(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039747
(43)【公開日】2024-03-25
(54)【発明の名称】船舶の油圧駆動システム
(51)【国際特許分類】
B63J 3/02 20060101AFI20240315BHJP
【FI】
B63J3/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022144339
(22)【出願日】2022-09-12
(71)【出願人】
【識別番号】591005693
【氏名又は名称】ボッシュ・レックスロス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(72)【発明者】
【氏名】本間 義和
(72)【発明者】
【氏名】進藤 健
(57)【要約】
【課題】エンジン回転数の変動に応じて油圧ポンプ及び油圧モータの押しのけ容積を制御し発電機の回転数を制御するシステムにおいて、発電機の回転数の変動を低減する。
【解決手段】船舶の推進力を生成するエンジン(11)と、エンジン(11)の出力軸(13)に連結されてエンジン(11)の出力によって駆動される油圧ポンプ(14)と、油圧ポンプ(14)から供給される油圧によって駆動される可変容量型の油圧モータ(15)と、油圧モータ(15)の回転力を利用して発電する発電機(17)と、を備えた船舶の油圧駆動システム(10)は、油圧モータ(15)と発電機(17)とを連結する回転軸(16)にフライホイール(17)を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶の推進力を生成するエンジン(11)と、
前記エンジン(11)の出力軸(13)に連結されて前記エンジン(11)の出力によって駆動される油圧ポンプ(14)と、
前記油圧ポンプ(14)から供給される油圧によって駆動される可変容量型の油圧モータ(15)と、
前記油圧モータ(15)の回転力を利用して発電する発電機(17)と、
を備えた船舶の油圧駆動システム(10)において、
前記油圧モータ(15)と前記発電機(17)とを連結する回転軸(16)にフライホイール(17)を備える、
ことを特徴とする、船舶の油圧駆動システム。
【請求項2】
前記油圧モータ(15)が斜板式の油圧モータであり、
前記油圧モータ(15)を制御する制御装置(30)は、
前記発電機(17)の回転速度が所定の目標回転速度となるように前記油圧モータ(15)の傾転量を制御する、
ことを特徴とする、請求項1に記載の船舶の油圧駆動システム。
【請求項3】
前記油圧ポンプ(14)と前記油圧モータ(15)とを接続する油圧回路(24,25)に接続されたアキュムレータ(26,27)を有する、
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の船舶の油圧駆動システム。
【請求項4】
前記油圧ポンプ(14)又は前記油圧モータ(15)の少なくともいずれか一方が両傾転可変容量型の構成を有する、
ことを特徴とする、請求項1に記載の船舶の油圧駆動システム。
【請求項5】
前記両傾転可変容量型の前記油圧ポンプ(14)又は前記油圧モータ(15)を制御する制御装置(30)は、
前記エンジン(11)の出力軸(13)が正回転(F)及び逆回転(R)のいずれの場合であっても、前記発電機(17)の回転方向を一定方向に維持するために前記油圧ポンプ(14)又は前記油圧モータ(15)の傾転方向を反転させる、
ことを特徴とする、請求項4に記載の船舶の油圧駆動システム。
【請求項6】
前記船舶の油圧駆動システム(10)は、
前記エンジン(11)の出力を利用して前記発電機(17)により発電する発電モードと、前記発電機(17)から駆動トルクを出力して前記エンジン(11)の出力をアシストするアシストモードと、に切り替え可能に構成され、
前記アシストモードでは、
前記発電機(17)は、供給電流により駆動されて駆動トルクを出力し、
前記油圧モータ(15)は、前記駆動トルクにより駆動されて前記油圧ポンプ(14)に油圧を供給し、
前記油圧ポンプ(14)は、前記油圧により駆動されて前記エンジン(11)の出力軸にアシスト力を付与する、
ことを特徴とする、請求項1に記載の船舶の油圧駆動システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶の油圧駆動システムに関する。
【背景技術】
【0002】
主に中型及び大型の船舶として、一般にプロペラを回転駆動して船舶を推進させる動力を出力する2ストロークエンジンと、船内で使用する電力を供給するための発電機を駆動する4ストロークエンジンとを備えた船舶が知られている。このような船舶で用いられる2ストロークエンジンは、4ストロークエンジンと比較して効率が良いため、船舶の燃料消費量の低減を目的として2ストロークエンジンの出力の一部を発電用の動力として利用する主軸発電機を備えた船舶がある。
【0003】
例えば特許文献1には、船舶のエンジンによって駆動される第1油圧ポンプと、発電機に接続される第1油圧モータと、第1油圧ポンプと第1油圧モータとを連結する第1油圧回路と、第1油圧ポンプの押しのけ容積を制御する第1油圧ポンプ制御器と、第1油圧モータの押しのけ容積を制御する第1油圧モータ制御器と、第1油圧ポンプ制御器及び第1油圧モータ制御器を制御して第1油圧モータの回転数を制御する発電機制御装置とを備えて発電機の回転数を制御する船舶の発電装置及び推進装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、発電機による発電電力を船内で使用するには、船内の電力系統に適合した電圧及び周波数とする必要がある。発電機の出力を交流から直流に変換し、再び交流に変換して所望の電圧及び周波数に変換することが考えられるが、交流から直流、そして再び交流に変換する変換器は高価であり、実用上の障害となっている。
【0006】
一方、特許文献1に記載の船舶の発電装置及び推進装置は、油圧ポンプ及び油圧モータそれぞれの押しのけ容積を制御することで、発電機の回転数を制御し、所望の発電電圧及び周波数に制御している。しかしながら、エンジンの回転数の変動に合わせて油圧ポンプ及び油圧モータの押しのけ容積を制御したとしても、エンジン回転数の変動タイミングと、押しのけ容積の変化タイミングとにずれが生じ、発電機の回転数が不安定になるおそれがある。
【0007】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、エンジン回転数の変動に応じて油圧ポンプ及び油圧モータの押しのけ容積を制御し発電機の回転数を制御するシステムにおいて、発電機の回転数の変動を低減可能な油圧駆動システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある観点によれば、
船舶の推進力を生成するエンジンと、
前記エンジンの出力軸に連結されて前記エンジンの出力によって駆動される油圧ポンプと、
前記油圧ポンプから供給される油圧によって駆動される可変容量型の油圧モータと、
前記油圧モータの回転力を利用して発電する発電機と、
を備えた船舶の油圧駆動システムにおいて、
前記油圧モータと前記発電機とを連結する回転軸にフライホイールを備える、
ことを特徴とする、船舶の油圧駆動システムが提供される。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように本発明によれば、エンジン回転数の変動に応じて油圧ポンプ及び油圧モータの押しのけ容積を制御し発電機の回転数を制御するシステムにおいて、発電機の回転数の変動を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施の形態に係る油圧駆動システムの構成例を示す模式図である。
【
図2】同実施形態に係る両傾転型の斜板式可変容量型のポンプモータの構成例を示す説明図である。
【
図3】同実施形態の変形例に係る油圧駆動システムの構成例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0012】
<油圧駆動システムの構成>
図1を参照して、本発明の実施の形態に係る油圧駆動システムの構成例を説明する。
図1は、油圧駆動システム10の全体構成を模式的に示した説明図である。油圧駆動システム10は、エンジン11、プロペラ12、油圧ポンプ14、油圧モータ15、主軸発電機17、同期調相機(ロータリコンデンサ)18及び制御装置30を備えて構成される。
【0013】
エンジン11は、例えば2ストロークのディーゼルエンジンであり、制御装置30により駆動制御され、出力軸13を回転駆動する。エンジン11は、ガソリンエンジンあるいは4ストロークエンジン等の他の形式のエンジンであってもよいが、2ストロークエンジンは燃料消費量が少なく済むことから中型あるいは大型の船舶用のエンジンとして好適である。
【0014】
出力軸13の一端側には、回転により船舶を推進させるプロペラ12が取り付けられている。エンジン11は、出力軸13を介してプロペラ12を回転させて船舶を推進させる推進力を生成する。なお、本実施形態の油圧駆動システム10では、羽根の角度(ピッチ)が固定された固定ピッチプロペラが採用され、この分生産コストが抑制されている。
【0015】
エンジン11は、正回転(矢印Fの回転方向)及び逆回転(矢印Rの方向)可能な構成を有している。エンジン11が正回転することにより、プロペラ12が正回転し、船舶が前進方向に推進する。エンジン11が逆回転することにより、プロペラ12が逆回転し、船舶が後進方向に推進する。
【0016】
油圧ポンプ14は、出力軸13の他端側に連結されてエンジン11の出力によって駆動され、作動油を吐出する。本実施形態において、油圧ポンプ14は、出力軸13の回転力により駆動される斜板式可変容量型のピストンポンプであり、斜板の傾きである傾転量(押しのけ容積)を制御することによって、エンジン11の回転数に対する油圧ポンプ14からの吐出流量を調整可能に構成されている。斜板の傾き(傾転量)は、制御装置30により駆動されるアクチュエータ14aにより調節可能になっている。なお、油圧ポンプ14は、出力軸13に対して直接組付けられていてもよく、ギヤ機構を介して組付けられていてもよい。
【0017】
油圧モータ15は、油圧ポンプ14から供給される油圧によって駆動され、油圧モータ15と主軸発電機17とを連結するモータ軸(回転軸)16を回転駆動する。油圧モータ15は、油圧により回転駆動される斜板式可変容量型のポンプモータであり、斜板の傾きである傾転量(押しのけ容積)を制御することによって、油圧ポンプ14からの吐出流量に対するモータ軸16の回転速度を調整可能に構成されている。斜板の傾き(傾転量)は、制御装置30により駆動されるアクチュエータ15aにより調節可能になっている。
【0018】
油圧モータ15は、第1の油路24及び第2の油路25を介して油圧ポンプ14と接続されている。第1の油路24には、第1のアキュムレータ26が接続されている。第2の油路25には、第2のアキュムレータ27が接続されている。
【0019】
本実施形態の油圧駆動システム10では、油圧ポンプ14及び油圧モータ15いずれも、ポンプ及びモータのいずれとしても機能し得るポンプモータが用いられている。この場合、油圧ポンプ14及び油圧モータ15は、基本的に同一の構成であってよい。
【0020】
ここで、
図2を参照して、油圧ポンプ14及び油圧モータ15として用いられる斜板式可変容量型のポンプモータの構成の一例を簡単に説明する。
図2は、可変容量型のポンプモータの一例を示す断面図である。
【0021】
図2に示した可変容量型のポンプモータ100は、カバー101と、ポンプハウジング102と、カバー101及びポンプハウジング102に軸支される駆動軸103とを備えている。駆動軸103は、上記の油圧ポンプ14におけるエンジン11の出力軸13に相当し、上記の油圧モータ15におけるモータ軸16に相当する。
【0022】
カバー101には、ポンプモータ100が油圧ポンプとして機能する場合に吸入される作動油が流れるとともに、ポンプモータ100が油圧モータとして機能する場合に排出される作動油が流れる第1の給排通路104が設けられる。また、カバー101には、ポンプモータ100が油圧ポンプとして機能する場合に吐出される作動油が流れるとともに、ポンプモータ100が油圧モータとして機能する場合に導入される作動油が流れる第2の給排通路105が設けられる。
【0023】
ポンプモータ100を上記の油圧ポンプ14及び油圧モータ15として機能させる場合のいずれにおいても、第1の給排通路104は第2の油路25に連通する。一方、ポンプモータ100を上記の油圧ポンプ14及び油圧モータ15として機能させる場合のいずれにおいても、第2の給排通路105は第1の油路24に連通する。
【0024】
駆動軸103にはシリンダブロック106が連結され、シリンダブロック106は駆動軸103と一体に回転する。シリンダブロック106の一端側にはポートプレート107が設けられ、他端側には斜板108が設けられる。シリンダブロック106の一端側の面は、ポートプレート107に摺接する。シリンダブロック106には、駆動軸103の軸方向に沿って複数のシリンダ109が画成されている。各シリンダ109にはピストン110が軸方向移動可能に挿入されており、シリンダ109とピストン110とにより容積室111が画成される。容積室111は、ポートプレート107に設けられた油圧ポート112,113を介してカバー101に形成された第1の給排通路104及び第2の給排通路105と連通可能になっている。
【0025】
シリンダ109から突出するピストン110の端部は、斜板108に摺接する。ピストン110は、駆動軸103とともにシリンダブロック106が回転したときに、斜板108に摺接しながら、駆動軸103を中心に回転する。斜板108が駆動軸103に直交する面に対して傾いている状態では、この回転に伴い、ピストン110がシリンダ109内を往復動し、容積室111が拡縮する。
【0026】
ポンプモータ100を上記の油圧ポンプ14として機能させる場合、容積室111が拡張する領域においてカバー101の第1の給排通路104が容積室111に連通し、容積室111が収縮する領域において第2の給排通路105が容積室111に連通するよう、斜板108が傾けられる。これにより、ポンプモータ100の回転に伴い、第2の油路25から第1の給排通路104を介して作動油が容積室111に吸入されるとともに、容積室111内で加圧された後、第2の給排通路105を介して第1の油路24へ吐出される。吐出流量は、傾転量を制御することによって調節される。
【0027】
ポンプモータ100を上記の油圧モータ15として機能させる場合、容積室111が収縮する領域において第1の給排通路104が容積室111に連通し、容積室111が拡大する領域において第2の給排通路105が容積室111に連通するよう、斜板108が傾けられる。これにより、第1の油路24を介して油圧ポンプ14から吐出される油圧によってポンプモータ100が回転駆動し、駆動軸103(モータ軸16)に出力トルクが発生する。
【0028】
斜板108の傾き(傾転量)は、アクチュエータ114によって調節可能になっている。
図2に示したポンプモータ100は、両傾転型(オーバーセンター型)の可変容量式のポンプモータであり、斜板108は、一方向だけでなく両方向に傾斜可能に構成されている。アクチュエータ114は、方向切換弁等を備えた油圧回路により構成され、二つの圧力室のうちのいずれか一方の圧力室に供給される作動油の圧力を選択的に大きくすることにより、斜板108をいずれか一方向に傾斜させることができる。また、二つの圧力室に対して所定のバランスで作動油を供給することにより、傾転量をゼロにすることができる。これにより、ポンプモータ100の油圧ポンプ又は油圧モータとしての機能を停止させることができる。アクチュエータ114は、制御装置30により制御される。
【0029】
本実施形態の油圧駆動システム10において、油圧ポンプ14は、エンジン11の出力を利用して主軸発電機17に発電させる発電モード中に油圧モータ15へ作動油を供給し油圧モータ15を回転駆動させるポンプとしての機能を有する。発電モード中、油圧ポンプ14は、制御装置30により、吐出圧力が一定となるように傾転量が制御される。また、油圧ポンプ14は、主軸発電機17から出力される駆動トルクによりエンジン11の出力軸13にアシスト力を付与するアシストモード中に油圧モータ15から供給される作動油により回転駆動して出力軸13に回転トルクを付与するモータとしての機能を有する。
【0030】
また、油圧モータ15は、上記の発電モード中に、油圧ポンプ14から供給される作動油により回転駆動してモータ軸16に回転トルクを付与するモータとしての機能を有する。また、油圧モータ15は、上記のアシストモード中に、油圧ポンプ14へ作動油を供給し油圧ポンプ14を回転駆動させるポンプとしての機能を有する。
【0031】
図1に戻り、油圧モータ15のモータ軸16の他端側には主軸発電機17が連結されている。主軸発電機17は、モータ軸16を介して伝達される油圧モータ15の回転力を利用して発電する。主軸発電機17は、モータ軸16の回転とともにロータが回転することによる磁界の変化により発電可能な発電機であればよいが、例えば三相交流式の発電機を用いることができる。本実施形態では、主軸発電機17は、アシストモード中に主軸発電機17に電流を供給して回転電機として機能させ、モータ軸16を回転駆動させて駆動トルクを出力可能な発電モータとして構成されている。
【0032】
主軸発電機17は、主軸発電機17の回転速度を検出する回転速度検出器28を備えている。回転速度検出器28は、主軸発電機17の回転速度に相関する回転速度を検出することができれば、油圧モータ15に設けられていてもよく、モータ軸16の任意の位置に設けられていてもよい。
【0033】
発電モード中、回転速度検出器28により検出される主軸発電機17の回転速度が所定の目標回転速度となるように油圧モータ15の傾転量が調節され、主軸発電機17による発電電力が、船内の電力系統20に適合した電圧及び周波数となるように制御される。斜板式の可変容量型の油圧モータ15は、質量及び慣性質量の小さな斜板のみを制御することによって、モータ軸16の回転速度を無段階で、かつ、速い応答速度で制御することができる。制御装置30は、検出される回転速度が指令された目標回転速度に対して遅い場合、アクチュエータ15aを駆動して油圧モータ15の傾転量を増加する。また、制御装置30は、検出される回転速度が指令された目標回転速度に対して速い場合、アクチュエータ15aを駆動して油圧モータ15の傾転量を減少する。
【0034】
モータ軸16にはフライホイール29が取り付けられている。フライホイール29は、モータ軸16の回転時の慣性力を利用して、モータ軸16の回転速度を安定させる機能を有する。なお、油圧モータ15と主軸発電機17は、モータ軸16上に同軸に設けられていてもよく、モータ軸16に対してギヤ機構を介して接続された回転軸上に設けられていてもよい。この場合、フライホイール29は、モータ軸16又は所定の回転軸のいずれに設けられてもよい。上記の回転速度検出器28についても同様に、所定の回転軸の任意の位置に設けられていてもよい。
【0035】
同期調相機18は、主軸発電機17を無負荷のままで電力系統に接続し、界磁電流を調整することにより、電力系統に供給される電圧を調整する。同期調相機18と船内の電力系統20とは、リレースイッチ19により接続及び遮断が切り換え可能になっている。また、電力系統20には、リレースイッチ21a,21bを介して一つ又は複数の補助発電システム22a,22bが接続されている。補助発電システム22a,22bとしては、例えば船内で使用する電力を供給するための発電機、あるいは、燃料電池などが例示されるが、これらの発電システムに限定されるものではない。
【0036】
主軸発電機17による発電電力を船内の電力系統20に供給する発電モード中、リレースイッチ19により同期調相機18と電力系統20とが接続される。発電モード中には、リレースイッチ21a,21bにより電力系統20と補助発電システム22a,22bの少なくとも一つが接続され、補助発電システム22a,22bによる発電電力と併せて主軸発電機17による発電電力が船内で使用されてもよい。
【0037】
また、主軸発電機17を回転電機として駆動してエンジン11にアシスト力を付与するアシストモード中においても、リレースイッチ19により同期調相機18と電力系統20とが接続される。アシストモード中には、リレースイッチ21a,21bにより電力系統20と補助発電システム22a,22bの少なくとも一つが接続され、補助発電システム22a,22bによる発電電力が主軸発電機17に供給されてもよい。
【0038】
制御装置30は、CPU(Central Processing Unit)等の演算処理装置を含む処理部31と、RAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)等の記憶メモリを含む記憶部33とを備えている。制御装置30は、回転速度検出器28から出力される回転速度に応じた信号を取得可能に構成されている。また、制御装置30は、補助発電システム22a,22bの動作を制御する補助発電制御装置40との間で信号を送受信可能に構成されている。記憶部33には、演算処理装置により実行されるコンピュータプログラムや、演算処理装置による演算に用いられる種々のパラメータ及び参照データ、演算結果等が記録される。
【0039】
処理部31は、記憶部33に記憶されたコンピュータプログラムを実行することにより、エンジン11、油圧ポンプ14のアクチュエータ14a、油圧モータ15のアクチュエータ15a、主軸発電機17及び同期調相機18の動作を制御する。処理部31は、エンジン11、アクチュエータ14a,15a、主軸発電機17及び同期調相機18をそれぞれ制御する複数の演算処理装置を備えて構成されていてもよい。
【0040】
<作用及び効果>
続いて、本実施形態に係る油圧駆動システム10の作用効果を説明する。
【0041】
(主軸発電機の負荷変動時の発電電力の安定化)
主軸発電機17の負荷は、船内で使用される必要電力や補助発電システム22a,22bによる発電される供給電力量の変化に応じて変動する。主軸発電機17の負荷が増加した場合、主軸発電機17を駆動する軸回転トルクが増加し、主軸発電機17の回転速度が一時的に低下する。これに伴って、モータ軸16を介して主軸発電機17に連結された油圧モータ15の回転速度も低下するため、制御装置30は、油圧モータ15の回転速度を維持するために傾転量を増加させて、主軸発電機17の回転速度を目標回転速度に維持するために必要な軸回転トルクを出力させる。
【0042】
このとき、油圧モータ15に導入される作動油の必要流量の一時的な増加は、第1のアキュムレータ26に貯留された作動油が供給されることにより補填される。また、本実施形態では、油圧ポンプ14も傾転式可変容量型のポンプであることから、その後の定常的な必要流量は、制御装置30により油圧ポンプ14の傾転量を増加させて油圧ポンプ14の吐出流量を増加させることにより維持される。
【0043】
一方、主軸発電機17の負荷が減少した場合、主軸発電機17を駆動する軸回転トルクが低下し、主軸発電機17の回転速度が一時的に増加する。これに伴って、モータ軸16を介して主軸発電機17に連結された油圧モータ15の回転速度も増加するため、制御装置30は、油圧モータ15の回転速度を維持するために傾転量を減少させて出力トルクを低下させ、主軸発電機17の回転速度を目標回転速度に維持するために必要な軸回転トルクを出力させる。
【0044】
このとき、油圧モータ15に導入される作動油の必要流量の一時的な減少は、第1のアキュムレータ26に作動油が貯留されることにより担保される。また、本実施形態では、油圧ポンプ14も傾転式可変容量型のポンプであることから、その後の定常的な必要流量は、制御装置30により油圧ポンプ14の傾転量を減少させて油圧ポンプ14の吐出流量を減少させることにより維持される。
【0045】
このように、船内の必要電力や補助発電システム22a,22bによる発電電力の変化に応じて主軸発電機17の負荷が変動することに応じて、制御装置30は、油圧モータ15の傾転量を制御して主軸発電機17の回転速度を所定の目標回転速度に維持しようとする。ただし、制御装置30は、回転速度検出器28により検出される主軸発電機17の回転速度の増減に合わせて油圧モータ15の傾転量を制御することから、主軸発電機17の回転速度が変化してから油圧モータ15に供給される作動油が増減するまでに時間差が生じる。
【0046】
一方、本実施形態に係る油圧駆動システム10では、モータ軸16にフライホイール29が取り付けられている。フライホイール29は、回転運動エネルギを蓄積することで、主軸発電機17の駆動に必要な軸回転トルクの変動を緩和し、モータ軸16の回転速度を維持させやすくする。つまり、モータ軸16の回転時の慣性力により回転速度のばらつきを吸収することができ、主軸発電機17の負荷が変動する場合であっても、油圧モータ15に供給される作動油が増減するまでの間、モータ軸16の回転速度を安定させることができる。したがって、主軸発電機17による発電電力の電圧及び周波数を安定させることができる。また、主軸発電機17による発電電力を安定させるために必要な動力の消費を低減することができる。
【0047】
(エンジン逆回転時の主軸発電機の発電電力の安定化)
例えば小型の船舶等には、エンジンの出力軸とプロペラの回転軸との間に反転ギヤを設け、エンジンの回転方向を一定方向にしつつ船舶を後進させる際には反転ギヤを接続してプロペラを逆回転させるように構成される場合がある。しかしながら、中型あるいは大型の船舶のエンジンとプロペラの回転軸との間に反転ギヤを設けるとすると、コストの増大が避けられない。このため、本実施形態の油圧駆動システム10では、船舶の推進方向(前進又は後進)に応じてエンジン11の回転が正回転(F)又は逆回転(R)に切り替えられる。
【0048】
その際に、主軸発電機17の回転方向も反転することになると、主軸発電機17の発電電力の相回転が逆転することになるため、例えば三相のうちの二相を入れ替える相反転断路器等を備えるなどの対策が必要となる。しかしながら、相反転断路器を用いる場合、部品点数が増えるとともに生産コストの増加にもつながる。
【0049】
このため、油圧駆動システム10では、油圧ポンプ14及び油圧モータ15のうちの少なくとも一方が、両傾転型の斜板式可変容量ポンプにより構成される。本実施形態の油圧駆動システム10では、油圧ポンプ14及び油圧モータ15がともに両傾転型の斜板式可変容量ポンプにより構成されている。船舶を後進させる際にエンジン11の回転が逆回転Rとなった場合、制御装置30は、油圧ポンプ14及び油圧モータ15のいずれか一方の傾転方向を、傾転量がゼロの状態を超えた反対方向に制御する。これにより、エンジン11の回転方向が反転し、油圧ポンプ14の回転方向が反転した場合であっても、油圧モータ15の回転方向を一定に維持することができる。
【0050】
具体的に、
図1において、船舶を前進させる際にエンジン11の出力軸13を正回転Fさせた場合、油圧ポンプ14から吐出される作動油は、第1の油路24を矢印A1の方向に流れて油圧モータ15に供給される。また、油圧モータ15から排出される作動油は、第2の油路25を矢印A2の方向に流れて油圧ポンプ14に吸入される。この状態で、モータ軸16は、矢印Fmの方向に回転するとする。
【0051】
一方、船舶を後進させる際にエンジン11の出力軸13を逆回転Rさせた場合、例えば油圧ポンプ14の傾転方向を反転させたとすると、油圧ポンプ14から吐出される作動油は、第1の油路24を矢印A1の方向に流れて油圧モータ15に供給される。また、油圧モータ15から排出される作動油は、第2の油路25を矢印A2の方向に流れて油圧ポンプ14に吸入される。このとき、油圧モータ15の傾転方向は変わっていないため、モータ軸16の回転方向は矢印Fmで維持される。
【0052】
また、船舶を後進させる際にエンジン11の出力軸13を逆回転Rさせた場合、例えば油圧モータ15の傾転方向を反転させたとすると、油圧ポンプ14から吐出される作動油は、第2の油路25を矢印B2の方向に流れて油圧モータ15に供給される。また、油圧モータ15から排出される作動油は、第1の油路24を矢印B1の方向に流れて油圧ポンプ14に吸入される。このとき、油圧モータ15の傾転方向が反転していることから、モータ軸16の回転方向は矢印Fmで維持される。
【0053】
なお、油圧ポンプ14又は油圧モータ15のいずれか一方のみが両傾転型の斜板式可変容量ポンプにより構成されている場合であっても、上記のとおりエンジン11を逆回転Rさせた際に油圧ポンプ14又は油圧モータ15の傾転方向を反転させることにより、モータ軸16の回転方向を一定方向に維持することができる。
【0054】
このように、本実施形態の油圧駆動システム10は、油圧ポンプ14又は油圧モータ15の少なくとも一方を両傾転型の斜板式可変容量ポンプとすることで、相反転断路器等の追加部品を用いることなく、エンジン11の回転方向にかかわらずモータ軸16の回転方向を一定方向に維持することができる。したがって、部品点数を減らすことができるとともに、生産コストの増加を抑制することができる。
【0055】
<変形例>
ここまで、本実施形態に係る油圧駆動システム10を説明したが、上記実施形態の油圧駆動システム10は種々の変形が可能である。以下、油圧駆動システム10の変形例の幾つかを説明する。
【0056】
(油圧ポンプを固定容量型のポンプとする例)
上記実施形態では、油圧ポンプ14及び油圧モータ15がともに可変容量型のポンプであったが、油圧ポンプが固定容量型のポンプであってもよい。油圧ポンプ14が固定容量型のポンプである場合、主軸発電機17の負荷が増加したときに、制御装置30は、補助発電制御装置40に対して補助発電システム22a,22bによる発電量を増加するよう指令信号を出力する。また、油圧ポンプ14が固定容量型のポンプである場合、主軸発電機17の負荷が減少したときに、制御装置30は、補助発電制御装置40に対して補助発電システム22a,22bによる発電量を減少するよう指令信号を出力する。
【0057】
これにより、主軸発電機17の負荷の変動が抑制され、主軸発電機17の負荷が維持される。この場合においても、補助発電システム22a,22bによる発電量が増加又は減少するまでに時間差が生じることによりモータ軸16の回転速度が変動し得る。ただし、モータ軸16にフライホイール29が取り付けられていることによって、モータ軸16の回転速度を安定化させることができる。
【0058】
なお、油圧ポンプ14が固定容量型のポンプである場合においても、油圧モータ15が両傾転型の斜板式可変容量ポンプであれば、上述のとおりエンジン11の回転方向が反転した場合であってもモータ軸16の回転方向を一定方向に維持することができる。
【0059】
(油圧ポンプを可変容量型のポンプ及び固定容量型のポンプの組み合わせとする例)
上記実施形態では、油圧ポンプ14及び油圧モータ15がともに可変容量型のポンプであったが、油圧ポンプが、固定容量型のポンプ及び可変容量型のポンプの組み合わせであってもよい。
【0060】
図3に示した油圧駆動システム50では、エンジン11の出力軸13に、固定容量型の油圧ポンプ55が連結されている。出力軸13には第1のギヤ51が固定され、当該第1のギヤ51に噛み合う第2のギヤ52が設けられている。第2のギヤ52の回転軸53には可変容量型のポンプ54が連結されている。可変容量型のポンプ54には、第1の油路24に接続される第3の油路56と、第2の油路25に接続される第4の油路57とが接続されている。
【0061】
かかる油圧駆動システム50では、固定容量型の油圧ポンプ55として、例えば主軸発電機17による発電電力が船内で必要とされる所定の基準電力量に相当する発電量となるモータ軸16の回転速度を実現可能な容量のポンプが用いられる。また、可変容量型のポンプ54は、発電モード中に、油圧モータ15に供給される作動油の圧力(吐出圧力)が一定となるように、制御装置30によりアクチュエータ54aが動作される。
【0062】
このように構成された油圧駆動システム50であっても、主軸発電機17の負荷変動時の発電電力の安定化、及び、エンジン逆回転時の主軸発電機の発電電力の安定化の効果を得ることができる。また、油圧駆動システム50は、油圧モータ15に供給される作動油の圧力(吐出圧力)を一定とする可変容量型のポンプ54の容量を小さくすることができ、可変容量型のポンプ54のコストを低下させることができる。
【0063】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0064】
10:油圧駆動システム、11:エンジン、12:プロペラ、13:出力軸、14:油圧ポンプ、14a:アクチュエータ、15:油圧モータ、15a:アクチュエータ、16:モータ軸(回転軸)、17:主軸発電機、18:同期調相機、20:電力系統、22a・22b:補助発電システム、24:第1の油路、25:第2の油路、26:第1のアキュムレータ、27:第2のアキュムレータ、28:回転速度検出器、29:フライホイール、30:制御装置、40:補助発電制御装置