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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039826
(43)【公開日】2024-03-25
(54)【発明の名称】小屋裏換気構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 9/02 20060101AFI20240315BHJP
   E04B 1/70 20060101ALI20240315BHJP
   E04D 13/17 20060101ALI20240315BHJP
【FI】
E04B9/02 300
E04B1/70 E
E04D13/17
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022144475
(22)【出願日】2022-09-12
(71)【出願人】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001586
【氏名又は名称】弁理士法人アイミー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松原 悟志
【テーマコード(参考)】
2E001
【Fターム(参考)】
2E001DB02
2E001DH25
2E001FA20
2E001NA07
2E001NB01
2E001NC01
2E001ND23
(57)【要約】
【課題】換気口を閉鎖しなくても、小屋裏空間への海塩粒子(腐食因子)の飛散を抑制することのできる小屋裏換気構造を提供する。
【解決手段】小屋裏換気構造(1)は、軒天部材(95)と外壁(92)との交差部に設けられ、軒元換気口としての複数の貫通孔(20)を有する換気部材(2)と、破風板に対面する対面部(31)、および、対面部の桁方向両端部から軒元側に向かって延びる一対の側面部(32,32)を有し、軒元換気口から流入する腐食因子を含む外気の気流を制御する略U字状の整流部材(3)とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
住宅の屋根の軒元換気口から外気を取り込んで小屋裏空間を自然換気する小屋裏換気構造であって、
軒天部材と外壁との交差部に設けられ、前記軒元換気口としての複数の貫通孔を有する換気部材と、
破風板に対面する対面部、および、前記対面部の桁方向両端部から軒元側に向かって延びる一対の側面部を有し、前記軒元換気口から流入する腐食因子を含む外気の気流を制御する略U字状の整流部材とを備える、小屋裏換気構造。
【請求項2】
前記対面部は、軒先側に膨出する円弧状に形成されている、請求項1に記載の小屋裏換気構造。
【請求項3】
前記対面部と前記破風板との間隔の方が、前記側面部と前記軒元換気口との間隔よりも大きい、請求項1に記載の小屋裏換気構造。
【請求項4】
前記整流部材の高さ寸法は、軒裏空間に露出する前記破風板の高さ寸法の1/4以上3/4以下である、請求項1に記載の小屋裏換気構造。
【請求項5】
複数の前記整流部材が、桁方向に沿って互いに間隔をあけて配置されている、請求項1に記載の小屋裏換気構造。
【請求項6】
前記換気部材の上方に位置し、上端部が軒先側に折り曲げられた逆L字状の水返し部材をさらに備える、請求項1に記載の小屋裏換気構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、住宅の屋根の軒元換気口から外気を取り込んで小屋裏空間を自然換気する小屋裏換気構造に関し、特に、沿岸部に近接した地域に建てられた住宅向けの小屋裏換気構造に関する。
【背景技術】
【0002】
住宅の屋根の小屋裏換気構造としては、屋根の軒下に外気の入り口となる換気口を設け、頂部に排気口を設けることで、小屋裏空間を自然換気する構造が一般的である。換気口は、軒元(外壁側)に設けられるケースと、軒先に設けられるケースとがある。いずれのケースにおいても、換気口は、屋根の桁方向に沿って延びる換気部材(金具)に一定間隔で設けられた複数の貫通孔により形成されることが一般的である。換気部材は、換気口周辺の形状を工夫して、風雨に伴う有害な浸水を抑える防水構造となっている。
【0003】
特開2007-146570号公報(特許文献1)には、小屋裏換気金具の内部に開閉弁を設けて、強風時に開閉弁を閉鎖することによって外気の入り口(換気口)を塞ぐ構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-146570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
沿岸部に近接した地域では、換気口から外気とともに海塩粒子が侵入し、小屋裏空間に飛散することがある。この場合、小屋裏空間内の構造物が腐食するなどの被害が発生する。そのため、海塩粒子の飛散への対応が要求されているが、現状では、沿岸からの一定距離を建設の制約条件とするなどの塩害対応に留まっている。
【0006】
特許文献1では、強風時に換気口が閉鎖されるものの、強風時以外の通常時においては外気とともに海塩粒子が侵入し得るため、有効な塩害対策とはいえない。
【0007】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、換気口を閉鎖しなくても、小屋裏空間への海塩粒子(腐食因子)の飛散を抑制することのできる小屋裏換気構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明のある局面に従う小屋裏換気構造は、住宅の屋根の軒元換気口から外気を取り込んで小屋裏空間を自然換気する小屋裏換気構造であって、軒天部材と外壁との交差部に設けられ、軒元換気口としての複数の貫通孔を有する換気部材と、破風板に対面する対面部、および、対面部の桁方向両端部から軒元側に向かって延びる一対の側面部を有し、軒元換気口から流入する腐食因子を含む外気の気流を制御する略U字状の整流部材とを備える。
【0009】
好ましくは、対面部は、軒先側に膨出する円弧状に形成されている。
【0010】
好ましくは、対面部と破風板との間隔の方が、側面部と軒元換気口との間隔よりも大きい。
【0011】
好ましくは、整流部材の高さ寸法は、軒裏空間に露出する破風板の高さ寸法の1/4以上3/4以下である。
【0012】
好ましくは、複数の整流部材が、桁方向に沿って互いに間隔をあけて配置されている。
【0013】
好ましくは、小屋裏換気構造は、換気部材の上方に位置し、上端部が軒先側に折り曲げられた逆L字状の水返し部材をさらに備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、軒元換気口から軒裏空間に流入した腐食因子を含む外気がそのまま小屋裏空間側へ向かう上昇気流を抑制することができる。したがって、一般的な小屋裏換気構造よりも、小屋裏空間への腐食因子の飛散を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】(A),(B)は、本発明の実施の形態における小屋裏換気構造の概要を示す図である。
図2】(A)~(C)は、本発明の実施の形態における小屋裏換気構造が備える整流部材の構成例および作用効果を模式的に示す図である。
図3】(A)~(C)は、整流部材の形状例を模式的に示す図である。
図4】(A),(B)は、海塩粒子の飛散を再現して飛散量を測定する試験装置を模式的に示す図である。
図5】(A),(B)は、図4に示す試験装置の気流発生装置を示す図である。
図6図4に示す試験装置を用いて、小屋裏空間に吹き込む外気の風速を検証した結果を示すグラフである。
図7図4に示す試験装置を用いて、小屋裏空間に流れ込む海塩粒子の飛散分布を検証した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0017】
(概要について)
図1を参照して、本実施の形態における小屋裏換気構造1の概要について説明する。図1(A)は、屋根9の軒部90周辺の構造を模式的に示す縦断面図であり、図1(B)は、軒裏空間94の内部を模式的に示す横断面図である。図1の矢印A1は屋根9の軒先方向(水下側)を示し、矢印A2は屋根9の桁方向を示す。なお、図1(A)の断面図には、整流部材3を桁方向中央部で切断した断面が示されている。以下の説明では、水平面上において桁方向に直交する方向を内外方向ともいう。
【0018】
小屋裏換気構造1は、いわゆる軒元換気タイプであり、軒天部材95と外壁92との交差部に設けられた換気部材2を備えている。図1(B)に示すように、換気部材2は、桁方向に沿って延び、一定間隔で設けられた貫通孔20を有しており、これらの貫通孔20が換気口として機能する。つまり、小屋裏換気構造1は、屋根9の軒元換気口(貫通孔20)から外気を取り込んで小屋裏空間93を自然換気する。
【0019】
小屋裏換気構造1は、軒元換気口から流入する海塩粒子(腐食因子)を含む外気の気流を制御するために、整流部材3を備えている。整流部材3は、軒天部材95上に設置され、軒天部材95から上方に立ち上がる高さのある仕切り板である。整流部材3は、上方から見て略U字状に形成されており、その開口30が換気部材2側を向くように配置されている。図1(B)に示されるように、軒天部材95上には、複数の整流部材3が桁方向に沿って互いに間隔をあけて配置されている。整流部材3の構成および作用効果については後述する。
【0020】
小屋裏換気構造1は、換気部材2の上方に位置し、上端部が軒先側に折り曲げられた逆L字状の水返し部材4をさらに備えていることが望ましい。これにより、貫通孔20から流入した外気の風向を軒先側に仕向けることができる。つまり、軒元換気口としての貫通孔20から流入した外気がそのまま上昇して小屋裏空間93に流れ込むことを防止できる。なお、水返し部材4と換気部材2とは一部が重なっていてもよく、少なくとも水返し部材4の上端の曲折部41(図2(A))が、換気部材2の貫通孔20よりも上方であればよい。
【0021】
(整流部材の構成例および作用効果)
図2をさらに参照して、整流部材3の構成例および作用効果について説明する。図2(A)は、整流部材3が設置された軒裏空間94を模式的に示す断面図であり、図2(B)は、設置状態の整流部材3を斜め上方から見た斜視図であり、図2(C)は、整流部材3による気流の制御を模式的に示す平面図である。以下の説明において、換気部材2の貫通孔20を軒元換気口20という。
【0022】
整流部材3は、破風板96に対面状態で配置される対面部31と、対面部31の桁方向両端部から軒元換気口20側に向かって延びる一対の側面部32,32とを有する。本実施の形態において、対面部31は、軒先側の膨出する円弧状(半円形状)に形成されている。また、一対の側面部32,32は、内外方向に沿って直線状に延びており、典型的には互いに平行に配置される。
【0023】
整流部材3は、軒元寄りに配置されている。つまり、整流部材3は、対面部31と破風板96との間隔D2の方が、側面部32と軒元換気口20との間隔D1よりも大きくなるように、配置されている。たとえば、破風板96側の間隔D2が、軒元換気口20側の間隔D1の2倍以上4倍以下である。なお、軒元換気口20側の間隔D1は、軒天部材95の載置面(上面)の軒元側端縁から側面部32までの最短距離に相当する。また、破風板96側の間隔D2は、軒天部材95の載置面(上面)の軒先側端縁から対面部31までの最短距離に相当する。整流部材3は、図1に示すように軒元野縁97に側面部32が当接するように配置されてもよい。
【0024】
整流部材3の各部の寸法例については、図3(A)をさらに参照して説明する。対面部31の円弧の半径(曲率半径)rは、たとえば、内外方向における整流部材3の全体の長さ寸法L1の1/4以上1/2以下である。側面部32の長さ寸法L2は、整流部材3の全体の長さ寸法L1の1/2以上であり、曲率半径rよりも大きい。一例として、整流部材3の全体の長さ寸法L1が約250mmである場合、曲率半径rが約100mm、側面部32の長さ寸法L2が約150mmとされる。この場合、整流部材3の開口幅Wは、円弧の直径に相当するので200mm程度である。なお、整流部材3の各部の寸法は、軒部90の出具合に応じて定められればよい。
【0025】
図2(A)に示されるように、整流部材3の高さ寸法H1は、軒裏空間94に露出する破風板96の高さ寸法H2の1/4以上3/4以下であることが望ましい。破風板96の高さ寸法H2の3/4以下とすることで、軒元換気口20から軒裏空間94に流入して軒先側に向かう気流を、整流部材3の対面部31を超えて破風板96に到達させることができる。また、破風板96の高さ寸法H2の1/4以上とすることで、今度は、破風板96に到達して軒元側へ戻る気流を、整流部材3の対面部31で受けることができる。
【0026】
整流部材3の高さ寸法H1は、具体的には70~100mmであり、一例として約80mmである。この例では、曲率半径rの方が、整流部材3の高さ寸法H1よりも大きい。なお、整流部材3の上端高さは、水返し部材4の曲折部41の高さよりも若干(たとえば10mm程度)高いことが望ましい。整流部材3の高さ寸法H1は、軒元野縁97の厚みの2倍以上であることも望ましい。
【0027】
このような整流部材3が軒裏空間94に配置されることによって、軒元換気口20から軒裏空間94に流入した気流に方向性を与えることができる。このことについて具体的に説明する。なお、以下の説明では、桁方向に沿う方向を左右方向ともいう。
【0028】
図2(A)に示されるように、軒元換気口20から軒裏空間94に流入した外気(上昇気流)は、水返し部材4の上端部の曲折部41に当たり、風向が軒先側へ仕向けられる。軒先側へ仕向けられた外気はわずかに上昇しながら破風板96に当たり、軒元側に戻る(逆向きの)気流が生じる(気流F1)。整流部材3の対面部31が破風板96に対面状態で配置されているので、軒元側へわずかに下降しながら戻る気流は、対面部31の円弧面がガイドとなり、図2(B),(C)に示すように左右に分断される(気流F2)。
【0029】
ここで、図2(C)に示されるように、対面部31に沿って左右に分断された気流は、左右各々において、対面部31と側面部32との境界部S付近で対面部31から剥離する現象が生じる(気流F3)。これにより、側面部32の外側で渦流が生じるので、軒元側へ戻る気流の少なくとも一部が、整流部材3内に(開口30から)入り込む(気流F4)。整流部材3内に入り込んだ気流は、渦流の作用によって開口30または上方開口から速度を落として流出する。
【0030】
このように、軒元換気口20から軒裏空間94に流入した外気は、整流部材3によって気流に方向性が与えられるので、軒裏空間94に流入した外気がそのまま小屋裏空間93側へ向かう上昇気流を抑制することができる。したがって、本実施の形態に係る小屋裏換気構造1によれば、一般的な小屋裏換気構造よりも、小屋裏空間93への腐食因子の飛散を抑制することができる。
【0031】
なお、整流部材3は、たとえば、可撓性を有する薄型のシート材を湾曲させることによって形成可能である。この場合、図2(B)に示すように、整流部材3の一対の側面部32の下端縁同士を連結する帯状の連結部33を少なくとも1つ設けることで、整流部材3の形状(略U字状の形状)を維持することができる。また、連結部33を、軒天部材95の上面に接着することにより、整流部材3の位置ずれを防止することができる。連結部33の接着は、両面テープや接着剤などの接合材により実現可能である。このように、整流部材3を可撓性のシート材によって形成する場合、製造が容易であるとともに、軽量であるので、軒裏空間94への設置が容易である。
【0032】
また、平面視における整流部材3の形状は略U字状であればよく、図3(A)のように対面部31が円弧状である例に限定されない。たとえば、図3(B)の整流部材3Aのように、対面部31Aが、軒先側に突出する三角形状であってもよい。あるいは、図3(C)の整流部材3Bように、対面部31Bが桁方向に真っ直ぐ延びる直線形状であり、全体として片仮名のコ字状であってもよい。また、一対の側面部32が互いに平行である例に限定されず、たとえば軒元側が若干広がったテーパ形状であってもよいし、その逆であってもよい(図示せず)。
【0033】
また、整流部材3は軒天部材95から上方に立ち上がるように配置されていればよく、たとえば上端が下端よりも若干外側に傾斜していてもよい。
【0034】
なお、互いに隣接して配置される2つの整流部材3間の距離は、典型的には整流部材3の開口幅W以上とし、一対の側面部32,32の外側に生じる気流の妨げにならないように定められる。
【0035】
(検証結果について)
一般的な小屋裏換気構造と本実施の形態に係る小屋裏換気構造1とを比較し、海塩粒子の飛散分布域の変化について検証した。
【0036】
ここでまず、海塩粒子の飛散分布域の変化を検出するための試験装置について説明する。図4(A)は、海塩粒子の飛散を再現して飛散量を測定する試験装置5を模式的に示す図である。試験装置5は、小屋裏空間93および軒裏空間94を再現する屋根再現部51と、海塩粒子を混入した気流を再現する気流発生装置52とを含む。
【0037】
屋根再現部51には、海塩粒子の飛散量を測定するために、複数箇所に乾式ガーゼ61が配置されている。具体的には、図4(A)に示すように、小屋裏空間93の底面高さに、内外方向に互いに間隔をあけて複数個所(たとえば3箇所)に乾式ガーゼ61bが配置されている(一点鎖線Bのライン)。また、屋根勾配に従って傾斜した小屋裏空間93の天井高さにも、内外方向に互いに間隔をあけて複数個所(たとえば2箇所)に乾式ガーゼ61a,61cが配置されている(一点鎖線A,Cのライン)。
【0038】
底面高さの乾式ガーゼ61bは、たとえば、桁方向中央部に水平に設けられた台座62上に配置されている。天井高さの乾式ガーゼ61a,61cは、たとえば、台座62の左右両側に、屋根勾配と同等の角度をつけた金網63上に配置されている。
【0039】
一点鎖線Bで示す水平ライン上には、小屋裏空間93のうち最も軒側の位置(「1」で示す位置)と、内外方向中央の位置(「2」で示す位置)と、最も奥側の位置(「3」で示す位置)との全てに、乾式ガーゼ61bが配置されている。一点鎖線A,Cで示す勾配ライン上には、各々に、小屋裏空間93のうち最も軒側の位置(「1」で示す位置)と、内外方向中央の位置(「2」で示す位置)と、最も奥側の位置(「3」で示す位置)との全てに、乾式ガーゼ61a,61cが配置されていてもよいし、いずれかの位置の乾式ガーゼを省略してもよい。
【0040】
気流発生装置52については、図5を参照して説明する。図5(A)は、気流発生装置52を拡大して示す断面図である。気流発生装置52は、海塩粒子を混入可能な傾斜式チャンバー71と、風速を制御可能な送風器(図示せず)とを含む。
【0041】
傾斜式チャンバー71は、桁方向に長い箱状のチャンバー本体72と、チャンバー本体72の底面72aに設けられた給気部73とを含み、内部に、塩分を放出する塩分放出器74が設けられている。図5(B)に示すように、給気部73は、底面72aの中央部に設けられ、塩分放出器74は、給気部73の左右両側に、たとえば2個ずつ設けられている。チャンバー本体72の上端開口は、蓋がなく開放されている。塩分放出器74としては、たとえば市販の超音波加湿器を流用することができる。この場合、塩分放出器74は、塩分を含む気体を発生させることにより、塩分を放出する。
【0042】
チャンバー本体72の上端枠の軒先側上端面には、弾力性を有するシール部材75aが設けられている。チャンバー本体72の上端枠の軒元側外側面にも、弾力性を有するシール部材75bが設けられている。また、チャンバー本体72の上端枠の長手方向(桁方向)両端部の上端面にも、弾力性を有するシール部材(図示せず)が設けられている。チャンバー本体72は、角度を変更可能な架台75の上に固定されており、軒先側が上方となるよう架台75を傾けることで、これらのシール部材75a,75bが相手側に密着する。具体的には、軒先側のシール部材75aおよび長手方向両端部のシール材が軒天部材95の下面に密着し、軒元側のシール部材75bが外壁92の外表面に密着する。これにより、チャンバー本体72の内部空間を、軒天部材95と外壁92の上端部とに囲まれた密閉空間とすることができる。
【0043】
この状態で、送風器および塩分放出器74を作動すると、塩分を含む外気がチャンバー本体72の内部空間から上昇し、軒元換気口20から軒裏空間94に流入する。このように、傾斜式チャンバー71を含む気流発生装置52を用いることにより、軒元換気口20からの塩分を含む外気の流入を再現することができる。そして、上述の乾式ガーゼ61a,61b,61cに付着した塩分量を導電率によって確認することで、小屋裏空間93内の各位置の飛散量を測定できるので、小屋裏空間93における飛散分布域を把握することが可能である。また、屋根再現部51において、小屋裏空間93内に風速センサ64を設けることで、小屋裏空間93に吹き込む外気の風量を把握することも可能である。
【0044】
図6は、試験装置5を用いて、小屋裏空間93に吹き込む外気の風速を検証した結果を示すグラフである。図6のグラフの横軸は、送風器の設定風速を示し、縦軸は、小屋裏空間93に吹き込む外気の風速を示す。検証試験の際、図4に示す勾配ライン(一点鎖線AまたはCのライン)上の内外方向中央位置(「2」で示す位置)と最も奥側の位置(「3」で示す位置)とに、風速センサ64を配置した。
【0045】
「2」,「3」のどちらの位置においても、整流部材(整流板)3の無い比較例よりも、整流部材3を設けた実施例の方が、吹き込み風速が減少する効果が確認できた。特に、勾配ライン上の最も奥側の位置の吹き込み風速は、整流部材3を設けた実施例では、軒元換気口20からの外気の流入風速を1.2m/s~10m/s以上に変化させても略一定であった。この検証結果から、整流部材3を軒裏空間94に配置することにより、屋根の勾配面を沿う気流を抑えられることが分かる。
【0046】
図7は、試験装置5を用いて、小屋裏空間93に流れ込む海塩粒子の飛散分布を検証した結果を示すグラフである。図7のグラフの横軸には乾式ガーゼ61を設置した位置を示し、縦軸は塩分量(単位:μS/cm)を示している。この試験は、塩分濃度をたとえば1.4%程度とした外気を、1時間程度、軒元換気口20から流入させて行った。
【0047】
いずれの位置においても、整流部材3の無い比較例よりも、整流部材3を設けた実施例の方が、塩分量が減っていることが確認できた。また、図示は省略したものの、整流部材3および水返し部材4のいずれも設置しないパターンと、整流部材3が無く水返し部材4のみを設置したパターンとを比較した検証も行ったところ、単に水返し部材4を設けただけでは、水平ラインおよび勾配ラインともに、奥側の位置では逆に塩分量が増加する結果となった。
【0048】
このことから、軒裏空間94に流入した外気の気流を制御する整流部材3を設置することにより、小屋裏空間93の全体において、海塩粒子の飛散を効果的に抑制できることが検証できた。整流部材3に沿って外気が流れることで、外気に含まれる海塩粒子が整流部材3に付着することも、このような効果の要因の一つとして考えられる。
【0049】
上記試験は、樹脂(ポリプロピレン)製の薄型シート材を湾曲させて形成した整流部材3を用いて行った。他の試験として、薄型シート材の内側面や外側面にロックウール等の断熱材を貼り付けた試験、および、薄型シート材の上方に蓋をした試験を行ったところ、整流部材3を薄型シート材のみで形成した実施例が最も塩分量が減少していた。したがって、整流部材3の外表面および内表面は、円滑面であり、かつ、整流部材3の内部空間は上方に開放されていることが望ましい。
【0050】
なお、整流部材3の効果を検証するために用いた試験装置5を、単体で提供することもできる。この試験装置5は、海塩粒子など、小屋裏空間93内の構造物に有害な腐食因子の飛散状況を確認するために用いることが可能である。
【0051】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0052】
1 小屋裏換気構造、2 換気部材、3,3A,3B 整流部材、4 水返し部材、5 試験装置、9 屋根、20 軒元換気口、31,31A,31B 対面部、32 側面部、90 軒部、92 外壁、93 小屋裏空間、94 軒裏空間、95 軒天部材、96 破風板、F1,F2,F3,F4 気流。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7