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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039799
(43)【公開日】2024-03-25
(54)【発明の名称】縫製装置
(51)【国際特許分類】
   D05B 57/14 20060101AFI20240315BHJP
【FI】
D05B57/14 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022144423
(22)【出願日】2022-09-12
(71)【出願人】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104178
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100143960
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 早百合
(72)【発明者】
【氏名】岳 斉也
(72)【発明者】
【氏名】加藤 雅史
(72)【発明者】
【氏名】原田 幸一
(72)【発明者】
【氏名】早川 範一
(72)【発明者】
【氏名】鬼頭 宏明
【テーマコード(参考)】
3B150
【Fターム(参考)】
3B150AA02
3B150CD11
3B150CE27
3B150DG04
(57)【要約】
【課題】縫製開始時に従来よりも安定した縫目を形成することが可能な縫製装置を提供する。
【解決手段】制御装置は、縫製データに従って、被縫製物に縫目を形成する(S3)。制御装置は、縫製順序が最後の針落ち位置に移動時、針棒の上下動を行わず、移動機構により針棒機構及び釜機構と被縫製物とを、最後の針落ち位置に移動する場合の移動距離よりも長い第一距離だけ相対的に移動することで下糸を引き出す(S6)。制御装置は、S6の後、移動機構により、針棒機構及び釜機構に対して被縫製物を第二距離だけ相対的に移動させることで最後の針落ち位置に移動させ、ボビンケースのバネにより下糸の弛みを吸収する(S7)。制御装置は、S7の後、針棒機構及び釜機構を駆動して、最後の針落ち位置で縫目を形成しつつ、糸切機構を駆動して上糸及び下糸を切断する(S10)。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向に延び、下端に縫針を装着可能な針棒と、
前記針棒を上下動する針棒機構と、
前記縫針を挿通する針穴を有する針板と、
前記針板の下方に配置され、下糸の弛みを解消するバネを有するボビンケースを着脱可能に装着する釜を有する釜機構と、
前記釜機構及び前記針棒機構と、被縫製物とを、水平方向において相対的に移動させる移動機構と、
前記針板下方で上糸と前記下糸を切断する糸切機構と、
制御装置と
を備える縫製装置において、
前記制御装置は、
縫製データに従って、前記針棒機構、前記釜機構、及び前記移動機構を制御して、前記被縫製物に縫目を形成する縫製動作と、
前記縫製データが指定する、縫製順序が最後の針落ち位置に移動時において、前記針棒の上下動を行わず、前記移動機構により、前記針棒機構及び前記釜機構に対して前記被縫製物を、前記最後の針落ち位置に移動する場合の移動距離よりも長い第一距離だけ相対的に移動させることで前記ボビンケースに保持されたボビンから前記下糸を引き出す余剰送り動作と、
前記余剰送り動作後、前記移動機構により、前記針棒機構及び前記釜機構に対して前記被縫製物を第二距離だけ相対的に移動させることで前記最後の針落ち位置に移動させ、前記ボビンケースの前記バネにより前記下糸の弛みを吸収する戻し送り動作と、
前記戻し送り動作後、前記針棒機構及び前記釜機構を駆動して、前記最後の針落ち位置で前記縫目を形成しつつ、前記糸切機構を駆動して前記上糸及び前記下糸を切断する糸切断動作と
を実行することを特徴とする縫製装置。
【請求項2】
前記釜は全回転釜であることを特徴とする請求項1に記載の縫製装置。
【請求項3】
前記ボビンケースは、前記ボビンケースの外周に沿って設けられた溝部を有し、
前記バネは、前記ボビンケースの外周に露出し、前記ボビンケースに保持される前記ボビンに巻回された前記下糸を通し、前記溝部に沿って移動可能な糸通し部を有し、
前記余剰送り動作時、前記糸通し部は、前記バネの付勢力に抗して前記溝部の一端側に位置し、前記戻し送り動作時、前記糸通し部は、前記バネの前記付勢力により前記溝部の他端側に移動することを特徴とする請求項2に記載の縫製装置。
【請求項4】
前記ボビンケースは、前記糸通し部と前記ボビンとの間の前記下糸に張力を付与する張力付与部を備え、
前記張力付与部により前記下糸に付与される張力は、前記バネにより前記下糸に付与される張力よりも大きいことを特徴とする請求項3に記載の縫製装置。
【請求項5】
前記第一距離から前記移動距離を差し引いた長さは、前記溝部の長さの2倍より短いことを特徴とする請求項3又は4に記載の縫製装置。
【請求項6】
前記戻し送り動作後、前記縫製動作が開始された場合、前回の前記戻し送り動作時に前記バネにより弛みが解消された分の前記下糸により、縫製開始から二針の前記縫目が形成されることを特徴とする請求項1から4の何れかに記載の縫製装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は縫製装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の縫製装置の全回転釜は、糸滑り用傾斜面の一部に、上糸ループが糸滑り用傾斜面からボビンケースの外面側へ糸渡りする糸渡り用傾斜部が形成される。糸渡り用傾斜部の回転中心軸の軸心方向に対する傾斜角度は、糸滑り用傾斜面の回転中心軸の軸心方向に対する傾斜角度よりも大きく設定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-72520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記縫製装置は、縫製開始時に下糸の張力が高すぎて下糸を引き出すことができず、目飛び及びフェイクステッチなどの縫製不良が生じる場合がある。
【0005】
本発明は、縫製開始時に従来よりも安定した縫目を形成することが可能な縫製装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1の縫製装置は、上下方向に延び、下端に縫針を装着可能な針棒と、前記針棒を上下動する針棒機構と、前記縫針を挿通する針穴を有する針板と、前記針板の下方に配置され、下糸の弛みを解消するバネを有するボビンケースを着脱可能に装着する釜を有する釜機構と、前記釜機構及び前記針棒機構と、被縫製物とを、水平方向において相対的に移動させる移動機構と、前記針板下方で上糸と前記下糸を切断する糸切機構と、制御装置とを備える縫製装置において、前記制御装置は、縫製データに従って、前記針棒機構、前記釜機構、及び前記移動機構を制御して、前記被縫製物に縫目を形成する縫製動作と、前記縫製データが指定する、縫製順序が最後の針落ち位置に移動時において、前記針棒の上下動を行わず、前記移動機構により、前記針棒機構及び前記釜機構に対して前記被縫製物を、前記最後の針落ち位置に移動する場合の移動距離よりも長い第一距離だけ相対的に移動させることで前記ボビンケースに保持されたボビンから前記下糸を引き出す余剰送り動作と、前記余剰送り動作後、前記移動機構により、前記針棒機構及び前記釜機構に対して前記被縫製物を第二距離だけ相対的に移動させることで前記最後の針落ち位置に移動させ、前記ボビンケースの前記バネにより前記下糸の弛みを吸収する戻し送り動作と、前記戻し送り動作後、前記針棒機構及び前記釜機構を駆動して、前記最後の針落ち位置で前記縫目を形成しつつ、前記糸切機構を駆動して前記上糸及び前記下糸を切断する糸切断動作とを実行する。請求項1の縫製装置は、縫製終了の糸切前に下糸をたるませることで、戻し送り動作後、縫製を開始する時に、縫い始めの数針は、既にボビンから引き出した下糸を使用して縫製できる。故に縫製装置は、縫製開始時に下糸の張力が高すぎて下糸を引き出すことができなくなる事態を確実に回避でき、縫製開始時の下糸の張力が高すぎることに起因して生じる、目飛び及びフェイクステッチなどの縫製不良を好適に抑制できる。
【0007】
請求項2の縫製装置の前記釜は全回転釜である。請求項2の縫製装置は、釜が全回転釜である場合に、縫製開始時の下糸の張力が高すぎることに起因して生じる、目飛び及びフェイクステッチなどの縫製不良を好適に抑制できる。
【0008】
請求項3の縫製装置の前記ボビンケースは、前記ボビンケースの外周に沿って設けられた溝部を有し、前記バネは、前記ボビンケースの外周に露出し、前記ボビンケースに保持される前記ボビンに巻回された前記下糸を通し、前記溝部に沿って移動可能な糸通し部を有し、前記余剰送り動作時、前記糸通し部は、前記バネの付勢力に抗して前記溝部の一端側に位置し、前記戻し送り動作時、前記糸通し部は、前記バネの前記付勢力により前記溝部の他端側に移動する。請求項3の縫製装置は、糸通し部という比較的簡単な構成で、戻し動作時に下糸に弛みを生じさせることができる。
【0009】
請求項4の縫製装置の前記ボビンケースは、前記糸通し部と前記ボビンとの間の前記下糸に張力を付与する張力付与部を備え、前記張力付与部により前記下糸に付与される張力は、前記バネにより前記下糸に付与される張力よりも大きい。請求項4の縫製装置は、戻し送り動作後、再び縫製動作を開始する時に、縫い始めの数針は、下糸の張力を決めるのは、バネの付勢力のみである為、ボビンから下糸が引き出される場合に比べ、下糸の張力を小さくできる。
【0010】
請求項5の縫製装置の前記第一距離から前記移動距離を差し引いた長さは、前記溝部の長さの2倍より短い。請求項5の縫製装置は、戻し送り動作時に、糸通し部が溝部の一端部から他端部に移動することで、最大溝部の2倍の長さの下糸を回収できる。縫製装置は、戻し送り動作時に生じる、第一距離から移動距離を差し引いた長さ分の下糸の弛みを、バネにより全て回収できる。
【0011】
請求項6の縫製装置は、前記戻し送り動作後、前記縫製動作が開始された場合、前回の前記戻し送り動作時に前記バネにより弛みが解消された分の前記下糸により、縫製開始から二針の前記縫目が形成される。請求項6の縫製装置は、戻し送り動作後、縫製動作が開始された場合、縫製開始から二針の縫目を、バネの付勢力のみが付与された下糸により縫製でき、縫製開始時の下糸の張力が高すぎることに起因して生じる、目飛び及びフェイクステッチなどの縫製不良を好適に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】縫製装置1の斜視図。
図2】針棒機構6、釜機構7の斜視図。
図3】針棒機構6、釜機構7の斜視図。
図4】針棒機構6、釜機構7の斜視図。
図5】ボビンケース200の斜視図。
図6】ボビンケース200の右側面図。
図7】ボビンケース200の背面図。
図8】縫製装置1の電気的構成を示すブロック図。
図9】主処理の流れ図。
図10】主処理で、最後の針落ち点を縫製する処理の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態の縫製装置1の物理的構成を説明する。以下説明では、図中に矢印で示す左右、前後、上下を使用する。図1図4の如く、縫製装置1は門型の縫製装置であり、ベッド部2、脚柱部3、4、同期機構31(図8参照)、梁部5、針棒機構6、中押え機構120、糸払い機構130、釜機構7、糸切機構110、保持機構8、搬送機構9(図8参照)、送り機構10(図8参照)、操作部14を備える。搬送機構9、送り機構10により、釜機構7及び針棒機構6と、被縫製物Cとは、水平方向において相対的に移動する。
【0014】
ベッド部2は基部21、第一載置部22、第二載置部76、開口部24、25、蛇腹26、27、枠体28、下レール29、一対のレールを備える。基部21は略直方体状である。第一載置部22は基部21の上面をなし、水平面と平行に延びる板である。第一載置部22は左右方向に延びる開口部23を備える。第二載置部76は第一載置部22の前方に、第一載置部22と面一で配置した矩形板状である。開口部24は第一載置部22の左端部近傍で前後方向に延びる。開口部25は第一載置部22の右端部近傍で前後方向に延びる。開口部24、25は夫々、第一載置部22の前端部と後端部との間に亘って平面視矩形状に延び、上方に開口する部分である。蛇腹26、27は夫々開口部24、25を覆う。一対のレールは蛇腹26、27の下方に設ける。一対のレールは送り機構10の連結部78、79を前後方向に移動可能に支持する。枠体28は格子状の構造体であり、基部21を下方から支持する。下レール29は第一載置部22下方で左右方向に延びる。下レール29は、釜機構7を左右動可能に支持する。ベッド部2は第一載置部22下方に後述の下ベルト94、下スプライン軸34、釜機構7を配置する。
【0015】
脚柱部3、4は夫々略四角柱状である。脚柱部3はベッド部2の左端部の前後方向略中央にて上方に延びる。脚柱部4はベッド部2の右端部の前後方向略中央にて上方に延びる。脚柱部3、4は第一載置部22を間にして左右方向に離れる。同期機構31は針棒機構6と釜機構7とを同期駆動する機構であり、主モータ32(図8参照)、上スプライン軸33、下スプライン軸34、伝達機構を備える。主モータ32は脚柱部3が支持する。上スプライン軸33、下スプライン軸34は、脚柱部3、4の間にて、左右方向に延びる。同期機構31の伝達機構は脚柱部3に収容し、主モータ32の動力を上スプライン軸33と下スプライン軸34とに伝達する。搬送機構9は被縫製物C(図10参照)に対して釜機構7と針棒機構6とを水平方向と平行な左右方向に移動でき、後述の上ベルト93、下ベルト94、Xモータ95、伝達機構を備える。本例の縫製装置1は保持機構8が被縫製物Cを保持する。Xモータ95はパルスモータであり、脚柱部4が支持する。搬送機構9の伝達機構は脚柱部4に収容し、Xモータ95の動力を上ベルト93と下ベルト94とに伝達する。上ベルト93は針棒機構6の背面に固定する。下ベルト94は釜機構7の背面に固定する。釜機構7と針棒機構6とはXモータ95の回転に応じて左右動する。
【0016】
梁部5は脚柱部3、4の間に架設し、左右方向に延びる。梁部5は針棒機構6に対して後側にて、針棒機構6を水平方向に平行な左右方向に移動可能に支持する。梁部5は筐体51、蛇腹52、上レール53を備える。筐体51は脚柱部3、4の夫々の上端部と後端部とを左右方向に延びる。蛇腹52は脚柱部3、4、筐体51の夫々の前端部と後述の針棒機構6の左右両端部に架設する。上レール53は左右方向に延びる棒状であり、脚柱部3、4の間に架設する。上レール53は針棒機構6を左右方向に移動可能に支持する。筐体51は上レール53、同期機構31の上スプライン軸33の上側、後側を覆う。蛇腹52は上レール53、上スプライン軸33の前側を覆う。蛇腹52は針棒機構6の左右動に応じ伸縮する。
【0017】
針棒機構6は梁部5に対して前側に設ける。針棒機構6は筐体60、上軸61、伝達機構62、針棒63を備え、針棒63を上下動できる。針棒63は、上下方向に延び、下端に縫針65を装着可能である。筐体60は箱状であり、上軸61を収容する。筐体60の背面は上ベルト93と連結し、筐体60は上レール53で支持する。筐体60は、その全面に副糸調子器35、糸調子器36を設けている。糸調子器36は、一対の糸調子皿間に挟んだ上糸Uに加わる張力を調節する。糸調子器36は、副糸調子器35の下左方に設けている。副糸調子器35は、糸調子器36と共に上糸Uに加わる張力を調整する。針棒機構6は搬送機構9の駆動で梁部5内の上レール53に沿って左右動できる。上軸61は左右方向に延びる。伝達機構62は上スプライン軸33の動力を上軸61に伝達する。針棒63は上下方向に延び、下端部に縫針65を装着できる。針棒63は上軸61と連結し、主モータ32の駆動で上下動する。
【0018】
中押え機構120は、中押え棒69、中押えモータ68、伝達機構121を備える。図2では、中押えモータ68、伝達機構121の図示を省略する。中押え棒69は下端に中押え64を有し、針棒63と平行に上下方向に延びる。中押え64は針棒63の上下動に応じて縫針65が通過する貫通穴を有し、被縫製物Cを上側から間欠的に押える。中押えモータ68は筐体60上面に固定したパルスモータである。中押えモータ68は中押え棒69を上下動し、中押え64を被縫製物Cと接触する接触位置と、接触位置よりも上方の離隔位置の間で上下動する。伝達機構121は中押えモータ68の出力軸と中押え棒69に連結し、中押えモータ68の出力軸の回動を中押え棒69に伝達する。
【0019】
糸払い機構130は糸切機構110が切断した上糸U(図10参照)の端を中押え64の上方に移動する糸払いを行う。糸払い機構130はエアシリンダ131、リンク134、糸払い軸135、糸払いレバー136を備える。糸払い機構130は、縫製装置1の筐体60の背面に固定する。エアシリンダ131は出力軸を吸引する。リンク134はエアシリンダ131の出力軸と糸払い軸135とに連結し、糸払い軸135は出力軸の移動によりリンク134を介して回動する。糸払いレバー136は糸払い軸135に固定し、糸払い軸135の回動により揺動する。糸払いレバー136先端は、エアシリンダ131が出力軸を吸引した時、待機位置から糸払い位置まで移動する。図2図3の如く、待機位置は、糸払いレバー136先端が糸払い軸135の右方にある。糸払い位置は、糸払いレバー136先端が糸払い軸135の下方にある。糸払いレバー136先端は待機位置から糸払い位置に移動する過程で、上下位置において縫針65の下端と、中押え64の筒部の上端との間を通り、上糸Uを捕捉する。エアシリンダ131による吸引が停止した時、ばねの付勢力で糸払いレバー136先端は待機位置に移動する。故に、糸払いレバー136は上糸Uを中押え64の上方に移動できる。下糸Lは被縫製物Cの裏側(針板74と対向する側)に残る。
【0020】
釜機構7は針棒機構6及び針板74の下方に配置され、且つベッド部2の内部に配置する。釜機構7は筐体70、下軸71、伝達機構72、及び釜73を備える。筐体70は箱状であり、左上端部に針板74を備える。針板74は縫針65を挿通可能な針穴75を有する。針穴75は針棒63の下方に在る。図2の如く、筐体70の背面は下ベルト94と連結する。筐体70は下スプライン軸34を挿通する。筐体70は下レール29で支持する。釜機構7は搬送機構9の駆動で針棒機構6と同期して下レール29に沿って左右動できる。伝達機構72は下スプライン軸34の動力を下軸71に伝達する。釜73は下軸71に連結し、主モータ32の駆動で針棒63の上下動と同期して回動する。釜73は下糸Lが巻回されたボビンを保持し、下糸Lの弛みを解消するバネ203を有するボビンケース200を着脱可能に装着する。釜73は全回転垂直釜であり、外釜88、中釜77、及び図示しない中釜止めを備える。外釜80は、図示しない剣先を設けている。外釜80は、縫針65の上下動に同期して、正面視時計回りに回転する。中釜77は、外釜80に嵌まっている。中釜77は、外釜80に対して相対的に回転可能である。中釜77は、その内部にボビンケース200を固定している。ボビンケース200は、下糸を巻いた下糸ボビン(図示省略)を収納している。
【0021】
図5図7を参照して、ボビンケース200を説明する。ボビンケース200の本体部201は、外周部207、左面部208、円孔部210、係止レバー209、バネ203、及び張力付与部211を備える。外周部207は、ボビンを格納する円筒状である。外周部207には、周方向に延びる溝部202が形成されている。溝部202の周方向の長さは、例えば5~20mmである。左面部208は、外周部207の左端部を閉塞する。円孔部210は、左面部208の中央に形成された、釜機構7の中釜77の支軸が挿入される円状の孔部である。係止レバー209は、円孔部210の挿入された中釜77の支軸の先端部に形成された周溝を係止して、ボビンケース200が中釜77から抜けるのを防止する。
【0022】
バネ203は、ボビンから繰り出される下糸Lに張力を付与する。バネ203は、外周部207の内周面に倣って湾曲したバネであり、バネ203の一端部は、ループ状に加工された糸通し部204である。糸通し部204の直径は、例えば3~5mmである。糸通し部204は、溝部202から外周部207の外側、つまりボビンケース200の外周に露出する。バネ203の他端部214は、螺子205により左面部208に固定される。糸通し部204は、ボビンケース200に保持されるボビンに巻回された下糸Lを通し、溝部202に沿って移動できる。外周部207には、下糸Lの繰出口206が設けられる。張力付与部211は、繰出口206の下方に設けられ、板バネである。張力付与部211の下端部は、外周部207の下端部に、一対の螺子213により固定される。張力付与部211の上端部には、U字状の切欠部212が形成される。張力付与部211は、下糸Lを外周部207と張力付与部211の隙間に通すことにより、糸通し部204とボビンとの間の下糸Lに摩擦力による張力を付与する。張力付与部211の上端は、溝部202の下端よりも上方に位置する。図10に示すように、ボビンから繰り出された下糸Lは、バネ203の糸通し部204に挿通され、糸通し部204の位置に応じてバネ203の付勢力が付与される。糸通し部204が、溝部202の下端部に位置する時、バネ203は下糸Lに付勢力を付与しない。糸通し部204が、溝部202の下端部から離隔し、溝部202の上端部に位置する時、バネ203は下糸Lに付勢力を付与する。張力付与部211により下糸Lに付与される張力は、バネ203により下糸Lに付与される張力よりも大きい。下糸Lは、糸通し部204から針板74の針穴75に案内される。
【0023】
図3図4に示す如く、糸切機構110は針板74下方で上糸Uと下糸Lを切断する。糸切機構110は固定刃111、可動刃112、糸切モータ113、リンク機構114を備える。リンク機構114の一部と糸切モータ113は筐体70の外側に設ける。糸切機構110はリンク機構114を介して可動刃112を移動し、上糸Uと下糸Lを切断する。固定刃111は針板74の下側に固定する。可動刃112は固定刃111に対して水平に回動可能に設ける。可動刃112は固定刃111から離れた位置にある待機位置と、固定刃111と交差して上糸Uと下糸Lを切断する切断位置と、切断位置に対して待機位置とは反対側の最大可動位置との間を移動できる。糸切モータ113はパルスモータであり、可動刃112を駆動する。リンク機構114は糸切モータ113の出力軸と可動刃112とに連結し、出力軸の回動を可動刃112に伝達する。可動刃112が待機位置から最大可動位置に移動する時、可動刃112の先端部116は上糸Uのループ内に突入し、上糸Uを捕捉する。可動刃112が最大可動位置から待機位置まで回動復帰する時、可動刃112の刃部と固定刃111の刃部は最大可動位置と待機位置の間の切断位置にて、下糸Lと上糸Uのループのうち被縫製物C側の上糸Uを同時に切断する。
【0024】
送り機構10は被縫製物Cを保持した保持機構8を針棒機構6と釜機構7とに対して相対的に前後動できる。送り機構10は、連結部78、79を備える。連結部78左下端部はベッド部2の開口部24にあるレールに配置する。連結部79右下端部はベッド部2の開口部25にあるレールに配置する。連結部78、79は保持機構8と連結する。保持機構8は被縫製物Cを保持できる。保持機構8は上枠81、下枠82、エアシリンダ83、84を有する。上枠81と下枠82は平面視矩形状の枠であり、間に被縫製物Cを挟持する。上枠81はエアシリンダ83、84を駆動源として下枠82に対して上下に開閉する。
【0025】
送り機構10は第一載置部22の下方に、Yモータ101(図8参照)、伝達機構、一対のベルトを備える。Yモータ101はパルスモータである。送り機構10の伝達機構はYモータ101を連結部78、79に固定した一対のベルトに伝達する。保持機構8はYモータ101の回転に応じてベッド部2の一対のレールに沿って前後動する。
【0026】
操作部14は第二載置部76の左端部で支持する。操作部14はスイッチ群12、表示部13を備える。スイッチ群12は作業者の操作に応じて各種指示を入力する。表示部13は液晶ディスプレイであり、各種画像を表示できる。
【0027】
図8を参照し、縫製装置1の電気的構成を説明する。縫製装置1の制御部15はCPU16、ROM17、RAM18、記憶装置19、入出力インターフェース(I/O)20、駆動回路41~48等を有する。CPU16は縫製装置1の動作を統括制御する。ROM17は各種処理を実行する為のプログラム等を予め記憶する。RAM18は各種処理実行中に生じる各種情報を一時的に記憶する。記憶装置19は不揮発性で、各種設定値を記憶する。
【0028】
各駆動回路41~48、エンコーダ55~59、スイッチ群12はI/O20に接続する。駆動回路41は同期機構31の主モータ32と接続し、CPU16の制御指令で主モータ32を駆動する。駆動回路42は搬送機構9のXモータ95と接続し、CPU16の制御指令でXモータ95を駆動する。駆動回路43は送り機構10のYモータ101と接続し、CPU16の制御指令でYモータ101を駆動する。駆動回路43は保持機構8のエアシリンダ83、84と接続し、CPU16の制御指令でエアシリンダ83、84を駆動する。駆動回路45はエアシリンダ131と接続し、CPU16の制御指令でエアシリンダ131を駆動する。駆動回路46は中押えモータ68と接続し、CPU16の制御指令で中押えモータ68を駆動する。駆動回路47は糸切モータ113と接続し、CPU16の制御指令で糸切モータ113を駆動する。駆動回路48は表示部13と接続し、CPU16の制御指令で表示部13に各種情報を表示する。
【0029】
エンコーダ55は主モータ32の出力軸の回転位置、回転速度を検出し、検出結果をI/O20に入力する。エンコーダ55の検出結果は針棒63と縫針65の上下位置を示す。エンコーダ56はXモータ95の出力軸の回転方向、回転位置、回転速度を検出し、検出結果をI/O20に入力する。エンコーダ56の検出結果は、針棒機構6と釜機構7との左右位置を示す。エンコーダ57はYモータ101の出力軸の回転方向、回転位置、回転速度を検出し、検出結果をI/O20に入力する。エンコーダ57の検出結果は、保持機構8の前後位置を示す。エンコーダ58は中押えモータ68の出力軸の回転方向、回転位置、回転速度を検出し、検出結果をI/O20に入力する。エンコーダ58の検出結果は、中押え64の上下位置を示す。エンコーダ59は糸切モータ113の出力軸の回転方向、回転位置、回転速度を検出し、検出結果をI/O20に入力する。エンコーダ59の検出結果は、可動刃112の回動位置を示す。スイッチ群12は各種指示を検出し、検出結果をI/O20に入力する。
【0030】
図9及び図10を参照し、主処理を説明する。尚、便宜上、図10では縫製動作が前後方向に進行している形態を用いて説明するが、縫製動作の進行方向Eはこれに限定されない。主処理は縫製装置1が被縫製物Cに縫製データに従い縫目を形成後、糸切機構110で上糸Uと下糸Lを切断する処理である。縫主処理は作業者が表示部13に表示するメニューの中からスイッチ群12を操作して処理の開始を指定した時に起動する。CPU16はROM17から主処理用のプログラムをRAM18に読み出して主処理を実行する。縫製データは保持機構8の縫製領域内の針落ち点の位置を一針毎に指示する座標データを含み、記憶装置19に予め記憶する。
【0031】
CPU16は記憶装置19を参照し縫製データを取得する(S1)。CPU16は縫製開始指示を検出したか否かを判断する(S2)。作業者はスイッチ群12を操作して縫製開始指示を入力する。縫製開始指示を未検出時(S2:NO)、CPU16は縫製開始指示を検出する迄S2で待機する。縫製開始指示を検出時(S2:YES)、CPU16はS2で取得した縫製データの座標データを縫製順に読出し、座標データに従い、搬送機構9、送り機構10、同期機構31を駆動し、保持機構8の縫製領域内に縫製する処理を開始する(S3)。これによりCPU16は、縫製データに従って、針棒機構6、釜機構7、及び搬送機構9、送り機構10を制御して、被縫製物Cに縫目を形成する縫製動作を行う(S3)。
【0032】
CPU16は次の座標データが最終針の座標データか否かを判断する(S4)。最終針は縫製順序が最後の針落ち点である。次の座標データが最終針の座標データではない時(S4:NO)には、CPU16は次の座標データが最終針の座標データになる迄縫製動作を継続。する。次の座標データが最終針の座標データである時(S4:YES)には、CPU16は同期機構31の駆動を停止し、針棒63の上下動を停止する(S5)。図10(A)の如く、CPU16は搬送機構9、送り機構10により、針棒機構6及び釜機構7に対して被縫製物Cを、最後の針落ち位置Pに移動する場合の移動距離MDよりも長い第一距離D1だけ余剰に相対的に移動することでボビンケース200に保持されたボビンから下糸Lを引き出す余剰送り動作を行う(S6)。移動距離MDは一針分の縫目の長さであり、最終針の一つ前の針落ち位置Fから最終針の針落ち位置P迄の長さである。本実施形態のCPU16は最終針の座標データが示す針落ち位置Pから縫目の進行方向Eに離れた点Qに、被縫製物Cに対して針棒63を相対的に移動させる。進行方向Eは、縫製順序が最終針の一つ前の針落ち位置Fから、最終針の針落ち位置Pに向かうベクトルによって表される。第一距離D1から移動距離MDを差し引いた長さは、溝部202の長さの2倍より短い。
【0033】
図10(B)の如く、CPU16は、余剰送り動作後、搬送機構9、送り機構10により、針棒機構6及び釜機構7に対して被縫製物Cを第二距離D2だけ相対的に移動させることで最後の針落ち位置Pに移動させる(S7)。CPU16は点Qから第二距離D2だけS6の進行方向Eとは逆方向Rに被縫製物Cに対して針棒63を相対的に移動させる。第二距離D2は第一距離D1よりも短い。本実施形態では、第一距離D1から移動距離MDを差し引いた長さは、第二距離D2である。S7の処理により、被縫製物Cは針棒63に対して、最終針の座標データで示される針落ち位置Pに相対的に移動される。S7の処理により、上糸Uと下糸Lとの各々が、第一距離D1から移動距離MDを差し引いた長さ、つまり、第二距離D2だけ弛む。図10(C)の如く、下糸Lの弛みは、ボビンケース200のバネ203により吸収される。具体的には、下糸Lの弛みは、ボビンケース200の糸通し部204が溝部202の上端部から下端部に移動することで、解消される。上糸Uの弛みは、糸調子器36の糸取りバネの移動により解消される。
【0034】
CPU16は同期機構31の駆動を再開し、針棒63の上下動を再開する(S8)。CPU16はエンコーダ55の検出結果に依り糸切時機であるか否かを判断する(S9)。糸切時機ではない時(S9:NO)、CPU16は糸切時機になる迄S9で待機する。糸切時機である時(S9:YES)、CPU16は、戻し送り動作後、針棒機構6及び釜機構7を駆動して、最後の針落ち位置Pで縫目を形成しつつ、糸切機構110を駆動して上糸U及び下糸Lを切断する糸切断動作を行う。具体的にはCPU16は糸切モータ113を駆動して糸切機構110の可動刃112を切断位置迄移動し、上糸Uと下糸Lを切断する(S10)。CPU16は所定のタイミングでエアシリンダ131を駆動して糸払い機構130の糸払いレバー136を移動し、糸切機構110が切断した上糸Uの端を中押え64の筒部の上方に移動する糸払いを行ってもよい。CPU16は、エンコーダ55の検出結果に依り縫製終了時機で、搬送機構9、送り機構10、同期機構31の駆動を停止し、縫製を終了する(S11)。CPU16は以上で主処理を終了する。
【0035】
戻し送り動作後、再び縫製動作を開始する時に、縫い始めの数針は、ボビンから下糸Lが引き出されない。戻し送り動作後、再び縫製動作を開始する時に、縫い始めの数針は、バネ203により弛みが解消された分の下糸Lを使用して縫製される。本実施形態の縫製装置1は、戻し送り動作後、縫製動作が開始された場合、前回の戻し送り動作時にバネ203 により弛みが解消された分の下糸Lにより、縫製開始から二針の縫目が形成される(S3)。弛みが解消された分の下糸Lにより形成される縫目の長さは、例えば、5から20mmの範囲であってもよい。
【0036】
上記実施形態において、縫製装置1、針棒機構6、釜機構7、CPU16、針棒63、釜73、針板74、糸切機構110、ボビンケース200、溝部202、バネ203、糸通し部204、及び張力付与部211は各々、本発明の縫製装置、針棒機構、釜機構、制御装置、針棒、釜、針板、糸切機構、ボビンケース、溝部、バネ、糸通し部、及び張力付与部の一例である。搬送機構9、送り機構10は本発明の移動機構の一例である。
【0037】
上記実施形態の縫製装置1は、針棒63、針棒機構6、針板74、釜機構7、搬送機構9、送り機構10、糸切機構110、及びCPU16を備える。針棒63は、上下方向に延び、下端に縫針65を装着できる。針棒機構6は、針棒63を上下動する。針板74は縫針65を挿通する針穴75を有する。釜機構7は、針板74の下方に配置され、下糸Lの弛みを解消するバネ203を有するボビンケース200を着脱可能に装着する釜73を有する。搬送機構9及び送り機構10は、釜機構7及び針棒機構6と、被縫製物Cとを、水平方向において相対的に移動させる。糸切機構110は、針板74下方で上糸Uと下糸Lを切断する。CPU16は、縫製データに従って、針棒機構6、釜機構7、及び搬送機構9、送り機構10を制御して、被縫製物Cに縫目を形成する縫製動作を行う(S3)。CPU16は縫製データが指定する縫製順序が最後の針落ち位置Pに移動時において、針棒63の上下動を行わず、搬送機構9、送り機構10により、針棒機構6及び釜機構7に対して被縫製物Cを、縫製順序が最後の針落ち位置Pに移動する場合の移動距離MDよりも長い第一距離D1だけ相対的に移動することでボビンケース200に保持されたボビンから下糸Lを引き出す余剰送り動作を行う(S6)。CPU16は、余剰送り動作後、搬送機構9、送り機構10により、針棒機構6及び釜機構7に対して被縫製物Cを第二距離D2だけ相対的に移動させることで最後の針落ち位置Pに移動させ、ボビンケース200のバネ203により下糸Lの弛みを吸収する戻し送り動作を行う(S7)。CPU16は、戻し送り動作後、針棒機構6及び釜機構7を駆動して、最後の針落ち位置Pで縫目を形成しつつ、糸切機構110を駆動して上糸U及び下糸Lを切断する糸切断動作を行う(S10)。戻し送り動作後、再び縫製動作を開始する時に、縫い始めの数針は、バネ203により弛みが解消された分の下糸Lを使用して縫製される。縫製装置1は、縫製終了の糸切前に下糸Lをたるませることで、戻し送り動作後、縫製を開始する時に、縫い始めの数針は、既にボビンから引き出した下糸Lを使用して縫製できる。故に縫製装置1は、縫製開始時に下糸Lの張力が高すぎて下糸Lを引き出すことができなくなる事態を確実に回避でき、縫製開始時の下糸Lの張力が高すぎることに起因して生じる、目飛び及びフェイクステッチなどの縫製不良を好適に抑制できる。
【0038】
縫製装置1の釜73は全回転釜である。縫製装置1は、釜73が全回転釜である場合に、縫製開始時の下糸Lの張力が高すぎることに起因して生じる、目飛び及びフェイクステッチなどの縫製不良を好適に抑制できる。
【0039】
縫製装置1のボビンケース200は、ボビンケース200の外周に沿って設けられた溝部202を有する。バネ203は、ボビンケース200の外周に露出し、ボビンケース200に保持されるボビンに巻回された下糸Lを通し、溝部202に沿って移動可能な糸通し部204を有する。余剰送り動作時、糸通し部204は、バネ203の付勢力に抗して溝部202の上端側に位置する。戻し送り動作時、糸通し部204は、バネ203の付勢力により溝部202の下端側に移動する。縫製装置1は、糸通し部204という比較的簡単な構成で、戻し動作時に下糸Lに弛みを生じさせることができる。
【0040】
縫製装置1のボビンケース200は、糸通し部204とボビンとの間の下糸Lに張力を付与する張力付与部211を備え、張力付与部211により下糸Lに付与される張力は、バネ203により下糸Lに付与される張力よりも大きい。戻し送り動作後、再び縫製動作を開始する時に、縫い始めの数針は、ボビンから下糸Lが引き出されない。縫製装置1は、戻し送り動作後、再び縫製動作を開始する時に、縫い始めの数針は、下糸Lの張力を決めるのは、バネ203の付勢力のみである為、ボビンから下糸Lが引き出される場合に比べ、下糸Lの張力を小さくできる。
【0041】
縫製装置1の第一距離D1から移動距離MDを差し引いた長さは、溝部202の長さの2倍より短い。縫製装置1は、戻し送り動作時に、糸通し部204が溝部202の上端部から下端部に移動することで、最大溝部202の2倍の長さの下糸Lを回収できる。縫製装置1は、戻し送り動作時に生じる、第一距離D1から移動距離MDを差し引いた長さ分の下糸Lの弛みを、バネ203により全て回収できる。
【0042】
縫製装置1は、戻し送り動作後、縫製動作が開始された場合、前回の戻し送り動作時にバネ203により弛みが解消された分の下糸Lにより、縫製開始から二針の縫目が形成される(S3)。縫製装置1は、戻し送り動作後、縫製動作が開始された場合、縫製開始から二針の縫目を、バネ203の付勢力が付与された下糸Lで縫製でき、縫製開始時の下糸Lの張力が高すぎることに起因して生じる、目飛び及びフェイクステッチなどの縫製不良を好適に抑制できる。
【0043】
本発明の縫製装置は上記実施形態の他に種々変更できる。縫製装置1の種類は各種工業用ミシン、家庭用ミシン等適宜変更してよい。縫製装置1の釜73は、全回転垂直釜以外の釜、例えば、水平釜でもよい。
【0044】
縫製装置1の処理を実行する為の指令を含むプログラムは、縫製装置1でプログラムを実行する迄に、縫製装置1の記憶装置に記憶されればよい。従って、プログラムの取得方法、取得経路及びプログラムを記憶する機器の夫々は、適宜変更してもよい。例えば、縫製装置1のCPU16が実行するプログラムは、ケーブル又は無線通信を介して、他の装置から受信し、フラッシュメモリ等の記憶装置に記憶されてもよい。他の装置は、例えば、PC、及びネットワーク網を介して接続されるサーバを含む。
【0045】
縫製装置1が実行する処理の一部又は全部はCPU16とは別の電子機器(例えば、ASIC)が実行してもよい。縫製装置1が実行する処理は、複数の電子機器(例えば、複数のCPU)が分散処理してもよい。縫製装置1が実行する処理の各ステップは、必要に応じて順序の変更、ステップの省略、及び追加ができる。本発明の範囲は縫製装置1上で稼動しているオペレーティングシステム(OS)等が、CPU16の指令で各処理の一部又は全部を行う態様も含む。例えば、上記実施形態に以下の変更を適宜加えてもよい。
【0046】
縫製装置1は、余剰送り動作や戻し送り動作において、搬送機構9及び送り機構10の何れかのみを駆動して実行してもよい。また、搬送機構9及び送り機構10の構成は上記実施形態に限定されず、相対移動が可能な構成であればよい。例えば、縫製装置1は、釜機構7と針棒機構6とを左右方向に移動する搬送機構9の代わりに、被縫製物Cを左右方向へ移動する機構を用いても良い。また、縫製装置1として、搬送機構9及び送り機構10の何れかのみを備えるものであってよい。また、縫製装置1は、釜機構7及び針棒機構6と、被縫製物Cとを、水平方向の一方向においてのみ相対的に移動するものでもよい。
【0047】
最終針の針落ち位置Pから進行方向Eに離れた位置Qに移動する処理に替えて、CPU16は、針棒機構6及び釜機構7に対して被縫製物Cを、縫製順序が最終針の一つ前の針落ち位置Fから、任意の方向に移動距離MDよりも長い第一距離D1だけ相対的に移動後(S6)、第二距離D2移動して、最終針の針落ち位置Pに移動してもよい(S7)。この場合、S7の移動方向は、S6の移動方向の逆でなくてもよい。尚、この場合、S6の移動方向が進行方向Eに対して戻る方向を向く様にした際には、第二距離D2は第一距離D1より長くなる。第二距離D2が第一距離D1より長くなると、最終針の針落ち位置に移動する際に、一旦バネで回収された弛み分の下糸Lは再度引き出されることになる。但し、第一距離D1が移動距離MDよりも長い距離を移動するので、バネ203により回収された下糸Lの弛み分を引き出しきることなく、前記長い距離に応じた長さを残した状態で最終針の針落ち位置Pに到達する。よって、この変形例においても上記実施形態と同等の作用効果を奏する。バネ203は、針金状のバネ他、板バネであってもよい。糸通し部204の構成は適宜変更されてよく、例えば、糸通し部204は、ループ状ではなく、逆U字状に折り曲げられた形状でもよい。溝部202の形成位置及び形状は適宜変更されてよい。前回の戻し送り動作時にバネ203により弛みが解消された分の下糸Lにより縫製される縫目の数及び長さは、適宜変更されてよい。
【符号の説明】
【0048】
1 :縫製装置
6 :針棒機構
7 :釜機構
9 :搬送機構
10 :送り機構
16 :CPU
63 :針棒
73 :釜
74 :針板
110 :糸切機構
200 :ボビンケース
202 :溝部
203 :バネ
204 :糸通し部
211 :張力付与部
203 :バネ
C :被縫製物
D1 :第一距離
D2 :第二距離
L :下糸
MD :移動距離
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10