IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社サザビーリーグの特許一覧

特開2024-39783装身具用耐汗性Au合金及びその製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039783
(43)【公開日】2024-03-25
(54)【発明の名称】装身具用耐汗性Au合金及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 9/00 20060101AFI20240315BHJP
   C22C 30/02 20060101ALI20240315BHJP
   C22C 1/02 20060101ALI20240315BHJP
【FI】
C22C9/00
C22C30/02
C22C1/02 503B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022144391
(22)【出願日】2022-09-12
(71)【出願人】
【識別番号】399073609
【氏名又は名称】株式会社サザビーリーグ
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】増田 徹
(57)【要約】
【課題】Auを一定量含み、硬さや抗張力を与えるためのAg及びCuを比較的多量に含む、汗などによる変色の発生を防止することを目的とする。
【解決手段】Auを15.0~30.0質量%を含む装身具用Au合金であって、少なくとも一種の白金族元素を0.005~5.0質量%含有し、AgとCuを合計で少なくとも65.0質量%含有し、残部としてZnを有する、上記装身具用Au合金により解決される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Auを15.0~30.0質量%を含む装身具用Au合金であって、少なくとも一種の白金族元素を0.005~5.0質量%含有し、AgとCuを合計で少なくとも65.0質量%含有し、残部としてZnを有する、上記装身具用Au合金。
【請求項2】
少なくとも一種の白金族元素がPt及び/またはPdである、請求項1記載の装身具用Au合金。
【請求項3】
Auを19.0~23.0質量%含有する、請求項1記載の装身具用Au合金。
【請求項4】
白金族元素を0.005~2.0質量%含有する、請求項1記載の装身具用Au合金。
【請求項5】
Pt及び/またはPdを0.005~2.0質量%、Agを10.0~30.0質量%、Cuを35.0~70.0質量%含有する、請求項2記載の装身具用Au合金。
【請求項6】
Auを19.0~23.0質量%、Pt及び/またはPdを0.005~2.0質量%、Agを15.0~25.0質量%、及びCuを40.0~60.0質量%含有する、請求項2記載の装身具用Au合金。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のAu合金を製造する方法であって、少なくともAu、Ag、Cu、と少なくとも一種の白金族元素とを、1500~1850℃において溶融混合する工程を含む、上記製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は装身具用Au合金に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にK5等の金を一定量含む装身具用Au合金として、加工性あるいは硬さや抗張力(あるいは引張強さ)の向上を図る目的で、Auに、AG、CuさらにZn等を加えた合金素材が知られている。
しかし、Ag、Cuの配合量が多くなり、例えばAg、Cuの合計が65質量%以上に程度にまでなると、酸化による変色が発生しやすくなる。特に指輪、イヤリング、ネックレスなどの装身具や装飾品はヒトの肌に直接触れるため、汗などの酸性環境によって、Au合金が変色を起こしやすくなるという問題があった。
なお、18Kなどの比較的Au含有率の高い装身具用Au合金において、新たな色調を与えるために、PtあるいはPd,Ag、及びCuを少量ずつ加えることが従来報告されている(特許文献1)が、これらのAu合金においても汗による変色を防ぐ技術は報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-53917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、K5等のAuを一定量含むAu合金について、加工性を改善し、硬さや抗張力を与えるためにAg及びCuを比較的多量に(Ag及びCuの合計が65質量%以上)配合させたときに生じる、汗などによる変色(黒味をおびたり、光沢感が減少する)の発生を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
K5等のAuを一定量含むAu合金について、変色耐性のある合金を開発すべく研究を行った結果、Pt等の少なくとも一種の白金族元素を一定量添加したところ、汗などの酸性環境において変色耐性のある合金を得ることができることを見いだした。
すなわち、本発明は以下を提供する。
〔1〕Auを15.0~30.0質量%を含む装身具用Au合金であって、少なくとも一種の白金族元素を0.005~5.0質量%含有し、AgとCuを合計で少なくとも65.0質量%含有し、残部としてZnを有する、上記装身具用Au合金。
〔2〕少なくとも一種の白金族元素がPt及び/またはPdである、前記〔1〕記載の装身具用Au合金。
〔3〕Auを19.0~23.0質量%含有する、前記〔1〕記載の装身具用Au合金。
〔4〕白金族元素を0.005~2.0質量%含有する、前記〔1〕記載の装身具用Au合金。
〔5〕Pt及び/またはPdを0.005~2.0質量%、Agを10.0~30.0質量%、Cuを35.0~70.0質量%含有する、前記〔2〕記載の装身具用Au合金。
〔6〕Auを19.0~23.0質量%、Pt及び/またはPdを0.005~2.0質量%、Agを15.0~25.0質量%、及びCuを40.0~60.0質量%含有する、前記〔2〕記載の装身具用Au合金。
〔7〕前記〔1〕~〔6〕のいずれか一項に記載のAu合金を製造する方法であって、少なくともAu、Ag、Cuと少なくとも一種の白金族元素とを、1500~1850℃において溶融混合する工程を含む、上記製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の装身具用Au合金を用いて指輪やイヤリング等の装身具を製造すると、汗などの酸性環境において変色を防止することができ、付加価値の高い装身具を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
<装身具用Au合金>
本発明の装身具用Au合金は、Auを15.0~30.0質量%を含む装身具用Au合金であって、白金族元素を0.005~5.0質量%含有し、AgとCuを合計で少なくとも65.0質量%含有し、残部としてZnを有する。
本明細書において、装身具とは、指輪、イヤリング、ピアス、ブレスレット、ネックレス、アンクレット、ペンダント、ブローチ、時計など、一般的にAu合金を用いて製造される装飾品を意味する。これらの装身具の少なくとも一部に本発明のAu合金が用いられていればよい。
【0008】
本明細書においてAu合金とは、15.0~30.0質量%のAuを含む合金である。Au合金には、K18、K10、K8、K5など様々なAu含有量のものがあり、装身具の種類や用途あるいは意匠などに応じて適宜選択して用いる。本発明が対象としているのは、Auを15.0~30.0質量%含み、かつAgとCuを合計で少なくとも65.0質量%含むAu合金である。例えば、K5、K7などの金含有量のAu合金であることが好ましい。
本発明のAu合金におけるAuの含有率は、15.0~30.0質量%であり、好ましくは19.0~23.0質量%であり、より好ましくは20.5~21.5質量%である。
【0009】
本発明のAu合金は、Au以外に主としてCuとAgを含んでおり、CuとAgの合計含有率は、65質量%以上である。CuとAgを含むことにより特にAu合金の加工性が良好になり、また硬さや抗張力を調節することができる。Agを10.0~30.0質量%含むことが好ましく、15.0~25.0質量%含むことがより好ましい。Cuは35.0~70.0質量%含むことが好ましく、40.0~60.0質量%含むことがより好ましい。CuとAgの合計質量は、特に加工性とコストのバランスの観点から、68.0質量%以上であることが好ましく、70.0質量%以上であることがより好ましく、72.0質量%以上であることがさらに好まし、また、85.0質量%以下であることが好ましく、80.0質量%以下であることがより好ましく、75.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0010】
本発明のAu合金は、上述のAu、Cu及びAgの所定の含有量に加えて、白金族元素を0.005~5.0質量%含有する点に特徴を有している。理由は不明であるが、汗などの酸性環境における変色を防ぐことができることが見いだされたからである。すなわち、PtまたはPdなどの白金族元素を0.005~5.0質量%添加した合金とすることにより、白金族元素を含まない従来のAu合金において酸性環境において見られる変色(黒味をおびる変色)を防ぐことができる。Au合金中の白金族元素の含有量は好ましくは0.005~2.0質量%であり、より好ましくは0.008~1.0質量%であり、さらに好ましくは0.01~0.8質量%であり、なお好ましくは0.02~0.5質量%であり、よりさらに好ましくは0.05~0.2質量%である。
白金族元素とは、周期表第8、9、10族に属する元素のうち、鉄族元素を除いたルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金のことを指す。ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、及び白金からなる群より選択されることが好ましく、パラジウム(Pd)及び/または白金(Pt)であることが好ましい。また、同じ量で用いた場合の効果の観点から、Ptがより好ましい。
【0011】
本発明のAu合金は、上述のとおり、Au、Cu、Ag、及び、白金族元素を所定量含み、残部としてZnを含有する。Znの含有量は1.0~10.0質量%の範囲であることが好ましく、さらに2.0~7.0質量%であることがより好ましい。Znを少量加えることにより、融点が下がるため、鋳造時の流動性がよくなり加工性が改良されるためである。また、Au合金の酸化防止効果もあるため添加することが好ましい。
【0012】
本発明の好ましい1つの態様として、Auを15.0~30.0質量%含み、Agを10.0~30.0質量%、Cuを35.0~70.0質量%含有し(ただしAgとCuの合計量は65.0質量%以上である)、PtまたはPdを0.005~2.0質量%含有し、残部がZnである、装身具用Au合金、が挙げられる。
本発明の好ましい他の態様として、Auを19.0~23.0質量%含み、Agを15.0~25.0質量%、Cuを40.0~60.0質量%含有し(ただしAgとCuの合計量は65.0質量%以上である)、PtまたはPdを0.005~2.0質量%含有し、残部がZnである、装身具用Au合金、が挙げられる。
【0013】
<装身具用Au合金の製造方法>
本発明の他の態様は、上述のAu合金を製造する方法であって、少なくともAu、Ag、Cu、と少なくとも一種の白金族元素とを、1500~1850℃において溶融混合する工程を含む、上記製造方法である。
本発明の製造方法における、Au、Ag、Cu及び白金族元素の各原料金属の所定量を溶融混合する温度は、好ましくは1550~1750℃である。白金族元素がPdの場合は、温度は1550~1650℃であることが好ましく、1555~1620℃であることがより好ましい。白金族元素がPtの場合は、温度は1650~1850℃であることが好ましく、1700~1820℃がより好ましく、1768~1800℃がさらに好ましい。温度が低い場合には均一に溶融混合が起こらない場合がある。これらの金属が溶解したことは、目視とX線検査機で確認することができる。X線検査機として、例えば、フィッシャー・インストメルツ社製のXAN 252を使用することができる。
この後Znの残部量を足して、溶融を行い、Au合金とする。この段階において、金属が溶解したことは、目視とX線検査機で確認することができる。
溶融金属を冷却して、圧延し、例えば角棒にすることができる。その後鋳造機等で合を溶融して鋳型を用いて地金を製造することができる。
得られた地金から、通常の方法により、目的の装身具やその部品などを製造することが可能である。
【実施例0014】
[実施例1~4及び比較例1]
<K5合金(地金)製造>
以下の手順に従って、従来品及び本発明のK5合金を製造した。
(1)鋳造機に、表2に記載される各量(表2中の「%」は「質量%」を意味する)の、Au、Ag、Cu、Pt(またはPd)を入れて溶融させた。溶融温度はPtの融点である1768℃以上で行った。
上記四元合金が均一に溶けているか否かは、ベテランキャスト職人が目視で確認し、またX線検査機(フィッシャー・インストメルツ社製のXAN 252)で確認した。
(2)その後、Zn5.0質量%を加えて、五元合金を製造した。Znが溶け込んでいるか否かは、キャスト職人が目視で確認し、またX線検査機(XAN 252)で確認した。
(3)製造された五元合金を冷却し、圧延して角棒にした。
(4)鋳造機で五元合金を溶融して鋳型に流し込み、鋳型に流し込んだ五元合金ごと水にいれて、地金を冷却した。
(5)鋳型から地金を取り出し、K5のキャスト地金を得た(比較例1、実施例1~4)。
【0015】
<装身具の製造>
装身具(指輪)の原型から従来の手法に従って鋳型を作製し、鋳型を真空吸引加圧鋳造機にセットし、上で作成した比較例1、実施例1~4の各地金を流し込んだ。鋳造機から鋳型を出し、水で急冷・徐冷を行い、埋没材を除去して、最後に酸洗いをして、地金本来の色を出し、研磨仕上げを行った。
【0016】
<耐汗性試験>
比較例1、実施例1~4の各地金から製造した指輪を下記組成の人工汗液(ATTS繊維製品技術研究会「ATTS人工汗(酸性)」使用)に浸漬し、47±2℃の恒温槽で下記静置時間の間、静置した後、人工汗液から取り出し洗浄した。乾燥後、外観観察を行った。本試験は、製品品質管理を専門に行う日本ラボテック株式会社により行った。
外観観察により、浸漬前(未処理品)と比較して錆、色がどうなったかについて記述し、それを基に以下のように評価した。
○:錆は確認されなかった。わずかに色が濃くなった。
×:錆は確認されなかった。黒味が増し、色が濃くなった。
結果を表2に示す。
【0017】
【表1】
【0018】
【表2】
【0019】
表2から明らかなとおり、従来品は、人口汗液への浸漬により96時間後に、黒味が増し、色が濃くなった。一方、実施例1~4の、PtあるいはPdを0.01質量%あるいは0.1質量%加えた合金では、96時間ではわずかに色が濃くなっただけであった(表2)。PtまたはPdを、0.01~0.1質量%と非常にわずかに添加したのみで、耐汗性(変色抑制)が明らかに向上しており、これは驚くべき効果である。96時間以降徐々に変色が進み、240時間後に従来品と同程度に変色が進んだ。
【0020】
[実施例5]
<K5合金(地金)製造>
実施例1と同様の手順に従って、実施例5と比較例1-2のK5合金を製造した。実施例5の金属組成は、実施例1の組成のうち、Agを21.37質量%とし、Ptを0.5質量%とした以外は全て同じ組成を用いた。比較例1-2の金属組成は、比較例1と全く同じであった。
<装身具の製造>
実施例5と比較例1-2のK5合金から装身具(指輪)の製造を実施例1と同じように行った。
<耐汗性試験>
製造した指輪を実施例1と同じ条件で人工汗液に浸漬して、所定の静置時間後、洗浄、乾燥後、外観観察を行った。実施例5については3検体について、比較例1-2については2検体について繰り返し行った。本試験は、製品品質管理を専門に行う日本ラボテック株式会社により行った。
静置時間192時間においてそれぞれ評価したところ、実施例5についてはいずれの検体も、浸漬前(未処理品)と比較して、「錆は確認されなかった。わずかに色が濃くなった。」(評価:○)であり、一方、比較例1-2についてはいずれの検体も「錆は確認されなかった。黒味が増し、色が濃くなった。」(評価:×)であった。Ptを0.5質量%添加したのみで、耐汗性(変色抑制)が明らかに向上しており、これは驚くべき効果である。