(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039784
(43)【公開日】2024-03-25
(54)【発明の名称】医療デバイス
(51)【国際特許分類】
A61M 25/00 20060101AFI20240315BHJP
【FI】
A61M25/00 550
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022144396
(22)【出願日】2022-09-12
(71)【出願人】
【識別番号】390030731
【氏名又は名称】朝日インテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136630
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 祐啓
(74)【代理人】
【識別番号】100201514
【弁理士】
【氏名又は名称】玉井 悦
(72)【発明者】
【氏名】沢田 知也
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA01
4C267BB02
4C267BB16
4C267CC09
4C267GG05
4C267GG07
4C267GG09
4C267GG22
4C267GG24
(57)【要約】
【課題】石灰化等の硬質化した病変部へ進入させるための医療デバイスにおいて、オーガの変形を防止することのできる医療デバイスを提供する。
【解決手段】本開示の医療デバイス(カテーテル1)は、第1の方向で巻き回された第1コイル体21と、第1の方向とは異なる第2の方向で第1コイル体の外側に巻き回された第2コイル体22を備える。第2コイル体22は、少なくとも自身の先端部においてオーガ3として構成され、オーガ3の先端部3aは、第1コイル体21に接合している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の方向で巻き回された第1コイル体と、前記第1の方向とは異なる第2の方向で前記第1コイル体の外側に巻き回された第2コイル体と、を備え、
前記第2コイル体は、少なくとも自身の先端部においてオーガとして構成され、前記オーガの先端部は、前記第1コイル体に接合されていることを特徴とする医療デバイス。
【請求項2】
前記第1コイル体は、前記オーガの後端よりも先端側の少なくとも一部において素線同士が離れている請求項1に記載の医療デバイス。
【請求項3】
前記第1コイル体の素線同士が離れることで形成されている間隙には、樹脂が充填されている請求項2に記載の医療デバイス。
【請求項4】
前記第2コイル体は、前記オーガと、前記オーガの基端部に接合された多条コイルと、を含む、請求項1~3の何れか一項に記載の医療デバイス。
【請求項5】
前記第2コイル体は、疎巻きである、請求項1~4の何れか一項に記載の医療デバイス。
【請求項6】
前記第1コイル体は、少なくとも前記オーガの後端よりも後端側において密巻きである、請求項1~5の何れか一項に記載の医療デバイス。
【請求項7】
前記第1コイル体は、多条コイルである、請求項1~6の何れか一項に記載の医療デバイス。
【請求項8】
前記オーガの外径の最大値は、前記第2コイル体における前記オーガの基端部よりも後端の部位の外径の最大値よりも大きい請求項1~7の何れか一項に記載の医療デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、医療デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、血管や消化器官等の狭窄部や閉塞部等の手術において、病変部に進入するためのオーガを備えたカテーテルの技術が知られている。例えば、特許文献1には、回転操作が可能なシャフトの先端部分に、オーガ及びオーガの保護層を設けたカテーテルの発明が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の発明によれば、オーガをナイロンやポリエステル等の樹脂により形成したため、石灰等により硬質化した病変部に進入する際にオーガが潰れ易く、オーガの効果が低下するという問題があった。
【0005】
オーガを金属等の高弾性率の部材により形成すると、高い推進力を得られる。ところが、オーガ先端を病変部に進入させる際に、オーガ先端から抵抗がかかり、カテーテルの基端側からのトルク伝達が優勢となり、オーガを外周側に向けて開く力が働いて、オーガが変形して浮いてしまうという問題があった。オーガに保護層を設けても変形を抑制できず、また、オーガの変形によって、カテーテルが抜去できなくなったり、オーガが離断して病変部に残留したりする恐れもあった。
【0006】
そこで、本開示の目的は、オーガの変形を防止することのできる医療デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示の医療デバイスは、第1の方向で巻き回された第1コイル体と、第1の方向とは異なる第2の方向で第1コイル体の外側に巻き回された第2コイル体と、を備え、第2コイル体は、少なくとも自身の先端部においてオーガとして構成され、オーガの先端部は、第1コイル体に接合されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本開示のカテーテルによれば、第1コイル体と第2コイル体とを相互に異なる方向に巻き回し、第2コイル体の少なくとも先端部においてオーガとして構成し、オーガの先端部を第1コイル体に接合している。このため、オーガが病変部に向けて前進する場合には第1コイル体のトルクがオーガに伝わり、一方、オーガが病変部から後退する場合には第2コイル体からのトルクがオーガに伝わるため、オーガには内周側に締まる力が働き、オーガの変形を防止できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】(a)第1コイル体、(b)第2コイル体の模式図である。
【
図3】(a)カテーテルを病変部に向けて前進させる様子を示す模式図、(b)第1コイル体のオーガへの作用を示す作用図である。
【
図4】(a)カテーテルを病変部から後退させる様子を示す模式図、(b)第3コイル体のオーガへの作用を示す作用図である。
【
図6】実施形態2のカテーテル先端付近の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の医療デバイスをカテーテルとして具体化した一実施形態を図面に基づいて説明する。本開示においては、カテーテルは、貫通カテーテルである。以下の説明において、
図1の左側を体内に挿入する先端側(遠位側)、右側を医師等の手技者によって操作される後端側(手元側、基端側)とする。また、基端から先端に向かう方向を前進方向、先端から基端に向かう方向を後退方向とする。
【実施例0011】
図1,2に示すように、実施例1のカテーテル1は、インナーチューブ4と、インナーチューブ4の先端に設けられた先端チップ6と、インナーチューブ4と同軸に設けられたアウターチューブ5と、医師等の手技者が操作する操作部であるコネクタ7と、コネクタ7に加えられたトルクを伝達するコイル2(第1,2コイル体21,22)とを備える。カテーテル1は、例えば、心臓の血管(冠動脈)の狭窄部や閉塞部等の治療等に用いられるものである。
【0012】
アウターチューブ5及びインナーチューブ4は、樹脂から形成され可撓性を有する円筒状の部材である。インナーチューブ4はアウターチューブ5に挿通され、インナーチューブ4の基端部4bはアウターチューブ5の基端部5bに接続されている。インナーチューブ4の内部には、ガイドワイヤ8を挿通する空間が形成されている。アウターチューブ4は、オーガ3と第3コイル体23との接合部22cの手前まで延びており、先端部4a及び基端部4bは、コイル2と接合されている。アウターチューブ5やインナーチューブ4に用いられる樹脂は、ポリアミド、ポリアミドエラストマー、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリエステルエラストマー等を採用できる。
【0013】
ここで、コイル2とインナーチューブ4及びアウターチューブ5との接合状態のバリエーションを(1)~(3)に示す。
(1)コイル2とインナーチューブ4とが、両端(先端部2a,4a、基端部2b,4b)を含む2か所以上で接合され、かつ、コイル2とアウターチューブ5とが、両端(先端部2a,5a、基端部2b,5b)を含む2か所以上で接合されている。
(2)コイル2の外周部にアウターチューブ5が圧着されている。
(3)コイル2の間隙を通じてコイル2の内部にアウターチューブ5が侵入し、侵入したアウターチューブ5がインナーチューブ4に圧着されている。
【0014】
先端チップ6は、樹脂(ポリウレタン、ポリウレタンエラストマー、ポリアミド、ポリアミドエラストマー等)から形成されている。先端チップ6は、インナーチューブ4の先端部4aを形成する樹脂よりも柔軟な樹脂から形成されていてもよい。先端チップ6は、先端に向かって外径が漸進的に減少するテーパ筒状の部材である。先端チップ6は、インナーチューブ4と同軸に設けられている。
【0015】
コイル2の素線は、1本の材料から構成される単線、又は、複数の材料を撚り合わせた撚り線である。単線の材質は、金属でもよいし、樹脂でもよいし、金属及び樹脂の複合材料でもよい。上記金属としては、ステンレス鋼等が挙げられる。上記樹脂としては、PEEK、PET、ポリイミド等の硬い樹脂が好ましい。上記複合材料は、金属線をコアとし、外側に樹脂層を被覆したモノフィラメントが例示される。撚り線の材質は、ステンレス鋼、プラチナ(Pt)、白金イリジウム(PtーIr)、ニッケルチタン(NiーTi)等の金属である。また、単線は、丸線、三角線、台形線、矩形線等の任意の断面形状を有するものを選択できる。
【0016】
コイル2は、第1コイル体21と、第2コイル体22とを含む。第1コイル体21は、第1の方向でインナーチューブ4に巻き回されている。第2コイル体22は、第1の方向とは異なる第2の方向で第1コイル体21の外側に巻き回され、少なくとも自身の先端部22aを含む所定の領域r2においてはオーガ3として構成されている。第2コイル体22は、オーガ3と、第3コイル体23とを含む。オーガ3の基端部3bと、第3コイル体23の先端部23aとは接合されている。オーガ3の先端部3aは、第1コイル体21の先端部21aに接合されている。
【0017】
オーガ3は、1~4条の右ネジ又は左ネジで構成される。オーガ3が右ネジの場合、右ネジの巻き方向が第1の方向であり、左ネジの巻き方向が第2方向である。オーガ3が右ネジの場合は、右回転(正回転)により病変部D内において前進し、左回転(逆回転)により病変部D内において後退する。また、オーガ3は、第3コイル体23と同じ方向に、かつ、第3コイル体23とは異なるピッチで巻き回されている。また、オーガ3は、第3コイル体23よりも外接円の最大径が大きくなるように設けられている。つまり、オーガ3の外径の最大値は、第3コイル体23の最大値よりも大きい。オーガ3は、先端部3aに向かって徐々に外接円の径を小さくすることができる。
【0018】
第1コイル体21は、密巻きに巻き回された多条コイルである。「密巻き」とは、軸方向に密着または近接し、締まる方向に回転すると素線同士の干渉が発生する巻き状態を示す。ここで、カテーテル1が病変部Dに向けて前進すると、第1の方向で巻き回された第1コイル体21は、前進方向の回転によって締まる方向に変形する。このとき、第1コイル体21は密巻きであるため、素線間の隙間が無い又は極僅かとなり、多条コイルの素線同士がより強く干渉することとなり、前進方向のトルク伝達特性を向上させることができる。第1コイル体21の先端部21aは、インナーチューブ4の先端部4aと接合されている。あるいは、第1コイル体21の先端部21aは、先端チップ6と接合することも可能である。
【0019】
第3コイル体23は、疎巻きに巻き回された多条コイルである。「疎巻き」とは、軸方向に間隔を有する状態で巻き回され、締まる方向に回転しても素線同士の干渉が発生しない巻き状態を示す。第3コイル体23を多条コイルとしたため、後退方向のトルク伝達特性を向上させることができる。後退方向では、第3コイル体23が締まる方向に回転させることになり、第1コイル体21との干渉が生じるため、トルク伝達性を向上させることが出来る。
【0020】
ここで、第1コイル体21を密巻きとしたことにより、カテーテル1を前進方向に回転させる際のオーガ3のトラップ防止効果および剥離防止効果をより高めることができる。第1コイル体21を密巻きとすると、第1コイル体21の素線同士の干渉が発生し、これによって前進時における第1コイル体21のトルクがより高まり、カテーテル1の先端側からトルクが伝えられる。その結果、オーガ3が内周側に締まる力が働く。この結果、上記効果が得られる。
【0021】
次に、上記のように構成されたカテーテル1を用いた手術の流れを説明する。まず、血管の硬質化した病変部Dにガイドワイヤ8を挿通する。次に、挿通されたガイドワイヤ8に沿って、カテーテル1を病変部Dに向けて挿通する。
【0022】
ここで、
図3に示すように、カテーテル1を病変部Dに向けて前進する方向に回転させると、オーガ3の先端部3a側に抵抗がかかり、オーガ3の基端部3b側からのトルクがかかる。一方、第1コイル体21の素線同士の干渉効果によって、第1コイル体4全体のトルクが高まり、基端側からのトルクに抗して、カテーテル1の先端側からのトルクがオーガ3に優勢に伝えられる。このため、オーガ3には、内周側に向けて締まる力f1(
図3(b))がかかり、オーガ3は、第1コイル体21を掴むような挙動をとる。
【0023】
カテーテル1を病変部Dに向けて挿通した後、カテーテル1を抜去する。その後、バルーン(図示なし)を膨張させ、血管を内側から押し拡げる。最後に、ステント(図示なし)をデリバリーし、拡張させて留置する。以上の手術により、血液の通路が構築され、血流を回復させることができる。
【0024】
ここで、
図4に示すように、カテーテル1を病変部Dから後退する方向に回転させると、ねじれにより第1コイル体21は外周方向に開くように変形する。対して、第3コイル体23は内周方向に締まるように変形するため、第1コイル体21と第3コイル体23の変形が干渉し合う。その結果、みかけの捻じれ剛性が高くなり、高トルクが発生する。このためカテーテル1の基端側からのトルクがオーガ3に優勢に伝えられる。この結果、オーガ3には、内周側に向けて締まる力f2(
図4(b))がかかり、オーガ3は、第1コイル体21を掴むような挙動をとる。
【0025】
実施例1のカテーテル1によれば、オーガ3には、進行方向に依らず、必ず、内周側に締まる力が働くため、オーガ3が外周側に開く力を抑止し、オーガ3の変形を防止できるという効果を奏する。
実施例2のカテーテル1によれば、カテーテル1の先端部、即ち領域r1において、第1コイル体21を疎巻きとしたため、カテーテル1の先端部の柔軟性を向上させることができる。一方、第1コイル体21の間隙sに樹脂9を充填したため、樹脂9を介して、素線同士の干渉を確実に伝達させることができ、前進方向のトルク伝達特性を向上させることができる。
なお、本開示は、上記実施形態に限定されるものではなく、下記(1)~(5)のように、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で各部の形状や構成を適宜に変更して実施することも可能である。
(1)カテーテル1は、貫通カテーテル以外の医療デバイスでもよい。例えば、石灰に割面を入れ拡張したり、拡張させやすくするような使用目的で用いられるダイレータ等の医療デバイスであってもよいし、その他の長尺の医療デバイスでもよい。
(2)接合方法は、熱溶着であってもよく、また、エポキシ系接着剤やシアノアクリレート系接着剤等の接着剤を塗布してもよい。
(3)オーガ3は、第1コイル体21との接合部を含む一部若しくは全周を、ポリアミドエラストマーやポリウレタンエラストマー、シリコーン等で被覆しても良い。
(4)第1コイル体21を一条コイルとしてもよいし、第3コイル体23を一条コイルとしてもよい。
(5)第2コイル体22は、オーガ3のみで形成されてもよい。つまり、第2コイル体22の基端部22bが、オーガ3の基端部3bと一致していてもよい。