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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039728
(43)【公開日】2024-03-25
(54)【発明の名称】抗腫瘍免疫応答増強剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/685 20060101AFI20240315BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240315BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20240315BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240315BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240315BHJP
   C12N 5/0784 20100101ALI20240315BHJP
   A61K 39/39 20060101ALN20240315BHJP
【FI】
A61K31/685
A61P35/00
A61P37/04
A61P43/00 105
A61K45/00
A61P43/00 121
C12N5/0784
A61K39/39
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022144313
(22)【出願日】2022-09-12
(71)【出願人】
【識別番号】501190125
【氏名又は名称】蓮見 賢一郎
(71)【出願人】
【識別番号】510136312
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立成育医療研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】蓮見 賢一郎
(72)【発明者】
【氏名】梨井 康
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C085
4C086
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AC20
4B065BA25
4B065BB10
4B065BB11
4B065CA44
4C084AA19
4C084NA05
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZC751
4C085AA38
4C085FF12
4C085GG02
4C085GG03
4C085GG04
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA41
4C086MA03
4C086MA04
4C086MA55
4C086MA66
4C086NA05
4C086ZB09
4C086ZB21
4C086ZB26
4C086ZC75
(57)【要約】
【課題】腫瘍微小環境におけるTADCの抗腫瘍活性を維持・増強する手段を提供すること。
【解決手段】3種類のリン脂質を含む組成物「cPLsアジュバント」を投与すると、マウスに移植された腫瘍の成長の程度を顕著に抑制することを見いだし、また、未熟な樹状細胞をcPLsアジュバント存在下インビトロで培養すると、成熟した骨髄樹状細胞となり、サイトカインの産生を誘導することを確認した。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、及びホスファチジルセリンを含む抗腫瘍免疫応答増強剤。
【請求項2】
対象における腫瘍の成長抑制用に用いるための、請求項1記載の抗腫瘍免疫応答増強剤。
【請求項3】
未熟樹状細胞を成熟樹状細胞とするために用いるための、請求項1記載の抗腫瘍免疫応答増強剤。
【請求項4】
未熟樹状細胞を、CD11bCD11c生細胞とするために用いるための、請求項3記載の抗腫瘍免疫応答増強剤。
【請求項5】
未熟樹状細胞が、未熟標準型樹状細胞又は腫瘍関連樹状細胞であることを特徴とする、請求項4記載の抗腫瘍免疫応答増強剤。
【請求項6】
ホスファチジルコリンが50~90%、ホスファチジルエタノールアミンが5~25%、及びホスファチジルセリンが5~25%配合されていることを特徴とする、請求項1又は2記載の抗腫瘍免疫応答増強剤。
【請求項7】
1又は2以上の抗がん剤をさらに含むことを特徴とする、請求項1又は2記載の抗腫瘍免疫応答増強剤。
【請求項8】
請求項1又は2記載の抗腫瘍免疫応答増強剤の存在下において、未熟樹状細胞をインビトロで培養することにより、成熟樹状細胞を調製する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗腫瘍免疫応答増強剤に関し、より詳細には、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、及びホスファチジルセリンを含む抗腫瘍免疫応答増強剤に関する。
【背景技術】
【0002】
樹状細胞(dendritic cells:DC)は、ナイーブT細胞及びメモリーT細胞の両方をプライミングでき、抗原特異的な抗腫瘍免疫を誘導する最も強力な抗原提示細胞として知られている(例えば、非特許文献1等参照)。しかし、腫瘍微小環境におけるDC、すなわち腫瘍関連樹状細胞(以下、「tumor associated dendritic cells:(TADC)」ともいう)は、共刺激分子の発現が低く、未熟な表現型を示すこと(例えば、非特許文献2等参照)や、抑制的で機能不全な表現型を示し、宿主の免疫監視網からガン細胞を逃避させることに寄与する場合(例えば、非特許文献3等参照)があるなど、免疫抑制や免疫寛容化を起こす場合があることが知られている。さらに、TADCは、抗腫瘍タイプのT細胞の活性化を抑制し、腫瘍細胞の増殖を促進する様々な種類のサイトカインを分泌するという報告がある(例えば、非特許文献4等参照)。したがって、腫瘍微小環境において、DCは抗腫瘍反応にプラスにもマイナスにも作用する諸刃の剣となりうることが知られており(例えば、非特許文献5等参照)、従来のがん免疫療法では、抗腫瘍活性が低減してしまう場合があるとされている。
【0003】
一方、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)の活性化を必要とする対象に、共生微生物叢の培地での発酵を介して生成される発酵組成物を投与することを含む、TILを活性化させる方法(例えば、特許文献1等参照)が提案されている。また、少なくとも1つのカチオン性脂質と少なくとも1つの抗原とを有する1つ以上の脂質を含むエクスビボでの樹状細胞活性化のための組成物(例えば、特許文献2等参照)や、腫瘍患者における異常な骨髄由来免疫抑制細胞の活性低下、骨髄由来免疫抑制細胞の分化誘導、腫瘍の増殖及び再発の抑制を可能とすることを特徴とするオールトランスレチノイン酸注射剤の使用等(例えば、特許文献3等参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-517587号公報
【特許文献2】特開2022-36961号公報
【特許文献3】特表2019-528315号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Steinman RM, Banchereau J. Taking dendritic cells into medicine. Nature. 2007;449(7161):419-26
【非特許文献2】Oncotarget. 2016;7(39):63204-14
【非特許文献3】J Cancer. 2013;4(1):36-44
【非特許文献4】J Leukoc Biol. 2017;102(2):317-324
【非特許文献5】Frontiers in Oncology 2013 Volume 3 Article 90:1-12
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、腫瘍微小環境におけるTADCの抗腫瘍活性を維持・増強する手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、マウスの腫瘍における微小環境に着目し、未成熟なDCであるとされているTADCの抗腫瘍活性を維持・増強するため、様々な成分について検討を続けてきたが、マウスに移植した腫瘍が所定の大きさになった後に、ホスファチジルコリン(phosphatidylcholine:PC)、ホスファチジルエタノールアミン(phosphatidylethanolamine:PE)、ホスファチジルセリン(phosphatidylserine:PS)の3種類のリン脂質を含む組成物(Combined PhosphoLipids adjuvant:cPLs adjuvant)(以下、「cPLsアジュバント」ともいう)を投与すると、マウスに移植された腫瘍の成長の程度を顕著に抑制することを見いだした。また、未熟なDCをcPLsアジュバント存在下インビトロで培養すると、かかる培養されたDCが成熟した骨髄樹状細胞(bone marrow-derived dendritic cells:BMDCs)となり、炎症性サイトカインの産生を誘導することを確認した。さらに、cPLsアジュバントを投与したがん細胞移植マウスより腫瘍組織を摘出し、腫瘍組織中の腫瘍浸潤白血球の形質について解析したところ、成熟したDCが発現するマーカーが発現し、T細胞の産生が促進されると共に、炎症性サイトカインの産生が促進されることを確認し、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0008】
本発明の抗腫瘍免疫応答増強剤を投与することにより、腫瘍の成長の程度を抑制することや、未熟な骨髄由来の樹状細胞やTADCを成熟させることができ、また、未熟な樹状細胞を抗腫瘍免疫応答増強剤の存在下で培養することによりインビトロで成熟させることができる。
【0009】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
[1]ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、及びホスファチジルセリンを含む抗腫瘍免疫応答増強剤。
[2]対象における腫瘍の成長抑制用に用いるための、上記[1]記載の抗腫瘍免疫応答増強剤。
[3]未熟樹状細胞を成熟樹状細胞とするために用いるための、上記[1]記載の抗腫瘍免疫応答増強剤。
[4]未熟樹状細胞を、CD11bCD11c生細胞とするために用いるための、上記[3]記載の抗腫瘍免疫応答増強剤。
[5]未熟樹状細胞が、未熟標準型樹状細胞又は腫瘍関連樹状細胞であることを特徴とする、上記[4]記載の抗腫瘍免疫応答増強剤。
[6]ホスファチジルコリンが50~90%、ホスファチジルエタノールアミンが5~25%、及びホスファチジルセリンが5~25%配合されていることを特徴とする、上記[1]又は[2]記載の抗腫瘍免疫応答増強剤。
[7]1又は2以上の抗がん剤をさらに含むことを特徴とする、上記[1]又は[2]記載の抗腫瘍免疫応答増強剤。
[8]上記[1]又は[2]記載の抗腫瘍免疫応答増強剤の存在下において、未熟樹状細胞をインビトロで培養することにより、成熟樹状細胞を調製する方法。
【0010】
また、本発明は、抗腫瘍免疫応答増強療法における使用のためのホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリンを含む剤;ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリンを含むサイトカイン産生促進剤;抗腫瘍免疫応答を増強するために使用されるホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、及びホスファチジルセリンの組合せ;ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリンを含む抗腫瘍免疫応答増強剤を、対象に投与することを含む、対象における抗腫瘍免疫応答を増強する方法;ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、及びホスファチジルセリンを、抗腫瘍免疫応答を増強することを必要とする対象に投与する工程を含む、抗腫瘍免疫応答を増強する方法;腫瘍微小環境における抗腫瘍免疫応答の増強を必要とする対象に、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリンを含む抗腫瘍免疫応答増強剤を投与する工程を含む、対象における腫瘍関連樹状細胞を活性化する方法や、対象における腫瘍の微小環境の免疫抑制性を低下させて臨床的有用性を増進させる剤を投与する方法や、抗腫瘍免疫応答増強剤により活性化された成熟樹状細胞や、抗腫瘍免疫応答増強剤により活性化された腫瘍関連樹状細胞や、抗腫瘍免疫応答増強剤により活性化された成熟樹状細胞を使用するがん免疫療法や、抗腫瘍免疫応答増強剤により活性化された腫瘍関連樹状細胞を使用するがん免疫療法を含むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】(a)は、MO4-Luc細胞の移植後に、4mg/kgマウス体重又は12mg/kgマウス体重のcPLsアジュバントを脇腹に皮下注射したマウスと、cPLsアジュバントを投与しないコントロールマウスのそれぞれにおける、移植後16日経過時までの腫瘍の体積の推移を示すグラフである。横軸はマウス移植後の経過日数、縦軸はMO4-Luc細胞移植マウスにおける腫瘍体積を示す。(b)は、cPLsアジュバントを4mg/kgマウス体重又は12mg/kgマウス体重を皮下注射したマウスと、cPLsアジュバントを投与しないコントロールマウスのそれぞれにおける移植後16日目の腫瘍体積のヒストグラムである。(c)は、C26細胞の移植後に、12mg/kgマウス体重のcPLsアジュバントを脇腹に皮下注射したマウスと、cPLsアジュバントを投与しないコントロールマウスのそれぞれにおける、移植後16日経過時までの腫瘍の体積の推移を示すグラフである。(d)は、cPLsアジュバントを12mg/kgマウス体重を投与したマウスと、cPLsアジュバントを投与しないコントロールマウスのそれぞれにおける移植後16日目の腫瘍体積のヒストグラムである。(e)は、MO4-Luc細胞移植マウスにcPLsアジュバント、PC、PE、及びPSがそれぞれ投与された場合の、移植後16日経過時までの腫瘍の体積の推移を示すグラフである。
図2】マウス標準型未熟な骨髄樹状細胞をcPLsアジュバント存在下で培養した後のフローサイトメトリー解析を示す。
図3】マウス標準型未熟な骨髄樹状細胞をcPLsアジュバント存在下で培養した後の細胞の表面マーカーについて(a)IA/IE、(b)CD80、及び(c)CD40の発現を、それぞれ平均蛍光強度(mean fluorescence intensity:MFI)のデルタ(Δ)値で表わしたグラフである。
図4】cPLsアジュバントの存在下で2日間培養されたimDCについて(a)IL-1β、(b)IL-12、及び(c)IL-6の発現をMFIのデルタ値で表わしたグラフをそれぞれ示す。
図5】(a)、(b)ともcPLsアジュバント処理群のTILのフローサイトメトリー解析を示す。
図6】cPLsアジュバント処理群のTILsについて(a)CD86、及び(b)IA/IEの発現をMFIのデルタ値で表わしたグラフをそれぞれ示す。
図7】cPLsアジュバント処理群のTILsについて(a)IL-1β、(b)IL-12、及び(c)IFN-γの発現をMFIのデルタ値で表わしたグラフである。
図8】TILsに含まれるCD4T細胞における(a)IFN-γ、(c)TNF-α、及び(e)IL-2の産生、並びにCD8T細胞における(b)IFN-γ、(d)TNF-α、及び(f)IL-2の産生をMFIのデルタ値で表わしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の抗腫瘍免疫応答増強剤としては、ホスファチジルコリン(phosphatidylcholine:PC)、ホスファチジルエタノールアミン(phosphatidylethanolamine:PE)、及びホスファチジルセリン(phosphatidylserine:PS)を含む抗腫瘍免疫応答を増強することができる剤であれば特に限定されず、PC、PE、及びPS以外のリン脂質を含まない剤や、PC、PE、及びPS以外のリン脂質を必須成分として含まない剤を例示することができる。上記抗腫瘍免疫応答増強剤の投与対象としては、マウス、ラット、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サル、ヒト等の哺乳類を挙げることができる。
【0013】
本発明の抗腫瘍免疫応答増強剤の作製方法としては、PC、PE、及びPSを順次、又は混合物として、溶媒に溶解・混合して抗腫瘍免疫応答増強剤を作製する方法を例示することができ、上記溶媒としては、本発明の効果を奏することができ、対象に対して侵襲的でない溶媒を挙げることができるが、エタノールを好適に挙げることができる。溶液の濃度としては、PC、PE、及びPSが0.5~2mg/mL、好ましくは0.8~1.5mg/mLを挙げることができ、かかる溶液に含まれるPC、PE、及びPSの配合割合としては、PCが50~90%、PEが5~25%、PSが5~25%を挙げることができ、PCが60~80%、PEが10~20%、PSが10~20%が好ましく、PCが65~75%、PEが12.5~17.5%、PSが12.5~17.5%がより好ましい。
【0014】
上記PCとしては、大豆由来PC、卵黄PC等の天然由来のPCや、炭素数7~22の飽和又は不飽和カルボン酸を含む合成PCを挙げることができる。合成PCとして具体的には、ジラウロイルPC、ジミリストイルPC、ジオレオイルPC、ジパルミトイルPC、パルミトオレオイルPC、ジステアロイルPC等を挙げることができる。また、グリセリンの1位及び2位に結合する脂肪酸残基部分は、同一でも異なっていてもよい。
【0015】
上記PEとしては、大豆由来PE、大豆由来水添PE等の天然由来のPEや、炭素数7~22の飽和又は不飽和カルボン酸を含むPE等の合成PEを挙げることができる。具体的には、ジラウロイルPE、ジミリストイルPE、ジパルミトイルPE、ジオレオイルPE、パルミトオレオイルPE、ジステアロイルPE等を挙げることができる。また、グリセリンの1位及び2位に結合する脂肪酸残基部分は、同一でも異なっていてもよい。
【0016】
上記PSとしては、大豆由来PS、大豆由来水添PS等の天然由来のPSや、炭素数7~22の飽和又は不飽和カルボン酸を含むホPS等の合成PSを挙げることができる。具体的には、ジラウロイルPS、ジミリストイルPS、ジパルミトイルPS、ジオレオイルPS、パルミトオレオイルPS、ジステアロイルPS等を挙げることができる。また、グリセリンの1位及び2位に結合する脂肪酸残基部分は、同一でも異なっていてもよい。
【0017】
本発明における腫瘍としては、本発明の抗腫瘍免疫応答増強剤を投与することにより、成長が抑制される腫瘍であれば特に制限されないが、悪性腫瘍が好ましく、悪性腫瘍としては、造血細胞悪性腫瘍、頭頚部がん、脳腫瘍、乳がん、子宮体がん、子宮頚がん、卵巣がん、食道がん、胃がん、虫垂がん、大腸がん、肝がん、胆嚢がん、胆管がん、膵がん、腎がん、副腎がん、消化管間質腫瘍、中皮腫、甲状腺がん、肺がん、骨肉腫、骨がん、前立腺がん、精巣腫瘍、膀胱がん、皮膚がん、肛門がんを例示することができる。
【0018】
本発明の抗腫瘍免疫応答増強剤は、対象における腫瘍の成長抑制用に用いることができ、腫瘍の成長の抑制としては、本発明の抗腫瘍免疫応答増強剤を投与した場合に、本発明の抗腫瘍免疫応答増強剤を投与しない場合と比較して、腫瘍の体積の増加の程度を低下させることや、腫瘍の体積を減少させることや、腫瘍を消滅させることを挙げることができ、腫瘍の体積の増加の程度を低下させる場合としては特に限定はされないが、例えば、腫瘍体積(mm)=1/2(腫瘍の長さ×(腫瘍の幅))として算出する場合に、本発明の抗腫瘍免疫応答増強剤を投与した場合の投与後所定時間経過後の腫瘍体積が、投与しない場合の腫瘍体積と比較して小さくなる場合を挙げることができ、具体的には、投与した場合の腫瘍の体積が、投与しない場合の腫瘍体積の4/5以下、好ましくは3/5以下、より好ましくは1/2以下となる場合を挙げることができる。
【0019】
本発明の抗腫瘍免疫応答増強剤は、未熟樹状細胞を成熟樹状細胞とするために用いることができ、好ましくは、未熟樹状細胞をCD11bCD11c生細胞にするために用いることができる。未熟樹状細胞としては、生体内に存在する未熟標準型骨髄樹状細胞、TADC等を例示することができるが、これらの細胞をインビトロで調製することもできる。
【0020】
上記未熟標準型樹状細胞をインビトロで調製する方法としては、公知の方法であれば特に限定されないが、マウス、ラット、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サル、ヒト等の投与対象となる哺乳類の大腿骨及び/又は脛骨の骨髄細胞を採取し、採取した骨髄細胞を、FBS、ペニシリン・ストレプトマイシン、ピルビン酸ナトリウム、及び、MEM非必須アミノ酸溶液、GlutaMAX-I、2-メルカプトエタノール、IL-4、GM-CSFを含むRPMI-1640培地において培養することにより、骨髄由来の未成熟の標準型樹状細胞を調製する方法を例示することができ、マウス細胞の場合には、10%FBS、1%ペニシリン・ストレプトマイシン、1%ピルビン酸ナトリウム、及び、1%MEM非必須アミノ酸溶液、1%GlutaMAX-I、0.4%の50μMの2-メルカプトエタノール、10ng/mLのマウスIL-4、10ng/mLのGM-CSFを含むRPMI-1640培地において培養することにより、骨髄由来の未成熟の標準型樹状細胞を調製する方法を好適に挙げることができる。
【0021】
未熟樹状細胞を培養することにより、成熟樹状細胞をインビトロで調製する方法としては、本発明の抗腫瘍免疫応答増強剤の存在下において、対象から採取した未熟樹状細胞をインビトロで培養する方法を例示することができ、例えば、0.1~10mg/mL、好ましくは0.5~5mg/mL、より好ましくは0.8~1.6mg/mL、さらに好ましくは1.0~1.4mg/mLの抗腫瘍免疫応答増強剤を添加した培地において、12時間~72時間、好ましくは24時間~72時間、より好ましくは36時間~60時間培養する方法を挙げることができる。
【0022】
上記抗腫瘍免疫応答増強剤は、対象から採取した未熟樹状細胞をインビトロで培養することにより、成熟樹状細胞を調製するために使用されることができ、インビトロで調製された成熟樹状細胞を対象の体内へ投与することもできる。
【0023】
上記TADCをインビトロで調製する方法としては、腫瘍微小環境に存在するTADCを単離するための公知の方法であれば特に制限されないが、例えば、哺乳類の体内から摘出した腫瘍をPBSで洗浄し、メスで細かく切断し、上記切断された腫瘍組織をさらに分散させて、単細胞懸濁液を調製し、単細胞懸濁液となった腫瘍をろ過し、PBSで洗浄し、パーコール勾配による遠心分離を行うことにより単核細胞を単離する方法を挙げることができ、このように調製されたTADCは、腫瘍の成長の抑制の程度等について、インビトロで評価されることができる。
【0024】
上記腫瘍微小環境としては、悪性腫瘍(がん)の細胞以外の細胞が固形腫瘍に含まれる、又は固型腫瘍の周囲に共存する生体内環境であって、腫瘍細胞の成長を促進し、腫瘍の転移を促進し、及び/又は、宿主免疫を回避できる等の特性を有する、樹状細胞等の種々の細胞が存在し、腫瘍に対する免疫が抑制されている環境を挙げることができる。
【0025】
本発明の抗腫瘍免疫応答増強剤が、未熟標準型樹状細胞、TADC等の未熟な樹状細胞を成熟樹状細胞としたことを確認する方法としては、フローサイトメトリー等の個々の細胞の物理的及び化学的特性について複数のパラメーター分析を行うことができる手段によって、成熟樹状細胞が発現するマーカーや、活性化されたサイトカインを検出した場合に、被検細胞が成熟した樹状細胞になったと判定することにより確認する方法を例示することができる。
【0026】
本発明の抗腫瘍免疫応答増強剤により、未熟標準型樹状細胞が成熟したことを確認する方法としては、上記パラメーター分析により、CD(Cluster of Differentiation)11b、CD11c、IA/IE、CD80、CD40等の細胞表面マーカーの発現が、本発明の抗腫瘍免疫応答増強剤を投与(添加)しない場合よりも有意に増加していると判定されること、及び/又は、標準型樹状細胞が成熟して活性化することにより、インターロイキン(IL)-1β、IL-12、IL-6等のサイトカインの産生量が本発明の抗腫瘍免疫応答増強剤を投与(添加)しない場合よりも有意に増加していると判定されることなどにより確認することを挙げることができる。
【0027】
本発明の抗腫瘍免疫応答増強剤により、TADCが成熟したことを確認する方法としては、上記パラメーター分析により、CD45生細胞において、CD11b、CD11c、CD86、IA/IE等の細胞表面マーカーの発現量が、本発明の抗腫瘍免疫応答増強剤を投与(添加)しない場合よりも有意に増加していると判定されることを挙げることができる。また、標準型樹状細胞が成熟して活性化することにより、IL-1β、IL-12、IFN-γ等のサイトカインの産生量が、本発明の抗腫瘍免疫応答増強剤を投与(添加)しない場合よりも有意に増加していると判定されることなどにより確認することを挙げることができる。
【0028】
本発明の抗腫瘍免疫応答増強剤により、TADCが成熟したことを確認する方法としては、CD4陽性を示すTADCにおいて、IFN-γ及びIL-2の産生量が、本発明の抗腫瘍免疫応答増強剤を投与(添加)しない場合よりも有意に増加することや、TNF-αの産生量が、本発明の抗腫瘍免疫応答増強剤を投与しない場合よりも有意に減少することを確認することをさらに含めることができる。
【0029】
また、本発明の抗腫瘍免疫応答増強剤により、TADCが成熟したことを確認する方法としては、CD8陽性を示すTADCにおいて、IFN-γ、IL-2、及びTNF-αの産生量が、本発明の抗腫瘍免疫応答増強剤を投与(添加)しない場合よりも有意に増加することを確認することをさらに含めることができる。
【0030】
本発明の抗腫瘍免疫応答増強剤の投与対象としては、また、腫瘍を担持した対象であることが好ましいが、腫瘍を担持していない対象であっても、(悪性)腫瘍の発生を予防するための予防的措置として投与することができる。
【0031】
本発明の抗腫瘍免疫応答増強剤の投与の態様としては、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、皮下注射、筋肉注射、静注等により投与する非経口的投与が好ましく、また、固型腫瘍の位置が特定できる場合は、固型腫瘍への投与、固型腫瘍の周辺、固型腫瘍の近傍への投与が好ましい。
【0032】
本発明の抗腫瘍免疫応答増強剤の投与量としては、本発明の効果を奏する限りにおいて、また、重篤な副作用を起こさない限りにおいて、特に制限されないが、例えば、ヒトに対する本発明の抗腫瘍免疫応答増強剤の投与量を決定する場合、当該技術分野において通常行われているとおり、マウス等の試験動物の体表面積から、ヒトにおいて同等の作用が発現する用量を推定するHED換算方法や、最高血中濃度(Cmax)や時間曲線下面積(AUC)のデータを検討する等の公知の方法により、実験データを蓄積したうえでヒトへの投与量を決定することができる。
【0033】
本発明の抗腫瘍免疫応答増強剤は、他の抗がん剤と併用することにより、抗がん剤の抗がん効果を高めることができる。他の抗がん剤としては、シクロホスファミド、ベンダムスチン、イオスファミド、ダカルバジン等のアルキル化剤;ペントスタチン、フルダラビン、クラドリビン、メソトレキセート、6-メルカプトプリン、エノシタビン等の代謝拮抗剤;リツキシマブ、セツキシマブ、トラスツズマブなどの分子標的剤;イマチニブ、ゲフェチニブ、エルロチニブ、アファチニブ、ダサチニブ、スニチニブ、トラメチニブ等のキナーゼ阻害剤;シクロスポリン、タクロリムス等のカルシニューリン阻害剤;イダルビジン、ドキソルビシン、マイトマイシンC等の抗がん性抗生物質;イリノテカン、エトポシド等の植物アルカロイド;シスプラチン、オキサリプラチン、カルボプラチン等のプラチナ製剤;インターフェロン、ニボルマブ、ペンブロリズマブ等の免疫制御剤などを挙げることができる。
【0034】
本願明細書における、「増加した」、「増加する」、「増強する」、又は「活性化する」という用語は、ここでは全て、統計的に有意な量の増加を意味するために使用される。幾つかの実施態様では、「増加した」、「増加する」、「増強する」、又は「(増加することにより作用)が活性化する」という用語は、コントロールのレベルと比較して少なくとも10%の増加、例えば、少なくとも約20%、又は少なくとも約30%、又は少なくとも約40%、又は少なくとも約50%、又は少なくとも約60%、又は少なくとも約70%、又は少なくとも約80%、又は少なくとも約90%、又はそれ以上で100%の増加を含む増加、あるいは参照(コントロール)レベルと比較して10~100%の間の任意の増加、あるいは少なくとも約2倍、又は少なくとも約3倍、又は少なくとも約4倍、又は少なくとも約5倍、又は少なくとも約10倍の増加、あるいは2倍と10倍以上の間の任意の増加を意味しうる。
【0035】
(統計解析方法)
本願明細書における、「統計的に有意」又は「有意に」という用語は、統計的有意性を指し、統計的有意性はp<0.05とすることもできる。
【0036】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例0037】
[実施例1]
(脂質組成物の調製)
ホスファチジルコリン(PC)(Soy PC(95%)、Avanti Polar Lipids社製)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)(Lipoid S PE、(大豆由来精製ホスファチジルエタノールアミン、98%以上)Lipoid社製)、及び大豆由来ホスファチジルセリン(PS)(Lipamine(登録商標)PS 90 PN、ナガセケムテックス株式会社製)の3種類のリン脂質を、PC:PE:PSを質量比で14:3:3の割合でEtOHに溶解して作製した溶液を調製した。具体的には、0.84mgのPC、0.18mgのPE、及び0.18mgのPSを1mLのエタノールに溶解し、1.2mg/mLの脂質組成物cPLsアジュバントを調製した。
【0038】
(マウス)
8週齢の雌のC57BL/6NCrSlcマウス(以下「B6マウス」という。)、及び、8週齢の雌のBalb/cマウスを日本SLC株式会社から購入した。各マウスは、実験の1週間前から濾過水と餌を与えて飼育した。マウスの飼育方法は、国立成育医療研究センター(NCCHD)の実験動物福祉に関するガイドラインに従った。
【0039】
(がん細胞株の調製)
崇城大学薬学部、Jun Fang博士より供与された、ホタルルシフェラーゼを発現するOVA発現マウスメラノーマ(以下「MO4-Luc細胞」という。)と、マウス結腸がん細胞株であるC26細胞とを、10%牛胎児血清及び1%ペニシリン-ストレプトマイシン(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を添加したRPMI1640培地(和光純薬株式会社製)において、5%のCO濃度下で37℃にてそれぞれ培養した。
【0040】
(統計解析方法)
実施例に示す各結果は、平均値±標準偏差(SD)で解析を行った。データは、GraphPad Prismソフトウェア(バージョン7.0、GraphPad Software社製)を使用して解析した。2つのグループ(正規分布)の比較には、片側不対(独立標本において)、又は、対(3つの独立実験において)スチューデントのt-検定を用いた。2群の比較には片側Wilcoxon matched-pairs signed-rank testを用いた(異常分布)。複数群の比較には、Tukeyの多重比較検定を用いた一元配置分散分析(One-way ANOVA)を用いた。「有意に」なる文言は、統計学的有意性を指す。「顕著に」なる文言は、有意差が非常に大きい意である。統計学的有意性はp<0.05とした。
【0041】
(MO4-Luc細胞のマウスへの移植)
上記培養されたMO4-Luc細胞はPBSで2回洗浄され、3×10細胞/mLの濃度となるようにPBSにて再懸濁された。再懸濁されたMO4-Luc細胞を、上記B6マウスの剃毛した右脇腹に皮下注射(3×10/100μLs.c.)し、MO4-Luc細胞移植マウスとした(移植後0日)。
【0042】
上記MO4-Luc細胞移植マウスについて、MO4-Luc細胞移植後6日目から2日毎にノギスを用いて、腫瘍の長さ(length)と、幅(width)とを測定することにより腫瘍体積を算出した。腫瘍体積の算出式は、腫瘍体積(mm)=1/2(腫瘍の長さ×(腫瘍の幅))とした。MO4-Luc細胞移植後8日目において、100mm>腫瘍体積>10mmであるMO4-Luc細胞移植マウスを選択して、cPLsアジュバントを投与することとした。すなわち、MO4-Luc細胞移植後8日目と11日目と14日目とに、4mg/kgマウス体重又は12mg/kgマウス体重のcPLsアジュバントを腹腔内に注入した。なお、cPLsアジュバントを投与しなかったマウスをコントロールマウスとして同様に腫瘍体積の測定を行った。移植後16日経過時までの腫瘍の体積の推移を示すグラフ(**p<0.01、****p<0.0001)を図1(a)に、MO4-Lucメラノーマ移植後16日目の腫瘍体積をTukeyの多重比較検定を用いた一元配置分散分析(one-way ANOVA)により平均値±SDで表したヒストグラム(**p<0.01、****p<0.0001)を図1(b)に示す。
【0043】
(結果)
図1(a)から明らかなとおり、MO4-Luc細胞移植マウスにおいて、12mg/kgマウス体重のcPLsアジュバントを投与したマウス及び4mg/kgマウス体重のcPLsアジュバントを投与したマウスにおける腫瘍の体積の増加の程度は、無処置のコントロールマウスにおける腫瘍の体積の増加の程度と比較して明らかに小さかった。図1(a)において、MO4-Luc細胞移植後16日目の、12mg/kgマウス体重のcPLsアジュバントを投与したマウスの腫瘍の体積は、無処置のコントロールマウスの腫瘍の体積の約1/2であり、顕著に小さかった。12mg/kgマウス体重のcPLsアジュバントを投与したマウスの腫瘍の体積は、4mg/kgマウス体重のcPLsアジュバントを投与したマウスの腫瘍の体積の約3/5であり有意に小さかった。
【0044】
図1(b)から明らかなとおり、MO4-Luc細胞移植後16日目の、12mg/kgマウス体重のcPLsアジュバントを投与したマウスと無処置のコントロールマウスとにおける腫瘍の体積は、有意差が顕著にあることが示された。また、12mg/kgのcPLsアジュバントを投与したマウスと4mg/kgマウス体重のcPLsアジュバントを投与したマウスとにおける腫瘍の体積についても有意差が認められた。
【0045】
以上の結果から、MO4-Luc細胞移植マウスにおいて、cPLsアジュバントの投与により、優れた腫瘍の成長抑制作用がもたらされることが確認された。
【0046】
[実施例2]
(C26細胞のマウスへの移植)
上記培養されたC26細胞はPBSで2回洗浄され、3×10細胞/mLの濃度となるようにPBSで再懸濁された。再懸濁されたC26細胞を、上記Balb/cマウスの剃毛した右脇腹に皮下注射(3×10/100μLs.c.)し、C26細胞移植マウスとした(移植後0日)。
【0047】
上記C26細胞移植マウスについて、C26細胞移植後6日目から2日毎にノギスを用いて、腫瘍の長さと幅とを測定し、上記MO4-Luc細胞移植マウス同様腫瘍体積を算出した。細胞移植後8日目において、100mm>腫瘍体積>10mmであるC26細胞移植マウスを選択し、移植後8日目と11日目と14日目とに、4mg/kgマウス体重又は12mg/kgマウス体重のcPLsアジュバントを腹腔内に注入した。cPLsアジュバントを投与しなかったマウスをコントロールマウスとして同様に腫瘍体積の測定を行った。実施例1同様、腫瘍の体積の推移を示すグラフ(****p<0.0001)を図1(c)に、ヒストグラム(****p<0.0001)を図1(d)に示す。
【0048】
(結果)
図1(c)から明らかなとおり、C26細胞移植マウスにおいて、12mg/kgのcPLsアジュバントを投与したマウスにおける腫瘍の体積の増加の程度は、無処置のコントロールマウスにおける腫瘍の体積の増加の程度と比較して明らかに小さかった。図1(c)において、C26細胞移植後16日目の、12mg/kgマウス体重のcPLsアジュバントを投与したマウスの腫瘍の体積は、無処置のコントロールマウスの腫瘍の体積の約1/4であり顕著に小さかった。また、図1(d)から明らかなとおり、C26細胞移植後16日目の、12mg/kgのcPLsアジュバントを投与したマウスと無処置のコントロールマウスとにおける腫瘍の体積を比較すると、cPLsアジュバントを投与したマウスにおいて、腫瘍の大きさが顕著に小さいことが示された。
【0049】
以上の結果から、C26細胞移植マウスにおいても、cPLsアジュバントの投与により、優れた腫瘍の成長抑制作用がもたらされることが確認された。
【0050】
[実施例3]
(cPLsアジュバントの相乗効果)
0.84mgのPCを1mLのエタノールに溶解することにより作製されたPC溶液、0.18mgのPEを1mLのエタノールに溶解することにより作製されたPE溶液、及び0.18mgのPSを1mLのエタノールに溶解することにより作製されたPS溶液をそれぞれ作製し、上記12mg/kgマウス体重のcPLsアジュバントに代えて、上記実施例1の手順にて、8.4mg/kgのPC、1.8mg/kgマウス体重のPE、又は1.8mg/kgマウス体重のPSがMO4-Luc細胞移植マウスにそれぞれ投与された。それぞれのマウスにおける移植後16日目までの腫瘍の体積の推移について図1(e)のグラフ(*p<0.05、**p<0.01)に示す。
【0051】
MO4-Luc移植マウスにおける腫瘍の体積の推移を示す図1(e)から明らかなとおり、MO4-Luc細胞移植マウスにおいて、12mg/kgマウス体重のcPLsアジュバントを投与したマウスにおける腫瘍の体積の増加の程度は、無処置のコントロールマウスや、PC、PE、又はPSをそれぞれ単独で投与したマウスにおける腫瘍の体積の増加の程度と比較して小さかった。また、図1(e)において、12mg/kgマウス体重のcPLsアジュバントを投与したMO4-Lucマウスの移植後16日目の腫瘍の大きさは、無処置のコントロールマウスの腫瘍の体積の1/2未満であって顕著に小さく、またPEを投与したマウスの腫瘍の体積と比較して有意に小さく、cPLsアジュバントの優れた抗腫瘍効果が示された。
【0052】
[実施例4]
[標準型樹状細胞の形質解析]
DCに対するcPLsアジュバントの効果をより詳細に検討するため、まず骨髄由来の未成熟の標準型(conventional)の樹状細胞(DC)に対するcPLsアジュバントの効果を検討することとした。
【0053】
(未熟なマウス骨髄由来樹状細胞の調製)
大腿骨及び脛骨の骨髄細胞を、8~12週齢のB6マウスから採取し、採取した骨髄細胞から、未熟な標準型のマウス骨髄樹状細胞(Immature mouse bone morrow dendritic cells(以下「imDC」ともいう))を調製した。すなわちB6マウス由来の骨髄細胞を10%FBS、1%ペニシリン・ストレプトマイシン(Gibco Thermo Fisher Scientific社製)、1%ピルビン酸ナトリウム(Gibco Thermo Fisher Scientific社製)、及び、1%MEM非必須アミノ酸溶液(Gibco Thermo Fisher Scientific社製)、1%GlutaMAX-I(Gibco Thermo Fisher Scientific社製)、0.4%の50μMの2-メルカプトエタノール(和光純薬社製)、10ng/mLのマウスIL-4(PeproTech社製)、10ng/mLのGM-CSF(BioLegend社製)を含むRPMI-1640培地において5日間培養することにより、imDCが調製された。
【0054】
(マウス骨髄由来未熟樹状細胞へのcPLsアジュバントの添加)
上記imDCは、1.2mg/mLのcPLsアジュバントをさらに添加した24ウェルプレート上で、さらに2日間培養して、細胞が採取され、細胞数がカウントされた。細胞生存率は90%以上であった。
【0055】
(cPLsアジュバント添加後の樹状細胞のフローサイトメトリー解析)
上記cPLsアジュバント存在下で2日間培養された細胞について、フローサイトメトリーによる解析を行うこととした。上記cPLsアジュバント存在下で2日間培養された細胞は、洗浄後、PBSに最適濃度にて懸濁された。細胞内のサイトカイン染色のために、ブレフェルディンA(Brefeldin A)溶液(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)の存在下、50ng/mLのPMA(Phorbor 12-myristate 13-acetate)と500ng/mLのイオノマイシン(ionomycin)(シグマアルドリッチ社製)とによって、37℃にて4時間刺激された。その後、細胞内染色を容易にするために、細胞内固定化・透過化バッファー(cat#00-5523-00、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を用いて透過化された。フローサイトメトリーによる解析結果を図2に示す。
【0056】
なお、これ以降フローサイトメトリー解析においては、セルアナライザーLE-SP6800 (ソニー株式会社製)、又はBD FACSymphonyTM (BDBiosciences社製)、及び FlowJoソフトウェア(バージョン10.5.0; BD Biosciences社製)を用いて解析を行った。
【0057】
(染色試薬)
これ以降、細胞内染色には以下の試薬を用いた。
LIVE/DEADTM Fixable Aqua Dead Cell Stain Kit, for 405nm excitation(L34957,サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)、マウスFcブロッキング試薬(130-092-575,ミルテニー社製)、及び、Brilliant Violet605、Alexa Fluor 700、APC/Cyanine7、PE/Cyanine7、PE/Dazzle594、PerCP/Cy5.5、APC、PE、FITCのいずれかに結合する、以下に示す抗マウスモノクローナル抗体(いずれもBioLegend社製)が染色に用いられた。
CD11b(M1/70)、
CD11c(N418)、
CD40(3/23)、
CD80(16-10A1)、
CD86(GL-1)、
IA/IE(M5/114.15.2)、
CD8(53-6.7)、
CD4(RM4-5)、
CD45(30-F11)、
IL-10(JES5-16E3)、
IL-12(C15.6)、
IL-6(MP5-20F3)、
IL-1β(NJTEN3)、
TNF-α(MP6-XT22)、
IFN-γ(XMG1.2)。
【0058】
(結果)
図2から明らかなとおり、上記imDCは2日間cPLsアジュバントの存在下で培養された後に、標準型樹状細胞(cDC)において表出するCD11bやCD11cが発現していることが確認された。したがって、マウスの未熟なDCはcPLsアジュバントの存在下で培養されることにより、成熟したマウス骨髄樹状細胞(成熟BMDC)となり、CD11bやCD11cを発現することが確認された。
【0059】
(マーカーの発現)
図3に、上記成熟BMDCの表面マーカーについて、(a)IA/IE、(b)CD80、及び(c)CD40の発現をMFIのデルタ値で表わしたグラフをそれぞれ示す。
【0060】
(結果)
cPLsアジュバントの存在下で2日間培養後の成熟BMDC(横軸:cPLsアジュバント)は、cPLsアジュバント無処理のimDC(横軸:imDC)と比較して、IA/IE、CD80、及びCD40の発現が有意に増加したことが確認された。また、CD86についても、cPLsアジュバントの存在下でimDCを2日間培養した場合に発現が増加傾向にあることが確認された。
【0061】
以上の結果によりcPLsアジュバントの存在下でimDCが十分に成熟して成熟BMDCとなり、IA/IE抗原やCD40の発現が増加し、抗腫瘍免疫増強効果を奏することができることが示された。
【0062】
(サイトカイン産生)
図4に、上記cPLsアジュバントの存在下で2日間培養されて成熟BMDCとなったDCについて、(a)IL-1β、(b)IL-12、及び(c)IL-6の産生をMFIのデルタ値で表わしたグラフをそれぞれ示す。
【0063】
(結果)
cPLsアジュバントの存在下で2日間培養されたimDC(横軸:cPLsアジュバント)は、cPLsアジュバント無処理のimDC(横軸:imDC)と比較して、IL-1β、IL-12、及びIL-6の産生が有意に増加したことが確認された。
【0064】
以上の結果により、T細胞を活性化し、抗原認識を促進するサイトカインであるIL-1βの分泌が増加し、Th1細胞を誘導し、炎症反応を調整するサイトカインであるIL-12の分泌が増加した。そしてまた、炎症性サイトカインであるIL-6の分泌が増加した。これらの結果により、cPLsアジュバントの存在下でimDCが十分に成熟して成熟BMDCとなり、IL-1β、IL-12、及びIL-6の発現が増加し、抗腫瘍免疫増強効果を奏することができることが示された。
【0065】
[実施例5]
[腫瘍関連樹状細胞(TADC)の形質解析]
TILsにおける腫瘍に常在するTADCに対するcPLsアジュバントの効果について評価するため、腫瘍組織からTILsを単離し、TADCに表出するマーカー等を解析した。
【0066】
(腫瘍浸潤白血球の調製)
実施例1において、cPLsアジュバント(12mg/kgマウス体重)を投与した、又は投与しない無処理のMO4-Luc細胞移植マウスについて、移植後16日経過時に摘出された腫瘍から、腫瘍浸潤白血球をそれぞれ調製した。摘出腫瘍をPBSで洗浄し、メスで細かく切断し、Miltenyi Tumor Dissociation Kit (Cat No.130-096-730、ミルテニーバイオテク社製)とGentleMACS Octo dissociator (Cat No.130-093-235、ミルテニーバイオテク社製)とを用いて、上記切断されたマウス腫瘍組織をさらに分散させて、単細胞懸濁液を調製した。単細胞懸濁液となった腫瘍を70μMプレセパレーションフィルター(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)でろ過し、PBSで洗浄し、パーコール勾配(55%及び70%、GEへルスケア社)による遠心分離(600×g)を、20℃にて20分間行うことにより単核細胞が単離され、各TILsが調製された。
【0067】
(TILsに含まれるTADCの表面マーカーの解析)
cPLsアジュバント(12mg/kg)を投与したMO4-Luc細胞移植マウスのTILsにおいて発現しているマーカーを上記実施例4に記載の手順にてフローサイトメトリーにより解析した。結果を図5に示す。
【0068】
(結果)
図5のフローサイトメトリーによる解析から明らかなとおり、cPLsアジュバントを投与したマウスから摘出された腫瘍から調製されたTILsにおいて、TADCは、CD45CD11bCD11c生細胞として示された。したがって、上記実施例4で確認した成熟した標準型樹状細胞のマーカーと同様の、成熟した樹状細胞のマーカーを発現していることが確認された。
【0069】
図6に、上記TILsにおけるTADCについて(a)CD86、及び(b)IA/IEの発現をMFIのデルタ値で表わしたグラフをそれぞれ示す。
【0070】
上記cPLsアジュバントを投与したマウスから摘出された腫瘍から調製されたTILsにおいて、樹状細胞の成熟マーカーであるCD86及びIA/IEの発現が有意に増加したことが確認された。したがって、cPLsアジュバントが、TILsにおけるTADCの成熟を促進し、抗腫瘍免疫増強効果を奏することができるようになったことを示すものであって、cPLsアジュバントによって腫瘍微小環境においても樹状細胞が十分成熟し、抗腫瘍免疫増強効果を奏することができるようになったことが示唆された。
【0071】
(サイトカイン産生)
サイトカイン産生の観点からTILsに含まれるT細胞の機能性を評価した。図7に、サイトカインである(a)IL-1β、(b)IL-12、及び(c)IFN-γの発現をMFIのデルタ値で表わしたグラフをそれぞれ示す。
【0072】
(結果)
上記cPLsアジュバント処理群のTILs(横軸:cPLsアジュバント)においては、cPLsアジュバント無処理対照群のTILs(横軸:control)と比較して、上記cPLsアジュバントを投与したマウスから摘出された腫瘍から調製されたTILにおいては、IL-1β、IL-12、及びIFN-γの産生が有意に増加したことが確認された。
【0073】
上記cPLsアジュバントを投与したマウスから摘出された腫瘍から調製されたTADCにおいては、抗原認識、T細胞活性を促進するサイトカインであるIL-1β、IL-12、IFN-γの分泌が増加しており、TILsにおけるTADCの成熟は、cPLsアジュバントが促進していることが確認された。したがって、cPLsアジュバントによって腫瘍微小環境においても樹状細胞が十分成熟し、抗腫瘍免疫増強効果を奏することができるようになったことが示唆された。
【0074】
TILsに含まれるCD4T細胞における、(a)IFN-γ、(c)TNF-α、及び(e)IL-2の産生、並びにCD8T細胞における(b)IFN-γ、(d)TNF-α、及び(f)IL-2の産生をMFIのデルタ値を算出した。結果を図9にそれぞれ示す。
【0075】
(結果)
図9から明らかなとおり、cPLsアジュバント処理群のCD4T細胞(横軸:cPLsアジュバント)においては、cPLsアジュバント無処理のCD4T細胞(横軸:control)と比較して、IFN-γ及びIL-2の産生量が有意に高かった。一方、TNF-αについては、cPLsアジュバント処理群のCD4T細胞における産生量は、cPLsアジュバント無処理対照群のCD4T細胞と比較して有意に少なかった。
【0076】
上記の結果により、活性化されたCD4+ヘルパーT細胞(Th)は、IL-2、IFN-γ等のサイトカインの産生を増加することや、cPLsアジュバントの投与により腫瘍微小環境においてCD4T細胞が活性化されたことが示された。
【0077】
cPLsアジュバント処理群のCD8T細胞においては、cPLsアジュバント無処理のCD8T細胞と比較して、IFN-γ、IL-2、及びTNF-αの産生量が有意に多かった。
【0078】
CD8T細胞においては、cPLsアジュバントは、IFN-γ、IL-2、及びTNF-αの発現を増強することが確認された。腫瘍微小環境においてcPLsアジュバントの投与により抗腫瘍免疫効果が増強されることが示唆された。
【0079】
(まとめ)
腫瘍微小環境における免疫寛容の解除のメカニズムの一つは、cPLsアジュバント投与によって引き起こされるT細胞の活性化であることが示唆された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8