(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039734
(43)【公開日】2024-03-25
(54)【発明の名称】地盤改良機
(51)【国際特許分類】
E21B 12/06 20060101AFI20240315BHJP
【FI】
E21B12/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022144319
(22)【出願日】2022-09-12
(71)【出願人】
【識別番号】000004617
【氏名又は名称】日本車輌製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128358
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 良彦
(74)【代理人】
【識別番号】100086210
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 一彦
(72)【発明者】
【氏名】山口 愛斗
【テーマコード(参考)】
2D129
【Fターム(参考)】
2D129AB21
2D129BA17
2D129DC01
2D129HA09
(57)【要約】
【課題】簡易な構成でありながら、掘削ロッドの表面に付着した泥状物を効果的に取り除くことが可能な泥状物除去機構を備えた地盤改良機を提供する。
【解決手段】下部走行体と、該下部走行体の上部に旋回可能に設けられた上部旋回体と、該上部旋回体の前部に立設されたリーダと、該リーダの前面に沿って昇降可能な回転駆動装置と、回転駆動される掘削ロッド18の振れを防止する開閉可能な振止部材19とを備えている地盤改良機において、振止部材は、掘削ロッドの外周面を抱持する左右一対の開閉フレーム24,25と、各開閉フレームの閉じ状態で対向配置される左右一対の泥状物除去機構35,35とを備え、泥状物除去機構は、ばね部材36と、該ばね部材の弾性力を得て掘削ロッドの外周面を押圧するスクレーパ39と、ばね部材の弾性力に抗してスクレーパの移動を阻止する着脱可能なストッパ部材41とを備えている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部走行体と、該下部走行体の上部に旋回可能に設けられた上部旋回体と、該上部旋回体の前部に立設されたリーダと、該リーダの前面に沿って昇降可能な回転駆動装置と、回転駆動される掘削ロッドの振れを防止する開閉可能な振止部材とを備えている地盤改良機において、
前記振止部材は、前記掘削ロッドの外周面を抱持する左右一対の開閉フレームと、各開閉フレームの閉じ状態で対向配置される左右一対の泥状物除去機構とを備え、
前記泥状物除去機構は、伸縮可能なばね部材と、該ばね部材の弾性力を得て前記掘削ロッドの外周面を押圧するスクレーパとを備えていることを特徴とする地盤改良機。
【請求項2】
前記泥状物除去機構は、前記弾性力に抗して前記スクレーパの移動を阻止する着脱可能なストッパ部材を備えていることを特徴とする請求項1記載の地盤改良機。
【請求項3】
前記泥状物除去機構は、前記弾性力に抗して前記スクレーパを前記掘削ロッドから離間させる把手を備えていることを特徴とする請求項2記載の地盤改良機。
【請求項4】
前記泥状物除去機構は、前記スクレーパの移動方向の位置を調整可能な位置調整部を備えていることを特徴とする請求項1記載の地盤改良機。
【請求項5】
前記位置調整部は、前記スクレーパの摩耗量の増加分に対応する調整範囲を有していることを特徴とする請求項4記載の地盤改良機。
【請求項6】
前記泥状物除去機構は、前記掘削ロッドの回転軸を通る鉛直面に対して前記スクレーパの傾斜角度を調整可能な角度調整部を備え、
前記スクレーパは、前記掘削ロッドの外周面の曲率半径よりも大きい曲率半径の円弧形状からなる押圧部を有していることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の地盤改良機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤改良機に関し、詳しくは、掘削した土砂と注入した地盤改良剤とを撹拌混合して地盤の改良を行う地盤改良機に関する。
【背景技術】
【0002】
掘削ロッドを回転駆動させて行う地盤改良工事では、掘削ロッドが掘削孔から引き抜かれる都度、表面に残留付着した地盤改良剤(例えばセメントミルク)などの泥状物を除去する必要がある。地盤改良剤は、一旦乾燥して固化してしまうと、手作業で取り除くには負担が大きいものであるため、ワイヤブラシを備えて泥状物を掻き取る機構(例えば、特許文献1参照。)や、洗浄ノズルを備えて泥状物を洗い落とす機構(例えば、特許文献2参照。)などが開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-328674号公報
【特許文献2】特開2018-53649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、専用の動力を必要としない簡易的な泥状物除去機構を求める現場ニーズは未だ高く、地盤改良工事の現場においては、より簡易的で効果のある泥状物除去機構の開発が引き続き望まれている。
【0005】
そこで本発明は、簡易な構成でありながら、掘削ロッドの表面に付着した泥状物を効果的に取り除くことが可能な泥状物除去機構を備えた地盤改良機を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の地盤改良機は、下部走行体と、該下部走行体の上部に旋回可能に設けられた上部旋回体と、該上部旋回体の前部に立設されたリーダと、該リーダの前面に沿って昇降可能な回転駆動装置と、回転駆動される掘削ロッドの振れを防止する開閉可能な振止部材とを備えている地盤改良機において、前記振止部材は、前記掘削ロッドの外周面を抱持する左右一対の開閉フレームと、各開閉フレームの閉じ状態で対向配置される左右一対の泥状物除去機構とを備え、前記泥状物除去機構は、伸縮可能なばね部材と、該ばね部材の弾性力を得て前記掘削ロッドの外周面を押圧するスクレーパとを備えていることを特徴としている。
【0007】
また、前記泥状物除去機構は、前記弾性力に抗して前記スクレーパの移動を阻止する着脱可能なストッパ部材を備えていることを特徴としている。さらに、前記泥状物除去機構は、前記弾性力に抗して前記スクレーパを前記掘削ロッドから離間させる把手を備えていることを特徴としている。加えて、前記泥状物除去機構は、前記スクレーパの移動方向の位置を調整可能な位置調整部を備えていることを特徴としている。
【0008】
また、前記位置調整部は、前記スクレーパの摩耗量の増加分に対応する調整範囲を有していることを特徴としている。さらに、前記泥状物除去機構は、前記掘削ロッドの回転軸を通る鉛直面に対して前記スクレーパの傾斜角度を調整可能な角度調整部を備え、前記スクレーパは、前記掘削ロッドの外周面の曲率半径よりも大きい曲率半径の円弧形状からなる押圧部を有していることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の地盤改良機によれば、振止部材の開閉フレームに対で設けられる泥状物除去機構において、伸縮可能なばね部材の弾性力を得て掘削ロッドの外周面を押圧するスクレーパを備えているので、掘削ロッドを一体的に把持する振止機能との相互作用で、スクレーパの押圧力を簡単に精度よく得ることができる。すなわち、ばね部材を用いた簡易な構成で掘削ロッドの表面に付着した泥状物を効果的に取り除くことができる。とりわけ、対向配置される2つのスクレーパによって泥状物の掻き取り効果が高まるだけでなく、回転する掘削ロッドの振動を受けた場合でも、各スクレーパの押圧力を均衡させて掻き取り効果を維持できることから、実用性に優れたものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の地盤改良機の一形態例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1乃至
図7は、本発明の地盤改良機を示す図である。地盤改良機11は、クローラを備えた下部走行体12と、該下部走行体12上に旋回可能に設けられた上部旋回体13とで構成されたベースマシン14と、上部旋回体13の前部に立設したリーダ15と、該リーダ15を後方から支持する起伏シリンダ16と、リーダ15の前面に昇降可能に設けられた回転駆動装置であるオーガ17と、該オーガ17に装着される掘削ロッド18とを備えている。また、リーダ15の下部前面には、掘削ロッド18を把持して、回転駆動される掘削ロッド18の鉛直性を確保するための振止部材19が設けられている。
【0012】
掘削ロッド18は、内部に地盤改良剤の流路を備えた円形断面あるいはこれに近似する断面形状を有し、複数本継ぎ足してリーダ15よりも長尺に形成することが可能である。掘削ロッド18の上端には、注入ホース20から地盤改良剤を導入するスイベルジョイント21が設けられ、下端には、掘削刃及び撹拌翼を有する掘削ヘッド22が装着されている。地盤改良作業を行う場合、振止部材19で把持した状態の掘削ロッド18をオーガ17で回転させながら、掘削ロッド18の内部流路を通じて掘削ヘッド22の先端から噴射したセメントミルクなどの地盤改良剤が地盤内に注入される。
【0013】
振止部材19は、油圧駆動される昇降駆動部に組み付けられた既知のもので、
図2に示すように、昇降駆動部(説明省略)の前面に固設されたブラケット23において、左右一対の開閉フレーム24,25の基端部が回動ピン26,27で軸支され、閉じた状態(
図2の実線)で先端部に固定ピン28が挿入されて一体となるように構成されている。開閉フレーム24,25は、互いに内側が開口した箱型状に形成されている。また、閉じた状態で掘削ロッド18の外径よりも広径な円形になるように、内側開口部(ロッド挿通部)には、略半円状の切欠きからなるガイド面24a,25aが形成されている。さらに、開閉フレーム24,25の基端部外側面には、開いた状態(
図2の想像線)の開閉フレーム24,25を保持するための係止ピン29,30が設けられている。
【0014】
開閉フレーム24,25の内部には、掘削ロッド18をその位置で固定するロッド固定手段を配置しており、具体的には、ロッド固定手段を構成する左右一対のロッドチャックブロック31,32を対向配置している。また、開閉フレーム24,25の先端部外側面には、ロッドチャックブロック31,32を開閉駆動するための油圧シリンダ33,34が設けられている。
【0015】
掘削ロッド18を開閉フレーム24,25で抱持した振止部材19は、地盤改良機11の運転中において、固定ピン28で不動固定された状態となり、掘削ロッド18の外周面をガイド面24a,25aによって回転可能かつ摺動可能に支持して掘削ロッド18の振れを防止する。そして、掘削ロッド18に対してオーガ17の把持位置を変更する掴み替えを行う場面において、油圧シリンダ33,34を伸長させたときには、ロッドチャックブロック31,32で左右両側から掘削ロッド18を押さえたロッド固定状態となる。一方、油圧シリンダ33,34を縮小させたときには、ロッドチャックブロック31,32が互いに離反してそれぞれロッド挿通部の外側に引き込まれることにより、掘削ロッド18が振止部材19の部分を通過可能な状態となる。
【0016】
このように形成された地盤改良機11では、掘削ロッド18が掘削孔から引き抜かれる都度、掘削ロッド18の表面に付着した地盤改良剤などの泥状物を除去する必要がある。特に小型の地盤改良機11が使用される比較的規模の小さい現場では、人的経済的負担の少ない方法で泥状物除去が行える機能が求められている。そこで、地盤改良機11には、残留付着した泥状物を簡易かつ効果的に取り除くことが可能な泥状物除去機構35が備えられている。
【0017】
泥状物除去機構35は、
図3乃至
図7に示すように、機能性及び操作性を両立させる観点から、振止部材19の下面側に備えられ、基本的には、開閉フレーム24,25の閉じ状態で対向配置される左右一対からなるもので、両方とも同一の構成部品を有している。各図は、開閉フレーム24,25の閉じ状態を表しており、特に
図7に示す斜視図は、振止部材19を省略して泥状物除去機構35のみを図示してあるので、その構成及び動作原理の理解に役立てることができる。
【0018】
各構成部品は、コイルばね(ばね部材)36が組み込まれた摺動機構37と、該摺動機構37が取り付けられるベース部材38と、摺動機構37のロッド側可動部に設けられ、コイルばね36の弾性力を得て掘削ロッド18の外周面を押圧するスクレーパ39と、摺動機構37の反ロッド側可動部に設けられ、コイルばね36の弾性力に抗してスクレーパー39を後退させる作用部として、手指を掛けるハンドル(把手)40と、摺動機構37における固定部と可動部との間に着脱可能に挿入固定され、コイルばね36の弾性力に抗する抵抗力でスクレーパ39の移動を阻止するストッパ部材41とからなる。
【0019】
ここで、左右一対からなる泥状物除去機構35,35は、両方同時に使用されるものであるが、理解を容易にするために、ストッパ部材41を取り付けて、スクレーパ39が掘削ロッド18から離間した非使用状態を一方側で表し(
図4及び
図5の右手側)、ストッパ部材41を取り外して、スクレーパ39を掘削ロッド18に押し付けた使用状態を他方側で表している(
図4及び
図5の左手側)。
【0020】
摺動機構37の取付部となるベース部材38は、パイプ材を正面視U字形に形成し、更にその両上端を奥側に略直角に折り曲げて3次元的に曲げ形成したパイプ両端部が固定プレート38a,38aを介して振止部材19の開閉フレーム24,25下面にボルト止めされ、水平をなして延びるパイプ中間部には、取付プレート(取付座)38bが設けられている。取付プレート38bは、ベース部材38の上面に接合される脚部と該脚部の上端から略直角方向に延設される水平部とで断面略L字形に形成され、その水平部には所定間隔で配される2つのボルト孔が設けられており、取付ボルト42,42を使用することで、ベース部材38に対して摺動機構37が取り付けられる。
【0021】
摺動機構37は、主に、矩形平面状のベースプレート43の上面に2本のベースパイプ44,44を平行に固着した固定部と、ベースパイプ44,44内を摺動可能な2本のスライドシャフト45,45及び両スライドシャフト45,45の一端側に設けられたスクレーパ取付部46、他端側に設けられたハンドル40を一体的にボルト結合してなる可動部とを備えている。
【0022】
ベースプレート43は、取付ボルト42のためのボルト孔が設けられている。このボルト孔は、ベースパイプ44の軸方向と平行な方向に長軸を有する長孔43aになっており、可動部の摺動方向、つまり、スクレーパ39の移動方向の位置を調整可能な位置調整部として機能し、スクレーパ39の摩耗量の増加分に対応する調整範囲(例えば20mm)を有している。また、ベースプレート43上の両スライドシャフト45,45間には、コイルばね36の一端が係止される溝部を備えたL字型の係止ブラケット47が設けられている。
【0023】
ハンドル40は、スライドシャフト45,45の一端に結合されるフラットバー40aの両端部において、所定長さの丸棒40bをコ字状に掛け渡して形成されており、丸棒40bが持ち手の役目を果たすものである。フラットバー40aの板面中央部には、コイルばね36の他端が係止される丸孔を備えた係止片48が設けられている。
【0024】
スクレーパ取付部46は、スライドシャフト45,45の他端に結合される略矩形で相対する辺が長孔49a(後述)と同心の円弧状に膨出する平板(いわゆる小判形)状の取平板状の取付部本体49と、該取付部本体49の板面中央部において、スクレーパ39を挟持してボルト止めがなされる挟持構造50とを備えている。取付部本体49は、
図5や
図6などに示すように、掘削ロッド18の回転軸Cを通る鉛直面Sに対して、スクレーパ39の板面の傾斜角度θを調整可能な長孔(角度調整部)49a,49aを有している。長孔49aは、同一円周上に対称に設けられた2つの円弧状のものであり、スライドシャフト45,45の先端に設けられた雌ねじ穴に締結される2本の取付ボルト51,51が挿通されるものである。角度調整方法は、両方の取付ボルト51,51を締める直前に行われ、具体的には、取付部本体49を所定角度回動して、取付ボルト51,51の軸を長孔49a,49aに沿って移動させる。角度調整範囲は、鉛直面Sを起点として、左右両方向に同角度(本実施例では30度ずつで計60度)に設定されている。
【0025】
スクレーパ39は、耐久性の観点から硬質のウレタンゴムが使用され、厚みは、例えば10mm程度のものである。スクレーパ39の先端部は、傾斜角度θの調整範囲に対応する押圧部として、緩やかな円弧形状39aをなして形成されている。円弧形状39aは、掘削ロッド18の外周面の曲率半径よりも、4~5倍程度、大きい曲率半径を有している。これにより、傾斜角度θに起因して生じる掘削ロッド18の外周面とスクレーパ39の先端部との間の隙間が小さくなって、略密着状態が得られる。
【0026】
ストッパ部材41は、断面コ字状の溝形形状を有しており、長手方向一端側の上面を略直角上方に曲げ形成して得た板片41aは、着脱時に手で掴むことが可能である。ここで、泥状物除去機構35の使用状態から、非使用状態を作る場合、ハンドル40を引いて、フラットバー(可動側)40aと係止ブラケット(固定側)47とを互いに離間させることで挿入スペースを設け、このスペースに、ストッパ部材41を挿入する。換言すると、コイルばね36の上にストッパ部材41を被せるように配置する。そして、ハンドル40を引いた手を緩めると、フラットバー40aと係止ブラケット47との対向面にストッパ部材41の両端が当接し、挟持状態になってストッパ部材41が固定され、スクレーパ39が掘削ロッド18から離間した状態が維持される。
【0027】
このように形成された泥状物除去機構35は、使用状態と非使用状態との両方を安定的に達成でき、かつ、操作時における可動範囲を必要最小限に抑えたコンパクトなものである。また、仕様が異なる振止部材19との取付互換性があり、異径の掘削ロッド18にも対応可能なことから、汎用的に取り扱えるものである。
【0028】
ここで、図示は省略するが、コイルばね36が自然長の状態を維持している場合は、スクレーパ39に対して弾性力が付与されることはない。この場合、スクレーパ39の先端は、
図5から想像できるように、掘削ロッド18の外周面に対応するx1ラインの内側に設定した0「ゼロ」ラインに置かれる。一方、泥状物除去機構35の非使用状態を作る場合、ハンドル40を引いてストッパ部材41を取り付けることで、スクレーパ39の先端が、0「ゼロ」ラインから、x1ラインを越えて外側に設定したx2ラインに置かれる(
図5の右手側)。これにより、スクレーパ39の先端は、振止部材19のガイド面24a,25aに対して、平面視で略同一位置となるように配置され、回転駆動される掘削ロッド18が振動した場合でも、掘削ロッド18とスクレーパ39との間で不必要な摩擦が発生しない。
【0029】
ところで、コイルばね36の伸びは弾性力の大きさに比例することから、掘削ロッド18の外周面に対するスクレーパ39の押圧力、つまり、スクレーパ39に付与される弾性力(F1)は、0「ゼロ」ラインからx1ラインまでのスクレーパ39の移動量に相当するコイルばね36の伸び(x1)と、ばね定数(k)との積で得られることになる。一方、ストッパ部材41の取付状態では、スクレーパ39に付与される弾性力(F2)は、0「ゼロ」ラインからx2ラインまでのスクレーパ39の移動量に相当するコイルばね36の伸び(x2)と、ばね定数(k)との積で得られ、より大きい力(F2>F1)となる。このとき、ストッパ部材41のストッパ機能で、つまり、弾性力(F2)に抗する抵抗力(-F2)で、コイルばね36の変位(縮み)が規制されて、これにより、スクレーパ39の移動が阻止されると共にストッパ部材41がこのより大きい力で挟持される。
【0030】
ここで、泥状物除去機構35を、非使用状態(
図5の右手側)から、使用状態(
図5の左手側)に変更させる場合、ハンドル40を引いて、つまり、ストッパ部材41の抵抗力(-F2)よりも大きい抵抗力(-F3)を付与することで、ストッパ部材41の固定状態を解除できるようになる。そして、ストッパ部材41を取り外した後は、コイルばね36の弾性力(F1)を得たスクレーパ39で、掘削ロッド18の外周面が押圧される(
図5の左手側)。
【0031】
このようにして、泥状物除去機構35の使用状態が作られ、回転駆動される掘削ロッド18が掘削孔から引き抜かれるときに、掘削ロッド18の外周面に付着した泥状物がスクレーパ39で掻き取られていく。ここで、スクレーパ39の両側板面のうち、泥状物を掻き取る一方の板面(掻き取り面)は、あらかじめ設定された掘削ロッド18の回転方向(正転・逆転)によって定まることになる。すなわち、スクレーパ39の傾斜は、運用上、掻き取り面が下向きになるように調整されており、本実施形態では、
図5の反時計回りの矢印で示すように、引き抜き動作時の回転方向に合わせて設定されている。
【0032】
これにより、スクレーパ39で掻き取られた泥状物は、スクレーパ39の傾斜角度θに対応する下向き傾斜の作用で、板面上方から板面下方に促され、一定量の塊になって落下する。このとき、スクレーパ39の押圧力は、掘削ロッド18の両側から均等に付与されるものであるが、たとえ掘削ロッド18が一方側に振れた場合でも、2つのスクレーパ39,39のそれぞれの押圧力が確保され、押圧力の合計は、掻き取り機能が損なわれない一定の大きさに維持される。
【0033】
このように、本発明の地盤改良機11によれば、振止部材19の開閉フレーム24,25に対で設けられる泥状物除去機構35,35において、伸縮可能なばね部材36の弾性力を得て掘削ロッド18の外周面を押圧するスクレーパ39を備えているので、掘削ロッド18を一体的に把持する振止機能との相互作用で、スクレーパ39の押圧力を簡単に精度よく得ることができる。すなわち、ばね部材36を用いた簡易な構成で掘削ロッド18の表面に付着した泥状物を効果的に取り除くことができる。とりわけ、対向配置される2つのスクレーパ39,39によって泥状物の掻き取り効果が高まるだけでなく、回転する掘削ロッド18の振動を受けた場合でも、各スクレーパの押圧力を均衡させて掻き取り効果を維持できることから、実用性に優れたものである。
【0034】
また、ばね部材36の弾性力(F2)に抗する抵抗力(-F2)でスクレーパ39の移動を阻止する着脱可能なストッパ部材41を備えているので、使用状態と非使用状態との間の変更を簡単な操作(挿抜操作)で迅速に行えるだけでなく、非使用状態では、振止部材19の開閉操作を妨げないという使い勝手の良さもある。さらに、ストッパ部材41の抵抗力(-F2)よりも大きい抵抗力(-F3)を与える作用部として、ハンドル(把手)40を備えているので、ハンドル40の引き操作とストッパ部材41の挿抜操作とを、両手で同時に行えることから、作業性及び作業効率の向上に寄与するものである。
【0035】
また、スクレーパ39の移動方向の位置を調整可能な長孔43aからなる取付構造(位置調整部)を備えているので、スクレーパ39の摩耗量の増加分に対応する調整範囲を容易に確保でき、消耗部品の長期使用が可能になる点、つまり、経済性の観点からも優れている。さらに、掘削ロッド18の回転軸Cを通る鉛直面Sに対してスクレーパ39の傾斜角度を調整可能な円弧状の長孔49a,49aかならなる取付構造(角度調整部)を備えているので、スクレーパ39の板曲げ方向の負荷を低減し、泥状物の抵抗に負けない掻き取り(切削)が行えるようになる。とりわけ、スクレーパ39において、掘削ロッド18の外周面の曲率半径よりも大きい曲率半径の円弧形状(押圧部)39aを有しているので、スクレーパ39の傾斜状態で、掘削ロッド18の外周面に円弧形状39aを整合させることが可能となり、良好な密着状態が得られる。
【0036】
なお、本発明は、前記形態例に限定されるものではなく、泥状物除去機構は、振止部材の閉じ状態で対向配置される構成であれば、掘削ロッドや地盤改良機(振止部材)の仕様については選ばず、スクレーパやハンドル、ストッパ部材といった各種構成部品の材質、形状などを任意に定めることができる。また、スクレーパの押圧力や取付位置、取付角度などに関する調整値については、必要に応じて適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0037】
11…地盤改良機、12…下部走行体、13…上部旋回体、14…ベースマシン、15…リーダ、16…起伏シリンダ、17…オーガ、18…掘削ロッド、19…振止部材、20…注入ホース、21…スイベルジョイント、22…掘削ヘッド、23…ブラケット、24…開閉フレーム、24a…ガイド面、25…開閉フレーム、25a…ガイド面、26,27…回動ピン、28…固定ピン、29,30…係止ピン、31,32…ロッドチャックブロック、33,34…油圧シリンダ、35…泥状物除去機構、36…コイルばね、37…摺動機構、38…ベース部材、38a…固定プレート、38b…取付プレート、39…スクレーパ、39a…円弧形状、40…ハンドル、40a…フラットバー、40b…丸棒、41…ストッパ部材、41a…板片、42…取付ボルト、43…ベースプレート、43a…長孔、44…ベースパイプ、45…スライドシャフト、46…スクレーパ取付部、47…係止ブラケット、48…係止片、49…取付部本体、49a…長孔、50…挟持構造、51…取付ボルト