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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039604
(43)【公開日】2024-03-22
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 9/00 20060101AFI20240314BHJP
   B60C 9/20 20060101ALI20240314BHJP
   B60C 9/22 20060101ALI20240314BHJP
   B60C 11/00 20060101ALI20240314BHJP
   D02G 3/48 20060101ALI20240314BHJP
【FI】
B60C9/00 B
B60C9/20 D
B60C9/22 C
B60C11/00 F
D02G3/48
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023110726
(22)【出願日】2023-07-05
(31)【優先権主張番号】P 2022143746
(32)【優先日】2022-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】三関 祐太
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 益任
(72)【発明者】
【氏名】三木 孝之
(72)【発明者】
【氏名】岡部 昇
【テーマコード(参考)】
3D131
4L036
【Fターム(参考)】
3D131AA15
3D131AA32
3D131AA33
3D131AA39
3D131AA44
3D131AA48
3D131BA02
3D131BB01
3D131BC31
3D131BC42
3D131DA33
3D131DA43
3D131DA44
3D131DA52
3D131DA57
3D131EA10V
4L036MA05
4L036MA33
4L036PA21
4L036UA07
(57)【要約】
【課題】高速走行時の耐久性能及び乗り心地性能の総合性能に優れたタイヤを提供する。
【解決手段】ベルト層及びベルト補強層を備えるタイヤであって、
前記ベルト補強層内の有機繊維コードがポリエチレンテレフタレート繊維コードを含み、
前記有機繊維コードは、100℃における2.0cN/dtex負荷時の弾性率Aが3.5cN/(tex・%)未満であるタイヤに関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルト層及びベルト補強層を備えるタイヤであって、
前記ベルト補強層内の有機繊維コードがポリエチレンテレフタレート繊維コードを含み、
前記有機繊維コードは、100℃における2.0cN/dtex負荷時の弾性率Aが3.5cN/(tex・%)未満であるタイヤ。
【請求項2】
前記有機繊維コードは、100℃における2.0cN/dtex負荷時の中間伸度が7.0~13.2%である請求項1に記載のタイヤ。
【請求項3】
前記有機繊維コードは、撚り係数Kが2100~4300である請求項1又は2に記載のタイヤ。
【請求項4】
前記有機繊維コードは、3%伸長時の荷重G(N)、タイヤ軸方向の50mm幅当たりのコードの打ち込み本数E(本/50mm)の積(G×E)が、1000~2500である請求項1又は2に記載のタイヤ。
【請求項5】
前記ベルト補強層内での有機繊維コードの伸長度が2.0~5.0%、該伸長度(%)での100℃の荷重-伸び曲線のモジュラスが1.0~5.0cN/(tex・%)である請求項1又は2に記載のタイヤ。
【請求項6】
更にトレッドを備え、
トレッドの厚みT(mm)、前記有機繊維コードの100℃における2.0cN/dtex負荷時の弾性率A(cN/(tex・%))の積(T×A)が、35以下である請求項1又は2に記載のタイヤ。
【請求項7】
前記ベルト層及び前記ベルト補強層間の距離が0.25~0.40mmである請求項1又は2に記載のタイヤ。
【請求項8】
前記有機繊維コードは、フィラメント角度が30度以上である請求項1又は2に記載のタイヤ。
【請求項9】
ベルト補強層コードのタイヤ半径方向外側表面から、ベルト補強層のタイヤ半径方向外側界面までの厚みF(mm)、前記有機繊維コードの100℃における2.0cN/dtex負荷時の弾性率A(cN/(tex・%))の積(F×A)が、0.16以下である請求項1又は2に記載のタイヤ。
【請求項10】
トレッド溝底からベルト補強層までの距離L(mm)、前記有機繊維コードの100℃における2.0cN/dtex負荷時の弾性率A(cN/(tex・%))の積(L×A)が、10.0以下である請求項1又は2に記載のタイヤ。
【請求項11】
前記有機繊維コードの撚り数が、35~60回/10cmである請求項1又は2に記載のタイヤ。
【請求項12】
前記有機繊維コードの3%伸長時の荷重Gが、18~45Nである請求項1又は2に記載のタイヤ。
【請求項13】
前記有機繊維コードの総繊度が、2500~4000dtexである請求項1又は2に記載のタイヤ。
【請求項14】
前記有機繊維コードのエンズが、30~60本/50mmである請求項1又は2に記載のタイヤ。
【請求項15】
前記トレッドの厚みTが、5.0~12.0mmである請求項6に記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、タイヤにベルト層及びベルト補強層を備え、該ベルト補強層に工夫を加えることで、乗り心地性能などの各種タイヤ性能を改善する手法が種々検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-188834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方で、高速道の整備も行き届き、車両性能も向上した昨今においては、長距離を高速で走行することも珍しくなく、高速走行時の耐久性能及び乗り心地性能の向上については更なる向上が求められていると考えられる。
本発明は、前記課題を解決し、高速走行時の耐久性能及び乗り心地性能の総合性能に優れたタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、ベルト層及びベルト補強層を備えるタイヤであって、
前記ベルト補強層内の有機繊維コードがポリエチレンテレフタレート繊維コードを含み、
前記有機繊維コードは、100℃における2.0cN/dtex負荷時の弾性率Aが3.5cN/(tex・%)未満であるタイヤに関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、ベルト層及びベルト補強層を備えるタイヤであって、前記ベルト補強層内の有機繊維コードがポリエチレンテレフタレート繊維コードを含み、前記有機繊維コードは、100℃における2.0cN/dtex負荷時の弾性率Aが3.5cN/(tex・%)未満であるタイヤであるので、高速走行時の耐久性能及び乗り心地性能の総合性能に優れたタイヤを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の空気入りタイヤの断面図である。
図2図1のベルト層及びベルト補強層の拡大図である。
図3】トレッド部の拡大図である。
図4】(a)及び(b)は2本撚りコードの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、ベルト補強層を備え、前記ベルト補強層内の有機繊維コードがポリエチレンテレフタレート繊維コード(以下、PET繊維コードとも称する)を含み、前記有機繊維コードの100℃における2.0cN/dtex負荷時の弾性率Aが3.5cN/(tex・%)未満であるタイヤである。
【0009】
前述の作用効果が得られる理由は必ずしも明らかではないが、以下のメカニズムにより奏するものと推察される。
PET繊維は分子鎖内にベンゼン環構造を有し、部分的に結晶構造を形成するため、他の繊維に比べて強度が高く、また、フレキシブルな分子鎖も有するため、内部で振動を吸収しやすいと考えられる。
さらに高温時の弾性率を3.5cN/(tex・%)未満と低くすることで、高速走行時において、トレッド部が接地する際にベルト層が適度に伸びて変形するため、トレッド部の接地性が向上し、路面からの衝撃を面で吸収でき、かつ、分子鎖内で振動を吸収できることから、乗り心地性能が向上すると考えられる。
また、同時にトレッド部の局所的な部分に変形が蓄積することが抑制されると共に、ベルト補強層も破断しにくくなるため、高速走行時の耐久性能も向上すると考えられる。
従って、高速走行時の耐久性能及び乗り心地性能の総合性能を向上できると推察される。
【0010】
このように、「有機繊維コードの100℃における2.0cN/dtex負荷時の弾性率Aが3.5cN/(tex・%)未満」を満たすベルト補強層を備えたタイヤの構成にすることにより、高速走行時の耐久性能及び乗り心地性能の総合性能を向上するという課題(目的)を解決するものである。すなわち、「有機繊維コードの100℃における2.0cN/dtex負荷時の弾性率Aが3.5cN/(tex・%)未満」のパラメーターは課題(目的)を規定したものではなく、本願の課題は、高速走行時の耐久性能及び乗り心地性能の総合性能を向上することであり、そのための解決手段として当該パラメーターを満たすような構成にしたものである。
【0011】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明されるが、これは一形態にすぎず、本発明のタイヤは以下の形態に限定されるものではない。
【0012】
図1は、本実施形態の空気入りタイヤ(以下、単に「タイヤ」ということがある。)1の正規状態におけるタイヤ回転軸(図示省略)を含む右半分のタイヤ子午線断面図の一例である。図1には、例えば、乗用車用のタイヤ1が示されている。但し、本発明は、自動二輪車用や重荷重用等のタイヤ1にも適用され得る。
【0013】
前記「正規状態」は、タイヤ1が正規リム(図示省略)にリム組みされ、かつ、正規内圧が充填され、しかも無負荷の状態である。
【0014】
前記「正規リム」は、タイヤ1が基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めているリムであり、例えばJATMA(日本自動車タイヤ協会)であれば「JATMA YEAR BOOK」に記載されている適用サイズにおける“標準リム”、ETRTO(The European Tyre and Rim Technical Organisation)であれば「STANDARDS MANUAL」に記載されている“Measuring Rim”、TRA(The Tire and Rim Association,Inc.)であれば「YEAR BOOK」に記載されている“Design Rim”、を指し、JATMA、ETRTO、TRAの順に参照し、参照時に適用サイズがあればその規格に従う。そして、規格に定められていないタイヤの場合には、リム組可能であって、内圧が保持できるリム、即ちリム/タイヤ間からエア漏れを生じさせないリムの内、最もリム径が小さく、次いでリム幅が狭いものを指す。
【0015】
前記「正規内圧」は、タイヤ1が基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば“最高空気圧”、ETRTOであれば“INFLATION PRESSURE”、TRAであれば表“TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値を指し、「正規リム」の場合と同様にJATMA、ETRTO、TRAの順に参照し、その規格に従う。そして、規格に定められていないタイヤの場合、前記正規リムが標準リムとして記載されている別のタイヤサイズ(規格に定められているもの)の正規内圧(但し、250KPa以上)を指す。なお、250KPa以上の正規内圧が複数記載されている場合には、その中の最小値を指す。
【0016】
本実施形態のタイヤ1は、トレッド部2のトレッド表面よりもタイヤ半径方向内側に埋設されるベルト層7を具えている。ベルト層7は、少なくとも1枚のベルトプライ8を含んでいる。タイヤ1は、ベルト層7のタイヤ半径方向外側にベルト補強層15が設けられている。また、タイヤ1は、例えば、ベルト層7のタイヤ半径方向の内側に配され、両側のビード部4間に架け渡される周知構造のカーカス6を含んでいる。
【0017】
図2は、ベルトプライ8及びベルト補強層15の拡大図である。
図2に示されるように、ベルトプライ8は、ベルトコード9と、ベルトコード9を被覆するトッピングゴム10とを含んでいる。ベルトコード9は、本実施形態では、横断面が円形の単線であるが、これに限定されるものではなく、M本のフィラメント束をN本撚り合わせたM×N構造のコードであっても良い。また、それぞれのフィラメントの断面形状も円形のものに限定されるものではなく、横断面が楕円形、多角形状など、他の形状のものでも良い。また、これらのフィラメントには、耐久性能などの観点から、予めくせ付けを施したものを使用しても良い。
【0018】
図2に示されるように、ベルトプライ8は、例えば、第1ベルトプライ8Aと、第1ベルトプライ8Aとタイヤ半径方向に隣接する第2ベルトプライ8Bとを含んでいる。第2ベルトプライ8Bは、例えば、第1ベルトプライ8Aのタイヤ半径方向の外側に位置している。
【0019】
第1ベルトプライ8Aのタイヤ軸方向の幅W1は、例えば、トレッド幅TWの70%~100%であることが望ましい。第2ベルトプライ8Bのタイヤ軸方向の幅W2は、例えば、トレッド幅TWの65%~90%であることが望ましい。また、第2ベルトプライの幅は第1ベルトプライの幅よりも小さいことが好ましい。
【0020】
トレッド幅TWは、タイヤ軸方向の両側に位置するトレッド端Te間のタイヤ軸方向の距離である。トレッド端Teは、前記正規状態のタイヤ1に正規荷重が負荷されキャンバー角0°で平面に接地したときの最もタイヤ軸方向外側の接地位置であり、この接地端部間の距離を、タイヤを半径方向に切り出した断面セクションのビード部間の幅を正規リム幅に合わせて固定した状態で、タイヤ軸方向に測定することで求めることができる。また、第1ベルトプライ幅W1及び第2ベルトプライ幅W2も同様にタイヤを半径方向に切り出した断面セクションのビード部間の幅を正規リム幅に合わせて固定した状態で、タイヤ軸方向にそれぞれの端部間の距離を測定することにより求めることができる。
【0021】
前記「正規荷重」は、タイヤ1が基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば“最大負荷能力”、ETRTOであれば“LOAD CAPACITY”、TRAであれば表“TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値を指し、前記した「正規リム」や「正規内圧」の場合と同様に、JATMA、ETRTO、TRAの順に参照し、その規格に従う。そして、規格に定められていないタイヤの場合は以下の計算により、正規荷重Wを求める。
V={(Dt/2)-(Dt/2-Ht)}×π×Wt
=0.000011×V+175
:正規荷重(kg)
V:タイヤの仮想体積(mm
Dt:タイヤ外径(mm)
Ht:タイヤの断面高さ(mm)
Wt:タイヤの断面幅(mm)
【0022】
ベルトコード9は、本実施形態では、スチールコードで形成されている例が挙げられている。このようなベルトコード9は、ベルトプライ8の走行中での変形を抑制する。なお、ベルトコード9は、例えば、アラミド等の有機繊維コードで形成されてもよい。第1ベルトプライ8Aのベルトコード9、及び、第2ベルトプライ8Bのベルトコード9は、同じ材料及び同じ形状であっても、異なる材料及び異なる形状であってもよい。
【0023】
ベルトコード9は、例えば、タイヤ周方向に対して15~45度の角度で傾斜していることが望ましい。
【0024】
特に限定されるものではないが、第1ベルトプライ8Aのベルトコード9と、第2ベルトプライ8Bのベルトコード9とは、互いに交差するように、タイヤ周方向に対する傾斜が逆向きに配されていることが望ましい。
【0025】
ベルトコード9は、その周囲を被覆しているゴム組成物との接着性の観点から、表面に銅及び亜鉛を含むめっきが施されていることが好ましい。また、前記した銅、亜鉛に加えて、コバルト、ニッケル、ビスマス、アンチモンなどのイオン化傾向が銅及び亜鉛の間に属する金属元素を含むめっきが施されていることがより好ましい。
【0026】
また、ベルトコード9は、周囲のゴム組成物との接着性の観点から、表面にポリベンゾオキサジン化合物の層を有することが好ましい。
【0027】
ベルトコード9を被覆するトッピングゴム10としては、周知のゴム材料に加えて、フェノール系の熱硬化樹脂やシリカ、前記したコバルト、ニッケル、ビスマス、アンチモンなどのイオン化傾向が銅及び亜鉛の間に属する金属と有機脂肪酸との塩、ポリベンゾオキサジン化合物などを含有していることが望ましい。
【0028】
ベルトプライ8は、例えば、50mm幅当たりのベルトコード9の打ち込み本数(エンズ)が30本/50mm以上、100本/50mm以下であることが好ましく、30本/50mm以上、80本/50mm以下であることがより好ましい。また、前記ベルトコード9の打ち込み本数(本/50mm)とベルトコードの断面積(mm)の積である、タイヤ幅方向50mmあたりのコードの断面積は4.5mm/50mm以上であることが好ましく、4.8mm/50mm以上であることがより好ましい。
【0029】
タイヤ1において、ベルト補強層15は、各ベルトプライ8A、8Bの拘束性を高め、高速走行時の耐久性能を高めることでき、良好な乗り心地性能の付与も可能である。
【0030】
ベルト補強層幅W3(ベルト補強層15のタイヤ軸方向の幅)についても、前記トレッド幅TWと同様に、タイヤを半径方向に切り出した断面セクションのビード部間の幅を正規リム幅に合わせて固定した状態で、タイヤ軸方向にベルト補強層15のそれぞれの端部間の距離を測定することにより求めることができる。
【0031】
ベルト補強層15は、有機繊維コード16と、有機繊維コード16を被覆する補強ゴム17(ベルト補強層用被覆ゴム組成物)とを含み、有機繊維コード16がポリエチレンテレフタレート繊維コードを含んでいる。なお、通常、有機繊維コードは、ゴムとの接着性を改善するためにディップ処理が行われている。
【0032】
ベルト補強層15において、有機繊維コード16は、タイヤ周方向に対する角度が、例えば0~5度とすることが望ましい。ベルト補強層15は、ベルトプライ8の全域を覆うフルカバー層を含むことが望ましい。また、フルカバー層に加え、更にベルトプライ8の両端部を局所的に覆う一対のエッジカバー層を含む構成(2層以上の構成)にすることもできる。ベルト補強層15は、少なくとも1本の有機繊維コード16を引き揃えてコートゴムで被覆したストリップ材をタイヤ周方向に螺旋状に巻回して構成するとよく、特にジョイントレス構造とすることが望ましい。
【0033】
ポリエチレンテレフタレート繊維コードを含む有機繊維コード16は、100℃における2.0cN/dtex負荷時の弾性率Aが3.5cN/(tex・%)未満である。当該弾性率は、好ましくは3.0cN/(tex・%)以下、より好ましくは2.8cN/(tex・%)以下、更に好ましくは2.5cN/(tex・%)以下である。下限は特に限定されないが、好ましくは1.0cN/(tex・%)以上、より好ましくは1.8cN/(tex・%)以上、更に好ましくは2.2cN/(tex・%)以上である。上記範囲内であると、効果が好適に得られる。なお、ポリエチレンテレフタレート繊維コードも同様の範囲が望ましい。
【0034】
ここで、100℃での2.0cN/dtex負荷時の弾性率A[cN/(tex・%)]は、JIS-L1017の「化学繊維タイヤコード試験方法」に準拠し、つかみ間隔250mm、引張速度300±20mm/分の条件にて引張試験を実施し、荷重-伸び曲線の荷重2.0cN/dtexに対応する点における接線の傾きを1tex当たりの値に換算することで算出される。なお、弾性率は、加硫後のタイヤから取り出されたコードの値である。
【0035】
ポリエチレンテレフタレート繊維コードを含む有機繊維コード16は、100℃における2.0cN/dtex負荷時の中間伸度が7.0%以上、13.2%以下であることが望ましい。下限は、好ましくは8.2%以上、より好ましくは8.5%以上、更に好ましくは8.8%以上、より更に好ましくは9.1%以上、特に好ましくは9.7%以上であり、上限は、好ましくは13.0%以下、より好ましくは12.5%以下、更に好ましくは12.0%以下である。上記範囲内であると、効果が好適に得られる。なお、ポリエチレンテレフタレート繊維コードも同様の範囲が望ましい。
【0036】
中間伸度を上記範囲に調整することで、上記作用効果がより発揮されるメカニズムは明らかではないが、高温時に適度に伸びやすくすることが可能となるため、高速走行時の耐久性能及び乗り心地性能の総合性能が向上すると推察される。
【0037】
なお、100℃における2.0cN/dtex負荷時の中間伸度(%)は、JIS L 1017:2002に準拠し、加硫後のタイヤから、コード1本を採取し、100±2℃の温度条件で、つかみ間隔250mm、引張速度300±20mm/分の条件にて引張試験を実施し、荷重-伸び曲線の荷重2.0cN/dtexに対応する点における伸度(%)である。
【0038】
ポリエチレンテレフタレート繊維コードを含む有機繊維コード16は、下記式で示される撚り係数Kが、1600以上4500以下であることが望ましい。下限は、好ましくは1642以上、より好ましくは2100以上、更に好ましくは2200以上、より更に好ましくは2251以上、より更に好ましくは2255以上、より更に好ましくは2400以上、より更に好ましくは2600以上、より更に好ましくは2683以上であり、上限は、好ましくは4312以下、より好ましくは4300以下、更に好ましくは3100以下、より更に好ましくは3049以下、より更に好ましくは3000以下、より更に好ましくは2952以下、特に好ましくは2900以下である。上記範囲内であると、効果が好適に得られる。ポリエチレンテレフタレート繊維コードも同様の範囲が望ましい。
K=T×D1/2
(式中、Tはコードの上撚り数[回/10cm]であり、Dはコードの総繊度[dtex]である。)
【0039】
撚り係数を上記範囲、特に2100~4300の範囲に調整することで、上記作用効果がより発揮されるメカニズムは明らかではないが、高温時に適度に伸びやすくすることが可能となるため、高速走行時の耐久性能及び乗り心地性能の総合性能が向上すると推察される。
【0040】
ポリエチレンテレフタレート繊維コードを含む有機繊維コード16は、撚り数が10回/10cm以上、80回/10cm以下のコードから形成されたものであることが望ましい。前記撚り数は、好ましくは34回/10cm以上、より好ましくは35回/10cm以上、更に好ましくは40回/10cm以上、より更に好ましくは48回/10cm以上、特に好ましくは50回/10cm以上である。上限は、好ましくは70回/10cm以下、より好ましくは65回/10cm以下、更に好ましくは60回/10cm以下、より更に好ましくは55回/10cm以下である。上記範囲内であると、効果が好適に得られる。ポリエチレンテレフタレート繊維コードも同様の範囲が望ましい。なお、撚り数は、ディップ処理後のコードの数値である。
【0041】
ポリエチレンテレフタレート繊維コードを含む有機繊維コード16は、総繊度が450dtex以上、5500dtex以下のコードから形成されたものであることが望ましい。前記総繊度は、好ましくは1000dtex以上、より好ましくは2000dtex以上、更に好ましくは2200dtex以上、特に好ましくは2500dtex以上である。上限は、好ましくは4400dtex以下、より好ましくは4000dtex以下、更に好ましくは3000dtex以下、より更に好ましくは2880dtex以下、特に好ましくは2800dtex以下である。上記範囲内であると、効果が好適に得られる。ポリエチレンテレフタレート繊維コードも同様の範囲が望ましい。
なお、総繊度は、JIS-L1017の「8.3 正量繊度」の測定方法に従って測定される。
【0042】
ポリエチレンテレフタレート繊維コードを含む有機繊維コード16は、3%伸長時の荷重Gが、好ましくは15N以上、より好ましくは18N以上、更に好ましくは25N以上、特に好ましくは30N以上であり、また、好ましくは55N以下、より好ましくは45N以下、更に好ましくは40N以下、より更に好ましくは38N以下、特に好ましくは35N以下である。上記範囲内であると、効果が好適に得られる。ポリエチレンテレフタレート繊維コードも同様の範囲が望ましい。
【0043】
なお、有機繊維コードの3%伸長時の荷重Gは、加硫後のタイヤから取り出したコードについて、JIS-L1017(化学繊維タイヤコード試験方法)に規定される「一定伸長時荷重」の試験方法に準拠して測定される、コードの「荷重-伸び」曲線における3%伸長時の荷重(N)である。
【0044】
ポリエチレンテレフタレート繊維コードを含む有機繊維コード16は、タイヤ軸方向に、50mm幅当たりのコードの打ち込み本数(エンズ)が30本/50mm以上、80本/50mm以下の密度で配列していることが望ましい。下限は、好ましくは34本/50mm以上、より好ましくは40本/50mm以上、更に好ましくは45本/50mm以上であり、上限は、好ましくは78本/50mm以下、より好ましくは65本/50mm以下、更に好ましくは60本/50mm以下、より更に好ましくは49本/50mm以下である。上記範囲内であると、効果が好適に得られる。ポリエチレンテレフタレート繊維コードも同様の範囲が望ましい。
なお、有機繊維コード16の打ち込み本数(エンズ)はタイヤの半径方向断面において、ビード部の幅を正規リム幅に合わせた状態で、赤道面からタイヤ幅方向に±50mmの範囲に配列された補強材の本数を測定し、50mmあたりの本数を算出することにより求めることができる。
【0045】
ポリエチレンテレフタレート繊維コードを含む有機繊維コード16は、3%伸長時の荷重G(N)、タイヤ軸方向の50mm幅当たりのコードの打ち込み本数E(エンズ)(/50mm)の積(G×E)が、700以上、2700以下であることが望ましい。
前記積(G×E)は、好ましくは735以上、より好ましくは882以上、更に好ましくは1000以上、より更に好ましくは1170以上、より更に好ましくは1200以上、より更に好ましくは1300以上、より更に好ましくは1350以上であり、上限は、好ましくは2695以下、より好ましくは2500以下、更に好ましくは1862以下、より更に好ましくは1715以下、より更に好ましくは1700以下、より更に好ましくは1575以下、より更に好ましくは1500以下である。上記範囲内であると、効果が好適に得られる。ポリエチレンテレフタレート繊維コードも同様の範囲が望ましい。
【0046】
3%伸長時の荷重×打ち込み本数を上記範囲、特に1000~2500の範囲に調整することで、上記作用効果がより発揮されるメカニズムは明らかではないが、以下のように考えられる。高速走行時はタイヤ内部の温度が高くなり、内圧が上昇し、トレッド表面の形状が丸くなるように膨らみやすくなると考えられる。その際に3%伸長時の荷重×その打ち込み本数を1000以上とすることで、内圧によりトレッド部がおされて変形し、トレッド形状が変化することを抑制することができると考えられる。それにより、高速走行時にトレッドが接地する際のトレッド部での変形量を小さくし、 過剰に発熱することを抑制することが可能となるため、高速走行時の耐久性をさらに向上させやすくすることができ、その結果、高速走行時の耐久性能及び乗り心地性能の総合性能が向上すると推察される。
【0047】
前記タイヤのベルト補強層15内での有機繊維コード16(ポリエチレンテレフタレート繊維コードを含む有機繊維コード16)の伸長度は、1.5%以上、5.2%以下であることが望ましい。下限は、好ましくは1.8%以上、より好ましくは2.0%以上、更に好ましくは2.4%以上、特に好ましくは2.8%以上であり、上限は、好ましくは5.0%以下、より好ましくは4.5%以下、更に好ましくは4.0%以下、特に好ましくは3.8%以下である。上記範囲内であると、効果が好適に得られる。ポリエチレンテレフタレート繊維コードも同様の範囲が望ましい。なお、伸長度は、加硫後のタイヤ中におけるコードの伸長度である。
【0048】
前記伸長度(%)での100℃の荷重-伸び曲線のモジュラス(ベルト補強層内の有機繊維コードの伸長度でのモジュラス)は、1.0cN/(tex・%)以上、5.0cN/(tex・%)以下であることが望ましい。下限は、好ましくは1.6cN/(tex・%)以上、より好ましくは3.5cN/(tex・%)以上、更に好ましくは4.0cN/(tex・%)以上であり、上限は、好ましくは4.7cN/(tex・%)以下、より好ましくは4.5cN/(tex・%)以下、更に好ましくは4.3cN/(tex・%)以下である。上記範囲内であると、効果が好適に得られる。ポリエチレンテレフタレート繊維コードも同様の範囲が望ましい。なお、前記伸長度(%)でのモジュラスは、加硫後のタイヤから取り出されたコードの値である。
【0049】
前記伸長度(%)でのモジュラスをこの範囲にすることで、上記作用効果がより発揮されるメカニズムは明らかではないが、適度に拘束力を維持するのが可能となるため、それにより、高速走行時の耐久性能及び乗り心地性能の総合性能が向上すると推察される。
【0050】
ここで、タイヤのベルト補強層内での有機繊維コードの伸長度(%)は、リム組していないタイヤのトレッド部を剥離させ、ベルト補強層内での有機繊維コードの長さを測定し、更にベルト補強層から有機繊維コードを取り出し、実際の有機繊維コードの長さを測定し、下記式により伸長度を算出する。
伸長度(%)={(ベルト補強層内での有機繊維コードの長さ(mm)-実際の有機繊維コードの長さ(mm))/実際の有機繊維コードの長さ(mm)}×100
【0051】
また、ベルト補強層内の有機繊維コードの伸長度(%)での100℃の荷重-伸び曲線のモジュラスは、前記算出方法によりベルト補強層内での有機繊維コードの伸長度(%)を求めた後、当該有機繊維コードをJIS-L1017の「化学繊維タイヤコード試験方法」に準拠して引張試験(100℃)を実施し、荷重-伸び曲線の当該伸長度(%)におけるモジュラス(N/%)を求めることにより算出する。
【0052】
有機繊維コード16(ポリエチレンテレフタレート繊維コードを含む有機繊維コード16)のフィラメント角度は、好ましくは11度以上、より更に好ましくは14度以上、更に好ましくは15度以上、より更に好ましくは16度以上、より更に好ましくは30度以上、より更に好ましくは40度以上、特に好ましくは45度以上である。上限は特に限定されないが、好ましくは70度以下、より好ましくは60度以下、更に好ましくは55度以下である。上記範囲内であると、効果が好適に得られる。ポリエチレンテレフタレート繊維コードも同様の範囲が望ましい。
なお、本発明において、フィラメント角度31とは、図4(a)、(b)の2本撚りコードの模式図に示されているとおり、コード長手方向中心線32とフィラメント33とにより形成される鋭角の角度である。
【0053】
有機繊維コード16(ポリエチレンテレフタレート繊維コードを含む有機繊維コード16)は、例えば、タイヤ周方向に対して±10°以内の角度で配列していることが好ましい。これによりタイヤの周方向での拘束性を高め、耐久性能を向上させることが可能である。有機繊維コード16は、本実施形態では、横断面が円形であるが、円形のものに限定されるものではなく、横断面が楕円形、多角形状など、他の形状のものでも良い。
【0054】
有機繊維コード16(ポリエチレンテレフタレート繊維コードを含む有機繊維コード16)を構成するポリエチレンテレフタレート(PET)は、合成繊維でも良く、バイオマス由来の繊維であっても良い。また、ライフサイクルアセスメントの観点から、リサイクル、再生材料由来であることが望ましい。また、これらの繊維は合成繊維、バイオマス繊維、リサイクル/再生繊維の単一成分で形成されていても良く、これらを撚り合わせたハイブリッドコード、それぞれのフィラメントを合わせたマルチフィラメントを用いたコード、それぞれの成分が化学的に結合した化学構造を有するコードの何れであっても良い。
【0055】
有機繊維コード16は、ポリエチレンテレフタレート繊維コード(PETコード)のみからなるものでも、ポリアミド繊維、セルロース繊維などの他の有機繊維からなるコードとのハイブリッドコードであっても良い。
【0056】
前記PETコードがバイオマス由来のPETコードである場合、例えば、バイオマス由来のテレフタル酸やエチレングリコールを用いたバイオマスPETコードを好適に用いることができる。
【0057】
前記バイオマスPETコードは、バイオエタノールやフルフラール類、カレン類、シメン類、テルペン類などから変換、もしくは各種動植物由来の化合物から変換、微生物等から直接発酵製造したバイオマステレフタル酸、バイオマスエチレングリコールなどから得ることが可能である。
【0058】
ポリアミド繊維としては、例えば、脂肪族ポリアミド、半芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミドが挙げられる。
【0059】
脂肪族ポリアミドは、直鎖の炭素鎖がアミド結合により繋がった骨格を有するポリアミドであり、ナイロン4(PA4)、ナイロン410(PA410)、ナイロン6(PA6)、ナイロン66(PA66)、ナイロン610(PA610)、ナイロン10(PA10)、ナイロン1010(PA1010)、ナイロン1012(PA1012)、ナイロン11(PA11)、などを挙げることが出来る。中でも部分的又は完全にバイオマス由来の材料で得られやすい観点からはナイロン4、ナイロン410、ナイロン610、ナイロン10、ナイロン1010、ナイロン11などが挙げられる。
【0060】
ナイロン6、ナイロン66としては、従来の化学合成由来のカプロラクタムを開環重合させたもの、ヘキサメチレンジアミン、アジピン酸を縮合重合させたもののほか、バイオ由来のシクロヘキサンを出発原料としてバイオカプロラクタムもしくは、バイオアジピン酸、バイオヘキサメチレンジアミンを製造し、それらを用いたナイロン6、もしくはナイロン66を用いても良い。また、前記したバイオ原料はグルコースのような糖などから得たものであっても良い。これらのナイロン6、ナイロン66は従来用いられてきたものと同様の強度を備えると考えられる。
【0061】
ナイロン4としては、バイオ発酵由来のグルタミン酸から、γ-アミノ酪酸に変換したのちに得られる2-ピロリドンを原料としたものが代表として挙げられるが、これに限られない。ナイロン4は、熱的・機械的安定性が良好であり、高分子構造設計が容易という特徴を有しているため、タイヤの性能、強度向上に寄与するため、好適に用いることが可能である。
【0062】
ナイロン410、ナイロン610、ナイロン1010、ナイロン1012、ナイロン11等はひまし油(トウゴマ)から得られるリシノール酸などを原料として得ることが出来る。具体的にはひまし油から得た、セバシン酸、ドデカン二酸と任意のジアミン化合物を縮合重合することにより、ナイロン410、ナイロン610、ナイロン1010を得ることができ、ひまし油から得た11-アミノウンデカン酸を縮合重合することによりナイロン11を得ることが可能である。
【0063】
半芳香族ポリアミドは、分子鎖の一部に芳香環構造を有するポリアミドであり、例えば、ナイロン4T(PA4T)、ナイロン6T(PA6T)、ナイロン10T(PA10T)を挙げることが出来る。
【0064】
ナイロン4T、ナイロン6T、ナイロン10Tはジカルボン酸として、テレフタル酸を用い、それぞれ任意の炭素数のジアミン化合物と縮合重合を行うことにより得ることが可能である。その際、前述のバイオマス由来のテレフタル酸を用いてこれらのナイロン材料を得ることも可能である。これらは分子鎖内に剛直な環状構造を有する為、耐熱性などの観点で優れる。
【0065】
また、上記した脂肪族ポリアミド、半芳香族ポリアミドとして、リジン由来の1,5-ペンタンジアミンをジカルボン酸類と重合したポリアミド5X(Xはジカルボン酸由来の炭素数であり、整数もしくはテレフタル酸を表すT)を挙げることが出来る。
【0066】
全芳香族ポリアミドとしては芳香環がアミド結合により繋がった骨格を有するポリアミドであり、ポリパラフェニレンテレフタルアミドなどを挙げることができる。全芳香族ポリアミドも前述の脂肪族ポリアミド、半芳香族ポリアミドと同様に、バイオマス由来のテレフタル酸とフェニレンジアミンを結合させることにより得ても良い。
【0067】
セルロース繊維としては、木材パルプ等の植物素材から製造される、レーヨン、ポリノジック、キュプラ、アセテート、リヨセル、モダール等を挙げることができる。これらセルロース系繊維は、原料がカーボンニュートラルであるだけでなく、生分解性であり使用後焼却しても有害ガスが出ない等の優れた環境性能を有するため好ましい。上記の中でも、工程の効率、環境への優しさ、機械強度のバランスから、レーヨン、ポリノジック、リヨセルが特に好ましい。
【0068】
また、上記したコードは、合成、バイオマス由来を問わず、飲料用ボトルや衣料品などの使用済みのものから回収、精製したものを再度紡糸することにより得られたリサイクルコードであっても良い。
【0069】
有機繊維コードは、1本以上のフィラメントを撚り合わせることにより形成されてよい。例えば、1100デシテックスのマルチフィラメントをそれぞれ2本合わせて(言い換えれば、1100/2デシテックス)、48回/10cmの下撚りをかけた後、この下撚コード2本を合せて下撚と反対又は同方向に同数の上撚をかけたもの、1670デシテックスのマルチフィラメントをそれぞれ2本合わせて(言い換えれば、1670/2デシテックス)、40回/10cmの撚りをかけた後、この下撚コード2本を合せて上撚をかけたものなどを使用することが出来る。
【0070】
また、有機繊維コードは、被覆層との良好な接着性を確保する観点から、予め接着層が塗布された処理をされていることが好ましい。接着層としては公知のものが使用でき、例えばレゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)による処理のほか、ソルビトールポリグリシジルエーテルとブロックイソシアネートとを含む接着剤組成物などによりエポキシ処理した後、RFL処理したものや、ハロヒドリン化合物とブロックイソシアネート化合物とゴムラテックスとを含む接着剤組成物により処理したもの等が使用可能である。
【0071】
レゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)は、例えば、特開昭48-11335号公報(その全体が本願に引用として組み込まれる)に記載されているように、天然ゴム及び/又は合成ゴムラテックスと、フェノール-ホルムアルデヒドとレゾルシノールとの共縮合物とを含む接着剤組成物などが挙げられる。このような接着剤組成物は、例えば、アルカリ性触媒の存在下でフェノールとホルムアルデヒドとを縮合する工程と、水性フェノール-ホルムアルデヒド樹脂溶液とレゾルシノールとを共重合する工程と、生成したフェノール-ホルムアルデヒド-レゾルシノール樹脂溶液とラテックスゴムとを混合する工程とを含む製造方法により製造できる。
【0072】
なお、合成ゴムラテックスとしては、ブタジエン重合体ラテックス、スチレン/ブタジエン共重合体ラテックス、イソプレン重合体ラテックス、ブタジエン/アクリロニトリル共重合体ラテックス、ブタジエン/ビニルピリジン重合体ラテックス、ブタジエン/ビニルピリジン/スチレン共重合体ラテックスなどが挙げられる。
【0073】
上記レゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)からなる接着層は、RFL接着剤を付与すること(上記コードをRFL液に浸漬(DIP:ディッピング)する方法など)により、形成できる。上記RFL接着剤は、通常、撚糸して繊維コードを得た後に付着されるが、撚糸の前又は途中に行ってもよい。
【0074】
上記RFL接着剤の組成は特に限定されず、適宜選択すればよいが、なかでも、レゾルシン0.1~10質量%、ホルマリン0.1~10質量%、及びラテックス1~28質量%を含む組成物であることが好ましく、レゾルシン0.5~3質量%、ホルマリン0.5~3質量%、及びラテックス10~25質量%を含む組成物であることがより好ましい。
【0075】
加熱処理における加熱方法としては、例えば、RFL接着剤組成物が付着したコードを100~250℃で1~5分乾燥処理した後、さらに、150~250℃で1~5分で熱処理を行う方法などが挙げられる。乾燥処理後の熱処理の条件は、180~240℃で1~2分であることが望ましい。
【0076】
上記ソルビトールポリグリシジルエーテルとブロックイソシアネートとを含む接着剤組成物は、ソルビトールポリグリシジルエーテルと、ブロックイソシアネートとを含む組成物であれば特に限定されない。なかでも、ソルビトールポリグリシジルエーテルであって塩素含有量が9.6質量%以下であるエポキシ化合物と、ブロックイソシアネートとを含む組成物が望ましい。
【0077】
ソルビトールポリグリシジルエーテルとしては、ソルビトールジグリシジルエーテル、ソルビトールトリグリシジルエーテル、ソルビトールテトラグリシジルエーテル、ソルビトールペンタグリシジルエーテル、ソルビトールヘキサグリシジルエーテル、又はこれらの混合物などが挙げられ、ソルビトールモノグリシジルエーテルが含まれていてもよい。ソルビトールポリグリシジルエーテルは、1分子中に多数のエポキシ基を有しており高い架橋構造を形成することができる。
【0078】
ソルビトールポリグリシジルエーテルの塩素含有量は、9.6質量%以下が好ましく、9.5質量%以下がより好ましく、9.4質量%以下が更に好ましく、9.3質量%以下が特に好ましい。該塩素含有量の下限は、特に限定されず、例えば、1質量%以上である。
なお、本発明において、ソルビトールポリグリシジルエーテルの塩素含有量は、JIS K 7243-3に記載の方法などにより求めることができる。
【0079】
ソルビトールポリグリシジルエーテルの塩素含有量は、エポキシ化合物を合成する際に使用するエピクロルヒドリンの量を削減すること等により低減できる。
【0080】
ブロックイソシアネートは、イソシアネート化合物とブロック剤との反応により生成し、ブロック剤由来の基により一時的に不活性化されている化合物であり、所定温度で加熱するとそのブロック剤由来の基が解離し、イソシアネート基を生成する。
【0081】
イソシアネート化合物としては、分子内に2個以上のイソシアネート基を有するもの等が挙げられる。
2個のイソシアネート基を有するジイソシアネート類としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、メタフェニレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ジフェニルエーテルジイソシアネート、ジフェニルプロパンジイソシアネート、ビフェニルジイソシアネート、及びこれらの異性体、アルキル置換体、ハロゲン化物、ベンゼン環への水素添加物等を使用できる。また、3個のイソシアネート基を有するトリイソシアネート類、4個のイソシアネート基を有するテトライソシアネート類、及びポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート等を使用できる。これらのイソシアネート化合物は、1種単独で又は2種以上併用することができる。中でも、トリレンジイソシアネート、メタフェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートが好ましい。
【0082】
ブロック剤としては、ε-カプロラクタム、δ-バレロラクタム、γ-ブチロラクタム、β-プロピオラクタム等のラクタム系;フェノール、クレゾール、レゾルシノール、キシレノール等のフェノール系;メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ベンジルアルコール等のアルコール系;ホルムアミドキシム、アセトアルドキシム、アセトキシム、メチルエチルケトキシム、ジアセチルモノオキシム、ベンゾフェノンオキシム、シクロヘキサノンオキシム等のオキシム系;マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸メチル、アセチルアセトン等の活性メチレン系等を挙げることができる。なかでも、ラクタム系、フェノール系、オキシム系ブロック剤が好ましい。
【0083】
上記ソルビトールポリグリシジルエーテルとブロックイソシアネートとを含む接着剤組成物において、ブロックイソシアネートの含有量は、ソルビトールポリグリシジルエーテル100質量部に対して、好ましくは50質量部以上、より好ましくは200質量部以上である。上限は、好ましくは500質量部以下、より好ましくは400質量部以下である。
【0084】
上記ソルビトールポリグリシジルエーテルとブロックイソシアネートとを含む接着剤組成物には、必要に応じて以下の任意成分が含まれていても良い。例えば、ソルビトールポリグリシジルエーテル以外のエポキシ化合物、ソルビトールポリグリシジルエーテルと共重合可能な樹脂、ブロックイソシアネート以外の硬化剤、有機増粘剤、酸化防止剤、光安定剤、接着性向上剤、補強剤、軟化剤、着色剤、レベリング剤、難燃剤、及び帯電防止剤等が挙げられる。
【0085】
ソルビトールポリグリシジルエーテル以外のエポキシ化合物として、例えば、エチレングリコールグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールSジグリシジルエーテル、ノボラックグリシジルエーテル、及びブロム化ビスフェノールAジグリシジルエーテル等のグリシジルエーテル;ヘキサヒドロフタル酸グリシジルエステル、及びダイマー酸グリシジルエステル等のグリシジルエステル;トリグリシジルイソシアヌレート、グリシジルヒダントイン、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルパラアミノフェノール、トリグリシジルメタアミノフェノール、ジグリシジルアニリン、ジグリシジルトルイジン、テトラグリシジルメタキシレンジアミン、ジグリシジルトリブロムアニリン、及びテトラグリシジルビスアミノメチルシクロヘキサン等のグリシジルアミン;並びに3,4-エポキシシクロヘキシルメチルカルボキシレート、エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化大豆油等の脂環族あるいは脂肪族エポキサイド等が挙げられる。
【0086】
上記ソルビトールポリグリシジルエーテルとブロックイソシアネートとを含む接着剤組成物による処理としては、RFLに含まれる各種成分をコードに付着させるために行われる処理、及び必要に応じてその後の加熱処理を含む処理などが挙げられる。
【0087】
付着方法としては、例えば、ローラーを使った塗布、ノズルからの噴霧、浴液(接着剤組成物)への浸漬等任意の方法を用いることができる。均一に付着させ、かつ余分な接着剤を除去する観点から、浸漬による付着が好ましい。
【0088】
また、コードへの付着量を調整するために、圧接ローラーによる絞り、スクレイパー等によるかき落とし、空気吹き付けによる吹き飛ばし、吸引、ビーターによる叩き等の手段をさらに採用してもよい。
【0089】
コードへの付着量は、好ましくは1.0質量%以上、より好ましくは1.5質量%以上であり、また、好ましくは3.0質量%以下、より好ましくは2.5質量%以下である。
なお、コードへの付着量は、コード100質量部に対して、付着される上記RFL接着剤中の固形分の量である。
【0090】
上記ソルビトールポリグリシジルエーテルとブロックイソシアネートとを含む接着剤組成物の全固形分濃度は、好ましくは0.9質量%以上、より好ましくは14質量%以上であり、また、好ましくは29質量%以下、より好ましくは23質量%以下である。
【0091】
上記ソルビトールポリグリシジルエーテルとブロックイソシアネートとを含む接着剤組成物には、レゾルシン、ホルマリン、ゴムラテックスの他に、加硫調整剤、亜鉛華、酸化防止剤、消泡剤等を添加してもよい。
【0092】
加熱処理における加熱方法としては、例えば、RFL接着剤組成物が付着した補強材(有機繊維コード)16を100~250℃で1~5分乾燥処理した後、さらに、150~250℃で1~5分で熱処理を行う方法などが挙げられる。乾燥処理後の熱処理の条件は、180~240℃で1~2分であることが望ましい。
【0093】
上記ハロヒドリン化合物とブロックイソシアネート化合物とゴムラテックスとを含む接着剤組成物はこれらの成分を含むものであれば特に限定されないが、ハロヒドリン化合物、ブロックイソシアネート化合物及びゴムラテックスを含み、かつレゾルシン及びホルムアルデヒドを含まない接着剤組成物が望ましい。
【0094】
ハロヒドリン化合物としては、ポリオール化合物とエピハロヒドリン化合物(ハロヒドリンエーテル)と反応させて得られる化合物などが挙げられる。
ポリオール化合物とは、分子内に2つ以上のヒドロキシル基を有する化合物であり、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのグリコール、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、酒石酸などのヒドロキシル酸、グリセリン酸、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトールなどが挙げられる。
エピハロヒドリン化合物としては、例えば、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリンなどが挙げられる。
【0095】
ハロヒドリン化合物としては、例えば、フルオロアルコール化合物、クロロヒドリン化合物、ブロモヒドリン化合物、ヨードヒドリン化合物などが挙げられる。なかでも、ハロゲン化ソルビトール、ハロゲン化グリセロールが好ましい。
【0096】
ハロヒドリン化合物100質量%中のハロゲン含有量は、5.0~15.0質量%が好ましく、7.0~13.0質量%がより好ましく、9.0~12.0質量%が更に好ましい。
【0097】
ブロックイソシアネート化合物は、例えば、前述のブロックイソシアネートと同様の化合物が挙げられる。また、ゴムラテックスは、前述のゴムラテックスと同様のものが挙げられる。
【0098】
上記ハロヒドリン化合物とブロックイソシアネート化合物とゴムラテックスとを含む接着剤組成物は、ハロヒドリン化合物が10.0~30.0質量部、ブロックイソシアネート化合物10.0~30.0質量部、及びゴムラテックス80.0~240.0質量部を含むことが望ましい。そして、当該接着剤組成物は、レゾルシン及びホルムアルデヒドを含まないことが望ましい。
【0099】
上記ハロヒドリン化合物とブロックイソシアネート化合物とゴムラテックスとを含む接着剤組成物からなる接着剤層は、該接着剤組成物を使用して、コードの表面上に形成される。該接着剤層は、例えば、浸漬、ブラッシング、鋳造、噴霧、ロールコーティング、ナイフコーティングなどによって形成されるが、これらに限定されない。
【0100】
図3は、トレッド部2の拡大図である。
タイヤ1は、トレッド部2の内部に埋設されるベルト層7、ベルト層7のタイヤ半径方向外側に有機繊維コード16を備えたベルト補強層15が設けられ、トレッド部2は、周方向主溝20で区画されている。
【0101】
ベルト補強層15における、ベルト補強層コードのタイヤ半径方向外側表面から、ベルト補強層のタイヤ半径方向外側界面までの厚みFは、好ましくは0.04mm以上、より好ましくは0.05mm以上、更に好ましくは0.06mm以上であり、また、好ましくは0.16mm以下、より好ましくは0.10mm以下、更により好ましくは0.09mm以下、更に好ましくは0.08mm以下である。上記範囲内であると、効果が好適に得られる。
なお、ベルト補強層コードのタイヤ半径方向外側表面からベルト補強層のタイヤ半径方向外側界面までの厚みFは、被覆ゴムで被覆された有機繊維コードで形成されたベルト補強層のタイヤ半径方向外側における被覆ゴム層の厚みであり、具体的には、タイヤを半径方向に切り出した断面セクションにおいて、ビード部間の幅を正規リム幅に合わせて固定した状態で、赤道面上のベルト補強層のタイヤ半径方向外側界面から、ベルト補強層のコードのタイヤ半径方向外側表面までの距離(mm)を測定した値である。
【0102】
ベルト補強層コードのタイヤ半径方向外側表面からベルト補強層のタイヤ半径方向外側界面までの厚みF(mm)、前記有機繊維コード16の100℃における2.0cN/dtex負荷時の弾性率A(cN/(tex・%))の積(F×A)は0.28以下であることが望ましい。
前記積(F×A)は、好ましくは0.25以下、より好ましくは0.22以下、更に好ましくは0.18以下、特に好ましくは0.16以下、最も好ましくは0.14以下である。下限は特に限定されないが、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.08以上、更に好ましくは0.10以上、より更に好ましくは0.13以上である。上記範囲内であると、効果が好適に得られる。ポリエチレンテレフタレート繊維コードも同様の範囲が望ましい。
【0103】
トレッド部2内のトレッド(トレッドゴム)は、厚みTが18.0mm以下であることが望ましい。好ましくは15.0mm以下、より好ましくは12.0mm以下、更に好ましくは11.0mm以下、特に好ましくは10.5mm以下である。下限は、好ましくは5.0mm以上、より好ましくは7.0mm以上、更に好ましくは8.0mm以上である。上記範囲内であると、効果が好適に得られる。
なお、トレッドの厚みTとは、トレッドのタイヤ半径方向断面の赤道面上における厚さであり、具体的には、タイヤの回転軸を含む平面で切った断面において、赤道面上におけるトレッド表面からベルト補強層までの距離である。なお、タイヤ赤道面上に溝を有する場合は、該溝のタイヤ半径方向最表面側の端部間を繋いだ直線と、赤道面の交点からの直線距離である。
【0104】
トレッドの厚みT(mm)、前記有機繊維コード16の100℃における2.0cN/dtex負荷時の弾性率A(cN/(tex・%))の積(T×A)は、45以下であることが望ましい。
前記積(T×A)は、好ましくは42以下、より好ましくは40以下、更に好ましくは35以下、より更に好ましくは34以下、より更に好ましくは33以下、より更に好ましくは30以下、より更に好ましくは27以下、特に好ましくは26以下である。下限は特に限定されないが、好ましくは10以上、より好ましくは15以上、更に好ましくは18以上である。上記範囲内であると、効果が好適に得られる。ポリエチレンテレフタレート繊維コードも同様の範囲が望ましい。
【0105】
トレッドの厚みT(mm)×2.0cN/dtex負荷時の弾性率Aの積(T×A)を所定以下、特に35以下にすることで、上記作用効果がより発揮されるメカニズムは明らかではないが、以下のように考えられる。トレッドの厚みを薄くするとトレッド部での発熱、及び蓄熱を抑制し、タイヤの内圧が上昇し、トレッドの形状変化が生じることを抑制しやすくなると考えられる。また、トレッド部に働く遠心力を小さくすることができるため、形状変化が生じ難くなると考えられる。そのため、トレッドの厚みTとベルト補強層のコードの弾性率Aとの積を一定以下とすることで、トレッド部の形状変化を抑制しつつ、トレッド部の接地性を向上させることが可能となるため、高速走行時の耐久性能及び乗り心地性能の総合性能が向上すると推察される。
【0106】
タイヤ1は、ベルト層7及びベルト補強層15間の距離は、好ましくは0.20mm以上、より好ましくは0.21mm以上、更に好ましくは0.24mm以上、より更に好ましくは0.25mm以上、より更に好ましくは0.26mm以上であり、また、好ましくは0.45mm以下、より好ましくは0.42mm以下、更に好ましくは0.40mm以下、より更に好ましくは0.27mm以下である。上記範囲内であると、効果が好適に得られる。
なお、本発明において、ベルト層及びベルト補強層間の距離とは、ベルト層内のコードのタイヤ半径方向外側表面からベルト補強層内のベルト補強層コードのタイヤ半径方向内側表面までの直線距離である。当該距離は、タイヤを半径方向に切り出した断面セクションにおいて、ビード部の幅を正規リム幅に合わせて固定した状態で、タイヤ赤道面上におけるベルト補強層に隣接したベルト層内のコードのタイヤ半径方向外側表面とベルト補強層内のコードのタイヤ半径方向内側表面までの直線距離である。
【0107】
ベルト層及びベルト補強層間の距離を所定範囲、特に0.25~0.40mmにすることで、上記作用効果がより発揮されるメカニズムは明らかではないが、ゲージを確保し、高速耐久性を向上させることができるから、高速走行時の耐久性能及び乗り心地性能の総合性能が向上すると推察される。
【0108】
ベルト層の被覆層厚みBは、好ましくは0.15mm以上、より好ましくは0.20mm以上、更に好ましくは0.22mm以上であり、また、好ましくは0.50mm以下、より好ましくは0.40mm以下、更に好ましくは0.35mm以下、より更に好ましくは0.27mm以下、より更に好ましくは0.25mm以下である。上記範囲内であると、効果が好適に得られる。
なお、ベルト層の被覆層厚みBは、ベルト層の片側の被覆層の厚みであり、具体的には、タイヤを半径方向に切り出した断面セクションにおいて、ビード部間の幅を正規リム幅に合わせて固定した状態で、赤道面上のベルト層のタイヤ半径方向外側界面から、ベルト層のコードまでの被覆層の厚み(mm)を測定した値である。なお、ベルト層を2層以上備えるタイヤにおいては、隣接したベルト層のタイヤ半径方向のコード間距離を求め、その値を1/2にした値をベルト層の被覆層厚みとすることができる。
【0109】
タイヤ1は、トレッド溝底21からベルト補強層15までの距離L(mm)が1.0mm以上であることが望ましい。
Lは、好ましくは1.5mm以上、より好ましくは2.0mm以上、更に好ましくは2.2mm以上、特に好ましくは2.5mm以上である。上限は、好ましくは5.0mm以下、より好ましくは4.5mm以下、更に好ましくは4.0mm以下、より更に好ましくは3.0mm以下である。上記範囲内であると、効果が好適に得られる。
【0110】
トレッド溝底21からベルト補強層15までの距離L(mm)、前記有機繊維コード16の100℃における2.0cN/dtex負荷時の弾性率A(cN/(tex・%))の積(L×A)は、13.5以下であることが望ましい。
前記積(L×A)は、好ましくは12.6以下、より好ましくは12.0以下、更に好ましくは11.3以下、より更に好ましくは10.0以下である。下限は特に限定されないが、好ましくは4.0以上、より好ましくは6.3以上、更に好ましくは6.5以上、より更に好ましくは7.2以上、より更に好ましくは7.5以上、より更に好ましくは8.1以上、より更に好ましくは8.4以上、より更に好ましくは8.5以上、より更に好ましくは8.8以上である。上記範囲内であると、効果が好適に得られる。ポリエチレンテレフタレート繊維コードも同様の範囲が望ましい。
【0111】
なお、本発明において、トレッド溝底21とは、周方向主溝の深さが最も深い部分であり、周方向主溝におけるタイヤ半径方向の最も内側に位置する表面を指す。
【0112】
本発明において、トレッド溝底21からベルト補強層15までの距離L(mm)とは、トレッド溝底21からベルト補強層15のタイヤ半径方向外側表面23までの距離を指す。当該距離Lは、タイヤを半径方向に切り出した断面セクションにおいて、ビード部の幅を正規リム幅に合わせて固定した状態で、最もタイヤ赤道面に近い周方向主溝の溝底とベルト補強層15のタイヤ半径方向外側表面までの距離であり、ベルト補強層15のタイヤ半径方向外側表面の法線に沿って計測される値である。
【0113】
なお、本明細書において、特に言及がない限り、タイヤの各寸法(ベルト層及びベルト補強層の厚み、ベルト層及びベルト補強層間の距離などの寸法)及び角度は、タイヤを半径方向に切り出した断面セクションで測定され、測定の際、タイヤのビード部間の幅を正規リム幅に合わせて固定した状態で測定される。また、ベルト層7、ベルト補強層15中のコードがタイヤ周方向となす角度、ベルト補強層15中の有機繊維コード16のフィラメント角度などを測定する際は、該断面セクションのトレッド部を剥離させ、タイヤの半径方向から観察することにより、確認することが可能である。
【0114】
ベルト補強層15において、有機繊維コード16を被覆するベルト補強層用被覆ゴム組成物(補強ゴム17)は、ゴム成分を含む。
【0115】
ベルト補強層用被覆ゴム組成物において、ゴム成分は、架橋に寄与する成分であり、一般的に、重量平均分子量(Mw)が1万以上のポリマーで、アセトンにより抽出されないポリマー成分がゴム成分に該当する。前記ゴム成分は、常温(25℃)で固体状態である。
【0116】
ゴム成分の重量平均分子量は、好ましくは5万以上、より好ましくは15万以上、更に好ましくは20万以上であり、また、好ましくは200万以下、より好ましくは150万以下、更に好ましくは100万以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0117】
なお、本明細書において、重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)(東ソー(株)製GPC-8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMULTIPORE HZ-M)による測定値を基に標準ポリスチレン換算により求めることができる。
【0118】
ベルト補強層用被覆ゴム組成物に使用可能なゴム成分としては、例えば、ジエン系ゴムを使用できる。ジエン系ゴムとしては、イソプレン系ゴム、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)などが挙げられる。また、ブチル系ゴム、フッ素ゴムなども挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、効果がより得られる観点から、イソプレン系ゴム、BR、SBR、が好ましく、イソプレン系ゴムがより好ましい。また、これらのゴム成分は後述の変性処理、水素添加処理が行われていても良く、オイル、樹脂、液状ゴム成分などにより伸展された、伸展ゴムを用いても良い。
【0119】
上記ジエン系ゴムは、非変性ジエン系ゴムでもよいし、変性ジエン系ゴムでもよい。
変性ジエン系ゴムとしては、シリカ等の充填剤と相互作用する官能基を有するジエン系ゴムであればよく、例えば、ジエン系ゴムの少なくとも一方の末端を、上記官能基を有する化合物(変性剤)で変性された末端変性ジエン系ゴム(末端に上記官能基を有する末端変性ジエン系ゴム)や、主鎖に上記官能基を有する主鎖変性ジエン系ゴムや、主鎖及び末端に上記官能基を有する主鎖末端変性ジエン系ゴム(例えば、主鎖に上記官能基を有し、少なくとも一方の末端を上記変性剤で変性された主鎖末端変性ジエン系ゴム)や、分子中に2個以上のエポキシ基を有する多官能化合物により変性(カップリング)され、水酸基やエポキシ基が導入された末端変性ジエン系ゴム等が挙げられる。
【0120】
上記官能基としては、例えば、アミノ基、アミド基、シリル基、アルコキシシリル基、イソシアネート基、イミノ基、イミダゾール基、ウレア基、エーテル基、カルボニル基、オキシカルボニル基、メルカプト基、スルフィド基、ジスルフィド基、スルホニル基、スルフィニル基、チオカルボニル基、アンモニウム基、イミド基、ヒドラゾ基、アゾ基、ジアゾ基、カルボキシル基、ニトリル基、ピリジル基、アルコキシ基、水酸基、オキシ基、エポキシ基等が挙げられる。なお、これらの官能基は、置換基を有していてもよい。なかでも、アミノ基(好ましくはアミノ基が有する水素原子が炭素数1~6のアルキル基に置換されたアミノ基)、アルコキシ基(好ましくは炭素数1~6のアルコキシ基)、アルコキシシリル基(好ましくは炭素数1~6のアルコキシシリル基)が好ましい。
【0121】
イソプレン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、改質NR、変性NR、変性IR等が挙げられる。NRとしては、例えば、SIR20、RSS♯3、TSR20等、ゴム工業において一般的なものを使用できる。IRとしては、特に限定されず、例えば、IR2200等、ゴム工業において一般的なものを使用できる。改質NRとしては、脱タンパク質天然ゴム(DPNR)、高純度天然ゴム(UPNR)等、変性NRとしては、エポキシ化天然ゴム(ENR)、水素添加天然ゴム(HNR)、グラフト化天然ゴム等、変性IRとしては、エポキシ化イソプレンゴム、水素添加イソプレンゴム、グラフト化イソプレンゴム等、が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0122】
ベルト補強層用被覆ゴム組成物において、ゴム成分100質量%中のイソプレン系ゴムの含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは50質量%以上、更に好ましくは75質量%以上、特に好ましくは85質量%以上であり、100質量%でもよい。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0123】
BRは特に限定されず、例えば、高シス含量のハイシスBR、シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含有するBR、希土類系触媒を用いて合成したBR(希土類BR)等を使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、BRは、シス含量が90質量%以上のハイシスBRを含むことが好ましい。該シス含量は、95質量%以上がより好ましい。なお、シス含量は、赤外吸収スペクトル分析法によって測定できる。
BRのシス含量は、BRが1種である場合、当該BRのシス含量を意味し、複数種である場合、平均シス含量を意味する。
BRの平均シス含量は、{Σ(各BRの含有量×各BRのシス含量)}/全BRの合計含有量で算出でき、例えば、ゴム成分100質量%中、シス含量:90質量%のBRが20質量%、シス含量:40質量%のBRが10質量%である場合、BRの平均シス含量は、73.3質量%(=(20×90+10×40)/(20+10))である。
【0124】
また、BRは、非変性BR、変性BRのいずれも使用可能である。変性BRとしては、変性ジエン系ゴムと同様の官能基が導入された変性BRが挙げられる。また、BRは、水素添加ブタジエン重合体(水添BR)も使用可能である。
【0125】
BRとしては、例えば、宇部興産(株)、JSR(株)、旭化成(株)、日本ゼオン(株)等の製品を使用できる。
【0126】
ベルト補強層用被覆ゴム組成物がBRを含む場合、ゴム成分100質量%中のBRの含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上である。上限は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0127】
SBRとしては特に限定されず、例えば、乳化重合スチレンブタジエンゴム(E-SBR)、溶液重合スチレンブタジエンゴム(S-SBR)等を使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0128】
SBRのスチレン含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは25質量%以上である。該スチレン含有量は、好ましくは45質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは35質量%以下である。上記範囲内にすることで、高速走行時の操縦安定性が改善される傾向がある。
なお、本明細書において、スチレン含有量は、H-NMR測定によって測定できる。
SBRのスチレン含有量は、SBRが1種である場合、当該SBRのスチレン含有量を意味し、複数種である場合、平均スチレン含有量を意味する。
SBRの平均スチレン含有量は、{Σ(各SBRの含有量×各SBRのスチレン含有量)}/全SBRの合計含有量で算出でき、例えば、ゴム成分100質量%中、スチレン含有量40質量%のSBRが85質量%、スチレン含有量25質量%のSBRが5質量%である場合、SBRの平均スチレン含有量は、39.2質量%(=(85×40+5×25)/(85+5))である。
【0129】
SBRのビニル結合量は、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは7質量%以上である。該ビニル結合量は、好ましくは25質量%以下、より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは13質量%以下である。上記範囲内にすることで、高速走行時の操縦安定性が改善される傾向がある。
なお、本明細書において、ビニル結合量(1,2-結合ブタジエン単位量)は、赤外吸収スペクトル分析法によって測定できる。
SBRのビニル結合量(1,2-結合ブタジエン単位量)はSBR中におけるブタジエン部の総質量を100としたときのビニル結合の割合であり(単位:質量%)、ビニル量[質量%]+シス量[質量%]+トランス量[質量%]=100[質量%]となる。SBRが1種である場合、当該SBRのビニル結合量を意味し、複数種である場合、平均ビニル結合量を意味する。
SBRの平均ビニル結合量は、Σ{各SBRの含有量×(100[質量%]-各SBRのスチレン含有量[質量%])×各SBRのビニル結合量[質量%]}/Σ{各SBRの含有量×(100[質量%]-各SBRのスチレン含有量[質量%])}で算出でき、例えば、ゴム成分100質量部中、スチレン含有量40質量%、ビニル結合量30質量%のSBRが75質量部、スチレン含有量25質量%、ビニル結合量20質量%のSBRが15質量部、残り10質量部がSBR以外である場合、SBRの平均ビニル結合量は、28質量%(={75×(100[質量%]-40[質量%])×30[質量%]+15×(100[質量%]-25[質量%])×20[質量%]}/{75×(100[質量%]-40[質量%])+15×(100[質量%]-25[質量%])})である。
【0130】
SBRは、非変性SBR、変性SBRのいずれも使用可能である。変性SBRとしては、変性ジエン系ゴムと同様の官能基が導入された変性SBRが挙げられる。また、SBRとして、水素添加スチレン-ブタジエン共重合体(水添SBR)も使用可能である。
【0131】
SBRとしては、例えば、住友化学(株)、JSR(株)、旭化成(株)、日本ゼオン(株)等により製造・販売されているSBRを使用できる。
【0132】
ベルト補強層用被覆ゴム組成物がSBRを含む場合、ゴム成分100質量%中のSBRの含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上である。上限は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0133】
ベルト補強層用被覆ゴム組成物は、フィラー(充填材)を含んでもよい。
フィラー(充填材)としては特に限定されず、ゴム分野で公知の材料を使用でき、例えば、カーボンブラック、シリカ、炭酸カルシウム、タルク、アルミナ、クレイ、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、マイカなどの無機フィラー;難分散性フィラー等が挙げられる。
【0134】
ベルト補強層用被覆ゴム組成物において、フィラーの合計含有量(シリカ、カーボンブラックなどのフィラーの総量)は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは20質量部以上、更に好ましくは40質量部以上、特に好ましくは50質量部以上である。該含有量の上限は、好ましくは120質量部以下、より好ましくは100質量部以下、更に好ましくは80質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0135】
フィラー(充填材)のなかでも、カーボンブラックなどの炭素由来フィラー(炭素含有フィラー)、シリカが好ましい。
【0136】
ベルト補強層用被覆ゴム組成物に使用可能なカーボンブラックとしては、特に限定されないが、N134、N110、N220、N234、N219、N339、N330、N326、N351、N550、N762等が挙げられる。市販品としては、旭カーボン(株)、キャボットジャパン(株)、東海カーボン(株)、三菱化学(株)、ライオン(株)、日鉄カーボン(株)、コロンビアカーボン社等の製品を使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、従来の鉱物油などを原料としたカーボンブラックのほか、リグニンなどのバイオマス材料を原料としたカーボンブラックを用いても良い。
【0137】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(NSA)は、30m/g以上が好ましく、50m/g以上がより好ましく、70m/g以上が更に好ましい。また、上記NSAは、200m/g以下が好ましく、150m/g以下がより好ましく、130m/g以下が更に好ましく、120m/g以下が特に好ましい。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
なお、カーボンブラックの窒素吸着比表面積は、JIS K6217-2:2001によって求められる。
【0138】
ベルト補強層用被覆ゴム組成物がカーボンブラックを含む場合、カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは20質量部以上、更に好ましくは40質量部以上、特に好ましくは50質量部以上である。該含有量の上限は、好ましくは120質量部以下、より好ましくは100質量部以下、更に好ましくは80質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0139】
使用可能なシリカとしては、乾式法シリカ(無水シリカ)、湿式法シリカ(含水シリカ)などが挙げられる。なかでも、シラノール基が多いという理由から、湿式法シリカが好ましい。市販品としては、デグッサ社、ローディア社、東ソー・シリカ(株)、ソルベイジャパン(株)、(株)トクヤマ等の製品を使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのシリカのほか、もみ殻などのバイオマス材料を原料としたシリカを用いても良い。
【0140】
シリカの窒素吸着比表面積(NSA)は、好ましくは50m/g以上、より好ましくは100m/g以上、更に好ましくは150m/g以上、特に好ましくは180m/g以上、最も好ましくは190m/g以上である。また、シリカのNSAの上限は特に限定されないが、好ましくは350m/g以下、より好ましくは300m/g以下、更に好ましくは250m/g以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
なお、シリカのNSAは、ASTM D3037-93に準じてBET法で測定される値である。
【0141】
ベルト補強層用被覆ゴム組成物がシリカを含む場合、シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは20質量部以上、更に好ましくは40質量部以上、特に好ましくは50質量部以上である。該含有量の上限は、好ましくは120質量部以下、より好ましくは100質量部以下、更に好ましくは80質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0142】
ベルト補強層用被覆ゴム組成物がシリカを含む場合、更にシランカップリング剤を含むことが好ましい。
シランカップリング剤としては、特に限定されず、ゴム分野で公知のものが使用可能であり、例えば、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4-トリエトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)トリスルフィド、ビス(4-トリメトキシシリルブチル)トリスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4-トリエトキシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4-トリメトキシシリルブチル)ジスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2-トリエトキシシリルエチル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、などのスルフィド系、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシラン、Momentive社製のNXT、NXT-Zなどのメルカプト系、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシランなどのビニル系、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ系、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、などのグリシドキシ系、3-ニトロプロピルトリメトキシシラン、3-ニトロプロピルトリエトキシシランなどのニトロ系、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシランなどのクロロ系などがあげられる。市販品としては、デグッサ社、Momentive社、信越シリコーン(株)、東京化成工業(株)、アヅマックス(株)、東レ・ダウコーニング(株)等の製品を使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0143】
ベルト補強層用被覆ゴム組成物において、シランカップリング剤の含有量は、シリカ100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは3質量部以上、更に好ましくは5質量部以上、特に好ましくは7質量部以上である。該含有量の上限は、好ましくは50質量部以下、より好ましくは20質量部以下、更に好ましくは15質量部以下、特に好ましくは10質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0144】
難分散性フィラーとしては、例えば、ミクロフィブリル化植物繊維、短繊維状セルロース、ゲル状化合物等が挙げられる。なかでも、ミクロフィブリル化植物繊維が好ましい。
【0145】
上記ミクロフィブリル化植物繊維としては、良好な補強性が得られるという点から、セルロースミクロフィブリルが好ましい。セルロースミクロフィブリルとしては、天然物由来のものであれば特に制限されず、例えば、果実、穀物、根菜などの資源バイオマス、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、及びこれらを原料として得られるパルプや紙、布、農作物残廃物、食品廃棄物や下水汚泥などの廃棄バイオマス、稲わら、麦わら、間伐材などの未使用バイオマスの他、ホヤ、酢酸菌等の生産するセルロースなどに由来するものが挙げられる。これらのミクロフィブリル化植物繊維は、1種を用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0146】
なお、本明細書において、セルロースミクロフィブリルとは、典型的には、平均繊維径が10μm以下の範囲内であるセルロース繊維、より典型的には、セルロース分子の集合により形成されている平均繊維径500nm以下の微小構造を有するセルロース繊維を意味する。典型的なセルロースミクロフィブリルは、例えば、上記のような平均繊維径を有するセルロース繊維の集合体として形成されている。
【0147】
ベルト補強層用被覆ゴム組成物において、難分散性フィラーの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは3質量部以上、更に好ましくは5質量部以上である。該含有量の上限は、好ましくは50質量部以下、より好ましくは30質量部以下、更に好ましくは20質量部以下、特に好ましくは10質量部以下である。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0148】
ベルト補強層用被覆ゴム組成物には、可塑剤を配合してもよい。
可塑剤とは、ゴム成分に可塑性を付与する材料であり、例えば、液体可塑剤(常温(25℃)で液体状態の可塑剤)、樹脂(常温(25℃)で固体状態の樹脂)等が挙げられる。
【0149】
ベルト補強層用被覆ゴム組成物において、可塑剤の含有量(可塑剤の総量)は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは50質量部以下、より好ましくは30質量部以下、更に好ましくは10質量部以下、特に好ましくは5質量部以下であり、0質量部でもよい。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。なお、前述の伸展ゴムを用いる場合、その伸展ゴムに用いられた伸展成分量は可塑剤の含有量に含まれる。
【0150】
ベルト補強層用被覆ゴム組成物に使用可能な液体可塑剤(常温(25℃)で液体状態の可塑剤)としては特に限定されず、オイル、液状ポリマー(液状樹脂、液状ジエン系ポリマーなど)などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0151】
ベルト補強層用被覆ゴム組成物において、液体可塑剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは50質量部以下、より好ましくは30質量部以下、更に好ましくは10質量部以下、特に好ましくは5質量部以下であり、0質量部でもよい。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。なお、オイルの含有量も同様の範囲が好適である。
【0152】
オイルとしては、例えば、プロセスオイル、植物油、又はその混合物が挙げられる。プロセスオイルとしては、例えば、MES(Mild Extract Solvate)、DAE(Distillate Aromatic Extract)、TDAE(treated Distillate Aromatic Extract)、TRAE(treated Residual Aromatic Extract)、RAE(residual Aromatic Extract)などのパラフィン系プロセスオイル、アロマ系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイルなどを用いることができる。植物油としては、ひまし油、綿実油、あまに油、なたね油、大豆油、パーム油、やし油、落花生油、ロジン、パインオイル、パインタール、トール油、コーン油、こめ油、べに花油、ごま油、オリーブ油、ひまわり油、パーム核油、椿油、ホホバ油、マカデミアナッツ油、桐油等が挙げられる。市販品としては、出光興産(株)、三共油化工業(株)、ENEOS(株)、オリソイ社、H&R社、豊国製油(株)、昭和シェル石油(株)、富士興産(株)、日清オイリオグループ(株)等の製品を使用できる。なかでも、プロセスオイル(パラフィン系プロセスオイル、アロマ系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル等)、植物油が好ましい。またライフサイクルアセスメントの観点から上記したオイルとして、ゴム混合機やエンジンなどで用いられた潤滑油や調理店で使用された廃食用油を精製したものを用いても良い。
【0153】
液状樹脂としては、テルペン系樹脂(テルペンフェノール樹脂、芳香族変性テルペン樹脂を含む)、ロジン樹脂、スチレン系樹脂、C5系樹脂、C9系樹脂、C5/C9系樹脂、ジシクロペンタジエン(DCPD)樹脂、クマロンインデン系樹脂(クマロン、インデン単体樹脂を含む)、フェノール樹脂、オレフィン系樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂等が挙げられる。また、これらの水素添加物も使用可能である。
【0154】
液状ジエン系ポリマーとしては、25℃で液体状態の液状スチレンブタジエン共重合体(液状SBR)、液状ブタジエン重合体(液状BR)、液状イソプレン重合体(液状IR)、液状スチレンイソプレン共重合体(液状SIR)、液状スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体(液状SBSブロックポリマー)、液状スチレンイソプレンスチレンブロック共重合体(液状SISブロックポリマー)、液状ファルネセン重合体、液状ファルネセンブタジエン共重合体等が挙げられる。これらは、末端や主鎖が極性基で変性されていても構わない。また、これらの水素添加物も使用可能である。
【0155】
ベルト補強層用被覆ゴム組成物に使用可能な上記樹脂(常温(25℃)で固体状態の樹脂)としては、例えば、常温(25℃)で固体状態の芳香族ビニル重合体、クマロンインデン樹脂、クマロン樹脂、インデン樹脂、フェノール樹脂、ロジン樹脂、石油樹脂、テルペン系樹脂、アクリル系樹脂などが挙げられる。また、樹脂は、水添されていてもよい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、芳香族ビニル重合体、石油樹脂、テルペン系樹脂が好ましい。
【0156】
ベルト補強層用被覆ゴム組成物が上記樹脂を含有する場合、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは100質量部以下、より好ましくは30質量部以下、更に好ましくは10質量部以下、特に好ましくは5質量部以下であり、0質量部でもよい。上記範囲内であると、効果がより良好に得られる傾向がある。
【0157】
上記樹脂の軟化点は、60℃以上が好ましく、70℃以上がより好ましく、80℃以上が更に好ましい。上限は、160℃以下が好ましく、130℃以下がより好ましく、115℃以下が更に好ましい。上記範囲内にすることで、高速走行時の操縦安定性が改善される傾向がある。
なお、上記樹脂の軟化点は、JIS K6220-1:2001に規定される軟化点を環球式軟化点測定装置で測定し、球が降下した温度である。前記した樹脂の軟化点は通常、樹脂のガラス転移温度より50℃±5℃高い値となる。
【0158】
上記芳香族ビニル重合体は、芳香族ビニルモノマーを構成単位として含むポリマーである。例えば、α-メチルスチレン及び/又はスチレンを重合して得られる樹脂が挙げられ、具体的には、スチレンの単独重合体(スチレン樹脂)、α-メチルスチレンの単独重合体(α-メチルスチレン樹脂)、α-メチルスチレンとスチレンとの共重合体、スチレンと他のモノマーの共重合体などが挙げられる。
【0159】
上記クマロンインデン樹脂は、樹脂の骨格(主鎖)を構成する主なモノマー成分として、クマロン及びインデンを含む樹脂である。クマロン、インデン以外に骨格に含まれるモノマー成分としては、スチレン、α-メチルスチレン、メチルインデン、ビニルトルエンなどが挙げられる。
【0160】
上記クマロン樹脂は、樹脂の骨格(主鎖)を構成する主なモノマー成分として、クマロンを含む樹脂である。
【0161】
上記インデン樹脂は、樹脂の骨格(主鎖)を構成する主なモノマー成分として、インデンを含む樹脂である。
【0162】
上記フェノール樹脂としては、例えば、フェノールと、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、フルフラールなどのアルデヒド類とを酸又はアルカリ触媒で反応させることにより得られるポリマー等の公知のものを使用できる。なかでも、酸触媒で反応させることにより得られるもの(ノボラック型フェノール樹脂など)が好ましい。
【0163】
上記ロジン樹脂としては、天然ロジン、重合ロジン、変性ロジン、これらのエステル化合物、これらの水素添加物に代表されるロジン系樹脂等が挙げられる。
【0164】
上記石油樹脂としては、C5系樹脂、C9系樹脂、C5/C9系樹脂、ジシクロペンタジエン(DCPD)樹脂、これらの水素添加物などが挙げられる。なかでも、DCPD樹脂、水添DCPD樹脂が好ましい。
【0165】
上記テルペン系樹脂は、テルペンを構成単位として含むポリマーであり、例えば、テルペン化合物を重合して得られるポリテルペン樹脂、テルペン化合物と芳香族化合物とを重合して得られる芳香族変性テルペン樹脂などが挙げられる。また、これらの水素添加物も使用できる。
【0166】
上記ポリテルペン樹脂は、テルペン化合物を重合して得られる樹脂である。該テルペン化合物は、(Cの組成で表される炭化水素及びその含酸素誘導体で、モノテルペン(C1016)、セスキテルペン(C1524)、ジテルペン(C2032)などに分類されるテルペンを基本骨格とする化合物であり、例えば、α-ピネン、β-ピネン、ジペンテン、リモネン、ミルセン、アロオシメン、オシメン、α-フェランドレン、α-テルピネン、γ-テルピネン、テルピノレン、1,8-シネオール、1,4-シネオール、α-テルピネオール、β-テルピネオール、γ-テルピネオールなどが挙げられる。
【0167】
上記ポリテルペン樹脂としては、上述したテルペン化合物を原料とするピネン樹脂、リモネン樹脂、ジペンテン樹脂、ピネン/リモネン樹脂などが挙げられる。なかでも、ピネン樹脂が好ましい。ピネン樹脂は、通常、異性体の関係にあるα-ピネン及びβ-ピネンの両方を含んでいるが、含有する成分の違いにより、β-ピネンを主成分とするβ-ピネン樹脂と、α-ピネンを主成分とするα-ピネン樹脂とに分類される。
【0168】
上記芳香族変性テルペン樹脂としては、上記テルペン化合物及びフェノール系化合物を原料とするテルペンフェノール樹脂や、上記テルペン化合物及びスチレン系化合物を原料とするテルペンスチレン樹脂などが挙げられる。また、上記テルペン化合物、フェノール系化合物及びスチレン系化合物を原料とするテルペンフェノールスチレン樹脂も使用できる。なお、フェノール系化合物としては、例えば、フェノール、ビスフェノールA、クレゾール、キシレノールなどが挙げられる。また、スチレン系化合物としては、スチレン、α-メチルスチレンなどが挙げられる。
【0169】
上記アクリル系樹脂は、アクリル系モノマーを構成単位として含むポリマーである。例えば、カルボキシル基を有し、芳香族ビニルモノマー成分とアクリル系モノマー成分とを共重合して得られる、スチレンアクリル樹脂等のスチレンアクリル系樹脂などが挙げられる。なかでも、無溶剤型カルボキシル基含有スチレンアクリル系樹脂を好適に使用できる。
【0170】
上記無溶剤型カルボキシル基含有スチレンアクリル系樹脂とは、副原料となる重合開始剤、連鎖移動剤、有機溶媒などを極力使用せずに、高温連続重合法(高温連続塊重合法)(米国特許第4,414,370号明細書、特開昭59-6207号公報、特公平5-58005号公報、特開平1-313522号公報、米国特許第5,010,166号明細書、東亜合成研究年報TREND2000第3号p42-45等(それらの全体が本願に引用として組み込まれる)に記載の方法)により合成された(メタ)アクリル系樹脂(重合体)である。なお、本明細書において、(メタ)アクリルは、メタクリル及びアクリルを意味する。
【0171】
上記アクリル系樹脂を構成するアクリル系モノマー成分としては、例えば、(メタ)アクリル酸や、(メタ)アクリル酸エステル(2エチルヘキシルアクリレート等のアルキルエステル、アリールエステル、アラルキルエステルなど)、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミド誘導体などの(メタ)アクリル酸誘導体が挙げられる。なお、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸及びメタクリル酸の総称である。
【0172】
上記アクリル系樹脂を構成する芳香族ビニルモノマー成分としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルナフタレン、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、ジビニルナフタレンなどの芳香族ビニルが挙げられる。
【0173】
また、上記アクリル系樹脂を構成するモノマー成分として、(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリル酸誘導体、芳香族ビニルと共に、他のモノマー成分を使用してもよい。
【0174】
上記可塑剤としては、例えば、丸善石油化学(株)、住友ベークライト(株)、ヤスハラケミカル(株)、東ソー(株)、Rutgers Chemicals社、BASF社、アリゾナケミカル社、日塗化学(株)、(株)日本触媒、ENEOS(株)、荒川化学工業(株)、田岡化学工業(株)等の製品を使用できる。
【0175】
ベルト補強層用被覆ゴム組成物は、耐クラック性、耐オゾン性等の観点から、老化防止剤を含有することが好ましい。
【0176】
老化防止剤としては特に限定されないが、フェニル-α-ナフチルアミン等のナフチルアミン系老化防止剤;オクチル化ジフェニルアミン、4,4’-ビス(α,α’-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン等のジフェニルアミン系老化防止剤;N-イソプロピル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン等のp-フェニレンジアミン系老化防止剤;2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンの重合物等のキノリン系老化防止剤;2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、スチレン化フェノール等のモノフェノール系老化防止剤;テトラキス-[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン等のビス、トリス、ポリフェノール系老化防止剤などが挙げられる。なかでも、p-フェニレンジアミン系老化防止剤、キノリン系老化防止剤が好ましく、N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンの重合物がより好ましい。市販品としては、例えば、精工化学(株)、住友化学(株)、大内新興化学工業(株)、フレクシス社等の製品を使用できる。
【0177】
ベルト補強層用被覆ゴム組成物において、老化防止剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.2質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、更に好ましくは2.0質量部以上である。該含有量は、好ましくは7.0質量部以下、より好ましくは4.0質量部以下である。
【0178】
ベルト補強層用被覆ゴム組成物は、ステアリン酸を含むことが好ましい。
ベルト補強層用被覆ゴム組成物において、ステアリン酸の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5~10質量部、より好ましくは0.5~4質量部である。
【0179】
なお、ステアリン酸としては、従来公知のものを使用でき、例えば、日油(株)、花王(株)、富士フイルム和光純薬(株)、千葉脂肪酸(株)等の製品を使用できる。
【0180】
ベルト補強層用被覆ゴム組成物は、酸化亜鉛を含むことが好ましい。
ベルト補強層用被覆ゴム組成物において、酸化亜鉛の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5~10質量部、より好ましくは1~3質量部である。
【0181】
なお、酸化亜鉛としては、従来公知のものを使用でき、例えば、三井金属鉱業(株)、東邦亜鉛(株)、ハクスイテック(株)、正同化学工業(株)、堺化学工業(株)等の製品を使用できる。
【0182】
ベルト補強層用被覆ゴム組成物には、ワックスを配合してもよい。
ベルト補強層用被覆ゴム組成物において、ワックスの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5~10質量部、より好ましくは1~5質量部である。
【0183】
ワックスとしては特に限定されず、石油系ワックス、天然系ワックスなどが挙げられ、また、複数のワックスを精製又は化学処理した合成ワックスも使用可能である。これらのワックスは、単独で使用しても、2種類以上を併用してもよい。
【0184】
石油系ワックスとしては、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等が挙げられる。天然系ワックスとしては、石油外資源由来のワックスであれば特に限定されず、例えば、キャンデリラワックス、カルナバワックス、木ろう、ライスワックス、ホホバろうなどの植物系ワックス;ミツロウ、ラノリン、鯨ろうなどの動物系ワックス;オゾケライト、セレシン、ペトロラクタムなどの鉱物系ワックス;及びこれらの精製物などが挙げられる。市販品としては、例えば、大内新興化学工業(株)、日本精蝋(株)、精工化学(株)等の製品を使用できる。
【0185】
ベルト補強層用被覆ゴム組成物には、ポリマー鎖に適度な架橋鎖を形成し、良好な性能を付与するという点で、硫黄を配合することが好ましい。
【0186】
ベルト補強層用被覆ゴム組成物において、硫黄の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは1.0質量部以上、更に好ましくは1.7質量部以上である。該含有量は、好ましくは5.0質量部以下、より好ましくは3.0質量部以下、更に好ましくは2.0質量部以下である。
【0187】
硫黄としては、ゴム工業において一般的に用いられる粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄、可溶性硫黄などが挙げられる。市販品としては、鶴見化学工業(株)、軽井沢硫黄(株)、四国化成工業(株)、フレクシス社、日本乾溜工業(株)、細井化学工業(株)等の製品を使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0188】
ベルト補強層用被覆ゴム組成物は、加硫促進剤を含むことが好ましい。
ベルト補強層用被覆ゴム組成物において、加硫促進剤の含有量は特に制限はなく、要望する加硫速度や架橋密度に合わせて自由に決定すれば良いが、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは2.0質量部以上、更に好ましくは2.7質量部以上である。上限は、好ましくは8.0質量部以下、より好ましくは6.0質量部以下、更に好ましくは5.0質量部以下である。
【0189】
加硫促進剤の種類は特に制限はなく、通常用いられているものを使用可能である。加硫促進剤としては、2-メルカプトベンゾチアゾール、ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド等のチアゾール系加硫促進剤;テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)、テトラベンジルチウラムジスルフィド(TBzTD)、テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド(TOT-N)等のチウラム系加硫促進剤;N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N-t-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N-オキシエチレン-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N,N’-ジイソプロピル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド等のスルフェンアミド系加硫促進剤;ジフェニルグアニジン、ジオルトトリルグアニジン、オルトトリルビグアニジン等のグアニジン系加硫促進剤を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、スルフェンアミド系、グアニジン系、ベンゾチアゾール系加硫促進剤が好ましい。
【0190】
ベルト補強層用被覆ゴム組成物には、前記成分以外にも、タイヤ工業において一般的に用いられている配合剤、例えば、離型剤等の材料を適宜配合してもよい。
【0191】
ベルト層の被覆ゴム(ベルトコード9を被覆するトッピングゴム10)や他の部材においても、補強ゴム17(ベルト補強層用被覆ゴム組成物)と同様の材料を、適宜配合量を変更して使用することが可能である。
【0192】
なお、補強ゴム17(ベルト補強層用被覆ゴム組成物)は、例えば、前記トッピングゴム10と異なるゴム組成物であっても、同じゴム組成物であっても良い。
【0193】
ベルト補強層用被覆ゴム組成物の製造方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、前記各成分をオープンロール、バンバリーミキサーなどのゴム混練装置を用いて混練し、その後加硫する方法などにより製造できる。
【0194】
混練条件としては、加硫剤及び加硫促進剤以外の添加剤を混練するベース練り工程では、混練温度は、通常50~200℃、好ましくは80~190℃であり、混練時間は、通常30秒~30分、好ましくは1分~30分である。加硫剤、加硫促進剤を混練する仕上げ練り工程では、混練温度は、通常100℃以下、好ましくは室温~80℃である。また、加硫剤、加硫促進剤を混練した組成物は、通常、プレス加硫などの加硫処理が施される。加硫温度としては、通常120~200℃、好ましくは140~180℃である。
【0195】
有機繊維コード16と、有機繊維コード16を被覆する補強ゴム17(ベルト補強層用被覆ゴム組成物)とを含むベルト補強層15を適用するタイヤとしては、空気入りタイヤ、非空気入りタイヤなどが挙げられるが、なかでも、空気入りタイヤが好ましい。特に、夏用タイヤ(サマータイヤ)、冬用タイヤ(スタッドレスタイヤ、低温路面向けタイヤ、スノータイヤ、スタッドタイヤなど)として好適に使用できる。タイヤは、乗用車用タイヤ、大型乗用車用、大型SUV用タイヤ、トラック、バスなどの重荷重用タイヤ、ライトトラック用タイヤ、二輪自動車用タイヤ、レース用タイヤ(高性能タイヤ)などに使用可能である。
【0196】
タイヤは、有機繊維コード16と、有機繊維コード16を被覆する補強ゴム17(ベルト補強層用被覆ゴム組成物)とを用いて通常の方法により製造される。例えば、未加硫の段階で、有機繊維コード16と、有機繊維コード16を被覆する補強ゴム17(ベルト補強層用被覆ゴム組成物)とを合わせてベルト補強層15の形状に合わせて押し出し加工し、他のタイヤ部材とともに、タイヤ成型機上にて通常の方法で成形することにより、未加硫タイヤを形成する。この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することによりタイヤを得る。
【0197】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施され得る。
【実施例0198】
以下では、実施をする際に好ましいと考えられる例(実施例)を示すが、本発明の範囲は実施例に限られない。
【0199】
図1の基本構造を有するサイズ195/65R15の乗用車用の空気入りタイヤ(試験用タイヤ)を、下記表の仕様(ベルト補強層内の有機繊維コード材料の材質、物性、ベルト層及びベルト補強層の厚み及び距離、トレッドの厚みなど)に基づき試作される。
試験用タイヤの共通仕様は、以下の通りである。
ベルトプライ:2枚
ベルトコードのタイヤ周方向に対する角度:20度(交差)
ベルトコード:単線
ベルトコードのエンズ:36本
ベルトコード径:0.32mm
【0200】
表1に従って仕様を変化させた試験用タイヤを想定して、下記評価方法に基づいて算出した結果を表1に示す。
なお、高速走行時の耐久性能の基準比較例は比較例4、乗り心地性能の基準比較例は比較例8とする。
【0201】
<高速走行時の耐久性能>
上記試験用タイヤをドラム試験機に取り付け、回転速度を時速100kmから徐々に上げ、破壊発生時の速度を測定し、基準比較例を100として指数表示した(高速耐久性指数)。指数が大きいほど、破壊発生時の速度が大きく、高速走行時の耐久性能に優れることを示す。
【0202】
<乗り心地性能>
試験用タイヤを15x6JJのアルミホイールリムにリム組みし、かつ内圧250kPa(前後同一)を充填して、排気量2000ccの国産FF車の4輪に装着するとともに、テストコース内をドライバー1名乗車で走行して1~5の5段階で官能評価する。同様のテストを20のドライバーで行い、基準比較例の合計得点を100とする指数で評価する。数値が大きいほど、乗り心地性能が良好である。
【0203】
<総合性能>
前記高速走行時の耐久性能の評価、前記乗り心地性能の評価で得られる2つの指数の合計により、高速走行時の耐久性能及び乗り心地性能の総合性能を評価する。数値が大きいほど、総合性能が良好である。
【0204】
【表1】
【0205】
本発明(1)は、ベルト層及びベルト補強層を備えるタイヤであって、
前記ベルト補強層内の有機繊維コードがポリエチレンテレフタレート繊維コードを含み、
前記有機繊維コードは、100℃における2.0cN/dtex負荷時の弾性率Aが3.5cN/(tex・%)未満であるタイヤである。
【0206】
本発明(2)は、前記有機繊維コードの100℃における2.0cN/dtex負荷時の中間伸度が7.0~13.2%である本発明(1)記載のタイヤである。
【0207】
本発明(3)は、前記有機繊維コードの撚り係数Kが2100~4300である本発明(1)又は(2)記載のタイヤである。
【0208】
本発明(4)は、前記有機繊維コードの3%伸長時の荷重G(N)、タイヤ軸方向の50mm幅当たりのコードの打ち込み本数E(本/50mm)の積(G×E)が、1000~2500である本発明(1)~(3)のいずれかとの任意の組合せのタイヤである。
【0209】
本発明(5)は、前記ベルト補強層内での有機繊維コードの伸長度が2.0~5.0%、該伸長度(%)での100℃の荷重-伸び曲線のモジュラスが1.0~5.0cN/(tex・%)である本発明(1)~(4)のいずれかとの任意の組合せのタイヤである。
【0210】
本発明(6)は、更にトレッドを備え、
トレッドの厚みT(mm)、前記有機繊維コードの100℃における2.0cN/dtex負荷時の弾性率A(cN/(tex・%))の積(T×A)が、35以下である本発明(1)~(5)のいずれかとの任意の組合せのタイヤである。
【0211】
本発明(7)は、前記ベルト層及び前記ベルト補強層間の距離が0.25~0.40mmである本発明(1)~(6)のいずれかとの任意の組合せのタイヤである。
【0212】
本発明(8)は、前記有機繊維コードのフィラメント角度が30度以上である本発明(1)~(7)のいずれかとの任意の組合せのタイヤである。
【0213】
本発明(9)は、ベルト補強層コードのタイヤ半径方向外側表面から、ベルト補強層のタイヤ半径方向外側界面までの厚みF(mm)、前記有機繊維コードの100℃における2.0cN/dtex負荷時の弾性率A(cN/(tex・%))の積(F×A)が、0.16以下である本発明(1)~(8)のいずれかとの任意の組合せのタイヤである。
【0214】
本発明(10)は、トレッド溝底からベルト補強層までの距離L(mm)、前記有機繊維コードの100℃における2.0cN/dtex負荷時の弾性率A(cN/(tex・%))の積(L×A)が、10.0以下である本発明(1)~(9)のいずれかとの任意の組合せのタイヤである。
【0215】
本発明(11)は、前記有機繊維コードの撚り数が35~60回/10cmである本発明(1)~(10)のいずれかとの任意の組合せのタイヤである。
【0216】
本発明(12)は、前記有機繊維コードの3%伸長時の荷重Gが18~45Nである本発明(1)~(11)のいずれかとの任意の組合せのタイヤである。
【0217】
本発明(13)は、前記有機繊維コードの総繊度が2500~4000dtexである本発明(1)~(12)のいずれかとの任意の組合せのタイヤである。
【0218】
本発明(14)は、前記有機繊維コードのエンズが30~60本/50mmである本発明(1)~(13)のいずれかとの任意の組合せのタイヤである。
【0219】
本発明(15)は、前記トレッドの厚みTが5.0~12.0mmである本発明(6)記載のタイヤである。
【符号の説明】
【0220】
1 タイヤ
2 トレッド部
4 ビード部
6 カーカス
7 ベルト層
8 ベルトプライ
8A 第1ベルトプライ
8B 第2ベルトプライ
9 ベルトコード
10トッピングゴム
15 ベルト補強層
16 有機繊維コード
17 補強ゴム
20 周方向主溝
21 トレッド溝底
23 ベルト補強層15のタイヤ半径方向外側表面
31 フィラメント角度
32 コード長手方向中心線
33 フィラメント
W1 第1ベルトプライ8Aのタイヤ軸方向の幅
W2 第2ベルトプライ8Bのタイヤ軸方向の幅
W3 ベルト補強層幅
TW トレッド幅
Te トレッド端
T トレッドの厚み
F ベルト補強層コードのタイヤ半径方向外側表面からベルト補強層のタイヤ半径方向外側界面までの厚み
C タイヤの赤道面
B ベルト層の被覆層厚み
L トレッド溝底からベルト補強層までの距離
図1
図2
図3
図4