(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039787
(43)【公開日】2024-03-25
(54)【発明の名称】悪性腫瘍治療剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/522 20060101AFI20240315BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240315BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240315BHJP
【FI】
A61K31/522
A61P35/00
A61P43/00 111
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022144405
(22)【出願日】2022-09-12
(71)【出願人】
【識別番号】502285457
【氏名又は名称】学校法人順天堂
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】砂田 成章
(72)【発明者】
【氏名】三木 義男
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB07
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB26
4C086ZC20
(57)【要約】 (修正有)
【課題】トポイソメラーゼIIαを特異的に阻害する悪性腫瘍治療剤を提供する。
【解決手段】次の一般式(1)
(式中、X
1及びX
2は、同一又は異なって、水素原子又はハロゲン原子を示し、R
1及びR
2は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を示す)
で表されるプリン誘導体又はその塩を含有する悪性腫瘍治療剤。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の一般式(1)
【化1】
(式中、X
1及びX
2は、同一又は異なって、水素原子又はハロゲン原子を示し、R
1及びR
2は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を示す)
で表されるプリン誘導体又はその塩を含有する悪性腫瘍治療剤。
【請求項2】
次の一般式(1)
【化2】
(式中、X
1及びX
2は、同一又は異なって、水素原子又はハロゲン原子を示し、R
1及びR
2は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を示す)
で表されるプリン誘導体又はその塩を含有するトポイソメラーゼIIα阻害剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、悪性腫瘍治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
がん細胞は無秩序な増殖を繰り返し、正常な細胞を障害し組織を壊したり、転移を行うことで本来がんのかたまりがない組織でも増殖を行う。細胞の増殖には遺伝情報が刻まれたDNAの複製が必要となり、複製時にはDNAが持つらせん構造のねじれやひずみを一度解消させる必要がある。このらせん構造を変化させる酵素にトポイソメラーゼがあり、I型とII型のタイプが存在する。トポイソメラーゼIはDNAの2重らせん構造のうち1本を切断し再結合に関与する。トポイソメラーゼIIは2重らせん構造の両方を切断し再結合に関与する。このトポイソメラーゼIIを阻害することによる悪性腫瘍治療剤としては、エトポシドが知られている(非特許文献1)。また、ドキソルビシンなどのアントラサイクリン系悪性腫瘍治療剤も、トポイソメラーゼII阻害作用を有することが知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Scientific Reports,8,10344(2018)
【非特許文献2】Nature Medicine,18,1639-1642(2012)
【非特許文献3】Radiation Research,188,591-594(2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
トポイソメラーゼIIには、α型とβ型の二つのタイプがあり、エトポシドやドキソルビシンが阻害するのは、トポイソメラーゼIIα及びIIβの両方であることがわかってきた。そして、ドキソルビシンによる心毒性は、心筋細胞におけるトポイソメラーゼIIβの機能障害を介して起こることもわかってきた(非特許文献2)。
従って、本発明の課題は、トポイソメラーゼIIαを特異的に阻害する悪性腫瘍治療剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで本発明者は、DNA2本鎖切断(DNA double-strand break:DSB)定量システム(非特許文献3)を用いて、種々の癌細胞におけるDSB形成を生じさせる化合物をスクリーニングした。その結果、特定のプリン誘導体が多様な癌細胞株でDSB形成作用を示し、そのプリン誘導体は、細胞増殖抑制及びDNA損傷応答として特異的に起こるG2/M細胞周期アレストを引き起こすことも見出した。次に、多種の癌細胞株に対する細胞毒性作用を検討し、得られたフィンガープリントを用いて、既知の250化合物のデータベースをもとに類似性についてドライ解析した結果、そのプリン誘導体はトポイソメラーゼ阻害作用により抗がん効果を示していると予測された。そこで、そのプリン誘導体のトポイソメラーゼ阻害剤との競合作用を検討したところ、そのプリン誘導体はトポイソメラーゼ阻害剤との競合阻害を示し、さらに機能欠失実験により、その作用はトポイソメラーゼIIα特異的阻害剤であることが判明した。さらに、そのプリン誘導体は、in vivoでも優れた抗癌効果を有すること確認し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、次の発明[1]~[8]を提供するものである。
[1]次の一般式(1)
【0007】
【0008】
(式中、X1及びX2は、同一又は異なって、水素原子又はハロゲン原子を示し、R1及びR2は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を示す)
で表されるプリン誘導体又はその塩を含有する悪性腫瘍治療剤。
[2]次の一般式(1)
【0009】
【0010】
(式中、X1及びX2は、同一又は異なって、水素原子又はハロゲン原子を示し、R1及びR2は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を示す)
で表されるプリン誘導体又はその塩を含有するトポイソメラーゼIIα阻害剤。
[3]悪性腫瘍治療剤製造のための、次の一般式(1)
【0011】
【0012】
(式中、X1及びX2は、同一又は異なって、水素原子又はハロゲン原子を示し、R1及びR2は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を示す)
で表されるプリン誘導体又はその塩の使用。
[4]トポイソメラーゼIIα阻害剤製造のための、次の一般式(1)
【0013】
【0014】
(式中、X1及びX2は、同一又は異なって、水素原子又はハロゲン原子を示し、R1及びR2は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を示す)
で表されるプリン誘導体又はその塩の使用。
[5]悪性腫瘍を治療するための次の一般式(1)
【0015】
【0016】
(式中、X1及びX2は、同一又は異なって、水素原子又はハロゲン原子を示し、R1及びR2は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を示す)
で表されるプリン誘導体又はその塩。
[6]トポイソメラーゼIIαを阻害するための次の一般式(1)
【0017】
【0018】
(式中、X1及びX2は、同一又は異なって、水素原子又はハロゲン原子を示し、R1及びR2は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を示す)
で表されるプリン誘導体又はその塩。
[7]次の一般式(1)
【0019】
【0020】
(式中、X1及びX2は、同一又は異なって、水素原子又はハロゲン原子を示し、R1及びR2は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を示す)
で表されるプリン誘導体又はその塩を投与することを特徴とする悪性腫瘍の治療方法。
[8]次の一般式(1)
【0021】
【0022】
(式中、X1及びX2は、同一又は異なって、水素原子又はハロゲン原子を示し、R1及びR2は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を示す)
で表されるプリン誘導体又はその塩を投与することを特徴とするトポイソメラーゼIIαの阻害方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明のプリン誘導体又はその塩を含有する医薬組成物を用いれば、癌患者のトポイソメラーゼIIαが特異的に阻害され、安全かつ確実に悪性腫瘍を治療することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】化合物Aの癌細胞株のDNA二本鎖切断(DSB)形成作用を示す図である。
【
図2】化合物Aの癌細胞に対する増殖抑制効果を示す図である。
【
図3】化合物Aの細胞周期に対する作用を示す図である。
【
図4】化合物Aの細胞パネル試験によるフィンガープリントを示す図である。
【
図5】COMPARE解析による化合物Aの類似化合物のランキングを示す図である。
【
図6】化合物A及びエトポシド(ETP)とトポイソメラーゼII阻害剤(ICRF193)のDNA二本鎖切断(DSB)形成作用における競合阻害を示す図である。
【
図7】siRNAによるトポイソメラーゼIIα及びIIβのノックダウン効率を示す図である。
【
図8】トポイソメラーゼIIの機能欠失実験における化合物AのDNA二本鎖切断(DSB)形成作用を示す図である。
【
図9】化合物A及び化合物Bの癌細胞株のDNA二本鎖切断(DSB)形成作用を示す図である。
【
図10】体重の推移に対する化合物A及びエトポシド(ETP)の影響を示す図である。
【
図11】腫瘍体積の推移に対する化合物A及びエトポシド(ETP)の影響を示す図である。
【
図12】腫瘍重量の推移に対する化合物A及びエトポシド(ETP)の影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、プリン誘導体又はその塩を含有する悪性腫瘍治療剤又はトポイソメラーゼIIα阻害剤であり、本発明の一態様は、次の一般式(1)
【0026】
【0027】
(式中、X1及びX2は、同一又は異なって、水素原子又はハロゲン原子を示し、R1及びR2は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を示す)
で表されるプリン誘導体又はその塩を含有する悪性腫瘍治療剤又はトポイソメラーゼIIα阻害剤である。
【0028】
式(1)中のX1及びX2は、同一又は異なって、水素原子又はハロゲン原子を示す。ここで、ハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、フッ素原子、ヨウ素原子が挙げられるが、塩素原子、臭素原子又はフッ素原子が好ましく、塩素原子又はフッ素原子がより好ましく、塩素原子がさらに好ましい。
X1及びX2は、同一又は異なって、水素原子又はハロゲン原子を示すが、X1がハロゲン原子、X2が水素原子又はハロゲン原子であるのが好ましい。より好ましくは、X1が塩素原子又はフッ素原子であり、X2水素原子、塩素原子又はフッ素原子である場合であり、さらに好ましくは、X1が塩素原子であり、X2水素原子又は塩素原子である場合である。
【0029】
式(1)中のR1及びR2は、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を示す。ここで、炭素数1~6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基、イソブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基などが挙げられる。このうち、炭素数1~4のアルキル基が好ましく、炭素数1~3のアルキル基がより好ましく、メチル基、エチル基がさらに好ましい。
R1とR2の組み合わせとしては、R1及びR2が水素原子の場合、R1及びR2が炭素数1~6のアルキル基の場合がより好ましい。R1及びR2が水素原子の場合、R1及びR2が炭素数1~4のアルキル基の場合がさらに好ましい。R1及びR2が水素原子の場合、R1及びR2が炭素数1~3のアルキル基の場合がよりさらに好ましい。R1及びR2が水素原子の場合、R1及びR2が炭素数1~2のアルキル基の場合がよりさらに好ましい。
【0030】
式(1)で表される化合物の塩としては、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩などの鉱酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、コハク酸塩などの有機酸塩が挙げられる。また、式(1)で表される化合物には、種々の異性体が存在する場合があり、それらの異性体、異性体の混合物が含まれる。さらに、式(1)で表される化合物又はその塩の水和物も含まれる。
【0031】
式(1)の化合物又はその塩は、既に知られている化合物であり、それ自体公知の方法により製造することもできるし、市販品を購入することもできる。
【0032】
式(1)の化合物は、後記実施例に示すように、トポイソメラーゼIIα特異的阻害剤である。従って、多様な癌細胞に対してDNA二本鎖切断(DSB)を形成し、広範囲の癌に対して優れた抗癌作用を示す。また、トポイソメラーゼIIα特異的阻害剤であるから、ドキソルビシンのような心毒性を示さず、安全性も高いものと考えられる。さらに、多くの抗癌剤に対して耐性を誘発する、薬剤排出P糖タンパク陽性癌細胞株に対して増殖抑制効果を示すことから、薬剤耐性の癌に対しても有効である。
【0033】
本発明の悪性腫瘍治療剤の対象癌としては、例えば頭頚部癌、食道癌、胃癌、結腸癌、直腸癌、肝臓癌、胆嚢・胆管癌、胆道癌、膵臓癌、肺癌、乳癌、卵巣癌、子宮頚癌、子宮体癌、腎癌、膀胱癌、前立腺癌、精巣腫瘍、骨・軟部肉腫、白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、皮膚癌、脳腫瘍、中皮腫等が挙げられる。
【0034】
式(1)の化合物又はその塩を医薬として用いるにあたっては、必要に応じて薬学的担体と配合し、治療目的に応じて各種の投与形態(医薬組成物)を採用可能であり、該形態としては、例えば、経口剤、注射剤、坐剤、軟膏剤、貼付剤等のいずれでもよい。これらの投与形態は、各々当業者に公知慣用の製剤方法により製造できる。
【0035】
薬学的担体としては、製剤素材として慣用の各種有機或いは無機担体物質が用いられ、固形製剤における賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、液状製剤における溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤等として配合される。また、必要に応じて防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤、安定化剤等の製剤添加物を用いることもできる。
経口用固形製剤を調製する場合は、式(1)の化合物に賦形剤、必要に応じて賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味・矯臭剤等を加えた後、常法により錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等を製造することができる。
注射剤を調製する場合は、式(1)の化合物にpH調節剤、緩衝剤、安定化剤、等張化剤、局所麻酔剤等を添加し、常法により皮下、筋肉内及び静脈内用注射剤を製造することができる。
上記の各投与単位形態中に配合されるべき式(1)化合物の量は、これを適用すべき患者の症状により、或いはその剤形等により一定ではないが、一般に投与単位形態あたり、経口剤では約0.05~1000mg、注射剤では約0.01~500mg、坐剤では約1~1000mgとするのが望ましい。
また、上記投与形態を有する薬剤の1日あたりの投与量は、患者の症状、体重、年齢、性別等によって異なり一概には決定できないが、通常成人(体重50kg)1日あたり約0.05~5000mg、好ましくは0.1~1000mgとすればよく、これを1日1回又は2~3回程度に分けて投与するのが好ましい。
【実施例0036】
次に実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0037】
実施例1
(方法)
DSBの検出には、DSBが形成された際に、損傷周辺箇所で起こるヒストンH2AXのSer139のリン酸化であるγH2AXをフローサイトメトリー法により検出した。すなわち、接着細胞に化合物Aを24時間処理後、細胞をトリプシンにより剥離、洗浄後、γH2AX抗体混合の染色バッファーにより4℃条件でオーバーナイト染色した。フローサイトメーターにより細胞内のγH2AX量を測定、解析した。
【0038】
(結果)
化合物A(式(1)中、X
1,X
2=Cl、R
1,R
2=H)のDNA二本鎖切断(DSB)形成作用を
図1に示す。
図1より、化合物Aは、HeLa細胞、A549細胞及びDLD-1細胞のいずれの癌細胞に対して濃度依存的にDSB形成作用を有することがわかる。
【0039】
実施例2
(方法)
細胞増殖解析には、代謝活性の指標であるATPを測定するCellTiter-Gloアッセイを用いた。96ウェルプレートに播種した細胞に化合物Aを5日間処理した。CellTiter-GloTM 2.0溶液を細胞に混合、プレートリーダーにより発光を検出、用量反応曲線を解析した。
細胞周期解析は、以下の方法により実施した。細胞に化合物Aを24時間処理、トリプシンにより細胞を剥離、洗浄後、70%エタノールで細胞固定した。さらに洗浄後、RNAseを処理、Propidium Iodide(PI;ヨウ化プロピジウム)により染色した。フローサイトメーターにより細胞内のPI量の測定、G1、S、G2/M細胞周期分布を解析した。
【0040】
(結果)
化合物Aの癌細胞増殖抑制作用を
図2に示す。
図2より、化合物Aは、HeLa細胞、A549細胞及びDLD-1細胞のいずれの癌細胞に対しても強い増殖抑制作用を有することがわかる。
化合物Aの細胞周期に対する分布状態を示す。
図3より、化合物Aは、HeLa細胞、A549細胞及びDLD-1細胞においてDSBの応答として起こるG2/M細胞周期アレストを引き起こすことがわかる。
【0041】
実施例3
JFCR39細胞パネル試験
(方法)
39種類のがん細胞株から構成される細胞パネルJFCR39に対する化合物Aの50%細胞増殖阻害濃度(GI50)を解析、細胞増殖阻害のスペクトル(フィンガープリント)を解析した。その後、化合物Aのフィンガープリントを、250種類の標準物質のフィンガープリントデータベースと比較解析(COMPARE解析)することで、作用機序の予測評価を実施した。
【0042】
JFCR39細胞パネル試験は、以下の文献に従った。
Yamori T. Panel of human cancer cell lines provides valuable database for drug discovery and bioinformatics. Cancer Chemother Pharmacol 2003;52 Suppl 1:S74-9.
https://https://doi.org/10.1007/s00280-003-0649-1
COMPARE解析は、以下の文献に従った。
Paull KD, Shoemaker RH, Hodes L, et al. Display and analysis of patterns of differential activity of drugs against human tumor cell lines: development of mean graph and COMPARE algorithm. J Natl Cancer Inst 1989;81:1088-92.
https://doi.org/10.1093/jnci/81.14.1088
【0043】
(結果)
各癌細胞株に対する化合物Aのフィンガープリント(GI50)を
図4に示す。
図4中、Brestは、乳癌細胞株に対する感受性を示す。CNSは、中枢神経系癌細胞株に対する感受性を示す。Colonは、大腸癌細胞株に対する感受性を示す。Lungは、肺癌細胞株に対する感受性を示す。Melanomaは、メラノーマ細胞株に対する感受性を示す。Ovarianは、卵巣癌細胞株に対する感受性を示す。Renalは、腎臓癌細胞株に対する感受性を示す。Stomachは、胃癌細胞株に対する感受性を示す。Prostateは、前立腺癌細胞株に対する感受性を示す。MG-MIDは、LogGI50の平均値を示す。DeltaはMG-MIDと最も感受性の高い細胞株のLogGI50の差を示す。Rangeは、最も感受性の低い細胞株と感受性の高い細胞株のLogGI50の差を示す。
図4から、化合物Aは、ほとんどすべての癌細胞に対して類似した濃度領域で細胞毒性を引き起こすことがわかる。また、化合物Aは、薬剤排出P糖タンパク陽性株HCT-15(基質薬物:エトポシド、ドキソルビシン等)に対しても他の細胞株と同等の毒性作用を示し、薬剤耐性癌に対しても有効であることが示唆された。
化合物Aに対する標準化合物とのCOMPARE解析の結果を
図5に示す。
図5から、化合物Aは、トポイソメラーゼII阻害剤である可能性が示唆された。
【0044】
実施例4
(方法)
化合物AがトポイソメラーゼII阻害剤である可能性を検証するため、トポイソメラーゼII阻害剤との競合阻害実験とトポイソメラーゼIIの機能欠失実験による機能解析を実施した。
競合阻害実験は、以下の方法により実施した。エトポシドと作用機序の異なるトポイソメラーゼII阻害剤のICRF-193処理1時間後、10μMのエトポシドもしくは化合物Aを添加し、さらに24時間処理した。その後、DSBを実施例1と同様の方法により検出した。
機能欠失実験は、はじめにTop2α(TOP2Aの遺伝子産物)及びTop2β(TOP2Bの遺伝子産物)を標的としたsiRNAによる遺伝子ノックダウン効率をウエスタンブロッティングにより解析した。その後、ノックダウン下において、10μMの化合物AによるDSB形成を解析した。
【0045】
(結果)
化合物AとトポイソメラーゼII阻害剤(ICRF-193)の競合阻害実験の結果を
図6に示す。単剤処理と比べ、ICRF-193との併用時では、化合物Aにより形成されるDSB量は低下することを示した。この効果はエトポシドと同様であった。つまり、化合物AはトポイソメラーゼIIを標的としていることが示唆された。
図7に、siRNAによるノックダウン効率の結果を示す。siRNAにより、Top2α及びTop2βの発現量は有意に低下していることが示された。
図8に、トポイソメラーゼIIに対する機能欠失実験の結果を示す。Top2α及びTop2βのノックダウン下における化合物AのDSB形成作用を調べたところ、Top2αのノックダウン下で、顕著に当該作用が抑制されることを示した。一方で、Top2βに対してはそのような作用は見られなかった。したがって、化合物Aは、Top2αの特異的な阻害剤であることが示唆された。
【0046】
実施例5
実施例1と同様にして、化合物Aと類似の化合物について、DSB形成作用を検討した。
その結果を、
図9に示す。
図9より、化合物Aと類似の化合物B(式(1)中、X
1,X
2=Cl、R
1,R
2=C
2H
5)も、強力なDSB形成作用を示した。なお、化合物C(式(1)中、X
1=Cl、X
2=H、R
1,R
2=C
2H
5)も、DSB形成作用を示した。
【0047】
実施例6
In vivo
(方法)
腫瘍移植モデルとして、BALB/cヌードマウスの下肢部皮下に、DLD-1細胞を移植した。腫瘍体積が約300mm3に達した個体に対し、平日の週5日間連続で、化合物A(50mg/kg)もしくはエトポシド(20mg/kg)を腹腔内投与した。マウスの体重及び腫瘍体積は、週3回(1日もしくは2日おき)、測定した。観察終了後、処死したマウスから腫瘍を摘出し、腫瘍重量を測定した。
【0048】
(結果)
化合物Aは、エトポシドと同等の体重推移を示した(
図10)。化合物Aは、エトポシドと同等の腫瘍体積抑制効果を示した(
図11)。また、化合物Aは、エトポシドよりも強い腫瘍重量抑制効果を示した(
図12)。