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特開2024-39779免震装置用のダンパー、免震装置、及び、免震装置用のダンパーの製造方法
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  • 特開-免震装置用のダンパー、免震装置、及び、免震装置用のダンパーの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039779
(43)【公開日】2024-03-25
(54)【発明の名称】免震装置用のダンパー、免震装置、及び、免震装置用のダンパーの製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/02 20060101AFI20240315BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20240315BHJP
   F16F 7/12 20060101ALI20240315BHJP
   C21D 9/00 20060101ALI20240315BHJP
   C22F 1/08 20060101ALI20240315BHJP
   C21D 1/26 20060101ALI20240315BHJP
【FI】
F16F15/02 Z
E04H9/02 331Z
F16F7/12
C21D9/00 A
C22F1/08 Y
C21D1/26 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022144387
(22)【出願日】2022-09-12
(71)【出願人】
【識別番号】399117730
【氏名又は名称】住友金属鉱山シポレックス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000152424
【氏名又は名称】株式会社日建設計
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】長井 大樹
(72)【発明者】
【氏名】安永 亮
(72)【発明者】
【氏名】小板橋 裕一
(72)【発明者】
【氏名】岡田 康平
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
3J066
4K042
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139BA02
2E139BA04
2E139CA07
2E139CC02
3J048AA01
3J048AC06
3J048BC07
3J048BC09
3J048DA03
3J048EA38
3J066AA29
3J066BA04
3J066BC03
3J066BD07
3J066BF01
3J066BG01
4K042AA25
4K042BA02
4K042BA14
4K042DA03
4K042DB07
4K042DD03
4K042EA01
(57)【要約】
【課題】長さ方向に直交する断面の形状が均一である汎用的な板材や丸棒材で構成する履歴型ダンパーにおいて、ダンパーを構成する上記形状の弾塑性部材が局所的に過剰に変形することを防いで振動エネルギーを吸収するための塑性変形をダンパー全体に適切に分散すること。
【解決手段】長さ方向に直交する断面の形状が均一な棒状又は板状の弾塑性部材からなり、一対の平行な直線部12と、弾塑性部材が折り曲げられていることによって各々の直線部12の一方の端部間を結んでいる湾曲部11によって構成されていて、湾曲部11のビッカース硬さの直線部12のビッカース硬さに対する比が1.05以下である、ダンパー1とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
免震装置用のダンパーであって、
長さ方向に直交する断面の形状が均一な棒状又は板状の弾塑性部材からなり、
一対の平行な直線部と、前記弾塑性部材が折り曲げられていることによって各々の前記直線部の一方の端部間を結んでいるU字形状の湾曲部によって構成されていて、
前記湾曲部のビッカース硬さの前記直線部のビッカース硬さに対する比が1.05以下である、
ダンパー。
【請求項2】
前記湾曲部のビッカース硬さの前記直線部のビッカース硬さに対する比が、0.50以上1.00以下である、
請求項1に記載のダンパー。
【請求項3】
前記弾塑性部材が、前記断面の形状が円形である丸棒状の部材である、
請求項1又は2に記載のダンパー。
【請求項4】
前記湾曲部に前記弾塑性部材の厚み方向に貫通する貫通孔が形成されている、
請求項1又は2に記載のダンパー。
【請求項5】
建造物の上部構造体に接続される上部基板と、
前記建造物の下部構造体に接続される下部基板と、
前記上部基板と前記下部基板とに接合される振動エネルギー吸収部と、
を備える免震装置であって、
前記振動エネルギー吸収部が、請求項1又は2に記載のダンパーによって構成されている、
免震装置。
【請求項6】
建造物の上部構造体に接続される上部基板と、
前記建造物の下部構造体に接続される下部基板と、
前記上部基板と前記下部基板とに接合される振動エネルギー吸収部と、
を備える免震装置であって、
前記振動エネルギー吸収部が、請求項3に記載のダンパーによって構成されている、
免震装置。
【請求項7】
免震装置用のダンパーの製造方法であって、
前記ダンパーは、長さ方向に直交する断面の形状が均一な棒状又は板状の弾塑性部材からなり、一対の平行な直線部と、前記弾塑性部材が折り曲げられていることによって各々の前記直線部の一方の端部間を結んでいるU字形状の湾曲部によって構成されていて、
前記弾塑性部材を折り曲げ加工することによって前記湾曲部を形成する折り曲げ工程と、
焼鈍し処理によって、前記湾曲部のビッカース硬さの前記直線部のビッカース硬さに対する比を低下させる、硬度比調整工程と、
を含んでなる、
免震装置用のダンパーの製造方法。
【請求項8】
前記硬度比調整工程においては、
前記湾曲部のみに焼鈍し処理を施す、
請求項7に記載の免震装置用のダンパーの製造方法。
【請求項9】
前記硬度比調整工程を、
前記弾塑性部材における前記直線部となる部分を冷却しながら、該弾塑性部材における前記湾曲部となる部分を加熱することによって行う、
請求項8に記載の免震装置用のダンパーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震装置用のダンパー、免震装置、及び、免震装置用のダンパーの製造方法に関する。詳しくは、本発明は、金属の塑性変形を利用する弾塑性型の履歴型ダンパーであって、一対の直線部の間にU字形状の湾曲部が形成されている免震装置用のダンパー、このダンパーを用いた免震装置、及び、このダンパーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建造物の上部構造体と下部構造体との間に配置されて地震等の振動エネルギーを吸収する免震装置の一例として、金属の塑性変形を利用する弾塑性型の履歴型ダンパーであって、一対の直線部とこれらを結ぶU字形状の湾曲部を有するダンパーを、振動エネルギー吸収部として備える免震装置が知られている(特許文献1、2参照)。
【0003】
上述の免震装置用のダンパーは、長尺の金属部材を冷間で曲げ加工するのが簡易で経済的とされており(特許文献2段落[0008])、具体的には板材や丸棒材等、長尺の金属部材を、U字形状の型枠に冷間で押し込む、成形曲げ加工によって製造されている(特許文献3参照)。
【0004】
しかしながら、上記のようにして製造されるU字形状の湾曲部を有するダンパーを備える免震装置において、振動エネルギーを吸収するための変形時に、当該ダンパーの直線部のみが過剰に変形してしまう現象が起こる場合があった。ダンパーが、このように局所的に過剰に変形すると、所定のエネルギー吸収性能を十分に発揮できず、又、直線部のみに負荷が集中することによる、ダンパーの早期破断のリスクが生じる。
【0005】
特許文献2には、板状の弾塑性素材からなりU字形状の湾曲部を有する履歴型ダンパーについて、湾曲部と直線部の断面の幅や厚みを調整することによって、塑性変形時の歪みをダンパー全体に分散できることが示唆されている。しかしながら、履歴型ダンパーを、このような特殊な形状のダンパーとする場合には、入手容易な、断面の形状が均一な汎用的な板材や丸棒材をダンパーの材料として用いることができなくなってしまい、製造コストが嵩むことが問題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004-150266号公報
【特許文献2】特開2000-104787号公報
【特許文献3】特開2015-47620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、断面の形状が均一である汎用的な板材や丸棒材で構成することができる履歴型ダンパーであって、ダンパーを構成する上記形状の弾塑性部材が局所的に過剰に変形することを防いで、振動エネルギーを吸収するための塑性変形をダンパー全体に適切に分散することができる、免震装置用のダンパーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上述の直線部のみが過剰に変形してしまう現象は、履歴型ダンパーの製造時に行われる冷間曲げ加工による塑性変形によって、湾曲部のみにおいて加工硬化が進行してしまうことによるものであることを突き止めた。そして、例えば、焼鈍し処理によって、湾曲部の硬度を直線部の硬度よりも小さくする加工処理を行うことにより、上記課題を解決することができることに想到し、本発明を完成させるに至った。より具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0009】
(1) 免震装置用のダンパーであって、長さ方向に直交する断面の形状が均一な棒状又は板状の弾塑性部材からなり、一対の平行な直線部と、前記弾塑性部材が折り曲げられていることによって各々の前記直線部の一方の端部間を結んでいるU字形状の湾曲部によって構成されていて、前記湾曲部のビッカース硬さの前記直線部のビッカース硬さに対する比が1.05以下である、ダンパー。
【0010】
(1)の免震装置用のダンパーによれば、断面が均一な汎用的な板材や丸棒材で構成することができるものでありながら、ダンパーを構成する弾塑性部材が局所的に過剰に変形することを防いで振動エネルギーを吸収するための塑性変形をダンパー全体に適切に分散することができる。
【0011】
(2) 前記湾曲部のビッカース硬さの前記直線部のビッカース硬さに対する比が、0.50以上1.00以下である、(1)に記載のダンパー。
【0012】
(2)の免震装置用のダンパーによれば、(1)に記載のダンパーの奏する上記効果をより良好により高い精度で発現させることができる。
【0013】
(3) 前記弾塑性部材が、前記断面の形状が円形である丸棒状の部材である、(1)又は(2)に記載のダンパー。
【0014】
(3)の免震装置用のダンパーによれば、振動エネルギー吸収部を、丸棒状の部材で形成することにより、振動の方向の違いによる免震性能の異方性を縮小することができる。又、断面形状を部分毎に調整加工することが困難な汎用的な丸棒材をそのまま用いて構成することができるので、経済性においても優位性を維持することができる。
【0015】
(4) 前記湾曲部に前記弾塑性部材の厚み方向に貫通する貫通孔が形成されている、(1)又は(2)に記載のダンパー。
【0016】
(4)の免震装置用のダンパーによれば、断面が均一な汎用的な鋼材(板材や丸棒材)に対して、貫通孔を設ける簡易な加工により、(1)又は(2)に記載のダンパーの奏する上記効果をより良好により高い精度で発現させることができる。
【0017】
(5) 建造物の上部構造体に接続される上部基板と、前記建造物の下部構造体に接続される下部基板と、前記上部基板と前記下部基板とに接合される振動エネルギー吸収部と、を備える免震装置であって、前記振動エネルギー吸収部が、(1)又は(2)に記載のダンパーによって構成されている、免震装置。
【0018】
(5)の免震装置によれば、振動エネルギー吸収部が、断面が均一な汎用的な鋼材(板材や丸棒材)からなるダンパーで構成されているものでありながら、ダンパーを構成する弾塑性部材が局所的に過剰に変形することを防いで、振動エネルギーを吸収するための塑性変形を、ダンパー全体に適切に分散することができる。これにより、経済性の面における優位性を維持したまま、免震装置の免震性能の安定性や耐久性を向上させることができる。
【0019】
(6) 建造物の上部構造体に接続される上部基板と、前記建造物の下部構造体に接続される下部基板と、前記上部基板と前記下部基板とに接合される振動エネルギー吸収部と、を備える免震装置であって、前記振動エネルギー吸収部が、(3)に記載のダンパーによって構成されている、免震装置。
【0020】
(6)の免震装置によれば、振動エネルギー吸収部が、断面が均一な汎用的な丸棒材からなるダンパーで構成されていることによって、振動エネルギー吸収部の応力とひずみの相関について、振動の方向の違いによる異方性を縮小することができる。又、ダンパーを構成する弾塑性部材が局所的に過剰に変形することを防いで、振動エネルギーを吸収するための塑性変形を、ダンパー全体に適切に分散することもできる。又、断面形状を部分毎に調整加工することが困難な汎用的な丸棒材をそのまま用いて構成することができる。これらにより、経済性の面における優位性も維持したまま、免震装置の免震性能の安定性や耐久性を向上させることができる。
【0021】
(7) 免震装置用のダンパーの製造方法であって、前記ダンパーは、長さ方向に直交する断面の形状が均一な棒状又は板状の弾塑性部材からなり、一対の平行な直線部と、前記弾塑性部材が折り曲げられていることによって各々の前記直線部の一方の端部間を結んでいるU字形状の湾曲部によって構成されていて、前記弾塑性部材を折り曲げ加工することによって前記湾曲部を形成する折り曲げ工程と、焼鈍し処理によって、前記湾曲部のビッカース硬さの前記直線部のビッカース硬さに対する比を低下させる、硬度比調整工程と、を含んでなる、免震装置用のダンパーの製造方法。
【0022】
(7)の免震装置用のダンパーの製造方法によれば、断面が均一な汎用的な板材や丸棒材で構成することができるものでありながら、ダンパーを構成する弾塑性部材が局所的に過剰に変形することを防いで、振動エネルギーを吸収するための塑性変形を、ダンパー全体に適切に分散することができる免震装置用のダンパーを得ることができる。
【0023】
(8) 前記硬度比調整工程においては、前記湾曲部のみに焼鈍し処理を施す、(7)に記載の免震装置用のダンパーの製造方法。
【0024】
(8)の免震装置用のダンパーの製造方法によれば、断面が均一な汎用的な板材や丸棒材で構成することができるものでありながら、ダンパーを構成する弾塑性部材が局所的に過剰に変形することを防いで、振動エネルギーを吸収するための塑性変形を、ダンパー全体に適切に分散することができる効果を、より確実に発揮する免震装置用のダンパーを得ることができる。
【0025】
(9) 前記硬度比調整工程を、前記弾塑性部材における前記直線部となる部分を冷却しながら、該弾塑性部材における前記湾曲部となる部分を加熱することによって行う、(8)に記載の免震装置用のダンパーの製造方法。
【0026】
(9)の免震装置用のダンパーの製造方法によれば、断面が均一な汎用的な板材や丸棒材で構成することができるものでありながら、ダンパーを構成する弾塑性部材が局所的に過剰に変形することを防いで、振動エネルギーを吸収するための塑性変形を、ダンパー全体に適切に分散することができる効果をより確実に発揮する免震装置用のダンパーを、実施容易な手順によって得ることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、長さ方向に直交する断面の形状が均一である汎用的な板材や丸棒材で構成する履歴型ダンパーにおいて、ダンパーを構成する上記形状の弾塑性部材が局所的に過剰に変形することを防いで振動エネルギーを吸収するための塑性変形をダンパー全体に適切に分散することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明のダンパーを振動エネルギー吸収部として備える免震装置の斜視図である。
図2図1のダンパーの断面の形状の説明に供する模式図である。
図3】本発明のダンパーの平面図である。
図4】本発明のダンパー(他の実施形態)の平面図である。
図5】本発明のダンパーの製造方法の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について説明する。尚、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されない。
【0030】
<免震装置>
以下、先ずは、本発明の実施形態の一例であって、本発明の免震装置用のダンパーを振動エネルギー吸収部として用いることができる免震装置の構成について、図面を参照しながら説明する。
【0031】
図1に示す通り、免震装置10は、建造物の上部構造体に接続される上部基板2及び下部構造体に接続される下部基板3に、その両端部が接合されるが配置されてなる構成の装置である。そしてこの振動エネルギー吸収部を構成する部材として免震装置用のダンパー1(1A~1D)が用いられている。この免震装置10においては、地震の発生時等に、免震装置用のダンパー1(1A~1D)の弾塑性変形によって振動エネルギーが吸収される。免震装置用のダンパー1の詳細については後述する。
【0032】
免震装置10の上部基板2及び下部基板3は、平面視正方形の板状体の鋼材(例えば、SS400)で形成されている。一例として、上部基板2及び下部基板3は、平面視で1辺800mmの正方形、厚さ45mmである。但し、これらのサイズは、要求される免震性能に応じて、任意の大きさとすることができる。
【0033】
<免震装置用のダンパー>
次に、本発明の免震装置用のダンパー(以下、単に「ダンパー」とも言う)について、その詳細を説明する。
【0034】
図3は、本発明の免震装置用のダンパーの実施形態の1つであるダンパー1の平面図である。同図に示す通り、ダンパー1は、一対の平行な直線部12と、各々の直線部12の一方の端部間を結んでいるU字形状の湾曲部11によって構成されている。又、ダンパー1は、長さ方向に直交する断面(図2における断面13)の形状が均一な棒状又は板状の弾塑性部材からなるものである。一例として、ダンパー1の直線部12の長さが700mm、湾曲部11のRが200mm、断面13の形状は円形であり、その半径は80mmである。但し、これらの各形状・サイズは、要求される免震性能に応じて、任意の大きさとすることができる。
【0035】
上記の外形を有するダンパー1を形成する弾塑性部材としては、長さ方向に直交する断面の形状が均一な棒状又は板状の弾塑性部材であれば、従来の免震ダンパー等において用いられている各種の金属材料を特に限定なく用いることができる。この金属材料としては、従来、広く用いられている鋼を用いることもできるし、或いは、銅やアルミニウム等の非鉄金属、又は、それらの各種金属との合金等を用いることもできる。ダンパー1は、上記の金属材料からなる弾塑性部材が中央部近傍において折り曲げられていることによって湾曲部11が形成されている。
【0036】
従来の免震装置用の履歴型ダンパーは、冷間曲げ加工によって湾曲部が形成されていることが一般的であるが、この場合、上述したように、直線状の部材を冷間曲げする際に、塑性変形により湾曲部のみにおいて加工硬化が進行して、直線部よりも変形しにくくなる。具体的には、冷間曲げ加工によって折り曲げられたダンパーの湾曲部は、一般的に、折り曲げ加工前との比較で、その「ビッカース硬さ」が1.10倍~1.30倍程度にまで上昇する。具体的な一例として、黄銅系材料を用い、冷間曲げ加工によって折り曲げられたダンパー部材において、折り曲げ前のビッカース硬さが、約Hv180であったものが、折り曲げ後に約Hv230にまで上昇する例(1.28倍に上昇する例)が確認されている。本発明のダンパーは、この程度にまで上昇した湾曲部の硬度を、焼鈍し処理等によって、直線部の硬度に対して相対的に低下させる処理が施されていることを主たる特徴とする。具体的にダンパー1は、湾曲部11のビッカース硬さの直線部12のビッカース硬さに対する比が0.50以上1.05以下であればよく、同比が、0.50以上1.00以下であることが好ましく、0.50以上0.90以下であることがより好ましい。
【0037】
ここで、「ビッカース硬さ」は、上述の加工硬化の進行度合を示す指標の1つであり、且つ、測定に引張試験の実施を必要とする機械的性質と比較すると簡易に測定が可能な指標である。本発明においては、そのような「ビッカース硬さ」を管理対象値として、湾曲部と直線部との硬さの比を、上述した通りの適切な範囲に維持することによって、ダンパーを構成する弾塑性部材が局所的に過剰に変形することを防いで、振動エネルギーを吸収するための塑性変形を、ダンパー全体に適切に分散することができるようにしたものである。
【0038】
尚、本明細書における「ビッカース硬さ」とは、JIS Z 2244の試験方法に準じる試験方法によって得られる値であるが、直線部と湾曲部のそれぞれの試験は正四角錘のダイヤモンド圧子を資料(試験片)の表面に押し込み、その試験力を解除した後表面に残ったくぼみの対角線長さを測定することによって行うものである。そして、このうち「直線部のビッカース硬さ」とは、直線部の全表面のうち、湾曲部との接合部とは反対側の端部寄りの半分の範囲の任意の箇所において前述の硬さ試験を行って得られる値とする。又、他方の「湾曲部のビッカース硬さ」とは、湾曲部の全表面のうち、最内径に沿う円弧と湾曲部の先端を通る対称軸が交差する箇所において、前述のビッカース硬さ試験を行って得られる値とする。このようにして得られる湾曲部11のビッカース硬さが直線部のビッカース硬さに対して所定の比率範囲となるような加工処理を確実に行うことによって、ダンパーを断面が均一な汎用的な鋼材(板材や丸棒材)で構成する場合においても、ダンパーを構成する弾塑性部材が局所的に過剰に変形することを防いで、振動エネルギーを吸収するための塑性変形を、ダンパー全体に適切に分散して発生させることができるようになる。
【0039】
又、湾曲部11のビッカース硬さの直線部12のビッカース硬さに対する比を、0.9以下とすることにより、湾曲部においても更に適切な変形が促されて、直線部において局所的で過剰な変形が生じることをより確実に抑止することができる。又、同比を0.50以上とすることにより、逆に直線部が適切に変形せずに、湾曲部において過剰な変形が生じることを抑止することができる。
【0040】
又、ダンパー1は、図2に示すように、その断面13が円形である丸棒状の弾塑性部材によって形成されているものであることが好ましい。振動エネルギー吸収部の断面13の形状を、円形とすることによって、これを、図1に示すように、免震装置を側方から視た場合において、湾曲部11が斜めに傾いている状態となるように傾斜配置した場合に、あらゆる水平方向の変形に対する力学的性状の差異を小さくして、振動エネルギー吸収性能の異方性を縮小させることに寄与する。
【0041】
又、ダンパー1は、図4に示すように、湾曲部11に弾塑性部材の厚み方向に貫通する貫通孔111が形成されているものとしてもよい。断面が均一な汎用的な板材や丸棒材に対して、貫通孔を設けるだけで済むこのような簡易な加工によっても湾曲部11の曲がりやすさを局所的に増すことができるので、焼鈍し等による硬度調整の処理に加えて補助的にこのような加工を行うことも有効である。
【0042】
<免震装置用のダンパーの製造方法>
本発明の免震装置用のダンパーは、一例として以下に詳細を説明する製造方法によって製造することができる。この製造方法は、直線状の弾塑性素材に折り曲げ加工を施すことによって湾曲部を形成する折り曲げ工程に加えて、当該折り曲げ工程において上昇した湾曲部の硬度を、直線部の硬度に対して最適な比率範囲内の硬度に低下させる硬度比調整工程を行う点を主たる特長とする方法である。
【0043】
[折り曲げ工程]
折り曲げ工程は、特段の限定なく従来周知の冷間曲げ処理によることができる。一例として、特許文献3に開示されている製造方法による場合と同様、長尺の金属部材を、U字形状の型枠に冷間で押し込む、成形曲げ加工によって行うことができる。
【0044】
[硬度比調整工程]
硬度比調整工程は、折り曲げ工程によって生じた湾曲部の加工硬化を除去することによって、湾曲部11のビッカース硬さの直線部12のビッカース硬さに対する比を低下させる処理である。又、これにより、湾曲部11の硬度を、直線部12の硬度に対して最適な比率範囲内の硬度に調整することを目的とした処理でもある。このために、この工程では、湾曲部のみに焼鈍しの効果が発現するような態様で焼鈍し処理を行うことが好ましい。
【0045】
上述したように、湾曲部のみに焼鈍しの効果が発現するようにするためには、一例として、図5に示すように、弾塑性部材において折り曲げ加工後に直線部12となっている部分を冷却しながら、当該弾塑性部材において折り曲げ加工後に湾曲部11となる部分を加熱することによって焼鈍し処理を行う製造方法によることができる。
【0046】
図5に示す製造方法においては、弾塑性部材のうち湾曲部11及び直線部12の一部が焼鈍炉の内部に保持されている一方で、弾塑性材料の直線部12の残りの部分は焼鈍し炉4の壁面に形成された連通孔を通じて外部に露出しており、更には油層(又は水槽)の壁面に形成された連通孔等を通じて油槽5(又は水槽)内に満たされた流体中に露されている。この油槽5(又は水槽)内に満たされた流体はポンプ6によって循環し、更には熱交換機7を介して冷却水供給機8から供給される冷却水によって冷却されることにより低温に保たれるため、弾塑性材料のうち油槽5(又は水槽)内の流体に露された直線部12を冷却しながら、湾曲部11が加熱されている状態を任意の時間にわたって維持することが可能となり、結果として湾曲部11のみに焼鈍しの硬化を発現させることが可能となっている。
【0047】
尚、本発明の製造方法は、直線状の弾塑性材料を折り曲げる折り曲げ工程の前に、両端部を除く部分に硬度比調整工程、即ち、局部的な焼鈍し処理を施した上で、当該処理が行われた部分を折り曲げる折り曲げ工程を行う手順によって行うこともできる。
【符号の説明】
【0048】
1(1A~1D) ダンパー
11(11A~11D) 湾曲部
111 貫通孔
12(12A~12D) 直線部
13 断面
10 免震装置
2 上部基板
21(21A~21D) 接合補助部
3 下部基板
31(31A~31D) 接合補助部
4 焼鈍し炉
5 油槽
6 ポンプ
7 熱交換機
8 冷却水供給機
図1
図2
図3
図4
図5