(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039757
(43)【公開日】2024-03-25
(54)【発明の名称】イオン交換塔及びイオン交換方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/42 20230101AFI20240315BHJP
【FI】
C02F1/42 A
C02F1/42 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022144355
(22)【出願日】2022-09-12
(71)【出願人】
【識別番号】596136316
【氏名又は名称】三菱ケミカルアクア・ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】島崎 敦
【テーマコード(参考)】
4D025
【Fターム(参考)】
4D025AA01
4D025AB18
4D025AB19
4D025BA08
4D025BA13
4D025BA17
4D025BA22
4D025BB02
4D025BB15
4D025BB16
4D025BB17
4D025DA02
4D025DA10
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、被処理液の整流性を維持しつつ、作業性が良好で、且つ、安価なイオン交換塔、及び、それを用いたイオン交換方法を提供することである。
【解決手段】頂部に上部鏡部11aを有するイオン交換塔1であって、上部鏡部11aの上方に配置され、被処理液を供給する供給部20と、上部鏡部11aの下方に配置され、被処理液を透過させる孔部12cが設けられた上部仕切り板12aと、上部仕切り板12aの下方に充填されたイオン交換樹脂Aと、を備え、上部鏡部11aと上部仕切り板12aとで形成された空間内に球体Bが充填されていることを特徴とするイオン交換塔1である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
頂部に鏡部を有するイオン交換塔であって、
前記鏡部の上方に配置され、被処理液を供給する供給部と、
前記鏡部の下方に配置され、前記被処理液を透過させる孔部が設けられた仕切り板と、
前記仕切り板の下方に充填されたイオン交換樹脂と、を備え、
前記鏡部と前記仕切り板とで形成された空間内に球体が充填されていることを特徴とするイオン交換塔。
【請求項2】
前記球体の素材が不活性樹脂であることを特徴とする請求項1に記載のイオン交換塔。
【請求項3】
前記球体の比重が、前記被処理液の比重よりも小さいことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のイオン交換塔。
【請求項4】
前記球体が中空構造を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のイオン交換塔。
【請求項5】
前記球体の粒径が、前記イオン交換樹脂の粒径よりも大きいことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のイオン交換塔。
【請求項6】
前記球体の粒径が5~100mmであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のイオン交換塔。
【請求項7】
前記仕切り板の孔部に、前記イオン交換樹脂及び前記球体を透過させない不透過手段が装着されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のイオン交換塔。
【請求項8】
前記鏡部と前記仕切り板とで形成された空間内における、前記球体の充填率が30%以上100%未満であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のイオン交換塔。
【請求項9】
請求項1又は請求項2に記載のイオン交換塔を用いて被処理液をイオン交換することを特徴とする被処理液のイオン交換方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン交換塔及びイオン交換方法に関するものであり、より詳細には、例えば、工業用水、糖液、あるいは塩水等の被処理液の処理に用いられるイオン交換塔、及び、それを用いたイオン交換方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、地下水、工業用水、糖液、塩水等の被処理液中からイオン類を除去するための装置として、イオン交換樹脂を充填したイオン交換塔が知られている。このイオン交換塔には、例えば、イオン交換樹脂等からなるイオン交換手段が内部に充填されている。そして、イオン交換手段に被処理液を通液することで、被処理液中に含まれるイオン類と、イオン交換手段に具備されたイオンとがイオン交換され、これによってイオン類が除去される。イオン交換処理後は、イオン交換手段と被処理液とが分離され、処理液としてイオン交換塔の外部に取り出される。また、上記のようなイオン交換塔は、工業用水を処理して純水を製造する用途のみならず、例えば、糖液の脱色や脱塩、塩水の精製等、種々の分野において利用されている。
【0003】
上記のようなイオン交換塔におけるイオン交換樹脂への被処理液の流れは、イオン交換の効果等に大きな影響がある。そのため、近年、被処理液の流れを均一にするための整流手段をイオン交換塔に設けることが提案されている。
【0004】
上記のようなイオン交換塔として、例えば、特許文献1に記載された構成のものが提案されている。特許文献1では、イオン交換塔の頂部にディストリビュータと呼ばれる散水ケースを設けることで下方のイオン交換樹脂に被処理液を均一に供給することが可能となり、イオン交換樹脂の利用率が高まることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された従来のイオン交換塔及びイオン交換方法によれば、被処理液の種類、イオン交換塔の処理量やカラムの容量等に基づき、散水ケースの形状、材質、開口の面積と開口率を設計し、個別生産をしなければならないため、コスト面で不利である。
【0007】
また、特許文献1に開示されたイオン交換塔では、散水ケースが小さいことから閉塞・汚染されやすいため、定期的に清掃又は交換をする必要がある。特に、大型のイオン交換塔を用いた場合、頂部に配置される散水ケースの清掃や交換をすることは困難であり、作業性が劣るという問題があった。
【0008】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、被処理液の整流性を維持しつつ、作業性が良好で、且つ、安価なイオン交換塔、及び、それを用いたイオン交換方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた。この結果、イオン交換塔内における特定の空間内に球体を充填する構成を採用し、この球体によって被処理液を整流することを知見した。このような構成を採用することで、被処理液の整流性を維持しつつ、作業性が良好で、且つ、安価なイオン交換塔が実現できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
即ち、本発明は、以下の態様を有する。
[1] 頂部に鏡部を有するイオン交換塔であって、前記鏡部の上方に配置され、被処理液を供給する供給部と、前記鏡部の下方に配置され、前記被処理液を透過させる孔部が設けられた仕切り板と、前記仕切り板の下方に充填されたイオン交換樹脂と、を備え、前記鏡部と前記仕切り板とで形成された空間内に球体が充填されていることを特徴とするイオン交換塔。
[2] 前記球体の素材が不活性樹脂であることを特徴とする上記[1]に記載のイオン交換塔。
[3] 前記球体の比重が、前記被処理液の比重よりも小さいことを特徴とする上記[1]又は[2]に記載のイオン交換塔。
[4] 前記球体が中空構造を有することを特徴とする上記[1]~[3]の何れかに記載のイオン交換塔。
[5] 前記球体の粒径が、前記イオン交換樹脂の粒径よりも大きいことを特徴とする上記[1]~[4]の何れかに記載のイオン交換塔。
[6] 前記球体の粒径が5~100mmであることを特徴とする上記[1]~[5]の何れかに記載のイオン交換塔。
[7] 前記仕切り板の孔部に、前記イオン交換樹脂及び前記球体を透過させない不透過手段が装着されていることを特徴とする上記[1]~[6]の何れかに記載のイオン交換塔。
[8] 前記鏡部と前記仕切り板とで形成された空間内における、前記球体の充填率が30%以上100%未満であることを特徴とする上記[1]~[7]の何れかに記載のイオン交換塔。
[9] 上記[1]~[8]の何れかに記載のイオン交換塔を用いて被処理液をイオン交換することを特徴とする被処理液のイオン交換方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るイオン交換塔によれば、特定の空間内、即ち、鏡部と仕切り板とで形成された空間内に球体が充填されていることで、被処理液を下向流にて通液する際、被処理液の流れを整え、下流側に配置されたイオン交換樹脂に均一に被処理液を供給することができる。
従って、被処理液の整流性を維持しつつ、作業性が良好で、且つ、安価なイオン交換塔が実現できる。
【0012】
また、本発明に係るイオン交換方法によれば、上記の本発明に係るイオン交換塔を用いて被処理水をイオン交換する方法なので、上記同様、被処理液の整流性を維持しつつ、作業性が良好で、且つ、安価にイオン交換することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係るイオン交換塔の一実施形態について模式的に説明する図であり、イオン交換塔の内部構造を概略で示す断面図である。
【
図2】本発明に係るイオン交換塔の実施例について説明する図であり、実験で用いたイオン交換樹脂のサンプリングポイントを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るイオン交換塔の実施の形態を挙げ、
図1を適宜参照しながら詳述する。
なお、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
また、以下の説明で用いる各図面は、その特徴をわかりやすくするために、便宜上、特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率等は実際とは異なる場合がある。
【0015】
また、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後に記載される数値あるいは物理値を含む意味で用いることとする。また、上限、下限として記載した数値あるいは物理値は、その値を含む意味で用いることとする。
【0016】
<イオン交換塔>
図1は、本実施形態のイオン交換塔1の内部構造を概略で示す断面図である。
図1に示したイオン交換塔1は、全体として略円筒形状のカラムとして構成されている。
本実施形態のイオン交換塔1は、その頂部に、塔外に向かって凸状とされた上部鏡部(鏡部)11aを有するものである。本実施形態のイオン交換塔1は、上部鏡部11aの上方に配置され、被処理液を供給する供給部20と、上部鏡部11aの下方に配置され、被処理液を透過させる孔部が設けられた上部仕切り板(仕切り板)12aと、上部仕切り板12aの下方に充填されたイオン交換樹脂Aと、を備える。
そして、本実施形態のイオン交換塔1は、上部鏡部11aと上部仕切り板12aとで形成された空間内に球体Bが充填されて構成されている。
【0017】
また、図示例のイオン交換塔1は、さらに、イオン交換樹脂Aを充填した充填部10と、処理した被処理液を排出する排出部30とを備える。
また、
図1中においては、被処理液が通液される方向である通液方向を矢印で示しており、本実施形態のイオン交換塔1においては、被処理液が下向流にて通液される。
【0018】
(被処理液)
本実施形態のイオン交換塔1によってイオン交換を行う被処理液としては、特に制限されるものではないが、例えば、純水を製造するために使用される原水としての工業用水、地下水、又は水道水等が挙げられる。また、本実施形態において対象とする被処理液としては、例えば、脱色や脱塩に供される糖液や、精製に供される塩水であってもよい。但し、通常は、フィルタ等を備える濾過器等による固形物の除去を行うことが好ましい。また、予め、活性炭処理装置等により活性炭処理を行い、被処理液中に含まれる溶剤等の有機物や重金属イオン等を除去する処理を行うようにしてもよい。
【0019】
(供給部)
供給部20は、イオン交換塔1の上部に配置されており、被処理液を導入するための配管H1の挿入によって上部鏡部11aと連接する。
図1に示す例では、配管H1は、上部鏡部11aの上部から挿入されており、図示例のように設けられることが好ましいが、これには限定されず、例えば、上部鏡部11aの側部から配管が挿入されるように構成してもよい。
【0020】
(充填部)
充填部10は、内部にイオン交換樹脂Aを充填し、被処理液をイオン交換するための反応塔であり、図示例においては、円筒状に形成されている。また、図示例の充填部10は、上方に上部鏡部11aが配置・連接されており、下方に下部鏡部11bが配置・連接されている。
【0021】
充填部10は、イオン交換樹脂Aや被処理液の重量を支えることができ、アルカリと酸に強く、且つ、イオン交換機能を有さない材料から構成される。具体的には、充填部10を構成する材料としては、例えば、炭素鋼、ステンレス、又は樹脂等が挙げられる。
【0022】
また、充填部10の内部に図示略のライニングを施すことも可能である。このようなライニングを施すことにより、充填部10を構成する材料と、被処理液やイオン交換樹脂の再生等に供する再生液との間を非接触にすることができる。これにより、高い強度を有している一方で耐食性には劣る材料であっても、充填部10の材料に採用することができる。これにより、イオン交換塔1のメンテナンスの頻度を低減することができ、また、イオン交換塔1を長寿命とすることが可能となる。
【0023】
上記のようなライニングの材質としては、特に限定されず、例えば、被処理液に含まれる陽イオンや陰イオンの種類、被処理液の種類や使用する再生液等の特性を考慮しながら適宜選択することができる。具体的には、ライニングの材質として、例えば、硬質ゴム等からなるゴムライニング等を採用することができる。
【0024】
(イオン交換樹脂)
イオン交換樹脂Aは、被処理液をイオン交換処理することで処理液とするものである。
本実施形態のイオン交換塔1に用いられるイオン交換樹脂Aとしては、特に限定されず、一般的な陽イオン交換樹脂、及び、陰イオン交換樹脂を用いることができる。また、イオン交換樹脂Aを、キレート樹脂や合成吸着剤から構成することも可能である。
【0025】
また、イオン交換樹脂Aの形状としても、特に限定されず、例えば、粒状や円筒形状のもの等、種々の形状のものを採用できる。
また、イオン交換樹脂Aの大きさとしても、特に限定されず、例えば、0.1mm以上1mm以下のものを用いることができる。また、イオン交換樹脂Aの大きさは、詳細を後述する球体Bの粒径より小さいことが好ましい。また、イオン交換樹脂Aの大きさは、詳細を後述する上部仕切り板(仕切り板)12aに装着されるストレーナ13aのスリット幅、又はメッシュの目開きよりも大きいことが好ましい。
上記のようなイオン交換樹脂Aは、充填部10内において、例えば、5割以上のかさ体積になるように充填される。
【0026】
(上部鏡部(鏡部))
上部鏡部(鏡部)11aは、上述したように、イオン交換塔1の頂部に配置され、供給部20の下部に連接される。
図1に示すように、上部鏡部11aは、その上部が、弧状に湾曲する膨らみを有しており、上部鏡部11aの頂部が、供給部20と連接している。また、上部鏡部11aの下部と充填部10の上部とは、上部仕切り板12aを挟みこむように、図示略のボルト及びナット等によって接続される。また、上述したように、上部鏡部11aには、イオン交換塔1の内部に被処理液を導入するための配管H1が挿入されている。
【0027】
(上部仕切り板(仕切り板))
上部仕切り板(仕切り板)12aは、上部鏡部11aの下部と充填部10の上部との間を仕切るために設けられる板状の部材であり、被処理液を透過させる孔部12cが設けられたものである。上部仕切り板12aの材質は、特に限定されないが、充填部10と同様に、例えば、アルカリと酸に強く、且つ、イオン交換機能のない材料から構成することができる。また、上部仕切り板12aを構成する材料としては、例えば、炭素鋼、ステンレス、樹脂が挙げられる。
また、上部仕切り板12aの表面に図示略のライニングを施すことも可能である。このように、上部仕切り板12aの表面にライニングを施す場合には、上述した充填部10に施すライニングと同じ材料を採用することが可能である。
【0028】
上部仕切り板12aには、上記の孔部12cが複数設けられていてもよい。
また、上部仕切り板12aにおける孔部12cの単位面積当たりの数は、被処理液の種類や供給流量、イオン交換樹脂Aの種類や粒径、使用温度等を勘案しながら、任意に設定すればよい。
また、孔部12cの形状としては、例えば、略円形、楕円形、又は多辺形等が挙げられる。加工性や入手しやすさの観点からは、上部仕切り板12aとして、略円形の孔部12cを有するものを採用することが好ましい。
上部仕切り板12aの具体例としては、例えば、目皿板が挙げられる。
【0029】
(不透過手段)
上部仕切り板12aの孔部12cには、イオン交換樹脂A及び球体Bを透過させない不透過手段が装着されていることが好ましい。
上記のような、イオン交換樹脂A及び球体Bを透過させない構造の不透過手段としては、
図1中に示したストレーナ13a、又は、メッシュ等が挙げられる。上部仕切り板12aの孔部12cに上記の不透過手段が装着されていることで、被処理液を下向流にて通液する際に、球体Bをイオン交換樹脂A側に漏れ出させることなく、優れた透過性で被処理液をイオン交換樹脂Aに導入させることが可能となる。また、イオン交換樹脂Aを再生する場合において、再生液を上向流にて通液する際に、イオン交換樹脂Aを球体B側に漏れ出させることもない。
【0030】
ストレーナ13aとしては、例えば、上部仕切り板12aに設けられ、被処理液と球体Bとを分離するためのスリットが複数で設けられているものが用いられる。このスリットは、球体Bが通過できる幅より狭く形成される。即ち、球体Bはスリットを通過できないが、液体である被処理液はスリットを通過できることから、球体Bと被処理液との分離を行うことが可能となる。
【0031】
上記構造を有するストレーナ13aを、上部仕切り板12aに設けられた孔部12cの不透過構造として採用することで、球体Bで整流された被処理液をイオン交換樹脂Aに導入する処理を連続的に行うことが可能となる。
【0032】
ストレーナ13aは、例えば、熱可塑性樹脂からなり、射出成形等によって製造することができる。また、ストレーナ13aは、被処理液を均一且つより高速に通過させる観点から、上部仕切り板12aにおける複数の孔部12cに取り付けられる。
【0033】
ストレーナ13aのスリットの総面積は大きいので、被処理水の供給流量が大きいケースにおいても対応が可能であるというメリットがある。
また、ストレーナ13aは、被処理液をイオン交換する際に、イオン交換樹脂Aに被処理液を導入する導入部として機能する。
上部仕切り板12aの孔部12cにストレーナ13aが装着される場合、イオン交換樹脂Aの再生処理時に樹脂を通すことがないように、ストレーナ13aのスリット幅は、イオン交換樹脂Aの粒径よりも小さいことが好ましい。
同様に、上部仕切り板12aの孔部12cにメッシュが装着される場合、メッシュの目開きは、イオン交換樹脂Aの粒径よりも小さいことが好ましい。
【0034】
本実施形態では、上部仕切り板12aの孔部12cに上記のストレーナ13aが装着されていることで、球体Bを、充填部10に充填されたイオン交換樹脂A側に漏れ出させることなく、優れた透過性で被処理液をイオン交換樹脂Aに導入させることが可能となる。
【0035】
(球体)
上述したように、本実施形態のイオン交換塔1においては、上部鏡部11aと仕切り板12aとで形成される空間内に、被処理液の流れを整流し、均一にイオン交換樹脂Aに供給するための、複数の球体Bが充填される。
【0036】
球体Bとしては、特に限定されないが、例えば、被処理液よりも比重の小さいものを用いることが好ましい。球体Bの比重が被処理液の比重よりも小さいことで、球体の充填率がやや低い場合であっても、浮力により、球体Bが常に上部鏡部11aの上部に位置するため、被処理液を分流しやすく、優れた整流性が得られる。
【0037】
被処理液が純水製造用原水である場合、球体Bの比重は1.0未満であることが好ましく、0.95以下であることがより好ましく、比重0.4以下であることがさらに好ましい。
【0038】
球体Bの素材は、特に限定されないが、被処理液の種類等によって選択することができ、具体的には、アルカリと酸に対する耐性を有する不活性樹脂であることが好ましい。球体Bの素材に不活性樹脂を採用することで、被処理液にアルカリや酸が含まれる場合であっても劣化が生じるのが抑制され、また、設備コストも抑制される。
【0039】
なお、本実施形態において、球体Bに用いる不活性樹脂とは、イオン交換機能を有さない樹脂であり、例えば、ポリオレフィン系樹脂が挙げられる。このポリオレフィン系樹脂の中でも、比重とコストの観点から、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂が好ましく、ポリプロピレン樹脂がより好ましい。
球体Bの粒径は、イオン交換樹脂Aよりも大きいことが好ましい。
通常のイオン交換樹脂Aのサイズを考慮すると、球体Bの粒径は100mm以下であることが好ましく、80mm以下であることがより好ましい。また、球体Bの粒径の下限については、ストレーナ13aにおける図示略のスリット幅を基準に設定されるが、球体Bの粒径は5mm以上であることが好ましく、7mm以上であることがより好ましい。
球体Bの粒径が上記範囲であることで、簡単に安価な市販品を入手することができる。また、球体Bの粒径が上記範囲であることで、不透過手段を通過することがないため、被処理液を下向流で通液する際に、下流側に配置されたイオン交換樹脂Aと混入することも抑制される。
本実施形態のイオン交換塔1においては、上記のような粒径を有する球体Bを用いることで、被処理液を安定的に整流しながらイオン交換樹脂Aに導入することが可能となる。
なお、球体Bの粒径は、JIS Z 8827-1 第1部:静的画像解析法に記載の手法により測定される。
【0040】
球体Bの形状は、例えば、真球度30μm以下の略球体から構成される。また、球体Bは、優れた整流性を得る観点から、全量のうちの60%以上の球体Bの形状が均一であることが好ましく、80%以上の球体Bの形状が均一であることがより好ましく、100%の球体Bの形状が均一であることがさらに好ましい。
【0041】
球体Bは、中空構造を有するものが好ましい。
球体を中空構造又は非中空構造で構成し、両者とも同じサイズであるとき、浮力は同じであるが、球体の重さが異なる。この場合、中空構造を有する球体は、非中空構造に比べて球体の重さが軽いため、浮き上がる力が大きい。一方、球体を中空構造又は非中空構造で構成し、両者とも同じ重さである場合、中空構造を有する球体はサイズが大きく、浮力が大きいため、非中空構造の球体に比べて浮き上がる力が大きい。
その結果、中空構造を有する球体Bを採用した場合、球体Bを、浮力によって上部鏡部11aの上部に固定しやすくなり、安定的な整流性が得られやすい。
【0042】
上記の各要因を総合的に考慮した場合、球体Bとしては、例えば、粒径が100mm以下で、且つ、イオン交換樹脂Aよりも大きい範囲であり、形状が均一的なポリプロピレン樹脂からなる中空構造を有する球体を用いることが好ましい。
【0043】
本実施形態のイオン交換塔1で採用する球体Bは、長期間にわたって使用することが可能である。
球体Bを洗浄する際には、例えば、球体Bを水に浸した状態で、棒等を用いて供給部20から球体Bを突くことで、付着した汚れを剥離させればよい。
また、球体Bを交換する際には、業務用掃除機等を用いて、供給部20からホースを挿入して球体Bを吸い取ることで、全量回収することが可能である。
【0044】
被処理液の流れを球体Bより分散し、バイパスのないように均一に下流側に供給するためには、上部鏡部11aと上部仕切り板12aとで形成された空間内における球体Bの充填率は、30%以上が好ましく、60%以上がより好ましい。また、メンテナンス等で球体Bを洗浄する際に、棒等で球体を効果的に攪拌し、より優れた作業性を実現する観点からは、球体Bの充填率は、100%未満が好ましく、95%以下がより好ましい。
【0045】
球体Bの充填率は、下記(1)式を用いた方法で計算することができる。
下記(1)式においては、上部鏡部11aと上部仕切り板12aとで形成された空間容積をaとし、球体Bを充填したときの球体のかさ体積をbとする。
充填率(%)=(b/a)×100 ・・・・・(1)
【0046】
(イオン交換塔の下部構造)
イオン交換塔1の底部の構造は、イオン交換樹脂Aの再生工程に応じて設計すればよい。例えば、イオン交換塔1の頂部と対称構造を有していればよい。具体的には、下部鏡部11bは、イオン交換塔1の底部に位置する。
【0047】
図1に示すように、下部鏡部11bの下部は、弧状に湾曲する膨らみを有する。下部鏡部11bの底部は、排出部30と連接している。また、下部鏡部11bの上部と充填部10の下部とは、下部仕切り板12bを挟みこむように、図示略のボルト及びナット等により接続される。また、下部鏡部11bには、排出部30に向けて処理液を排出するための配管H2が挿入されている。
【0048】
排出部30は、イオン交換塔1の下部に配置され、イオン交換処理した被処理液を排出するための配管H2が挿入されることで、下部鏡部11bと連接している。なお、
図1に示す例では、配管H2は、下部鏡部11bの下部から挿入されており、図示例のように設けられることが好ましいが、これには限定されず、例えば、下部鏡部11bの側部から配管が挿入されるように構成してもよい。
【0049】
下部仕切り板12bの素材や形状は、上部仕切り板12aと同様でよい。また、図示例のように、下部仕切り板12bの孔部12dにストレーナ13bを配してもよい。ストレーナ13bは、処理液とイオン交換樹脂Aとを分離する分離手段であり、また、イオン交換樹脂Aを再生する際に、再生液を導入する導入部としても機能する。ストレーナ13bとしても、ストレーナ13aと同様のものを使用することができる。
【0050】
イオン交換された処理液は、
図1中の矢印で示した通液方向で、イオン交換塔1の外部に排出される。
この際、充填部10内で精製された処理液をイオン交換樹脂Aから分離して取り出すとともに、処理液を下部鏡部11bの側に排出する処理を連続的に行うことができる。
【0051】
本実施形態のイオン交換塔1によれば、上記のように、上部鏡部11aと上部仕切り板12aとで形成された空間内に球体Bが充填された構成により、球体Bによって被処理液を効果的に整流することができる。また、被処理液の整流に安価な球体Bを用いることで、設備コストも抑制される。また、球体Bには閉塞や汚染が生じ難いので、イオン交換塔の頂部近傍に配置される球体Bの清掃や交換頻度が抑制され、メンテナンス時の作業性に優れたものとなる。
【0052】
<イオン交換方法>
以下に、本実施形態のイオン交換方法について、上記同様、
図1も適宜参照しながら詳述する。
本実施形態のイオン交換方法は、上述した構成を有する本実施形態のイオン交換塔1を用いて被処理液をイオン交換する方法である。
【0053】
図1では、イオン交換塔1を用いて被処理液をイオン交換処理する際の、被処理液を通液する方向である通液方向を示している。
図1に示すように、本実施形態では、被処理液は、下向流にて通液する。
このときの被処理液の空間速度(SV)は、イオン交換塔1の構造、被処理液、及び、イオン交換樹脂A等によって適切に設定すればよい。
【0054】
以下に、本実施形態のイオン交換塔1を用いて、被処理液の整流性を向上させるメカニズムについて説明する。
上部鏡部11aと上部仕切り板12aとで形成された空間内には、複数の球体Bを充填する。これにより、被処理液の流れを球体Bより分散し、バイパスのないように均一に下流側のイオン交換樹脂Aに被処理液を供給することが可能である。
【0055】
複数の球体Bを一つの系として見ると、球体Bは、被処理液の下に押す力F1と、被処理液による浮力F2と、球体自身の重量F3との力を受けている。このときの、浮力F2と、重量F3との差はF1’とする。
【0056】
まず、上記のF1とF1’との関係が「F1>F1’」である場合、球体Bを押し上げようとする力が足りないため、被処理液を供給する際に、被処理液の流れを、ある程度、整流することは可能ではあるが、このようなケースでは、球体Bが流動しやすいことから、最良の選択ではない。
【0057】
一方、上記のF1とF1’との関係が「F1≦F1’」である場合、球体Bを押し上げようとする力が充分であるため、被処理液を供給する際に、球体Bが上部鏡部11aの上部(内側)に固定されるので、被処理液の流れを整流しやすい。よって、本実施形態の方法で被処理液をイオン交換する場合には、上記のF1とF1’とが「F1≦F1’」で表される関係となるように、球体の比重等を選択することが好ましい。
【0058】
本実施形態のイオン交換方法によれば、上述した構成を有する本実施形態のイオン交換塔1を用いて被処理液をイオン交換する方法なので、上記同様、設備コストを増大させることなく、被処理液を効果的に整流することができ、また、メンテナンス時における優れた作業性が得られる。
【0059】
<作用効果>
以上説明したように、本実施形態のイオン交換塔1によれば、特定の空間内、即ち、上部鏡部(鏡部)11aと上部仕切り板12aとで形成された空間内に球体Bが充填されていることで、被処理液を下向流にて通液する際、被処理液の流れを整え、下流側に配置されたイオン交換樹脂Aに均一に被処理液を供給することができる。
従って、被処理液の整流性を維持しつつ、作業性が良好で、且つ、安価なイオン交換塔1が実現できる。
【0060】
また、本実施形態のイオン交換方法によれば、上述した本実施形態のイオン交換塔1を用いて被処理水をイオン交換する方法なので、上記同様、被処理液の整流性を維持しつつ、作業性が良好で、且つ、安価にイオン交換することが可能になる。
【実施例0061】
以下、実施例により、本発明に係るイオン交換塔及びイオン交換方法についてさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
また、本実施例で採用した各条件は、あくまで一例であり、上記同様、本発明を限定するものではない。
【0062】
[実施例1]
(イオン交換塔の構成)
図1は、実施例1で使用するイオン交換塔1を概略で示した断面図である。
図1に示すように、イオン交換塔1は、φ100mm×H150mmの大きさを有し、イオン交換塔1の頂部と底部に、それぞれφ100mmの鏡部(上部鏡部11a及び下部鏡部11b)を有する。イオン交換塔1を構成する各部材の材料には、それぞれ、アクリル樹脂を採用している。
【0063】
また、イオン交換塔1の上部と下部には、それぞれ、φ6mmの孔部12c、12dを複数(合計69個)設けた、アクリル樹脂製の仕切り板(上部仕切り板12a及び下部仕切り板12b)が備えられている。また、これら上部仕切り板12a及び下部仕切り板12bの孔部12c、12dには、それぞれ、ポリプロピレン樹脂製のメッシュ(目開き100μm)を装着している。
また、上部鏡部11aと上部仕切り板12aとの間の空間容積は、236mLである。
【0064】
そして、上部鏡部11aと上部仕切り板12aとで形成された空間内に、球体Bとして、比重0.3、粒径8mmの、ポリプロピレン樹脂製で中空構造を有する球体を充填した。上部鏡部11aと上部仕切り板12aとで形成された空間内における、球体Bの充填率は90%とした。
【0065】
(実験条件及び手順)
図1に示すイオン交換塔1を用いて、被処理液を処理した。イオン交換塔1に通水させる被処理液としては、活性炭処理後の上水道水(横浜市水道局)を使用した。
【0066】
被処理液の主なカチオン成分は、ナトリウム 8.0mg/L、カリウム 1.5mg/L、カルシウム 15.6mg/L、マグネシウム 5.2mg/Lであった。
また、イオン交換樹脂Aとしては、三菱ケミカル株式会社製のUBK10PB(平均粒径567μm)を用いた。
【0067】
本実施例では、イオン交換樹脂Aに通液する被処理液の線速度(LV)は、40(m/h)であり、空間速度(SV)は、266(1/h)であり、被処理液の供給流量は5.24(L/min)である。イオン交換樹脂のイオン交換容量は2.07(当量/L-R)であり、充填部10内における充填率は100%であった。
【0068】
そして、被処理水の通水を0.5時間継続し、
図2の模式図に示したように、充填部10(
図1を参照)に充填されたイオン交換樹脂Aにおける上部の中心部1箇所(
図2中のサンプリングポイント「5」を参照)、及び周辺部4箇所(
図2中のサンプリングポイント「1」~「4」を参照)で、直径14.4mm、深さ約15~45mmの領域の樹脂をサンプリングした。
次いで、サンプリングしたイオン交換樹脂Aにおける初期と0.5時間後のH形含有量を測定し、下記(2)式を用いてH形減少率を計算した。
H形減少率(%)=((初期H形含有量-0.5時間後H形含有量)/初期H形含有量)×100 ・・・・・(2)
【0069】
次いで、各サンプリングポイント1~5のH形減少率中、最大減少率をαとし、最小減少率をβとしたときの、H形減少率の最大差異を、次式[α-β]で計算した。
上記式で得られるH形減少率の最大差異は、小さければ小さいほど好ましく、この値により、被処理液が均一に下流側のイオン交換樹脂に供給できているか否かが確認できる。
【0070】
[実施例2]
実施例1に対し、球体Bとして、比重0.9、粒径8mmで、ポリプロピレン樹脂製の非中空構造を有する球体を用いた点以外は、上記の実施例1と同様の条件及び手順で被処理液を処理した。
【0071】
[比較例1]
実施例1に対し、球体Bを用いなかった点以外は、上記の実施例1と同様の条件及び手順で被処理液を処理した。
【0072】
[評価方法]
上記実施例1,2、及び比較例1で得られた結果を用い、下記の基準に基づいて評価し、結果を下記表1に示した。
◎:H形減少率の最大差異が10%未満
○:H形減少率の最大差異が10%以上20%未満
×:H形減少率の最大差異が20%以上
【0073】
【0074】
[評価結果]
表1に示すように、球体Bを用いた実施例1,2は、優れた整流性を有するため、下流側のイオン交換樹脂に向けて均一に被処理液を供給できることがわかった。また、中空構造の球体を用いた実施例1は、非中空構造の球体を用いた実施例2よりも、さらに優れた整流性を示すことがわかった。
このような結果となった理由としては、球体に同じ素材を採用した場合、中空構造の球体の方が、押し上げようとする力が大きく、球体を上部鏡部11aの上部(内側)に固定しやすいためであると考えられる。
【0075】
これに対して、球体Bを用いなかった比較例1においては、整流性が良好でなかったため、H形減少率の最大差異が28%となった。
【0076】
上記の実施例及び比較例の結果より、本発明に係るイオン交換塔を用いることで、被処理液を下向流にて通液する際、被処理液の流れを整え、下流側に配置されたイオン交換樹脂に均一に被処理液を供給できることが確認できた。
本発明のイオン交換塔は、被処理液の整流性を維持しつつ、作業性が良好で、且つ、安価なものであることから、例えば、地下水、工業用水、糖液、塩水等の被処理液中からイオン類を除去するための装置として非常に有用である。