(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039637
(43)【公開日】2024-03-22
(54)【発明の名称】フッ素樹脂チューブから発生するパーティクル数の測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 15/06 20240101AFI20240314BHJP
【FI】
G01N15/06 E
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023145008
(22)【出願日】2023-09-07
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2022143750
(32)【優先日】2022-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今村 均
(72)【発明者】
【氏名】向井 恵吏
(72)【発明者】
【氏名】濱田 博之
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 学
(57)【要約】
【課題】フッ素樹脂チューブの内面の清浄度を正確に評価することができるパーティクル数の測定方法を提供すること。
【解決手段】フッ素樹脂チューブから溶媒中に放出されるパーティクル数を測定する測定方法であって、前記フッ素樹脂チューブ内に溶媒を流すことにより、前記フッ素樹脂チューブの内面を洗浄し、前記フッ素樹脂チューブ内に前記溶媒を満たし、前記フッ素樹脂チューブ内に前記溶媒を満たした状態で前記フッ素樹脂チューブを放置し、前記フッ素樹脂チューブ内に再び前記溶媒を流し、前記フッ素樹脂チューブから前記溶媒中に放出されるパーティクル数を測定する測定方法を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂チューブから溶媒中に放出されるパーティクル数を測定する測定方法であって、
前記フッ素樹脂チューブ内に溶媒を流すことにより、前記フッ素樹脂チューブの内面を洗浄し、
前記フッ素樹脂チューブ内に前記溶媒を満たし、前記フッ素樹脂チューブ内に前記溶媒を満たした状態で前記フッ素樹脂チューブを放置し、
前記フッ素樹脂チューブ内に再び前記溶媒を流し、前記フッ素樹脂チューブから前記溶媒中に放出されるパーティクル数を測定する測定方法。
【請求項2】
前記フッ素樹脂チューブの内面を洗浄するために流す前記溶媒の流速が、10~50mL/分である請求項1に記載の測定方法。
【請求項3】
前記フッ素樹脂チューブの内面の洗浄を、前記溶媒中に放出されるパーティクル数を測定しながら行い、横軸に洗浄時間、縦軸にパーティクル数をプロットしたグラフを描き、測定されるパーティクル数が、グラフの曲線のピーク高さの1/3に相当する高さまで減少した時点より後に、前記フッ素樹脂チューブの内面の洗浄を終了する請求項1または2に記載の測定方法。
【請求項4】
前記フッ素樹脂チューブ内に前記溶媒を満たした状態で放置する時間が、4時間以上である請求項1または2に記載の測定方法。
【請求項5】
前記溶媒を、濾過精度が30nm以下であるフィルターを通過させた後、前記フッ素樹脂チューブ内に供給する請求項1または2に記載の測定方法。
【請求項6】
前記溶媒の溶解度パラメータが、14~35(MPa)1/2である請求項1または2に記載の測定方法。
【請求項7】
前記溶媒が、イソプロピルアルコールである請求項1または2に記載の測定方法。
【請求項8】
前記フッ素樹脂チューブの長さが、100m以下である請求項1または2に記載の測定方法。
【請求項9】
前記フッ素樹脂チューブの内径が、2~23mmである請求項1または2に記載の測定方法。
【請求項10】
前記フッ素樹脂チューブが、テトラフルオロエチレン/フルオロアルキルビニルエーテル共重合体、および、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体からなる群より選択される少なくとも1種のフッ素樹脂から形成される請求項1または2に記載の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、フッ素樹脂チューブから発生するパーティクル数の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ふっ素樹脂またはふっ素樹脂をベースとする樹脂混和物を溶融押し出してチューブ状に成形するふっ素樹脂チューブの製造方法において、チューブ成形後、または成形中クリーンエアをチューブ中に流し、チューブ内のパーティクルをパージ処理することを特徴とするパーティクル低減ふっ素樹脂チューブの製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示では、フッ素樹脂チューブの内面の清浄度を正確に評価することができるパーティクル数の測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示によれば、フッ素樹脂チューブから溶媒中に放出されるパーティクル数を測定する測定方法であって、前記フッ素樹脂チューブ内に溶媒を流すことにより、前記フッ素樹脂チューブの内面を洗浄し、前記フッ素樹脂チューブ内に前記溶媒を満たし、前記フッ素樹脂チューブ内に前記溶媒を満たした状態で前記フッ素樹脂チューブを放置し、前記フッ素樹脂チューブ内に再び前記溶媒を流し、前記フッ素樹脂チューブから前記溶媒中に放出されるパーティクル数を測定する測定方法が提供される。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、フッ素樹脂チューブの内面の清浄度を正確に評価することができるパーティクル数の測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本開示の測定方法を実施するために用いるシステムの実施の形態の一例を示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示の具体的な実施形態について詳細に説明するが、本開示は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0009】
フッ素樹脂チューブから溶媒中に放出されるパーティクル数の測定方法として、特許文献1には、超純水を流量3.8l/minで供試体チューブ内に循環させ、その超純水を連続的にパーティクル用カウンターにより測定したことが記載されている。このような従来の方法を用いても、フッ素樹脂チューブの内面の清浄度をある程度は把握することができる。しかしながら、従来の方法で高い清浄度が確認できたチューブを実際に半導体製造設備に設置すると、意外にも、フッ素樹脂チューブから溶媒中にパーティクルが放出されていることが確認されることがあり、半導体製造の歩留まりを低下させることがあった。
【0010】
したがって、半導体製造設備に設置する前に、フッ素樹脂チューブの内面の清浄度を正確に評価することができるパーティクル数の測定方法が求められている。
【0011】
本開示の測定方法においては、フッ素樹脂チューブから溶媒中に放出されるパーティクル数を測定するために、あらかじめ、フッ素樹脂チューブ内を溶媒で洗浄し、洗浄したチューブ内に溶媒を一定の時間滞留させ、その後にフッ素樹脂チューブから溶媒中に放出されるパーティクル数を測定する。
【0012】
本開示の測定方法は、上記の構成を有することから、従来の測定方法よりも、チューブ内面の清浄度をより正確に把握することができる。したがって、本開示の測定方法を用いることにより、従来の測定方法を用いた場合には清浄度が同等とされる2つのチューブであっても、2つのチューブの清浄度の高低を把握することができることがあり、しかも、清浄度の高低を、半導体製造設備にチューブを設置する前に把握することができるので、半導体製造における歩留まりを高めることができる。
【0013】
次に、本開示の測定方法について、詳細に説明する。
【0014】
本開示の測定方法は、フッ素樹脂チューブから溶媒中に放出されるパーティクル数を測定する測定方法である。本開示の測定方法は、主に3つの工程を含んでいる。すなわち、本開示の測定方法においては、
フッ素樹脂チューブ内に溶媒を流すことにより、フッ素樹脂チューブの内面を洗浄し(洗浄工程)、
フッ素樹脂チューブ内に溶媒を満たし、フッ素樹脂チューブ内に溶媒を満たした状態でフッ素樹脂チューブを放置し(溶媒滞留工程)、
フッ素樹脂チューブ内に再度溶媒を流し、フッ素樹脂チューブから溶媒中に放出されるパーティクル数を測定する(測定工程)。
【0015】
洗浄工程においては、フッ素樹脂チューブ内に溶媒を流すことにより、フッ素樹脂チューブの内面を洗浄する。
【0016】
洗浄工程において、フッ素樹脂チューブの内面を洗浄するために流す溶媒の流速は、好ましくは5~50mL/分であり、より好ましくは10mL/分以上であり、より好ましくは20mL/分以下である。
【0017】
洗浄工程において、フッ素樹脂チューブの内面を洗浄するために流す溶媒の流量は、フッ素樹脂チューブの内面の全てを十分に洗浄することができ、かつ、フッ素樹脂チューブの内面から放出されるパーティクル数が十分に減少する量であることが好ましい。
【0018】
洗浄工程の一実施形態においては、フッ素樹脂チューブの内面の洗浄を、溶媒中に放出されるパーティクル数を測定しながら行い、横軸に洗浄時間、縦軸にパーティクル数をプロットしたグラフを描き、測定されるパーティクル数が、グラフの曲線のピーク高さの1/3に相当する高さまで減少した時点より後に、フッ素樹脂チューブの内面の洗浄を終了することができる。また、洗浄工程の一実施形態においては、グラフの曲線がほぼフラットになった後に、すなわち、測定されるパーティクル数の減少がほとんど観測されなくなった後に、フッ素樹脂チューブの内面の洗浄を終了することができる。
【0019】
洗浄工程において、フッ素樹脂チューブの内面を洗浄するために流す溶媒の流量は、フッ素樹脂チューブの内容積に対して、好ましくは10~200倍量であり、より好ましくは100倍量以下であり、さらに好ましくは50倍量以下であり、尚さらに好ましくは18倍量以下である。
【0020】
フッ素樹脂チューブの内面の洗浄は、常温(たとえば10~30℃)で行うことができる。フッ素樹脂チューブに供給する溶媒の温度は、常温(たとえば10~30℃)であってよい。
【0021】
フッ素樹脂チューブの内面の洗浄は、フッ素樹脂チューブ内への溶媒の供給を停止することにより、終了することができる。また、上記の方法により、フッ素樹脂チューブの内面から放出されるパーティクル数が十分に減少したことを確認した後、フッ素樹脂チューブ内への溶媒の供給を停止することなく、次の溶媒滞留工程を実施してもよい。また、フッ素樹脂チューブの内面の洗浄が終了した後、フッ素樹脂チューブ内から溶媒を除去してから、次の溶媒滞留工程を実施してもよいし、溶媒をフッ素樹脂チューブ内に留めた状態で、次の溶媒滞留工程を実施してもよい。
【0022】
洗浄工程の次に、溶媒滞留工程を実施する。溶媒滞留工程においては、フッ素樹脂チューブ内に溶媒を満たし、フッ素樹脂チューブ内に溶媒を満たした状態でフッ素樹脂チューブを放置する。溶媒滞留工程の一実施形態においては、フッ素樹脂チューブ内の溶媒の流速は、0mL/分である。
【0023】
フッ素樹脂チューブ内に溶媒を満たす方法は、特に限定されず、フッ素樹脂チューブの内面の全てが溶媒に接するようにフッ素樹脂チューブ内に溶媒が満たされる方法であればよい。一実施形態においては、フッ素樹脂チューブの内面の全てが溶媒に接する流量で、フッ素樹脂チューブの内面の洗浄することにより洗浄工程を実施し、洗浄が終了した後、フッ素樹脂チューブ内への溶媒の供給を停止し、フッ素樹脂チューブ内に溶媒を満たした状態を一定時間保つことにより、溶媒滞留工程を実施する。
【0024】
測定の精度を高める観点から、溶媒を満たしたフッ素樹脂チューブを放置する時間は、好ましくは10分間以上であり、より好ましくは20分間以上であり、さらに好ましくは2時間以上であり、尚さらに好ましくは4時間以上であり、特に好ましくは6時間以上であり、上限は特に限定されないが、測定の効率を考慮して、24時間以下とすることができる。
【0025】
溶媒を満たしたフッ素樹脂チューブを放置する温度は、常温(たとえば10~30℃)であってよい。フッ素樹脂チューブに滞留させる溶媒の温度は、常温(たとえば10~30℃)であってよい。測定の精度を高める観点から、溶媒を満たしたフッ素樹脂チューブに対して、熱および圧力を負荷することなく、溶媒を満たしたフッ素樹脂チューブを放置することが好ましい。また、測定の精度を高める観点から、溶媒を満たしたフッ素樹脂チューブを振動させることなく、溶媒を満たしたフッ素樹脂チューブを放置することが好ましい。
【0026】
溶媒滞留工程を実施した後、フッ素樹脂チューブ内に再度溶媒を流し、フッ素樹脂チューブから溶媒中に放出されるパーティクル数を測定する(測定工程)。洗浄工程においてフッ素樹脂チューブから溶媒中に放出されるパーティクル数の減少がほとんど観測されなくなったことが確認された場合でも、フッ素樹脂チューブの内面を洗浄した後、フッ素樹脂チューブ内に溶媒を滞留させると、洗浄工程の終了時に確認されたパーティクル数よりも多いパーティクル数が測定されることがある。そして、このようにして測定されるパーティクル数は、従来の方法で測定されるパーティクル数よりも、フッ素樹脂チューブの内面の清浄度を正確に反映したものであることが今や判明した。
【0027】
測定工程において、フッ素樹脂チューブから溶媒中に放出されるパーティクル数を測定するために流す溶媒の流速は、好ましくは10~500mL/分であり、より好ましくは100mL/分以上であり、より好ましくは300mL/分以下である。
【0028】
パーティクル数の測定は、常温(たとえば10~30℃)で行うことができる。
【0029】
パーティクル数の測定には、市販のパーティクルカウンターを用いることができる。測定するパーティクルの直径は、50nm以上、30nm以上、または、20nm以上であってよい。
【0030】
パーティクル数は、たとえば、パーティクル数の減少がほとんど観測されなくなった時に終了し、終了までに測定されたパーティクル数を積算することにより、算出することができる。測定方法および積算方法を定めておくことによって、2以上のフッ素樹脂チューブの内面の清浄度を正確に比較できるようになる。
【0031】
測定方法の一実施形態においては、
パーティクル測定ラインを洗浄した後、パーティクルカウンターの上流側に、測定対象であるフッ素樹脂チューブを設置し、
パーティクルカウンターを用いて、フッ素樹脂チューブの内面の洗浄に用いた溶媒中のパーティクル数を測定しながら、フッ素樹脂チューブ内に溶媒を流すことによりフッ素樹脂チューブの内面を洗浄し、
フッ素樹脂チューブの内面の洗浄に用いた溶媒中のパーティクル数がほとんど減少しなくなったことを確認し、
フッ素樹脂チューブ内への溶媒の供給を停止し、フッ素樹脂チューブ内に溶媒を満たした状態でフッ素樹脂チューブを10分間以上放置し、
フッ素樹脂チューブ内への溶媒の供給を再開し、パーティクルカウンターを用いて、フッ素樹脂チューブ内を通過させた溶媒中のパーティクル数を測定する。
【0032】
本開示の測定方法の各工程において用いる溶媒は、同一であってもよいし、異なっていてもよいが、測定が容易になる観点からは、同一の溶媒を用いることが好ましい。
【0033】
溶媒の溶解度パラメータは、好ましくは14~35(MPa)1/2であり、より好ましくは16(MPa)1/2以上であり、さらに好ましくは17(MPa)1/2以上であり、より好ましくは25(MPa)1/2以下であり、さらに好ましくは20(MPa)1/2以下である。フッ素樹脂チューブの内面に付着するパーティクルには、チューブの製造工程において溶融したフッ素樹脂から発生するポリマーヒュームに由来するパーティクルが含まれると推測される。溶解度パラメータが上記の範囲内にある溶媒は、フッ素樹脂から発生するポリマーヒュームに由来するパーティクルを溶解させにくいので、溶解度パラメータが上記の範囲内にある溶媒を用いることにより、パーティクル数を一層正確に測定できるものと推測される。
【0034】
溶媒としては、たとえば、n-ヘキサン(14.9)、n-ヘプタン(15.1)、ジエチルエーテル(15.1)、ジイソブチルケトン(16.0)、ジイソプロピルケトン(16.4)、エチルアミルケトン(16.8)、シクロヘキサン(16.8)、酢酸ブチル(17.0)、シクロペンタン(17.8)、イソプロピルアルコール(18.0)、酢酸エチル(18.6)、アセトン(20.3)、ジオキサン(20.5)、アセトアルデヒド(21.1)、アミルアルコール(22.3)、シクロヘキサノール(23.3)、n-プロピルアルコール(24.5)、エチルアルコール(26)、エチレングリコール(29.9)などが挙げられる。括弧内の数値は、溶媒の溶解度パラメータ((MPa)1/2)である。
【0035】
溶解度パラメータについては、次の文献に詳述されている。
中西浩一郎、“溶解度パラメータ”、熱測定、日本熱測定学会、第9巻、第2号、第61-68頁、1982年
溶剤の溶解度パラメータは、たとえば、次のウェブサイトに記載の数値を採用できる。
“プラスチック素材辞典 可塑剤や溶剤の溶解-溶解度パラメータ数値順”、[online]、[令和4年8月30日検索]、インターネット<URL:https://www.plastics-material.com/%E5%8F%AF%E5%A1%91%E5%89%A4%E3%82%84%E6%BA%B6%E5%89%A4%E3%81%AE%E6%BA%B6%E8%A7%A3-%E6%BA%B6%E8%A7%A3%E5%BA%A6%E3%83%91%E3%83%A9%E3%83%A1%E3%83%BC%E3%82%BF%E6%95%B0%E5%80%A4%E9%A0%86/>
【0036】
溶媒としては、イソプロピルアルコールおよびエチレングリコールからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、イソプロピルアルコールがより好ましい。
【0037】
溶媒は、フッ素樹脂チューブに供給する前に、フィルターを用いて濾過しておくことが好ましい。濾過には、たとえば、濾過精度が30nm以下のフィルターを用いることができる。あらかじめ溶媒を濾過しておくことによって、濾過精度以上の直径を有するパーティクルの数を、一層正確に測定することができるようになる。
【0038】
本開示の測定方法には、たとえば、10cm~100mの長さを有するフッ素樹脂チューブを用いることができる。フッ素樹脂チューブの内径は、たとえば、2~23mmである。
【0039】
本開示の測定方法に用いるチューブは、フッ素樹脂から形成される。フッ素樹脂としては、溶融加工性を有するフッ素樹脂が好ましい。本開示において、溶融加工性とは、押出機および射出成形機などの従来の加工機器を用いて、ポリマーを溶融して加工することが可能であることを意味する。従って、溶融加工性のフッ素樹脂は、後述する測定方法により測定されるメルトフローレートが0.01~500g/10分であることが通常である。
【0040】
フッ素樹脂のメルトフローレート(MFR)は、好ましくは0.5~100g/10分であり、より好ましくは1~50g/10分であり、さらに好ましくは2~40g/10分である。
【0041】
MFRは、ASTM D-1238に準拠して、直径2.1mmで長さが8mmのダイにて、荷重5kg、フッ素樹脂の一般的な成形温度である約230~400℃の範囲の任意の温度(たとえば、372℃)で測定する。
【0042】
フッ素樹脂の融点は、特に限定されないが、好ましくは100~324℃であり、より好ましくは220~315℃である。上記融点は、示差走査熱量計〔DSC〕を用いて10℃/分の速度で昇温したときの融解熱曲線における極大値に対応する温度である。
【0043】
フッ素樹脂としては、たとえば、テトラフルオロエチレン/フルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン(TFE)/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)共重合体、TFE/エチレン共重合体〔ETFE〕、TFE/エチレン/HFP共重合体、エチレン/クロロトリフルオロエチレン(CTFE)共重合体〔ECTFE〕、ポリクロロトリフルオロエチレン〔PCTFE〕、CTFE/TFE共重合体、ポリビニリデンフルオライド〔PVdF〕、TFE/ビニリデンフルオライド(VdF)共重合体〔VT〕、ポリビニルフルオライド〔PVF〕、TFE/VdF/CTFE共重合体〔VTC〕、TFE/HFP/VdF共重合体などが挙げられる。
【0044】
フッ素樹脂としては、なかでも、テトラフルオロエチレン/フルオロアルキルビニルエーテル共重合体、および、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0045】
次に、図面を参照して、本開示の測定方法を実施するためのシステムについて説明する。
図1は、本開示のシステムの実施の形態の一例を示す系統図である。
図1に示すように、本開示の一実施形態のシステム1は、溶媒容器11、フィルター14、パーティクルカウンター17を備えている。
【0046】
溶媒容器11中には、溶媒が収容されており、ポンプ12、バルブ13およびフィルター14を介して継手15に接続されている。継手15および継手16は、測定対象であるフッ素樹脂チューブ21を接続できるように構成されている。溶媒容器11中の溶媒は、ポンプ12により、フィルター14を通過し、継手15および継手16に接続されたフッ素樹脂チューブ21に供給される。フッ素樹脂チューブ21を通過した溶媒の一部または全部は、パーティクルカウンター17に導入され、溶媒中のパーティクル数が測定される。
【0047】
図1に示すシステム1においては、パーティクルカウンター17の下流側に流量計18が設置されており、流量計18(流量調整バルブを備えた流量計)により、パーティクルカウンター17に導入される溶媒の流量が調整される。パーティクルカウンター17に導入されなかった残りの溶媒は、流量計19(流量調整バルブを備えた流量計)により流量が調整され、流量計19を介して外部に排出される。
【0048】
以上、実施形態を説明したが、特許請求の範囲の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
【0049】
<1> 本開示の第1の観点によれば、
フッ素樹脂チューブから溶媒中に放出されるパーティクル数を測定する測定方法であって、
前記フッ素樹脂チューブ内に溶媒を流すことにより、前記フッ素樹脂チューブの内面を洗浄し、
前記フッ素樹脂チューブ内に前記溶媒を満たし、前記フッ素樹脂チューブ内に前記溶媒を満たした状態で前記フッ素樹脂チューブを放置し、
前記フッ素樹脂チューブ内に再び前記溶媒を流し、前記フッ素樹脂チューブから前記溶媒中に放出されるパーティクル数を測定する測定方法が提供される。
<2> 本開示の第2の観点によれば、
前記フッ素樹脂チューブの内面を洗浄するために流す前記溶媒の流速が、10~50mL/分である第1の観点による測定方法が提供される。
<3> 本開示の第3の観点によれば、
前記フッ素樹脂チューブの内面の洗浄を、前記溶媒中に放出されるパーティクル数を測定しながら行い、横軸に洗浄時間、縦軸にパーティクル数をプロットしたグラフを描き、測定されるパーティクル数が、グラフの曲線のピーク高さの1/3に相当する高さまで減少した時点より後に、前記フッ素樹脂チューブの内面の洗浄を終了する第1または第2の観点による測定方法が提供される。
<4> 本開示の第4の観点によれば、
前記フッ素樹脂チューブ内に前記溶媒を満たした状態で放置する時間が、4時間以上である第1~第3のいずれかの観点による測定方法が提供される。
<5> 本開示の第5の観点によれば、
前記溶媒を、濾過精度が30nm以下であるフィルターを通過させた後、前記フッ素樹脂チューブ内に供給する第1~第4のいずれかの観点による測定方法が提供される。
<6> 本開示の第6の観点によれば、
前記溶媒の溶解度パラメータが、14~35(MPa)1/2である第1~第5のいずれかの観点による測定方法が提供される。
<7> 本開示の第7の観点によれば、
前記溶媒が、イソプロピルアルコールである第1~第6のいずれかの観点による測定方法が提供される。
<8> 本開示の第8の観点によれば、
前記フッ素樹脂チューブの長さが、100m以下である第1~第7のいずれかの観点による測定方法が提供される。
<9> 本開示の第9の観点によれば、
前記フッ素樹脂チューブの内径が、2~23mmである第1~第8のいずれかの観点による測定方法が提供される。
<10> 本開示の第10の観点によれば、
前記フッ素樹脂チューブが、テトラフルオロエチレン/フルオロアルキルビニルエーテル共重合体、および、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体からなる群より選択される少なくとも1種のフッ素樹脂から形成される第1~第9のいずれかの観点による測定方法が提供される。
【実施例0050】
つぎに本開示の実施形態について実施例をあげて説明するが、本開示はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0051】
実施例および比較例では、次のチューブを用いた。
チューブA
テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)共重合体から形成されたチューブ。外径6.35mm、内径3.95mm。クリーンルーム内でチューブを製造した後に、チューブ内面をクリーンルーム外の大気に暴露させたもの。
チューブB
テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)共重合体から形成されたチューブ。外径6.35mm、内径3.95mm。クリーンルーム内でチューブを製造した後に、チューブ内面をクリーンルーム外の大気に暴露させることなく、クリーンルーム内でチューブの両端をキャップで封止したもの。
チューブC
テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)共重合体から形成されたチューブ。外径6.35mm、内径3.95mm。チューブAとは異なる製造条件を用いて、クリーンルーム内でチューブを製造した後に、チューブ内面をクリーンルーム外の大気に暴露させたもの。
【0052】
チューブA~Cを形成する共重合体は、いずれも、以下の物性を有している。
組成:テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)=94.5/5.5(質量%)
MFR:2g/10分
融点:303℃
【0053】
実施例の各数値は以下の方法により測定した。
【0054】
(組成)
19F-NMR法により測定した。
【0055】
(メルトフローレート(MFR))
ASTM D1238に従って、メルトインデクサー(安田精機製作所社製)を用いて、372℃、5kg荷重下で、内径2.1mm、長さ8mmのノズルから10分間あたりに流出する共重合体の質量(g/10分)を測定することにより、求めた。
【0056】
(融点)
示差走査熱量計〔DSC〕を用いて、10℃/分の速度で昇温したときの融解熱曲線における極大値に対応する温度として求めた。
【0057】
(パーティクル数)
パーティクルカウンター(リオン社製、光散乱式液中粒子検出器KS-19F)を用いて、直径30nm以上のパーティクルの数を測定した。
【0058】
実施例1
クラス100のクリーンブース内で、チューブを0.5mにカットして、チューブAを作製した。
【0059】
測定には、
図1に示すシステム1、および、市販の高純度イソプロピルアルコール(IPA)を用いた。フィルター14として、キッツマイクロフィルター社製インラインフィルタ(NHMシリーズ、濾過精度3nm)を用いた。
【0060】
測定ラインからIPA中に放出される直径30nm以上のパーティクルの数が、10個/mL以下であることを、パーティクルカウンターを用いて、事前に確認した。
【0061】
図1に示すシステム1の継手15および16に、チューブAを接続した後、流速10mL/分で表1に記載の流量(チューブの内容積に対するIPAの総流量)となるように、チューブA内にIPAを流して、チューブAの内面を洗浄した。
【0062】
次に、ポンプ12を停止し、IPAがチューブA内に満たされた状態で、チューブAを0.5時間静置した。
【0063】
チューブA内へのIPAの供給を再開し、流速110mL/分でチューブA内にIPAを流した。チューブA内を通過したIPAの一部を、流速10mL/分で光散乱式液中粒子検出器(パーティクルカウンター)に導入し、IPA中のパーティクル数を測定した。10分間以内でパーティクル数が、ブランクレベルまで低下したが、16分間測定を続けた。測定毎の間隔を2秒とし、パーティクル数を合計で15回測定した。15回分の各測定値(個/mL)に110を乗じた上で積算し、積算値をチューブA内面の表面積で除することによって、チューブAからIPA中に放出されるパーティクル数(個/cm2)を算出した。結果を表1に示す。
【0064】
実施例2~8
チューブの種類、溶媒の種類、洗浄条件、放置時間等を表1に記載のとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして、チューブからIPA中に放出されるパーティクル数(個/cm2)を算出した。結果を表1に示す。
【0065】
比較例1~6
チューブを洗浄せず、かつ、チューブ内にIPAを充満させることなく、パーティクル数を測定した。チューブの種類、溶媒の種類等を表1に記載のとおりに変更した。その他の条件は、実施例1と同様にして、チューブからIPA中に放出されるパーティクル数(個/cm2)を算出した。結果を表1に示す。
【0066】
【0067】
表1の結果が示すとおり、従来の測定方法を用いた比較例1および4では、チューブAおよびチューブBのいずれからも、同程度の数のパーティクルが溶媒中に放出されたことが確認された。
一方、本開示の測定方法を用いた実施例3では、チューブAから多数のパーティクルが溶媒中に放出されたことが確認された。さらに、本開示の測定方法を用いた実施例7では、チューブBからチューブAよりも少数のパーティクルが溶媒中に放出されたことが確認された。
すなわち、従来の測定方法を用いた場合、チューブAおよびチューブBの内面の清浄度が同等と評価されるが、本開示の測定方法を用いた場合、チューブBの内面の清浄度が、チューブAの内面の清浄度よりも高いことが確認できることが分かる。
同様に、比較例5および6の結果と、実施例7および8の結果とを対比すると、従来の測定方法を用いた場合、チューブBおよびチューブCの内面の清浄度が同等と評価されるが、本開示の測定方法を用いた場合、チューブBの内面の清浄度が、チューブCの内面の清浄度よりも高いことが確認できることが分かる。
以上の結果から、本開示の測定方法は、従来の測定方法よりも、チューブ内面の清浄度をより正確に把握することができるデータを提供することが分かる。したがって、本開示の測定方法を用いることにより、たとえば、半導体製造設備にチューブを設置する前に、チューブ内面の清浄度を正確に評価することができるので、半導体製造における歩留まりを高めることができる。
前記フッ素樹脂チューブの内面の洗浄を、前記溶媒中に放出されるパーティクル数を測定しながら行い、横軸に洗浄時間、縦軸にパーティクル数をプロットしたグラフを描き、測定されるパーティクル数が、グラフの曲線のピーク高さの1/3に相当する高さまで減少した時点より後に、前記フッ素樹脂チューブの内面の洗浄を終了する請求項1または2に記載の測定方法。
前記フッ素樹脂チューブが、テトラフルオロエチレン/フルオロアルキルビニルエーテル共重合体、および、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体からなる群より選択される少なくとも1種のフッ素樹脂から形成される請求項1または2に記載の測定方法。