(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039715
(43)【公開日】2024-03-25
(54)【発明の名称】電解質組成物及び電池
(51)【国際特許分類】
H01M 14/00 20060101AFI20240315BHJP
【FI】
H01M14/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022144290
(22)【出願日】2022-09-12
(71)【出願人】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(72)【発明者】
【氏名】今野 隆寛
【テーマコード(参考)】
5H032
【Fターム(参考)】
5H032AA08
5H032AS01
5H032AS09
5H032AS12
5H032CC16
5H032HH01
5H032HH04
(57)【要約】
【課題】経時によって熱の均一化が生じ難い熱伝導が抑制された電解質組成物を提供すること。また、高い出力を得ることができ、加熱と冷却を繰り返した際の安定性に優れた電池を提供すること。
【解決手段】少なくとも一対のレドックス対と、中空粒子とを含む電解質組成物であって、前記中空粒子の平均粒子径が200μm以下であることを特徴とする電解質組成物、好ましくは前記中空粒子が電解質組成物中に0.1質量%以上30質量%以下含有する電解質組成物。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一対のレドックス対と、中空粒子とを含む電解質組成物であって、前記中空粒子の平均粒子径が200μm以下であることを特徴とする電解質組成物。
【請求項2】
前記中空粒子が電解質組成物中に0.1質量%以上30質量%以下含有することを特徴とする請求項1記載の電解質組成物。
【請求項3】
さらに、カルボキシ基、水酸基およびグアニジノ基ならびにこれらの塩から選択される官能基を少なくとも1つ以上持つ化合物を含む請求項1記載の電解質組成物。
【請求項4】
請求項1~3いずれか記載の電解質組成物が電池用であることを特徴とする電解質組成物。
【請求項5】
請求項4記載の電解質組成物を具備する電池。
【請求項6】
熱化学電池である請求項5記載の電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質組成物及び電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、IoTセンサー技術の発達により独立電源の開発が急がれており、特に排熱や体温を利用した熱電変換型の電池が注目されている。熱電変換型電池は異種金属接合体無機系電池が主流であるが、熱電変換効率の指標であるゼーベック係数が低いという欠点があった。一方で、近年、イオンの酸化還元を利用したゼーベック係数の高い有機系の熱電変換型電池が注目されている。
【0003】
非特許文献1では、耐熱性を付与するためにイオン液体電解液を用いた有機系熱電変換システムを報告している。しかし、電池の電圧出力が低いという問題があった。
【0004】
特許文献1では、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)/ポリスチレンスルホン酸(PSS)、フェロシアン化物イオン/フェリシアン化物イオンを利用したコイン型電池において、25Kの温度差で5μW、40Kの温度差で11μWの出力が得られることが報告されている。しかし、例えば体温と外気温とのような小さい温度差の場合、出力はさらに小さくなってしまうことが予測される。
【0005】
熱電変換型電池の出力を高める方法の一つとして、電池の電極間の温度差を大きくすることが挙げられる。しかし、一方の電極を熱源に接触させた場合、熱伝導によって電池内部の電解質組成物などを介して熱源に接触していないもう一方の電極も温度変化が生じ、その結果、時間が経つにつれて電極間の温度差がなくなってしまうことが推察される。また、電解質組成物が液体の場合には、電解質組成物内で対流が起こり、より短時間で電極間の温度差がなくなる懸念がある。電池を人体に貼り付けた場合を例にすると、一方の電極を人体に接触させ、他方の電極をその体温より低い温度の外気にさらした場合、外気側の電極温度は、体温の影響によって徐々に上昇し、最終的に外気温より高い温度となってしまう。より具体的に述べると、外気温25℃の環境下で体温37℃の人体に電池を貼付した場合、貼付した直後の電極間の温度差は12℃であるが、体温により電池が徐々に温められるため、最終的な電極間温度差は12℃より小さくなる。したがって、出力を高めるためには、電池内部の熱伝導を抑制し、温度差を維持させることが重要である。
【0006】
温度差を保つ方法の一つとしては、電池内部の電解質組成物の粘度を上げ流動性を下げることが有効である。しかし、単純に電解質組成物の流動性を下げると、イオン拡散性も下がることにつながり、出力が低下する懸念がある。また、イオンの酸化還元を利用したゼーベック係数の高い有機系熱電変換型電池については、温度差を有効に生じさせる検討自体が十分なされていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】“Seebeck coefficients in ionic Liquids prospects for thermo-electrochemical cell", T.J.Abraham, et al., Chem. Commun., 47, (2011) pp.6260-6262.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、経時によって熱の均一化が生じ難い熱伝導が抑制された電解質組成物を提供することである。また、高い出力を得ることができ、加熱と冷却を繰り返した際の安定性に優れた電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明に至った。
すなわち、本発明は、少なくとも一対のレドックス対と、中空粒子とを含む電解質組成物であって、上記中空粒子の平均粒子径が200μm以下である電解質組成物に関する。
【0011】
また、本発明は、上記中空粒子が電解質組成物中に0.1質量%以上30質量%以下含有する上記電解質組成物に関する。
【0012】
また、本発明は、さらに、カルボキシ基、水酸基およびグアニジノ基ならびにこれらの塩から選択される官能基を少なくとも1つ以上持つ化合物を含む上記電解質組成物に関する。
【0013】
また、本発明は、上記電解質組成物が電池用である電解質組成物に関する。
【0014】
また、本発明は、上記電解質組成物を具備する電池に関する。
【0015】
また、本発明は、熱化学電池である上記電池に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、経時によって熱の均一化が生じ難い熱伝導が抑制された電解質組成物と、高い出力を得ることができ、加熱と冷却を繰り返した際の安定性に優れた電池を提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】熱起電圧評価装置の構造を示す模式図である。
【
図2】熱起電圧評価装置の構造を示す断面図である。
【
図4】電池出力密度評価装置の構造を示す模式図である。
【
図5】電池出力密度評価装置の構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、詳細に本発明について説明する。尚、本明細書では、特に断りがない限り「%」は「質量%」を示す。また、数値範囲において「○○以上、××以下」を「○○~××」と表記する。尚、特に断りのない限り、「部」は「質量部」、「%」は「質量%」を表す。また、「カルボキシ基、水酸基およびグアニジノ基ならびにこれらの塩からなる群より選択される官能基」を「官能基(A)」と略記することがある。さらに、「官能基(A)を少なくとも1つ以上有する化合物」を「化合物(A)」と略記することがある。
【0019】
<電解質組成物>
本発明の電解質組成物は、少なくとも一対のレドックス対と、中空粒子とを含む電解質組成物であって、前記中空粒子の平均粒子径が200μm以下であることを特徴とする。レドックス対があることで熱電変換能が発現し、平均粒子径200μm以下の中空粒子を含有することで、イオン伝導率を低下させずに断熱性を付与することができ、高いゼーベック係数(以下、熱起電圧ともいう)を発現し、結果、電池の電解質に使用した際に高い出力を得ることができる。
【0020】
<レドックス対>
レドックス対について説明する。本明細書におけるレドックス対とは、酸化還元反応をし得る2種類のイオンからなる対を意味する。レドックス対は、特に限定はないが、化学安定性や電池性能の観点から、金属元素又はハロゲン元素を含むことが好ましく、鉄(II)イオン/鉄(III)イオン、コバルト(II)イオン/コバルト(III)イオン、及びヨウ化物イオン/三ヨウ化物イオンからなる群から選択された少なくとも1対を含有することがより好ましい。特に、ヨウ化物イオンと三ヨウ化物イオン、フェロシアン化物イオンとフェリシアン化物イオン、フェロセンとフェロセニウムイオン、及びコバルトトリスビピリジン(II)とコバルトトリスビピリジン(III)からなる群から選択された少なくとも1対を含有することがさらに好ましく、フェロシアン化物イオンとフェリシアン化物イオンからなる対であることが特に好ましい。
【0021】
レドックス対は、電解質組成物中、合計で10~40%含有されることが好ましく、10~35%含有されることが好ましく、さらに10~30%含有されることが好ましい。10%以上含まれることで電池性能が良化し、40%以下であることで温度変化による析出発生を抑制し、電池用電解質に使用した際に電池の出力を安定化することができる。
【0022】
<中空粒子>
中空粒子について説明する。本明細書における中空粒子とは、中空部をもつ粒子を意味する。中空部とは、コアシェル構造のように、外殻の中に1つの中空部をもつ構造でもよいし、多孔質構造のように、粒子中に複数の中空部をもつ構造でもよい。また、粒子や中空部の形状に特に制限はない。さらに、中空部が独立している構造でも、連続している構造でもよい。
【0023】
中空部の内部は、気体が存在していることが好ましい。気体であれば特に限定はなく、気体としては、空気、窒素、酸素、二酸化炭素、アルゴン、水素などが挙げられる。気体が存在していることで、電解質組成物に含有させたとき、電解質組成物の熱伝導率が大きく低下し、温度差が保ちやすくなる。
【0024】
電解質組成物中に含有される中空粒子の平均粒子径は200μm以下であり、180μm以下であることがより好ましく、さらに130μm以下であることがより好ましい。平均粒子径が200μm以下であることで電解質組成物中に均一に分散することができ、加熱と冷却とを繰り返した際の繰り返し安定性を付与することができる。中空粒子が均一に分散されていない場合、電解質組成物が何度も加熱、冷却を繰り返すことで中空粒子が局所的に凝集し、熱伝導率低下効果が減少し出力が低下する。中空粒子の平均粒子径の下限については特に制限がないが、50nm以上あることが好ましい。50nm以上あることで、粒子の機械的強度を維持することができ、電解質組成物製造時や高温環境下で電池を使用した際の中空粒子の欠けや割れを抑制することができる。
【0025】
中空粒子の嵩密度は、0.9g/cm3以下であることが好ましく、0.8g/cm3以下であることがより好ましく、さらに0.7g/cm3以下であることがより好ましい。嵩密度が0.9g/cm3以下であることで電解質組成物に断熱性を付与することができる。嵩密度の下限は特に制限はないが、概ね0.08g/cm3以上である。嵩密度の測定は、JIS R1628の方法によって行うことができる。
【0026】
電解質組成物中に含有される中空粒子の含有量は、0.1~30質量%であることが好ましく、0.5~25質量%であることがより好ましく、さらに1~20質量%であることがより好ましい。0.1質量%以上含有していることで断熱性が良化することで温度差が付きやすくなり、電池の電圧が高くなり出力が向上する。また、30質量%以下であることでイオン伝導度を維持し電池の出力が向上し、さらに電解質組成物を繰り返し加熱、冷却を行っても中空粒子の凝集が抑制され、出力の繰り返し安定性が向上する。
【0027】
中空粒子の材質には、特に限定はなく、有機系中空粒子や無機系中空粒子が使用できる。有機系中空粒子として使用できる材質としては、ポリスチレン、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリビニルアルコール、ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステルなどが挙げられるが、係る例示に限定されず、単独又は二種類以上併用して使用してもよい。無機系中空粒子として使用できる材質としては、例えば、シリカ、ガラス、セラミック、金属などが挙げられるが、係る例示に限定されず、単独又は二種類以上併用して使用してもよい。有機系中空粒子と無機系中空粒子は単独で用いても併用しても構わないが、熱安定性や機械的強度の観点から、無機系中空粒子を用いることが好ましい。
【0028】
無機系中空粒子としては、例えば、棚珪酸ナトリウムガラス系中空粒子として、ポッターズ・バロティーニ社製のQ-CEL(登録商標)シリーズ(品名:5020、5020FPS、7014、7040S)、棚珪酸ガラス系中空粒子として、ポッターズ・バロティーニ社製のSphericel(登録商標)シリーズ(品名:25P45、60P18、110P8、CP01、CP03)、ソーダ石灰棚珪酸ガラス系中空粒子として、スリーエム社製のグラスバブルズ(品名:K1、K15、K20、K25、K37,S22、S28HS、S32HS、S38、S60HS、VS5500、iM16K、iM30K)、セラミック系中空粒子として、ポッターズ・バロティーニ社製のCeramic Multi Cellularシリーズ(品名:CMC-20、CMC-15)、太平洋セメント社製のE-SPHERES(品名:SLG、SL300、SL150、SL125、SL75)、アルミノ珪酸ガラス系中空粒子として、ポッターズ・バロティーニ社製のExtendospheres(登録商標)シリーズ(品名:SG、TG)などが挙げられるが、係る例示に限定されず、単独又は二種類以上併用して使用してもよい。
【0029】
中空粒子の形状は、特に限定されず、球状、長球状、円柱状、直方体などの多面体状などの形状のものを用いることができる。
【0030】
中空粒子の平均粒子径は、走査型電子顕微鏡によって求めることができる。本明細書でいう中空粒子の平均粒子径は、走査型電子顕微鏡にて無作為に抽出した100個の中空粒子の粒子径をそれぞれ計測し、メジアン径(d50、個数基準)を平均粒子径とする。ただし、中空粒子が球状以外の形状をしている場合、短軸方向の長さをその粒子の粒子径とした。
【0031】
<添加剤>
本発明の電解質組成物には、さらにカルボキシ基、水酸基およびグアニジノ基ならびにこれらの塩からなる群より選択される官能基(これらを総称して「官能基(A)」と略記することがある)を少なくとも1つ以上有する化合物(これらを総称して「化合物(A)」と略記することがある)が含有されることが好ましい。化合物(A)を含有することで、レドックス対とのイオン間相互作用や水素結合が生じ、酸化還元反応前後の状態変化が生じ、熱起電圧が向上する。尚、グアニジノ基とは、-NH-C(=NH)-NH2で表される基を指す。また、これらの塩から選択される官能基はイオン化していてもよい。
【0032】
カルボキシ基を有する化合物としては、例えば、アクリル酸、アルギン酸、カルボキシメチルセルロース、ゲランガム及びそれらの重合体などが挙げられる。また、カルボキシ基の塩を有する化合物(カルボキシ基を有する化合物の塩と同義である)としては、上記カルボキシ基を有する化合物の、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などが挙げられる。
水酸基を有する化合物としては、寒天、アガロース、アガロペクチン、シクロデキストリンなどが挙げられる。水酸基の塩を有する化合物(水酸基を有する化合物の塩と同義である)としては、アルミニウムイソプロピレート、チタンテトライソプロポキシドなどの金属アルコキシド、4-ニトロフェノールナトリウムなどが挙げられる。
グアニジノ基又はその塩を有する化合物として、グアニジン、アミノグアニジン、アルギニン、炭酸グアニジン、ニトログアニジン、N-アセチルグアニジンなどが挙げられる。グアニジノ基の塩を有する化合物(グアニジノ基を有する化合物の塩と同義である)としては、塩化グアニジニウム、ヨウ化グアニジニウム、臭化グアニジニウム、グアニジンチオシアナート、グアニジンりん酸塩、アミノグアニジン塩酸塩、アルギニン塩酸塩、アルギニン酢酸塩などが挙げられる。
化合物(A)は、上記の例示に限定されず、単独又は二種類以上併用して使用してもよい。
【0033】
本発明の電解質組成物には、化合物(A)が0.5~30質量%含有されることが好ましく、1.0~25質量%含有されることがより好ましい。0.5質量%含有することで高電圧し出力が向上し、また、30質量%以下であることでイオン伝導度を維持し、電池の出力が向上する。
【0034】
<溶媒>
電解質組成物は、さらに溶媒を含んでも良い。溶媒としては、特に限定されず、公知のものを適宜選択して使用することができ、例示すると、水や以下の有機溶媒があげられる。有機溶媒としては、例えば、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶媒;n-ブチルアルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ダイアセトンアルコール、エチルセロソルブなどのアルコール系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテートなどのエステル系溶媒;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、フルオロエチレンカーボネートなどのカーボネート系溶剤;ジメチルホルムアミドなどがあげられるが、かかる例示に限定されず、1種類又は2種類以上併用して用いることができる。レドックス対の溶解性の観点から、プロトン性溶媒が含まれていることが好ましく、水を含有していることがより好ましい。
【0035】
電解質組成物は、液体状態、ゾル状態、ゲル状態、固体状態いずれの形態をとっていてもよいが、電池安全性や中空粒子分散性の観点から、ゾル状態、ゲル状態または固体状態であることが好ましい。
【0036】
電解質組成物は、本発明の効果を妨げない範囲で、更に、レベリング剤、増粘剤、表面調整剤、消泡剤、レオロジーコントロール剤などが含有されていてもよい。
【0037】
<電池>
本発明の電池は、本発明の電解質組成物を具備してなる。より具体的には、本発明の電解質組成物を少なくとも1対の電極に挟持されて構成される。本発明の電解質組成物及び電池は、熱電変換型電池の一種である熱化学電池に好適に使用することができる。熱化学電池とは、酸化還元平衡電位の温度依存性を利用した熱電変換型電池であり、電解質組成物中に少なくとも一対のレドックス対を含む。電極は、公知の電極を適宜選択して使用することができ、例えば、白金、金、銅、銀などの金属電極や、カーボンナノチューブ、グラフェン、グラファイトなどの炭素電極や、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロールなどの導電性高分子電極などが挙げられるが、特に限定されず、1種類又は2種類以上併用して用いることができる。これらの電極は、単独で形成されていてもよく、また、プラスチックフィルム等の基材上に形成されていてもよい。また、電極と本発明の電解質組成物の間に、イオン透過膜やその他電解質組成物が積層されていてもよい。
【実施例0038】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、以下の実施例は、本発明の技術的範囲を何ら制限するものではない。尚、例中、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」をそれぞれ意味するものとする。
【0039】
<中空粒子の製造>
[製造例1]
特許第5466801号公報に記載の実施試料A8を参考に、平均粒子径200μm、嵩密度0.25g/cm3のシリカ系中空粒子を作製し、中空粒子(A1)とした。
【0040】
[製造例2]
特許第6953114号公報に記載の実施例3を参考に、平均粒子径55nm、嵩密度1.2g/cm3のシリカ系中空粒子を作製し、中空粒子(A2)とした。
【0041】
[製造例3]
特許第6595898号公報に記載の実施例2を参考に、平均粒子径2μm、嵩密度2.0g/cm3のシリカ系中空粒子を作製し、中空粒子(A3)とした。
【0042】
[製造例4]
国際公開第2021/085189号に記載の実施例5を参考に、平均粒子径310nm、密度0.65g/cm3のスチレン/ジビニルベンゼン系中空粒子を作製し、中空粒子(A4)とした。
【0043】
[製造例5]
国際公開第2021/085189号に記載の実施例6を参考に、平均粒子径520nm、密度0.65g/cm3のスチレン/ジビニルベンゼン系中空粒子を作製し、中空粒子(A5)とした。
【0044】
[比較用製造例1]
特許第5466801号公報に記載の比較例1を参考に、平均粒子径270μm、嵩密度0.25g/cm3のシリカ系中空粒子を作製し、比較用中空粒子(B1)とした。
【0045】
<平均粒子径の測定>
平均粒子径の測定は、電子顕微鏡にて実施した。走査型電子顕微鏡(JSM-7800、日本電子社製)を用いて、加速電圧5kVの条件で粒子を撮影し、無作為に抽出した100個の粒子について短軸方向の粒子径を計測した。得られた粒子径のメジアン径(d50、個数基準)を求め、平均粒子径とした。
【0046】
[実施例1]
フェリシアン化カリウム(富士フイルム和光純薬社製)とフェロシアン化カリウム三水和物(富士フイルム和光純薬社製)を等モル混合したレドックス対15部と、蒸留水84.9部を混合撹拌し、溶液を得た。得られた溶液に中空粒子(A1)0.1部を添加して電解質組成物を得た。得られた電解質組成物について、以下に示す評価を実施した。
【0047】
<熱起電圧の評価>
図1及び
図2に示すように、ペルチェ素子1(以下、下面ペルチェ)上に、リボン型熱電対2、金電極3、パイプ4(底面直径2.5cm、高さ1cm)を下からこの順に乗せ、パイプ内に得られた電解質組成物5を充填した。次に、別のペルチェ素子6(以下、上面ペルチェ)上に、リボン型熱電対7、金電極8を下からこの順に乗せた積層体を作製し、金電極が電解質組成物5と接するように、電解質組成物5で満たされたパイプ4上にこの積層体を乗せて熱起電圧評価装置を作製した。次に、下面ペルチェを30℃、上面ペルチェを15℃に設定し、2分間保持後、上下の金電極を電圧計に接続し電圧を測定した。次に、下面ペルチェの温度は30℃に保持したまま、上面ペルチェを5℃昇温し、同様に測定した。この測定を上面ペルチェが45℃となるまで行った。得られた電圧値を、
図3に示すように下面ペルチェと上面ペルチェとの温度差でプロットし、得られた1次の近似直線の傾きから、熱起電圧を見積もった。なお、評価は比較例1の熱起電圧を1とした際の相対値から、以下の基準で評価した。結果を表1に示す。
◎:相対値1.5以上(比較例1より大きく良化)
○:相対値1.2以上、1.5未満(比較例1より良化)
△:相対値1.0以上、1.2未満(比較例1と同等)
×:相対値1.0未満(比較例1より劣化)
測定に使用したペルチェ素子1、6は、別途ヒートシンク9、10や温度コントローラーを接続しているビックス株式会社製のペルチェ温度コントローラーセット(品番:VTH1.8K-70S)を使用し、リボン型熱電対2、7はアズワン株式会社、リボン型温度センサ(品番:RB-K-100-1-SMP)を使用した。以下に示す電池出力密度の評価も同様である。
【0048】
<電池出力密度の評価>
25℃に設定した恒温室内で、
図4及び
図5に示すように熱起電圧測定と同様にして下面ペルチェ11上に電解質組成物を設置し、
続いて、絶縁処理したヒートシンク19上に、リボン型熱電対16、金電極17を下からこの順に乗せた積層体を作製し、金電極が電解質組成物を接するように、電解質組成物15で満たされたパイプ14(底面直径2.5cm、高さ3mm)上にこの積層体を乗せて電池出力密度測定評価装置を作製した。次に下面ペルチェを40℃に設定して加熱及びヒートシンク側を自然放冷によって冷却させ、2分間保持後、電圧を掃引して電流値を測定した。得られた電圧―電流プロットから最大電力を見積もり、パイプ底面積で除して電池出力密度とした。なお、評価は比較例1の電池出力密度を1とした際の相対値から、以下の基準で評価した。結果を表1に示す。
◎:相対値2.0以上(比較例1より大きく良化)
○:相対値1.5以上、2.0未満(比較例1より良化)
△:相対値1.2以上、1.5未満(比較例1よりやや良化)
×:相対値1.2未満(比較例1と同等)
【0049】
<繰り返し安定性の評価>
電池出力密度の測定を実施後、電池出力密度測定評価装置の下面ペルチェを25℃まで冷却し10分間保持した。その後、再度電池出力密度測定評価装置の下面ペルチェを40℃まで加温後10分間保持し、再び電池出力密度を測定した。その後、再度電池出力密度測定評価装置の下面ペルチェを25℃まで冷却し10分間保持し、再度40℃まで加熱し10分間保持し、電池出力密度測定を行うという操作を1サイクルとし、全測定回数が50サイクルとなるまで繰り返し行い、最後(50サイクル目)に測定した電池出力密度を、最初(1サイクル目)に測定した電池出力密度で除し、100%から引くことで、電池出力密度の低下率を計算し、以下の基準で繰り返し安定性を評価した。結果を表1に示す。
◎:低下率1%未満
○:低下率1%以上2%未満
△:低下率2%以上5%未満
×:低下率5%以上
なお、実用的な低下率は5%未満である。
【0050】
[実施例2~16]
表1に示す材料、配合量に変更した以外は、実施例1と同様に電解質組成物を作製し、実施例1同様に測定を行った。結果を表1に示す。なお、溶媒はレドックス対を混合し電解液を作製する際に用い、カルボキシ基、水酸基、グアニジノ基又はそれらの塩から選択される官能基をもつ化合物は、レドックス対と溶媒からなる溶液に添加した後、中空粒子を添加した。表1中のレドックス対および化合物の略号は、以下のとおりである。また、表1中の中空粒子の略号は、表2のとおりである。
【0051】
<レドックス対>
Fe2+/Fe3+:フェロシアン化カリウム/フェリシアン化カリウム=1mol/1mol混合物
I-/I3
-:ヨウ化カリウム/ ヨウ素=2mol/1mol混合物
C o 2 + / C o 3 +:((トリス( 2 , 2 ’ - ビピリジン) コバルト(II) ビス( ヘキサフルオロホスファート)/トリス( 2 , 2 ’ - ビピリジン) コバルト(III) トリス( ヘキサフルオロホスファート)=1mol/1mol混合物
【0052】
<化合物(A)>
(カルボキシ基又はその塩を有する化合物)
AA:ポリアクリル酸(東亜合成社製、商品名「ジュリマー(登録商標)AC-10L」)
AANa:ポリアクリル酸ナトリウム部分中和物(東亜合成社製、商品名「アロンビス(登録商標)AH―105X」)
(水酸基又はその塩を有する化合物)
AGR:アガロース(富士フイルム和光純薬社製、商品名「アガロース1600」)
CD:シクロデキストリン(富士フイルム和光純薬社製、商品名「α-シクロデキストリン」)
AIPD:アルミニウムイソプロピレート(川研ファインケミカル社製、商品名「AIPD」)
(グアニジノ基又はその塩を有する化合物)
NAG:N-アセチルグアニジン(富士フイルム和光純薬社製、商品名「N-アセチルグアニジン」)
GDC:グアニジン塩酸塩(富士フイルム和光純薬社製、商品名「グアニジン塩酸塩」)
【0053】
[比較例1~3]
実施例1と同様に、表1に示す配合量で電解質組成物を作製し、実施例1同様に測定を行った。結果を表1に示す。なお、比較例3の組成物は電解質であるレドックス対を含有せず、蒸留水と中空粒子のみが混合された組成物を意味し、繰り返し安定性の評価は実施しなかった。
【0054】
このように、本発明の電解質組成物を具備する電池は、電池出力密度が良好で、繰り返し安定性も優れていることが明らかとなった。一方、比較例1の電解質組成物を具備する電池は、中空粒子が含有されておらず電池出力密度が低かった。比較例2の電解質組成物を具備する電池は、中空粒子の平均粒子径が200μmより大きいため、電解質組成物中の均一性に乏しく、繰り返し安定性が低かった。比較例3の電解質組成物を具備する電池は、レドックス対が含有されていないため、熱電変換性能が発現しなかった。
【0055】
【0056】