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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039595
(43)【公開日】2024-03-22
(54)【発明の名称】エレクトロスラグ溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 25/00 20060101AFI20240314BHJP
   B23K 37/06 20060101ALI20240314BHJP
【FI】
B23K25/00 J
B23K25/00 R
B23K37/06 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023092808
(22)【出願日】2023-06-06
(31)【優先権主張番号】P 2022143399
(32)【優先日】2022-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105968
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】田近 久和
(72)【発明者】
【氏名】荒木田 椋太
(57)【要約】      (修正有)
【課題】溶接施工時の使用部材数と製作コストを低減し、未溶着部長さを減じるエレクトロスラグ溶接方法を提供する。
【解決手段】エレクトロスラグ溶接方法における、スキンプレート、ダイアフラムおよびダイアフラムを挟み込むための一対の切欠き部を有する当金によって形成される開先部の断面形状が、ダイアフラム側からスキンプレート側に向かって、(イ)、(ロ)および(ハ)の形状をこの順に重ねた多角形である。(イ)ダイアフラムの板厚WDを長辺とし、開先部のルートギャップRGから切欠き部の長さbとフラット部の長さcを除いた長さ(RG-b-c)を短辺とする第一の長方形、(ロ)ダイアフラムの板厚WDを上底とし、そのWDに一対の当金の切欠き部の深さaの和(2a)を加えた長さ(WD+2a=WS)を下底とし、切欠き部の長さbを高さとする台形、(ハ)台形の下底の長さWSを長辺とし、フラット部の長さcを短辺とする第二の長方形。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スキンプレートとダイアフラムとをT字型構造に組み合わせてエレクトロスラグ溶接する方法において、前記ダイアフラムを挟み込むための一対の切欠き部を有する当金を用いるものであって、前記切欠き部が、前記スキンプレート側に向かって、長辺方向に角度を有する傾斜部と、前記長辺と平行なフラット部とから構成されていることを特徴とするエレクトロスラグ溶接方法。
【請求項2】
前記スキンプレート、前記ダイアフラムおよび前記ダイアフラムを挟み込むための一対の切欠き部を有する当金によって形成される開先部の断面形状が、前記ダイアフラム側から前記スキンプレート側に向かって、以下の(イ)、(ロ)および(ハ)の形状をこの順に重ねた多角形であることを特徴とする請求項1に記載のエレクトロスラグ溶接方法。
(イ)前記ダイアフラムの板厚(WD)を長辺とし、前記開先部のルートギャップ(RG)から切欠き部の長さ(b)と前記スキンプレートに垂直な切欠き部の直線部であるフラット部の長さ(c)を除いた長さ(RG-b-c)を短辺とする第一の長方形、
(ロ)前記ダイアフラムの板厚(WD)を上底とし、前記ダイアフラムの板厚(WD)に前記一対の当金の切欠き部の深さ(a)の和(2a)を加えた長さ(WD+2a=WS)を下底とし、前記切欠き部の長さ(b)を高さとする台形、
(ハ)前記台形の下底の長さ(WS)を長辺とし、前記フラット部の長さ(c)を短辺とする第二の長方形。
【請求項3】
前記ダイアフラムの板厚(WD)が30mm~80mm、前記台形の下底の長さ(WS)が36mm~98mmであることを特徴とする請求項2に記載のエレクトロスラグ溶接方法。
【請求項4】
前記開先部の断面形状において、前記台形の底角(δ)が45°~80°であることを特徴とする請求項2に記載のエレクトロスラグ溶接方法。
【請求項5】
前記開先部の断面形状において、前記フラット部の長さ(c)が5mm~15mmであることを特徴とする請求項2に記載のエレクトロスラグ溶接方法。
【請求項6】
前記開先部を形成する前記当金の板幅(d)が45mm~80mm、前記当金の板厚(t)が16mm~50mmであることを特徴とする請求項2に記載のエレクトロスラグ溶接方法。
【請求項7】
溶接入熱量が40kJ/mm~100kJ/mmであることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか一項に記載のエレクトロスラグ溶接方法。
【請求項8】
エレクトロスラグ溶接におけるオシレーション移動時間が2.5秒~5.0秒であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか一項に記載のエレクトロスラグ溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロスラグ溶接方法に関し、特に建築用ボックス柱の溶接に好適なエレクトロスラグ溶接用当金を用いて形成するエレクトロスラグ溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建築用のボックス柱では、梁が取り付けられる位置に内ダイアフラムを内蔵させて水平方向の荷重に耐える構造にすることがある。この構造においては、ボックス柱用の鋼製スキンプレートと内蔵されるダイアフラムによりT字型構造が形成される。このT字型構造を形成するための溶接方法としては、溶接効率の観点から立向溶接法であるエレクトロスラグ溶接方法が多用されている。
【0003】
このT字型構造は、建築物等重要なインフラに使われているので、破壊リスクを低減する必要がある。40kJ/mm以上の超大入熱溶接による溶接継手の溶接熱影響部は、脆化しやすく、大地震発生時に地震波によってボックス柱と梁の溶接接合部に上下左右の荷重がかかると、脆化した溶接熱影響部に沿って破断が生じ、ボックス柱が破壊されることになる。
【0004】
上記のような破壊を低減するために、種々の技術が提案されている。
例えば、特許文献1では、T字型開先部の脚部材の両側に、45°未満の角度の切欠き部を設けた当金部材を、切欠き部が対向するように配置することが開示されている。これにより、溶接入熱を増大させずにスキンプレートにおける溶融金属の溶け込み幅を増大させることができ、溶接部の破壊靭性を向上させることが記載されている。
【0005】
特許文献2では、エレクトロスラグ溶接において、角の無い曲率半径を有する曲線で構成される開口部断面を設けることが開示されている。これにより、溶接入熱を減少させ溶融部の溶け込みが少なくなっても、開先の角隅での未溶融部(溶け残り)が生成されることを防止することができるとしている。
【0006】
特許文献3には、溶融金属に接触する部分をセラミックまたはフラックスとし、その外側をスキンプレートや内ダイアフラムと仮付け溶接できるように鋼製とした複合材料の当金であって、そのセラミック部の一部に切欠きを有する当金が開示されている。さらに、溶融金属の流れをスムーズにするために、セラミック部の形状として切欠きを2段にいれた当金などが開示されている。これにより、当金とスキンプレートとの間にノッチ状の空隙が生じたとしても、その進展による破壊を防止できることが記載されている。
【0007】
また、特許文献4では、C含有量が高いスキンプレートを用いてエレクトロスラグ溶接を行う際に、ダイアフラムと当金との間にC含有量が小さく所定の板厚を有する薄鋼板を挟み、かつ互いに当接させて開先を形成して溶接を行うことが開示されている。これにより、溶接金属のC含有量の増加を抑えることができ、溶接金属の高靭性化と、その靭性の安定化(ばらつきの抑制)を両立できることが記載されている。
【0008】
さらに、特許文献5には、当金がセラミックまたはフラックスにより形成され、開先空間の幅がスキンプレートに近づくにつれて拡大する形状で行う溶接方法が開示されている。さらに、そのセラミック製当金がスキンプレートに当接する端面と密閉空間との角部に略円弧状の面取りが設けてあることも開示されている。これにより、溶融金属がなだらかな裾野を形成するため、接合部にノッチを発生しないことから応力が集中せず、割れ発生を防止できることが記載されている。
【0009】
上述した特許文献はいずれも、当金の形状または材質を変更することにより、溶接金属の溶け込みを改善し、溶接割れ発生を防止する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007-61844号公報
【特許文献2】特開2007-167928号公報
【特許文献3】特開2006-192487号公報
【特許文献4】特開2014-193483号公報
【特許文献5】特開2003-112273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、前述した先行技術では、仮に当金により形成される開先部の角部において、溶融金属の溶け込みが充分な状態となるように溶接したとしても、なおそれでも部分的に溶着しない未溶着部が存在する場合があった。従って、その未溶着部の存在により、不具合(割れ)が発生するという問題があった。
【0012】
すなわち、特許文献1および2は、開先部の角部の溶着部分が高靭性化のための措置である低入熱溶接を行っても一定の溶け込み幅が確保できることを目的としているが、上述した未溶着部長さを低減することについては何も考慮されていない。従って、未溶着部による破壊発生リスクは解消されていない。
【0013】
また、特許文献3では、当金とスキンプレートとの当接部位がセラミックであることから、未溶着部長さを変えて破壊発生リスクは解消しようとする意図は全く示されていない。
【0014】
さらに、特許文献2と3は、当金を加工製作する工数が多い部材を用いており、製作コストが大きくなってしまう問題もある。
【0015】
また、特許文献4は、溶接金属を高靭性化するための方法であるが、薄鋼板を挟み込むと当金の取り付け方法が複雑化し、部材が増加することから、上記特許文献2、3と同様に、製作コストが増大するという問題がある。
【0016】
また、特許文献5は、溶接による割れ発生を解消するため、当金とスキンプレートとの当接部分にノッチが形成されるのを防ぐ方法である。しかしながら、セラミック製の当金であり、開先部の溶着部を拡大して未溶着部を減少させることができないので、未溶着部による破壊発生のリスクは解消されないという問題があった。これは、特許文献5のセラミック製当金の形状が円弧状となっており、前述した溶着部の運棒自由度が少ないことが原因と考えられる。
【0017】
本発明は、上述した問題点に鑑みてなされたものであり、溶接施工時の使用部材数を抑え、製作コストを低減し、未溶着部長さを減じることができるエレクトロスラグ溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意検討し、次のような知見を得た。
以下にその内容について図3を用いて説明する。
中央の楕円形の卵型形状の部分がエレクトロスラグ溶接により形成される溶着部8であり、一対の当金1(1a)とスキンプレート2またはダイアフラム3との当接部分で溶着していない部分が未溶着部である。建築物に作用する荷重の影響で、当金1(1a)とスキンプレート2との未溶着部の先端(内側端部)が比較的脆性亀裂発生するリスクが高いとされる部位であり、このリスクを低減することが重要である。一般に、未溶着部の長さ(Ln)が短いほど未溶着部の前縁の発生応力および応力拡大係数は減少する。また、応力が伝達する範囲は、図3の溶着部の長さ(Lm)であり、この長さ(Lm)が長くなればなるほど破壊発生のリスクは低減すると考えられる。
【0019】
従って、目標とする溶着部8の形状は、卵型の溶着部8をより広げ、溶着部の長さ(Lm)を拡大し、未溶着部の長さ(Ln)を低減する形状とする。このためには、エレクトロスラグ溶接の溶接トーチの溶接中での振れ幅(以下、「運棒幅」ともいう。)である運棒自由度を上げ、また、溶着部8が長い卵型となるのに適した開先部5の形状とする必要があることを見出した。
【0020】
本発明は、かかる知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものであり、本発明の要旨は、次のとおりである。
〔1〕スキンプレートとダイアフラムとをT字型構造に組み合わせてエレクトロスラグ溶接する方法において、前記ダイアフラムを挟み込むための一対の切欠き部を有する当金を用いるものであって、前記切欠き部が、前記スキンプレート側に向かって、長辺方向に角度を有する傾斜部と、前記長辺と平行なフラット部とから構成されていることを特徴とするエレクトロスラグ溶接方法。
〔2〕前記〔1〕において、前記スキンプレート、前記ダイアフラムおよび前記ダイアフラムを挟み込むための一対の切欠き部を有する当金によって形成される開先部の断面形状が、前記ダイアフラム側から前記スキンプレート側に向かって、以下の(イ)、(ロ)および(ハ)の形状をこの順に重ねた多角形であることを特徴とするエレクトロスラグ溶接方法。
(イ)前記ダイアフラムの板厚(WD)を長辺とし、前記開先部のルートギャップ(RG)から切欠き部の長さ(b)と前記スキンプレートに垂直な切欠き部の直線部であるフラット部の長さ(c)を除いた長さ(RG-b-c)を短辺とする第一の長方形、
(ロ)前記ダイアフラムの板厚(WD)を上底とし、前記ダイアフラムの板厚(WD)に前記一対の当金の切欠き部の深さ(a)の和(2a)を加えた長さ(WD+2a=WS)を下底とし、前記切欠き部の長さ(b)を高さとする台形、
(ハ)前記台形の下底の長さ(WS)を長辺とし、前記フラット部の長さ(c)を短辺とする第二の長方形。
〔3〕前記〔2〕において、前記ダイアフラムの板厚(WD)が30mm~80mm、前記台形の下底の長さ(WS)が36mm~98mmであることを特徴とするエレクトロスラグ溶接方法。
〔4〕前記〔2〕または〔3〕において、前記開先部の断面形状における、前記台形の底角(δ)が45°~80°であることを特徴とするエレクトロスラグ溶接方法。
〔5〕前記〔2〕ないし〔4〕のいずれか一つにおいて、前記開先部の断面形状における、前記フラット部の長さ(c)が5mm~15mmであることを特徴とするエレクトロスラグ溶接方法。
〔6〕前記〔2〕ないし〔5〕のいずれか一つにおいて、前記開先部を形成する前記当金の板幅(d)が45mm~80mm、前記当金の板厚(t)が16mm~50mmであることを特徴とするエレクトロスラグ溶接方法。
〔7〕前記〔1〕ないし〔6〕のいずれか一つにおいて、溶接入熱量が40kJ/mm~100kJ/mmであることを特徴とするエレクトロスラグ溶接方法。
〔8〕前記〔1〕ないし〔7〕のいずれか一つにおいて、エレクトロスラグ溶接におけるオシレーション移動時間が2.5秒~5.0秒であることを特徴とするエレクトロスラグ溶接方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、開先部の幅がダイアフラム側よりもスキンプレート側の方を大きくした形状とすることにより、運棒自由度を上げて溶着部を拡大し、未溶着部を安定的に減じることができ、低溶接入熱量下においても破壊安全性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明に係るエレクトロスラグ溶接方法の開先部を示す断面の模式図である。
図2】本発明に係るエレクトロスラグ溶接用当金を示す断面の模式図である。
図3】溶接金属の溶着範囲を示す断面の模式図である。
図4】エレクトロスラグ溶接の実験結果の開先部と当金を示す断面の模式図である。
図5】エレクトロスラグ溶接の実験結果の溶接継手を示す断面の模式図である。
図6】エレクトロスラグ溶接における溶接部近傍の応力分布結果を示す模式図である。
図7】本発明に係る当金の切欠き部の加工方法を示す断面の模式図である。
図8】従来のエレクトロスラグ溶接方法の概要を模式的に表した斜視図である。
図9】本発明に係るエレクトロスラグ溶接方法の概要を模式的に表した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら、本発明に係るエレクトロスラグ溶接方法の代表的な実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。また、図面は、本発明を概念的に説明するためのものであるから、表わされた各部材の寸法やそれらの比は、実際のものとは異なる場合もある。
【0024】
[本発明に至る経緯]
本発明は、エレクトロスラグ溶接の開先部の断面形状、特に当金とスキンプレートの間の未溶着部に着目したものであるが、まず、本発明に至る経緯について説明する。
【0025】
エレクトロスラグ溶接において、溶接の対象構造物であるスキンプレートとダイアフラムの形状等は変更し難いが、当金1は溶接用部材であり、形状変更の自由度が高い。一方で、当金形状の加工費が高ければ採用は難しいため、当金の加工工数を減じることを検討した。
【0026】
エレクトロスラグ溶接では、図8に示すように、例えばΦ12mmの溶接トーチ11が左右に運棒され水平方向移動(オシレーション)しながら、溶接金属を構築しつつ上昇し、T字型構造(「T字継手」ともいう。)が長手方向全長にわたり溶接される。
【0027】
本発明者らは、水平方向移動距離が小さければ溶け込みが小さくなると考えた。
すなわち、前述した特許文献1に示す当金の切欠き形状では、角部が鋭角でありその角度が大きく(45°以上)となると、溶融金属が流れ込み、その分未溶着部の長さを減少できることが考えられるが、溶接欠陥が生じる可能性が高くなる傾向にある。また、運棒自由度の観点では、溶接トーチはなるべく被溶接物に接触せずに距離を保たなければならないが、それも困難になるという問題もある。
【0028】
そこで、本発明者らは、運棒自由度を増大するために、開先部のスキンプレート側の幅を広くし、さらに、スキンプレートに近い側で12mm程度のフラット部を有するような開先部の断面形状とすることを考えた。このような形状であれば、溶接トーチの水平方向移動の自由度(運棒自由度)を増大することができ、未溶着部の長さを減少させることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0029】
[開先部]
まず、本発明に係るエレクトロスラグ溶接方法で形成する開先部について、図1に基づき説明する。
【0030】
開先部5とは、スキンプレート2とダイアフラム3をT字型構造に配置し、後述する切欠き部4(図2に示す)を有する当金1cを、その切欠き部4が対向するように当金を一対配置して形成した空間をいう。
上記の当金1cを用いることによって形成される空間の断面形状は、以下のように構成される。
【0031】
スキンプレート2とダイアフラム3とをT字型構造に組み合わせ、スキンプレート2、ダイアフラム3およびダイアフラム3を挟み込むための一対の切欠き部4を有する当金1cによって形成される断面形状が開先部5である。この開先部5の形状は、ダイアフラム3側からスキンプレート2側に向かって、以下の(イ)、(ロ)および(ハ)の形状をこの順に重ねた多角形である。
【0032】
(イ)ダイアフラム3の板厚(WD)を長辺とし、開先部5のルートギャップ(RG)から切欠き部の長さ(b)とスキンプレート2に垂直な切欠き部4の直線部であるフラット部7の長さ(c)を除いた長さ(RG-b-c)を短辺とする第一の長方形、
(ロ)ダイアフラム3の板厚(WD)を上底とし、ダイアフラム3の板厚(WD)に一対の当金1の切欠き部の深さ(a)の和(2a)を加えた長さ(WD+2a=WS)を下底とし、切欠き部の長さ(b)を高さとする台形、
(ハ)台形(ロ)の下底の長さ(WS)を長辺とし、フラット部の長さ(c)を短辺とする第二の長方形。
【0033】
ここで、ダイアフラム3の板厚(WD)は、好ましくは、30mm~80mmの範囲である。また、上記(ハ)の台形の下底の長さ(WS)は、好ましくは、36mm~98mmである。より好ましくは、36mm~60mmである。
【0034】
さらに、台形の底角(δ)は、45°~80°であることが好ましい。底角(δ)が45°未満では、溶融金属の流動が不安定となり、溶着部の形成に不具合が生じ、未溶着部が大きくなるからである。一方、80°を超えると、切欠き部4の形状が小さくなり、後述する運棒自由度が減少し、溶着部の形成が不十分となるからである。好ましくは、50°~75°である。
【0035】
また、スキンプレート2に垂直な切欠き部4の直線部であるフラット部7の長さ(c)は、5mm~15mmが好ましい。5mm未満では、切欠き部4の台形状が小さくなり、また、15mm超では、切欠き部4の台形状が大きくなり、ともに十分な効果が得られないからである。好ましくは、7mm~12mmである。
【0036】
なお、開先部5のルートギャップ(RG)は、ダイアフラム3の短辺のうち、スキンプレート2側の短辺からスキンプレート2までの距離であって、15mm~50mmが好ましい。より好ましくは、18mm~25mmである。
【0037】
次に、切欠き部4の形状としては、図2に示すように、切欠き部の深さ(a)は、3mm~10mmが好ましい。3mm未満では、切欠き部4の台形状が小さくなり、また、10mm超では、切欠き部4の台形状が大きくなり、ともに十分な効果が得られないからである。好ましくは、5mm~8mmである。
【0038】
切欠き部の長さ(b)は、5mm~12mmが好ましい。5mm未満では、切欠き部の深さ(a)が大きく取れないので、切欠き部4の台形状が小さくなり、また、12mm超では、切欠き部4の台形状が大きくなり、ともに十分な効果が得られないからである。好ましくは、7mm~10mmである。
【0039】
さらに、切欠き部の角度(θ)は、前述した台形の底角(δ)とは、〔θ+δ=90°〕の関係にある。従って、切欠き部の角度(θ)は、10°~45°であることが好ましい。より好ましくは、15°~40°である。
【0040】
[当金]
次に、前述した開先部5を形成するのに好適な当金1cの断面形状は、図2に示すように、後述する切欠き加工方法により形成した切欠き部4を有する。
【0041】
当金1cの切欠き加工前の断面形状は、板幅(d)を長辺とし、板厚(t)を短辺とする長方形である。その長方形の4辺のうち、ダイアフラム3と当接する側の長辺は、板幅(d)より短く、かつスキンプレート2と当接する側の短辺は、板厚(t)より短くなっている。
【0042】
そして、切欠き加工により形成された切欠き部4は、傾斜部6とフラット部7から構成されている。傾斜部6は、長辺方向に対して角度を有して傾斜する平面であり、その断面形状は、当金1cの長辺方向に対し切欠き部の角度(θ)の傾斜角度を有している。つまり、長辺上の傾斜開始点12から切欠き部の深さ(a)および切欠き部の長さ(b)の交点である傾斜終了点13まで傾斜している。フラット部7は、長辺方向の平面であって、その断面形状は、スキンプレート2に垂直な切欠き部4の直線部であって、傾斜終了点13から長辺と平行に、フラット部の長さ(c)を有している。
【0043】
すなわち、切欠き部4は、当金1cの切欠き加工前の断面形状の角部を一部除去した部位であり、フラット部の長さ(c)を上底とし、切欠き部の長さ(b)とフラット部の長さ(c)の和(b+c)を下底とし、切欠き部の深さ(a)を高さとする台形状である。
【0044】
ここで、当金1cの断面形状は、板幅(d)が45mm~80mmであることが好ましい。より好ましくは、48mm~60mmである。また、板厚(t)が16mm~50mmであることが好ましい。より好ましくは、21mm~33mmである。
【0045】
また、当金1cの材質は、鋼製である。鋼の組成成分としては、例えば、SS400を用いるのが好ましい。さらに、スキンプレートやダイアフラムに使われる組成成分に近いものがより好ましい。
【0046】
[エレクトロスラグ溶接方法]
続いて、エレクトロスラグ溶接方法について説明する。一般的な方法を図3および図8に、本発明の方法を図9に示す。なお、図8および図9は、溶接時の外観とその内部構造の一例を示すものである。
【0047】
スキンプレート2とダイアフラム3をT字型構造に組立てて、エレクトロスラグ溶接を行うために、ダイアフラム3を挟み込む一対の当金1(「裏当金」ともいう。)を配置する。ここで、前述したように、スキンプレート2とダイアフラム3との間隔をルートギャップ(RG)といい、一対の当金1同士の対向する間隔を開先幅(WD)という。この開先幅(WD)は、ダイアフラム3の板厚と同じである。このルートギャップ(RG)と開先幅(WD)により構成される空間部分を開先部5という。この開先部5内に溶接トーチ11を装入してエレクトロスラグ溶接を行い、その結果、スキンプレート2、ダイアフラム3および一対の当金1の一部が溶け込んで溶着部8が形成される。
【0048】
一般的に従来から用いられている当金1(1a)の断面形状は、長方形であり、その材料としては、銅板や鋼板(例えば、平鋼)などの金属材料の他、セラミック材料などがある。
【0049】
[切欠き部の切欠き加工方法]
次に、本発明に係るエレクトロスラグ溶接用当金1cの切欠き部4を切欠き加工する方法について、切削加工する方法の例を図7に基づいて説明する。
【0050】
当金1cの一つの角を2方向から切削加工する。一つの方向は、当金1cの断面形状の長辺に対して斜め上方向から角度(切欠き部の角度)θで切削し、他の一つの方向は、当金1cの断面形状の長辺と平行に切削するものである。
【0051】
切欠き部の角度θは、前述したように、10°~45°であることが好ましい。より好ましくは、15°~40°である。
【0052】
また、加工の簡便さについては、本発明では、2面の粗加工(切削)が必要であるが、先の特許文献1の1面加工と比べても大きな作業上の大きな差異はなく、特許文献2~5の加工製作よりは容易である。
【0053】
具体的な加工方法としては、例えば、図7に示すように、それぞれの点線の矢印の方向に機械的切断を行えばよい。矢印の先端では、切断後、処理をしない粗加工状態であれば、過剰に切断した痕が残る場合があるが、この部位は2mm~3mm程度深く入ったとしても、エレクトロスラグ溶接で溶融金属の流れで溶かされる部分であるため、仕上げ加工等を行う必要はない。従って、本発明に係るエレクトロスラグ溶接用当金は、簡易な切削加工のみで製作することができる。
【0054】
加工方法としては、例えば、ノコ切断による切削加工の他にも機械的な加工方法またはガス切断による加工方法などを用いることができる。
【0055】
[エレクトロスラグ溶接条件]
本発明に係るエレクトロスラグ溶接方法の溶接条件について、目標とする溶接入熱量は、40kJ/mm~100kJ/mmである。
【実施例0056】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。ただし、下記の実施例は、本発明を例示してより詳細に説明するためのものにすぎず、本発明の権利範囲を限定するものではない。
【0057】
本発明に係るエレクトロスラグ溶接用当金に対し、比較のために従来の通常の断面が四角形の当金と特許文献1に記載された断面三角形の切欠き部を有する当金を用意した。それらの当金を用いて、エレクトロスラグ溶接の実験を行い、溶接金属部の断面形状を観察するとともに、未溶着部の長さと応力分布の測定を行ったので、その実験結果を以下に示す。
【0058】
なお、図4は、以下の3種類の当金を用いてエレクトロスラグ溶接を行った実験結果のT字継手の開先部の断面と用いた当金の断面を示す模式図である。
【0059】
実験No.A:従来の通常の断面長方形の当金1a(図4(a))
(A)の当金1aの断面形状は、その板幅d=50mm、板厚t=28mmで、材質は平鋼を用いた。
【0060】
実験No.B:特許文献1に記載された断面三角形の切欠き部を有する当金1b(図4(b))
(B)の当金1bの断面形状は、その板幅d=50mm、板厚t=28mmで、切欠き部の深さa=5.7mm、切欠き部の角度θ=30°とした。材質は平鋼を用いた。
【0061】
実験No.C:本発明に係るエレクトロスラグ溶接用当金1c(断面台形状の切欠き部)(図4(c))
本発明の(C)の当金1cの断面形状は、その板幅d=50mm、板厚t=28mm、切欠き部の深さa=5.7mm、切欠き部の長さb=10mm、フラット部の長さc=12mm、切欠き部の角度θ=30°とした。材質はSS400であり、入手性の良い平鋼を用いた。
【0062】
また、実験に際してのエレクトロスラグ溶接の溶接条件は、以下のとおりである。
溶接電流:380A、溶接電圧:48V、ワイヤ供給速度:8.5m/min。
オシレーション移動時間(片道)は、(A)と(B)では3秒、(C)では4.6秒とした。なお、オシレーション停止時の溶接トーチと当金間の距離を2mmとし、スキンプレートと溶接トーチ間の距離を2mmとした。
【0063】
図4に実験の結果を示したが、T字継手は、スキンプレート2とダイアフラム3と一対の当金1が対向した構造であって、それらによって囲まれた空間(開先部5)で溶接による溶着部8が形成される。その溶着部8が中央部分の楕円形状(卵型)である。この溶着部8の大きさが、(A)の当金1aでは、楕円の幅が小さく真円に近い形状であり(図4の(a))、(B)の当金1bでは、楕円の幅が少し大きくなり(図4の(b))、本発明の(C)の当金1cにおける楕円の幅が一番大きくなっている(図4の(c))。
【0064】
楕円の中に、上下2つの丸とその2つの丸を結ぶ上下方向の矢印を記載している。この矢印が溶接トーチの水平方向移動距離幅、すなわち運棒幅の自由度を示しており、(C)の移動幅(自由度)が一番大きくなった。この結果から、本発明の切欠き部形状を有する当金1cが、最も溶融金属の移動幅が大きく、未溶着部を減少させる効果が大きいことを示している。
【0065】
さらに、実際の断面形状を観察した結果を模式的に示したのが、図5である。なお、図5に示した断面形状の観察方法は、研磨後に腐食液を用いて溶接部像を明らかにして撮影した。
【0066】
この図5の(a)は当金1a(A)の場合で、実線の丸が切欠き部なし場合の溶着部である。図5の(b)は当金1b(B)の切欠き部が断面三角形状の場合には、溶着部が若干楕円状に広がっている。図5の(c)が本発明の当金1c(C)の断面台形状の切欠き部を有する場合には、溶着部の楕円状が一番幅広く、未溶着部が減少したことが分かった。
【0067】
仮に、この溶接形状を有する部材に、ダイアフラム部材の長手方向に引張力が作用した際に、未溶着部前縁に発生する応力をFEM解析により評価した。ダイアフラムの裏にボックス柱のスキンプレートを挟んで梁が接続されているモデルを作成し、引張方向の変位が20mmになるまで引っ張った場合の最大主応力の応力コンターを図6に示す。これによれば、最上段のもの、図6(a)では、700MPaを超える応力域は、溶接金属から熱影響部まで広く分布している。しかし、当金を変更したものでは、図6(b)の当金1b(B)の形状から図6(c)の本発明の当金1c(C)の形状になると、応力域は徐々に小さくなっていることがわかった。
【0068】
以上の3種類の当金を用いた比較実験の概要、溶接条件と実験結果を表1に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
応力拡大係数の結果を見ると、従来の当金1a(A)に対して、当金1b(B)が70.1%減少に対し、本発明例の当金1c(C)は、60.6%の減少となった。
【0071】
未溶着部長さ測定の結果を見ると、従来の当金1a(A)に対して、当金1b(B)では80.6%の減少であったが、本発明例の当金1c(C)の未溶着部長さが最も短くなり、当金1a(A)に対し、70.3%の減少となった。
【0072】
すなわち、本発明例の当金1c(C)のケースでは、未溶着部長さが減少し、溶接金属自体の幅が拡大していることから、発生応力が低減し、かつ、応力拡大係数も減少していることが分かった。
【0073】
以上のように、運棒自由度を向上させることができるフラット部を有する本発明の当金は、比較的に簡単に製作することができ、この当金を用いることにより、溶着部の形状を変え、未溶着部の長さを減少することができる。その結果として、未溶着部先端の応力拡大係数を下げることができるので、破壊安全性をより一層向上させることができる。
【符号の説明】
【0074】
1 当金
1a 断面長方形の当金
1b 断面三角形の切欠き部を有する当金
1c 断面台形状の切欠き部を有する当金
2 スキンプレート
3 ダイアフラム
4 切欠き部
5 開先部
6 傾斜部
7 フラット部
8 溶着部
9 溶融スラグ
10 溶接ワイヤ
11 溶接トーチ
12 傾斜開始点
13 傾斜終了点
a 切欠き部の深さ
b 切欠き部の長さ
c フラット部の長さ
d 板幅
t 板厚
RG ルートギャップ
D 開先部のダイアフラム側の幅
S 開先部のスキンプレート側の幅
Lm 溶着部の長さ
Ln 未溶着部の長さ
θ 切欠き部の角度
δ 台形の底角
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9