IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東洋インキSCホールディングス株式会社の特許一覧

特開2024-39714光電変換層、光電変換素子および分散体
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039714
(43)【公開日】2024-03-25
(54)【発明の名称】光電変換層、光電変換素子および分散体
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/10 20060101AFI20240315BHJP
【FI】
H01L31/10 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022144289
(22)【出願日】2022-09-12
(71)【出願人】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(72)【発明者】
【氏名】光山 健太
(72)【発明者】
【氏名】木村 秀一
【テーマコード(参考)】
5F149
5F849
【Fターム(参考)】
5F149AA01
5F149AB01
5F149BA09
5F149BA28
5F149BB07
5F149CB05
5F149FA04
5F149GA02
5F149LA01
5F149XB20
5F149XB24
5F149XB34
5F149XB51
5F849AA01
5F849AB01
5F849BA09
5F849BA28
5F849BB07
5F849CB05
5F849FA04
5F849GA02
5F849LA01
5F849XB20
5F849XB24
5F849XB34
5F849XB51
(57)【要約】
【課題】
SWIR領域の光に対して光電変換能を有し、塗布等による製膜が可能な光電変換層を提供すること。
【解決手段】
粒子径が50nm以上300nm以下の範囲である金属シリサイド粒子と分散剤とを含んでなる光電変換層、前記光電変換層を有する光電変換素子、および前記光電変換層を形成するための分散体であって粒子径が50nm以上300nm以下の範囲である金属シリサイド粒子と分散剤と分散媒とを含有してなる分散体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子径が50nm以上300nm以下の範囲である金属シリサイド粒子と分散剤とを含んでなる光電変換層。
【請求項2】
請求項1に記載の光電変換層を有する光電変換素子。
【請求項3】
請求項1に記載の光電変換層を形成するための分散体であって、粒子径が50nm以上300nm以下の範囲である金属シリサイド粒子と分散剤と分散媒とを含有してなる分散体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換層、光電変換素子および分散体に関する。
【背景技術】
【0002】
光電変換素子は光信号を電気信号に変換する素子であり、イメージングやセンシングを始めとして様々な用途で利用されている。近年では、短波長赤外域(「SWIR」と略記することがある。本明細書では0.9μm以上2.5μm以下の波長領域とする。)の波長の光を利用することで、夜間監視や測距センサー、農産物検査など、可視光領域では困難であったアプリケーションへの適応が試みられており、SWIRの波長の光領域を高感度に検知できるSWIR光電変換素子への要請が高まっている。
光電変換素子の材料には、以前よりシリコンや半導体材料が用いられており、現在でも精力的に研究・開発がなされている。しかしながら、シリコンの吸収可能な光の波長は1μm前後までであり、SWIR領域の光検知には利用できない。一方、半導体材料はバンドギャップを制御することで、SWIR領域の光を検知することが可能であるが、既知の狭ギャップ半導体であるInGaAsやInSb、PbSeといった材料は高価であり、普及には至っていない。
【0003】
近年、SWIR領域の光に感度を有する材料として、金属とシリコンとから構成される化合物半導体である金属シリサイドが提案されており、これまで、Mg2Siなどが報告されている(特許文献1、2)。金属シリサイドは、金属としてMgやCa、Baといったアルカリ土類金属やMnやFeといった遷移金属が知られており、様々な材料設計の可能が高いという利点が挙げられる。
上記の様に、金属シリサイドは優れたSWIR光電変換材料でありながら、溶融化学反応や金属溶媒中での結晶成長、シリコン基板上でのエピタキシャル成長といった限られた方法でしか合成できず、それ故に製膜の方法も限られていた。薄膜形成の手法として広く採用されるスパッタ法ではガラス基板等にも製膜はできるものの、シリサイドがアモルファス化し、電荷移動度が低下してしまっていた。しかし、金属シリサイドを光電変換材料として用い、あらゆる産業分野で使用するためには、結晶構造を維持した状態であらゆる形状に加工できる形態にする必要があり、特にフレキシブル性を有する光電変換素子に適用するためには、様々な形状に追従できるように薄膜化することが有用である。したがって、様々な形状への加工や、塗布等による基材上への製膜が可能な金属シリサイドを光電変換材料として含む材料が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開2022/064735号
【特許文献2】特開2015-154005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、SWIR領域の光に対して光電変換能を有し、塗布等による製膜が可能な光電変換層を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記諸問題を解決するために、鋭意研究を重ねた結果、本発明に至った。すなわち、本発明は、粒子径が50nm以上300nm以下の範囲である金属シリサイド粒子と分散剤とを含んでなる光電変換層に関する。
【0007】
また、本発明は、上記の光電変換層を有する光電変換素子に関する。
【0008】
また、本発明は、上記光電変換層を形成するための分散体であって、粒子径が50nm以上300nm以下の範囲である金属シリサイド粒子と分散剤と分散媒とを含有してなる分散体に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によって、SWIR領域の光に対して光電変換能を有し、塗布による製膜が可能な光電変換層が提供されるようになった。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、詳細にわたって本発明を説明するが、まず本明細書で用いられる用語や略号等について解説する。本明細書では、特に断りがない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」をそれぞれ意味するものとする。
【0011】
<光電変換層>
本発明の光電変換層は、後述する金属シリサイド粒子と分散剤とを含有することを特徴とする。金属シリサイド粒子の含有率は、光電変換層中、下限が90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましい。金属シリサイド粒子の含有率の上限は、特に制限はないが、100%未満である。
光電変換層の厚みは、求める吸収率に応じて50nmから2μmの範囲であることが好ましく、50nmから500nmの範囲であることがさらに好ましい。
【0012】
<金属シリサイド粒子>
まず、本発明に使用される金属シリサイド粒子中の金属シリサイドについて説明する。金属シリサイドとは、金属とシリコンとから構成される化合物半導体である。Mg2Siやβ-FeSi2に代表され、金属にはアルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属などを選択することができる。金属シリサイドのエネルギーバンドは、金属元素や組成、結晶構造によって異なり、フェルミ準位がバンドギャップ内に存在する場合に半導体性を示す。半導体性を示す金属シリサイドとしては、Mg2SiやCa2Si、β-FeSi2、Mn4Si7、CoSi、MoSi2などを挙げることができる。金属シリサイドの合成法としては、溶融化学反応や金属溶媒中での結晶成長、シリコン基板上でのエピタキシャル成長などが挙げられる。
【0013】
本発明の光電変換層に含まれる金属シリサイド粒子の粒子径は50nm以上300nm以下である。中でも、50nm以上100nm以下が好ましい。明細書における粒子径とは、個数基準の平均粒子径であり、動的光散乱法により測定された値を表す。
【0014】
金属シリサイド粒子を作製または合成する方法としては、単結晶または多結晶の金属シリサイドを粉砕する方法や、溶融した金属とシリコンの各溶融液をプラズマトーチ中に噴出し、蒸発させてから急冷する方法等が挙げられる。
【0015】
<分散剤>
次に、分散剤について説明する。分散剤とは、金属シリサイド粒子を分散媒に分散させる際に、金属シリサイド粒子の分散の促進と安定化を担う。分散剤の多くは、金属シリサイド粒子に吸着する部位と分散を安定化させる部位から構成される。本発明に用いられる分散剤は、アルキレンオキサイド鎖(オキシアルキレン基)および/または極性基を有していることが好ましい。分散剤が極性基を有する場合、極性基としては、アミノ基や第四アンモニウム塩基、酸性基を有することが好ましく、アミノ基または第四アンモニウム塩基と酸性基とを兼ね備えていることがより好ましい。分散剤がアルキレンオキサイド鎖を有している場合には、有していない場合に比して分散体の粘度が増加し、比重の大きい金属シリサイド粒子の分散安定性を改善することができる。分散剤が極性基を有している場合には、金属シリサイド粒子への吸着性が向上し、分散体の分散安定性や光電変換膜の平滑性を向上することができる。
【0016】
分散剤がアミノ基を有する場合、アミン価は20~200mgKOH/gであることが好ましく、25~150mgKOH/gであることがより好ましい。本明細書におけるアミン価とは、0.1Nの塩酸水溶液を用い、電位差滴定法によって求めた後、水酸化カリウムの当量に換算した値であり、測定した全アミン価を分散剤の固形分換算した値(mgKOH/g)である。
【0017】
分散剤が第四アンモニウム塩基を有する場合、四級アンモニウム塩価は20~200mgKOH/gであることが好ましく、25~150mgKOH/gであることがより好ましい。本明細書における四級アンモニウム塩価とは、5%クロム酸カリウム水溶液を指示薬として、0.1Nの硝酸銀水溶液で滴定して求めた後、水酸化カリウムの当量に換算した値であり、測定した全アンモニウム塩価を分散剤の固形分換算した値(mgKOH/g)である。
【0018】
分散剤が酸性基を有する場合、酸価は200mgKOH/g以下であることが好ましく、20~150mgKOH/gであることがより好ましい。本明細書における酸価は、0.1Nの水酸化カリウム・エタノール溶液を用い、電位差滴定法によって求めた値であり、測定した全酸価を分散剤の固形分換算した値(mgKOH/g)である。
【0019】
分散剤がアミン価、四級アンモニウム塩価、酸価を有する場合、上記の範囲であると、分散操作時に粉砕および分散が促進され、分散体中の金属シリサイド粒子の粒子径をより小さくすることができる。また、分散体の分散安定性および光電変換層の平滑性が向上する。
【0020】
分散剤の数平均分子量(Mnと略記することがある)は、ゲル浸透クロマトグラフィー法(GPC法)によって測定することができ、標準ポリスチレン換算値で1000~10000が好ましく、1500~8000がより好ましい。分散剤は、公知の分散剤を使用することができるが、例えば、特開2019-089954や特表2014-520127を好ましい態様の例として挙げることができる。
【0021】
<分散体>
金属シリサイド粒子と分散剤は、後述の分散媒と混合することで、光電変換層を形成するための分散体とすることができる。
【0022】
<分散媒>
分散媒としては、公知の有機溶剤等を用いることができるが、均一な光電変換層を形成する上で金属シリサイドを均一に分散できるものが好ましい。具体的には、ヘキサンやオクタン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶剤、クロロホルムやクロロベンゼンやo-ブロモトルエン等のハロゲン化炭化水素系溶剤、n―ブタノールやエチレングリコール等のアルコール系溶剤、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、酢酸エチルや酢酸イソアミル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル系溶剤が挙げられるが、これらに限定されない。中でも、酢酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、シクロヘキサノンが好ましく、ブタノール、プロパノール、エチレングリコールがより好ましい。
【0023】
<その他添加剤>
本発明の光電変換層は、上に述べた金属シリサイド粒子や分散剤の以外のその他添加剤を含んでも良い。添加物としては、バインダー(結着剤)などが挙げられる。
【0024】
<光電変換素子>
本発明の光電変換層は、一対の電極間に設けることで、光電変換素子を作製することができる。光電変換素子は公知の製造方法によって製造することができ、例えば、特開2015-065267号公報に記載されている製造方法によって製造することができる。光電変換素子を構成する電極の材料としては、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウムスズ(ITO)等の導電性金属酸化物、金、銀、白金、クロム、ニッケル、リチウム、インジウム、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム等の金属等の公知の材料が挙げられる。
【実施例0025】
以下、実施例および比較例により本発明を詳しく説明するが、本発明の主旨を逸脱しない限りこれらの実施例に限定されるものではない。特に断りのない限り、「部」は「質量部」、「%」は「質量%」を表す。なお、特に断りのない限り、全ての測定は25℃で行った。
【0026】
<金属シリサイド粒子(A)の作製>
[金属シリサイド粒子(A-1)の合成・作製]
まず、J.Materials Sci.16(1981)355を参考に、化学量論比で混合したMnとSiを石英管内に封入して1200℃に加熱し、その融液から結晶成長させることでMn4Si7結晶を合成した。このMn4Si7結晶をメノウ乳鉢で粉砕した後、直径10mmのジルコニアビーズ、直径3mmのジルコニアビーズ、直径1mmのジルコニアビーズを用いてボールミルで順次粉砕し、金属シリサイド粒子(A-1)を作製した。作製した金属シリサイド粒子(A-1)の粒子径が2-3μmであることを確認した。また、この金属シリサイド粒子(A-1)がMn4Si7であることを粉末X線回折にて確認した。
【0027】
[金属シリサイド粒子(A-2)の作製]
金属シリサイド粒子(A-2)は、化学量論比で混合したCoとSiを石英管内に封入して1000℃に加熱し、その融液から結晶成長させることでCoSi結晶を合成した以外は、金属シリサイド粒子(A-1)と同様にして作製した。作製した金属シリサイド粒子(A-1)の粒子径が2-3μmであることを確認した。また、この金属シリサイド粒子(A-2)が、CoSiであることを粉末X線回折にて確認した。
【0028】
[金属シリサイド粒子(A-3)の作製]
金属シリサイド粒子(A-3)は、化学量論比で混合したCrとSiを石英管内に封入して1000℃に加熱し、その融液から結晶成長させることでCrSi結晶を合成した以外は、金属シリサイド粒子(A-1)と同様にして作製した。作製した金属シリサイド粒子(A-1)の粒子径が2-3μmであることを確認した。また、この金属シリサイド粒子(A-3)が、CrSiであることを粉末X線回折にて確認した。
【0029】
<分散剤(C)>
分散剤(C-1)および(C-2)としては、下記のものを使用した。
分散剤(C-1):サンノール LMT-1430(ポリオキシエチレン(3)ラウリル エーテル硫酸ナトリウム、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社社製)
分散剤(C-2):ポリエチレン(23)グリコールモノセチルエーテル(株式会社東京 化成工業社製)
【0030】
<分散剤(C-3~13)の合成>
分散剤(C-3~13)は、以下に示す方法で合成した。表1中の略号を以下に示す。
MMA:メチルメタクリレート
BA:ブチルアクリレート
BMA:ブチルメタクリレート
BzMA:ベンジルメタクリレート
EHMA:2-エチルヘキシルメタクリレート
Et-3EO-MA:トリエチレングリコールモノエチルエーテルメタクリレート
DMAE-MA:N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート
MPA:メトキシプロピルアセテート
【0031】
[分散剤(C-3~5)の合成]
75gのMPAを、水不含の反応容器に入れた。表1に示す単量体混合物を1.2g/分の速度で計量供給した。計量供給の開始直後に、開始剤として1-メトキシ-1-(トリメチルシロキシ)-2-メチルプロペンを、触媒として開始剤の量に対して10%の3-クロロ安息香酸テトラブチルアンモニウムのアセトニトリル溶液(アセトニトリル中で50%濃度、米国特許第4588795号明細書(US 4,588,795)参照)を、それぞれ反応容器内に添加した。反応全体を通して、反応温度を20℃に維持した。単量体混合物の計量供給を終了した後、アミンモノマーを1.3g/分の速度で計量供給した。表1に示す量のアミンモノマーを1.2g/分の速度で計量供給し終えた後、60分間反応させた。その後、反応を停止させるために3.3gの2-メトキシプロパノールを加え、分散剤(C―3~5)をそれぞれ合成した。尚、表1に記載の単量体混合物およびアミンモノマーの数値はgを表す。
【0032】
[分散剤(C-6~8、12)の合成]
単量体混合物とアミンモノマーの組成を表1に示すとおり変更した以外は、分散剤C-3~5と同様の方法によって重合体をそれぞれ合成した。この重合体に対して、表1に記載の量のベンジルクロライドを混合して110℃で3時間反応させ、分散剤(C―6~8、12)をそれぞれ合成した。尚、表1に記載の単量体混合物、アミンモノマーおよびベンジルクロライドの数値はgを表す。
【0033】
[分散剤(C-9~11)の合成]
撹拌機、温度計、滴下漏斗、還流冷却器および窒素導入管を備えた四口フラスコ内に、DesmodurT100(約100%の2,4-トルイレンジイソシアネート、NCO含有量=48.8、以下「TDI」と略記する)430gおよび塩化ベンゾイル7gを混合した。表2に示すPOポリエーテル(ブタノールとプロピレンオキサイドとの付加重合物)を、温度55℃を超えないようにゆっくりと計量供給した。混合物を、計量供給後に55℃でさらに3時間撹拌した。過剰のTDIを、薄膜蒸発器によって150℃で反応混合物から除去し、重合体(P1)を合成した。残留するTDI含有率は1%未満であった。
【0034】
次に、撹拌機、温度計、滴下漏斗、還流冷却器および窒素導入管を備えた四口フラスコ内に、表2に示す量の重合体(P1)を最初に装入し、そして撹拌しながらゆっくりと表2に示す量のエタノールアミンを滴下した。ここで、反応温度は50℃を超えないように制御した。1時間後、温度を80℃に高めて表2に示す量のポリリン酸を添加した。80℃を維持したまま3時間反応させ、分散剤(C-9~11)を合成した。尚、表2に記載のPOポリエーテル、エタノールアミンおよびポリリン酸の数値はgを表す。
【0035】
[分散剤(C-13)の合成]
撹拌機、還流冷却器およびガス入口を備えた三口フラスコ内に、窒素流下でMPA47.2gおよび2-[N-t-ブチル-N-[1-ジエチルホスホノ-(2,2-ジメチルプロピル)]ニトロキシ]-2-メチルプロパン酸ならびに46.00gのブチルアクリレートを装入し、120℃で2.5時間撹拌を行った。続けて、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート21.00gを2ml/分の速度で計量供給した。この後、さらに120℃で6時間反応させ、重合体(P2)を合成した。反応終了後、液体クロマトグラフィーにより残留モノマー含有量を測定したところ、変換率は98%以上であった。
【0036】
次に、撹拌機、温度計、滴下漏斗、還流冷却器および窒素導入管を備えた四口フラスコ内に、MPA40gおよびブチルグリコール40gに溶かした分散剤(C-10)を1280g、重合体(P2)を1600g投入し、60℃で1時間撹拌し、分散剤(C-13)を合成した。GPCで分散剤(C-13)の数平均分子量(Mn)を測定したところ、1700であった。また、酸価は72mgKOH/g、アミン価は78mgKOH/gであった。
【0037】
<分散体(D)の作製>
分散体(D)は、ジルコニアポットに粒子径が2-3μmになるように粉砕した金属シリサイド粒子と分散剤、分散媒、ジルコニアビーズを封入し、遊星ボールミルにて分散することで作製した。この際、ジルコニアビーズのビーズ径と分散時間を変化させることで分散体中の金属シリサイド粒子の粒子径を制御することができる。封入する材料およびジルコニアビーズの充填量は、体積にしてジルコニアポットの内容量の30%とした。
【0038】
実施例1
[分散体(D-1)]
まず、ジルコニアポットに下記材料および、直径1mmΦのジルコニアビーズを封入し、遊星ボールミルにて30分間の分散操作を行ってからジルコニアビーズを除去した。次に、ジルコニアポットに直径0.5mmΦのジルコニアビーズを加え、再度30分間の分散操作を行うことで分散体を作製した。ジルコニアビーズを除去した後、ポア径1μmのポリテトラフルオロエチレン製(以下、「PTFE」と略記する)フィルターを通して粗大粒子を除去することで、分散体(D-1)作製した。分散体(D-1)の粒子径および粒度分布は、ゼータサイザー(ゼータサイザーナノZSP、Malvern Panalytical社製)を用いて測定した。この際、測定温度は25℃とし、必要に応じてブタノールで希釈して測定した。

金属シリサイド粒子(A-1) :23.75部
分散剤(C-13) :1.25部
ブタノール :75部
【0039】
実施例2~4、7~26、比較例1
[分散体(D-2~4、D-7~26、DR-1)]
金属シリサイド粒子、分散剤、分散媒および分散時間を表3に示す組成および条件になるように変更した以外は、分散体(D-1)の作製方法と同様にして、分散体(D-2~4、D-7~26、DR-1)を作製した。尚、表3中の略号BuOHとはブタノールを、PrOHとはプロパノールを、PGMAcとはプロピレングリコールモノメチルアセテートを表す。
【0040】
実施例5
[分散体(D-5)]
ジルコニアポットに下記材料および、直径1mmΦのジルコニアビーズを封入し、遊星ボールミルにて30分間の分散操作を行うことで分散体を作製した。ジルコニアビーズを除去した後、ポア径1μmのPTFEフィルターを通して粗大粒子を除去することで、分散体(D-5)作製した。

金属シリサイド粒子(A-1) :23.75部
分散剤(C-13) :1.25部
ブタノール :75部
【0041】
実施例6、比較例2
[分散体(D-6、DR-2)]
金属シリサイド粒子、分散剤、分散媒、ジルコニアビーズの直径および分散時間を表3に示す組成および条件になるように変更した以外は、分散体(D-5)の作製方法と同様にして、分散体(D-6、DR-2)を作製した。
【0042】
比較例3
[分散体(DR-3)]
まず、ジルコニアポットに下記材料および、直径1mmΦのジルコニアビーズを封入し、遊星ボールミルにて30分間の分散操作を行ってからビーズを除去した。次に、ジルコニアポットに直径0.5mmΦのジルコニアビーズを加え、再度30分間の分散操作を行うことで分散体を作製した。ジルコニアビーズを除去した後、ポア径1μmのPTFEフィルターを通して粗大粒子を除去することで、分散体(DR-3)作製した。

金属シリサイド粒子(A-1) :25部
ブタノール :75部
【0043】
<光電変換層(E)および光電変換素子(F)の作製>
実施例101、201
[光電変換層(E-1)・光電変換素子(F-1)]
水分濃度および酸素濃度が1ppm以下のグローブボックス内で、洗浄したITO電極付きガラス基板上に、分散体(D-1)をスピンコートして光電変換層(E-1)を乾燥後の膜厚が250nmになるように作製した。さらにその上に、Auを100nmの厚みに蒸着して電極を形成して、光電変換素子(F-1)を得た。作製した光電変換素子(F-1)はグローブボックス内で封止処理を施した。
【0044】
実施例102~128、201~228、比較例4~9
[光電変換層(E-2~28、ER-1~3)・光電変換素子(F-2~28、FR-1 ~3)]
塗工に使用する金属シリサイド粒子分散体(D)および光電変換層(E)の膜厚を表4、5に示すように変更した以外は、光電変換層(E-1)、光電変換素子(F-1)と同様にして、光電変換層(E-2~28、ER-1~3)、光電変換素子(F-2~28、FR-1~3)を作製した。光電変換層は、X線回折測定を行い、光電変換層中の金属シリサイド粒子が、分散操作前と同様の結晶構造であることを確認した。光電変換層(ER-1、3)は、均一な光電変換層を得ることができず、光電変換素子(FR-1、3)素子を作製できなかった。
【0045】
<光電変換能評価>
作製した光電変換素子をグローブボックスから取り出し、暗所とSWIR光を照射した際の電圧-電流曲線を、KEITHLEYMODEL 2400ソースメーターを使用して、-2V~2Vの範囲で測定した。測定は、SWIR光の光源である発光波長940nmのLED(発光ダイオード)を5mW/cm2の光量に調整して実施した。また、この際、露光部分が0.04cm2になるようフォトマスクを介して照射した。電圧-1Vにおける電流値を読み取り、明暗電流比を求めた。明暗電流比は以下の基準で判定した。判定結果を表に示す。明暗電流比は、高いほど優れているといえる。判定基準が2以上が実用範囲である。

(判定基準)
5: 明暗電流比が、2以上
4: 明暗電流比が、1.8以上2未満
3: 明暗電流比が、1.5以上1.8未満
2: 明暗電流比が、1以上1.5未満
1: 明暗電流比が、1未満
【0046】
表から明らかなように、本発明の光電変換層は、フォトダイオードとしてSWIR光の照射に応答を示すことが示された。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
【表3】
【0050】
【表4】
【0051】
【表5】