(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039778
(43)【公開日】2024-03-25
(54)【発明の名称】免震装置用のダンパー、及び、免震装置
(51)【国際特許分類】
F16F 15/02 20060101AFI20240315BHJP
F16F 7/12 20060101ALI20240315BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20240315BHJP
【FI】
F16F15/02 L
F16F7/12
E04H9/02 351
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022144386
(22)【出願日】2022-09-12
(71)【出願人】
【識別番号】399117730
【氏名又は名称】住友金属鉱山シポレックス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000152424
【氏名又は名称】株式会社日建設計
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】長井 大樹
(72)【発明者】
【氏名】安永 亮
(72)【発明者】
【氏名】小板橋 裕一
(72)【発明者】
【氏名】岡田 康平
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
3J066
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139BA02
3J048AA01
3J048AC06
3J048BC07
3J048BC09
3J048DA03
3J048EA38
3J066AA26
3J066BA04
3J066BB04
3J066BC03
3J066BD07
3J066BF09
3J066BG01
3J066BG08
(57)【要約】
【課題】ダンパーを構成する弾塑性部材が局所的に過剰に変形することを防いで、振動エネルギーを吸収するための塑性変形をダンパー全体に適切に分散することができる免震装置用のダンパーを、製造コストの大幅な上昇を回避し得る簡易な成形加工のみによって提供する。
【解決手段】棒状又は板状の弾塑性部材からなり、一対の平行な直線部12と、弾塑性部材が折り曲げられていることによって各々の前記直線部の一方の端部間を結んでいる湾曲部11によって構成されていて、湾曲部11に弾塑性部材の厚み方向に貫通する貫通孔111が形成されている、ダンパー1とする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
免震装置用のダンパーであって、
棒状又は板状の弾塑性部材からなり、
一対の平行な直線部と、前記弾塑性部材が折り曲げられていることによって各々の前記直線部の一方の端部間を結んでいる湾曲部によって構成されていて、
前記湾曲部に前記弾塑性部材の厚み方向に貫通する貫通孔が形成されている、
ダンパー。
【請求項2】
前記貫通孔は、複数か所に形成されていて、前記湾曲部の先端部よりも一方の前記直線部寄りの範囲と、前記先端部よりも他方の前記直線部寄りの範囲とにおいて、前記先端部に対して対称な位置に形成されている、
請求項1に記載のダンパー。
【請求項3】
前記貫通孔の配置ピッチが、前記先端部に近づくに連れて小さくなっている、
請求項2に記載のダンパー。
【請求項4】
前記弾塑性部材が、長さ方向に直交する断面の形状が均一な円形である丸棒状の部材である、
請求項1から3の何れかに記載のダンパー。
【請求項5】
建造物の上部構造体に接続される上部基板と、
前記建造物の下部構造体に接続される下部基板と、
前記上部基板と前記下部基板とに接合される振動エネルギー吸収部と、
を備える免震装置であって、
前記振動エネルギー吸収部が、請求項1から3の何れかに記載のダンパーによって構成されている、
免震装置。
【請求項6】
建造物の上部構造体に接続される上部基板と、
前記建造物の下部構造体に接続される下部基板と、
前記上部基板と前記下部基板とに接合される振動エネルギー吸収部と、
を備える免震装置であって、
前記振動エネルギー吸収部が、請求項4に記載のダンパーによって構成されている、
免震装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震装置用のダンパー、及び、免震装置に関する。詳しくは、本発明は、金属の塑性変形を利用する弾塑性型の履歴型ダンパーであって、一対の直線部の間にU字形状の湾曲部が形成されている免震装置用のダンパー、このダンパーを用いた免震装置、及び、このダンパーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建造物の上部構造体と下部構造体との間に配置されて地震等の振動エネルギーを吸収する免震装置の一例として、金属の塑性変形を利用する弾塑性型の履歴系免震ダンパーであって、一対の直線部とこれらを結ぶ湾曲部を有する形状からなる履歴型ダンパーを、振動エネルギー吸収部として備える免震装置が知られている(特許文献1、2参照)。
【0003】
上述の免震装置用の履歴型ダンパーは、長尺の金属部材を冷間で曲げ加工するのが簡易で経済的とされており(特許文献2段落[0008])、具体的には板材や丸棒材等、長尺の金属部材を、履歴型状の型枠に冷間で押し込む、成形曲げ加工によって製造されている(特許文献3参照)。
【0004】
しかしながら、上記のようにして製造されるU字形状の湾曲部を有するダンパーを備える免震装置において、振動エネルギーを吸収するための変形時に、当該ダンパーの直線部のみが過剰に変形してしまう現象が起こる場合があった。ダンパーが、このように局所的に過剰に変形すると、所定のエネルギー吸収性能を十分に発揮できず、又、直線部のみに負荷が集中することによる、ダンパーの早期破断のリスクが生じる。
【0005】
特許文献2には、板状の弾塑性素材からなるU字形状の湾曲部を有する履歴型ダンパーについて、湾曲部と直線部の断面の幅や厚みの比を特定範囲に調整することによって、塑性変形時の歪みをダンパー全体に分散できることが示唆されている。しかしながら、履歴型ダンパーを、このような特殊な形状のダンパーとするためには、弾塑性部材を特殊な形状に成形加工する加工費、若しくは、特殊な形状の部材を調達するための材料費が嵩むことにより製造コストが増大してしまう問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004-150266号公報
【特許文献2】特開2000-104787号公報
【特許文献3】特開2015-47620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ダンパーを構成する弾塑性部材が局所的に過剰に変形することを防いで、振動エネルギーを吸収するための塑性変形をダンパー全体に適切に分散することができる免震装置用のダンパーを、製造コストの大幅な上昇を回避し得る簡易な成形加工のみによって提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上述の直線部のみが過剰に変形してしまう現象は、履歴型ダンパーの製造時に行われる冷間曲げ加工による塑性変形によって、湾曲部のみにおいて加工硬化が進行してしまうことによるものであることを突き止めた。そして、これに対して、湾曲部に貫通孔を設ける簡易な加工のみによって、上記課題を解決することができることに想到し、本発明を完成させるに至った。より具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0009】
(1) 免震装置用のダンパーであって、棒状又は板状の弾塑性部材からなり、一対の平行な直線部と、前記弾塑性部材が折り曲げられていることによって各々の前記直線部の一方の端部間を結んでいる湾曲部によって構成されていて、前記湾曲部に前記弾塑性部材の厚み方向に貫通する貫通孔が形成されている、ダンパー。
【0010】
(1)の免震装置用のダンパーによれば、湾曲部に貫通孔を設ける簡易な加工のみにより、ダンパーを構成する弾塑性部材が局所的に過剰に変形することを防いで、振動エネルギーを吸収するための塑性変形を、ダンパー全体に適切に分散することができる。
【0011】
(2) 前記貫通孔は、複数か所に形成されていて、前記湾曲部の先端部よりも一方の前記直線部寄りの範囲と、前記先端部よりも他方の前記直線部寄りの範囲とにおいて、前記先端部に対して対称な位置に形成されている、(1)に記載のダンパー。
【0012】
(2)の免震装置用のダンパーによれば、(1)に記載のダンパーの奏する上記効果をより良好により高い精度で発現させることができる。
【0013】
(3) 前記貫通孔の配置ピッチが、前記先端部に近づくに連れて小さくなっている、(2)に記載のダンパー。
【0014】
(3)の免震装置用のダンパーによれば、(2)に記載のダンパーの奏する上記効果をより良好により高い精度で発現させることができる。より詳しくは、貫通孔の配置ピッチが、前記先端部に近づくに連れて小さくなっていることにより、振動エネルギーを吸収するための塑性変形を湾曲部の全体により均等に分散して発生させることができる。
【0015】
(4) 前記弾塑性部材が、長さ方向に直交する断面の形状が均一な円形である丸棒状の部材である、(1)から(3)の何れかに記載のダンパー。
【0016】
(4)の免震装置用のダンパーによれば、振動エネルギー吸収部を、丸棒状の部材で形成することにより、振動の方向の違いによる免震性能の異方性を縮小させることに寄与することができる。又、断面が均一な汎用的な板材や丸棒材に対して、貫通孔を設ける簡易な加工のみにより、製造可能であり、断面形状を部分毎に調整加工することが困難な汎用的な丸棒材をそのまま用いて構成することができるので、経済性においても優位性を維持することができる。
【0017】
(5) 建造物の上部構造体に接続される上部基板と、前記建造物の下部構造体に接続される下部基板と、前記上部基板と前記下部基板とに接合される振動エネルギー吸収部と、を備える免震装置であって、前記振動エネルギー吸収部が、(1)から(3)の何れかに記載のダンパーによって構成されている、免震装置。
【0018】
(5)の免震装置によれば、ダンパーを構成する弾塑性部材が局所的に過剰に変形することを防いで、振動エネルギーを吸収するための塑性変形を、ダンパー全体に適切に分散することができる。
【0019】
(6) 建造物の上部構造体に接続される上部基板と、前記建造物の下部構造体に接続される下部基板と、前記上部基板と前記下部基板とに接合される振動エネルギー吸収部と、を備える免震装置であって、前記振動エネルギー吸収部が、(4)に記載のダンパーによって構成されている、免震装置。
【0020】
(6)の免震装置によれば、ダンパーを構成する弾塑性部材が局所的に過剰に変形することを防いで、振動エネルギーを吸収するための塑性変形を、ダンパー全体に適切に分散することができる。又、振動エネルギー吸収部を、丸棒状の部材で形成することにより、振動の方向の違いによる免震性能の異方性を縮小させることに寄与することもできる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ダンパーを構成する弾塑性部材が局所的に過剰に変形することを防いで、振動エネルギーを吸収するための塑性変形をダンパー全体に適切に分散することができる免震装置用のダンパーを、製造コストの大幅な上昇を回避し得る簡易な成形加工のみによって提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明のダンパーを振動エネルギー吸収部として備える免震装置の斜視図である。
【
図2】
図1のダンパーの断面の形状の説明に供する模式図である。
【
図4】本発明のダンパー(より好ましい実施形態)の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について説明する。尚、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されない。
【0024】
<免震装置>
以下、先ずは、本発明の実施形態の一例であって、本発明の免震装置用のダンパーを振動エネルギー吸収部として用いることができる免震装置の構成について、図面を参照しながら説明する。
【0025】
図1に示す通り、免震装置10は、建造物の上部構造体に接続される上部基板2及び下部構造体に接続される下部基板3に、その両端部が接合される振動エネルギー吸収部が配置されてなる構成の装置である。そしてこの振動エネルギー吸収部を構成する部材として免震装置用のダンパー1(1A~1D)が用いられている。この免震装置10においては、地震の発生時等に、免震装置用のダンパー1(1A~1D)の弾塑性変形によって振動エネルギーが吸収される。免震装置用のダンパー1の詳細については後述する。
【0026】
免震装置10の上部基板2及び下部基板3は、平面視正方形の板状体の鋼材(例えば、SS400)で形成されている。一例として、上部基板2及び下部基板3は、平面視で1辺800mmの正方形、厚さ45mmである。但し、これらのサイズは、要求される免震性能に応じて、任意の大きさとすることができる。
【0027】
<免震装置用のダンパー>
次に、本発明の免震装置用のダンパー(以下、単に「ダンパー」とも言う)について、その詳細を説明する。
【0028】
図3は、本発明の免震装置用のダンパーの実施形態の1つであるダンパー1の平面図である。同図に示す通り、ダンパー1は、一対の平行な直線部12と、各々の直線部12の一方の端部間を結んでいる湾曲部11によって構成されている。そして、湾曲部11には、弾塑性部材の厚み方向に貫通する貫通孔111が形成されている。尚、弾塑性部材の厚み方向に貫通する貫通孔とは、弾塑性部材が丸棒状の部材である場合であれば、当該部材の長さ方向に直交する断面円の直径方向に貫通する孔のことを言う。又、この貫通孔の開口径は、当該弾塑性部材の幅又は直径に対して、1/4以上1/2以下とすることが好ましい。
【0029】
又、ダンパー1は、長さ方向に直交する断面(
図2における断面13)の形状が均一な棒状又は板状の弾塑性部材からなるものであることが好ましい。一例として、ダンパー1の直線部12の長さが700mm、湾曲部11のRが200mm、断面13の形状は円形であり、その半径は80mmである。但し、これらの各形状・サイズは、要求される免震性能に応じて、任意の大きさとすることができる。
【0030】
ダンパー1を形成する弾塑性部材としては、棒状又は板状の弾塑性部材であれば、従来の免震ダンパー等において用いられている各種の金属材料を特に限定なく用いることができる。この金属材料としては、従来、広く用いられている鋼を用いることもできるし、或いは、銅やアルミニウム等の非鉄金属、又は、それらの各種金属との合金等を用いることもできる。ダンパー1においては、上記の金属材料からなる弾塑性部材が中央部近傍において折り曲げられていることによって湾曲部11が形成されている。
【0031】
ここで、従来の履歴型ダンパーは冷間曲げ加工によって湾曲部が形成されていることが一般的であるが、この場合、上述したように、直線状の部材を冷間曲げした場合に、塑性変形により湾曲部のみ加工硬化が進行して、直線部よりも変形しにくくなる。具体的には、冷間曲げ加工によって折り曲げられたダンパーの湾曲部は、一般的に、折り曲げ加工前との比較で、折り曲げやすさの指標となり得る「ビッカース硬さ」が、1.10倍~1.30倍程度にまで上昇する。具体的な一例として、黄銅系材料を用い、冷間曲げ加工によって折り曲げられたダンパー部材において、折り曲げ前のビッカース硬さが、約Hv180であったものが、折り曲げ後に約Hv230にまで上昇する例(1.28倍に上昇する例)が確認されている。
【0032】
湾曲部のみにおいて加工硬化が進行してしまう上記の問題に対して、本発明のダンパー1は、湾曲部11に貫通孔111を形成することで、湾曲部の変形し易さを担保している点を主たる特徴とする。本発明によれば、履歴型ダンパーを、断面が均一な汎用的な板材や丸棒材で構成する場合であっても、このような簡易な加工処理のみによって、湾曲部11の曲がりやすさを増すことができるので、弾塑性部材が局所的に過剰に変形することを防いで、振動エネルギーを吸収するための塑性変形を、ダンパー全体に適切に分散することができるようになる。
【0033】
湾曲部11に形成される貫通孔111は、複数か所に形成されていることが好ましく、その配置は、
図3に示すように、湾曲部11の先端部よりも一方の直線部12寄りの範囲と、当該先端部よりも他方の直線部12寄りの範囲とにおいて、先端部に対して対称な位置に形成されている配置とすることが好ましい。又、貫通孔111の配置ピッチは、
図4に示すように、湾曲部11の先端部に近づくに連れて小さくなっている配置とすることが好ましい。一例として、最も好ましい貫通孔111の配置は、直線部12の長さが700mm、湾曲部11のRが200mm、断面13の形状は円形であり、その半径は80mmのダンパーにおいて、直径20mmの穿孔部が、先端部からの距離が45mm、49mm、54mm、59mm、64mm、70mm、76mm及び83mmの位置に、先端部を中心にその両側に8箇所ずつ計17箇所に形成されている配置を上げることができる。
【0034】
又、ダンパー1は、
図2に示すように、その断面13の形状が円形である丸棒状の弾塑性部材によって形成されているものであることが好ましい。振動エネルギー吸収部の断面13の形状を、円形とすることによって、これを、
図1に示すように、免震装置を側方から視た場合において、湾曲部11が斜めに傾いている状態となるように傾斜配置した場合に、あらゆる水平方向の変形に対する力学的性状の差異を小さくして、振動エネルギー吸収性能の異方性を縮小させることに寄与することができる。
【符号の説明】
【0035】
1(1A~1D) ダンパー
11(11A~11D) 湾曲部
111 貫通孔
12(12A~12D) 直線部
13 断面
10 免震装置
2 上部基板
21(21A~21D) 接合補助部
3 下部基板
31(31A~31D) 接合補助部