(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024039838
(43)【公開日】2024-03-25
(54)【発明の名称】有機EL装置
(51)【国際特許分類】
H05B 33/02 20060101AFI20240315BHJP
H10K 50/10 20230101ALI20240315BHJP
H05B 33/12 20060101ALI20240315BHJP
H05B 33/22 20060101ALI20240315BHJP
【FI】
H05B33/02
H05B33/14 A
H05B33/12 C
H05B33/22 A
H05B33/22 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022144499
(22)【出願日】2022-09-12
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100100480
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 隆
(72)【発明者】
【氏名】梅崎 浩孝
【テーマコード(参考)】
3K107
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107BB01
3K107BB02
3K107CC06
3K107CC09
3K107CC21
3K107DD02
3K107DD52
3K107DD58
3K107DD66
3K107DD68
3K107DD72
3K107DD74
3K107DD77
3K107DD78
3K107FF14
3K107FF15
(57)【要約】
【課題】本発明は、従来に比べて長期使用における青色発光の輝度減衰による色温度の低下を抑制できる有機EL装置を提供する。
【解決手段】基材上に陽極層、青色発光ユニット、中間接続ユニット、赤緑発光ユニット、及び陰極層が積層され、基材側から白色光を照射可能であり、青色発光ユニットは、陽極層側からホール注入層、ホール輸送層、青色発光層、電子輸送層を含み、中間接続ユニットは、青色発光ユニット側に電子を注入し、かつ、赤緑発光ユニット側にホールを注入するものであり、青色発光層の平均膜厚は、5nm以上であり、中間接続ユニットとホール輸送層との最短距離は、20nm以下である構成とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に陽極層、青色発光ユニット、中間接続ユニット、赤緑発光ユニット、及び陰極層が積層され、前記基材側から白色光を照射可能な有機EL装置であって、
前記青色発光ユニットは、前記陽極層側からホール注入層、ホール輸送層、青色発光層、電子輸送層を含み、
前記中間接続ユニットは、前記青色発光ユニット側に電子を注入し、かつ、前記赤緑発光ユニット側にホールを注入するものであり、
前記青色発光層の平均膜厚は、5nm以上であり、
前記中間接続ユニットと前記ホール輸送層との最短距離は、20nm以下である、有機EL装置。
【請求項2】
前記中間接続ユニットは、電子供与性層を有し、
前記電子供与性層は、電子供与性材料を含み、かつ前記青色発光ユニットと接する、請求項1に記載の有機EL装置。
【請求項3】
前記電子供与性層は、前記電子供与性材料を前記電子供与性層全体の0.5%以上含む、請求項2に記載の有機EL装置。
【請求項4】
前記青色発光層の平均膜厚は、10nm以下である、請求項1に記載の有機EL装置。
【請求項5】
前記電子輸送層の平均膜厚は、5nm以上10nm以下である、請求項4に記載の有機EL装置。
【請求項6】
前記ホール輸送層の平均膜厚は、前記中間接続ユニットと前記ホール輸送層との最短距離の7倍以上である、請求項1に記載の有機EL装置。
【請求項7】
前記ホール輸送層の平均膜厚は、100nm以上250nm以下である、請求項6に記載の有機EL装置。
【請求項8】
前記青色発光層は、蛍光発光材料を含む、請求項1に記載の有機EL装置。
【請求項9】
前記青色発光層は、電子輸送性材料をホスト材料として含む、請求項1に記載の有機EL装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL装置に関し、特に白色光源として好適に使用される有機EL装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、有機EL装置は、照明分野において主に白色光源として使用されている。
有機EL装置は、白色光を得る手段として、装置内で複数色の発光層を積層させ、各発光層による発光色を混色させている。
例えば、特許文献1の有機エレクトロルミネッセント装置は、青色発光層を有する青色発光ユニットと、赤色発光層と緑色発光層を有した赤色/緑色発光ユニットが、ホールと電子を同時に発生させる電荷発生層を挟んで積層されたマルチフォトンエミッション構造を備えている。
そして、特許文献1の有機エレクトロルミネッセント装置は、青色発光ユニットの青色発光層で発光する青色発光と、赤色/緑色発光ユニットの赤色発光層で発光する赤色発光と緑色発光層で発光する緑色発光が合わさって白色光として取り出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、マルチフォトンエミッション構造を有する有機EL装置は、この複数色の発光を混色させて白色光を取り出すという構造上、各発光層の発光色毎の輝度寿命の違いが経時的な色変化を発生させてしまう。
また、青色発光層は、赤色発光層や緑色発光層に比べて、輝度寿命が短い傾向にあり、青色発光層による青色発光は、輝度減衰が赤色発光層の赤色発光や緑色発光層の緑色発光に比べて進行しやすい傾向がある。
青色発光の輝度減衰が赤色発光や緑色発光に比べて早く起こると、色ズレが発生し、発光色の色温度が低下する問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、従来に比べて長期使用における青色発光の輝度減衰による色温度の低下を抑制できる有機EL装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した課題を解決するべく、本発明者は、有機EL装置の構造について鋭意検討したところ、以下(1)~(4)の条件を満たすことで従来に比べて長期使用による輝度減衰を抑制できることを発見した。
(1)輝度寿命の短い青色発光層を有する青色発光ユニットを赤緑発光ユニットよりも陽極層側に配置すること
(2)青色発光ユニットと赤緑発光ユニットの間に青色発光ユニット側に電子を注入し、かつ、赤緑発光ユニット側にホールを注入する中間接続ユニットを介在させること
(3)青色発光層の平均膜厚を5nm以上にすること
(4)中間接続ユニットとホール輸送層との最短距離を20nm以下にすること
【0007】
上記の発見を元に導き出された本発明の一つの様相は、基材上に陽極層、青色発光ユニット、中間接続ユニット、赤緑発光ユニット、及び陰極層が積層され、前記基材側から白色光を照射可能な有機EL装置であって、前記青色発光ユニットは、前記陽極層側からホール注入層、ホール輸送層、青色発光層、電子輸送層を含み、前記中間接続ユニットは、前記青色発光ユニット側に電子を注入し、かつ、前記赤緑発光ユニット側にホールを注入するものであり、前記青色発光層の平均膜厚は、5nm以上であり、前記中間接続ユニットと前記ホール輸送層との最短距離は、20nm以下である、有機EL装置である。
【0008】
ここでいう「平均膜厚」とは、走査型電子顕微鏡や透過型電子顕微鏡等の顕微鏡を用いて断面を観察したときに、一方の主面から他方の主面までの最短距離(膜厚)を任意の10点で測定し、当該10点での膜厚の算術平均値をいう。
【0009】
本様相によれば、青色発光ユニットを赤緑発光ユニットよりも陽極層側に設け、青色発光ユニットと赤緑発光ユニットの間に中間接続ユニットを介在させ、青色発光ユニットの青色発光層の平均膜厚を5nm以上とし、かつ中間接続ユニットとホール輸送層との最短距離を20nm以下にして短くする。こうすることで、青色発光層におけるホールと電子が再結合する発光界面をホール輸送層側に偏らせ、中間接続ユニットの電子供与による影響によって従来に比べて青色発光の輝度を減少させている。
そのため、継続的に使用すると、有機EL装置を構成する各層の劣化等によってキャリアバランスが変化し、青色発光層の発光界面の位置が、中間接続ユニットから離れていく側、すなわち、陽極層側に近づく。
その結果、発光界面に対する中間接続ユニットによる影響が緩和されていき、結果的に継続使用による青色発光の輝度減衰(輝度の変化量)を低減させることができる。
このように、本様相によれば、青色発光の輝度寿命を長くすることができ、緑色発光及び赤色発光との輝度寿命の乖離を縮小し、経時的な色ズレを低減でき、従来に比べて長期使用における青色発光の輝度減衰による色温度の低下を抑制できる。
【0010】
好ましい様相は、前記中間接続ユニットは、電子供与性層を有し、前記電子供与性層は、電子供与性材料を含み、かつ前記青色発光ユニットと接する。
【0011】
本様相によれば、青色発光ユニットに電子供与性層が接するので、青色発光層の発光界面をホール輸送層側に寄せることができる。
【0012】
好ましい様相は、前記電子供与性層は、前記電子供与性材料を前記電子供与性層全体の0.5%以上含む。
【0013】
本様相によれば、従来に比べて電子供与性層の電子供与性材料の割合が大きいのでより電子供与性を高めることができる。
【0014】
好ましい様相は、前記青色発光層の平均膜厚は、10nm以下である。
【0015】
本様相によれば、ホール輸送層側に発光界面を形成しやすい。
【0016】
好ましい様相は、前記電子輸送層の平均膜厚は、5nm以上10nm以下である。
【0017】
本様相によれば、中間接続ユニットから供給される電子を青色発光層に速やかに輸送できる。
【0018】
好ましい様相は、前記ホール輸送層の平均膜厚は、前記中間接続ユニットと前記ホール輸送層との最短距離の7倍以上である。
【0019】
本様相によれば、従来に比べてホール輸送層の膜厚が大きいので、ホール輸送層側で発光界面を形成しやすい。
【0020】
好ましい様相は、前記ホール輸送層の平均膜厚は、100nm以上250nm以下である。
【0021】
本様相によれば、ホール輸送層側で発光界面を形成しやすい。
【0022】
好ましい様相は、前記青色発光層は、蛍光発光材料を含む。
【0023】
本様相によれば、燐光発光材料を使用した場合に比べて高寿命化が可能である。
【0024】
好ましい様相は、前記青色発光層は、電子輸送性材料をホスト材料として含む。
【0025】
本様相によれば、青色発光層内でホール輸送層側に電子を速やかに輸送できる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の有機EL装置によれば、従来に比べて長期使用における青色発光の輝度減衰による色温度の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の第1実施形態の有機EL装置を模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0029】
本発明の第1実施形態の有機EL装置1は、
図1のように、基材2上に陽極層3と、発光機能層4と、陰極層5をこの順に積層されており、基材2側から白色光を取り出す、所謂ボトムエミッション型の有機EL装置である。
【0030】
基材2は、絶縁性及び透光性を有するものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、ガラス基板やシリコン基板などの透明絶縁基板が使用できる。
【0031】
陽極層3は、導電性と透光性を有する透明電極層であり、導電性と透光性を有するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、インジウム・スズ酸化物(ITO)、インジウム・亜鉛酸化物(IZO)、酸化スズ(SnO2)、酸化亜鉛(ZnO)などの透明導電性酸化物層が使用できる。また、これらの透明導電性酸化物層には、例えばアルミニウム、ガリウム、ケイ素、ホウ素、ニオブなどのドーパントがドーピングされていてもよい。
【0032】
発光機能層4は、
図1のように、陽極層3側から青色発光ユニット10、中間接続ユニット11、及び赤緑発光ユニット12をこの順に積層されたマルチフォトンエミッション構造を有している。
【0033】
(青色発光ユニット10)
青色発光ユニット10は、陽極層3側から陰極層5側に向かって順にホール注入層20、ホール輸送層21、青色発光層22、電子輸送層23が積層されている。
【0034】
ホール注入層20は、陽極層3からホールを取り入れ、ホール輸送層21にホールを注入する層である。
【0035】
ホール輸送層21は、ホール注入層20側から青色発光層22にホールを効率的に輸送しつつ、ホール注入層20側への電子の移動を制限する層である。
ホール輸送層21の平均膜厚は、中間接続ユニット11とホール輸送層21との最短距離の7倍以上であることが好ましい。
ホール輸送層21の平均膜厚は、100nm以上であることが好ましく、250nm以下であることが好ましい。
【0036】
青色発光層22は、ホール輸送性又は電子輸送性を有するホスト材料に青色発光材料をドープした層であって、電界印加によりホール輸送層21側から流入するホールと電子輸送層23側から流入する電子とが結合し、発光性励起子が発生する層である。
青色発光層22の平均膜厚は、5nm以上であることが好ましく、10nm以下であることが好ましい。
【0037】
青色発光材料には、青色蛍光材料と青色燐光材料がある。
青色蛍光材料のホスト材料は、例えば、スチリル誘導体、アントラセン化合物、ピレン化合物などが使用できる。
青色蛍光材料は、例えば、ペリレン4,4’-ビス(9-エチル-3-カルバゾビニレン)-1,1-ビフェニル(BCzVBi)、4,4’-ビス[4-(ジ-p-トリアミノ)スチリル]ビフェニル(DPAVBi)などが使用できる。
一方、青色燐光材料のホスト材料は、例えば、4,4’-ビスカルバゾリルビフェニル(CBP)や、2,9-ジメチル-4,7-ジフェニル-9,10-フェナントロリン(BCP)などが使用できる。
青色燐光材料は、例えば、FIrpic、FIr6、Ir(Fppy)3などのイリジウム錯体などが使用できる。
本実施形態の青色発光層22は、ホスト材料として電子輸送性を有する電子輸送性材料を使用しており、青色発光材料として青色蛍光材料を使用している。
【0038】
電子輸送層23は、中間接続ユニット11側から青色発光層22に電子を効率的に輸送しつつ、中間接続ユニット11側へのホールの移動を制限する層である。
電子輸送層23の平均膜厚は、5nm以上であることが好ましく、10nm以下であることが好ましい。
【0039】
(中間接続ユニット11)
中間接続ユニット11は、通電時に、陽極層3側の青色発光ユニット10に電子を注入し、かつ、陰極層5側の赤緑発光ユニット12に正孔を注入する機能を有する電荷発生層である。
中間接続ユニット11は、青色発光ユニット10と接した電子供与性層26を有している。すなわち、中間接続ユニット11は、青色発光ユニット10と接した電子供与性層26から青色発光ユニット10に電子を注入することが可能となっている。
電子供与性層26は、電子供与材料を含んだ層であり、電子供与材料を0.5%以上含んでいることが好ましい。
電子供与材料としては、電子供与性を有するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属、これらの金属の化合物、これらの金属を中心金属とするフタロシアニン錯体、及びジヒドロイミダゾール化合物からなる群から選ばれる1種である材料が使用できる。
【0040】
中間接続ユニット11は、ホール輸送層21と最短距離が20nm以下となっている。すなわち、中間接続ユニット11の電子供与性層26とホール輸送層21の間隔は、20nm以下となっている。
【0041】
(赤緑発光ユニット12)
赤緑発光ユニット12は、陽極層3側から陰極層5側に向かって順に、ホール輸送層30、赤緑発光層31、電子輸送層32、電子注入層33が積層されている。
ホール輸送層30は、中間接続ユニット11側から赤緑発光層31にホールを効率的に輸送しつつ、中間接続ユニット11側への電子の移動を制限する層である。
【0042】
赤緑発光層31は、ホール輸送性又は電子輸送性を有するホスト材料に緑色発光材料と赤色発光材料をドープした層であって、電界印加によりホール輸送層30側から流入するホールと電子輸送層32側から流入する電子とが結合し、発光性励起子が発生する層である。
緑色発光材料には、緑色蛍光材料と緑色燐光材料があり、赤色発光材料には、赤色蛍光材料と赤色燐光材料がある。
緑色蛍光材料と赤色蛍光材料のホスト材料は、例えば、4,4’-ビス(2,2-ジフェニルビニル)-1,1’-ビフェニル(DPVBi)やトリス(8-ヒドロキシキノリノラト)アルミニウム(Alq3)などが使用できる。
緑色蛍光材料は、例えば、クマリン6、C545Tなどが使用できる。
赤色蛍光材料は、例えば、ルブレン、DCM、DCM2、DBzRなどが使用できる。
一方、緑色燐光材料と赤色燐光材料のホスト材料は、例えば、4,4’-ビスカルバゾリルビフェニル(CBP)や、2,9-ジメチル-4,7-ジフェニル-9,10-フェナントロリン(BCP)などが使用できる。
緑色燐光材料は、例えば、(ppy)2Ir(acac)、Ir(ppy)3などのイリジウム錯体などが使用できる。
赤色燐光材料は、例えば、(bzq)2Ir(acac)、(btp)2Ir(acac)、Ir(bzq)3、Ir(piq)3などのイリジウム錯体などが使用できる。
本実施形態の赤緑発光層31は、ホスト材料として電子輸送性を有する電子輸送性材料を使用しており、緑色発光材料及び赤色発光材料として緑色燐光材料と赤色燐光材料をそれぞれ使用している。
【0043】
電子輸送層32は、電子注入層33側から赤緑発光層31に電子を効率的に輸送しつつ、電子注入層33側へのホールの移動を制限する層である。
電子注入層33は、陰極層5から電子を取り入れ、電子輸送層32に電子を注入する層である。
【0044】
陰極層5は、導電性を有するものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、リチウム等のアルカリ金属、マグネシウムやカルシウム等のアルカリ土類金属、希土類金属等の金属単体やこれらの金属とアルミニウム(Al),インジウム(In),銀(Ag)等の合金などが使用できる。
【0045】
本実施形態の有機EL装置1によれば、青色発光層22の青色光、赤緑発光層31の赤色光及び緑色光が重なって白色光を照射可能であるため、照明装置等の白色光源として好適に使用できる。
【0046】
本実施形態の有機EL装置1によれば、青色発光ユニット10を赤緑発光ユニット12よりも陽極層3側に設け、青色発光ユニット10と赤緑発光ユニット12の間に中間接続ユニット11を介在させ、青色発光ユニット10の青色発光層22の平均膜厚を5nm以上とし、かつ中間接続ユニット11とホール輸送層30との最短距離を20nm以下となっている。そのため、青色発光の輝度寿命を長くすることができ、緑色発光及び赤色発光との輝度寿命の乖離を縮小し、経時的な色ズレを低減でき、従来に比べて長期使用における青色発光の輝度減衰による色温度の低下を抑制できる。
【0047】
上記した実施形態では、各発光層22,31は、それぞれホスト材料として電子輸送性材料を使用していたが、本発明はこれに限定されるものではない。各発光層22,31は、ホスト材料としてホール輸送性を有するホール輸送性材料を使用してもよい。
【0048】
上記した実施形態では、ホール輸送層21と中間接続ユニット11の電子供与性層26との間に、青色発光層22と電子輸送層23が介在し、ホール輸送層21と青色発光層22、青色発光層22と電子輸送層23、電子輸送層23と電子供与性層26がそれぞれ接していたが、本発明はこれに限定されるものではない。電子供与性層26とホール輸送層21との最短距離が20nm以下になるのであれば、ホール輸送層21と青色発光層22の間、青色発光層22と電子輸送層23の間、電子輸送層23と電子供与性層26の間にそれぞれ他の層が介在していてもよい。
【0049】
上記した実施形態では、赤緑発光層31は、ホスト材料に緑色発光材料と赤色発光材料がドープされた単一層であったが、本発明はこれに限定されるものではない。赤緑発光層31は、ホスト材料に緑色発光材料がドープされた緑色発光層と、ホスト材料に赤色発光材料がドープされた赤色発光層が積層した多層構造となっていてもよい。
【0050】
上記した実施形態は、本発明の技術的範囲に含まれる限り、各実施形態間で各構成部材を自由に置換や付加できる。
【実施例0051】
以下、本発明の実施例を実施例及び比較例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0052】
(実施例1)
基材及び陽極層としてパターニングされたITO付きガラス基板(膜厚120nm)を用い、陽極層上に青色発光ユニットを形成した。
【0053】
具体的には、まず、陽極層上に、ホール注入層としてホール輸送性材料と電子受容性材料を、真空蒸着法により14nmの膜厚で形成した。
続いて、ホール輸送層として、ホール輸送性材料を真空蒸着法により154nmの膜厚で形成した。
続いて、青色発光層として、ホスト材料として電子輸送性材料を使用し、青色発光材料として450~500nmにピークトップを有する青色蛍光発光材料を使用して、真空蒸着法により8.8nmの膜厚で形成した。
続いて、電子輸送層として、電子輸送性材料を真空蒸着法により10nmの膜厚で形成した。
【0054】
上記のようにして陽極層上に青色発光ユニットを形成した後、青色発光ユニットの電子輸送層上に中間接続ユニットを形成した。
具体的には、電子輸送層に電子供与性層が接するように電子供与性材料を真空蒸着法により4.5nmの膜厚で形成した。
【0055】
上記のようにして青色発光ユニット上に中間接続ユニットを形成した後、中間接続ユニット上に赤緑発光ユニットを形成した。
【0056】
具体的には、中間接続ユニット上に、ホール輸送層としてホール輸送性材料を真空蒸着法により98nmの膜厚で形成した。
続いて、赤緑色発光層として、ホスト材料として電子輸送性材料と500~600nmにピークトップを有する緑色燐光発光材料と600~700nmにピークトップを有する赤色燐光発光材料を真空蒸着法により27nmの膜厚で共蒸着して形成した。
続いて、電子輸送層として、電子輸送性材料を真空蒸着法により6.8nmの膜厚で形成した。
続いて、電子注入層として、電子注入材料を真空蒸着法により0.4nmの膜厚で形成した。
【0057】
上記のようにして中間接続ユニット上に赤緑発光ユニットを形成した後、赤緑発光ユニットの電子注入層上に、陰極層として銀を真空蒸着法により120nmの膜厚で形成した。
【0058】
このようにして形成された有機EL装置を実施例1とした。
【0059】
(実施例2)
実施例1において、青色発光ユニット内の青色発光層の厚みを6.8nmとした。すなわち、実施例1では中間接続ユニットからホール輸送層までの最短距離が18.8nmであったのに対して当該最短距離を16.8nmにしたこと以外は実施例1と同様にしてこれを実施例2とした。
【0060】
(比較例1)
実施例1において、青色発光ユニット内の青色発光層の厚みを16.1nmとした。すなわち、中間接続ユニットからホール輸送層までの最短距離を26.1nmにしたこと以外は実施例1と同様にしてこれを比較例1とした。
【0061】
(比較例2)
実施例1において、青色発光ユニット内の青色発光層の厚みを10.8nmとした。すなわち、中間接続ユニットからホール輸送層までの最短距離を20.8nmにしたこと以外は同様にしてこれを比較例2とした。
【0062】
(比較例3)
実施例1において、青色発光ユニット内の青色発光層の厚みを4.8nmとした。すなわち、中間接続ユニットからホール輸送層までの最短距離を14.8nmにしたこと以外は同様にしてこれを比較例3とした。
【0063】
(比較例4)
実施例1において、青色発光ユニット内の青色発光層の厚みを2.8nmとした。すなわち、中間接続ユニットからホール輸送層までの最短距離を12.8nmにしたこと以外は同様にしてこれを比較例4とした。
【0064】
(耐久性試験)
有機EL装置に対して温度25℃の条件下、電流密度5.7mA/cm2の電流を1000時間流して耐久性試験を行い、試験前後の青分光分布(450nm~500nm)における最大ピークのピーク強度の維持率、赤・緑分光分布(500nm~600nm及び600nm~700nm)におけるそれぞれの最大ピークのピーク強度の平均維持率、色温度変化率を測定した。
なお、ピーク強度維持率は以下の数式(1)によって算出し、色温度変化率は以下の数式(2)によって算出し、赤・緑分光分布の平均維持率は以下の数式(3)によって算出した。
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
実施例1,2及び比較例1~4の耐久性試験の結果を表1に示す。
【0069】
【0070】
表1のように、青色発光層の膜厚が5nm以上10nm以下でかつ最短距離が20nm以下の実施例1,2では、青色発光層の膜厚が10nm超過でかつ最短距離が20nm超過の比較例1,2や青色発光層の膜厚が5nm未満の比較例3,4に比べて、青分光分布のピーク強度の維持率及び赤・緑分光分布のピーク強度の維持率がともに高い値をとり、色温度変化率の絶対値が小さい値をとった。
具体的には、実施例1,2は、青分光分布のピーク強度の維持率が92%以上で、赤・緑分光分布のピーク強度の維持率についても98.5%以上となった。また、実施例1,2は、色温度変化率が2.0%以下となり、ほぼ変化が見られなかった。
また、別の観点からみると、青色発光層の膜厚が8.8nmまでの範囲では、膜厚が大きくなるにつれて、青分光分布のピーク強度の維持率が大きくなり、色温度変化率の絶対値が小さくなるのに対して、青色発光層の膜厚が8.8nmを超えると、膜厚が大きくなるにつれて、青分光分布のピーク強度の維持率が小さくなり、色温度変化率の絶対値が大きくなる傾向が見られた。
このことから、青色発光層の膜厚が5nm以上10nm以下でかつ最短距離が20nm以下とすることで、青分光分布のピーク強度の維持率を高い水準で維持でき、色温度変化率の絶対値も小さくできることが示唆された。
【0071】
(実施例3)
実施例1において、電子輸送層の厚みを8.5nmとした。中間接続ユニットからホール輸送層までの最短距離を17.3nmにしたこと以外は実施例1と同様にしてこれを実施例3とした。
【0072】
(実施例4)
実施例1において、電子輸送層の厚みを7nmとした。中間接続ユニットからホール輸送層までの最短距離を15.8nmにしたこと以外は実施例1と同様にしてこれを実施例4とした。
【0073】
(実施例5)
実施例1において、電子輸送層の厚みを5nmとした。中間接続ユニットからホール輸送層までの最短距離を13.8nmにしたこと以外は実施例1と同様にしてこれを実施例5とした。
【0074】
(比較例5)
実施例1において、電子輸送層の厚みを50nmとした。中間接続ユニットからホール輸送層までの最短距離を58.8nmにしたこと以外は実施例1と同様にしてこれを比較例5とした。
【0075】
(比較例6)
実施例1において、電子輸送層の厚みを30nmとした。中間接続ユニットからホール輸送層までの最短距離を38.8nmにしたこと以外は実施例1と同様にしてこれを比較例6とした。
【0076】
(比較例7)
実施例1において、電子輸送層の厚みを14.5nmとした。中間接続ユニットからホール輸送層までの最短距離を23.3nmにしたこと以外は実施例1と同様にしてこれを比較例7とした。
【0077】
(比較例8)
実施例1において、電子輸送層の厚みを13nmとした。中間接続ユニットからホール輸送層までの最短距離を21.8nmにしたこと以外は実施例1と同様にしてこれを比較例8とした。
【0078】
(比較例9)
実施例1において、電子輸送層の厚みを11.5nmとした。中間接続ユニットからホール輸送層までの最短距離を20.3nmにしたこと以外は実施例1と同様にしてこれを比較例9とした。
【0079】
実施例1,3~6及び比較例1~9の耐久性試験の結果を表2に示す。
【表2】
【0080】
表2のように、最短距離が20nm以下の実施例1,3~5では、最短距離が20nm超過の比較例5~9に比べて、青分光分布のピーク強度の維持率が高い値を取り、赤・緑分光分布のピーク強度の維持率が同等以上となり、色温度変化率の絶対値が小さい値をとった。
具体的には、実施例1,3~5は、青分光分布のピーク強度の維持率が92%以上で、赤・緑分光分布のピーク強度の維持率についても98.5%以上となった。また、実施例1,3~5は、色温度変化率の絶対値が2.0%以下となり、ほぼ変化が見られなかった。
このことから、青色発光層の膜厚を5nm以上10nm以下に固定し、電子輸送層を変化させても、最短距離が20nm以下とすることで、青分光分布のピーク強度の維持率を高い水準で維持でき、色温度変化率の絶対値も小さくできることが示唆された。
【0081】
以上のように、青色発光層の膜厚が5nm以上10nm以下でかつ最短距離が20nm以下とすることによって、青分光分布のピーク強度の維持率を92%以上という高い値を取りつつ、赤・緑分光分布のピーク強度の維持率も98.5%以上という高い値をとり、さらに色温度変化率の絶対値が2.0%以下となった。このことから、長期使用における青色発光の輝度減衰による色温度の低下を抑制できることがわかった。