金属層と、を備えた絶縁回路基板が、従来から広く用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、セラミックス基板の一方の面および他方の面に、銅板を接合することにより回路層および金属層を形成した絶縁回路基板が提案されている。この特許文献1においては、セラミックス基板の一方の面および他方の面に、Ag-Cu-Ti系ろう材を介在させて銅板を配置し、加熱処理を行うことにより銅板が接合されている(いわゆる活性金属ろう付け法)。この活性金属ろう付け法では、活性金属であるTiが含有されたろう材を用いているため、溶融したろう材とセラミックス基板との濡れ性が向上し、セラミックス基板と銅板とが良好に接合されることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3211856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、最近では、絶縁回路基板に搭載される半導体素子の発熱温度が高くなる傾向にある。また、絶縁回路基板に半導体素子が搭載された半導体デバイスにおいては、高速スイッチングが可能な高温動作デバイスとして使用される。
よって、絶縁回路基板には、短周期で高温条件の熱応力が負荷されることになり、従来にも増して、高い冷熱サイクル信頼性が求められている。
【0006】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、厳しい冷熱サイクルを負荷した場合であっても、セラミックス部材と銅部材との接合性に優れ、冷熱サイクル信頼性に優れた銅/セラミックス接合体、および、この銅/セラミックス接合体からなる絶縁回路基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述の課題を解決するために、本発明の態様1の銅/セラミックス接合体は、銅又は銅合金からなる銅部材と、セラミックス部材とが接合されてなる銅/セラミックス接合体であって、前記セラミックス部材のうち前記銅部材側の領域には、Ti,Zr,Nb,Hfから選択される一種又は二種以上の活性金属の化合物を含む活性金属化合物層が形成されており、前記活性金属化合物層のうち前記銅部材側の界面には、V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Mo,Ta,Wから選択される一種又は二種以上の遷移金属を含む遷移金属層が形成されていることを特徴としている。
【0008】
本発明の態様1の銅/セラミックス接合体においては、前記セラミックス部材のうち前記銅部材側の領域に活性金属化合物層が形成され、前記活性金属化合物層のうち前記銅部材側の界面に遷移金属層が形成されている。ここで、活性金属化合物層と遷移金属層は、整合性が高く、かつ、遷移金属層は活性金属化合物層と比べて銅との整合性が高いことから、セラミックス部材のうち前記銅部材側の領域に形成された活性金属化合物層と銅部材との間に遷移金属層が存在することにより、セラミックス部材と銅部材との接合信頼性が大幅に向上することになる。
よって、本発明の態様1の銅/セラミックス接合体においては、短周期で高温条件の冷熱サイクルが負荷された場合であっても、セラミックス部材と銅部材とが剥離せず、冷熱サイクル信頼性に特に優れている。
【0009】
本発明の態様2の銅/セラミックス接合体は、態様1の銅/セラミックス接合体において、前記遷移金属層は、V,Cr,Mn,Fe,Co,Niから選択される一種又は二種以上の遷移金属を含むことを特徴としている。
本発明の態様2の銅/セラミックス接合体によれば、前記遷移金属層は、V,Cr,Mn,Fe,Co,Niから選択される一種又は二種以上の遷移金属を含んでいるので、セラミックス部材と銅部材との接合信頼性が確実に向上することになる。
【0010】
本発明の態様3の銅/セラミックス接合体は、態様1または態様2の銅/セラミックス接合体において、前記銅部材のうち前記セラミックス部材側の領域には、Cu相とAg相とを含むCu-Ag層が形成されており、前記Cu相およびAg相と前記活性金属化合物層との間に、前記遷移金属層が形成されていることを特徴としている。
本発明の態様3の銅/セラミックス接合体によれば、遷移金属層とCu相およびAg相との整合性が高く、前記銅部材のうち前記セラミックス部材側の領域にCu相とAg相とを含むCu-Ag層が形成されている場合でも、セラミックス部材と銅部材との接合信頼性が大幅に向上することになる。
【0011】
本発明の態様4の絶縁回路基板は、セラミックス基板の表面に、銅又は銅合金からなる銅板が接合されてなる絶縁回路基板であって、前記セラミックス基板のうち前記銅板側の領域には、Ti,Zr,Nb,Hfから選択される一種又は二種以上の活性金属の化合物を含む活性金属化合物層が形成されており、前記活性金属化合物層のうち前記銅板側の界面には、V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Mo,Ta,Wから選択される一種又は二種以上の遷移金属を含む遷移金属層が形成されていることを特徴としている。
【0012】
本発明の態様4の絶縁回路基板においては、前記セラミックス基板のうち前記銅板側の領域に活性金属化合物層が形成され、前記活性金属化合物層のうち前記板側の界面に遷移金属層が形成されているので、セラミックス基板と銅板との接合信頼性が大幅に向上することになる。
よって、本発明の態様4の絶縁回路基板においては、短周期で高温条件の冷熱サイクルが負荷された場合であっても、セラミックス基板と銅板とが剥離せず、冷熱サイクル信頼性に特に優れている。
【0013】
本発明の態様5の絶縁回路基板は、態様4の絶縁回路基板において、前記遷移金属層は、V,Cr,Mn,Fe,Co,Niから選択される一種又は二種以上の遷移金属を含むことを特徴としている。
本発明の態様5の絶縁回路基板によれば、前記遷移金属層は、V,Cr,Mn,Fe,Co,Niから選択される一種又は二種以上の遷移金属を含んでいるので、セラミックス基板と銅板との接合信頼性が確実に向上することになる。
【0014】
本発明の態様6の絶縁回路基板は、態様4または態様5の絶縁回路基板において、前記銅板のうち前記セラミックス基板側の領域には、Cu相とAg相とを含むCu-Ag層が形成されており、前記Cu相およびAg相と前記活性金属化合物層との間に、前記遷移金属層が形成されていることを特徴としている。
本発明の態様6の絶縁回路基板によれば、遷移金属層とCu相およびAg相との整合性が高く、前記銅板のうち前記セラミックス基板側の領域にCu相とAg相とを含むCu-Ag層が形成されている場合でも、セラミックス基板と銅板との接合信頼性が大幅に向上することになる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、厳しい冷熱サイクルを負荷した場合であっても、セラミックス部材と銅部材との接合性に優れ、冷熱サイクル信頼性に優れた銅/セラミックス接合体、および、この銅/セラミックス接合体からなる絶縁回路基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係る絶縁回路基板を用いたパワーモジュールの概略説明図である。
図2】本発明の実施形態に係る絶縁回路基板の回路層および金属層とセラミックス基板との接合界面の拡大説明図である。
図3】本発明の実施形態に係る絶縁回路基板の遷移金属層の拡大説明図である。
図4】本発明の実施形態に係る絶縁回路基板の製造方法のフロー図である。
図5】本発明の実施形態に係る絶縁回路基板の製造方法の概略説明図である。
図6】実施例における表面切削試験の説明図である。
図7】実施例における本発明例1の絶縁回路基板の接合界面の観察写真である。
図8】実施例における本発明例2の絶縁回路基板の接合界面の観察写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の実施形態について添付した図面を参照して説明する。
本実施形態に係る銅/セラミックス接合体は、セラミックスからなるセラミックス部材としてのセラミックス基板11と、銅又は銅合金からなる銅部材としての銅板22(回路層12)および銅板23(金属層13)とが接合されてなる絶縁回路基板10である。図1に、本実施形態である絶縁回路基板10を備えたパワーモジュール1を示す。
【0018】
このパワーモジュール1は、回路層12および金属層13が配設された絶縁回路基板10と、回路層12の一方の面(図1において上面)に接合層2を介して接合された半導体素子3と、金属層13の他方側(図1において下側)に配置されたヒートシンク5と、を備えている。
【0019】
半導体素子3は、Si等の半導体材料で構成されている。この半導体素子3と回路層12は、接合層2を介して接合されている。
接合層2は、例えばSn-Ag系、Sn-In系、若しくはSn-Ag-Cu系のはんだ材で構成されている。
【0020】
ヒートシンク5は、前述の絶縁回路基板10からの熱を放散するためのものである。このヒートシンク5は、銅又は銅合金で構成されており、本実施形態ではりん脱酸銅で構成されている。このヒートシンク5には、冷却用の流体が流れるための流路が設けられている。
なお、本実施形態においては、ヒートシンク5と金属層13とが、はんだ材からなるはんだ層7によって接合されている。このはんだ層7は、例えばSn-Ag系、Sn-In系、若しくはSn-Ag-Cu系のはんだ材で構成されている。
【0021】
そして、本実施形態である絶縁回路基板10は、図1に示すように、セラミックス基板11と、このセラミックス基板11の一方の面(図1において上面)に配設された回路層12と、セラミックス基板11の他方の面(図1において下面)に配設された金属層13と、を備えている。
【0022】
セラミックス基板11は、絶縁性および放熱性に優れた窒化ケイ素(Si)、窒化アルミニウム(AlN)、アルミナ(Al)等のセラミックスで構成されている。本実施形態では、セラミックス基板11は、特に放熱性の優れた窒化アルミニウム(AlN)で構成されている。また、セラミックス基板11の厚さは、例えば、0.2mm以上1.5mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.635mmに設定されている。
【0023】
回路層12は、図5に示すように、セラミックス基板11の一方の面(図5において上面)に、銅又は銅合金からなる銅板22が接合されることにより形成されている。
本実施形態においては、回路層12は、無酸素銅の圧延板がセラミックス基板11に接合されることで形成されている。
なお、回路層12となる銅板22の厚さは0.1mm以上2.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.6mmに設定されている。
【0024】
金属層13は、図5に示すように、セラミックス基板11の他方の面(図5において下面)に、銅又は銅合金からなる銅板23が接合されることにより形成されている。
本実施形態においては、金属層13は、無酸素銅の圧延板がセラミックス基板11に接合されることで形成されている。
なお、金属層13となる銅板23の厚さは0.1mm以上2.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.6mmに設定されている。
【0025】
ここで、図2および図3に、セラミックス基板11と回路層12(金属層13)との接合界面近傍の拡大図を示す。
セラミックス基板11のうち回路層12(金属層13)側の領域には、Ti,Zr,Nb,Hfから選択される一種又は二種以上の活性金属の化合物を含む活性金属化合物層31が形成されている。
【0026】
活性金属化合物層31は、セラミックス基板11と銅板22(銅板23)とを接合する際に用いられる活性金属(Ti,Zr,Nb,Hf)がセラミックス基板11へ拡散し、セラミックス基板11の構成元素と反応して形成されるものであり、セラミックス基板11の一部となる。
活性金属化合物層31は、より具体的には、セラミックス基板が窒化ケイ素(Si)、又は、窒化アルミニウム(AlN)からなる場合には、これらの活性金属の窒化物を含む層となり、セラミックス基板がアルミナ(Al)である場合には、これらの活性金属の酸化物を含む層となる。
そして、活性金属化合物層31は、図2および図3に示すように、複数の活性金属化合物粒子32が集合した組織とされており、これらの活性金属化合物粒子32の間には、銅粒界相33が存在している。
【0027】
なお、本実施形態では、接合する際に用いられる活性金属としてTiを用いており、セラミックス基板11が窒化ケイ素(Si)で構成されているため、活性金属化合物層31は、主に窒化チタン(TiN)で構成される。
また、本実施形態では、活性金属化合物層31は、平均粒径が10nm以上100nm以下の複数の窒化チタン粒子(活性金属化合物粒子32)が集合して形成されたものとされている。
【0028】
そして、活性金属化合物層31のうち回路層12(金属層13)側の界面には、V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Mo,Ta,Wから選択される一種又は二種以上の遷移金属を含む遷移金属層34が形成されている。ここで、遷移金属層34は、V,Cr,Mn,Fe,Co,Niから選択される一種又は二種以上の遷移金属を含むことが好ましい。
なお、遷移金属層34は、活性金属化合物層31のうち回路層12(金属層13)側の界面のみでなく、活性金属化合物粒子32と銅粒界相33との界面に形成されていてもよい。すなわち、遷移金属層34は、活性金属化合物層31を構成する活性金属化合物粒子32の外周面に形成されていてもよい。
【0029】
また、本実施形態においては、回路層12(金属層13)のうちセラミックス基板11側の領域には、Cu相37とAg相38とを含むCu-Ag層36が形成されている。
このCu-Ag層36は、セラミックス基板11と銅板22(銅板23)とを接合する際に用いられる接合材に含まれるAgが、銅板22(銅板23)側に拡散することで形成されるものであり、回路層12(金属層13)の一部となる。
【0030】
ここで、Cu-Ag層36は、図2(b)に示すように、Cu相37とAg相38とを含んでいるが、遷移金属層34は、Cu相37と活性金属化合物層31(活性金属化合物粒子32)との間、および、Ag相38と活性金属化合物層31(活性金属化合物粒子32)との間に形成されている。
なお、複数の活性金属化合物粒子32の間に形成された銅粒界相33がAgを含んでいてもよい。この場合、銅粒界相33のCuと活性金属化合物層31(活性金属化合物粒子32)との間、および、銅粒界相33のAgと活性金属化合物層31(活性金属化合物粒子32)との間に、遷移金属層34が形成されていてもよい。
【0031】
ここで、本実施形態においては、活性金属化合物層31の厚さが0.05μm以上1.2μm以下の範囲内とされていることが好ましい。
また、本実施形態においては、Cu-Ag層36の厚さが0μm以上15μm以下の範囲内とされていることが好ましい。
さらに、本実施形態においては、遷移金属層34の厚さが1nm以上15nm以下の範囲内とされていることが好ましい。
【0032】
以下に、本実施形態に係る絶縁回路基板10の製造方法について、図4および図5を参照して説明する。
【0033】
(接合材配設工程S01)
まず、セラミックス基板11を準備し、図5に示すように、回路層12となる銅板22とセラミックス基板11との間、および、金属層13となる銅板23とセラミックス基板11との間に、接合材25として、Ag、Cu、活性金属(Ti,Zr,Nb,Hf)、遷移金属(V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Mo,Ta,W)を配設する。
【0034】
ここで、接合材配設工程S01では、Ag、Cu、活性金属、遷移金属の配設量を以下のように設定することが好ましい。なお、セラミックス基板11と銅板22(銅板23)とを接合可能であれば、AgやCuを配設しなくてもよい。
Ag:0μmol/cm以上97.3μmol/cm以下
Cu:0μmol/cm以上77.8μmol/cm以下
活性金属:0.8μmol/cm以上18.8μmol/cm以下
遷移金属:1.5μmol/cm以上15.0μmol/cm以下
【0035】
(積層工程S02)
次に、銅板22とセラミックス基板11を、接合材25(Ag、Cu、活性金属、遷移金属)を介して積層するとともに、セラミックス基板11と銅板23を、接合材25(Ag、Cu、活性金属、遷移金属)を介して積層する。
【0036】
(接合工程S03)
次に、積層された銅板22、接合材25(Ag、Cu、活性金属、遷移金属)、セラミックス基板11、接合材25(Ag、Cu、活性金属、遷移金属)、銅板23を、積層方向に加圧するとともに、真空炉内に装入して加熱し、銅板22とセラミックス基板11と銅板23を接合する。
このとき、接合材25の各元素は、銅板22,23側、あるいは、セラミックス基板11側に拡散し、Cu-Ag層36、活性金属化合物層31が形成されることから、接合材25の各元素が十分に拡散した場合は、セラミックス基板11と回路層12(金属層13)との間に接合層は存在しない。
【0037】
ここで、Agを配設する場合、接合工程S03における加熱温度は、810℃以上900℃以下の範囲内とすることが好ましく、800℃から加熱温度までの昇温工程および加熱温度での保持工程における温度積分値の合計は、20℃・h以上5000℃・h以下の範囲内とすることが好ましい。
また、Agを配設しない場合、接合工程S03における加熱温度は、900℃以上1050℃以下の範囲内とすることが好ましく、890℃から加熱温度までの昇温工程および加熱温度での保持工程における温度積分値の合計は、20℃・h以上5000℃・h以下の範囲内とすることが好ましい。
なお、接合工程S03における加圧荷重Pは、0.098MPa以上1.47MPa以下の範囲内とすることが好ましい。
【0038】
以上のように、接合材配設工程S01と、積層工程S02と、接合工程S03とによって、本実施形態である絶縁回路基板10が製造されることになる。
【0039】
(ヒートシンク接合工程S04)
次に、絶縁回路基板10の金属層13の他方の面側にヒートシンク5を接合する。
絶縁回路基板10とヒートシンク5とを、はんだ材を介して積層して加熱炉に装入し、はんだ層7を介して絶縁回路基板10とヒートシンク5とをはんだ接合する。
【0040】
(半導体素子接合工程S05)
次に、絶縁回路基板10の回路層12の一方の面に、半導体素子3をはんだ付けにより接合する。
前述の工程により、図1に示すパワーモジュール1が製出される。
【0041】
以上のような構成とされた本実施形態の絶縁回路基板10(銅/セラミックス接合体)によれば、セラミックス基板11の回路層12(金属層13)側の領域に活性金属化合物層31が形成されており、活性金属化合物層31のうち回路層12(金属層13)の界面に遷移金属層34が形成されているので、セラミックス基板11と回路層12(金属層13)との接合信頼性が大幅に向上することになる。
【0042】
また、本実施形態の絶縁回路基板10において、回路層12(金属層13)のうちセラミックス基板11側の領域には、Cu相37とAg相38とを含むCu-Ag層36が形成されており、Cu相37およびAg相38と活性金属化合物層31との間に、遷移金属層34が形成されている場合には、セラミックス基板11と回路層12(金属層13)との接合信頼性が大幅に向上することになる。
【0043】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、絶縁回路基板に半導体素子を搭載してパワーモジュールを構成するものとして説明したが、これに限定されることはない。例えば、絶縁回路基板の回路層にLED素子を搭載してLEDモジュールを構成してもよいし、絶縁回路基板の回路層に熱電素子を搭載して熱電モジュールを構成してもよい。
【0044】
また、本実施形態の絶縁回路基板では、セラミックス基板として、窒化アルミニウム(AlN)で構成されたものを例に挙げて説明したが、これに限定されることはなく、アルミナ(Al)、窒化ケイ素(Si)等の他のセラミックス基板を用いたものであってもよい。
【0045】
さらに、本実施形態においては、回路層を、無酸素銅の圧延板をセラミックス基板に接合することにより形成するものとして説明したが、これに限定されることはなく、銅板を打ち抜いた銅片を回路パターン状に配置された状態でセラミックス基板に接合されることによって回路層を形成してもよい。
【実施例0046】
以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
【0047】
(実施例1)
まず、表1記載のセラミックス基板(40mm×40mm)を準備した。なお、厚さは、AlNおよびAlは0.635mm、Siは0.32mmとした。
また、回路層および金属層となる銅板として、無酸素銅からなり、厚さ0.25mmの37mm×37mmの銅板を準備した。
そして、接合材として表1に示す各元素を、セラミックス基板と銅板との間に配設し、銅板/セラミックス基板/銅板の積層体を得た。
次に、表2に示す条件で銅板とセラミックス基板とを接合し、本発明例1~16、比較例1~3の絶縁回路基板(銅/セラミックス接合体)を得た。
得られた絶縁回路基板(銅/セラミックス接合体)について、接合界面の観察、および、表面切削試験を実施した。
【0048】
なお、接合界面における各層の観察を以下のように実施した。本発明例1の観察結果を図7に、本発明例2の観察結果を図8に示す。
【0049】
(活性金属化合物層の観察)
得られた絶縁回路基板(銅/セラミックス接合体)に対して観察試料を採取し、銅板とセラミックス基板との接合界面の断面を、走査型電子顕微鏡(Carl Zeiss AG社製GeminiSEM 500)を用いて加速電圧7kV、倍率3万倍で、高さ3μm×幅4μmの範囲を観察し、活性金属とNまたはOが共存する領域が存在し、その領域において活性金属、NおよびOの合計を100原子%として、活性金属の濃度が20原子%以上の領域を活性金属化合物層と判断し、当該領域の面積を測定した。なお、活性金属化合物層はセラミックス部材の一部である。測定された面積を測定視野幅で割ることで活性金属化合物層の厚さを算出した。5視野で測定し、その平均値を表2に示した。
【0050】
(Cu-Ag層の観察)
得られた絶縁回路基板(銅/セラミックス接合体)に対して観察試料を採取し、銅板とセラミックス基板との接合界面の断面を、EPMA装置(日本電子株式会社製JXA-8530F)を用いて加速電圧15kVで、銅部材と活性金属化合物層の界面から銅部材の方向へ長さ100μmの範囲をライン分析し、活性金属、AgおよびCuの合計を100原子%として、Agの濃度が9原子%以上の領域をCu-Ag層と判断し、測定された長さをCu-Ag層の厚さとした。なお、Cu-Ag層は銅部材の一部である。5視野で測定し、その平均値を表2に示した。
なお、Cu-Ag層におけるCu相は銅板のCuと一体化しているため組成上は区別できない。
【0051】
(遷移金属層の観察)
得られた絶縁回路基板(銅/セラミックス接合体)に対して観察試料を採取し、銅板とセラミックス基板との接合界面の断面を、走査透過型電子顕微鏡(Thermo Fisher Scientific社製Titan G2 ChemiSTEM)を用いて加速電圧200kV、倍率64万倍で、高さ50nm×幅20nmの範囲を観察し、Cu、Ag、セラミックス構成元素、活性金属および遷移金属の合計を100原子%として、活性金属化合物層(粒子)中の遷移金属濃度より1原子%以上高い領域を遷移金属層と判断し、当該領域の面積を測定した。測定された面積を測定視野幅で割ることで遷移金属層の厚さを算出した。5視野で測定し、その平均値を表2に示した。ここでセラミックス構成元素とはAl、Si、N、Oである。
【0052】
本発明例1の観察結果を図7に、本発明例2の観察結果を図8に示す。
【0053】
(表面切削試験)
得られた絶縁回路基板(銅/セラミックス接合体)に対して、表面切削試験を行い、銅板とセラミックス基板との接合強度を評価した。
表面切削試験においては、まず、銅板を厚さ30μmまで切削した。
そして、図6に示すように、刃幅0.3mmの切削刃を用いて、水平切削速度2μm/秒、垂直切削速度0.1μm/秒で銅板を切削し((1)切削段階)、銅板とセラミックス基板との界面に達した時点で切削刃を水平方向のみに移動し((2)剥離段階)、剥離段階で水平方向の荷重が一定になった時点の水平荷重を測定した。測定された荷重を刃幅で割ることで接合界面の強度を算出した。評価結果を表2に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
セラミックス基板をAlNで構成した本発明例1~7および比較例1を比較すると、遷移金属層が形成されている本発明例1~7においては、遷移金属層が形成されていない比較例1に比べて接合界面の強度が向上していることが確認される。
セラミックス基板をSiで構成した本発明例8~14および比較例2を比較すると、遷移金属層が形成されている本発明例8~14においては、遷移金属層が形成されていない比較例2に比べて接合界面の強度が向上していることが確認される。
セラミックス基板をAlで構成した本発明例15,16および比較例3を比較すると、遷移金属層が形成されている本発明例15,16においては、遷移金属層が形成されていない比較例3に比べて接合界面の強度が向上していることが確認される。
【0057】
ここで、本発明例1においては、図7に示すように、Cu相とTiN(活性金属化合物層)との間に、Fe相(遷移金属層)が形成されていることが観察される。
また、本発明例2においては、図8に示すように、Ag相とTiN(活性金属化合物層)との間に、Fe相(遷移金属層)が形成されていることが観察される。また、図8においては、Ag相とFe相(遷移金属層)の間にCu相が確認される。
【0058】
(実施例2)
上述した実施例1と同様に、表3記載のセラミックス基板(40mm×40mm)を準備した。なお、厚さは、AlNおよびAlは0.635mm、Siは0.32mmとした。
また、回路層および金属層となる銅板として、無酸素銅からなり、厚さ0.25mmの37mm×37mmの銅板を準備した。
そして、接合材として表3に示す各元素を、セラミックス基板と銅板との間に配設し、銅板/セラミックス基板/銅板の積層体を得た。
次に、表4に示す条件で銅板とセラミックス基板とを接合し、本発明例21~30、比較例21~23の絶縁回路基板(銅/セラミックス接合体)を得た。
【0059】
得られた絶縁回路基板(銅/セラミックス接合体)について、実施例1と同様に接合界面の観察を行った。評価結果を表4に示す。
また、得られた絶縁回路基板(銅/セラミックス接合体)に対して、液槽にて-40℃×5min←→150℃×5minの条件で冷熱サイクルを1000サイクルまで行った。その後、実施例1と同様に、表面切削試験を実施した。評価結果を表4に示す。
【0060】
【表3】
【0061】
【表4】
【0062】
セラミックス基板をAlNで構成した本発明例21~24および比較例21を比較すると、遷移金属層が形成されている本発明例21~24においては、遷移金属層が形成されていない比較例21に比べて、冷熱サイクル負荷後の接合界面の強度が向上していることが確認される。
【0063】
セラミックス基板をSiで構成した本発明例25~28および比較例22を比較すると、遷移金属層が形成されている本発明例25~28においては、遷移金属層が形成されていない比較例22に比べて、冷熱サイクル負荷後の接合界面の強度が向上していることが確認される。
【0064】
セラミックス基板をAlで構成した本発明例29,30および比較例23を比較すると、遷移金属層が形成されている本発明例29,30においては、遷移金属層が形成されていない比較例23に比べて冷熱サイクル負荷後の接合界面の強度が向上していることが確認される。
【0065】
以上の確認実験の結果から、本発明例によれば、厳しい冷熱サイクルを負荷した場合であっても、セラミックス部材と銅部材との接合性に優れ、冷熱サイクル信頼性に優れた絶縁回路基板(銅/セラミックス接合体)を提供可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0066】
10 絶縁回路基板(銅/セラミックス接合体)
11 セラミックス基板(セラミックス部材)
12 回路層(銅部材)
13 金属層(銅部材)
31 活性金属化合物層
34 遷移金属層
36 Cu-Ag層
37 Cu相
38 Ag相
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8