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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039780
(43)【公開日】2024-03-25
(54)【発明の名称】免震装置におけるダンパー取付け構造
(51)【国際特許分類】
   F16F 7/00 20060101AFI20240315BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20240315BHJP
   F16F 15/06 20060101ALI20240315BHJP
   F16F 7/12 20060101ALI20240315BHJP
【FI】
F16F7/00 C
E04H9/02 331Z
F16F15/06 D
F16F7/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022144388
(22)【出願日】2022-09-12
(71)【出願人】
【識別番号】399117730
【氏名又は名称】住友金属鉱山シポレックス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000152424
【氏名又は名称】株式会社日建設計
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】長井 大樹
(72)【発明者】
【氏名】安永 亮
(72)【発明者】
【氏名】小板橋 裕一
(72)【発明者】
【氏名】岡田 康平
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
3J066
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139BA02
2E139BA04
2E139CA07
2E139CC02
3J048AA01
3J048AC06
3J048AD16
3J048BC07
3J048BC09
3J048BE10
3J048DA01
3J048EA38
3J066AA26
3J066BA04
3J066BE08
3J066BF09
3J066BG08
(57)【要約】
【課題】「免震装置におけるダンパー取付け構造」において、取付け用基台部の挿入孔の挿入口の周辺部分において、ダンパーの劣化が早期に進行してしまう現象を抑制する。
【解決手段】取付け用基台部2とダンパー1の中心軸とを貫通する複数の軸状の固定具23によって、ダンパー1は、取付け用基台部2に固定されていて、ダンパー1は、各々の軸状の固定具23が貫通している部分の直径方向断面における有効断面積Sについて、ダンパー挿入孔211の挿入口212からより近い位置にある直径方向断面の有効断面積S1が、挿入口212からより遠い位置にある直径方向断面の有効断面積S2と同等以上であって、尚且つ、挿入口212から最も近い直径方向断面の有効断面積S1が、挿入口212に最も遠い直径方向断面の有効断面積S3よりも大きい、ダンパー取付け構造10とする。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
免震装置におけるダンパー取付け構造であって、
一対の平行な直線部と、各々の前記直線部の一方の端部間を結んでいる湾曲部と、を有するダンパーと、
前記ダンパーの前記直線部の一部を挿入するダンパー挿入孔を有する取付け用基台部と、からなり、
前記ダンパーは、前記取付け用基台部のダンパー挿入孔に前記直線部の一部が挿入されている状態において、前記取付け用基台部と前記ダンパーの中心軸とを貫通する複数の軸状の固定具によって、前記取付け用基台部に固定されていて、
前記ダンパーにおいて各々の前記軸状の固定具が貫通している部分においては、
前記軸状の固定具が貫通している空間部分の断面積を除いた部分の面積である直径方向断面の有効断面積について、一の直径方向断面の前記有効断面積は、前記ダンパー挿入孔の挿入口からより遠い位置にある他の直径方向断面の前記有効断面積と同等以上であって、尚且つ、前記挿入口から最も近い前記直径方向断面の前記有効断面積が、前記ダンパー挿入孔に最も遠い前記直径方向断面の前記有効断面積よりも大きい、
ダンパー取付け構造。
【請求項2】
前記取付け用基台部の前記挿入口から、該挿入口に最も近い位置にある最前方の前記軸状の固定具の中心軸までの距離で定義される寸法をL、前記ダンパーの直径をDとしたときに、L/Dが1.0以上の値である、
請求項1に記載のダンパー取付け構造。
【請求項3】
前記直径方向断面の形状が円形である、
請求項1又は2に記載のダンパー取付け構造。
【請求項4】
前記直径方向断面の形状が円形以外の多角形形状である、
請求項1又は2に記載のダンパー取付け構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震装置におけるダンパー取付け構造に関する。詳しくは、本発明は、金属の塑性変形を利用する弾塑性型の履歴型ダンパーであって、一対の直線部の間にU字形状の湾曲部が形成されている免震装置用のダンパー取付け構造に関する。
【背景技術】
【0002】
建造物の上部構造体と下部構造体との間に配置されて地震等の振動エネルギーを吸収する免震装置の一例として、金属の塑性変形を利用する弾塑性型の履歴系免震ダンパーであって、一対の直線部とこれらを結ぶ湾曲部を有するU字形状の湾曲部を有するダンパーを、振動エネルギー吸収部として備える免震装置が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-107225号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
U字形状の湾曲部を有するダンパーを建物躯体に取付るための取付け構造としては、躯体側に直接或いは他の基板等を介して接合可能なブロック状の取付け用基台部にダンパーの直線部を挿入した状態で取付けボルト等の固定具によってダンパーを取付け用基台部に固定する取付け構造(図1図2参照、但し、図1においては、「ボルト」の図示は割愛されている)が、広く採用されている。
【0005】
しかしながら、上記のように挿入したダンパーをボルト等の軸状の貫通部材によって締結する、ダンパー取付け構造において、ダンパーの直線部のうち、取付け用基台部の挿入孔の挿入口により近い位置にあるボルト締結部の周辺において、ダンパーの劣化が比較的早期に進行してしまう現象が散見された。
【0006】
本発明は、U字形状の湾曲部を有するダンパーの直線部を、ブロック状の取付け用基台部の挿入孔に挿入した状態で取付けボルト等の固定具によって固定する、「免震装置におけるダンパー取付け構造」において、取付け用基台部の挿入孔の挿入口の周辺部分において、ダンパーの劣化が早期に進行してしまう現象を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ダンパーを貫通しているボルト等の軸状の固定具について、ダンパーに貫通する部分の太さを、個々のボルト毎に、通常とは異なる太さに調整して、ダンパーの直線部各部における直径断面の有効断面積を最適化することによって、上記課題を解決することができることに想到し、本発明を完成させるに至った。より具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0008】
(1) 免震装置におけるダンパー取付け構造であって、一対の平行な直線部と、各々の前記直線部の一方の端部間を結んでいる湾曲部と、を有するダンパーと、前記ダンパーの前記直線部の一部を挿入するダンパー挿入孔を有する取付け用基台部と、からなり、前記ダンパーは、前記取付け用基台部のダンパー挿入孔に前記直線部の一部が挿入されている状態において、前記取付け用基台部と前記ダンパーの中心軸とを貫通する複数の軸状の固定具によって、前記取付け用基台部に固定されていて、前記ダンパーにおいて各々の前記軸状の固定具が貫通している部分においては、前記軸状の固定具が貫通している空間部分の断面積を除いた部分の面積である直径方向断面の有効断面積について、一の直径方向断面の前記有効断面積は、前記ダンパー挿入孔の挿入口からより遠い位置にある他の直径方向断面の前記有効断面積と同等以上であって、尚且つ、前記挿入口から最も近い前記直径方向断面の前記有効断面積が、前記ダンパー挿入孔に最も遠い前記直径方向断面の前記有効断面積よりも大きい、ダンパー取付け構造。
【0009】
(1)のダンパー取付け構造によれば、U字形状の湾曲部を有するダンパーの直線部を、ブロック状の取付け用基台部の挿入孔に挿入した状態で取付けボルト等の固定具によって固定する「免震装置におけるダンパー取付け構造」において、取付け用基台部のダンパー挿入孔の挿入口の周辺部分において、ダンパーの劣化が比較的早期に進行してしまう現象を抑制することができる。
【0010】
(2) 前記取付け用基台部の前記挿入口から、該挿入口に最も近い位置にある最前方の前記軸状の固定具の中心軸までの距離で定義される寸法をL、前記ダンパーの直径をDとしたときに、L/Dが1.0以上の値である、(1)に記載のダンパー取付け構造。
【0011】
(2)のダンパー取付け構造によれば、ダンパーの挿入孔内面とダンパーとの間に一定以上のクリアランスが存在する場合において、(1)に記載のダンパー取付け構造の奏する上記効果を、高い精度で発現させることができる。又、併せて、クリアランスの存在に起因するダンパー挿入孔の挿入口に最も近い位置にある最前方の軸状の固定具を貫通させる貫通孔付近における早期の破断の発生も有効に抑止することができる。
【0012】
(3) 前記直径方向断面の形状が円形である、(1)又は(2)に記載のダンパー取付け構造。
【0013】
(3)のダンパー取付け構造によれば、免震装置の振動エネルギー吸収部を、丸棒状の部材で形成することにより、振動の方向の違いによる免震性能の異方性を縮小させることに寄与することができる。
【0014】
(4) 前記直径方向断面の形状が円形以外の多角形形状である、(1)又は(2)に記載のダンパー取付け構造。
【0015】
(4)のダンパー取付け構造によれば、免震装置の振動エネルギー吸収部を、断面が多角形形状の棒状の部材で形成することにより、ダンパーに対するダンパーの長さ方向に直交する方向の曲げモーメント(図3参照)を嵌合部においてより安定的に負担することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ブロック状の取付け用基台部にU字形状の湾曲部を有するダンパーの直線部を、ブロック状の取付け用基台部の挿入孔に挿入した状態で取付けボルト等の固定具によって固定する取付け構造において、取付け用基台部の挿入孔の周辺部分において、ダンパーの劣化が比較的早期に進行してしまう現象を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の免震装置におけるダンパー取付け構造を含んでなる免震装置の一例を示す斜視図である。
図2】本発明の免震装置におけるダンパー取付け構造の斜視図である。
図3図3のダンパー取付け構造における、ダンパーと取付け用基台部の接合部分をより詳細に示す部分拡大図である。
図4】本発明の免震装置におけるダンパー取付け構造におけるダンパーと取付け用基台部の接合部分の断面図である。
図5図4のA-A断面図、B-B断面図、及びC-C断面図である。
図6】本発明の免震装置におけるダンパー取付け構造(クリアランスが大きい場合において特に好ましい実施形態)における、ダンパーと取付け用基台部の接合部分の断面図である。
図7】本発明の免震装置におけるダンパー取付け構造の他の実施形態における、ダンパーと取付け用基台部の接合部分の断面図である。
図8】本発明の免震装置におけるダンパー取付け構造の他の実施形態における、ダンパーと取付け用基台部の接合部分の断面図である。
図9図8に示すダンパー取付け構造の他の実施形態における座ぐりの形状の説明に供する図面である。
図10】本発明の免震装置におけるダンパー取付け構造の他の実施形態(リベットを使用する実施形態)における、ダンパーと取付け用基台部の接合部分の断面図である。
図11】本発明の免震装置におけるダンパー取付け構造の他の実施形態(ピンを使用する実施形態)における、ダンパーと取付け用基台部の接合部分の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について説明する。尚、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されない。
【0019】
<免震装置>
以下、先ずは、本発明の実施形態の一例であって、本発明のダンパー取付け構造によって構成することができる「免震装置」の全体構成について、図面を参照しながら説明する。
【0020】
図1に示す通り、本発明の「免震装置におけるダンパー取付け構造」(以下、単に「ダンパー取付け構造」とも言う)を含んで構成されている免震装置100は、建造物の上部構造体に接続される上部基板3及び下部構造体に接続される下部基板4に、取付け用基台部2(2A~2D)を介して弾塑性材からなるダンパー1(1A~1D)が接合されている。この免震装置100においては、地震の発生時等に、免震装置用のダンパー1(1A~1D)の弾塑性変形によって振動エネルギーが吸収される。
【0021】
免震装置100を構成するダンパー1(1A~1D)は、図1及び図2に示す通り、一対の平行な直線部12(12A~12D)と、各々の直線部12(12A~12D)の一方の端部間を結んでいる湾曲部11(11A~11D)を有するU字形状のダンパーである。又、ダンパー1を形成する弾塑性部材としては、従来の免震ダンパー等において用いられている各種の金属材料を特に限定なく用いることができる。この金属材料としては、従来、広く用いられている鋼を用いることもできるし、或いは、銅やアルミニウム等の非鉄金属、又は、それらの各種金属との合金等を用いることもできる。ダンパー1においては、上記の金属材料からなる棒状の弾塑性部材が中央部近傍において折り曲げられていることによって湾曲部11が形成されている。
【0022】
ダンパー1は、その長さ方向に直交する断面(図2における断面13。本明細書においては、この断面を「直径方向断面」と称する。)の形状が円形又は円形以外の多角形形状である棒状の弾塑性部材からなるものであることが好ましい。一例として、ダンパー1の直線部12の長さが700mm、湾曲部11のRが200mm、断面13の形状は円形であり、その半径は80mmである。但し、これらの各形状・サイズは、要求される免震性能に応じて、任意の大きさとすることができる。
【0023】
又、ダンパー1は、図2に示すように、断面13の形状が円形であることがより好ましい。振動エネルギー吸収部の断面13の形状を、円形とすることによって、これを図1に示すように傾斜配置した場合に、あらゆる水平方向の変形に対する力学的性状の差異を小さくして、振動エネルギー吸収性能の異方性を縮小させることに寄与することができる。
【0024】
或いは、ダンパー1は、直径方向断面の形状を円形以外の多角形形状とすることもできる。この場合、取付け用基台部2のダンパー挿入孔211も同形状の多角形形状となり、ダンパー1に対するx軸回りの曲げモーメント(図3参照)をダンパー1の直線部12と取付け用基台部2のダンパー挿入孔211との嵌合部において、より安定的に負担できる。
【0025】
<免震装置におけるダンパー取付け構造>
本発明の「免震装置におけるダンパー取付け構造」とは、免震装置100において、振動エネルギー吸収部として機能する弾塑性材料からなるU字形状のダンパーを建物躯体に取り付けるための部分構造であって、U字形状のダンパー1と、取付け用基台部2とによって構成される部分(ダンパー取付け構造10)のことを言う。
【0026】
ダンパー取付け構造10においては、図2に示すように取付け用基台部2のダンパー挿入孔211に、ダンパー1の直線部12の両端の一部が挿入されている状態において、取付け用基台部2とダンパー1の中心軸とを貫通する複数の軸状の固定具(例えば、ボルト及びナット)23によって、ダンパー1の両方の直線部12が取付け用基台部2に固定されている。
【0027】
取付け用基台部2は、図2及び図3に示すように、ダンパー挿入孔211が形成されているダンパー挿入部21と、上部基板3及び下部基板4との接合部となる接合板部22とからなるものであってもよいし、或いは、それらの各機能を果たし得る部分が一体的に形成されているブロック状の部材であってもよい。
【0028】
ダンパー取付け構造10における軸状の固定具23は、図2~4に示すようなボルトであってもよいし、軸状の部分が取付け用基台部2とダンパー1の中心軸とを貫通する態様で両者を締結して固定することができるその他の固定具(例えば、図10に示すリベット25や図11に示すピン26等)であってもよい。
【0029】
本発明に係るダンパー取付け構造10は、ダンパー1における各々の軸状の固定具23(23a、23b、23c)が貫通している部分において、各々の直径方向断面(A-A断面、B-B断面、C-C断面)(図4参照)の有効断面積S(S1、S2、S3)が、相対的に特定の大小関係となるように最適化されている(図5参照)。
【0030】
ここで、本明細書における、ダンパーの「直径方向断面」の「有効断面積」とは、図5に示すように、各々の軸状の固定具23が貫通している部分の直径方向断面において、軸状の固定具23が貫通している空間部分の断面積を除いた部分の面積である面積S(S1、S2、S3)のことを言う。尚、軸状の固定具23が具体的にはボルトであって、ダンパーを貫通するのが軸状の固定具23の一部分である軸部231である場合は、「軸状の固定具23が貫通している空間部分」とは、「軸部231が貫通している空間部分」のことを意味する。
【0031】
ダンパー取付け構造10は、ダンパー1の直線部12において各々の軸状の固定具23が貫通している部分の直径方向断面の有効断面積S(S1、S2、S3)は、具体的には、ダンパー挿入孔211の挿入口212からより近い位置にある断面の有効断面積S(一例として、図5におけるS)が、その断面と比較して挿入口212からより遠い位置にある直径方向断面の有効断面積S(a+1)(一例として、図5におけるS)と同等以上(S≧S(a+1))であって、尚且つ、挿入口212から最も遠い位置にある最後方の断面の有効断面積S(一例として、図5におけるS)が、挿入口212に最も近い位置にある断面の有効断面積S(一例として、図5におけるS)よりも小さくなっていること(S<S)を主たる特徴とする。尚、軸状の固定具23が貫通している空間部分の径は、各軸状の固定具23の軸部231(231a、231b、231c)の径φ(φa、φ、φ)と略同一であるので、各軸状の固定具23の軸部231の径φは、挿入口212から最も遠い最後方の軸状の固定具23cの軸部231cの径φが最も大きくなる。
【0032】
一例として、図3及び図4に示すダンパー取付け構造10においては、軸状の固定具23の本数が3本(n=3)である。このダンパー取付け構造10において、x方向に力Pが作用した場合、上記の第a番目の軸状の固定具23が貫通している部分においてダンパー1の断面に掛かる荷重はP×(3-a+1)/nとなる。具体的には、図3及び図4に示すダンパー取付け構造10においては、ダンパー挿入孔211の挿入口212の側から数えて1番目の軸状の固定具23aが貫通している部分に、最も大きい荷重Pがかかり、ダンパー挿入孔211の挿入口212から最も離れた軸状の固定具23cが貫通している部分にボルト位置の上記断面には最も小さい荷重(P/n)がかかる。従って、各々の各軸状の固定具23が貫通している空間を含む上記各断面に均等な応力が発生するように、上記各断面の有効断面積をS=a/n×Sとすることで負担することができる荷重を最も大きくすることができる。
【0033】
従って、ダンパー取付け構造10における上記の各断面における有効断面積Sは軸状の固定具(取付け用ボルト)23の本数をnとし、ダンパー挿入孔211の挿入口212の側から数えてa番目のボルト位置のダンパー1の直線部12の有効断面積をSa、同じくn番目のボルト位置の有効断面積をSnとした場合に、S=a/n×Sとすることがより好ましい。
【0034】
尚、ダンパー取付け構造10においては、図3に示すY方向、Z方向の力は、ダンパー1の直線部12とダンパー挿入孔211との嵌合構造によって負担されるため、軸状の固定具(取付け用ボルト)23にかかる負担はごく微小である。図3に示すX方向の力については、軸状の固定具(取付け用ボルト)23の本数(n)を増やすことによって、上記の各断面にかかる応力をより小さくすることもできる。
【0035】
尚、ダンパー取付け構造10においては、例えば、ダンパー1を形成する上記の棒状の弾塑性部材として、上記の各ボルト位置における「直径方向断面」の面積を必要に応じて任意の部分で適切に変化させた特殊な形状の棒材(「直径方向断面」が不均一な棒材)を用いることによって、各位置における軸部231の径(φa、φ、φ)を均一に保ったまま、各位置におけるダンパーの有効断面積Sが上記条件を満たすように全体構造を調整することも理論的には可能ではある。しかしながら、そのような特殊な形状の棒材は、入手や加工にかかるコストが嵩み、又、ダンパー1と取付け用基台部2との篏合態様も複雑な形状とならざるを得ず、この点においても製造及び保守コストの大幅な増大が避けられない。これに対して、本発明は、そのような特殊な形状の棒材を用いることなく、「直径方向断面」が均一な汎用的な棒材を用いてより低コストで実施することができる。本発明は、この点においても、従来技術に対して優位性を備えるものである。
【0036】
ここで、ダンパー取付け構造10においては、図6に示すように、ダンパー挿入孔211の内周表面と、ダンパー1の直線部12の外周表面との間に微小なクリアランスδが生じることがある。図6に示す状態においては、ダンパー1の直線部12ののうち、ダンパー挿入孔211の内部に挿入された部分においても、ダンパー1を形成する弾塑性材料からなる棒状の部材の曲げ変形が生じうる。一方で、弾塑性材料からなる棒状の部材は、軸状の固定具23が貫通している部分の周辺部分において、他の部分と比較して断面積(有効断面積)が小さい分強度も小さい。このことに起因して、ダンパー1を形成する弾塑性材料からなる棒状の部材においては、ダンパー挿入孔211の挿入口212に最も近い位置にある最前方の軸状の固定具23aを貫通させる貫通孔付近に、上記の曲げ変形が作用することで、早期に当該貫通孔付近において早期の破断が発生することがある。
【0037】
図6に示すように、ダンパー取付け構造10においては、取付け用基台部2のダンパー挿入孔211の挿入口212から、当該挿入口212に最も近い位置にある最前方の軸状の固定具23aの中心軸までの距離で定義される寸法をL、ダンパー1の直径をDとしたときに、L/Dの値を、1.0以上とすることが好ましく、1.4以上とすることがより好ましい。具体的には、最前方の軸状の固定具23aを、L/Dの値が、L/D≧1.0を満たすこととなる位置に配置することが好ましく、同値が、L/D≧1.4を満たすこととなる位置に配置することがより好ましい。これにより、ダンパー挿入孔211の挿入口212に最も近い位置にある最前方の軸状の固定具23aが貫通している部分の直径方向断面に生ずる曲げ上記の変形の影響を小さくできるため、この位置の近傍において特に生じやすいダンパー1を形成する部材の上記破断の発生を抑制することができる。
【0038】
例えば、L/D=0.56として設計した試験用のダンパー取付け構造(比較例)は、下記の「繰返し載荷試験」において、特に図3におけるY方向に加力した際に、ダンパー挿入孔211の挿入口212から、挿入口212に最も近い位置にある最前方の軸状の固定具23aの貫通孔にわたる部分において、いち早く破断が生じていた。これに対して、L/D=1.44として、他の条件は一切変更せずに設計した試験用のダンパー取付構造(実施例)は、上記同様の「繰返し載荷試験」において、ダンパーが破断するまで載荷した終局状態においても、貫通孔周辺部を含む、ダンパー挿入孔211に挿入された部位における破断は発生しないことが確認されている。
【0039】
本明細書において上記の「繰返し載荷試験」とは、図3におけるX方向又はY方向に対して上部基板3と下部基板4を一定振幅にて、ある所定の繰返し数にわたって相対変位させる正負交番載荷を試験用ダンパーに付与する試験のことを言う。本明細書中ではダンパーが破断し、所定の機能を喪失する回数まで載荷を繰り返した場合の試験結果をもとに上記記述を行っている。尚、実際の装置が受ける地震動の方向はX、Y方向の2方向に留まらないが、本発明の効果は任意の加力方向に対して有効に機能することは無論である。
【0040】
尚、ダンパー1の直径方向断面の形状を円形以外の多角形形状とする場合は、ダンパーの直径Dが定義されないため、この場合は、等価断面直径Deqで直径方向断面を定義する。Deqの定義式は下記式(数1)の通りである。
【0041】
【数1】
【0042】
本発明のダンパー取付け構造は、実施形態の一例として、図7に示すダンパー取付け構造10Aとして実施することもできる。ダンパー取付け構造10Aにおいては、軸状の固定具23として、ボルト23a、23b、23cが用いられており、これらの各ボルトは、取付け用基台部2とダンパー1の両方に形成された孔を貫通して、尚且つ、取付け用基台部2に形成された、めねじと篏合することにより、取付け用基台部2とダンパー1とを締結して固定している。
【0043】
本発明のダンパー取付け構造は、実施形態の他の一例として、図8に示すダンパー取付け構造10Bとして実施することもできる。ダンパー取付け構造10Bにおいては、軸状の固定具23として、図6に示すダンパー取付け構造10と同様の軸状の固定具23として、ボルト23a、23b、23c及び、これらと螺合させるナット232(232a、232b、232c)が用いられている。
【0044】
このダンパー取付け構造10Bにおいては、ボルト23a、23b、23cは、取付け用基台部2とダンパー1の両方に形成された孔を貫通し、尚且つ、取付け用基台部2の躯体側に形成された座ぐり24の内部においてナット232を用いて締結されることで、取付け用基台部2とダンパー1とを固定している。ダンパー取付け構造10Bにおいては、躯体側にナット232が配置されているが、ボルトとナットの位置関係を入れ替えてもよい。
【0045】
ダンパー取付け構造10Bにおいては、免震装置100にダンパーを取り付けた後は、座ぐり24の内部の部品を触ることはができなくなるため、ボルトゆるみが発生したときに締め直す手段が基本的には無くなる。しかしながら、図9に示すように座ぐり24の形状を、ナット232の対辺wよりも小さい二面幅Wを有する形状とすることで、ナット232の取付け用基台部2に対する相対回転を抑止することができる。このような構成としておけば、ボルトゆるみが発生したときにも、ボルト23の頭部のみをトルクレンチ等を用いてトルクをかけることにより締め直すことが可能となる。
【0046】
本発明のダンパー取付け構造は、実施形態の他の一例として、図10に示すダンパー取付け構造10Cとして実施することもできる。ダンパー取付け構造10Cにおいては、軸状の固定具23として、リベット25(25a、25b、25c)が用いられている。
【0047】
このダンパー取付け構造10Cにおいては、リベット25(25a、25b、25c)は、取付け用基台部2とダンパー1の両方に形成された孔を貫通し、尚且つ、元はストレートな丸棒形状であるリベットのかしめ部252(252a、252b、252c)の側を押しつぶすことで、平らな形状に変形させると同時に、塑性流動により、取付け用基台部2、及び、ダンパー1とリベット25(25a、25b、25c)との間のクリアランス部分を充填することにより、取付け用基台部2とダンパー1とが安定的に固定される。図10に示す例では、躯体側にリベットの頭部251が配置されているが、頭部を反対側にもってきてもよい。
【0048】
本発明のダンパー取付け構造は、実施形態の他の一例として、図11に示すダンパー取付け構造10Dとして実施することもできる。ダンパー取付け構造10Dにおいては、軸状の固定具23として、ピン26(26a、26b、26c)が用いられている。
【0049】
このダンパー取付け構造10Dにおいては、ピン26(26a、26b、26c)は、取付け用基台部2とダンパー1の両方に形成された孔を貫通し、尚且つ、ピン26(26a、26b、26c)の先端付近に形成された孔部に割りピンを通すことで固定部品の脱落を防いでいる。図11に示す例では、ピン26(26a、26b、26c)の片側には頭部が形成されているが、この頭部な無くし、両方を割りピンでとめてもよい。又、割りピンはスナップリングに置換えてもよい。或いは、割りピンや頭部を用いることなく、圧入や焼き嵌め、冷やし嵌め等、マイナスクリアランスを用いる手法と併用することで、ストレートなピン形状を用いることもできる。
【符号の説明】
【0050】
1(1A~1D) ダンパー
11(11A~11D) 湾曲部
12(12A~12D) 直線部
13(13a、~13c) 直径方向断面
2(2A~2D) 取付け用基台部
21 ダンパー挿入部
211 ダンパー挿入孔
212 挿入口
22 接合板部
23(23a、23b、23c) 軸状の固定具(ボルト)
231(231a、231b、231c) 軸部
232 ナット
24 座ぐり
25(25a、25b、25c) リベット
251(251a、251b、251c) 頭部
252(252a、252b、252c) かしめ部
26(26a、26b、26c) ピン
3 上部基板
4 下部基板
10(10A、10B) ダンパー取付け構造
100 免震装置
S(S1、S2、S3) ダンパーの直径断面の有効断面積
δ クリアランス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11