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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039622
(43)【公開日】2024-03-22
(54)【発明の名称】多孔質ポリアミドイミド
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/34 20060101AFI20240314BHJP
   C08G 18/00 20060101ALI20240314BHJP
   C08G 18/76 20060101ALI20240314BHJP
   C08G 18/80 20060101ALI20240314BHJP
   C08G 73/14 20060101ALI20240314BHJP
   C08J 9/28 20060101ALI20240314BHJP
【FI】
C08G18/34 030
C08G18/00 F
C08G18/76 057
C08G18/80
C08G73/14
C08J9/28 CFG
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023140174
(22)【出願日】2023-08-30
(31)【優先権主張番号】P 2022143794
(32)【優先日】2022-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】森北 達弥
(72)【発明者】
【氏名】吉野 文子
(72)【発明者】
【氏名】柴田 健太
(72)【発明者】
【氏名】山田 宗紀
【テーマコード(参考)】
4F074
4J034
4J043
【Fターム(参考)】
4F074AA74
4F074CB47
4F074DA02
4F074DA03
4F074DA23
4F074DA43
4J034BA06
4J034CA15
4J034CA16
4J034CA24
4J034CA25
4J034CB03
4J034CB04
4J034CB07
4J034CC03
4J034CC12
4J034CC26
4J034CC44
4J034CC54
4J034CC61
4J034CC65
4J034CC67
4J034DJ08
4J034DJ09
4J034DK00
4J034HA01
4J034HA07
4J034HA08
4J034HB06
4J034HB07
4J034HB08
4J034HC03
4J034HC12
4J034HC13
4J034HC22
4J034HC46
4J034HC52
4J034HC61
4J034HC64
4J034HC67
4J034HC71
4J034HC73
4J034HD03
4J034HD04
4J034HD05
4J034HD06
4J034HD07
4J034HD12
4J034HD15
4J034JA02
4J034JA32
4J034LA33
4J034LB05
4J034QB12
4J034QB14
4J034QB17
4J034QC01
4J034RA02
4J034RA04
4J034RA13
4J034RA14
4J043PA02
4J043QB58
4J043RA05
4J043RA34
4J043SA11
4J043SB03
4J043TA11
4J043TA21
4J043TB01
4J043UA121
4J043UA122
4J043UA131
4J043UB011
4J043VA012
4J043VA041
4J043VA052
4J043XA03
4J043XA16
4J043XB03
4J043YA13
4J043YA28
4J043ZA23
4J043ZA31
4J043ZA33
4J043ZA34
4J043ZB13
(57)【要約】
【課題】膜強度と耐溶剤性の向上を図ることができる多孔質PAIの提供。
【解決手段】
酸成分として無水トリメリット酸(TMA)、イソシアネート成分としてo-トリジンジイソシアネート(TODI)を用いたポリアミドイミド(PAI)を含有し、気孔率が75体積%以上であり、以下の測定により得られる不溶率が30%以上であることを特徴とする多孔質PAI。不溶率:多孔質PAIを、その質量の200倍のN-メチル-2-ピロリドン中、100℃、2時間溶解処理した後、不溶分質量を測定することで、下記式により算出される値。
不溶率(%)=[Mi/Mf]×100
(式中、Miは溶解処理後の不溶分質量(g)、Mfは溶解処理前のPAI質量(g)を示す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸成分として無水トリメリット酸(TMA)、イソシアネート成分としてo-トリジンジイソシアネート(TODI)を用いたポリアミドイミド(PAI)を含有し、気孔率が75体積%以上であり、以下の測定により得られる不溶率が30%以上であることを特徴とする多孔質PAI。
不溶率:多孔質PAIを、その質量の200倍のN-メチル-2-ピロリドン中、100℃、2時間溶解処理した後、不溶分質量を測定することで、下記式により算出される値。
不溶率(%)=[Mi/Mf]×100
(式中、Miは溶解処理後の不溶分質量(g)、Mfは溶解処理前のPAI質量(g)を示す。)
【請求項2】
比引張弾性率が1.3以上である、請求項1記載の多孔質PAI。
【請求項3】
PAIを構成するTODIの4~50モル%が、4,4′-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)および/またはトリレンジイソシアネート(TDI)に置換されている、請求項1記載の多孔質PAI。
【請求項4】
架橋剤の配合割合が、PAI成分に対して0.1質量%以上10質量%以下である、請求項1記載の多孔質PAI。
【請求項5】
架橋剤の種類が、多官能ブロックイソシアネート化合物である、請求項4記載の多孔質PAI。
【請求項6】
基材上に、PAIとその良溶媒および貧溶媒とを含む溶液を塗布して塗膜を形成した後、塗膜中の溶媒を揮発させて除去し、この際に、貧溶媒の作用により、塗膜内で相分離を起こさせて、基材上に被膜状の多孔質PAIを形成させることを特徴とする、請求項1~5いずれかに記載の多孔質PAIの製造方法。
【請求項7】
請求項1~5いずれかの多孔質PAIを用いた分離膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のモノマー種のポリアミドイミド(PAI)からなる、分離膜として有用な多孔質PAIに関する。
【背景技術】
【0002】
PAIは、その優れた耐熱性を利用して、電子材料や光学材料、リチウム二次電池用セパレータ、リチウム二次電池電極被覆材、電線被覆、医療用素材等の分野で利用されている。特に、PAIの多孔質体は、フィルタ、分離膜等の分野で利用されている。多孔質PAIの製法としては、例えば特許文献1に、PAIに対する良溶媒と貧溶媒とを含有するPAI溶液を、基材上に、塗布、乾燥することにより、得ることが開示されている(いわゆる乾式法)。また、特許文献2に、PAIを良溶剤に溶解させてPAI溶液とし、貧溶剤に浸漬させて良溶剤を抽出除去することで、多孔質PAIを得ることが開示されている(いわゆる湿式法)。このような多孔質PAIを分離膜として使用するためには、モジュール化のための高い比引張弾性率が要求される。また、使用上、極性溶剤、酸、アルカリなどの薬剤に晒されることが多い分離膜への適用においては、このような薬剤への耐溶剤性も要求されている。
【0003】
一方、PAIの材料としての強度を向上させるために、モノマーとしてo-トリジンジイソシアネート(TODI)がしばしば使用される(例えば、特許文献3)。また、PAIの耐溶剤性を向上させるために、架橋構造を導入することも行われており、例えば、特許文献4では、架橋剤を含む多孔質膜に200℃以上の加熱架橋処理を施すことにより、耐溶剤性を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開2014/106954号
【特許文献2】特公平6-21411号公報
【特許文献3】特開平3―131630号公報
【特許文献4】特開2011-122124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、多孔質PAIを分離膜として使用する際には、一定以上の比引張弾性率と耐溶剤性を両立する必要があり、既存の多孔質PAIではこのような物性の両立は達成できていなかった。ここで、比引張弾性率(比引張弾性率=E/ρ、E:引張弾性率、ρ:見掛け密度)とは、分離膜として使用可能かどうかに直接影響するパラメータであり、これが大きいほど高弾性率かつ低密度である膜であることを示している。
【0006】
そこで、本発明は前記課題を解決するものであって、比引張弾性率と耐溶剤性とが両立した多孔質PAIの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために鋭意研究した結果、特定のモノマー組成からなる多孔質PAIに架橋構造を導入することにより、前記課題が解決されることを見出し、本発明の完成に至った。
【0008】
本発明は、以下を趣旨とするものである。
酸成分として無水トリメリット酸(TMA)、イソシアネート成分としてo-トリジンジイソシアネート(TODI)を用いたポリアミドイミド(PAI)を含有し、気孔率が75体積%以上であり、以下の測定により得られる不溶率が30%以上であることを特徴とする多孔質PAI。不溶率:多孔質PAIを、その質量の200倍のN-メチル-2-ピロリドン(NMP)中、100℃、2時間溶解処理した後、不溶分質量を測定することで、下記式により算出される値。
不溶率(%)=[Mi/Mf]×100
(式中、Miは溶解処理後のPAI質量(g)を示し、Mfは溶解処理前のPAI質量(g)を示す。)
【発明の効果】
【0009】
本発明の多孔質PAIは、比引張弾性率が高く、また耐溶剤性が高いため、分離膜として好適に用いることができる。また、この多孔質PAIは、比引張弾性率が高いので、分離膜のみならず、例えばリチウム2次電池用セパレータ、リチウム2次電池電極用保護膜、低誘電性フレキシブル基板、電極用バインダー、スピーカ振動版などにも好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明の多孔質PAIを構成するPAIは、酸成分としてTMA、イソシアネート成分としてTODIが用いられていることが必要である。酸成分としてTMA、イソシアネート成分としてTODIのいずれかが用いられていないPAIからなる多孔質PAIフィルムでは、分離膜としての適用可能性を判断するうえで重要な指標である比引張弾性率を所定の数値以上とすることが困難であり、分離膜として使用する際に割れなどの不具合が発生することがある。
【0012】
TMAとTODIのみからなるPAIホモポリマは、反応溶媒に溶解しにくい傾向があるので、TODIの4~50モル%を4,4′-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)および/またはトリレンジイソシアネート(TDI)に置換することが好ましい。TDIとしては、2,4-TDI、2,6-TDIまたはそれらの混合物を用いることができる。前記混合物としては、例えば、2,4-TDI/2,6-TDI=70/30~100/0のモル比範囲のものを用いることができる。
【0013】
酸成分としては、無水トリメリット酸(TMA)のみを用いることが好ましいが、TMAの一部は、他の酸成分で置換されていてもよい。具体的には、TMAの10モル%以下であれば、ピロメリット酸無水物、フタル酸無水物、3,3′,4,4′-ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、3,3′,4,4′-ビフェニルテトラカルボン酸無水物等で置換されていてもよい。この置換率が10モル%を超えると、多孔質PAIフィルムとした場合、良好な力学特性が得られにくいことがある。
【0014】
酸成分と、イソシアネート成分の合計とのモル比は、特に限定されないが、塗工性の観点から高粘度の溶液として用いる必要がある場合は1/1.01~1.05と、イソシアネート成分をTMAに対し小過剰用いることが好ましい。
【0015】
本発明の多孔質PAIは、その気孔率を75体積%以上とする必要があり、80体積%以上とすることが好ましい。酸成分としてTMA、イソシアネート成分としてTODIが用いられているPAIからなる多孔質PAIであっても、その気孔率が75体積%未満では、比引張弾性率が1.3以上とすることが困難となり、その場合、分離膜として使用する際に通気性が出ないなどの不具合が発生することがある。
ここで、多孔質PAIの気孔率は、多孔質PAIの見掛け密度と、PAIの真密度(比重)とから算出される値であり、その見掛け密度をρ(g/cm)、真密度をρ(g/cm)とした場合、次式により算出することができる。
気孔率(体積%)=100-ρ×(100/ρ
見かけ密度および真密度はJIS Z8807の規定に基づき、25℃で測定することにより求めることができる。
【0016】
多孔質PAIの比引張弾性率は1.3以上とすることが好ましく、1.5以上とすることがより好ましい。比引張弾性率を1.3以上とすることにより、分離膜として良好な通気性を有し、かつ分離モジュール組み立てに耐え得る高い弾性率を兼ね備える膜とすることができる。比引張弾性率は、JIS K7161に基づき引張モードで弾性率を測定した後、この弾性率を見掛け密度で割って算出される値である。
【0017】
本発明の多孔質PAIは、以下の測定により得られる不溶率が30%以上であることが必要であり、35%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましい。不溶率が30%未満であると、分離膜として使用される際に晒される、極性溶剤、酸、アルカリなどの薬剤に対する耐性が不足する。
不溶率:多孔質PAIを、その質量の200倍のNMP中、100℃、2時間溶解処理した後、不溶分質量を測定することで、下記式により算出される値。
不溶率(%)=[Mi/Mf]×100
(式中、Miは溶解処理後のPAI質量(g)を示し、Mfは溶解処理前のPAI質量(g)を示す。)
【0018】
多孔質PAIの不溶率を30%以上とするためには、PAIに架橋構造を導入することが必要である。架橋構造を導入する手法は特に限定されず、熱架橋法、架橋剤添加法などが挙げられる。架橋剤としては、2官能以上の架橋可能な官能基を構造中に有する化合物が好ましく、ジアミン、トリアミン、ジイソシアネート、トリイソシアネート、多官能ブロックイソシアネート、ポリカルボジイミド、ポリ無水マレイン酸共重合体、多官能エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂等を用いることができる。 これらは、これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。その中でも、多官能エポキシ樹脂、多官能ブロックイソシアネートが好ましく、多官能ブロックイソシアネートがより好ましい。架橋剤の配合割合は、PAI樹脂成分に対して0.1質量%以上10質量%以下とすることが好ましく、1質量%以上5質量%以下とすることがより好ましい。
【0019】
ジアミンとしては、例えば脂肪族ジアミンとしてはエチレンジアミン、1,3-プロパンジアミン、2-メチル-1,2-プロパンジアミン、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジアミン、1,4-ブタンジアミン、1,5-ペンタンジアミン、1,6-ヘキサメチレンジアミン、1,7-ヘプタンジアミン、1,8-オクタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、1,10-デカンジアミン、1,11-ウンデカンジアミン、1,12-ドデカンジアミン、メチルビス(3-アミノプロピル)アミン、1,5-ジアミノ-2-メチルペンタン(MPMD)、2,5-ジメチル-1,6-ヘキサメチレンジアミン、1,2-プロパンジアミン、2-メチル-1,2-プロパンジアミン、1,3-ブタンジアミン、1,3-ジアミノペンタン(DAMP)、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン(TMD)、1,5-ジアミノ-2-ブチル-2-エチルペンタン、ビス(2-アミノエチル)エーテル、3,6-ジオキサオクタン-1,8-ジアミン、4,7-ジオキサデカン-1,10-ジアミン、4,7-ジオキサデカン-2,9-ジアミン、4,9-ジオキサデカン-1,12-ジアミン、5,8-ジオキサデカン-3,10-ジアミン、ポリオキシアルキレンジアミン、ポリオキシアルキレンジオール、ダイマージアミンなどが挙げられる。脂環式ジアミンとしては1,3-及び1,4-ジアミノシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(4-アミノ-3-メチルシクロヘキシル)メタン、ビス(4-アミノ-3-エチルシクロヘキシル)メタン、ビス(4-アミノ-3,5-ジメチルシクロヘキシル)メタン、ビス(4-アミノ-3-エチル-5-メチルシクロヘキシル)メタン(M-MECA)、2-メチル-1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,3-および1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、2,5(2,6)-ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン(NBDA)、3(4),8(9)-ビス(アミノメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン、3,9-ビス(3-アミノプロピル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、1,3-及び1,4-キシリレンジアミン、1-アミノ-3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン(すなわち、イソホロンジアミンあるいはIPDA)、及び1,4-ジアミノ-2,2,6-トリメチルシクロヘキサン(TMCDA)などが挙げられる。ジアミン化合物は、市販のものであってもよく、例えばHuntsmanChemicals社製Jeffamine(登録商標)の、商品名D-230、D-400、D-2000、D-4000、XTJ-511、ED-600、ED-900、ED-2003、XTJ-568、XTJ-569、XTJ-523、XTJ-536、XTJ-542、XTJ-559、BASF社製Polyetheramineの、商品名D230、D400、D2000、Nitroil社製PC Amine(登録商標)の、商品名DA250、DA400、DA650、DA2000などが挙げられる。
【0020】
トリアミンとしては、例えば脂肪族トリアミンとしては、4-アミノメチル-1,8-オクタンジアミン、1,3,5-トリス(アミノメチル)ベンゼン、1,3,5-トリス(アミノメチル)シクロヘキサン、ポリアルキレントリアミン、ポリアルキレントリオールなどが挙げられる。トリアミン化合物は、市販のものであってもよく、例えばHuntsmanChemicals社製Jeffamine(登録商標)の、商品名T-403、T-5000、BASF社製Polyetheramineの、商品名T403、T5000、Nitroil社製PC Amine(登録商標)の、商品名TA403、TA5000などが挙げられる。
【0021】
ジイソシアネートとしては、例えばシクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、エチルシクロヘキサンジイソシアネート、プロピルシクロヘキサンジイソシアネート、メチル-ジエチル-シクロヘキサンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、トルイレンジイソシアネート、ビス(イソシアナトフェニル)メタン、プロパンジイソシアネート、ブタンジイソシアネート、ペンタンジイソシアネート、ヘキサンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、1,5-ジイソシナト-2-メチルペンタン(MPDI)、ヘプタンジイソシアネート、オクタンジイソシアネート、ノナンジイソシアネート、1,6-ジイソシアナト-2,4,4-トリメチルヘキサン、1,6-ジイソシアナト-2,2,4-トリメチルヘキサン(TMDI)、デカンジイソシアネート、ウンデカンジイソシアネート、ドデカンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ビス(イソシアナトメチルシクロヘキシル)メタン(H12MDI)、イソシアナトメチル-メチルシクロヘキシルイソシアネート、2,5(2,6)-ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン(NBDI)、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(1,3-H6-XDI)、1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(1,4-H6-XDI)、ベンゼンジイソシアネート、4,4′-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、o-トリジンイソシアネート(TODI)、3,3’-ジクロロ-4,4’-ジイソシアナトビフェニル、トリス(4-イソシアナトフェニル)メタン、1,5-ジイソシアナトナフタレン、水素化トルエンジイソシアネート、1-イソシアナトメチル-5-イソシアナト-1,3,3-トリメチルシクロヘキサン、1,3,5-トリス(6t-イソシアナトヘキシル)ビウレットなどが挙げられる。
【0022】
トリイソシアネートとしては、例えばノナントリイソシアネート、デカントリイソシアネート、ウンデカントリイソシアネート、ドデカントリイソシアネートなどが挙げられる。
【0023】
多官能ブロックイソシアネートは、イソシアネート化合物とイソシアネートブロック剤の反応生成物である。使用できるイソシアネート化合物は、イソシアヌレート型、ビュレット型、アダクト型などが挙げられ、それぞれ構造として芳香族イソシアネート、脂肪族イソシアネート、脂環式イソシアネートが用いられる。イソシアネートブロック剤としては、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、クロロフェノール及びエチルフェノールなどのフェノール系ブロック剤;ε-カプロラクタム(ε-CAP)、δ-バレロラクタム、γ-ブチロラクタム及びβ-プロピオラクタムなどのラクタム系ブロック剤;マロン酸ジエチル、アセト酢酸エチル及びアセチルアセトンなどの活性メチレン系ブロック剤;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アミルアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ベンジルエーテル、グリコール酸メチル、グリコール酸ブチル、ジアセトンアルコール、乳酸メチル及び乳酸エチルなどのアルコール系ブロック剤;ホルムアルデヒドオキシム、アセトアルドキシム、アセトキシム、メチルエチルケトキシム、ジアセチルモノオキシム、シクロヘキサノンオキシムなどのオキシム系ブロック剤;ブチルメルカプタン、ヘキシルメルカプタン、t-ブチルメルカプタン、チオフェノール、メチルチオフェノール、エチルチオフェノールなどのメルカプタン系ブロック剤;酢酸アミド、ベンズアミドなどの酸アミド系ブロック剤;コハク酸イミド及びマレイン酸イミドなどのイミド系ブロック剤;キシリジン、アニリン、ブチルアミン、ジブチルアミンなどのアミン系ブロック剤;イミダゾール、2-エチルイミダゾールなどのイミダゾール系ブロック剤;メチレンイミン及びプロピレンイミンなどのイミン系ブロック剤;メチルピラゾール、エチルピラゾールなどのピラゾール系ブロック剤などが挙げられる。多官能ブロックイソシアネート化合物は市販のものであってもよく、例えばBaxenden社製ブロックイソシアネートの、商品名BI7683、BI7642、BI201、BI220、BI7950、BI7951、BI7960、BI7961、BI7963、BI7981、BI7982、BI7990、BI7991、BI7992、住友バイエルウレタン株式会社製ブロックイソシアネートの、商品名スミジュールBL-3175、BL-4165、BL-1100、BL-1265、デスモジュールTPLS-2957、TPLS-2062、TPLS-2078、TPLS-2117、デスモサーム2170、デスモサーム2265、日本ポリウレタン工業株式会社製の、商品名コロネート2512、コロネート2513、コロネート2520、三井武田ケミカル株式会社製の、商品名B-830、B-815、B-846、B-870、B-874、B-882、旭化成ケミカルズ株式会社製の、商品名TPA-B80E、17B-60PX、E402-B80T、MF-B60B、MF-K60B、SBN-70Dなどが挙げられる。
【0024】
ポリカルボジイミドとしては、例えばp-フェニレン-ビス(2,6-キシリルカルボジイミド)、テトラメチレン-ビス(t-ブチルカルボジイミド)、シクロヘキサン-1,4-ビス(メチレン-t-ブチルカルボジイミド)などが挙げられる。ポリカルボジイミドは市販のものであってもよく、例えば日清紡ケミカル社製カルボジライト(登録商標)の、商品名V-02、SV-02、V-02B、V-03、V-04,V-05、V-07、V-09、V-09GBV-10、E-02、E-03A、E-05などが挙げられる。
【0025】
ポリ無水マレイン酸共重合体としては、例えばスチレン-無水マレイン酸共重合体、オレフィン-無水マレイン酸共重合体などが挙げられる。ポリ無水マレイン酸共重合体は、市販のものであってもよく、例えば積水化成品工業株式会社製の、商品名ダイラークD332、Polyscope製の商品名Xiran SZ08250などが挙げられる。
【0026】
多官能エポキシ樹脂としては、市販のものを使用できる。例えば、三菱ケミカル株式会社製jER828、jER834、jER1001、jER1004、jERYL903、jER152、jER154、DIC株式会社製エピクロン840、エピクロン850、エピクロン1050、エピクロン2055、エピクロン152、エピクロン165、エピクロンN-730、エピクロンN-770、エピクロンN-865、エピクロン830、新日鉄住金化学株式会社製エポトートYD-011、YD-013、YD-127、YD-128、エポトートYDB-400、YDB-500、エポトートYDCN-701、YDCN-704、エポトートYDF-170、YDF-175、YDF-2004、エポトートST-2004、ST-2007、ST-3000、ダウ・ケミカル社製D.E.R.317、D.E.R.331、D.E.R.661、D.E.R.664、D.E.N.431、D.E.N.438、T.E.N.、EPPN-501、EPPN-502、D.E.R.542、住友化学株式会社製スミ-エポキシESA-011、ESA-014、ELA-115、ELA-128、スミ-エポキシESB-400、ESB-700、スミ-エポキシESCN-195X、ESCN-220、旭化成株式会社製A.E.R.330、A.E.R.331、A.E.R.661、A.E.R.664、A.E.R.711、A.E.R.714、A.E.R.ECN-235、ECN-299、日本化薬株式会社製EPPN-201、EOCN-1025、EOCN-1020、EOCN-104S、RE-306、株式会社ダイセル製セロキサイド2021P、東都化成株式会社製YR-102、YR-450、日産化学工業株式会社製TEPIC、日本油脂株式会社製ブレンマーDGT、CP-50S、CP-50M、などが挙げられる。
【0027】
メラミン樹脂としては、例えばイミノ基型メチル化メラミン樹脂、メチロール基型メラミン樹脂、メチロール基型メチル化メラミン樹脂、完全アルキル型メチル化メラミン樹脂などが挙げられる。メラミン樹脂は、市販のものであってもよく、ダイセル・オルネクス株式会社製サイメル303、サイメル254、サイメル1170、サイメル235、サイメル238、サイメル1123、マイコート715、住友化学株式会社製スミマールM-40S、DIC株式会社製スーパーベッカミンJ-820-60、スーパーベッカミンL-121-60、三井化学株式会社製ユーバン20SE-60が挙げられる。
【0028】
フェノール樹脂としては、市販のものを使用できる。例えば、田岡化学工業株式会社製タッキロール201(アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂)、タッキロール250-I(臭素化率4%の臭素化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂)、タッキロール250-III(臭素化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂)、群栄化学工業株式会社製PR-4507、Hoechst社製Vulkaresat510E、Vulkaresat532E、VulkaresenE、Vulkaresen 105E、Vulkaresen 130E、Vulkaresol 315E、Amberol ST 137X、住友デュレズ株式会社製スミライトレジンPR-22193、Anchor Chem.社製Symphorm-C-100、Symphorm-C-1001、荒川化学株式会社製タマノル531、Schenectady Chem.社製Schenectady SP1059、Schenectady SP1045、Schenectady SP-1055、Schenectady SP-1056、U.C.C社製CRR-0803、昭和ユニオン合成株式会社製CRM-0803、Bayer社製Vulkadur Aなどが挙げられる。
【0029】
多孔質PAIの平均孔径に制限はないが、通常、個数基準で、0.05μm以上、30μm以下程度であり、0.1μm超、10μm未満が好ましい。平均孔径は、多孔質PIフィルム断面のSEM(走査型電子顕微鏡)像を倍率2000~100000倍で取得し、Image-J等の画像処理ソフトで解析することにより確認することができる。
【0030】
本発明の多孔質PAIは、例えば、以下のような乾式法、および湿式法などの方法で得ることができるが、空気層を含有した多孔質材料となっていればよく、作製方法は限定されない。乾式法の場合、基材上に、PAIとその良溶媒および貧溶媒とを含む溶液を塗布して塗膜を形成した後、塗膜中の溶媒を揮発させて除去する。この際に、貧溶媒の作用により、塗膜内で相分離を起こさせて、基材上に多孔質PAIの被膜を形成させる。湿式法の場合は、基材上に、PAI溶液を塗布して塗膜を形成した後、水などの凝固用溶媒に浸漬し、PAI溶液中の溶媒を抽出除去することで相分離を起こさせる。その後、熱風乾燥などで凝固用溶媒を乾燥することにより、基材上に多孔質PAIの被膜を形成させる。
【0031】
多孔質PAIに架橋構造を導入するに際しては、熱架橋法の場合、得た多孔質PAI被膜を例えば200℃以上で加熱する。また、架橋剤添加法の場合、PAI溶液調製時に架橋剤を配合し、塗工することで得た多孔質PAI被膜を加熱することにより架橋構造が導入される。
【0032】
前記多孔質PAI形成用のPAI溶液は、例えば、以下のような方法で得ることができる。すなわち、先ず、略当モルのTMAとTODIとを、含窒素極性溶媒(PAIに対する良溶媒)中、重合反応させることによりPAI溶液を得た後、これに多官能架橋剤と、PAIに対する貧溶媒を配合することにより、多孔質PAI被膜形成用の、光学的に均一な多孔質被膜形成用PAI溶液を得ることができる。前記重合反応の温度は100~200℃が好ましく、より好ましくは、120~180℃である。この反応において、モノマーおよび溶媒の添加順序は特に制限はなく、いかなる順序でもよい。重合反応に際しては、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7(DBU)、トリエチレンジアミン(DABCO)等の塩基性化合物をTMAに対し、0.01~1モル%配合することが好ましい。
【0033】
含窒素極性溶媒としては、アミド系溶媒、尿素系溶媒が好ましい。アミド系溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)を挙げることができる。尿素系溶媒としては、例えば、テトラメチル尿素、ジメチルエチレン尿素を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中で、NMP、DMAcが好ましい。なお、これらの溶媒は、その水分率が100ppm以下に脱水されていることが好ましい。
【0034】
PAIに対する貧溶媒としては、エーテル系溶媒が好ましい。エーテル系溶媒としては、トリグライム、テトラグライムが好ましく、これらを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
PAIに対する貧溶媒とは、25℃におけるPAIの溶解度が1質量%未満の溶媒をいう。逆に、PAIに対する良溶媒とは、25℃におけるPAIの溶解度が1質量%以上の溶媒をいう。貧溶媒の沸点は、良溶媒の沸点よりも5℃以上高いことが好ましい。貧溶媒の配合割合は、全溶媒質量に対し、30質量%以上、90質量%以下とすることが好ましく、40質量%以上、80質量%以下とすることがより好ましい。
【0036】
PAI溶液におけるPAIの固形分濃度は、5質量%以上、15質量%以下とすることが好ましく、8質量%以上、13質量%以下とすることがより好ましい。
【0037】
PAI溶液の基材への塗布は、任意の塗布機を用いて行うことができる。塗布機としては、ダイコーター、リップコーター、グラビアコーター、バーコーター、ドクターブレードコーター、コンマコーター、リバースロールコーター、バーリバースロールコーター等を挙げることができる。また、多層塗布することも可能であり、その際、各層のPAI溶液の組成は同じであっても異なっていてもよい。
【0038】
基材としては、金属箔(銅、アルミニウム、鉄、銀、パラジウム、ニッケル、クロム、モリブデン、タングステンまたはそれらの合金等)、ポリエステル系フィルム(ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、芳香族ポリイミド系フィルム、フッ素樹脂系フィルム(ポリテトラフルオロエチレン等)等を挙げることができる。 これらの中で、ポリエチレンテレフタレートフィルムまたはアルミニウム箔が好ましい。これらの基材は、表面が平滑であることが好ましい。また、表面に耐熱性の離型層が形成された離型用の金属箔またはプラスチックフィルムも好ましく用いることができる。これらの離型用金属箔またはプラスチックフィルムは、市販品を用いることができる。
【0039】
本発明の多孔質PAIをフィルムとする場合、その厚みに制限はないが、通常、5μm以上、500μm以下程度であり、50μm以上、200μm以下とすることが好ましい。ここで、フィルムの厚みはJIS K7130に基づき、25℃で測定することにより求めることができる。
【実施例0040】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0041】
多孔質PAIの評価は、以下のように行った。
【0042】
(1)引張弾性率の測定
JIS K7161に従って、下記条件で引張弾性率E(GPa)を測定した。具体的には、フィルムを幅10mm、長さ100mmに切出し、インテスコ社製、インテスコ精密万能材料試験機2020型を使用し、チャック間距離を50mm、引張速度を20mm/分として測定した。
【0043】
(2)見かけ密度の測定
JIS Z8807に従って、フィルムを5cm角の正方形に切り出して測定用試料とし、マイクロメータにて厚みの平均値を求めて、体積を算出した。同試料を、自動上皿精密天秤を用いて質量測定し、次式により見掛け密度ρを求めた。
見掛け密度(g/cm)=質量(g)/体積(cm
【0044】
(3)比引張弾性率
上記(1)(2)で測定した引張弾性率E、見掛け密度ρを用いて、次式により算出した。
比引張弾性率=E/ρ
【0045】
(4)膜強度評価
多孔膜を組み込んだ分離モジュールとしたときに、膜が破壊されずに通気性・通液性が出るか否かを評価基準として、下記の通り評価した。
◎:分離モジュールに組み込んだ際、膜が破壊されず、十分な分離性能が出る。
○:分離モジュールに組み込んだ際、膜が破壊されずに組み込めるが、分離性能は組み込む前よりも低下する。
×:分離モジュールに組み込んだ際、膜が破壊したか、分離性能が出ない。
【0046】
(5)耐溶剤性
5cm角の多孔質PAIフィルムを容器に入れ、フィルム質量の200倍のNMPを添加し、100℃、2時間溶解処理し、室温まで冷却後、容器中の不溶分を100mlのNMPで洗い流しながら、不溶分をガラスフィルター(3G―2番)で濾別した。その後、濾集物を200℃×20時間真空乾燥した後の不溶分質量を測定し、下記式により不溶率を算出した。
不溶率(%)=[Mi/Mf]×100
(式中、Miは溶解処理後のPAI質量(g)を示し、Mfは溶解処理前のPAI質量(g)を示す。)
耐溶剤性評価は、不溶率に基づき、以下の基準とした。
30%以上:○
30%未満:×
【0047】
<実施例1>
ガラス製反応容器に、窒素雰囲気下、TMA:1.00モル、TODI:0.97モル、MDI:0.05モル、DABCO:0.0005モルを固形分濃度が20質量%となるように脱水されたNMP(水分率80ppm)と共に仕込み、攪拌しながら150℃に昇温して5時間反応させさせることにより、30℃における溶液粘度が200Pa・sで、PAI固形分濃度が20質量%のPAI溶液を得た。このPAI溶液100質量部に、テトラグライム80質量部、次いで架橋剤としてBaxeneden Chemicals社製ブロックイソシアネート溶液、Trixene BI7982(略称「BI」、HDIトリマー型3官能イソシアネート化合物、溶媒:1-メトキシ-2-プロパノール、濃度:70質量%)をPAI固形分に対し、イソシアネート固形分が5質量%となるように加え、固形分濃度が11.1質量%の多孔質被膜形成用PAI溶液を得た。
このPAI溶液を、厚み100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上に塗布後、160℃で20分乾燥することにより、厚みが65μm、気孔率77体積%、平均孔径が2.6μmの多孔質PAIフィルム(A-1)を得た。
【0048】
<実施例2>
イソシアネート成分を、「TODI:0.92モル、MDI:0.10モル」としたこと以外は、実施例1と同様にして、PAI固形分濃度が20質量%のPAI溶液を得た。このPAI溶液100質量部に、テトラグライム80質量部を加え、固形分濃度が11.1質量%の多孔質被膜形成用PAI溶液を得た。このPAI溶液を、厚み100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上に塗布後、160℃で20分乾燥することにより、厚みが64μm、気孔率82体積%、平均孔径が2.4μmの多孔質PAIフィルム(A-2)を得た。
【0049】
<実施例3>
イソシアネート成分を、「TODI:0.82モル、MDI:0.20モル」としたこと以外は、実施例1と同様にして、PAI固形分濃度が20質量%のPAI溶液を得た。このPAI溶液100質量部に、テトラグライム80質量部を加え、固形分濃度が11.1質量%の多孔質被膜形成用PAI溶液を得た。このPAI溶液を、厚み100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上に塗布後、160℃で20分乾燥することにより、厚みが60μm、気孔率85体積%、平均孔径が2.8μmの多孔質PAIフィルム(A-3)を得た。
【0050】
<実施例4>
イソシアネート成分を、「TODI:0.82モル、TDI:0.20モル」としたこと以外は、実施例1と同様にして、PAI固形分濃度が20質量%のPAI溶液を得た。ここで、TDIとしては、2,4-TDI/2,6-TDI=約85/約15のものを用いた(以下の例で使用したTDIも同様)。このPAI溶液100質量部に、テトラグライム80質量部を加え、固形分濃度が11.1質量%の多孔質被膜形成用PAI溶液を得た。このPAI溶液を、厚み100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上に塗布後、160℃で20分乾燥することにより、厚みが62μm、気孔率84体積%、平均孔径が2.9μmの多孔質PAIフィルム(A-4)を得た。
【0051】
<実施例5>
イソシアネート成分を、「TODI:0.72モル、MDI:0.30モル」としたこと以外は、実施例1と同様にして、PAI固形分濃度が20質量%のPAI溶液を得た。このPAI溶液100質量部に、テトラグライム80質量部を加え、固形分濃度が11.1質量%の多孔質被膜形成用PAI溶液を得た。
このPAI溶液を、厚み100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上に塗布後、160℃で20分乾燥することにより、厚みが64μm、気孔率78体積%、平均孔径が3.2μmの多孔質PAIフィルム(A-5)を得た。
【0052】
<実施例6>
架橋剤として「三菱ケミカル(株)社製フェノールノボラック型エポキシ樹脂jER154(略称「jER」、無溶媒タイプ)」をPAI固形分に対し5質量%添加し、イソシアネート成分を、「TODI:0.72モル、MDI:0.30モル」としたこと以外は、実施例1と同様にして、PAI固形分濃度が20質量%のPAI溶液を得た。このPAI溶液100質量部に、テトラグライム80質量部を加え、固形分濃度が11.1質量%の多孔質被膜形成用PAI溶液を得た。
このPAI溶液を、厚み100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上に塗布後、160℃で20分乾燥することにより、厚みが61μm、気孔率75体積%、平均孔径が2.4μmの多孔質PAIフィルム(A-6)を得た。
【0053】
<実施例7>
架橋剤として「日清紡ケミカル(株)社製ポリカルボジイミド樹脂V-05(略称「CDI」、無溶媒タイプ)」をPAI固形分に対し5質量%添加し、イソシアネート成分を、「TODI:0.72モル、MDI:0.30モル」としたこと以外は、実施例1と同様にして、PAI固形分濃度が20質量%のPAI溶液を得た。このPAI溶液100質量部に、テトラグライム80質量部を加え、固形分濃度が11.1質量%の多孔質被膜形成用PAI溶液を得た。
このPAI溶液を、厚み100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上に塗布後、160℃で20分乾燥することにより、厚みが63μm、気孔率74体積%、平均孔径が2.4μmの多孔質PAIフィルム(A-7)を得た。
【0054】
<比較例1>
架橋剤成分を添加しないこと以外は、実施例3と同様にして、PAI固形分濃度が20質量%のPAI溶液を得た。このPAI溶液100質量部に、テトラグライム80質量部を加え、固形分濃度が11.1質量%の多孔質被膜形成用PAI溶液を得た。このPAI溶液を、厚み100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上に塗布後、160℃で20分乾燥することにより、厚みが61μm、気孔率81体積%、平均孔径が2.8μmの多孔質PAIフィルム(B-1)を得た。
【0055】
<比較例2>
イソシアネート成分を、「TDI:1.02モル」としたこと以外は、実施例1と同様にして、PAI固形分濃度が20質量%のPAI溶液を得た。このPAI溶液100質量部に、テトラグライム80質量部を加え、固形分濃度が11.1質量%の多孔質被膜形成用PAI溶液を得た。このPAI溶液を、厚み100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上に塗布後、160℃で20分乾燥することにより、厚みが62μm、気孔率76体積%、平均孔径が4.5μmの多孔質PAIフィルム(B-2)を得た。
【0056】
<比較例3>
イソシアネート成分を、「MDI:1.02モル」としたこと以外は、実施例1と同様にして、PAI固形分濃度が20質量%のPAI溶液を得た。このPAI溶液100質量部に、テトラグライム80質量部を加え、固形分濃度が11.1質量%の多孔質被膜形成用PAI溶液を得た。このPAI溶液を、厚み100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上に塗布後、160℃で20分乾燥することにより、厚みが64μm、気孔率77体積%、平均孔径が4.4μmの多孔質PAIフィルム(B-3)を得た。
【0057】
<比較例4>
テトラグライムの使用量を、80質量部から40質量部とし、イソシアネート成分として「TODI:0.82モル、MDI:0.2モル」としたこと以外は、実施例1と同様にして、PAI固形分濃度が20質量%のPAI溶液を得た。このPAI溶液100質量部に、テトラグライム80質量部を加え、固形分濃度が11.1質量%の多孔質被膜形成用PAI溶液を得た。このPAI溶液を、厚み100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上に塗布後、160℃で20分乾燥することにより、厚みが65μm、気孔率65体積%、平均孔径が3.2μmの多孔質PAIフィルム(B-4)を得た。
【0058】
実施例1~7、比較例1~4で得た多孔質PAIフィルムの組成、特性をまとめて表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
表1に示すように、イソシアネートにTODIを使用し、気孔率が75体積%以上であり、不溶率が30%以上の本発明の多孔質PAIは、膜強度、耐溶剤性に優れているため、分離膜としての使用に適したものであった。これに対して、各比較例の多孔質PAIには、次の問題があった。比較例1は、架橋剤を使用しておらず、不溶率が0%であったため、比引張弾性率は良好であったものの、耐溶剤性がなく、分離膜としての使用に適さないものであった。比較例2は、イソシアネート成分にTDIのみ使用した例であるが、比引張弾性率が低く、分離膜としての使用に適さないものであった。比較例3は、イソシアネート成分にMDIのみ使用した例であるが
比引張弾性率が低く、分離膜としての使用に適さないものであった。比較例4は、気孔率を65体積%としたものであるが、比引張弾性率が1.3以下となり、膜強度が低く、分離膜としての使用に適さないものであった。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の多孔質PAIは、高い膜強度と耐溶剤性を有するので、分離膜として好適に用いることができる。